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明細書 :ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-203017 (P2015-203017A)
公開日 平成27年11月16日(2015.11.16)
発明の名称または考案の名称 ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法
国際特許分類 C07D 307/48        (2006.01)
C07H   3/02        (2006.01)
FI C07D 307/48
C07H 3/02
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2014-082959 (P2014-082959)
出願日 平成26年4月14日(2014.4.14)
発明者または考案者 【氏名】野村 信福
【氏名】豊田 洋通
出願人 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100081776、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 宏
審査請求 未請求
テーマコード 4C037
4C057
Fターム 4C037HA21
4C057AA04
4C057AA30
4C057BB02
要約
【課題】糖化プロセス無しで、容易にヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースを製造することができるヒドロキシメチルフルフラールの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法は、液体中に配置された炭化水素系固形物Aに対して高周波振動を与えて、炭化水素系固形物Aの少なくとも一部を分解する分解ステップS2と、液体を冷却してろ過するろ過ステップS3と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
液体中に配置された炭化水素系固形物に対して高周波振動を与えて、前記炭化水素系固形物の少なくとも一部を分解する分解ステップと、
前記液体を冷却してろ過するろ過ステップと、
を含むことを特徴とするヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法。
【請求項2】
前記ろ過ステップでは、前記液体を30℃未満に冷却し、当該液体をろ過する請求項1に記載のヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法。
【請求項3】
液体中に配置された炭化水素系固形物に対して高周波振動を与えて、前記炭化水素系固形物の少なくとも一部を分解する分解ステップと、
前記液体をろ過するろ過ステップと、
を含むことを特徴とするグルコースの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油を中心とする化石エネルギー資源への依存度を減少させるために、木皮や廃紙などの分解による燃料・化学製品の合成が望まれている。このような背景から、現在では、雑草や木材等の非食用バイオマスから糖を生成し、これを分解処理して化成品を製造する研究が試みられている。特にセルロースから糖化プロセスにより得られるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が注目されている。ヒドロキシメチルフルフラールは、ペットボトルやポリエステルといったプラスチックや、医薬品などの中間原料として非常に重要な物質である。
【0003】
非食用バイオマスに含まれるセルロースは、自然界に大量に存在する有機化合物であるが、極めて安定した化合物であるため分解が極めて困難である。このため、これまで見出された多くのヒドロキシメチルフルフラールの製造方法は、トウモロコシなどの食用バイオマスから酵素反応によって中間体としてのブドウ糖を生成し、その後に有機溶媒や金属触媒を加えて製造することが基本となっている。その他の製造方法としては、超臨界水による処理や、酸と触媒反応させる工程が考案されている。従来のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法は、例えば特開2009-057345号公報や特開2012-121811号公報に記載されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2009-057345号公報
【特許文献2】特開2012-121811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなヒドロキシメチルフルフラールの製造方法では、糖が中間原料であるため、酵素や酸などを用いる糖化プロセスが必須工程であった。そして、糖の分解に有機溶媒や金属触媒が利用されていた。したがって、従来の製造方法では、製造工程が煩雑となる上、溶媒や触媒による環境への負荷が大きく、高コストとなっていた。また、超臨界水による処理を含む製造方法や、酸との触媒反応を含む製造方法でも、エネルギーコストや環境負荷が大きく、その点が課題となっている。
【0006】
また、発明者は、上記のような糖化プロセスを用いることなく、グルコースを製造することも新たな課題として着目した。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、酵素や酸などを用いる糖化プロセス無しで、容易にヒドロキシメチルフルフラール及びグルコースの少なくとも一方を製造することができるヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の様相1に係るヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法は、液体中に配置された炭化水素系固形物に対して高周波振動を与えて、前記炭化水素系固形物の少なくとも一部を分解する分解ステップと、前記液体を冷却してろ過するろ過ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記様相1によれば、炭化水素系固形物が高周波振動により液体中に分解され、ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースを含む液体が生成される。そして、当該液体からヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースが分離され、ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースが製造される。したがって、上記様相1では、酵素や酸などを用いる糖化プロセスが不要である。また、上記様相1は単一反応プロセスであるため、ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造が容易となる。上記様相1によれば、酸、有機溶媒、又は金属触媒が不要であるため、環境負荷が低減され、低コスト化が可能となる。
【0010】
本発明の様相2に係るヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法は、上記様相1において、前記ろ過ステップでは、前記液体を30℃未満に冷却し、当該液体をろ過する。この構成によれば、液体が30℃未満になることで、ヒドロキシメチルフルフラールの分解が抑制され、ヒドロキシメチルフルフラールの製造にとって有利となる。
【0011】
本発明の様相3に係るグルコースの製造方法は、液体中に配置された炭化水素系固形物に対して高周波振動を与えて、前記炭化水素系固形物の少なくとも一部を分解する分解ステップと、前記液体をろ過するろ過ステップと、を含むことを特徴とする。グルコースの製造方法では、上記様相1において、冷却が省略可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の製造装置の構成を示す概念図である。
【図2】本実施形態の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】実施例1における分析結果を示すクロマトグラムである。
【図4】実施例2における分析結果を示すクロマトグラムである。
【図5】実施例1~6の分析結果を説明するための説明図である。
【図6】実施例1~6と従来の方法を比較するための説明図である。
【図7】本実施形態の製造方法により一部が分解された炭化水素系固形物の一例を示す写真である。
【図8】実施例7における分析結果を示すクロマトグラムである。
【図9】実施例8における分析結果を示すクロマトグラムである。
【図10】実施例7~9の分析結果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。

【0014】
本実施形態のヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)では、製造装置1が用いられる。製造装置1は、図1に示すように、超音波発生装置2と、容器3と、台座4と、を備えている。超音波発生装置2は、超音波(例えば10kHz以上)を発生させる装置である。本実施形態の超音波発生装置2は、高周波発振器21と、超音波振動子22と、ホーン(「伝播部材」に相当する)23と、を備えている。高周波発振器21は、高周波誘導電流(高周波電気信号)を発生させるための電源装置である。高周波発振器21は、出力(電力及び周波数)を調整することができる。高周波発振器21は、一般に、例えば超音波溶着など、金属の加熱に用いられる。

【0015】
超音波振動子22は、振動子であって、圧電素子で構成され、電気信号(電圧)の印加に応じて振動する部材である。超音波振動子22は、高周波発振器21に接続されている。超音波振動子22は、高周波発振器21から電気信号を受けて振動し、超音波を発生させる。換言すると、超音波振動子22は、高周波発振器から高周波の電気信号が伝達され、当該電気信号を振動エネルギーに変換する。

【0016】
ホーン23は、超音波振動子22が発生する振動エネルギーを対象(先端)に伝達する部材である。ホーン23は、超音波ホーンであり、超音波振動子22に接続されている。ホーン23は、根本(超音波振動子22側)の直径よりも先端の直径のほうが小さくなっている。本実施形態のホーン23は、根本にブースタ(図示せず)が装着されており、振幅を増幅して振動を先端に伝達する。ホーン23は、共鳴体として機能する。なお、高周波発振器21はジェネレータとも呼ばれ、超音波振動子22はコンバータとも呼ばれ、ホーン23はコンセントレータとも呼ばれる。超音波発生装置2は、一般の超音波溶着を行うための装置であっても良い。

【0017】
容器3は、液体を収容可能な容器である。本実施形態の容器3は、ステンレス製のボウルである。容器3は、台座4上に配置されている。本実施形態の台座4は、平板形状の銅製部材であり、超音波を反射する。台座4が超音波を反射することで、炭化水素系固形物Aに効果的に超音波振動を付与することができる。したがって、台座4は、超音波反射可能な材料で形成されていることが好ましい。液体は、酸、酵素、及び触媒を含まない液体であって、ろ紙でろ過可能な液体である。

【0018】
本実施形態の製造方法は、図2に示すように、配置ステップS1と、分解ステップS2と、ろ過ステップS3と、を含んでいる。配置ステップS1は、容器3内の液体中に炭化水素系固形物Aを配置するステップである。炭化水素系固形物Aは、液体中において、容器3の底面上に配置される。炭化水素系固形物とは、炭化水素を有する固形物である。「炭化水素系固形物」の用語には、例えば、布、木皮、及び紙類などの非食用バイオマスや、食用バイオマスが含まれる。炭化水素系固形物は、セルロース系固形原料ともいえる。

【0019】
分解ステップS2は、炭化水素系固形物Aにホーン23の先端を接触させ、超音波発生装置2の駆動により炭化水素系固形物Aの少なくとも一部を分解するステップである。分解ステップS2において、炭化水素系固形物Aがホーン23の先端と容器3の底面の間に挟まれる。つまり、炭化水素系固形物Aは、ホーン23により加圧された状態で超音波振動を受ける。炭化水素系固形物Aは、液体中で加熱され、少なくとも一部が液体中に溶ける、すなわち分解される。

【0020】
ろ過ステップS3は、容器3内の液体を冷却してろ過するステップである。ろ過ステップS3において、炭化水素系固形物Aが溶けた液体は、冷却され、例えばろ紙でろ過される。ろ過により、液体中に溶けたヒドロキシメチルフルフラール(HMF)及び/又はグルコースが抽出される。ろ過ステップS3において液体を冷却することで、液体中のヒドロキシメチルフルフラールの分解が抑制される。本発明における「ろ過」は、液体から固体粒子を分離する作業を意味する。

【0021】
本実施形態の製造方法によれば、天然由来セルロースの直接分解により、ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースが単一反応プロセスで製造される。本実施形態の製造方法によれば、常圧環境下(大気圧環境下)でヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースを製造することが可能となる。本実施形態の製造方法によれば、製造工程において環境負荷が高い触媒や薬品の使用が不要となる。本実施形態の製造方法によれば、炭化水素系固形物から直接的にヒドロキシメチルフルフラールを製造するため、中間原料を得るためのプロセスが不要となる。

【0022】
このように、本実施形態の製造方法によれば、環境負荷が大きい糖化プロセスを採用することなく、高周波振動により容易に且つ短時間でヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースが製造される。これにより、ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースの量産化が可能となる。

【0023】
また、本実施形態の製造方法によれば、バイオマス資源のみでなく、衣類、繊維、及び製紙などのセルロース系廃棄物から化成品を作成するプロセスの確立が可能となる。本実施形態の製造方法によれば、セルロース系廃棄物の処理コストの軽減が可能となる。本実施形態の製造方法が製紙工場や木材工場などでの利用されることも期待できる。また、資源として利用されているエタノールは、グルコースから容易に製造することができる。本実施形態の製造方法によれば、炭化水素系固形物Aからグルコースが容易に製造されるため、非食用バイオマス等の炭化水素系固形物の資源活用がさらに促進される。

【0024】
このように、本実施形態によれば、炭化水素系有効物質(ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコース)を容易に製造することができる。ヒドロキシメチルフルフラールとグルコースの製造量の大小は、炭化水素系固形物Aに付与する高周波のパワー(超音波振動子22に印加される電力)と、高周波の付与時間(照射時間)を制御することで調整できる。ヒドロキシメチルフルフラールとグルコースは、ろ過後、公知の方法(例えばクロマトグラフィー法など)により単離可能である。本実施形態の製造方法は、ろ過ステップS3の後に、混合物からヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースを単離する単離ステップを含んでも良い。

【0025】
本実施形態の製造方法は、下記のように記載することができる。すなわち、本実施形態の製造方法は、液体中に配置された炭化水素系固形物(A)に対して高周波振動を与えて、炭化水素系固形物(A)の少なくとも一部を分解する分解ステップ(S2)と、液体を冷却してろ過するろ過ステップ(S3)と、を含むことを特徴とする。また、本実施形態の製造方法は、液体中に配置された炭化水素系固形物(A)に対して高周波振動を与えて炭化水素系固形物(A)の少なくとも一部を分解し、当該液体からヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコースを抽出(分離)することを特徴とする。また、本実施形態の製造方法は、容器(3)内の液体中に炭化水素系固形物(A)を配置する配置ステップ(S1)と、炭化水素系固形物(A)に超音波発生装置(2)の伝播部材(23)を接触させ、超音波発生装置(2)の駆動により炭化水素系固形物(A)の少なくとも一部を分解する分解ステップ(S2)と、容器(3)内の液体を冷却してろ過するろ過ステップ(S3)と、を含むことを特徴とする。

【0026】
以下、製造装置1を用いた本実施形態の製造方法の実施例について説明する。実施例1~9では、ヒドロキシメチルフルフラール及びグルコースが製造された。実施例1~6は、ヒドロキシメチルフルフラールに着目して分析・考察したものである。実施例7~9は、グルコースに着目して分析・考察したものである。

【0027】
(実施例1)
炭化水素系固形物Aは、綿布(綿布を8枚重ねたもの)であった。液体は、5ccの純水であった。高周波発振器21の設定は、周波数19.5kHz、出力100Wであった。ホーン23の先端の直径は5mmであり、振幅を10倍に増幅するものであった。綿布は、液体中において、ホーン23の先端と容器3の底面との間にしっかりと挟まれた。この状態で超音波発生装置2は15秒間駆動し、綿布に超音波が照射された。綿布に超音波が照射された。綿布は、加熱され、黒く変色し、綿布の大部分が純水中に溶けた。超音波照射後の液体は褐色透明となり、分解された綿布(セルロース)の成分が液体中に溶解していることが観察された。超音波発生装置2は15秒駆動後に停止され、停止後すぐに当該液体を20℃以下に冷却した。その後、ろ紙でろ過し、高速液体クロマトグラフ(東洋曹達工業製(現、東ソー製)UV-8000)で分析した。図3は、その分析結果を示す。

【0028】
(実施例2)
炭化水素系固形物Aは、麻(麻を8枚重ねたもの)であった。液体は、5ccの純水であった。高周波発振器21の設定は、周波数19.5kHz、出力80Wであった。ホーン23の先端の直径は5mmであり、振幅を10倍に増幅するものであった。麻は、液体中において、ホーン23の先端と容器3の底面との間にしっかりと挟まれた。この状態で超音波発生装置2は30秒間駆動し、麻に超音波が照射された。超音波照射後の液体は褐色透明となり、分解された麻(セルロース)の成分が液体中に溶解していることが観察された。超音波発生装置2は30秒駆動後に停止され、停止後すぐに当該液体を20℃以下に冷却した。その後、ろ紙でろ過し、高速液体クロマトグラフ(東洋曹達工業製(現、東ソー製)UV-8000)で分析した。図4は、その分析結果を示す。

【0029】
(実施例3~6)
図5は、綿を8枚重ねたもの又は麻を8枚重ねたものを炭化水素系固形物Aとし、容器3内の液体(純水)を5mlとし、電力及び超音波照射時間を変更して上記実施例1、2と同様の方法を行った結果を表している。

【0030】
図5において、「超音波」は炭化水素系固形物に超音波振動を付与した時間(超音波の照射時間)である。「収率」は、炭化水素系固形物(ここでは繊維)に対する、回収できたヒドロキシメチルフルフラールの割合である。「mg/min」は繊維の分解能力であり、「g/kWh」は1kWhあたりのヒドロキシメチルフルフラールの生成量である。このように、図5には、実施例1~6におけるヒドロキシメチルフルフラールの定量分析結果(収率、mg/min、g/kWh)が表れている。

【0031】
図5に示すように、綿や麻などの炭化水素系固形物からおよそ3~9%の収率でヒドロキシメチルフルフラールが製造された。また、当該製造において、超音波発生装置2の駆動時間は、10~40秒程度であった。ただし、駆動時間が5秒で、ある程度炭化水素系固形物が分解している実施例もあり、駆動時間が5秒程度であってもヒドロキシメチルフルフラールは収集可能である。実施例3では、繊維分解能力が160Wでおよそ9mg/minであった。高周波発振器21の周波数は、10kHz~数百kHzが好ましい。炭化水素系固形物に付与される超音波による振幅は、振動エネルギーの観点から10μm以上が好ましく、さらには10~100μmが好ましい。実施例1~6において、超音波による振幅は20~30μmであった。

【0032】
図6に示すように、本実施形態の製造方法と、従来のヒドロキシメチルフルフラールの製造方法を比較すると、本実施形態の製造方法が有利であることがわかる。すなわち、本実施形態の製造方法では、他の方法では困難であった常温・大気圧下での製造が可能となる。また、本実施形態の製造方法によれば、繊維固形物(例えば綿、麻、又は紙類等)などの炭化水素系固形物から直接製造できるため、他の方法では必要である前処理(糖化プロセス)が不要である。また、本実施形態の製造方法によれば、装置の駆動時間も大幅に削減され、前処理も不要であることから、ヒドロキシメチルフルフラールの製造時間が大幅に短縮される。このように、本実施形態の製造方法は、他の方法よりも収率が劣るものの、プロセス全体が極めて単純化されるため、収率を凌駕して製造コストを大きく削減することができる。本実施形態の製造方法は、グルコースの製造についても酵素や酸を用いる糖化プロセス無しで且つ常温大気圧で製造できるため、ヒドロキシメチルフルフラールの製造同様、従来の方法よりも有利である。なお、図7は、本実施形態の製造方法により一部が分解された炭化水素系固形物(折り重ねた繊維)Aの一例を示す。

【0033】
ヒドロキシメチルフルフラールは、糖から合成される高い付加価値(1kg当たり600~800円以上、高純度製品では1kg当たり600円以上)をもつ化学物質であり、ペットボトル、ウレタン、及びポリエステルといったプラスチック、医薬品、及び化成品の原料となる。このため、ヒドロキシメチルフルフラールは、石油に依存しない化成品製造の原料として注目されている。また、日本国内の繊維製品の廃棄量は、生活系一般衣料品のみでも年間約100万トンにのぼり、このうち約10%は古着として回収され、残り約90%は燃えるゴミとして廃棄されている。本実施形態の製造方法は、当該廃棄される衣料品から付加価値の高いヒドロキシメチルフルフラールを製造・量産することを可能とする。本実施形態の製造方法による経済的及び環境的効果は大きい。

【0034】
(実施例7)
炭化水素系固形物Aは、麻(麻を8枚重ねたもの)であった。液体は、3ccの純水であった。高周波発振器21の設定は、周波数19.5kHz、出力100Wであった。ホーン23の先端の直径は5mmであり、振幅を10倍に増幅するものであった。麻は、液体中において、ホーン23の先端と容器3の底面との間にしっかりと挟まれた。この状態で超音波発生装置2は10秒間駆動し、麻に超音波が照射された。麻に超音波が照射された。超音波発生装置2は10秒駆動後に停止され、停止後すぐに当該液体を20℃以下に冷却した。その後、ろ紙でろ過し、高速液体クロマトグラフ(東洋曹達工業製(現、東ソー製)UV-8000)で分析した。図8は、その分析結果を示す。

【0035】
(実施例8)
炭化水素系固形物Aは、綿布(綿布を8枚重ねたもの)であった。液体は、3ccの純水であった。高周波発振器21の設定は、周波数19.5kHz、出力120Wであった。ホーン23の先端の直径は5mmであり、振幅を10倍に増幅するものであった。綿布は、液体中において、ホーン23の先端と容器3の底面との間にしっかりと挟まれた。この状態で超音波発生装置2は20秒間駆動し、綿布に超音波が照射された。超音波発生装置2は20秒駆動後に停止され、停止後すぐに当該液体を20℃以下に冷却した。その後、ろ紙でろ過し、高速液体クロマトグラフ(東洋曹達工業製(現、東ソー製)UV-8000)で分析した。図9は、その分析結果を示す。

【0036】
(実施例9)
炭化水素系固形物Aは、麻(麻を8枚重ねたもの)であった。液体は、3ccの純水であった。高周波発振器21の設定は、周波数19.5kHz、出力60Wであった。ホーン23の先端の直径は5mmであり、振幅を10倍に増幅するものであった。麻は、液体中において、ホーン23の先端と容器3の底面との間にしっかりと挟まれた。この状態で超音波発生装置2は20秒間駆動し、麻に超音波が照射された。超音波発生装置2は20秒駆動後に停止され、停止後すぐに当該液体を20℃以下に冷却した。

【0037】
図10には、実施例7~9におけるグルコースの定量分析結果(収率、mg/min、g/kWh)が表れている。図10に示すように、綿や麻などの炭化水素系固形物からおよそ1~2%の収率でグルコースが製造された。また、当該製造において、超音波発生装置2の駆動時間は、10~20秒程度であった。ヒドロキシメチルフルフラールの製造同様、高周波発振器21の周波数は、10kHz~数百kHzが好ましい。炭化水素系固形物に付与される超音波による振幅は、振動エネルギーの観点から10μm以上が好ましく、さらには10~100μmが好ましい。実施例7~9において、超音波による振幅は20~30μmであった。

【0038】
このように、本実施形態の製造方法によれば、炭化水素系固形物から、酸や触媒等を用いる糖化プロセスを経ずに、容易にグルコースを製造することができる。なお、本実施形態は、液体中で高周波振動により対象物を分解することで炭化水素系有効物質(ヒドロキシメチルフルフラール及び/又はグルコース)の抽出を可能にしており、対象物が炭化水素系固形物のうち繊維固形物以外のものでも適用可能である。

【0039】
また、本発明における「高周波振動」の「高周波」は、液体中で炭化水素系固形物を分解(溶解)することができる周波数であれば良いが、装置の簡易化及び分解の容易性の観点から超音波(10kHz以上)であることが好ましい。また、上記実施例において、超音波発生装置2の駆動停止は、ホーン23を炭化水素系固形物から離間させることで代替しても良い。

【0040】
また、ろ過ステップS3における冷却は、ヒドロキシメチルフルフラールが30℃以上の温度状態で分解しやすいため、液体が30℃未満となるように行うことが好ましい。これにより、ヒドロキシメチルフルフラールの収率が向上する。一方、グルコースの製造におけるろ過ステップS3において、冷却なしでろ過が行われても良い。グルコースは、熱によっては液中で分解されにくいため、冷却工程がなくても、ろ過により抽出可能である。

【0041】
また、ろ過ステップS3は、液体を冷却する冷却ステップと、液体をろ過するろ過ステップに分けて記載することもできる。また、ろ過ステップS3は、液体からヒドロキシメチルフルフラールを分離する分離ステップともいえる。また、配置ステップS1が分解ステップS2に含まれていても良い。この場合、本実施形態の製造方法は、液体中に配置された炭化水素系固形物Aに高周波振動を与える分解ステップS2と、ろ過ステップS3と、を含むことを特徴とする。
【符号の説明】
【0042】
1:製造装置、 2:超音波発生装置、 21:高周波発振器、
22:超音波振動子、 23:ホーン、 3:容器、 4:台座、
A:炭化水素系固形物
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図7】
9