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明細書 :細胞分取装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-042137 (P2017-042137A)
公開日 平成29年3月2日(2017.3.2)
発明の名称または考案の名称 細胞分取装置
国際特許分類 C12M   1/00        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
FI C12M 1/00 A
G01N 37/00 101
請求項の数または発明の数 17
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2015-169462 (P2015-169462)
出願日 平成27年8月28日(2015.8.28)
発明者または考案者 【氏名】細川 陽一郎
【氏名】飯野 敬矩
【氏名】前野 貴則
【氏名】合田 圭介
【氏名】磯崎 瑛宏
【氏名】野沢 泰佑
【氏名】新井 史人
【氏名】益田 泰輔
【氏名】佐久間 臣耶
【氏名】早川 健
【氏名】田中 陽
【氏名】ヤリクン ヤシャイラ
【氏名】川井 隆之
出願人 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100137800、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 正義
【識別番号】100148253、【弁理士】、【氏名又は名称】今枝 弘充
【識別番号】100148079、【弁理士】、【氏名又は名称】梅村 裕明
【識別番号】100158241、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 安子
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
Fターム 4B029AA09
4B029BB01
4B029BB11
4B029CC01
4B029DG08
4B029HA02
4B029HA05
要約 【課題】より確実に、より効率よく標的細胞を分取することが可能な細胞分取装置を提供する。
【解決手段】基板と、前記基板に形成され、流れ方向に沿って細胞15が1つずつ並んだ細胞列16を含む液体が上流から下流に向けて流通し、一面が開放した開放面を備えた細胞分取領域13を有する流路12と、前記細胞分取領域13の前記液体14に、前記開放面の逆側から前記開放面に向けた圧力波20を与え、第1の標的細胞15aを前記細胞列16から分離して前記開放面に向けて移動させる第1の圧力波付与機構と、前記細胞分取領域13の前記開放面側に配置され、前記第1の標的細胞15aを含む液滴を受け取る第1の収液槽24とを備えることを特徴とする。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
基板と、
前記基板に形成され、流れ方向に沿って細胞が1つずつ並んだ細胞列を含む液体が上流から下流に向けて流通し、一面が開放した開放面を備えた細胞分取領域を有する流路と、
前記細胞分取領域の前記液体に、前記開放面の逆側から前記開放面に向けた圧力波を与え、第1の標的細胞を前記細胞列から分離して前記開放面に向けて移動させる第1の圧力波付与機構と、
前記細胞分取領域の前記開放面側に配置され、前記第1の標的細胞を含む液滴を受け取る第1の収液槽と
を備えることを特徴とする細胞分取装置。
【請求項2】
前記第1の圧力波付与機構は、前記流路の前記開放面と逆側に配置され、前記圧力波の発生源となるバブルを前記液体中に誘起するパルスレーザー発振器であることを特徴とする請求項1記載の細胞分取装置。
【請求項3】
前記開放面は、前記流路の下面が開放したものであることを特徴とする請求項2記載の細胞分取装置。
【請求項4】
前記パルスレーザー発振器は、フェムト秒レーザー光またはピコ秒レーザー光を発振することを特徴とする請求項2または3記載の細胞分取装置。
【請求項5】
前記パルスレーザー発振器はナノ秒レーザー光またはマイクロ秒レーザー光を発振し、前記ナノ秒レーザー光または前記マイクロ秒レーザー光の一部を吸収する金属膜が、前記流路に設けられていることを特徴とする請求項2または3記載の細胞分取装置。
【請求項6】
前記流路の一側面から前記液体に圧力波を与え、前記細胞列における前記細胞の並びを乱して前記流路の対向側面に向けて移動させる干渉軽減素子を備えた干渉軽減領域が、前記開放面の逆側から前記開放面に向けた圧力波が付与される部分より上流に設けられていることを特徴とする請求項2~5のいずれか1項記載の細胞分取装置。
【請求項7】
前記干渉軽減素子は、表面弾性波デバイスまたはレーザー発振器であることを特徴とする請求項6記載の細胞分取装置。
【請求項8】
前記干渉軽減領域は、前記流れ方向における長さが1mm未満であることを特徴とする請求項6または7記載の細胞分取装置。
【請求項9】
前記細胞分取領域に露出する前記液体の表面を波立たせるための表面弾性波デバイスが、前記流路の前記細胞分取領域の前記開放面の逆側に設けられていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項記載の細胞分取装置。
【請求項10】
前記細胞を前記細胞分取領域の前記開放面に向けるための分離補助素子が、前記細胞分取領域の上流側に設けられていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項記載の細胞分取装置。
【請求項11】
前記第1の圧力波付与機構は、前記流路を挟んで両側面に配置され、前記圧力波により定在波を生成する2つの表面弾性波デバイスから構成されることを特徴とする請求項1記載の細胞分取装置。
【請求項12】
前記第1の収液槽は、培養液を収容していることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項記載の細胞分取装置。
【請求項13】
前記第1の収液槽は、XY方向にマトリクス状に設けられた複数の収液室を備え、XY方向に移動可能であることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項記載の細胞分取装置。
【請求項14】
前記細胞分取領域の前記液体に、前記開放面の逆側から前記開放面に向けた圧力波を与え、第1の標的細胞とは異なる第2の標的細胞を前記細胞列から分離して前記開放面に向けて移動させる第2の圧力波付与機構と、
前記細胞分取領域の前記開放面側に配置され、前記第2の標的細胞を含む液滴を受け取る第2の収液槽と
を備えることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項記載の細胞分取装置。
【請求項15】
基板と、
前記基板に形成され、流れ方向に沿って細胞が1つずつ並んだ細胞列を含む液体が、第1の速度で上流から下流に向けて流通し、一面が開放した開放面を備えた細胞分取領域を有する流路と、
前記細胞分取領域の前記液体に、前記開放面の逆側から前記開放面に向けた圧力波を与え、標的細胞を前記細胞列から分離して前記開放面に向けて移動させる圧力波付与機構と、
前記細胞分取領域の前記開放面側に配置され、前記第1の速度より小さな第2の速度の流体が流通し、前記標的細胞を含む液滴を受け取る収液流路と
を備えることを特徴とする細胞分取装置。
【請求項16】
前記流路は、前記下流の高さが前記上流の高さと実質的に等しいことを特徴とする請求項1~15のいずれか1項記載の細胞分取装置。
【請求項17】
前記流路内へ前記液体を押し込む流入促進機構と、前記流路外へ前記液体を引き出す流出促進機構とをさらに備えることを特徴とする請求項1~16のいずれか1項記載の細胞分取装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞材料は、他の材料と異なり、細胞ごとの個体差が大きいため、細胞生物学および細胞工学において、その個体差を理解し、操作・選別することの重要性が高まっている。
【0003】
近年、単一細胞分析技術によって個々の細胞の特性を判別し、判別した細胞を個々に分取することが可能となっている。代表的な単一細胞分析技術としては、蛍光標識細胞分取(fluorescence activated cell sorting:FACS)が知られている。
【0004】
また、ガラス等の基板にマイクロ流路を設けたマイクロチップを用い、標識された細胞を含む液体をマイクロ流路に流し、細胞の特性に応じて流路を変えて分取する技術も知られている。例えば、特許文献1には、標識された細胞を含む液体をマイクロチャネル内に流し、マイクロバブルの圧力により、選択された細胞を別の流路に押し出して分取する細胞選別装置が提案されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2013-255441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、細胞材料は細胞ごとの個体差が大きいため、希少な標的細胞を、より確実に、より効率よく分取することが求められている。
【0007】
そこで本発明は、より確実に、より効率よく標的細胞を分取することが可能な細胞分取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る細胞分取装置は、基板と、前記基板に形成され、流れ方向に沿って細胞が1つずつ並んだ細胞列を含む液体が上流から下流に向けて流通し、一面が開放した開放面を備えた細胞分取領域を有する流路と、前記細胞分取領域の前記液体に、前記開放面の逆側から前記開放面に向けた圧力波を与え、第1の標的細胞を前記細胞列から分離して前記開放面に向けて移動させる第1の圧力波付与機構と、前記細胞分取領域の前記開放面側に配置され、前記第1の標的細胞を含む液滴を受け取る第1の収液槽とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞分取装置は、細胞を含んだ液体が流れる流路の一部に、一面が開放した開放面を備えた細胞分取領域を有している。細胞分取領域には、液体に対して開放面の逆側から開放面に向けた圧力波を与える第1の圧力波付与機構が配置されているので、この第1の圧力波付与機構からの圧力波によって、液体中の目的とする第1の標的細胞を細胞分取領域の開放面に向けて移動させることができる。
【0010】
細胞分取領域においては流路の一部の一面が開放していることから、開放面に向けて移動した第1の標的細胞は、液滴となって流路を流通する液体から離れる。こうして液体を離れた第1の標的細胞を含む液滴は、細胞分取領域の開放面側に配置された第1の収液槽に回収される。
【0011】
このように、一面に開放面を備えた流路に細胞を含んだ液体を流通させ、開放面の逆側から前記開放面に向けた圧力波を付与することによって、より確実に、より効率よく、液体中の第1の標的細胞を分取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る細胞分取装置の構成を説明する斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る細胞分取装置のX-X断面における模式図である。
【図3】フェムト秒レーザー光の照射により液体中の細胞が分離されるメカニズムを説明する図である。
【図4】第1実施形態の変形例(1)の細胞分取装置の流れに沿った縦方向の断面における模式図である。
【図5】第1実施形態の変形例(2)の細胞分取装置の流れに沿った縦方向の断面における模式図である。
【図6】第1実施形態の変形例(3)の細胞分取装置の流れに沿った縦方向の断面における模式図である。
【図7】第2実施形態に係る細胞分取装置を上側からみた模式図である。
【図8】第2実施形態の変形例の細胞分取装置を上側からみた模式図である。
【図9】第3実施形態に係る細胞分取装置の流れに沿った縦方向の断面における模式図である。
【図10】第4実施形態に係る細胞分取装置の流れに沿った縦方向の断面における模式図である。
【図11】第6実施形態に係る細胞分取装置の流れに沿った縦方向の断面における模式図である。
【図12】第8実施形態に係る細胞分取装置の流れに沿った縦方向の断面における模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、各実施形態に係る細胞分取装置は、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜組み合わせて構成することができる。

【0014】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る細胞分取装置10の全体構成について、図1,2を参照して説明する。図2は、図1におけるX-X断面の構成を示している。なお、図2は理解を容易にするために模式的に示したものであり、実際のスケールとは必ずしも一致していない。

【0015】
(全体構成)
細胞分取装置10は、流路12が形成された基板11を備えている。流路12は、基板11の一端11aから他端11bに向けて基板11内部を貫通して設けられ、下面が開放した開放面を備えた細胞分取領域13を有している。この流路12内には、複数の細胞15を含む液体14が流通する。

【0016】
本実施形態においては、基板11は20mm×50mm×1mm程度のガラス製である。流路12は、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリエチルテレフタレート(PET)樹脂等の透明樹脂により形成してもよい。流路12の幅は、例えば50~500μm程度とすることができる。流路12の深さは、例えば20~200μm程度とすることができる。細胞分取領域13の長さは、細胞の大きさよりも十分に長い範囲で適宜設定することができる。例えば、細胞の大きさが10~100μmの場合には、細胞分取領域13の長さは30~300μm以上とすることができる。

【0017】
細胞分取領域13における基板11の上には第1の圧力波付与機構22が設けられ、細胞分取領域13の下には第1の収液槽24が設けられる。図示していないが、第1の収液槽24には培養液が満たされている。

【0018】
流路12は、下流の高さが上流の高さと実質的に等しく形成されていることが好ましい。図示していないが、流路12内へ液体14を押し込む流入促進機構と、流路12外へ液体14を引き出す排出促進機構とを備えることが好ましい。流入促進機構と排出促進機構としては、例えばシリンジポンプ、高性能圧力送液ポンプなどを用いることができる。流入促進機構と排出促進機構とを設けた場合には、所望の速度で液体14を流通させることが可能となる。流路12内を流通する液体14に圧力勾配が生じないように、流路12への液体14の流入速度と、流路12からの液体14の流出速度とを調整することが望まれる。

【0019】
流路12内面において、下面を親水性として側面を疎水性とすることも、上流から下流への液体14の流通を促進するために有効である。

【0020】
液体14は、矢印Aで示されるように上流から下流に向けて流路12内を流通する。液体14中の複数の細胞15は、流れ方向に沿って1つずつ並んで細胞列16を構成している。

【0021】
図2のX-X断面に示すように、図示しない第1の圧力波付与機構22は、細胞分取領域13の液体14に矢印Bで示される縦方向の圧力波20を与える。本実施形態では、流路12における開放面は下面に設けられているので、開放面の逆側から開放面に向けた方向は、上から下に向けた縦方向となる。圧力波としては、レーザー光の照射に起因する衝撃波、および表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)が挙げられる。なお、図2に基板11は示していないが、図1に示した通り、流路12は基板11内部に設けられたものである。

【0022】
本実施形態においては、第1の圧力波付与機構22として、フェムト秒レーザー光22Aを発振するパルスレーザー発振器を用い、対物レンズ23を介して細胞分取領域13の液体14にフェムト秒レーザー光22Aを照射する。フェムト秒レーザー光22Aは、例えば、波長800nm、パルス幅50~300fs程度、パルスエネルギー10~1500nJ/pulse程度で照射することができる。

【0023】
細胞分取領域13の下には、第1の標的細胞15aを含む液滴を受け取る第1の収液槽24が配置されている。第1の収液槽24は、例えばガラス、PDMS樹脂、PMMA樹脂、PET樹脂製等とすることができる。第1の収液槽24は、第1の標的細胞15aを含む液滴を受け取ることができればよく、大きさや形状は特に制限されない。

【0024】
(作用および効果)
細胞分取装置10においては、第1の圧力波付与機構22としてのパルスレーザー発振器から、細胞15を含む液体14にフェムト秒レーザー光22Aが集光照射される。フェムト秒レーザー光22Aが集光照射されると、図3に示すように多光子吸収によってキャビテーションバブルCBが液体14中に発生する。キャビテーションバブルCBは圧力波の発生源となって、液体14中に圧力波(衝撃波)PWが誘起される。これによって、目的とされる第1の標的細胞15aが移動する。第1の標的細胞15aは、図2に示すように細胞列16から分離されて開放した下面に移動する。

【0025】
本実施形態においては、流路12内を流通する液体14に対して、上から下に向けて縦方向の圧力波20を作用させることによって、第1の標的細胞15aを細胞列16から分離して液体14の下側に移動させることができる。流路12は下面が開放していることから、第1の標的細胞15aが液体14から押し出される際には重力も作用する。これによって、第1の標的細胞15aは液滴として液体14を離れて、下側に設けられた第1の収液槽24に収容されることとなる。第1の収液槽24に培養液が満たされているので、分取された第1の標的細胞15aを確実に回収することができる。

【0026】
このように、本実施形態においては重力が作用しているので、例えば横方向に押し出すような重力が作用しない場合と比較すると、より確実に、より効率よく第1の標的細胞15aを分取することができる。しかも、本実施形態での第1の標的細胞15aの分取は、重力が作用しない場合と比較して、より簡便に行なうことが可能となる。

【0027】
特に、フェムト秒レーザー光を発振するレーザーを用いた場合には、他のレーザー光を用いた場合と比較して、より小さなエネルギーでより小さなバブルを発生させることができる。一般的には、ナノ秒レーザー光は、パルス幅5~20ns程度、パルスエネルギー100~1000μJ/pulse程度で照射される。フェムト秒レーザー光のパルス幅はナノ秒レーザー光の約10万分の1程度であり、フェムト秒レーザー光のパルスエネルギーはナノ秒レーザーの約1000分の1程度である。

【0028】
ナノ秒レーザー光の照射により発生するバブルの直径は、最小で100μm程度とされている。これに対して、フェムト秒レーザー光を照射した場合には、直径10μm以下の微小なキャビテーションバブルCBを発生させることができる。しかも、フェムト秒レーザー光の照射により発生したバブルの寿命(維持時間)は1μs以下である。この寿命は、ナノ秒レーザー光の場合(10μs)の1/10と短いので、フェムト秒レーザー光を用いることによって迅速なスイッチングが期待できる。

【0029】
また、フェムト秒レーザー光を用いた場合には、バブルの最大半径Rmax(μm)と維持時間Tc(μs)との間には、Rmax/Tc≧10(m/s)といった関係が成立する。このことは、細胞15の直径が10μmの場合には、1秒間に最大で100万個を処理できることを表している。

【0030】
FACSのような従来の単一細胞分析技術においては、1秒間に処理できる細胞の個数(スループット)は、最高でも10万個程度とされている。これと比較すると、本実施形態の細胞分取装置は、従来より極めて高いスループットで細胞を分取可能であることがわかる。

【0031】
このように、細胞列16を含む液体14が流通する流路12の下面の一部を開放し、第1の圧力波付与機構22から縦方向の圧力波20を発生させることによって、所望の細胞を、より確実に、より効率よく分取することが可能となった。

【0032】
(変形例)
第1の圧力波付与機構22としては、ピコ秒レーザー光を発振するパルスレーザー発振器を用いることもできる。ピコ秒レーザー光を用いた場合も、フェムト秒レーザー光を用いる場合と同様の装置構成で同様の効果が得られる。

【0033】
第1の圧力波付与機構22においては、複数のレーザー光を照射するように構成してもよい(変形例(1))。例えば、図4に示すように、複数のフェムト秒レーザー光22Aが液体14に同時に集光照射する。複数のフェムト秒レーザー光22Aに起因した圧力波20が干渉することによって、より確実に第1の標的細胞15aを分取することが可能となる。このような多点集光系は、例えば、λ/2波長板とビームスプリッターとミラーとを組み合わせて構成することができる。

【0034】
液体14に対して同時に集光照射されるフェムト秒レーザー光22Aが多いほど、第1の標的細胞15aは、より確実に分離されることとなって、よりいっそう高い効果が得られる。

【0035】
第1の圧力波付与機構22としては、ナノ秒レーザー光22Bを発振するパルスレーザー発振器を用いることもできる。この場合には、図5,6に示すようにナノ秒レーザー光22Bの一部を吸収する光吸収ターゲットとして金属膜28を流路12に設ける。金属膜28は、ナノ秒レーザー光22Bの一部を吸収する任意の金属を用いて形成することができる。ここで用い得る金属としては、例えば金、クロム、およびタングステン等が挙げられる。こうした金属はワイヤー状であってもよい。

【0036】
金属膜28は、図5の細胞分取装置10Aに示すように、細胞分取領域13の液体14の上に設けることができる。具体的には、金属膜28は、細胞分取領域13における流路12の上面を画定している基板11内部に金属を埋め込んで設けられる(変形例(2))。この場合には、第1の圧力波付与機構22から照射されたナノ秒レーザー光22Bの一部が金属膜28に集光照射されるため、ナノ秒レーザー光を用いた場合でも、フェムト秒レーザー光に匹敵する大きな吸収を達成することができる。

【0037】
ナノ秒レーザー光を発振するレーザー発振器は、フェムト秒レーザー光を発振するレーザー発振器より小型で安価である。ナノ秒レーザー光の一部を吸収する金属膜28を設けることによって、より小型で安価なレーザー発振器を用いた場合でも、フェムト秒レーザー光を用いた場合と同様の効果を得ることができる。

【0038】
金属膜28は、図6の細胞分取装置10Bに示すように、細胞分取領域13の液体14の下に設けることもできる。具体的には、金属膜28は、細胞分取領域13の上流側で流路12の下面を画定している基板11に、金属ワイヤを取り付けて設けられる(変形例(3))。この場合には、第1の圧力波付与機構22から照射されたナノ秒レーザー光22Bの集光部が液体14中の細胞列16に近づくことから、より小さいエネルギーで第1の標的細胞15aを分取することが可能となる。このように細胞分取領域13の液体14の下に金属膜28を設けた場合も、フェムト秒レーザー光を用いた場合と同様の効果を得ることができる。

【0039】
ナノ秒レーザー光の代わりにマイクロ秒レーザー光を発振するパルスレーザー発振器を第1の圧力波付与機構22として用いた場合も、同様の装置構成で同様の効果が得られる。

【0040】
細胞分取領域13においては、流路12の上面が開放されていてもよい。この場合には、流路12の上面を開放して細胞分取領域13の上に第1の収液槽24を配置し、細胞分取領域13における基板11の下面側に第1の圧力波付与機構22を配置する以外は、図1の細胞分取装置10と実質的に同様に構成することができる。第1の収液槽24は、開口の大きさを1mm未満程度として、上述したように培養液を収容しておく。第1の収液槽24の開口が下向きであっても、表面張力が作用するために内容物が落下することはない。

【0041】
こうした構成の場合には、流路12内を流通する液体14に対して、下から上に向けて縦方向の圧力波20が作用することになる。上述と同様、縦方向の圧力波20の作用によって、第1の標的細胞15aが細胞列16から分離されて、液体14の上側に移動する。第1の標的細胞15aは、液滴として液体14の上面から離れて第1の収液槽24に収容される。

【0042】
開放面が流路12の上面に設けられている場合には、開放面の逆側から開放面に向けた方向は、下から上に向けた縦方向となる。このような構成は、例えば図1に示した細胞分取装置10を、流路12を軸として180°回転させて配置を反転することによって達成することができる。

【0043】
開放面の逆側から開放面に向けた方向は、縦方向に限定されるものではない。図1に示した細胞分取装置10を、流路12を軸として任意の角度で回転させることによって、例えば横方向といった任意の方向を、開放面の逆側から開放面に向けた方向とすることも可能である。これは、以降の実施形態においても適用される。

【0044】
[第2実施形態]
(全体構成)
次に、本発明の第2実施形態に係る細胞分取装置10Cの全体構成について、第1実施形態に係る細胞分取装置10と同様の構成について同様の符号を付した図7を参照して説明する。

【0045】
図7は、細胞分取装置10Cの細胞分取領域13の一部を上側からみた構成を模式的に表したものであるが、説明のために、細胞分取領域13における基板11の上に配置された第1の圧力波付与機構22も示している。

【0046】
細胞分取装置10Cは、干渉軽減素子32を備えた干渉軽減領域33を有する。干渉軽減領域33は、第1の圧力波付与機構22から縦方向の圧力波が付与される部分の上流側で、流路12の側面を画定する基板11に埋め込んで設けることができる。本実施形態においては、干渉軽減素子32としては、圧力波として表面弾性波を発生する表面弾性波デバイス、特に圧電素子を用いる。

【0047】
(作用および効果)
細胞分取装置10Cにおける液体14は、矢印Aで示されるように上流から下流に向けて流路12内を流れる。液体14は、第1の圧力波付与機構22から縦方向の圧力波を付与される前に、干渉軽減領域33を通過する。

【0048】
干渉軽減領域33では、干渉軽減素子32が、流路12の一側面12aから矢印C1で示される横方向の圧力波を液体14に与える。横方向の圧力波の作用によって、液体14中の細胞列の並びが乱れて、矢印C2で示すように流路12の対向側面12bに向けて細胞が移動する。こうして細胞同士の干渉が軽減されて、目的とする第1の標的細胞15aが前後の細胞15b,15cから隔離される。

【0049】
液体14が流路12内を矢印A方向に流れる速度と同等以上の速度で、細胞を対向側面12bに移動させることが好ましい。この場合には、液体14中における細胞同士の干渉を実質的に回避することができる。

【0050】
上述したとおり、第1の圧力波付与機構22は、液体14に縦方向の圧力波を与えて第1の標的細胞15aを下方向(図中、紙面の奥行方向)に移動させる。第1の標的細胞15aが前後の細胞15b,15cから隔離されて細胞同士の干渉が軽減されたことによって、縦方向の圧力波を第1の標的細胞15aによりいっそう確実に作用させることが可能となる。第1の圧力波付与機構22からの縦方向の圧力波が、前後の細胞15b,15cに作用する虞れは減少して、分取の失敗確率の低減につながる。

【0051】
細胞同士の干渉が軽減されているので、細胞間の長さよりも大きく、作用時間(寿命)が長いキャビテーションバブルを作用させた場合でも、第1の標的細胞15aをより確実に分取することが可能となる。例えば、直径10μmの細胞を含む液体14が10m/sで流通する場合には、直径が5~10μm程度のキャビテーションバブルを作用させても第1の標的細胞を分取することができる。直径が10μm程度のキャビテーションバブルは、例えば、パルス幅50~300fs程度、パルスエネルギー50~1500nJ/pulse程度でフェムト秒レーザー光を照射することによって発生させることができる。

【0052】
(変形例)
干渉軽減素子32は、液体14に第1の圧力波付与機構22から縦方向の圧力波が付与される前に、横方向の圧力波を付与できれば、任意の場所に設けることができる。干渉軽減素子32は、基板11のいずれかの表面に配置してもよい。

【0053】
干渉軽減領域33において液体14に横方向の圧力波を与える干渉軽減素子32としては、表面弾性波デバイスの他に、レーザー発振器を用いることもできる。干渉軽減素子32としてのレーザー発振器は、液体14に縦方向の圧力波を与える第1の圧力波付与機構22としてのレーザー発振器と同一でも異なっていてもよい。

【0054】
干渉軽減素子32は、流路12の対向側面12b側に設けることもできる。この場合には、上述の例とは逆方向に、流路の対向表面12bから一表面12aに向けて細胞15を移動させることができる。干渉軽減素子32は、流路12を挟んで両側に設けてもよい。この場合には、流路12の任意の側の側面に細胞15を移動させることが可能となる。

【0055】
図8の細胞分取装置10Dに示すように、圧力波吸収部34を設けることによって、流れ方向における干渉軽減領域33の長さdを制限してもよい。圧力波吸収部34としては、干渉軽減素子32から付与される横方向の圧力波の一部を吸収する任意の部材を用いることができ、特に限定されない。圧力波吸収部34は、例えばガラス、PDMS樹脂、PMMA樹脂、PET樹脂を基板11の上に配置して構成することができる。

【0056】
上述したような干渉軽減素子32からの横方向の圧力波は、流路12の上面に開放面を設けて下から上に向けた縦方向の圧力波が付与される場合にも、同様にして適用することができる。

【0057】
なお、開放面の逆側から開放面に向けた方向が横方向となる構成の場合には、干渉軽減素子32からの圧力波の方向は縦方向となる。言い換えると、干渉軽減素子32からの圧力波の方向は、開放面の逆側から開放面に向けた方向を横切るような方向である。

【0058】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る細胞分取装置10Eの全体構成について、第1実施形態に係る細胞分取装置10と同様の構成について同様の符号を付した図9を参照して説明する。

【0059】
細胞分取装置10Eにおいては、表面弾性波デバイス38が流路12の上に配置されている。図示する細胞分取装置10Eにおける表面弾性波デバイス38は、流路12の上面を画定する基板11の上に設けられているが、表面弾性波デバイス38の一部または全部が、流路12の上面を画定する基板11に埋め込まれていてもよい。

【0060】
表面弾性波デバイス38は、細胞分取領域13の液体14の下面を波立たせて、さざ波(表面張力波)36を発生させる。細胞分取領域13においては、すでに説明したように、第1の圧力波付与機構22からの縦方向の圧力波20の作用によって、第1の標的細胞15aが液体14の下側に移動する。この際、液体14表面のさざ波36は、第1の標的細胞15aを含む液滴が液体14から離れるのを補助することとなる。これによって、第1の標的細胞15aを、よりいっそう確実に分取することができ、分取の失敗確率の低減につながる。

【0061】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る細胞分取装置10Fの全体構成について、第1実施形態に係る細胞分取装置10と同様の構成について同様の符号を付した図10を参照して説明する。

【0062】
細胞分取装置10Fにおいては、細胞分取領域13の上流側に分離補助素子40が配置されている。図示する細胞分取装置10Fにおける分離補助素子40は、流路12の上面を画定する基板11の上に設けられているが、分離補助素子40の一部または全部が流路12の上面を画定する基板11に埋め込まれていてもよい。

【0063】
分離補助素子40としては、表面弾性波デバイスを用いることができる。表面弾性波デバイスは、液体14に縦方向の圧力波を付与して、液体14内の細胞15を下面に誘導する。すでに説明したように、第1の圧力波付与機構22からの縦方向の圧力波20の作用によって、第1の標的細胞15aが液体14の下側に移動する。この際、縦方向の圧力波が付与されるので、第1の標的細胞15aを含む液滴が液体14から離れるのを補助することができる。これによって、第1の標的細胞15aを、よりいっそう確実に分取することができ、分取の失敗確率の低減につながる。

【0064】
細胞15は、誘電泳動の作用によって液体14の下面に向けて誘導してもよい。この場合には、細胞分取領域13の上流側に分離補助素子40として、電場の勾配を生成するための電極が配置される。誘電泳動によっても、細胞15が液体14の下面に誘導されることから、第1の標的細胞15aをよりいっそう確実に分取することができる。

【0065】
[第5実施形態]
本実施形態においては、流路を挟んで両側面に配置した2つの表面弾性波デバイスを、第1の圧力波付与機構として用いる。表面弾性波デバイスは、流路の両側面を画定する基板に埋め込むことができる。流路の両側面の2つの表面弾性波デバイスから発生した圧力波としての表面弾性波によって定在波が生成され、それよって、第1の圧力波付与機構としてレーザー発振器を用いた場合と同様に、第1の標的細胞をより確実により効率よく分取することができる。

【0066】
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態に係る細胞分取装置10Gの全体構成について、第1実施形態に係る細胞分取装置10と同様の構成について同様の符号を付した図11を参照して説明する。

【0067】
細胞分取装置10Gにおいては、細胞分取領域13の下に配置される第1の収液槽24Aは、XY方向にマトリクス状に設けられた複数の収液室26を備えている。第1の収液槽24Aは、XY方向に移動可能である。第1の収液槽24Aの各収液室26には、培養液が満たされている。

【0068】
すでに説明したように、第1の圧力波付与機構22からの縦方向の圧力波20によって第1の標的細胞15aが液体14の下側に移動する。第1の標的細胞15aが液滴として回収される収液室26に培養液が満たされているので、分取された第1の標的細胞15aを確実に回収することができる。

【0069】
また、複数の収液室26を備えた第1の収液槽24AをXY方向に可動することによって、第1の標的細胞15aを任意の収液室26に回収することが可能となる。

【0070】
図示していないが、第2の圧力波付与機構を用い、第1の収液槽24AをXY方向に可動して、第1の標的細胞15aとは異なる第2の標的細胞を任意の収液室26に分取することもできる。

【0071】
このような第1の収液槽24Aを備えることによって、細胞分取装置10Gにおいては、所望の標的細胞をより確実により効率よく分取することが可能となる。

【0072】
[第7実施形態]
本実施形態においては、複数の圧力波付与機構と複数の収液槽とを設ける。具体的には、第1の圧力波付与機構に加え第2の圧力波付与機構を細胞分取領域の上にさらに設け、第1の収液槽に加え第2の収液槽を細胞分取領域の下にさらに設ける。

【0073】
細胞分取領域の液体に縦方向の圧力波を与える圧力波付与機構による照射位置と照射タイミングを制御することにより、標的細胞を目的の収液槽のある位置で細胞列から分離して、開放した下面に向けて移動させる。

【0074】
複数の圧力波付与機構および複数の収液槽を配置することによって、異なる標的細胞を分取するマルチ分取を、より確実により効率よく行なうことができる。本実施形態の細胞分取装置によれば、異なる標的細胞を分取するための分岐流路は必要とされないので、マルチ分取を容易に行なうことが可能となる。

【0075】
また、第3、第4といったさらなる圧力波付与機構および収液槽を、細胞分取領域に設けることによって、より多くの種類の異なる標的細胞を分取することができる。

【0076】
[第8実施形態]
次に、本発明の第8実施形態に係る細胞分取装置10Hの全体構成について、第1実施形態に係る細胞分取装置10と同様の構成について同様の符号を付した図12を参照して説明する。

【0077】
細胞分取装置10Hにおいては、細胞分取領域13の下に第1の標的細胞15aを含む液滴を受け取る収液流路44が配置されている。収液流路44には、流路12の細胞分取領域13に対応するように受容開口48が設けられている。収液流路44内には、流路12内を流通する液体より低速の流体46が流通する。

【0078】
すでに説明したように、第1の圧力波付与機構22からの縦方向の圧力波20によって第1の標的細胞15aが液体14の下側に移動する。第1の標的細胞15aを含む液滴は、流路12の細胞分取領域13から収液流路44の受容開口48を介して低速の流体46中に回収される。

【0079】
このような収液流路44を備えることによって、細胞分取装置10Hにおいては、所望の細胞を、より確実により効率よく連続的に分取することが可能となる。
【符号の説明】
【0080】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H 細胞分取装置
11 基板
11a 一端
11b 他端
12 流路
13 細胞分取領域
14 液体
15 細胞
15a 第1の標的細胞
16 細胞列
20 圧力波
22 第1の圧力波付与機構
22A フェムト秒レーザー光
22B ナノ秒レーザー光
23 対物レンズ
24,24A 第1の収液槽
26 収液室
28 金属膜
32 干渉軽減素子
33 干渉軽減領域
34 圧力波吸収部
38 表面弾性波デバイス
40 分離補助素子
44 収液流路
46 流体
48 受容開口
CB キャビテーションバブル
PW 圧力波
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11