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明細書 :卵子活性化方法及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-007161 (P2016-007161A)
公開日 平成28年1月18日(2016.1.18)
発明の名称または考案の名称 卵子活性化方法及びその用途
国際特許分類 C12N   5/075       (2010.01)
C12N   5/0775      (2010.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI C12N 5/00 202E
C12N 5/00 202H
A01K 67/027
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2014-129077 (P2014-129077)
出願日 平成26年6月24日(2014.6.24)
発明者または考案者 【氏名】山本 徳則
【氏名】鈴木 哲
【氏名】松川 宜久
【氏名】舟橋 康人
【氏名】後藤 百万
【氏名】村瀬 哲磨
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AC20
4B065BB34
4B065BB40
4B065BC41
4B065BD14
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA47
要約 【課題】卵子を活性化する手段を提供することを課題とする。
【解決手段】脂肪組織由来幹細胞と共培養することによって卵子を活性化する。活性化された不妊症の治療、受精卵移植、体外受精などに利用される。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ(1)を含む、卵子活性化方法:
(1)脂肪組織由来幹細胞と卵子とを共培養するステップ。
【請求項2】
前記細胞と前記卵子が接触した状態で共培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(1)において、前記細胞が細胞層を形成しており、該細胞層の上で前記卵子が培養される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(1)が以下の二つのステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法:
(1-1)性腺刺激ホルモンの存在下での培養ステップ;
(1-2)性腺刺激ホルモンの非存在下での培養ステップ。
【請求項5】
ステップ(1-1)が、性腺刺激ホルモン及びジブチリルサイクリックAMPの存在下で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
以下のステップ(2)を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法:
(2)共培養後の卵子を回収するステップ。
【請求項7】
ステップ(2)において、共培養後の卵子が共培養後の前記細胞から分離した状態で回収される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞の生物種と前記卵子の生物種が同一である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記卵子がヒト卵子である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記卵子が非ヒト哺乳動物卵子である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記非ヒト哺乳動物がブタ、ウシ、ウマ、ヤギ又はヒツジである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法で活性化した卵子。
【請求項13】
請求項12に記載の卵子を含有する、受精卵移植用卵子組成物。
【請求項14】
脂肪組織由来幹細胞を含有する卵子活性化剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は再生医療や畜産分野等で有用な技術に関する。詳しくは、卵子の活性化方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊症の原因の1つとして卵機能の低下(成熟不良)がある。卵の成熟不良による受精障害は体外受精でしばしば遭遇される。卵の成熟は核・細胞質・膜の3つの成熟からなり、これら全てが良好に達成されたときにのみ、発生へと至る。正常は発生過程では、胚(受精卵)は卵管内で分割を繰り返し、約10時間後に前核と呼ばれる空胞のような構造が細胞内に出現する。通常、2つの前核(卵子由来と精子由来が各1個)が形成される。前核形成が起こらない場合あるいは多精子受精の場合には前核が3つ認められ、この受精卵は正常に発育しない。
【0003】
ところで、多能性幹細胞源として脂肪組織が有望であることがいくつかの研究グループによって報告されている(非特許文献1)。また、北川らによって、脂肪組織より、多能性を示す細胞集団を簡便な操作で大量に調製することが可能であることが報告されるとともに、得られた細胞が脂肪組織への分化能を有し、脂肪組織の再建に有効であることが示された(特許文献1)。本発明者らの研究グループも脂肪組織由来幹細胞(Adipose-derived stem cells: ASC、Adipose-derived regeneration cells: ADRC、Adipose-derived mesenchymal stem cells: AT-MSC, AD-MSCなどと呼ばれる)が様々な疾患に有効であることを報告した(特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2006/006692号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/018450号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/043147号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2011/070974号パンフレット
【0005】

【非特許文献1】Secretion of Angiogenic and Antiapoptotic Factors by Human Adipose Stromal Cells. Circulation 109:1292-1298, 2004
【非特許文献2】Molecular Reproduction & Development Volume 80, Issue 12, pages 1035-1047, December 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現代社会において不妊症に悩む夫婦は多く、その対処法(治療法)に対するニーズは大きい。また、畜産や育種の分野においても、受精卵移植の成功率や効率を向上することが望まれている。そこで本発明は、これらの要望に応えるべく、卵子を活性化する手段及びその用途等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究グループは、脂肪組織由来由来幹細胞(ASC)がフィーダー細胞の機能を備え、生殖プロセスにも関与し得るとの仮説の下で研究を行っている。これまでの成果として、ASCが精子を活性化する作用を示すことを発見し、特許出願を行った(特願2013-222630号)。研究を進める中、卵子の成熟過程に注目し、ASCに卵子を活性化する機能がないか検討することにした。一連の実験の結果、ASCの共存下で培養して成熟させた卵子では前核形成率が明らかに高いこと(精子侵入後の発生に向かう過程が早く進行することを示唆する)が判明した。また、受精後の生育を観察したところ、ASCの共存下で培養した卵子では発生率が高まっていた。このように、ASCが卵子の成熟過程で促進的に作用すること、即ち、ASCが卵子を活性化する機能を有するという、驚くべき事実が明らかとなった。以下に示す発明は、主として以上の成果に基づく。
[1]以下のステップ(1)を含む、卵子活性化方法:
(1)脂肪組織由来幹細胞と卵子とを共培養するステップ。
[2]前記細胞と前記卵子が接触した状態で共培養される、[1]に記載の方法。
[3]ステップ(1)において、前記細胞が細胞層を形成しており、該細胞層の上で前記卵子が培養される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]ステップ(1)が以下の二つのステップを含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法:
(1-1)性腺刺激ホルモンの存在下での培養ステップ;
(1-2)性腺刺激ホルモンの非存在下での培養ステップ。
[5]ステップ(1-1)が、性腺刺激ホルモン及びジブチリルサイクリックAMPの存在下で行われる、[4]に記載の方法。
[6]以下のステップ(2)を更に含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法:
(2)共培養後の卵子を回収するステップ。
[7]ステップ(2)において、共培養後の卵子が共培養後の前記細胞から分離した状態で回収される、[6]に記載の方法。
[8]前記細胞の生物種と前記卵子の生物種が同一である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9]前記卵子がヒト卵子である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]前記卵子が非ヒト哺乳動物卵子である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[11]前記非ヒト哺乳動物がブタ、ウシ、ウマ、ヤギ又はヒツジである、[10]に記載の方法。
[12][1]~[11]のいずれか一項に記載の方法で活性化した卵子。
[13][12]に記載の卵子を含有する、受精卵移植用卵子組成物。
[14]脂肪組織由来幹細胞を含有する卵子活性化剤。
【0008】
尚、Parkらは、ブタ胚の生育に対するヒト脂肪組織由来幹細胞の効果を報告しているが(非特許文献2)、当該報告における方法は、受精卵(受精後の卵子)を培養する際にヒト脂肪由来幹細胞の培養上清を使用するものであり、本発明の方法(未受精卵の成熟培養をASC共存下で行うことに特徴がある方法)と明確且つ決定的に異なる。
【0009】
一方、卵子の活性化に関して、精子由来因子の研究(ほ乳類の精子抽出液による受精卵の核特異的卵子活性化に関する研究)がSwannらによって報告されている(Development. 1990 Dec;110(4):1295-302.)。また、以下に要約するように、各種細胞との共培養が卵活性に及ぼす影響についての報告はあるが、フィーダー細胞としてASCを利用した例はない。
(1)代表的な共培養用細胞(フィーダー細胞)
初代培養細胞の卵管上皮細胞、卵丘細胞、顆粒層細胞、子宮上皮細胞などが用いられている。株化細胞(例えばBRL (Buffalo Rat Liver)細胞)も用いられる。
(2)フィーダー細胞の機能
フィーダー細胞の機能として、(i)胚刺激因子 (Embryotrophic factor)の培地中への放出、(ii)培地成分中や胚由来の阻害因子、毒性因子の除去、(iii)胚ゲノムの活性化や正常な胚発生に必須の成長因子を放出して、胚の発生停止を克服させること、(iv)活性酸素の毒性から胚を守ること、等が挙げられる。
(3)フィーダー細胞用培地
TCM199、MenezoB2、Ham’s F10などが用いられている。必要に応じて、蛋白源として血清やBSA等、エネルギー源としてグルコース、ピルビン酸、乳酸などが添加される。
(4)条件付け培地
フィーダー細胞を一定期間培養した培地中には、細胞より放出された様々な有効成分が含まれている。この培地を利用して胚を培養する試みがある。利点としては、細胞との接触による影響がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】シート状ブタASC上で体外成熟培養したブタ卵子の体外受精の結果(上:第1回実験、下:第2回実験)。
【図2】シート状ブタASCの上で体外成熟培養したブタ卵子に精子を授精して得られた受精卵(右)とASC不在下で成熟培養した卵子を使用した場合(左)の受精卵の状態。
【図3】ブタASCの不在下で体外成熟培養したブタ卵子に精子を授精して得られた受精卵を培養した結果。矢印は初期胚盤胞を示す。
【図4】シート状ブタASCの上で体外成熟培養したブタ卵子に精子を授精して得られた受精卵を培養した結果。上段における矢印は中期~拡張胚盤胞を示す。下段における矢印は拡張胚盤胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.卵子活性化方法
本発明の第1の局面は卵子活性化方法(以下、「本発明の方法」とも呼ぶ)に関する。本発明の方法によれば活性化された成熟卵子が得られる。従って、本発明の方法は、活性化成熟卵子の生産ないし取得方法ともいえる。

【0012】
卵子の成熟化の過程では、大別して2つの段階が進行する。まず、(1)未熟卵子の第1減数分裂の再開が生ずる。これにより成熟卵子となるが、第2成熟分裂の途中で分裂が停止する。次の段階として(2)成熟卵子の第2成熟分裂の再開と完了が起きる。即ち、第1成熟分裂を完了し、第2成熟分裂の中期で止まっている成熟卵が精子の侵入により第2成熟分裂を再開し、第2成熟分裂を完了する。これにより完全な配偶子となり、精子との受精が可能となる。続いて前核形成及び雌雄両前核の合体が起きることによって、受精卵となる。卵子の活性化は、受精後の発生に好影響を及ぼす。即ち、活性化された成熟卵子では、受精後の前核形成率が高まり、発生率も向上する。

【0013】
本発明の方法では、特定の細胞と卵子とを共培養する(ステップ(1))。当該ステップは、その定義から明らかな通り、in vitro(生体外)で実施される。ここでの特定の細胞(説明の便宜上、以下では「共培養用細胞」とも呼ぶ)として、脂肪組織由来幹細胞が用いられる。

【0014】
共培養用細胞の由来、即ち生物種は特に限定されないが、本発明の方法に使用する卵子の由来、及び本発明の方法によって得られる卵子(活性化された卵子)の用途を考慮して細胞の由来を決定するとよい。例えば、卵子の由来がヒトであり、活性化された卵子の用途がヒトの疾患の治療であれば、好ましくはヒト細胞を卵子との共培養に供する。このように、好ましくは、共培養細胞の生物種と卵子の生物種を同一にする。但し、卵子との共培養に供する細胞の由来が卵子の由来と異なっていてもよい。卵子との共培養に供する細胞の由来(生物種)の例として、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターを挙げることができる。また、卵子の由来(生物種)の例は、ヒト、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)である。一態様では、ヒト卵子が用いられる。また、別の一態様では非ヒト哺乳動物卵子(例えばブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジの卵子)が用いられる。

【0015】
脂肪組織由来幹細胞の調製は常法に従えばよい。脂肪組織由来幹細胞は各種用途に広く用いられており、当業者であれば文献や成書を参考にして容易に調製することができる。公的な細胞バンクから分譲された細胞や市販の細胞などを用いることにしてもよい。以下、脂肪組織由来幹細胞の調製法の例を説明する。

【0016】
<脂肪組織由来幹細胞の調製法>
本発明において「脂肪組織由来幹細胞(ASC)」とは、脂肪組織に含まれる体性幹細胞のことをいうが、多能性を維持している限りにおいて、当該体性幹細胞の培養(継代培養を含む)により得られる細胞も「脂肪組織由来幹細胞(ASC)」に該当するものとする。通常、ASCは、生体から分離された脂肪組織を出発材料とし、細胞集団(脂肪組織に由来する、ASC以外の細胞を含む)を構成する細胞として「単離された状態」に調製される。ここでの「単離された状態」とは、その本来の環境(即ち生体の一部を構成した状態)から取り出された状態、即ち人為的操作によって本来の存在状態と異なる状態で存在していることを意味する。尚、脂肪組織由来幹細胞はADRC(Adipose-derived regeneration cells)、AT-MSC(Adipose-derived mesenchymal stem cells)、AD-MSC(Adipose-derived mesenchymal stem cells)等とも呼ばれる。本明細書では以下の用語、即ち、脂肪組織由来幹細胞、ASC、ADRC、AT-MSC、AD-MSC、を相互に置換可能に使用する。

【0017】
ASCは、脂肪基質からの幹細胞の分離、洗浄、濃縮、培養等の工程を経て調製される。ASCの調製法は特に限定されない。例えば公知の方法(Fraser JK et al. (2006), Fat tissue: an underappreciated source of stem cells for biotechnology. Trends in Biotechnology; Apr;24(4):150-4. Epub 2006 Feb 20. Review.; Zuk PA et al. (2002), Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells. Molecular Biology of the Cell; Dec;13(12):4279-95.; Zuk PA et al. (2001), Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies. Tissue Engineering; Apr;7(2):211-28.等が参考になる)に従ってASCを調製することができる。また、脂肪組織からASCを調製するための装置(例えば、Celution(登録商標)装置(サイトリ・セラピューティクス社、米国、サンディエゴ))も市販されており、当該装置を利用してASCを調製することにしてもよい。当該装置を利用すると、脂肪組織より、ASCを含む細胞集団を分離できる(K. Lin. et al. Cytotherapy(2008) Vol. 10, No. 4, 417-426)。以下、ASCの調製法の具体例を示す。

【0018】
(1)脂肪組織からの細胞集団の調製
脂肪組織は動物から切除、吸引などの手段で採取される。ここでの用語「動物」はヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばサル、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等)を含む。本発明の方法で得られた活性化卵子を治療目的で使用する場合には、免疫拒絶の問題を回避するため、活性化卵子を適用する対象(レシピエント)と同一の個体から脂肪組織(自己脂肪組織)を採取することが好ましい。但し、同種の動物の脂肪組織(他家)又は異種動物の脂肪組織の使用を妨げるものではない。

【0019】
脂肪組織として皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪を例示できる。この中でも皮下脂肪は局所麻酔下で非常に簡単に採取できるため、採取の際のドナーへの負担が少なく、好ましい細胞源といえる。通常は一種類の脂肪組織を用いるが、二種類以上の脂肪組織を併用することも可能である。また、複数回に分けて採取した脂肪組織(同種の脂肪組織でなくてもよい)を混合し、以降の操作に使用してもよい。脂肪組織の採取量は、ドナーの種類や組織の種類、或いは必要とされるASCの量を考慮して定めることができ、例えば0.5~500g程度である。ヒトをドナーとする場合にはドナーへの負担を考慮して一度に採取する量を約10~20g以下にすることが好ましい。採取した脂肪組織は、必要に応じてそれに付着した血液成分の除去及び細片化を経た後、以下の酵素処理に供される。尚、脂肪組織を適当な緩衝液や培養液中で洗浄することによって血液成分を除去することができる。

【0020】
酵素処理は、脂肪組織をコラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ等の酵素によって消化することにより行う。このような酵素処理は当業者に既知の手法及び条件により実施すればよい(例えば、R.I. Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, A John Wiley & Sones Inc., Publication参照)。以上の酵素処理によって得られた細胞集団は、多能性幹細胞、内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、及び/又はこれらの前駆細胞等を含む。細胞集団を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類に依存する。

【0021】
(2)沈降細胞集団(SVF画分:stromal vascular fractions)の取得
細胞集団は続いて遠心処理に供される。遠心処理による沈渣を沈降細胞集団(本明細書では「SVF画分」ともいう)として回収する。遠心処理の条件は、細胞の種類や量によって異なるが、例えば1~10分間、800~1500rpmである。尚、遠心処理に先立ち、酵素処理後の細胞集団をろ過等に供し、その中に含まれる酵素未消化組織等を除去しておくことが好ましい。

【0022】
ここで得られた「SVF画分」はASCを含む。従って、SVF画分を、卵子との共培養に使用する細胞として用いることもできる。尚、SVF画分を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類、酵素処理の条件などに依存する。また、国際公開第2006/006692A1号パンフレットにはSVF画分の特徴が示されている。

【0023】
(3)接着性細胞(ASC)の選択培養及び細胞の回収
SVF画分にはASCの他、他の細胞成分(内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、これらの前駆細胞等)が含まれる。そこで本発明の一態様では以下の選択培養を行い、SVF画分から不要な細胞成分を除去する。そして、その結果得られた細胞をASCとして本発明に用いる。

【0024】
まず、SVF画分を適当な培地に懸濁した後、培養皿に播種し、一晩培養する。培地交換によって浮遊細胞(非接着性細胞)を除去する。その後、適宜培地交換(例えば2~4日に一度)をしながら培養を継続する。必要に応じて継代培養を行う。継代数は特に限定されないが、多能性と増殖能力の維持の観点からは過度に継代を繰り返すことは好ましくない(5継代程度までに留めておくことが好ましい)。尚、培養用の培地には、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMEM:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を使用することができる。血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清など)又は血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を添加した培地を使用することにしてもよい。血清又は血清代替物の添加量は例えば5%(v/v)~30%(v/v)の範囲内で設定可能である。

【0025】
以上の操作によって接着性細胞が選択的に生存・増殖する。続いて、増殖した細胞を回収する。回収操作は常法に従えばよく、例えば酵素処理(トリプシンやディスパーゼ処理)後の細胞をセルスクレイパーやピペットなどで剥離することによって容易に回収することができる。また、市販の温度感受性培養皿などを用いてシート培養した場合は、酵素処理をせずにそのままシート状に細胞を回収することも可能である。このようにして回収した細胞(ASC)を用いることにより、ASCを高純度で含有する細胞集団を調製することができる。

【0026】
(4)低血清培養(低血清培地での選択的培養)及び細胞の回収
本発明の一態様では、上記(3)の操作の代わりに又は上記(3)の操作の後に以下の低血清培養を行う。そして、その結果得られた細胞をASCとして本発明に用いる。

【0027】
低血清培養では、SVF画分((3)の後にこの工程を実施する場合には(3)で回収した細胞を用いる)を低血清条件下で培養し、目的の多能性幹細胞(即ちASC)を選択的に増殖させる。低血清培養法では用いる血清が少量で済むことから、本発明の方法で得られた活性化卵子を治療目的に使用する場合、対象(患者)自身の血清を使用することが可能となる。即ち、自己血清を用いた培養が可能となる。ここでの「低血清条件下」とは5%以下の血清を培地中に含む条件である。好ましくは2%(V/V)以下の血清を含む培養液中で細胞培養する。更に好ましくは、2%(V/V)以下の血清と1~100ng/mlの線維芽細胞増殖因子-2(bFGF)を含有する培養液中で細胞培養する。

【0028】
血清はウシ胎仔血清に限られるものではなく、ヒト血清や羊血清等を用いることができる。本発明の方法で得られた活性化卵子をヒトの治療に使用する場合には、好ましくはヒト血清、更に好ましくは治療対象の血清(即ち自己血清)を用いる。

【0029】
培地は、使用の際に含有する血清量が低いことを条件として、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMEM:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を使用することができる。

【0030】
以上の方法で培養することによって、多能性幹細胞(ASC)を選択的に増殖させることができる。また、上記の培養条件で増殖する多能性幹細胞(ASC)は高い増殖活性を持つので、継代培養によって、本発明に必要とされる数の細胞を容易に調製することができる。尚、国際公開第2006/006692A1号パンフレットには、SVF画分を低血清培養することによって選択的に増殖する細胞の特徴が示されている。

【0031】
続いて、上記の低血清培養によって選択的に増殖した細胞を回収する。回収操作は上記(3)の場合と同様に行えばよい。回収した細胞(ASC)を用いることにより、ASCを高純度で含有する細胞集団を得ることができる。

【0032】
以上の方法では、SVF画分を低血清培養して増殖した細胞が利用に供されることになるが、脂肪組織から得た細胞集団を直接(SVF画分を得るための遠心処理を介することなく)低血清培養することによって増殖した細胞をASCとして用いることにしてもよい。即ち本発明の一態様では、脂肪組織から得た細胞集団を低血清培養したときに増殖した細胞をASCとして用いる。また、選択的培養(上記(3)及び(4))によって得られる多能性幹細胞ではなく、SVF画分(脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有する)をそのまま用いることにしてもよい。尚、ここでの「そのまま用いて」とは、選択的培養を経ることなく本発明に用いること、を意味する。

【0033】
共培養用細胞と卵子を共培養するため、本発明の一態様では、調製ないし用意した共培養用細胞と卵子を培養容器に播種し、培養に供する。播種する順序は特に問わず、いずれを先に播種してもよい。また、両者を混合した後に播種することにしてもよい。培養条件は、卵子の成熟培養において一般に採用されている条件とすればよい。即ち、例えば37℃~40℃、5%CO2の環境下で培養すればよい。但し、卵子の動物種を考慮し、動物の体温に近い温度に設定することが好ましい。例えばブタやウシなどの家畜の卵子を用いる場合、比較的高温(38℃~39℃)に設定するとよい。また、ヒトの卵子であれば37℃前後の温度条件が好ましい。基本培地として、NCSU37培地やNCSU23培地等のNCSU培地、199培地、ダルベッコ変法イーグル培地(D-MEM)(ナカライテスク株式会社、シグマ社、Gibco社等)、DMEM/F12(SIGMA社、Gibco社等)、合成卵管液(SOF)等を用いることができる。二種以上の基本培地を併用することにしてもよい。培地に添加可能な成分の例として血清、血漿、血清アルブミン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、抗生物質、2-メルカプトエタノール、アミノ酸、ビタミン、無機塩を挙げることができる。典型的には培養皿などの培養容器を用いて二次元的に細胞を培養する。共培養の期間は例えば1時間~4日、好ましくは1日~3日とする。当該培養期間が短すぎると、期待される効果(卵子の活性化)が十分に得られない。一態様では、卵子の成熟培養の全期間を通して、共培養用細胞と卵子の共培養を実施する。好ましくは、効率的な成熟を促すために2段階の共培養(第1共培養及び第2共培養)を行う。第1共培養は、未熟卵子の第1減数分裂の再開を促すために、性腺刺激ホルモンの存在下で培養する。性腺刺激ホルモンとしては、ヒト絨毛性ドナドトロピン(human chorionic gonadotropin: hCG)、馬絨毛性性腺刺激ホルモン(equine chorionic gonadotropin: eCG)、黄体化ホルモン(黄体形成ホルモンLH)、卵胞刺激ホルモン(濾胞刺激ホルモンFSH)等を用いることができる。2種類以上の性腺刺激ホルモンを併用することにしてもよい。例えばhCGとeCGを併用する。性腺刺激ホルモンの培地への添加量は例えば1 IU/ml~50 IU/mlの範囲内で設定することができる。減数分裂開始を一時的に抑制することによる減数分裂完了の同期化のため、性腺刺激ホルモンに加えて、ジブチリルサイクリックAMPを添加した培地を用いて第1共培養を実施することが好ましい。この場合のジブチリルサイクリックAMPの添加量は例えば0.2mM~5mMである。第1共培養の培養期間は例えば20時間~24時間である。一方、第2共培養は、第1成熟分裂を促し、第2成熟分裂中期まで成熟させるために、性腺刺激ホルモンの非存在下(ジブチリルサイクリックAMPも非存在下)で培養する。第2共培養の培養期間は例えば24時間~28時間である。

【0034】
本発明の別の一態様では、層状(シート状)に形成した共培養用細胞の上で卵子を培養する。この態様の場合、共培養用細胞と卵子の共培養に先立って、層状の共培養細胞を用意しておく。例えば、共培養用細胞を適当な培養容器(典型的には培養皿)で培養し、増殖させることにより共培養用細胞層(共培養用細胞シート)を得た後、当該細胞層上に卵子を播種して培養する。このように、共培養用細胞層の形成と卵子の共培養を連続的に実施するのではなく、共培養用細胞層を事前に用意しておき(例えば、細胞層形成後に保存しておく)、卵子との共培養に利用することにしてもよい。このような実施形態の場合、市販の又は公的な細胞バンクなどから分譲を受けた細胞層を利用してもよい。

【0035】
層状の脂肪組織由来幹細胞の上で卵子を培養することによって卵子が活性化した事実(後述の実施例を参照)に鑑みれば、脂肪由来幹細胞と卵子の接触が重要であると推察できる。層状の共培養用細胞を用いる上記態様は、共培養用細胞と卵子が接触する環境を作り出すことに有利である。

【0036】
共培養用細胞との共培養によって卵子が活性化される。即ち、活性化された卵子が得られる。本発明の一態様では、共培養後の卵子(即ち、活性化された卵子)を回収する(ステップ(2))。このとき、好ましくは、共培養用細胞から分離した状態で卵子を回収する。層状の共培養用細胞を用いると、このような分離回収を比較的容易に行うことができる。回収した卵子は後述の各種用途に用いられる。

【0037】
2.活性化卵子の用途
本発明の第2の局面は、本発明の方法で得られた活性化卵子の用途に関する。活性化卵子は、卵子の機能低下に起因する不妊症の治療に有用である。また、家畜の交配・繁殖(受精卵移植の成功率や効率の向上)、育種・種の維持(例えば絶滅危惧種の維持、ペットの系統の維持又は交雑)等にも利用され得る。

【0038】
本発明の活性化卵子を用いて受精卵移植を実施する場合(家畜の繁殖や育種・種の維持を目的とした受精卵移植も含む)、典型的には、生体外で活性化卵子と精子が共存する状態を形成させることになる。例えば、生体からの単離や細胞バンクなどから分譲などによって用意した精子と活性化卵子を同一の容器内に入れ、インキュベートすればよい。本発明に特徴的な条件、即ち、本発明の活性化方法で得た活性化卵子を使用すること以外については常法に従えばよい(例えば、牛の人工授精マニュアル(社団法人 畜産技術協会)、馬人工授精マニュアル(一般社団法人 日本家畜人工授精師協会)、牛の繁殖技術マニュアル(一般社団法人 日本家畜人工授精師協会)、家畜人工授精ハンドブック(一般社団法人 日本家畜人工授精師協会)等が参考になる)。

【0039】
本発明は様々な生物種を対象とする。卵子又は精子の由来となる生物種の例はヒト、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)である。卵子と精子の生物種は原則として同一である。但し、受精可能な組合せであれば、卵子の生物種と精子の生物種が異なっていてもよい。

【0040】
上記の各用途への利用に際し、活性化卵子を組成物の形態で提供することもできる。即ち、本発明は、活性化卵子を含有する組成物(本明細書において「活性化卵子組成物」と呼ぶ)も提供する。細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的として各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)を本発明の卵子活性化剤に含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を本発明の活性化卵子組成物に含有させてもよい。

【0041】
3.卵子活性化剤
前述の通り、本発明者らの検討の結果、脂肪組織由来幹細胞との共培養(特に接触した状態での共培養)によって卵子が活性化することが明らかとなった。当該知見に基づき、本発明は更に、脂肪組織由来幹細胞を有効成分として含有する卵子活性化剤を提供する。本発明の卵子活性化剤は、上記の活性化卵子組成物と同様に、卵子の機能低下に起因する不妊症の治療、受精卵移植、家畜の繁殖、育種・種の維持等に利用され得る。活性化卵子組成物の場合と同様に、各種任意成分(細胞の保護剤、抗生物質、ビタミン、サイトカイン、成長因子、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させてもよい。尚、特に言及しない点(各細胞の動物種、卵子の動物種など)については、本発明の第2の局面の場合と同様であり、対応する説明を援用する。

【0042】
本発明の卵子活性化剤は、通常、その有効成分(脂肪組織由来幹細胞)と卵子が接触する状態を生体外で形成させるために使用される。例えば、予め用意しておいた卵子と本発明の卵子活性化剤を適当な容器(典型的には培養皿、培養フラスコなど)に入れ、培養に供する。添加順序は特に問わず、いずれを先に入れることにしてもよい。また、両者を混合した後に容器に移すことにしてもよい。
【実施例】
【0043】
1.卵子の活性化実験1
(1)目的
体外で成熟培養したブタ卵子においては、核成熟は高率に見られるものの細胞質成熟が不完全であることにより、多精侵入等の異常受精が起こり発生率の低下することが知られている。これまでの研究の成果として、ブタ脂肪組織由来幹細胞(ASC)との共培養がブタ精子を活性化し、直進運動を促進することを突き止めた(特願2013-222630号)。このことからASCが精子に対し、何らかの機構の引き金を引くことが考えられた。そこで、本実験では、ブタASCが精子への作用と類似した活性化作用を卵子へ及ぼすか否かを検討する目的の下、ブタ卵子をブタASC(シート状)の上で体外成熟培養することがその後の受精へ及ぼす影響を調べた。
【実施例】
【0044】
(2)方法
(a)シート状ブタASC上における卵子の成熟培養
(a-1)ブタASC
卵子の成熟培養1日目においては、24ウェルプレートのウェル内でシート状になるように培養したブタASCを、各ウェル当たり200μlの修正したNCSU37培養液(mNCSU37培養液;0.6 mM システイン、1 mM ジブチリルサイクリックAMP(dibutyryl cAMP)、10 iu/ml eCG、10 iu/ml hCG、ペンシリンナトリウム60μg/ml、硫酸ストレプトマイシン100μg/ml及び10% ブタ卵胞液を添加)で2回洗浄後、卵子の成熟培養に供した。2日目には、dibutyryl cAMP、eCG及びhCGを含まないmNCSU37培養液(200μl/ウェル)を用い、別のウェルでシート状になったブタASCを2回洗浄した後、卵子の成熟培養に供した。細胞を添加しないで同じ培養液のみ入れたウェルをコントロールとした。
【実施例】
【0045】
(a-2)卵子
と場にて未成熟雌ブタより卵巣を採取し、ペニシリンナトリウム60μg/ml及び硫酸ストレプトマイシン100μg/mlを添加した滅菌生理食塩水(35℃)に入れ、実験室まで持ち帰った。同様の滅菌生理食塩水で卵巣を洗浄後、卵巣表面の直径3~6 mmの卵胞より卵子を吸引採取した。採取した卵胞を10% ウシ胎子血清(FCS)を添加した20 mM Hepes緩衝 M199培養液(ペニシリンナトリウム60 μg/ml及び硫酸ストレプトマイシン100 μg/ml添加)で4回洗浄した後、mNCSU37培養液で4回洗浄した。洗浄後、シート状ブタASCの入ったウェルあるいは入っていないウェルの同培養液中にて卵子を38.5℃、5%CO2/95%空気の気相下で20~23時間培養した。成熟培養2日目には、dibutyryl cAMP、eCG及びhCGを含まないmNCSU37培養液で卵子を4回洗浄後、前述のとおり洗浄したシート状のASCの接着したウェルあるいは細胞を含まないウェル(コントロール)の中に卵子を入れ、同培養液中でさらに24時間培養した。
【実施例】
【0046】
(b)精子の前培養
用手法にて採取した大ヨークシャー種雄豚の濃厚部精液をBTS希釈液(50μg/ml硫酸カナマイシン添加)で希釈後、17℃にて実験室まで運搬した。17℃にて使用まで約24時間保存後、2.5 mlの希釈精液をとり、室温にて10分間放置することにより細胞塊を沈殿させた。上清1.5 mlを0.1% PVA添加スクロース培地に重層し、120 g、5分間、続いて270 g、7分間遠心した後、上清を除去した。精子前培養用培地、すなわち修正M199培養液(M199に10%FCS、2.92 mM 乳酸カルシウム、0.91 mM ピルビン酸ナトリウム、3.05 mM グルコース、ペニシリンナトリウム60μg/ml、硫酸ストレプトマイシン100μg/mlを添加。pH 7.8)で洗浄後、同培養液に1×107精子/mlとなるように再浮遊し、38.5℃、5%CO2/95%空気の気相下で1.5時間(第1回実験)あるいは3時間(第2回実験)前培養した。
【実施例】
【0047】
(c)体外受精
培養終了後卵子をKikuchiらの培養液(Kikuchi et al., Biol Reprod 66, 1033-1041(2002))を修正した培養液(8 mM CaCl2を4 mM 乳酸カルシウム・5H2O に置換し、2 mM カフェインおよび10 mg/mlのBSAを添加)で4回洗浄した。洗浄後、卵子を同培養液と共に40μlとなるように取り、マイクロドロップ内(50μl)に入れた(合計90μl)。前培養終了後の精子を優しく撹拌後に10μl取り、90μlの卵子の入った培養液へ授精した(最終精子濃度は1×106/ml)。8.5~9.5 時間(第1回実験)あるいは13~14時間(第2回実験)38.5℃、5%CO2/95%空気の気相下で培養後、酢酸エタノール(1:3)で卵子を固定した。72時間(第1回実験)あるいは120時間(第2回実験)固定後、アセトオルセイン染色を行い、精子の侵入と核相の判定を以下のとおり行った。
(i)精子の侵入率
精子が1つ以上侵入した卵子の割合
(ii)多精子受精率
精子が2つ以上侵入した卵子の割合
(iii)平均侵入精子数
受精卵当たり侵入した精子の平均値
(iv)前核形成率
雄性および雌性前核のいずれか一方あるいは両者の形成が認められた卵子の割合
(v)正常受精率
多精子侵入ではない正常に受精した卵子の割合(雌性前核と侵入精子、雌雄両前核形成)
【実施例】
【0048】
(3)結果
第1回実験(図1上)では、シート状ブタASCの上で体外成熟培養したブタ卵子に精子を授精した場合(ブタASC)、ASC不在下で成熟培養した卵子(コントロール)に比べ精子侵入率、多精子受精率、平均侵入精子数および前核形成率が高い傾向にあり、特に、前核形成率では顕著な差が見られた。第2回実験(図1下)でも類似の傾向が見られ、雌性前核のみ形成した侵入卵がブタASC存在下の方が不在下よりも少なく、逆に雌雄両前核形成率はASC存在下の方が高かった。尚、シート状ブタASCの上で体外成熟培養したブタ卵子に精子を授精して得られた受精卵(典型例)を図2右に示す。二つの前核(PN)および二つの極体(PB)が見える。卵子由来・精子由来が各1個存在し、前核形成状態であることがわかる。図2左はコントロール(ASC不在下で成熟培養した卵子を使用した場合)の受精卵である。前核未形成状態(精子侵入が認められるが前核形成は行われていない)である。
【実施例】
【0049】
(4)考察
卵の成熟は核・細胞質・膜の3つの成熟からなり、これら全てが良好に達成されたときにのみ、発生へと至る。正常な発生過程では、胚(受精卵)は卵管内で分割を繰り返し、約10時間後に前核と呼ばれる空胞のような構造が細胞内に出現する。通常、二つの前核(卵子由来と精子由来が各1個)が形成される。前核形成が起こらない場合あるいは多精子受精の場合には前核が三つ認められ、この受精卵は正常に発育しない。前核形成率が高いことは多精子受精を防ぐ卵成熟、卵活性を高める。このような評価方法に関して、卵管上皮とその培養液によって前核形成が促進されるとの報告(Bureau M, Bailey JL, Sirard MA.Zygote. Influence of oviductal cells and conditioned medium on porcine gametes. 2000 May;8(2):139-44.)がある。今回の実験では、卵子の体外成熟培養をシート状ASCの上で行うことにより、精子が受精する可能性が高まった。また、ASC上での成熟培養によって雌性又は雄性の前核形成率(第1回実験)あるいは雌雄両前核形成率(第2回実験)が高まっていたことは、ASCとの共培養によって、精子侵入後における受精卵の発生過程が早まることを示唆している。即ち、ASCによって卵子の成熟へ何らかの促進効果がもたらされたと考えられた。
【実施例】
【0050】
本実験(第2回実験)では雌雄両前核形成率がASCの存在により約1.5倍に上昇した(37.5%から57.1%への上昇)。ASCを用いること以外は類似の方法で体外受精した報告(Funahashi H, Cantley T, Day BN. Different hormonal requirements of pig oocyte-cumulus complexes during maturation in vitro. J Reprod Fertil. 1994 May;101(1):159-65.)では、ホルモン(PMSGとhCG)を添加した培養液で卵子を成熟培養した後、新鮮ブタ精子を授精すると、ホルモンの無添加に比べ約2倍に雌雄両前核形成率が上昇している(32%から65%への上昇)。この報告と本結果を比較しても、ASCの共培養による雌雄両前核形成率の上昇効果は遜色ないものである。ASCによる卵の活性化では、薬剤による卵活性よりも、前核形成促進効果を含む多彩な効果を有することが考えられる。
【実施例】
【0051】
2.卵子の活性化実験2
上記実験の結果、ASCが卵子の活性を高め、雌雄両前核形成率を高めることが明らかとなった。本実験では体外受精後の発生状態を観察し、ASCが発生率に及ぼす影響を評価することにした。卵子の成熟培養及び精子の前培養は上記実験と同様の条件及び操作で行った。体外受精については以下の方法で行った。
【実施例】
【0052】
(1)体外受精の方法
培養終了後卵子をKikuchiらの培養液(Kikuchi et al., Biol Reprod 66, 1033-1041(2002))を修正した培養液(8 mM CaCl2を4 mM 乳酸カルシウム・5H2O に置換し、2 mM カフェインおよび10 mg/mlのBSAを添加)で4回洗浄した。洗浄後、卵子を同培養液と共に40μlとなるように取り、マイクロドロップ内(50μl)に入れた(合計90μl)。前培養終了後の精子を優しく撹拌後に10μl取り、90μlの卵子の入った培養液へ授精した(最終精子濃度は1×106/ml)。8 時間38.5℃、5%CO2/95%空気の気相下で培養後、発生用培養液(NCSU23培養液のグルコースを除き、0.17 mM ピルビン酸ナトリウム、2.73 mM 乳酸ナトリウムおよび 1% MEM non-essential amino acids (Gibco)を添加したNCSU-23培養液(Petters, R. M.,In Vitro Culture of Early Stage Embryos from Livestock, Tiss. Cult. Res. Commun. 11: 305-313, 1992; mNCSU23-1 培養液とする)で受精卵を4回洗浄後、同じ培養液で48時間、同じ気相条件下で培養した。次いで、ピルビン酸ナトリウムと乳酸ナトリウムを除き5.55 mMグルコースを添加したNCSU23培養液(mNCSU-23-2培養液とする)で4回洗浄後、同じ培養液で133時間まで培養した。培養後、実体顕微鏡および倒立顕微鏡下で受精卵を観察し、胚盤胞(初期胚盤胞、中期胚盤胞あるいは拡張胚盤胞)まで発育した受精卵の、培養した全受精卵に対する割合(発生率)を求めた。
【実施例】
【0053】
(2)結果
コントロールでは、培養総数38個中1個(2.63%)が胚盤胞(初期胚盤胞)まで発生が進んだ(図3)。シート状ASCの上で体外成熟させた後、授精および初期発生させた受精卵では、総数48個のうち3個(6.25%)が胚盤胞(中期~拡張胚盤胞が2個、拡張胚盤胞が1個)となり(図4)、コントロールに比べて発生の段階が進んでおり、即ち発生率が高い傾向にあった。
【実施例】
【0054】
(3)考察
ASCが卵子の成熟過程で促進的に作用し(特に細胞質成熟に対して)、体外受精後の発生率が高まったものと推察された。このことは、ASCのシート上で成熟培養した卵子の方が体外受精後の前核形成率が高かったこと(先の実験の結果)からも伺えた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の方法によれば卵子の活性を高めることができる。本発明は、卵子の機能低下に起因する不妊症の治療に有用である。即ち、本発明は、卵機能下の病態に対して有用な治療技術を提供する。このような適用の他、家畜の交配・繁殖(受精卵移植の成功率や効率の向上)、育種・種の維持(例えば絶滅危惧種の維持、ペットの系統の維持又は交雑)等への利用も図られる。
【0056】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3