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明細書 :esRAGE過剰発現マウス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5565786号 (P5565786)
公開番号 特開2010-268686 (P2010-268686A)
登録日 平成26年6月27日(2014.6.27)
発行日 平成26年8月6日(2014.8.6)
公開日 平成22年12月2日(2010.12.2)
発明の名称または考案の名称 esRAGE過剰発現マウス
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
A01K  67/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
A01K 67/02
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2009-120572 (P2009-120572)
出願日 平成21年5月19日(2009.5.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 BMB2008(第31回 日本分子生物学会年会・第81回 日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集(2008年11月20日)日本分子生物学会/社団法人日本生化学会発行 第731頁に発表
審査請求日 平成24年2月29日(2012.2.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】渡邉 琢夫
【氏名】山本 博
【氏名】山本 靖彦
【氏名】棟居 聖一
【氏名】杉原 崇大
【氏名】米倉 秀人
【氏名】櫻井 繁
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 特開2003-125786(JP,A)
NOZAKI,I. et al.,Reduced expression of endogenous secretory receptor for advanced glycation endproducts in hippocampal neurons of Alzheimer's disease brains.,Arch. Histol. Cytol.,2007年12月,Vol.70, No.5,pp.279-90
SUGIHARA,T. et al.,Endogenous secretory receptor for advanced glycation end-products inhibits amyloid-β1-42 uptake into mouse brain.,J. Alzheimers Dis.,2012年,Vol.28, No.3,pp.709-20
YAMAMOTO,Y. et al.,Receptor for advanced glycation end products is a promising target of diabetic nephropathy.,Ann. N. Y. Acad. Sci.,2005年 6月,Vol.1043,pp.562-6
YONEKURA,H. et al.,Roles of the receptor for advanced glycation endproducts in diabetes-induced vascular injury.,J. Pharmacol. Sci.,2005年 3月,Vol.97, No.3,pp.305-11
YONEKURA,H. et al.,Novel splice variants of the receptor for advanced glycation end-products expressed in human vascular endothelial cells and pericytes, and their putative roles in diabetes-induced vascular injury.,Biochem. J.,2003年 3月15日,Vol.370, No.3,pp.1097-109
MACKIC,J.B. et al.,Human blood-brain barrier receptors for Alzheimer's amyloid-beta 1- 40. Asymmetrical binding, endocytosis, and transcytosis at the apical side of brain microvascular endothelial cell monolayer.,J. Clin. Invest.,1998年 8月15日,Vol.102, No.4,pp.734-43
調査した分野 C12N 15/09
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Thomson Innovation
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体(esRAGE)をコードするDNAがゲノムに導入されている、esRAGEを発現する、C57BL/6系マウスであって、前記esRAGEをコードするDNAが、肝臓特異的な発現を可能にする発現制御配列の制御下にある、前記マウス
【請求項2】
esRAGEがヒトesRAGEである、請求項1記載のマウス。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマウスに、後期糖化反応生成物受容体(RAGE)に結合するリガンドが関与する疾患を発症させる工程、及び/又は、前記疾患に特徴的な現象を生じさせる工程を含む方法により得られる、esRAGEを発現する、前記疾患のモデルマウス。
【請求項4】
請求項1又は2記載のマウスと、後期糖化反応生成物受容体(RAGE)に結合するリガンドが関与する疾患のモデルマウスとを交配させる工程と、前記交配により得られた仔マウスから、esRAGEを発現し、且つ、前記疾患のモデルマウスとしての特徴を有するマウスを選抜する工程とを含む方法により得られる、esRAGEを発現する、前記疾患のモデルマウス。
【請求項5】
内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体(esRAGE)をコードするDNAがゲノムに導入されているICR系のトランスジェニックマウスと、C57BL/6系マウスとを交雑させて、前記DNAがゲノムに導入された仔マウスを得る交雑工程と、
前記仔マウスと、C57BL/6系マウスとの戻し交配により、前記DNAがゲノムに導入されたC57BL/6系のマウスを作製する戻し交配工程と、
を含むことを特徴とする、esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されている、esRAGEを発現する、C57BL/6系マウスの作製方法であって、前記esRAGEをコードするDNAが、肝臓特異的な発現を可能にする発現制御配列の制御下にある、前記方法
【請求項6】
esRAGEがヒトesRAGEである、請求項5記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、内在性分泌型後期糖化反応生成物受容体ポリペプチド(以下「esRAGE」と称する場合がある)を過剰発現するマウス及びその作出方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
後期糖化反応生成物受容体(Receptor for advanced gylcation endproducts)(以下「RAGE」と称する場合がある)には、選択的スプライシングにより生じる主要な二種類のスプライシングバリアントが存在する。一方は膜結合型RAGE(以下「mRAGE」と称する場合がある)であり、他方は内在性分泌型RAGE(以下「esRAGE」と称する場合がある)である。
【0003】
mRAGEは、Sternらのグループにより、AGE (advanced gylcation endproducts, 後期糖化反応生成物)の細胞表面特異受容体タンパク質として分離されその一次構造が決定された(非特許文献1)。mRAGEは,イムノグロブリンスーパーファミリーに属する1回膜貫通型の受容体で、V,C1,C2の3つのイムノグロブリンドメインからなる細胞外領域と短い細胞内領域とを有する。AGEとはグルコースなどの還元糖とタンパク質のアミノ基との非酵素的な反応、グリケーションによって生ずる構造体の総称であり、糖尿病合併症、動脈硬化、神経変性疾患さらには老化にも関与すると注目されている。膜結合型RAGEにAGEが結合すると、活性酸素種の産生を経て転写因子NFκBの活性化を引き起こし、血管障害性の遺伝子群の活性化をおこすと考えられている。
【0004】
現在では糖鎖修飾を受けた全長型(膜結合型)ヒトRAGEの分子量は55 kDaであることが分かっている。RAGEは免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、細胞外領域に3つのイムノグロブリン様ドメインを持つ。そして最もN末端にあるイムノグロブリン可変領域様ドメイン部分の内部にAGEリガンド結合部位がある。近年、RAGEはマルチリガンドレセプターとして認識されるに至り、AGE以外のリガンドとして、アルツハイマー病の脳に蓄積するアルツハイマー・アミロイドタンパク、癌転移との関連および炎症との関連が指摘されているhigh mobility group box 1 (HMGB-1)、免疫系細胞から分泌される炎症メディエーターS100/calgranulinなどが報告され、RAGEとこれらのリガンドとの結合により生じるシグナルが様々な病態に関与する可能性が考えられている。(図1参照)
【0005】
本発明者らは、RAGEには一つの遺伝子から選択的スプライシングによって作り出される新しい分子種が存在することを見出している。以前から知られている完全長膜結合型RAGEに比べ、後に見出されたアイソフォームの一つはC端側の膜貫通領域を欠き分泌型となるRAGEである。この分泌型RAGEタンパクは血管内皮培養細胞から実際に分泌され、ヒトの血中や様々な組織にも存在することより、内在性分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE, esRAGE)と命名された(特許文献1)。esRAGEはリガンド結合部位を持つため、細胞外でリガンドを捕捉することによりリガンドと細胞表面の膜型RAGEとの結合を阻害する働きを持つと考えられる。すなわち、esRAGEはデコイ型レセプターとして働き、疾患関連リガンドとmRAGEとの結合により生じるシグナル伝達を軽減させる働きを有すると考えられている(図1参照)。
【0006】
実際に、本発明者らが開発したELISA系を用いて、糖尿病網膜症の進行度や肥満、インスリン抵抗性、血管中膜肥厚などの指標が、血清中のesRAGEレベルと逆相関することが見出され、報告されている(非特許文献2、3等)。これらの知見は、個々人のesRAGE発現レベルが疾患感受性を規定する要素であることを強く示唆するとともに、esRAGEの発現を促進することによってこれらの疾患の発症を未然に防ぐことができる可能性も示唆する。また、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患でも、患者血清中のesRAGEが低値を示すことが報告されている(非特許文献4、5等)。このように、mRAGE及びesRAGEが広い病態で重要な働きをしていることが示唆されている。本発明者らはまた、アルツハイマー病海馬神経細胞において、esRAGEの発現が病理的変化の初期段階から低下していることを明らかにし、特許出願している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2003-125786号公報
【特許文献2】特開2007-319127号公報
【0008】

【非特許文献1】J. Biol. Chem. 267: 14998-15004 (1992)
【非特許文献2】Sakurai, S., et al. Diabtes Res. Clin. Pract. 73: 158-165 (2006)Development of an ELISA for esRAGE and its application to type 1 diabetic patients.
【非特許文献3】Koyama, H., et al. Diabetes, 25:2587-2593 (2005)Plasma Level of Endogenous Secretory RAGE Is Associated With Components of the Metabolic Syndrome and Atherosclerosis.
【非特許文献4】Emanuele, E., et al. Arch Neurol. 62:1734-1736 (2005)Circulating Levels of Soluble Receptor for Advanced Glycation End Products in Alzheimer Disease and Vascular Dementia.
【非特許文献5】Ilzecka, J. Acta Neurol. Scand. published Online: 2 Dec 2008Serum-soluble receptor for advanced glycation end product levels in patients with amyotrophic lateral sclerosis.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
糖尿病、アルツハイマー病、その他の疾患の発症・進展における、esRAGEの存在の影響、並びに、これらの疾患の病態におけるesRAGEが果たす役割については依然として不明な点が多い。そこで、これらの点を解明するために、従来から、精製esRAGEタンパク質が投与された疾患モデルマウスが用いられている。
【0010】
しかしながら、従来のこの手法では、精製esRAGEタンパク質が多量に必要であるという問題があった。更に、疾患モデルマウスに精製esRAGEタンパク質を連日注射により投与する必要があり、長期にわたる観察が困難であるという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記問題点を解決することを目的として、ヒトesRAGE遺伝子がゲノムに導入されたヒトesRAGEを恒常的に発現するトランスジェニックマウスの作製を試みた。ところが、ICR系マウスにヒトesRAGE遺伝子を導入した場合には、ヒトesRAGEタンパク質の発現はわずかであった。一方で、驚くべきことに、ヒトesRAGE遺伝子が導入されたこのICR系トランスジェニックマウスと、C57BL/6系マウスとを交雑させ、産まれた仔マウスを、C57BL/6系マウスと戻し交配することにより得られた、ヒトesRAGE遺伝子が導入された、C57BL/6系の遺伝的背景を有するマウスでは、血清中のヒトesRAGE濃度が2,000ng/ml程度という非常に高い値を示すことが確認された(通常のヒトでは血清中のesRAGE濃度は0.1~数ng/ml程度である)。こうして作製されたヒトesRAGE過剰発現マウスに、RAGEに結合するリガンドが関与する疾患(例えばアルツハイマー病、糖尿病、糖尿病合併症)を発症させるか、或いは前記マウスと前記疾患のモデルマウスとを交配させることにより、esRAGEを恒常的に過剰発現する疾患モデルマウスを得ることができる。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体(esRAGE)をコードするDNAがゲノムに導入されている、esRAGEを発現する、C57BL/6系マウス。
(2) esRAGEをコードするDNAが、肝臓特異的な発現を可能にする発現制御配列の制御下にある、(1)のマウス。
(3) esRAGEがヒトesRAGEである、(1)又は(2)のマウス。
【0012】
(4) (1)~(3)のいずれかのマウスに、後期糖化反応生成物受容体(RAGE)に結合するリガンドが関与する疾患を発症させる工程、及び/又は、前記疾患に特徴的な現象を生じさせる工程を含む方法により得られる、esRAGEを発現する、前記疾患のモデルマウス。
(5) (1)~(3)のいずれかのマウスと、後期糖化反応生成物受容体(RAGE)に結合するリガンドが関与する疾患のモデルマウスとを交配させる工程と、前記交配により得られた仔マウスから、esRAGEを発現し、かつ、前記疾患のモデルマウスとしての特徴を有するマウスを選抜する工程とを含む方法により得られる、esRAGEを発現する、前記疾患のモデルマウス。
【0013】
(6) 内在性分泌型の後期糖化反応生成物受容体(esRAGE)をコードするDNAがゲノムに導入されているICR系のトランスジェニックマウスと、C57BL/6系マウスとを交雑させて、前記DNAがゲノムに導入された仔マウスを得る交雑工程と、
前記仔マウスと、C57BL/6系マウスとの戻し交配により、前記DNAがゲノムに導入されたC57BL/6系のマウスを作製する戻し交配工程と、
を含むことを特徴とする、esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されている、esRAGEを発現する、C57BL/6系マウスの作製方法。
(7) esRAGEをコードするDNAが、肝臓特異的な発現を可能にする発現制御配列の制御下にある、(6)の方法。
(8) esRAGEがヒトesRAGEである、(6)又は(7)の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のesRAGE過剰発現マウスは、アルツハイマー病、糖尿病、糖尿病合併症等の、RAGEに結合するリガンドが関与する疾患のモデルマウスの作製のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】mRAGEとesRAGEのリガンドに対する挙動を模式的に示す。
【図2】実施例で作製したヒトesRAGEのcDNAを含む核酸コンストラクト(発現ベクター)の構成を模式的に示す。
【図3】本発明のesRAGEトランスジェニックマウス(C57BL/6J)の血清中のヒトesRAGEタンパク質濃度を示す。
【図4】放射性ヨウ素によって標識したアミロイドβを、本発明のヒトesRAGE発現トランスジェニックマウス(TG)、野生型C57BL/6Jマウス(WT)、およびRAGE遺伝子ノックアウトC57BL/6Jマウス(KO)の尾静脈より投与し、大脳へ移行したアミロイドβ量を経時的に分析した結果を示す。
【図5】図4について説明した手順で分析された、小脳におけるアミロイドβ量の経時変化を示す。
【図6】図4について説明した手順で分析された、腎臓におけるアミロイドβ量の経時変化を示す。
【図7】図4について説明した手順で分析された、肺におけるアミロイドβ量の経時変化を示す。
【図8】図4について説明した手順で分析された、血液におけるアミロイドβ量の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1. esRAGE過剰発現マウス及びその作製方法
本発明においてマウスゲノムに導入される、esRAGEをコードするDNAはcDNAであることが好ましい。

【0017】
esRAGEは、ヒトesRAGEであることが好ましいが、これには限定されず、マウス等の他の哺乳動物のesRAGEであってもよい。ヒトesRAGEのcDNAは、配列表の配列番号1に示される公知の塩基配列を有する。ヒトesRAGEのcDNAは、文献Yonekura, H., et al. Biochem. J., 370: 1097-1109 (2003) に示された手順により取得することができる。

【0018】
esRAGEをコードするDNAは、通常、エンハンサー、プロモーター等の発現制御配列とともに発現ベクターに組み込まれ、マウスのゲノム中に導入される。当該発現ベクター中では、esRAGEをコードするDNAは発現制御配列により制御される。発現制御配列としては公知のエンハンサー、プロモーターを適宜使用することができる。発現制御配列としては、肝臓に特異的な発現を可能にするエンハンサー/プロモーターが好ましい。このようなエンハンサー/プロモーターとしては、マウス由来アルブミン遺伝子のプロモーター(配列番号3)及びそれに対するエンハンサー(配列番号2)が使用できる。

【0019】
発現ベクター中には更に、発現ベクター中に通常用いられる他のエレメントを付加することができる。例えばesRAGEをコードするDNAの下流にポリA配列を付加することや、esRAGEをコードするDNAの上流にヒトβ-グロビンのイントロンを付加することができる。

【0020】
本発明に係る、C57BL/6系のesRAGE過剰発現マウスは以下の方法により作製することができる。

【0021】
第一のesRAGE過剰発現マウス作製法は、
esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されているICR系のトランスジェニックマウスと、C57BL/6系マウスとを交雑させて、前記DNAがゲノムに導入された仔マウスを得る交雑工程と、
前記仔マウスと、C57BL/6系マウスとの戻し交配により、前記DNAがゲノムに導入されたC57BL/6系のマウスを作製する戻し交配工程
とを含む。

【0022】
前記交雑工程において用いられるICR系のトランスジェニックマウスは以下の手順で用意することができる。まず、esRAGEをコードするDNAを含む前記発現ベクターをマウスの受精卵に導入する。このとき使用する受精卵はBDF1系マウスの受精卵であることができるが、他の系統のマウスの受精卵を使用することもできる。受精卵への発現ベクターの導入方法は特に限定されず、マイクロインジェクション法やエレクトロポーレーション法等の公知の方法が採用できる。続いて、遺伝子導入受精卵を、偽妊娠させた仮親マウスの子宮内に移植し、出産させ、仔マウスを得る。仔マウスから、esRAGEをコードするDNAを含む前記発現ベクターがゲノムに組み込まれた個体を選抜する。選抜は、仔マウスの尾部より分離した染色体DNAに、目的とする発現ベクターが含まれていることを、サザンブロット法、PCR法等の方法により確認する方法により行うことができる。選抜された個体(ファウンダーマウス)と、トランスジェニックされていない野生型のICR系マウスとを、esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されていることを上記と同様の手順で確認しながら戻し交配することにより、ICR系トランスジェニックマウスを得る。戻し交配は、5世代以上行うことが好ましい。本発明で使用されるICR系マウスとしては、CD-1マウス(Crlj:CD1(ICR))が好ましい。

【0023】
続いて、上記手順で得られた、esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されたICR系トランスジェニックマウスと、野生型C57BL/6系マウスとを交雑させて、該DNAが導入された仔マウスを得る。

【0024】
更に、戻し交配工程では、親の野生型C57BL/6系マウスを背景として、10世代以上の戻し交配を行う。こうして、esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されたC57BL/6系のマウスを得ることができる。

【0025】
C57BL/6系のesRAGE過剰発現マウスの第二の作製法としては、
esRAGEをコードするDNAを含む上述の発現ベクターを、マウスの受精卵に導入し、遺伝子導入受精卵を仮親マウスに移植し、出産させて仔マウスを得る工程と、
仔マウスから、esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されたマウスを選抜する工程と、
選抜された、esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されたマウスと、トランスジェニックされていない野生型C57BL/6系マウスとの戻し交配により、esRAGEをコードするDNAがゲノムに導入されたC57BL/6系のトランスジェニックマウスを得る工程
とを含む方法が挙げられる。

【0026】
この第二のesRAGE過剰発現マウス作製法において用いる発現ベクターの導入方法、目的DNAが導入されていることの確認方法、及び、戻し交配工程の世代数は、第一のesRAGE過剰発現マウス作製法に関して述べた手順を採用することができる。発現ベクターが導入される受精卵は、C57BL/6系マウスの受精卵であることができるが、他の系統のマウスの受精卵を使用することもできる。

【0027】
上記第一又は第二のesRAGE過剰発現マウス作製法で得られる本発明のC57BL/6系のesRAGE過剰発現マウスでは、導入遺伝子から発現したesRAGEタンパク質が血清中に300~5500 ng/mlという高濃度で存在する。実施例において確認されているように、esRAGEが肝臓特異的に発現されたとしても、esRAGEタンパク質は血流により移動するため全身にesRAGEタンパク質が分布することとなる。

【0028】
2. 疾患モデルマウス及びその作製方法
本発明のC57BL/6系のesRAGE過剰発現マウスから、esRAGEを過剰発現する疾患モデルマウスを作製することができる。

【0029】
疾患モデルマウスは、本発明のC57BL/6系のesRAGE過剰発現マウスに、RAGEに結合するリガンドが関与する疾患を発症させるか、前記疾患に特徴的な現象を生じさせることにより得ることができる(第一のモデルマウス作製法)。

【0030】
或いは、疾患モデルマウスは、本発明のC57BL/6系のesRAGE過剰発現マウスと、RAGEに結合するリガンドが関与する疾患のモデルマウスとを交配させて得られる仔マウスから、esRAGEを発現するとともに、目的とする疾患のモデルマウスとしての特徴を有するマウスを選抜することにより得ることもできる(第二のモデルマウス作製法)。

【0031】
ここで、「RAGEに結合するリガンドが関与する疾患」としては、糖尿病、糖尿病合併症、動脈硬化、神経変性疾患もしくは老化、アルツハイマー病、がんの浸潤・転移、慢性関節リウマチなどの炎症性疾患などが挙げられる。

【0032】
第一のモデルマウス作製法において上記疾患を発症させる方法、及び上記疾患に特徴的な現象を生じさせる方法は特に限定されない。例えば、アルツハイマー病のモデルマウスを作製するために、アルツハイマー病患者に特徴的なアミロイドβタンパク質(Aβ)を、本発明のC57BL/6系のesRAGE過剰発現マウスの尾静脈に投与することができる。また、ストレプトゾシンをesRAGE過剰発現マウスに投与することにより、糖尿病を誘発することができる。

【0033】
第二のモデルマウス作製法において、C57BL/6系のesRAGE過剰発現マウスと交配される疾患モデルマウスとしては、既知のものが使用できる。例えば、アルツハイマー病のモデルマウスとして、Tg2576 マウスなどAβを過剰産生するトランスジェニックマウス、1型糖尿病のモデルマウスとして、膵臓のインスリン分泌細胞で誘導型一酸化窒素合成酵素を過剰発現しインスリン分泌細胞が生後早期に破壊されてしまうトランスジェニックマウス、2型糖尿病のモデルマウスとして、レプチン受容体に異常があるdb/dbマウスなどが挙げられる。なお、交配に用いられる疾患モデルマウスは、C57BL/6系マウスの遺伝的背景を有するマウスであることが好ましいが、他の系統の遺伝的背景を有するマウスを使用することもできる。

【0034】
第二のモデルマウス作製法は、esRAGEを発現し、かつ、目的とする疾患のモデルマウスとしての特徴を有するマウスを選抜する工程を含む。ここで、「疾患のモデルマウスとしての特徴を有するマウス」とは、典型的には、当該疾患を発症するマウスを指す。マウスがesRAGEを発現することは、esRAGEをコードするDNAがゲノム中に導入されていることを上述の方法により確認するか、血清中のesRAGE濃度を測定することにより確認することができる。
【実施例】
【0035】
1. コンストラクトの作成
esRAGEを肝臓から血液中に発現させるために、ヒトesRAGE cDNAをマウス・アルブミン・エンハンサー/プロモーターの下流に付加した。さらに安定した発現を得るために、マウス・アルブミン・エンハンサー/プロモーターとヒトesRAGE cDNAとの間にヒトβ-グロビンのイントロンを付加し、ヒトesRAGE cDNAの下流にはSV 40 ポリアデニル化シグナルを付加した。ヒトesRAGEのcDNAの塩基配列を配列表の配列番号1に、マウス・アルブミン・エンハンサーの塩基配列を配列表の配列番号2に、マウス・アルブミン・プロモーターの塩基配列を配列表の配列番号3に、それぞれ示す。
【実施例】
【0036】
マウス・アルブミン・プロモーター/エンハンサー(alb P/E)は、E2F-1 cDNA(Conner, E.A., et al. Oncogene, 19: 5054-5062, 2000)より得た。human esRAGE cDNAはYonekura, H., et al. Biochem. J., 370: 1097-1109, 2003に示されたpCI-neoベクターに連結したhuman esRAGE cDNA(pCI-neo-esRAGE)を用いた。pCI-neo-esRAGEよりプロモーター領域を除去し、alb P/Eを挿入し、コンストラクトとした。このコンストラクトの配列を確認した後、塩化セシウム密度勾配遠心を行うことにより精製した。このDNAを制限酵素HgaIで消化しアガロースゲル電気泳動により分離し、alb P/E-esRAGE領域を切り出し、GENECLEAN III(BIO 101社製)により精製してマイクロインジェクションに用いる試料とした。
形成されたコンストラクトの模式図を図2に示す。
【実施例】
【0037】
2. esRAGEトランスジェニックマウス(CD-1)の作製
上記1で作製されたコンストラクトをマイクロインジェクション法によりBDF1(日本SLC)の受精卵の前核に導入した。
【実施例】
【0038】
コンストラクトを導入した受精卵を偽妊娠させた仮母親(CD-1)の子宮に移植し、出産させ子供を得た。得られた子供の尾部から血液を採取しDNAを抽出してPCR法及びサザンブロット法により目的遺伝子が組み込まれていることを確認した。目的遺伝子が導入されたものをファウンダーマウスとした。
【実施例】
【0039】
PCR法の手順: PCR反応はTaKaRa Ex Taqを用いてマニュアルに従って行った。PCR反応は次のように行った。94℃ 30秒, 62℃ 30秒, 72℃ 60秒のサイクルを35回行い反応物の一部をアガロースゲル電気泳動により分離し、目的の大きさの増幅断片(404bp)を確認した。用いたプライマーの配列を以下に示す。
フォワードプライマー:5'-GCTTGGCTTGAACTCGTT-3' (配列番号4)
リバースプライマー: 5'-GCTACCTTAAAGATCCC-3' (配列番号5)
【実施例】
【0040】
サザンブロット法の手順:マウスの血液から抽出したDNAをNotIおよびPstIで消化した後、アガロース電気泳動によりDNAを分離し、ナイロン膜に転写した。ナイロン膜をesRAGE cDNAプローブを用いて65℃、20時間ハイブリダイズを行った。ナイロン膜の洗浄条件は、0.1×SSPE/ 0.1%SDSで室温5 minを2回、0.1×SSPE/ 0.1%SDSで60℃、20 minを3回行った。用いたプローブは、配列表に示す配列番号1(human esRAGEのcDNA)の1-452の部分塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【実施例】
【0041】
前記ファウンダーマウスから、トランスジェニックされていない野生型CD-1マウスとの連続した戻し交配を5世代行い、さらに兄弟交配を1世代行うことにより、F2世代のトランスジェニックマウスを得た。PCR法により目的遺伝子の導入が確認されたF2世代のトランスジェニックマウスについて、血清中のヒトesRAGEタンパク質を定量した。定量は、ヒト膜型RAGEタンパク質とヒトesRAGEタンパク質に共通する領域に結合する抗ヒトRAGE抗体が固定化されたプレートと、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)により標識された、マウスesRAGEタンパク質およびヒト膜型RAGEタンパク質には含まれないヒトesRAGEタンパク質に特異的な領域に結合する抗ヒトesRAGE抗体とを用いるサンドイッチELISA法により行った。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0042】
【表1】
JP0005565786B2_000002t.gif
【実施例】
【0043】
3. マウスの繁殖
上記2において作製されたトランスジェニックマウス(CD-1)のF2世代のなかで血清中のヒトesRAGEタンパク質濃度が最も高い系統550を野生型C57BL/6Jマウス(日本SLC)に交雑し、次いで野生型C57BL/6Jマウスとの戻し交配を10世代行うことにより、コンジェニック系統を樹立した。
このマウスの受精卵を凍結し液体窒素中に保存した。
【実施例】
【0044】
この凍結受精卵を偽妊娠させた仮母親(C57BL/6J)マウスの子宮に移植し子供を得た。得られた子供の尾部から血液を採取しDNAを抽出してPCR法により目的遺伝子が組み込まれていることを確認した。このマウスを兄弟交配により繁殖させesRAGEトランスジェニックマウス(C57 BL/6J)を得た。
【実施例】
【0045】
4. ヒトesRAGEタンパク質の測定
上記3において作製された、esRAGEトランスジェニックマウス(C57BL/6J)(個体数:オス, 12、メス, 22)の血清中のヒトesRAGEタンパク質濃度を、上記2と同様の手順により定量した。比較のために、野生型C57BL/6Jマウス(wild)と、RAGE遺伝子がノックアウトされたC57BL/6Jマウス(KO)についても同様にして血清中のヒトesRAGEタンパク質濃度を定量した。
【実施例】
【0046】
結果を図3に示す。本発明のesRAGEトランスジェニックマウス(C57BL/6J)中には、血清中に約2000 ng/mlのヒトesRAGEタンパク質が含まれていた。この濃度は、上記2で作製されたesRAGEトランスジェニックマウス(CD-1)系統550におけるヒトesRAGEタンパク質の血清中濃度(17.3 ng/ml、表1参照)と比較して顕著に高い。
また、各個体別のヒトesRAGEタンパク質の血清中濃度を表2に示す。
【実施例】
【0047】
【表2】
JP0005565786B2_000003t.gif
【実施例】
【0048】
更に、esRAGEトランスジェニックマウス(C57BL/6J)のうちの一個体(TG♀4)について臓器別のヒトesRAGEタンパク質量を測定した。定量は、以下の方法で行った。Harashima, A., et al.Biochem. J., 396:109-115(2006) に記載されている方法で、各臓器よりesRAGEタンパク質を抽出した。抽出したesRAGEタンパク質を用いて、血清中のヒトesRAGEタンパク質測定と同様の方法で定量を行った。
結果を表3に示す。
【実施例】
【0049】
導入遺伝子が発現される肝臓だけでなく、他の臓器においてもヒトesRAGEタンパク質が存在していることが明らかとなった。この結果は、肝臓において発現したヒトesRAGEタンパク質が血流により全身に移動したためであると推定される。
【実施例】
【0050】
【表3】
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【実施例】
【0051】
5. アミロイドβの動態、代謝におけるesRAGEの役割の解析
放射性ヨウ素によって標識したアミロイドβを、上記3において作製されたヒトesRAGE発現トランスジェニックマウス(TG)、野生型C57BL/6Jマウス(WT)、およびRAGE遺伝子ノックアウトC57BL/6Jマウス(KO)の尾静脈より投与し、脳組織へ移行したアミロイドβ量を経時的に検討した。その結果、ヒトesRAGE発現トランスジェニックマウスにおける脳移行量は、投与後2時間の時点で、対照マウスに対して有意に低かった。大脳、小脳におけるアミロイドβ量の経時的測定値をそれぞれ図4、図5に示す。この結果は、末梢循環血液中のesRAGEがアミロイドβを捕捉し、脳血液関門を介した脳組織への移行を抑制した結果であると考えられた。また、脳以外の臓器でも同様の検討を行った。腎臓、肺、血液におけるアミロイドβ量の経時的測定値をそれぞれ図6、図7、図8に示す。投与後30分の時点で、腎臓のアミロイドβ量がヒトesRAGE発現トランスジェニックマウスで有意に高かった。これは、アミロイドβがesRAGEによって捕捉された結果、早期に腎臓に集積されていると考えられた。
【実施例】
【0052】
このように、本発明のヒトesRAGE発現トランスジェニックマウスから作出された疾患モデルマウスを利用して疾患におけるesRAGEの役割を解析することができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0053】
配列番号4: プライマー
配列番号5: プライマー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7