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明細書 :洞察力発揮状態判定装置及び洞察力発揮状態判定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-217098 (P2015-217098A)
公開日 平成27年12月7日(2015.12.7)
発明の名称または考案の名称 洞察力発揮状態判定装置及び洞察力発揮状態判定方法
国際特許分類 A61B   5/0476      (2006.01)
FI A61B 5/04 320A
A61B 5/04 322
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 26
出願番号 特願2014-102395 (P2014-102395)
出願日 平成26年5月16日(2014.5.16)
発明者または考案者 【氏名】中川 匡弘
【氏名】島田 悟
【氏名】揖斐 拓人
【氏名】角田 拓也
【氏名】能西 豊茂
【氏名】本井 俊博
出願人 【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】100091443、【弁理士】、【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
【識別番号】100130720、【弁理士】、【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
【識別番号】100130432、【弁理士】、【氏名又は名称】出山 匡
【識別番号】100186819、【弁理士】、【氏名又は名称】酒井 俊尚
審査請求 未請求
テーマコード 4C027
Fターム 4C027AA03
4C027GG11
4C027KK03
要約 【課題】脳波から「洞察有」と「洞察無」とを判定することができる洞察力発揮状態判定装置を提供する。
【解決手段】洞察力発揮状態判定装置は、帯状回前部平均フラクタル次元演算部1と、帯状回後部平均フラクタル次元演算部2と、座標点軌跡作成部3と、特徴量記憶部4と、洞察力発揮判定部5とを備えている。座標点軌跡作成部3は、帯状回前部平均フラクタル次元及び帯状回後部平均フラクタル次元の一方の値を横軸座標値として他方の値を縦軸座標値として定まる座標点を時系列でプロットして得られる座標点軌跡を作成する。洞察力発揮判定部5は、座標点軌跡を利用して、洞察力発揮の有無を判定する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者の脳の帯状回前部に対応する表面領域に配置された複数の電極から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回前部平均フラクタル次元を演算する帯状回前部平均フラクタル次元演算部と、
前記被験者の脳の帯状回後部に対応する表面領域に配置された複数の電極から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回後部平均フラクタル次元を演算する帯状回後部平均フラクタル次元演算部と、
前記帯状回前部平均フラクタル次元及び前記帯状回後部平均フラクタル次元の一方の値を横軸座標値として他方の値を縦軸座標値として定まる座標点を時系列でプロットして得られる座標点軌跡を作成する座標点軌跡作成部と、
1以上の基準者が洞察力を発揮しているときに得た1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量について予め記憶する特徴量記憶部と、
前記座標点軌跡作成部から得た前記座標点軌跡から時系列でサンプリングした判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量と、前記モデル座標点軌跡部分の前記形状の特徴量とが近似しているか否かを判定し、その判定結果から前記被験者が洞察力を発揮したか否かを判定する洞察力発揮判定部とを備えていることを特徴とする洞察力発揮状態判定装置。
【請求項2】
前記洞察力発揮判定部は、所定の時間幅を有するハニング窓で前記座標点軌跡から前記判定対象軌跡部分を含むサンプリングデータを順次サンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリングデータ中の前記判定対象軌跡部分から得た前記形状の特徴量を演算する特徴量演算部と、
前記判定対象軌跡部分から得た前記形状の特徴量が、前記特徴量記憶部に記憶された前記1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量と類似しているか否かを判定する類似判定部とを備えている請求項1に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項3】
前記1以上の基準者が、前記被験者である請求項1または2に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項4】
前記1以上の基準者は、洞察力を意図的に発揮できる者である請求項1または2に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項5】
前記1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量は、前記座標点軌跡に現れる軌跡部分の形状がV字状またはU字状のように方向が反転するターン形状であることを判断できるものである請求項1に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項6】
前記特徴量演算部は、前記座標点軌跡を複素平面に置いたときの前記判定対象軌跡部分の成分をフーリエ変換した結果を二乗して得たかたちのパワースペクトルを前記形状の特徴量として演算するように構成されている請求項2に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項7】
前記特徴量記憶部には、モデル座標点軌跡部分を複素平面に置いたときの前記モデル座標点軌跡部分の成分をフーリエ変換した結果を二乗して得た基準パワースペクトルが、前記モデル座標点軌跡部分の形状の特徴量として記憶されている請求項6に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項8】
前記類似判定部は、前記かたちのパワースペクトルと前記基準パワースペクトルとの間のKL情報量を、前記判定対象軌跡部分から得た前記形状の特徴量と前記1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量との類似度とするように構成されている請求項2に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項9】
前記類似判定部は、前記nかたちのパワースペクトルの確率分布と前記基準パワースペクトルの確率分布の差が0に近いほど前記判定対象軌跡部分から得た前記形状の特徴量と前記1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量との類似度が高いものと判定する請求項5に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項10】
前記類似判定部は、判定基準としてニューラルネットワークを用いて洞察力発揮状態を判定するように構成されており、
前記ニューラルネットワークはその内部状態が、前記基準者から得た洞察有の場合のKL情報量と洞察無の場合のKL情報量に対応する教師信号を用いて学習を行って構成されており、被験者のKL情報量を入力として、洞察の有無を判定するように構成されている請求項8に記載の洞察力発揮状態判定装置。
【請求項11】
被験者の脳の帯状回前部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の電極から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回前部平均フラクタル次元を演算する帯状回前部平均フラクタル次元演算ステップと、
前記被験者の脳の帯状回後部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の電極から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回後部平均フラクタル次元を演算する帯状回後部平均フラクタル次元演算ステップと、
前記帯状回前部平均フラクタル次元及び前記帯状回後部平均フラクタル次元の一方の値を横軸座標値として他方の値を縦軸座標値として定まる座標点を時系列でプロットして得られる座標点軌跡を作成する座標点軌跡作成ステップと、
1以上の基準者が洞察力を発揮しているときに得た1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量と、前記座標点軌跡作成ステップで得た前記座標点軌跡から時系列でサンプリングした判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量とが近似しているか否かに基づいて、前記被験者が洞察力を発揮したか否かを判定する洞察力発揮判定ステップとをコンピュータを用いて実施することを特徴とする洞察力発揮状態判定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波から「洞察有」と「洞察無」とを判定することができる洞察力発揮状態判定装置及び洞察力発揮状態判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1「「Aha!」の瞬間に関連した脳磁場の計測」には、脳磁計を用いた実験から、パズルゲームを行ったときに、「洞察有」のときと「洞察無」のときとで、被験者の帯状回前部の脳磁場に差が表れることが記載されている。ここで「洞察有」の場合とは、論理思考等により「発見」という内観を伴うものであり、「洞察無」とは、単純探索だけで「発見」という内観を伴わないものである。
【0003】
また非特許文献1と同様に脳磁計を用いて、パズルゲームを行ったときに、「洞察有」のときと「洞察無」のときとで、被験者の帯状回前部の脳磁場に差が表れることについては、「国際意識科学会 ASSC14」のポスターセッション発表でも「Magnetoencephalography(MEG) in Sudoku-puzzle solving task」と題して公表されている(http://www.theassc.org/files/assc/Full_ASSC_Program_With_Abstracts.pdf)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】社団法人映像情報メディア学会技術報告「「Aha!」の瞬間に関連した脳磁場の計測」ITE Technical Report Vol.26,No.30., P43~P48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら脳磁場を計測する脳磁計は、設備が大がかりである上、高価である。そのため簡単且つ安価に「洞察有」と「洞察無」を判定する装置の開発が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、脳波から「洞察有」と「洞察無」とを判定することができる洞察力発揮状態判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、脳波から「洞察有」と「洞察無」とを判定することができないかについて研究を行った。その結果、特に被験者の脳の帯状回前部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の電極から測定した複数の脳波信号から得た二つの脳波信号の差信号より算出したフラクタル次元と被験者の脳の帯状回後部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の電極から測定した複数の脳波信号から得た二つの脳波信号の差信号より算出したフラクタル次元との相関関係の時間変化から、被験者が洞察力を発揮したか否かを判定できることを見出した。本発明は、発明者のこの知見を基礎としてなされたものである。
【0008】
本発明の洞察力発揮状態判定装置は、具体的に、帯状回前部平均フラクタル次元演算部と、帯状回後部平均フラクタル次元演算部と、座標点軌跡作成部と、特徴量記憶部と、洞察力発揮判定部とを備えている。
【0009】
帯状回前部平均フラクタル次元演算部は、被験者の脳の帯状回前部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の電極から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回前部平均フラクタル次元を演算する。
【0010】
帯状回後部平均フラクタル次元演算部は、被験者の脳の帯状回後部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の電極から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回後部平均フラクタル次元を演算する。なお複数の電極は、被験者の頭部に接触するように配置される。
【0011】
座標点軌跡作成部は、帯状回前部平均フラクタル次元及び帯状回後部平均フラクタル次元の一方の値を横軸座標値として他方の値を縦軸座標値として定まる座標点を時系列でプロットして得られる座標点軌跡を作成する。
【0012】
特徴量記憶部は、1以上の基準者が洞察力を発揮しているときに得た1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量について予め記憶する。ここで「モデル座標点軌跡部分」とは、前述の座標点軌跡作成部と同様に、1以上の基準者が洞察力を発揮しているときに得られた帯状回前部平均フラクタル次元及び帯状回後部平均フラクタル次元の一方の値を横軸座標値として他方の値を縦軸座標値として定まる座標点を時系列でプロットして得られる部分的な座標点軌跡を意味する。特徴量記憶部に記憶するモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量の数が多いほど、汎用性が高くなる。なお1以上の基準者は、洞察力を意図的に発揮できる者であるのが好ましい。洞察力を意図的に発揮できる者から得た形状の特徴量に基づいて判定することは、判定の汎用化を促進できる。なお1以上の基準者は、被験者自身であってもよい。すなわち被験者自身から事前に得たモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量を特徴量記憶部に記憶させておいてもよいのは勿論である。この場合には、本発明の装置は、被験者専用の判定装置となる。また本願明細書において、「形状の特徴量」とは、時系列で表される座標点軌跡を描くために利用されるプロット点間の成分の変化と軌跡の変化に基づいて得られる、したがって判定対象軌跡部分の形状の特徴量とは、判定対象軌跡部分中のプロット間の軌跡の成分の変化及び軌跡の形状の変化を表すのに利用可能な特徴量を意味する。またモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量とは、判定対象軌跡部分が、V字状またはU字状のように方向が反転するターン形状であることを判定することができるとともに、ターン形状の軌跡中のプロット間の成分の変化及び形状の変化が類似するものであることを判断するときの基準となるものである。本発明では、座標的軌跡から得た判定対象軌跡部分の形状の特徴量が、モデル座標点軌跡部分の形状の特徴量と類似する場合には、「洞察有」の判定を行う。
【0013】
そこで洞察力発揮判定部は、座標点軌跡作成部から得た座標点軌跡から時系列でサンプリングした判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量に、モデル座標点軌跡部分の形状の特徴量とが類似しているか否かを判定し、その判定結果から被験者が洞察力を発揮したか否かを判定する。
【0014】
具体的に、洞察力発揮判定部は、サンプリング部と、特徴量演算部と、類似判定部とから構成することができる。サンプリング部は、所定の時間幅を有するハニング窓で座標点軌跡から判定対象軌跡部分を含むサンプリングデータを順次サンプリングする。特徴量演算部は、サンプリングデータ中の判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量を演算する。類似判定部は、判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量が、特徴量記憶部に記憶された1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量と類似しているか否かを判定する。このように特徴量の類似度に基づいて判定をすると、比較的簡単な演算により、洞察力発揮の判定を行える。
【0015】
特徴量演算部は、座標点軌跡を複素平面に置いたときの判定対象軌跡部分の成分をフーリエ変換した結果を二乗して得たかたちのパワースペクトルを形状の特徴量として演算するように構成することができる。またこの場合、特徴量記憶部には、モデル座標点軌跡部分を複素平面に置いたときのモデル座標点軌跡部分の成分をフーリエ変換した結果を二乗して得た基準パワースペクトルが、モデル座標点軌跡部分の形状の特徴量として記憶されているのが好ましい。特徴量記憶部には、このようにして求めた基準パワースペクトルが、1以上のモデル座標点軌跡部に対応する分記憶されている。
【0016】
かたちのパワースペクトルの確率分布と基準パワースペクトルの確率分布の差が0に近いほど判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量と1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量との類似度が高いものと判定することができる。そこで類似判定部は、かたちのパワースペクトルと基準パワースペクトルとの間のKL情報量を、判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量と1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量との類似度とするように構成することができる。具体的には、パワースペクトルの確率密度分布として、2つのスペクトルからKL情報量(カルバック・ライブラー情報量)を求める。そしてKL情報量の値が小さいほど、すなわち0に近いほど、二つの形は類似性が高いと判定する。
【0017】
また洞察力発揮判定部の類似判定部は、判定基準としてニューラルネットワークを用いて洞察力発揮状態を判定するように構成されていてもよい。この場合、使用するニューラルネットワークはその内部状態が、基準者から得た洞察有の場合のKL情報量と洞察無の場合のKL情報量に対応する教師信号を用いて学習を行って構成されている。そして被験者のKL情報量を入力として、洞察の有無を判定するように構成されている。このようなニューラルネットを用いると、より判定精度を高めることができる。
【0018】
本発明は、洞察発揮状態判定方法として把握することができる。なおこの方法は、コンピュータを用いて実施する。本発明の方法では、帯状回前部平均フラクタル次元演算ステップと、帯状回後部平均フラクタル次元演算ステップと、座標点軌跡作成ステップと、洞察力発揮判定ステップとからなる。帯状回前部平均フラクタル次元演算ステップでは、被験者の脳の帯状回前部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の電極から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回前部平均フラクタル次元を演算する。帯状回後部平均フラクタル次元演算ステップでは、被験者の脳の帯状回後部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の電極から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回後部平均フラクタル次元を演算する。座標点軌跡作成ステップでは、帯状回前部平均フラクタル次元及び帯状回後部平均フラクタル次元の一方の値を横軸座標値として他方の値を縦軸座標値として定まる座標点を時系列でプロットして得られる座標点軌跡を作成する。そして、洞察力発揮判定ステップでは、1以上の基準者が洞察力を発揮しているときに得た1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量と、座標点軌跡作成ステップで得た座標点軌跡から時系列でサンプリングした判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量とが近似しているか否かに基づいて、被験者が洞察力を発揮したか否かを判定する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態の洞察力発揮状態判定装置の一例を、コンピュータを用いて実現する場合に、コンピュータ内に実現される機能実現手段を示すブロック図である。
【図2】脳波の測定に用いた測定用電極の配置位置を示している。
【図3】(A)は帯状回前部平均フラクタル次元の一例であり、(B)は図3(A)の微分値を示している。
【図4】6人の被験者が4色パズルゲームを行ったときで且つ洞察力が発揮されているときの脳波信号を用いて得た、座標点軌跡の例を示している。
【図5】6人の被験者が4色パズルゲームを行ったときで且つ洞察力が発揮されていないときの脳波信号を用いて得た、座標点軌跡の例を示している。
【図6】図4の特徴軌跡部分を平均化した結果(洞察有)と、図5の特徴軌跡部分を平均化した結果(洞察無)を示す図である。
【図7】モデル座標点軌跡部分のデータを増やす場合の説明に用いる図である。
【図8】モデル座標点軌跡部分のデータを増やす場合の説明に用いる図である。
【図9】かたちをスペクトル解析するための例を説明するための座標的軌跡の一例を示す図である。
【図10】「洞察有」の場合の20トライアルの平均フラクタル次元の、座標点軌跡(DACG-DPCGグラフ)の「かたちのパワースペクトル」を示す図である。
【図11】「洞察無」の場合の20トライアルの平均フラクタル次元の、座標点軌跡(DACG-DPCGグラフ)の「かたちのパワースペクトル」を示す図である。
【図12】(A)は被験者についての20トライアルの結果から得た平均フラクタル次元の微分値で時刻0から最初に現れるピークにおいて、洞察の有無を判断できることを確認したヒストグラムを示す図であり、(B)は座標点軌跡について、「かたちのパワースペクトル」を求め、予め被験者による事前の試験結果から求めた基準パワーベクトルと「かたちのパワースペクトル」との間のKL情報量を求めた結果を示す図である。
【図13】ニューラルネットワークの構成を示す図である。
【図14】ニューラルネットワークに被験者の「洞察有りのKL情報量」と「洞察無しのKL情報量」を2つの入力層に入力した場合の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面を参照して、本発明の洞察力発揮状態判定装置の実施の形態の一例について説明する。図1は、実施の形態の洞察力発揮状態判定装置の一例を、コンピュータを用いて実現する場合に、コンピュータ内に実現される機能実現手段を示すブロック図である。この洞察力発揮状態判定装置は、帯状回前部平均フラクタル次元演算部1と、帯状回後部平均フラクタル次元演算部2と、座標点軌跡作成部3と、特徴量記憶部4と、洞察力発揮判定部5とを備えている。洞察力発揮判定部5は、サンプリング部7と、特徴量演算部9と、類似判定部11とから構成されている。

【0021】
帯状回前部平均フラクタル次元演算部1は、被験者の脳の帯状回前部から測定した複数の脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を演算し、これら差信号から複数のフラクタル次元を演算し、該複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回前部平均フラクタル次元を演算する。図2は、脳波の測定に用いた測定用電極の配置位置を示している。本実施の形態では、被験者に洞察力の発揮を必要とするいわゆる公知の4色パズルゲームを行ってもらい、「洞察力あり」と「洞察力なし」を判定する。この4色パズルゲームでは、画面に4×4個の升目ブロックを表示し、4×4個のブロックのうち数カ所のブロックは無色(白色)として、残りのブロックに4色の色をランダムに表示する。被験者が、無色のブロックに入ると推測される色を、4色の色ブロックから選択すると、次のステップで無色のブロックに表示される色との一致を判断する。選択された色と、次に表示される一致した場合には、「正解」とし、一致しない場合には「不正解」とする。以下実際に行ったパズルゲームについて簡単に説明する。

【0022】
<パズルゲームについて>
4×4個の升目ブロックを用意した。この升目ブロックに4色を配置した。このときに配置ルールとして、縦・横・各隅2×2・中央2×2には同じ色が配置されないルールを課した。配置後、数箇所のブロックは灰色を上から塗り重ねる(数箇所だけ色が見えないようにする)。そして配置後、1箇所だけ白色を塗り重ねる(回答用のブロック)。この配置したブロックを利用して、以下2種類のパズルゲームを被験者に実施してもらった。

【0023】
(洞察ありゲーム)
被験者が、白色のブロックに入ると推測される色を、4色の色ブロックから選択すると、次のステップで無色のブロックに表示される色との一致を判断する。選択された色と、次に表示される一致した場合には、「正解」とし、一致しない場合には「不正解」とする。

【0024】
(洞察なしゲーム)
4×4個のブロックとは別に4色の色ブロックを表示する。問題ごとに4色の色ブロックの中から1色だけランダムに選択され、この色が中央2×2ブロックの中に表示されているか判断する。

【0025】
このゲームを繰り返し行っている間に、被験者の頭皮の脳の帯状回前部に対応する頭部表面の領域に配置した複数の測定用電極Fp1,Fp2、F3,F4、F7、F8及びFzの出力から複数の脳波信号を測定する。そしてゲームのトライアル中において、正解したときの複数の脳波信号だけを解析対象とする。なお解析対象の脳波信号は、正解の色を選択したときから遡って-500msec内の信号とする。この500msecの期間を定めたのは、この時間内において洞察力の有無を判定できることが確認されているためである。なお期間の確認は、非特許文献1における脳磁場を用いて洞察力を判定する場合においても、確認されている。

【0026】
脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を演算する。例えば、nチャンネル(nは2以上の整数)の脳波信号からチャンネル間の差分信号を生成するために、nC2=n×(n-1)×(1/2)の差分信号を下記の式で生成する。

【0027】
yi,j(t)=xj(t)-xi(t)
但しxはnチャンネルの脳波信号、tは時間、yは差分信号である。

【0028】
そしてこれら差信号から複数のフラクタル次元を演算する。脳波はフラクタル性を有しているため、特徴量としてフラクタル次元を用いて、複雑性を定量化する。本実施の形態では、フラクタル次元として自己アフィンフラクタル次元を演算する。自己アフィンフラクタル次元の演算は、自己アフィンフラクタル次元の推定値Dとした場合、D=2-Hの演算式を用いて演算する。この式において、HはHurst指数である。Hurst指数は、下記の式によって導かれる。すなわち自己アフィンフラクタル次元がDである時刻tにおける脳波信号の時系列データf(t)と時刻τだけ離れた脳波信号の時系列データf(t+τ)のα次のモーメントは以下の式(1)のように表される。
【数1】
JP2015217098A_000003t.gif

【0029】
もし解析データが一様なフラクタル性を有するならば、Hurst指数Hはモーメントの次数αに依存しない。このときHurst指数Hは、以下の式(2)で求められる。
【数2】
JP2015217098A_000004t.gif

【0030】
本実施の形態では、上記式においてα=2の場合の時系列データの分散のスケーリング特性を求め、この分散のスケーリング特性から自己アフィンフラクタル次元を推定する。したがって自己アフィンフラクタル次元の推定値Dは、上記式でα=2、τ=26及び27とした場合に求められるHurst指数Hを用いて、D=2-Hの演算式を用いて演算する。なお解析窓幅は、1msとする。

【0031】
なおτについては、理論的には被験者ごとに定めることになるが、一般的には26または27の値を用いることができることが発明者によって確認されている。ちなみに、τは以下の手順で決定する。チャンネル数をnとした場合には、n×(n-1)×(1/2)個の時系列データの集合の正解数Nにわたる統計平均を計算する。この集合をSと置く。次に正解1~正解Nに対応する時系列データ集合をS~Sとおき、Si(i=1~N)に含まれる各時系列データとSに含まれる各時系列データの相関係数を算出する。そして相関係数の総和が大きいほうから10個を選出する。nチャンネル×10トライアルにわたる相関係数の総和が最も大きいときのτを代表値として選択する。洞察力の有無の判定については、このようにして定めたτの値が26または27である。なおスケーリング特性を観るときのτの上限は30である。

【0032】
帯状回前部平均フラクタル次元演算ステップを実施する帯状回前部平均フラクタル次元演算部1は、上記のように求めたτを用いて、被験者から得た正解1~正解Nに対応する時系列データ集合SiをS~Sとおき、Si(i=1~N)に含まれる各時系列データ(組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ求めた差信号)について、上記式を用いてフラクタル次元を算出する。次に、帯状回前部平均フラクタル次元演算部1は、複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回前部平均フラクタル次元を演算する。平均化のためにスクリーニングにより集合Si(I=1~N)に対応する複数のフラクタル次元のデータから、20トライアル選出する。この20トライアルのスクリーニングは、例えば、各時系列データの相関係数を算出し、相関係数のチャンネル和が大きいほうから20個のフラクタル次元S2i(S~S20)の集合を抽出する。そして20トライアルのフラクタル次元をチャンネルごとに平均化する。図3(A)はこのようにして算出した帯状回前部平均フラクタル次元の一例である。なお図3(A)の縦軸は平均フラクタル次元の値であり、横軸は時間である。本実施の形態では、形跡対象の信号として、前述の正解の色を選択したときから遡って-500msec内の信号としているため、-500msec内の平均値を示すために横軸を-500msecの時間範囲と定めている。図3(B)は、図3(A)の微分値を示している。この微分値を見ると、極小値が3つ現れることが判る。時刻0から見て最初の極小値の時間が、洞察力が発揮された平均時間(時刻)である。このことは非特許文献に示された脳磁場から洞察力の有無を検出する技術ですでに検証されている。そこで、この洞察力が発揮されていると考えられる時刻0から遡って最初に現れる極小を中心として所定の時間幅内の平均フラクタル次元を洞察力の発生の有無の判定用解析データとすれば、洞察力の発生の有無を検出できることになる。しかし実際上は、-500msec内のデータを全て解析対象とする。

【0033】
帯状回後部平均フラクタル次元演算ステップを実施する帯状回後部平均フラクタル次元演算部2は、図2に示す被験者の頭皮の脳の帯状回後部に対応する頭部表面の領域に配置した測定用電極O1,O2、P3,P4,T5,T6及びPzの出力から複数の脳波信号を測定する。そしてゲームのトライアル中において、正解したときの複数の脳波信号だけを解析対象とする。なお解析対象の脳波信号は、正解の色を選択したときから遡って-500msec内の信号とする。

【0034】
そして脳波信号から、組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を演算する。例えば、nチャンネル(nは2以上の整数)の脳波信号からチャンネル間の差分信号を生成するために、nC2=n×(n-1)×(1/2)の差分信号を生成する。そしてこれら差信号から複数のフラクタル次元を演算する。本実施の形態では、帯状回前部平均フラクタル次元演算部1と同様に、フラクタル次元として自己アフィンフラクタル次元を演算する。

【0035】
帯状回後部平均フラクタル次元演算部2でも、帯状回前部平均フラクタル次元演算部1と同様に、前述のτを用いて、被験者から得た正解1~正解Nに対応する時系列データ集合SiをS~Sとおき、Si(I=1~N)に含まれる各時系列データ(組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ求めた差信号)について、上記式を用いてフラクタル次元を算出する。次に、帯状回後部平均フラクタル次元演算部2は、複数のフラクタル次元の時系列データを平均化して帯状回前部平均フラクタル次元を演算する。平均化のためにスクリーニングにより集合Si(I=1~N)に対応する複数のフラクタル次元のデータから、20トライアル選出する。この20トライアルのスクリーニングは、例えば、各時系列データの相関係数を算出し、相関係数のチャンネル和が大きいほうから20個のフラクタル次元S2i(S~S20)の集合を抽出する。そして20トライアルのフラクタル次元をチャンネルごとに平均化する。算出した帯状回前部平均フラクタル次元は、前述の図3(A)の縦軸は平均フラクタル次元の値と同様に-500msec内の平均値のデータとなる。

【0036】
次に、座標点軌跡作成ステップを実施する座標点軌跡作成部3は、帯状回前部平均フラクタル次元演算部1で演算した帯状回前部平均フラクタル次元ACG及び帯状回後部平均フラクタル次元演算部2で演算した帯状回後部平均フラクタル次元PCGの一方の値を横軸座標値とし、他方の値を縦軸座標値として定まる座標点を時系列でプロットして得られる座標点軌跡を作成する。なお以下の説明で、帯状回前部に関する事項にACGの符号を付し、帯状回後部に関する事項にPCGの符号を付すことがある。

【0037】
このようにすると、一つのプロット点の座標値は、-500msec内の平均値のデータの同じ時刻における帯状回前部平均フラクタル次元ACGの値と帯状回後部平均フラクタル次元PCGの値とから構成される。そして隣り合う2つのプロット点間の長さは、フラクタル次元の変化の大きさと比例する。すなわち隣り合う2つのプロット点間の長さが長いことは、その間におけるフラクタル次元の変化大きいことを意味し、隣り合う2つのプロット点間の長さが短いことはその間におけるフラクタル次元の変化が小さいことを意味する。

【0038】
図4は、6人の被験者(S,N,M,O,P,Q)が前述の洞察ありゲームを行ったときで且つ洞察力が発揮されているときの脳波信号を用いて得た、座標点軌跡の例を示している。これらの座標点軌跡結果は、前述のτはτ=26,27とし、20トライアルのスクリーニングを行って得た帯状回前部平均フラクタル次元ACGの値を横軸座標とし、帯状回後部平均フラクタル次元PCGを縦軸座標値として示したものである。また図5は、6人の被験者(S,N,M,O,P,Q)が前述の洞察なしゲームを行ったときで且つ洞察力が発揮されていないときの脳波信号を用いて得た、座標点軌跡の例を示している。これらの座標点軌跡結果は、前述のτはτ=26,27とし、20トライアルのスクリーニングを行って得た帯状回前部平均フラクタル次元ACGの値を横軸座標とし、帯状回後部平均フラクタル次元PCGを縦軸座標値として示したものである。これらのグラフは、前述の-500msec内のデータに基づいて作成されたものである。そして図4及び図5において、太い線で示した部分は、図3(B)で説明した時刻0から見て最初の極小値が現れる時間を中心にした所定の時間幅(50msec)内のプロット点を含む特徴軌跡部分である。図6には、図4の特徴軌跡部分を平均化した結果(洞察有)と、図5の特徴軌跡部分を平均化した結果(洞察無)を示している。図6から明らかなように、「洞察有」の場合には、座標点軌跡に現れる特徴軌跡部分の形状がV字状またはU字状のように方向が反転するターン形状を示している。またターン形状を描くためにプロットされた複数のプロット点の隣り合う二つのデータ間のデータ変化の程度が、ターンの頂点の両側でそれぞれ大きくなることが判る。本発明では、「洞察有」のときに、座標的軌跡にこの形状の特徴とプロット間データ情報の変化が現れることを基礎として、脳内における洞察の有無の判定を行う。

【0039】
そこで本実施の形態では、図1に示した特徴量記憶部4に一人以上の基準者が洞察力を発揮しているときに得た1以上のモデル座標点軌跡部分(図4に示した特徴軌跡部分に相当)の形状の特徴量について予め記憶する。本実施の形態では、特徴量記憶部4に、1以上のモデル座標点軌跡部分の形状をフーリエ変換して得た1以上の基準パワースペクトルが、1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量として記憶されている。より具体的には、本実施例では、特徴量記憶部4には、モデル座標点軌跡部分をそれぞれ複素平面に置いたときのモデル座標点軌跡部分の成分をフーリエ変換した結果を二乗して得た基準パワースペクトルが、モデル座標点軌跡部分の形状の特徴量として記憶されている。モデル座標点軌跡部分が複数あれば、複数のモデル座標点軌跡部分に対応した複数の基準パワースペクトルが特徴量記憶部4に記憶されている。なおこのフーリエ変換については、後に詳しく説明する。

【0040】
モデル座標点軌跡部分は、座標点軌跡作成部3と同様に、1以上の基準者が洞察力を発揮しているときに得られた帯状回前部平均フラクタル次元及び帯状回後部平均フラクタル次元の一方の値を横軸座標値として他方の値を縦軸座標値として定まる座標点を時系列でプロットして得られる部分的な座標点軌跡(図4の特徴軌跡部分に相当)を意味する。なお1以上の基準者は、洞察力を意図的に発揮できる者であるのが好ましい。洞察力を意図的に発揮できる者から得た特徴量に基づいて判定することは、判定の汎用化を促進できる。なお1以上の基準者は、被験者自身であってもよい。すなわち被験者自身から事前に得たモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量を特徴量記憶部に記憶させておいてもよいのは勿論である。この場合には、本実施の形態の装置は、被験者専用の判定装置となる。また特徴量記憶部4に記憶するモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量の数が多いほど、汎用性が高くなる。なお判定精度を高めるためには、モデル座標点軌跡部分のモデル数を増やすことが望ましい。そこで図7及び図8に示すように、例えば、事前に測定した被験者のデータからモデル座標点軌跡部分を得る場合には、評価軌跡(特徴軌跡部分)の前後所定期間ずらしたデータを更なるモデル座標点軌跡部分として、これらのモデル座標点軌跡部分から得た特徴量を特徴量記憶部4に記憶させるようにしてもよい。他の基準者からモデル座標点軌跡部分を得る場合にも、同様にしてモデル座標点軌跡部分を増やすことができるのは勿論である。

【0041】
図1に示した洞察力発揮判定ステップを実施する洞察力発揮判定部5は、座標点軌跡作成部3から得た座標点軌跡から時系列でサンプリングした判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量に、特徴量記憶部4に記憶したモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量と同一または近似した特徴量が含まれているか否かを判定する。本実施の形態の洞察力発揮判定部5は、サンプリング部7と、特徴量演算部9と、類似判定部11とから構成される。サンプリング部7は、所定の時間幅(50msec)を有するハニング窓で座標点軌跡から判定対象軌跡部分を含むサンプリングデータを順次サンプリングする。特徴量演算部9は、サンプリングデータ中の前記判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量を演算する。本実施の形態では、特徴量演算部9が、座標点軌跡を複素平面に置いたときの判定対象軌跡部分の成分をフーリエ変換した結果を二乗して得た「かたちのパワースペクトル」を形状の特徴量として演算するように構成されている。なおこのフーリエ変換についても、後に詳しく説明する。

【0042】
そして類似判定部11は、特徴量演算部9が演算した類似度に基づいて、判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量に、特徴量記憶部4に記憶された1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量と同一または近似した特徴量が含まれているか否かを判定する。このように特徴量の類似度に基づいて判定をすると、比較的簡単な演算により、洞察力発揮の判定を行える。

【0043】
本実施の形態で用いる特徴量演算部9は、いわゆる「かたちのスペクトル解析」によりスペクトルからのKL情報量を得て類似度を演算する。「かたちのスペクトル解析」では、2つのグラフ軌跡(モデル軌跡,評価軌跡)を比べて類似度を求めて、類似性を判定する。具体的には、座標点軌跡を複素平面に置いたときの座判定対象軌跡部分の成分(実軸と虚軸の成分)をフーリエ変換して得た「かたちのパワースペクトル」(隣合う二つのプロット間の形状の変化と隣合う二つのプロット間の軌跡の成分の変化を示すスペクトル)と、1以上のモデル座標点軌跡部分を複素平面に置いたときのモデル座標点軌跡部分の成分をフーリエ変換して得た1以上の基準パワースペクトルとの類似度を、判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量と1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量との類似度として(類似性)求める。

【0044】
本実施の形態において、スペクトル解析のための座標点軌跡を複素平面においたときの判定対象軌跡部分のフーリエ変換及びモデル座標点軌跡部分を複素平面に置いたときのモデル座標点軌跡部分のフーリエ変化は、以下のようにして実施する。図9は、かたちをスペクトル解析するための例を説明するための座標的軌跡の一例を示している。図9に示すようにプロット点P1~P7を想定した場合に、この座標点軌跡を複素平面においたときに、z座標原点から各プロット点へのベクトルZ0,Z1,Z2・・・は、下記式のZとして表現できる。座標点軌跡を複素平面に置いた場合、x軸は実軸となり、y軸は虚軸となる。そして隣合う二つのプロット点、例えばP0とP1の間のベクトルをW0とする場合に、隣合う二つのプロット点間のベクトルWとして、Zを表すと、下記式の最後の式のように表すことができる。
【数3】
JP2015217098A_000005t.gif

【0045】
このWについてフーリエ変換を以下の式で実施する。このWのフーリエ変換結果から得られるパワースペクトルは、隣合う二つのプロット間の形状の変化と隣合う二つのプロット間のデータの変化を示すスペクトルとなる。
【数4】
JP2015217098A_000006t.gif

【0046】
上記式のb=FWのbがフーリエ変換結果であり、Fはフーリエ変換行列を意味している。またnはプロット点の数であり、j、kは0、1、・・・n-1であるフーリエ変換行列Fの行列番号を示すインデックスである。

【0047】
このフーリエ変換の結果から「かたちパワースペクトル」p0を求めると、下記の式のように表すことができる。
【数5】
JP2015217098A_000007t.gif

【0048】
但し、上記式において、p0+p1・・・+pn-1=1である。

【0049】
図10は、上記式に基づいて被験者Sの「洞察有」の場合の20トライアルの平均フラクタル次元の、座標点軌跡(DACG-DPCGグラフ)の「かたちのパワースペクトル」を示している。この「かたちのスペクトル」では横軸の0値より左側が、帯状回前部平均フラクタル次元ACG成分のスペクトルである。また図11は上記式に基づいて被験者Sの「洞察無」の場合の20トライアルの平均フラクタル次元の座標点軌跡(DACG-DPCGグラフ)の「かたちのパワースペクトル」を示している。

【0050】
本実施の形態で用いる特徴量演算部9は、上記のようにして得た「かたちのパワースペクトル」を確率密度分布として、2つのスペクトルからKL情報量を求める。すなわち判定対象軌跡部分から得たパワースペクトルの確率分布と特徴量記憶部4に記憶した基準パワースペクトルの確率分布とから、2つのパワースペクトルのKL情報量(カルバック・ライブラリー情報量)を形状の特徴量を示すものとして求める。KL情報量は、2つの確率分布の差異を計る尺度であり、KL情報量が0に近いほど、2つの確率分布は似ていること(形状が似ていること)を意味する。

【0051】
2つの確率密度P(x)とQ(x)のKL情報量は、下記の式で求めることができる。
【数6】
JP2015217098A_000008t.gif

【0052】
上記式では、P(x)とQ(x)を入れ替えたときに値が変わってしまうので、本実施の形態では下記の式を用いてKL情報量を得た。
【数7】
JP2015217098A_000009t.gif

【0053】
そこで類似判定部11は、かたちのパワースペクトルの確率分布と基準パワースペクトルの確率分布の差が0に近いほど判定対象軌跡部分から得た形状の特徴量と1以上のモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量との類似度が高いものと判定する。具体的には、パワースペクトルの確率密度分布として、2つのスペクトルからKL情報量(カルバック・ライブラー情報量)を求める。そしてKL情報量の値が小さいほど、すなわち0に近いほど、二つの形は類似性(類似度)が高いと判定する。類似判定部11では、この類似度が予め定め値以上あれば、判定対象軌跡部分が「洞察有」の場合に現れる軌跡であると判断して、洞察力が発揮されているものと判定する。逆に類似判定部11では、この類似度が予め定め値より小さければ、判定対象軌跡部分が「洞察無」の場合に現れる軌跡であると判断して、洞察力が発揮されていないものと判定する。判定の結果は、電子データとして類似判定部11内のメモリに保存される。

【0054】
図12は、前述の被験者Sについての座標点軌跡に関してKL情報量を求めた結果を示している。図12(A)は被験者Sについての20トライアルの結果から得た平均フラクタル次元の微分値で時刻0から最初に現れるピークにおいて、洞察の有無を判断できることを確認したヒストグラムを示している。図12(A)には時刻0から最初に現れる大きなピークに相当する時間帯Hにおいて洞察力の有無を検知できることが示されている。そして図12(B)には、座標点軌跡について、「かたちのパワースペクトル」を求め、予め被験者Sによる事前の試験結果から求めた基準パワーベクトルと「かたちのパワースペクトル」との間のKL情報量を求めた結果(ari)を示してある。なお図12(B)には、同じ被験者Sに関して「洞察無」の場合に求めたKL情報量(nashi)を比較例として示してある。図12(A)の時間帯HにおけるKL情報量を求めた結果(ari)を見ると、その値は0に近い値になっている。そのことから被験者Sが、洞察力を発揮していたことが確認できる。なおこのときには、座標点軌跡における時間帯Hの部分には、図6に示すようなV字状またはU字状のように方向が反転するターン形状が現れている。したがって座標点軌跡にV字状またはU字状のように方向が反転するターン形状が現れているとしても、KL情報量が0に近い値になっていなければ(形状の特徴量とモデル座標点軌跡部分の形状の特徴量と類似度が大きくなっていなければ)、「洞察無」と判定されることになる。

【0055】
[ニューラルネットを利用した実施の形態]
類似判定部11を、ニューラルネットワークを用いて洞察力発揮状態を判定するように構成することができる。この場合には、「かたちのパワースペクトル」より算出したKL情報量より「洞察有」と「洞察無」とを判定するために、ニューラルネットワークを利用する。具体的には、図13に示すような入力-中間層-出力層よりなるニューラルネットワークを構築して評価したいKL情報量を入力することで「洞察有」と「洞察無」を精度良く判定する。図13に示したニューラルネットワークは、20トライアルのフラクタル次元平均から算出したKL情報量と教師信号とから、非線形分離問題を解決するためのバックプロパケーションによりニューラルネットワークを学習させる。図13のニューラルネットワークは、2つの入力層と、4つの中間層と、1つの出力層とを備えている。そしてニューラルネットワークの活性化関数には、Tanh(ハイパボリック タンジェント)を使用する。そして学習したニューラルネットワークの入力層にKL情報量を入力して、出力層に閾値と時間フィルタとを適用することにより、明確な「洞察有」と「洞察無」の抽出を実施する。

【0056】
まずニューラルネットワークの内部状態を学習により決定するために、基準者から得た洞察有の場合のKL情報量と洞察無の場合のKL情報量に対応する教師信号を用いて学習を行う。そして基準者から得た他の「洞察有りのKL情報量」と他の「洞察無しのKL情報量」を二つの入力層にそれぞれ入力して得た出力Okを得て、出力Okと教師信号Tkとの差分(Tk-Ok)を求めて、下記の式で2乗誤差Eを算出する。

【0057】
E=Σ(Tk-Ok)2
その後2乗誤差Eが減少するように入力層と中間層との間及び中間層と出力層との間の結合荷重Wを修正し、2乗誤差Eが最小になるまで上記演算を繰り返して結合荷重を決定する。なお初期のシナプス結合荷重は乱数により生成し、各層中の全てのニューロンにおける活性化関数はtanhを用いる。なお教師信号の条件は、洞察有りのKL情報量が対価した領域で0.99となり、洞察無しのKL情報量が低下した領域で-0.99となり、どちらでもない領域では0となるように定める。前述の通り、ヒストグラムで見ると、「洞察有」の場合には、被験者が「洞察有」の確認スイッチのボタンを押した瞬間から-500msec前に遡って見て、3つのピークが現れ、0msecに近い3つのピーク付近で教師信号は0.99となる。前述の通り、「洞察無」の場合には、2つのピークが現れる。

【0058】
図14には、このようにして構築したニューラルネットワークに被験者の「洞察有りのKL情報量」と「洞察無しのKL情報量」を2つの入力層に入力した場合の流れを示している。結果の一例を示している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、脳波から「洞察有」と「洞察無」とを判定することができる洞察力発揮状態判定装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 帯状回前部平均フラクタル次元演算部
2 帯状回後部平均フラクタル次元演算部
3 座標点軌跡作成部
4 特徴量記憶部
5 洞察力発揮判定部
7 サンプリング部
9 特徴量演算部
11 類似判定部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13