TOP > 国内特許検索 > 水溶性の放射性セシウムの不溶化方法、この方法に用いる不溶化剤並びにこの方法によって得られるセメント硬化体及びコンクリート > 明細書

明細書 :水溶性の放射性セシウムの不溶化方法、この方法に用いる不溶化剤並びにこの方法によって得られるセメント硬化体及びコンクリート

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5610412号 (P5610412)
公開番号 特開2013-231742 (P2013-231742A)
登録日 平成26年9月12日(2014.9.12)
発行日 平成26年10月22日(2014.10.22)
公開日 平成25年11月14日(2013.11.14)
発明の名称または考案の名称 水溶性の放射性セシウムの不溶化方法、この方法に用いる不溶化剤並びにこの方法によって得られるセメント硬化体及びコンクリート
国際特許分類 G21F   9/10        (2006.01)
G21F   9/28        (2006.01)
G21F   9/30        (2006.01)
C04B  28/02        (2006.01)
C04B  18/06        (2006.01)
FI G21F 9/10 G
G21F 9/28 521A
G21F 9/10 B
G21F 9/30 515F
C04B 28/02
C04B 18/06
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2013-164276 (P2013-164276)
出願日 平成25年8月7日(2013.8.7)
審査請求日 平成25年8月28日(2013.8.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501273886
【氏名又は名称】独立行政法人国立環境研究所
発明者または考案者 【氏名】市川 恒樹
【氏名】山田 一夫
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100093816、【弁理士】、【氏名又は名称】中川 邦雄
審査官 【審査官】村川 雄一
参考文献・文献 特開2013-107051(JP,A)
特許第5250140(JP,B2)
特開2013-088391(JP,A)
調査した分野 G21F 9/00 - 9/36
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも、
放射性セシウムを水に溶出させる工程、
フェロシアン化ニッケルを含む水溶性の放射性セシウムの不溶化剤を前記放射性セシウムが溶出した溶液に共存させ、前記放射性セシウムを前記フェロシアン化ニッケルに吸着させる工程、
少なくとも水溶性の放射性セシウムを含む高いpH=11.0以上を示す物質中の塩化カルシウムおよび水酸化塩化カルシウムの総和を、0.1mass%~40mass%の範囲において、セメントの水和によっても消費しきれない過剰量の塩化カルシウムを含有させる制御をする工程、
を含み、
それら工程の後に、
セメント系材料を添加し、固型化させることを特徴とする
水溶性の放射性セシウムの不溶化方法。
【請求項2】
前記水溶性の放射性セシウムを含む高いpH=11.0以上を示す物質が、放射性セシウムを含む焼却灰であることを特徴とする請求項1に記載の水溶性の放射性セシウムの不溶化方法。
【請求項3】
前記フェロシアン化ニッケルを、前記焼却灰に対して、1ppm~5000ppmの範囲で添加することを特徴とする請求項2に記載の水溶性の放射性セシウムの不溶化方法。
【請求項4】
前記フェロシアン化ニッケルを、前記水溶性の安定性セシウムおよび放射性セシウムの総量1モル当たり、1モル~1000モルの範囲で添加することを特徴とする請求項2に記載の水溶性の放射性セシウムの不溶化方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の水溶性の放射性セシウムの不溶化方法に用いられ、少なくともフェロシアン化ニッケルを含むことを特徴とする水溶性の放射性セシウムの不溶化剤。
【請求項6】
請求項1~請求項の何れか1項に記載の水溶性の放射性セシウムの不溶化方法によって得られたことを特徴とする放射性セシウムを含むセメント硬化体、もしくはコンクリート。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、主に可燃性廃棄物の焼却灰(主灰、飛灰)のセメント固型化時の水溶性の放射性セシウム(Cs)の安定的な不溶化剤と不溶化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所事故により環境に放出された主要な放射能汚染物質は放射性Csによる。環境に放出された放射性Csの多くは粘土に付着するなどして、移動しにくい化学形態となっている。
【0003】
一方で、草木類などに代表される可燃性廃棄物を焼却処分する際に発生する焼却灰、とくに焼却飛灰には、多くの放射性Csが水溶性となって含まれている。焼却飛灰に含まれる水溶性Csに水が作用すると水溶性の放射性Csは溶出、流出し、特定箇所に濃縮する危険があるため、焼却飛灰からの放射性セシウムの溶出防止処理(不溶化処理)が極めて重要で、強く望まれている。なお、可燃性廃棄物としては、草木類に限定されるものではなく、放射能汚染されたあらゆる焼却処分対象の廃棄物が含まれ、また廃棄物ではなくとも放射能汚染された廃プラスティックなどの可燃物の燃料としてのサーマルリサイクルなど焼却の結果として生じた焼却灰も包含する。焼却飛灰に比べ、主灰には水溶性の放射性Csの割合は比較的低い。また、下水道汚泥の焼却灰には一般に水溶性の放射性Csは少ない。しかし、これらを溶融する場合、溶融飛灰には高濃度に水溶性の放射性Csが含有され、これらも対象物である。
【0004】
焼却設備にも依存するが、焼却飛灰には、焼却で生じる塩酸除去のために消石灰(Ca(OH)/水酸化カルシウム)が吹き込まれることから生じる塩化カルシウムが、余剰の消石灰と共に多量に含まれていることが多い。このため、焼却飛灰に水が加わった場合に生じる液相のpHは11.0-12.7程度になる。なお、実際に生成しているのは必ずしも塩化カルシウム(CaCl)ではなく、水酸化塩化カルシウム(CaClOH)であることも多いが、ここでは単純に両者を合わせて塩化カルシウムと記載する。
【0005】
非特許文献3などに開示のように、水溶性Csの強力な選択的吸着剤・不溶化剤としてフェロシアン化鉄(プルシアンブル-)が知られている。
【0006】
しかしながら、焼却飛灰には水酸化カルシウムが含まれpHが高く、またセメント固型化をした場合にはさらに高pHとなる可能性がある。これはセメントの水和により生じる水酸化カルシウムに加え可溶性のアルカリイオン(Na、K)によるものであり、pHは最大13.7にもなる。このような高アルカリ環境ではフェロシアン化鉄は不安定で、分解し、水溶性Csの不溶化機能を失う。
【0007】
他方、飛灰洗浄技術も開発されているが、高アルカリ性の飛灰洗浄液はいったん中性化処理をしてからフェロシアン化鉄に吸着・沈殿させることが必要であり、煩雑で、高コストである。
【0008】
一方、セメントにより焼却飛灰を固型化することで、飛散防止も出来、固型化により水の浸透速度を低下させ、Csの溶出速度を低下させることは出来るが、セメントはCsの固定能力が乏しく、水の浸透速度を低下させる以上には溶出防止・不溶化効果はない。
【0009】
さらに焼却飛灰には多量の水溶性の塩化カルシウムと塩化アルカリが含有されており、焼却飛灰のセメント固型化体中にも残存する場合がある。外部からの水の作用でこれらは溶解し、空隙を増し、結果としてCsの溶出速度は増加していくことになる。
【0010】
また、セメントに反応性が高いシリカやモルデナイトなどのゼオライトを添加することで、Csの溶出量を半減、もしくは一桁程度低下させることは出来るが、効果は限定的であり、多量に使用することが必要であったりする。
【0011】
ゼオライトはCsを選択的に吸着することで知られるが、焼却飛灰に用いるとその吸着特性は1/100程度に激減する。放射性Csを含むCs単独のときゼオライトは効果的に吸着能力を発揮するが、焼却飛灰からのCs除去ではその効果が限定的である。
【0012】
これは、焼却飛灰に放射性Csだけではなく、それと化学的挙動がほぼ同一の安定Csが含有されることと、Csの吸着と競合関係にあるK(カリウム)が桁違いに多く含まれているためである。
【0013】
例えば都市ごみや可燃性震災がれきの焼却飛灰に安定Csは0.1~10ppm程度の範囲で含有されるが、例えば1万Bq/kgの放射性Csはわずかに3ppt(ppmの100万分の1)含有されるに過ぎない(137Cs換算)。原子力発電所から発生するごく微量の放射性Csであれば吸着できても、現実には、言葉通り桁違いに多量の安定Csと同時に吸着することが必要である。
【0014】
また焼却飛灰には水和半径がCsと類似したKが数%、すなわちCsに比べて3桁から5桁程度の高濃度で含まれているが、イオン選択性がそれほど強くない各種吸着剤の場合、これがCsと競合吸着するため、各種吸着材の吸着能を低下させる主因となる。
【先行技術文献】
【0015】

【非特許文献1】森浩文ほか、都市ごみ焼却残渣の化学成分調査、第10回廃棄物学会研究発表会講演論文集、B9-2、pp.488-490、1999
【非特許文献2】H.Mimura et al., Chemical and thermal stability of potassium nickelhexyacyanoferrate (II), J. Nuclear Sci. and Tech., Vol, 34, No. 6, pp. 582-586,1997
【非特許文献3】http://www2.toagosei.co.jp/develop/trend/No16/no16_6.pdf#search='%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%B3%E5%8C%96'
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、水溶性の放射性Csの不溶化剤、及び水溶性の放射性Csの不溶化方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記従来の問題点に鑑み、発明者等は鋭意研究した結果、フェロシアン化ニッケルを放射性Csの吸着、不溶化剤と使用した場合、高pHでも安定的に不溶化を維持できることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、上記課題を解決するため、
(1)
水溶性の放射性Csを含む高いpHを示す物質に添加され、前記放射性Csの溶脱を抑制し、不溶化するための放射性Csの不溶化剤であって、
少なくともフェロシアン化ニッケルを含むことを特徴とする水溶性の放射性Csの不溶化剤の構成とした。
(2)
前記フェロシアン化ニッケルを、フェロシアン化アルカリ、フェロシアン化アルカリ土類あるいは他の水溶性フェロシアン化化合物、及び水溶性ニッケル塩から合成することを特徴とする(1)に記載の水溶性の放射性Csの不溶化剤の構成とした。
(3)
前記高いpHを示す物質が、放射性Csを含む焼却灰であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の水溶性の放射性Csの不溶化剤の構成とした。
(4)
塩化カルシウムおよび/または水酸化塩化カルシウムが、前記焼却灰に対して、0.1mass%~40mass%の範囲で含まれることを特徴とする(1)~(3)の何れかに記載の水溶性の放射性Csの不溶化剤の構成とした。
(5)
放射性Csを含む焼却灰に水を添加して水洗し、得られた水洗液に、(1)~(4)の何れかに記載の水溶性の放射性Csの不溶化剤を添加し、安定Csとあわせて放射性Csを選択的に除去することを特徴とする水溶性の放射性Csの不溶化方法の構成とした。
(6)
放射性Csを含む焼却灰に、(1)~(4)の何れかに記載の水溶性の放射性Csの不溶化剤を添加し、放射性Csを安定Csとあわせて選択的に除去することを特徴とする水溶性の放射性Csの不溶化方法の構成とした。
(7)
前記フェロシアン化ニッケルを、前記焼却灰に対して、1ppm~5000ppmの範囲で添加することを特徴とする(5)又は(6)に記載の水溶性の放射性Csの不溶化方法の構成とした。
(8)
前記フェロシアン化ニッケルが、前記水溶性の安定性及び放射性を合わせたCs1モル当たり、0.1モル~1000モル、好ましくは1モル~100モル、より好ましくは1モル~10モルの範囲で含まれることを特徴とする(5)又は(6)に記載の水溶性の放射性Csの不溶化方法の構成とした。
(9)
(6)~(8)のいずれかに記載の水溶性の放射性Csの不溶化方法で得られた不溶化放射性Csを含む焼却灰又は水洗液から分離した不溶化放射性Csを含有する分離物を、ポルトランドセメントなどのセメント系材料を用いて固型化することを特徴とする水溶性の放射性Csの不溶化処理方法の構成とした。
(10)
前記セメント系材料が、
高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュ-ム等の珪質材料から選ばれる1種を含有する混合セメント、
又は高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュ-ム等の珪質材料から選ばれた複数種を含む複合セメントであることを特徴とする(9)に記載の水溶性の放射性Csの不溶化処理方法の構成とした。
(11)
前記セメント系材料又は(1)~(4)いずれかに記載の水溶性の放射性Csの不溶化剤に、セメントの水和によっても消費しきれない過剰量の塩化カルシウムおよび/または水酸化塩化カルシウムを含有させることを特徴とする(9)又は(10)に記載の水溶性の放射性Csの不溶化処理方法の構成とした。
(12)
(9)~(11)の何れかに記載の水溶性の放射性Csの不溶化処理方法によって得られたことを特徴とする放射性Csを含むセメント硬化体、もしくはコンクリートの構成とした。
【発明の効果】
【0019】
本発明は以上の構成であるので、以下の効果を発揮する。即ち、廃棄物焼却施設などから発生する放射性Csの除去、不溶化、放射性Cs含有焼却飛灰の適正な処理方法が確立される。より具体的には、除染により生じた可燃性廃棄物の焼却灰、特定廃棄物(対策地域内廃棄物と指定廃棄物)、放射能汚染した可燃性物質の焼却灰、及び福島第一原子力発電所廃炉に伴う放射能汚染した廃棄物のうち、特に、水溶性Csを含有する焼却飛灰などをセメントにより固型化する際に極めて有効な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】フェロシアン化ニッケルとCsのモル比とCs固定化率の関係を示すグラフである。
【図2】各種フェロシアン化金属塩の外観と高pHでの状態変化を示す写真である。(A)はフェロシアン化カリウム溶液に各種金属イオンを含む状態、(B)は(A)に水酸化カルシウム溶液を添加したときの状態である。
【図3】pHとフェロシアン化ニッケルによるCs固定化率の関係を示すグラフである。
【図4】NaOH濃度とフェロシアン化ニッケルによるCs固定化率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はそれら実施形態に限定されるものではない。

【0022】
本発明は、放射能汚染した可燃性廃棄物を焼却処分して焼却炉から発生する焼却飛灰などを埋め立て処分する際に利用することを想定している。焼却飛灰中に水溶性の放射性Csが含有されている場合は、水が作用した際に放射性Csが流出する。水溶性Csを含有する焼却灰などの物質に不溶化剤を加えて、放射性Csの流出を防止することができる材料及び技術(方法)を検討した。焼却飛灰は飛散防止にセメント固型化することが有効であるので、セメント固型化体からの溶出も考慮した。なお、水溶性Csを含有する物質なら焼却飛灰に限らず多くのもの、例えばより水溶性の割合は低いが焼却主灰、焼却灰を溶融処理する溶融路からの溶融飛灰、汚染された可燃物のサーマルリサイクルにより発生する焼却灰などにも適用することができる。
【実施例1】
【0023】
本発明の有効性を示すために、例として焼却飛灰に水が作用した時に発生する水溶液を模擬した飛灰抽出模擬液からのCs除去を検討した。飛灰抽出液に溶出する飛灰中の主要な構成相は、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)である。飛灰抽出液に不溶化剤であるフェロシアン化ニッケルを添加する状況を以下のように模擬した。
【実施例1】
【0024】
[試験例1]
(1)材料
・飛灰抽出模擬溶液
CaCl=0もしくは1M(それぞれpH12.7もしくは12.0に対応)、NaCl=0.5M、KCl=0.5M、過剰量のCa(OH)、CsCl=0.015~45mM(RI*)137Csを微量含有)。
*)RI:ラジオアイソトープ。
なおCs塩は水溶性塩であればアニオンの影響はないと考えられる。
・フェロシアン化ニッケル懸濁液
Fe(CN)=5mM、NiCl=5もしくは7.5mMを混合。
【実施例1】
【0025】
(2)試験方法
飛灰抽出模擬溶液2mLとフェロシアン化ニッケル懸濁液2mLを混合し、1昼夜静置することで生成物を沈降させ、0.22μmのメンブランフィルターでろ過した上澄み液中の137Csのγ線を指標にCs固定化率を測定した。その結果を図1に示す。なお、沈殿物を静置沈降させず、単に0.22μmのメンブランフィルターでろ過した場合には、ろ過液に137Csがもれだす。すなわち、フェロシアン化ニッケルによるCs除去には静置もしくは遠心分離などにより、沈殿を沈降させることが要点である。
【実施例1】
【0026】
図1に示すように、Csに対して、モル比で0.1以上のフェロシアン化ニッケルでCsの固定化性能が現れ、2.0で飽和するが、1000モル程度までは効果がある。これ以上のフェロシアン化ニッケルを添加してもCsの不溶化には効果がある。しかし、過剰に加えた場合、Csの不溶化材としては不適切に多い量となる。この固定化反応にはイオン特異性があり、放射性及び安定Csが同時にかつ優先的に固定化される。モル比0.1~1000モルの範囲で効果があるが、効果と経済性を考えると、モル比1~100が好ましく、モル比1~10がより好ましい。
【実施例1】
【0027】
一般に、焼却飛灰には0.1~10ppmの範囲で安定Csが含まれている。安定Csの原子量は133、フェロシアン化ニッケルの化学式をKNiFe(CN)(a)とするとその分子量は348.5である。
【実施例1】
【0028】
Cs固定化作用が現れるモル比0.1~1000は、質量比で0.26~2600になる。焼却飛灰中のCs濃度0.1~10ppmに換算すると、0.026~26000ppmとなる。より広い焼却飛灰中のCs濃度のばらつき(b)を考えて、フェロシアン化ニッケルの焼却飛灰に対する添加濃度としては0.01~50000ppm(5%)が有効範囲である。より確実な効果と経済性を考えると、0.1~5000ppmが好ましく、1~5000ppmがより好ましい。
【実施例1】
【0029】
(a)
実際にはK2-x1/2Ni[NiFe(CN)]・nHO(x、n=0~2)。基本構造は[NiFe(CN)]であり、2の電荷を持つため、陽イオンを吸着する。Kは、他の陽イオン、Na、Caなどにより置換する。Csは最大2原子が取り込まれる。実験によれば、1個のCsに対し、1.3個程度の[NiFe(CN)]があれば、高濃度のCaCl、NaCl、KCl溶液からでもCsを高効率に除去できる。
【実施例1】
【0030】
(b)
全国28都府県170施設を調査した非特許文献1によると、都市ごみ焼却飛灰の化学組成には大きなばらつきがあり、ここで問題となる元素については、Cl=8~31質量%(以下、単に%と記載)、NaO=1~10%(最大20%)、KO=1~10%である。Csについてはまとまった情報はないが、いくつかの測定事例では、0.1~10ppm程度である。
【実施例1】
【0031】
ここで、Csの固定化はフェロシアン化ニッケルに限らず多くのフェロシアン化金属錯体で確認されている。しかし、多くの場合、高pHでは錯体が不安定化し、Cs固定が出来なくなる。
【実施例1】
【0032】
図2に各種フェロシアン化金属錯体の外観を示す。フェロシアンブル-はフェロシアン化カリウムと塩化鉄(III)を混合することで鮮やかな濃い群青が得られる。ここに焼却飛灰を模擬し、水酸化カルシウムを添加すると群青は失われる(赤褐色)。他のMn2+(白濁→茶色~クリーム色), Co2+(草色→茶色), Cu2+(濃緑→水色沈澱), Zn2+(白濁→白沈澱)では状態が変化していることが容易に分かる。唯一、Ni2+のみが変化を起こしていない。
【実施例1】
【0033】
[試験例2]
次に、フェロシアン化ニッケルの安定性を調べるため、飛灰抽出模擬溶液をCaCl=0、NaCl=0.5M、KCl=0.5M、CsNO=0.38mM(RIの137Csを微量含有)とし、NaOHによりpH調整した。
【実施例1】
【0034】
フェロシアン化ニッケル懸濁液は、KFe(CN)=5mM、NiCl=7.5mMとし、両液を2mLずつ混合した。フェロシアン化ニッケルは中性域では安定なので、分解が懸念される高いpH条件を考慮し、pHを13.0から13.9の範囲で制御し、Cs固定化率をγ線測定により測定した。その結果を図3に示す。pH=13.9までは実験に要した1日の範囲では安定にCs固定化が可能と考えられる。
【実施例1】
【0035】
非特許文献2のMimuraらの研究によると、pH=13.0までは安定であるが、13.0を超えると徐々に分解が進み、14.0ではX線回折の測定結果からもフェロシアン化ニッケルの構造が大きく変化することが示されている。
【実施例1】
【0036】
図4(非特許文献2)に固定化能力に関わるCsの溶解平衡定数を示すが、pHが13.0を超えるに従い、固定能力が徐々に低下することが分かる。
【実施例1】
【0037】
焼却設備では焼却により生じる塩化水素HClを過剰の水酸化カルシウムCa(OH)により除去する場合が多いため、多くの焼却飛灰には、反応して生成したCaClと過剰量添加されたため残存するCa(OH)が含有される。
【実施例1】
【0038】
Ca(OH)による平衡pHは12.7であるが、CaClの溶解により、Caイオン濃度が高まるため、Ca(OH)の溶解が妨げられる。そして、pHはCaClの溶解の程度により、11.0から12.0程度となり、CaCl濃度が低くなるとCa(OH)による平衡pHの12.7に近づく。
【実施例1】
【0039】
したがって、単に焼却飛灰にフェロシアン化ニッケルを混合する場合は十分安定にCs固定が可能であると考えられる。
【実施例1】
【0040】
しかし、セメントにより焼却飛灰を固定化する場合、セメントの水和により一定量のClが水和物として固定化される(c)。このためCl濃度に対応し高かったCa濃度が低くなり、Ca(OH)から水酸化物イオンが供給されることになり、pHは徐々に高まる。
【実施例1】
【0041】
Clイオンの固定がCaCl量を超えて起きた場合、塩化アルカリのClイオンまでも消費されるようになる。通常の普通ポルトランドセメント硬化体の空隙水のpHは13.5程度であり、今回の実験結果からも安定にCs固定は出来ると期待できるが、さらにpHが高まる場合には、Cs固定能力は徐々に低下すると予想できる。したがって、セメント固型化を行う場合も、過剰量のCaClが含まれていることが望ましい。過剰量とは、セメント中の反応性アルミナの0.70倍以上である。具体的には、セメントと焼却飛灰の混合比率にも依存するが、焼却飛灰に0.1~40%のCaClが含まれていることが望ましい。
【実施例1】
【0042】
(c)
セメントによるCl固定は、セメント中の反応性のアルミナ成分に対応する。普通ポルトランドセメントには5.5%程度のAlが含有されるが、セメント中の石膏と反応し、通称モノサルフェ-トと呼ばれる化合物3CaOAl.CaSO.12HOを生成する。このSOイオンは他のアニオンと交換性であり、Clイオン濃度が高い場合は、フリ-デル氏塩と呼ばれる鉱物3CaOAl.CaCl.12HOを生成する。すなわち、セメントの反応性のアルミナ含有量に対応し、モル比で2Cl/AlのCl、質量比にすれば反応性のアルミナの0.70倍のClが固定化される。普通ポルトランドセメントでは、その3.8%相当のClが固定化される。高炉スラグを40%置換混合した高炉セメントでは、高炉スラグのアルミナ含有量が15%程度であるので、最大でその6.5%相当のClが固定化される。すなわち、上記のCl濃度以下の場合には、Clが消費されつくし、pH上昇が発生する可能性がある。
【実施例1】
【0043】
上記の反応によるCs固定は焼却飛灰中の放射性Csのみに効果があるだけではなく、どのような状態であれ水溶性Csにはすべてに有効である。例えば、灰洗浄により、液相からCsを除去する場合にも有効である。フェロシアン化鉄の代わりにフェロシアン化ニッケルを用いることで、液相から放射性Csを除去した濃縮残渣をセメント固型化する際に高pHによる分解を抑制できる点で優れている。この際、CaClを加えることで、より安定的な不溶化が出来る。
【実施例1】
【0044】
焼却炉の設備によっては排気ガス中の塩酸除去を消石灰添加によらない方法とする場合もある。この場合、焼却飛灰をセメント固型化するとCaClによるpH制御機構が作用しなくなり、pHが13.5程度に高まる。
【実施例1】
【0045】
したがって、焼却飛灰とセメントを先に混合し、その後フェロシアン化ニッケルを添加する、あるいはすべてを同時に混合するとCsの不溶化が十分に起こらないことが懸念される。この場合であっても、予め焼却飛灰とフェロシアン化ニッケルを混合し、いったんCsを不溶化してからセメントと混合することでフェロシアン化ニッケルからのCs溶出をより安定に防止できる。これはフェロシアン化ニッケルがCsを構造中に取り込むことで安定化するためと考えられる。
【実施例1】
【0046】
またセメントとしては、アルカリ含有量の少ないものが好ましいが、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュ-ムなどの各種珪質材料(火山灰や珪藻土、珪質頁岩などの天然ポゾラン、もしくは、もみ殻焼却灰、焼成粘土、メタカオリンなどの人工ポゾラン)などポゾラン物質を単独もしくは複合して混合したセメント、これらを複合させたセメント、あるいは低pH型の各種セメントがCs不溶化の観点からは適している。ポゾラン物質をより多量に添加することでよりpHを下げることができる。
【実施例1】
【0047】
このようにセメント系材料により固型化して得られたセメント硬化体、もしくは何らかの骨材を含有するコンクリートからは、放射性Csのみならず、他の有害成分も溶出しにくくできるため、盛土材、路盤材などとしての利用の可能性もある。
【実施例1】
【0048】
なお多様な焼却灰が存在し、焼却対象物の種類、燃焼形式によっても水溶性Csの含有量は異なる。都市ごみ焼却における主灰にも割合は小さいが水溶性Csが含有される。一方、焼却飛灰に含まれるCsは大半が水溶性である。飛灰などを溶融して発生する溶融飛灰にも水溶性のCsが含有される。したがって、もっとも問題となる焼却飛灰に対してCs不溶化剤を適用することが技術的に重要であるが、各種焼却灰に対してもCs不溶化効果があることには変わりない。
【実施例1】
【0049】
実際に福島県内の可燃性の一般ごみから焼却施設で発生した焼却飛灰に対して実験を行った。焼却飛灰は18,000Bq/kgの放射性Csによる放射能汚染をしていた。焼却飛灰1kgあたり4Lの蒸留水を加え、1昼夜振盪後、ろ過したところ、溶出液での濃度は、Ca2+は1.3mol/kg、Naは1.1mol/kg、Kは0.9mol/kg、Clは4.6mol/kgであった。NaIシンチレータによるγ線強度の測定によると、放射性Csの溶出率は61%であった。フェロシアン化ニッケルを焼却飛灰1kgに対し0.01mol(3500ppm)を添加したところ、溶出した放射性Csは検出限界以下となった。この焼却飛灰に含有される安定Cs濃度が不明であったため、焼却飛灰1kgあたり7.5mmolのCsNO(10ppmのCs相当)を添加しても、溶出した放射性Csは検出限界以下であった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3