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明細書 :装置及び成形方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-231728 (P2015-231728A)
公開日 平成27年12月24日(2015.12.24)
発明の名称または考案の名称 装置及び成形方法
国際特許分類 B29C  47/32        (2006.01)
B29C  47/92        (2006.01)
FI B29C 47/32
B29C 47/92
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2015-033428 (P2015-033428)
出願日 平成27年2月23日(2015.2.23)
優先権出願番号 2014102021
優先日 平成26年5月16日(2014.5.16)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】水沼 博
【氏名】大畑 祐介
出願人 【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
個別代理人の代理人 【識別番号】100150876、【弁理士】、【氏名又は名称】松山 裕一郎
審査請求 未請求
テーマコード 4F207
Fターム 4F207AG01
4F207AR08
4F207AR09
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL67
4F207KM15
要約 【課題】押し出し成形を高速で行っても溶融損傷の発生が少なく、樹脂の色や材質を変質させず、耐久性が高く、安定して運用できる樹脂の押し出し成形装置及び成形方法を提供すること。
【解決手段】樹脂を板状に押し出し成形する装置であって、上記装置は、押し出される溶融状態の樹脂を流動可能に保持する樹脂保有部と、
樹脂保有部の一端に設けられ、上記樹脂を押し出すための樹脂排出口を有する樹脂成形部と、からなり、上記樹脂成形部は、上記樹脂排出口を形成する部材における樹脂の当接する面の少なくとも一部が可動壁面により形成されており、上記樹脂成形部は、一対のローラーにより形成されており、該ローラー間に上記樹脂排出口が形成されると共に、該ローラーにより上記可動壁面が形成されていることを特徴とする樹脂の押し出し成形装置、及び上記装置を用いた樹脂の押し出し成形方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
樹脂を所定形状に押し出し成形する装置であって、
上記装置は、
押し出される溶融状態の樹脂を流動可能に保持する樹脂保有部と、
樹脂保有部の一端に設けられ、上記樹脂を押し出すための樹脂排出口を有する樹脂成形部と、
からなり、
上記樹脂成形部は、一対のローラーにより形成されており、
上記樹脂の押し出し速度U (mm/s)、上記ローラーの外周速度Vθ(mm/s)及びVθ=0の条件でUを高くしたときに不安定樹脂流動が始まる臨界押し出し速度U0の3つのパラメーターを用い、縦軸にVθ/Uを、また横軸にU/U0をとった場合の下記数式に示す関数式で表わされる領域よりもVθ/Uの値が高くなる領域となるようにUとVθの稼働条件を調整するように構成されている装置。
【数1】
JP2015231728A_000006t.gif

【請求項2】
上記ローラーの表面が、フッ素樹脂を用いて形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の装置。

【請求項3】
請求項1又は2に記載の装置を用いた樹脂の成形方法であって、
上記樹脂の押し出し速度U (mm/s)、上記ローラーの外周速度Vθ(mm/s)及びVθ=0の条件でUを高くしたときに不安定樹脂流動が始まる臨界押し出し速度U0の3つのパラメーターを用い、縦軸にVθ/Uを、また横軸にU/U0をとった場合の下記数式に示す関数式で表わされる領域よりもVθ/Uの値が高くなる領域となるようにUとVθの稼働条件を調整することを特徴とする成形方法。
【数2】
JP2015231728A_000007t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を板状に押し出し成形するための装置及び成形方法に関し、さらに詳しくは、押し出し成形を高速で行っても溶融損傷の発生が少ない装置及び成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
押し出し成形は、幅広く用いられる樹脂成形技術であり、生産性向上のため、さらなる高速化が求められている。
従来、薄板状のプラスチック成型体を得るには、金型スリットから樹脂を押し出して成形していたが、これでは押し出し速度をあまり早くすることができなかった。押し出し速度を速くすると板の厚さや表面粗さがばらつく、いわゆる溶融損傷(メルトフラクチャー)とよばれる問題が発生するためである。溶融損傷には、さまざまな種類があり、シャークスキン、スパイラル・フラクチャー、ウェイビー・フラクチャーなどに分類され、溶融損傷を防止するための種々技術が提案されている。
例えば、Baroneらは非特許文献1において、シャークスキンの発生は吸着ポリマー鎖の存在にあるとし、スリットダイの押し出しにおいて出口壁面にエタノールコーティングを行うことでシャークスキンの発生を抑えることができると報告している。
このような壁面コーティングを採用するものとしては、フッ素樹脂コーティング面を有する細管やスリットを用いた押し出し流れなどの研究が多く報告されており、El Kissiらの非特許文献2における報告で、代表的な結果を見ることができる。具体的には、著者らは、フッ素化シリカ製スリットダイを用いたPDMS流れの研究により、フッ素化表面は見掛けのスリップを促進させ、シャークスキンの抑制に著しく有効であると報告している。
また、Kulikovらは、非特許文献3で、ポリエチレンの押し出し流れにおいて、ダイ壁面をシリコンゴムでコーティングすることでシャークスキンの開始を著しく遅らせることができると報告している。この理由として著者らは、壁面スリップが直接の原因ではなく、ダイ-ポリエチレン境界に沿ったせん断亀裂の伝播によるものだとしている。
壁面に処理を行う以外には、Miglerらは、非特許文献4において、細管押し出し流れにおいてLLDPEにフルオロポリマーを添加することで、壁面とLLDPEの間にフルオロポリマーが存在し、LLDPEとフルオロポリマーの間でスリップを生じさせ、シャークスキンの発生を抑制できることを発見している。
また、近年、Buckmasterらは、特許文献1において、窒化ホウ素(BN)粉末が、スパイラル・フラクチャー、ウェイビー・フラクチャーに対して抑制効果を示すことが報告された。これについて、Sentmanatらは、非特許文献6において、BN粒子表面の化学的性質が溶融損傷の抑制に影響を与えていて、BNの種類によってその抑制効果が異なると報告している。
さらに、非特許文献6などにおいて、金型にガスを注入することで、金型と樹脂の間にガス層を生じさせる、いわゆるガスアシストによる方法が報告されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】米国特許7632086号公報
【0004】

【非特許文献1】J.R.Barone, and S.Q.Wang, J. Rheol., 45(2) 595-602 (2001)
【非特許文献2】N.E. Kissi, L.Leger, J.M.Piau, A.Mezghani, J. Non-Newton. Fluid Mech., 52:249-261 (1994).
【非特許文献3】O. Kulikov, Proc.14th Congr Rheol., FI09 (2004).
【非特許文献4】K.B.Migler, et al., J. Rheol., 45(2) 565-581 (2001).
【非特許文献5】M.Sentmanat and S.G.Hatzikiriakos, Proc.14th Congr. Rheol., FI02 (2004).
【非特許文献6】The gas-assisted extrusion of molten polyethylene, R. F. Liang and M. R. Mackley, J. Rheol. 45, 211 (2001)
【非特許文献7】Cogswell, F. N., “Stretching flow instabilities at the exits of extrusion dies,” J. Non-Newtonian Fluid Mech. 2, 37-47 (1977).
【非特許文献8】Migler, K. B., Y. Son, F. Qiau and K. Flynn, “Extensional deformation, cohesive failure, and boundary conditions during sharkskin melt fracture,” J. Rheo. 46(2), 383-400 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1~3で提案されている方法では、連続して溶融損傷のない樹脂成形物を得ることができないという問題がある。
また、特許文献1、並びに非特許文献4及び5で提案されている方法では、樹脂の色や材質の変質を招く恐れがあるという問題がある。
また、非特許文献6で提案されている方法では、安定して溶融損傷のない樹脂成形物を得ることが困難であるという問題がある。
また、上述の確定案では未だに高速で押し出し成形を行った場合に安定して溶融損傷のない樹脂成形物を得ることができないという問題もあった。
要するに、上述の各提案では、高速で安定して溶融損傷のない樹脂成形物を得ることができておらず、押し出し成形を高速で行っても溶融損傷の発生が少なく、樹脂の色や材質を変質させず、耐久性が高く、安定して運用できる樹脂の押し出し成形装置及び成形方法の開発が要望されているのが現状である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、押し出し成形を高速で行っても溶融損傷の発生が少なく、樹脂の色や材質を変質させず、耐久性が高く、安定して運用できる樹脂の押し出し成形装置及び成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、金型スリットを用いた成形法では樹脂の流れがスリットの近傍は良好であるものの、スリットから離間した位置においては樹脂の流れが不安定となり、このような樹脂の流れの不均一性が樹脂成形に大きく影響することを知見した。
このような知見に基づき研究を進め、さらに以下の既知の知見を応用していかにすればこのような樹脂の流れの不均一を解消できるか検討して、本発明を完成するに至った。
すなわち、溶融樹脂の粘度は水の10万倍程度と高く、かつダイ出口は狭いため、樹脂への押出圧は非常に高く、樹脂とダイ壁面間の摩擦力も非常に高い。一方、ダイの外では樹脂への拘束がないため、ダイ出口で極めて急激な流れの変化が生じ、これが溶融損傷と関連していると推測されている。この溶融損傷の発生条件を予測する試みとして、は幾つか行われているが、ここでは下記の2つの研究に注目した。
非特許文献7では、通常のダイからの押し出し流れについて研究し、壁面近傍の薄いポリマー層(厚さδH)がダイ出口で厚さhに伸びるときに受ける伸張率ε(原文ではεの上に・があるが本明細書では記載の都合上・を省略して示す)がある臨界値εmaxを超えるとポリマーが破断し溶融損傷を起こすと提案している。
非特許文献8では、通常のダイでも添加剤を加えて壁面でスリップを発生させると、溶融損傷は1桁近い高い速度まで発生しない場合もある。そのようなスリップがあるときの溶融損傷初生点εmaxは、スリップのないときの溶融損傷初生点εmaxに比べ数倍高いことがわかり、εmaxでは溶融損傷の初生点を予測できないことを報告している。そして、この添加剤により壁面でスリップを発生させた場合について研究し、溶融損傷初生点を予測するためにεmaxの代わりにreconfiguration rate T(原文ではTの上に・があるが本明細書では記載の都合上・を省略して示す)を導入した。Tは薄層内ポリマーのεmaxと伸張量(∝U/Vave)の積であり、Uは出口下流の一様流速度であり、Vaveはダイ内部の薄層内のポリマー流速である。
【0008】
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.樹脂を所定形状に押し出し成形する装置であって、
上記装置は、
押し出される溶融状態の樹脂を流動可能に保持する樹脂保有部と、
樹脂保有部の一端に設けられ、上記樹脂を押し出すための樹脂排出口を有する樹脂成形部と、からなり、
上記樹脂成形部は、一対のローラーにより形成されており、
上記樹脂の押し出し速度U (mm/s)、上記ローラーの外周速度Vθ(mm/s)及びVθ=0の条件でUを高くしたときに不安定樹脂流動が始まる臨界押し出し速度U0の3つのパラメーターを用い、縦軸にVθ/Uを、また横軸にU/U0をとった場合の下記数式に示す関数式で表わされる領域よりもVθ/Uの値が高くなる領域となるようにUとVθの稼働条件を調整するように構成されている装置。
【数1】
JP2015231728A_000003t.gif
2.上記ローラーの表面が、フッ素樹脂を用いて形成されている
ことを特徴とする2に記載の装置。
3.1又は2に記載の装置を用いた樹脂の成形方法であって、
上記樹脂の押し出し速度U (mm/s)、上記ローラーの外周速度Vθ(mm/s)及びVθ=0の条件でUを高くしたときに不安定樹脂流動が始まる臨界押し出し速度U0の3つのパラメーターを用い、縦軸にVθ/Uを、また横軸にU/U0をとった場合の上記数式に示す関数式で表わされる領域よりもVθ/Uの値が高くなる領域となるようにUとVθの稼働条件を調整することを特徴とする成形方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂の押し出し装置は、押し出し成形を高速で行っても溶融損傷の発生が少なく、樹脂の色や材質を変質させず、耐久性が高く、安定して運用できるものである。
また、本発明の樹脂の押し出し装置は、樹脂保有部の内部圧力を大幅に低下させることができるため、押し出し機の駆動動力を少なくすることができ、省エネルギーの点で優れる。さらに、樹脂保有部の内部圧力を大幅に低下させることができるので、押し出し成形で使用される金型を、押し出し成形時における金型の内部圧力の高さにより生じるひずみ考慮する煩雑な金型設計プロセスを省略して設計・製造することができる点においても優れるものである。
また、本発明の樹脂成形物の製造方法によれば、簡易且つ簡便に製造を行うことができ、しかも溶融損傷のない綺麗な板状の樹脂成形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の装置の一実施形態の全体を示す模式図である。
【図2】図2は、図1のA-A端面図(ピストンを押し込んだ状態)であり、(a)は樹脂を充填していない状態(b)は樹脂を充填した状態、をそれぞれ示す。
【図3】図3は、図1に示す装置を用いて樹脂の押し出し成形を行った場合の樹脂の押し出し速度U(mm/s)、上記ローラーの外周速度Vθ(mm/s)及びVθ=0の条件でUを高くしたときに不安定樹脂流動が始まる臨界押し出し速度U0の3つのパラメーターを用い、縦軸にVθ/Uを、また横軸にU/U0をとった場合における、樹脂成形物の表面の溶融損傷の有無のグラフである。
【図4】図4は、本発明の装置の他の実施形態を示す模式図(図1のB-B断面相当図)である。
【図5】図5は、試験例2における樹脂成形物の表面粗さ測定の結果を示す図である。
【図6】図6は、試験例2における樹脂成形物の表面粗さ測定の結果を示す図である。
【図7】図7は、試験例2における樹脂成形物の表面粗さ測定の結果を示す図である。
【図8】図8は、試験例2における樹脂成形物の表面粗さ測定の結果を示す図である。
【図9】図9は、試験例2における樹脂成形物の表面粗さ測定の結果を示す図である。
【図10】図10は、試験例2における溶融損傷振幅と溶融損傷の断面と方向の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、試験例2における溶融損傷振幅と溶融損傷の断面と方向の関係を示すグラフである。
【図12】図12は、試験例2における溶融損傷振幅と溶融損傷の断面と方向の関係を示すグラフである。
【図13】図13は、試験例2における溶融損傷振幅と溶融損傷の断面と方向の関係を示すグラフである。
【図14】図14は、試験例2における溶融損傷振幅と溶融損傷の断面と方向の関係を示すグラフである。
【図15】図15は、試験例3における容器の内部圧力を測定した結果のグラフである。
【図16】図16は、実施例1で得られた樹脂成形物の表面状態を示す写真(図面代用写真)であり、(a)はVθ=5.0mm/sの場合、(b)はVθ=6.0mm/sの場合、(c)はU=14.0mm/s、Vθ=8.0mm/sの安定域にある場合、(d)はVθ=12.0mm/sの場合、(e)はVθ=13.0mm/sの場合を示す。
【図17】図17は、実施例2におけるVθ/UをU/U0に対してプロットしたグラフである。
【図18】図18は、実施例2における壁面速度Vθによる溶融損傷の抑制状況を示す写真(図面代用写真)であり、(a)は、Vθ=0mm/s、(b)は、Vθ=7.4mm/、(c)は、Vθ=39.0mm/sの場合をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0011】
1:装置、10:樹脂、20:樹脂保有部、容器:21、中空:22、
30:樹脂成形部、31:ローラー、32:ギア、33:軸、34:スリット、
40:樹脂移送部、41:ピストン
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の装置の一実施形態を図1及び2を参照して、さらに詳細に説明する。
(全体構成)
本実施形態の装置1は、図1並びに図2(a)及び(b)に示すように、樹脂を所定形状である板状(板状の樹脂成形物100)に押し出し成形する装置であって、押し出される溶融状態の樹脂10を流動可能に保持する樹脂保有部20と、樹脂保有部20の一端に設けられ、樹脂10を成形するための樹脂排出口としてのスリット34を有する樹脂成形部30とからなる。また、樹脂保有部20に溶融状態の樹脂10を移送すると共に樹脂保有部20内に保持された樹脂をスリット34に圧送する樹脂移送部としてのピストン42が設けられている。
本明細書において、上記板状には、薄膜形状も含まれる。この点については(樹脂成形物)の欄で詳述する。

【0013】
(樹脂保有部)
樹脂保有部20は、押し出される溶融状態の樹脂10を流動可能に保持するものである。
本実施形態において、樹脂保有部20は、図1及び2に示すように容器21からなり、容器21は、中空の長方体形状で、長方体形状の中空部22とその両端に設けられた開口とからなる。また、容器21内部はその他端から一端にかけて後述するピストン42が往復可能に形成されている。
容器21の中空部22は、図2(b)に示すように樹脂10が保持されており、矢印方向にピストン42を移動させると、樹脂10が容器21の開口から押し出され、後述する樹脂成型部30に移動する。

【0014】
なお、本実施形態において容器21の形状・大きさは、外部形状が縦30mm×横50mm×高さ50mmの四角柱状、内部形状が縦10mm×横20mm×高さ50mmの四角柱状であり、上部及び下部が開口している。このような形状や大きさは、成形する樹脂の用途や目的に応じて任意であり、特に制限されない。

【0015】
本実施形態においては、樹脂保有部20の構成は上述の通りであるが、その構成、各構成部材の大きさ、形状、形成材料などは、特に制限されず、押し出される溶融状態の樹脂10を流動可能に保持するようになされていれば、用途や目的などに応じて任意である。例えば、容器21を金属で円筒形状に形成し、加熱装置、保温装置などを設けるなどしてもよい。

【0016】
(樹脂成形部)
樹脂成形部30は、樹脂保有部20の一端に設けられ、樹脂10を板状に押し出すものであり、樹脂成形部30は樹脂排出口としてのスリット34を形成するように一対のローラー31を配することにより設けられている。すなわち、一対のローラー31間に設けられた隙間によりスリット34が形成されている。また、ローラー自体が回動自在とされているので樹脂と当接する面が可動壁面となされている。このように、該ローラー31が回転することで、従来の装置のようにスリットから離間した位置における樹脂の流れの不安定さが解消される。このため、溶融損傷を抑制した状態で、より高速に押し出し成形を行うことができる。また、これにより、樹脂保有部の内部圧力を大幅に低下させることができるため、押し出し機(後述する樹脂移送部40)の駆動動力を少なくすることができ、省エネルギーに樹脂の成型を行うことができる。さらに、樹脂保有部の内部圧力を大幅に低下させることができるので、押し出し成形で使用される金型を、押し出し成形時における金型の内部圧力の高さにより生じるひずみ考慮する煩雑な金型設計プロセスを省略して設計製造することができ、金型製造の観点からも樹脂成形プロセスを省エネルギー化することが可能となり、樹脂の移動制御や押し出しがしやすいため、溶融損傷の抑制効果が高い。
また、本実施形態においては、ローラー31の頂点と樹脂保有部20の中空部22を形成する部分の下端の壁面とが一致し、中空部の内壁面とローラーの直径軸とが一直線上に位置するように、一対のローラー31の直径と配置位置とを調整している。これにより樹脂の流動をよりスムーズにして樹脂がたまる部分をなくして溶融損傷の抑制効果をより向上させることができる。
ローラー31は、図2(b)の矢印方向に回転するようになされている。また、樹脂成形部30には、ローラー31の軸33に連結されたギア32と軸33に連結されたモーター(図示せず)とモーターに配線を介して連結されたコンピュータ(図示せず)とからなるローラー31の移動を制御するための移動制御装置(図示せず)が設けられており、ローラー31の移動量や移動量速度などの制御を、高精度で任意に行うことができるようになっている。
コンピュータは、CPU、メモリ、記憶装置、入力装置、表示装置、入力装置、モーターの制御に必要なプログラム、インターフェースなどを備え、コンピュータを用いモーターの出力制御を介してローラー31の動作を制御する。また、後述するようにこのコンピュータで樹脂移送部の制御も行う。
ローラー31の移動量、速度等の制御は、後述の本発明の成形方法に記載されるように、樹脂移送部としてのピストン41と併せて行うことが好ましい。これにより、ローラーの周速度Vθ(可動壁面の移動速度Vθ)と押し出し速度U(mm/s)とを所定の値になるように制御し、溶融損傷を抑制した状態で、より、高速に押し出し成形を行うことができる。
本実施形態におけるスリット34は、ローラー31とローラー31との間に設けられている空間(隙間)である。樹脂10は、スリット34を通過することにより、スリットの厚さに応じた厚さの板状に押し出される。

【0017】
本実施形態において、ローラー31の大きさ・形状は、直径20mm、長さ50mmの円柱状であるが、用途や目的に応じて任意であり、特に制限されない。
本実施形態において、ローラー31の移動制御装置は、上述のように構成されているが、特に制限されず、用途や目的などに応じて任意のものを用いることができる。
ローラー31の形成材料は、用途や目的に応じて任意であり、特に制限されないが、本実施形態においては真鍮で、その表面がフッ素樹脂を用いて形成されている。これにより、樹脂成形物の表面形状を、よりなめらかにすることができる。
本実施形態においてスリット34の幅dは1.0mmであるが、用途や目的に応じて任意であり、特に制限されない。
樹脂成形部30における可動壁面は、本実施形態のように、樹脂保有部20の下端開口全面を覆って形成されているのが好ましい。

【0018】
なお、樹脂成型部30の可動壁面は、本実施形態においては、上述のように構成されているが、可動するようになされている壁面を有していれば、その構成、各構成部材の大きさ、形状、形成材料、可動手段などは、特に制限されず、用途や目的などに応じて任意である。
樹脂成型部30は、用途や目的などに応じて、加熱装置、保温装置など他の装置を備えてもよい。

【0019】
(樹脂移送部)
樹脂移送部は、樹脂保有部20に溶融状態の樹脂10を移送するとともに樹脂保有部内での樹脂の移動を促し下端の開口に樹脂を移送するための力を加える部分である。
本実施形態において、樹脂移送部はピストン42からなる。
本実施形態においては、樹脂移送部は、溶融状態のバッチ方式で樹脂10を容器21内に投入する方式のため、ピストン42からなる方式を採用している。投入はバッチ方式でも連続方式でも、いずれも採用することができる。
ピストン42は、容器21の内部の形状と略同様の外径、形状を有し、容器21に内接した状態で上下に可動可能になされている。
樹脂移送部には、ピストン42に連結された電動アクチュエーター(図示せず)と電動アクチュエーターの制御を行うコンピューター(図示せず)とからなるピストンの移動を制御するための移動制御装置(図示せず)が設けられており、ピストン42の移動量や移動量速度などの制御を高精度で任意に行うことができる。コンピュータは、CPU、メモリ、記憶装置、入力装置、表示装置、入力装置、電動アクチュエーターの制御に必要なプログラム、インターフェースなどを備え、コンピュータを用い電動アクチュエーターを介してピストン42の動作を制御する。
上記ピストン42の移動量、速度等の制御は、後述の本発明の成形方法に記載されるように、可動壁面としてのローラー31と併せて行う。これにより、ローラーの周速度Vθ(可動壁面の移動速度Vθ)(mm/s)と押し出し速度U(mm/s)とを後述する所定の値になるように制御し、溶融損傷を抑制した状態で、より、高速に押し出し成形を行う。

【0020】
本実施形態において、ピストン42の形状・大きさは、縦10mm×横20mm×高さ50mmの四角柱状であるが、用途や目的に応じて任意であり特に制限されない。
また、ピストン42の形成材料は、アクリル樹脂であるが、用途や目的に応じて任意であり、特に制限されない。
また、ピストン42に設けられる移動制御装置は、特に制限されず、例えば、本技術分野に用いられる公知のものなどを用いることができる。
また、本実施形態においては、樹脂移送部は、上述のようにピストンを用いて構成されているが、特に制限されず、例えば、他の態様、ライン処理(連続処理)により、連続して樹脂を供給し、樹脂保有部に樹脂の供給によって圧力をかける形態などにしてもよい。

【0021】
(樹脂)
本実施形態における樹脂10は、特に制限されず、所望の成形物に応じて通常用いられる公知の樹脂を用いることができるが、好ましくは、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、フッ素樹脂等を挙げることができる。

【0022】
(樹脂成形物)
樹脂成形物は、本実施形態の装置1を用いて製造することができる。
製造可能な樹脂成形物は、主として板状の樹脂成形物や棒(ロッド)状の樹脂成形物であるが、用途や目的に応じて任意であり、材料や上述の樹脂成形部の構成を変えるなどして、例えば、板状やロッド状の樹脂成形物の他、線状の樹脂成形物など種々形状のものを製造することも可能である。また、板状の樹脂成形物の厚さとしては、100μm~5cmであるのが好ましい。本発明の装置を用いることにより溶融損傷を抑制した状態で、より高速に押し出し成形を行うことができる。
なお、本明細書において板状は、薄膜状、シート状などの形状を含む語であり、これらの形状であれば、大きさ(長さ)、形状などは、特に制限されない。例えば形状は、矩形状、長尺状、ハート形等種々形状とすることができる。

【0023】
(装置の製造方法)
本発明の装置は、公知の押し出し成形装置に、上述したローラーなどの可動壁面を付加する等して製造することができる。既存の押し出し成形装置を利用するため低コストで環境負荷が少なく製造することが可能である。

【0024】
(使用方法、用途)
本発明の装置は、樹脂の押し出し成形に好適に使用することができる。
本発明の装置の使用方法を説明する。
まず、樹脂保有部に溶融状態の樹脂を投入する。好適に用いることができる上記樹脂は、上述の通りである。投入された樹脂は、図2(b)に示すように容器21に流動可能に保持され、矢印方向に樹脂移送部としてのピストン42を移動させると、樹脂10が容器21の下部から樹脂成型部30に圧送される。樹脂成型部30に移動した樹脂10は、可動壁面としての一対の円柱状のローラー31の回転によりスリット34側に移送され、スリット34を通過することで樹脂10が押し出されて、成形が完了する。ピストン42及び可動壁面としてのローラー31の移動量、速度等の制御は、後述する成形方法に記載されるように、ローラーの周速度Vθ(可動壁面の移動速度Vθ)と押し出し速度U(mm/s)を行うことが好ましい。これにより、溶融損傷を抑制した状態で、より、高速に押し出し成形を行うことができる。
本発明の装置により、製造可能な樹脂成形物は、上述の通りである。

【0025】
(特徴部分)
そして、本実施形態の装置1は、上記樹脂の押し出し速度U(mm/s)、上記ローラーの外周速度Vθ(mm/s)及びVθ=0の条件でUを高くしたときに不安定樹脂流動が始まる臨界押し出し速度U0の3つのパラメーターを用い、縦軸にVθ/Uを、また横軸にU/U0をとった場合の上記の数1に示す関数式で表わされる領域よりもVθ/Uの値が高くなる領域となるようにUとVθの稼働条件を調整するように構成されている。
かかる数1に示す式が得られたのは以下の検討結果による。
すなわち、ダイ内部の流れは層流である。流体をニュートン流体と近似すると樹脂の速度分布はv(y)=K(U-Vθ){1-(y/H)2}+Vθ・・・(1)となる。
Kは定数で、直径2Hの円形ダイではK=2、間隔2Hの平面ダイではK=3/2である。薄層内の質量がダイの内外で等しいことからδH・Vave=h・U・・・(2)である。
ここでδHのダイ内部の薄層を流れる樹脂の平均流速Vaveは(1)より、Vave/U=Vθ/U+K・(δH/H)・・・(3)
非特許文献7及び8のようなreconfiguration rateTの定義から、従来の問題点を解消すべく鋭意検討し、実測値から導き出される独自の定義をもってTを変更した。この変更したreconfiguration rateをTaとし、次のように定義した。Ta={(U-Vave)/H}・(U/Vave)・・・ (4)
式(2)-(4)からδHとVaveを消去し、Taとポリマー平均流速Uとダイ壁面速度Vθの関係を求めた。そして、Taがある臨界値TacritをとるときのUとVθの組み合わせが図3の安定領域の下限に対応する曲線を与えるとした。これらより、安定領域の下限VθL-Uは下記(5)で表される。
ここでhcは臨界値Tacritに対応する押し出し物の表面粗さである。式(1)は壁面速度Vθ=0の場合にも成り立ち、この条件はローラー回転を停止し、押し出し速度Uを高くしていったときに不安定が始まるときに相当する。このときのポリマー平均流速をU0とすると、式(1)よりU0とTacritの関係が(6)のように得られる。Tacritの値は一般にポリマーごとに異なる。U0は壁面を停止させた実験から容易に求めることができ、その値と許容し得る押し出し物の表面粗さhcを式(6)に代入すればTacritが求まる。式(5)を変形して数1に示す式が得られる。

【0026】
【数2】
JP2015231728A_000004t.gif

【0027】
ここで、数1に示す式において定数Kは、図1に示す平面状のローラー(以下、このローラーから形成される樹脂排出口を「平面ダイ」と呼ぶ場合がある)の場合にはK=3/2であり、図4に示すローラーの中央部に断面形状円形の溝が形成されたローラー(以下、このローラーから形成される樹脂排出口を「円形ダイ」と呼ぶ場合がある)の場合K=2である。
数1に示す式の計算にあたり、付図よりhc=7μmとし、U0とhc/Hを以下の通りとした。
ローラー停止時に溶融損傷が始まる押出速度U0 (mm/s):平面ダイの場合3.2、円形ダイの場合7.8
また、これらの場合における平面ダイ及び円形ダイのU0 (mm/s) 、hc (mm) 、H (mm) 及びhc /Hは以下の通りである。
平面ダイ
0 (mm/s) :3.2
hc (mm) :7
H (mm) :0.50
hc/H:0.014
円形ダイ
0 (mm/s) :7.8
hc (mm) :7
H (mm) :1.00
hc/H:0.007
また、参考として、円形ダイの場合のMigler et al. (2002)の研究におけるデータを示す。
0 (mm/s) :3.8
hc (mm) :7
H (mm) :0.80
hc/H:0.00875
表1より平面ダイでは溶融損傷を発生させずに押出速度を9倍、円形ダイでは11倍まで高めることができる。

【0028】
数1に示す式の有用性は溶融損傷の発生機構を予測する考察から、実測値による試行錯誤の末導かれるものと一致し、上述の物理的根拠からもその正当性を説明できるものである。安定領域の下限は実測データとの照合からも正しいことが確かめられた。すなわち、実測データを基にVθ/U及びU/U0をそれぞれ縦軸及び横軸に取ったグラフを作成した場合、図3に示す図のようになり、そのうち溶融損失のほとんどない領域を区画する下限の領域を示す線と、上記の数1に示す式により得られる線とが一致する。これは、図1及び2に示す例とは別の実施形態である、次に述べる円形ダイに対しても妥当するものであり、一般性のある制御手段であることがわかる。
また、この式の正当性は、次元解析からも示すことができる。装置の稼働条件はポリマーの押し出し速度Uと壁面の速度Vθであり、ポリマーの安定不安定特性を表す物理量はU0である。したがって、これらより求まる無次元数Vθ/U及びU/U0の組み合わせにより押し出し流れのパターンと押し出し物の表面粗さが一意的に決まると予測できる。より厳密には、hc/Hを加えることもできる。次元解析からは安定領域の具体的範囲を式(5)のように予測できないが、補正請求項の一般性を説明することはできる。
また、上記ローラー31、31の周速度Vθと押し出し速度U(mm/s)との制御は、上述のコンピュータ等の制御装置等を用いてローラーの回転速度や樹脂の圧送に際してピストンにかける力を制御することで実施することができる。

【0029】
(成形方法)
次いで、本発明の樹脂の成形方法について説明する。
本発明の樹脂の成形方法は、上述の本実施形態の装置を用いた樹脂の成形方法であって、上記数1に示す式に示される関数式で表わされる領域よりもVθ/Uの値が高くなる領域となるようにUとVθ/の稼働条件を調整することにより、樹脂の成形を行うことができる。
また、上記ローラー31、31の周速度Vθと押し出し速度U(mm/s)との制御は、上述の各制御装置等を用いてローラーの回転速度や樹脂の圧送に際してピストンにかける力を制御することで実施することができる。
本発明の成型方法により、溶融損傷を抑制した状態で、より高速に押し出し成形を行うことができる。なお、上述の通りに公知の制御装置等を用いる方法にて実施することができる。

【0030】
また、上記ローラー31、31の周速度Vθと押し出し速度U(mm/s)との制御は、上述の各制御装置等を用いてローラーの回転速度や樹脂の圧送に際してピストンにかける力を制御することで実施することができる。
本発明の成型方法により、溶融損傷を抑制した状態で、より高速に押し出し成形を行うことができる。なお、上述の通りに公知の制御装置等を用いる方法にて実施することができる。
なお、上記式は、後述する実施例に示すように、本発明の装置を用いて、上記ローラーの周速度Vθ(mm/s)と上記押し出し速度U(mm/s)を変化させたさまざまな条件において製造した樹脂組成物の表面状態を評価し、安定して製造することができる条件の範囲を求めたものである。
実施例の結果から、表面状態がよい樹脂成形物を得るためには安定域条件での押し出しが必要となるが、必要なローラーの回転をできるだけ低速に保つとすれば、低臨界周速度VLよりわずかに速くローラーを回転させればよい。その意味では低臨界周速度VLが重要であると考えられる。これらの、結果の詳細については、実施例に記載する。
なお、上記樹脂の押し出し速度Uは、例えば、試験例1においては、下記式で計算されるものである。
式:U=Q/S
(式中、Qはスリットから流出する単位時間あたりの流量、Sはスリットの面積を示す。)

【0031】
(他の実施形態、ロッドの例)
次いで、他の実施形態について説明する。
以下の実施形態の説明においては、上述の図1及び2に示す実施形態と異なる点を中心に説明する。特に説明しない点については上述の実施形態で用いた符号に’を付して用い、上述の説明が適宜適用される。
図4に示す実施形態の装置は、樹脂保有部20’の容器21’の下端部28’の形状及びローラー31’が上述の実施形態と異なる。すなわち、下端部28’は、その対向する2つの面にのみテーパーが形成されている。またローラー31’には断面形状が半円形状の溝38’が設けられている。そして下端部28’のテーパーはこの溝38’に樹脂が効率よく投入されるように、下端の開口がほぼ溝38’の幅に対応した幅で設けられている。
そして、本実施形態の装置により、図4に示すように、ロッド状の樹脂成形物を得ることができる。すなわち、ローラー31’間にはスリットが設けられておらず、両ローラー31’は接した状態となっている。この接した状態のローラー31’における2つの溝38’が連接されて形成される円形の空間に樹脂が投入されることにより、断面円形の棒状の樹脂成形物が形成される。
このように、本発明の装置により得られる樹脂成形物はシート状のものに制限されず、ローラーの形状を種々変更することにより所望の形状の樹脂成形物を得ることが可能である。

【0032】
本発明は上述した実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について実施例等を示してさらに具体的に説明するが本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
(装置の製造)
図1及び図2に示す本発明の装置1を製造した。
本発明の装置1は、上述のとおりであり、詳細を以下に説明する。
装置1における樹脂保有部20としての容器21は、アクリル製の中空の長方体形状で、中空部とその両端に設けられた開口とを有し、外部形状が縦30mm×横50mm×高さ50mmで、中空部の形状が縦10mm×横20mm×高さ50mmである。
樹脂成形部30としての、ローラー31は、真鍮製の円柱状の棒にフッ素樹脂チューブ(型名:FEP090、東京硝子器械株式会社製、厚さ0.18mm)を被覆したもので、フッ素樹脂チューブを含んだ状態で直径20mm×長さ50mmである。ローラー31は、ローラー31の軸33に連結されたギア32と該ギア32に連結されたステッピングモーター(型名:KBLM230GD-AM、オリエンタルモーター株式会社製)(図示せず)と、ステッピングモーターに配線を介して連結されたコンピュータ(図示せず)とからなるローラー31の移動を制御するための移動制御装置(図示せず)が設けられており、ローラー31の移動量や移動量速度などの制御を高精度で任意に行うことができるものである。
スリット34は、ローラー31とローラー31との間に設けられており、間隔dは1.0mmである。
樹脂移送部としてのピストン42は、アクリル製で縦10mm×横20mm×高さ50mmの四角柱状である。コンピューター(上述のローラーの制御用コンピュータと同じ、図示せず)と電動アクチュエーター(型名:DRL60PA4G-05、オリエンタルモーター株式会社製)(図示せず)とからなるピストンの移動を制御するための移動制御装置(図示せず)が設けられており、ピストン42の移動量や移動量速度などの制御を高精度で任意に行うことができるものである。
【実施例】
【0035】
〔試験例1〕押し出し成形における融損傷抑制条件の検討
本発明の装置1を用い、押し出し出口の平均速度U(以下、単にUと表記する場合もある。)、ローラーの周速度Vθ(以下、単にVθと表記する場合もある。)をそれぞれ変化させて、押し出し成形により樹脂成形物を製造し、製造した樹脂成形物の表面状態を指標に、溶融損傷抑制条件の検討を行った。
【実施例】
【0036】
(樹脂成形物の製造)
樹脂成形物は、本発明の装置1を用い、押し出し成形法により、製造した。
樹脂として、押し出し加工は常温で固体の材料を高温で加熱し高粘弾性流体にして加工する方法であることから、常温で液体状態にあり、かつ高粘弾性を示し、取り扱いがしやすい、ポリジメチルシロキサン(PDMS、型名:X-21-3043、信越化学工業社製、粘度η=104Pa・s、密度ρ=983kg/m)を用いた。
製造した樹脂成形物の形状は、薄膜状で、大きさが幅20mm×厚さ1.0mmであった。
なお、押し出し出口の平均速度U(以下、単にUと表記する場合もある。)は、ピストン41の移動速度を制御することで調整した。また、ローラーの周速度Vθはローラー31の回転速度を制御することで調整し、上記押し出し出口の平均速度Uは2.0~28.0(mm/s)の範囲、ローラー周速度Vθは0~21.6(mm/s)の範囲で変化させた。
なお、上記樹脂の押し出し速度Uは、下記式により求めた。
式:U=Q/S
(式中、Qはスリットから流出する単位時間あたりの流量、Sはスリットの面積を示す。)
なお、ローラーがついていない通常の固定式ダイ方式の押し出し成形装置にて、同様にして樹脂成形物の製造を行い、比較試験とした(図示せず)。
【実施例】
【0037】
(樹脂成形物の表面観察)
得られた樹脂成形物の表面の状態を、デジタルカメラで樹脂成形物の表面の画像を取得して観察することにより調べた。
その結果を図3に、押し出し出口の平均速度U(mm/s)、ローラーの周速度Vθ(mm/s)、樹脂成形物の表面の状態の関係をグラフとして示す。
なお、図3において、樹脂成形物の表面状態を観察した結果、樹脂成形物の表面状態が安定であったものを「〇」、不安定であったもの「×」で示す。
また、このような平面ダイを用いた場合、溶融損傷の生じない最大の押出速度Umaxは使用した装置の最高速度である、28.0mm/sであったが、より押出速度の高い装置を用いても、ローラーの周速度を調整して上述の数式1を満足するように調整すれば押出出口の速度をより速くすることが可能である。
【実施例】
【0038】
〔試験例2〕
(樹脂成形物の表面粗さ)
樹脂成形物の表面の粗さを定量的に調べるため、表面の粗さを測定した。
樹脂成形物の観察は、レーザー顕微鏡(商品名:VK-X100、キーエンス社製)を用いて下記条件により行い、表面の状態、溶融損傷の詳細(溶融損傷振幅と溶融損傷の断面など)を調べた。
条件:
対物レンズ倍率:10倍
表面高さ表示分解能:0.005μm
なお、表面粗さRaは、JIS B0601-2001の表面粗さの定義に基づき、下記式により求めた。
【数3】
JP2015231728A_000005t.gif
ここで、表面の平均高さは0であり、Lは測定範囲の長さ、Rnは水平方向位置xにおける表面高さを表す。
なお、用いた樹脂成形物は、試験例1で得られた押し出し出口の平均速度の平均速度Uは22.0mm/sとし、ローラーの周速度Vθは5.8mm/s~21.5mm/sまで変化させたものである。
その結果(レーザー顕微鏡像、3次元像、断面像)を図5(U=22.0、Vθ=5.8)、図6(U=22.0、Vθ=11.0)、図7(U=22.0、Vθ=14.0)、図8(U=22.0、Vθ=18.5)、図9(U=22.0、Vθ=21.5)に示す。
また、図10~14に溶融損傷振幅と溶融損傷の断面と方向の関係を調べた結果を示す。
【実施例】
【0039】
〔試験例3〕
(押し出し成形時における樹脂保有部の内部圧力の測定)
実施例1で製造した本発明の装置1を用いた押し出し成形時における、樹脂保有部20としての容器21の内部圧力を測定した。
容器21の内部圧力の測定は、押し出し速度を一定(U=4.0mm/s)とし、ローラー周速度Vθを0、2.0、3.0、4.0mm/sと変化させて行った。Vθは押し出し開始から終了まで一定とした。
なお、容器21の内部圧力の測定は、小型圧力センサー(型名:PS-5KD、株式会社共和電業社製、受圧面直径:6mm、定格圧力:500kPa)の受圧面を容器21の内壁面と一致するように埋め込み、このセンサーにより行った。また、上記センサーの出力の記録はデータロガー(型名:USBDrDAQ、Pico Technology社製)を用い、サンプリングレート10Hzの条件で行った。
得られた結果を図15に示す。
【実施例】
【0040】
(結果と考察:押し出し成形における溶融損傷抑制条件の検討)
以上の結果から、上記の数1に示す式をもって平均速度U(mm/s)及びローラーの周速度Vθ(mm/s)制御してなる本発明の装置と成型方法によれば、樹脂成形物の溶融損傷が抑制され、平滑な樹脂成形物が製造できることがわかる。
また、この安定域からUを一定に保ったままVθを増加していくと、樹脂成形物の表面が粗面となる不安定現象が観察され始めることがわかる。この時のVθを高臨界周速度(high critical circumferential velocity)VHと定義する。同様に、Vθを安定域から下げていくと不安定現象が生ずる。この時のVθを低臨界周速度(low critical circumferential velocity)VLと定義する。
Vθ=0、すなわちローラーの回転を止めたとき(通常のダイの状態に相当する)では、U=2.0mm/sでは安定であるが、U=3.2mm/sでは不安定となってしまうことがわかる。従って、通常のダイでは、滑面の樹脂成形物を作れる最大押し出し速度は約2.0mm/sであることを意味する。なお、比較試験として行ったローラのついていない通常の固定式ダイ方式の押し出し成形装置においては、上記Vθ=0の実験に相当する低い押し出し速度の条件U=2.0mm/sでも溶融損傷がすでに生じており、ローラー付きダイのVθを適切に与えることによりVθ=0のときだけでなく固定ダイのときと比較しても溶融損傷の抑制効果を観察できた。(図示せず)
一方、本発明の装置のようにローラーを回転させることによって、安定域は、高い出口平均速度Uまで維持されることがわかる。たとえば、本発明の装置は、通常のダイの条件と比較して、通常のダイで不安定になる速度の9倍押し出し速度を早くしても、平滑な樹脂成形物を製造することができることがわかる。
図16は、樹脂成形物の表面状態を示す写真である。
図16(c)に示す樹脂成形物はU=14.0mm/s、Vθ=8.0mm/sの安定域にあり、樹脂成形物の表面は滑らかであることがわかる。この条件からローラーの外周速度Vθを低くし、図16(b)のVθ=6.0mm/sとすると表面に細かい波が発生するのがわかる。このVθは低臨界周速度VLに相当する。さらにVθを低くし、図16(a)Vθ=5.0mm/sとすると樹脂成形物表面の波のような粗さはさらに著しくなる。一方、Vθを安定域のVθ=8.0mm/sから増していくと、図16(d)Vθ=12.0mm/sで突如、樹脂成形物表面に曇りのような粗さが生まれた。Vθを安定域から低下させたときと同様、増加させたときにも、表面の粗さは図16(e)(Vθ=13.0mm/s)のように大きくなる。
【実施例】
【0041】
以上から、本発明の樹脂の押し出し装置は、押し出し成形を高速で行っても溶融損傷の発生が少ないものであることがわかる。また、本発明の樹脂成形物の製造方法によれば、簡易且つ簡便に製造を行うことができ、しかも溶融損傷のない綺麗な樹脂成形物を得ることができることがわかる。
【実施例】
【0042】
〔実施例2〕円形ダイを用いてロッド形状の樹脂成型物を成形する例
図4に示す棒状の樹脂成形物を成形する装置を用いた以外は実施例1と同様にして、種々条件下に樹脂成形物を作成し、その表面状態を測定した。
なお、断面形状半円状の溝の直径は2mmであり、ローラーの溝部分はテフロン(登録商標)製で樹脂がローラーに巻き付くことを抑制している。
得られた結果を図17に示す。
ローラーを停止させた状態(Vθ=0)で押し出し速度Uを増加させた場合、U=7.8mm/sのときに溶融損傷が始まった。したがって、図17ではU0=7.8mm/sとして、Vθ/UをU/U0に対してプロットした。押し出し速度を一定に保ち、ローラーの回転数を高くしていったときに溶融損傷が抑制され始める低臨界条件を×により示し、また回転数が高くなりすぎて再び溶融損傷が発生する高臨界条件を+により示した。安定な滑面押し出し流れはこれら低臨界と高臨界の間のVθに対して得ることができたことが判る。また、ローラーの回転により、回転無しの場合よりも押し出し速度Uを10倍程度まで高速化しても、溶融損傷の無い状態を保つことができた。
Miglerら(2002)は低密度ポリエチレンに添加剤(商品名「Dynamar」, 3M社)を添加し、その時に生ずる樹脂の壁面スリップ速度と溶融損傷の発生の有無を測定した。この壁面スリップ速度をVθとして、図17にその結果をプロットした。溶融損傷の発生しない条件●は本測定結果と同じ安定領域にあり、溶融損傷が発生する条件*は低臨界か、低臨界より低い不安定領域にある。また、低臨界の条件は近似的に数1に示す式の結果と一致する。これらのことから本発明の装置及び成形方法により樹脂成形物を成形することにより溶融損傷のない表面状態に優れた樹脂成形物を得ることができることが判る。
また、樹脂押し出し速度Uを一定に保ち(U/U0=2.5)、ローラーの壁面速度Vθを変化させたときの押し出し物表面の変化を測定し、その結果を図18に示す。安定領域にある(b)の例Vθ=7.4mm/s(Vθ/U=0.37)では平滑で透明な樹脂が押し出されているが、低臨界以下の(a)Vθ=0mm/s(Vθ/U=0)と高臨界以上の(c)Vθ=39.0mm/s(Vθ/U=1.95)では溶融損傷による表面粗さが発生している。
このように本発明の装置及び成形方法は、種々形状の樹脂成形物を溶融損傷なく、良好な表面状態をもって成形できるものであることが判る。
また、このような円形ダイを用いた場合、溶融損傷の生じない最大の押出速度Umaxは使用した装置の最高速度である、89.1mm/sであったが、より押出速度の高い装置を用いても、ローラーの周速度を調整して上述の数式1を満足するように調整すれば押出出口の速度をより速くすることが可能である。
図面
【図3】
0
【図15】
1
【図1】
2
【図2】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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