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明細書 :出血および/または炎症の増悪抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-168665 (P2015-168665A)
公開日 平成27年9月28日(2015.9.28)
発明の名称または考案の名称 出血および/または炎症の増悪抑制剤
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61P   7/04        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
C07K  16/12        (2006.01)
C07K  14/315       (2006.01)
FI A61K 45/00 ZNA
A61P 7/04
A61P 29/00
A61K 39/395 D
A61K 39/395 N
A61K 37/02
C07K 16/12
C07K 14/315
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2014-046417 (P2014-046417)
出願日 平成26年3月10日(2014.3.10)
発明者または考案者 【氏名】梅村 和夫
【氏名】外村 和也
【氏名】仲野 和彦
【氏名】大嶋 隆
【氏名】野村 良太
【氏名】和田 孝一郎
【氏名】沖津 修
出願人 【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C085
4H045
Fターム 4C084AA01
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084NA14
4C084ZA532
4C084ZB112
4C085AA13
4C085BA14
4C085BA33
4C085CC02
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA16
4H045FA72
4H045FA73
要約 【課題】 本発明は、出血増悪性口腔細菌によって引き起こされる出血増悪を予防および/または治療するための剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 口腔細菌の菌体表面のコラーゲン結合タンパク質(CBP)と組織の損傷部位において露出するコラーゲンとの相互作用を阻害する阻害物質を含む、出血および/または炎症の増悪抑制剤を提供することにより、上記目的が達成された。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
口腔細菌の菌体表面のコラーゲン結合タンパク質(CBP)とコラーゲンとの相互作用を阻害する阻害物質を含む、出血および/または炎症の増悪抑制剤。
【請求項2】
口腔細菌が、Streptococcus mutansである、請求項1に記載の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
【請求項3】
阻害物質が、I型コラーゲンとCBPとの結合を阻害するものである、請求項1または2に記載の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
【請求項4】
阻害物質が、I型コラーゲンと配列番号139で表される配列またはその機能的同等物を含むCBPとの相互作用を阻害するものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
【請求項5】
阻害物質が、CBPのコラーゲン結合ドメインと結合する物質である、請求項1~4のいずれか一項に記載の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
【請求項6】
阻害物質が、抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
【請求項7】
阻害物質が、CBPのコラーゲン結合ドメインの配列の部分配列である、請求項1~4のいずれか一項に記載の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔細菌の菌体表面のコラーゲン結合タンパク質(CBP)とコラーゲンとの相互作用を阻害する阻害物質を含む出血および/または炎症の増悪抑制剤、前記CBPのコラーゲン結合ドメインの機能を阻害する結合阻害物質に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の損傷による出血を伴う状態として、外傷や圧力による血管の破綻による出血、出産時の出血、脳内出血などが挙げられ、例えば脳内出血の場合、出血に伴う脳の圧迫や壊死による神経組織の損傷、またはくも膜下出血などの場合は出血により誘導される大脳血管攣縮による神経症状などにより、重度の障害を生じる可能性がある。
また出血の予後を改善するためには、効果的な出血の治療(止血)のみならず、出血の増悪の予防や抑制が必要であり、また、出血が増悪するリスクを診断することも重要である。
【0003】
近年、さまざまな全身疾患に口腔細菌が関与することが指摘されている。例えば、う蝕原性細菌であるStreptococcus mutansは菌血症および感染性心内膜炎の起炎菌としても知られており、また、心臓弁および大動脈瘤検体からS. mutansの細菌DNAが検出されたことから、循環器疾患との関連性についても報告されている(非特許文献1)。また、S. mutansのうち、コラーゲン結合タンパク質(CBP)を有するものが、脳出血や炎症性大腸炎の増悪を促進することが報告されている(特許文献1、2および非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2010/113627号
【特許文献2】国際公開第2001/111790号
【0005】

【非特許文献1】Nakano et al., 2008, Japanese Dental Science Review, 44: 29-37
【非特許文献2】Nakano et al., Nature communications, 2 (2011): 485.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、口腔細菌が有するコラーゲン結合タンパク質(CBP)とコラーゲンとの相互作用を阻害することができれば効果的な出血の治療(止血)に寄与できるとの着想のもと、その阻害物質、および該口腔細菌によって引き起こされる出血増悪を予防および/または治療するための剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、血中に存在するう蝕原性細菌であるStreptococcus mutansが全身疾患に与える影響について研究する中で、S. mutansが有するコラーゲン結合タンパク質が、出血部位である血管内皮損傷部位において露出したコラーゲンに結合し、損傷部位に集積することにより、出血部位の治癒を遅延させてしまうという事実、およびコラーゲン結合タンパク質を有するS. mutansが肝細胞およびクッパー細胞に取り込まれて炎症性サイトカインの分泌を引き起こすという事実に着目した。そこでさらに研究を進め、前記コラーゲン結合タンパク質の一部分と同様のアミノ酸配列を有する10~20程度のペプチドが、CPBとコラーゲンとの相互作用を減弱させることができることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下に関する。
[1]口腔細菌の菌体表面のコラーゲン結合タンパク質(CBP)とコラーゲンとの相互作用を阻害する阻害物質を含む、出血および/または炎症の増悪抑制剤。
[2]口腔細菌が、Streptococcus mutansである、[1]の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
[3]阻害物質が、I型コラーゲンとCBPとの結合を阻害するものである、[1]または[2]の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
[4]阻害物質が、I型コラーゲンと配列番号139で表される配列またはその機能的同等物を含むCBPとの相互作用を阻害するものである、[1]~[3]の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
[5]阻害物質が、CBPのコラーゲン結合ドメインと結合する物質である、[1]~[4]の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
[6]阻害物質が、抗体である、[1]~[5]の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
[7]阻害物質が、CBPのコラーゲン結合ドメインの配列の部分配列である、[1]~[4]の出血および/または炎症の増悪抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、出血および/または炎症の増悪因子であるCBP保有口腔細菌による出血および/または炎症の増悪を防ぐことが可能となる。口腔細菌による出血および炎症の増悪は、血中に存在する口腔細菌が作用するものであると考えられる。特に出血の場合、部位特異的に発生するものではなく全身の出血部位において生じ得るものであり、発見の困難な箇所や外科的な処置が困難な箇所で出血増悪が引き起こされた場合、症状が重篤化する可能性が高い。本発明の剤は口腔細菌と出血箇所において露出するコラーゲンとの相互作用を阻害することにより出血増悪を防ぐものであり、やはり部位特異的に効果を奏するものではないため、存在が認識されていない出血箇所や、局所的な対処が困難な臓器内、脳内の出血などであっても、出血増悪を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の抗体による、出血および/または炎症増悪性口腔細菌のコラーゲン結合能の阻害効果を表すグラフである。横軸は抗体の添加量を表し、「-」はネガティブコントロールを表す。縦軸は、抗体を添加しなかった場合の菌のコラーゲン結合能を100%としたときの相対コラーゲン結合能を表す。抗体の添加量が増大すると、相対コラーゲン結合能が低下していることがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明について詳細に説明する。
(1)本発明の出血および/または炎症の増悪抑制剤
本発明は一側面において、口腔細菌の菌体表面のコラーゲン結合タンパク質(CBP)とコラーゲンとの相互作用を阻害する阻害物質を含む、出血および/または炎症の増悪抑制剤に関する。

【0012】
本発明において、「口腔細菌」とは、口腔内に常在する細菌を意味し、「口腔内細菌」と同義である。本発明における口腔細菌としては、コラーゲン結合タンパク質を菌体表面に有するものであれば特に限定されず、Streptococcus salivarius、Streptococcus mitis、Streptococcus sanguinis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus mutans、Streptococcus sobrinus、Streptococcus cricetus、Streptococcus rattus、Streptococcus downei、Streptococcus anginosus、Streptococcus sanguinis、Streptococcus oralis、Streptococcus gordonii、Porphyromonas gingivalis、Porphyromonas endodontalis、Prevotellamelaninogenica、Fusobacterium nucleatum、Bacterionema matruchotii、Propionbacterium acnes、Bacteroides fragilisなどが挙げられ、好ましくはう蝕原性細菌であるStreptococcus mutans、Streptococcus sobrinusなどが挙げられ、より好ましくは、菌体表面にI型コラーゲンと結合するCBPを有することが知られている、Streptococcus mutansである。本発明において、出血増悪因子となり得る口腔細菌を特に「出血増悪性口腔細菌」と称し、炎症増悪因子となり得る口腔細菌を「炎症増悪性口腔細菌」と称する。

【0013】
本発明において「コラーゲン結合タンパク質(CBP)」は、生体タンパク質であるコラーゲンと相互作用して結合する性質を有するタンパク質を意味する。コラーゲン結合タンパク質の配列中で、コラーゲンと相互作用する領域を特に「コラーゲン結合ドメイン」という。

【0014】
一般に「出血」はその原因により「破綻性出血」と「漏出性出血」に分類されるが、本発明の出血および/または炎症の増悪抑制剤は、特に破綻性出血に対して好ましく用いることができる。破綻性出血は、外傷、血管瘤の破裂、周辺組織から病巣の侵食など様々な原因により、血管壁が破綻することによって生じるものであり、通常は血小板凝集や血液凝固反応などによって血管壁に生じた穴を塞ぐことで出血を止めるメカニズムが生体内に存在する。例えば、破綻性出血が生じた箇所では、損傷した血管内皮においてI型コラーゲンの露出がおこり、この露出したコラーゲンにフォン・ウィルブランド因子(vWF)が結合する。血液中の血小板は、露出したコラーゲンやコラーゲンに結合したvWFに対して結合することで凝集、粘着する。この凝集した血小板から様々な活性物質を放出したり、血小板凝集塊が血流からのずり応力刺激により活性化したりすることで、血液凝固反応が進行する。また、露出したコラーゲン自身が第XII凝固因子を活性化することで血液凝固カスケードが進行する。

【0015】
口腔細菌により出血増悪が引き起こされるメカニズムは、完全に明らかにされているわけではないが、出血増悪因子である口腔細菌の菌体表面に存在するコラーゲン結合タンパク質が、損傷部位において露出したコラーゲンと相互作用することにより引き起こされると考えられる。すなわち、口腔細菌がコラーゲンと結合してしまうことにより、vWFや血小板が結合することができなくなり、またコラーゲンによる第XII凝固因子の活性化も阻害されるため、止血メカニズムが活性化しなくなると考えられる。

【0016】
また、口腔細菌により炎症増悪が引き起こされるメカニズムは、完全に明らかにされているわけではないが、炎症増悪因子である口腔細菌が、該菌体表面に存在するコラーゲン結合タンパク質(CBP)を介して肝細胞などと相互作用することによってこれらの細胞に取り込まれ、IFNγなどの炎症誘導性サイトカインの分泌を促すと考えられる。炎症増悪性口腔細菌により増悪される炎症としては、これに限定するものではないが、例えば潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患などが挙げられる。

【0017】
本発明の出血および/または炎症の増悪抑制剤は、コラーゲンと出血および/または炎症増悪性口腔細菌の菌体表面に存在するCBPとの相互作用を阻害する物質を含み、かかる阻害物質の作用により口腔細菌と血管内皮損傷部位の露出コラーゲンや肝細胞とが相互作用することを防いで、止血メカニズムの正常な活性化を促したり、炎症シグナルの開始を妨げたりするものである。一般に血管内皮の損傷部位においてはI型コラーゲンが露出することが知られている。したがって、本発明の一態様において、本発明の阻害物質は、I型コラーゲンとCBPとの結合を阻害することができる。

【0018】
本発明の一態様において、出血増悪抑制剤は、S. mutansの菌体表面に存在するCBPとI型コラーゲンとの結合を阻害する物質を含むものである。S. mutansのアンカータンパク質の1つであるCBP(Cnmとも記載される)は、分子量約120kDaのI型コラーゲン結合タンパク質であり、コラーゲン結合ドメイン(CBD、残基152~316)、B反復ドメイン(残基328~455)およびLPXTGモチーフ(残基507~511)を有する(Sato et al., 2004, Journal of Dental Research, 83(7): 534-539)。S. mutansのCBP遺伝子保有頻度は、約10~20%であり、CBP陽性株は血清型fおよびkにおいて主に発現することが知られている(Nakano et al., 2007, J. Clin. Microbiol., 45: 2616-2625)。

【0019】
本発明者らの研究により、S. mutansが保有するCBPにおいては、CBDおよびLPXTGモチーフは株間での保存性が高いが、B反復ドメインの反復(リピート)の数は株によって異なることが明らかとなった(Nomura et. al., 2009, J. Med. Microbiol., 58:469-75)。したがって本発明の一態様において、阻害物質は、I型コラーゲンと配列番号139で表される配列またはその機能的同等物を含むCBPとの相互作用を阻害するものである

【0020】
本発明において特定配列の「機能的同等物」とは、当該配列で表される分子が有する機能と同等の機能を有するものを意味する。例えばS. mutansのCBDの配列の機能的同等物といった場合、上述の通りCBDは株間での保存性が高いことが知られているため、各S. mutans株のCBPに存在するCBDは、機能的同等物に包含されると考えられる。また特定アミノ酸配列の機能的同等物には、当該アミノ酸配列と高い相同性を有するアミノ酸配列も包含される。一般的に特定アミノ酸配列と70%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、より好ましくは90%以上の相同性、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列は、特定アミノ酸配列の機能的同等物に包含される。

【0021】
特定核酸配列の機能的同等物には、当該核酸配列の相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸が含まれる。「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。またポリペプチドをコードする特定核酸配列の機能的同等物には、当該配列の縮退配列も含まれる。

【0022】
本発明の出血および/または炎症の増悪抑制剤に含まれる阻害物質は、コラーゲンと、出血増悪性口腔細菌の菌体表面のCBPとの相互作用を阻害することができる物質であれば特に限定されない。「相互作用を阻害する」とは、物質間の相互作用を低下させることを意味し、例えば相互作用する物質のどちらかに結合して相互作用を低減することや、どちらかもしくは両方の物質の発現量を低下させることで相互作用を低減させることなどが含まれる。

【0023】
CBPとコラーゲンとの相互作用を低下させる物質としては、典型的には(i)CBPに、好ましくはCBPのコラーゲン結合ドメインに結合してCBPとコラーゲンとの結合を阻害する物質、(ii)CBPのコラーゲン結合ドメインが結合するコラーゲンの領域に結合し、CBPを拮抗阻害する物質、(iii)CBPの発現を低減させる物質などが挙げられる。
CBPに、好ましくはCBPのコラーゲン結合ドメインに結合してCBPとコラーゲンとの結合を阻害する物質としては、例えばコラーゲン結合ドメインの一部または全部をエピトープとして認識する抗体などが挙げられる。

【0024】
CBP、好ましくはCBPのコラーゲン結合ドメインの一部または全部をエピトープとして認識する抗体は、当該技術分野において知られた通常の方法を用いて製造することが可能である。かかる方法としては、簡潔には例えば、エピトープ候補のポリペプチドを抗原としてラットに免疫し、該免疫ラットからリンパ球を採取し、該リンパ球とマウスミエローマ細胞とを細胞融合して抗体産生ハイブリドーマを得る、などの方法が挙げられる。

【0025】
CBPのコラーゲン結合ドメインが結合するコラーゲンの領域に結合し、CBPを拮抗阻害する物質としては、例えばCBPのコラーゲン結合ドメインの部分配列を含むポリペプチドまたはその機能的同等物などが挙げられる。かかるポリペプチドもまた、当該技術分野において知られた通常の方法を用いて製造することが可能である。かかる方法としては、簡潔には例えば、公知の配列に対して10~20アミノ酸長程度の長さのペプチドに断片化し、かかるペプチド断片とコラーゲンとの結合について検査する方法などが挙げられる。

【0026】
CBPの発現を低減させる物質としては、例えばCBPをコードする核酸配列に対するsiRNAやアンチセンス核酸などのポリヌクレオチドなどが挙げられる。かかるポリヌクレオチドもまた、当該技術分野において知られた通常の方法を用いて製造することが可能である。

【0027】
(2)本発明の阻害物質
本発明の一側面において、コラーゲンと、出血および/または炎症増悪性口腔細菌の菌体表面のCBPとの相互作用を阻害することができる新規な物質が提供される。したがって本発明には、かかる阻害物質もまた包含される。
上述のとおり、本発明の阻害物質は、組織の損傷部位において露出するコラーゲンと、出血増悪性口腔細菌の菌体表面のCBPとの相互作用を阻害することができる物質であれば特に限定されない。かかる物質の態様としては、これに限定するものではないが、例えばCBPに結合することにより、コラーゲンとCBPとの結合を阻害するもの(例えばCBP特異的抗体など)、コラーゲンと結合することにより、CBPとコラーゲンとの結合を阻害するもの(例えばコラーゲン結合性リガンドなど)、口腔細菌内でのCBPの発現を阻害するもの(例えばCBPのsiRNAなど)などが挙げられる。

【0028】
本発明の阻害物質の一態様である、CBPに結合することにより、コラーゲンとCBPとの結合を阻害するものとしては、例えばCBP特異的抗体、CBP結合性リガンドなどが挙げられる。CBPは、その配列中に存在するコラーゲン結合ドメイン(CBD)でコラーゲンと結合すると考えられており、したがって本態様の阻害物質において、好ましくはCBPのコラーゲン結合ドメインの一部または全部をエピトープとして認識するが、これに限定されない。例えばコラーゲン結合ドメイン以外の部位をエピトープとして認識するが、コラーゲン結合ドメインとコラーゲンとの結合に対して空間的に障害となるもの、CBPと結合することにより、CBPの立体構造を変化させ得るものなども含まれる。

【0029】
本発明の阻害物質の別の一態様である、コラーゲンと結合することにより、CBPとコラーゲンとの結合を阻害するものとしては、例えばCBPのコラーゲン結合ドメインの部分配列ペプチドまたはその機能的同等物などのコラーゲン結合性リガンドなどが挙げられる。本態様の阻害物質は、コラーゲンに結合する性質を有するため、血小板凝集やvWFとの結合性、第XII凝固因子の活性化などの、凝固作用におけるコラーゲンの役割に対して悪影響を与えないものが望ましい。

【0030】
本発明者らは、コラーゲンに結合する性質を有するタンパク質の一次構造を形成するアミノ酸配列の中に、コラーゲンと相互作用する配列を含む可能性を検討した結果、特に強い阻害活性を発揮する、12~16アミノ酸長の13個のペプチド配列を見出し、そのうちの5つの配列において共通するコンセンサス配列(FLNINNE:配列番号138)が存在し、さらに5つの配列においてかかるコンセンサス配列と類似する配列を含むという知見を新たに見出した。したがって本発明は一態様において、かかる阻害活性を有する表1に記載の13の阻害活性ペプチド配列、好ましくは前記コンセンサス配列を有する10の阻害活性ペプチド配列に関する。なお、ここで「コンセンサス配列と類似する配列」とは、上記コンセンサス配列のうち1~3程度のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を意味し、ここで、置換される場合は、好ましくは同一分類のアミノ酸で置換される。アミノ酸分類については、着目する性質によっていくつかの分類が存在するが、すべて当該技術分野において公知であり、当業者であればただちにアミノ酸分類を理解できる。一例を挙げれば、フェニルアラニン(F)は中性アミノ酸のうち芳香族アミノ酸に分類され、同一分類のアミノ酸としてはチロシン(Y)、トリプトファン(W)などが挙げられる。ロイシン(L)およびイソロイシン(I)は、中性アミノ酸のうち脂肪族アミノ酸に分類され、同一分類のアミノ酸としては、グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)などが挙げられる。アスパラギン(N)は、中性アミノ酸のうち酢酸アミノ酸アミドに分類され、同一分類のアミノ酸としてはグルタミン(Q)などが挙げられる。グルタミン酸(E)は酸性アミノ酸に分類され、同一分類のアミノ酸としてはアスパラギン酸(D)などが挙げられる。
【表1】
JP2015168665A_000002t.gif

【0031】
本発明の阻害物質のさらに別の一態様である、口腔細菌内でのCBPの発現を阻害するものとしては、例えばCBPに対するsiRNAなどが挙げられる。

【0032】
(3)本発明の出血増悪の治療および予防方法
本発明は、新規な出血および/または炎症の増悪抑制剤を提供するものであり、したがって本発明の一側面において、対象における出血および/または炎症の増悪を予防および/または治療する方法であって、本発明の出血および/または炎症の増悪抑制剤の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法もまた、本発明に包含される。
本発明における「対象」は、出血および/または炎症増悪性の口腔細菌を保有し得る生物個体であればいかなる生物個体であってもよいが、好ましくはヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯類、チンパンジーなどの霊長類、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコなど)の個体であり、より好ましくはヒトの個体である。対象は出血箇所を有していてもいなくてもよいが、出血および/または炎症の増悪性口腔細菌を保有している。

【0033】
本発明の予防/治療方法に用いる本発明の出血および/または炎症の増悪抑制剤としては、本明細書に記載の任意のものが挙げられる。本発明における有効量とは、例えば、出血の進行を遅延もしくは停止する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、マウス、ラットなどのモデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。有効成分の具体的な用量は、それを必要とする対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、剤形、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。

【0034】
また、投与方法としては、動脈内投与、静脈内投与、口腔内投与など、出血増悪性口腔細菌の存在し得る箇所への、既知の任意の適切な投与方法を用いることができる。特に好ましいのは静脈内投与である。
本発明の予防/治療方法の一態様は、投与する工程の前に、出血増悪性口腔細菌を保有している対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含む。

【0035】
本明細書中で言及する全ての特許、出願および他の出版物は、その全体を参照により本明細書に援用する。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、単に「コラーゲン結合タンパク質」または「CBP」という場合、DDBJアクセッション番号:AB1026892のコラーゲン結合タンパク質を意味する。
【実施例】
【0036】
実験例1:結合阻害性ペプチドの探索
Streptococcus mutans由来のコラーゲン結合タンパク質(DDBJアクセッション番号:AB1026892)、Staphylococcus aureus由来のコラーゲン結合タンパク質(PDBjアクセッション番号:2F6A)およびコラーゲンタンパク質の一次構造についての公開情報をもとに、ペプチドマッピング等の手法を用いて適当な長さのペプチドに分断分割した。これにより、AB1026892について、N末側アライメントから31配列、C末側拡張アライメントから38配列の計69配列、および2F6Aについて、N末側アライメントから29配列、C末側拡張アライメントから9配列の計38配列、コラーゲンタンパク質由来の4配列の計111配列を得た。さらにこれらの配列を一次評価した結果ヒットしたいくつかの配列をさらに短鎖化、活性増強化した64配列を合わせ、前記タンパク質の一次配列の部分ペプチドまたはそれに類似する配列である137配列を得た。
【実施例】
【0037】
実験例2:コラーゲン結合阻害活性の測定
実験例1で得られた137配列について、これらペプチドを作用させた際のCBP保有菌のコラーゲン結合能を測定し、コントロールの結合能を100%として比較することで、各ペプチドのコラーゲン結合阻害活性を算出した。
(1)サンプルの調整
測定には、CBP保有菌であるStreptococcus mutans TW871株およびTW295株を用いた(菌株の詳細についてはFujiwara et al., Eur. J. Oral Sci. 109, 330-334 (2001)参照)。OD500=1.0となるように菌懸濁液をPBSで調整し、該菌懸濁液をさらに10倍に希釈したものを菌液として使用した。調製した菌液1mlに、実験例1のペプチドを終濃度10μMとなるように加え、約20rpm、室温で1時間回転させながら反応させた。コントロールとしてTW871株をペプチドと混合せずに用い、TW295株はペプチドと混合して用いた。
【実施例】
【0038】
(2)コラーゲン結合能の測定
96ウェル組織培養プレート(Becton Dickinson)に、0.1Mの酢酸を添加した滅菌蒸留水とI型コラーゲン(Sigma)を 9:1の割合で混合した溶液を200μl添加し、4℃で一晩インキュベートした。その後プレートをPBSで3回洗浄し、5%ウシ血清アルブミン入りPBSを200μl添加し、37℃で1時間半インキュベートしてブロッキングした。ウェルを0.01%のTween20(和光純薬)を加えたPBSで洗浄したのち、(1)で調製した菌液を200μl播種し、37℃で3時間培養した。その後PBSで3回洗浄し、25%のホルムアルデヒドを200μl加え、室温で30分間静置して固定した。さらにPBSで3回洗浄したのち、滅菌蒸留水に0.05%のクリスタルバイオレット(和光純薬)を加えた溶液を200μl添加して室温で1分間静置し、再度PBSで3回洗浄し、7%の酢酸を加えて吸光度(OD595)を測定した。コントロールの吸光度を100%とし、吸光度の増減により、各ペプチドの結合阻害活性を算出した。結果を下表に示す。
【実施例】
【0039】
【表2-1】
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【実施例】
【0040】
【表2-2】
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【実施例】
【0041】
【表2-3】
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【実施例】
【0042】
上記表に示す通り、ペプチドの中でCBPとコラーゲンとの結合を阻害する性質を有するペプチドが見られた。中でも強い阻害活性(コラーゲン結合能80%以下)を示したペプチドが13個確認された。そのうち10配列において共通するコンセンサス配列(FLNINNE(配列番号138))かまたはそれに類似する配列が見いだされた。
また、阻害活性を示したペプチドが有する一次配列は、コラーゲンとCBPとの相互作用に関与する部分の一次配列であると考えられるため、かかる一次配列をエピトープとする抗体もまた、コラーゲンとCBPとの相互作用を阻害することができるものと考えられる。
【実施例】
【0043】
(3)抗体の作製
CBPを認識するモノクローナル抗体を、常法で作成した。簡潔には、10週齢のメスのラットを53μgのGST-CBPタンパク質で免疫および18日後に40μgのGST-CBPタンパク質で追加免疫した。免疫ラットの腸骨リンパ節からリンパ球を採取し、マウスミエローマ細胞SP2とPEG法で融合してハイブリドーマを作製した。その結果、CBPを特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマが得られた。
同様の方法で、上記実験例1で得られた部分ペプチドを特異的に認識する抗体も得ることができると考えられる。
【実施例】
【0044】
(4)抗体のコラーゲン結合阻害能の測定
(3)で作製したモノクローナル抗体について、コラーゲン結合阻害能を測定した。コラーゲン結合阻害能は(2)を改変して行った。すなわち、(1)の菌液の調整において、ペプチドの添加に代えて、所定量のモノクローナル抗体を加えた。コントロールとしてはTW871株に抗体を加えなかったもの(1)のほかに、TW295株に抗体を加えなかったもの(2)も用いた。結果を下表に示す。また、(2)の結果をグラフで表したものを図1に示す。
【実施例】
【0045】
【表3】
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表からわかるとおり、抗体の添加量を増加させると、それに応じて菌のコラーゲン結合能が低下していることがわかる。したがって、上記モノクローナル抗体は、用量依存的に菌のコラーゲン結合能を阻害することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、新規な出血および/または炎症の増悪抑制剤が提供される。かかる剤は、コラーゲンとCBPとの相互作用を阻害する新規な阻害物質を含み、かかる阻害物質の作用により、出血および/または炎症増悪性口腔細菌に起因する出血および/または炎症の増悪を予防および/または治療することができる。特に対象が出血増悪口腔細菌を保有している場合、身体のあらゆる場所における出血が増悪される可能性があり、したがって特に循環器系の疾患などの症状が悪化しやすい、出血に伴う虚血や圧排などによりさらに症状が悪化しやすいなどのリスクを伴うが、本発明の剤によれば、これらのリスクを低減できるので有用である。
図面
【図1】
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