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明細書 :反射防止膜およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-157108 (P2016-157108A)
公開日 平成28年9月1日(2016.9.1)
発明の名称または考案の名称 反射防止膜およびその製造方法
国際特許分類 G02B   1/111       (2015.01)
H01L  31/0445      (2014.01)
H01L  31/0392      (2006.01)
FI G02B 1/111
H01L 31/04 530
H01L 31/04 284
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2016-018429 (P2016-018429)
出願日 平成28年2月2日(2016.2.2)
優先権出願番号 2015034612
優先日 平成27年2月24日(2015.2.24)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】野々村 修一
【氏名】大橋 史隆
【氏名】三浦 修平
【氏名】三和 寛之
出願人 【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100147038、【弁理士】、【氏名又は名称】神谷 英昭
審査請求 未請求
テーマコード 2K009
5F151
Fターム 2K009AA04
2K009BB02
2K009CC42
2K009DD02
5F151AA05
5F151BA16
5F151CB13
5F151GA03
5F151HA04
要約 【課題】太陽電池等の光学デバイスに使用されるガラス等の透明支持基板から反射を効果的に防止する膜および、高価な真空装置などを使用することなく、操作手順も簡便化された反射防止膜の形成方法を提案すること。
【解決手段】太陽電池のガラス基板上に液体ガラスを塗布して成膜され、膜厚が70~160nmで、波長600nmにおける膜の屈折率が1.30~1.47である、反射防止膜。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
太陽電池のガラス基板上に液体ガラスを塗布して成膜された、
膜厚が70~160nmで、
波長600nmにおける膜の屈折率が1.30~1.47である、反射防止膜。
【請求項2】
前記反射防止膜内に、粒径が0.1~100nmのナノポーラス構造を有することを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反射防止膜の製造方法であって、
液体ガラスを炭素数1~6のアルコールで希釈する工程、
希釈溶液をスピンコーティング法又はロールコーティング法により太陽電池のガラス基板上に塗布する工程、
大気雰囲気下、70~500℃の温度で乾燥する工程、
を含む太陽電池用反射防止膜の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールで希釈する際に、合わせて水を添加する事を含む請求項3に記載の太陽電池用反射防止膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等の透明な支持基盤における光の反射損失を防止するための反射防止膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池セルに使用される結晶シリコンは3.5を超える高屈折率のため、35%を超える高い反射率を示し、結晶に入る光が失われる。そこで反射を減らすために誘導体の膜をコーティングし、該薄膜の前面(空気側)と背面(結晶シリコン側)の間の多重反射を利用して、反射光の波の位相が打ち消しあうような工夫が施されたものがある。
【0003】
前記誘電体膜は単層では屈折率と膜厚で特定の波長の光に対してのみの効果に留まるため、多層構造にする必要があるが、反射防止膜の形成は作業効率の点で課題がある。このような反射防止膜は通常、真空蒸着法などを用いて成膜するため、真空設備が必要で、成膜時間が長時間になるのが一般的であったからである。
【0004】
そこで、アルコールを溶媒として、該溶媒中にチタン酸エステルとカルボン酸及び半導体基板中に侵入してp-n接合を形成するドーパントを配合してなる溶液を半導体基板表面に塗布し、溶媒を揮発させてドーパントを含む酸化チタン膜を形成する反射防止膜の製造方法(特許文献1)が提案されている。この方法によれば、p-n接合と反射防止膜を同一の熱処理で行うことができ効率的である。また、反射低減のためのコーティングを太陽電池セルの直上部においてのみ必要な厚さとし、それ以外の部分においては厚みを薄くして反射防止層の材料コストを削減する(特許文献2)といったものもある。
【0005】
一方、可視光の波長以下の凹凸パターンを表面に形成することによって反射防止を図る技術も開発されている。このような方法はいわゆるモスアイ(蛾の目)構造の原理を利用したものであり、基板に入射した光に対する屈折率を連続的に変化させ、屈折率の不連続界面を消失させることによって反射を防止するものである。
【0006】
この微細凹凸パターンの作製方法として例えば、支持体上に固体状の効果性樹脂組成物からなる凹凸パターン形成層を設けた凹凸パターン受容体を用意し、その表面にスタンパーを圧接して凹凸パターンを形成した後、当該凹凸パターン形成層を硬化させる方法(特許文献3)がある。また、表面に微細凹凸構造を有するフィルム状レプリカモールドであってこの構造が、陽極酸化アルミナの表面の微細凹凸構造を転写して形成されたことを特徴とする方法(特許文献4)がある。前記方法は、微細凹凸構造を有するマスターモールドを用いたナノインプリント法の課題である、大面積化、シームレスな連続成形を可能にするものである。
【0007】
さらに微細凹凸パターンの凸部先端の割れ等に対する機械強度、スティッキング(表面張力が大きい液体が微細凹凸パターン内に入り込み、それが蒸発するときに、隣同士の構造体が接触あるいはくっ付き合う現象)耐性および型抜き性に優れた反射防止フィルムとして、凸部が基板に対してテーパー状に立ち上がる錐台形状の本体部と、前記本体部の頂面を覆うように形成された曲面構造を有する先端部とから構成されているもの(特許文献5)などもある。
【0008】
また、これらの微細凹凸パターンの共通する課題である外部環境からの汚染物が凹部に堆積することを防止するための技術として、凹部が形成された透明基材の屈折率よりも小さく、かつ空気の屈折率よりも大きい透明な埋め込み材が埋め込まれている反射防止体(特許文献6)が提案されている。
【0009】
ところで、これらの技術による反射防止膜の素材は基本的には、ガラス(光学ガラスの屈折率は1.43~2.14)やプラスチックなどの透明材料が用いられており、空気(空気の屈折率は約1.00)との間の屈折率差によって約4%の光の反射損失が存在する。この反射損失を防止するために、更にフッ化マグネシウムなどの反射防止膜を塗布形成すること(特許文献7)も可能である。
【0010】
しかし、前記する各種方法には、反射防止膜を形成する方法に手間がかかったり、薄膜形成のために高価な装置等の設備投資が必要であり、さらなるコスト低減や簡便な方法が求められているのである。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開昭57-114291号公報
【特許文献2】特開2003-152202号公報
【特許文献3】特開2004-205990号公報
【特許文献4】特開2010-719号公報
【特許文献5】特開2012-37670号公報
【特許文献6】特開2012-182160号公報
【特許文献7】特開2009-238784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、太陽電池等の光学デバイスに使用されるガラス等の透明支持基板から反射を効果的に防止する膜および、高価な真空装置などを使用することなく、操作手順も簡便化された反射防止膜の形成方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明に係る反射防止膜は、太陽電池のガラス基板上に液体ガラスを塗布して成膜された、膜厚が70~160nmで、波長600nmにおける膜の屈折率が1.30~1.47であることを特徴とする。
【0014】
太陽電池は、一般に太陽光の導入側から、ガラス基板などからなる表面側透明保護部材、表面側封止膜、結晶シリコン/アモルファスシリコン等と透明電極等からなる太陽電池用セル、裏面側封止膜、バックカバーの順に積層されて構成されている。
【0015】
本発明では、太陽電池の前記ガラス基板上に前記物性を有する液体ガラスによる反射防止膜を形成することによって、受光面の光の反射損失を低減することができるものである。液体ガラスは耐久性・耐候性に優れると共にハンドリングが容易で、ガラス基板上に塗布した場合に接着力が強い状態で固化させることができる。
【0016】
この液体ガラス層の屈折率を前記範囲程度まで下げることにより、光の反射損失を低減させている。一般的なガラスの屈折率は1.52程度であり、大気の屈折率は約1.00で、この差が大きいほど反射損失が大きくなるからである。前記液体ガラスを塗布して形成した反射防止膜の層は、粒径が0.1~100nmのナノポーラス構造を有していることが好ましい。屈折率は密度に大きく依存し、ナノポーラス構造を有することで、同じ材質であっても屈折率を下げることができるからである。
【0017】
本発明の反射防止膜の製造方法は、液体ガラスを炭素数2~6のアルコールで希釈する工程、希釈溶液をスピンコーティング法又はロールコーティング法により太陽電池のガラス基板上に塗布する工程、大気雰囲気下、70~500℃の温度で乾燥する工程、を含むことを特徴とする。
【0018】
市販の液体ガラスをそのまま使用するよりも、前記アルコールで希釈して使用することで均一な膜形成および屈折率を低下させる効果を発現させることができる。また、アルコールで希釈する際に、更に水を添加することで液体ガラスの固化を促進させることができる。これによりガラスが液体状態から固体状態へ相転移する時間を短期間で行わせることができるので、その過程で生じる体積収縮等が、液体ガラス層内にサイズの大きな空孔として固定されると考えられる。その結果、液体ガラスの反射防止膜層の密度が低下して屈折率を下げる効果が向上すると思われる。
【0019】
本発明の反射防止膜製造方法は、従来必要とされている真空装置などを使用しなくても良く、大気中での処理ができる。また、既に施工済みの太陽電池に対しても適用することが可能で、極めて簡単な工程により製造することができるので、コスト的に非常に有利である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の反射防止膜は、従来のガラス基板などの透明保護部材の上に簡単な工程によって成膜することができるので、発電効率の向上と製造コストの低減化に寄与することができる。発電効率の向上は、例えば太陽電池セルの素材の開発やセル構造の改良により継続的に行われているが、これらの開発・改良には、比較的長期の研究期間と多大な研究費を投入することが必要となる。
【0021】
それに対して、本発明のような反射防止膜によれば、既存の太陽電池にそのまま適用することができるので、開発期間を大幅に短縮することができると共に、薄膜シリコン系やハイブリッド型など各種の太陽電池に汎用展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、波長600nmにおいて反射率スペクトルが最少となるように膜厚を調整して形成した場合における反射率スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【図2】図2は、本発明の液体ガラスを使用した成膜方法の一例として、スピンキャスト法の概要を示す図である。
【図3】図3は、ガラス基板の回転速度を変えることにより、基板上に形成する薄膜の厚みを調整した薄膜(液体ガラス層)を有するガラス基板の反射率スペクトルを示す図である。
【図4】図4は、スピンコーティング時の回転速度に対する、液体ガラス層の膜厚および波長600nmにおける屈折率の変化を示す図である。
【図5】図5は、同一のスピンコーティング条件によって形成した膜を各種温度(200℃、250℃、300℃、400℃、500℃)で乾燥したときの、波長に対する反射防止効果を測定した結果を示す図である。
【図6】図6は、波長600nmにおける屈折率と、液体ガラスの乾燥温度との関係を示す図である。
【図7】図7は、乾燥温度を300℃としたときの、液体ガラス層の膜厚とその膜の屈折率との関係を示す図である。
【図8】図8は、水を添加した場合と水を添加しない場合における、液体ガラス層内のポアサイズとその分布の関係を示す図である。
【図9】図9は、液体ガラス層に空孔を含む場合の光の反射、透過を模式的に表した図である。
【図10】図10は、液体ガラス層を作製した一例について、可視光領域の波長に対する屈折率を測定した結果を示す図である。比較として、ガラス基板の屈折率と、一般的な反射防止膜として使用されているMgFの屈折率も併せて示している。
【図11】図11は、前記例についての、反射防止効果を測定した図である。
【図12】図12は、液体ガラスの反射防止膜を有する薄膜アモルファスシリコン太陽電池と、比較として液体ガラスを使用していない太陽電池で電流-電圧特性を測定した結果を示す図である。
【図13】図13は、前記例の太陽電池における外部量子効率スペクトルを示す図である。
【図14】図14は、液体ガラス層を作成した他の例について、可視光領域の波長に対する反射率を示す図である。比較として、MgF層を形成した場合、ガラス基板のみの場合及び、理想的な反射防止膜を形成したと仮定した場合についても示す。
【図15】図15は、水を添加して液体ガラス層を作成した例について、可視光領域の波長に対する反射率を示す図である。また水を添加しない場合、比較として、MgF層を形成した場合、反射防止膜なしの場合についても示す。
【図16】図16は、水を添加して液体ガラス層を作成した他の例について、可視光領域の波長に対する反射率を示す図である。
【図17】図17は、水を添加した液体ガラス層を反射防止膜として使用した太陽電池における外部量子効率スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による反射防止膜は、一般的な太陽電池の表面保護部材であるガラス基板上に液体ガラスを塗布することにより形成されるものである。

【0024】
液体ガラスとは、主成分が二酸化ケイ素(SiO)のシリカ溶液で、密封容器内等では、常温で液体として存在する。これを物体面に塗布し、空気に接触した状態としておくと、硬化して固体のガラス質とすることができる。具体的には、製品名「液体ガラスG液」(成瀬製畳社製)等、市場から容易に入手可能なものを好ましく用いることができる。

【0025】
また、その他の液体ガラスとして加水分解可能な金属アルコキシド等の有機金属化合物を、水と有機溶媒とからなる反応液中において、ホウ素イオンの存在下でF、Cl等のハロゲンイオンを触媒とし、pHを4.5~5.0に調整しながら加水分解、脱水縮合させて200℃以下の低温度でガラス化させるものであってもよい(例えば特開平6-199528号公報参照)。

【0026】
さらには、SiO系無機微粒子、テトラエトキシシラン、アルコール、少量成分のバインダーやMg、V、Zn等を含む液体ガラスであっても良い。

【0027】
前記例示の液体ガラスを、ガラス基板(屈折率:n=1.52)上に塗布するに際して、波長600nmにおいて反射率スペクトルが最少となるように膜厚を調整して形成した場合における反射率スペクトルのシミュレーションを行い、図1にその結果を示す。なお、図における反射率スペクトルの値はガラス基板片面のみの値を示しており、実際には、ガラス基板裏面側における光の反射も考慮する必要がある。

【0028】
太陽電池は光のエネルギーによって価電子帯の電子が伝導帯に励起されて起きる光起電力効果を利用して発電する。このとき、電子が伝導帯へ励起されるためにはエネルギーバンドギャップ以上のエネルギーを電子に与える必要がある。一般的な太陽電池に利用される結晶シリコンのエネルギーバンドギャップの大きさと、同等のエネルギーを持つ光の波長は約1.1μmであり、太陽電池の発電に利用するためにはそれよりも波長の短い光を透過させることが必要である。一方、短い波長の光は余分なエネルギーを熱として放出し変換効率の低下要因ともなるので好ましくない。そこで、前記のように600nmにおける波長を目安として反射防止の効果を検討した。

【0029】
図1より、屈折率が1.52より小さな値を有する薄膜を形成した場合、形成した基板の反射率は低下し、一方で、屈折率が1.52以上の薄膜を形成した場合では試料の反射率は増加する傾向を示すことがわかる。また、屈折率が1.52以下の薄膜において、屈折率および膜厚が下記の式に示す完全反射防止条件を満たしている場合、その反射スペクトルの値は膜厚を導出する際に指定した任意の波長λにおいて0となる。

【0030】
【数1】
JP2016157108A_000003t.gif

【0031】
前記式中nAirは空気の屈折率、nARは反射防止膜の屈折率、nGlassはガラス基板の屈折率を示す。またdは反射防止膜の厚みである。前式の完全反射防止条件より、波長600nmにおけるガラス基板に対する理想完全反射防止膜(Ideal layer)の条件は、屈折率1.23で膜厚122nmとなる。

【0032】
但し、屈折率1.23の物質は適当なものが存在せず、既存のもので利用されている例としてはフッ化マグネシウム(MgF)が最も近い屈折率を示すものである。しかし、フッ化マグネシウムは僅かであるが水に溶解性を示す物質であるため、屋外における長期曝露が前提となる太陽電池の反射防止膜としては不適切となる。また、フッ化マグネシウムの成膜には高価な真空装置が必要となる点も課題である。

【0033】
本発明では、液体ガラスを使用して反射防止効果を最大にするために、以下のように成膜して検討を行った。まず、成膜方法であるが、図2に示すようにスピンキャスト法を用いている。塗布方法としては、スピンキャスト法に限定されるものではなく、ロールコーティング法等を使用しても良い。

【0034】
使用した液体ガラス(LG)は、製品名「液体ガラスG液」(成瀬製畳社製)で、これを脱水2-プロパノール(IPA)との比率(LG:IPA=1:5)で希釈し、この液体ガラス溶媒をガラス基板(n=1.52)上に滴下して、遠心力により薄膜化した(図2)。薄膜化したのちは、一定の温度に保った電気炉中に塗布後のガラス基板をセットし、溶媒の乾燥および液体ガラスを固化して、基板上に液体ガラスの膜を固定した。

【0035】
希釈溶媒は前記2-プロパノールに限定されるものではなく、メタノール、エタノール、ブタノールなどの炭素数1~6のアルコールを使用することができる。これらのアルコールは、液体ガラスが水溶液であっても希釈用に使用することができ、適度な沸点と揮発性を有するので乾燥し易いからである。また、希釈倍率は用いる液体ガラスと溶媒(S)によって適宜設定することができるが、LG:S=1:0.5~1:10の範囲、好ましくは1:2~1:6の範囲である。

【0036】
ガラス基板の回転速度を変えることにより、基板上に形成する薄膜の厚みを調整することが可能であり、図3には、こうして膜厚を変更して形成した薄膜(液体ガラス層)を有するガラス基板の反射率スペクトルを示している。なお、このときの液体ガラスの乾燥温度は250℃とした。

【0037】
図3より、液体ガラスの膜厚(nmで示す)の変化に従って、反射率スペクトルの波形およびその最小値をとる波長域が推移していることがわかる。特に膜厚が厚くなると波長500nm以上における反射率が増加する(すなわち反射防止効果が減少する)傾向がある。

【0038】
液体ガラス層を形成したガラス基板の反射率の値はいずれの膜厚においてもガラス基板単体に比べて低い値を示しており、液体ガラス層の形成は、ガラス基板に対して反射防止効果を有することがわかる。特に図3の結果からは、好ましい液体ガラス層の厚みを70~160nm、好ましくは90~130nm程度に設定することにより、波長600nmよりも長い領域において反射防止効果が大となる。

【0039】
図4には、スピンコーティング時の回転速度に対する、液体ガラス層の膜厚および波長600nmにおける屈折率の変化を示している。液体ガラスの乾燥温度は250℃である。スピンの速度が速くなれば遠心力により薄膜化が進むため、厚みが薄くなることは当然であるが、同一素材であることから、液体ガラスで形成された膜の屈折率は、厚みによらずほぼ一定(約1.40)であることが示されている。但し、後述するように、乾燥温度によっては必ずしも屈折率が一定であるとは限らない。

【0040】
そこで、乾燥温度について検討した。図3では液体ガラス層の乾燥温度を250℃として固定したが、同一のスピンコーティング条件によって形成した膜を各種温度(200℃、250℃、300℃、400℃、500℃)で乾燥したときの、波長に対する反射防止効果を測定した結果を図5に示す。この結果より反射防止効果は乾燥温度の上昇と共に極小値(300℃付近)を示し、その後乾燥温度の上昇とともに低下することがわかる。乾燥温度は、膜厚や希釈溶媒などとの関係で適宜定めることとなるが一般的には70~500℃、図5の結果から好ましくは200~350℃の範囲である。

【0041】
波長600nmにおける屈折率に注目して、液体ガラスの乾燥温度との関係を図6に示した。この図に示すように、乾燥温度300℃のときが最も低い屈折率(1.36)であった。図1に示したようにMgFの場合でも屈折率は1.38であり、それよりも理想とする屈折率(1.23)に近い数値のものが得られることがわかる。

【0042】
次に、乾燥温度を300℃としたときの、液体ガラス層の膜厚とその膜の屈折率との関係について測定した。結果を図7に示す。乾燥温度が300℃の場合には250℃(図4)の場合と異なり、膜厚による屈折率の変化が見られた。膜厚が約70~100nmまでは屈折率が減少するが、その後増加に転じ、約104nmの厚みにおいて極小値(1.34)を示した。

【0043】
図1のシミュレーションから波長600nmにおける屈折率は、1.52よりも小さくする必要があり、前記図7の結果から、反射防止膜の屈折率を1.34~1.47、好ましくは1.34~1.38(MgFの場合)に設定することができる。

【0044】
本発明では、液体ガラスをアルコール類で希釈する際に水をさらに追加することによって、得られる反射防止膜の屈折率をさらに低減することもできる。より具体的には屈折率を1.30付近まで低下させることが可能であり、理想完全反射防止膜の1.23により近づけることができるのである。

【0045】
このような効果は前述のとおり、水を添加することによる液体ガラスの固化促進によるところが大きいと考える。通常液体ガラスは密封容器内である程度安定した液体状態にあり、これが外気と接触することにより水分と反応しテトラエトキシシラン等が加水分解するとともにガラス微粒子の水酸基と脱水縮合して固化する。従って本発明のように水を加えることによりこの反応が促進される。液体から固体へと状態が変化すれば、体積の収縮が起き、状態変化のスピードが速い場合には固体内部にも空孔が生じることとなる。

【0046】
実際、水を添加した場合と、添加していない場合とで膜を形成した後にX線小角散乱法によって測定したポアサイズの分布を図8に示す。図8から水を添加しない場合には比較的ポアサイズが小さく分布の幅も小さいこと、水を添加することにより大きなサイズの空孔が幅広く分布する方向にシフトしていることが判る。なお、グラフ縦軸の粒子サイズの分布(1/nm)は、ガンマ分布関数で示されている。物質中の粒子は一定の大きさで存在していることは稀であり、粒子の大きさには、ある程度のばらつきがあるから、このばらつきをガンマ分布関数で与えられると仮定して粒子サイズの分布を評価した。

【0047】
具体的なガンマ分布関数は以下の通りである。

【0048】
【数2】
JP2016157108A_000004t.gif

【0049】
図9には、ガラス基板の上に液体ガラス層を反射防止膜として形成したときの入射光に対する反射および透過の状態を模式的に示した。液体ガラス層内の空孔(void space)が密度を低下させ、層全体の屈折率が低下することにより、大気から入射する光の反射を防止する様子が理解できる。

【0050】
前記の通り、液体ガラスの薄膜はこれまで使用されている反射防止膜(MgF)と同等の反射防止効果を有すると共に、成膜方法は極めて簡単な操作でよく、真空装置等の設備投資も不要である。
以下には、具体的な反射防止膜を形成したときの実施例について記載する。

【0051】
(実施例1)
液体ガラス(LG)として、製品名「液体ガラスG液」(成瀬製畳社製;主成分はオルガノポリシロキサン、オルガノシラン)を使用し、これを脱水2-プロパノール(IPA)との比率(LG:IPA=1:5)で希釈し、この液体ガラス溶液をガラス基板(n=1.52)上に滴下して、遠心力により薄膜化した(図2)。スピンコーティングの回転速度を6000rpmとし、5秒間回転させることで薄膜を形成した。

【0052】
次に、このガラス基板を、温度250℃の乾燥機に入れて1時間乾燥して液体ガラス層を作製した。この時の可視光領域の波長に対する屈折率を測定した結果を図10に示す。図10には、比較として、ガラス基板の屈折率と、一般的な反射防止膜として使用されているMgFの屈折率も併せて示している。図10の結果よりMgFに近似した屈折率を示すことが判る。この膜について反射防止効果を測定したのが図11である。この結果からも、MgFと変わらない反射防止効果が得られることが判った。

【0053】
こうして形成された液体ガラスの反射防止膜を有する薄膜アモルファスシリコン太陽電池と、比較として液体ガラスを使用していない太陽電池で電流-電圧特性を測定した結果を、図12に示す。この結果より、本発明の反射防止膜を形成した太陽電池は、電流密度(Current density)が向上し、発電特性を約1%向上させることができた。

【0054】
このときの太陽電池における外部量子効率スペクトルを図13に示す。液体ガラスの反射防止膜により波長300~800nmの光に対する太陽電池の量子効率(EQE)が向上していることが確認できた。

【0055】
(実施例2)
実施例1と同様にしてガラス基板上に液体ガラスの膜を形成した。ただし、スピンコーティングの回転数は4000rpmで、5秒間とし、乾燥温度300℃で1時間とした。

【0056】
得られた反射防止膜における波長と反射率との関係を図14に示す。図には屈折率(n=1.52)のガラス基板(液体ガラス層を形成していない)、膜厚(104nm)と屈折率(n=1.34)の液体ガラス層を有するガラス基板、比較として膜厚(109nm)と屈折率(n=1.38)のMgF層を有するガラス基板および、反射を0%とする理想完全反射防止膜を有するガラス基板を用いた場合の計算値、の各反射率が示されている。図14から、本発明の反射防止膜はMgFよりも高い反射防止効果を有していることがわかる。

【0057】
(実施例3)
実施例1と同様にしてガラス基板上に液体ガラス(LG)の膜を形成した。ただし、脱水2-プロパノール(IPA)および水を、比率(LG:IPA:水=1:4.75:0.25)または比率(LG:IPA:水=1:4.85:0.15)で希釈した液体ガラス溶液を、使用した。

【0058】
得られた反射防止膜における波長と反射率との関係を図15に示す。図に示す様に水を添加する場合より、さらにはMgFよりも反射防止効果が高いことがわかる。

【0059】
(実施例4)
実施例3と同様にして液体ガラスの膜を形成した。ただし、希釈比率は(LG:IPA:水=1:4.5:0.5)または(LG:IPA:水=1:4.95:0.05)とした。その結果を図16に示す。図に示すように水の添加量が多い場合と少ない場合とで、特に短波長側における効果に相違があることがわかる。

【0060】
(実施例5)
実施例1と同様にして液体ガラスの反射防止膜を有する薄膜アモルファスシリコン太陽電池を作成し、比較として液体ガラスを使用していない太陽電池で電流-電圧特性を測定した結果を、図17に示す。ただし、このときの希釈比率は(LG:IPA:水=1:4.75:0.25)である。

【0061】
本発明の液体ガラス層は、前記のような簡単な工程によって形成可能であり、既存の太陽電池に容易に適用できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明の液体ガラス層を反射防止膜として利用することで従来用いられている膜と同等以上の反射防止効果を得られることがわかった。本発明の利用によりコストパフォーマンスに優れた太陽電池を市場に導入することができる。
図面
【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図17】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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