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明細書 :新規ペプチド複合体、そのハイブリッド複合体およびその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年4月2日(2015.4.2)
発明の名称または考案の名称 新規ペプチド複合体、そのハイブリッド複合体およびその用途
国際特許分類 C07K  19/00        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
FI C07K 19/00 ZNA
C07K 14/47
A61K 37/02
A61K 49/00 A
国際予備審査の請求
全頁数 24
出願番号 特願2013-540731 (P2013-540731)
国際出願番号 PCT/JP2012/076654
国際公開番号 WO2013/061818
国際出願日 平成24年10月16日(2012.10.16)
国際公開日 平成25年5月2日(2013.5.2)
優先権出願番号 2011233812
優先日 平成23年10月25日(2011.10.25)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】北松 瑞生
【氏名】道上 宏之
【氏名】王 飛霏
【氏名】中島 真実
【氏名】大槻 高史
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001070、【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C085
4H045
Fターム 4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084DC50
4C084NA14
4C085HH11
4C085KA27
4C085KB82
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA19
4H045BA41
4H045CA01
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA31
4H045FA61
4H045FA74
要約 本発明は、タンパク質を被運搬物質とする場合であっても、そのタンパク質の種類に大きく左右されることなく効率的に細胞内に導入することができ、またタンパク質が細胞内に導入された後に所期の機能が阻害されることなく発揮でき、しかも生体への影響が懸念される金属を用いない、被運搬物質を細胞内に送達するための手段を提供する。本発明に係るペプチド複合体[A]は、配列番号1:N'-EYQALKKKVAQLKAKNQALKKKVAQLKHK-C'のアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド[LZ(K)]等または配列番号2:N'-EYQALEKEVAQLEAENQALEKEVAQLEHE-C'のアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド[LZ(E)]等と、これに連結された細胞内侵入ペプチド[CPP]とを含むことを特徴とする。
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド[LZ(K)]もしくは当該アミノ酸配列中の1~8個のアミノ酸に対する変異を有するアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド[LZ(K)']または配列番号2のアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド[LZ(E)]もしくは当該アミノ酸配列中の1~8個のアミノ酸に対する変異を有するアミノ酸配列で表されるロイシンジッパーペプチド[LZ(E)']と、これに連結された細胞内侵入ペプチド[CPP]とを含むことを特徴とする、ペプチド複合体[A]。
N'-EYQALKKKVAQLKAKNQALKKKVAQLKHK-C' 配列番号1
N'-EYQALEKEVAQLEAENQALEKEVAQLEHE-C' 配列番号2
【請求項2】
さらに、前記ロイシンジッパーペプチドおよび/または細胞内侵入ペプチドに連結された蛍光色素を含む、請求項1に記載のペプチド複合体[A]。
【請求項3】
前記蛍光色素が蛍光性アミノ酸である、請求項2に記載のペプチド複合体[A]。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のペプチド複合体[A]と、
当該ペプチド複合体[A]に含まれる第一のロイシンジッパーペプチドと会合可能な第二のロイシンジッパーペプチドと、これに連結された細胞内への被運搬物質とを含むペプチド複合体[B]と
から形成されることを特徴とする、ハイブリッド複合体;
ここで、前記第一のロイシンジッパーペプチドが前記ロイシンジッパーペプチド[LZ(K)]もしくは[LZ(K)']である場合、前記第二のロイシンジッパーペプチドは前記ロイシンジッパーペプチド[LZ(E)]もしくは[LZ(E)']であり、前記第一のロイシンジッパーペプチドが前記ロイシンジッパーペプチド[LZ(E)]もしくは[LZ(E)']である場合、前記第二のロイシンジッパーペプチドは前記ロイシンジッパーペプチド[LZ(K)]もしくは[LZ(K)']である。
【請求項5】
前記被運搬物質がタンパク質またはペプチドである、請求項4に記載のハイブリッド複合体。
【請求項6】
請求項4または5に記載のハイブリッド複合体を含有する治療薬または診断薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内で所定の機能を発現しうるタンパク質等を細胞内に導入するための方法および当該方法に用いられるペプチド複合体などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所望のタンパク質を細胞内に運搬するための技術として、当該タンパク質に細胞内侵入ペプチド(cell-penetrating peptide; CPP)を導入する技術が一般的に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、上記の技術に用いられるCPP融合化タンパク質は、CPPが連結される対象となるタンパク質の種類によって作製効率が著しく変動し、ほとんど作製することができない場合がある。また、CPP融合化タンパク質が細胞内に導入された後、CPPがタンパク質の機能を阻害する場合がある(CPPは一般的に正に荷電していることが多く、これが負に荷電している核酸等の生体物質と相互作用することにより悪影響がもたらされている可能性がある)。
【0004】
このような問題に対処するための技術として、Dowdyらのグループによる非特許文献1には、目的とするタンパク質に6つのヒスチジン(いわゆるヒスチジンタグ)を導入し、これを金属配位子で修飾されたCPPに当該金属(ニッケル)を介して(共有結合を用いずに)連結することによって、細胞内運搬能を与えるという方法が記載されている。
【0005】
この非特許文献1に記載された技術は、タンパク質精製において一般的に広く使用されるヒスチジンタグを細胞内運搬能を与えるタグとして利用しているが、金属を用いる点で、本格的な治療を目的とした細胞内運搬技術、いわゆるドラッグデリバリーシステム(DDS)に適用する上では不安が残る。
【0006】
一方、Bosshardらのグループによる非特許文献2~5には、天然型のロイシンジッパーペプチドに基づいて人工的に開発された、変異型のロイシンジッパーペプチドが開示されている。ロイシンジッパー(コイルドコイル)は、DNA結合性の転写因子等の二量体形成ドメインに見られるモチーフである。二量体を形成するそれぞれのペプチドには7アミノ酸残基の繰り返しによるαヘリックスが含まれており、その4番目(d)の位置にロイシンが配列し、それらの疎水性アミノ酸残基の相互作用により二量体が形成されるという特徴がある。上記非特許文献に開示された変異型のロイシンジッパーペプチドは、アミノ酸配列中の所定の位置にさらに塩基性アミノ酸(リジン)または酸性アミノ酸(グルタミン酸)を含むように設計され、天然型のロイシンジッパーペプチドよりも結合安定性が向上したものとなっている。
【0007】
しかしながら、非特許文献2~5に開示された変異型ロイシンジッパーペプチドは、ロイシンジッパーペプチドの熱力学的な挙動の解析のために作製されたものにすぎない。二量体の一方のロイシンジッパーペプチドに細胞内侵入ペプチドを連結することや、そのようなロイシンジッパーペプチドを利用することにより所望の物質(ペプチド等)を効率的に細胞内に導入することができるようになることなどは、記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】June et al., J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 10680-10682.
【非特許文献2】Wendt et al., Biochemistry 1997, 36, 204-213.
【非特許文献3】Durr et al., Biochemistry 1999, 38, 870-880.
【非特許文献4】Marti et al., Biochemistry 2000, 39, 12804-12818.
【非特許文献5】Phelan et al., Biochemistry 2002, 41, 2998-3008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、たとえばタンパク質を被運搬物質とする場合であっても、そのタンパク質の種類に大きく左右されることなく効率的に細胞内に導入することができ、またタンパク質が細胞内に導入された後に所期の機能が阻害されることなく発揮でき、しかも生体への影響が懸念される金属を用いない、被運搬物質を細胞内に送達するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、結合能を有するタンパク質、たとえばアビジンおよびビオチンを利用して、目的とするタンパク質にアビジンを導入し、一方でCPPにビオチンを導入し、アビジン-ビオチン間で結合した複合体を形成させ、これを細胞に接触させるという方法が考えられるかもしれない。
【0011】
しかしながら、アビジンのように比較的分子量の大きなタンパク質を目的タンパク質に導入すると、上記複合体は細胞内に移行するかもしれないが、移行後も複合体の結合が外れず、細胞内で目的タンパク質が所定の機能を発揮することが阻害されるおそれがある。
【0012】
本発明者らは鋭意研究を進めた結果、所定のアミノ酸配列を有する一組のロイシンジッパーペプチド(「直交型」ロイシンジッパータグ)を利用することが好適であること、すなわち、一方のロイシンジッパーペプチドに目的タンパク質を連結し、もう一方のロイシンジッパーペプチドにCPPを連結し、これらのロイシンジッパーペプチド同士が会合した複合体を形成させたのちに細胞に接触させるようにすると、目的タンパク質を効率的に細胞内に送達することができ、しかも目的タンパク質はその後細胞内で所定の機能を発揮しうることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は下記の発明を包含する。
【0014】
〈1〉配列番号1のアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド[LZ(K)]もしくは当該アミノ酸配列中の1~8個のアミノ酸に対する変異を有するアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド[LZ(K)']または配列番号2のアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド[LZ(E)]もしくは当該アミノ酸配列中の1~8個のアミノ酸に対する変異を有するアミノ酸配列で表されるロイシンジッパーペプチド[LZ(E)']と、これに連結された細胞内侵入ペプチド[CPP]とを含むことを特徴とする、ペプチド複合体[A]。
N'-EYQALKKKVAQLKAKNQALKKKVAQLKHK-C' 配列番号1
N'-EYQALEKEVAQLEAENQALEKEVAQLEHE-C' 配列番号2
〈2〉さらに、前記ロイシンジッパーペプチドおよび/または細胞内侵入ペプチドに連結された蛍光色素を含む、〈1〉に記載のペプチド複合体[A]。
【0015】
〈3〉前記蛍光色素が蛍光性アミノ酸である、〈2〉に記載のペプチド複合体[A]。
【0016】
〈4〉〈1〉~〈3〉のいずれかに記載のペプチド複合体[A]と、
当該ペプチド複合体[A]に含まれる第一のロイシンジッパーペプチドと会合可能な第二のロイシンジッパーペプチドと、これに連結された細胞内への被運搬物質とを含むペプチド複合体[B]と
から形成されることを特徴とする、ハイブリッド複合体;
ここで、前記第一のロイシンジッパーペプチドが前記ロイシンジッパーペプチド[LZ(K)]もしくは[LZ(K)']である場合、前記第二のロイシンジッパーペプチドは前記ロイシンジッパーペプチド[LZ(E)]もしくは[LZ(E)']であり、前記第一のロイシンジッパーペプチドが前記ロイシンジッパーペプチド[LZ(E)]もしくは[LZ(E)']である場合、前記第二のロイシンジッパーペプチドは前記ロイシンジッパーペプチド[LZ(K)]もしくは[LZ(K)']である。
【0017】
〈5〉前記被運搬物質がタンパク質またはペプチドである、〈4〉に記載のハイブリッド複合体。
【0018】
〈6〉〈4〉または〈5〉に記載のハイブリッド複合体を含有する治療薬または診断薬。
【発明の効果】
【0019】
本発明で用いるロイシンジッパーペプチドとタンパク質等の被運搬物質との複合体およびロイシンジッパーペプチドと細胞内侵入ペプチドとの複合体はいずれも、公知の手法によって比較的容易に作製することができ、また金属を用いる必要もない。
【0020】
これらの2つの複合体同士を会合させてハイブリッド複合体を形成させることにより、被運搬物質を細胞内に効率的に送達することができ、また細胞内に送達された後はハイブリッド複合体は再び2つの複合体に分離するため、一方のペプチド複合体に連結された被運搬物質(タンパク質等)は、もう一方のペプチド複合体に連結されたCPPの影響を受けることなく、所定の機能を発揮することができる。このようなハイブリッド複合体は、たとえば治療や診断を目的とした本格的なタンパク質の細胞内運搬技術として期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】パラレルに配向した二本のロイシンジッパーペプチドの模式図(非特許文献3より引用)。
【図2】実施例で合成したペプチド複合体のMALDI-TOF Massスペクトル。
【図3】実施例3における、EGFP-LZ(K)と種々のTmrを修飾したペプチドを当量混合した時の蛍光スペクトル。
【図4】実施例3において、EGFP-LZ(K)を15 nM含んだ水溶液にTmr-LZ(E)およびTmr-LZ(K)を徐々に滴下していったときの、EGFP由来の蛍光強度の変化。
【図5】実施例4-1における、EGFP-LZ(K)でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察画像。左はEGFPの蛍光を捕らえた画像である(カラー写真においては緑色で表示される)。中央はTmr(ペプチドに修飾されている)を捕らえた画像である(カラー写真においては赤色で表示される)。右側は左および中央の画像を重ね合わせた画像である(カラー写真においてはEGFPとTmrが重なった部分は黄色に表示される)。
【図6】実施例4-2における、EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(E)との混合溶液でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察画像。左はEGFPの蛍光を捕らえた画像である(カラー写真においては緑色で表示される)。中央はTmr(ペプチドに修飾されている)を捕らえた画像である(カラー写真においては赤色で表示される)。右側は左および中央の画像を重ね合わせた画像である(カラー写真においてはEGFPとTmrが重なった部分は黄色に表示される)。
【図7】実施例4-3における、EGFP-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(E)との混合溶液でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察画像。左はEGFPの蛍光を捕らえた画像である(カラー写真においては緑色で表示される)。中央はTmr(ペプチドに修飾されている)を捕らえた画像である(カラー写真においては赤色で表示される)。右側は左および中央の画像を重ね合わせた画像である(カラー写真においてはEGFPとTmrが重なった部分は黄色に表示される)。
【図8】実施例4-4における、EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(E)-11Rとの混合溶液でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察画像。左はEGFPの蛍光を捕らえた画像である(カラー写真においては緑色で表示される)。中央はTmr(ペプチドに修飾されている)を捕らえた画像である(カラー写真においては赤色で表示される)。右側は左および中央の画像を重ね合わせた画像である(カラー写真においてはEGFPとTmrが重なった部分は黄色に表示される)。
【図9】実施例4-5における、EGFP-LZ(K)とTmr-11Rとの混合溶液でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察画像。左はEGFPの蛍光を捕らえた画像である(カラー写真においては緑色で表示される)。中央はTmr(ペプチドに修飾されている)を捕らえた画像である(カラー写真においては赤色で表示される)。右側は左および中央の画像を重ね合わせた画像である(カラー写真においてはEGFPとTmrが重なった部分は黄色に表示される)。
【図10】実施例4-6における、EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(K)との混合溶液でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察画像。左はEGFPの蛍光を捕らえた画像である(カラー写真においては緑色で表示される)。中央はTmr(ペプチドに修飾されている)を捕らえた画像である(カラー写真においては赤色で表示される)。右側は左および中央の画像を重ね合わせた画像である(カラー写真においてはEGFPとTmrが重なった部分は黄色に表示される)。
【図11】実施例4-7における、EGFP-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(K)との混合溶液でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点レーザー顕微鏡の結果。左はEGFPの蛍光を捕らえた画像である(カラー写真においては緑色で表示される)。中央はTmr(ペプチドに修飾されている)を捕らえた画像である(カラー写真においては赤色で表示される)。右側は左および中央の画像を重ね合わせた画像である(カラー写真においてはEGFPとTmrが重なった部分は黄色に表示される)。
【図12】実施例4-8における、EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(K)-11Rとの混合溶液でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察画像。左はEGFPの蛍光を捕らえた画像である(カラー写真においては緑色で表示される)。中央はTmr(ペプチドに修飾されている)を捕らえた画像である(カラー写真においては赤色で表示される)。右側は左および中央の画像を重ね合わせた画像である(カラー写真においてはEGFPとTmrが重なった部分は黄色に表示される)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
—ペプチド複合体—
本発明では、被運搬物質を細胞内に送達させるために、2種類のペプチド複合体を利用する。

【0023】
一つは、所定のアミノ酸配列を有する第一のロイシンジッパーペプチドと、これに連結された細胞内侵入ペプチドとを含み、必要に応じてさらに、ロイシンジッパーペプチドおよび/または細胞内侵入ペプチドに連結された蛍光色素を含んでいてもよいペプチド複合体(便宜的に「ペプチド複合体[A]」と称する。)である。

【0024】
もう一つは、所定のアミノ酸配列を有する第二のロイシンジッパーペプチドと、これに連結された被運搬物質とを含むペプチド複合体(便宜的に「ペプチド複合体[B]」と称する。)である。

【0025】
上記ペプチド複合体[A]および[B]に含まれる第一および第二のロイシンジッパーペプチドは、会合可能な一組のロイシンジッパーペプチドを構成するものであればよく、その一組のうちのどちらが第一のロイシンジッパーペプチドとしてペプチド複合体[A]において細胞内侵入ペプチドと連結されても、どちらが第二のロイシンジッパーペプチドとしてペプチド複合体[B]において被運搬物質と連結されてもよい。

【0026】
ペプチド複合体[A]は、上記ロイシンジッパーペプチドおよび細胞内侵入ペプチドのみ、または上記ロイシンジッパーペプチド、細胞内侵入ペプチドおよび蛍光色素のみからなるものであってもよいし、本発明の作用効果を阻害しない範囲でその他の構成要素をさらに含むものであってもよい。同様に、ペプチド複合体[B]は、上記ロイシンジッパーペプチドおよび被運搬物質のみからなるものであってもよいし、本発明の作用効果を阻害しない範囲でその他の構成要素をさらに含むものであってもよい。

【0027】
ペプチド複合体[A]および[B]の末端処理は特に限定されるものではないが、たとえば、N末端側を第一級アミノ基、C末端側を(必要に応じてβ-アラニンを介して)第一アミドとすることができる。

【0028】
・ロイシンジッパーペプチド
本発明のペプチド複合体[A]および[B]を構成するロイシンジッパーペプチドとしては、天然のロイシンジッパーペプチドまたはその誘導体(特にロイシンジッパーペプチド同士の複合体形成時の安定性が向上したもの)を用いることができる。

【0029】
ロイシンジッパーペプチドは、7つのアミノ酸残基(abcdefg)で構成されるαヘリックスが数回繰り返される構造を有する(図1参照)。2つのロイシンジッパーペプチドは、パラレル配向(N末端からC末端への向きが揃った状態)をもって、a、d、eおよびgの位置のアミノ酸の側鎖が内側に向かいあった状態で会合し、複合体(コイルドコイル)を形成する。この複合体の安定性はa、d、eおよびgの位置のアミノ酸の側鎖間の相互作用による影響が特に大きいと考えられる。したがって、本発明においては、a、d、eおよびgの位置のアミノ酸同士の相互作用により高い安定性が得られるロイシンジッパーペプチドを用いることが好ましい。

【0030】
たとえば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド(本発明において「LZ(K)」と表記することもある。)および配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるロイシンジッパーペプチド(本発明において「LZ(E)」と表記することもある。)は、複合体形成時の安定性に優れているため、本発明におけるロイシンジッパーペプチドとして(LZ(K)およびLZ(E)の一方をペプチド複合体[A]のための第一のロイシンジッパーペプチドとして、他方をペプチド複合体[B]のための第二のロイシンジッパーペプチドとして)用いることが好適である。なお、配列番号1および2で表されるアミノ酸配列を有するロイシンジッパーペプチド(それぞれのC末端側にさらにGが付加されている)は、前掲の非特許文献2および3に記載されている。

【0031】
(g-abcdefg-abcdefg-abcdefg-abcdefg)
N'-E-YQALKKK-VAQLKAK-NQALKKK-VAQLKHK-C' 配列番号1(LZ(K))
(g-abcdefg-abcdefg-abcdefg-abcdefg)
N'-E-YQALEKE-VAQLEAE-NQALEKE-VAQLEHE-C' 配列番号2(LZ(E))
LZ(K)は天然型のロイシンジッパーペプチドのアミノ酸配列に対してeおよびgの位置にある合計8個のアミノ酸が全てリジン(K)に置換され、一方LZ(E)は天然型のロイシンジッパーペプチドのアミノ酸配列に対してeおよびgの位置にある合計8個のアミノ酸が全てグルタミン酸(E)に置換されている。eおよびgの位置のアミノ酸はある程度外向きに配向しているため、水溶液中でリジンおよびグルタミン酸はそれぞれ正および負に荷電する。そのため、LZ(K)およびLZ(E)からなる一組のロイシンジッパーペプチドは、天然型のロイシンジッパーペプチドに備わっているdの位置のロイシンによる相互作用等に加えて、eおよびgの位置のリジンおよびグルタミン酸による静電的相互作用でもって、安定的に複合体を形成することができる。LZ(K)またはLZ(E)の一方のみを用いてペプチド複合体[A]および[B]を作製した場合、eおよびgの位置にあるリジンまたはグルタミン酸同士の静電的な反発力の影響により、ハイブリッド複合体の形成効率は極めて悪くなる(ほとんどハイブリッド複合体を形成することができない)。

【0032】
また、配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個(たとえば1~8個)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、ペアとなるもう一方のロイシンジッパーペプチドと複合体を形成することが可能なロイシンジッパーペプチドLZ(K)'およびLZ(E)'を用いることもできる。前述のように、ロイシンジッパーペプチドの安定性はa、d、eおよびgの位置にあるアミノ酸の相互作用による影響が大きいと考えられるため、これらのアミノ酸の相互作用の強さを適切な範囲で変動させるためのアミノ酸の置換を施すか、あるいはこれらのアミノ酸の相互作用に悪影響を与えない範囲でその他のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加を施すことが好ましい。アミノ酸の相互作用の強さは、当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく調整することが可能である。

【0033】
・細胞内侵入ペプチド(CPP)
本発明のペプチド複合体[A]を構成する細胞内侵入ペプチド(cell-penetrating peptide: CPP)は、一般的にアルギニンなどの塩基性アミノ酸に富んだアミノ酸配列を有する、細胞膜と結合し自身を細胞内に取り込ませる働きを持つポリペプチドとして知られており、細胞膜透過性ペプチド、膜透過性ドメイン(Protein Transduction Domain: PTD)などと称されることもある。当初、CPPは、細胞膜を透過して自発的に細胞内に侵入すると考えられたため「細胞膜透過性ペプチド」と称されることもあるが、現在では一般的に、主に細胞のエンドサイトーシス経路を経て細胞内に取り込まれると考えられている。

【0034】
本発明では様々なCPPを用いることができ、目的とする細胞(通常は哺乳動物細胞)に対応するものであればよく、その種類は特に限定されるものではない。また、CPPは、野生型のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、細胞内に侵入する(好ましくは野生型よりも優れた)能力を有する範囲で、野生型のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加を施した変異型のアミノ酸配列を有するものであってもよい。

【0035】
本発明における好ましいCPPの代表例として、7~11個程度のアルギニンのみからなるアミノ酸配列を有するポリアルギニン、たとえば配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するポリアルギニン(本発明において「11R」と表記することもある。)が挙げられる。
RRRRRRRRRRR 配列番号3
また、同様にアルギニンに富んだアミノ酸配列を有する、ヒト免疫不全ウイルスI型(HIV-1)に由来するTrans-activator of transcription protein(Tatタンパク質)に含まれるYGRKKRRQRRRGで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、フロックハウスウイルス(FHV)に由来するRRRRNRTRRNRRRVRで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、およびYGRRARRRRRRRで表されるアミノ酸配列からなるCTP512(Cytoplasmic Transduction Peptide)なども、本発明における好ましいCPPとして挙げられる。その他、Revペプチド、ネコヘルペスウイルスCoatタンパク質由来ペプチドなども、本発明におけるCPPとして用いることができる。

【0036】
ペプチド複合体[A]において、ロイシンジッパーペプチドおよび細胞内侵入ペプチドの配置の順序は特に限定されるものではなく、N末端側から、ロイシンジッパーペプチド-細胞内侵入ペプチドとなる順序でもよいし、細胞内侵入ペプチド-ロイシンジッパーペプチドとなる順序でもよい。

【0037】
ペプチド複合体[A]中、細胞内侵入ペプチドとロイシンジッパーペプチドとは、直接連結されていてもよいし、必要に応じてリンカー(スペーサー)を介して連結されていてもよい。リンカーを用いる場合、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、一般的なペプチドないしタンパク質(あるいは所定の官能基を有する化合物)同士を連結するために用いられている公知のリンカーを選択することができる。たとえば、ペプチド複合体[A]全体がアミノ酸のみで構成されるよう、1~20個程度のアミノ酸からなるペプチドをリンカーとして用いてもよいし、ペプチド(アミノ酸)以外の化合物、たとえばPEG(ポリエチレングリコール)などをリンカーとして用いることも可能である。

【0038】
細胞内侵入ペプチドとロイシンジッパーペプチドとが連結したペプチド複合体[A]は公知の方法により作製することができ、作製方法は特に限定されるものではない。たとえば、ペプチドの合成法として慣用されているFmoc-ペプチド固相合成法を用いて当該ペプチド複合体を構成するアミノ酸を順次結合させていくことにより、細胞内侵入ペプチドとロイシンジッパーペプチドとがアミド結合(ペプチド結合)で連結された複合体を合成することができる。ペプチド複合体[A]がリンカーを含む場合も、一般的な方法によりリンカーを利用することができる。

【0039】
・蛍光色素
本発明では、たとえばペプチド複合体[A]とペプチド複合体[B]とによるハイブリッド複合体の形成を通じて、ペプチド複合体[B]に連結された被運搬物質が細胞内に運搬されることを確認できるようにする等の目的のために、少なくともペプチド複合体[A]の方に蛍光色素を連結させておいてもよい。

【0040】
「蛍光色素」としては、公知のペプチドないしタンパク質を蛍光標識化するために用いられている各種の蛍光色素を用いることができ、特に限定されるものではないが、たとえば、Fmoc-ペプチド固相合成法を用いることによりペプチド複合体と一体的に合成することが可能であり、また分子サイズも蛍光タンパク質(たとえばEGFP)に比べて十分に小さいためハイブリッド複合体の形成を阻害しにくい「蛍光性アミノ酸」は、本発明の蛍光色素として好ましい。

【0041】
「蛍光性アミノ酸」は公知の蛍光性アミノ酸から選択することができる。蛍光性アミノ酸としては、たとえば、3-(9-オキソ-9,10-ジヒドロ-アクリジン-2-イル)アラニン(Acd)、N-ε-(フルオルセイン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Fam)、N-ε-(テトラメチルローダミン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Tmr)、3-(1-ピレニル)アラニン(Pyr)、N-δ-(10-オキソ-2,3,5,6-テトラヒドロ-1H,4H,10H-11-オキサ-3-アザ-ベンゾ[de]アンスラセン-9-カルボニル)-オルニチン(Cm3)、N-ε-(7-メトキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン(Moc)、N-ε-(7-メトキシ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン(Mca)、N-ε-(7-ヒドロキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン(Hoc)、N-ε-(7-ヒドロキシ-4-メチル-クマリン-3-イル)アセチル-リシン(Hmc)、N-ε-(7-ジメチルアミノ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン(Mac)が挙げられる。たとえば、後記実施例で用いられているN-ε-(フルオルセイン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Fam)やN-ε-(テトラメチルローダミン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Tmr)は、本発明における好ましい蛍光性アミノ酸の例である。

【0042】
その他にも、蛍光色素として一般的に用いられている、フルオレセイン・ファミリー、クマリン・ファミリー、ローダミン・ファミリー、シアニン・ファミリーなどの色素分子、あるいはAlexa Fluor(登録商標、インビトロジェン社)、BODIPY(登録商標、インビトロジェン社)、Cy(登録商標、GEヘルスケア社)、DY(登録商標、DYOMICS社)、HiLyte(登録商標、アナスペック社)、DyLight(登録商標、サーモサイエンティフィック社)、ATTO(登録商標、ATTO-TEC社)、MFP(登録商標、Mobitec社)などの商品名で上市されている色素分子などを用いることも可能である。なお、このような蛍光色素の総称は、化合物中の主要な構造(骨格)または登録商標に基づき命名されており、それぞれに属する蛍光色素の範囲は当業者であれば適切に把握することができる。

【0043】
蛍光色素は、公知のペプチドないしタンパク質と蛍光色素とを連結するために用いられている方法に準じて、必要に応じて適切なリンカーを用いて、アミノ酸が有するアミノ基、カルボキシル基、水酸基、チオール基等の官能基を介して、ロイシンジッパーペプチドに結合させることができる。ハイブリッド複合体の形成を阻害しないようにする観点からは、ロイシンジッパーペプチドの途中(アミノ酸の側鎖)ではなく、ロイシンジッパーペプチドの相互作用に影響を与えにくいN末端またはC末端近傍に蛍光色素を連結することが好ましい。蛍光色素として蛍光性アミノ酸を用いる場合、Fmoc-ペプチド固相合成法により蛍光性アミノ酸を任意の位置に配置することができるため、ロイシンジッパーペプチドのN末端またはC末端に蛍光性アミノ酸が結合したものを容易に作製することができる。あるいは、ロイシンジッパーペプチド中唯一のシステインをN末端付近またはC末端付近(ロイシンジッパーペプチドの相互作用に影響を与えない部位)に配置しておき、一方蛍光色素には当該システインのチオール基と選択的に反応する(ペプチド複合体中の他のアミノ酸残基とは反応しない)マレイミド基を導入しておき、これらの官能基を反応させることにより、上記ロイシンジッパーペプチドの末端付近に蛍光色素を結合させることも可能である。

【0044】
ペプチド複合体[A]に蛍光色素(蛍光アミノ酸)を連結させる場合、ロイシンジッパーペプチド、細胞内侵入ペプチドおよび蛍光色素の配置の順序は特に限定されるものではない。たとえば、N末端側から、蛍光色素-ロイシンジッパーペプチド-細胞内侵入ペプチドとなる順序でもよいし、細胞内侵入ペプチド-蛍光色素-ロイシンジッパーペプチドとなる順序でもよい。

【0045】
また、ペプチド複合体[A]中、蛍光色素(蛍光性アミノ酸等)とロイシンジッパーペプチドおよび/または細胞内侵入ペプチドとは、直接連結されていてもよいし、リンカー(スペーサー)を介して連結されていてもよい。リンカーを用いる場合、公知のペプチドないしタンパク質と蛍光色素とを連結するために用いられている公知のものの中から、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、化学的構造や長さが適切なものを選択すればよい。

【0046】
・被運搬物質
本発明のペプチド複合体[B]を構成する被運搬物質は、本発明によるハイブリッド複合体の形成により細胞内に導入し、細胞内で所定の機能を発揮することが可能な物質であれば特に限定されるものではなく、本発明のハイブリッド複合体の用途、特に治療・予防用または診断用の医薬としての用途を考慮しながら選択すればよい。

【0047】
細胞内で医薬的な生理活性作用を発揮するタンパク質またはペプチド(たとえばp53タンパク質)は、本発明における好ましい被運搬物質となる。タンパク質等のサイズ(分子量)が細胞内への導入効率または細胞内における機能の発揮に影響を及ぼす可能性があるので、適切な範囲(一般的には分子量1,000~1,000,000)のサイズを有するタンパク質等を被運搬物質とすることが好ましい。

【0048】
また、タンパク質またはペプチド以外の化合物、たとえば核酸を被運搬物質として、細胞内に送達させることも可能である。その場合のペプチド複合体[A]および[B]の作製方法、すなわち核酸等のタンパク質またはペプチド以外の化合物をロイシンジッパーペプチドに連結する方法も、公知の手法を利用することができる。

【0049】
ペプチド複合体[B]において、ロイシンジッパーペプチドおよび被運搬物質の配置の順序は特に限定されるものではない。被運搬物質がタンパク質またはペプチドである場合、N末端側から、ロイシンジッパーペプチド-被運搬物質となる順序でもよいし、被運搬物質-ロイシンジッパーペプチドとなる順序でもよい。

【0050】
ペプチド複合体[B]中、被運搬物質とロイシンジッパーペプチドとは、直接連結されていてもよいし、必要に応じてリンカー(スペーサー)を介して連結されていてもよい。リンカーを用いる場合、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、一般的なペプチドないしタンパク質(あるいは所定の官能基を有する化合物)同士を連結するために用いられている公知のリンカーを選択することができる。たとえば、ペプチド複合体[B]全体がアミノ酸のみで構成されるよう、1~20個程度のアミノ酸からなるペプチドをリンカーとして用いてもよいし、ペプチド(アミノ酸)以外の化合物、たとえばPEG(ポリエチレングリコール)などをリンカーとして用いることも可能である。

【0051】
被運搬物質とロイシンジッパーペプチドとが連結したペプチド複合体[B]は公知の方法により作製することができ、作製方法は特に限定されるものではない。たとえば、被運搬物質が比較的大きなサイズ(アミノ酸数)を有するタンパク質である場合、公知の遺伝子工学的手法(発現ベクター等)を用いて、当該タンパク質とロイシンジッパーペプチドとが連結した融合タンパク質を合成することができる。また、被運搬物質が比較的小さなサイズ(アミノ酸残基数)を有するペプチドである場合は、ペプチドの合成法として慣用されているFmoc-ペプチド固相合成法を用いて当該ペプチド複合体を構成するアミノ酸を順次結合させていくことにより、当該ペプチドとロイシンジッパーペプチドとがアミド結合(ペプチド結合)で連結された複合体を一体的に合成することもできる。

【0052】
—ハイブリッド複合体—
ハイブリッド複合体は、あらかじめ作製したペプチド複合体[A]とペプチド複合体[B]とを適切な溶媒中(通常水または緩衝液等の水溶液中)で混合することにより、容易に形成させることができる。

【0053】
ペプチド複合体[A]および[B]は理論的には1:1の量(モル比)で反応するため、ペプチド複合体[A]および[B]の混合量(モル比)も1:1とするか、必要であればその近傍で調整すればよい。なお、上記の混合比が1:1から離れる場合、ペプチド複合体[A]および[B]のロイシンジッパーペプチドが結合してハイブリッド複合体が形成された状態において、さらに他のペプチド複合体[A]および/または[B]が前記ハイブリッド複合体に非特異的に吸着する可能性があるが、本発明の作用効果を阻害しない範囲であれば、そのような非特異的な吸着が起きることも許容される。

【0054】
また、このようなハイブリッド複合体が形成された後、それを被運搬物質を送達させたい細胞と接触させることにより、ハイブリッド複合体を細胞内に導入することができる。通常、細胞にハイブリッド複合体を含む溶液を添加すれば、一定の時間の経過の後、エンドサイトーシスにより自ずと当該ハイブリッド複合体は細胞内に取り込まれ、その後細胞内で所定の機能を果たすことができるようになる。細胞は、通常は動物細胞(ヒトの細胞を含む)であり、生体内にあるものでも、生体外にあるもの(培養細胞)でもよい。つまり、本発明による細胞内への被運搬物質の送達方法は、生体内、生体外どちらにおいても適用することができる。

【0055】
細胞内に送達された後、自ずと会合がほどけて、ハイブリッド複合体はペプチド複合体[A]および[B]に再び分離することができる。これにより、ペプチド複合体[B]に連結された被運搬物質(タンパク質等)は、ペプチド複合体[A]に連結されたCPP(ポリアルギニン:11R等)の影響を受けることなく、所定の機能を発揮することが可能となる。

【0056】
なお、必要であれば、細胞内に送達後に被運搬物質が所定の機能をより発揮しやすくなるよう、ペプチド複合体[B]がハイブリッド複合体を形成して被運搬物質が細胞内に送達されるまでの細胞外環境においては切断されず、細胞内環境(たとえば、リソソーム、エンドソーム、カベオラ等の内部)において切断可能な化合物を、ロイシンジッパーペプチドと被運搬物質とを連結するためのリンカーとして用いてもよい。ただし本発明では、このような特定のリンカーを用いず被運搬物質がロイシンジッパーペプチドと連結した状態のままであっても、所定の機能を発揮することができるようになっている。

【0057】
—用途—
本発明によるハイブリッド複合体(または当該ハイブリッド複合体を形成するためのペプチド複合体[A]および[B])、あるいはこれらを含む組成物は、それに含まれる被運搬物質に応じた、治療・予防用または診断用の医薬として使用することができる。

【0058】
換言すれば、本発明は、治療・予防用または診断用の医薬(組成物)の製造のための、ハイブリッド複合体(または当該ハイブリッド複合体を形成するためのペプチド複合体[A]および[B])の使用(方法)を提供する。あるいは、本発明は、ハイブリッド複合体(または当該ハイブリッド複合体を形成するためのペプチド複合体[A]および[B])を投与することを含む、治療・予防または診断のための使用(方法)を提供する。上記のような医薬(組成物)ないし使用(方法)は、投与ないし適用の対象を、ヒトまたはそれ以外の動物(好ましくは哺乳動物)、あるいはそれらから採取した細胞等の生体物質とすることができる。

【0059】
上記のような治療・予防用または診断用の医薬を調製する際には、必要に応じて、本発明によるハイブリッド複合体(または当該ハイブリッド複合体を形成するためのペプチド複合体[A]および[B])以外に、製薬学的に許容しうるキャリア、賦形剤、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤等、その他の各種の物質を含む医薬組成物として調製することが可能である。DDSにおける使用の態様として、本発明によるハイブリッド複合体(または当該ハイブリッド複合体を形成するためのペプチド複合体[A]および[B])ならびにその他の物質を内包ないし担持しうる、微小なカプセル(たとえばリポソーム)を用いることも可能である。また、医薬の剤形は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸薬、カプセル、粉剤、除法処方物等とすることが可能である。また、本発明の医薬の投与方法や投与量も、使用する薬剤類に応じて適切に調整すればよい。
【実施例】
【0060】
実施例1:蛍光性アミノ酸および細胞内侵入ペプチドが結合した直交型ロイシンジッパーペプチドの合成
配列番号1で表されるアミノ酸配列(N'-EYQALKKKVAQLKAKNQALKKKVAQLKHK-C')を有するロイシンジッパーペプチド:LZ(K)および配列番号2で表されるアミノ酸配列(N'-EYQALEKEVAQLEAENQALEKEVAQLEHE-C')を有するロイシンジッパーペプチド:LZ(E)、蛍光性アミノ酸Fam(N-ε-(フルオルセイン-5,6-イル)カルボニル-リシン)およびTmr(N-ε-(テトラメチルローダミン-5,6-イル)カルボニル-リシン)(それぞれの化学構造は下記の通り)、ならびに細胞内侵入ペプチド11Rを用いて、下記のペプチド複合体を作製した。いずれのペプチドもN末端は第一級アミノ基であり、C末端は第一アミドである。bAlaはβ-アラニンを示す。Tmr-11RはLZを含まないコントロールのCPPである。
Fam-LZ(E):
H-Fam-EYQALEKEVAQLEAENQALEKEVAQLEHE-bAla-NH2
([M+H]+calc = 3924.81)
Tmr-LZ(K):
H-Tmr-EYQALKKKVAQLKAKNQALKKKVAQLKHK-bAla-NH2
([M+H]+calc = 3972.33)
Tmr-LZ(E):
H-Tmr-EYQALEKEVAQLEAENQALEKEVAQLEHE-bAla-NH2
([M+H]+calc = 3979.91)
11R-Tmr-LZ(K):
H-RRRRRRRRRRR-Tmr-EYQALKKKVAQLKAKNQALKKKVAQLKHK-bAla-NH2
([M+H]+calc = 5689.44)
Tmr-LZ(K)-11R:
H-Tmr-EYQALKKKVAQLKAKNQALKKKVAQLKHK-RRRRRRRRRRR-bAla-NH2
([M+H]+calc = 5689.44)
11R-Tmr-LZ(E):
H-RRRRRRRRRRR-Tmr-EYQALEKEVAQLEAENQALEKEVAQLEHE-bAla-NH2
([M+H]+calc = 5697.02)
Tmr-LZ(E)-11R:
H-Tmr-EYQALEKEVAQLEAENQALEKEVAQLEHE-RRRRRRRRRRR-bAla-NH2
([M+H]+calc = 5697.02)
Tmr-11R:
H-Tmr-RRRRRRRRRRR-NH2
([M+H]+calc = 2276.35)
【実施例】
【0061】
【化1】
JP2013061818A1_000002t.gif
【実施例】
【0062】
これらのペプチド複合体の合成は、慣例法であるFmoc-ペプチド固相合成法により行なった。具体的には以下のように合成した。合成に用いた樹脂はFmoc-NH-SAL PEG resin (0.24 mmol/g)である。まず、樹脂を膨潤させるためジメチルホルムアミド(DMF)中で3時間、室温で放置した。脱保護試薬として20%ピペリジン DMF溶液、カップリング溶液としてHBTU/NMM DMF溶液を用いた。合成は手合成で行ない、樹脂をDMFで洗浄した後、脱保護を行ない、次いでカップリングするという操作を1サイクルとした。このサイクルを繰り返すことで樹脂表面上にペプチドを伸長させた。目的の配列まで伸長したペプチドの樹脂はトリフルオロ酢酸/水/イソプロピルシラン(= 95/2.5/2.5 (v/v/v))を加えて、ペプチドを切り出した。樹脂から切り出したペプチドの溶液はN2ガスで風乾した。合成されたペプチドは2 μmolスケールであり、合成後、100 μLのDMSOに溶解させ、冷凍庫で保存した。
【実施例】
【0063】
蛍光測定および共焦点顕微鏡による観測に使用する前に、上記100 μLのDMSO溶液全量をHPLCにかけ、ペプチドを分取精製した。精製後のペプチドの確認はMALDI-TOF Massで行なった(図2)。最終的に得られた溶液のモル濃度はこれらの精製した溶液をUV-visスペクトルを用いて、Fam(500 nm)もしくはTmr(550 nm)の吸光度から算出した。
【実施例】
【0064】
実施例2:EGFPが結合した直交型ロイシンジッパーの合成
慣例法である遺伝子工学的手法により、Hisタグ、EGFP、リンカーおよびLZ(K)が結合したペプチド複合体(下記配列番号4参照。上記各要素をハイフン(-)でつないである。)を合成した。すなわち、上記各要素をコードする塩基配列が連続した遺伝子を含むプラスミド(pET28b)を構築し、大腸菌内で発現させ、生成した融合タンパク質をアフィニティーカラムで回収した後、プロテアーゼで上記Hisタグを切断して、ペプチド複合体を得た。
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSH-MVSKGEELFTGVVPILVELDGDVNGHKFSVSGEGEGDATYGKLTLKFICTTGKLPVPWPTLVTTLTYGVQCFSRYPDHMKQHDFFKSAMPEGYVQERTIFFKDDGNYKTRAEVKFEGDTLVNRIELKGIDFKEDGNILGHKLEYNYNSHNVYIMADKQKNGIKVNFKIRHNIEDGSVQLADHYQQNTPIGDGPVLLPDNHYLSTQSALSKDPNEKRDHMVLLEFVTAAGITLGMDELYK-AS-EYQALKKKVAQLKAKNQALKKKVAQLKHKG 配列番号4
実施例3:蛍光測定によるペプチド複合体の相互作用の検証
実施例1で作製したTmrで修飾された各種のペプチド複合体および1-2で作製したEGFPで修飾されたペプチド複合体を用いて、これらの複合体が相互作用しているかを、蛍光基間で起きるFRET(EGFPがドナー、Tmrがアクセプター)を利用して調べた。
【実施例】
【0065】
方法
まず、濃度が既知のEGFP-LZ(K)の水溶液から70 mM HEPES (pH7.0)緩衝溶液を用いて、1 μMにまで希釈した。この希釈液と、Tmrで修飾されたペプチドの溶液(下記Group 1については代わりにPBS Buffer)と、前記HEPES緩衝溶液とを用いて、EGFP-LZ(K)およびTmr修飾ペプチドの終濃度がそれぞれ15 nMの溶液が1000 μLになるように調整した。30分間程度インキュベートした後、蛍光スペクトル測定装置(FP-6600, 日本分光社製)で室温で測定した。このとき励起波長はEGFPが発光する489 nmで測定した。EGFP-LZ(K)およびTmr修飾ペプチドの組み合わせ方はGroup 1-8の下記の8通りである(Group 1ではTmr修飾ペプチドを用いておらず、EGFP-LZ(K)単独である)。
Group 1; EGFP-LZ(K)+ PBS (Buffer)
Group 2; EGFP-LZ(K)+ TMR-LZ(E)
Group 3; EGFP-LZ(K)+ 11R-TMR-LZ(E)
Group 4; EGFP-LZ(K)+ TMR-LZ(E)-11R
Group 5; EGFP-LZ(K)+ TMR-11R
Group 6; EGFP-LZ(K)+ TMR-LZ(K)
Group 7; EGFP-LZ(K)+ 11R-TMR-LZ(K)
Group 8; EGFP-LZ(K)+ TMR-LZ(K)-11R
【実施例】
【0066】
結果
図3にEGFP-LZ(K)とTmrを修飾したペプチドを当量加えた時の混合溶液の蛍光スペクトルを示す(Group 2-8)。ペプチドの濃度はいずれも15 nMであり、溶媒として70 mM HEPES (pH7.0)緩衝溶液を用いた。蛍光強度は、489 nmの励起波長において、室温で測定した。コントロールとしてEGFP-LZ(K)のみの結果を示す(Group 1)。このコントロールの曲線の508 nmの値を1として、相対的にその他の曲線の蛍光強度を示した。まず、EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(K)との混合溶液(Group 6)では、EGFP-LZ(K)とほぼ同じ蛍光強度を示した。EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(K)が相互作用できないことで両者は一定の距離内に近づくことができず、そのためFRETが生じなかったと推測される。このような結果は、11R-Tmr-LZ(K)(Group 7)やTmr-LZ(K)-11R(Group 8)でも同様である。しかしながら一方で、ロイシンジッパー間の相互作用が可能であるEGFP-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(E)(Group 3), Tmr-LZ(E)-11R(Group 4)およびTmr-LZ(E)(Group 2)では期待したとおり、Famの大きな蛍光強度の減少が認められた。これは、LZ(K)とLZ(E)との相互作用が起きたことでそれぞれに連結されたEGFPとTmrとが位置的に近づき、それによりエネルギー移動が生じたためである。これらの結果はまた、11Rがこれらロイシンジッパーの相互作用に影響を及ぼさないことを示唆している。以上の結果より、EGFP-LZ(K)とTmrが修飾されたLZ(E)(11Rがある場合でも無い場合でも)とはうまくロイシンジッパー間の特異的な相互作用によりハイブリッドを形成していることが明らかである。
【実施例】
【0067】
図4(左)にEGFP-LZ(K)に対するTmr-LZ(E)の蛍光滴定曲線を示す。溶媒として70 mM HEPES (pH7.0)緩衝溶液を用いた。蛍光強度は、室温で、励起波長を489 nmとして、508 nmの発光を測定した。Tmr-LZ(E)を添加していくに従って、EGFP-LZ(K)のEGFPに対応する蛍光が徐々に減少することがわかる。この減少は、EGFPとTmrとがロイシンジッパー間のハイブリッド形成により距離的に近くなり、FRETに生じたことを示している。この蛍光の減少の割合は、EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(E)とが当量(それぞれ15 nM)のときを境に変化することがわかる。すなわちTmr-LZ(E)を15 nM以上加えてもEGFPに対応する蛍光は、15 nM以下のときと比べて変化の割合が小さくなった。この結果は、EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(E)とは1:1対応でハイブリッドを形成していることを示唆している。さらにコントロールとして、EGFP-LZ(K)とはハイブリッドを形成しないことが予想されるTmr-LZ(K)でも同様に滴定曲線を測定した(図4の黒丸)。その結果、EGFPに対応する蛍光強度は加えたTmr-LZ(K)には依存せず、またほとんど蛍光強度の減少は認められなかった。この結果は予想されたように、ロイシンジッパー間でハイブリッドが形成できないため、EGFPがTmrによるエネルギー移動を生じなかったことを示している。
【実施例】
【0068】
以上の結果より、EGFP-LZ(K)はEGFP-LZ(E)と特異的に1:1対応でハイブリッドを形成していることが明らかとなった。この結果は図4(右)からも明らかである。溶媒として70 mM HEPES (pH7.0)緩衝溶液を用い、室温で、励起波長を489 nmとして、580 nmの発光を測定した。
【実施例】
【0069】
実施例4:ペプチドタグを介したCPPによるタンパク質の細胞内運搬(共焦点レーザー顕微鏡)
方法
まず、細胞がディッシュ表面に吸着しやすい環境を作製するために、50μg/mL collagen type1をガラスボトムディッシュ(mini 3well)にコーティングした。次に、そのディッシュ上にグリオーマの一種であるU251MG細胞を1×104 cells/well播き、接着のために一晩インキュベートした。一方、200 μM EGFP-LZ(K)と200 μMのそれぞれの溶液とをマイクロチューブ中に10μLずつ加え、その混合溶液は室温で1時間インキュベートした。この混合溶液を終濃度が10 μMになるようにディッシュ中のU251細胞に加え、さらに37℃で4時間インキュベートした。最後に、ディッシュをPBSで2回洗浄し、培地に置換後、共焦点レーザー顕微鏡にてEGFP(緑色)およびペプチドに修飾したTmr(赤色)にて観察した。全部で8種類の組み合わせについて観測した。観測したそれらの組み合わせを以下に示す。
【実施例】
【0070】
結果
(4-1)図5はEGFR-LZ(K)(前記Group 1に対応)でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点顕微鏡画像である。EGFP-LZ(K)は、LZ(K)が塩基性アミノ酸(リジン)をいくらか含む(29残基中10残基)ので、もしかしたら単独で(LZ(E)を併用せずに)細胞内に導入される可能性もあったが、実際には細胞に導入されることはなかった、ごくわずかに細胞の「へり」の部分に蛍光(緑色)が確認できるが、これはEGFP-LZ(K)が細胞の表面に非特異的に吸着しているものかと思われる。Tmr修飾ペプチドはインキュベートされていないので蛍光(赤色)は認められない。
【実施例】
【0071】
(4-2)図6はEGFR-LZ(K)とTmr-LZ(E)との混合溶液(前記Group 2に対応)でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点顕微鏡画像である。EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(E)とはロイシンジッパー間でハイブリッドを形成するが、CPPが付加されていないために細胞内に導入されないことが予想される。結果として、EGFP-LZ(K)は細胞内に導入されていないことが観測できた。図5と同様にごくわずかに細胞の「へり」に吸着している様子が見て取れる。Tmr-LZ(E)はディッシュ全体に糸を引いたような感じで吸着している様子が見て取れるが詳細は不明である。
【実施例】
【0072】
(4-3)図7はEGFR-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(E)との混合溶液(前記Group 3に対応)でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点顕微鏡画像である。EGFP-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(E)とはロイシンジッパー間でハイブリッドを形成し、さらにCPPが付加されているために細胞内に導入されることが予想される。結果として、うまくEGFP-LZ(K)が細胞内に運搬されたことがわかった。また、11R-Tmr-LZ(E)も同時に細胞内に運搬されていることからEGFP-LZ(K)が11R-Tmr-LZ(E)を介して細胞内に運搬されていると考えられる。さらに興味深いことに両者の重ね合わせの画像(右側)では、EGFP-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(E)が同じ位置に存在しているものだけでなく、それぞれが別々に細胞内に存在している様子も見て取れる。これは細胞内でEGFP-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(E)とが分離していることを示唆している。このことは細胞内に運搬された後、タンパク質がCPPの影響を受けないことにつながる可能性もあり、本発明はタンパク質の効率的な細胞内での機能発現を期待できるものである。
【実施例】
【0073】
(4-4)図8はEGFR-LZ(K)とTmr-LZ(E)-11Rとの混合溶液(前記Group 4に対応)でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点顕微鏡画像である。これらの組み合わせでも結果として、うまくEGFP-LZ(K)を細胞内に運搬できることが分かった。先程の11R-Tmr-LZ(E)と比較して、Tmr-LZ(E)-11Rはペプチド中の11Rの位置が異なる。すなわち、11R-Tmr-LZ(E)はEGFP-LZ(K)とハイブリッドを形成すると、EGFPとCPPとが同じ向き(LZ(E)およびLZ(K)に対して同じ側)に存在するのに対し、Tmr-LZ(E)-11RはEGFP-LZ(K)とハイブリッドを形成すると、EGFPとCPPとが離れた向き(LZ(E)およびLZ(K)を挟んで反対側)に存在する。結果としては11Rがどちらの方向でペプチドに修飾されていても、同様にEGFP-LZ(K)を細胞内に運搬でき、それらの挙動に差は認められないことがわかった。
【実施例】
【0074】
(4-5)図9はEGFR-LZ(K)とTmr-11Rとの混合溶液(前記Group 5に対応)でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点顕微鏡画像である。EGFP-LZ(K)とTmr-11Rとはハイブリッドを形成できないので、細胞内に導入されないことが予想される。予想通り、EGFP-LZ(K)は細胞内に運搬されなかった。一方、Tmr-11RはCPPが付加しているので、単独で細胞内に導入されている様子が見て取れる。これらの結果はEGFP-LZ(K)は単にCPPと混合しただけでは細胞内に導入できないことを示している。
【実施例】
【0075】
(4-6)図10はEGFR-LZ(K)とTmr-LZ(K)との混合溶液(前記Group 6に対応)でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点顕微鏡画像である。EGFP-LZ(K)とTmr-LZ(K)とはロイシンジッパー間でのハイブリッドは形成できない。さらにCPPが付加されていないために細胞内に導入されないことが予想される。予想通り、EGFP-LZ(K)は細胞内に導入されないし、Tmr-LZ(K)も細胞内に導入されなかった。
【実施例】
【0076】
(4-7)図11はEGFR-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(K)との混合溶液(前記Group 7に対応)でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点顕微鏡画像である。EGFP-LZ(K)と11R-Tmr-LZ(K)とはロイシンジッパー間でのハイブリッドは形成できない。予想通り、11R-Tmr-LZ(K)は細胞内に運搬されるが、EGFP-LZ(K)は細胞内に導入されなかった。これらの結果は、EGFP-LZ(K)はLZ(E)と特異的なハイブリッドの結合を介してCPPと結合し、細胞内に運搬されることを明らかにしている。
【実施例】
【0077】
(4-8)図12はEGFR-LZ(K)とTmr-LZ(K)-11Rとの混合溶液でインキュベートしたU251MG細胞の共焦点顕微鏡画像である。図11と比較してTmr-LZ(K)に11Rの修飾された場所が異なるが結果は同じであった。
【実施例】
【0078】
以上の結果より、EGFP-LZ(K)はLZ(E)との特異的なハイブリッドを形成したときにだけ、CPPの細胞内導入能を獲得し、細胞内に運搬されることが分かった。またタンパク質の運搬体となるLZ(E)とCPPのコンジュゲートはそのコンジュゲート中のCPPの位置に依存せずに細胞内に運搬できることが明らかとなった。これらのことは、EGFP-LZ(K)を作成しておけば後からCPPを、金属結合等を用いずに毒性の低いペプチド-ペプチド相互作用によって細胞内運搬能を与えることができ、将来的に安全で効率的なタンパク質のドラッグデリバリーシステムとして活用できることを示している。
【配列表フリ-テキスト】
【0079】
配列番号1:Leucine zipper LZ(K)
配列番号2:Leucine zipper LZ(E)
配列番号3:Polyarginine
配列番号4:Peptide conjugate
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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