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明細書 :剛直なヘリックス構造を有するオリゴペプチドが導入された二重特異性抗体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6210455号 (P6210455)
公開番号 特開2015-156836 (P2015-156836A)
登録日 平成29年9月22日(2017.9.22)
発行日 平成29年10月11日(2017.10.11)
公開日 平成27年9月3日(2015.9.3)
発明の名称または考案の名称 剛直なヘリックス構造を有するオリゴペプチドが導入された二重特異性抗体
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  16/28        (2006.01)
C07K  16/46        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 16/28
C07K 16/46
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12P 21/08
A61K 39/395 N
A61P 35/00
請求項の数または発明の数 13
全頁数 25
出願番号 特願2014-033659 (P2014-033659)
出願日 平成26年2月25日(2014.2.25)
審査請求日 平成28年3月15日(2016.3.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】熊谷 泉
【氏名】浅野 竜太郎
【氏名】梅津 光央
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査官 【審査官】市島 洋介
参考文献・文献 国際公開第2007/108152(WO,A1)
国際公開第2010/109924(WO,A1)
特開2012-161324(JP,A)
特開2012-179051(JP,A)
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,2008年,Vol.105, No.36,pp.13356-13361
Biophys. J.,2009年,Vol.97,pp.2993-2999
J. Biol. Chem.,2009年,Vol.284, No.51,pp.35390-35402
J. Biol. Chem.,2010年,Vol.285, No.24,pp.18662-18671
J. Biol. Chem.,2012年,Vol.287, No.8,pp.5891-5897
調査した分野 C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のL鎖のヒト型化可変領域(5L:配列番号2)及びH鎖のヒト型化可変領域(5H:配列番号4)、抗CD3抗体OKT3のL鎖のヒト型化可変領域(OL:配列番号6)及びH鎖のヒト型化可変領域(OH:配列番号8)を含む可変領域、ヒンジ領域、並びに、Fc領域を含む、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1及びCD3に対する二重特異性抗体であって、
該ヒンジ領域に含まれるヒンジ上部が、図2に示されたアミノ酸配列:DKTHTに代えて、
アミノ酸配列:EEEERKQREEEERIKRX
(ここで、アミノ酸残基Xはチロシン残基又はセリン残基を示す)
で示されるオリゴペプチドから成ることを特徴とする、前記抗体。
【請求項2】
アミノ酸残基Xがチロシン残基である、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
IgG型タイプの免疫グロブリン分子と同じドメイン数を有する、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
PreScission (登録商標)Protease認識配列を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載された抗体を構成する一本鎖ポリペプチド。
【請求項6】
請求項5記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項7】
請求項6記載の核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクター。
【請求項8】
プラスミドベクターである、請求項7記載のベクター。
【請求項9】
請求項7又は8記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項10】
哺乳動物細胞である請求項9記載の宿主細胞。
【請求項11】
請求項10記載の宿主細胞を培養して宿主細胞中で該核酸を発現せしめ、請求項6に記載の一本鎖ポリペプチドを回収し、精製し、得られた該一本鎖ポリペプチドを会合させ、形成された抗体を分離・回収することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項13】
腫瘍細胞を排除する、殺傷する、傷害する及び/又は減少せしめるためのものであることを特徴とする請求項12記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、特に安定性に優れ、がん特異的免疫療法に使用することのできるヒト型化二重特異性抗体、それを構成する一本鎖ポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、該抗体の製造方法、及び、それらの医薬として用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
がん(悪性腫瘍)及びリウマチ等に対する安全な治療法として、近年、免疫療法が用いられている。がんに対する免疫療法では、がんに対して特異的に細胞傷害活性を示す抗体が使用される。このような抗体から成る抗体医薬は、副作用の少ない、安心安全で治療効果の高いことが認められる一方、確立された動物細胞を用いて製造する必要があるためにコスト高が問題となっている。
【0003】
このため、投与量を大幅に軽減して低コスト化を計る手段として、極めて強力な活性を有する組換え抗体の作製が試みられてきた。
【0004】
例えば、このような組換え抗体のうちの一つである二重特異性抗体(Bispecific Antibody:BsAb)は2つの異なる抗原に対して特異的に結合することが可能であるため、この特性を生かして特異的な抗腫瘍効果を持った治療薬としての利用法が可能であるとして、その研究が盛んに行われている。ダイアボディ(diabody:Db)とはこのような二重特異性抗体の最小単位であり、それぞれ同じ親抗体由来の重鎖(H鎖)の可変領域(V領域)(「VH」と表わされる)VHと軽鎖(L鎖)の可変領域(V領域)(「VL」と表わされる)VLとが互いに非共有結合によりヘテロ二量体を形成するという性質を利用し考案されたものである(非特許文献1)。又、ダイアボディ型二重特異性抗体以外の二重特異性抗体の調製等は、例えば、非特許文献2及び非特許文献3記載されている。
【0005】
本発明者等は、これまでに、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1(Her1)抗体528及び抗CD3抗体OKT3を用いて作製したダイアボディ型二重特異性抗体(Ex3)及び該抗体をヒト型化したダイアボディ型二重特異性抗体(hExh3)が極めて強力な抗腫瘍効果を有していることを見出している(特許文献1)。更に、このヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体等に基づき多様な構造を有する高機能性二重特異性抗体を開発している(特許文献2)。
【0006】
更に、本発明者は、ヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体を構成する各ポリペプチドにおいてL鎖可変領域がN末側にある「LH型」であることを特徴とするLH型二重特異性抗体及び該LH型二重特異性抗体を含む高機能性二重特異性抗体を開発した(特許文献3)。又、Her1抗体528のH鎖又はL鎖に各種のアミノ酸変異・置換を有するこれらの抗体(特許文献4及び特許文献5)も開発した。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第3803790号明細書
【特許文献2】国際公開第WO2007/108152号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO2010/109924号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO2011/062112号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO2012/020622号パンフレット
【0008】

【非特許文献1】Hollinger, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 6444-6448, 1993
【非特許文献2】Alt M, et. al. Novel tetravalent and bispecific IgG-like antibody molecules combining single-chain diabodies with the immunoglobulin gamma1 Fc or CH3 region. FEBS Lett., 454, 90-4. (1999)
【非特許文献3】Lu D, et. al. A fully human recombinant IgG-like bispecific antibody to both the epidermal growth factor receptor and the insulin-like growth factor receptor for enhanced antitumor activity. J Biol Chem., 280, 19665-72. (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2~5に記載された高機能性二重特異性抗体は、夫々、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528及び抗CD3抗体OKT3のL鎖及びH鎖を含む可変領域に加えてFc領域を含む、二重特異性抗体である。この抗体は高い細胞傷害活性を有するが、精製後の保存中等に可変領域とFc領域等との融合部位にあるヒンジ領域近傍で断片化が生じることが問題となっていた(図1)。しかしながら、その原因は未だ解明されていない。
【0010】
本発明の課題は、このような二重特異性抗体において、優れた抗腫瘍効果等の細胞傷害活性の機能を保持しつつ、ヒンジ領域での断片化を有意に抑制して、安定性に優れた二重特異性抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
IgG抗体でも同様の断片化が報告されており、原因は特定されていないが、その機構や要因などを検証した研究から、以下の知見が得られている(参考文献1,2,3)。
1.H2O2などがFc領域の二量体化に寄与する231位のシステイン(Cys:C)のジスルフィド結合を切断することでラジカルが発生する。
2.ヒンジの柔軟性の高さが原因でヒンジ領域のN末側(上流部)の様々なアミノ酸に発生したラジカルが転位する。
3.転位したラジカルがペプチド結合を切断することで断片化する。
【0012】
そこで、本発明者は、高機能性二重特異性抗体における上記の断片化においても、ヒンジ領域の上流部の柔軟性が断片化に大きく影響している可能性に鑑みて、そこに剛直な構造を導入することでの断片化を抑制することを目指して、このような剛直な構造を有する配列としてER/K Helixというモチーフに着目した。
【0013】
以下にER/K Helixの特徴を記載する。
。絋R/K Helixの特徴>
1.グルタミン(Glu:E)とアルギニン(Arg:R)、またはリジン(Lys:K)が4残基ずつ交互に並び、カルデスモン、ミオシンX, ミオシンVI, GPC60, MEKKKなどのタンパク質において、2つのドメインをつなぐ役割を担っていると考えられている配列で、ヘリックス構造をとっている(参考文献4)。
2.pH4-9の間でも高塩濃度でも安定。尿素などの変性剤に対しても耐性があり(参考文献5)、大腸菌でも容易に発現する(参考文献4)。
3.通常の主鎖のあるi番目のアミノ酸のアミド基と4つ先の(i+4)番目のアミノ酸のカルボキシル基が水素結合を形成することでヘリックス構造を保持しているが、水溶液中では水と相互作用することでその水素結合が壊裂するため、3次構造を組まない場合は不安定である。しかし、ER/K Helixでは全て荷電性アミノ酸で構成されているため、側鎖が水と相互作用することで溶解性が高く、さらに主鎖間の水素結合が切断されないため安定である(参考文献6)。
4.i番目のKの側鎖の窒素原子と(i-3)番目のE、または(i+4)番目のEの側鎖の酸素原子が相互作用、また、i番目のEの側鎖の酸素原子と(i-4)番目のK、または(i+3)番目のKの側鎖の窒素原子が相互作用する塩橋によりER/K Helixは剛直で、安定な構造を取っている(参考文献6)。
5.FRETによるタンパク質間の相互作用解析を目的とした組換えタンパク質のリンカーとして用いられており、eCFPカルモジュリンとmCitrine融合カルモジュリン結合ペプチド間のリンカーとして利用された例では、eCFPとmCitrineのFRETが検出されている(参考文献7)。
【0014】
本発明者は、以上の特徴に基づき、更に免疫原性等を考慮し、参考文献1中に記載されていたヒト由来の転写開始因子IF-2のER/K Helixモチーフのうち構成アミノ酸残基数が上記の高機能性二重特異性抗体のヒンジ上流部のアミノ酸残基数と同程度で、かつ塩橋効果などのER/K Helix特有の安定性を保持できる長さを有する構造として、16個のアミノ酸:EEEERKQREEEERIKR(配列番号9)から成るオリゴペプチドを高機能性二重特異性抗体の新たなヒンジ上流部の配列として導入することによって、ヒンジ構造を剛直にし、上記の課題が解決できることを初めて見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
【0016】
[態様1]
抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のL鎖のヒト型化可変領域(5L:配列番号2)及びH鎖のヒト型化可変領域(5H:配列番号4)、抗CD3抗体OKT3のL鎖のヒト型化可変領域(OL:配列番号6)及びH鎖のヒト型化可変領域(OH:配列番号8)を含む可変領域、ヒンジ領域、並びに、Fc領域を含む、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1及びCD3に対する二重特異性抗体であって、
アミノ酸配列:EEEERKQREEEERIKRX
(ここで、アミノ酸残基X及びアミノ酸残基Xは存在しないか、又は、アミノ酸残基Xは塩基性アミノ酸以外の任意のアミノ酸残基及びXは任意のアミノ酸残基であって、夫々、同一又は異なるアミノ酸残基を示す)
から成るオリゴペプチドが、該二重特異性抗体のヒンジ領域に含まれるN末側のシステイン残基よりN末側にあるヒンジ領域の一部(ヒンジ領域の上流部)に代えて導入されていることを特徴とする、前記抗体。
[態様2]
アミノ酸残基Xがチロシン残基である、態様1記載の抗体。
[態様3]
アミノ酸残基Xがスレオニン残基である、態様1記載の抗体。
[態様4]
IgG型タイプの免疫グロブリン分子と同じドメイン数を有する、態様1~3のいずれか一項に記載の抗体。
[態様5]
プロテアーゼ認識配列を含まない、態様1~4のいずれか一項に記載の抗体。
[態様6]
態様1~5のいずれか一項に記載された抗体を構成する一本鎖ポリペプチド。
[態様7]
態様6記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
[態様8]
態様7記載の核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクター。
[態様9]
プラスミドベクターである、態様8記載のベクター。
[態様10]
態様8又は9記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
[態様11]
哺乳動物細胞である態様10記載の宿主細胞。
[態様12]
態様11記載の宿主細胞を培養して宿主細胞中で該核酸を発現せしめ、態様6に記載の一本鎖ポリペプチドを回収し、精製し、得られた該一本鎖ポリペプチドを会合させ、形成された抗体を分離・回収することを特徴とする、態様1~4のいずれか一項に記載の抗体の製造方法。
[態様13]
態様1~4のいずれか一項に記載の抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
[態様14]
腫瘍細胞を排除する、殺傷する、傷害する及び/又は減少せしめるためのものであることを特徴とする態様13記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0017】
一般的にIgG抗体が抗原に結合する際にはヒンジの柔軟性が重要であり、かかるヒンジ領域に剛直なヘリックス構造が導入されると抗原への結合能の低下に起因する細胞傷害活性の低下が予想される。
【0018】
しかしながら、驚くべきことに、本発明の抗体においては、ヒンジ領域での断片化が有意に抑制される一方で、細胞障害活性(抗癌作用)が実質的に保持されることが示された。その結果、優れた細胞傷害活性が数か月もの長期に亘って安定して保持される二重特異性抗体を提供することに成功した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】LH型 Ex3-scDb-Fcの断片化の一例を示す。
【図2】本発明の抗体のヒンジ上部(ヒンジ領域の上流部)に導入するオリゴペプチドに含まれるアミノ酸配列の決定の過程を図2に示す
【図3】Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcのベクターマップを示す。
【図4】遺伝子導入後のFCMによる結合活性評価(発現確認)を示す。
【図5】ELISAによる高発現クローンの選択(第1回目)を示す。
【図6】ELISAによる高発現クローンの選択(第2回目)を示す。
【図7】SDS-PAGE及びウエスタンブロッティングによるEx3-scDb-ER/K Helix-Fc発現の確認を示す。
【図8】ゲルろ過クロマトグラフィーによるEx3-scDb-ER/K Helix-Fcの精製の結果を示す。
【図9】精製後の各Ex3-scDb-ER/K Helix-FcのFCMによる結合活性評価を示す。
【図10】MTSassayにより本発明抗体の細胞傷害性試験の結果を示す。
【図11】精製2週間後のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子形状評価の結果を示す。
【図12】精製4週間後のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子形状評価の結果を示す。
【図13】精製8週間後のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子形状評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
すでに記載したように、本発明の二重特異性抗体は、剛直なヘリックス構造を有するオリゴペプチドとして、
アミノ酸配列(配列番号10):EEEERKQREEEERIKRX
(ここで、アミノ酸残基X及びアミノ酸残基Xは存在しないか、又は、アミノ酸残基Xは塩基性アミノ酸以外の任意のアミノ酸残基及びXは任意のアミノ酸残基であって、夫々、同一又は異なるアミノ酸残基を示す)
から成るオリゴペプチドが、該二重特異性抗体のヒンジ領域に含まれるN末側のシステイン残基よりN末側のヒンジ領域の一部(ヒンジ領域の上流部)に代えて導入されていることを特徴とする。

【0021】
即ち、本発明の二重特異性抗体において、該抗体のヒンジ領域に含まれる2つのシステイン残基のうちのN末側に位置するシステイン残基のN末に上記オリゴペプチドが結合していることになる。

【0022】
既に記載したように、上記のアミノ酸は従来公知のER/K Helixというモチーフにおけるアミノ酸配列に基づくものであり、このモチーフは天然でもドメイン間を結合している配列として知られており、更に組換えタンパク質であるeCFPカルモジュリンとmCitrine融合カルモジュリン結合ペプチド間のリンカーとして利用され、eCFPとmCitrineのFRETが検出された例も知られている。

【0023】
しかしながら、これまでに、抗体分子におけるヒンジ領域近傍における断片化を抑制する目的でヒンジ領域に導入された例はない。

【0024】
本発明の二重特異性抗体に挿入される上記のオリゴペプチドにおいて、アミノ酸残基X及びアミノ酸残基Xは存在しなくともよく、その場合には、16個のアミノ酸から成る。

【0025】
ここで、231位のCはFc領域の二量体形成に関わるジスルフィド結合を形成するアミノ酸であるため、以降の下流は削ることができない。本発明者は詳細な導入箇所構造に関して更に検討(図3)を加えた結果、ヒンジ領域に含まれる2つのシステイン残基のうちのN末側に位置するシステイン残基である231位のCのN末側に直接上記の16個のアミノ酸から成る上記のオリゴペプチドを導入した場合には、ラジカル転移が起こりやすいとされている226位のアスパラギン酸(Asp:D)と229位のヒスチジン(His:H)(参考文献1)と同じ荷電性を持つアミノ酸、各々E(Dと同じ酸性アミノ酸)とK(Hと同じ塩基性アミノ酸)が配置されてしまうため、直鎖状とヘリックスという構造上の違いはあるものの、同じ特性を持つアミノ酸であるため同様のラジカル反応が生じ断片化に影響を与える可能性があることが判明した。

【0026】
尚、図3に記載されたアミノ酸配列は、特許文献2及び特許文献3に第三の型の抗体(Ex3 scDb-Fc)として開示された高機能性二重特異性抗体に基づくものであり、上記のアミノ酸残基の番号も該抗体の具体的なアミノ酸配列に示されたものであり、あくまで本発明抗体におけるヒンジ領域とその上流部に導入されるオリゴペプチドとの相対的な関係を示すものである。したがって、3に記載されたアミノ酸残基の番号はあくまで本発明の一例にすぎないものである。

【0027】
そこで、16個のアミノ酸から成るER/K HelixのC末に更に2つのアミノ酸X及びXを付加したオリゴペプチドをヒンジ上流部の配列として用いることによって、このようなラジカル反応による断片化の可能性を排除できることを見出した。

【0028】
ここで、アミノ酸残基Xはラジカル転移が起こりやすいとされているヒスチジンのような塩基性アミノ酸ではなく、それ以外の任意のアミノ酸残基であることが好ましく、その一例として、変異導入することで断片化が抑制されたという報告 (参考文献1) があるチロシン残基及びセリン残基を挙げることが出来る。

【0029】
一方、Xは任意のアミノ酸残基でよいが、その一例として、スレオニンとシステインと間の切断は様々なpH条件でも見られない(参考文献8,9,10及び11)ことから、スレオニン残基を挙げることができる。

【0030】
更に、本発明抗体の断片化をより効果的に抑制するために、非特許文献2等に記載されている高機能性二重特異性抗体に含まれているPreScission (登録商標)Protease認識配列等のプロテアーゼ認識配列は、本発明の抗体には含まれていないことが好ましい。

【0031】
このような本発明の抗体に含まれるオリゴペプチドの配列の決定の過程を図2に示す。

【0032】
本発明の抗体は、基本的な構成要素として、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のL鎖のヒト型化可変領域(5L:配列番号2)及びヒト型化可変領域(5H:配列番号4)、抗CD3抗体OKT3のL鎖のヒト型化可変領域(OL:配列番号6)及びH鎖のヒト型化可変領域(OH:配列番号8)を含む可変領域、ヒンジ領域、並びに、Fc領域を含む。その結果、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1及びCD3に対する二重特異性を有する。

【0033】
本発明の抗体は、ヒトFc領域を有しているために、プロテインAによる精製が容易であり、又、抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び細胞依存性サイトカイン(CDC)を誘導することが出来る。

【0034】
このような構成要素を含む本発明の二重特異性抗体の具体的な例として、様々な型の抗体を作製することが出来る。この例として、例えば、特許文献2において、第二の型(Ex3-Fc)及び第三の型(Ex3 scDb-Fc)として記載されている通常のIgG型抗体分子、並びに、第四の型(Ex3 scFv-Fc)として記載されている、上記の構成要素に加えて更にL鎖定常領域(CL)及びH鎖定常領域(CH1)を含む高機能性二重特異性抗体に基づく抗体を挙げることが出来る。

【0035】
本発明の二重特異性抗体に含まれる上記の定常領域又はFc領域はヒト抗体に由来するものである限り特に制限はない。例えば、CLはκまたはλ鎖の何れに由来するものでも良い。又、Fc領域又はH鎖定常領域は、通常、IgGのγ鎖に由来するものが使用される。CH1、CH2及びCH3、並びにCLの一例として、夫々、特許文献2に開示された配列番号29及び配列番号30、配列番号33に示したアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。

【0036】
より具体的には、上記の第ニの型(Ex3-Fc)は、OH5L及び5HOLの二種類のポリペプチドから構成されるヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体(Ex3)がいずれか一方のポリペプチドにより本発明のオリゴペプチドを介してヒト抗体の2つのFc領域に結合しているものである。即ち、具体的には、本発明のオリゴペプチドを介してヒト抗体のFc領域と結合したEx3を構成する2種類のポリペプチドの何れか一方のポリペプチド(例えば、(5HOL)-ヒンジ領域-Fc領域)、及び、Ex3を構成するもう一方のポリペプチド(例えば、(OH5L))の2種類のポリペプチドから構成されるものである。該抗体はこれら2種類の一本鎖ポリペプチドを共発現させた後に会合せしめることによって製造することが出来る。尚、「Fc領域」とは、定常領域(C領域)を構成するH鎖のC末端側の2個のドメイン(CH2及びCH3)を意味する。

【0037】
この型の抗体において、5HOL又はOH5Lの何れかのポリペプチドを本発明のオリゴペプチドを介してヒト抗体のFc領域に結合させることができ、更に、各一本鎖ポリペプチドに含まれるH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れが本発明のオリゴペプチドと結合していても良い。

【0038】
上記の第三の型(Ex3 scDb-Fc)は、上記の第二の型におけるEx3の代わりに、Ex3 scDb、即ち、(OH5L)-(ペプチドリンカー)-(5HOL)で示される構造を有する、Ex3を構成する2種類のポリペプチド鎖であるOH5L及び5HOLが更にペプチドリンカーにより結合されたシングルポリペプチド鎖、(OH5H)-(ペプチドリンカー)-(5LOL)で示されるシングルポリペプチド鎖、又は、(5L5H)-(ペプチドリンカー)-(OHOL)で示されるタンデム型のシングルポリペプチド鎖が本発明のオリゴペプチドを介してヒト抗体のFc領域に結合した構造を有している。尚、(OH5L)-(ペプチドリンカー)-(5HOL)、(OH5H)-(ペプチドリンカー)-(5LOL)、又は、(5L5H)-(ペプチドリンカー)-(OHOL)から成る一本鎖ポリペプチドに含まれる2種類のH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れが本発明のオリゴペプチドと結合していても良い。

【0039】
上記の第二の型及び第三の型を構成するドメインの数はIgGタイプの免疫グロブリン分子と同じであり、これらの抗体は該免疫グロブリン分子に近い立体的構造を有しているものと考えられる。

【0040】
上記の第四の型(Ex3 scFv-Fc)は、抗体(免疫グロブリン分子)のVH及びVLを、夫々、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体抗体528のH鎖及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(scFv)(5HL)又は抗CD3抗体OKT3のH鎖及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(OHL)で置換して成る抗体である。即ち、該抗体は、IgGタイプの免疫グロブリン分子においてH鎖の定常領域を構成するCH1ドメインのN末端側にscFvであるOHL又は5HLのいずれか一方が結合してなるポリペプチド、及びL鎖の定常領域CLのN末端側にもう一方のscFvが結合してなるポリペプチドの2種類の一本鎖ポリペプチドから構成されるものである。尚、scFvに含まれるH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れがこれら領域と結合していても良い。従って、該抗体はこれら2種類の(一本鎖)ポリペプチドを共発現させた後に会合せしめることによって製造することが出来る。

【0041】
又、本発明の二重特異性抗体等を構成する各ポリペプチドにおいて、非特許文献3に記載されているようなL鎖可変領域がH鎖可変領域のN末側にあること(LH型)を特徴とする各種の抗体も本発明に含まれる。即ち、例えば、第三の型(Ex3 scDb-Fc)におけるこのようなLH型の例として、本明細書の実施例に記載されている、(OL5H)-(ペプチドリンカー)-(5LOH)で示される構造を有するシングルポリペプチド鎖が本発明のオリゴペプチドを介してヒト抗体のFc領域に結合した構造を挙げることができる。

【0042】
更に、本発明の二重特異性抗体等を構成する各ポリペプチドにおいて、特許文献4及び特許文献5に記載されているように、Her1抗体528のH鎖又はL鎖に各種のアミノ酸変異・置換を導入することもできる。

【0043】
抗EGFR抗体産生マウスB細胞ハイブリドーマ528は、東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターに寄託されている(ID:TKG0555)。更に、528抗体を産生するハイブリドーマはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)においてATCC No.HB-8509 として保管されており、かかる寄託機関からも容易に入手可能である。

【0044】
一方、抗CD3抗体OKT3も東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターに寄託されている(ID:TKG0235)。又、OKT3抗体を産生するハイブリドーマはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)においてATCC No.CRL-8001 として保管されており、かかる寄託機関からも容易に入手可能である。

【0045】
これらを用いて、当業者に公知の方法によってcDNAを調製することが出来る。例えば、ISOGEN(ニッポンジーン社)を用いmRNAを抽出、First-Strand cDNA Synthesis Kit(Amersham Biosciences社)によりcDNAを調製し、参考論文(Krebber, A. et al. Reliable cloning of functional antibody variable domains from hybridomas and spleen cell repertoires employing a reengineered phage display system. J Immunol Methods 201, 35-55. (1997))に基づき合成したクローニングプライマーを用いPCRを行いこれら各抗体のH鎖及びL鎖の可変領域の配列を決定することができる。

【0046】
本発明の二重特異性抗体を構成する一本鎖ポリペプチドに含まれる可変領域の「ヒト型化」とは、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)のヒト型化可変領域における相補性決定領域 (complementarity-determining region; CDR)の残基の少なくとも一部において、マウス、ラット、またはウサギといったような非ヒト動物(ドナー抗体)であり且つ所望の特異性、親和性、および能力を有するCDR に由来する残基によって置換されている抗体を意味する。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク(FR)残基が対応する非ヒト残基によって置換される場合もある。さらに、ヒト型化抗体は、レシピエント抗体および導入されたCDR またはフレームワーク配列のいずれにおいても見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに優れたものあるいは最適なものとするために行われる。更に詳しくは、Jones et al., Nature 321, 522-525 (1986); Reichmann et al., Nature 332, 323-329 (1988);EP-B-239400; Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2, 593-596(1992); およびEP-B-451216 を参照することができる。

【0047】
このような抗体のヒト型化可変領域のヒト型化は当業者に公知の方法に従って実施することが出来る。例えば、レシピエント抗体及びドナー抗体の3次元イムノグロブリンモデルを使用し、種々の概念的ヒト型化生成物を分析する工程により、ヒト型化抗体が調製される。3次元イムノグロブリンモデルは、当業者にはよく知られている。更に詳細については、WO92/22653等を参照することができる。

【0048】
従って、ヒト型化されたヒト型化可変領域の例として、ヒト型化可変領域における相補性決定領域(CDR)がマウス抗体由来であり、その他の部分がヒト抗体由来である抗体を挙げることができる。

【0049】
本発明では更に、ヒト型化によって抗体自身の機能低下等が生起する場合があるので、一本鎖ポリペプチド中の適当な部位、例えば、CDR構造に影響を与える可能性があるフレームワーク(FR)中の部位、例えば、canonical 配列又はvernier 配列において部位特異的変異を起こさせることによってヒト型化抗体の機能の改善をすることが出来る。

【0050】
具体的には、528ヒト型化可変領域のヒト型化はCDR grafting法により行った。まずVH、VLそれぞれ相同性検索を行い、各CDR(complementarity determining region)の長さ等を考慮した上でもっとも相同性の高いFR(frame work)をもつヒト抗体配列を選択する。選択したヒト抗体のCDRを528のCDRと入れ換えたアミノ酸配列を設計し、対応するコドンについては先と同様に発現に使用する宿主細胞の至適コドンを用いることが好ましく、オーバーラップPCR法により遺伝子の全合成を行うことが出来る。

【0051】
又、ヒト型化OKT3ヒト型化可変領域はすでに報告されており、マウスOKT3に比べて十分に活性を保持していることも確かめられている(Adair, J. R. et al. Humanization of the murine anti-human CD3 monoclonal antibody OKT3. Hum Antibodies Hybridomas 5, 41-7. (1994))。この文献に記載されているヒト型化OKT3ヒト型化可変領域のアミノ酸配列を基に、オーバーラップPCR法により遺伝子の全合成を行った。この際にコドンは宿主細胞における至適コドンを用いることが好ましく、至適コドンに置換した全合成遺伝子を用いることでの宿主細胞における発現量の増加はすでに報告されている。

【0052】
各一本鎖ポリペプチドにおけるL鎖可変領域断片及びH鎖可変領域断片は適当なペプチドリンカーで連結されていることが好ましい。該ペプチドリンカーは、一本鎖抗体の分子内での相互作用を困難にし、複数の一本鎖抗体による多量体の形成を可能ならしめ、その結果、互いに別の一本鎖抗体に由来するVHとVLが適切に会合することによって、オリジナルのタンパク質(当該ポリペプチドは該オリジナルのタンパク質に由来するものあるいは該オリジナルのタンパク質から誘導されたものである)の機能、例えば生物活性などの一部あるいはその全てを模擬又は促進する構造をとることができるようなものであれば特に限定されず、例えば当該分野で広く知られたものあるいは該公知のリンカーを改変したものの中から選択して使用することが可能である。例えば、ペプチドリンカーは1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは2~10個のアミノ酸の長さであることが好ましい。

【0053】
更に、各一本鎖ポリペプチドは上記のペプチドリンカーを含まずに、二つの可変領域断片が直接結合していても良い。このような場合には、各一本鎖抗体の三次元的自由度を高めて多量体化を促進させるために、各一本鎖ポリペプチドにおいてN末端側にある可変領域断片のC末端の1ないし数個のアミノ酸、又は、C末端側にある可変領域断片のN末端の1ないし数個のアミノ酸が除去されていることが好ましい。

【0054】
更に、上記の各配列番号で示される各アミノ酸配列において、一個又は数個(例えば、2~5個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって、元のアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能・活性、例えば、可変領域断片の抗原特異性と実質的に保持しているアミノ酸配列も本発明の抗体を構成する一本鎖抗体のポリペプチドとして使用することが出来る。欠失、置換、挿入若しくは付加されるアミノ酸は、好ましくは、同族アミノ酸(極性・非極性アミノ酸、疎水性・親水性アミノ酸、陽性・陰性荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸など)同士が置換されるか、又は、アミノ酸の欠失若しくは付加によって、蛋白質の三次元構造及び/又は局所的電荷状態に大きな変化が生じない、又は、実質的にそれらが影響を受けないようなものが好ましい。このような欠失、置換又は付加されるアミノ酸を有するポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法(点突然変異導入及びカセット式変異導入等)、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法、及びPCR法等の当業者に周知の方法を適宜組み合わせて、容易に作製することが可能である。尚、これらの一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列は、元のアミノ酸配列全長に対して、90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の配列相同性(同一性)を示すものということもできる。

【0055】
本発明の各抗体に含まれる一本鎖ポリペプチドに含まれる各領域をコードする核酸分子(ポリヌクレオチド)の代表例は、上記の各配列番号に示された塩基配列を有するものである。その他に、各配列番号に記載の塩基配列の全長と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の配列相同性を示すような塩基配列から成る核酸分子は、上記の各領域又は配列と実質的に同等の活性又は機能を有するポリペプチドをコードしていると考えられるので、これらの核酸分子も上記の本発明の核酸に含まれる。このような核酸分子には本発明の二重特異性抗体を構成する2種類の一本鎖ポリペプチドの少なくともいずれか一つのポリペプチドをコードする塩基配列が含まれているが、2種類の一本鎖ポリペプチドを夫々コードする2種類に塩基配列が共に含まれていることが好ましい。



【0056】
2つのアミノ酸配列又は塩基配列における配列相同性を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行なう。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。

【0057】
ここで、「相同性(同一性)」とは、ポリペプチド配列(あるいはアミノ酸配列)又はポリヌクレオチド配列(あるいは塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同志又は各塩基同士の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのポリペプチド配列又は二つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものである。相同性は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の相同性を測定する方法は数多く知られており、「相同性」なる用語は、当業者には周知である (例えば、Lesk, A. M. (Ed.), Computational Molecular Biology, Oxford University Press, New York, (1988);Smith, D. W. (Ed.), Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Academic Press, New York, (1993); Grifin, A. M. & Grifin, H. G. (Ed.), Computer Analysis of Sequence Data: Part I, Human Press, New Jersey, (1994);von Heinje, G., Sequence Analysis in Molecular Biology, Academic Press,New York, (1987); Gribskov, M. & Devereux, J. (Ed.), Sequence Analysis Primer, M-Stockton Press, New York, (1991) 等) 。二つの配列の相同性を測定するのに用いる一般的な方法には、Martin, J. Bishop (Ed.), Guide to Huge Computers, Academic Press, San Diego, (1994); Carillo, H. & Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988) 等に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。相同性を測定するための好ましい方法としては、試験する二つの配列間の最も大きな適合関係部分を得るように設計したものが挙げられる。このような方法は、コンピュータープログラムとして組み立てられているものが挙げられる。二つの配列間の相同性を測定するための好ましいコンピュータープログラム法としては、GCG プログラムパッケージ (Devereux, J. et al., Nucleic Acids Research, 12(1): 387 (1984)) 、BLASTP、BLASTN、FASTA (Atschul, S. F. et al., J. Molec. Biol., 215: 403 (1990)) 等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、当該分野で公知の方法を使用することができる。

【0058】
更に、上記の各核酸分子は、各配列番号で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記配列番号で示された各ポリペプチドの機能・活性と実質的に同じものを有するポリペプチドをコードするDNAを含むものである。

【0059】
ここで、ハイブリダイゼーションは、Molecular cloning third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。

【0060】
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。

【0061】
本明細書において、DNAのハイブリダイズにおける「ストリンジェント(stringent)な条件」は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、またはハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。更に、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。

【0062】
従って、「ストリンジェントな条件」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃~68℃において、ナトリウム濃度150~900mM、好ましくは600~900mM、pH 6~8であるような条件を挙げることが出来る。ストリンジェントな条件の一具体例としては、5 x SSC (750 mM NaCl、75 mM クエン酸三ナトリウム)、1% SDS、5 x デンハルト溶液50% ホルムアルデヒド、及び42℃の条件でハイブリダイゼーションを行い、0.1 x SSC (15 mM NaCl、1.5 mM クエン酸三ナトリウム)、0.1% SDS、及び55℃の条件で洗浄を行うものである。

【0063】
更に、各一本鎖ポリペプチドにおける可変領域断片をコードする核酸を作製する場合には、予め設計されたアミノ酸配列に基づきオーバーラップPCR法により全合成することができる。尚、「核酸」とは、一本鎖ポリペプチドをコードする分子であれば、その化学構造及び取得経路に特に制限はなく、例えば、gDNA、cDNA、化学合成DNA及びmRNA等を含むものものである。

【0064】
具体的には、cDNAライブラリーから、文献記載の配列に基づいてハイブリダイゼーションにより、あるいはポリメラーゼチェインリアクション(PCR) 技術により単離されうる。一旦単離されれば、DNA は発現ベクター中に配置され、次いでこれを、大腸菌(E. coli )細胞、COS 細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞) 、またはイムノグロブリンを産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞にトランスフェクションさせ、該組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体を合成させることができる。PCR 反応は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、例えば R. Saiki, et al., Science, 230: 1350, 1985; R. Saiki, et al., Science, 239: 487, 1988 ; H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed., “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) ; M. A. Innis et al. ed., “PCR Protocols: a guide to methods and applications", Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998-9002 (1988)などに記載された方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法に従って行うことができる。また、PCR 法は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。

【0065】
DNA など核酸の配列決定は、例えばSanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463-5467 (1977)などを参考にすることができる。また一般的な組換えDNA 技術は、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (ed.), “Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989)及び D. M. Glover et al. (ed.), “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) などを参考にできる。

【0066】
こうして取得された本発明の抗体を構成する一本鎖ポリペプチド又はそれに含まれる各領域をコードする核酸は、目的に応じて、当業者に公知の手段により適宜所望のペプチド又はアミノ酸をコードするように改変することができる。この様にDNA を遺伝子的に改変又は修飾する技術は、Mutagenesis: a Practical Approach, M.J.Mcpherson (Ed.), (IRL Press, Oxford, UK(1991) における総説において示されており、例えば、位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法)、カセット変異誘発法及びポリメラーゼチェインリアクション(PCR) 変異生成法を挙げることができる。

【0067】
ここで、核酸の「改変」とは、得られたオリジナルの核酸において、アミノ酸残基をコードする少なくとも一つのコドンにおける、塩基の挿入、欠失または置換を意味する。例えば、オリジナルのアミノ酸残基をコードするコドンを、別のアミノ酸残基をコードするコドンにより置換することにより一本鎖ポリペプチドを構成するアミノ酸配列自体を改変する方法がある。

【0068】
又は、本明細書の実施例に記載されているように、アミノ酸自体は変更せずに、CHO細胞等の宿主細胞にあったコドン(至適コドン)を使用するように、一本鎖ポリペプチドをコードする核酸を改変することも出来る。このように至適コドンに改変することによって、宿主細胞内における一本鎖ポリペプチドの発現効率等の向上を図ることが出来る。

【0069】
本発明の抗体は、当業者に公知の方法、例えば、遺伝子工学的手法又は化学合成等の各種手段を用いて製造することが出来る。遺伝子工学的手法としては、例えば、該二重特異性抗体を構成する夫々の一本鎖抗体のポリペプチドをコードする核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクターを作製し、このベクターで宿主細胞を形質転換せしめ、該形質転換された宿主細胞を培養して一本鎖ポリペプチドを発現させ、該ポリペプチドを回収・精製し、それらの一本鎖ポリペプチドを会合させ、形成された抗体分子を分離・回収することによって製造することが出来る。

【0070】
ここで、「複製可能な発現ベクター(replicable expression vector)」および「発現ベクター(expression vector) 」は、DNA(通常は二本鎖である)の断片(piece) をいい、該DNAは、その中に外来のDNAの断片を挿入せしめることができる。外来のDNAは、異種DNA (heterologous DNA)として定義され、このものは、対象宿主細胞においては天然では見出されないDNA である。ベクターは、外来DNAまたは異種DNA を適切な宿主細胞に運ぶために使用される。一旦、宿主細胞中に入ると、ベクターは、宿主染色体DNA とは独立に複製することが可能であり、そしてベクターおよびその挿入された(外来)DNA のいくつかのコピーが生成され得る。さらに、ベクターは外来DNAのポリペプチドへの翻訳を可能にするのに不可欠なエレメントを含む。従って、外来DNAによってコードされるポリペプチドの多くの分子が迅速に合成されることができる。

【0071】
このようなベクターは、適切な宿主中で DNA配列を発現するように、適切な制御配列(control sequence)とそれが機能するように(operably)(即ち、外来DNAが発現できるように)連結せしめられたDNA配列を含有する DNA構築物(DNA construct) を意味している。そうした制御配列としては、転写(transcription) させるためのプロモーター、そうした転写を制御するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードしている配列、エンハンサー、リアデニル化配列、及び転写や翻訳(translation) の終了を制御する配列等が挙げられる。更にベクターは、当業者に公知の各種の配列、例えば、制限酵素切断部位、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子(選択遺伝子)、シグナル配列、リーダー配列等を必要に応じて適宜含むことが出来る。これらの各種配列又は要素は、外来DNAの種類、使用する宿主細胞、培養培地等の条件に応じて、当業者が適宜選択して使用することが出来る。更に、製造した一本鎖ポリペプチドの検出及び精製等を容易にする目的のために、当業者に公知の各種のペプチドタグ(例えば、c-mycタグ及びHis-tag)をコードする配列を一本鎖ポリペプチドに対応する配列の末端等に含ませることが出来る。

【0072】
該ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、あるいは単純にゲノムの挿入体(genomic insert)等の任意の形態が可能である。一旦、適切な宿主の中に形質転換で導入せしめられると、該ベクターは宿住のゲノムとは独立して複製したり機能するものであり得る。又は、該ベクターはゲノムの中に組み込まれるものであってもよい。

【0073】
本発明の抗体を構成する一本鎖ポリペプチドを製造する為に使用する各種の発現ベクターは、当業者であれば、当該技術分野における公知技術を用いて容易に作製することが出来る。その一例として、特許文献1、特に、実施例1、2、11及び12の記載及び特許文献2における各実施例を挙げることが出来る。

【0074】
宿主細胞としては当業者に公知の任意の細胞を使用することができるが、例えば、代表的な宿主細胞としては、大腸菌(E. coli) 等の原核細胞、及び、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞) 、ヒト由来細胞などの哺乳動物細胞、酵母、昆虫細胞等の真核細胞が挙げることができる。形質転換菌は当業者に公知の任意の抵当な条件・方法で培養することができる。宿主として、例えば、BL21 star(DE3)株、培地として2xYT培地、培養温度28℃前後、0.5 mM 程度のIPTGで発現を誘導することによって、培養上清又は可溶性画分における本発明の抗体の収量を大幅に向上させることができ、製造効率を高めることが可能となる。

【0075】
このような宿主細胞における発現等により得られた一本鎖ポリペプチドは一般に分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収されるが、それが分泌シグナルを持たずに直接に産生された場合には宿主細胞溶解物から回収することが出来る。一本鎖ポリペプチドが膜結合性である場合には、適当な洗浄剤(例えば、トライトン-X100) を使用して膜から遊離せしめることができる。

【0076】
精製操作は当業者に公知の任の方法を適宜組み合わせて行うことが出来る。例えば、必用に応じてPEG化等の化学修飾を行った後、遠心分離、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースでのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン樹脂クロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラム等)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、及びアフィニティクロマトグラフィーによって好適に精製される。アフィニティクロマトグラフィーは、一本鎖ポリペプチドが有するぺプチドタグとの親和力を利用した効率が高い好ましい精製技術の一つである。

【0077】
回収された一本鎖ポリペプチドは不溶性画分に含まれている場合には、精製操作は、一本鎖ポリペプチドを可溶化し変性状態にした上で行うことが好ましい。この可溶化処理は、エタノールなどのアルコール類、グアニジン塩酸塩、尿素などの解離剤として当業者に公知の任意の薬剤を使用して行うことが出来る。更に、こうして精製された同一種類又は2種類の一本鎖ポリペプチドを会合(巻き戻し)せしめ、形成された抗体を分離して回収することによって、本発明の抗体を製造することが出来る。

【0078】
会合処理は、単独の一本鎖ポリペプチドを適切な空間的配置に戻すことによって、所望の生物活性を有する状態に戻すことを意味する。従って、会合処理は、ポリペプチド同志あるいはドメイン同志を会合した状態に戻すという意味も有しているので「再会合」ともいうことができるし、所望の生物活性を有するものにするという意味で、再構成ということもでき、或いは、リフォールディング (refolding)とも呼ぶことが出来る。会合処理は当業者に公知の任意の方法で行うことが出来るが、例えば、透析操作により、一本鎖ポリペプチドを含むバッファ溶液中の変性剤(例えば、塩酸グアニジン)の濃度を段階的に下げる方法が好ましい。この過程で、凝集抑制剤、及び酸化剤を反応系に適宜添加することによって、酸化反応の促進を図ることも可能である。形成された多量体化低分子抗体の分離及び回収も当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。

【0079】
以上に示したように、本発明の抗体は、例えば、培養宿主細胞の培養培地上清、ペリズマ画分、菌体内可溶性画分、又は、菌体内不溶性画分から調製することが可能である。

【0080】
本発明のベクターとして、本発明の抗体を構成する一本鎖ポリペプチドに対応する核酸分子を共に含む共発現ベクターを用いることによって、又は、一本鎖ポリペプチドの夫々をコードする核酸分子を含む発現ベクターを同一の宿主細胞を形質転換せしめ、該形質転換菌内で夫々の一本鎖ポリペプチドが発現した後に抗体分子が形成され、それを培養宿主細胞の培養培地上清又は可溶性画分から調製することが可能である。従って、このような場合には、上記の会合(巻き戻し)処理は不要となり、低コストで高生産性が得られる。

【0081】
本発明の医薬組成物は、本発明の抗体、一本鎖ポリペプチド、核酸、ベクター、及び形質転換された宿主細胞から成る群から選ばれたものを有効成分として含有することを特徴とする。かかる有効成分は、以下の実施例に示されているように、インビトロ及びインビボで上皮細胞成長因子受容体を発現する(陽性)腫瘍細胞を有意に排除・殺傷・傷害する作用を有しているので、本発明の医薬組成物はこのような腫瘍細胞に対する抗腫瘍剤として使用することが出来る。

【0082】
本発明の有効成分の有効量は、例えば治療目的、腫瘍の種類、部位及び大きさ等の投与対象における病状、患者の諸条件、及び投与経路等によって当業者が適宜決めることが出来る。典型的な1回の投与量又は日用量は、上記の条件に応じ、可能ならば、例えば当分野で既知の腫瘍細胞の生存又は生長についての検定法を使用して、まずインビトロで、そして次に、人間の患者のための用量範囲を外挿し得る適切な動物モデルで、適当な用量範囲を決定することもできる。

【0083】
本発明の医薬組成物には、有効成分の種類、薬剤形態、投与方法・目的、投与対象の病態等の各種条件に応じて、有効成分に加えて当業者に周知の薬学上許容し得る各種成分(例えば、担体、賦形剤、緩衝剤、安定化剤、等)を適宜添加することが出来る。

【0084】
本発明の医薬組成物は、上記各種条件に応じて、錠剤、液剤、粉末、ゲル、及び、噴霧剤、或いは、マイクロカプセル、コロイド状分配系(リポソーム、マイクロエマルジョン等)、及びマクロエマルジョン等の種々薬剤形態をとり得る。

【0085】
投与方法としては、静脈内、腹腔内、脳内、脊髄内、筋肉内、眼内、動脈内、特には胆管内、又は病変内経路による注入又は注射、及び持続放出型システム製剤による方法が挙げられる。本発明の活性物質は、輸液により連続的に、または大量注射により投与されることができる。尚、本発明の医薬組成物を投与する場合には、食作用又は細胞傷害活性を有する細胞と共に投与することが好ましい。或いは、投与前に本発明のLH型ダイアボディ型二重特異性抗体のような有効成分と上記細胞とを混合することによって、投与前に該抗体を予め該細胞に結合させておくことが好ましい。

【0086】
持続放出製剤は、一般的には、そこから本発明の活性物質をある程度の時間放出することのできる形態のものであり、持続放出調製物の好適な例は、蛋白質を含む固体疎水性ポリマーの半透過性担体を含み、該担体は、例えばフィルムまたはマイクロカプセル等の成型物の形態のものである。

【0087】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法、例えば日本薬局方解説書編集委員会編、第十三改正 日本薬局方解説書、平成8年7月10日発行、株式会社廣川書店などの記載を参考にしてそれらのうちから必要に応じて適宜選択して製造することができる。

【0088】
尚、本明細書及び図面において、用語はIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。

【0089】
以下に参考例及び実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。

【0090】
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。尚、以下の実施例において、特に指摘が無い場合には、具体的な操作並びに処理条件などは、DNA クローニングでは J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, “Molecular Cloning", 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor, N. Y. (1989) 及び D. M. Glover et al. ed., “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) ; 特にPCR 法では、H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed.,“DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) 及び M. A. Innis et al. ed.,“PCR Protocols", Academic Press, New York (1990)に記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している。
【実施例1】
【0091】
Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcの調製
ヒンジ近傍での断片化の抑制を目指して、ヒンジ上流部に剛直なオリゴペプチド(以下、単位「ER/K Helix」と記載する)を導入したLH型 Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcの調製を進めた。また、HL型 Ex3-scDb-FcはLH型よりも断片化の進行が早いことが確認されているため、HL型にER/K Helixを導入した方が断片化の抑制能を評価しやすいと考え、HL型 Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcの調製も試みた。
【実施例1】
【0092】
発現ベクターの構築
特許文献2の実施例1に記載の方法で作製した動物細胞発現用ベクターpcDNA- HL型Ex3-scDb-Fc及びLH型 Ex3-scDb-Fcを鋳型として、変異導入プライマーを利用したオーバーラップPCRによりER/K Helixを含むBamHI-5H-OL-ER/K Helix-Fc-XhoI断片(配列番号11)及びBamHI-5L-OH-ER/K Helix-Fc-XhoI断片(配列番号12)を作製し、夫々、BamHI、XhoIの制限酵素部位で導入することでpcDNA-HL型 Ex3-scDb-ER/K Helix-Fc及びpcDNA-LH型 Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcの2種類を作製し(図3)、その配列を確認した。
尚、ER/K HelixのコドンはCodon Usage Database(http://www.kazusa.or.jp/codon/)を参照してCHO細胞に対して最適化した。作製する際、使用したPCR プライマーの配列及び反応条件を以下に示す。
【実施例1】
【0093】
PCR primer
pcDNA-HL型 Ex3-scDb-ER/K Helix-Fc
1st PCR (鋳型:pcDNA-HL型 Ex3-scDb-Fc、アニーリング温度:55.5℃、伸長時間:1 min)
・back primer:BamHI-h5H
配列(配列番号13):NNNGGATCC CAGGTGCAACTGGT
・forward primer:ER/K Helix OL forward
配列(配列番号14):
GCGTTTGATCCGTTCCTCTTCCTCTCTCTGCTTCCTTTCCTCTTCCTC GGCGCGGGTAATCTGCAGTTTGGTA

(鋳型:pcDNA-HL型 Ex3-scDb-Fc、アニーリング温度:62.3℃、伸長時間:1 min)
・back primer:ER/K Helix YT Hinge CH2 back
配列(配列番号15):
GAGGAAGAGGAAAGGAAGCAGAGAGAGGAAGAGGAACGGATCAAACGCTACACATGCCCACCGTGCCCA GCACCT
・forward primer:CH3-xhoI
配列(配列番号16):NNNCTCGAGTCATTTACCCGGAGACAGGGAGAG

2nd PCR (鋳型:1st PCR産物、アニーリング温度:55.5℃、伸長時間:1.6 min)
・back primer:BamHI-h5H
配列:上述
・forward primer:CH3-xhoI
配列:上述

【実施例1】
【0094】
pcDNA-LH型 Ex3-scDb-ER/K Helix-Fc
1st PCR (鋳型:pcDNA-LH型 Ex3-scDb-Fc、アニーリング温度:61.2℃、伸長時間:1 min)
・back primer:BamHI-h5L
配列(配列番号17):NNNGGATCCGATATTGTGATGACCCAGAGCCC
・forward primer:ER/K Helix OH forward
配列(配列番号18):
GCGTTTGATCCGTTCCTCTTCCTCTCTCTGCTTCCTTTCCTCTTCCTCGGAGCTAACGGTCACCGGGGTGCC

(鋳型:pcDNA-LH型 Ex3-scDb-Fc、アニーリング温度:62.3℃、伸長時間:1 min)
・back primer:ER/K Helix YT Hinge CH2 back
配列:上述
・forward primer:CH3-xhoI
配列:上述

2nd PCR (鋳型:1st PCR産物、アニーリング温度:61.2℃、伸長時間:1.6 min)
・back primer:BamHI-h5L
配列:上述
・forward primer:CH3-xhoI
配列:上述
【実施例1】
【0095】
CHO細胞への遺伝子導入とクローニング
こうして作製した2種の発現ベクターを予め機能に影響を与えないNruIで制限酵素消化し、直鎖状にした。続いてCHO細胞を宿主細胞として用い、Lipofectamine LTXを使用したリポソーム法により遺伝子導入を行った。その後、抗生剤G418によるスクリーンニングを行い、その培地上清を用いて、当業者に公知の方法(例えば、特許文献5の実施例2に記載の方法)に準じた方法を用いたフローサイトメトリーによりヒト扁平上皮がん細胞株であるA431細胞(ATCC No.CRL-1555)及びT-LAKに対する結合活性評価を行ったところ、各々に対して結合活性を保持していたことから、各Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcの遺伝子導入に成功したことが確かめられた(図4)。
【実施例1】
【0096】
続いて、限界希釈法によるクローニングを行い、その培地上清を用いたELISAで各Ex3-scDb-ER/K Helix-Fc高産生クローンの選択を行った(図5)。特に高発現かつ一つの細胞から派生したコロニーだけを形成していた数クローンを取得し、12穴プレートで拡大培養した。その培地上清を用い10倍、100倍希釈した溶液を調製し、再びELISAを行い、高発現クローンを3クローンずつ選択した(図6)。ELISAはHuman IgG ELISA Quantitation Kit(BETHYL社)を用いて行った。
【実施例1】
【0097】
それらをCHO-S-SFM II(ライフテクノロジーズジャパン社)を用いてトリプルフラスコで大量培養し、その培地上清をプロテインA精製して最も収量が高かった一つクローン(No.256及び No.301)を選択した。その際の培地1 L当たりの収量[mg/L]を表1に示す。
【実施例1】
【0098】
【表1】
JP0006210455B2_000002t.gif
【実施例1】
【0099】
Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcの調製
高発現クローンを各々ローラーボトルを用いて再度大量培養し、培地上清をプロテインA精製した。SDS-PAGE、ウエスタンブロッティングを行ったところ、溶出各分に本発明の抗体であるEx3-scDb-ER/K Helix-Fcの各バンドが確認された(図7)。プロテインA精製での培地1 L当たりの最高収量[mg/L]を表2に示す。
【実施例1】
【0100】
【表2】
JP0006210455B2_000003t.gif
【実施例1】
【0101】
続いて、プロテインA精製の溶出画分をsuperdex200 26/60のカラムを用いてゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した(図8)。
【実施例2】
【0102】
Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcの機能評価
次に、実施例1で調製されたLH型 及びHL型のEx3-scDb-ER/K Helix-Fcの各種機能性の評価を実施した。
【実施例2】
【0103】
(1)A431, T-LAKに対する結合活性評価
精製後の各Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcを用いて実施例1と同様のフローサイトメトリーにより、A431及びT-LAKに対する結合活性評価を行った(図9)。結果、各Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcは各々の細胞に対する結合能を示すことが確認された。
【実施例2】
【0104】
(2)MTS assayによる細胞傷害性試験
精製後、フィルターろ過滅菌した各Ex3-scDb-ER/K Helix-Fc及び同時期に調製したコントロール用の各Ex3-scDb-Fc(W.T.)を用いて、当業者に公知の方法(例えば、特許文献2の実施例5に記載の方法)に準じたMTS assayによりヒト胆菅癌細胞株であるTFK-1(東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センター ID:TKG036)に対する細胞傷害性試験を行った(図10)。
一般的にIgG抗体が抗原に結合する際にはヒンジの柔軟性が重要であり、今回これに反する剛直なヘリックス構造を導入することで抗原への結合能の低下に起因する細胞傷害活性の低下が懸念された。しかしながら、図10に示されるように、HL型 Ex3-scDb-ER/K Helix-FcはHL型 Ex3-scDb-Fc(W.T.)と、LH型 Ex3-scDb-ER/K Helix-FcはLH型 Ex3-scDb-Fc(W.T.)と同等の細胞傷害活性を示していた。
その理由の一つとして、ER/K Helixを導入したヒンジ上流部のアミノ酸数はW.T.より5アミノ酸長いことから、ヒンジの剛直化とリンカーの延長による柔軟化が相殺されて同等の活性になったと考えられる。
【実施例2】
【0105】
断片化抑制能の評価
当初の目的であった断片化の抑制が達成されているかを確かめるために、ゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した各Ex3-scDb-ER/K Helix-Fc及びコントロール用の各Ex3-scDb-Fc(W.T.)を2, 4, 8週間後~に再度ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子形状評価を行った。2週間後、4週間後及び 8週間後の結果を、夫々、図11、図12及び図13に示す。
【実施例2】
【0106】
HL型 Ex3-scDb-Fc(W.T.)は2週間後から、LH型 Ex3-scDb-Fc(W.T.)は4週間後から断片化がみられるのに対し、両Ex3-scDb-ER/K Helix-Fcでは8週間経過でも断片化しておらず、断片化が有意に抑制されたことが確認された。
【実施例2】
【0107】
参考文献
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【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、二重特異性抗体を含む各種の融合抗体等において、ヒンジ領域での断片化を有意に抑制して、その機能を長期間に亘って安定的に保持する技術を提供し、次世代の抗体医薬の開発を加速させ、大いに貢献するものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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