TOP > 国内特許検索 > 赤かび病菌かび毒産生抑制剤 > 明細書

明細書 :赤かび病菌かび毒産生抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-039649 (P2017-039649A)
公開日 平成29年2月23日(2017.2.23)
発明の名称または考案の名称 赤かび病菌かび毒産生抑制剤
国際特許分類 A01N  45/00        (2006.01)
C07J  41/00        (2006.01)
C07J  43/00        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01N 45/00 ZNA
C07J 41/00
C07J 43/00
A01P 3/00
C12N 9/99
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 29
出願番号 特願2015-160764 (P2015-160764)
出願日 平成27年8月18日(2015.8.18)
発明者または考案者 【氏名】木村 眞
【氏名】前田 一行
【氏名】中嶋 佑一
【氏名】長田 裕之
【氏名】本山 高幸
【氏名】斉藤 臣雄
【氏名】近藤 恭光
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100167689、【弁理士】、【氏名又は名称】松本 征二
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4C091
4H011
Fターム 4B024AA11
4B024CA01
4B024CA04
4B024CA09
4B024CA11
4B024CA20
4B024HA09
4B024HA11
4C091AA01
4C091BB05
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE02
4C091EE10
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091JJ03
4C091KK01
4C091LL01
4C091MM03
4C091NN01
4C091PA02
4C091PB02
4C091QQ01
4H011AA01
4H011BB06
4H011BB09
要約 【課題】赤かび病菌のかび毒抑制剤及び赤かび病菌のかび毒抑制方法の提供。
【解決手段】式(1)で表される化合物及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分とする赤かび病菌のかび毒抑制剤、及び該抑制剤による赤かび病菌のかび毒産生を抑制する方法。
JP2017039649A_000039t.gif
(R1は-COCH3、-OH、-COCH2OH又は-C≡C;R2は-H又は-OH;R3は-H又は-OH;R4はアミノ酸又はアミノ酸類縁体)
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(1):
【化1】
JP2017039649A_000025t.gif
で表される化合物、及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分として含むトリコテセン系かび毒抑制剤。
(式中Rは、-COCH、-OH、-COCHOH、又は-C≡Cを表す。Rは、-H、又は-OHを表す。Rは、-H、又は-OHを表す。Rは、アミノ酸、又はアミノ酸類縁体を表す。)
【請求項2】
前記(1)で表される化合物のRは、以下から選択されることを特徴とする請求項1記載のトリコテセン系かび毒抑制剤。
【化2】
JP2017039649A_000026t.gif

【請求項3】
請求項1又は2記載のトリコテセン系かび毒抑制剤が、
下記式(2)~(6)で表される化合物、及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分として含むことを特徴とするトリコテセン系かび毒抑制剤。
【化3】
JP2017039649A_000027t.gif
【化4】
JP2017039649A_000028t.gif
【化5】
JP2017039649A_000029t.gif
【化6】
JP2017039649A_000030t.gif
【化7】
JP2017039649A_000031t.gif

【請求項4】
下記式(1):
【化8】
JP2017039649A_000032t.gif
で表される化合物、及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分として含むトリコテセン系かび毒抑制剤によって、農産物、その種子、農産物を栽培する圃場、栽培中の農産物の少なくとも1つを処理することを特徴とするトリコテセン系かび毒抑制方法。
(式中Rは、-COCH、-OH、-COCHOH、又は-C≡Cを表す。Rは、-H、又は-OHを表す。Rは、-H、又は-OHを表す。Rは、アミノ酸、又はアミノ酸類縁体を表す。)
【請求項5】
前記(1)で表される化合物のRは以下から選択されることを特徴とする請求項4記載のかび毒抑制方法。
【化9】
JP2017039649A_000033t.gif

【請求項6】
請求項4又は5記載のトリコテセン系かび毒抑制方法であって、
下記式(2)~(6)で表される化合物、及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分として含むトリコテセン系かび毒抑制剤を用いることを特徴とするトリコテセン系かび毒抑制方法。
【化10】
JP2017039649A_000034t.gif
【化11】
JP2017039649A_000035t.gif
【化12】
JP2017039649A_000036t.gif
【化13】
JP2017039649A_000037t.gif
【化14】
JP2017039649A_000038t.gif

【請求項7】
請求項4~6いずれか1項記載のトリコテセン系かび毒抑制方法において、
前記農産物が、小麦、大麦、トウモロコシ、米、ピーナッツの少なくとも1つであることを特徴とするトリコテセン系かび毒抑制方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、赤かび病菌のかび毒産生を抑制する薬剤に関する。特に、赤かび病菌の産生するトリコテセンと総称されるマイコトキシン生合成の最初のステップに関与する酵素であるトリコジエンシンターゼ(trichodiene synthase、以下TRI5pと記載することもある。)の活性を阻害する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フザリウム グラミネアラム(Fusarium graminearum)やフザリウム アシアティクム(Fusarium asiaticum)等のかびは畑等の土壌に生息する糸状菌である。これらフザリウム属の菌が、麦、トウモロコシの穂に感染することにより、粒が肥大しなくなったり、穂全体が枯れたりする赤かび病と呼ばれる植物病害が生じる。
【0003】
赤かび病は、麦等の植物の組織を壊死させるために収穫量の減少を引き起こす。さらに、かび毒を生成することから、摂取したヒト、家畜に健康被害をもたらすことが知られている。フザリウム属は、化学構造からトリコテセン系かび毒、ゼアラレノン、ブテノライド等、数種類のかび毒を生成することが知られている。特に、トリコテセン系かび毒は、真核生物のタンパク合成阻害を引き起こす。そのため、ヒトや家畜が汚染された穀物を摂取すると、食中毒性無白血球症と言われる悪心、嘔吐、腹痛、下痢、造血機能障害、免疫不全を伴う中毒症状を引き起こす。
【0004】
赤かび病に罹患した作物では、外見上萎縮するなど形態的に異常が認められる穀粒だけではなく、外見健全粒といわれる外見は全く正常な穀粒であってもかび毒によって汚染されている場合がある。そのため、汚染された作物をヒトや家畜が摂取し、重篤な中毒症状が引き起こされることがあった。そのため、農林水産省は、トリコテセン系かび毒の一つであるデオキシニバレノール(deoxynivalenol、DON)については農産物検査規格を改正し、流通上の規制の強化を行っている。かび毒は加工や調理工程において除去することは難しいため、生産段階において防除することがヒト、家畜での健康被害を生じさせないためには重要になっている。
【0005】
また、トリコテセン系かび毒は宿主の病徴の進展への関与も指摘されている。したがって、トリコテセン系かび毒の合成を阻害することができれば、麦、トウモロコシの植物病害も低減することができる。トリコテセン系かび毒の産生を制御する農薬の開発は、食の安全性の確保に寄与するばかりではなく、植物病害防除に対しても画期的な薬剤を提供することになる。
【0006】
トリコテセン産生抑制剤としてはプレコセンが開示されている(特許文献1)。プレコセンは昆虫の抗幼若ホルモンとして既知の化合物であるが、新たにトリコテセン産生を抑制する機能が見出された。クロメン誘導体であるプレコセンには、構造式の異なるプレコセン-1、プレコセン-2、プレコセン-3が存在するが、中でもプレコセン-2は培地へ添加した試験の結果から毒素産生抑制効果が高いとされていた。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2009-167138号公報
【0008】

【非特許文献1】Yaguchi et al., 2009, J. Agric. Food Chem., Vol. 57,pp.846-851.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、プレコセン-2は、植物体上での赤かび接種試験を行った結果、植物体上では効果が認められなかった。また、特許文献1で用いられている菌株、H3株以外の赤かび病菌株に対しては抑制効果が全く認められなかったことから、菌株特異的な抑制効果であったと考えられている。したがって、菌株に依存しない有効な防除効果が認められる薬剤の開発が待たれている。
【0010】
本発明はトリコテセン系かび毒の産生を抑止する薬剤を提供することを課題とする。さらに、該薬剤によって、フザリウム属のかびが産生するかび毒による農産物の汚染を防ぎ、かび毒の汚染の心配のない作物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]下記式(1):
【化1】
JP2017039649A_000003t.gif
で表される化合物、及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分として含むトリコテセン系かび毒抑制剤。
(式中Rは、-COCH、-OH、-COCHOH、又は-C≡Cを表す。Rは、-H、又は-OHを表す。Rは、-H、又は-OHを表す。Rは、アミノ酸、又はアミノ酸類縁体を表す。)
[2]前記式(1)で表される化合物のRは、以下から選択されることを特徴とする上記[1]記載のトリコテセン系かび毒抑制剤。
【化2】
JP2017039649A_000004t.gif
[3]上記[1]又は[2]記載のトリコテセン系かび毒抑制剤が、
下記式(2)~(6)で表される化合物、及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分として含むことを特徴とするトリコテセン系かび毒抑制剤。
【化3】
JP2017039649A_000005t.gif
【化4】
JP2017039649A_000006t.gif
【化5】
JP2017039649A_000007t.gif
【化6】
JP2017039649A_000008t.gif
【化7】
JP2017039649A_000009t.gif
[4]下記式(1):
【化8】
JP2017039649A_000010t.gif
で表される化合物、及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分として含むトリコテセン系かび毒抑制剤によって、農産物、その種子、農産物を栽培する圃場、栽培中の農産物の少なくとも1つを処理することを特徴とするトリコテセン系かび毒抑制方法。
(式中Rは、-COCH、-OH、-COCHOH、又は-C≡Cを表す。Rは、-H、又は-OHを表す。Rは、-H、又は-OHを表す。Rは、アミノ酸、又はアミノ酸類縁体を表す。)
[5]前記式(1)で表される化合物のRは以下から選択されることを特徴とする上記[4]記載のかび毒抑制方法。
【化9】
JP2017039649A_000011t.gif
[6]上記[4]又は[5]記載のトリコテセン系かび毒抑制方法であって、
下記式(2)~(6)で表される化合物、及び薬学的に許容される塩の少なくとも1つ以上を有効成分として含むトリコテセン系かび毒抑制剤を用いることを特徴とするトリコテセン系かび毒抑制方法。
【化10】
JP2017039649A_000012t.gif
【化11】
JP2017039649A_000013t.gif
【化12】
JP2017039649A_000014t.gif
【化13】
JP2017039649A_000015t.gif
【化14】
JP2017039649A_000016t.gif
[7]上記[4]~[6]いずれか一つに記載のトリコテセン系かび毒抑制方法において、
前記農産物が、小麦、大麦、トウモロコシ、米、ピーナッツの少なくとも1つであることを特徴とするトリコテセン系かび毒抑制方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明者らは、トリコジエンシンターゼと結合し、その活性を阻害する化合物を見出した。本発明の化合物を有効成分とする薬剤は、かび毒の生合成を阻害することが可能であることから、赤かび病によるかび毒を防除するだけではなく、植物病害を防ぐ薬剤を提供することができる。また、これら化合物は作用点があらかじめ明らかになっていることから、作用機序の異なる殺菌剤と混合して使用することにより、より効果的なかび毒抑制剤としての効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】化合物アレイを用いたトリコジエンシンターゼ阻害剤のスクリーニング方法を模式的に示す図。
【図2】本発明の化合物のin vitro アッセイ系でのトリコジエンシンターゼ阻害を示す図。
【図3】NPD10133及びその類縁体化合物のin vivo アッセイ系でのトリコジエンシンターゼ阻害を示す図。
【図4】NPD10133及びその類縁体の菌体重量当たりのかび毒産生と菌体重量に対する影響を示す図。(A)JCM9873株、(B)ZEA1株を用いた結果を示す。
【図5】NPD352、NPD13120の濃度依存的阻害効果を示す図。
【図6】NPD352の速度論的解析を示す図。
【図7】異なる属の菌による異なるトリコテセン系毒素の産生を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、トリコテセン系かび毒の生合成の最初のステップに関与する酵素であるトリコジエンシンテターゼ(TRI5p)を標的とする化合物を有効成分として含む阻害剤を用いることによって、かび毒の合成を完全にストップさせることが可能であるという仮説のもとに開発を進めた。

【0015】
本発明の赤かび病菌かび毒産生抑制剤は、トリコジエンシンターゼ活性を阻害することによるトリコテセン系かび毒の抑制剤である。したがって、フザリウム属の菌に限らず、トリコセシウム属等、トリコテセン系かび毒の生合成のステップに、トリコジエンシンターゼを必要とする全ての菌に有効である。

【0016】
本発明の赤かび病菌かび毒産生抑制剤は、単独で用いてもよいし、他の農薬と混合して用いてもよい。特に、作用機序の異なるトリアゾール系のエルゴステロール合成阻害剤であるメトコナゾール(商品名ワークアップフロアブル)、テブコナゾール(商品名シルバキュアフロアブル)、ベンズイミダゾール系の細胞分裂(微小管重合)阻害剤であるチオファネートメチル(商品名トップジンM)と混合して用いることにより、より高い抑制効果を期待することができる。

【0017】
本発明の赤かび病菌かび毒産生抑制剤は、農薬製剤の製造方法の定法にしたがって、必要に応じて界面活性剤、その他の補助剤を加えて製剤化してもよい。具体的な製剤例としては、粒剤、粉剤、水和剤、懸濁性剤、乳剤、塗布剤、油剤等を例示することができる。

【0018】
本発明のかび毒産生抑制剤は、NPD10133(後述する理研NPDepo化合物ライブラリー収録されている化合物)に代表されるステロイドホルモン骨格とアミノ酸およびその誘導体が連結した構造を有している。NPD10133類縁体の化合物もフザリウム属の菌を用いたアッセイによりかび毒産生を抑制する効果が認められたことから、ステロイドホルモン骨格を有し、アミノ酸及びその誘導体が連結した構造を備えたものであれば、トリコテセン系かび毒の産生抑制剤として作用し得るものと考えられる。

【0019】
本発明のかび毒産生抑制剤として、例えば、NPD352(methyl 2-[2-({[(2R,5Z,15S)-14-hydroxy-2,15-dimethyltetracyclo[8.7.0.0te.01115]heptadec-6-en-5-ylidene]amino}oxy)acetamido]-3-phenylpropanoate)を用いた場合、乳剤で用いるのが好ましいが、水和剤、懸濁性剤等として用いてもよい。また、乳剤で用いる場合には、使用に際して500~1000倍程度の濃度に希釈して使用する形態としてもよい。使用時期としては、開花期で降雨のない時期に散布するのが好ましい。また、濃度は、使用目的、使用時期等によって適宜変更することができる。本発明の他の化合物を用いる場合も、同様に阻害定数から適宜希釈倍率等を設定することができる。
【実施例1】
【0020】
≪化合物アレイを用いたスクリーニング≫
図1に化合物のスクリーニング方法を模式的に示す。化合物アレイ(「理化学研究所ケミカルバイオロジー研究グループ化合物リソース開発研究ユニット」の化合物アレイ)を用いて、4000種類の化合物の中から、TRI5pに結合する化合物の探索を行った。化合物は、トリフルオロメチルジアジリンをリンカーとして、チップ上に固定されている。化合物はいくつかの異なる官能基によって、リンカーと結合させているため、固相への結合形態によらず、化合物とTRI5pとの結合を検出することができる。
【実施例1】
【0021】
TRI5タンパク質は、以下のようにして、TRI5p発現ベクターを構築し、組換えタンパク質を精製して用いた。
【実施例1】
【0022】
毒素産生培地である米粉煮汁培地(5%(w/v)米粉、3%(w/v)スクロース、0.1%(w/v)Bacto yeast extract)で培養したMAFF 111233株(農業生物資源研究所ジーンバンクより入手)から、RT-PCRによって下記のTri5クローニング用プライマーを用い、KOD-Plus(TOYOBO社製)で増幅し、Tri5のcDNA全長(GenBank ID:AB060689)(1,128nt)を取得した。
【実施例1】
【0023】
[Tri5クローニング用プライマー]
T5_SNd:5’-ACATATGGAGAACTTTCCCACCG-3’
T5_ASSL:5’-TGTCGACTCACTCCACTAGCTCAATCG-3’
【実施例1】
【0024】
増幅産物を制限酵素NdeIとSalIで消化後、pCold(登録商標)II DNA(タカラバイオ株式会社製)に導入し、TRI5p発現ベクターであるpCold II His-Tri5を構築した。得られた発現ベクターを用いRosetta(登録商標)2 Competent Cells(Merck Millipore社製)を形質転換した。
【実施例1】
【0025】
タンパク質発現のためには、まずTri5発現大腸菌を37°C、160rpmでO.D.600が0.5となるまで旋回培養した。次に氷水中で急速に冷却後、0.1mMとなるようIPTGを添加し、15°C、160rpmで旋回培養した。24時間後に培養液から集菌し、破砕バッファー(10mM Tris-HCl、pH7.5、5mM MgCl、15% glycerol、5mM 2-mercaptoethanol、300mM NaCl、0.1mM phenylmethylsulfonyl fluoride)に懸濁した。超音波ホモジナイザーUD-201(トミー精工社製)を用いて破砕した後、遠心により上清を回収し、上清を孔径0.2μmの25mmシリンジフィルター(GE Healthcare社製)で濾過し、HisTALON(登録商標)Superflow(登録商標)Cartridges(タカラバイオ株式会社製)を用いてアフィニティー精製を行った。イミダゾール溶出画分を回収後、HiTrap Desalting(GE Healthcare社製)で脱塩し、HiTrap Q SP(GE Healthcare社製)カラムを用い、イオン交換クロマトグラフィーによる精製を行った。組換えTRI5タンパク質(以下、Hisタグが付与されている組換えタンパク質はHis-TRI5pと記載することもある。)は30mM NaClで溶出された。
【実施例1】
【0026】
スクリーニングにはHiTrap Q SP(GE Healthcare社製)で精製されたサンプルを脱塩したものを供した。化合物アレイとHis-TRI5pをインキュベートし、抗Hisマウスモノクローナル抗体(GE Heakthcare社製)及び蛍光標識された抗マウス抗体で、化合物に結合したTRI5タンパク質の検出を行なった。下記表1の31化合物がTRI5pとの結合性を示した。
【実施例1】
【0027】
【表1】
JP2017039649A_000017t.gif
JP2017039649A_000018t.gifJP2017039649A_000019t.gifJP2017039649A_000020t.gif
【実施例1】
【0028】
化合物は構造に共通性のあるものが4群ほど存在したが(化合物番号5、6、7、9、化合物番号13、14、化合物16、20、及び化合物29、30)、その他の化合物には共通性は見出せなかった。表1に示したTRI5pと結合性を示した上記31種の化合物が、毒素産生を抑制するか下記実施例3に示す方法によりフザリウム菌を用いた系でアッセイを行った。しかしながら、いずれの化合物もフザリウム菌を用いたアッセイ系では、顕著な毒素産生の抑制が見られなかった。
【実施例2】
【0029】
≪in vitro TRI5p活性阻害検定≫
表1で示したTRI5pと結合性を示す化合物が、in vitroアッセイ系でTRI5p活性を阻害するか解析を行なった。活性検定に供するHis-TRI5pは、実施例1で用いたHiTrap Q SP精製後のタンパク質を、さらに、Mono Q 5/50 GL(GE Healthcare社製)カラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーによって高度に精製したものを用いた。
【実施例2】
【0030】
活性測定には、EnzCheck(登録商標)Pyrophosphate Assay Kit(Life Technologies社製)を用いた。反応液の組成の詳細は、50mM Tris-HCl、pH7.5、1mM MgCl、1mM dithiothreitol(DTT)、4.6μM farnesyl pyrophosphate(FPP)、30nM His-TRI5p、1U/ml purine nucleoside phosphorylase、0.1U/ml inorganic pyrophosphatase、0.2mM MESG substrate、及び100μg/mlの31種の各候補化合物である。室温で30分間インキュベートした後、分光光度計にて360nmの吸光度を測定した。結果を図2に示す。
【実施例2】
【0031】
表1の32化合物のうち、2、5、8、13、25、27番目の化合物である、Chenodeoxycholic acid、 (3aR,6aS)-3a,6a-Dimethyl-4,5,6,6a-tetrahydro-3aH-2-oxa-fluoranhebe-1,3-dione、 (1R,2S,3R)-2-Carboxymethyl-3(2-methoxy-phenyl)-1,3-dimethyl-cyclohexanecarboxylic acid、NPD10133、NPD12307、NPD13717の6化合物がトリコジエンシンターゼ活性を抑制した。6つの化合物の中でも、NPD10133は、100μg/ml(187μM)で85.4%のTRI5p活性を阻害した。
【実施例3】
【0032】
≪NPD10133類縁化合物を用いたより阻害活性の高い化合物の探索≫
NPD10133が高い阻害活性を示したことから、NPD10133を構造展開した類縁体を用い、より阻害活性の高い化合物の探索を試みた。NPD10133、及び理化学研究所NPDepo化合物ライブラリーに収録されているNPD10133の類縁化合物20個の計21の化合物を用いた(表2)。21種の化合物は、ステロイドホルモン骨格とアミノ酸およびその誘導体が連結した構造を有している。表2に示した21種の化合物について、フザリウム属の菌を用いて、トリコテセン系のかび毒の合成を阻害するか解析した。ステロイド骨格にアミノ酸、あるいはその類縁体が結合した化合物は、結合活性を示し、トリコジエンシンターゼ活性を抑制する蓋然性が高い。ここで、アミノ酸とは、必須アミノ酸だけではなく、アミノ基とカルボキシル基の両方の官能基をもつ有機化合物の総称であり、アミノ酸類縁体とは、有機合成の過程で用いた保護機を含む誘導体のことである。
【実施例3】
【0033】
【表2】
JP2017039649A_000021t.gif
JP2017039649A_000022t.gifJP2017039649A_000023t.gifなお、表2では、C及びHは省略して記載してある。
【実施例3】
【0034】
解析は、以下の方法で行った。菌株は、トリコテセン系かび毒の1種である15-アセチルデオキシニバレノール(15-acetyldeoxynivalenol、15-ADON)を生産するFusarium graminearum JCM9873株(JCM (Japan culture collection) 理化学研究所微生物材料開発室より入手)を用いた。分生胞子(conidia)の誘導にはCMC液体培地(1.5% CMC-Na、0.1% NHNO、0.1% KHPO、0.1% yeast extract、0.05% MgSO heptahydrate)を用いた。誘導した胞子は30%グリセロール水溶液中に1x10conidia/mlとなるように調整後、-80°Cで保存し、誘導後1ヶ月以内の胞子のみを実験に供した。
【実施例3】
【0035】
毒素生産は、50mlのYG培地(2% glucose、0.5% yeast extract)に1x10conidia/mlとなるよう胞子を植菌し、25°C、125rpmで18時間振盪し前培養を行った。本培養は24ウェルプレートで行い、YS_60培地(6% sucrose、0.1% yeast extract)に対して1/100量の前培養液を植菌後、プレートに1mlずつ分注して、25°C、135rpmで旋回培養し、毒素を誘導した。表2に示すNPD10133及びその類縁化合物は、10μg/mlの濃度に調製して用いた。
【実施例3】
【0036】
JCM9873株の15-ADON産生の抑制効果を評価するために、24穴プレートに分注した培養液中に化合物を添加した。無処理区として0.1% DMSOと0.4%メタノール添加区を用意した。実験は全て2連で行い、培養開始から48及び96時間後に培養液を回収した。毒素抽出のために、培養液を1.5mlチューブに移して遠心分離し0.6mlの培養上清を回収した。チューブ内の菌体は65°Cで一晩乾燥させ、菌体乾物重量を測定した。上清に対して等量の酢酸エチルを加え毒素を抽出した。抽出物のうち培養上清0.5ml相当をTLC解析に、0.05ml相当をHPLC解析に供した。抽出した毒素は、TLCプレート上にスポットし、酢酸エチル:トルエン=3:1の展開溶媒により分離した。展開後のプレートは、UV254照射下でUV吸光を示す物質を検出・記録した後、15-ADONをNBP-TEPA法によって青~青紫色のスポットとして検出した。図3は48時間後に培養液を回収して測定した結果を示したものである。96時間後に培養液を回収して測定した場合でも同等の結果が得られている。
【実施例3】
【0037】
図3において、Stdはスタンダードであり、15-ADON(上のスポット)、DON(下のスポット)を各5μgを展開している。また、Ntは処理を行っていないもの、Well A、Bの各番号は、表2のWell欄の各番号と対応している。Well A02のNPD3、Well A04のNPD352、Well B01のNPD541、Well B06のNPD13120が顕著な抑制効果を示している。各阻害剤は10μg/mlの濃度で反応を行っている。顕著な阻害効果が見られた化合物については、モル濃度に換算した値を15-ADONのスポットの下部に記載している。
【実施例3】
【0038】
毒素産生の抑制効果は、NPD352とNPD13120が非常に高い阻害効果を示し、次にNPD3、NPD541の順であった。
【実施例4】
【0039】
≪NPD10133類縁化合物の定量的解析≫
NPD352及びNPD13120が非常に高い阻害効果を示したことから、これら化合物、及び親化合物であるNPD10133について定量的な解析を行った。実施例3と同様にJCM9873株を用い、培養液に10μMの濃度でNPD10133(5.3470μg/ml)、NPD352(5.2269μg/ml)、NPD13120(5.7374μg/ml)を添加してアッセイを行った。また、対照薬剤としてプレコセンII(Santa Cruz Biotechnology社製)を用いた。プレコセンIIは、2.5mM(550μg/ml)濃度でメタノールに溶解して用いた。コントロールとしては、NPD化合物のvehicleであるDMSOと、プレコセンIIのvehicleであるメタノールを添加したものを用いた。
【実施例4】
【0040】
抽出した毒素は高速液体クロマトグラフィー解析によって分離・検出後、関東化学社製(49150-53)のトリコテセン標準液Mycotoxin mixture solution 2(B‐Trichothecene)のピーク面積から作成した検量線をもとに定量化した。定量結果と菌体乾物重量の結果から、菌体重量当たりのトリコテセン量(μg/mg)を算出した。#1、#2は2連で実験を行った結果を示す(図4(A))。
【実施例4】
【0041】
NPD352は無処理区(vehicleであるDMSO処理区)に比べ、60%ほど毒素産生を抑制していた。一方、既知のトリコテセン産生抑制剤として知られるプレコセンIIは無処理区(メタノール処理区)の毒素産生量とほぼ変わらず、毒素産生抑制効果は認められなかった。また、化合物処理による生育への影響はいずれの化合物を処理した場合も認められなかった。
【実施例4】
【0042】
なお、プレコセンIIは、H3株に関しては毒素抑制効果を報告されている(非特許文献1)。本発明者らもH3株を用いてプレコセンIIの毒素抑制効果を解析したところ、H3株においてはプレコセンIIの毒素抑制効果を確認することができた。したがって、プレコセンIIの毒素抑制効果は菌株に依存するものと考えられる。
【実施例4】
【0043】
本発明の化合物の効果の菌株特異性を検討するために、別の菌株を用いて検討を行った。3-acetyldeoxynivalenol(3-ADON)を生産するZEA1株(MAFF240560、農業生物資源研究所ジーンバンクより入手)を用いてNPD352、NPD13120の2種類の化合物の毒素産生抑制効果を評価した。#1、#2は2連で実験を行った結果を示す(図4(B))。
【実施例4】
【0044】
この菌株に対してはJCM 9873株では抑制が認められなかったNPD 13120も毒素を50%程度抑制した。したがって、幅広い菌株に抑制を示すNPD352をリード化合物として更なる類縁体展開を行うことにより、比活性やスペクトラムの広い化合物を取得できる可能性がある。
【実施例5】
【0045】
≪NPD352及びNPD1312の濃度依存的阻害効果≫
ZEA1株を用いたアッセイで強い阻害効果を示したNPD352及びNPD13120について、化合物濃度を変えてTRI5pに対する阻害効果の解析を行った。1~100μMのNPD352、又はNPD13120存在下で15nM His-TRI5p、20mM Tris-HCl、pH7.5、3mM MgCl、1mM DTT、18.4μM FPPを含む反応液でアッセイを行った。反応の停止は、反応液を液体窒素により急速凍結させ、さらに融解する凍結融解を2回繰り返すことにより行った。反応液中の無機ピロリン酸をPPiLight(登録商標)Inorganic Pyrophosphate Assayキットによって定量し阻害率を算出した。実験は3回試行し、平均値、標準偏差を求めた。その結果、NPD352とNPD13120ともに濃度依存的に抑制活性を示すことが明らかとなった(図5)。
【実施例6】
【0046】
≪NPD352の速度論的解析≫
幅広い菌株に抑制効果を示し、抑制効果も高い化合物NPD352について阻害様式の解析を行った。阻害様式は、15nMのHis-TRI5p、6~48μMの基質FPPとともに濃度10μMのNPD352と30°Cで5分間反応させることによって行なった。具体的には、20mM Tris-HCl、pH7.5、3mM MgCl、1mM DTT、15nM His-TRI5p及び10μM NPD352を含む反応液で、FPP濃度を6、12、24、又は48μMと変えてアッセイを行った。反応の停止は、反応液を液体窒素により急速凍結させ、さらに融解する凍結融解を2回繰り返すことにより行った。反応液中の無機ピロリン酸をPPiLight(登録商標)Inorganic Pyrophosphate AssayキットとLuminoskan(登録商標)Ascent(Thermo SCIENTIFIC社製)によって定量し、無機ピロリン酸の定量結果をもとにNPD352の阻害定数を算出した。
【実施例6】
【0047】
Hanes-Woolf plotを作成したところ、NPD352はTRI5pの見かけのKmを上昇させ反応初速度を減少させたことから、混合型の阻害剤であることが判明した(図6)。NPD352の阻害定数Kは5.44μM、K’は35.03μMであった。
【実施例6】
【0048】
構造骨格中のアミノ酸の種類と毒素産生抑制効果の間には相関性が認められなかったが、NPD352はNPD10133の類縁化合物の中で唯一テストステロン骨格を有しており、ステロイド骨格上のわずかな反応基の違いが菌体内における化合物の安定性やTRI5タンパク質との相互作用に大きく影響する可能性が考えられた。
【実施例7】
【0049】
≪フザリウム属以外の異なるトリコテセン生産菌に対する効果≫
フザリウム属菌はC-3位が水酸化(図7中、星印を付した水酸基)やO-アセチル化されたトリコテセン(生合成的にはistotrichodermol;ITDmolに由来するトリコテセン化合物)を生産するが、フザリウム属菌以外のトリコテセン生産菌はC-3位が水素のまま修飾されないタイプのトリコテセン(生合成的には12,13-epoxytrichothec-9-ene;EPTに由来するトリコテセン化合物)を生産する(図7参照のこと。)。このようなEPTに由来するトリコテセン化合物を産生するタイプの菌株としてトリコセシウム・ローゼム(Trichothecium roseum)が知られている。
【実施例7】
【0050】
本発明の化合物はトリコテセン生合成の最初のステップを阻害することから、トリコテセン系毒素として最終的にどのような化合物が合成されるかによらず、毒素産生を抑制することが期待される。そこで、トリコセシウム・ローゼムに対する化合物の抑制効果を検討した。
【実施例7】
【0051】
トリコセシウム・ローゼムNBRC 31647((独)製品評価技術基盤機構(Nite Biological Resource Center)より入手)を
CMC 培地(1.5 %CMC-Na、0.1% NHNO、0.1% KHPO、0.1% Bacto yeast extract、0.05% MgSO heptahydrate)で培養し、分生子を形成させた。分生子はFalcon(登録商標)Cell Strainer 40μmを用いて無菌的に回収した。
【実施例7】
【0052】
分生子は300ml三角フラスコに分注した50mlのYG培地(2% glucose,0.5%Bacto yeast extract)に1x10/mlの最終濃度になるように植菌し、25°Cで前培養した。18時間後、前培養液1mlをとって300ml三角フラスコに分注した100mlのYS_60培地(6% sucrose、0.1%Bacto yeast extract)に植菌し、1mlずつ24穴プレートに分配した。各ウェルには10mMの濃度でDMSOに溶解させた薬剤ストック溶液を1/1,000加えて最終濃度10μMになるように本培養の開始と同時に添加した。対照区は薬剤を含まないDMSOのみで処理した。
【実施例7】
【0053】
48時間後に培地上清500μlを等量の酢酸エチルで抽出し、溶媒を蒸発させた後、50%アセトニトリルに溶解した。溶解させたサンプルはShimadzu LC10 HPLCシステムを用いて分析した。サンプルの分離、定量には、Pegasil ODS SP100(4.6x250mm,5μm,100Å;Senshu Scientific Co.Ltd.、Tokyo)カラムを用い、培養液50μl相当分をインジェクションした。溶出には50%アセトニトリルを用い、流速1ml/minのisocratic溶出で220nmの吸光度を測定することによって検出した。トリコテシンは13.6分で溶出された。
【実施例7】
【0054】
2連で行なった実験結果を表3に示す。表中の値は、HPLCのクロマトグラムで得られたピーク面積である。
【実施例7】
【0055】
【表3】
JP2017039649A_000024t.gif
【実施例7】
【0056】
NPD352は平均するとトリコテシン産生を42%抑制することが示された。以上の結果より、本発明の化合物はフザリウム属菌のみならず、trichodermol由来のトリコテセンを生産する他の属の菌にも抑制効果を示すことが判明した。したがって、トリコテセンを生産する様々な菌において毒素産生を抑制することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の阻害剤は、トリコテセン系かび毒の生合成の最初のステップを行う酵素トリコジエンシンターゼを阻害する化合物であることから、トリコジエンシンターゼを初発ステップとするかび毒産生を抑制するものと考えられる。また、NPD352は菌株に依存することなく、高い阻害活性を示すことから、これを有効成分とする幅広い菌株に対応可能な赤かび病毒産生抑制剤を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6