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明細書 :神経分化促進剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6194517号 (P6194517)
登録日 平成29年8月25日(2017.8.25)
発行日 平成29年9月13日(2017.9.13)
発明の名称または考案の名称 神経分化促進剤
国際特許分類 C12N   5/0797      (2010.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  25/14        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 5/0797
C12N 15/00 ZNAA
C12N 15/00 G
A61K 45/00
A61K 48/00
A61K 31/7088
A61K 31/7105
A61P 25/00
A61P 25/14
A61P 25/28
C12N 5/10
請求項の数または発明の数 7
全頁数 25
出願番号 特願2014-512727 (P2014-512727)
出願日 平成25年4月26日(2013.4.26)
国際出願番号 PCT/JP2013/062490
国際公開番号 WO2013/162027
国際公開日 平成25年10月31日(2013.10.31)
優先権出願番号 2012103875
優先日 平成24年4月27日(2012.4.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年4月25日(2016.4.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
発明者または考案者 【氏名】金田 勇人
【氏名】岡野 栄之
【氏名】島崎 琢也
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査官 【審査官】飯室 里美
参考文献・文献 特表2011-530484(JP,A)
NEW L, et al.,,SB203580 Promote EGF-Stimulated Early Morphological Differentiation in PC12 Cell Through Activating,J Cell Biochem,,2001年,Vol.83, No.4,,p.585-596
HORIUCHI H, et al.,,Continuous intrathecal infusion of SB203580, a selective inhibitor of p38 mitogen-activated protein,Neurosci Res,,2003年,Vol.47, No.2,,p.209-217
GU, P, et al.,,p38 signal-transduction pathway mediates the differentiation of mesencephalic neural stem cells indu,Journal of Clinical Rehabilitative Tissue Engineering Research,,2007年,Vol. 11, No. 37,,p.7329-7332
調査した分野 C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
(1) miR-17、miR-106a及びmiR-106bからなる群から選択されるmiRNA;
(2) (1)のmiRNAの前駆体;或いは
(3) (1)のmiRNA又は(2)の前駆体を発現し得る発現ベクター
を含む、神経幹細胞の神経分化促進剤。
【請求項2】
神経幹細胞がグリア新生型である、請求項記載の剤。
【請求項3】
神経幹細胞が神経新生型である、請求項記載の剤。
【請求項4】
神経幹細胞を、
(1) miR-17、miR-106a及びmiR-106bからなる群から選択されるmiRNA;
(2) (1)のmiRNAの前駆体;或いは
(3) (1)のmiRNA又は(2)の前駆体を発現し得る発現ベクター
存在下で培養することを含む、神経幹細胞の神経分化促進方法。
【請求項5】
神経幹細胞がグリア新生型である、請求項記載の方法。
【請求項6】
神経幹細胞が神経新生型である、請求項記載の方法。
【請求項7】
(1) miR-17、miR-106a及びmiR-106bからなる群から選択されるmiRNA;
(2) (1)のmiRNAの前駆体;或いは
(3) (1)のmiRNA又は(2)の前駆体を発現し得る発現ベクター
を含む、神経幹細胞の神経分化を促進することが必要とされる障害の予防又は治療剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、神経幹細胞の神経分化を促進するための剤、及び神経幹細胞の神経分化を促進するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)の傷害及び疾患は、現代医学において新たな注目を集めている。誘導多能性幹細胞(iPSC)技術に代表される幹細胞生物学の最近の進歩は、移植医療及び個別化された薬のスクリーニングのための革新的な供給源として幹細胞に着目している。多分化能を持つ神経幹細胞(NSCs)は、CNS内の全ての型の神経細胞を生じるが、これはいまやiPSCsから容易に得ることができる。しかしながら、NSCsから均一な標的細胞集団を特異的且つ効率的に誘導することは、NSC発生及び分化を制御する複雑なメカニズムのため、依然として困難なままである。従って、NSCsから特定の細胞型を生みだす手段を更に同定することが、治療応用を容易にするために希求されている。
【0003】
本発明者らは、NSC分化を司る分子メカニズムを研究するために、近年開発した胚性幹細胞(ESC)由来ニューロスフェア培養系を用いている(非特許文献1、特許文献1)。NSCsは、神経細胞及びグリア細胞へ分化する多能性を有しているが、脊椎動物のCNS発生の過程では、神経分化がグリア分化よりも大幅に先んじる。この神経分化からグリア分化へのスイッチは、NSCsの時期特異性の遷移(temporal identity transition)を要する(非特許文献2)。重要なことに、本発明者らが開発したニューロスフェア培養系は、この経時的遷移を含むインビボでの神経発生を再現することができる。この系を用いて、本発明者らはCoup-tfI 及び II(Coup-tfs;Nr2f1及びNr2f2としても知られる。)が、NSCsの時期特異性遷移の決定的な分子スイッチとして作用することを以前見出した(非特許文献1、特許文献1)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】WO2010/018652
【0005】

【非特許文献1】Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008)
【非特許文献2】Nat. Neurosci. 9, 743-751 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本研究の目的は、NSCsのコンピテンス変化に関与する分子メカニズムを解明し、神経幹細胞から神経細胞への分化の効率を向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するべく、鋭意検討したところ、マイクロRNA-17 (miR-17)/106-p38経路が神経幹細胞の神経新生型からグリア新生型への遷移のエフェクターであることを同定した。miR-17の過剰発現によってグリア分化コンピテンスの獲得が阻害され、通常グリア新生型NSCとなる時期まで発生段階を進行させたNSCにおいて、グリアマーカー遺伝子のプロモーターのエピジェネティック状態の変化を伴うことなく、神経幹細胞の神経分化能が回復した。更にmiR-17/106の直接的な標的がp38であることを同定した。p38阻害による神経分化能の回復はマウスとヒトのNSCにおいて達成された。これらの知見に基づき、更に検討を重ねた結果、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]p38阻害剤を含む、神経幹細胞の神経分化促進剤。
[2]神経幹細胞がグリア新生型である、[1]記載の剤。
[3]神経幹細胞が神経新生型である、[1]記載の剤。
[4]p38阻害剤が、p38をコードするDNA又はmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/又は翻訳を阻害する核酸、当該核酸の発現ベクター、又は低分子p38阻害剤である、[1]~[3]のいずれかに記載の剤。
[5]核酸が、p38を標的とするsiRNA、miRNA又はその前駆体、或いはアンチセンス核酸である、[4]記載の剤。
[6]核酸が、miR-17、miR-106a、miR-106b、又はそれらのmiRNAの前駆体である、[5]記載の剤。
[7]p38阻害剤が、SB203580である、[4]記載の剤。
[8]神経幹細胞をp38阻害剤存在下で培養することを含む、神経幹細胞の神経分化促進方法。
[9]神経幹細胞がグリア新生型である、[8]記載の方法。
[10]神経幹細胞が神経新生型である、[8]記載の方法。
[11]p38阻害剤が、p38をコードするDNA又はmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/又は翻訳を阻害する核酸、当該核酸の発現ベクター、又は低分子p38阻害剤である、[8]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]核酸が、p38を標的とするsiRNA、miRNA又はその前駆体、或いはアンチセンス核酸である、[11]記載の方法。
[13]核酸が、miR-17、miR-106a、miR-106b、又はそれらのmiRNAの前駆体である、[12]記載の方法。
[14]p38阻害剤が、SB203580である、[11]に記載の方法。
[15]グリア新生型神経幹細胞をp38阻害剤存在下で培養することを含む、グリア新生型神経幹細胞の神経新生型神経幹細胞への変換方法。
[16]哺乳動物に対して、有効量のp38阻害剤を投与することを含む、当該哺乳動物における神経幹細胞の神経分化の促進方法。
[17]p38阻害剤を含む、神経幹細胞の神経分化を促進することが必要とされる障害の予防又は治療剤。
[18]哺乳動物に対して、有効量のp38阻害剤を投与することを含む、当該哺乳動物における神経幹細胞の神経分化を促進することが必要とされる障害の予防又は治療方法。
[19]神経幹細胞の神経分化を促進することが必要とされる障害の予防又は治療において使用するための、p38阻害剤。
[20]神経幹細胞の神経分化を促進することが必要とされる障害の予防又は治療剤の製造のための、p38阻害剤の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、p38抑制という新たなメカニズムにより、神経幹細胞から神経細胞への分化を促進することができる。これはグリア新生型神経幹細胞に神経分化コンピテンスを回復させることによるもので、排他的に神経分化を誘導出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】初期(p0)ニューロスフェア段階において、マイクロRNA及びGFPを発現するレンチウイルスに感染したNSCsに由来する、分化したp2ニューロスフェアの代表的な免疫組織染色イメージを示す。miR-LacZマイクロRNAをコントロールとして用いた。ニューロスフェアをβIII‐チュブリン、GFAP及びGFPに対する抗体で免疫染色した。スケールバー、50 μm。グラフは、p2ニューロスフェアから分化したウイルス感染細胞中のβIII‐チュブリン陽性(βIII‐チュブリン+)神経細胞のパーセンテージを示す(t test, n (≧ 100個) = 3, *P < 0.05 及び ***P < 0.001)。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図2】miR-17-92、miR-106b-25及びmiR-106a-363クラスターによりコードされるマイクロRNAの配列比較。miR-17中の対応するヌクレオチドと同一のヌクレオチドを網掛けで示す。
【図3】miR-17過剰発現p2ニューロスフェアの免疫組織染色イメージを示す。miR-17過剰発現p2ニューロスフェアは、LIF (10 ng/ml) 及び BMP2 (100 ng/ml)に反応してグリア分化を生じない。グラフは、p2ニューロスフェアから分化したウイルス感染細胞中のβIII‐チュブリン陽性(βIII‐チュブリン+)神経細胞のパーセンテージを示す (t test, n (≧ 100個) = 3, ***P < 0.001)。スケールバー, 50 μm。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図4】GfapプロモーターのCpGメチル化状態をビスルファイトシークエンシングにより解析した結果を示す。矢印で示すSTAT3-結合配列におけるCpG部位を含めて、 Gfapプロモーター上の10個のCpG配列のメチル化頻度を調べた。グラフは、Gfapプロモーター全体(左グラフ)及びSTAT3結合領域(右グラフ)におけるメチル化されたCpGシトシンのパーセンテージを示す(t test, n (≧ 10クローン) = 3, NS (有意でない), P> 0.05)。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図5】Coup-tfsをノックダウンし、さらにmiR-17を抑制したp0ニューロスフェアから分化した細胞の免疫組織染色イメージを示す。βIIIチュブリン陽性神経細胞の減少及び増加したGFAP免疫染色により評価した場合、TuD-miR-17の過剰発現(GFP陽性細胞)は、Coup-tfs ノックダウンp2ニューロスフェアにおける神経細胞分化亢進作用を解消し、アストロサイトへの分化を回復した。グラフは、神経細胞の細胞数のパーセンテージを示す(t test, n (≧ 100個) = 3, **, *P < 0.05)。スケールバー、50 μm。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図6】TuD-miR-17を過剰発現したp0ニューロスフェアをグリア分化誘導因子存在下で分化した細胞の免疫組織染色イメージを示す。TuD-miR-17の過剰発現は、p0ニューロスフェアから、LIF及びBMP2の存在下において、早発性のグリア分化を生じた。グラフは、アストロサイトの細胞数のパーセンテージを示す(t test, n (≧ 100 cells) = 3, *P < 0.05)。スケールバー、50 μm。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図7】特異的ロックド核酸(LNA)プローブによるin situハイブリダゼーションにより調べた、E11.5及びp0におけるmiR-17 及び miR-106bの発現を示す。スケールバー、300 μm。
【図8】miR-LacZ 又は miR-17の過剰発現のためのレンチウイルスを脳室内注入したマウスの大脳皮質切片の免疫組織染色イメージ。miR-LacZ 又は miR-17の過剰発現のためのレンチウイルスをE10.5のマウス胚の脳室内へ子宮内注入し、P30の大脳皮質における感染細胞の細胞系譜を調べた(t test, n (≧ 250 個, ≧ 3つの独立した切片) = 3個の独立した胚, **P < 0.01 及び ***P < 0.001)。神経細胞の核をNeuNに対する抗体で染色した。矢頭は非神経細胞を示し、これにはGFAP陽性アストロサイトが含まれる。ほとんどのGFAP陰性非神経細胞(‘Others’)は、未成熟なアストロサイトのようであった。より高倍率の矢印で示した細胞のイメージを挿入図として示す。スケールバー、50 μm。
【図9】SB203580で処理したp2ニューロスフェアから分化した細胞の免疫組織染色イメージ。p38阻害剤SB203580を増殖の間処理することにより、p2ニューロスフェアから分化した神経細胞のパーセンテージが増加した(t test, n (≧ 150個) = 3, *P < 0.05)。スケールバー、50 μm。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図10】p38特異的shRNAを導入したp2ニューロスフェアから分化した細胞の免疫組織染色イメージ。レンチウイルス感染により導入されたp38特異的shRNAは、p2ニューロスフェアの神経分化能を増加させた(t test, n (≧ 100個) = 3, *P < 0.05)。スケールバー、50 μm。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図11】miR-17及びmiR-17類抵抗性p38 mRNAを過剰発現したp2ニューロスフェアから分化した細胞の免疫組織染色イメージ。p2ニューロスフェアにおいて、miR-17とmiR-17類抵抗性p38 mRNA(タンパク質産物としてN末端3× HA-タグ化p38を生じる)の同時過剰発現が、神経細胞分化を亢進するという過剰発現miR-17の効果を除去した。ここで、外来的にp38を発現するほとんどの前駆細胞は、再びアストロサイトになるよう運命づけられた(t test, n (≧ 150個) = 3, *P < 0.05)。矢印はGFP、HAタグ化p38及びGFAP三重陽性アストロサイトを示す。矢頭はGFP及びβIIIチュブリン二重陽性神経細胞を示す。スケールバー、50 μm。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図12】p38を過剰発現したp0ニューロスフェアからグリア分化誘導因子存在下で分化した細胞の免疫組織染色イメージ。HAタグ化p38の過剰発現が、LIF及びBMP2存在下において、p0ニューロスフェアから早発性のグリア分化を生じた(t test, n (≧ 100個) = 3, *P < 0.05)。スケールバー、50 μm。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図13】miR-17を過剰発現したp3ニューロスフェアから分化した細胞の免疫組織染色イメージ。miR-17の過剰発現は、マウスp3ニューロスフェアにおいて神経分化能を回復した(t test, n (≧ 100個) = 3, ***P < 0.001)。スケールバー、50 μm。
【図14】GfapプロモーターのCpGメチル化状態をビスルファイトシークエンシングにより解析した結果を示す。グラフは、Gfapプロモーター全体(左グラフ)及びSTAT3結合領域(右グラフ)におけるメチル化されたCpGシトシンのパーセンテージを示す(t-test, n (≧ 10クローン) = 3, NS, P > 0.05)。
【図15】SB203580により処置されたヒトニューロスフェアから分化した細胞の免疫組織染色イメージ。ヒトニューロスフェアのp38阻害剤であるSB203580による処置により、ニューロスフェアから分化した神経細胞のパーセンテージが増加した(t-test, n (≧ 150個) = 3, *P < 0.05)。スケールバー、50 μm。
【図16】p38を過剰発現したヒトニューロスフェアからグリア分化誘導因子存在下で分化した細胞の免疫組織染色イメージ。ヒトニューロスフェアにおけるHAタグ化p38の過剰発現により、LIF及びBMP2存在下においてニューロスフェアから分化したアストロサイトのパーセンテージが増加した(t test, n (≧ 100 個) = 3, *P < 0.05)。スケールバー、50 μm。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図17】miR-17がマウスp38 mRNAの3’非翻訳領域(UTR)内の結合部位へ結合することを示すグラフ。miR-17とp38 mRNAの3’UTR中の結合部位との直接的な相互作用を確認するため、レポーターアッセイを行った。p38 mRNAの3’UTR中のmiR-17結合部位(「Mp38sensor」と称する;NM_011951の2970-2992)をDsRed-Express2 reporter systemの哺乳動物発現ベクター中へクローニングした。HEK293細胞の形質転換後で、安定的形質転換体にmiR-LacZ又はmiR-17を発現するレンチウイスルを導入した。1週間後、細胞内におけるDsRed-Express2の発現レベルをFACSにて解析した。miR-17の強制発現により、miR-LacZと比較して、Mp38sensorに連結したDsRed-Express2の低下が生じた。(t-test, n (≧ 3000 個) = 3, **P < 0.01)。バー及びエラーバーは、各条件についての平均値+s.e.mを示す。
【図18】ウェスタンブロッティングによるp38発現の比較の結果を示す図である。p0、p1およびp2ニューロスフェアにおけるp38の発現レベルを抗p38抗体(Cell Signaling Technology 9212)により調べた。miR-17は、p2ステージにおいて、p38発現を抑制した(t-test, n = 3, NS (有意でない) p > 0.05, *p < 0.05 及び ** p < 0.01; p1 *p = 0.0281, p2 **p = 0.0063, p2 miR-LacZ *p = 0.0243, p2 miR-17 p = 0.9704, *p =0.0393)。
【図19】発生中のマウス前脳においてp38がグリア新生能の獲得を制御することを示す結果である。p38の過剰発現により、VZ及びSVZにおいて、異常な早期GFAPタンパク質発現を有する細胞クラスターが生じた(t-test、n(≧100細胞)=5個の独立した胚、*p<0.05;*p=0.0284)(左図)。矢印で示す細胞の高倍率イメージを右図に示す。左右の図において、最上段の写真はGFP又はHAを、上から2段目の写真はGFAPを、上から三段目の写真は、GFAPと、GFP又はHAとの重ね合わせを示す。左図の最下段は、ヘキスト染色を示す。スケールバー:50μm。右下のグラフにおいて、バー及びエラーバーは、平均値±s.e.mを示す。
【図20】発生中のマウス前脳においてp38がグリア新生能の獲得を制御することを示す結果である。図の上段の写真は、Acsbg1とGFPとの重ね合わせを、下段の写真は、ヘキスト染色を示す。p38のshRNA媒介ノックダウンにより、VZ及びSVZにおけるAcsbg1発現アストロサイトの百分率が減少した(t-test、n(≧100細胞)=5個の独立した胚、*p<0.05;*p=0.0158)。スケールバー:50μm。グラフにおいて、バー及びエラーバーは、平均値±s.e.mを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、p38阻害剤を含む、神経幹細胞の神経分化促進剤を提供するものである。

【0012】
p38阻害剤とは、p38の発現又は機能を抑制する物質を意味する。

【0013】
p38は、Mapk14(mitogen-activated protein kinase 14)とも呼ばれるMAPキナーゼファミリーの一員であり、サイトカインによる刺激や紫外線照射、熱・浸透圧ストレスなどによって活性化される公知のプロテインキナーゼである。

【0014】
本明細書中、p38は通常、哺乳動物由来のものを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。p38は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。

【0015】
本明細書中、ポリペプチドやポリヌクレオチド等の因子について、「生物X由来」とは、該ポリペプチド又はポリヌクレオチドが、生物Xにおいて天然に発現しているポリペプチド又はポリヌクレオチドと同一又は実質同一のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列を含むことを意味する。「実質的に同一」とは、着目したアミノ酸配列又は核酸配列が、生物Xにおいて天然に発現している因子のアミノ酸配列又は核酸配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上)の同一性を有しており、且つ当該タンパク質の活性が維持されていることを意味する。

【0016】
p38のアミノ酸配列やヌクレオチド配列は公知である。ヒトp38及びマウスp38の代表的なアミノ酸配列及びそれをコードするポリヌクレオチド配列(cDNA又はmRNA配列)は以下の通りである。尚、かっこ内は、NCBIが提供するGENBANKのアクセッション番号を示す。
[ヒトp38]
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_001306(バージョンNP_001306.1)(配列番号2)
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号 NM_001315(バージョンNM_001315.2)(配列番号1)
[マウスp38]
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_001161980(バージョンNP_001161980.1)(配列番号4)
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号 NM_001168508(バージョンNM_001168508.1)(配列番号3)

【0017】
なお、本明細書においてヌクレオチド配列は、特にことわりのない限りDNAの配列として記載するが、ポリヌクレオチドがRNAである場合は、チミン(T)をウラシル(U)に適宜読み替えるものとする。

【0018】
p38の機能としては、ATF2、MEF2C、MAX、CDC25B、p53等の基質タンパク質中のセリン又はスレオニンのリン酸化を挙げることが出来る。

【0019】
p38阻害剤としては、例えば、p38をコードするDNA又はmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/又は翻訳を阻害する核酸、当該核酸の発現ベクター、低分子化合物等が挙げられる。

【0020】
p38をコードするDNA又はmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/又は翻訳を阻害する核酸には、p38を標的とするsiRNA、マイクロRNA(miRNA)又はその前駆体、アンチセンス核酸等が挙げられる。

【0021】
p38を標的とするsiRNAとしては、例えば
(A)p38をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は18塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含むRNA、及び
(B)p38をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と対象動物(好ましくはヒト又はマウス)の細胞内で特異的にハイブリダイズし得る18塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズすることによりp38の転写及び/又は翻訳を抑制するRNAを挙げることができる。

【0022】
本明細書中、「特異的なハイブリダイゼーション」とは、核酸が、標的とするヌクレオチドに対して、それ以外のヌクレオチドよりも強くハイブリダイズすることを意味する。

【0023】
p38をコードするmRNAのヌクレオチド配列としては、例えば、配列番号1で表されるヌクレオチド配列(ヒトp38)、配列番号3で表されるヌクレオチド配列(マウスp38)を挙げることが出来る。

【0024】
短い二本鎖RNA等のsiRNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。

【0025】
siRNAは、代表的には、標的遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列又はその部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)と相補的な配列を有するRNAとその相補鎖からなる2本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列に相補的な配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と2本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)もsiRNAの好ましい態様の1つである。

【0026】
siRNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さは、通常、約18塩基以上、好ましくは19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。siRNAが23塩基よりも長い場合には、該siRNAは細胞内で分解されて、約20塩基前後のsiRNAを生じ得るので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さの上限は、標的遺伝子のmRNA(成熟mRNAもしくは初期転写産物)のヌクレオチド配列の全長である。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、該相補部分の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、該相補部分の長さは、通常、約18~50塩基、好ましくは約19~約25塩基、より好ましくは約21~約23塩基である。

【0027】
また、siRNAを構成する各RNA鎖の長さも、通常、約18塩基以上、好ましくは19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されず、理論的には各RNA鎖の長さの上限はない。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、siRNAの長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、各RNA鎖の長さは、例えば通常、約18~50塩基、好ましくは約19~約25塩基、より好ましくは約21~約23塩基である。なお、shRNAの長さは、2本鎖構造をとった場合の2本鎖部分の長さとして示すものとする。

【0028】
標的ヌクレオチド配列と、siRNAに含まれるそれに相補的な配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異(少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)については、完全にRNA干渉による切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存し得る。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNA干渉によるmRNAの切断活性が極度に低下し得る。

【0029】
siRNAは、5’及び/又は3’末端に塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、siRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り特に限定されないが、通常5塩基以下、例えば2~4塩基である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。

【0030】
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されないが、通常、5~25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。

【0031】
p38を標的とするmiRNAとしては、p38をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列の7塩基長の部分配列に相補的なヌクレオチド配列をシード配列として含み、且つp38の転写及び/又は翻訳を阻害するmiRNAを挙げることができる。

【0032】
miRNAは、代表的には成熟miRNAと呼ばれているものを意味する。成熟miRNAは、ゲノム上にコードされた内在性の20~25塩基程度の非コード(non-coding)RNAである。miRNAは、ゲノムDNA上のmiRNA遺伝子から、まず数百~数千塩基程度の長さの一次転写物(Primary miRNA。以下「Pri-miRNA」という)として転写され、次にプロセッシングを受けて約60~70塩基程度のヘアピン構造を有するpre-miRNA(precusor miRNA)となる。その後、核から細胞質内へ移動し、さらにプロセッシングを受けて20~25塩基程度の二本鎖成熟miRNAとなる。二本鎖成熟miRNAは、そのうちの一本鎖がRISCと呼ばれるタンパク質と複合体を形成し、標的遺伝子のmRNAに作用することで、標的遺伝子の翻訳を阻害する働きをすることが知られている。

【0033】
尚、本明細書においては、用語「miRNA」は、内在性のmiRNAのみならず、内在性のmiRNAと同一のヌクレオチド配列からなる合成核酸をも包含する概念として使用する。

【0034】
シード配列とは成熟miRNAの5’末端の2~8番目の残基のヌクレオチド配列を意味し、このシード配列がmiRNAのターゲットとなるmRNAを決定することが知られている。

【0035】
p38を標的とするmiRNAは、p38をコードするmRNAのヌクレオチド配列(例えば配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列)に基づいて、当該mRNA配列の部分配列(好ましくは、当該mRNAの3’UTRのヌクレオチド配列の部分配列)に完全に相補的なシード配列を有するmiRNAを検索し、検索されたmiRNAをp38発現細胞内へ導入し、p38の発現を抑制したmiRNAを選択することにより得ることができる。このような標的配列に基づくmiRNAの検索は、TargetScan、PicTar、miRanda等の標的予測プログラムに基づき実施することが出来る。

【0036】
p38を標的とするmiRNAの具体例としては、miR-17、miR-106a、miR-106b等を挙げることができるが、これらに限定されない。miR-17、miR-106a及びmiR-106bには、これらのmiRNAのisomerも含まれる。miR-17、miR-106a及びmiR-106bの代表的なヌクレオチド配列を、それぞれ配列番号5、6及び7に示す。

【0037】
また、配列番号5、6又は7で表されるヌクレオチド配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含み、且つp38をコードするmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/又は翻訳を阻害する核酸も、p38を標的とするmiRNAに包含される。

【0038】
「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのヌクレオチド配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全ヌクレオチド残基に対する、同一ヌクレオチド残基の割合(%)を意味する。

【0039】
本明細書において、ヌクレオチド配列における同一性は、例えば相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST-2(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(ギャップオープン=5ペナルティ;ギャップエクステンション=2ペナルティ;x_ドロップオフ=50;期待値=10;フィルタリング=ON)にて2つのヌクレオチド配列をアラインすることにより、計算することができる。

【0040】
配列番号5、6又は7で表されるヌクレオチド配列と85%以上の同一性を有するヌクレオチド配列としては、配列番号5、6又は7で表されるヌクレオチド配列において1~3個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入または付加されたヌクレオチド配列、例えば、(1)配列番号5、6又は7で表されるヌクレオチド配列中の1~3個(好ましくは1または2個)のヌクレオチドが欠失したヌクレオチド配列、(2)配列番号5、6又は7で表されるヌクレオチド配列に1~3個(好ましくは1または2個)のヌクレオチドが付加されたヌクレオチド配列、(3)配列番号5、6又は7で表されるヌクレオチド配列に1~3個(好ましくは1または2個)のヌクレオチドが挿入されたヌクレオチド酸配列、(4)配列番号5、6又は7で表されるヌクレオチド配列中の1~3個(好ましくは1または2個)のヌクレオチドが他のヌクレオチドで置換されたヌクレオチド配列、または(5)上記(1)~(4)の変異が組み合わせれたヌクレオチド配列(この場合、変異したヌクレオチドの総和が1~3個、好ましくは1または2個))である。

【0041】
配列番号5、6又は7で表されるヌクレオチド配列と85%以上の同一性を有するヌクレオチド配列においては、好ましくは、miR-17、miR-106a及びmiR-106bに共通するシード配列が維持される。

【0042】
miRNAの前駆体とは、細胞内のプロセシングや、2本鎖核酸の開裂の結果、細胞内において成熟型miRNAを生じ得る核酸を意味する。該前駆体としては、pri-miRNAやpre-miRNA等を挙げることができる。pri-miRNAはmiRNA遺伝子の一次転写産物(1本鎖RNA)であり、通常数百~数千塩基程度の長さを有する。pre-miRNAは、pri-miRNAが細胞内プロセシングを受けることにより生じるヘアピン構造を有する1本鎖RNAであり、通常90~110塩基の長さを有する。miRNAのpri-miRNAやpre-miRNAは、例えばサンガー研究所が作成しているmiRBaseデータベース:http://microrna.sanger.ac.uk/等に、そのヌクレオチド配列が開示されている。

【0043】
本発明において用いるsiRNA、miRNA及びその前駆体には、少なくとも一部にRNAを含み、RNA干渉によりp38の転写及び/又は翻訳を抑制する核酸が包含される。そのような核酸としては、RNA、RNAとDNAのキメラ核酸(以下、キメラ核酸と称する)またはハイブリッド核酸である。ここにおいて、キメラ核酸とは、1本鎖又は2本鎖の核酸において一本の核酸の中にRNAとDNAを含むことをいい、ハイブリッド核酸とは、二本鎖において、一方の鎖がRNAまたはキメラ核酸でもう一方の鎖がDNAまたはキメラ核酸である核酸をいう。

【0044】
本発明において用いるsiRNA、miRNA及びその前駆体は、1本鎖または2本鎖である。2本鎖の態様には、2本鎖RNA、2本鎖キメラ核酸、RNA/DNAハイブリッド、RNA/キメラ核酸ハイブリッド、キメラ核酸/キメラ核酸ハイブリッドおよびキメラ核酸/DNAハイブリッドが含まれる。本発明の核酸は、好ましくは1本鎖RNA、1本鎖キメラ核酸、2本鎖RNA、2本鎖キメラ核酸、RNA/DNAハイブリッド、RNA/キメラ核酸ハイブリッド、キメラ核酸/キメラ核酸ハイブリッドまたはキメラ核酸/DNAハイブリッドであり、より好ましくは1本鎖RNA、1本鎖キメラ核酸、2本鎖RNA、2本鎖キメラ核酸、RNA/DNAハイブリッド、キメラ核酸/キメラ核酸ハイブリッド、RNA/キメラ核酸ハイブリッドまたは天然核酸と同等の分子を含んで構成される人工核酸等である。

【0045】
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)を発現する細胞の生理学的条件下で該標的mRNAと特異的にハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNAにコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。

【0046】
p38の発現を特異的に抑制し得るアンチセンス核酸としては、例えば
(A)p38をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は12塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む核酸、及び
(B)p38をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内で特異的にハイブリダイズし得る12塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態でp38ポリペプチドへの翻訳を阻害し得る核酸等を挙げることが出来る。

【0047】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、p38の発現を特異的に抑制する限り特に制限はなく、通常、約12塩基以上であり、長いものでmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列と同一の長さである。ハイブリダイゼーションの特異性を考慮すると、該長さは好ましくは約15塩基以上、より好ましくは18塩基以上である。また、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、通常、約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、例えば約12~約200塩基、好ましくは約15~約50塩基、より好ましくは約18~約30塩基である。

【0048】
アンチセンス核酸の標的ヌクレオチド配列は、p38の発現を特異的に抑制可能であれば特に制限はなく、p38のmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列であっても部分配列(例えば約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上)であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよい。

【0049】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分のヌクレオチド配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、生理的条件下でp38のmRNAとハイブリダイズし得るために、標的配列の相補配列に対して通常約90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)の同一性を有するものである。

【0050】
アンチセンス核酸の大きさは、通常約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。該大きさは、合成の容易さや抗原性の問題等から、通常約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。

【0051】
さらに、アンチセンス核酸は、p38のmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるp38遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、p38への転写を阻害し得るものであってもよい。

【0052】
天然型の核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明において使用されるsiRNA、miRNA又はその前駆体及びアンチセンス核酸は、前記分解酵素に抵抗性となるように修飾し、修飾体としてもよい。修飾体における修飾の例としては、例えば、糖鎖部分が修飾されているもの(例えば、2’-Oメチル化)、塩基部分が修飾されているもの、リン酸部分やヒドロキシル部分が修飾されているもの(例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等)を挙げることができるが、これに限定されない。

【0053】
p38を標的とするsiRNA及びアンチセンス核酸は、p38のmRNA配列(例えば配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列)や染色体DNA配列に基づいて標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的なヌクレオチド配列を合成することにより調製できる。siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90~約95℃で約1分程度変性させた後、約30~約70℃で約1~約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い2本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。

【0054】
p38を標的とするマイクロRNAは、p38のmRNA配列(例えば配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列)に基づいて、当該mRNA配列の部分配列に相補的なシード配列を有するマイクロRNAを検索し、検索されたマイクロRNAをDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて調製し、p38発現細胞内へ導入し、実際にp38の発現を抑制するマイクロRNAを選択することにより得ることができる。

【0055】
本発明の神経分化促進剤は、p38をコードするDNA又はmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/翻訳を阻害する核酸を発現し得る(コードする)発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターにおいては、p38をコードするDNA又はmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/翻訳を阻害する核酸或いはそれをコードする核酸(好ましくはDNA)が、適用対象である哺乳動物(好ましくはヒト又はマウス)の細胞(例えば、神経幹細胞)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。

【0056】
使用されるプロモーターは、適用対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β-アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。

【0057】
siRNA又はマイクロRNAの発現を意図する場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用するのが一般的である。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。

【0058】
上記発現ベクターは、好ましくは上述のポリヌクレオチド又はそれをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)や蛍光タンパク質遺伝子(GFP、RFP、YFP等)をさらに含有することもできる。

【0059】
本発明において発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、プラスミドベクター;レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスやレンチウイルスの使用もまた好ましい。

【0060】
低分子p38阻害剤としては、特に限定されないが、ピリジニルイミダゾール類、置換ピラゾール類、置換ピリジル類、キナゾリン誘導体、アリール尿素類、ヘテロアリールアナログ、置換イミダゾール化合物、および置換トリアゾール化合物が挙げられる。

【0061】
現在までに、p38阻害のために多数の化合物が提案されている。p38阻害のために提案された化合物には、ピリジニルイミダゾール類が含まれる。Young P.R.ら(1997)J.Biol.Chem.272、12116-12121頁;また、Bender,P.E.(1985)J.Med.Chem.28、1169-1177頁を参照されたい。p38を阻害し得るピリジニルイミダゾール類の例としては、6-(4’-フルオロフェニル)-5-(4’-ピリジル)-2,3-ジヒドロイミダゾ(2,1-b)-チアゾールおよびその代謝物(スルホキシド、スルホン)、アナログ、断片、および模倣物が挙げられる。さらに、ピリジニルイミダゾール類の最小構造である4-(ピリジン-4-イル)-5-フェニルイミダゾールが、p38を阻害するためには十分であり得ることが提案されている。Gallagher,TFら(1997)Bio-org.Med.Chem.5、49-64頁を参照されたい。

【0062】
特定の1,5-ジアリール置換ピラゾール化合物もまた、p38阻害剤として提案されている。このような置換ピラゾール化合物が、米国特許出願第6,509,361号に開示されている。p38を阻害するさらなるピラゾール誘導体が、米国特許出願第6,335,336号に開示されている。

【0063】
他のp38阻害剤としては、米国特許出願公開第2003/0139462号に開示されているものなどの置換ピリジルが挙げられる。

【0064】
さらなるp38阻害剤は、米国特許出願第6,610,688号に開示されたものである。

【0065】
キナゾリン誘導体もまた、p38阻害剤として機能し得る。p38阻害剤であるキナゾリン誘導体の例は、米国特許出願第6,541,477号、第6,184,226号、第6,509,363号および第6,635,644号に開示されている。

【0066】
アリール尿素類およびヘテロアリールアナログもまた、p38阻害剤として機能し得る。p38阻害剤であるアリール尿素類およびヘテロアリールアナログの例は、米国特許出願第6,344,476号に開示されている。国際公開第99/32110号は、p38阻害剤として、ヘテロ環式尿素類を記載している。国際公開第99/32463号は、p38キナーゼを阻害する尿素化合物を記載している。国際公開第98/52558号は、p38キナーゼ阻害のための尿素化合物を記載している。国際公開第99/00357号は、p38キナーゼ阻害剤としての尿素化合物の使用法を記載している。国際公開第99/58502号は、p38キナーゼ阻害剤としての尿素化合物を記載している。

【0067】
置換イミダゾール化合物および置換トリアゾール化合物もまた、p38阻害剤として機能し得る。このような化合物は、米国特許出願第6,560,871号および第6,599,910号にそれぞれ開示されている。

【0068】
さらなるp38阻害剤としては、RWJ-67657(RW Johnson Pharmaceutical Research Institute);RDP-58(Sangstat Medical社);RDP-58;Scios-469(Scios社);MKK3/MKK6インヒビター(Signal Research Division);SB-210313アナログ、SB-220025、SB-238039、HEP-689、SB-203580、SB-239063、SB-239065、SB-242235(SmithKline Beecham Phrmaceuticals);VX-702およびVX-745(Vertex Phrmaceuticals社);AMG-548(Amgen社);Astex p38キナーゼインヒビター(Bayer社);BIRB-796(Boehringer Ingelheim Phrmaceuticals社);Celltech p38 MAPキナーゼインヒビター(CeltechGroup plc.);FR-167653(Fujisawa Pharmaceutical社);681323およびSB-281832(GlaxoSmithKline plc);LEO PharmaceuticalsのMAPキナーゼインヒビター(LEO PhrmaA/S);Merck&Co.p38 MAPキナーゼインヒビター(Merck research Laboratories);SC-040およびSC-XX906(Monsanto社);NovartisアデノシンA3アンタゴニスト類(Novartis AG);p38 MAPキナーゼインヒビター(NovartisPharma AG);CP-64131(Pfizer社);CNI-1493(Picower Institute for Medical Research);RPR-200765A(Phone-Poulenc Rorer社);およびRoche p38 MAPキナーゼインヒビターおよびRo-320-1195(Roche Bioscience)が挙げられる。

【0069】
一形態において、低分子p38阻害剤は、SB203580である。

【0070】
本発明の神経分化促進剤は、p38阻害剤に加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。

【0071】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム-グリコール-スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。

【0072】
p38阻害剤として、p38をコードするDNA又はmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/翻訳を阻害する核酸、又はその発現ベクターを用いる場合、核酸の細胞内への導入を促進するために、本発明の神経分化促進剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。また、核酸導入試薬としては、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、リポフェクタミンRNAiMAX(LipofectamineRNAiMAX)、インビボフェクタミン(Invivofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。また、発現ベクターとしてレトロウイルスを用いる場合には、導入試薬としてレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。

【0073】
本発明の剤の投与単位形態としては、液剤、錠剤、丸剤、飲用液剤、散剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、エキス剤、細粒剤、シロップ剤、浸剤、煎剤、点眼剤、トローチ剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、眼軟膏剤、硬膏剤、カプセル剤、坐剤、浣腸剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、貼付剤、軟膏剤、ゼリー剤、パスタ剤、吸入剤、クリーム剤、スプレー剤、点鼻剤、エアゾール剤などが例示される。

【0074】
医薬組成物中のp38阻害剤の含有量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、例えば、医薬組成物全体の約0.01ないし100重量%である。

【0075】
本発明の剤は、神経幹細胞の神経分化を促進するために用いられる。本明細書において、神経幹細胞とは、神経細胞、アストロサイト (astrocyte)およびオリゴデンドロサイト(oligodendrocyte)を含む、中枢神経系を構成する全ての型の細胞に分化しうる能力(神経多能性)を有し、かつ自己複製能力を有する細胞をいう。受精卵、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞等の多能性幹細胞から生じた神経幹細胞は、多分化能を維持しつつ、経時的に外来からの分化誘導刺激に対する応答性を変化させる。具体的には、初期の神経幹細胞は、神経分化シグナル(neurogenic signal)に応答し、神経細胞へ分化する神経分化応答能が優性であり、グリア分化シグナル(gliogenic signal)に応答し、アストロサイトへ分化するグリア分化応答能が劣性である。しかし、分化段階の進行に伴って、神経分化応答能が消失し、グリア分化応答能が獲得されて、神経分化応答能が劣性で、グリア分化応答能が優性な後期の神経幹細胞へと移行する。本発明は、このように神経分化応答能がグリア分化応答能よりも優性な神経幹細胞(神経新生型(neurogenic)神経幹細胞)から、神経分化応答能よりもグリア分化応答能が優勢な神経幹細胞(グリア新生型(gliogenic)神経幹細胞)への遷移にp38が関与すること、具体的には、p38が神経幹細胞のグリア分化応答能の獲得に関与しており、初期の神経幹細胞においてはこのp38の発現がmiR-17等のマイクロRNAにより抑制されているとの知見に基づきなされたものである。

【0076】
本明細書において、神経幹細胞の神経分化促進とは、神経幹細胞の神経分化応答能を増加させ、グリア分化応答能を減少させること、またはその結果神経幹細胞から神経細胞への分化を亢進することを意味する。一態様において、本発明において用いられる神経幹細胞はグリア新生型である。グリア新生型神経幹細胞に対してp38阻害剤を適用することにより、神経分化応答能が増加し、グリア分化応答能が抑制される結果、グリア新生型神経幹細胞から神経新生型神経幹細胞への変換が起こる。一態様において、本発明において用いられる神経幹細胞は神経新生型である。神経新生型神経幹細胞に対してp38阻害剤を適用することにより、神経分化応答能の低下、及びグリア分化応答能の獲得の両方が抑制され、神経新生型の段階が維持される。本発明においては、これらのいずれの態様も、神経幹細胞の神経分化促進に包含される。

【0077】
神経幹細胞が神経新生型及びグリア新生型のいずれであるかは、評価対象の神経幹細胞をNat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008)に記載された方法によりグリア分化誘導因子であるLIF及びBMP2の存在下で培養したときに、神経細胞とアストロサイトのいずれを多く生じるかを調べることにより評価することが出来る。培養の結果、神経細胞よりもアストロサイトの数が上回る場合、該神経幹細胞はグリア新生型であると判定し、そうでない場合には該神経幹細胞は神経新生型であると判定することが出来る。

【0078】
本発明においては、神経幹細胞は、in vivoに存在する細胞でも、in vitroにある細胞でも構わない。従って、本発明の神経分化促進剤は、in vivoでの医薬としても、in vitroでの実験用試薬としても使用できる。

【0079】
神経幹細胞は、in vivoでは、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物(例、マウス)において、胚期/胎仔期の大脳皮質や成体の海馬や側脳室に存在するので、p38阻害剤(又は本発明の神経分化促進剤)を、生体内の神経組織内の神経幹細胞に送達されるように、哺乳動物個体に投与し、生体内で神経幹細胞の神経分化を促進することができる。

【0080】
医薬の対象となる疾患は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物において、神経幹細胞の神経分化を促進することが必要とされる障害であれば特に限定されないが、そのような障害の例として、脳梗塞や外傷性脳損傷、脳虚血、ハンチントン病、アルツハイマー病、老化による機能不全等の中枢神経系における神経系疾患や神経損傷が挙げられる。

【0081】
本発明の神経分化促進剤は、その使用に際し各種形態に応じた方法で投与される。例えば、外用剤の場合には、皮膚ないしは粘膜などの所要部位に直接噴霧、貼付または塗布され、錠剤、丸剤、飲用液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の場合には経口投与され、注射剤の場合には静脈内、脳内、筋肉内、皮内、皮下、関節腔内もしくは腹腔内投与され、坐剤の場合には直腸内投与される。

【0082】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg~約2.0gである。

【0083】
また、本発明の神経分化促進剤をin vitroにおいて使用する場合、神経幹細胞をp38阻害剤(又は本発明の神経分化促進剤)存在下で培養することにより、当該神経幹細胞の神経分化を促進することができる。本発明は、このような神経幹細胞の神経分化促進方法をも提供する。

【0084】
培養状態にある神経幹細胞は、生体内にある神経幹細胞を単離して培養してもよいが、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞を神経幹細胞に分化させて、調製してもよい。ES細胞の神経幹細胞への分化誘導方法は、特開2002-291469号公開公報等に、詳細に開示されている。その方法は、iPS細胞等の他の多能性幹細胞にも適用可能である。

【0085】
神経幹細胞への分化誘導の際、多能性幹細胞に対し、神経系への分化能力を高めるため、予め胚様体(embryoid body;EB)を形成させて、そのEBを特定の培養条件下で神経幹細胞に分化させることが好ましい。EBは、ES細胞またはiPS細胞を、例えば、レチノイン酸やノギン(Noggin)タンパク質存在下で培養することにより形成させることができる。レチノイン酸の場合、低濃度レベル(10-9 M~10-6 M)で培地に添加すればよい。ノギンタンパク質の場合、アフリカツメガエル・ノギンを哺乳類培養細胞に導入し、一過性にノギンタンパク質を発現させた培養上清をそのまま(1~50%(v/v))使用してもよいし、組換えノギンタンパク質(最終濃度1 μg/ml程度)を用いてもよい。

【0086】
こうして得られたEBを解離して、FGF-2(通常、10~100 ng/ml)を添加した無血清培地で浮遊培養することによって、ニューロスフェアの形で神経幹細胞を得ることができる。無血清培地としては、神経幹細胞や神経細胞の培養に通常用いられる無血清培地であれば特に限定されないが、例えば、上記成分の他にグルコース、グルタミン、インスリン、トランスフェリン、プロジェステロン、プトレシン、塩化セレン、ヘパリン等を添加したDMEM培地を例示することができる。このニューロスフェア形成に用いる培地には、ソニックヘッジホッグタンパク質(通常、1~20 nM)を添加してもよい。ソニックヘッジホッグタンパク質の添加により、神経幹細胞の神経前駆細胞への分化誘導効率及び増殖効率が向上するので、その後の分化培養による神経細胞への分化効率が高まる。培養は5%CO2条件下、35~40℃で、約7~9日間行うのが好ましい。

【0087】
この時、EBに直接由来するニューロスフェアを一次ニューロスフェアと称し、この一次ニューロスフェアを分離及び分散し、同じ条件下で培養することにより再度形成させたニューロスフェアを二次ニューロスフェアと称する。以降、培養条件下で、一度でも継代されたニューロスフェアは二次ニューロスフェアと称する。通常、一次ニューロスフェアに含まれる神経幹細胞は神経新生型である。また、二次ニューロスフェアに含まれる神経幹細胞は、一次ニューロスフェアに含まれる神経幹細胞と比較して、通常、神経分化応答能は低く、グリア分化応答能が高い。一態様において、二次ニューロスフェアに含まれる神経幹細胞は、グリア新生型である。

【0088】
こうして得られた神経幹細胞を含むニューロスフェアを、神経細胞分化条件下で培養すると、当該神経幹細胞の神経細胞への分化が誘導されるが、ニューロスフェアの段階でp38阻害剤(又は本発明の神経分化促進剤)を添加することにより、神経分化が促進される。p38阻害剤として、p38をコードするDNA又はmRNAに生理学的条件下でハイブリダイズし、それによってその転写及び/翻訳を阻害する核酸、又はその発現ベクターを用いる場合、核酸の細胞内への導入を促進するために、核酸導入用試薬を用いてもよい。神経細胞分化条件としては、特に限定されないが、例えば、FGF-2等のマイトジェンを含まない培地中での培養等を挙げることが出来る。当該培地としては、マイトジェンを含まないことを除き、神経幹細胞や神経細胞の培養に用いることのできる通常の培地を使用することができる。例えば、グルコース、グルタミン、インスリン、トランスフェリン、プロジェステロン、プトレシン、塩化セレンを含むDMEM:F12培地等が例示される。ソニックヘッジホッグタンパク質は存在しても、存在しなくてもよい。その他の神経細胞分化条件としては、例えばNat Biotechnol. 21, 183-186 (2003)等に記載されたものを例示することができ、当業者であれば、種々の神経細胞分化条件を容易に構築することができる。神経細胞への分化培養は、5%CO2条件下、35~40℃で、5~7日間行うのが好ましい。ニューロスフェアとして一次ニューロスフェアを使用した場合、そこに含まれる神経新生型神経幹細胞に対してp38阻害剤が作用することにより、神経分化応答能の低下、及びグリア分化応答能の獲得の両方が抑制され、神経幹細胞の神経新生型の段階が維持されるので、その結果、神経幹細胞から神経細胞への分化が亢進する。ニューロスフェアとして二次ニューロスフェアを使用した場合、そこに含まれるグリア分化応答能を有する神経幹細胞(好ましくはグリア新生型神経幹細胞)に対してp38阻害剤が作用することにより、細胞における神経分化応答能が増加し、グリア分化応答能が抑制される結果、神経新生型神経幹細胞への分化能の回復が起こるので、その結果、神経幹細胞から神経細胞への分化が亢進する。

【0089】
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。

【0090】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
<材料及び方法>
細胞培養及びニューロスフェア分化アッセイ
マウスESC(EB3)培養、EB形成、ニューロスフェア形成及びニューロスフェアの分化は、既述の通りに行った(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))。ヒトNSCsを、上皮増殖因子(EGF)無しで、既述の通りに増殖させ(J. Neurosci. Res. 69, 869-879 (2002);J. Neurosci. Res. 87, 307-317 (2009))、マウスニューロスフェアのために用いるものと同様の手順で、マイトジェン不在下で14日間に亘り基質被覆カバースリップ上で分化させた。
【実施例】
【0092】
レンチウイルス調製
レンチウイルス粒子を、着目する遺伝子のレンチウイルス発現コンストラクトを、ウイルス複製のために必要な2つのレンチウイルスコンストラクト(pCMV-VSV-G-RSV-Rev 及びpCAG-HIVgp)と共に293Tヒト胚性腎細胞へ一過性にトランスフェクトすることにより産生した。トランスフェクションは、製造者の指示書に従って、GeneJuice (Novagen)を用いて行った。ウイルス粒子は、超遠心分離により回収し、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁した。高力価のウイルス懸濁液を使用し、約5の感染多重度という効率的なNSCの感染を得た。
【実施例】
【0093】
動物及び子宮内ウイルス感染
試験は、ICR系のマウスを用いて行った。動物ケア及び処置の全ての事柄は、慶応大学医学部の実験動物委員会のガイドラインに従って行った。レンチウイルス粒子のE10.5 ICRマウス脳への子宮内微注入は、インビボ超音波リアルタイムスキャナー(Vevo660; VisualSonics)によりガイドされた。
【実施例】
【0094】
免疫染色
免疫細胞化学及び免疫組織化学は、βIII-チュブリン、NeuN(神経細胞マーカー)、グリア繊維性酸性タンパク質(GFAP、アストロサイトマーカー)、及びヘムアグルチニン(HA)に対する抗体を用いて、既述の通り行った(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))。
【実施例】
【0095】
プロテオミクス解析
iTRAQ法を用いた定量的プロテオミクス解析を、miR-LacZ及びmiR-17類を過剰発現したp0及びp2ニューロスフェアについて製造者の指示書に従って、AB SCIEX TripleTOF 5600 System (AB SCIEX) を用いて、行った。
【実施例】
【0096】
統計学的解析
各統計学的解析について、少なくとも3回の独立した試験を実施した。統計学的有意差は、両側t検定により決定した。試験を通じて、P<0.05を有意差ありとした。【0097】
<結果>
Coup-tf類の下流で作用する遺伝子の同定
本発明者らは、本試験を、Coup-tf類の下流の候補遺伝子を同定することから始めた。Coup-tf類の直接的なDNA結合部位を、クロマチン免疫沈降シークエンシング(ChIP-seq)を用いて検討し、全般的遺伝子発現及びマイクロRNA発現プロファイルを、マイクロアレイ解析により、コントロールとCoup-tf類ノックダウンマウスニューロスフェアとの間で比較した(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))。得られたデータに基づき、候補遺伝子を獲得し、この候補遺伝子の過剰発現及びノックダウンのためのレンチウイルスライブラリーを構築した。次に、本発明者らは、既述(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))のように、ニューロスフェア培養系を用いて候補遺伝子の機能的スクリーニングを行った。そして最終的に、Coup-tf類の下流のエフェクターとしてmiR-17-92マイクロRNA遺伝子クラスターを同定した。
【実施例】
【0098】
miR-17-92クラスターは、OncomiR-1と呼ばれる、発癌性マイクロRNAのクラスターとして最初に同定され、多様な臓器の発生に関与する(Nature 435, 828-833 (2005);Cell 133, 217-222 (2008);Cell 132, 875-886 (2008))。マイクロアレイ解析によると、この遺伝子クラスターの発現は、2回継代した(p2)Coup-tf類ノックダウンニューロスフェアにおいて、コントロールニューロスフェアよりも、3.58倍高かった。通常、p2ニューロスフェア中の細胞の大部分はアストロサイトへ分化し、20%未満が神経細胞になる。しかしながら、miR-17-92クラスターの過剰発現により、それらはほとんど独占的に、長いβIIIチュブリン陽性突起の生成とともに、神経細胞へと分化した(図1)。
【実施例】
【0099】
miR-17-92クラスターは、異なる6つのマイクロRNA(miR-17、18a、19a、20a、19b及び92a、それらのスター(*)鎖とともに)をコードしている。この6つのマイクロRNAのいずれが神経細胞亢進作用を担っているのか調べるため、それらマイクロRNAのそれぞれを個別にNSCs中で過剰発現させた。これは、マイクロRNA及び緑色蛍光遺伝子(GFP)を発現するレンチウイルスによりNSCsを感染させることにより行った。6つのマイクロRNAのうち、miR-17のみが、インタクトなmiR-17-92クラスターにより誘導される表現型を再現した(図1)。miR-17及びmiR-20aのヌクレオチド配列は高度に相同的であり、標的mRNAへの結合に必須な、同一の7-merシード配列(ヌクレオチド2-8、図2)を共有している。従って、これらの2つのマイクロRNAの標的mRNAは、高度にオーバーラップした配列を有すると推測される(Cancer Res. 68, 8191-8194 (2008))。しかしながら、miR-20aの過剰発現は、神経細胞亢進作用を示さなかった(図1)。
【実施例】
【0100】
miR-17は、高い相同性及び同一のシード配列を有する2つの追加的なパラログ、miR-106b及びmiR-106aを有する。これらは、それぞれthe miR-106b-25クラスター及びand miR-106a-363クラスターにコードされている(Cancer Res. 68, 8191-8194 (2008))。これらのパラログをNSCs中で過剰発現させて、いずれが又は両方が神経分化からグリア分化へのスイッチに影響するか、調べた。両方のマイクロRNAとも、過剰発現により神経細胞表現型を導いたが、miR-106aよりもmiR-106bの効果の方が強力だった(図1)。従って、本実施例の記載においてmiR-17、miR-106a 及びmiR-106bをまとめて「miR-17類」と称することとした。
【実施例】
【0101】
以前示したように、Coup-tf類をノックダウンすることにより、p2ニューロスフェア段階においても見出される、早期出生神経細胞の亜集団であるIslet-1 (Isl-1)発現神経細胞の持続的生成がもたらされた(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))。特に、miR-17類はCoup-tf類の下流のエフェクターとして同定されたにもかかわらず、miR-17類の過剰発現により、Isl-1陽性神経細胞の細胞分化は生じなかった。その代わりに、候補遺伝子スクリーニングの過程で、Isl-1陽性細胞産生の陽性レギュレーターとして、Onecut 2が同定された。これらの結果から、NSCsにおける神経分化からグリア分化への遷移と特定の神経細胞型への特異化の両方がCoup-tf類の下流であるが、独立して制御されていることが示唆された。
【実施例】
【0102】
発生初期型神経新生型NSCsから発生後期型グリア新生型NSCsへの遷移は、NSCsのグリア分化誘導サイトカインへの反応性の変化により識別することができる(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))。LIF及びBMP2は、周知の外因性のグリア分化誘導因子であり、発生後期型NSCsのみにおいてJAK-STAT経路及びBMPシグナリングをそれぞれ活性化することにより、グリア分化を促進する(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 95, 3178-3181 (1998);Science 284, 479-482 (1999);Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98, 5868-5873 (2001))。LIFは、発生初期型NSCsにおいては、グリアマーカー遺伝子のプロモーター中のSTAT3結合領域がDNAメチル化によりエピジェネティックに発現抑制されている(epigenetically silenced)ので、グリア分化誘導因子としては作用しない(Dev. Cell 1, 749-758 (2001))。BMPシグナリングは、その一部は、発生初期型NSCsにおいては、グリア分化よりもむしろ神経分化を促進する(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98, 5868-5873 (2001);J. Neurosci. 18, 8853-8862 (1998))。そこで、miR-17がNSCsのグリア分化誘導サイトカインへの反応性を変化させたかどうか調べるため、miR-17過剰発現NSCsを分化過程でLIF及びBMP2に曝露した。miR-17過剰発現ニューロスフェアは、これらのサイトカインに対して強く抵抗性であり、p2段階においてさえ、排他的に神経細胞へ分化した(図3)。
【実施例】
【0103】
本発明者らは、次にGfapプロモーター中のSTAT3結合部位とその周辺のCpG部位の経時的に制御されたDNAメチル化状態について検討した。Gfapは、アストロサイトの最も一般的なマーカー遺伝子である。しかしながら、miR-17の過剰発現後も、p2ニューロスフェア段階においてCpGメチル化の頻度に有意な変化は認められなかった(図4)。Coup-tf類は、胎生中期の発生中のNSCsにおいて一過性に発現が上昇する。このときより後、NSCsはその可塑性を失い、発生後期以降に産生される神経細胞亜型及びグリア細胞のみを産生する。ESC由来ニューロスフェアにおいてCoup-tf類をノックダウンすると、Gfapプロモーターの早期エピジェネティック状態が維持されるので(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))、本発明者らは、当初、NSCコンピテンスの変化を担う分子自体(例、miR-17類)の発現が、神経細胞又はグリア分化関連遺伝子のエピジェネティックな状態の変化に収斂することを予想していた。しかしながら、今回の結果は、Coup-tf類により制御されたコンピテンシー遷移において、miR-17類が他の段階で機能することを示唆する。細胞型特異的遺伝子のエピジェネティック状態の変化は、細胞分化のコントロールのための1つの必要条件に過ぎないのかもしれない。
【実施例】
【0104】
NSCsの神経分化コンピテンスの決定因子としてのmiR-17類
miR-17類がCoup-tf類の下流エフェクターであることを確実にするため、本発明者らは、次にいわゆる「タフデコイ(TuD)」RNAとよばれる、特定の標的マイクロRNAを強力かつ安定的に抑制するRNAデコイ(Nucleic Acids Res 37, e43 (2009))を用いた試験を実施した。miR-17特異的TuD、miR-17*特異的TuD(それぞれ、TuD-miR-17 及び TuD-miR-17*)、又はコントロールTuD-miR-LacZを発現するレンチウイルスベクターを構築した。
【実施例】
【0105】
この一連の試験では、p0段階からCoup-tf類特異的短鎖ヘアピンRNA(shRNA)を用いてCoup-tf類を発現抑制した(silenced)ニューロスフェアを使用した(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))。この発現抑制された(silenced)ニューロスフェアは、miR-17が過剰発現されたニューロスフェアであるので、神経分化からグリア分化へスイッチが阻害されている。予想通り、TuD-miR-17発現は、p2段階でCoup-tf類ノックダウンにより誘導された神経分化亢進作用を解除したが(図5)、TuD-miR-17*及びTud-miR-LacZは、有意な効果を有していなかった。更に、p0ニューロスフェアは、グリア分化サイトカインの存在下でさえも、かろうじてグリアに分化する程度であるが、TuD-miR-17(しかしながら、TuD-miR-17*ではない)の強制発現により、LIF及びBMP2の存在下のみであるが、早発性のグリア分化が誘導された(図6)。これらの結果は、miR-17類が、NSCsの神経分化コンピテンスを担っており、少なくとも一部はそれらの作用はCoup-tf類の下流に位置することを明確に示している。
【実施例】
【0106】
CNSの発生におけるmiR-17類の機能
インビボにおけるmiR-17類の機能的役割を調べるための最初のステップとして、本発明者らは発生中のCNSにおけるその発現パターンを検討した。マイクロアレイデータによると、miR-17及びmiR-106bの発現レベルは、p0ニューロスフェアよりも、p2ニューロスフェアにおいて、それぞれ、0.18倍及び0.28倍低かった。これらのデータから予想されたように、miR-17及びmiR-106bのインビボ発現パターンは、胎生11.5日(E11.5)及び生後0日(P0)において互いに類似しており、E11.5においては前者についてより強いシグナルが観察された。双方のマイクロRNAのレベルは、発生の進行と共に減少した(図7)。次に、子宮内マウス胎児脳室へのレンチウイルス注入により発生中のマウス脳におけるmiR-17の過剰発現の効果を調べることにより、miR-17類のインビボにおける役割を解析した。インビトロにおける結果と一致して、E10.5においてmiR-17を過剰発現するレンチウイルスに感染したほとんどの細胞(97.6%)は、P30までに大脳皮質において神経細胞になるよう運命付けられたが、コントロールmiR-LacZ発現レンチウイルスに感染した細胞のわずか62.2%だけが神経細胞になった(図8)。従って、miR-17の過剰発現はまた、細胞自律的にインビボにおけるグリア分化をも阻害した。
【実施例】
【0107】
miR-17の直接的な標的としてのp38の同定
通常、1つのマイクロRNAは複数の標的mRNAの分解及び/又は翻訳を制御する(Biogerontology 11, 501-506 (2010))。NSCのコンピテンスの変化の基礎をなす分子メカニズムを更に同定するため、本発明者らは、miR-17類の標的mRNAの同定を試みた。この目的を達成するために、本発明者らはiTRAQ (isobaric tags for relative and absolute quantitation)法を用いたプロテオミクス解析を実施し、p2ニューロスフェアにおいて、miR-17の過剰発現により抑制されるタンパク質を同定した(17)。次に、特定のマイクロRNAのシード配列に相補的なmRNA中の配列を検索する、本発明者ら独自の所内のコンピュータープログラム“HIMAJA”を用いて、候補遺伝子をスキャンした。40遺伝子の最初のリストを得た。そして、最終的に、以下の通り、p38(mitogen-activated protein kinase 14、又はMapk14としても知られる)をコードするmRNAを、NSCのコンピテンス遷移の制御におけるmiR-17の直接的な標的として同定した。
【実施例】
【0108】
第一に、p2段階のニューロスフェアは、特異的p38阻害剤(SB203580)への曝露(図9)、又はp38特異的shRNAを用いてp38をノックダウンによって(図10)、コントロールよりも高い神経分化能(neuropotency)を示した。一方、p38タンパク質発現はニューロスフェアの継代の過程で上昇した(p2において、p0よりも3.16倍高い)。ウェスタンブロッティングではp2において、p0よりも2.78倍高かった(図18)。次に、p38 mRNAの3’非翻訳領域(UTR)におけるmiR-17類結合部位を用いたレポーターアッセイにより、p38 mRNAとmiR-17との直接的な相互作用が明らかとなった(図17)。最後に、全長3’UTRを欠損するmiR-17耐性p38 mRNAの過剰発現は、miR-17過剰発現により誘導される神経細胞表現型を、グリア表現型に変換したのみならず(図11)、p0ニューロスフェアからの早発性のグリア分化をも誘導した(図12)。これらの結果は、p38がmiR-17の直接的な標的であり、グリア分化の開始に大きく関与することを示す。
【実施例】
【0109】
グリア新生型NSCsにおける神経分化能の強制的回復
最後に、本発明者らは、miR-17類の過剰発現が、段階が進行したNSCにおいて神経分化能を回復できるか、調べた。これに取り組むため、本発明者らは、通常であればニューロスフェアが排他的にグリア細胞へと分化するp3段階の開始時に、ニューロスフェアにおいて、レンチウイルス感染によりmiR-17を過剰発現させた。本発明者らの以前の報告は、Coup-tf類のノックダウンにより、見かけ上は未だ可塑性を失っていないp3 NSCの限られた集団でのみ神経分化能が回復することを示した(Nat. Neurosci. 11, 1014-1023 (2008))。しかしながら、驚くべきことに、コントロールp3ニューロスフェア中の大部分の細胞はアストロサイトへ分化したのに対し、miR-17の過剰発現によって神経分化能が顕著に回復した(図13)。加えて、GfapプロモーターのDNAメチル化状態も、miR-17をp0段階から継続的に発現上昇させたニューロスフェアにおいて以前観察されたように(図4)、有意な変化は見られなかった(図14)。
【実施例】
【0110】
ヒト胎児脳由来ニューロスフェア(J. Neurosci. Res. 69, 869-879 (2002);J. Neurosci. Res. 87, 307-317 (2009))において、特異的p38阻害剤であるSB203580、及びp38の過剰発現により、それぞれ、神経分化能の回復(図15)、グリア分化の促進(図16)がなされた。これらの結果は、NSCの神経細胞新生型からグリア細胞新生型へのコンピテンスの遷移の過程の分子メカニズムは進化的に保存されているが、そのマイクロRAN媒介制御機構は種によって異なることを示唆する。
【実施例】
【0111】
発生過程の神経幹/前駆細胞(NSPCs)におけるp38のインビボ機能的役割
p38のインビボにおける役割を調べるため、子宮内レンチウイルス微注入により、機能獲得型試験及び機能喪失型試験を行った。インビトロの結果と一致して、p38を過剰発現すると、早発性のGFAPタンパク質発現が、E17.5の大脳皮質において観察された。p38過剰発現レンチウイルスの子宮内注入により、脳室下帯(SVZ)において低レベルのGFAPタンパク質発現を有する細胞クラスターが生じた。対照的に、eGFPを過剰発現した対照細胞は細胞クラスターを形成せず、GFAPを発現しなかった(図19)。p38特異的shRNAを発現するレンチウイルスを用いたp38ノックダウン試験の結果、E17.5において、アシルCoA合成酵素バブルガムファミリー1(Acsbg1)を発現するVZ及びSVZ細胞の数が減少した(図20)。Acsbg1は、灰白質アストロサイトマーカーであって、大脳皮質におけるGFAP陽性成熟アストロサイト及びGFAP陰性未熟アストロサイトの検出に有用である (J Neurosci 28, 264-278 (2008))。これらの観察結果は、p38がグリア新生の開始に決定的な役割を果たしていることを示唆する。以上をまとめると、上記結果は、miR-17/106-p38軸が、発生中の神経幹/前駆細胞における、神経新生型からグリア新生型への移行の主要なレギュレーターであり、この軸を操作することにより、神経幹/前駆細胞の複能性の双方向性の制御が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明によれば、p38抑制という新たなメカニズムにより、神経幹細胞から神経細胞への分化を促進することができる。これはグリア新生型神経幹細胞に神経分化コンピテンスを回復させることによるもので、排他的に神経分化を誘導出来る。
本出願は日本で出願された特願2012-103875(出願日:2012年4月27日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図面
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【図20】
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