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明細書 :分析装置及び分析システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-003442 (P2017-003442A)
公開日 平成29年1月5日(2017.1.5)
発明の名称または考案の名称 分析装置及び分析システム
国際特許分類 G01N  23/225       (2006.01)
G01T   1/24        (2006.01)
G01N  23/203       (2006.01)
FI G01N 23/225 320
G01T 1/24
G01N 23/203
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2015-117985 (P2015-117985)
出願日 平成27年6月11日(2015.6.11)
発明者または考案者 【氏名】関場 大一郎
【氏名】原山 勲
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
審査請求 未請求
テーマコード 2G001
2G188
Fターム 2G001AA05
2G001BA14
2G001CA04
2G001DA01
2G001DA02
2G001DA08
2G001EA03
2G001EA04
2G001GA01
2G001KA01
2G001KA07
2G001LA02
2G001LA11
2G001NA01
2G188BB15
2G188CC32
2G188CC35
2G188DD05
2G188DD44
2G188EE01
2G188EE03
2G188EE07
2G188EE12
2G188EE25
2G188FF04
2G188FF11
要約 【課題】試料の表面近傍の状態を非破壊かつ高感度に分析することができる分析装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の分析装置は、被測定物を設置できる設置部11を有するチャンバー10と、加速器で発生したイオンビームを前記設置部11に向けて導く導管20と、前記設置部11に設置された前記被測定物Sに前記イオンビームを照射することにより反跳した反跳粒子に磁場を印加し、前記反跳粒子のエネルギーに対応する方向に前記反跳粒子の進行方向を変化させる分析部30と、前記反跳粒子の軌跡と平行な平面に対して垂直な方向に延在し、前記反跳粒子をその進行方向毎に検出可能な検出部を有する位置敏感半導体検出器40と、前記位置敏感半導体検出器40に接続され、前記位置敏感半導体検出器40で生じた電荷をデジタル化して計測する計測器50と、を備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
被測定物を設置できる設置部を有するチャンバーと、
加速器で発生したイオンビームを前記設置部に向けて導く導管と、
前記設置部に設置された前記被測定物に前記イオンビームを照射することにより反跳した反跳粒子に磁場又は電場を印加し、前記反跳粒子のエネルギーに対応する方向に前記反跳粒子の進行方向を変化させる分析部と、
前記反跳粒子の軌跡と平行な平面に対して垂直な方向に延在し、前記反跳粒子をその進行方向毎に検出可能な検出部を有する位置敏感半導体検出器と、
前記位置敏感半導体検出器に接続され、前記位置敏感半導体検出器で生じた電荷をデジタル化して計測する計測器と、を備える分析装置。
【請求項2】
被測定物を設置できる設置部を有するチャンバーと、
加速器で発生したイオンビームを前記設置部に向けて導く導管と、
前記設置部に設置された前記被測定物に照射された前記イオンビームのうち散乱した散乱イオンに磁場又は電場を印加し、前記散乱イオンのエネルギーに対応する方向に前記散乱イオンの進行方向を変化させる分析部と、
前記散乱イオンの軌跡と平行な平面に対して垂直な方向に延在し、前記散乱イオンをその進行方向毎に検出可能な検出部を有する位置敏感半導体検出器と、
前記位置敏感半導体検出器に接続され、前記位置敏感半導体検出器で生じた電荷をデジタル化して計測する計測器と、を備える分析装置。
【請求項3】
前記検出部の延在方向かつ前記検出部に前記反跳粒子または前記散乱イオンが衝突する方向に対し垂直な方向に、前記検出部が平行移動することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の分析装置。
【請求項4】
前記検出部の延在方向かつ前記検出部に前記反跳粒子または前記散乱イオンが衝突する方向に対し垂直な方向に、前記検出部が複数並列していることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
隣接する前記検出部の間に形成されるスリットの幅dと、隣接する前記検出部のピッチpの比が、d:p=0.5:10~2:10の関係を満たすことを特徴とする請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記位置敏感半導体検出器に用いられる半導体の不感層の厚みが、10nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項7】
前記位置敏感半導体検出器に用いられる半導体が、n型半導体に対しドーパント元素をイオン注入したpn接合型の半導体であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記位置敏感半導体検出器に用いられる半導体が、半導体上に金属膜が積層されたショットキーバリア型の半導体であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項9】
前記計測器が、前記電荷により生じる電位のピークが所定の閾値を超えている時間を測定することで適切な信号と不適切な信号とを区別することを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項10】
前記計測器が、前記電荷により生じる電位のピークが所定の閾値を上回るタイミングに同期して前記所定の閾値を増加させる閾値増加手段を備えることを特徴とする請求項9に記載の分析装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の分析装置と、
前記分析装置にイオンビームを供給する加速器とを備える分析システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置及び分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サブサーフェースにおける物質の状態が、物質の種々の性能の律速になっていることが判明している。サブサーフェースとは、物質の表面直下の原子数層分の領域を意味する。このサブサーフェースの状態を分析する手段として高分解能ラザフォード後方散乱分析(High-resolution Rutherford Back Scattering;HRBS)装置や、高分解能弾性反跳検出分析(High-resolution Elastic Recoil Detection Analysis;HERDA)装置等が知られている。ここでは中速イオン散乱法(Medium energy ion scattering;MEIS)装置はHRBSの一種とみなし、HRBSはMEISを含めた述語とする。
【0003】
HRBSは、試料表面に定量対象の原子と比較して小さな原子量を持つイオンを照射し、試料表面の組成(構成元素の種類)を同定する分析手法である。試料表面にヘリウムイオン等を照射すると、試料中の原子核との弾性散乱により照射したイオンは後方に跳ね返る。このイオンの跳ね返り方は、衝突対象である試料中の構成元素の原子量によって異なる。そのため、跳ね返ってきたイオンのエネルギーを測定することによって試料のサブサーフェースの状態を測定することができる。例えば、非特許文献1には、HRBSを用いた分析装置が記載されている。
【0004】
HERDAは、試料表面に定量対象の原子と比較して大きな原子量を持つイオンを照射し、試料表面から弾き出された反跳粒子を検出する分析手法である。例えば、試料の構成元素のうち照射するイオンより原子量の小さい水素元素は、イオン照射により前方に弾き出される。この弾き出された水素を検出することにより、試料中の水素含有量の定量化を行うことができる。例えば、非特許文献2には、HERDAを用いた分析装置が記載されている。
【0005】
HRBS及びHERDAのいずれの分析手法においても、検出感度を高めることが求められている。例えば、非特許文献3には、検出器の前にフィルターを設け、検出器に入射する迷走イオン(チャンバー壁面で衝突しながら入射するイオン、迷い粒子ともいう)を除去すると共に、検出器で発生する暗電流を抑制することで、HRBSを用いた分析装置の検出感度を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】K.Kimura,M.Mannami,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B,113(1996)270-274.
【非特許文献2】K.Kimura,K.Nakajima,H.Imura,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B,140(1998)397-401.
【非特許文献3】H.Hashimoto et al.,Review of Scientific Instruments,82,063301(2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1~3に記載のHRBS及びHERDAを用いた分析装置では、その検出感度が1014個/cm程度であり、検出感度が十分とは言えなかった。
【0008】
例えば、MOSFETなどの半導体デバイスでは、ナノスケールの酸化物を形成する。その酸化物中及び酸化物と半導体との界面における水素は、トランジスタのチャネル移動度に大きな影響を及ぼす。そのため、この水素含有量を定量的に測定したいという要望が高まっている。しかしながら、この水素は、1012個/cmという極めて微量しか存在せず、非特許文献1~3に記載の分析装置の検出感度では正確な定量分析をすることができない。
【0009】
検出感度を高めるという目的だけであれば、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry;SIMS)を用いた分析装置も存在する。しかしながら、SIMSは試料を削りながら測定するため、試料を破壊してしまう。そのため、非破壊で検出感度の高い分析装置が切に求められている。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、試料の表面近傍の状態を非破壊かつ高感度に分析することができる分析装置及び分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、分析装置の検出器としてマイクロチャネルプレートを用いた従来の方法では検出感度に限界があるのではないかと考えた。そこで、位置検出のみが可能なマイクロチャネルプレートに変えて、位置検出に加えてエネルギー分析を行うことが可能な位置敏感半導体検出器を分析装置に用いた。その結果、本発明者らは、検出感度を2桁以上向上させることができるという想定以上の効果が発現することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
(1)本発明の一態様に係る分析装置は、被測定物を設置できる設置部を有するチャンバーと、加速器で発生したイオンビームを前記設置部に向けて導く導管と、前記設置部に設置された前記被測定物に前記イオンビームを照射することにより反跳した反跳粒子に磁場または電場を印加し、前記反跳粒子のエネルギーに対応する方向に前記反跳粒子の進行方向を変化させる分析部と、前記反跳粒子の軌跡と平行な平面に対して垂直な方向に延在し、前記反跳粒子をその進行方向毎に検出可能な検出部を有する位置敏感半導体検出器と、前記位置敏感半導体検出器に接続され、前記位置敏感半導体検出器で生じた電荷をデジタル化して計測する計測器と、を備える。
【0013】
(2)本発明の一態様に係る分析装置は、被測定物を設置できる設置部を有するチャンバーと、加速器で発生したイオンビームを前記設置部に向けて導く導管と、前記設置部に設置された前記被測定物に照射された前記イオンビームのうち散乱した散乱イオンに磁場または電場を印加し、前記散乱イオンのエネルギーに対応する方向に前記散乱イオンの進行方向を変化させる分析部と、前記散乱イオンの軌跡と平行な平面に対して垂直な方向に延在し、前記散乱イオンをその進行方向毎に検出可能な検出部を有する位置敏感半導体検出器と、前記位置敏感半導体検出器に接続され、前記位置敏感半導体検出器で生じた電荷をデジタル化して計測する計測器と、を備える。
【0014】
(3)上記(1)または(2)のいずれかに記載の分析装置において、前記検出部の延在方向かつ前記検出部に前記反跳粒子または前記散乱イオンが衝突する方向に対し垂直な方向に、前記検出部が平行移動する構成を有してもよい。
【0015】
(4)上記(1)または(2)のいずれかに記載の分析装置において、前記検出部の延在方向かつ前記検出部に前記反跳粒子または前記散乱イオンが衝突する方向に対し垂直な方向に、前記検出部が複数並列していてもよい。
【0016】
(5)上記(4)に記載の分析装置において、隣接する前記検出部の間に形成されるスリットの幅dと、隣接する前記検出部のピッチpの比が、d:p=0.5:10~2:10の関係を満たしてもよい。
【0017】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の分析装置において、前記位置敏感半導体検出器に用いられる半導体の不感層の厚みが10nm以上500nm以下であってもよい。
【0018】
(7)上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の分析装置において、前記位置敏感半導体検出器に用いられる半導体が、n型半導体に対しドーパント元素をイオン注入したpn接合型の半導体であってもよい。
【0019】
(8)上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の分析装置において、前記位置敏感半導体検出器に用いられる半導体が、半導体上に金属膜が積層されたショットキーバリア型の半導体であってもよい。
【0020】
(9)上記(1)~(8)のいずれか一つに記載の分析装置において、前記計測器が、前記電荷により生じる電位のピークが所定の閾値を超えている時間を測定することで適切な信号と不適切な信号とを区別してもよい。
【0021】
(10)上記(9)に記載の分析装置において、前記計測器が、前記電荷により生じる電位のピークが所定の閾値を上回るタイミングに同期して前記所定の閾値を増加させる閾値増加手段を備えてもよい。
【0022】
(11)本発明の一態様に係る分析システムは、上記(1)~(10)のいずれか一つに記載の分析装置と、前記分析装置にイオンビームを供給する加速器とを備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様に係る分析装置及び分析システムを用いることで、試料の表面近傍の状態を非破壊かつ高感度に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一態様にかかるHERDAを用いた分析装置を模式的に示した図である。
【図2】本発明の一態様に係る分析装置における位置敏感半導体検出器の第1の例を模式的に示した図である。
【図3】本発明の一態様に係る分析装置における位置敏感半導体検出器の第2の例を模式的に示した図である。
【図4】位置敏感半導体検出器の第2の例を図3のA-A面で切断した断面図である。
【図5】dTOT方式を用いた処理回路の回路図である。
【図6】増加閾値Vrefを増加させるタイミングを説明する説明図である。
【図7】アモルファスカーボン中の水素量を実施例1の方法で測定した結果を示した図である。
【図8】アモルファスカーボン中の水素量を比較例1の方法で測定した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を適用した分析装置及び分析システムについて、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。

【0026】
(分析装置、分析システム:HERDA)
図1は、本発明の一態様に係るHERDAを用いた分析装置を模式的に示した図である。
分析装置100は、チャンバー10と、導管20と、分析部30と、位置敏感半導体検出器40と、計測器50を備える。HERDAでは、静電加速器を用いて加速されたHe16などのビームを試料表面に斜入射(表面から15°程度)で入射し、前方30°程度に反跳した反跳粒子(例えば、プロトン等)の数とエネルギーを測定する。以下、図1を基に各部材の構成と共に、測定原理について説明する。

【0027】
以下、紙面裏面から表面に向けた方向をz方向、位置敏感半導体検出器40に反跳粒子が入射する方向をy方向、z方向及びy方向に垂直な方向をx方向とする。

【0028】
チャンバー10は、被測定物Sを設置できる設置部11を有する。設置部11は、測定中に被測定物Sが移動しないように、チャンバー10のいずれかの場所によって固定されている。チャンバー10の材質は公知のものを用いることができ、例えばステンレス等を用いることができる。

【0029】
使用時は、チャンバー10内は図示略の真空ポンプによって排気されている。真空ポンプは、公知のポンプを用いることができる。

【0030】
チャンバー10は複数の接続部12を有する。接続部12は、公知のフランジ等を用いることができる。この接続部12のいずれかには、導管20が接続されている。

【0031】
導管20は、図視略の加速器で発生したイオンビームをチャンバー10内の設置部11に設置された被測定物Sに導く。導管20は、公知のものを用いることができる。

【0032】
分析部30は、導管20と異なる接続部12を介してチャンバー10と接続される。HERDAを用いた分析装置では、15°程度で斜入射したイオンビームにより前方30°程度に反跳する反跳粒子を検出するため、その角度に合せて分析部30をチャンバー10と接続する。

【0033】
分析部30内は、マグネットにより磁場が印加されている。電場を用いることもできるが、以下では磁場を用いた例で説明する。電荷を有する反跳粒子は、磁場によるローレンツ力を受けて、その進行方向が曲げられ変化する。この際、低エネルギーの反跳粒子は磁場によりその進行方向が大きく曲げられる。これに対し、高エネルギーのは、低エネルギーの反跳粒子と比較して、進行方向の変化が小さい。すなわち、分析部30を通過させることで、反跳粒子が有するエネルギーに対応する方向に反跳粒子の進行方向を変化させることができる。

【0034】
マグネットによる磁場は、図1におけるz方向に印加される。電場を用いる場合は、反跳粒子の進行方向に対して垂直で、z方向ではない方向に電場を印加する。被測定物Sから反跳した反跳粒子は、分析部30のカーブに沿って曲がる。そのため、分析部30のカーブの内回り側から外回り側に向かうに従って、反跳粒子のエネルギーが高エネルギーになる。

【0035】
分析部30では、反跳粒子のエネルギー量に応じて進行方向が変化した反跳粒子だけではなく、迷い粒子も生まれる。迷い粒子とは、分析部30等の壁面に衝突した反跳粒子である。迷い粒子は、壁面に衝突することでその進行方向が変化している。そのため、分析部30を通過後の迷い粒子は、エネルギー量に応じた位置に導かれない。つまり、この迷い粒子は、分析装置におけるノイズの原因の一つとなる。分析装置の検出感度を高めるためには、この迷い粒子を適切に切り分ける必要がある。

【0036】
位置敏感半導体検出器40は、分析部30に接続されている。位置敏感半導体検出器40には、分析部30でその進行方向が変化した反跳粒子が入射する。位置敏感半導体検出器40は、位置敏感かつエネルギー分析を行うことができる検出器である。位置敏感とは、検出器のどの位置に入射粒子(ここでは、反跳粒子)が入射したかを判断できることを意味する。すなわち、位置敏感半導体検出器40は、反跳粒子がどの位置に入射してきたかを判断することができると共に、入射する反跳粒子を適切なものか不適切なものかを入射する反跳粒子のエネルギー量に応じて分別することができる。

【0037】
位置敏感半導体検出器40は、反跳粒子または散乱イオンの軌跡と平行な平面に対して垂直な方向に延在し、反跳粒子または散乱イオンをその進行方向毎に検出可能な検出部を有する。ここで、「反跳粒子または散乱イオンをその進行方向毎に検出可能」とは、反跳粒子または散乱イオンの有するエネルギー量に沿って反跳粒子または散乱イオンを検出できることを意味する。
具体的には例えば、以下の二つのものを上げることができる。図2は、本発明の一態様に係る分析装置における位置敏感半導体検出器の第1の例を模式的に示した図である。図3及び図4は、本発明の一態様に係る分析装置における位置敏感半導体検出器の第2の例を模式的に示した図である。図4は、図3の位置敏感半導体検出器のA-A面における切断面である。

【0038】
図2に示す第1の例の位置敏感半導体検出器41は、z方向に延在する1枚の検出部42と、検出部42をx方向に移動させるスライダ43を有する。検出部42はx方向に平行移動することができればよく、スライダ43は無くてもよい。
検出部42に反跳粒子が入射すると、検出部42において電荷が誘起される。この電荷は計測器50でデジタル化され、一つのピーク強度を有する信号として計測される。

【0039】
位置敏感半導体検出器41に入射する反跳粒子は、分析部30のマグネットにより分析され、x方向の位置毎に有するエネルギー量が異なる。そのため、検出部42をどの位置に配置した際に、どの程度の強度のピークが得られるかは想定することができる。例えば、図2において検出部42を最も左に配置する場合は、検出部42に入射する反跳粒子は分析部30を内回りしてきた反跳粒子が主である。すなわち、低エネルギーの反跳粒子が主として入射する。これに対し、図2において検出部42を右に平行移動するにつれて、検出部42に入射する反跳粒子は高エネルギーとなる。そして、最も右に検出部42を配置した場合に、検出部42に入射する反跳粒子は最も高エネルギーとなる。

【0040】
所定の位置に検出部42を設定した際に、検出部42に入射する反跳粒子は、分析部30で適切に分析された反跳粒子と、壁面等に衝突して迷い粒子となった反跳粒子である。このとき、迷い粒子となった反跳粒子のエネルギー量は、分析部30で適切に分析された反跳粒子のエネルギー量と異なる。そのため、位置敏感半導体検出器41では、分析部30で適切に分析された反跳粒子と、壁面等に衝突して迷い粒子となった反跳粒子を明確に判断することができる。すなわち、迷い粒子となった反跳粒子を計測器50でノイズとして処理することができる。

【0041】
従来の位置敏感のマイクロチャネルプレート等では、粒子が入射したことしか判断できないため、分析部30で適切に分析された反跳粒子と迷い粒子となった反跳粒子とを判別することができなかった。すなわち、所望のデータとノイズは、いずれも同じデータとして計測器50で読み取られ、切り分けることができなかった。これに対し、位置敏感半導体検出器41はどの程度のエネルギーが入射するかを判別することができるため、所望のデータとノイズの切り分けを計測器50で行うことができる。したがって、位置敏感半導体検出器41が、位置敏感かつエネルギー分析を行うことができる検出器であることで、被測定物Sから生じた反跳粒子の数をより高精度に検出することができる。

【0042】
反跳粒子が例えばプロトンの場合、プロトンは、被測定物S中の水素に起因するため、位置敏感半導体検出器41に入射するプロトンの数を高精度に検出することで、被測定物S中の水素量をより精密に定量することができる。

【0043】
第2の例の位置敏感半導体検出器44は、z方向に延在かつ並列する複数の検出部45を有する。検出部45の間には複数のスリット46が設けられている。溝状のスリット46は位置感度を高めるためのものであり、必ずしも必須のものではない。電極のみを複数並列して設置してもよい。スリット46を設ける場合は、図4に示すように、スリット46はその断面において位置敏感半導体検出器44の不感層47をそれぞれ分離できればよく、半導体の厚さ方向全体に渡って貫通している必要はない。不感層47については、後述する。

【0044】
スリット46は、ドライエッチング等を用いて形成することができる。例えば、ドライエッチングによりスリット幅10μm未満、深さ100μm以上の高アスペクト比の溝を形成することができる。

【0045】
位置敏感半導体検出器44は、それぞれ区分けされた複数の検出部45を有する。各検出部45に入射する反跳粒子は、分析部30のマグネットによって分析されているため、位置によりそのエネルギー量が異なる。そのため、各検出部45に入射する反跳粒子のエネルギー量は想定することができる。したがって、第2の例の位置敏感半導体検出器44は、第1の例の位置敏感半導体検出器41と同様に、各検出部45において、分析部30で適切に分析された反跳粒子と、壁面等に衝突して迷い粒子となった反跳粒子を明確に判断することができる。すなわち、位置敏感半導体検出器44は、位置敏感かつエネルギー分析を行うことができる。つまり、位置敏感半導体検出器44に入射する反跳粒子、例えばプロトンの数を高精度に検出し、この例では被測定物S中の水素量をより精密に定量することができる。

【0046】
位置敏感半導体検出器44において、隣接する検出部45の間に形成されるスリット46の幅dと、隣接する検出部45のピッチpの比が、d:p=0.5:10~2:10の関係を満たすことが好ましい。ここで、隣接する検出部45のピッチとは、図4に示すように、一つの検出部45の端部から隣接する検出部45の対応する端部までの距離を意味する。

【0047】
スリット46の幅dと、隣接する検出部45のピッチpが上述の関係を満たせば、位置敏感半導体検出器44の有感面積を広くすることができる。有感面積とは、位置敏感半導体検出器44における検出部45の面積を意味する。有感面積を広くすることができれば、位置敏感半導体検出器44に入射する反跳粒子を高効率で計測することができ、より精密な測定が可能となる。例えば、ピッチpが100μm、スリットの幅dが10μmとすることが好ましい。

【0048】
第1の例の位置敏感半導体検出器41及び第2の例の位置敏感半導体検出器44のいずれにおいても、検出部42,45の不感層47の厚みは、10nm以上100nm以下であることが好ましい。

【0049】
入射した反跳粒子による電荷の誘起は、半導体のpn接合の界面及び半導体と金属を接合した際のショットキー接合の界面で生じる。そのため、不感層47とは、これらの接合界面に至るまでの層を意味する。例えば、pn接合する場合は、n型半導体に形成されたp型半導体が不感層47となる。ショットキー接合する場合は、半導体上に積層された金属層が不感層47となる。

【0050】
HERDAを用いた分析装置において被測定物Sから発生する反跳粒子は、数百keV程度であり、電子線の分野においてはそのエネルギーは小さい。そのため、入射した反跳粒子が電荷を誘起するためには、接合界面までの厚み(すなわち、不感層47の厚み)が薄いことが好ましい。不感層47の厚みは、薄ければ薄い程良いが、制御性の観点から10nm以上であることが好ましい。

【0051】
不感層47は、以下の手段で形成することができる。
pn接合を形成する場合は、n型半導体にドーパント元素を注入し、p型半導体を形成することができる。例えば、n型半導体をSiとし、そこに加えるドーパント元素がボロンとすることができる。

【0052】
ドーパント元素の注入方法としては、熱拡散方法とイオンビームによる注入方法がある。深さの制御性の観点からは、イオンビームによる注入方法であることが好ましい。
ショットキー接合を形成する場合は、半導体上に、スパッタ等で金属膜を積層することができる。膜厚制御性の面及びコストの面から位置敏感半導体検出器41,44に用いる半導体は、ショットキーバリア型の半導体であることが好ましい。

【0053】
上述のように、位置敏感半導体検出器は、位置敏感かつエネルギー分析を行うことができる検出器であるため、迷い粒子を分離しノイズの少ない検出を行うことができる。またこの他にも、マイクロチャネルプレートと比較して、熱揺らぎによる偽シグナルが発生しないという利点も有する。マイクロチャネルプレートは、高電圧を用いた電子倍増方式により入射した反跳粒子を計測する。そのため、熱揺らぎによる偽シグナルが発生しやすい。マイクロチャネルプレートでは、この偽シグナルを除去するために、反跳粒子入射時の2次電子シグナルとのコインシデンスを取るなど、様々な機構が必要となる。これに対し、位置敏感半導体検出器41,44は、バイアス電圧が20V程度と低いため、熱揺らぎによる偽シグナルがそもそも発生せず、容易に高精度の測定を行うことができる。また高電圧による突発的な放電等による故障の恐れもない。

【0054】
図1に戻り、計測器50は、位置敏感半導体検出器40で誘起された電荷からなる電流パルスを電圧パルスに変換する電流電圧変換回路と、電流電圧変換回路からのアナログ信号(電圧パルス)を処理する処理回路とを有する。

【0055】
計測器50において、処理回路でアナログ信号を処理する方法は、第1の例の位置敏感半導体検出器41または第2の例の位置敏感半導体検出器44のいずれを選択するかにより異なる。

【0056】
まず、第1の例の位置敏感半導体検出器41を用いる場合について説明する。
位置敏感半導体検出器41では、検出部42は1つである。そのため、電流電圧変換回路からのアナログ信号(電圧パルス)をデジタル信号に変換するアナログデジタル(AD)コンバータは1つでよい。ADコンバータによって、波高値を求める方式は、フィルター積分方式、デジタル積分法式等を用いることができる。この他にも、TOT(Time over threshold)方式のADコンバータを用いてもよい(国際公開第2011/039819号参照)。これらは信号をADコンバータに入力する前に置かれた増幅器の種類や信号の入力頻度により使い分ける。

【0057】
フィルター積分方式とは、パルスの立ち上がり時間と減衰時間との合計であるパルス波長が数十nsecの電圧パルスを、フィルター(CR積分)により数μsecまで波形整形を行い、この波形整形された電圧パルスが閾値電圧を超えてから一定時間(例えば500nsec)を経過した際にサンプルホールドし、そのピーク値を1回だけAD変換することで電圧パルスの波高値を求める方式である。

【0058】
デジタル積分法式とは、パルスの立ち上がり時間と減衰時間との合計であるパルス波長が数十nsecの電圧パルスを、フィルター(CR積分)により数μsecまで波形整形を行い、この波形整形された電圧パルスが閾値電圧を超えてから一定時間(例えば20nsec)間隔で例えば8回AD変換し、このAD変換することで求められた波高値を全て加算することで電圧パルスの波高値を求める方式である。

【0059】
TOT方式とは、パルスの立ち上がり時間と減衰時間との合計であるパルス波長が数十nsecの電圧パルスを、フィルター(CR積分)により数μsecまで波形整形を行い、この波形整形された電圧パルスが閾値電圧を超えてから同じ閾値電圧に戻るまでのパルス時間幅を測定することで電圧パルスの波高値を求める方式である。

【0060】
第1の例の位置敏感半導体検出器41では、ADコンバータは1つで足る。そのため、制御回路や処理回路が複雑になることはない。したがって、通常のフィルター積分方式、デジタル積分方式を用いて波高値を測定することが好ましい。ただし、位置敏感半導体検出器41は、検出部42を動かしながら測定する必要がある。そのため、1箇所ずつデータを集める必要があり、全てのデータを測定するのに時間はかかる。

【0061】
次いで、第2の例の位置敏感半導体検出器44を用いる場合について説明する。
位置敏感半導体検出器44では、検出部45が複数ある。そのため、複数の検出部45からのデータを並列処理する必要がある。この場合、フィルター積分法式、デジタル積分方式では、オペアンプからなる比較器の数が膨大になる。例えば、全長100mmの位置敏感半導体検出器44の中に100μmピッチで検出部45を並列させる1000チャンネルの検出器を考えると、ADコンバータの入力チャンネル数も1000個必要となる。入力チャンネルが1000個程度あるフィルター積分方式やデジタル積分方式のADコンバータには膨大な比較器が必要で高価であり、場所をとるため、コストがかかる。また処理回路や制御回路が複雑化することも考えられる。

【0062】
そのため、位置敏感半導体検出器44のような多チャンネルの用途では、TOT方式の処理回路を用いることが好ましい。TOT方式では、ADコンバータの各チャンネルに対して比較器が1個で済むため、設備が大掛かりになることを避けることができる。

【0063】
処理回路での測定精度をより高めるためには、dTOT(dinamic Time over threshold)方式を採用する事がより好ましい。dTOT方式とは、電荷により生じる電位のピークが所定の閾値を上回るタイミングに同期して所定の閾値を増加させるTOT方式を変形させた測定方式である。そのため、dTOT方式の処理回路は、電荷により生じる電位のピークが所定の閾値を上回るタイミングに同期して所定の閾値を増加させる閾値増加手段を備える。dTOT方式は、国際公開第2011/039819号で提案されているように核医学診断装置の分野で提案されたものではあるが、HERDAやHRBS等の極表面分析の分野では知られておらず、用いられていた例はない。

【0064】
図5は、dTOT方式を用いた処理回路の回路図である。処理回路51は、比較器52と、基準パルス発生器53と、初期閾値電源54と、抵抗55,56と、コンデンサ57と、カウンタ回路58とを備える。

【0065】
比較器52は、波形整形されたアナログパルスPaと基準電圧に相当する初期閾値Vthまたは増加閾値Vrefとを比較する。基準パルス発生器53は、アナログパルスPaが初期閾値Vthよりも大きいときに、所定の時間に亘って所定の波高値の基準パルスPmを発生させるパルス発生器である。初期閾値電源54は、基準電圧に相当する初期閾値Vthを比較器52に出力する。抵抗55は、初期閾値電源54と比較器52との間に接続される。コンデンサ57と抵抗56は、増加閾値Vrefの増加に用いられる。カウンタ回路58は、比較器52から出力されるデジタルパルスPdの波高値を計測する。ここで、コンデンサ57及び抵抗56が閾値増加手段に相当する。

【0066】
比較器52は、信号入力(プラス側)端子に与えられる電圧パルスが基準電圧入力(マイナス側)に設定される所定の閾値を超えると出力をONし、その電圧パルスが基準電圧として設定される所定の閾値を下回ると出力をOFFする。すなわち、アナログパルスPaが基準電圧として設定される初期閾値Vthを上回るときに、比較器52はデジタルパルスPdの出力をONする。そして、アナログパルスPaがピーク値を過ぎて減衰しながら基準電圧として設定される増加閾値Vrefを下回るときに、比較器52は出力をOFFする。比較器52は、デジタルパルスPdを基準パルス発生器53とカウンタ回路58に出力する。

【0067】
初期閾値Vthは、一定の電圧値である。また、初期閾値Vthは低い電圧値であることが好ましい。これは、電圧パルスは波高値が高いほど初期閾値Vthを上回るまでの時間が短く、波高値が低いほど初期閾値Vthを上回るまでの時間が長いからである。その結果、仮に異なる波高値の電圧パルスを同時に計測したとすると、初期閾値Vthを上回るタイミングは波高値が高い電圧パルスの方が早い。そこで、初期閾値Vthをできるだけ低く設定すれば、この立ち上がりのタイミングのばらつきを抑えることができる。

【0068】
基準パルス発生器53は、デジタルパルスPdがONするときの立ち上がりをトリガーとして、所定の時間幅および所定の波高値の基準パルスPmを発生させる。この基準パルス発生器53は、コンデンサ59および抵抗60を有するワンショットマルチバイブレータ回路(単安定マルチバイブレータ回路)で構成される。基準パルスPmはコンデンサ57および抵抗56に与えられる。基準パルス発生器53は、基準パルスPmのONからOFFまでの間に他のパルスが入力されても他の基準パルスPmを出力しない。基準パルスPmの所定の時間幅は、基準パルス発生器53を構成するコンデンサ59の容量と抵抗60の値の積により定まる時定数によって決まる。基準パルスPmの所定の波高値は、固定の電圧値である。基準パルスPmがOFFのときの波高値は、初期閾値Vthと同じ電圧値である。

【0069】
基準パルスPmがコンデンサ57に印加される間、コンデンサ57は電荷を蓄積する。電荷の蓄積によりコンデンサ57は比較器52に設定される基準電圧を上昇させる。これにより、コンデンサ57は基準パルスPmの所定の時間幅に亘り増加閾値Vrefを増加させる。コンデンサ57の容量と抵抗56の値との積により定まる時定数は、増加閾値Vrefが増加する時間、すなわち基準パルスPmの所定の時間幅に合わせて設定する。

【0070】
このように、基準パルスPmを抵抗56およびコンデンサ57を介して比較器52の基準電圧としてフィードバックさせると、増加閾値Vrefは初期閾値Vthを超えてからの時間とともに上昇する。増加閾値Vrefの電圧値は、Vm×(1-exp(-t/τ))によって定まる。ここで、Vmは基準パルスPmの波高値である。tは増加閾値Vrefが初期閾値Vthを超えてから時間である。τはコンデンサ11の容量と抵抗12の値との積によって定まる時定数である。増加閾値Vrefは、tの値が大きくなるに従って指数関数的に増加して波高値Vmに漸近する。時定数τが大きくなるに従って波高値Vrefに近づくまでの時間が長くなり、時定数τが小さくなるに従って波高値Vrefに近づくまでの時間が短くなる。よって、基準電圧Pmのパルス時間幅Tmの範囲内で、コンデンサ57と抵抗56との組み合わせによって、時定数τを自由に設定できる。

【0071】
カウンタ回路58は、デジタルパルスPdのパルス時間幅を計測することにより、パルスの波高値を計測する。すなわち、カウンタ回路58は、デジタルパルスPdの立ち上がりに同期してカウンターパルスを発生させるとともに、デジタルパルスPdの立ち下がりに同期してカウンターパルスを停止させる。そして、この間に計数されるパルスのカウント数に応じてアナログパルスPaの波高値が計測される。

【0072】
このように、dToTの回路は通常のToT同様、比較器が1個とシンプルなため、約10ミリメートル角のサイズの特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit; ASIC)に数十チャンネルのADコンバータを容易に作りこむことができ、多データの並列処理に適する。

【0073】
次に、図6を参照して、増加閾値Vrefを増加させるタイミングを説明する。図6は、縦軸をパルス波高値とし横軸をパルス時間幅とするタイミングチャートである。Pa1,Pa2,Pa3は比較器52に入力されるアナログパルスである。Pd1,Pd2,Pd3は比較器52から出力されるデジタルパルスである。Wtot1,Wtot2,Wtot3はPd1,Pd2,Pd3のパルス幅である。Pmは基準パルス発生器53から出力される基準パルスである。Tmは基準パルスPmのパルス幅であり、Vmは基準パルスPmの波高値である。増加閾値Vrefは基準パルスの波高値Vmに近づくように増加する。

【0074】
アナログパルスPa1が初期閾値Vthを上回るタイミングに同期してデジタルパルスPd1は立ち上がり、アナログパルスPa1が増加閾値Vrefを下回るタイミングに同期してデジタルパルスPd1は立ち下がる。デジタルパルスPd1の立ち上がりをトリガーとして基準パルスPmは立ち上がり、所定の時間Tmを経過後基準パルスPmは立ち下がる。基準パルスPmの立ち上がりに同期して増加閾値Vrefは増加する。増加閾値VrefはアナログパルスPa1とのクロスポイント電位Vcp1を超えた後も増加し、基準パルスPmの立ち下がりに同期して初期閾値Vthまで減衰する。Pa2,Pa3についてもPa1と同様であるため説明を省略する。

【0075】
アナログパルスPa1,Pa2,Pa3と初期閾値Vthとのクロスポイント電位Vcp1´,Vcp2´,Vcp3´は、近い時間内に発生するが、クロスポイント電位Vcp1,Vcp2,Vcp3は、Vcp1´,Vcp2´,Vcp3´に比べて時間の間隔が十分広い。そして、パルス時間幅Wtot1,Wtot2,Wtot3は、アナログパルスPa1,Pa2,Pa3のパルス波高値に対応して十分に差が出ている。
すなわち、TOT方式と比較してdTOT方式を用いることで、パルスの時間幅を波高値に精密に変換することができる。

【0076】
第2の例の半導体検出器44は、第1の例の半導体検出器41と異なり、データを並列処理する。そのため、より高速でデータの処理を行うことができる。またdTOT方式を用いることで、装置が大掛かりになることを避け、かつ精密な計測を行うことができる。

【0077】
(分析装置、分析システム:HRBS)
本発明のHRBSを用いた測定装置は、被測定物を設置できる設置部を有するチャンバーと、加速器で発生したイオンビームを設置部に向けて導く導管と、設置部に設置された被測定物に照射されたイオンビームのうち散乱した散乱イオンに磁場を印加し、散乱イオンのエネルギーに対応する方向に散乱イオンの進行方向を変化させる分析部と、前記散乱イオンの軌跡と平行な平面に対して垂直な方向に延在する検出部を有する位置敏感半導体検出器と、位置敏感半導体検出器に接続され、位置敏感半導体検出器で生じた電荷をデジタル化して計測する計測器と、を備える。

【0078】
分析部で分離されるもの及び位置敏感半導体検出器で検出されるものが、反跳粒子から散乱イオンに変化したこと以外は、上述のHERDAを用いた分析装置100と同様である。

【0079】
そのため、HRBSを用いた分析装置とHERDAを用いた分析装置とで、構成上の違いはほとんどない。HRBSを用いた分析装置とHERDAを用いた分析装置100との構成上の違いは、図1においてチャンバー10と分析部30の接続をより導管20に近い接続部12を介して行う点である。

【0080】
この異なる接続部12を用いるのは、HERDAが被測定物Sから弾き出された反跳粒子を計測するのに対して、HRBSが被測定物Sによって弾性散乱した散乱イオンを計測するためである。HRBSでは導管20から入射したイオンビームが被測定物Sによって後方散乱されるため、分析部30はHERDAの場合と比較して導管20側に接続される。
その他の構成は、上述のHERDAを用いた分析装置100と同様の構成を用いることができるため、説明を省く。

【0081】
本発明の分析装置(HERDAを用いた分析装置及びHRBSを用いた分析装置)は、位置敏感かつエネルギー分析を行うことができる位置敏感半導体検出器を有する。そのため、従来の分析装置に比べて、検出精度を2桁も高めることができる。その結果、HERDAを用いた分析装置では試料中の軽元素の定量分析、HRBSを用いた分析装置では試料中の元素の組成分析をより精密に行うことができる。例えば、MOSFETなどの半導体デバイスの酸化物中及び酸化物と半導体との界面における水素等の非常に微量な水素の含有も定量化することができる。また鉄鋼中の水素の量を測定することで、鉄鋼の脆性を計測することもできる。この他、燃料電池の汚染等の確認も行うことができる。

【0082】
(分析システム)
本発明の分析システムは、上述の分析装置と、分析装置にイオンビームを供給する加速器とを備える。イオンビームは、加速器から分析装置の導管に供給される。
加速器は、1MV程度のエネルギーを出力することができる加速器であれば特に問わない。例えば、公知のタンデム型加速器等を用いることができる。
本発明の分析システムは、上述の分析装置を有するため、試料の表面近傍の状態を非破壊かつ高感度に分析することができる。

【0083】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
図1に示す構成の分析装置を準備した。水素を含んだアモルファスカーボンを被測定物として、設置部に設置した。この水素含有アモルファスカーボンに対して、加速器により500keVの16をイオンビームとして照射した。
そして、アモルファスカーボンからイオンビームにより弾き出されたプロトンを半導体検出器で検出した。このとき分析部は、入射口から射出口に至るまで90°カーブする90°マグネットを用いた。半導体検出器は、図2にしめす第1の半導体検出器を用いた。検出部は、幅1mm×長さ8mmとし、幅方向に平行移動させて21回、検出を行った。その結果を、図7に示す。図7において、縦軸は水素シグナルのカウント数であり、横軸は水素のエネルギー強度である。
【実施例】
【0086】
(比較例1)
比較例1は、実施例1の分析装置と比較して、半導体検出器をマイクロチャネルプレートに変更した点のみが異なる。その他の構成及び測定条件は同じとした。測定結果を図8に示す。図8において、縦軸は水素シグナルのカウント数であり、横軸は水素の入射した幅方向の位置である。
【実施例】
【0087】
図7及び図8に示すように、実施例1では水素シグナルとノイズの強度比が1000:1であるのに対し、比較例1では水素シグナルとノイズの強度比が10:1である。すなわち、同条件で分析を行った場合、実施例1の分析装置は比較例1の分析装置に対して2桁感度が高いことが確認できる。
【実施例】
【0088】
図7と図8において横軸が異なるのは、比較例1はエネルギー分析能を有さず、位置分析しかできないためである。いずれでも、カウント数がゼロ付近で検出されているものがノイズである。
【符号の説明】
【0089】
10…チャンバー、11…設置部、12…接続部、20…導管、30…分析部、40…半導体検出器、41…第1の半導体検出器、42…検出部、43…スライダ、44…第2の半導体検出器、45…検出部、46…スリット、47…不感層、48…半導体、50…計測器、51…処理回路、52…比較器、53…基準パルス発生器、54…初期閾値電源、55,56,60…抵抗、57,59…コンデンサ、58…カウンタ回路、100…分析装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7