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明細書 :アワビvasa遺伝子マーカーおよび不稔化アワビの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-186454 (P2015-186454A)
公開日 平成27年10月29日(2015.10.29)
発明の名称または考案の名称 アワビvasa遺伝子マーカーおよび不稔化アワビの製造方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
A01K  67/033       (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 15/00 G
A01K 67/033 501
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 32
出願番号 特願2014-064798 (P2014-064798)
出願日 平成26年3月26日(2014.3.26)
発明者または考案者 【氏名】竹 内 裕
【氏名】大 岡 嗣 欧
【氏名】王 俊 杰
【氏名】井 野 靖 子
【氏名】伊 東 裕 子
出願人 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100117787、【弁理士】、【氏名又は名称】勝沼 宏仁
【識別番号】100091487、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 行孝
【識別番号】100107342、【弁理士】、【氏名又は名称】横田 修孝
【識別番号】100176083、【弁理士】、【氏名又は名称】松山 祐子
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B063
Fターム 4B024AA10
4B024BA80
4B024CA04
4B024DA02
4B024GA11
4B024HA08
4B024HA20
4B063QA01
4B063QQ01
4B063QQ53
4B063QR13
4B063QR35
4B063QS34
4B063QX01
要約 【課題】アワビの効率的生産のための、アワビの成長促進方法であって、アワビvasa遺伝子マーカー、およびアワビvasaタンパク質の発現を抑制するRNA分子の提供。
【解決手段】新規アワビvasa遺伝子マーカー、アワビvasa遺伝子およびタンパク質の発現を抑制するRNA分子、アワビvasa遺伝子の発現抑制方法並びにアワビの生殖細胞系列の発達抑制方法。また、不稔化アワビの製造方法、加えて、生殖細胞系列検出マーカーとしてのアワビvasa遺伝子の検出手段。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下記から選択されるポリヌクレオチドからなる、アワビvasa遺伝子マーカー:
(a)配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号3または4に記載の塩基配列において、1または複数個の塩基の挿入、置換、欠失、および/またはその一方または両末端への1または複数個の塩基の付加がなされた塩基配列からなるポリヌクレオチド、および
(c)配列番号3または4に記載の塩基配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
アワビvasaタンパク質の発現をRNA干渉により抑制しうるRNA分子であって、該RNA分子を構成する塩基配列が、請求項1に記載のポリヌクレオチドおよびその一部の塩基配列並びにこれらの塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択される塩基配列の相補配列からなるRNAに特異的にハイブリダイズする配列を含んでなるものである、RNA分子。
【請求項3】
RNA分子を構成する塩基配列が、配列番号3または4に記載の塩基配列およびその一部の塩基配列並びにこれらの塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択される塩基配列を含んでなるものである、請求項2に記載のRNA分子。
【請求項4】
RNA分子が二本鎖RNAである、請求項2または3に記載のRNA分子。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載のRNA分子を含んでなる、アワビvasa遺伝子発現抑制剤。
【請求項6】
請求項2~4のいずれか一項に記載のRNA分子を、アワビの未受精卵、受精卵または生殖巣に導入する工程を含んでなる、未受精卵、受精卵または生殖巣の細胞におけるアワビvasa遺伝子の発現抑制方法。
【請求項7】
請求項2~4のいずれか一項に記載のRNA分子を、アワビの生殖巣に導入する工程を含んでなる、アワビの生殖細胞系列の発達抑制方法。
【請求項8】
(a)vasa遺伝子の発現抑制処理を施した未受精卵と、別の個体から採取した精子とを人工受精することにより、受精卵を得る工程、
(b)卵巣にvasa遺伝子の発現抑制処理を施し、該卵巣から摘出または産卵誘発により得た未受精卵と、別の個体から採取した精子とを人工受精することにより、受精卵を得る工程、および
(c)受精卵にvasa遺伝子の発現抑制処理を施して、vasa遺伝子発現抑制処理受精卵を得る工程のいずれかの工程を含んでなる、不稔化アワビの製造方法。
【請求項9】
vasa遺伝子の発現抑制処理を請求項2~4のいずれか一項に記載のRNA分子により行う、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる、vasa遺伝子検出用プライマーまたはプローブ。
発明の詳細な説明
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、アワビvasa遺伝子マーカーに関し、また、アワビvasaタンパク質の発現を抑制するRNA分子およびこれを用いたアワビvasaタンパク質の発現抑制方法並びにアワビの生殖細胞系列の発達抑制方法に関する。さらに、本発明は、不稔化アワビの製造方法、加えて、生殖細胞系列検出マーカーに関する。
【発明の具体的説明】
【0002】
背景技術
アワビはミミガイ科ハリオティス属(Haliotis)の大型巻貝の総称であり、世界中に約70種類存在する。日本国内では、クロアワビ(Haliotis discus discus)、エゾアワビ(Haliotis discus hannai)、マダカアワビ(Haliotis madaka)およびメガイアワビ(Haliotis gigantea)の4種が経済的価値の高い漁業上重要なアワビとして種苗生産および養殖の対象となっている。また、オーストラリアでは、ミミガイ(Haliotis asinina)が新たな養殖対象として期待されている。しかし、アワビ、特にエゾアワビは、成長が遅く出荷までにかかる期間が長い。そのため、アワビを効率的に生産するためにアワビの成長を促進する方法が数多く検討されている。
【0003】
成長を促進する方法としては、例えば、上記4種のアワビの中でも成長が速いメガイアワビと、エゾアワビとを掛け合わせたハイブリッド(雑種)の作出が検討されている(非特許文献1参照)。しかしながら、ハイブリッドは繁殖時期が変化することが多く、従ってハイブリッド種苗を人工種苗として放流すると生態系全体での増殖効率の低下などを引き起こす可能性もある。
【0004】
別の方法としては、エゾアワビでは、性成熟による成長停滞や消耗を防いで成長を促進するために、三倍体のエゾアワビの作出が行われている。しかしながら、三倍体のエゾアワビは、その後の生存率が通常(二倍体)のアワビに比べて低い(非特許文献2参照)。また、三倍体のアワビは、通常のアワビ同様に配偶子形成が起こり、特に雄では受精可能な正常な精子が形成され、生殖期には通常のアワビ同様に成長率の低下が見られることが確認されている。
【0005】
近年では、RNA干渉技法による生殖細胞系列の発達抑制方法が知られている。特許文献1では、アコヤガイのpov遺伝子を標的とするRNA干渉を利用した生殖細胞系列の発達が抑制されたアコヤガイの製造方法が報告されている。また、非特許文献3では、マガキの生殖細胞を囲む体細胞で発現するTGFβを標的とする二本鎖RNA(dsRNA)を用いた生殖腺内の生殖細胞の発達抑制方法が報告されている。しかしながら、アワビ類が属する原始腹足類では、生殖細胞の起源や生殖腺形成機構は未だ明らかになっておらず、生殖細胞の発達抑制を目的としたRNA干渉を行うための標的とすべき遺伝子は確認されていない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2009-219497号公報
【0007】

【非特許文献1】原素之,動物遺伝育種研究, 2008, 36, 105-115
【非特許文献2】林崎孝志,月刊養殖, 1989, 84-87
【非特許文献3】Arnaud Huvet et. al., Mar Biotechnol (2012) 14:402-410
【発明の概要】
【0008】
このように、アワビを効率的に生産できるアワビの成長促進方法はこれまで報告されていなかった。
【0009】
本発明者らは今般、エゾアワビのcDNAから、vasaタンパク質をコードする遺伝子マーカーを同定し、生殖細胞系列を検出できるマーカーを開発した。また、アワビvasa遺伝子のRNAと、その相補的な配列のRNAとからなる二本鎖RNAをエゾアワビの卵巣に接種したところ、生殖巣およびその後得られた未受精卵において高効率でvasa遺伝子の発現を抑制できることを見出した。さらに、この二本鎖RNAはエゾアワビだけでなく、クロアワビおよびメガイアワビといった他のアワビ類においても高効率でvasa遺伝子の発現を抑制できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明は、新規アワビvasa遺伝子マーカー、アワビvasa遺伝子およびタンパク質の発現を抑制するRNA分子、アワビvasa遺伝子の発現抑制方法並びにアワビの生殖細胞系列の発達抑制方法を提供することをその目的とする。本発明はまた、不稔化アワビの製造方法、加えて、生殖細胞系列検出マーカーとしてのアワビvasa遺伝子の検出手段を提供することもその目的とする。
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)下記から選択されるポリヌクレオチドからなる、アワビvasa遺伝子マーカー:
(a)配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号3または4に記載の塩基配列において、1または複数個の塩基の挿入、置換、欠失、および/またはその一方または両末端への1または複数個の塩基の付加がなされた塩基配列からなるポリヌクレオチド、および
(c)配列番号3または4に記載の塩基配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(2)アワビvasaタンパク質の発現をRNA干渉により抑制しうるRNA分子であって、該RNA分子を構成する塩基配列が、上記(1)に記載のポリヌクレオチドおよびその一部の塩基配列並びにこれらの塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択される塩基配列の相補配列からなるRNAに特異的にハイブリダイズする配列を含んでなるものである、RNA分子。
(3)RNA分子を構成する塩基配列が、配列番号3または4に記載の塩基配列およびその一部の塩基配列並びにこれらの塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択される塩基配列を含んでなるものである、上記(2)に記載のRNA分子。
(4)RNA分子が二本鎖RNAである、上記(2)または(3)に記載のRNA分子。
(5)上記(2)~(4)のいずれかに記載のRNA分子を含んでなる、アワビvasa遺伝子発現抑制剤。
(6)上記(2)~(4)のいずれかに記載のRNA分子を、アワビの未受精卵、受精卵または生殖巣に導入する工程を含んでなる、未受精卵、受精卵または生殖巣の細胞におけるアワビvasa遺伝子の発現抑制方法。
(7)上記(2)~(4)のいずれかに記載のRNA分子を、アワビの生殖巣に導入する工程を含んでなる、アワビの生殖細胞系列の発達抑制方法。
(8)下記:
(a)vasa遺伝子の発現抑制処理を施した未受精卵と、別の個体から採取した精子とを人工受精することにより、受精卵を得る工程、
(b)卵巣にvasa遺伝子の発現抑制処理を施し、該卵巣から摘出または産卵誘発により得た未受精卵と、別の個体から採取した精子とを人工受精することにより、受精卵を得る工程、および
(c)受精卵にvasa遺伝子の発現抑制処理を施して、vasa遺伝子発現抑制処理受精卵を得る工程のいずれかの工程を含んでなる、不稔化アワビの製造方法。
(9)vasa遺伝子の発現抑制処理を上記(2)~(4)のいずれかに記載のRNA分子により行う、上記(8)に記載の製造方法。
(10)上記(1)に記載のポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる、vasa遺伝子検出用プライマーまたはプローブ。
【0012】
本発明のRNA分子を用いることにより、アワビvasa遺伝子およびタンパク質の発現を抑制でき、それによりアワビの生殖細胞系列の発達を抑制できる。また、本発明のRNA分子を用いて未受精卵、受精卵または卵巣においてアワビvasa遺伝子の発現を抑制することで、不稔化アワビを製造することができる。不稔化アワビでは性成熟による成長停滞や消耗を防ぐことができるため、通常のアワビよりも成長を促進することができる。さらに、本発明のアワビvasa遺伝子マーカーを生殖細胞系列検出マーカーとして用いれば、遺伝子レベルで生殖細胞系列の存在を確認でき、従来肉眼でしか確認できなかった生殖細胞系列を、生殖巣が未成熟の段階、少なくとも5mm程度の稚貝段階から検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、エゾアワビの成体各組織でのRT-PCRによるvasa遺伝子の発現パターンを示す写真である。Hdhvasa:awabi-vasa-RNAi1プライマーセットの結果。Hdhactin:awabi-actinプライマーセットの結果。Gi:鰓、He:心臓、Ma:外套膜、Mu:貝殻筋、Ov:生殖巣(卵巣)、Te:生殖巣(精巣)、uFe:未受精卵、RT(-):逆転写酵素なし、DW:蒸留水のみ。
【図2】図2は、エゾアワビの成体組織(A:成熟卵巣、B成熟精巣)でのアワビvasa遺伝子(mRNA)の発現部位を示す組織切片in situハイブリダイゼーションの結果を表す写真である。下段の写真は、上段の写真の四角領域の拡大図である。図中、赤矢じりは、隣接切片における同一細胞を示す。HE:ヘマトキシリンエオシン染色。A:og:卵原細胞、oc1~5:卵母細胞ステージ1~5、tr:膠原繊維束、jc:ゼリー層。B:sg:精原細胞、sc:精母細胞、sz:精子、tr:膠原繊維束、下段の写真の挿入図:精原細胞と精母細胞の拡大図。
【図3】図3は、各アワビのvasa遺伝子の比較表(縮重プライマーセット1の増幅断片)である。
【図4】図4は、各アワビのvasa遺伝子の比較表(縮重プライマーセット2の増幅断片)である。
【図5】図5は、各アワビのvasa遺伝子に対応するアミノ酸配列の比較表(縮重プライマーセット1の増幅断片)である。
【図6】図6は、各アワビのvasa遺伝子に対応するアミノ酸配列の比較表(縮重プライマーセット2の増幅断片)である。
【図7】図7は、エゾアワビの未受精卵からベリジャー幼生までの初期発生段階でのリアルタイムPCRによるアワビvasa遺伝子発現量比を示す。未受精卵での発現量を1として各発生段階での発現レベルを算出した。
【図8】図8は、エゾアワビ未受精卵、ベリジャー幼生(受精後3日目)、初期稚貝(受精後60日目)でのアワビvasa遺伝子の発現部位を示すin situハイブリダイゼーションの結果を表す写真である。図中、矢印はvasa遺伝子発現細胞を示し、赤矢じりは、隣接切片における同一細胞を示す。
【0014】
本発明によれば、アワビvasa遺伝子に特異的なポリヌクレオチドからなるマーカーが提供される。vasa遺伝子は、未受精卵、受精卵および生殖巣(卵巣および精巣)で特異的に発現し、アワビの生殖細胞(卵および精子)系列の発生(分化)、発達に関与する遺伝子である。従って、本発明のマーカーは、アワビの生殖細胞系列検出マーカーとして用いることができる。また、従来、肉眼での生殖巣の有無の確認以外方法がなかったアワビの不稔化状態を、本発明によれば遺伝子レベルで判断できるため、肉眼で不稔化が確認できないサイズのアワビであっても不稔化を判別することができる。すなわち、本発明のアワビvasa遺伝子マーカーは、アワビの不稔化を確認するためのマーカーとしても用いることができる。
【0015】
本発明において「アワビ」は、ミミガイ科ハリオティス属に属するものを意味し、例えば、クロアワビ(Haliotis discus discus)、エゾアワビ(Haliotis discus hannai)、マダカアワビ(Haliotis madaka)、メガイアワビ(Haliotis gigantea)、トコブシ(Haliotis diversicolor)、フクトコブシ(Haliotis diversicolor diversicolor Reeve)、ミミガイ(Haliotis asinina)アカアワビ(Haliotis rubra)、ウスヒラアワビ(Haliotis laevigata)、セイヨウトコブシ(Haliotis tuberculata)、ヘリトリアワビ(Haliotis iris)、サザナミトコブシ(Haliotis australis)、ミダノアワビ(Haliotis midae)、アカネアワビ(Haliotis rufescens)、マアナゴ(Haliotis ovina)、イボアナゴ(Sanhaliotis varia)、チリメンアナゴ(Haliotis crebrisculpta)が挙げられる。これらの中でも、アワビは、好ましくは、日本国内で漁業上重要とされているクロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビおよびメガイアワビの4種、オーストラリアで新たな養殖対象として期待されているミミガイであり、より好ましくは、日本国内の各所で種苗生産および養殖されているクロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビおよびメガイアワビである。エゾアワビはクロアワビの北方亜種であるといわれている。しかし、これらの4種は遺伝的には差があることが確認されており(非特許文献1参照)、かつ、生殖時期が異なること(エゾアワビは8~10月、クロアワビとメガイアワビは10~12月、マダカアワビは11月~1月)や、配偶子が成熟に至るまでの時間(有効積算温度での時間)が異なるため成熟サイズも異なることが知られている。
【0016】
本発明のアワビvasa遺伝子マーカーは、クロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メガイアワビの4種に共通の配列をターゲットとしているため、これら全部または一部の雑種に対しても検出マーカーとして用いることができる。
【0017】
本発明のアワビvasa遺伝子マーカーは、配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに加えて、アワビvasa遺伝子を特異的に検出可能な下記(b)および(c)のいずれかのポリヌクレオチドをも含むものである:
(b)配列番号3または4に記載の塩基配列において、1または複数個の塩基の挿入、置換、欠失、および/またはその一方または両末端への1または複数個の塩基の付加がなされた塩基配列からなるポリヌクレオチド;および
(c)配列番号3または4に記載の塩基配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0018】
前記(b)において、「1または複数個の塩基の挿入、置換、欠失、および/またはその一方または両末端への1または複数個の塩基の付加がなされた」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、または天然に生じ得る程度の1~複数個の数の塩基の置換等により改変がなされたことを意味する。塩基の改変の個数は、例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個である。
【0019】
前記(b)のポリヌクレオチドの改変は、図3または図4においてエゾアワビ、クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビのcDNA配列を比較した際の相違数が大きい部位で行われるものが好ましい。このような部位としては、4種のアワビにおいて1以上の種で、好ましくは2以上の種で塩基が相違する部位が挙げられ、このような部位としては、例えば、配列番号3では703番目、配列番号4では171、183または300番目の塩基が挙げられる。
【0020】
前記(c)のポリヌクレオチドは配列番号3または4に記載の塩基配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列からなるものである。この配列同一性は、好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは89%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上、さらに好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0021】
上記配列同一性は、公知の手法によって決定されるものであり、かかる手法としては、例えば、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873-5877(1993))等が挙げられる。また、このアルゴリズムに基づく、BLASTNやBLASTXを用いることもできる。
【0022】
前記(b)および(c)のポリヌクレオチドは、配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等のもの、すなわち、アワビvasa遺伝子マーカーとして機能しうるものである。すなわち、前記(b)および(c)のポリヌクレオチドはアワビvasa遺伝子(アンチセンス鎖)にストリンジェントな条件でハイブリダイズするものから選択することができる。ここで、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、ストリンジェントな条件下で標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズし、標的ヌクレオチド以外のヌクレオチドにはハイブリダイズしないことを意味する。「ストリンジェントな条件」は、ポリヌクレオチドと標的ヌクレオチドとの二本鎖の融解温度(℃)および溶液の塩濃度等に依存して決定できる。標的配列を選択した後にそれに応じたストリンジェントな条件を設定することは当業者に周知の技術である(例えば、Molecular Cloning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory(1989)等)。
【0023】
ハイブリダイゼーション法は、公知の方法に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0024】
本発明の別の態様によれば、アワビvasa遺伝子およびvasa遺伝子によりコードされるタンパク質の発現をRNA干渉により抑制しうるRNA分子が提供される。本発明のRNA分子を構成する塩基配列が、標的RNA、すなわち本発明のvasa遺伝子およびその一部の塩基配列並びにその塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択される塩基配列の相補配列からなるRNA(mRNA)に特異的にハイブリダイズすることにより、アワビのvasa遺伝子の発現を顕著に抑制することができる。本発明のRNA分子としては、例えば、二本鎖RNA(dsRNA)、siRNA、miRNA、stRNA、shRNA、センスRNA、アンチセンスRNAなどが挙げられ、好ましくは、取り扱いの容易性等の点から二本鎖RNAである。
【0025】
「RNA干渉」とはRNAiとも呼ばれ、RNA分子、特に二本鎖RNA(dsRNA)が引き金となり、そのアンチセンス鎖と相補的な配列を持つmRNAが切断される機構である。本発明においてRNA干渉は、転写後の遺伝子発現の抑制として知られる転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)でもよく、遺伝子からmRNAへの転写そのものを抑制する転写時サイレンシングでもよい。転写後遺伝子サイレンシングは、外から細胞内に導入されたdsRNAによって、配列特異的に標的mRNAが分解され、結果として標的遺伝子の発現が抑制されるという現象である。具体的には、二本鎖RNAが細胞内に導入されると、まず、Dicer、Drosha等のリボヌクレアーゼにより分解され、siRNAを生成する。そして、siRNAは、RISC複合体を形成することで一本鎖となる。このRISC複合体が標的RNAを認識して、一本鎖がmRNAに結合し、標的RNAの切断や分解を行う。転写時サイレンシングは、遺伝子のプロモーター領域でDNAのメチル化の誘発を介した遺伝子発現抑制システムである。
【0026】
「二本鎖RNA分子」とは、二本の一本鎖RNA分子が、全体にわたって、または部分的にハイブリダイズして得られるRNA分子を意味する。それぞれの一本鎖RNAを構成するヌクレオチドの数は互いに異なっていてもよい。また、二本鎖RNAを構成する一方または両方のヌクレオチド鎖は、一本鎖の部分(オーバーハング)を含んでいてもよい。
【0027】
「相補的」とは、2つのヌクレオチドがハイブリダイゼーション条件下において対合しうるものであることを意味し、例えば、アデニン(A)とチミン(T)またはウラシル(U)との関係、およびシトシン(C)とグアニン(G)との関係をいう。
【0028】
「特異的にハイブリダイズする」とは、本発明のRNA分子が、vasa遺伝子およびその転写産物にハイブリダイズするが、vasa遺伝子およびその転写産物以外の核酸分子にはハイブリダイズしないことを意味する。本発明のRNA分子は、前記標的配列に対応する配列を含むものとされるが、前記標的配列に完全に相補的な配列を有する必要はなく、その標的配列に特異的にハイブリダイズしうる限り、相補的でないヌクレオチドを含んでいてもよい。しかしながら、本発明のRNA分子は、好ましくは前記標的配列に相補的な配列を含んでなるものとされる。
【0029】
本発明のRNA分子の配列は、例えば、本発明のアワビvasa遺伝子(アンチセンス鎖)に対して完全に同一でもよいし、部分的に同一であってもよい。好ましくは、配列番号3または4に記載の塩基配列またはその部分配列である。前記アンチセンス鎖の配列は、例えば、標的RNAの相補配列に対する同一性(標的RNAの配列に対する相補性)が、例えば、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0030】
本発明によるRNA分子が二本鎖RNAである場合、該二本鎖RNA分子を構成するアンチセンス鎖は、センス鎖のヌクレオチドと対合した二本鎖部分の3’末端側に突出部分(オーバーハング)を有していてもよい。この突出部分のヌクレオチド配列は、vasa遺伝子に関連する配列または関連しない配列のどちらであってもよく、その長さも特に制限されないが、好ましくは2ヌクレオチド長の配列、より好ましくは2つのウラシル残基(UU)とされる。センス鎖もまた、アンチセンス鎖のヌクレオチドと対合した二本鎖部分の3’末端側に同様の突出部分を有するものとしてもよい。しかしながら、本発明の好ましい実施態様によれば、前記センス鎖は、その3’末端において突出部分を含まないものとされる。
【0031】
本発明による二本鎖RNA分子における二本鎖部分は、上記標的配列に対応する配列を含んでなるものであればよい。従って、この二本鎖部分は、さらに別の配列を含むことができ、例えば、vasa遺伝子mRNAにおいて上記標的配列の周辺に位置する配列に対応するヌクレオチド残基を含むことができる。しかしながら、本発明の好ましい実施態様によれば、前記二本鎖部分は、上記標的配列に対応する配列からなるもの、すなわち、上記標的配列に対応する配列のみを含むものとされる。
【0032】
前記二本鎖RNA分子の長さは、特に制限されないが、例えば、500~3000塩基であり、好ましくは500~700塩基であり、より好ましくは500~700塩基である。
【0033】
本発明の別の態様によれば、本発明のRNA分子、特に二本鎖RNAを含んでなるアワビvasa遺伝子発現抑制剤が提供される。本発明のvasa遺伝子発現抑制剤の対象となるアワビは、好ましくは、クロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ、ミミガイまたはこれらの一部もしくは全部の雑種から選択されるいずれか一種であり、より好ましくは、他のアワビに比べて成長が遅い点で、クロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ、またはこれらの一部もしくは全部の雑種から選択されるいずれか一種、さらに好ましくは、クロアワビ、エゾアワビ、またはこれらの雑種から選択されるいずれか一種、特に好ましくは最も成長が遅い点で、エゾアワビである。
【0034】
本発明のvasa遺伝子発現抑制剤は溶媒に懸濁した形態で使用することができる。使用できる溶媒としては、vasa遺伝子発現抑制剤の対象への導入方法により適宜調整できるが、例えば、水、海水、塩水、緩衝液が挙げられる。塩水のNaCl濃度は、特に制限されないが、例えば、約30~35mmol/Lであり、好ましくは約30mmol/Lである。前記緩衝液は、例えば、KCl、CaCl、CaCl・2HO、Hepes等を含んでいてもよい。前記緩衝液の種類は、特に制限されない。
【0035】
本発明の別の態様によれば、本発明のRNA分子、特に二本鎖RNAを、アワビの未受精卵、受精卵または生殖巣に導入する工程を含んでなる、未受精卵、受精卵または生殖巣の細胞におけるアワビvasa遺伝子の発現抑制方法が提供される。本発明のvasa遺伝子の発現抑制方法の対象となるアワビは、好ましくはクロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ、ミミガイまたはこれらの一部もしくは全部の雑種から選択されるいずれか一種であり、より好ましくは、成長が他のアワビに比べて遅い点で、クロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ、またはこれらの一部もしくは全部の雑種から選択されるいずれか一種であり、さらに好ましくは、クロアワビ、エゾアワビ、またはこれらの雑種から選択されるいずれか一種、特に好ましくは最も成長が遅い点で、エゾアワビである。
【0036】
本発明において、未受精卵は、卵巣からステージ5の卵母細胞を物理的に摘出したものであってもよく、あるいは自然排卵または通常の人工種苗生産方法で用いられる誘発採卵により得られたものでもよい。ステージ5の卵母細胞は、その大きさを顕微鏡観察することにより判別することができる。本発明に用いる卵巣から摘出された未受精卵は、好ましくは、卵径が200μm~250μmであり、かつ、卵の形がいびつでない球形のものである。受精卵は、例えば、卵分割した受精卵(例えば、胚)であってもよく、より好ましくは、8細胞期までの受精卵、特に好ましくは未分裂の受精卵(例えば受精後1時間)である。生殖巣は、卵巣または精巣をいう。
【0037】
本発明においてRNA分子、特に二本鎖RNAを、未受精卵、受精卵または生殖巣に導入する際には、RNA分子それ自体を導入してもよいし、これらを発現する発現を導入してもよい。前記発現ベクターとしては、前記RNA分子を発現できればよく、その種類は特に制限されず、例えば、ウイルス系ベクターや非ウイルス系ベクターが挙げられる。
【0038】
本発明において、RNA分子をアワビの未受精卵、受精卵または生殖巣に導入する工程は、未受精卵または受精卵をRNA分子と接触させることにより、あるいは、生殖巣にRNA分子を注入または接触することにより行うことができる。RNA分子をアワビの未受精卵、受精卵または卵巣に導入する工程を実施することによりvasa遺伝子の発現が抑制された未受精卵または受精卵を得ることができることから、上記工程を以下、「vasa遺伝子の発現抑制処理」ということがある。
【0039】
本発明において、未受精卵または受精卵へのRNA分子、特に二本鎖RNAの接触方法としては、未受精卵または受精卵の取り込み能によりRNA分子が取り込まれる限り特に制限されないが、例えば、RNA分子の溶液への未受精卵または受精卵の浸漬する形態が挙げられる。浸漬時間は適宜調整することができ、好ましくは10分~12時間、より好ましくは30分~10時間、さらに好ましくは1~6時間である。
【0040】
本発明において、生殖巣へのRNA分子、特に二本鎖RNAの注入方法は、数カ所に分けて注射接種する形態が好ましい。また、生殖巣へのRNA分子の接触方法は、生殖巣に存在する生殖細胞系列の取り込み能によりRNA分子が取り込まれる限り特に制限されないが、二本鎖RNA分子の溶液へアワビをそのまま浸漬する形態が好ましい。浸漬時間は適宜調整することができる。
【0041】
導入するRNA分子、特に二本鎖RNAの濃度は、vasa遺伝子およびvasa遺伝子によりコードされるタンパク質の発現抑制効果が得られれば特に制限されないが、導入する個体(サイズにより異なるが、例えば軟体重量8~150g)に対し、好ましくは、少なくとも1μg/100μl~1000μg/100μl、より好ましくは50μ/100μl~500μg/100μl、さらに好ましくは70μ/100μl~700μg/100μl、特に好ましくは100μ/100μlである。注入量は、導入する個体サイズにより適宜調整できるが、100~400μが好ましい。
【0042】
vasa遺伝子の発現抑制効果は、本発明の生殖細胞系列検出マーカーを用いて例えば後述する実施例2および3に記載のプライマーを用いてリアルタイムPCRにより確認した際に、通常の個体と比較してvasa遺伝子の発現量が少ない場合に、vasa遺伝子の発現が抑制していると判断できる。
【0043】
本発明のアワビvasa遺伝子の発現抑制方法によれば、アワビの生殖巣においてvasa遺伝子の発現を抑制することができ、生殖巣に存在する生殖細胞系列の発達を抑制することができる。すなわち、本発明の別の態様によれば、本発明のRNA分子、特に二本鎖RNAを、アワビの生殖巣に導入する工程を含んでなる、アワビの生殖細胞系列の発達抑制方法が提供される。ここで、生殖細胞系列の発達抑制とは、導入した個体の生殖巣内で、結果的に、成熟生殖細胞の形成が抑制されることを意味する。成熟生殖細胞の形成の抑制は、例えば、生殖細胞系列の発達において、卵原細胞や精原細胞の分裂、一次生殖母細胞への成長および分化、前記一次生殖母細胞の減数第一分裂、二次生殖母細胞からの減数第二分裂等のいずれの工程が抑制されることによって実現されてもよい。生殖細胞系列の発達が抑制されることで、性成熟による成長停滞や消耗を防いで成長を促進することができる。「生殖細胞系列」とは、生殖細胞(卵または精子)、始原生殖細胞、雌性配偶子、雄性配偶子を意味する。
【0044】
また、本発明の別の態様によれば、本発明のRNA分子、特に二本鎖RNAを、アワビの生殖巣に導入する工程を含んでなる、生殖細胞系列の発達が抑制されたアワビの製造方法が提供される。本発明のRNA分子をアワビの生殖巣に導入した後、該アワビは通常のアワビの種苗生産方法と同様の方法で養殖等することができる。本発明の製造方法で製造された生殖細胞系列の発達が抑制されたアワビでは、性成熟による成長停滞や消耗を防ぐことができ、従って通常のアワビよりも成長を促進することができる。また、本発明の製造方法で製造された生殖細胞系列の発達が抑制されたアワビでは、生殖細胞が形成されないまたは量が少ないため、あるアワビ種が生息する海域に異なる種のアワビ種苗を放流する場合の交雑による雑種繁殖を防ぐことが可能となる。
【0045】
生殖細胞系列の発達抑制のために導入するRNA分子は、導入した生殖巣の中で長期的に生産される点でRNA分子を発現する発現ベクターの形態が好ましい。
【0046】
本発明のアワビvasa遺伝子の発現抑制方法によれば、アワビの未受精卵、受精卵または生殖巣においてvasa遺伝子の発現を抑制することができ、vasa遺伝子の発現抑制処理が施された未受精卵および受精卵を用いて種苗生産を行うと不稔化形質を有する不稔化アワビを作出することができる。すなわち、本発明の別の態様によれば、不稔化アワビの製造方法が提供される。
【0047】
本発明の不稔化アワビの製造方法は、通常のアワビの種苗生産方法においてアワビの未受精卵、受精卵または親貝の卵巣においてvasa遺伝子の発現を抑制することを特徴とするものである。すなわち、本発明の不稔化アワビの製造方法は、以下のいずれかの工程を含んでなるものである:
(a)vasa遺伝子の発現抑制処理を施した未受精卵と、別の個体から採取した精子とを人工受精することにより、受精卵を得る工程、
(b)卵巣にvasa遺伝子の発現抑制処理を施し、該卵巣から摘出または産卵誘発により得た未受精卵と、別の個体から採取した精子とを人工受精することにより、受精卵を得る工程、および
(c)受精卵にvasa遺伝子の発現抑制処理を施して、vasa遺伝子発現抑制処理受精卵を得る工程。
【0048】
工程(c)の受精卵は、工程(a)または(b)で得られた受精卵であってもよいし、本発明の処理が施されていない受精卵であってもよい。
【0049】
本発明において、不稔化アワビとは、例えば、受精卵、幼生、稚貝のいずれであってもよい。不稔化とは、生殖細胞(卵または精子)が形成されないあるいは、通常の個体よりも著しく生殖巣の成長が低いことをいう。不稔化個体かどうかの確認は、成体となったアワビの生殖巣を形態観察により確認するか、あるいは本発明の生殖細胞系列検出マーカーを用いて例えば後述する実施例3に記載のin situハイブリダイゼーション法により確認することができる。
【0050】
本発明の不稔化アワビの製造方法は、アワビの未受精卵、受精卵または卵巣においてvasa遺伝子の発現を抑制すること以外は通常のアワビの種苗生産方法と同様の方法で実施することができる。すなわち、前記工程(a)、(b)または(c)で得られた受精卵を自然海水で飼育することで稚貝を得ることができる。稚貝から成体を得るための技術は確立されており、例えば、稚貝を種苗放流することや、閉鎖系施設で養殖することにより行われる。種苗放流した資源は、出荷サイズに到達すれば、成体を収穫することができる。出荷サイズは、アワビの種類や出荷地域(都道府県)により異なるが、通常エゾアワビでは7~9cm以上、クロアワビでは12cm以上、メガイアワビでは10~12cm以上、マダカアワビでは10~12cm以上とされている。
【0051】
本発明の製造方法により製造された不稔化アワビでは、発生初期での生殖細胞への分化が抑制されるため、生殖細胞を全く持たないまたは生殖巣の成長が著しく低いアワビとなり、従って性成熟による成長停滞や消耗を防ぐことができる。従って、本発明による不稔化アワビは通常のアワビよりも成長を促進することができる。また、本発明の不稔化アワビの製造方法では、通常の生育期間(エゾアワビでは3~5年齢、クロアワビでは3~4年齢、メガイアワビでは3~4年齢、マダカアワビでは3~4年齢)でよりサイズの大きい個体を収穫することができるとともに、通常の生育期間よりも短い期間で所望のサイズの成体を収穫することができる。
【0052】
本発明の製造方法により製造された不稔化アワビは、vasa遺伝子の発現抑制処理が施されたアワビの未受精卵または受精卵あるいはvasa遺伝子の発現抑制処理が施された生殖巣から得られた未受精卵を用いて繁殖させてなるものであり、アワビの染色体において遺伝子組換え等の人為的な遺伝子操作は行われていない。すなわち、本発明の製造方法により製造された不稔化アワビは、遺伝子組換え技術により作出された変異体ではないことから、消費者に安心感を与える水産資源である点で有利である。
【0053】
本発明の別の態様によれば、アワビの生殖細胞系列検出マーカーとしてのプライマーおよびプローブが提供される。
【0054】
本発明によるプライマーは、本発明によるポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズし、本発明のvasa遺伝子の全部または一部を、核酸増幅法により増幅することができる。従って、本発明によるプライマーは、生殖細胞系列検出マーカーとして用いることができる。また、本発明によるプライマーは、肉眼で不稔化が確認できないサイズのアワビの不稔化を判別するためマーカーとして用いることができる。
【0055】
肉眼で不稔化が確認できないサイズのアワビとは、アワビの種類、個体差により異なるが、一般的には、サイズが3cm以下であって、1年齢以下のアワビが挙げられる。ここで、アワビのサイズは、殻長(殻の長辺)を測定することにより求められる。
【0056】
本発明によるプライマーは、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)等からなるものを意味するが、好ましくは、DNAからなるものである。
【0057】
本発明によるプライマーは、本発明のvasa遺伝子の全部または一部を核酸増幅法により増幅することができればよい。例えば、本発明によるポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の連続する少なくとも10個、好ましくは、少なくとも15個、より好ましくは、少なくとも20個、さらに好ましくは、少なくとも21個の塩基配列を含むポリヌクレオチドからなるものが挙げられる。本発明によるプライマーはまた、本発明によるポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の連続する10~30個、12~30個、15~30個、20~30個、または21~30個のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドからなるものが挙げられる。
【0058】
本発明によるプライマーの長さは、少なくとも10塩基であることができ、好ましくは、少なくとも15塩基、より好ましくは、少なくとも20塩基、さらに好ましくは、少なくとも21塩基である。本発明によるプライマーはまた、12~30塩基、20~30塩基、または21~30塩基である。
【0059】
本発明によるプライマーは、二種以上の本発明によるプライマーを組み合わせてなるプライマーセットとしても使用することができる。
【0060】
本発明によるプライマーセットとしては、好ましくは、配列番号22のポリヌクレオチドと配列番号23のポリヌクレオチド、配列番号24のポリヌクレオチドと配列番号25のポリヌクレオチド、配列番号26のポリヌクレオチドと配列番号27のポリヌクレオチドに記載されるものである。
【0061】
本発明によるプライマーおよびプライマーセットは、PCR法(Saiki,R.K.,Bugawan,T.L.,et al.(1986)Nature,324,163-166) 、NASBA法(Comptom,J.(1991)Nature,650,91-92)、TMA法(Kacian,D.L.,and Fultz,T.J.(1995)US.Patent 5,399,491)、SDA法(Walker,G.T.,Little,M.C.,et al(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,392-396)、PCR-SSCP法(Orita,M.,Iwahara,H.,et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,2776-2770 )等の公知の核酸増幅法において、常法に従ってプライマーおよびプライマーセットとして利用することができる。
【0062】
本発明によるプライマーは、本明細書に開示した塩基配列に基づき、化学合成できる。プライマーの調製は周知であり、常法に従って実施できる。
【0063】
本発明によるプローブは、本発明によるポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズし、vasa遺伝子の発現を検出することができる。従って、本発明によるプローブは、生殖細胞系列検出マーカーとして用いることができる。また、本発明によるプローブは、肉眼で不稔化が確認できないサイズのアワビの不稔化を判別するためマーカーとして用いることができる。
【0064】
本発明によるプローブは、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)等からなるものを意味するが、好ましくは、DNAからなるものである。
【0065】
本発明によるプローブとしては、本発明によるポリヌクレオチドの塩基配列にハイブリダイズすることができるものが挙げられる。
【0066】
本発明によるプローブの長さは、少なくとも10塩基である。本発明によるプローブの長さは、そのプローブの用途により適宜調整することができ、組織in situハイブリダイゼーション法に用いる場合は、好ましくは100~500塩基である。本発明による組織in situハイブリダイゼーション法に用いるプローブとしては、好ましくは、配列番号21のポリヌクレオチドに記載されるものである。
【0067】
本発明によるプローブは、ノーザンブロット法、サザンブロット法、in situハイブリダイゼーション等の公知の方法において、常法に従ってプローブとして使用することができる。
【0068】
本発明によるプローブは、本明細書に開示した塩基配列に基づき、化学合成できる。プローブの調製は周知であり、常法に従って実施できる。
【0069】
また、本発明のもう一つの態様によれば、本発明の生殖細胞系列検出マーカーを用いた、アワビの不稔化判別方法が提供される。
【実施例】
【0070】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0071】
実施例1:アワビvasa遺伝子の同定
(1)各種アワビのcDNAの合成
エゾアワビ(岩手県より入手)の卵巣、クロアワビ(千葉県より入手)の未受精卵、マダカアワビ(千葉県より入手)の未受精卵、およびメガイアワビ(千葉県より入手)の卵巣から、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いて全RNAを抽出した。得られたそれぞれの全RNA5μgから、逆転写酵素としてSuper ScriptIII(Invitrogen社製)を用いてcDNAを合成し、各種アワビのcDNAとした。
【0072】
(2)アワビvasaの塩基配列の決定
ミミガイ(H. asinina)、アズマニシキガイ(Chlamys farreri)およびマガキ(Crassostrea gigas)の軟体動物種における既知のvasa遺伝子の塩基配列を比較し、相同性が高くvasaタンパク質をコードする遺伝子が保存されていると期待される領域を選択し、下記表1に記載のとおり2セットの縮重プライマーを設計した。
【0073】
【表1】
JP2015186454A_000002t.gif

【0074】
設計した2セットの縮重プライマーを用いて上記(1)で得られたエゾアワビcDNAを鋳型としてPCR反応を行い、エゾアワビのvasa遺伝子に由来すると予想されるDNA断片を増幅し、2種類の断片(プライマーセット1の断片:vasaRNAi1(748bp)およびプライマーセット2の断片:vasaRNAi2(572bp))を得た。クロアワビ、マダカアワビおよびメガイアワビのcDNAも同様にPCR反応を行いPCR増幅産物を得た。得られたそれぞれのPCR増幅産物をFastGeneゲル/PCR抽出キット(ニッポンジーン社製)で精製し、pCR4-TOPO TAベクター(Invitrogen社製)にクローニングした。目的のインサート遺伝子を持つプラスミドDNAをFastGeneプラスミドミニキット(ニッポンジーン社製)により精製した。オペロン社にて、これらプラスミドDNAについてシークエンス解析し、各種アワビのvasa遺伝子の塩基配列を決定した。決定された塩基配列は図3及び4(配列番号3、7、11、15及び配列番号4、8、12、16)に記載される通りである。また、決定された塩基配列(cDNA配列)から推定されるvasa遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列は図5及び図6(配列番号1、5、9、13及び配列番号2、6、10、14)に記載される通りである。
【0075】
(3)エゾアワビでのvasa遺伝子の発現部位の確認
得られたエゾアワビvasa遺伝子(vasaRNAi1(配列番号3)の塩基配列に基づいて、エゾアワビ成体各組織[4年齢(推定)](生殖巣(卵巣または精巣)、鰓、心臓、外套膜、貝殻筋)および未受精卵での発現を下記表2のプライマーおよび条件でExTaq (TAKARA社製)を用いてRT-PCRにより解析した。結果を図1に示す。
【0076】
【表2】
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【0077】
さらに、エゾアワビの成体[4年齢]から取り出した成熟卵巣および成熟精巣でのvasa遺伝子の発現パターンを組織切片in situハイブリダイゼーション(SISH)法により確認した。具体的には、試料を、ブアン固定液中にて4℃で一晩固定後、70%エタノール/DEPC-DWでの洗浄を2回繰り返した。その後、使用時まで4℃で保存した。エタノールシリーズ・キシレンを通した後、パラフィンブロック内に包埋した。厚さ5μmで連続隣接切片を作成し、へマトキシリン・エオシン染色と組織切片in situハイブリダイゼーションを行った。
【0078】
組織切片はキシレン・エタノールシリーズを用いて脱パラフィンした後、PBSTにて加水処理し、4%パラホルムアルデヒドによる後固定、1%過酸化水素による内在性アルカリフォスファターゼ(AP)の失活、プロテアーゼK(Wako社製)によるタンパク質分解、そしてアセチル化を行った。ハイブリダイゼーション緩衝液(50%ホルムアミド、2xSSC、50ng/ml酵母tRNA、50ng/mlヘパリン、0.02%SDS、10%デキストラン硫酸)中にて65℃で1時間静置した後、下記表3に記載のプローブ:ジゴキシゲニン(DIG)標識RNAプローブを1ng/μlの濃度になるように加えたハイブリダイゼーション緩衝液中で65℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ジゴキシゲニン(DIG)標識RNAプローブは、RNAポリメラーゼ(Roche社製)を用いて、DIG標識プローブの標準方法に従って調製した。
【0079】
【表3】
JP2015186454A_000004t.gif

【0080】
十分な洗浄を行った後、RNaseA(Invitrogen社製)により非特異的に結合しているプローブを除去した。ブロッキング溶液(3% Blockin reagent/PBST(Sigma社製))によりマスキングを施し、AP標識抗DIG抗体溶液(Roche社製、ブロッキング溶液にて1:1000希釈)を滴下した。4℃で一晩静置し、NBT/BCIP発色基質を用いて可視化した。エタノールシリーズ・キシレンを通し、エンテランを用いてスライドガラスの封入を行った。顕微観察を行い、画像をデジタル記録した。結果を図2に示す。
【0081】
図1に示されるように、得られたエゾアワビvasa遺伝子は、卵巣、精巣および未受精卵では強く発現していることが確認された。また図2に示されるように、得られたエゾアワビvasa遺伝子に基づいて設計されたアンチセンスプローブは、卵巣、精巣および未受精卵では強く発現していることが確認され、特に卵原細胞と初期の卵母細胞での強い発現が確認された。またvasa遺伝子は精子では発現していないことが確認された。すなわち、得られたvasa遺伝子は、生殖細胞系列に特異的に発現していることが確認された。また、未受精卵での発現が検出され、アワビ類でも母性RNAとして機能していることが示唆された。
【0082】
(4)各種アワビのvasa遺伝子の比較
上記(2)で得られた各種アワビのvasa遺伝子配列およびアミノ酸配列を比較した。結果をvasa遺伝子配列について図3および4、アミノ酸配列について図5および6に示す。またエゾアワビのvasa遺伝子を示すvasaRNAi1(配列番号3、748bp)およびvasaRNAi2(配列番号4、572bp)と、他のアワビ種のvasa遺伝子の配列、および既知のミミガイのvasa遺伝子の塩基配列との相違数を下記表4および5に示す。さらにエゾアワビのvasa遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を示すvasaRNAi1(配列番号1)およびvasaRNAi2(配列番号2)と、他のアワビ種のvasaアミノ酸配列、および既知のミミガイのvasaアミノ酸塩基配列との相違数を下記表6および7に示す。
【表4】
JP2015186454A_000005t.gif
【表5】
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【表6】
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【表7】
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【0083】
実施例2:不稔化アワビの作出
(1)アワビのvasa遺伝子発現阻害剤(Abalone vasa dsRNA)の合成
上記実施例1(2)で得られたエゾアワビvasaRNAi1遺伝子を有するプラスミド(vasaRNAi1プラスミド)を鋳型に用いてPCR反応を行い、直鎖型プラスミドDNAを作成した。得られた直鎖型プラスミドDNA1μgを鋳型として、MEGAscript T7 transcription kit(Invitrogen社製)を用いて一本鎖センスRNAおよびアンチセンスRNAを合成した。合成したセンスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖を等量混合し、100℃で1分間熱処理した。その後、室温で10時間静置し二本鎖RNAのアニーリングを行った。二本鎖RNA(dsRNA)はアガロースゲル電気泳動により確認後、使用時まで-80℃で保存した。
【表8】
JP2015186454A_000009t.gif

【0084】
(2)vasa遺伝子発現抑制処理
各種アワビ(エゾアワビ(4年齢)、クロアワビ(1または4年齢)、メガイアワビ(5年齢))は、vasa遺伝子発現抑制処理前、海水(15~22℃)で飼育した。上記実施例2(1)で調製した二本鎖RNA溶液に注射用緩衝液(10mM Tris-HCl、10mM NaCl)を加え所望の濃度になるように調整した。
【0085】
得られた溶液をツベルクリン用硬質注射筒と26G注射針を用いてアワビ成体の生殖巣(卵巣または精巣)内に接種した。接種量は100μlであり、2、3カ所に分けて接種を行った。接種後、適宜、卵巣からステージ5の卵母細胞(未受精卵)を摘出するか、あるいは通常のアワビの人工種苗生産方法に従って産卵誘発と人工受精とを行った。具体的には、産卵誘発は、空気中で30分間干出刺激をした後、800mWh/L紫外線照射海水(約20℃)内で3~5時間ほど放卵・放精するまで放置した(浮永久、菊池省吾(1982)水産学シリーズ、41、64-79;浮永久、平成2年度栽培漁業技術研修事業基礎理論コース魚育成シリーズNo.6、102頁(1990))。また、人工受精は、得られた未受精卵を、vasa遺伝子発現抑制処理を行っていない未処理の各種アワビから同様にして得られた精子と交配し、受精卵を得ることで行った。
【0086】
得られた未受精卵(卵巣への二本鎖RNA接種後約1時間~3日)を試料として、リアルタイムPCRによりvasa遺伝子の発現量を確認した。また、卵巣からの卵摘出後または産卵誘発後の成体生殖巣(卵巣または精巣)(二本鎖RNA接種後12時間~7日)も、そのまま各アワビ種から回収し試料とした。また試料対照区としてアワビの外套膜も試料とした。さらに、対象区としてvasa遺伝子発現抑制処理を行っていない未処理個体または注射用緩衝液のみを接種した個体からも同様に未受精卵、卵巣または精巣を回収し試料とした。
【0087】
エゾアワビについては、vasa遺伝子発現抑制処理を行っていない通常のアワビの卵巣から摘出した卵(未受精卵)を、30分、1時間、2時間、上記所望の濃度になるように調整した二本鎖RNA溶液を含む溶液に侵漬して得た不稔化処理済未受精卵を得て、試料としてリアルタイムPCRによりvasa遺伝子の発現量を確認した。
【0088】
(3)vasa遺伝子の発現量の確認
得られたそれぞれの試料は、実施例1(1)同様にISOGENを用いて全RNAを抽出した。未受精卵は50個を1プールとし、卵巣、精巣は50mgを原料として抽出した。外套膜は50mgを原料として抽出した。
【0089】
それぞれの全RNA 500ngを鋳型として、iScript cDNA合成キット(Bio-rad社製)に従いcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、SsoAdvanced SYBR Green Supermix(Bio-rad社製)を用いてリアルタイムPCRを行った。具体的には、下記表9に記載のプライマーおよび条件で、MiniOpticonリアルタイムPCRシステム(Bio-rad)にて行った。プライマーはvasaに対して3セット、actinに対して2セット作成した。
【0090】
【表9】
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【0091】
ハウスキーピング遺伝子であるアクチン遺伝子により補正を行いΔΔCt法の改法であるPfaffl法で各種試料でのvasa遺伝子の発現量の比較を行った。結果を表10に示す。結果中のプライマーセットは、一番きれいな検量線を示したプライマーセットを示す。なお、阻害率(%)は、二本鎖RNAを接種した個体でのvasa遺伝子発現量の対照区と比較した割合を示す。
【0092】
【表10】
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【0093】
結果に示されるように、各種アワビにおいて、二本鎖RNA接種後の卵巣、精巣および摘出または産卵誘発により得られた未受精卵において、vasa遺伝子発現が抑制されていることが確認された。
(4)不稔化アワビ稚貝の作出
上記(3)のクロアワビの個体No.4~7の未受精卵に、vasa遺伝子発現抑制処理を行っていない通常の種苗生産方法により得られた各種精子を交配し、人工受精を行い、不稔化処理を行ったエゾアワビおよびクロアワビの受精卵(vasa遺伝子発現抑制処理済み)を得た。受精卵を発生させ、5mm程度の稚貝を得た。
【0094】
実施例3:不稔化個体判別方法の確立
通常のエゾアワビを従来の人工種苗生産方法に従って、産卵誘発と人工受精を行い、未受精卵(0時間)、受精卵(受精後1時間)、8細胞期(受精後6時間)、桑実胚(受精後9時間)、トロコフォア幼生(受精後15時間)、ベリンジャー幼生(受精後24時間)などの未受精卵から幼生までの初期発生過程でのvasa遺伝子発現量の変化を、下記表11のプライマーおよび条件で、リアルタイムPCRにより定量的に調べた。結果を図7に示す。
【0095】
【表11】
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【0096】
また、エゾアワビの未受精卵、ベリジャー幼生、5mm程度稚貝(受精後2ヶ月齢)での組織切片in situハイブリダイゼーションをおこなった。具体的には、試料をダビッドソン固定液/0.1%Tween中にて4℃で一晩固定後、100%エタノールでの洗浄を4回繰り返した。その後、70%エタノール/DEPC-DWに置換し、使用時まで-20℃で保存した。エタノールシリーズ・キシレンを通した後、パラフィンブロック内に包埋した。厚さ5μmで連続隣接切片を作成した。へマトキシリン・エオシン染色と組織切片in situハイブリダイゼーションは、上記実施例1(3)に記載の方法に従って行った。結果を図8に示す。
【0097】
図7および図8に示されるように、また、未受精卵からベリジャー幼生の期間では、発現量が低下するが、初期稚貝以降では生殖細胞系列検出マーカーとして使用できることが確認された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3-1】
2
【図3-2】
3
【図4-1】
4
【図4-2】
5
【図5】
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【図6】
7
【図7】
8
【図8】
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