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明細書 :亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、および、当該遺伝子を用いた出芽酵母の選択的培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-128397 (P2015-128397A)
公開日 平成27年7月16日(2015.7.16)
発明の名称または考案の名称 亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、および、当該遺伝子を用いた出芽酵母の選択的培養方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   9/04        (2006.01)
C12N   1/16        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 1/19 ZNA
C12N 9/04
C12N 1/16 A
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 24
出願番号 特願2014-002024 (P2014-002024)
出願日 平成26年1月8日(2014.1.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り ・刊行物名 「2013(平成25年度) 第65回日本生物工学会大会講演要旨集,第45頁」 発行日 平成25年8月25日 発行所 公益社団法人 日本生物工学会 ・研究集会名 第65回 日本生物工学会大会 開催場所 広島国際会議場 開催日 平成25年9月18日
発明者または考案者 【氏名】黒田 章夫
【氏名】廣田 隆一
出願人 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B050
4B065
Fターム 4B024AA20
4B024BA08
4B024CA02
4B024DA12
4B024EA04
4B024GA11
4B024GA19
4B050CC04
4B050DD02
4B050EE02
4B050LL10
4B065AA41Y
4B065AA72X
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB02
4B065CA28
4B065CA60
要約 【課題】出芽酵母においても正常に機能し得る選択マーカーとして用いることが可能な遺伝子、および、当該遺伝子を用いた出芽酵母の選択的培養方法を提供する。
【解決手段】亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、上記タンパク質内に存在する全てのアルギニンが、特定のコドンによってコードされており、かつ、上記タンパク質内に存在する全てのアラニンが、特定のコドンによってコードされている遺伝子を、出芽酵母へ導入する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードしている遺伝子であって、上記タンパク質内に存在する全てのアルギニンが、CGT、AGA、または、AGGのコドンによってコードされており、上記タンパク質内に存在する全てのアラニンが、GCT、GCC、または、GCAのコドンによってコードされている遺伝子、が導入された出芽酵母を、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中で培養することを特徴とする、出芽酵母の選択的培養方法。
【請求項2】
上記タンパク質内に存在するアルギニンの50%以上が、AGAのコドンによってコードされていることを特徴とする、請求項1に記載の出芽酵母の選択的培養方法。
【請求項3】
上記タンパク質内に存在するアラニンの50%以上が、GCTのコドンによってコードされていることを特徴とする、請求項1または2に記載の出芽酵母の選択的培養方法。
【請求項4】
上記遺伝子は、以下の(1)または(2)のタンパク質をコードしていることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の出芽酵母の選択的培養方法:
(1)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項5】
上記遺伝子は、以下の(3)または(4)のDNAからなることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の出芽酵母の選択的培養方法:
(3)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNA;
(4)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
上記培養は、無殺菌条件下にて行われることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の出芽酵母の選択的培養方法。
【請求項7】
上記培地は、無殺菌の培地であることを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の出芽酵母の選択的培養方法。
【請求項8】
亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードしている遺伝子であって、
上記タンパク質内に存在する全てのアルギニンが、CGT、AGA、または、AGGのコドンによってコードされており、
上記タンパク質内に存在する全てのアラニンが、GCT、GCC、または、GCAのコドンによってコードされていることを特徴とする遺伝子。
【請求項9】
上記タンパク質内に存在するアルギニンの50%以上が、AGAのコドンによってコードされていることを特徴とする、請求項8に記載の遺伝子。
【請求項10】
上記タンパク質内に存在するアラニンの50%以上が、GCTのコドンによってコードされていることを特徴とする、請求項8または9に記載の遺伝子。
【請求項11】
以下の(1)または(2)のタンパク質をコードしていることを特徴とする、請求項8~10の何れか1項に記載の遺伝子:
(1)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項12】
以下の(3)または(4)のDNAからなることを特徴とする請求項8~11の何れか1項に記載の遺伝子:
(3)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNA;
(4)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、および、当該遺伝子を用いた出芽酵母の選択的培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種生物(例えば、微生物、細胞など)が、バイオ燃料の生産をはじめ、様々な有用物質の生産に利用されている。有用物質を生産するための生物の培養では、一般的に、目的の生物ではない生物を排除して、目的の生物のみを純粋培養している。純粋培養によって、目的の生物ではない生物による有害な物質の生産を防止することができる。また、純粋培養によって、目的の生物の量を増やすことができ、その結果、より効率的な有用物質の生産を実現することができる。
【0003】
上記生物としては、例えば、大腸菌に代表される原核生物や、酵母に代表される真核生物が用いられている。それぞれの生物には独自の利点があり、目的に応じて使い分けられている。
【0004】
真核生物である酵母は、原核生物とは異なる特徴的な物質代謝経路等を備えており、有用物質の生産において非常に有用な微生物であるといえる。そして、酵母を用いた有用物質の生産の場合においても、一般的に、酵母を純粋培養することによって有用物質を生産している。
【0005】
従来から、酵母を純粋培養するための方法として、薬剤耐性マーカーを用いる方法(例えば、非特許文献1参照)、および、栄養要求性マーカーを用いる方法(例えば、非特許文献2参照)が利用されている。
【0006】
例えば、薬剤耐性マーカーを用いる方法では、酵母に対して、所望の遺伝子と共に、薬剤耐性遺伝子が導入される。このとき、薬剤耐性遺伝子が導入された酵母は、薬剤を含む培地中であっても生育することができるが、薬剤耐性遺伝子が導入されていない酵母や不要な微生物は、薬剤を含む培地中では生育することができない。
【0007】
そこで、薬剤を含む培地を用いて培養を行うことによって、目的とする酵母のみを純粋培養することができる。なお、薬剤耐性遺伝子としては、Aureobasidin耐性遺伝子、G418耐性遺伝子、Chloramphenicol耐性遺伝子などを挙げることができる。
【0008】
一方、栄養要求性マーカーを用いる方法では、まず、特定のアミノ酸の代謝(例えば、特定のアミノ酸の生産)に必要な遺伝子を破壊した酵母(栄養要求性変異株)を作製する。なお、当該酵母は、特定のアミノ酸が存在しない培地中では生育できない。
【0009】
次いで、当該酵母に対して、所望の遺伝子と共に、特定のアミノ酸の代謝に必要な遺伝子が導入される。このとき、特定のアミノ酸の代謝に必要な遺伝子が導入された酵母は、当該アミノ酸を含まない培地中であっても生育することができるが、当該遺伝子が導入されていない酵母や不要な微生物は、当該アミノ酸を含まない培地中では生育することができない。
【0010】
そこで、特定のアミノ酸を含まない培地を用いて培養を行うことによって、目的とする酵母のみを純粋培養することができる。
【0011】
しかしながら、薬剤耐性マーカーを用いる方法、および、栄養要求性マーカーを用いる方法には、多くの問題点が存在する。
【0012】
具体的に、薬剤耐性マーカーを用いる方法では、薬剤を含む培地を用いる必要がある。この場合、薬剤によって、培地のコストが上がるという問題点を有している。また、薬剤の種類によっては、人体や環境にとって有害になり得るという問題点を有している。また、薬剤を含む培地は、廃棄するときに薬剤を除去または無毒化する処理を必要とする場合がある。当該処理は、生物の培養にかかるコストを上げ、かつ、生物の培養に必要な処理を複雑化させるという問題点を有している。
【0013】
つまり、薬剤耐性マーカーを用いる方法は、簡便、安全、かつ低コストにて生物を選択的に培養することができないという問題を有している。
【0014】
また、栄養要求性マーカーを用いる方法では、まず、特定のアミノ酸の代謝に必要な遺伝子を破壊した酵母(栄養要求性変異株)を作製する必要がある。しかしながら、実用化されている酵母の多くは多倍体の酵母であって、細胞の中に複数の染色体(換言すれば、特定のアミノ酸の代謝に必要な複数の遺伝子)が存在する。
【0015】
この場合、栄養要求性変異株を作製するためには、複数の遺伝子の全てを破壊する必要があるが、このような栄養要求性変異株の取得は、非常に困難である。
【0016】
つまり、栄養要求性マーカーを用いる方法は、簡便に生物を選択的に培養することができないという問題を有している。
【0017】
そこで、従来から、酵母などの有用生物に関して、新たな選択マーカーを用いた純粋培養の開発が進められている。
【先行技術文献】
【0018】

【非特許文献1】Hashida-Okado T, Ogawa A, Endo M, Yasumoto R, Takesako K, Kato I. 1996. AUR1, a novel gene conferring aureobasidin resistance on Saccharomyces cerevisiae: a study of defective morphologies in Aur1p-depleted cells. Mol. Gen. Genet. 251:236-244.
【非特許文献2】Haas L O, Cregg J M, Gleeson M A. Development of an integrative DNA transformation system for the yeast Candida tropicalis. J Bacteriol. 1990 August; 172(8): 4571-4577.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、現在までに見出されている新たな選択マーカーは、酵母の中でも特に出芽酵母において正常に機能しないという問題点を有している。
【0020】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、出芽酵母においても正常に機能し得る選択マーカーとして用いることが可能な遺伝子、および、当該遺伝子を用いた出芽酵母の選択的培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を選択マーカーとして用いて、目的の生物を選択的に培養する技術の開発を進めてきた(例えば、PCT/JP2013/071569(本願出願時において未公開))。
【0022】
具体的に、本発明者らは、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された微生物を、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中で培養することによって、目的とする微生物を選択的に培養することに成功した。
【0023】
しかしながら、研究の進展にともなって、本発明者らは、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された微生物であっても、微生物の種類によっては選択マーカーが効率よく機能しない場合があることを見出した。具体的には、実用化されている酵母の多くが分類される出芽酵母の場合、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したとしても、選択マーカーが効率よく機能しないことを見出した(後述する実施例参照)。
【0024】
選択マーカーが効率よく機能しない理由としては、以下の(a)~(d)のような多くの仮説が考えられ、何れの仮説が正しいのか実証することは容易なことではなかった。
(a)選択マーカーを効率よく機能させるためには、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子以外の遺伝子が必要である;
(b)選択マーカーを効率よく機能させるためには、亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質に対する特定の修飾が必要(または、不要)である;
(c)選択マーカーを効率よく機能させるためには、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が転写される過程を効率よく進める必要がある;
(d)選択マーカーを効率よく機能させるためには、亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質が翻訳される過程を効率よく進める必要がある。
【0025】
本発明者らは、多くの仮説の中でも、特に上記(c)および(d)に着目した。更に具体的に、本発明者らは、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の特定のコドンを改変することによって、出芽酵母の中でも、選択マーカーを機能させることができるのではないか、と考えた。
【0026】
本発明者らは、鋭意検討した結果、亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を構成する多くの種類のアミノ酸の中でも特にアルギニンおよび/またはアラニンをコードするコドンが特定のコドンに置換された遺伝子を用いることによって、出芽酵母の中でも選択マーカーを機能させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0027】
つまり、本発明の出芽酵母の選択的培養方法は、上記課題を解決するために、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードしている遺伝子であって、上記タンパク質内に存在する全てのアルギニンが、CGT、AGA、または、AGGのコドンによってコードされており、上記タンパク質内に存在する全てのアラニンが、GCT、GCC、または、GCAのコドンによってコードされている遺伝子、が導入された出芽酵母を、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中で培養することを特徴としている。
【0028】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、上記タンパク質内に存在するアルギニンの50%以上が、AGAのコドンによってコードされていることが好ましい。
【0029】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、上記タンパク質内に存在するアラニンの50%以上が、GCTのコドンによってコードされていることが好ましい。
【0030】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、上記遺伝子は、以下の(1)または(2)のタンパク質をコードしていることが好ましい。つまり、
(1)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【0031】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、上記遺伝子は、以下の(3)または(4)のDNAからなることが好ましい。つまり、
(3)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNA;
(4)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0032】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、上記培養は、無殺菌条件下にて行われることが好ましい。
【0033】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、上記培地は、無殺菌の培地であることが好ましい。
【0034】
本発明の遺伝子は、上記課題を解決するために、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードしている遺伝子であって、上記タンパク質内に存在する全てのアルギニンが、CGT、AGA、または、AGGのコドンによってコードされており、上記タンパク質内に存在する全てのアラニンが、GCT、GCC、または、GCAのコドンによってコードされていることを特徴としている。
【0035】
本発明の遺伝子では、上記タンパク質内に存在するアルギニンの50%以上が、AGAのコドンによってコードされていることが好ましい。
【0036】
本発明の遺伝子では、上記タンパク質内に存在するアラニンの50%以上が、GCTのコドンによってコードされていることが好ましい。
【0037】
本発明の遺伝子は、以下の(1)または(2)のタンパク質をコードしていることが好ましい。つまり。
(1)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【0038】
本発明の遺伝子は、以下の(3)または(4)のDNAからなることが好ましい。つまり、
(3)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNA;
(4)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入しても、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中にて増殖することができなかった出芽酵母を、当該培地中で増殖させることができるという効果を奏する。つまり、本発明は、従来は選択的に培養することができなかった出芽酵母を、選択的に培養することができるという効果を奏する。
【0040】
本発明は、低コストにて出芽酵母の選択的な培養を行うことができるという効果を奏する。
【0041】
例えば、薬剤耐性マーカーを用いる方法では、薬剤としてAureobasidin AまたはZoecinなどを用いる。このとき、Aureobasidin Aを含む培地では、Aureobasidin Aの濃度が約0.1μg/mLである必要があり、当該培地のコストが約420円/Lになる。また、Zoecinを含む培地では、Zoecinの濃度が約100μg/mLである必要があり、当該培地のコストが約3226円/Lになる。
【0042】
一方、本願発明であれば、リン源として亜リン酸を含む培地を用いればよく、当該培地における亜リン酸の濃度を415μg/mLとすれば、培地のコストが約3.3円/Lになる。
【0043】
つまり、本願発明は、従来技術と比べて、培地の費用を1/100以下に抑えることができるという効果を奏する。有用な物質の生産などでは、1000L以上、または、10000L以上という大量の培地を用いて出芽酵母を培養する場合が多々ある。本願発明であれば、培地にかかる膨大なコストを大幅に削減することができる。
【0044】
本発明は、薬剤耐性マーカーを用いる方法とは異なり抗生物質などの薬剤を用いないので、使用後の培地中の薬剤を除去または無毒化する必要がない。それ故に、本発明は、使用後の培地を、安全かつ容易に廃棄することができるという効果を奏する。
【0045】
例えば、出芽酵母などの真核生物の選択的培養に用いられる薬剤は、人体や環境にとって非常に有害である場合がある。本発明であれば、このような有害な薬剤の使用を避けることができる。
【0046】
本発明は、栄養要求性マーカーを用いる方法とは異なり出芽酵母内の遺伝子を予め破壊しておく必要はない、それ故に、本発明は、簡便に出芽酵母の選択的培養を行うことができるという効果を奏する。
【0047】
例えば、有用な出芽酵母には多倍体が多く、多倍体では、複数存在する遺伝子の全てを破壊することが困難であった。本願発明は、多倍体であっても、簡便に選択的培養を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例における、分裂酵母内にて野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いて亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を発現させるための発現ベクターの基本構成を示す図である。
【図2】実施例における、分裂酵母の増殖を示すグラフである。
【図3】実施例における、出芽酵母内にて野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いて亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を発現させるための発現ベクターの基本構成を示す図である。
【図4】実施例における、出芽酵母内にて、コドンが置換された亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いて亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を発現させるための発現ベクターの基本構成を示す図である。
【図5】実施例における、様々な形質転換体の増殖を示すグラフである。
【図6】実施例における、様々な形質転換体の増殖を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本発明の実施形態の一例について説明する。なお、本発明は、以下に説示する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。

【0050】
なお、本明細書において「A~B」と記載した場合には、当該記載は「A以上B以下」を意図するものとする。

【0051】
〔1.出芽酵母の選択的培養方法〕
本発明の出芽酵母の選択的培養方法は、本発明の遺伝子が導入された出芽酵母を、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中で培養することを特徴としている。

【0052】
出芽酵母は、亜リン酸を資化して生育することができない。つまり、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中にて出芽酵母を培養した場合、出芽酵母は、増殖することができない。

【0053】
しかしながら、本発明の遺伝子を出芽酵母に導入すれば、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いた場合には亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質が発現しなかった出芽酵母において、確実に亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を発現させることができる。

【0054】
出芽酵母内において亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質が発現すれば、当該出芽酵母内において、亜リン酸がリン酸へと変換される。そして、当該出芽酵母は、亜リン酸から生成されたリン酸を資化することによって、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中でも増殖することが可能になる。

【0055】
つまり、本発明では、本発明の遺伝子が導入された出芽酵母を、確実に選択的に培養することができる。

【0056】
本明細書において、「出芽酵母の選択的培養方法」とは、目的の出芽酵母以外の生物の非存在下において、目的の出芽酵母のみを選択的に培養することを意味するが、更に、目的の出芽酵母以外の生物の存在下において、目的の出芽酵母を優先的に培養することをも意味する。

【0057】
換言すれば、本発明の選択的培養方法においては、目的の出芽酵母のみが培養されることが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではなく、目的の出芽酵母以外の生物に対して目的の出芽酵母が優先的に培養されていればよい。

【0058】
生物の中で、亜リン酸を資化することができる生物の種類は、多くはない。それ故に、たとえ、目的の出芽酵母と、目的の出芽酵母以外の生物とが混在していたとしても、目的の出芽酵母のみが増殖することができる。そして、当該増殖の結果、目的の出芽酵母を優先的に培養することができる。

【0059】
本発明の遺伝子の具体的な構成については、後述する〔2.遺伝子〕にて説明する。

【0060】
また、選択的に培養される出芽酵母は、単一種類の出芽酵母であってもよいが、複数種類の出芽酵母であってもよい。

【0061】
上記出芽酵母としては、多倍体の出芽酵母を用いることが可能である。例えば、上記出芽酵母は、二倍体またはそれよりも多くの染色体を有する出芽酵母であってもよく、三倍体またはそれよりも多くの染色体を有する出芽酵母であってもよく、四倍体またはそれよりも多くの染色体を有する出芽酵母であってもよい。

【0062】
本発明では出芽酵母内の特定の遺伝子を予め破壊しておく必要が無いので、多倍体の出芽酵母であっても、選択的に、かつ、安価に培養することができる。

【0063】
出芽酵母は、例えば、サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり得る。

【0064】
出芽酵母には実用化されている酵母の多くが分類されるが、出芽酵母は、分裂酵母と比較して、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いた場合に亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質の発現量が極めて低い(後述する実施例参照)。一方、本発明の遺伝子を用いた場合、出芽酵母において、亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質の発現量が高い。それ故に、本発明であれば、出芽酵母を、選択的に、かつ、安価に培養することができる。

【0065】
出芽酵母へ遺伝子を導入する方法としては特に限定されず、適宜周知の方法を用いればよい。

【0066】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、本発明の遺伝子が導入された出芽酵母を、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中で培養する。

【0067】
ここで、「亜リン酸を唯一のリン源として含む培地」とは、亜リン酸以外のリン元素を供給する成分(例えば、リン酸、次亜リン酸、ホスフィン等)を実質的に含有していない培地を意味する。なお、「実質的に含有していない」とは、濃度が10μM以下であること、更に具体的には濃度が1μM以下であること、更に具体的には濃度が0.1μM以下であること、更に具体的には濃度が0.01μM以下であること、を意味する。

【0068】
上記培地は、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地であれば、特に限定されるものではなく、生物の種類等に応じて適宜選択すればよい。ただし、リン源を亜リン酸のみにコントロールし易いとの観点から、完全合成培地が好ましい。例えば、モルホリノプロパンスルホン酸培地(MOPS培地)、EMM最小培地、または、SDM最小培地を用いることができるが、勿論、当該培地に限定されない。

【0069】
上記培地における亜リン酸の濃度は特に限定されず、生物の種類等に応じて適宜選択すればよい。例えば、培地中の亜リン酸の濃度は、0.1mM~1M、0.1mM~900mM、0.1mM~800mM、0.1mM~700mM、0.1mM~600mM、0.1mM~500mM、0.1mM~400mM、0.1mM~300mM、0.1mM~200mM、0.1mM~100mM、0.1mM~75mM、0.1mM~50mM、0.1mM~25mM、0.1mM~15mM、0.1mM~10mM、0.1mM~7.5mM、0.1mM~5mM、または、0.1mM~1mMであり得る。

【0070】
コストを低減させるという観点から、上記亜リン酸の濃度は、低いほど好ましいといえる。

【0071】
本発明では亜リン酸の資化能力を指標として出芽酵母を選択的に培養するので、上記培地には抗生物質が含まれている必要はない。このため、本発明の出芽酵母の選択的培養方法に適用される培地は、抗生物質を含有していない培地であり得る。勿論、必要に応じて、抗生物質を含有している培地を用いることもできる。

【0072】
また、本発明の出芽酵母の選択的培養方法による効果は、培養スケールが大きくなればなるほど顕著となる。このため、本発明の出芽酵母の選択的培養方法は、100L以上、より好ましくは1000L以上、さらに好ましくは5000L以上、最も好ましくは10000L以上の培地を用いて実施されることが好ましい。

【0073】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、上記培養は、殺菌条件下にて行われてもよいし、無殺菌条件下にて行われてもよい。簡便かつ低コストにて培養を行うという観点からは、無殺菌条件下にて培養を行うことが好ましい。

【0074】
生物の多くは、亜リン酸を資化して生育することができない。つまり、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中にて生物を培養した場合、多くの生物は、増殖することができない。それ故に、無殺菌条件下にて培養を行ったとしても、良好に目的の出芽酵母を選択的に培養することができる。更には、無殺菌条件下の培養を採用すれば、培養のスケールを容易に大きくすることができ、その結果、物質の大量生産等を容易に行うことができる。

【0075】
殺菌条件下の培養とは、例えば、加熱、フィルター濾過、UV照射、オゾン照射等の殺菌処理が、培養系(例えば、培養装置、培地に供給される気体(酸素等))に対して行われている条件にて培養することを意図する。また、殺菌条件下の培養には、閉鎖系の培養も包含される。

【0076】
一方、無殺菌条件下の培養とは、例えば、加熱、フィルター濾過、UV照射、オゾン照射等の殺菌処理が、培養系(例えば、培養装置、培地に供給される気体(酸素等))に対して一切行われていない条件にて培養することを意図する。また、無殺菌条件下の培養には、開放系の培養も包含される。

【0077】
本発明の出芽酵母の選択的培養方法では、上記培地は、殺菌された培地であってもよいし、無殺菌の培地であってもよい。簡便かつ低コストにて培養を行うという観点からは、無殺菌の培地を用いることが好ましい。

【0078】
生物の多くは、亜リン酸を資化して生育することができない。つまり、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中にて生物を培養した場合、多くの生物は、増殖することができない。それ故に、無殺菌の培地を用いて培養を行ったとしても、良好に目的の出芽酵母を選択的に培養することができる。更には、無殺菌の培地を採用すれば、培養のスケールを容易に大きくすることができ、その結果、物質の大量生産等を容易に行うことができる。

【0079】
殺菌された培地とは、例えば、加熱、フィルター濾過、UV照射、オゾン照射等の殺菌処理を施された培地を意図する。

【0080】
一方、無殺菌の培地とは、例えば、加熱、フィルター濾過、UV照射、オゾン照射等の殺菌処理を施されていない培地を意図する。

【0081】
〔2.遺伝子〕
以下に、本発明の遺伝子について説明する。なお、本明細書において、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。

【0082】
本発明の遺伝子は、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質(換言すれば、亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質)をコードする遺伝子(換言すれば、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子)であって、上記亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質内に存在する全てのアルギニンが、CGT、AGA、または、AGGのコドンによってコードされており、上記タンパク質内に存在する全てのアラニンが、GCT、GCC、または、GCAのコドンによってコードされている遺伝子である。

【0083】
また、本発明の遺伝子は、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子であって、上記亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子内に存在する全てのアルギニンをコードするコドンが、CGT、AGA、または、AGGであり、上記遺伝子内に存在する全てのアラニンをコードするコドンが、GCT、GCC、または、GCAである亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である。

【0084】
亜リン酸デヒドロゲナーゼは、以下の反応式に示すように、NAD依存的またはNADP依存的に亜リン酸を酸化して、NADHまたはNADPHと、リン酸とを生成する酵素である。

【0085】
HPO2-+NAD+HO → HPO2-+NADH+H
HPO2-+NADP+HO → HPO2-+NADPH+H
出芽酵母は、亜リン酸を資化して生育することができない。つまり、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中にて出芽酵母を培養した場合、出芽酵母は増殖することができない。

【0086】
更に、出芽酵母へ野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入しても、当該遺伝子は、出芽酵母内で正常に機能しない。

【0087】
しかしながら、本発明の遺伝子を出芽酵母に導入すれば、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いた場合には亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質が発現しなかった出芽酵母において、確実に亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を発現させることができる。

【0088】
出芽酵母内において亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質が発現すれば、出芽酵母内において、亜リン酸がリン酸へと変換される。そして、当該出芽酵母は、亜リン酸から生成されたリン酸を資化することによって、亜リン酸を唯一のリン源として含む培地中でも増殖することが可能になる。換言すれば、本発明では、本発明の遺伝子が導入された出芽酵母を、確実に選択的に培養することができる。

【0089】
つまり、本発明の遺伝子は、出芽酵母を選択的に培養するための選択マーカーとして利用することができる。

【0090】
なお、タンパク質が亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質であるか否かは、NAD依存的またはNADP依存的な亜リン酸の酸化によって生成される、NADHまたはNADPH、および/または、リン酸を検出することによって確認することができる。なお、NADH、HADPHおよびリン酸の検出方法は周知であるので、当該周知の方法にしたがってNADH、HADPHおよびリン酸の各々を検出すればよい。

【0091】
上記亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質としては特に限定されず、周知の亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質であればよい。

【0092】
例えば、上記亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質は、以下の生物に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質、または、当該亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質の変異型タンパク質であり得る。更に具体的に、上記変異型タンパク質は、以下の生物に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質、であり得る。

【0093】
上記生物としては、Ralstonia sp. 4506、Pseudomonas stutzeri WM88、Desulfotignum phosphitoxidans、Dietzia cinnamea、Methylobacterium extorquens、Comamonas testosterone、Acidovorax ebreus、Cupriavidus metallidurans、Cupriavidus metallidurans、Thioalkalivibrio sp.、Klebsiella pneumoniae、Pseudomonas aeruginosa、Marinobacter algicola、Marinobacter aquaeolei、Shewanella putrefaciens、Prochlorococcus sp.、Cyanothece sp.、Trichodesmium erythraeum、Nostoc sp.、Nodularia spumigena、Nostoc punmtiforme、Gallionella capsiferriformans、Burkholderia vietnamiensis、Acinetobacter radioresistens、Herminiimonas arsenicoxydans、Alcaligenes faecalis、および、Oxalobacter formigenesを挙げることができる。

【0094】
更に具体的に、本発明の遺伝子は、以下の(1)または(2)のタンパク質をコードする遺伝子であって、タンパク質内に存在する全てのアルギニンが、CGT、AGA、または、AGGのコドンによってコードされており、タンパク質内に存在する全てのアラニンが、GCT、GCC、または、GCAのコドンによってコードされている遺伝子であってもよい。つまり、
(1)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。

【0095】
なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質とは、具体的には、Pseudomonas stutzeri WM88に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質であり、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質とは、Ralstonia sp. 4506に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質である。

【0096】
本明細書における「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸」では、欠失、置換若しくは付加が生じる位置は特に限定されない。

【0097】
また、「1若しくは数個のアミノ酸」が意図するアミノ酸の数は特に限定されないが、20個以内のアミノ酸であることが好ましく、19個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、18個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、17個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、16個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、15個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、14個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、13個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、12個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、11個のアミノ酸であることが更に好ましく、10個以内のアミノ酸であることが好ましく、9個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、8個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、7個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、6個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、5個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、4個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、3個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、2個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、1個のアミノ酸であることが最も好ましい。

【0098】
アミノ酸の置換は、保存的置換であることが好ましい。なお、保存的置換とは、特定のアミノ酸から、当該アミノ酸と同様な化学的性質および/または構造を有する他のアミノ酸に置換されることをいう。化学的性質としては、例えば、疎水性度(疎水性および親水性)、電荷(中性、酸性および塩基性)が挙げられる。構造としては、例えば、側鎖、または、側鎖の官能基として存在する芳香環、脂肪炭化水素基およびカルボキシル基が挙げられる。

【0099】
保存的置換の例としては、例えば、セリンとスレオニンとの置換、リジンとアルギニンとの置換、およびフェニルアラニンとトリプトファンアミノとの置換、が挙げられる。勿論、本発明は、これらの置換に限定されない。

【0100】
また、本発明の遺伝子には、以下の(5)のタンパク質をコードする遺伝子であって、タンパク質内に存在する全てのアルギニンが、CGT、AGA、または、AGGのコドンによってコードされており、タンパク質内に存在する全てのアラニンが、GCT、GCC、または、GCAのコドンによってコードされている遺伝子が包含されていてもよい。つまり、
(5)配列番号1または4に示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。

【0101】
上述した相同性は、90%以上であればよいが、91%以上であることが更に好ましく、92%以上であることが更に好ましく、93%以上であることが更に好ましく、94%以上であることが更に好ましく、95%以上であることが更に好ましく、96%以上であることが更に好ましく、97%以上であることが更に好ましく、98%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが最も好ましい。

【0102】
アミノ酸配列の相同性は、公知の方法で求めることができる。具体的には、GENETYX-WIN(株式会社ゼネティックス社製)を、GENETYX-WINのマニュアルに従って使用し、例えば、特定のアミノ酸配列と比較対象のアミノ酸配列とのホモロジーサーチ(homology search)を行い、同一のアミノ酸の割合(%)として相同性を算出することができる。

【0103】
更に具体的には、比較するアミノ酸配列のうちの長い方のアミノ酸配列の総アミノ酸数に対する、同一のアミノ酸の数の割合(%)として、相同性を算出することができる。

【0104】
本発明の遺伝子では、当該遺伝子がコードするタンパク質内に存在する全てのアルギニンを、CGT、AGA、または、AGGという3種類のコドンによってコードしている。

【0105】
上述した3種類のコドンのうち、AGAというコドンが多いほど、生物内において、亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を安定的に発現させることができる。

【0106】
各コドンの出現頻度は特に限定されないが、例えば、タンパク質内に存在するアルギニンのうちの10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上が、70%以上、80%以上、または、90%以上が、AGAというコドンによってコードされ得る。

【0107】
本発明の遺伝子では、当該遺伝子がコードするタンパク質内に存在する全てのアラニンを、GCT、GCC、または、GCAという3種類のコドンによってコードしている。

【0108】
上述した3種類のコドンのうち、GCTというコドンが多いほど、生物内において、亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を安定的に発現させることができる。

【0109】
各コドンの出現頻度は特に限定されないが、例えば、タンパク質内に存在するアラニンのうちの10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または、90%以上が、GCTというコドンによってコードされ得る。

【0110】
更に具体的に、本発明の遺伝子は、以下の(3)または(4)のDNAからなるものであってもよい。つまり、
(3)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNA;
(4)配列番号3または6に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、亜リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。

【0111】
なお、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAとは、具体的には、Pseudomonas stutzeri WM88に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子であり、配列番号6に示される塩基配列からなるDNAとは、Ralstonia sp. 4506に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である。

【0112】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントな条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図されるが、ハイブリダイゼーションさせるポリヌクレオチドによって、高ストリンジェンシーでの洗浄条件は適宜変更され、例えば、哺乳類由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.5×SSC中にて65℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、E.coli由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、RNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、オリゴヌクレオチドを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にてハイブリダイゼーション温度での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましい。また、上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている周知の方法で行うことができる。

【0113】
本発明の遺伝子は、周知の方法によって作製することができる。例えば、周知の変異導入方法またはコドン変換方法にしたがって、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子内の特定のコドンを別のコドンへ置換することによって、本発明の遺伝子を作製すればよい。
【実施例】
【0114】
<1.亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、および、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコドン改変型遺伝子>
実施例に用いたアリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型遺伝子、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコドン改変型遺伝子、および、これらの遺伝子がコードするタンパク質について、以下に説明する。
【実施例】
【0115】
まず、実施例に用いたアリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型遺伝子、および、亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコドン改変型遺伝子を列挙する。
【実施例】
【0116】
a)Pseudomonas stutzeri WM88に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型遺伝子(以下、PsptxD遺伝子と呼ぶ(配列番号2));
b)Pseudomonas stutzeri WM88に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコドン改変型遺伝子(以下、OP_PsptxD遺伝子と呼ぶ(配列番号3));
c)Ralstonia sp. 4506に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型遺伝子(以下、RsptxD遺伝子と呼ぶ(配列番号5));
d)Ralstonia sp. 4506に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコドン改変型遺伝子(以下、OP_RsptxD遺伝子と呼ぶ(配列番号6));
e)Klebsiella sp. 4507に由来する亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型遺伝子(以下、KlptxD遺伝子と呼ぶ(配列番号8))。
【実施例】
【0117】
上記OP_RsptxD遺伝子は、コードされているタンパク質のアミノ酸配列を変えないように、RsptxD遺伝子内のコドンを変更した遺伝子である。
【実施例】
【0118】
具体的に、OP_RsptxD遺伝子では、RsptxD遺伝子内のアルギニンをコードするコドンである6個の「CGC」、1個の「CGA」および4個の「CGG」の全てを、アルギニンをコードするコドンである「AGA」に改変している。
【実施例】
【0119】
上記改変の結果、OP_RsptxD遺伝子は、アルギニンをコードするコドンである4個の「CGT」、11個の「AGA」および2個の「AGG」を含んでいる。
【実施例】
【0120】
つまり、OP_RsptxD遺伝子がコードしているタンパク質では、当該タンパク質内に含まれるアルギニンの約64.7%(11/17)が「AGA」によってコードされ、当該タンパク質内に含まれるアルギニンの約23.5%(4/17)が「CGT」によってコードされ、当該タンパク質内に含まれるアルギニンの約11.8%(2/17)が「AGG」によってコードされている。
【実施例】
【0121】
更に、OP_RsptxD遺伝子では、RsptxD遺伝子内のアラニンをコードするコドンである14個の「GCG」の全てを、アラニンをコードするコドンである「GCT」に改変している。
【実施例】
【0122】
上記改変の結果、OP_RsptxD遺伝子は、アラニンをコードするコドンである23個の「GCT」、10個の「GCC」および10個の「GCA」を含んでいる。
【実施例】
【0123】
つまり、OP_RsptxD遺伝子がコードしているタンパク質では、当該タンパク質内に含まれるアラニンの約53.4%(23/43)が「GCT」によってコードされ、当該タンパク質内に含まれるアラニンの約23.3%(10/43)が「GCC」によってコードされ、当該タンパク質内に含まれるアラニンの約23.3%(10/43)が「GCA」によってコードされている。
【実施例】
【0124】
一方、上記OP_PsptxD遺伝子は、コードされているタンパク質のアミノ酸配列を変えないように、PsptxD遺伝子内のコドンを変更した遺伝子である。
【実施例】
【0125】
具体的に、OP_PsptxD遺伝子では、PsptxD遺伝子内のアルギニンをコードするコドンである12個の「CGC」、2個の「CGA」および7個の「CGG」の全てを、アルギニンをコードするコドンである「AGA」に改変している。
【実施例】
【0126】
上記改変の結果、OP_PsptxD遺伝子は、アルギニンをコードするコドンである3個の「CGT」、22個の「AGA」を含んでいる。
【実施例】
【0127】
つまり、OP_PsptxD遺伝子がコードしているタンパク質では、当該タンパク質内に含まれるアルギニンの約88%(22/25)が「AGA」によってコードされ、当該タンパク質内に含まれるアルギニンの約12%(3/25)が「CGT」によってコードされている。
【実施例】
【0128】
更に、OP_PsptxD遺伝子では、PsptxD遺伝子内のアラニンをコードするコドンである22個の「GCG」の全てを、アラニンをコードするコドンである「GCT」に改変している。
【実施例】
【0129】
上記改変の結果、OP_PsptxD遺伝子は、アラニンをコードするコドンである32個の「GCT」、12個の「GCC」および6個の「GCA」を含んでいる。
【実施例】
【0130】
つまり、OP_PsptxD遺伝子がコードしているタンパク質では、当該タンパク質内に含まれるアラニンの約64%(32/50)が「GCT」によってコードされ、当該タンパク質内に含まれるアラニンの約24%(12/50)が「GCC」によってコードされ、当該タンパク質内に含まれるアラニンの約12%(6/50)が「GCA」によってコードされている。
【実施例】
【0131】
RsptxD遺伝子とOP_RsptxD遺伝子とは、単にコドンが異なるのみであって、RsptxD遺伝子がコードするタンパク質とOP_RsptxD遺伝子がコードするタンパク質とは、同一である(配列番号4)。
【実施例】
【0132】
KlptxD遺伝子がコードするタンパク質(配列番号7)は、PsptxD遺伝子がコードするタンパク質(配列番号1)と、アミノ酸レベルで相同性が非常に高い(相同性:335/337=99.4%)。それ故に、後述する実施例では、PsptxD遺伝子がコードするタンパク質の代わりとして、KlptxD遺伝子がコードするタンパク質を酵母内にて発現させている場合もある。
【実施例】
【0133】
また、PsptxD遺伝子とOP_PsptxD遺伝子とは、単にコドンが異なるのみであって、PsptxD遺伝子がコードするタンパク質とOP_PsptxD遺伝子がコードするタンパク質とは、同一である。
【実施例】
【0134】
野生型遺伝子のコドンを改変したOP_PsptxD遺伝子およびOP_RsptxD遺伝子は、周知のコドン置換法によって作製した。更に具体的には、GenScript社(Piscataway,NJ)へ依頼して、OP_PsptxD遺伝子およびOP_RsptxD遺伝子を作製した。
【実施例】
【0135】
<2.野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いた、分裂酵母の形質転換>
<2-1.発現ベクターの作製>
分裂酵母(シゾサッカロミセスポンベ:Schizosaccharomyces pombe)内にて亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を発現させるために、周知の方法にしたがって、上述したKlptxD遺伝子を挿入した発現ベクターを作製した。図1に、当該発現ベクターの基本構成を示す(Matsuyama et al. 2004, Yeast)。なお、図1の「RsptxD」と記載した箇所に、KlptxD遺伝子が挿入されている。
【実施例】
【0136】
具体的に、上記発現ベクターとしては、異なるプロモーターを含む、3種類の発現ベクターを作製した。
【実施例】
【0137】
上記発現ベクターの1つ目は、KlptxD遺伝子の上流に強力なプロモーターが挿入されている発現ベクターであって、当該発現ベクターをptxD-1と呼ぶ。
【実施例】
【0138】
上記発現ベクターの2つ目は、KlptxD遺伝子の上流に、ptxD-1に含まれるプロモーターよりも弱いプロモーターが挿入されている発現ベクターであって、当該発現ベクターをptxD-41と呼ぶ。
【実施例】
【0139】
上記発現ベクターの3つ目は、KlptxD遺伝子の上流に、ptxD-41に含まれるプロモーターよりも弱いプロモーターが挿入されている発現ベクターであって、当該発現ベクターをptxD-81と呼ぶ。
【実施例】
【0140】
上述した3種類の発現ベクターを用いて、分裂酵母であるSchizosaccharomyces pombe KSP635(Leu-)を形質転換した。なお、形質転換の具体的な方法は、周知の方法にしたがった。具体的には、以下の方法にしたがった。
【実施例】
【0141】
<2-2.形質転換>
分裂酵母を3mLのYPAD培地(Bacto Yeast extract(1%)、Bacto peptone(2%)、グルコース(2%)、硫酸アデニン(40mg))中で30℃にて一晩培養した後、300μLの培養液を分取した。
【実施例】
【0142】
当該培養液を10000rpm、3分間、室温にて遠心分離し、上清を捨てて、沈殿物である分裂酵母を取得した。その後、当該分裂酵母を、滅菌水で一回洗浄した後、酢酸リチウム溶液(0.1M 酢酸リチウム、TE(10mM Tris-HCl、1mM EDTA)pH7.5)で一回洗浄した。分裂酵母が懸濁されている酢酸リチウム溶液を10000rpm、3分間、室温にて遠心分離し、上清を捨てて、沈殿物である分裂酵母を取得した。
【実施例】
【0143】
取得した分裂酵母を100μLの酢酸リチウム溶液に懸濁し、当該懸濁液に1μgのDNA(発現ベクター)と2μLのキャリアーDNA(Clontech社)とを加え、軽く混ぜた。
【実施例】
【0144】
上記懸濁液を10分間室温にて静置させた後、当該懸濁液に50% PEG(ポリエチレングリコール(平均分子量:MW3350)、50%(w/v))を260μL加え、よく混合させた後、60分間室温にて静置させた。
【実施例】
【0145】
上記懸濁液に43μLのDMSO(dimethyl sulfoxide)を加え、よく混ぜた後、当該懸濁液を、5分間、42℃に加熱した。
【実施例】
【0146】
その後、上記懸濁液を6000rpm、2分間、室温にて遠心分離し、上清を捨てて、沈殿物である分裂酵母を取得した。当該分裂酵母を、更に滅菌水で2回洗浄して、試験に用いる分裂酵母を得た。
【実施例】
【0147】
<2-3.酵母の培養>
上記<2-2.形質転換>にて得られた分裂酵母を、2種類の液体培地中にて、30℃にて培養した。
【実施例】
【0148】
2種類の液体培地の1つとして、リン源としてリン酸を含んでいるEMM最小培地(フタル酸カリウム(3g/L)、デキストロース(20g/L)、NHCl(5g/L)、リン酸(15mM)、ミネラルおよびビタミン類を含む)を用いた。
【実施例】
【0149】
2種類の液体培地の他方として、リン源として亜リン酸を含んでいるEMM最小培地(フタル酸カリウム(3g/L)、デキストロース(20g/L)、NHCl(5g/L)、亜リン酸(15mM)、ミネラルおよびビタミン類を含む)を用いた。
【実施例】
【0150】
培養を開始してから経時的に液体培地をサンプリングし、当該液体培地のOD600を測定して、分裂酵母の増殖状況を確認した。
【実施例】
【0151】
<2-4.試験結果>
図2に、分裂酵母の増殖を表すグラフを示す。
【実施例】
【0152】
図2において「ptxD-1」は、ptxD-1を用いて形質転換された分裂酵母を、亜リン酸を含んでいるEMM最小培地にて培養した場合の試験結果を示している。
また、図2において「ptxD-1(Pi)」は、ptxD-1を用いて形質転換された分裂酵母を、リン酸を含んでいるEMM最小培地にて培養した場合の試験結果を示している。
【実施例】
【0153】
図2において「ptxD-41」は、ptxD-41を用いて形質転換された分裂酵母を、亜リン酸を含んでいるEMM最小培地にて培養した場合の試験結果を示している。
【実施例】
【0154】
図2において「ptxD-81」は、ptxD-81を用いて形質転換された分裂酵母を、亜リン酸を含んでいるEMM最小培地にて培養した場合の試験結果を示している。
【実施例】
【0155】
図2において「Control」は、RsptxD遺伝子が挿入されていない発現ベクターを用いて形質転換された分裂酵母を、亜リン酸を含んでいるEMM最小培地にて培養した場合の試験結果を示している。
【実施例】
【0156】
図2に示すように、弱いプロモーターと野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子との組み合わせの場合、分裂酵母は、亜リン酸を含む培地では増殖速度が遅いことが明らかになった。
【実施例】
【0157】
一方、図2に示すように、強いプロモーターと野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子との組み合わせの場合、分裂酵母は、リン酸を含む培地の場合と同様に、亜リン酸を含む培地において増殖速度が速いことが明らかになった。
【実施例】
【0158】
以上のことは、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を分裂酵母の選択マーカーとして使用できることを示しているが、選択マーカーとして使用するためには、強力なプロモーターが必要であることも示している。
【実施例】
【0159】
また、このことは、分裂酵母における野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いたタンパク質の発現性能は十分ではあるものの、当該発現性能については、更なる改良の余地があることを示している。
【実施例】
【0160】
<3.野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いた、出芽酵母の形質転換>
<3-1.発現ベクターの作製>
出芽酵母(サッカロミセスセレビシエ:Saccharomyces cerevisiae)内にて亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を発現させるために、周知の方法にしたがって、上述したRsptxD遺伝子を挿入した発現ベクターを作製した。図3に、当該発現ベクターの基本構成を示す。なお、図3に示すベクターは、出芽酵母用の発現ベクターであるYEp24にRsptxD遺伝子を挿入することによって作製されている。
【実施例】
【0161】
<3-2.形質転換、および、酵母の培養>
上述した<2-2.形質転換>に記載の方法にしたがって、図3に示す発現ベクターを用いて、出芽酵母を形質転換した。
【実施例】
【0162】
そして、上述した<2-3.酵母の培養>に記載の方法にしたがって、形質転換された出芽酵母を培養した。
【実施例】
【0163】
<3-3.試験結果>
図3に示す発現ベクター(換言すれば、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が挿入された発現ベクター)にて形質転換された出芽酵母は、亜リン酸を含む培地では全く増殖できなかった。
【実施例】
【0164】
更に具体的には、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が挿入された発現ベクターによって形質転換された出芽酵母は、野生型の亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が挿入された発現ベクターによって形質転換された分裂酵母と比較して、亜リン酸を含む培地における増殖能力が、はるかに劣っていた。
【実施例】
【0165】
<4.コドンを置換した亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いた、出芽酵母の形質転換-1>
<4-1.発現ベクターの作製>
出芽酵母(サッカロミセスセレビシエ:Saccharomyces cerevisiae)内にて、コドンが置換された亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いて亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質を発現させるために、周知の方法にしたがって、上述したOP_PsptxD遺伝子、または、OP_RsptxD遺伝子を挿入した発現ベクターを作製した。
【実施例】
【0166】
図4に、当該発現ベクターの基本構成を示す。なお、当該発現ベクターでは、図4に記載の「OPTptxD」の位置に、OP_PsptxD遺伝子、または、OP_RsptxD遺伝子が挿入されている。
【実施例】
【0167】
<4-2.形質転換、および、酵母の培養>
上述した<2-2.形質転換>に記載の方法にしたがって、図4に示す発現ベクターを用いて、様々な出芽酵母の株を形質転換した。
【実施例】
【0168】
具体的に、上記株としては、当該分野において一般的に用いられているW303a、Kyokai6、Kyokai7、Kyokai9、および、Shochu SH4を用いた。
【実施例】
【0169】
得られた出芽酵母の形質転換体を、リン源として亜リン酸を含んでいる、固体状のSDM最小培地(Yeast Nitrogen Base without Amino Acid and without Phosphate(Formedium)(5.8g/L)、デキストロース(2%)、亜リン酸(7.5mM))上にて、30℃にて10日間培養した。
【実施例】
【0170】
<4-3.試験結果>
10日間の培養の後、固体状のSDM最小培地上に出現したコロニーの数をカウントした。なお、各株に対して独立して3回の試験を行い、これらの3回の試験の平均値として、試験結果を算出した。
【実施例】
【0171】
以下の表に、OP_RsptxD遺伝子を挿入した発現ベクターによって形質転換された酵母の試験結果を示す。
【実施例】
【0172】
【表1】
JP2015128397A_000002t.gif
【実施例】
【0173】
表から明らかなように、コドンを置換した亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いて形質転換した酵母は、リン源として亜リン酸を含んでいる培地であっても、活発に増殖することができた。
【実施例】
【0174】
<5.コドンを置換した亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いた、出芽酵母の形質転換-2>
<5-1.発現ベクターの作製>
上述した<4-1.発現ベクターの作製>に記載の方法にしたがって、PsptxD遺伝子、または、RsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクターを作製した。
【実施例】
【0175】
<5-2.形質転換、および、酵母の培養>
PsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター、RsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター、OP_PsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター(<4-1>参照)、OP_RsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター(<4-1>参照)、および、遺伝子が挿入されていない空の発現ベクターの各々を用いて、出芽酵母の株の1つであるW303aを形質転換した。
【実施例】
【0176】
得られた5種類の形質転換体を、リン源として亜リン酸を含んでいる、液体状のSDM最小培地(Yeast Nitrogen Base without Amino Acid and without Phosphate(Formedium)(5.8g/L)、デキストロース(2%)、亜リン酸(7.5mM))中にて、30℃にて培養した。そして、経時的にSDM最小培地をサンプリングし、当該SDM最小培地のOD600(換言すれば、酵母の増殖)を測定した。
【実施例】
【0177】
<5-3.試験結果>
図5に、PsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター、RsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター、または、遺伝子が挿入されていない空の発現ベクターによって形質転換されている形質転換体の試験結果を示す。
【実施例】
【0178】
図5に示すように、これらの形質転換体は、リン源として亜リン酸を含んでいる培地では、全く増殖しなかった。
【実施例】
【0179】
図6に、OP_PsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター、OP_RsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター、または、遺伝子が挿入されていない空の発現ベクターによって形質転換されている形質転換体の試験結果を示す。
【実施例】
【0180】
図6に示すように、OP_PsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクター、または、OP_RsptxD遺伝子が挿入されている発現ベクターによって形質転換されている形質転換体は、リン源として亜リン酸を含んでいる培地において増殖することができた。
【実施例】
【0181】
なお、図5および6において「WT」は、遺伝子が挿入されていない空の発現ベクターによって形質転換されている形質転換体の試験結果を示している。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明は、出芽酵母の選択的培養に利用することができる。
【0183】
更に具体的に、本発明は、バイオ燃料の生産をはじめとする、出芽酵母を利用した物質生産の分野において広く利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5