TOP > 国内特許検索 > 多小脳回症モデル動物 > 明細書

明細書 :多小脳回症モデル動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-131505 (P2016-131505A)
公開日 平成28年7月25日(2016.7.25)
発明の名称または考案の名称 多小脳回症モデル動物
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/027
C12N 15/00 A
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2015-006388 (P2015-006388)
出願日 平成27年1月16日(2015.1.16)
発明者または考案者 【氏名】河崎 洋志
【氏名】桝田 宏輔
出願人 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100104802、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 尚人
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
Fターム 2G045AA29
4B024AA11
4B024CA02
4B024CA04
4B024DA02
4B024EA04
4B024GA14
要約 【課題】新規な多小脳回症モデル動物を提供することを主な課題とする。
【解決手段】本発明として、例えば、高等哺乳動物の胎児の大脳皮質神経細胞に線維芽細胞増殖因子8(FGF8)遺伝子を導入することによって作製されることを特徴とする多小脳回症モデル動物を挙げることができる。
本発明は、多小脳回症の病態解析や、多小脳回症またはそれを伴う疾患の予防法ないし治療法、またはその予防薬ないし治療薬の開発において有用である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
高等哺乳動物の胎児の大脳皮質神経細胞に線維芽細胞増殖因子8(Fibroblast growth factor 8:FGF8)遺伝子を導入することによって作製されることを特徴とする、多小脳回症モデル動物。
【請求項2】
前記遺伝子導入手段が、子宮内の胎児の脳室にFGF8遺伝子を注入する工程、および発熱を防止するために十分な量の水の存在下で子宮に100V~200Vの電圧の電気パルスをかける工程を含むものである、請求項1に記載の多小脳回症モデル動物。
【請求項3】
前記動物が、食肉類哺乳動物である、請求項1または2に記載の多小脳回症モデル動物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の多小脳回症モデル動物を用いることを特徴とする、多小脳回症またはそれを伴う疾患の予防薬または治療薬をスクリーニングする方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の多小脳回症モデル動物を用いることを特徴とする、多小脳回症の病態解析法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脳疾患モデル動物の技術分野に属する。本発明は、脳回異常モデル動物に関するものであり、具体的には、多小脳回症(polymicrogyria)モデル動物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高等哺乳動物の脳内には、マウス等の下等哺乳動物(齧歯類)には見られない様々な構造が存在している。例えば、高等哺乳動物には、大脳の表面に脳回(脳表面のしわの隆起部分)と言われるものが存在する。この脳回は、高等哺乳動物に特徴的なものであり、進化的に高次脳機能の発達に重要な役割を果たしていると考えられている。
【0003】
この脳回異常の一つに、多小脳回症がある。多小脳回症は、小さな脳回が過剰に形成された状態である。多小脳回症の具体的な症状としては、精神遅滞や痙攣発作が挙げられるが、多小脳回症の病態はほとんど解明されていない。
多小脳回症の病態がほとんど解明されていない理由として、遺伝学的解析が容易なマウスで多小脳回症モデルの作製が困難であることが挙げられる。マウスは脳回を持っていないことが一因で、当該作製が困難であると考えられる。
【0004】
そこで、脳回を有する高等哺乳動物で多小脳回症モデル動物を作製することが考えられる。そして、そのために高等哺乳動物に多小脳回症を呈する何らかの遺伝子を導入することが考えられる。
高等哺乳動物への遺伝子導入に関しては、ウイルスベクターを霊長類哺乳動物であるマーモセットの受精卵に感染させることにより遺伝子改変動物を作製したことが報告されている(例、非特許文献1参照)。また、子宮内電気穿孔法と言われる遺伝子導入方法によって、遺伝子が導入された高等哺乳動物が作製されている(例、特許文献1参照)。子宮内電気穿孔法は、麻酔をかけた妊娠動物の腹壁を開き、子宮内の胎児の脳室内にプラスミドDNAを注入したのちに、子宮壁ごしに電気パルスをかけるものである。特許文献1に記載の方法では、発熱を防止するために十分な量の生理食塩水の存在下で、子宮にマウス等の場合よりも高電圧(100V~200Vの電圧)の電気パルスをかけることを特徴としている。
【0005】
一方、線維芽細胞増殖因子8(Fibroblast Growth Factor-8:FGF8)遺伝子は、脳パターン形成遺伝子として知られている。しかしながら、FGF8遺伝子が多小脳回症モデル動物の作製に有用であることは知られていない。また、これまで物理的損傷を伴うこと無く生理的な多小脳回症モデル動物が作製されたことを報告する文献は見られない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2011-120513号公報
【0007】

【非特許文献1】Sasaki, E. et al.(2009) Nature,459:523-527.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、多小脳回症の病態はほとんど解明されていない。その原因として、多小脳回症モデル動物が作製されていないことを挙げることができる。多小脳回症モデル動物が作製されれば、多小脳回症の病態解析や多小脳回症またはそれを伴う疾患の予防法ないし治療法、またそれらの予防薬ないし治療薬開発などにとって有用であると考えられる。
本発明は、したがって、新規な多小脳回症モデル動物を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、FGF8遺伝子を高等哺乳動物の胎児の大脳皮質神経細胞に導入すれば多小脳回症モデル動物を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明として、例えば、下記のものを挙げることができる。
[1]高等哺乳動物の胎児の大脳皮質神経細胞に線維芽細胞増殖因子8(FGF8)遺伝子を導入することによって作製されることを特徴とする、多小脳回症モデル動物。
[2]前記遺伝子導入手段が、子宮内における胎児の脳室にFGF8遺伝子を注入する工程、および発熱を防止するために十分な量の水の存在下で子宮に100V~200Vの電圧の電気パルスをかける工程を含むものである、上記[1]に記載の多小脳回症モデル動物。
[3]前記動物が、食肉類哺乳動物である、上記[1]または[2]に記載の多小脳回症モデル動物。
[4]上記[1]~[3]のいずれか一に記載の多小脳回症モデル動物を用いることを特徴とする、多小脳回症またはそれを伴う疾患の予防薬または治療薬をスクリーニングする方法。
[5]上記[1]~[3]のいずれか一に記載の多小脳回症モデル動物を用いることを特徴とする、多小脳回症の病態解析法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多小脳回症モデル動物は、高等哺乳動物に特有な多小脳回症の病態解析や多小脳回症またはそれを伴う疾患の予防法ないし治療法、またはその予防薬ないし治療薬の開発に用いることができる。すなわち、本発明の多小脳回症モデル動物によれば、多小脳回症の病態解析や多小脳回症またはそれを伴う疾患の予防法ないし治療法、またはその予防薬ないし治療薬のスクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】左図は正常動物の脳を、右図は多小脳回症を呈している脳を、それぞれ表す。
【図2】左図はKi67タンパク質の発現量を、右図はpH3タンパク質の発現量を、それぞれ表す。各図の左は正常動物の結果を、各図の右は本発明に係るモデル動物の結果を、それぞれ表す。
【図3】左図はリン酸化ビメンチン(pVim)タンパク質の発現量を、右図はPax6タンパク質の発現量を、それぞれ表す。各図の左は正常動物の結果を、各図の右は本発明に係るモデル動物の結果を、それぞれ表す。
【図4】外側脳室下帯におけるPax6タンパク質の発現量を表す。左カラムは正常動物の結果を、右カラムは本発明に係るモデル動物の結果を、それぞれ表す。縦軸はOSVZ内の全細胞のなかのPax6陽性細胞の割合(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳述する。
1.本発明に係る多小脳回症モデル動物
本発明として、高等哺乳動物の胎児の大脳皮質神経細胞に線維芽細胞増殖因子8(FGF8)遺伝子を導入することによって作製されることを特徴とする多小脳回症モデル動物(以下、「本発明モデル動物」という。)を挙げることができる。

【0014】
1.1 高等哺乳動物について
本発明に係る「高等哺乳動物」とは、ヒトを除く非齧歯類哺乳動物をいう。好ましくは、食肉類哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、イタチ、フェレットであり、より好ましくはフェレットである。また、別の定義として、本発明に係る「高等哺乳動物」とは、脳表面の脳回を有する、ヒトを除く哺乳動物ということもできる。

【0015】
食肉類哺乳動物であるフェレットには次の特徴がある。第一に、フェレットは発達した脳神経系を持つ。詳細には、フェレットは、霊長類と同様に、大脳皮質一次視覚野における眼優位性カラム構造を有し、そしてフェレットの脳表面には脳回が存在する。第二に、前記特徴から、フェレットは欧米を中心に視覚系研究などの脳神経研究に広く用いられている。第三に、フェレットには様々な解剖学的、組織学的、生理学的データの蓄積がある。
以上の点より、フェレットを使用して、マウスなどの下等哺乳動物では得られなかった情報を得ることができ、その結果をより高等な哺乳動物(例えば霊長類)へ応用できる可能性がある。

【0016】
なお、高等哺乳動物は、胎盤が帯状の形態を有する哺乳動物である。胎盤の形態は動物種によって異なる。齧歯類(例えばマウス)などの場合、胎盤の形態は円板状である(すなわち、胎盤は子宮の片側に局在している)。それゆえ、子宮内の胎児の位置や向きを目視によって把握し、核酸を注入すべき部位を確認することは比較的容易である。一方、食肉類哺乳動物(例えばフェレット)などの場合、胎盤の形態は帯状である(すなわち、胎盤は子宮を取り囲むように全周に存在する)。それゆえ、子宮内の胎児を目視によって確認することは困難である。また、妊娠フェレットの子宮はマウスに比べて約3倍以上の大きさがあり、子宮筋が厚いので、マウスに使用されているような通常の光源での照明を使用した場合、十分な光が子宮壁を通過しない。このことはさらに胎児の目視での観察を困難にしている。
したがって、高等哺乳動物における子宮内の胎児の脳に遺伝子を導入するに際して、上記の点に注意しなければならない。

【0017】
1.2 本発明モデル動物の作製方法
本発明モデル動物は、高等哺乳動物の胎児の大脳皮質神経細胞にFGF8遺伝子を導入することによって作製される。

【0018】
1.2.1 FGF8遺伝子について
FGF8遺伝子は、線維芽細胞増殖因子ファミリーの一つであり、中脳後脳境界(MHB)で形成される峡部で発現し、峡部オーガナイザーから分泌されるシグナル本体として機能すると言われている。

【0019】
本発明で用いうるFGF8遺伝子のサブタイプとして、例えば、FGF8b遺伝子を挙げることができる。FGF8遺伝子に係るDNAは、その遺伝子を導入する動物が有する塩基配列のものが好ましいが、当該遺伝子の機能が損なわれない限り、当該遺伝子のDNA配列の一部または全部が欠失、置換、または付加されていてもよい。そのcDNAであってもよい。

【0020】
1.2.2 遺伝子を導入する胎児について
当該遺伝子を導入する胎児の胎生期は、脳がある程度形成されてから妊娠期間終了近くまで特に制限されないが、例えば、後述する子宮内電気穿孔法で遺伝子導入する場合、あまり早期であると子宮内での胎児の固定が難しく、導入操作が煩雑になる。逆にあまり成熟した後では当該遺伝子の発現が十分に得られないおそれがある。例えば フェレットの大脳皮質神経細胞へ遺伝子を導入する場合、妊娠期間は通常約40日間であり、胎生期31日目以降(E31~)が適当であり、好ましくは35~37日目(E35~37)である。なお、フェレットの場合、1匹当たりの胎児数は通常約10匹であり、その全部または一部に当該遺伝子を導入することができる。
当該遺伝子を導入した後の親は、通常のように飼育すればよい。

【0021】
1.2.3 遺伝子導入手段について
当該遺伝子を導入するための手段としては、それが可能な手段であれば特に制限されないが、ウイルスベクター系の遺伝子導入法と非ウイルスベクター系の遺伝子導入法の両方を挙げることができる。
ウイルスベクター系の遺伝子導入法は、ウイルスが細胞に感染する機構を利用した遺伝子導入法である。本発明において使用しうるウイルスベクターとしては特に制限されないが、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、センダイウイルスを挙げることができる。腫瘍溶解性ウイルス等の増殖性ウイルスベクターも挙げることができる。

【0022】
非ウイルスベクター系の遺伝子導入法としては、例えば、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等の物理化学的方法が挙げられる。

【0023】
電気穿孔法(エレクトロポレーション法)は、遺伝子核酸の存在下で細胞に電気パルスをかけると、その際に生じる細胞膜の小孔を通して該核酸が細胞中に取り込まれる現象を利用した遺伝子導入方法であり、細菌、酵母、動物細胞、植物細胞などの広範な生物に適用されている。この中、子宮内電気穿孔法は、胎児を子宮からから取り出すことなしに、胎児に遺伝子核酸を注入し、子宮の外側から電気パルスをかけることによって胎児に遺伝子を導入する方法である。これに対して、子宮から胎児を取り出して電気パルスをかける方法を子宮外電気穿孔法という。

【0024】
リポフェクション法は、負の電荷を持つDNAと正の電荷を持つカチオン性リポソームとの複合体がエンドサイトーシス現象により細胞表面から細胞内に取り込まれることを利用した方法である。
マイクロインジェクション法は、先端が1μm程度のガラス針に導入したい遺伝子核酸等を入れ、直接細胞内に導入する方法である。

【0025】
また、本発明では、一度に多くの当該遺伝子を簡便に細胞に導入することができる、特許文献1に記載の子宮内電気穿孔法(以下、単に「子宮内電気穿孔法」という。)を利用することができる。

【0026】
以下、代表例として子宮内電気穿孔法に基づき、本発明モデル動物の作製方法を説明する。
子宮内電気穿孔法は、通常、次の工程を含む:(1)妊娠動物の麻酔および子宮の露出、(2)胎児への遺伝子核酸の注入、(3)電気穿孔、(4)妊娠動物の覚醒。これを1回ないし適当な間隔をおいて複数回(通常は2回)行うことができる。

【0027】
(1)妊娠動物の麻酔および子宮の露出
妊娠動物の麻酔および子宮の露出は、常法により行うことができる。
次に、子宮内部の胎児を可視化するために、適当な光源を使用し、その光源の先端を子宮壁に密着させて照明することが好ましい。かかる光源としては特に制限されないが、発熱による胎児への悪影響を回避するために、非発熱性の光源(例えば光ファイバー)を使用することが好ましい。
胎児への照明において、光源で光を当てながら胎児の頭部を胎盤の無い子宮壁に押しやり、胎児の特定の部位(例えば眼および鼻)の位置に基づいて、当該遺伝子を導入する部位(例えば側脳室)を決定することが好ましい。そうすることで、胎盤の損傷を回避することができる。また、子宮内の胎児の位置や向きを把握でき、胎盤への損傷が回避できるのであれば、他の任意の方法(例えば超音波断層撮影法)を使用することもできる。

【0028】
(2)胎児への遺伝子核酸の注入
子宮内の胎児への当該遺伝子核酸の注入も、常法により行うことができる。例えば、ガラスキャピラリー針を使用して、胎児の目的の部位に該核酸を注入することができる。該核酸を注入する部位としては、胎児の大脳皮質神経細胞に当該遺伝子を有効に導入することができれば特に制限されないが、例えば、側脳室が好ましい。これにより、まず神経幹細胞に当該遺伝子が導入され、その後、当該遺伝子を保持したまま神経前駆細胞や神経細胞に分化していくと考えられる。

【0029】
当該遺伝子導入に際しては、当該遺伝子のDNAまたはそのcDNAを有するプラスミドDNAを用いることが適当である。当該遺伝子の導入量としては、1~5μgが適当であるが、遺伝子が導入できれば特に制限されない。
なお、当該遺伝子が導入されると、通常のように、細胞内においてFGF8遺伝子のコード(DNA)情報に基づいてmRNAが作られ、FGF8へと翻訳され、FGF8が発現される。

【0030】
(3)電気穿孔
電気穿孔は、子宮の外側から当該遺伝子核酸を注入した胎児の部位を電極ではさみ、電気パルスをかけることにより行うことができる。電気パルスを発生させる装置および電極として、市販されているものを使用することができる。一般に、電気パルスの電圧は、高ければ高いほど遺伝子導入効率が上昇するが、一方で新生仔生存率が低下する傾向がある。したがって、至適な電圧はこれらを考慮して決定される。また、動物種差によっても異なり得る。

【0031】
具体的には、電気パルスの電圧は、80V以上が適当であり、100V以上が好ましく、上限としては200V以下ないし150V以下が好ましい。フェレットの場合、100V程度が好ましい。
また、電気パルスの回数、長さ、波形によっても子宮内電気穿孔法の結果は影響を受け得る。電気パルスの回数は、例えば3回以上、好ましくは4回以上であり、例えば 7回以下、好ましくは6回以下であり、より好ましくは5回である。電気パルスの長さは、例えば40ms以上、好ましくは50ms以上であり、例えば120ms以下、好ましくは100ms以下であり、より好ましくは50msである。電気パルスの波形は減衰波または矩形波であり得るが、矩形波であることが好ましい。

【0032】
電気パルスをかけるに際して、子宮の乾燥を防止しつつ発熱を防止するために十分な量の水を子宮周囲に存在させることが好ましい。十分な量の水が子宮周囲に存在しないと、子宮が焼けて損傷を受け、新生仔生存率が低下するおそれがある。
かかる「水」としては、体液とほぼ等張な水溶液であれば特に制限されないが、具体的には、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水を挙げることができる。生理食塩水は、通常、約0.9%の塩化ナトリウムを含有する水溶液であるが、pHを安定に維持するための緩衝作用を有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの水溶液であってもよい。

【0033】
上記「発熱を防止するために十分な量」とは、電気パルスをかけた際に発生する熱による、子宮および/または子宮内の胎児への悪影響を回避または抑制するために十分な量をいう。子宮および/または子宮内の胎児への悪影響は、子宮の損傷、新生仔生存率などに基づいて評価され得る。例えば、生理食塩水を、3回のパルスの後に滴下しさらに2回パルスをかける、5回のパルス間毎に滴下する、またはパルスをかける間中連続的に滴下することによって、発熱を防止するために十分な量の生理食塩水を提供することができる。

【0034】
(4)妊娠動物(親)の覚醒
子宮内の胎児に当該遺伝子を導入した後の親の覚醒は、自然に任せることができる。

【0035】
1.3 本発明モデル動物
本発明モデル動物は、出産後の新生仔であってもよいし、妊娠期間終了前の胎児であってもよい。自然分娩前の胎児を人口的に取り出して、その胎児を本発明モデル動物とすることもできる。


【0036】
2.治療薬のスクリーニング法
本発明は、本発明モデル動物を用いることを特徴とする、多小脳回症またはそれを伴う疾患の予防薬または治療薬をスクリーニングする方法(以下、「本発明スクリーニング法」という。)を含む。
「多小脳回症を伴う疾患」としては、例えば、致死性骨異形成症、Pfeiffer症候群を挙げることができる。
本発明スクリーニング法は、具体的には、例えば、本発明モデル動物に、被検薬物を投与し、多小脳回症やそれに伴う疾患に対する当該被検薬物の有効性を評価することにより行うことができる。かかる有効性の評価方法は、病気の種類に応じて適宜設定することができる。


【0037】
3.本発明に係る病態解析
本発明は、本発明モデル動物を用いることを特徴とする、多小脳回症の病態解析法(以下、「本発明解析法」という。)を含む。
本発明解析法は、具体的には、例えば、本発明モデル動物と正常な当該動物とで、分裂している細胞中に存在するタンパク質の発現量を比較検討することにより行うことができる。正常動物に比べ、何らかのタンパク質ないし細胞が本発明モデル動物で増加していれば、そのタンパク質ないし細胞が多小脳回症の病態に関わっているのではないかと推測することができる。

【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
[実施例1]フェレットを用いた本発明モデル動物の作製
特許文献1に記載の方法(子宮内電気穿孔法)に準じ、以下のようにして本発明モデル動物を作製した。
胎生期35~37日目(E35~37)の胎児を有する雌性妊娠フェレット(マーシャル社製)を1~4時間絶食させ、850μLのネンブタール(50mg/mL)を腹腔内注射し、その後100μLのアトロピン(0.5mg/mL)を皮下注射して麻酔した。
【実施例】
【0040】
フェレットの腹部を切開して子宮を露出させ、ガラスキャピラリー針からプラスミドDNA溶液(マウス線維芽細胞増殖因子8b(FGF8b)をコードするプラスミドpCAG-FGF8b、1~5mg/mL)、リン酸緩衝生理食塩水、0.5%FastGreenおよび水の混合物を胎児の側脳室へ1胎児当たり4~5μL注入した。通常フェレット1匹当たりの胎児数は約6~10匹である。この際、Leica冷光源CLS150Xを用いて、光を当てながら胎児の頭部を帯状胎盤の無い子宮壁に押しやり、胎児の眼および鼻の位置を確認し、脳室内へ注入した。
【実施例】
【0041】
次いで、電気穿孔装置ECM830(米国BTX-Harvard Apparatus社製)に接続した電極CUY650P7-P10(ネッパジーン社製)で子宮の外側から胎児をはさんで所定の条件で電気パルスをかけた。
【実施例】
【0042】
切開した部分を縫合した後、アンピシリン(125mg/mL)200μLを皮下注射し、覚醒後、動物(親)を飼育し、本発明モデル動物(フェレット)を出産させた。該出生児の脳を図1に示す。
図1から明らかなとおり、FGF8b遺伝子を導入した本発明モデル動物(フェレット)は、多小脳回症を呈していた。
【実施例】
【0043】
[実施例2]本発明モデル動物の病態解析(1)
脳を4%パラホルムアルデヒドで固定した後に、30%スクロース液に置換した。組織切片を作製しPBSで3回洗浄した後、2%スキムミルク/0.1-0.5% Triton X-100/PBSで30分間ブロッキングし、抗Ki67抗体、抗リン酸化ヒストンH3抗体を4℃で一晩反応させた。0.1-0.5% Triton X-100/PBSで3回洗浄した後、2次抗体反応を遮光下室温で2時間行った。再び0.1-0.5% Triton X-100/PBSで3回洗浄した後、包埋し観察した。
その結果を図2に示す。図2から明らかなとおり、正常動物に比べ、本発明モデル動物(フェレット)の大脳皮質では、Ki67細胞周期関連タンパク質およびリン酸化ヒストンH3細胞周期関連タンパク質が増加していたことから、分裂細胞が増えていることが示された。
【実施例】
【0044】
[実施例3]本発明モデル動物の病態解析(2)
脳を4%パラホルムアルデヒドで固定した後に、30%スクロース液に置換した。組織切片を作製しPBSで3回洗浄した後、2%スキムミルク/0.1-0.5% Triton X-100/PBSで30分間ブロッキングし、抗Pax6抗体、抗リン酸化ビメンチン(pVim)抗体を4℃で一晩反応させた。0.1-0.5% Triton X-100/PBSで3回洗浄した後、2次抗体反応を遮光下室温で2時間行った。再び0.1-0.5% Triton X-100/PBSで3回洗浄した後、包埋し観察した。
その結果を図3および図4に示す。図3および図4から明らかなとおり、正常動物に比べ、本発明モデル動物(フェレット)の脳では、外側脳室下帯(OSVZ)のoRG細胞中に存在するpVimタンパク質やPax6タンパク質が増加しており、外側脳室下帯(OSVZ)のoRG細胞が増えていることが示された。したがって、多小脳回症は、oRG細胞が関与していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、多小脳回症の病態解析や、多小脳回症またはそれを伴う疾患の予防法ないし治療法、またはその予防薬ないし治療薬の開発において有用である。
図面
【図4】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図3】
3