TOP > 国内特許検索 > スピン発振装置及びその製造方法 > 明細書

明細書 :スピン発振装置及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年4月2日(2015.4.2)
発明の名称または考案の名称 スピン発振装置及びその製造方法
国際特許分類 H03B  15/00        (2006.01)
H01L  29/82        (2006.01)
H01L  43/08        (2006.01)
FI H03B 15/00
H01L 29/82 Z
H01L 43/08 U
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 21
出願番号 特願2013-541823 (P2013-541823)
国際出願番号 PCT/JP2012/078199
国際公開番号 WO2013/065751
国際出願日 平成24年10月31日(2012.10.31)
国際公開日 平成25年5月10日(2013.5.10)
優先権出願番号 2011238731
優先日 平成23年10月31日(2011.10.31)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】中田 一紀
【氏名】家形 諭
【氏名】木村 崇
出願人 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099634、【弁理士】、【氏名又は名称】平井 安雄
審査請求 未請求
テーマコード 5F092
Fターム 5F092AB10
5F092AC08
5F092AD25
5F092GA03
要約 複数のスピン発振素子に共通のノイズを付加して位相を同期させるスピン発振装置を提供する。非磁性体からなる非磁性層が強磁性体からなる2つの強磁性層で狭持され、前記非磁性層及び前記強磁性層に通電される電流により、スピントルクを作用させて磁化を自励発振する複数のスピン発振素子11からなるスピン発振素子群12と、複数のスピン発振素子11に共通して、当該スピン発振素子11の発振周波数よりも高い周波数のノイズを加えるノイズ付加手段13とを備える。また、スピン発振素子11の磁化の歳差運動の軌道が、微小な曲率となるような変曲点を有するように、物性、電流及び磁場により制御する。
選択図 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
非磁性体からなる非磁性層が、強磁性体からなる固定層及び自由層の2つの強磁性層で狭持され、前記非磁性層及び前記強磁性層に通電される電流により、スピントルクを作用させて磁化を自励発振する複数のスピン発振素子と、
前記複数のスピン発振素子に共通して、当該スピン発振素子の発振周波数よりも高い周波数帯域のノイズを加えるノイズ付加手段と、
前記スピン発振素子の前記自由層における磁化の状態及び前記ノイズ付加手段が付加するノイズの状態を制御する制御手段とを備えることを特徴とするスピン発振装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスピン発振素子において、
前記制御手段が、
前記スピン発振素子が振動する際の前記自由層における磁化ベクトルの歳差運動の軌道を、前記固定層における磁化ベクトルに対して面直方向の軸を跨がない軌道に制御することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項3】
請求項2に記載のスピン発振装置において、
前記制御手段が、
前記磁化の歳差運動の軌道を、変曲点を有する軌道に制御することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項4】
請求項3に記載のスピン発振装置において、
前記制御手段が、
前記変曲点近傍での曲率を基本周波数成分に対する高調波成分の比率に基づいて、制御することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のスピン発振装置において、
前記制御手段が、
前記変曲点の特徴を、前記スピン発振素子の電流に関するパラメータ及び/又は磁場に関するパラメータにより決定することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項6】
請求項5に記載のスピン発振装置において、
前記制御手段が、
前記変曲点近傍での曲率が、前記スピン発振素子が逆相の信号を出力する確率が所定の値以下となるように、前記各パラメータ及びノイズの状態を調整することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項7】
請求項6に記載のスピン発振装置において、
前記制御手段が、
前記パラメータ及びノイズの状態を、位相縮約法から導出される位相応答に基づいて得られる前記パラメータ及びノイズの状態に調整することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のスピン発振装置において、
前記ノイズ付加手段が、前記複数のスピン発振素子を有し、当該複数のスピン発振素子の固有の発振周波数の出力総和を前記ノイズとして付加することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載のスピン発振装置において、
前記ノイズ付加手段が、電流変動、磁場変動、熱電流変換素子、光電素子及び/又は圧電素子によりノイズを付加することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項10】
請求項1に記載のスピン発振装置において、
前記制御手段が、
前記スピン発振素子の前記自由層における磁化の初期状態を、前記磁化の磁化ベクトルの方向が揃うように制御することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項11】
非磁性体からなる非磁性層が、強磁性体からなる固定層及び自由層の2つの強磁性層で狭持され、前記非磁性層及び前記強磁性層に通電される電流により、スピントルクを作用させて磁化を自励発振する複数のスピン発振素子と、
前記複数のスピン発振素子に共通して、当該スピン発振素子の発振周波数よりも高い周波数帯域のノイズを加えるノイズ付加手段とを備え、
前記ノイズ付加手段が、前記複数のスピン発振素子を有し、当該複数のスピン発振素子の固有の発振周波数の出力総和を前記ノイズとして付加することを特徴とするスピン発振装置。
【請求項12】
非磁性体からなる非磁性層が、強磁性体からなる固定層及び自由層の2つの強磁性層で狭持され、前記非磁性層及び前記強磁性層に通電される電流により、スピントルクを作用させて磁化を自励発振する複数のスピン発振素子と、前記複数のスピン発振素子に共通して、当該スピン発振素子の発振周波数よりも高い周波数帯域のノイズを加えるノイズ付加手段とを備えるスピン発振装置の製造方法であって、
前記スピン発振素子の物性に関するパラメータを少なくとも含む特性パラメータ、及び、前記ノイズ付加手段のノイズ特性を、位相縮約法から導出される位相応答に基づいて得られる結果に応じて特定して決定するステップを含むことを特徴とするスピン発振装置の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スピントルクにより磁化を自励発振する複数のスピン発振素子を用いたスピン発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非磁性体からなる非磁性層を強磁性体からなる2つの強磁性層(固定層と自由層)で狭持し、強磁性層間に直流電流を通電すると同時に磁場を加えることで、自由層の磁化Mを回転させて自励でマイクロ波を発振するスピントルク発振器(ST(N)O:Spin-Torque (Nano) Oscillator)が提案されている(図11を参照)。このSTNOは、非常に微小(<1μm)で単純な構造であるが、高出力ができないため、高出力が可能なスピン発振素子の開発が望まれている。
【0003】
STNOの出力を上げるための一つの手法として、例えば、特許文献1に示すように、STNOを複数併設して全体の出力を上げる技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、第1の電極と、磁化方向が固定された磁化固定層と、中間層と、磁化方向を変化させることのできる磁化自由層と、第2の電極とが、この順に積層されて構成されるマイクロ波発振素子において、前記磁化自由層もしくは前記第2の電極のどちらか一方がナノ粒子からなっており、これらが併設された構造が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のように複数の発振素子を併設(格子化)した場合、各素子の固有の振動数に差があると、それに起因して位相差が拡散してしまう(位相雑音が大きくなる)という問題がある。そこで、位相同期を促進する機構が望まれている。
【0005】
複数の発振素子の位相を同期させる技術として、例えば、特許文献2に示す技術が開示されている。特許文献2に示す技術は、高周波の発振を行うスピンバルブ素子においてインピーダンスマッチングを実現するため、絶縁体または非磁性体からなる中間層を一対の強磁性層により挟持した磁性素子を複数含む並列または直列磁性素子群を、さらに直列または並列につないでスピンバルブ素子を得て、並列と直列とを組み合わせて接続する磁性素子群を用いることにより、スピンバルブ素子のインピーダンスを所望の値にマッチングさせることができ、さらに多孔質膜を利用してスピンバルブ素子を作製することにより、高度なリソグラフィー法を用いることなく、個々の磁性素子に単磁区構造を実現することができるものである。
【0006】
一方、雑音誘起位相同期と呼ばれる現象が知られている。これはノイズにより振動の位相が同期する現象であり、例えば、非特許文献1に示すように、複数のCMOS発振器に共通のパルス電流列を与えることで、位相が同期することが開示されている。
【0007】
また、発明者らにより、2つのSTNOに白色雑音を付加することで、それらの発振が同期する現象が開示されている(非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2008-53915号公報
【特許文献2】WO2009/054182号公報
【0009】

【非特許文献1】松浦正和,宇田川玲,浅井哲也,雨宮好仁, ”電流ノイズに鋭敏なCMOS発振器群における雑音誘起位相同期”, 電子情報通信学会技術研究報告 NLP 111(106), pp.23-28, 2011-06-30 電子情報通信学会
【非特許文献2】Nakada Kazuki, Yakata Satoshi, Kimura Takashi, ”Noise-Induced Synchronization of Spin Torque Nano Oscillators”, <URL:http://mmm2011.abstractcen-tral.com/>,2011/9/13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に示す技術は、各素子で発生する高周波磁場の相互作用に起因する位相ロッキング現象を前提とした技術である。すなわち、このような直接的な相互作用の効果を高めるためには、各素子間で相互に作用するパラメータ(例えば、スピン波、スピン渦、電流)等を考慮して最適化をする必要があり、また、併せてインピーダンスマッチング等を行う必要があり、大規模最適化問題となり容易ではない。さらに、位相ロッキング現象は、最適化できたとしても狭い周波数帯域と広い半値幅の限られた条件でしか生じない。
【0011】
また、非特許文献2には、白色雑音により2つのSTNOが同期することが開示されているが、現象としては同相同期と逆相同期が確率的に起こっているため、周波数特性や出力の大きさが一定ではなく、実用的な技術としては不十分であるという課題を有する。また、STNOの数が多くなった場合には、全てのSTNOに共通のノイズを付加することが難しくなってしまうという課題を有する。
【0012】
本発明は、複数のスピン発振素子に共通のノイズを付加するだけで、それらのスピン発振素子の位相同期率を向上させる(同期を促進する)スピン発振装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るスピン発振装置は、非磁性体からなる非磁性層が、強磁性体からなる固定層及び自由層の2つの強磁性層で狭持され、前記非磁性層及び前記強磁性層に通電される電流により、スピントルクを作用させて磁化を自励発振する複数のスピン発振素子と、前記複数のスピン発振素子に共通して、当該スピン発振素子の発振周波数よりも高い周波数帯域のノイズを加えるノイズ付加手段と、前記スピン発振素子の前記自由層における磁化の状態及び前記ノイズ付加手段が付加するノイズの状態を制御する制御手段とを備えるものである。
【0014】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、複数のスピン発振素子に、当該スピン発振素子の発振周波数よりも高い周波数帯域のノイズを共通に加えるため、雑音誘起位相同期により、スピン発振素子の位相が同期し、高出力なマイクロ波発振を実現することができる。また、スピン発振素子の自由層における磁化やノイズの状態を制御することで、複数のスピン発振素子の位相同期率を向上させることができると共に、位相の分布を任意に制御することが可能になるという効果を奏する。
【0015】
本発明に係るスピン発振装置は、前記スピン発振素子が振動する際の前記自由層における磁化ベクトルの歳差運動の軌道を、前記固定層における磁化ベクトルに対して面直方向の軸を跨がない軌道に制御するものである。
【0016】
発明者らは、複数のスピン発振素子が雑音誘起位相同期により位相が同期しやすくなる要件として、スピン発振素子が振動する際の磁化の歳差運動の軌道が重要であるという知見を得た。すなわち、本発明に係るスピン発振装置においては、スピン発振素子が振動する際の前記自由層における磁化ベクトルの歳差運動の軌道を、前記固定層における磁化ベクトルに対して面直方向の軸を跨がない軌道にすることが、雑音誘起位相同期による位相の同期実現するための必要条件であることを示した。この知見により、効率化に最適化設計できるという効果を奏する。
【0017】
本発明に係るスピン発振装置は、前記制御手段が、前記磁化の歳差運動の軌道を、変曲点を有する軌道に制御するものである。
【0018】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、前記磁化の歳差運動の軌道が、変曲点を有する軌道に制御されるため、雑音誘起位相同期による位相の同期をより促進させて、同期率を向上させるという効果を奏する。
【0019】
本発明に係るスピン発振装置は、前記制御手段が、前記変曲点近傍での曲率を基本周波数成分に対する高調波成分の比率に基づいて制御するものである。発明者らは、鋭意努力の結果、スピン発振素子の磁化の歳差運動の軌道が変曲点を有し、且つその変曲点近傍における変曲率が微小である場合に、高確率で同相同期に短時間で収束することを実現することを見い出した。すなわち、本発明に係るスピン発振装置においては、変曲点近傍における曲率を基本周波数成分に対する高調波成分の比率に基づいて微小に制御することで、短時間で確実性の高い同相同期を実現することが可能になるという効果を奏する。
【0020】
本発明に係るスピン発振装置は、前記制御手段が、前記変曲点の特徴を、前記スピン発振素子の電流に関するパラメータ及び/又は磁場に関するパラメータにより決定するものである。
【0021】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、前記変曲点の特徴が、前記スピン発振素子の電流に関するパラメータ及び/又は磁場に関するパラメータにより決定されるため、設計時に雑音誘起位相同期による位相の同期を考慮した指針を得ることができると共に、制御時に電流及び/又は磁場による位相の同期の調整を行うことが可能になるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係るスピン発振装置は、前記制御手段が、前記変曲点近傍での曲率が、前記スピン発振素子が逆相の信号を出力する確率が所定の値以下となるように、前記各パラメータ及びノイズの状態を調整するものである。
【0023】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、前記変曲点近傍における曲率が、前記スピン発振素子が逆相の信号を出力する確率が所定の値以下、すなわち逆相の信号を出力する確率が小さくなるように、前記各パラメータ及びノイズの状態が調整されることで、スピン発振素子が逆相で同期することを抑制し、同相同期するように制御することができ、高出力を実現することができるという効果を奏する。すなわち、逆相+同相で同期した場合は、同相のみで同期した場合に比べて高周波を実現することができるが、その分出力が小さくなってしまう。また、曲率が大きくなりすぎると、逆相+同相の同期と同相の同期との遷移現象が確率的に生じてしまうため、同相のみで同期するように制御することが望ましい。
【0024】
本発明に係るスピン発振装置は、前記制御手段が、前記パラメータ及びノイズの状態を、位相縮約法から導出される位相応答に基づいて得られる前記パラメータ及びノイズの状態に調整するものである。
【0025】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、前記パラメータ及びノイズの状態が、位相縮約法から導出される位相応答に基づいて得られる値に制御されるため、スピン発振素子が逆相の信号を出力する確率を0%にすることができ、スピン発振素子が確実に同相同期するように制御することができるという効果を奏する。
【0026】
本発明に係るスピン発振装置は、前記ノイズ付加手段が、前記複数のスピン発振素子を有し、当該複数のスピン発振素子の固有の発振周波数の出力総和を前記ノイズとして付加するものである。
【0027】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、複数のスピン発振素子の固有の発振周波数の出力総和をノイズとして付加するため、元来問題となっている複数のスピン発振素子の固有の発振周波数の違いをノイズとして逆に利用することができ、構造を簡略化して効率のよい発振装置を実現することができるという効果を奏する。また、論理的には、スピン発振素子の数に応じた高周波のノイズを発生させることができるため、高周波の発振素子に対しても適切にノイズを付加することができるという効果を奏する。
【0028】
本発明に係るスピン発振装置は、前記ノイズ付加手段が、電流変動、磁場変動、熱電流変換素子、光電素子及び/又は圧電素子によりノイズを付加するものである。
【0029】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、電流変動、磁場変動、熱電流変換素子、光電素子及び/又は圧電素子によりノイズを付加するため、本発明に係るスピン発振装置を既存の素子等を用いて簡単に実現することができるという効果を奏する。
【0030】
本発明に係るスピン発振装置は、前記制御手段が、前記スピン発振素子の前記自由層における磁化の初期状態を、前記磁化の磁化ベクトルの方向が揃うように制御するものである。
【0031】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、スピン発振素子の自由層における磁化の初期状態を、磁化ベクトルの方向が揃うように制御するため、短時間に高確率で同相同期を実現することが可能になるという効果を奏する。
【0032】
本発明に係るスピン発振装置は、非磁性体からなる非磁性層が、強磁性体からなる固定層及び自由層の2つの強磁性層で狭持され、前記非磁性層及び前記強磁性層に通電される電流により、スピントルクを作用させて磁化を自励発振する複数のスピン発振素子と、前記複数のスピン発振素子に共通して、当該スピン発振素子の発振周波数よりも高い周波数帯域のノイズを加えるノイズ付加手段とを備え、前記ノイズ付加手段が、前記複数のスピン発振素子を有し、当該複数のスピン発振素子の固有の発振周波数の出力総和を前記ノイズとして付加するものである。
【0033】
このように、本発明に係るスピン発振装置においては、ノイズ付加手段が、前記複数のスピン発振素子の固有の発振周波数の出力総和を前記ノイズとして付加するため、元来問題となっている複数のスピン発振素子の固有の発振周波数の違いをノイズとして逆に利用することができ、構造を簡略化して効率のよい発振装置を実現することができるという効果を奏する。また、論理的には、スピン発振素子の数に応じた高周波のノイズを発生させることができるため、高周波の発振素子に対しても適切にノイズを付加することができるという効果を奏する。
【0034】
本発明に係るスピン発振装置の製造方法は、非磁性体からなる非磁性層が、強磁性体からなる固定層及び自由層の2つの強磁性層で狭持され、前記非磁性層及び前記強磁性層に通電される電流により、スピントルクを作用させて磁化を自励発振する複数のスピン発振素子と、前記複数のスピン発振素子に共通して、当該スピン発振素子の発振周波数よりも高い周波数帯域のノイズを加えるノイズ付加手段とを備えるスピン発振装置の製造方法であって、前記スピン発振素子の物性に関するパラメータを少なくとも含む特性パラメータ、及び、前記ノイズ付加手段のノイズ特性を、位相縮約法から導出される位相応答に基づいて得られる結果に応じて特定して決定するものである。
【0035】
このように、本発明に係るスピン発振装置の製造方法においては、スピン発振素子の物性に関するパラメータを少なくとも含む特性パラメータ、及び、ノイズ付加手段のノイズ特性を、位相縮約法から導出される位相応答に基づいて得られる結果に応じて特定して決定するため、スピン発振素子の特性を設計の段階で正確に決定して、仕様又は使用目的にあったスピン発振装置の製造を行うことができるという効果を奏する。

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1の実施形態に係るスピン発振装置の全体構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るスピン発振装置におけるスピン発振素子の標準的な構造とパラメータを示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るスピン発振装置でシミュレーションした場合の結果を示す第1の図である。
【図4】第1の実施形態に係るスピン発振装置でシミュレーションした場合の結果を示す第2の図である。
【図5】第1の実施形態に係るスピン発振装置の設計手順を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態に係るスピン発振装置の全体構成を示す図である。
【図7】その他の実施形態に係るスピン発振装置の構成を示す図である。
【図8】実施例におけるシミュレーション結果を示す第1の図である。
【図9】実施例におけるシミュレーション結果を示す第2の図である。
【図10】実施例におけるシミュレーション結果を示す第3の図である。
【図11】従来知られているスピントルク発振器の構造を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0038】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係るスピン発振装置について、図1ないし図4を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るスピン発振装置の全体構成を示す図、図2は、本実施形態に係るスピン発振装置におけるスピン発振素子の標準的な構造とパラメータを示す図、図3は、本実施形態に係るスピン発振装置でシミュレーションした場合の結果を示す第1の図、図4は、本実施形態に係るスピン発振装置でシミュレーションした場合の結果を示す第2の図である。
【0039】
本実施形態に係るスピン発振装置1は、複数のスピン発振素子11を含むスピン発振素子群12と、スピン発振素子群12にスピン発振素子11の発振周波数よりも高い周波数帯域のノイズを付加するノイズ付加手段13と、ノイズ付加手段13が付加するノイズの状態や、スピン発振素子群12に含まれるスピン発振素子11の磁化の状態を制御する制御手段14とを備える。スピン発振素子11は、図11に示すように、磁性体からなる自由層及び固定層で非磁性体からなるスペーサを挟んだ積層構造を有しており、この積層構造に直流電流を通電し、自由層の磁化にスピントルクを作用させることで磁化が自励発振する。なお、ノイズ付加手段13が付加するノイズの状態を制御するのは、制御手段14ではなくノイズ付加手段13自身が行うようにしてもよい。
【0040】
スピン発振素子11に流す電流又は加える磁界の強度を変化させることで、発振特性を制御することが可能になると共に、低電源電圧駆動(例えば、0.35V~0.25V)により、半導体では実現できない極低消費電力化が期待できる。しかしながら、単体のスピン発振素子11では高出力化が難しいため、本実施形態においては図1に示すように、複数のスピン発振素子11が併設されたスピン発振素子群12を用いる。このように複数のスピン発振素子11が格子状に配列されたスピン発振素子群12を利用することで、高出力化を実現することができるが、個々のスピン発振素子11の固有周波数の差により位相差が拡散し、各スピン発振素子11の位相が同期しない問題が発生してしまう。
【0041】
本実施形態に係るスピン発振装置1は、ノイズ付加手段13がスピン発振素子群12にスピン発振素子11の発振周波数よりも高い周波数の不規則なノイズを付加する。そうすることで、雑音誘起位相同期の現象により、スピン発振素子群12に含まれる複数のスピン発振素子11の位相同期が促進される。すなわち、本実施形態に係るスピン発振装置1により、高出力化と位相同期を実現することが可能となる。なお、制御手段14により、付加されるノイズの状態は、例えば、ホワイトノイズ、ブラウンノイズ、パルス等の様々な状態に制御することができ、その不規則性、強度、周波数等の属性も任意に制御できるものである。
【0042】
ここで、雑音誘起位相同期について説明する。一般的に、確率的同期は、一般的なノイズが付加された非結合の非線形発振器で起こる。発振器の確率的ダイナミクスは、以下のように示される。
【0043】
【数1】
JP2013065751A1_000003t.gif

【0044】
ここで、Xは、i番目の発振器の状態ベクトル、ηは、ノイズのベクトルを示す。この場合、各状態Xは、ノイズの影響により互いに同期する。実用的な観点から、この現象は工学的に非常に注目を集めている。実際には、非結合の非線形発振器の回路の配列は、シリコン基板上に実装されて、その妥当性は実証されている。このような観点から、一般的な雑音誘起位相同期は、STNOの同期方式として考えることができる。ランダムな磁場と電流は、STNOのダイナミクスにおける乗算的なノイズであるため、一般的な形で以下に示されるように、確率的ダイナミクスを考慮する必要がある。
【0045】
【数2】
JP2013065751A1_000004t.gif

【0046】
ここで、σはノイズη(t)の強度を示す。この場合、関数G(X)の乗算的なノイズは、ノイズに起因して、発振器の位相が確率的に分布するクラスタリングを引き起こす。したがって、この場合に対応したSTNOのアレイ構成(配列)についてのモデルを以下に説明する。
【0047】
図2に、一般的なノイズで駆動される非結合のSTNO対の磁化のダイナミクスを示す。まず、図2に示す一般的な素子構成を持つSTNOについて説明する。自由層における磁化のダイナミクスは次式で示される。
【0048】
【数3】
JP2013065751A1_000005t.gif

【0049】
ここで、mとMはそれぞれ自由層、固定層における磁化ベクトル、αはギルバート減衰パラメータ、γは磁気回転比、βは基本定数を含む材料に関するパラメータ、Jは固定層から自由層に正の方向に流れる電流である。実効的な磁場は、H=H+(H-Hdz)/|m|(Hは外部磁場、Hは容易軸異方性フィールド、Hdzは透磁率で正規化された反磁場を示す)で定義される。
【0050】
また、STNO対の動的挙動を検討する。各STNOのダイナミクスは、球面座標系でのLLGS方程式(Landau-Liftshitz-Gilbert-Slonczewski equations)により記述される。
【0051】
【数4】
JP2013065751A1_000006t.gif

【0052】
ただし、θとφは極角、正規化時間τ=γt/(1+α)、変換変数U=αH-βJ、V=H+αβJを用いるものとする。電流J及び磁場H,H,Hdzの単位は、各々アンペアとテスラである。いずれのSTNOにおいても、極角はθとφ(i=1,2)でそれぞれ表される。
【0053】
また、発明者らは、雑音誘起位相同期によりスピン発振素子11の位相同期を促進させる際に、スピン発振素子11における磁化の歳差運動の軌道が大きく影響するという知見を得た。
【0054】
上記LLGS方程式のシミュレーション結果の一例を図3に示す。図3に示すように、磁界及び/又は電流値に応じて、磁化mの軌道が変化する。軌道の状態は2つに大別することができ、z軸を跨らず、x軸に跨った軌道であるin-plane歳差運動と、z軸に跨がり、x軸に跨らない軌道であるout-of-plane歳差運動である。ここで示すx軸、z軸は、スピン発振素子11の固定層における磁化Mにより決定される球面座標系のx軸、z軸である。すなわち、磁化Mのベクトル方向がx軸であり、磁化Mのベクトル方向に対して面直方向の軸がz軸である。
【0055】
また、図4に、磁化mの複数の軌道の状態を詳細に示す。図4(A)は、変曲点を持たない軌道状態であり、θとφの平面上に投射した場合の軌道が円又は楕円となる。この状態をin-plane small歳差運動という。図4(B)は、変曲点を有する軌道状態であり、θとφの平面上に投射した場合に図4(B)に示すように対称性を有する形状となる。この図4(B)の軌道状態をin-plane large歳差運動という。図4(C)は、out-of-plane歳差運動を示し、この場合θとφの平面上に投射した場合に、図4(C)に示すように対称性を有さない形状となる。
【0056】
図4(C)のout-of-plane歳差運動はいまだ実験において観測されていない。それに対してin-plane歳差運動の場合は、雑音誘起位相同期による位相同期を実現することが可能である。より詳細に説明すると、図4(A)の場合は、磁化の歳差運動の安定性が高いため、雑音誘起位相同期による影響を受け難く、位相同期をするのに時間を要してしまう。一方、図4(B)の場合は、変曲点近傍の変曲率が大きく対称性を有することから、雑音誘起位相同期の影響を受けた磁化の歳差運動が2つの変曲点に分散し、同相同期に加えて逆相も同期してしまう場合がある。この場合、同相同期+逆相同期により周波数を倍にすることができるが、その分出力値が小さくなってしまうと共に、同相同期の出力と同相同期+逆相同期の出力とが確率的に出現してしまうため、制御が難しくなる。したがって、図4(A)と図4(B)の間で、変曲点近傍の変曲率が微小である場合が最も同相同期を実現するのに適している。
【0057】
変曲点近傍における変曲率の大きさは、基本周波数成分に対する高調波成分の比率により制御される。すなわち、図4(A)のような基本周波数成分のみの軌道に対して、高調波成分が含まれる図4(B)の方が位相が同期しやすくなる。そして、上述したように、図4(A)と図4(B)の間で、変曲点近傍の変曲率が微小である場合、すなわち、基本周波数成分に対して最適な高調波成分が含まれる場合(最適化については、具体的な処理を後述する)が最も同相同期を実現するのに適することとなる。そうすることで、磁化の歳差運動が適度な安定性を有し、且つ雑音誘起位相同期により短時間に高確率で同相同期を実現することができ、また同時に高出力を実現することが可能となる。
【0058】
以上のことから、in-plane歳差運動の場合に、雑音誘起位相同期による位相同期を実現することが可能であり、軌道に変曲点がない場合及び軌道に大きい変曲率の変曲点がある場合でも位相同期は実現できるが、短時間で同相同期且つ高出力を確実に実現するためには、軌道の変曲点近傍に微小な変曲率を有することが最も望ましい。
【0059】
また、上述したように、スピン発振素子11の設計時には、その物性により減衰定数α、スピン注入係数βを任意に決定して、発振特性を決めることができると共に、設計後にあっては、ノイズ成分を含む電流J及び/又は磁場Hを制御することで、発振特性を制御することが可能となる。
【0060】
さらに、スピン発振素子11の初期状態を、例えば一般的な磁化反転技術により自由層の磁化が同じ方向に揃うようにしておくことで、短時間で位相同期を実現することが可能となる。
【0061】
さらにまた、位相縮約法から導出される位相応答に基づいて、パラメータやノイズ強度を特定することで、確実な同相同期の実現が可能となる。つまり、雑音誘起位相同期による同期確率は、定常状態における発振位相の分布が単峰性になるか双峰性になるかで判別することができる(参考文献1:中尾裕也,新井賢亮,河村洋史, 「Noise-induced synchronization and clustering in ensembles of uncoupled limit-cycle oscillators」, 研究会 生命リズムと振動子ネットワーク 報告, 物性研究 87,pp.546-549, 2007)。
【0062】
発振位相の分布が単峰性、すなわち同相同期するように、上記LLGS方程式から以下に示す位相縮約法により位相応答を導出し、それから逆算してパラメータ集合を得る。
【0063】
【数5】
JP2013065751A1_000007t.gif

【0064】
ただし、Pは上記各パラメータα,β,γ,H,Jで、Iはノイズを含む入力とする。この位相縮約法により導出される位相感受関数Zと入力Iが結合された位相結合関数(Z(φ)I(=位相応答))により、位相分布が単峰性となる同相同期の場合の各パラメータと入力を得ることができる。
【0065】
図5は、上記位相縮約法を利用した設計手順を示すフローチャートである。まず、位相の定常密度分布を仮定する(S1)。上記参考文献1に示すように、アレイ状の発振装置の位相同期を同相又は逆相にするためには、位相の定常密度分布を単峰性又は双峰性にすることが必要となる(参考文献1のFig2を参照)。このとき、同相同期に対応するのが単峰性であり、異相同期に対応するのが双峰性となる。S1で定常密度分布が仮定されると、位相応答関数を決定する(S2)。参考文献1にある理論から、所望の位相密度分布を得るためには、位相応答関数と相乗雑音の畳み込みを計算し、最適化することが必要となる。このとき、アレイ状の発振装置における単体の発振素子について、位相応答関数が決定される。S2で位相応答関数が決定すると、π周期の位相応答関数となるようにする(S3)。位相応答関数を最適化するには、π周期関数にすることが必要となる。
【0066】
S3で位相応答関数がπ周期になると、所望の位相応答関数に対応する軌道(運動軌道)を決定する(S4)。位相応答関数がπ周期となるためには、軌道が対称性を持つようにすることが必要であり、同時に、位相の密度分布を最適化する条件として、時間波形の基本周波数成分と高調波成分の比率を調整する必要があり、所望の時間波形を生成する軌道を決定する。すなわち、変曲点近傍の曲率を最適化するような対称軌道を決定する。
【0067】
S4で軌道が決定されると、デバイスパラメータの範囲を見積もる(S5)。上述したように、LLGS方程式を用いてパラメータα、β及びγを設定する。S5でデバイスパラメータが決まると、バイアス条件の範囲を決定する(S6)。発振素子の軌道及び発振周波数は、バイアス電流及び/又は外部磁場を設定することで制御できるので、所望の特性が得られるようなバイアス条件の範囲を決定する。S6でバイアス条件の範囲が決定すると、最適化した条件から、デバイスパラメータ及びバイアスを決定する(S7)。位相縮約法により位相同期を最適化した条件から、発振素子のデバイスパラメータ(サイズ、アスペクト比、材料、幾何学的パラメータ)及びバイアス(電流、磁場)を決定する。
【0068】
なお、同相同期と異相同期の発生確率を任意に制御できるように、上記パラメータを設定することも可能となる。すなわち、使用環境に応じて、同相同期のみを発生させたり、同相同期と異相同期とを半々の確率で発生させることが可能であり、特に同相同期と異相同期とを半々の確率で発生させた場合は、2倍の周波数を実現することが可能となる。
【0069】
以上のように、制御手段14が、スピン発振素子11の磁化の状態やノイズの状態を制御することで、位相同期率を向上させたり、同相同期と異相同期の確率を制御することができ、様々な状況に対応するスピン発振素子の実現が可能になる。
【0070】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係るスピン発振装置について、図6を用いて説明する。図6は、本実施形態に係るスピン発振装置の全体構成を示す図である。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0071】
本実施形態に係るスピン発振装置は、図6(A)に示すように、前記第1のスピン発振装置において、ノイズ付加手段13が、図1におけるスピン発振素子群12と同様の構成を有しているものであり、スピン発振素子群12における各スピン発振素子11の固有の発振周波数の出力総和をノイズとして付加するものである。すなわち、複数の発振素子を格子上に配列した場合に、各素子の固有の振動数に差があることで位相差が拡散してしまうことを逆に利用することで、ノイズ付加手段13を形成する。そうすることで、スピン発振装置1とノイズ付加手段13を同じ構造とすることができるため、設計、製造の工程を簡素化して効率化を図ることができる。また、論理的にはスピン発振装置1に含まれるスピン発振素子11の数に応じてノイズの周波数を制御することができる。
【0072】
具体的な構成として、例えば図6(B)に示すように、発振素子として機能させるスピン発振素子群と、ノイズ付加手段として機能させるスピン発振素子群とを積層構造で形成し、発振素子として機能させるスピン発振素子群に、ノイズ付加手段として機能させるスピン発振素子群から共通のノイズを付加することできるような構成とする。こうすることで、発振素子とノイズ付加手段を同一の製造工程で容易に作成することができると共に、全ての発振素子11に共通のノイズを適切に付加することができ、雑音誘起位相同期による同期を実現することができる。
【0073】
(その他の実施形態)
本実施形態に係るスピン発振装置について、図7を用いて説明する。図7は、本実施形態に係るスピン発振装置の構成を示す図である。なお、本実施形態において前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0074】
本実施形態に係るスピン発振装置は、図7(A)に示すように、ノイズ付加手段13が、電流変動、磁場変動、熱電流変換素子、光電素子及び/又は圧電素子等により構成させるものである。図7(B)に、磁場変動を利用してノイズを付加する場合の構成例を示す。磁場変動を利用する場合は、図7(B)に示すように、基板の中央部分に複数のスピン発振素子11からなるスピン発振素子群12を配設し、その周囲にコイルを巻回して磁界によるノイズを発生させる。そうすることで、スピン発振素子群12に共通のノイズを付加することが可能となる。
【0075】
なお、前記各実施形態において、スピン発振素子11の配置は、格子状であっても不規則であってもよい。単位面積あたりの素子数を最大化する場合には、正方格子状又は六角格子状とするのが望ましい。また、スピン交換相互作用のように、近接されたスピン発振素子11間の相互作用を考慮する場合は、それぞれの相互作用を均一化するために規則的に配置されることが望ましい。
【実施例】
【0076】
以下に、第1の実施形態に示したLLGS方程式のシミュレーション結果を示す。数値シミュレーションを使用することにより、白色雑音を加えた場合の図2に示す各STNOの動作(ダイナミクス)について説明する。
【0077】
LLGS方程式の解をシミュレーションするために、Euler-Maruyamaスキームを用いた。このスキームは、相対的に高い収束性を持っている。乱数発生器としてMATLABに組み込まれたメルセンヌ・ツイスタ関数を使用してシミュレーションを行った。各パラメータは、α=0.01、β=1.0、H=0.2、H=0.01、Hdz=1.6、J=0.01とした。また、γ=1.0とし、タイムステップは、計算の簡略化のために0.05に設定した。この場合、いずれのSTNOも定常状態でin-plane large歳差運動を示す。
【0078】
まず、STNO素子対の時間発展を示す。ノイズ強度をδJ=0.1Jに設定する。このとき、図8(A)に示すように、いずれのSTNOも定常状態でin-plane large歳差運動となり、同相同期した。対照的に、図8(B)に示すように、異なるノイズ系列の場合は逆相同期した。
【0079】
図9に、極角θとθの差の時間発展を示す。図9(A)は同相同期の場合を示し、図9(B)は逆相同期の場合を示す。過渡状態の後、各STNOはノイズの影響により同期している。これは、過渡状態での同相同期と逆相同期の振舞いはほとんど同じであり、同相同期するか逆相同期するかは同じ確率分布を持つノイズ系列にのみ依存していることに注視すべきである。また、図10に、極角への位相平面投射図を示す。図10(A)は、同相同期における過渡状態の投射図、図10(B)は、同相同期における安定状態の投射図、図10(C)は、逆相同期における過渡状態の投射図、図10(D)は、逆相同期における安定状態の投射図である。この結果は確率的同期状態の収束を示している。
【0080】
以上の結果から、同相同期と逆相同期が起こる確率は同じである。電流を通しての直接的な相互作用を導入することで、同相同期状態はほぼ100%の確率で起こる(電流相互作用としては、例えば、(参考文献2:D.Li,Y.Zhou,C.Zhou and B.Hu,Phys.Rev.B,82,140407(2010).)、(参考文献3:D.Li,Y.Zhou,B.Hu and C.Zhou,Phys.Rev.B,84,10,104414(2011).)を参照)。これは、今回の同期機構が、従来の同期機構と協調的かつ相補的に機能し、性能を向上させることを意味する。
【0081】
さらに、STNOの歳差運動の状態と同期とクラスタリングの関係を調べた結果、上記実施形態において示したように、ノイズ強度、初期条件に加えて、歳差運動の状態(図4を参照)に依存することが示された。これは、同期状態の確率分布関数が、歳差運動状態を決定するパラメータα、β、J並びにH、H及びHdzを調整することで、制御できることを示している。
【符号の説明】
【0082】
1 スピン発振装置
11 スピン発振素子
12 スピン発振素子群
13 ノイズ付加手段
14 制御手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10