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明細書 :光制御素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-215451 (P2015-215451A)
公開日 平成27年12月3日(2015.12.3)
発明の名称または考案の名称 光制御素子
国際特許分類 G02F   1/01        (2006.01)
FI G02F 1/01 F
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2014-097715 (P2014-097715)
出願日 平成26年5月9日(2014.5.9)
発明者または考案者 【氏名】池田 勝佳
出願人 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088155、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 芳樹
【識別番号】100128381、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 義憲
【識別番号】100124800、【弁理士】、【氏名又は名称】諏澤 勇司
審査請求 未請求
テーマコード 2K102
Fターム 2K102AA40
2K102BA01
2K102BB01
2K102BC01
2K102BC04
2K102BD01
2K102DA16
2K102DD08
2K102EA02
要約 【課題】プラズモン共鳴波長を簡単に変えて、光制御を行うことが可能な光制御素子を提供する。
【解決手段】 この光制御素子は、エネルギー入力に応じて電子を供給する電子供給材料2と、電子供給材料2上に設けられプラズモン共鳴可能な金属体3と、金属体3に設けられ、電子供給材料2からの電子が供給される水素吸蔵材料4と、水素吸蔵材料4に接触するプロトン供与体5とを備えている。電子供給材料2から金属体3を介して水素吸蔵材料4に伝達される電子量に応じて、プロトン供与体5から水素吸蔵材料に吸蔵されるプロトン(水素)量が変化し、水素吸蔵材料4が設けられた金属体3のプラズモン共鳴周波数が変化する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
エネルギー入力に応じて電子を供給する電子供給材料と、
前記電子供給材料上に設けられプラズモン共鳴可能な金属体と、
前記金属体に設けられ、前記電子供給材料からの電子が供給される水素吸蔵材料と、
前記水素吸蔵材料に接触するプロトン供与体と、
を備えることを特徴とする光制御素子。
【請求項2】
前記エネルギーは励起光であり、
前記電子供給材料は、半導体材料であることを特徴とする、
請求項1に記載の光制御素子。
【請求項3】
前記エネルギーは電源からの電子エネルギーであり、
前記電子供給材料は、導体であることを特徴とする、
請求項1に記載の光制御素子。
【請求項4】
前記金属体は、金、銀又は銅を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光制御素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵現象を利用した光制御素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ構造(プラズモン共鳴可能な金属体)の示すプラズモン共鳴現象は、光学・光化学・分光学などの分野において現在大きな注目を集めている。プラズモン共鳴自身は古くから知られている現象で、ステンドグラスの赤色の起源としても知られているように、特定の波長(色)の光を強く吸収する効果がある。また、吸収された光エネルギーが金属ナノ構造の周囲に局在するため、単なるカラーフィルタではなく、ナノ空間内で効率的に光化学反応を起こすなどの目的で、新しい光制御・利用技術として精力的な研究が進められている。プラズモン共鳴の波長特性は「金属ナノ構造の大きさや形状」によって自在に設計可能であり、可視~近赤外の幅広い領域で任意の色を持つ光学材料を設計可能である。
【0003】
例えば、図7における波長λ(nm)と正規化した消光度αとの関係に示すように、金属ナノ構造として、長さ40nm、60nm、80nm、100nm、120nmのロッドを用意し、それぞれのロッドは、固有の共鳴波長を有しており、それぞれのロッドに対応する共鳴波長の光を照射した場合には、プラズモン共鳴が生じ、入射した光の消光度αが高くなる。なお、同図のロッドの幅と高さは共に20nmであるとする。なお、金ナノ構造としてのロッドの長さによる共鳴特性の変化は、計算結果を示すものであり、消光度αは、媒体による散乱・吸収を含めた透過光減少の程度を表している。
【0004】
しかしながら、プラズモン共鳴現象の長所である「金属ナノ構造の大きさや形状による共鳴波長の制御性」は、逆に言えば、金属ナノ構造を構築した後で、その共鳴波長を意図的に変えられないという短所にもなる。つまり、光や電気などの外部刺激によるプラズモン共鳴特性の動的かつ可逆な制御は困難といえる。これまでの報告では、銀ナノ構造の溶解・再析出を利用したプラズモン共鳴特性の制御が、マルチカラーフォトクロミズムとして報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Yoshihisa Ohko等、「Multicolour photochromism of TiO2 films loaded withsilver nanoparticles」、Nature Materials 2, p.29-31(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の手法では、ナノ構造の形状変化に銀の溶解・再析出を利用していることから、手法が複雑であり、また、繰り返し特性や可逆性に問題が生じやすく、プラズモン共鳴波長を簡単に変えて、光制御素子に利用することは困難である。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、プラズモン共鳴波長を簡単に変えて、光制御を行うことが可能な光制御素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明の態様に係る光制御素子は、エネルギー入力に応じて電子を供給する電子供給材料と、前記電子供給材料上に設けられプラズモン共鳴可能な金属体と、前記金属体に設けられ、前記電子供給材料からの電子が供給される水素吸蔵材料と、前記水素吸蔵材料に接触するプロトン供与体とを備えることを特徴とする。
【0009】
この光制御素子によれば、電子供給材料から金属体を介して水素吸蔵材料に電子が供給されると、プロトン供与体からプロトン(水素)が水素吸蔵材料に供給され、金属体のプラズモン共鳴波長(吸収する波長λ)が変化する。なお、c=fλである(cは光速、fは光の周波数、λは光の波長)。したがって、特定の信号光の波長λが、プラズモン共鳴波長λpに一致する場合には、プラズモン共鳴が生じ、この信号光は金属体に吸収されるため、金属体を透過しない。特定の信号光の波長λが、プラズモン共鳴波長λpに一致しない場合には、プラズモン共鳴は生じず、この信号光は金属体には多くは吸収されないため、金属体が薄い場合には、これを透過する。したがって、この光制御素子によれば、エネルギー入力に応じて、プラズモン共鳴波長を簡単に変えて、光制御を行うことができる。
【0010】
また、前記エネルギーは励起光であり、前記電子供給材料は、半導体材料であることを特徴とする。半導体材料に、励起光を照射すると、半導体材料内において電子・正孔対が発生するため、この電子が、プロトン供与体に隣接する水素吸蔵材料内に流れ込み、上述の作用効果を奏する。
【0011】
また、前記エネルギーは電源からの電子エネルギーであり、前記電子供給材料は、導体であることを特徴とする。電源からの電子エネルギーが、電子供給材料(電極など)に入力されると、すなわち、電極間に電圧が与えられると、電子は、一方の電極から、プロトン供与体に隣接する水素吸蔵材料内に流れ込み、上述の作用効果を奏する。
【0012】
また、前記金属体は、金、銀又は銅を含むことを特徴とする。すなわち、プラズモン共鳴現象は、金属中の自由電子の集団運動に依存している。金属の中でも、金、銀又は銅は、電気伝導に寄与するフェルミ準位近傍の電子としてsp電子が主に関与しており、強いプラズモン共鳴が生じるため、効果的な光制御を行うことができる。なお、その他の遷移金属ではd軌道の混成の影響が強いため、プラズモン共鳴が非常に弱くなる。パラジウムもプラズモン共鳴の強度が弱いので、プラズモン共鳴を生じる能力の高い金属と、プラズモン共鳴を生じる能力は低いが水素吸蔵能力が高い金属を組み合わせることで、上述の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光制御素子によれば、プラズモン共鳴波長を簡単に変えて、光制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係る光制御素子の縦断面構造を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る光制御素子の動作について説明する図である。
【図3】図3(A)は水素吸蔵前の光制御素子へ入射する信号光の波長λ(nm)と吸光度Absとの関係を示すグラフであり、図3(B)は水素吸蔵前と後(励起光照射前後)の信号光の波長λ(nm)と吸光度の変化量ΔAbs(差分)を示すグラフである。る。
【図4】経過時間t(sec)と吸光度の変化量ΔAbsとの関係を示すグラフである。
【図5】信号光の波長λ(nm)と吸光度の変化量ΔAbsとの関係を示すグラフである。
【図6】TiOの光触媒反応を説明するための図である。
【図7】光の波長λと規格化した消光度αとの関係を示すグラフである。
【図8】第2実施形態に係る光制御素子の縦断面構造を示す図である。
【図9】第2実施形態に係る光制御素子の動作について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態に係る光制御素子について説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。

【0016】
図1は、第1実施形態に係る光制御素子10の縦断面構造を示す図であり、図2は、第1実施形態に係る光制御素子10の動作について説明する図である。

【0017】
この光制御素子は、光励起型の光制御素子であり、励起光の入射に応じて、プラズモン共鳴波長をシフトさせ、信号光の透過及び遮断を制御するものである。すなわち、図2(A)に示すように、励起光を光制御素子10に照射せず、プラズモン共鳴波長に信号光の波長が一致している場合には、プラズモン共鳴によって信号光が吸収され、信号光が透過しない。一方、図2(B)に示すように、励起光を光制御素子10に照射した場合、プラズモン共鳴波長がシフトして、プラズモン共鳴波長に信号光の波長が一致しない場合には、プラズモン共鳴が生じないため、信号光が吸収されず、信号光が透過する。

【0018】
図1を参照すると、光制御素子10は、透明基板1と、透明基板1上に形成された電子供給材料2と、電子供給材料2上に形成された金属ナノ構造である金属体3と、金属体3上に形成された水素吸蔵材料4と、水素吸蔵材料4を被覆するプロトン供与体5とを備えている。

【0019】
本例においては、透明基板1はガラス基板であり入射する信号光に対して透明である。電子供給材料2は、エネルギー入力に応じて電子を供給する半導体材料であり、好適には、TiOからなるが、これに限定されるものではなく、各種の酸化物半導体の他、GaAs等の化合物半導体、その他、SiやGeなどの単一元素からなる半導体を用いることができる。励起光は、これらの半導体材料のエネルギーバンドギャップよりも大きなエネルギーを有している。本例では、励起光は水銀ランプなどから発生する紫外光(波長375nm)を用いることとする。電子供給材料2の厚さは、十分な電子を発生させる観点から、10nm以上が好ましい。

【0020】
金属ナノ構造である金属体3は、金、銀又は銅などを含む金属からなり、電子供給材料2上に複数設けられ、それぞれが入射した信号光に応じてプラズモン共鳴可能である。金属体3の形状は、一例としては、透明基板1の厚み方向に垂直な方向の最大寸法が2nm以上1000nm以下、好適には10nm以上100nm以下の微小なドット状であるが、最大寸法がこれと同じ範囲内の直線状或いは曲線状等の形状を有するナノワイヤー形状であってもよい。更に、プラズモン共鳴可能な金属ナノ構造としては、例えば、三角プリズム形状やボウタイ形状など、数多くのものが知られており、本発明の本質からすれば、その形状に限定されることなく、様々なタイプの金属ナノ構造を利用することが可能である。また、隣接する金属体3の間隔は、上記の最大寸法の範囲と同じ程度に設定することができる。

【0021】
水素吸蔵材料4は、金属体3上に設けられており、電子供給材料2からの電子が供給される。本例の水素吸蔵材料4は、パラジウム(Pd)であるが、Pdの他の元素も含むPd系水素吸蔵合金を用いることもでき、また、他の水素吸蔵合金を用いることも可能である。

【0022】
その他の水素吸蔵合金としては、(1)AB2型水素吸蔵合金(チタン、マンガン、ジルコニウム、ニッケルなどの遷移元素の合金)、(2)AB5型水素吸蔵合金(希土類元素、ニオブ、ジルコニウム1に対して触媒効果を持つ遷移元素(ニッケル、コバルト、アルミニウムなど)5を含む合金を含む合金(LaNi、ReNiなど))、(3)Ti-Fe系水素吸蔵合金、(4)V系水素吸蔵合金(バナジウムを含む合金)、(5)Mg合金、(6)Ca系水素吸蔵合金がある。

【0023】
プロトン供与体5は、水素吸蔵材料4に接触しており、プロトン(H)を含む材料かならなる。本例のプロトン供与体5は、N-H、O-Hなどの水素結合を含む水などの溶媒からなる。なお、水などの溶媒の分子は、プロトンの供与および受容の両方を行うことができ、溶媒中では、一部の溶媒が溶媒同士でプロトンを授受し、イオン化し、溶媒が自己解離して平衡状態を維持している。すなわち、水はプロトン源と正孔消費剤の双方の役割を有している。なお、本例のプロトン供与体5は、プロトン源としての水の他に、正孔消費剤としてエタノールを含んでいる。正孔消費剤としては、メタノールやエチレングリコールなどの液体を用いることができる。また、この光制御素子では、HがHに還元されて金属に吸収される現象を、外部エネルギーの供給により生じさせており、かかる現象が生ずる材料であれば、プロトン供与体5として、気体、固体又はゲル状のものを採用することも可能である。

【0024】
この光制御素子によれば、電子供給材料2から金属体3を介して水素吸蔵材料4に電子が供給されると、プロトン供与体5からプロトン(水素イオン:H)が水素吸蔵材料4に供給され、金属体3のプラズモン共鳴波長(吸収する波長λ)が変化する。なお、c=fλである(cは光速、fは光の周波数、λは光の波長)。したがって、特定の信号光の波長λが、プラズモン共鳴波長λpに一致する場合(λ=λp)には、プラズモン共鳴が生じ、この信号光は金属体3に吸収されるため、金属体3を透過しない。特定の信号光の波長λが、プラズモン共鳴波長λpに一致しない場合(λ≠λp)には、プラズモン共鳴は生じず、この信号光は金属体3には多くは吸収されないため、金属体3が薄い場合には、これを透過する。したがって、この光制御素子10によれば、エネルギー入力に応じて、プラズモン共鳴波長λpを簡単に変えて、光制御を行うことができる。

【0025】
本例の光制御素子10は、光励起型であるため、電子供給材料2に入力されるエネルギーは励起光であり、電子供給材料2は、半導体材料である。半導体材料に、励起光を照射すると、半導体材料内において電子・正孔対が発生するため、この電子が、プロトン供与体5に隣接する水素吸蔵材料4内に流れ込み、上述の作用効果を奏する。

【0026】
図3(A)は、水素吸蔵前の光制御素子へ入射する信号光の波長λ(nm)と吸光度Absとの関係を示すグラフであり、図3(B)は、水素吸蔵前と後(励起光照射前後)の信号光の波長λ(nm)と吸光度の変化量ΔAbs(差分)を示すグラフである。

【0027】
電子供給材料2としてTiOを用い、金属体3として金(Au)を用い、水素吸蔵材料4としてパラジウム(Pd)を用い、プロトン供与体5として水とエタノールを用いた。励起光としては上述の紫外光を用いた。(A)に示すように、励起光照射前においては、水素吸蔵材料4において、水素吸蔵が生じず、吸光度Absのピーク位置は、1060nm付近に存在している。(B)に示すように、励起光照射後においては、水素吸蔵材料4において、水素吸蔵が生じて、概ね1200nm以上の吸光度は増加し、吸光度の変化量ΔAbsのピーク位置は、1300nm付近にシフトし、概ね1200nm未満の吸光度は減少する。これにより、吸光度Absのピーク位置は、矢印で示すように、1060nm以上の位置にシフトする。

【0028】
以上のように、光制御素子では、吸光度のピーク位置を励起光により変化させることができ、したがって、信号光の遮断と透過を制御することができる。信号光と吸光度の波長の一致・不一致により、制御を行っているため、これらの関係を調整することより、共鳴の長波長側で信号光を遮断することも可能である。

【0029】
図4は、経過時間t(sec)と吸光度の変化量ΔAbsとの関係を示すグラフである。信号光の波長を1000nmとする。

【0030】
経過時間tが40secから340secまでの期間においては、励起光としての紫外光をONし、その他の期間においては紫外光をOFFした。この場合、紫外光をONした場合のみ、上述の吸光度が減少し、吸光度の変化量ΔAbsは負の値となった。励起光により、信号光が吸収されない場合には、信号光は光制御素子を透過することができる。

【0031】
図5は、信号光の波長λ(nm)と吸光度の変化量ΔAbsとの関係を示すグラフである。同図では、励起光照射開始後0secから300secまでの変化量が示してある。時間の経過と共に、1030nm付近の吸光度は減少していくことがわかる。

【0032】
図6は、酸化チタン(TiO)の光触媒反応を説明するための図である。

【0033】
TiOに励起光hνが入射すると、価電子帯V.B.に存在する電子eが励起され、フェルミ準位Eを超えて、伝導帯C.B.に移動し、価電子帯V.B.には正孔hができる。パラジウム(Pd)には、プロトン供与体である水(HO)からプロトン(H)が供給され、TiOで発生した電子eと結合する。また、エタノール(CHCHOH)の一部は、CHCHOHやCHCHOに解離しており、これらからもプロトン(H)や電子eがPdに供給される。本例では、PdがTiO上に接触した図が示されているが、実際には、PdとTiOとの間にはAuなどの金属体が存在しており、電子及び正孔は、金属体を介してPdに供給される。

【0034】
TiOは可視~近赤外領域で透明であり、そのエネルギーバンドギャップよりも大きなエネルギーを持つ紫外光を照射すると、光触媒反応を進行する。光触媒反応では、紫外光励起で生じた正孔が酸化反応を、励起電子が還元反応を誘起する。紫外光照射によってTiO内部に生成した励起電子がパラジウムナノ構造体まで移動して還元反応を進行させ、TiO表面にて正孔が酸化反応を進行させる。金属ナノ構造を構築したTiO基板表面に、プロトン源と正孔消費剤を有する反応基質を導入し、紫外光照射を行うと、パラジウムへの水素吸蔵反応が進行する。なお、パラジウム表面では、電子(e-)+プロトン(H+)→H(Pd内部への吸蔵)という光誘起反応が生じている。また、TiOの表面では、正孔(h)+(OH)+エタノール(CHCHOH)→水(HO)+CHCHOH→アセトアルデヒド(CHCHO)という光誘起反応が生じている。

【0035】
なお、プロトン供与体のプロトン源として、ナフィオン(Nafion)等のアイオノマーの薄膜を用いた場合も、同様の原理によって反応が進行すると期待されるので、全固体化デバイスも作成可能である。なお、ナフィオンは炭素-フッ素からなる疎水性テフロン(登録商標)骨格とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖から構成されるパーフルオロカーボン材料であり、tetrafluoroethyleneとperfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)propylvinyl ether]の共重合体である。

【0036】
上述のように、励起光を照射することで、水素吸蔵材料への水素吸蔵により、吸光度或いは消光度αのピーク位置は、長波長側へシフトし、励起光を停止することで、水素吸蔵材料からの水素脱離により、ピーク位置は、短波長側へシフトする。なお、信号光吸収時(プラズモン共鳴時)に、吸収された光エネルギーは熱となって周囲に拡散する。

【0037】
次に、電極型の光制御素子について説明する。

【0038】
図8は、第2実施形態に係る光制御素子10Aの縦断面構造を示す図であり、図9は、第2実施形態に係る光制御素子の動作について説明する図である。

【0039】
この光制御素子は、電極型の光制御素子であり、電極を介して入力される電子エネルギー(電圧)に応じて、プラズモン共鳴波長をシフトさせ、信号光の透過及び遮断を制御するものである。すなわち、図9(A)に示すように、電圧を光制御素子10Aに印加せず、プラズモン共鳴波長に信号光の波長が一致している場合には、プラズモン共鳴によって信号光が吸収され、信号光が透過しない。一方、図9(B)に示すように、電圧を光制御素子10Aに印加した場合、プラズモン共鳴波長がシフトして、プラズモン共鳴波長に信号光の波長が一致しない場合には、プラズモン共鳴が生じないため、信号光が吸収されず、信号光が透過する。

【0040】
図8を参照すると、光制御素子10は、透明基板1と、透明基板1上に形成された第1の電極E1(電子供給材料)と、第1の電極E1上に形成された金属ナノ構造である金属体3と、金属体3上に形成された水素吸蔵材料4と、水素吸蔵材料4を被覆するプロトン供与体5と、プロトン供与体5上に配置された第2の電極E2と、第2の電極E2上に配置された別の透明基板6とを備えている。第1の電極E1と第2の電極E2は、信号光を透過可能な材料からなり、例えば、ITOやFTOなどの透明導電膜からなり、厚さは20nm以上のものを採用することができる。

【0041】
電極以外の材料と構造は、上述のものと同一である。第1の電極E1と第2の電極E2との間に、電源から電圧を印加した場合、第1の電極E1から、金属体3を介して、水素吸蔵材料4に電子が移動し、プロトン供与体5からプロトンが水素吸蔵材料4内に移動し、消光度或いは吸光度のピークが長波長側にシフトし、電圧を印加しない場合、水素脱離が生じて、消光度或いは吸光度のピークが短波長側にシフトする。

【0042】
以上のように、電極型の光制御素子においては、電子供給材料となる第1の電極E1に入力されるエネルギーは、電源からの電子エネルギーであり、電子供給材料は、導体である。電源からの電子エネルギーが、電子供給材料(電極など)に入力されると、すなわち、第1の電極E1と第2の電極E2との間に電圧が与えられると、電子は、第1の電極E1から、プロトン供与体5に隣接する水素吸蔵材料4内に流れ込み、上述の作用効果を奏する。

【0043】
最後に、上述の金属体3の材料について説明する。金属体3は、金、銀又は銅を含んでいる。プラズモン共鳴現象は、金属中の自由電子の集団運動に依存している。金属の中でも、金、銀又は銅は、電気伝導に寄与するフェルミ準位近傍の電子としてsp電子が主に関与しており、強いプラズモン共鳴が生じるため、効果的な光制御を行うことができる。なお、その他の遷移金属ではd軌道の混成の影響が強いため、プラズモン共鳴が非常に弱くなる。パラジウムもプラズモン共鳴の強度が弱い。プラズモン共鳴を生じる能力の高い金属と、プラズモン共鳴を生じる能力は低いが水素吸蔵能力が高い金属を組み合わせることで、上述の作用効果を奏することができる。

【0044】
しかし、金属の多様な性質はd電子に由来するため、光や電位に応答する機能を持たせるにはこれらのプラズモン共鳴の弱い遷移金属を使用する必要がある。

【0045】
上述の実施形態では、金属ナノ構造体の電子状態を光や電位によって変調し、プラズモン共鳴を動的かつ可逆に制御している。金属の電子状態を大きく変調するには、光や電位によって金属-非金属相転移を誘起することが効果的である。室温でこれを実現する実施例として、パラジウムを含む金属ナノ構造を半導体基板表面に構築し、半導体基板の光励起によってパラジウムへの水素吸蔵(金属-水素化物相転移)を起こしている。

【0046】
なお、積層構造にすることで、合金構造とは異なり、パラジウムの水素吸蔵特性を維持したままで、パラジウムのナノ構造体よりも強いプラズモン共鳴特性を得ることが可能になる。積層ナノ構造の共鳴波長も、サイズや形状および積層金属の比率で制御可能である。

【0047】
また、上記の構造では、金属体3上部の主表面上に水素吸蔵材料4を積層したが、金属体3の側面に水素吸蔵材料4が接触していてもよい。この場合、水素吸蔵材料4は、金属体3の側面に一部分だけが接触することもできるし、金属体3の側面の周囲を囲むこともできる。また、金属体3の主表面及び側面の双方を覆うように水素吸蔵材料4を設けることもできる。水素吸蔵材料4にプロトン供与体5が接触する構造であれば、これらの構造としては様々なものが利用可能である。

【0048】
以上により、可視光から近赤外光の領域で、吸光度を自在に設計可能なプラズモン共鳴特性を持ち、その共鳴波長を外部からの光照射によって変調可能にした。半導体基板の代わりに透明電極を基板に用いれば、電位印加によって水素吸蔵を起こすこともできる。従来では実現が困難な近赤外領域での可逆な光学特性変化を実現できることで、情報通信分野での新規デバイス開発への応用が期待される。また、上述の材料は、無機材料であることにより、耐候性や耐久性に優れている。
【符号の説明】
【0049】
1…透明基板、2…電子供給材料、3…金属体、4…水素吸蔵材料、5…プロトン供与体、6…透明基板、10,10A…光制御素子、E1…第1の電極(電子供給材料)、E2…第2の電極。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図5】
8