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明細書 :ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcusbraunii)細胞への核酸導入方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-181402 (P2015-181402A)
公開日 平成27年10月22日(2015.10.22)
発明の名称または考案の名称 ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcusbraunii)細胞への核酸導入方法
国際特許分類 C12N   1/13        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 1/13
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2014-060872 (P2014-060872)
出願日 平成26年3月24日(2014.3.24)
発明者または考案者 【氏名】五百城 幹英
【氏名】中嶋 信美
【氏名】早川 靖彦
【氏名】松本 光二朗
【氏名】渡邉 信
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087871、【弁理士】、【氏名又は名称】福本 積
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100117019、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 陽一
【識別番号】100150810、【弁理士】、【氏名又は名称】武居 良太郎
【識別番号】100182730、【弁理士】、【氏名又は名称】大島 浩明
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B065
Fターム 4B024AA20
4B024CA01
4B024CA11
4B024DA20
4B024FA02
4B024FA07
4B024GA14
4B065AA83X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
要約 【課題】本発明は、ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)細胞への核酸の導入方法、当該方法により核酸が導入されたボトリオコッカス・ブラウニー細胞、当該核酸がゲノム内に保持されたボトリオコッカス・ブラウニー細胞の生産方法、及び当該細胞株により炭化水素を生産する方法を提供する。
【解決手段】本発明者らは、ボトリオコッカス・ブラウニーが細胞周囲に形成する外殻の障壁を排除して核酸を細胞内に導入する技術について鋭意研究を行い、試行錯誤の結果、培養の過程で低頻度で生じる外殻を欠損した集団を単離し、その集団に対してエレクトロポレーションを行うことで、良好な効率で核酸導入が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)細胞に核酸を導入する方法であって、以下の工程:
前記細胞の外殻を欠損した集団を取得する工程;
前記集団を核酸導入手段に供する工程;及び
核酸が導入された細胞をスクリーニングする工程;
を含む方法。
【請求項2】
前記核酸導入手段がエレクトロポレーション法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞の外殻を欠損した集団が、ボトリオコッカス・ブラウニー細胞を培養維持する過程で自然発生的に出現するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞の外殻を欠損した集団が、外殻の完全性に基づく任意の分画手段を利用して取得される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記分画手段が遠心分離である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記分画手段において、完全な外殻を有する集団と欠損した集団が混在するボトリオコッカス・ブラウニー細胞培養物を、0.7~1.0Mのショ糖溶液に懸濁し、当該懸濁物を遠心分離して、優先して沈降した分画として外殻を欠損した集団が回収される、請求項4又は5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記エレクトロポレーション法が、以下の工程;
前記外殻を欠損した細胞を、エレクトロポレーション用緩衝液に懸濁する工程;
当該懸濁物に導入すべき核酸を添加する工程;
当該懸濁物をエレクトロポレーション用キュベットの中に配置する工程;及び
当該キュベットをエレクトロポレーション装置に設置し、エレクトロポレーションを実行する工程;
を含む、請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記エレクトロポレーション用緩衝液が、マンニトール、CaCl及びMgClを添加したフェノールレッド不含Opti-MEM(登録商標)Reduced Serum Medium(Life Technologies社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記エレクトロポレーション装置が、NEPA21エレクトロポレーション装置(ネッパジーン株式会社、市川市、千葉、日本)である、請求項7又は8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記核酸が、導入されたボトリオコッカス・ブラウニーの炭化水素生産効率に影響を及ぼすものである、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法を用いて取得された、核酸が導入されたボトリオコッカス・ブラウニー細胞。
【請求項12】
以下の工程:
請求項11に記載の細胞から、導入された核酸がゲノム内に保持されている細胞クローンを単離する工程;
を含む、形質転換ボトリオコッカス・ブラウニー細胞株を生産する方法。
【請求項13】
請求項11に記載の核酸が導入されたボトリオコッカス・ブラウニー細胞、又は請求項12に記載の方法により生産された形質転換ボトリオコッカス・ブラウニー細胞株を用いて、炭化水素を生産する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)細胞への核酸の導入方法、当該方法により核酸が導入されたボトリオコッカス・ブラウニー細胞、当該核酸がゲノム内に保持されたボトリオコッカス・ブラウニー細胞の生産方法、及び当該細胞株により炭化水素を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として大気中の二酸化炭素削減技術の開発が盛んに進められている。また、化石燃料枯渇に対する危機感から、再生可能なエネルギーの開発も進められている。再生可能エネルギーには太陽光発電、風力発電が実用化されているが、光エネルギーにより水と二酸化炭素を炭化水素に変換する光合成生物の利用も、いわゆるカーボンニュートラルなエネルギー技術として関心が集まっている。
【0003】
エネルギー資源として注目されている光合成生物として藻類が挙げられ、中でも緑藻類及び珪藻類が注目されている。通常の緑藻類は、その構成成分中の15~17%が脂質であり、この脂質は、中性脂質(30%)、糖脂質(37%)、リン脂質(26%)及び脂肪酸を含まない脂質(7%)等である。
【0004】
近年、油生産緑藻として注目を集めているのが、群体性単細胞緑藻ボトリオコッカス・ブラウニーである。ボトリオコッカス・ブラウニーは淡水から汽水の湖沼に生息する緑藻類の一種であり、細胞内及び細胞外に直鎖アルケンやトリテルペン等の炭化水素を主成分とする油を蓄積することが知られている。上記のように一般的な藻類が生産する油がトリグリセリド(油脂)を主成分としていることと比較して、特異な性質である(Banerjee他、2002年;MetzgerとLargeau、2005年)。
【0005】
ボトリオコッカス・ブラウニーは、工業的利用価値の高い炭化水素を安定供給する技術に繋がるものとして注目されており、事業化を見据えた高効率の培養技術の開発が進められている。例えば、特開2010-252700において、新規アスティカカウリス・エキセントリカス菌株とボトリオコッカス藻類を共培養することにより、混入細菌による増殖阻害を軽減しつつ、ボトリオコッカスを高効率で培養できることが示されている。また、特開2012-85540において、ボトリオコッカス・ブラウニーに定常的に炭化水素を合成させ、炭化水素抽出に繰り返し利用する炭化水素生産系が開示されている。
【0006】
ボトリオコッカス・ブラウニーの増殖は遅く、油含有量はさまざまであるため、ボトリオコッカス・ブラウニーを用いたコスト効率のよい油生産を実現するには、改良された株の開発も必要である。炭化水素の生産に適した性質を有するボトリオコッカス・ブラウニー株の単離が試みられている。例えば、特開2013-243943において、直鎖飽和型の炭化水素を生産するボトリオコッカス・ブラウニーの新規株が樹立されており、当該株は、不安定で酸化され易い飽和型炭化水素を生産する通常のボトリオコッカス・ブラウニーと比較して、工業的利用価値が高い。
【0007】
所望の形質を有する株を樹立する簡便な方法として、遺伝子組み換え技術を利用した品種改良が想定される。例えば、特開2004-33070において、抗酸化剤アスタキサンチンを生合成する緑藻ヘマトコッカスの遺伝子操作による改良を可能とするため、外来遺伝子を導入する方法が検討されている。また、クラミドモナス・ラインハルドテイ(Chlamydomonas reinhardtii)、クロレラ類(Chlorella spp.)、ドゥナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)やヘマトコッカス・プルヴィアリス(Haematococcus pluvialis)などの工業的に重要な藻種の株において、遺伝子組み換えによる改良が行われたことも報告されている((Gong他、2011年;Bai他、2013年;Geng他、2003年;Kobayashi他、2011年;SteinbrennerとSandmann、2006年;Saei他、2012年)。
【0008】
しかしながら、ボトリオコッカス・ブラウニーにおいて、細胞内への核酸導入が従来極めて困難であったため、遺伝子組み換え技術を利用することが出来なかった。そのため、ボトリオコッカス・ブラウニーにおける炭化水素の生産に適した性質を有する株の樹立は、従来、特定の形質を有する株の自然発生、あるいは変異原処理による誘導等の、非効率かつ柔軟性を欠く手段に頼らざるを得なかった。したがって、斯かる障壁を克服して同種への遺伝子導入を達成する技術を開発することは、同種の遺伝子改変技術の足掛かりとなり、炭化水素生産に有利な性質を有する変異株の樹立に大いに貢献するものとして強く望まれていた(Beer他、2009年;Ioki他、2013年;Radakovits他、2010年)。
【0009】
また、ボトリオコッカス・ブラウニーにおいて外来遺伝子を少なくとも一過的に強制発現する技術が開発されれば、同藻類において生理的及び発生的事象に関与する細胞内シグナル伝達系の分子メカニズムを解明する試験に直接利用され得る(Yoo他、2007年)。斯かる一過的遺伝子発現系の用途は、近年の同藻類の遺伝学研究者によりなされた、同藻類において油の生合成に関与する重要な遺伝子及び基礎的な遺伝的特徴の解明や、トランスクリプトーム配列のデータベース作成等の成果(Niehaus他、2011年;Baba他、2012年;Ioki他、2012a、2012b、2012c、2013年;Molnar他、2012年;Okada他、2010年)に基づき、顕著に拡張され得る。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】:特開2010-252700号公報
【特許文献2】:特開2012-85540号公報
【特許文献3】:特開2013-243943号公報
【特許文献4】:特開2004-33070号公報
【0011】

【非特許文献1】:Banerjee, A., Sharma, R., Chisti, Y., Banerjee, U.C., 2002. Botryococcus braunii: a renewable source of hydrocarbons and other chemicals. Crit Rev Biotechnol. 22(3), 245-279.
【非特許文献2】:Metzger, P., Largeau, C., 2005. Botryococcus braunii: a rich source for hydrocarbons and related ether lipids. Appl Microbiol Biotechnol. 66(5), 486-496.
【非特許文献3】:Geng, D., Wang, Y., Wang, P., Li, W., Sun, Y., 2003. Stable expression of hepatitis B surface antigen gene in Dunaliella salina (Chlorophyta). J Appl Phycol 15, 451-456.
【非特許文献4】:Kobayashi, T., Sakaguchi, K., Matsuda, T., Abe, E., Hama, Y., Hayashi, M., Honda, D., Okita, Y., Sugimoto, S., Okino, N., Ito, M., 2011. Increase of eicosapentaenoic acid in thraustochytrids through thraustochytrid ubiquitin promoter-driven expression of a fatty acid Δ5 desaturase gene. Appl Environ Microbiol 77(11), 3870-3876.
【非特許文献5】:Steinbrenner, J., Sandmann, G., 2006. Transformation of the green alga Haematococcus pluvialis with a phytoene desaturase for accelerated astaxanthin biosynthesis. Appl Environ Microbiol 72(12), 7477-7484.
【非特許文献6】:Saei, A.A., Ghanbari, P., Barzegari, A., 2012. Haematococcus as a promising cell factory to produce recombinant pharmaceutical proteins. Mol Biol Rep 39(11), 9931-9939.
【非特許文献7】:Beer, L.L., Boyd, E.S., Peters, J.W and Posewitz, M.C. 2009. Engineering algae for biohydrogen and biofuel production. Current opinion in biotechnology 20: 264-271.
【非特許文献8】:Ioki, M., Baba, M., Nakajima, N., Shiraiwa, Y., Watanabe, M.M., 2013. Codon usage of Botryococcus braunii (Trebouxiophyceae, Chlorophyta): implications for genetic engineering applications. Phycologia 52, 352-356.
【非特許文献9】:Radakovits, R., Jinkerson, R.E., Darzins, A and Posewitz, C. 2010. Genetic Engineering of Algae for Enhanced Biofuel Production. Eukaryotic Cell 9: 486-501.
【非特許文献10】:Yoo, S.D., Cho, Y.H., Sheen, J., 2007. Arabidopsis mesophyll protoplasts: a versatile cell system for transient gene expression analysis. Nature Protocols 2, 1565-1572.
【非特許文献11】:Niehaus, T.D., Okada, S., Devarenne, T.P., Watt, D.S., Sviripa, V., Chappell, J. 2011. Identification of unique mechanisms for triterpene biosynthesis in Botryococcus braunii. Proc Natl Acad Sci U S A. 108(30), 12260-12265.
【非特許文献12】:Baba, M., Ioki, M., Nakajima, N., Shiraiwa, Y., Watanabe, M.M., 2012. Transcriptome analysis of an oil-rich race A strain of Botryococcus braunii (BOT-88-2) by de novo assembly of pyrosequencing cDNA reads. Bioresour Technol. 109, 282-286.
【非特許文献13】:Ioki, M., Baba, M., Nakajima, N., Shiraiwa, Y., Watanabe, M.M., 2012a. Transcriptome analysis of an oil-rich race B strain of Botryococcus braunii (BOT-22) by de novo assembly of pyrosequencing cDNA reads. Bioresour Technol. 109, 292-296.
【非特許文献14】:Ioki, M., Baba, M., Nakajima, N., Shiraiwa, Y., Watanabe, M.M., 2012b. Transcriptome analysis of an oil-rich race B strain of Botryococcus braunii (BOT-70) by de novo assembly of 5’-end sequences of full-length cDNA clones. Bioresour Technol. 109, 277-281.
【非特許文献15】:Ioki, M., Baba, M., Bidadi, H., Suzuki, I., Shiraiwa, Y., Watanabe, M.M., Nakajima, N., 2012c. Modes of hydrocarbon oil biosynthesis revealed by comparative gene expression analysis for race A and race B strains of Botryococcus braunii. Bioresour Technol. 109, 271-276.
【非特許文献16】:Okada, S., Devarenne, T.P., Chappell, J., 2000. Molecular characterization of squalene synthase from the green microalga Botryococcus braunii, race B. Arch. Biochem. Biophys. 373(2), 307-317.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の状況に鑑み、ボトリオコッカス・ブラウニー細胞への核酸の導入方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ボトリオコッカス・ブラウニーは、化学的に耐性を有する堅固なカプセル状の外殻構造に被覆されていることが知られていた(Tanoi他、2014年;Weiss他、2012年;Demetrescu、1998年;MetzgerとLargeau、1999年;Berkaloff他、1983年;Derenne他、1989年、1990年;Kadouri他、1988年;Largeau他、1986年;Allard他、1997年;Kaya、2010年;Templier他、1992年)。斯かる堅固な外殻は、当該藻類のDNA操作技術の発達を阻害するものであった。当該外殻は、頂部キャップと底部カップ分離可能な2つの部分から形成される(Tanoi他、2014年;Weiss他、2012年;Demetrescu、1998年;MetzgerとLargeau、1999年)。底部カップが炭化水素バイオポリマー(アルゲナン)で構成されることは判明していたが、頂部キャップの化学組成は不明である(Demetrescu、1998年;Metzger及びLargeau、1999年;Berkaloff他、1983年;Derenne他、1989年、1990年;Kadouri他、1988年;Largeau他、1986年;Allard他、1997年;Kaya、2010年;Templier他、1992年)。本発明者らは、ボトリオコッカス・ブラウニーが細胞周囲に形成する外殻の障壁を排除して核酸を細胞内に導入する技術について鋭意研究を行い、試行錯誤の結果、培養の過程で低頻度で生じる外殻を欠損した集団を単離し、その集団に対してエレクトロポレーションを行うことで、良好な効率で核酸導入が可能となることを見出した。斯かる驚異的な発見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0014】
従って、本願は、以下の発明を提供する。
【0015】
1.ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)細胞に核酸を導入する方法であって、以下の工程:
前記細胞の外殻を欠損した集団を取得する工程;
前記集団を核酸導入手段に供する工程;及び
核酸が導入された細胞をスクリーニングする工程;
を含む方法。
2.前記核酸導入手段がエレクトロポレーション法である、項目1に記載の方法。
3.前記細胞の外殻を欠損した集団が、ボトリオコッカス・ブラウニー細胞を培養維持する過程で自然発生的に出現するものである、項目1に記載の方法。
4.前記細胞の外殻を欠損した集団が、外殻の完全性に基づく任意の分画手段を利用して取得される、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
5.前記分画手段が遠心分離である、項目4に記載の方法。
6.前記分画手段において、完全な外殻を有する集団と欠損した集団が混在するボトリオコッカス・ブラウニー細胞培養物を、0.7~1.0Mのショ糖溶液に懸濁し、当該懸濁物を遠心分離して、優先して沈降した分画として外殻を欠損した集団が回収される、項目4又は5のいずれかに記載の方法。
7.前記エレクトロポレーション法が、以下の工程;
前記外殻を欠損した細胞を、エレクトロポレーション用緩衝液に懸濁する工程;
当該懸濁物に導入すべき核酸を添加する工程;
当該懸濁物をエレクトロポレーション用キュベットの中に配置する工程;及び
当該キュベットをエレクトロポレーション装置に設置し、エレクトロポレーションを実行する工程;
を含む、項目2~6のいずれか1項に記載の方法。
8.前記エレクトロポレーション用緩衝液が、マンニトール、CaCl2及びMgCl2を添加したフェノールレッド不含Opti-MEM(登録商標)Reduced Serum Medium(Life Technologies社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)である、項目7に記載の方法。
9.前記エレクトロポレーション装置が、NEPA21エレクトロポレーション装置(ネッパジーン株式会社、市川市、千葉、日本)である、項目7又は8のいずれかに記載の方法。
10.前記核酸が、導入されたボトリオコッカス・ブラウニーの炭化水素生産効率に影響を及ぼすものである、項目1~9のいずれか1項に記載の方法。
11.項目1~10のいずれか1項に記載の方法を用いて取得された、核酸が導入されたボトリオコッカス・ブラウニー細胞。
12.以下の工程:
項目11に記載の細胞から、導入された核酸がゲノム内に保持されている細胞クローンを単離する工程;
を含む、形質転換ボトリオコッカス・ブラウニー細胞株を生産する方法。
13.項目11に記載の核酸が導入されたボトリオコッカス・ブラウニー細胞、又は項目12に記載の方法により生産された形質転換ボトリオコッカス・ブラウニー細胞株を用いて、炭化水素を生産する方法。
【発明の効果】
【0016】
従来不可能であったボトリオコッカス・ブラウニーへの遺伝子導入手段が提供されることにより、遺伝子組み換え技術による所望の形質を有する細胞株の樹立が可能となる。故に、本発明は、同藻類の品種改良を著しく促進し、それらを用いた炭化水素生産技術の発展に大いに貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1aは、通常の培養条件下でのボトリオコッカス・ブラウニー群体の明視野(左欄)及び蛍光(右欄)の画像を示す。蛍光画像の緑色は、ナイルレッドで染色された油である。下段のパネルは上段の点線で選択した領域の拡大図であり、バーは5μmを示す。図1bは、本発明の方法により単離された外殻を欠損したボトリオコッカス・ブラウニー単細胞の明視野(左欄)及び蛍光(右欄)の画像を示す。蛍光画像の緑色は、ナイルレッドで染色された油である。下段のパネルは上段の点線で選択した領域の拡大図である(図1a下段バーが適用)。

【0018】
【図2】1Mショ糖水溶液中における沈降の時間差を利用して単離した外殻を欠損したボトリオコッカス・ブラウニー細胞にエレクトロポレーションでGUS(β-グルクロニダーゼ)遺伝子を導入したもの(左)と対照(右)の明視野画像を示す。GUSが発現した細胞は、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルクロニド(X-Gluc)シクロヘキシルアンモニウム塩を分解して青色を呈する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.材料及び装置
1.1.ボトリオコッカス・ブラウニー細胞
本発明において遺伝子導入に使用されるボトリオコッカス・ブラウニーは、湖沼や池から採取した、ボトリオコッカス属の藻類を含むサンプルから、以下の方法を用いて分離することができる。

【0020】
上記のボトリオコッカス属の藻類を含むサンプルは、例えば、湖沼や池から、網目30~100μmのプランクトンネット等を用いて採取できる。

【0021】
上記のボトリオコッカス属の藻類を含むサンプルに、次亜塩素酸ナトリウム(以下有効塩素)を作用させ、ボトリオコッカス属以外の微生物を殺菌する。この場合、処理されるサンプルを、あらかじめ適当な培地で培養して藻類を増殖させておいてもよい。培地としては、CHU培地、JM培地、MDM培地、AF-6培地等が挙げられるが、ボトリオコッカス属の藻類の培地として適切なものであれば、特に制限されない。また、この有効塩素を作用させる前に、ボトリオコッカス属のコロニーを、例えば遠心分離、濾過、又は顕微鏡下でマイクロピペットを用いる等の手段により分離してもよい。

【0022】
上記の通りサンプルを有効塩素で処理した後に、当該サンプルをそのまま本発明の材料として使用してもよいが、藻体を濾過又は遠心分離等により分離し、培養液に懸濁する操作を繰り返すことなどにより洗浄することが好ましい。

【0023】
続いて、上記有効塩素で処理したサンプルを、ボトリオコッカス属の藻類の培養に適したプレート培地、例えば、CHU培地、JM培地、MDM培地、AF-6培地等のプレート培地に塗布して培養を行う。培地のpHは、pH1~14、好ましくは、pH2~13、より好ましくはpH3~11、さらにより好ましくは、pH4~10とすることができる。培養温度は、通常10~50℃、好ましくは15~40℃、より好ましくは20~30℃の範囲で行うことができる。また、培養は蛍光灯等を用いて光照射下で行う。この光照射は、連続で行っても、間隔を置いて一定時間照射してもよい。時間間隔としては、1~72時間、好ましくは1~24時間、より好ましくは1~12時間から選択できる。また、照度は、通常10~300μE/m/秒、好ましくは、40~100μE/m/秒で行う。培養期間は、通常、1~60日、好ましくは1~30日間行う。

【0024】
その後、プレート培地に生じたボトリオコッカス・ブラウニーの単一コロニーを採取することにより、ボトリオコッカス・ブラウニーの単一株が得られる。単一コロニーを採取する際は、顕微鏡下で行ってもよい。

【0025】
採取されたボトリオコッカス・ブラウニー単一株は、当業者にとってありふれた手法を用いて増幅及び凍結保存され、必要に応じてその一部が本発明の核酸導入に供されてもよい。

【0026】
本発明の方法に供されるボトリオコッカス・ブラウニー株は、適切な培地の中で、適切な通気及び光照射条件下で、所望の細胞密度に達するまで培養される。好ましくは、増殖が定常期に達するまで(例えば日齢30~50日)培養が続行される。当該培養期間中、必要に応じて、使用している培地に適切な頻度で新鮮な培地を追加することにより、好適な培地組成及び細胞密度を維持しつつ培養が続行されてもよい。

【0027】
ボトリオコッカス・ブラウニーの形態的特徴は、以下のようである。肉眼で見えるコロニーは球形で、黄緑色~緑色である。顕微鏡下で押し潰すとブドウの房状のコロニーとして観察される。コロニーのサイズは平均的には30-100μm、最大で500μmに達する。コロニーを構成する細胞は、こん棒状で、細胞壁を有し、更にその周りに外殻を形成し得る。細胞の大きさは短径約8μm、長径約14μmで、その比は1.8程度である。細胞から分泌された炭化水素は細胞と外殻に間に蓄積され得る。

【0028】
前記外殻は堅固なカプセル様構造を有し、その内部に細胞を閉じ込めている(Tanoi他、2014年;Weiss他、2012年;Demetrescu、1998年;MetzgerとLargeau、1999年;Berkaloff他、1983年;Derenne他、1989年、1990年;Kadouri他、1988年;Largeau他、1986年;Allard他、1997年;Kaya、2010年;Templier他、1992年)。

【0029】
前記外殻は、2つの分離可能な部分、すなわち頂部キャップと底部カップからなる(Tanoi他、2014年;Weiss他、2012年;Demetrescu、1998年;MetzgerとLargeau、1999年)。発明者らは、これら2つの構造が培養過程で低頻度で分離し、その際に内部に閉じ込められていた細胞が底部カップを脱出することがあることを見出した。

【0030】
ボトリオコッカス・ブラウニーは、炭素源としてCO2を利用し、光合成で増殖する。

【0031】
1.2.核酸
核酸は、導入された藻類の生理活性に何らかの影響を及ぼすヌクレオチドであって、好ましくは、核酸としては、任意のポリペプチドをコードするDNA、トランスポゾン、任意の遺伝子に対する各種siRNA、アンチセンスRNA及びそれらをコードするDNAが想定される。

【0032】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えば任意のポリペプチドをコードするDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの生産を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたベクターとして用いられる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。所望により2種以上の核酸をひとつのベクターに含めることも可能である。

【0033】
本発明の方法において導入される核酸として、炭化水素の生合成に関連する遺伝子の発現系が想定され得る。例えば、ボトリオコッカス・ブラウニーにおいて、炭化水素生合成関連遺伝子と、トランスクリプトーム配列の大きなデータセットの詳細な分析結果が報告されており(Niehaus他、2011年;Baba他、2012年;Ioki他、2012年a、2012年b、2012年c;Molnar他、2012年;Okada他、2010年)、それらの情報に基づいて所望の遺伝子発現系を構築することが可能である。また、ボトリオコッカス・ブラウニーは、他の緑藻と比較してコドンの使用に偏りが少ないことから、高等植物や動物に由来する遺伝子の利用も想定され得る(Ioki他、2013年)。

【0034】
2.核酸導入条件
2.1.細胞の前処理
発明者らは、ボトリオコッカス・ブラウニーが細胞周囲に形成する外殻構造の生理を詳細に研究し、ボトリオコッカス・ブラウニーの培養の過程で、低頻度ながら外殻を欠損した細胞(以下、外殻欠損細胞と表記する)が存在することを初めて見出した。そこで、発明者らは、培養藻類中に僅かに存在するそのような外殻欠損細胞を単離することが出来れば、それらに対して高効率で核酸の導入が可能となると考えた。

【0035】
外殻欠損細胞は、完全な外殻を有するボトリオコッカス・ブラウニー細胞の外殻の少なくとも一部を欠損した細胞を意味する。外殻の一部が欠損することにより、導入核酸が欠損部位を通って細胞表面(細胞壁)に直接アクセスすることが可能となり、核酸導入効率が増大すると考えられる。外殻欠損細胞は、細胞の外殻を構成する頂部キャップと底部カップの接続部分が開口し、外殻に閉じ込められていた細胞が解放されることにより生じることが観察されている。本発明における外殻欠損細胞の単離工程において、外殻欠損細胞は、外殻のアルゲナン製底部カップが完全に喪失し、多くの場合、頂部キャップも喪失し、細胞壁が露出した単独の細胞が得られる(図1b)。

【0036】
発明者らはそのような自然発生する外殻欠損細胞を単離する手段を検討し、その結果、完全な外殻を有する細胞を浮力に頼って除去することにより、外殻欠損細胞を単離する方法を開発した。斯かる方法は、高濃度のショ糖溶液の中では、外殻欠損細胞は、遠心分離又は静置したとき、完全な外殻を有する細胞よりも僅かに早く沈殿する傾向があるという、発明者らの独自の知見に基づくものである。かかる現象は、ショ糖溶液中で浮力を有する油が浸含した多孔質アルゲナン製底部カップ部分が、外殻欠損細胞において欠損しているためと考えられる。

【0037】
前記外殻欠損細胞の分離に用いるショ糖溶液は、水又はAF-6等のボトリオコッカス・ブラウニー用の増殖培地を用いて調製され得る。当該ショ糖溶液の最適な濃度は、株と培養条件の違いによって変化し得るが、当該最適濃度の決定は、当業者にとってありふれた条件検討の範囲内である。本発明において実施された最適濃度の決定の例を挙げると、ある培養条件において、ショ糖濃度が0.7Mの場合に取得された細胞の外殻欠損細胞が占める割合は50%未満であり、0.9Mの場合に取得された細胞の外殻欠損細胞が占める割合は90%超であった。しかしながら、他の培養条件では、ショ糖濃度0.9Mの場合に取得された細胞の外殻欠損細胞が占める割合は10%未満であり、1.0Mの場合に取得された細胞の外殻欠損細胞が占める割合は90%超となった(データは示さず)。標準的なプロトコルでは1.0Mのショ糖溶液を使用するが、0.9Mまたは0.95Mを使用しても収率が増大する可能性がある一方で、完全な外殻を有する細胞の除去が不十分になる可能性がある。新しい株または培養物を取り扱うときには、好ましくは適切なショ糖濃度範囲、例えば0.85~1.0Mの範囲での予備的な実験を行い最適な濃度が求められるべきである。斯かる示唆は、本発明の開発において、0.5~1.0Mの範囲で条件検討が行われたことに基づく。上記ショ糖溶液に代えて、同濃度のマンニトール溶液が用いられてもよい。

【0038】
前記外殻欠損細胞の分離において、好ましくは、遠心分離に先立って、ボトリオコッカス・ブラウニー培養物を一定時間静置することにより、少数の細胞からなるコロニー、完全な外殻を有する単細胞及び外殻欠損細胞の混合物が分離される。

【0039】
前記外殻欠損細胞の分離において実施される遠心分離は、僅かに存在する外殻欠損細胞と、大多数の完全な外殻を有する細胞との間に存在する僅かな浮力の差に基づいて両者を分離するのに適した条件で行われる。また、当該遠心分離の条件は、細胞にダメージを与えない範囲内で設定される。本発明の方法における遠心分離は、好ましくは、80×g~200×g、5分~60分間、室温で行われる。また、当該遠心分離工程は、外殻欠損細胞の純度又は収量を増大させるために、2回以上反復して行われてもよい。

【0040】
外殻欠損細胞の出現頻度は、対数増殖期には非常に少なく、定常期には比較的頻繁になる傾向が見られる(データ示さず)。定常期の初期から中期(日齢30~50日)の培養物を用いることを推奨する。斯かる期間において、外殻欠損細胞の収率と生存率が相対的に高いからである。

【0041】
2.2.核酸導入処理
本発明の核酸導入手段において、マルチパルスエレクトロポレーション法を用いるのが好ましい。当該方法は、任意の核酸を添加した細胞懸濁液に、数千V/cmの高電圧を数十マイクロ秒のパルスで与えて細胞に核酸を導入するもので、高電圧パルスにより細胞膜に短時間、細孔が生じ、それが修復される前に外液とともにDNAが取り込まれるという原理に基づく。他の遺伝子導入法と比べて再現性が良い点、導入効率が高い点、及び動物細胞、高等植物、真菌、細菌等、様々な種類の細胞に適用できる点で優れている。また、当該方法は、細胞壁を有する藻類細胞で非常に有効であることも報告されている(Yamano他、2013年;Miyahara他、2013年)。エレクトロポレーション法は、リン酸カルシウム法、リポソフェクション、パーティクルガン法やDEAEデキストラン法と並び細胞に核酸を導入するための当該技術分野においてありふれた技術の一つである。従って、当業者は、使用される核酸や細胞の種類、実験の目的に応じて、処理手順や試薬の構成及び用量等の最適な条件を決定することが出来る。

【0042】
本発明の核酸導入方法におけるエレクトロポレーションにおいて、哺乳動物のエレクトロポレーション実験で通常用いられている緩衝液をボトリオコッカス・ブラウニーに適合するように適宜改変したエレクトロポレーション用緩衝液(Van Tendeloo他、2001年;Flanagan他、2011年、2012年;Helledie他、2008年)が使用される。当該改変エレクトロポレーション緩衝液のベースとして、PBSやHEPES等の生化学分野で通常用いられる緩衝液や、様々な細胞培養培地が使用され得る。好ましくは、当該ベースとして、フェノールレッド不含Opti-MEM(登録商標)Reduced Serum Medium(Life Technologies社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)が用いられる。Opti-MEM(登録商標)Reduced Serum Mediumは、Eagle’s Minimum Essential Mediaを改変したもので、HEPES及び重炭酸ナトリウムにより緩衝され、ヒポキサンチン、チミジン、ピルビン酸ナトリウム、L-グルタミン、微量元素及び増殖因子が添加されたものである。より好ましくは、当該改変エレクトロポレーション用緩衝液は、マンニトール、CaCl及びMgClを添加したフェノールレッド不含Opti-MEM(登録商標)Reduced Serum Mediumである。一層好ましくは、当該改変エレクトロポレーション用緩衝液は、0.3Mのマンニトール、0.1mMのCaCl2・2H2O、0.1mMのMgCl2・6H2Oを含有する1容のMan-CaCl2-MgCl2溶液を2容のフェノールレッド不含Opti-MEM(登録商標)Reduced Serum Mediumに添加して調製される。

【0043】
ボトリオコッカス・ブラウニーの外殻欠損細胞に対して他のさまざまな遺伝子形質転換手法(例えば他の藻種で成果を挙げている微粒子銃(microprojectile bombardment)やアグロバクテリウムを媒介とした形質転換(Hallmann、2007年)を用いることも検討している。
【実施例】
【0044】
藻類の材料と増殖
ボトリオコッカス・ブラウニーBOT-22株(tsukuba-1、受託番号:FERM ABP-11441、受託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構国際特許生物寄託センター)を、25℃のAF-6培地の中で、濾過した空気を吹き込みながら連続的白色蛍光のもとで無菌培養した。光合成フォトン束密度(PPFD)は、量子計測器(LI-1000、Li-Cor、Lincoln社、ネブラスカ州、アメリカ合衆国)を用いて測定すると70モル・フォトン/m秒であった。ボトリオコッカス・ブラウニーは比較的増殖が遅く、倍化時間は約1週間であるため、培養は、1ヶ月に2回培養物100mlを新鮮な培地250mlに継代することによって対数増殖期の状態で維持した。外殻欠損細胞を単離する時には、培養を定常期の状態にした(日齢30~50日)。
【実施例】
【0045】
外殻欠損細胞の単離
BOT-22株の培養物(0.1~10l)を16時間以上静置した後、沈殿した細胞を50mlのピペットを用いて回収し、50mlの注射器に取り付けた5μmのフィルタを用いて濃縮し、1Mのショ糖を含有するBOT培地20mlの中に再度懸濁させ、25℃、100×g、45分間遠心分離した。沈殿した細胞を新しいチューブに移し、細胞とともに移した少量の上清の中に再度懸濁させた。この細胞懸濁液を1.5mlの複数のチューブに分け、25℃、100×g、45分間遠心分離した。その後、すべてのチューブから沈殿した細胞を0.6mlのチューブに移し、移した上清の中で再度懸濁させ、25℃、100×g、5分間遠心分離した。遠心分離を経て分離・沈殿した外殻欠損細胞を、その後の実験で使用した。以上の操作は全て無菌条件で実施した。
【実施例】
【0046】
ナイルレッド染色
ナイルレッドのエタノール溶液(0.1mg/ml)を上記藻類懸濁液及び単離処理前の群体懸濁液に添加し、最終濃度を1μg/mlにした。室温で30分間インキュベーションした後、明視野画像及び488nm励起によるナイルレッド蛍光の緑色帯域画像を、顕微鏡下で撮像した(BX 51;オリンパス工業株式会社、新宿区、東京、日本)。
【実施例】
【0047】
プラスミドDNAの精製
GUS遺伝子が動作可能に組み込まれた植物形質転換用レポータープラスミドpBI221(Clontech Laroratories社、マウンテン・ヴュー、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を増殖させ、Sambrookら(1989年)が記載している塩化セシウム勾配法で精製した。当該プラスミドは、エレクトロポレーションにおいて最終濃度37.5μg/mlに希釈して使用される。当該プラスミドの最終濃度は具体的な実験条件に依存して変動し得て、導入効率が多少低くなる可能性があるが、最終濃度を0.5μg/ml程度まで下げてエレクトロポレーションを行ってもよい。
【実施例】
【0048】
エレクトロポレーション
0.3Mのマンニトール、0.1mMのCaCl・2HO、0.1mMのMgCl・6HOを含有する1容のMan-CaCl-MgCl溶液を2容のフェノールレッド不含Opti-MEM(登録商標)Reduced Serum Medium(Life Technologies社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)に添加して調製したエレクトロポレーション用緩衝液40μlに、外殻欠損細胞(1~5μl)を再度懸濁させた。前記プラスミドpBI221を最終濃度37.5μg/mlで添加した後、細胞懸濁液を0.2cm-ギャップエレクトロポレーション用キュベットの中に注入した。NEPA21(ネッパジーン株式会社、市川市、千葉、日本)を用いてエレクトロポレーションを実施した。そのときの設定は以下の通りである:減衰率40%、+の極性設定、最初のパルスの電圧180Vにして5ミリ秒のパルスを50ミリ秒の間隔で3回発生させる穿孔パルスセットの後、減衰率40%、+/-の極性設定、最初のパルスの電圧20Vにして50ミリ秒のパルスを50ミリ秒の間隔で5回発生させるトランスファーパルスセットが続く。設定範囲はエレクトロポレーションにおいて許容されるものである。当該実験において検討されたエレクトロポレーションの条件を、下記表に示す。
【表1】
JP2015181402A_000003t.gif
【実施例】
【0049】
エレクトロポレーションの後、細胞を200μlの増殖培地とともに0.6mlのチューブに移し、増殖チャンバー中40マイクロモル光子/m秒となる連続光下でインキュベートした後、GUSアッセイを実施した。最後の顕微鏡による観察を除いて操作は全て無菌条件で実施した。
【実施例】
【0050】
GUS組織化学染色
MathurとKonczら(1998年)が記載している方法をわずかに改変し、GUS発現の組織化学分析を実施した。5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルクロニド(X-Gluc)シクロヘキシルアンモニウム塩を0.4mg/μlの割合でN,N-ジメチルホルムアミドに溶かした溶液0.25μlを100μlの細胞懸濁液に添加した。増殖チャンバー中40マイクロモル光子/m秒となる連続光下で1週間にわたってインキュベートした後、青色のX-Gluc分解産物で染色された細胞を、デジタルカメラ(DP50;オリンパス工業株式会社、新宿区、東京、日本)を備えた顕微鏡(BX51;オリンパス工業株式会社、新宿区、東京、日本)で写真撮影した。最後の顕微鏡による観察を除いて操作は全て無菌条件で実施した。
【実施例】
【0051】
pBI221が導入されてGUSが発現した細胞は、図2に示したように、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルクロニド(X-Gluc)シクロヘキシルアンモニウム塩を分解して青色を呈する。この青色を呈した細胞の割合をもって本発明の方法の遺伝子導入効率とした。上記表1の導入効率の欄に示したように、本発明の方法によりボトリオコッカス・ブラウニーへのプラスミド導入が確認され、推奨されるエレクトロポレーション設定(条件#1、2、3)下では、導入効率はほぼ100%に達する。また、生存率の欄に示したように、本発明の方法は、細胞を殆ど殺傷せずに核酸を導入することが出来る。エレクトロポレーションが低ダメージで高効率な遺伝子導入を可能とすることは周知である(Matsuda及びCepko、2004年;Saito、2006年;Yooら、2007年;Van Tendelooら;2001年)が、同方法を利用して従来遺伝子導入が不可能と考えられていたボトリオコッカス・ブラウニーにおいても同様に優秀な導入効率を達成出来たことは、本発明者らが初めて達成した驚異的な成果である。
【実施例】
【0052】
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図面
【図1】
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【図2】
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