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明細書 :断層画像を用いた2つの構造体の相対的な配向性の決定

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-175785 (P2015-175785A)
公開日 平成27年10月5日(2015.10.5)
発明の名称または考案の名称 断層画像を用いた2つの構造体の相対的な配向性の決定
国際特許分類 G01N  21/17        (2006.01)
A61B   1/00        (2006.01)
FI G01N 21/17 630
A61B 1/00 300D
請求項の数または発明の数 16
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2014-053790 (P2014-053790)
出願日 平成26年3月17日(2014.3.17)
発明者または考案者 【氏名】坂本 達則
【氏名】伊藤 壽一
【氏名】黒田 知宏
【氏名】カルボネン トゥッカ マティアス
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100122688、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 健二
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査請求 未請求
テーマコード 2G059
4C161
Fターム 2G059AA05
2G059AA06
2G059BB12
2G059DD11
2G059EE02
2G059EE09
2G059FF02
2G059GG01
2G059HH01
2G059HH06
2G059JJ11
2G059JJ17
2G059MM10
2G059PP04
4C161BB08
4C161CC06
4C161HH51
4C161NN05
4C161SS21
要約 【課題】蝸牛を摘出して切片化や染色のための溶媒処理を行うことなく、生きている状態の蝸牛から内リンパ水腫を評価することを可能にするコンピュータプログラム、装置および方法等を提供することを目的とする。
【解決手段】蝸牛内側面およびライスネル膜が現れる少なくとも2つの断層画像を含む断層画像群を用いて、三次元空間内において両組織のそれぞれの表面形状の一部分を近似する平面を決定する。該平面の決定のために、オプティカルフロー法を適用し得る。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
対象物内において互いに近傍にある2つの構造体の相対的な配向性を決定するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
(M1)該対象物内における位置情報が関連付けられており、かつ該2つの構造体が現れる断層画像を、少なくとも2つ含む断層画像群を受け取る手段、および、
(M2)該断層画像群に基づいて、三次元空間内において該2つの構造体のそれぞれの表面形状の一部分を近似する平面を決定する手段
として機能させるための前記コンピュータプログラム。
【請求項2】
前記手段(M2)が、該断層画像群に含まれる少なくとも1組の断層画像の間のオプティカルフローを算出し、かつ該少なくとも1組の断層画像のそれぞれに関連付けられた該位置情報と該算出されたオプティカルフローとを用いて該平面を決定するように構成されている、請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記手段(M2)が、
該断層画像群に含まれる少なくとも1つの断層画像を画像表示手段に表示させ、
該表示された1つの断層画像または複数の断層画像を用いて、該2つの構造体のそれぞれについて、輪郭線近傍の点を少なくとも2つユーザに選択させ、該選択された点を受け取り、
該選択された点のそれぞれについて、該点を選択された断層画像に近接する断層画像において、該選択された点に対応する点を特定し、かつ、
該選択された点および該特定された点に基づいて、該2つの構造体のそれぞれについて、表面形状の一部分を近似する平面を決定するように構成されている、
請求項1または2に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記手段(M1)が、ユーザの入力に少なくとも部分的に基づいて、与えられた複数の断層画像から前記断層画像群を決定する手段を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
コンピュータを更に、
(M3)三次元空間内において前記手段(M2)により決定された2つの平面同士が交わる直線を決定し、該決定された直線に関する一方の平面から他方の平面への回転角度を算出し、かつ該算出された回転角度を該2つの構造体の相対角度として出力する手段
として機能させるための、請求項1~4のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
対象物内において互いに近傍にある2つの構造体の相対的な配向性を決定するための装置であって、請求項1~5のいずれか1項に記載のコンピュータプログラムが機能するように構成されたコンピュータを含む、前記装置。
【請求項7】
(M4)対象物内の断層画像を取得するための手段
を更に有する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記手段(M4)が、光コヒーレンストモグラフィーデバイスである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
該光コヒーレンストモグラフィーデバイスが、蝸牛内側面およびライスネル膜の断層画像を取得できるように構成されたものである、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
対象物内において互いに近傍にある2つの構造体の相対的な配向性を決定するための方法であって、
(S1)該対象物内における位置情報が関連付けられており、かつ該2つの構造体が現れる断層画像を、少なくとも2つ含む断層画像群を用意する工程、および、
(S2)該断層画像群に基づいて、三次元空間内において該2つの構造体のそれぞれの表面形状の一部分を近似する平面を決定する工程
を含み、該決定された2つの平面に基づいて該相対的な配向性が決定される、前記方法。
【請求項11】
前記工程(S2)が、該断層画像群に含まれる少なくとも1組の断層画像の間のオプティカルフローを算出し、かつ該少なくとも1組の断層画像のそれぞれに関連付けられた該位置情報と該算出されたオプティカルフローとを用いて該平面を決定することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(S2)が、
該断層画像群に含まれる少なくとも1つの断層画像を画像表示手段に表示させ、
該表示された1つの断層画像または複数の断層画像を用いて、該2つの構造体のそれぞれについて、輪郭線近傍の点を少なくとも2つ選択し、
該選択された点のそれぞれについて、該点を選択された断層画像に近接する断層画像において、該選択された点に対応する点を特定し、かつ、
該選択された点および該特定された点に基づいて、該2つの構造体のそれぞれについて、表面形状の一部分を近似する平面を決定することを含む、
請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
該断層画像が、光コヒーレンストモグラフィーデバイスを用いて取得されたものである、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
(S3)三次元空間内において前記工程(S2)により決定された2つの平面同士が交わる直線を決定し、該決定された直線に関する一方の平面から他方の平面への回転角度を算出し、かつ該算出された回転角度を該2つの構造体の相対角度として決定する工程
を更に含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
該2つの構造体が蝸牛内側面およびライスネル膜である、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
蝸牛内側面およびライスネル膜を該2つの構造体として請求項14に記載の方法を用いることにより、蝸牛内側面とライスネル膜との相対角度を決定する工程を含み、該相対角度に基づいて内リンパ水腫が診断される、哺乳動物における内リンパ水腫の診断を補助する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、概しては、断層画像の解析に関し、より詳細には、断層画像に基づいて、生体等の対象物内における2つの構造体の相対的な配向性(例えば、相対角度)を決定するためのコンピュータプログラム、装置および方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
聴覚を司る臓器である蝸牛は、内耳に存在し、硬い骨で包まれ、内部がイオン組成の異なる2つのコンパートメントに区切られた臓器である。3階建ての管がカタツムリのように巻いた形になっており、中央部分が一つのコンパートメントで膜迷路(または中央階)と呼ばれていて、内部には内リンパというカリウム濃度の高い液体が入っている。3階建ての上(前庭階)と下(鼓室階)は蝸牛先端でつながっている連続したコンパートメントで、通常の細胞外液と同等のカリウム濃度が低い液体で満たされている。中央階と前庭階の境界がライスネル膜で、正常では真っ直ぐに張った状態である。
【0003】
メニエール病は、めまいと聴力低下を反復し、最重症例では聴力が廃絶することもある難病である。その原因は確定していないが、メニエール病患者の死後の側頭骨標本を作成すると内リンパが著明に拡大しているという「内リンパ水腫」が観察されていることから、内リンパ水腫がその病態に深く関与していると想定されている。しかし、生きている人間で、あるいは動物で、内リンパ水腫を直接的に診断する方法がなかったために、その証明はされていない。これまでに内リンパ水腫と関係している疾患として、低音障害型感音難聴、レルモワイエ症候群、遅発性内リンパ水腫などが考えられている。
【0004】
内リンパ水腫に対する研究が必要であるが、そのためにはヒトやモデル動物で内リンパ水腫を観察する必要がある。しかし、内耳は硬い骨の中に入っており、ヒトでも動物でも生きている状態ではもちろん、死後摘出しても蝸牛の形のままでは内リンパ水腫の評価を行うことは困難であった。内リンパ水腫という形態の評価が可能なのは、摘出標本を薄い切片にするほかには方法がなかった(非特許文献1)。
【0005】
光コヒーレンストモグラフィー(Optical Coherence Tomography; OCT)は近赤外線が生体組織で吸収されにくいことを利用して、組織に照射した赤外線が組織内部で反射したものを高感度で検出し、断層画像を得る技術である。生きたマウスの蝸牛を破壊することなく、内リンパ水腫を含めた内部構造を描出できることが本発明者らにより示されている(非特許文献2)。また、OCTを利用した歯科用診断装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】実用新案登録第3167523号公報
【0007】

【非特許文献1】Takumida M. et al., Acta Otolaryngol. 2007 Nov 1; 127(11): 1124-31
【非特許文献2】Tona Y. et al. Otol Neurotol (2014) 35:e84-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、従来、内リンパ水腫を評価するためには切片を作製する必要があった。しかし、切片での評価は、機能を持っている状態とは異なる状態での評価になるため、本来の病態を反映していない可能性があった。また、実際に切片を作ることの出来たある特定の断面のみに着目しての評価であるため、斜めに切れる等、切片の作り方によっては正しく内リンパ水腫の状態を評価できていない可能性があった。それを回避するために、従来の方法では蝸牛軸を通る切片を作るように十分に留意する必要があった。更に、従来技術では、骨性蝸牛管の少なくとも1断面全体を観察しなければ、前庭階と中央階との面積比として内リンパ水腫を正しく評価することは困難であった。
【0009】
従来技術の上述の問題点に対し、本発明は、蝸牛を摘出して切片化や染色のための溶媒処理を行うことなく、生きている状態の蝸牛から内リンパ水腫を評価することを可能にするコンピュータプログラム、装置および方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、生きた動物における蝸牛の断層画像に基づいて内リンパ水腫を評価する可能性について鋭意検討を行った。その過程において、低侵襲的、リアルタイム、かつ高解像度で生体からの断層画像を取得できるOCTに特に着目した。しかし、適切な角度の切断面での評価であることを保証するために、内耳表面からの十分な深さ(特に、蝸牛軸までの深さ)を観察する必要性があるのに対し、OCTでは深達度が制限されるという問題があった。また、蝸牛骨包の表面から蝸牛軸を正確に通る断面で画像を描出することも困難であった。そこで本発明者らは更に検討を行い、OCTを用いて得られる複数の断層画像に基づいて、蝸牛内側面とライスネル膜とが接触するある位置の近傍の仮想空間内でそれら両組織の外形をそれぞれ平面近似し、かつそれら2つの平面が為す角度を両組織の相対角度として求めることでライスネル膜の偏移を評価する方法論に想到した。
更に、移動体追尾のために用いられるオプティカルフロー法をこの方法論のために適用できることを本発明者らは見出した。即ち、一般的に、移動体追尾では、動画中の時間的に連続する画像において移動体が常に近傍に現れると仮定される。これと同様に、医療分野で用いられる断層画像群においては、隣接断層画像(空間的に連続する画像)中では一つの連続する物体は常に画像内の近傍に現れるはずであるという仮説に基づいて、一つの画像中での各組織の輪郭線付近の点をそれと隣接する画像中での特定の点と対応付けることができる。このようにして得られた一連の点を通る平面を近似的に求めることにより、目的とする平面を決定することが可能となる。
係る知見に基づいて本発明者らは更なる研究を行い、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明は即ち、以下の通りである。
[1]対象物内において互いに近傍にある2つの構造体の相対的な配向性を決定するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
(M1)該対象物内における位置情報が関連付けられており、かつ該2つの構造体が現れる断層画像を、少なくとも2つ含む断層画像群を受け取る手段、および、
(M2)該断層画像群に基づいて、三次元空間内において該2つの構造体のそれぞれの表面形状の一部分を近似する平面を決定する手段
として機能させるための前記コンピュータプログラム。
[2]前記手段(M2)が、該断層画像群に含まれる少なくとも1組の断層画像の間のオプティカルフローを算出し、かつ該少なくとも1組の断層画像のそれぞれに関連付けられた該位置情報と該算出されたオプティカルフローとを用いて該平面を決定するように構成されている、上記[1]に記載のコンピュータプログラム。
[3]前記手段(M2)が、
該断層画像群に含まれる少なくとも1つの断層画像を画像表示手段に表示させ、
該表示された1つの断層画像または複数の断層画像を用いて、該2つの構造体のそれぞれについて、輪郭線近傍の点を少なくとも2つユーザに選択させ、該選択された点を受け取り、
該選択された点のそれぞれについて、該点を選択された断層画像に近接する断層画像において、該選択された点に対応する点を特定し、かつ、
該選択された点および該特定された点に基づいて、該2つの構造体のそれぞれについて、表面形状の一部分を近似する平面を決定するように構成されている、
上記[1]または[2]に記載のコンピュータプログラム。
[4]前記手段(M1)が、ユーザの入力に少なくとも部分的に基づいて、与えられた複数の断層画像から前記断層画像群を決定する手段を有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
[5]コンピュータを更に、
(M3)三次元空間内において前記手段(M2)により決定された2つの平面同士が交わる直線を決定し、該決定された直線に関する一方の平面から他方の平面への回転角度を算出し、かつ該算出された回転角度を該2つの構造体の相対角度として出力する手段
として機能させるための、上記[1]~[4]のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
[6]対象物内において互いに近傍にある2つの構造体の相対的な配向性を決定するための装置であって、上記[1]~[5]のいずれかに記載のコンピュータプログラムが機能するように構成されたコンピュータを含む、前記装置。
[7](M4)対象物内の断層画像を取得するための手段
を更に有する、上記[6]に記載の装置。
[8]前記手段(M4)が、光コヒーレンストモグラフィーデバイスである、上記[7]に記載の装置。
[9]該光コヒーレンストモグラフィーデバイスが、蝸牛内側面およびライスネル膜の断層画像を取得できるように構成されたものである、上記[8]に記載の装置。
[10]対象物内において互いに近傍にある2つの構造体の相対的な配向性を決定するための方法であって、
(S1)該対象物内における位置情報が関連付けられており、かつ該2つの構造体が現れる断層画像を、少なくとも2つ含む断層画像群を用意する工程、および、
(S2)該断層画像群に基づいて、三次元空間内において該2つの構造体のそれぞれの表面形状の一部分を近似する平面を決定する工程
を含み、該決定された2つの平面に基づいて該相対的な配向性が決定される、前記方法。
[11]前記工程(S2)が、該断層画像群に含まれる少なくとも1組の断層画像の間のオプティカルフローを算出し、かつ該少なくとも1組の断層画像のそれぞれに関連付けられた該位置情報と該算出されたオプティカルフローとを用いて該平面を決定することを含む、上記[10]に記載の方法。
[12]前記工程(S2)が、
該断層画像群に含まれる少なくとも1つの断層画像を画像表示手段に表示させ、
該表示された1つの断層画像または複数の断層画像を用いて、該2つの構造体のそれぞれについて、輪郭線近傍の点を少なくとも2つ選択し、
該選択された点のそれぞれについて、該点を選択された断層画像に近接する断層画像において、該選択された点に対応する点を特定し、かつ、
該選択された点および該特定された点に基づいて、該2つの構造体のそれぞれについて、表面形状の一部分を近似する平面を決定することを含む、
上記[10]または[11]に記載の方法。
[13]該断層画像が、光コヒーレンストモグラフィーデバイスを用いて取得されたものである、上記[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14](S3)三次元空間内において前記工程(S2)により決定された2つの平面同士が交わる直線を決定し、該決定された直線に関する一方の平面から他方の平面への回転角度を算出し、かつ該算出された回転角度を該2つの構造体の相対角度として決定する工程
を更に含む、上記[10]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]該2つの構造体が蝸牛内側面およびライスネル膜である、上記[10]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]蝸牛内側面およびライスネル膜を該2つの構造体として上記[14]に記載の方法を用いることにより、蝸牛内側面とライスネル膜との相対角度を決定する工程を含み、該相対角度に基づいて内リンパ水腫が診断される、哺乳動物における内リンパ水腫の診断を補助する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蝸牛軸に対して平行なデータ取得を行う必要がなく、たとえどのような方向の切断面であっても、そしてその切断面上で蝸牛内側面とライスネル膜とが歪曲された角度で見えていたとしても、両組織の表面形状の一部分を三次元的に近似することで正しい相対角度を算出できる。加えて、本発明によれば、蝸牛軸までの深さの断層画像がなくても、蝸牛の外側の部分的な画像を用いて問題なくライスネル膜の偏移を評価できる。従って、本発明を用いることで、生きている動物の蝸牛に基づいて内リンパ水腫を評価することが可能となる。更に、従来技術では手順が複雑であったのに対し(例えば、マウスでは固定に数時間、脱灰に7日間、切片化・染色に数日を要し、ヒトでは固定に1ヶ月以上を要する。)、本発明では、画像取得後に容易に数値化して、コンピュータ上で解析を行うことができるので、簡便性、迅速性、経済性に優れる。また、解析用のプログラムは、一般に入手できる既存のライブラリを利用して構成することができる。
本発明を用いることでin vivoで内リンパ水腫を診断することが可能となるので、投薬が、あるいは内耳障害を起こすような刺激(例えば、強大音や圧外傷)が内リンパ水腫を引き起こすことをリアルタイムに観察できる。本発明を用いることで、これまで診断が不可能であった一時的な内リンパ水腫の状態についても観察可能になり、これまで分からなかった内リンパ水腫の病態を明らかにするためのツールになる。本発明はまた、内リンパ水腫に対する治療法の開発のための動物実験モデルの評価にも用いることが出来る。
本発明は、蝸牛のみならず、断層画像を取得できる対象物(例:生体)内のあらゆる組織または構造体に対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明における「相対的な配向性」および「相対角度」を説明するための図である。(b)は(a)における点Aの付近の拡大図である。
【図2】例示的な実施形態による本発明の装置の構成を示す図である。
【図3】例示的な実施形態による本発明に従う相対的な配向性の決定の手順のフローチャートを示す図である。
【図4】マウス蝸牛のOCT断層画像に本発明のコンピュータプログラムを適用した画像の一例である。
【図5】本発明の方法により算出した、ライスネル膜と蝸牛内側面との角度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。

【0015】
(定義)

【0016】
本明細書において「対象物」としては例えば生体が挙げられるが、それに限定されない。生体としては、例えば、動物(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウマ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、ウサギ等の哺乳動物、およびその他の脊椎動物)および植物の体が挙げられる。対象物は、相対的な配向性を決定する対象である2つの構造体を少なくとも有するものであり、それ以外の構成要素を有していてもよい。

【0017】
本明細書において「構造体」とは、特定の形状を有する物理的実体である限り、特に限定されない。構造体は、例えば、生体の組織である。構造体は、対象物の内部にあってもよいし、対象物の表面の一部分を形成していてもよい。本発明において相対的な配向性を決定する対象である「互いに近傍にある2つの構造体」は、1つの断層画像中にいずれの構造体も少なくともその一部分が現れる程度に近接して存在するものであれば特に限定されない。該2つの構造体は、互いに接触していてもよい。

【0018】
より具体的には、該2つの構造体として、例えば、蝸牛内側面とライスネル膜が挙げられる。上述の通り、メニエール病、低音障害型感音難聴、レルモワイエ症候群、遅発性内リンパ水腫等と内リンパ水腫との関連性が示唆されており、また内リンパ水腫を伴う蝸牛においては中央階の著明な拡張により蝸牛内側面とライスネル膜との相対的な角度の変化が観察されるので、蝸牛内側面とライスネル膜との相対的な配向性を決定することで内リンパ水腫、ひいては上記のような疾患についての評価や医学的洞察が得られ得る。そのため、蝸牛内側面およびライスネル膜は、該2つの構造体として好ましい対象である。
あるいは、例えば、対象物の内部に管が配置され、その管の内壁に弁が固定されている場合、管の内壁と弁との固定部位周辺の断層画像を取得することにより、対象物を破壊することなく、非侵襲的に管の内壁と弁との角度を決定することができる。

【0019】
本明細書において「相対的な配向性」とは、一方の構造体の向きと他方の構造体の向きとの関係性をいい、通常、両構造体が互いに近接する位置の周囲の空間において、一方の構造体の外形が作る面が、他方の構造体の外形が作る面に対して、どのような方向性で広がっているかとして把握することができる。該相対的な配向性は、定量的なもの(例えば、後述するようにして定義される相対角度)として与えられてもよいし、定性的なものとして与えられてもよいし、あるいは視覚的な情報(例えば、両構造体の相対的な配向性の指標となる三次元モデルのディスプレイ上への表示)として与えられてもよい。

【0020】
2つの構造体間の相対角度は以下の通りに定義できる。
例えば、2つの構造体TおよびTが互いに接触しており、従って両構造体の外形同士が接触するある線lが形成されている場合を考える(図1)。線l上の一点Aに着目すると、点Aの近傍において両構造体の外形はそれぞれ平面SおよびSとして近似でき、外形同士が接触する線は直線l’として近似できる。平面SおよびSは、好ましくは、点Aを通るそれぞれ構造体TおよびTの接平面である。直線l’に関する平面Sから平面Sへの回転角度θを、点A近傍における両構造体の相対角度として定義することができる。平面SおよびSや回転角度θは、本発明に従って決定され得る。
なお、線l上の点Aの選択に応じて得られる相対角度は変動するが、解析の対象や目的に従って、当業者は着目すべき位置を適切に決定することができる。また、生体内の構造体の形状変化は一般に滑らかであるので、微小空間内であれば着目する位置によらずに一定の相対角度が得られ得る。従ってまた、両構造体の外形同士が接触する線l上の点Aを選択する代わりに、図1に示されるように、点Aの近傍にある構造体Tの外形上(またはその近く)の1点Aと、点Aの近傍にある構造体Tの外形上(またはその近く)の1点Aを選択し、それぞれ点A、Aの近傍における構造体TおよびTの外形を近似する平面S、Sを決定してもよい。
あるいは、必要に応じて、複数の点を選択して相対角度をそれぞれ求めた後、得られた複数の相対角度を平均する等して、2つの構造体の相対角度を決定してもよい。
また、2つの構造体TおよびTが互いに近傍にあるが、接触していない場合についても、例えば、両構造体の近くの位置にある一点Aを定め、上記と同様に、点Aの近傍にある構造体Tの外形上(またはその近く)の1点Aと、点Aの近傍にある構造体Tの外形上(またはその近く)の1点Aを選択し、それぞれ点A、Aの近傍における構造体TおよびTの外形を近似する平面S、Sを決定し、更に生成された2つの平面が互いに交差するように両平面を伸長することにより、両構造体が接触している上記の場合と同様にして相対角度を定義することができる。

【0021】
本明細書において「断層画像」は、本発明による解析が可能である限り、いかなる手段を用いて得られたものであってもよい。断層画像を取得する手段としては、例えば、光コヒーレンストモグラフィー法(OCT)、核磁気共鳴画像法(MRI)、X線コンピュータ断層撮影法(X線CT)、または超音波撮影法(エコー)等によるものが挙げられる。
これらのうち、生体に対する侵襲性が低く、かつ高解像度の断層画像を取得することができる等の利点から、OCTを用いる手段が好ましい。OCTとしては、タイムドメインOCT(time-domain OCT、TD-OCT)であってもよいし、フーリエドメインOCT(Fourier-domain OCT、FD-OCT)であってもよいが、より高速かつ高感度のデータ取得が可能という点から、FD-OCTが好ましい。FD-OCTとしては、スペクトラルドメインOCT(Spectral-domain OCT、SD-OCT)および波長掃引型OCT(Swept source OCT、SS-OCT)が挙げられ、データ取得の高速性や深達度の点から、SS-OCTが好ましいものとして例示される。OCTデバイス、または上記の各種手段のためのデバイスとしては、市販されているものを用いることができる。

【0022】
断層画像の取得は、標準的な教科書や用いる機器のマニュアル等に従って通常の手順で行うことができる。例えば、OCTデバイスを用いた蝸牛の断層画像の取得手順は後述の実施例、および上記非特許文献2に説明されており、例えば以下の設定を用いることができる:光源波長としてよく用いられるのは800-1400nm(実施例では1300nm)、スキャン周波数は最大200KHz(実施例では16kHzだが、対象が動かないならもっと遅くても良い)。対物レンズを用いて対象物にレーザー光を照射する方法や(実施例で使用)、二重構造のファイバーで内側のものだけが回転し、内側のファイバーを通った光が先端のレンズで反射して外側の窓から照射されることでOCT画像を得る方法などを用いることが出来る。
なお、対象がヒトである等、侵襲性がより問題となる場合においては、例えば、鼓膜を切除した上で中耳を経由してOCTプローブを挿入し、画像を取得すればよい。

【0023】
本発明において用いるための「断層画像群」は、対象物内における位置情報が関連付けられており、かつ上記2つの構造体が現れる少なくとも2つの断層画像を含む。
上記の「対象物内における位置情報」とは、断層画像が対象物のどの位置の断層面を表すものかを示す情報であり、従って断層画像中の各点は対象物中(またはその外側)のどの位置に対応するかが分かっている。該位置は相対的なものであってよく、即ち、該断層画像群に含まれる一つの画像中の任意の一点と他の画像中の任意の一点の相対的な位置関係(即ち、ベクトルの長さと方向)が既知であればよい。
上記の「2つの構造体が現れる」とは、断層画像中に各構造体の少なくとも一部分が見られることを意味する。
該断層画像群に含まれる断層画像の個数としては、具体的な解析対象や画像セット等に応じて異なるが、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ以上である。画像数の上限としては、異なる画像を実際に取得でき、また本発明に従う処理のためにそれらを用いることができる限り限定されないが、例えば512個である。また、該断層画像群に含まれる複数の画像は、シグナルノイズ比が良好であり、かつ画像間に大きな位置のずれがないことが好ましい。

【0024】
その他の用語の定義または説明は、以下において必要に応じて与えられる。

【0025】
(コンピュータプログラムおよび装置)

【0026】
次に、本発明による上記2つの構造体の相対的な配向性を決定するためのコンピュータプログラム(以下、「本発明のコンピュータプログラム」ともいう。)および装置(以下、「本発明の装置」ともいう。)について説明する。以下では特に本発明の装置について図面を参照しながら説明するが、本発明のコンピュータプログラムは、本発明の装置が有する機能を実行するためのコンピュータプログラムであるので、本発明の装置の説明に従って構成することができる。

【0027】
図2は、例示的な実施形態による本発明の装置の構成を示す図である。本発明の装置は、(M1)該対象物内における位置情報が関連付けられており、かつ該2つの構造体が現れる断層画像を、少なくとも2つ含む断層画像群を受け取る手段、および、(M2)該断層画像群に基づいて、三次元空間内において該2つの構造体のそれぞれの表面形状の一部分を近似する平面を決定する手段を少なくとも有するものであり、好ましい実施形態においては、図2に示されるように、手段(M2)による三次元空間内における平面の決定に基づいて、該2つの構造体の相対的な配向性を両構造体の相対角度として算出し、それを出力するための上記の手段(M3)を更に有してもよい。手段(M1)、(M2)および(M3)は、図2に示されるように1台のコンピュータ内に実装されていてもよいし、あるいは複数のコンピュータを用いて実行されるように構成されていてもよい。
また、同様に図2に示されるように、(M4)対象物内の断層画像を取得するための手段(断層画像取得手段)も本発明の装置の構成に含めてもよい。手段(M4)としては、本明細書において上述したものを用いることができる。更に、図示しない各種の入力手段や出力手段(例:ディスプレイ、プリンター等)もまた、本発明の装置の構成要素としてもよい。

【0028】
上記の手段(M1)は、手段(M2)による解析に供すべき断層画像群を受け取る手段であり、各用語の定義については上述した通りである。該断層画像群の受け取りは、ハードディスクドライブや外部記憶装置(例:CD-ROM等)等の補助記憶装置に記録された、予め取得された複数の断層画像のデータを読み出すものであってもよいし、あるいは、断層画像取得手段(M4)により取得される断層画像をリアルタイムで受け取るものであってもよい。

【0029】
手段(M1)は、手段(M2)による解析のために適切な断層画像群が選択されるべく、ユーザの入力に少なくとも部分的に基づいて、与えられた複数の断層画像から前記断層画像群を決定する手段を有することが好ましい。そのような手段は、例えば、候補となる複数の断層画像を画像表示手段に表示させ、該表示された画像から、手段(M2)による解析のために用いられるべき少なくとも1つの画像をユーザに選択させるように構成され得る。該手段は、手段(M2)により用いられる全ての画像がユーザにより選択されるように構成されていてもよいし、あるいは、ユーザが選択した画像に基づいて、予め設定された基準(例えば、既に選択された画像の断層面に対する位置関係の観点での基準)に従って他の画像を自動または半自動(即ち、ユーザへの提示および確認)で選択するように構成されていてもよい。

【0030】
上記の手段(M2)は、手段(M1)により決定された断層画像群に基づいて、三次元空間内において上記の2つの構造体のそれぞれの表面形状の一部分を近似する平面を決定する手段である。該平面は、図1を参照して上述した平面SおよびSであってよい。これらの平面は、着目する一点A(または二点AおよびA)の近傍においてそれぞれ構造体TおよびTの外形を近似する平面である。複数の断層画像に基づくこのような平面の決定は、それ自体公知の技術を用いて行うことができる。そのような技術としては、以下に限定されないが、例えば、オプティカルフロー法に基づく後述の手法、断層画像から三次元ボリュームデータを創り出し、そこから連続するオブジェクトを抽出して平面近似する手法等が挙げられる。なかでも、処理が高速で、結果の信頼性が高いという点から、オプティカルフロー法に基づく後述の手法が好ましい。
また、手段(M2)は、該平面を決定する処理を行う前に、解析に用いる断層画像群に対して、bilateral filterやcolumn filter等の一般に用いられるフィルタリングを適用して画像のノイズを低減するように構成されていることが好ましい。

【0031】
オプティカルフロー法に基づく前記の平面の決定は、以下の一般的手順:上記の断層画像群に含まれる少なくとも1組の断層画像の間のオプティカルフローを算出し、かつ該少なくとも1組の断層画像のそれぞれに関連付けられた上記位置情報と該算出されたオプティカルフローとを用いて該平面を決定する、に従って行うことができる。
上述の通り、該手法は、互いに近接する断層画像中では各構造体は常に画像内の近傍に現れるはずであるという仮定に基づくため、該1組の断層画像は互いに近接する断層面を表す画像であることが好ましい。特に好ましい実施形態では、該1組の断層画像は、互いに平行な隣接する断層画像である。なお、本明細書において、断層画像同士が近接または隣接するとは、各断層画像が表す断層面同士が互いに近接または隣接することを意味する。
上記の仮定が成立する場合、該1組の断層画像の一つにおける各構造体の各点は、他方の断層画像における該構造体中のいずれかの点と連続しているものとして対応付けることができる。一方の画像中の各点が他方の画像中でどの位置に移動したかを一連のベクトル(フローベクトル)で表すことにより、オプティカルフロー(即ち、フローベクトルの分布)を算出することができる。なお、本明細書において、1組の断層画像の間のオプティカルフローを算出することは、一つの画像中の全ての点について上述のフローベクトルを算出することにより該画像全体にわたるフローベクトルのマップを生成することを必ずしも必要とせず、少なくとも1つのフローベクトルを決定することを意味する。

【0032】
オプティカルフローの算出は、例えば、動画中の移動体追尾の分野において用いられている各種の手法を用いて行うことができる。そのような手法としては、パターン認識ベースの手法、Particle Filter、Mean Shift追跡、勾配法、等が挙げられる。

【0033】
各構造体の表面形状の一部分を近似する平面を決定するために、断層画像中の各構造体の輪郭線近傍の点(即ち、輪郭線上の点または輪郭線付近の構造体内の点)に関するフローベクトルの決定が必要である。一般に平面の決定のためには3つ以上の点が必要であるので、少なくとも1つの点(その場合、該点と、異なる画像中で該点に対応すると特定された1点に加えて、輪郭線近傍の別の1点が必要である)、より好ましくは少なくとも2つの点においてフローベクトルを決定する必要がある(それにより、該少なくとも2点と、異なる画像中でそれらの点に対応すると特定された少なくとも2点、従って合計で少なくとも4点が決定される)。平面を決定するために選択される複数の点は、一つの画像中の点であってもよいし、異なる画像中の点であってもよい。

【0034】
そのような点は、例えば、画像表示手段に表示された断層画像中で該当する点をユーザに選択させることで取得することができるが、より自動化された手法を用いてもよい。従って、手段(M2)は、断層画像群に含まれる少なくとも1つの断層画像を画像表示手段に表示させ、表示された画像において、着目する各構造体について、輪郭線近傍の少なくとも2つの点をユーザに選択させ、選択された点を受け取るように構成されていてもよい。手段(M2)は、そのようにして選択された点のそれぞれに対して、上記の手法を適用して、該点を選択された断層画像に近接する断層画像において、該選択された点に対応する点を特定するように構成され得る。該近接する断層画像は、各断層画像に関連付けられた位置情報に基づいてユーザにより選択されてもよいし、あるいは該位置情報に基づいて手段(M2)により自動または半自動(即ち、ユーザへの提示および確認)で選択されてもよい。

【0035】
手段(M2)は、例えば上述のようにして選択された、ある断層画像中において着目する構造体の輪郭線近傍の少なくとも2点と、別の断層画像においてそれらに対応すると特定された少なくとも2点に基づいて、該構造体の表面形状の一部分を近似する平面を決定する。該平面の決定のために用いられる点のセットは、少なくとも大部分が該構造体の輪郭線近傍の点であることが好ましい。該平面の決定は、例えば最小二乗法等を用いて、それら全ての点(いずれの点も、三次元空間内での位置が既知である。)を通る一つの平面を近似することにより行うことができる。2つの構造体のそれぞれに対して同様の手順を行うことで、目的とする2つの平面が決定される。

【0036】
上記の手段(M3)は、手段(M2)により決定された2つの平面の間の相対角度を算出し、それを出力するための手段である。相対角度の定義を上記に示しており、当業者は該2つの平面に基づいて該角度を決定することができる。

【0037】
(方法)
本発明はまた、対象物内において互いに近傍にある2つの構造体の相対的な配向性を決定するための方法(以下、本発明の方法(I)ともいう。)を提供する。図3に、該方法の例示的な実施形態のフローチャートを示す。本発明の方法(I)は、上記の工程(S1)および(S2)を少なくとも含み、図3に示す通り、好ましい実施形態では、工程(S2)により決定された2つの平面に基づいて、構造体間の相対角度を決定する上記の工程(S3)を含む。また、(S4)対象物内の断層画像を取得する工程も本発明の方法に含めてもよい。

【0038】
上記の工程(S1)は、工程(S2)における解析に供すべき断層画像群を用意する工程であり、各用語の定義については上述した通りである。該断層画像群の用意は、ハードディスクドライブや外部記憶装置(例:CD-ROM等)等の補助記憶装置に記録された、予め取得された複数の断層画像のデータを読み出すものであってもよいし、あるいは、工程(S4)により取得される断層画像をリアルタイムで受け取るものであってもよい。

【0039】
工程(S1)は、工程(S2)における解析のために適切な断層画像群が選択されるべく、ユーザの入力に少なくとも部分的に基づいて、与えられた複数の断層画像から前記断層画像群を決定する工程を有することが好ましい。そのような工程は、本発明の装置の手段(M1)に関する上記説明に従って行うことができる。

【0040】
上記の工程(S2)は、工程(S1)により決定された断層画像群に基づいて、三次元空間内において上記の2つの構造体のそれぞれの表面形状の一部分を近似する平面を決定する工程である。該平面は、図1を参照して上述した平面SおよびSであってよい。これらの平面は、着目する一点A(または二点AおよびA)の近傍においてそれぞれ構造体TおよびTの外形を近似する平面である。複数の断層画像に基づくこのような平面の決定は、それ自体公知の技術を用いて行うことができ、例えば、本発明の装置の手段(M2)を用いて行うことができる。

【0041】
上記の工程(S3)は、工程(S2)により決定された2つの平面の間の相対角度を算出する工程である。相対角度の定義を上記に示しており、当業者は該2つの平面に基づいて該角度を決定することができる。

【0042】
本発明はまた、哺乳動物における内リンパ水腫の診断を補助する方法(以下、本発明の方法(II)ともいう。)を提供する。該方法は、本発明の方法(I)を蝸牛内側面とライスネル膜との相対的な配向性の決定のために適用することで得られる相対的な配向性に基づいて内リンパ水腫を評価することにより行うことができる。内リンパ水腫は、様々な疾患で、様々な程度のものが存在すると考えられているので定量的な評価が好ましく、従って該相対的な配向性は両組織の相対角度であることが好ましい。ここで、相対角度に基づく内リンパ水腫の評価は、例えば、内リンパ水腫を有しないことが既知である個体からの蝸牛の断層画像に基づいて本発明の方法(I)により算出した相対角度と、被験対象とする個体からの蝸牛の断層画像に基づいて本発明の方法(I)により算出した相対角度とを比較することにより行うことができる。また、多数の正常個体および多数の内リンパ水腫罹患個体の蝸牛の断層画像に基づいて、内リンパ水腫の罹患の指標となる相対角度の閾値または正常範囲を決定し、被験対象とする個体について求めた相対角度を該閾値または正常範囲と比較することにより評価してもよい。その場合、該閾値または正常範囲からの逸脱の大きさを利用して、内リンパ水腫の程度を判断してもよい。

【0043】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されない。
【実施例】
【0044】
実施例1:OCT画像からの、正常マウスおよび内リンパ水腫モデルマウスにおける蝸牛内側面とライスネル膜との相対角度の決定
【実施例】
【0045】
動物:
正常マウスとSlc26a4ノックアウトマウスを用いた。Slc26a4ノックアウトマウスは重篤な内リンパ水腫を引き起こすことが知られている。
方法:
(1)OCT画像の取得
生体、摘出、および摘出脱灰の蝸牛に対して解析を行った。
[生体蝸牛の場合]麻酔薬の腹腔内投与によって全身麻酔をかけ、耳の後ろを切開して蝸牛を覆うブラと呼ばれる薄い骨を除去すると、蝸牛の骨が露出される。血液を拭き取り、少量の水またはグリセロールを垂らして表面を湿潤かつ平滑な状態にしておいてOCTプローブの下に静置し、画像を取得した。
[摘出蝸牛の場合]開心還流固定の後、内耳を摘出し、OCTプローブの下に静置してOCT画像を取得した。
[脱灰蝸牛の場合]固定に加えて、内耳を4℃の10% EDTA内で7日間振盪することで脱灰を行ったあと、OCTプローブの下に静置して画像を取得した。
なお、OCTシステムとしては、OCS1300SS OCT system (Thorlabs社製、米国)を用い、中心波長1300nm、スペクトルバンド幅100nm、平均出力10mWの条件で測定した。
(2)角度測定
専用プログラムでデータを読み込み、bilateral filter、column filterでノイズ低減処理、著しくずれた画像の除去を行った後、シリーズとして表示した。
1つの断面を選択し、蝸牛第2回転で内側面にライスネル膜が付着する1点(点Aとする)、点A近傍の蝸牛内側面に2点、点A近傍のライスネル膜に2点を指定し、optical flow法(より具体的には、特徴量として画像中の小領域そのものを用い、異なる画像間で類似の小領域を探し出す、テンプレートマッチングによるオプティカルフロー推定を利用した。)で前後数枚の画像から点Aにおいて蝸牛内側面に接する面と、点Aを通って点A近傍のライスネル膜に接する面を最小二乗法により同定し、2つの面のなす角の大きさを計算した。一つの蝸牛についてランダムに選択した3点で上記の計算により角度を取得し、その平均を算出した。
選択した断層画像に同定された2つの面との交線を表示した画像を、図4に示す。(a)は正常マウス、(b)はノックアウトマウスについての画像である。
【実施例】
【0046】
結果:
正常マウス(n=4)およびSlc26a4ノックアウトマウス(n=3)について算出された角度を下記表1に示す。
【実施例】
【0047】
【表1】
JP2015175785A_000002t.gif

【実施例】
【0048】
更に、正常マウス(n=4)、Slc26a4ノックアウトマウス(n=3)のそれぞれについて、算出された角度の平均を図5に示す。求めた角度は、正常マウス(n=4)とSlc26a4ノックアウトマウス(n=3)では有意差をもってノックアウトマウスの方が小さかった(p=0.0002)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4