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明細書 :イオンセンサ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-224904 (P2015-224904A)
公開日 平成27年12月14日(2015.12.14)
発明の名称または考案の名称 イオンセンサ
国際特許分類 G01N  27/26        (2006.01)
G01N  27/333       (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
FI G01N 27/26 371A
G01N 27/30 331M
G01N 27/30 331Z
G01N 27/46 351K
G01N 27/46 351B
請求項の数または発明の数 2
出願形態 OL
全頁数 8
出願番号 特願2014-108571 (P2014-108571)
出願日 平成26年5月26日(2014.5.26)
発明者または考案者 【氏名】塚田 啓二
【氏名】堺 健司
【氏名】紀和 利彦
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
審査請求 未請求
要約 【課題】コネクタを介して計測部に接続したセンサ基板に、所定のAg/AgCl電極とイオン感応膜を設けて、被検体に含まれる計測対象のイオンの濃度を計測するイオンセンサであって、従前の参照電極の内部標準溶液と液絡を取り除き、Ag/AgCl電極のみの参照電極で溶液中のイオン濃度を測定するイオンセンサを提供する。
【解決手段】センサ基板に交流インピーダンスを測定するためのAg/AgCl電極を設けて、計測部で交流インピーダンスを測定することで、被検体中の計測対象のイオン以外のイオンに対する補正を行って計測対象のイオン濃度を計測するイオンセンサとする。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
コネクタを介して計測部に接続したセンサ基板に、所定のAg/AgCl電極とイオン感応膜を設けて、被検体に含まれる計測対象のイオンの濃度を計測するイオンセンサであって、
センサ基板に交流インピーダンスを測定するためのAg/AgCl電極を設けて、計測部で交流インピーダンスを測定することで、被検体中の計測対象のイオン以外のイオンに対する補正を行ってイオン濃度を計測するイオンセンサ。
【請求項2】
被検体中の計測対象のイオン以外のイオンはCl-であって、計測したインピーダンスプロットと等価回路の比較により被検体に含まれるCl-濃度を測定する請求項1に記載のイオンセンサ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンセンサに関し、特に、Ag/AgCl電極のみの参照電極で溶液中のCl-濃度を測定することで、Cl-の存在下でのイオン濃度を計測可能としたイオンセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン濃度の計測には様々な原理を用いたイオンセンサがこれまでに開発されているが、現在広く用いられている形態の一つにイオン選択性電極を用いたイオン計測が挙げられる。イオン選択性電極は、Na+やK+の濃度を測定するイオンセンサとして臨床検査における分析機器としても用いられており、これまでにイオン選択性電極に関する多数の報告例がある(非特許文献1)。
【0003】
標準的なイオン選択性電極は、イオン選択性電極の内部に基準となる溶液があり。イオン感応物質であるイオン感応膜を介して被測定溶液と接する構造となっている。内部溶液には電位を計測する電極が浸されており、広く使用されている電極としてAg/AgCl電極が挙げられる。このイオン選択制電極の電位と基準の電位を与える参照電極の電位差を測定することでイオン濃度の検出が可能となる。
【0004】
イオン選択性電極の改善例として、内部溶液をなくし、固体金属を直接イオン感応膜に接続した固体型イオン選択性電極が報告されている。また、Ag/AgCl電極に直接イオン感応膜を形成し内部溶液をなくした被覆線型(Coated wire型)イオン選択性電極も報告されている(非特許文献2)。さらに、電界効果型トランジスタのゲート金属電極を除去し、その部分にイオン感応膜を被覆したイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)も開発されている(非特許文献3)。このイオンセンサは半導体技術を用いて作製することができるため、イオンセンサ部の小型化や、多種のイオン感応膜をセンサ基板に集積化した多種イオンのマルチ計測も実現可能となる。(特許文献1)
【0005】
前述した全てのイオンセンサは、被測定溶液のイオン濃度に応じて変化するイオン感応膜の電位を測定するため、電位の基準となる参照電極を必要とする。従って、イオンセンサの小型化にはイオン選択性電極だけでなく、参照電極の小型化も必要となり、参照電極の小型化を行う取り組みもある。(特許文献2)(特許文献3)
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平9-178690公報
【特許文献2】特開2002-250712公報
【特許文献3】特開2005-265727公報
【0007】

【非特許文献1】「Tracing the History of Selective Ion Sensors」, R. P. BucK and E. Lindner, ANal. Chem. Vol. 73 (2001) pp.88A-97A
【非特許文献2】「Coated wire ion-selctive electrodes」, R.W.Cattrall and H.Freiser, ANal.Chem., Vol.43 (1971) pp.1905-1906
【非特許文献3】「Development of an Ion-Sensitive Solid-State Device for Neurophysiological Measurements」, P. Bergveld, IEEE Trans. Biomed. Eng. 17 (1970) p. 70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、参照電極はAg/AgCl電極、内部標準溶液、被測定溶液とのイオン交換を行う液間の接続部である液絡から構成されており、安定した基準電位を与えるためにはこれらの構成が必要なため、参照電極の小型化には限界がある。また、参照電極の存在によりイオンセンサ全体の構造が複雑になるため、安価で量産可能なイオンセンサを実現することが困難である。
【0009】
特に、本発明者らは、健康管理の目的で尿中のNa+濃度及びK+濃度をより簡便に検出することについて検討しており、従前のイオンセンサは、病院等の尿検査の設備が整った施設でしか使用できず、例えば自宅で介護されている要介護者等の検査を簡便に行いたいという要望に応えられるものではなかった。
【0010】
これらの問題点を解決するため、参照電極の内部標準溶液と液絡を取り除き、Ag/AgCl電極のみを参照電極として使用することが考えられるが、この場合、被検体の溶液にCl-が含まれているとCl-によるAg/AgClの電位変化が生じ、電位計測のみでは被検体のイオン濃度計測ができない問題が生じる。
【0011】
そこで、本発明はCl-による電位変化の補正を行い、イオン感応膜に反応する各種イオンの濃度を計測するイオンセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のイオンセンサでは、コネクタを介して計測部に接続したセンサ基板に、所定のAg/AgCl電極とイオン感応膜を設けて、被検体に含まれる計測対象のイオンの濃度を計測するイオンセンサであって、センサ基板に交流インピーダンスを測定するためのAg/AgCl電極を設けて、計測部で交流インピーダンスを測定することで、被検体中の計測対象のイオン以外のイオンに対する補正を行ってイオン濃度を計測するものである。
【0013】
さらに、本発明のイオンセンサでは、被検体中の計測対象のイオン以外のイオンはCl-であって、計測したインピーダンスプロットと等価回路の比較により被検体に含まれるCl-濃度を測定することにも特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、Ag/AgClのみの参照電極を用いた場合に生じるCl-による電位変動を補正し、イオン感応膜に反応する溶液中のイオン濃度計測を可能にする。
【0015】
すなわち、本発明では、参照電極の内部標準溶液と液絡を取り除き、Ag/AgCl電極のみを電位の基準として使用する構造にしたため、従来の参照電極を用いたイオンセンサと比較してセンサ構造の簡易化および小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るイオンセンサの説明図である。
【図2】イオンセンサにおけるセンサ基板の説明図である。
【図3】K+濃度変化に対する各電極間の電圧変化を示す図であり、(a)はK+のイオン感応膜を被覆したCW型イオン選択性電極とAg/AgCl電極のみの電位応答、(b)はCW型イオン選択性電極と標準型の参照電極との電位応答、(c)はAg/AgCl電極と標準型の参照電極との電位応答である。
【図4】Na+濃度変化に対する各電極間の電圧変化を示す図であり、(a)はNa+のイオン感応膜を被覆したCW型イオン選択性電極とAg/AgCl電極のみの電位応答、(b)はCW型イオン選択性電極と標準型の参照電極との電位応答、(c)はAg/AgCl電極と標準型の参照電極との電位応答である。
【図5】電解質溶液中のナイキスト線図に対する等価回路であり、ZWは溶液中のイオン拡散に起因し、Rsolは溶液抵抗、RCTは電荷移動抵抗、Cdlは電気二重層容量である。
【図6】K+濃度変化にAg/AgCl電極と標準型参照電極間の交流インピーダンス変化を示す図である。
【図7】Na+濃度変化に対するAg/AgCl電極と標準型参照電極間の交流インピーダンス変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のイオンセンサは、図1に示すように、センサ基板Sと、このセンサ基板Sを着脱自在に接続するコネクタCと、このコネクタに接続した計測部Mとを備えている。図1中、符号dは計測部Mに設けたタッチパネル式ディスプレイであって、このタッチパネル式ディスプレイdによってイオンセンサを操作するとともに、測定結果を表示させることとしている。

【0018】
センサ基板Sは、図2に示すように、短冊形状とした基板5に、長手方向に沿って5本の配線4を並べて設け、各配線の一方端を端子とし、他方端を電極としている。なお、本発明では、Na+濃度とK+濃度を計測するために5本の配線4を設けているが、計測対象の数に合わせて配線数は調整してもよい。

【0019】
基板5では、端子部分及び電極部分となる配線4の端部以外は絶縁膜で被覆し、端子部分には金の薄膜を成膜している。

【0020】
5本の配線4のうち、最外側の配線4の電極には、それぞれイオン感応膜1-1,1-2を設けている。なお、イオン感応膜1-1,1-2の下地はAg/AgCl電極としている。本実施形態のイオン感応膜は、Na+イオン感応膜及びK+イオン感応膜であり、後述する方法で作成した。

【0021】
5本の配線4のうち、真ん中の配線4の電極には、Ag/AgCl電極2-1を設けている。このAg/AgCl電極2-1と各イオン感応膜1-1,1-2との間の電位を計測することで、Na+濃度及びK+濃度を計測可能としており、配線4の端子側の端部を電位計測用端子3-3,3-1,3-2としている。

【0022】
さらに、本発明では、5本の配線4のうち、真ん中の配線4と、最外側の配線4との間の配線4の電極にAg/AgCl電極2-2,2-3を設けて、このAg/AgCl電極2-2,2-3を利用して後述するように交流インピーダンスを測定することとしている。このAg/AgCl電極2-2,2-3に接続した配線4の端子側の端部を交流インピーダンス測定用端子3-4,3-5としている。

【0023】
イオンセンサSは、各端子3-1,3-2,3-3,3-4,3-5を介してコネクタCに接続され、計測部MによりAg/AgCl電極2-1と各イオン感応膜1-1,1-2との間の電位を計測するとともに、Ag/AgCl電極2-2,2-3を利用して交流インピーダンスを測定し、Na+濃度及びK+濃度を計測している。

【0024】
以下、参照電極の内部標準溶液と液絡を取り除きAg/AgCl電極のみを使用した場合の影響と、その影響を補正する方法について説明する。なお、Na+濃度及びK+濃度の計測は、計測精度の検証のためにも、ここではKCl水溶液及びNaCl水溶液を用いた。

【0025】
まず、KCl水溶液、NaCl水溶液中のNa+またはK+に対する応答を確認するため、Na+またはK+のイオン感応膜をAg/AgCl電極に被覆したCoated Wire(CW)型イオン選択性電極とAg/AgCl電極のみの固体型電極を使用して電位差測定を行った。また、Cl-による影響を確認するために、飽和KClを内部溶液とする標準型のAg/AgCl参照電極も使用した。イオン選択性電極(ISE)および固体型電極のAg/AgCl電極には、直径:φ1mm、長さ:約10mmの銀線を使用し、飽和KCl溶液中で陽極酸化させることにより作製した。

【0026】
イオン感応膜は、目的のイオンと選択的に感応するイオン感応物質(イオノフォア)を適当な疎水性有機溶媒に溶かし、可塑剤により軟らかくした母剤に分散・保持させたものである。作製したイオン感応膜は母材にPVC(Polyvinyl Chloride)、イオノフォアとしてK+の感応膜にはバリノマイシン、Na+の感応膜にはETH 2120、可塑剤としてDOA(Di-2-ethylhexyl Adipate)、添加物としてTFB(Tetraphenylborate)を用い、これらを混合してTHF(Tetrahydrofuran)に溶かした。この混合溶液を前述の銀線に浸し乾燥させる工程を複数回繰り返すことで感応膜を成膜した。

【0027】
図3及び図4は、NaCl水溶液及びKCl水溶液中のイオン濃度に対する各電極間の電位差を測定した結果である。KCl水溶液及びNaCl水溶液中のNa+及びK+濃度は、10-4,10-3,10-2,10-1Mに調整した。図中の(a)はNa+もしくはK+のイオン感応膜を被覆したCW型イオン選択性電極とAg/AgCl電極のみの電位応答、(b)はCW型イオン選択性電極と標準型の参照電極との電位応答、(c)はAg/AgCl電極と標準型の参照電極との電位応答を示している。

【0028】
図3及び図4よりNaCl水溶液、KCl水溶液における(a)、(b)、(c)の感度を求めると以下のようになる。KCl水溶液の場合、(a):108.8mV/decade、(b):52.7mV/decade、(c):-58.7mV/decadeである。一方、NaCl水溶液の場合、(a)は111.8mV/decade、(b)は54.5mV/decade、(c)は-56.3mV/decadeである。従って、(a)における感度は(b)と(c)の感度を差分したものにほぼ等しく、イオン選択性電極とAg/AgCl電極のみの電位応答は、イオン感応膜による電位応答に加えてAg/AgCl電極における電位応答も含まれていることがわかる。また、(a)、(b)、(c)全ての応答は、イオン濃度に対する線形性が保たれている。従って、内部標準溶液と液絡を取り除きAg/AgCl電極のみを参照電極とした場合、Cl-の濃度がわかればCl-による電位変動分を補正でき、イオン感応膜に反応するイオン濃度の判定が可能である。

【0029】
次にCl-による電位変動の補正方法について説明する。
測定対象の一例としてNa+,K+,Cl-が含まれる溶液を考える。この溶液中の交流インピーダンス測定から得られる全電解質濃度は、これら三種のイオンによるものである。また、Cl-を含む溶液中に固体型Ag/AgCl電極を浸漬させた場合、溶液のイオン濃度変化は溶液抵抗Rsolの変化に加え、電極表面の酸化還元反応にも影響を与える。図5は電解質溶液中のナイキスト線図に対する等価回路である。ZWは溶液中のイオン拡散に起因するものであり、Rsolは溶液抵抗、RCTは電荷移動抵抗、Cdlは電気二重層容量であり、これらはイオン濃度に依存する。Cl-を含む溶液に挿入したAg/AgCl電極と考えた場合、溶液抵抗Rsolは試料溶液中の電解質濃度に、電荷移動抵抗RCTと電気二重層容量CdlはAgCl電極表面で生じるCl-との酸化還元反応にそれぞれ応答している。従って、交流インピーダンスの変化とその等価回路モデルの解析から溶液中の電解質濃度およびCl-濃度の算出が可能である。その結果、溶液の電解質濃度とCl-濃度によりK+とNa+を合わせた濃度が求められ、Cl-の影響を補正した電圧比からK+、Na+の各濃度を求めることができる。

【0030】
図6及び図7は、KCl水溶液及びNaCl水溶液の各濃度で測定した二つのAgCl電極間交流インピーダンスを測定したものである。どちらの溶液に対してもイオン濃度に応じて交流インピーダンスが変化しており、その値はKCl水溶液、NaCl水溶液に関わらずほぼ同じ値である。従って、この交流インピーダンスの変化はCl-濃度の変化によるものであり、交流インピーダンス測定によりCl-による影響を補正することができ、K+、Na+の濃度を算出することができる。

【0031】
すなわち、計測部Mでは、第1ステップとして、交流インピーダンスの変化とその等価回路モデルの解析から被検体のCl-濃度とNa+イオン感応膜及びK+イオン感応膜によるNa+濃度及びK+濃度とを算出する処理を繰り返し、各算出結果の変動の大きさが既定値よりも小さくなったところで、第2ステップとしてCl-濃度を特定し、Na+濃度及びK+濃度を特定している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、イオンセンサに関するものであり、電解質濃度測定など臨床における分析装置や、環境中のイオン濃度測定に応用できる。特に参照電極とイオン感応部を一体化した小型かつ簡易な構造としたことにより、イオン濃度計測部のみを使い捨てでき、安価で大量生産できるセンサが実現可能であり、尿中の電解質測定など、ルーチン測定に適したイオンセンサとして利用が可能である。
【符号の説明】
【0033】
S センサ基板
C コネクタ
M 計測部
1-1 イオン感応膜
1-2 イオン感応膜
2-1 Ag/AgCl電極
2-2 Ag/AgCl電極
2-3 Ag/AgCl電極
3-1 電位計測用端子
3-2 電位計測用端子
3-3 電位計測用端子
3-4 交流インピーダンス測定用端子
3-5 交流インピーダンス測定用端子
4 配線
5 基板
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6