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明細書 :挿入される眼内レンズの度数決定方法、及びシステム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5875090号 (P5875090)
登録日 平成28年1月29日(2016.1.29)
発行日 平成28年3月2日(2016.3.2)
発明の名称または考案の名称 挿入される眼内レンズの度数決定方法、及びシステム
国際特許分類 A61F   2/16        (2006.01)
FI A61F 2/16
請求項の数または発明の数 10
全頁数 22
出願番号 特願2014-521318 (P2014-521318)
出願日 平成25年6月10日(2013.6.10)
国際出願番号 PCT/JP2013/065951
国際公開番号 WO2013/187361
国際公開日 平成25年12月19日(2013.12.19)
優先権出願番号 2012135160
優先日 平成24年6月14日(2012.6.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年12月22日(2014.12.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
発明者または考案者 【氏名】常廣 俊太郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100094525、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 健二
【識別番号】100094514、【弁理士】、【氏名又は名称】林 恒徳
審査官 【審査官】石田 宏之
参考文献・文献 特表2003-534048(JP,A)
国際公開第2011/026068(WO,A2)
特開平07-000431(JP,A)
特開2010-119853(JP,A)
特表平11-506361(JP,A)
特開2013-094410(JP,A)
特表2013-503020(JP,A)
特表2014-518643(JP,A)
特表2005-525194(JP,A)
特開2012-106000(JP,A)
特表2008-531069(JP,A)
米国特許出願公開第2011/128502(US,A1)
特許第5269652(JP,B2)
特開平2-211119(JP,A)
国際公開第2012/137748(WO,A1)
調査した分野 A61F 2/16
特許請求の範囲 【請求項1】
断層撮像装置により生成される前眼断層画像を用いて、挿入される眼内レンズの度数を決定する方法であって、
コンピュータにより、
前記断層撮像装置により生成された患者眼の前眼断層画像により得られる水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求めるステップと、
前記求められた赤道部位置と、前記水晶体の前嚢位置及び後嚢位置から、挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離を推定するステップと、
前記推定された挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離に対応して眼内レンズの度数を決定するステップを、
有し、
さらに、前記前眼断層画像により得られる水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求めるステップは、
前記水晶体の前嚢及び後嚢の形状からそれぞれの軌跡カーブを近似するステップと、
前記近似した水晶体の前嚢の軌跡カーブと水晶体の後嚢の軌跡カーブの交点を赤道部位置として求めるステップを、
有することを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記近似した水晶体の前嚢の軌跡カーブと水晶体の後嚢の軌跡カーブの交点を赤道部位置として求めるステップは、
前記水晶体の前嚢及び後嚢の形状に沿う複数点を特定し、前記特定される複数点を満たす前記前嚢及び後嚢の形状に対応する多項式をそれぞれ生成するステップと、
前記生成された多項式の交点を前記水晶体の最大径部である赤道部位置と判定するステップを、
有することを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記近似した水晶体の前嚢の軌跡カーブと水晶体の後嚢の軌跡カーブの交点を赤道部位置として求めるステップは、
前記水晶体の前嚢の軌跡カーブと前記水晶体の後嚢の軌跡カーブとして、前記水晶体の前嚢と後嚢のそれぞれの形状に沿う円弧として表すステップを
有することを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
さらに、前記求められた赤道部位置と、前記水晶体の前嚢位置及び後嚢位置から、次式により眼内レンズ位置を推定する、
眼内レンズ位置=0.89+0.30×前嚢位置+0.25×後嚢位置+0.29×赤道部位置、
ただし、前記前嚢位置は、角膜の中心を通る眼軸長上において、角膜前面から術前の水晶体前嚢までの距離であり、前記後嚢位置は角膜前面から術前の水晶体後嚢までの距離である、
ことを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定方法。
【請求項5】
断層撮像装置により生成される前眼断層画像を用いて、挿入される眼内レンズの度数を決定する方法であって、
コンピュータにより、
前記断層撮像装置により生成される患者眼の前眼断層画像をディスプレイ装置に表示させるステップと、
前記ディスプレイ装置に表示される患者眼の前眼断層画像上で、水晶体の前嚢及び後嚢の形状からそれぞれの軌跡カーブを近似するステップと、
前記近似される前嚢及び後嚢の軌跡カーブの延長上の交点として、入力手段により指示入力される位置を赤道部位置と推定するステップと、
前記推定された赤道部位置と、前記前嚢位置及び後嚢位置から、挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離を推定するステップと、
前記推定された挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離に対応して眼内レンズの度数を決定するステップを、
有することを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定方法。
【請求項6】
断層撮像装置により生成された前眼断層画像を用いて、挿入される眼内レンズの度数を決定するシステムであって、
患者眼の前眼断層画像を生成する断層撮像装置と、
前記断層撮像装置により生成される患者眼の前眼断層画像により得られる水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求める手段と、更に、
前記求められた赤道部位置と、前記水晶体の前嚢位置及び後嚢位置から、挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離を推定する手段と、
前記推定された挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離に対応して眼内レンズの度数を決定する手段を有し、
前記水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求める手段は、
前記水晶体の前嚢及び後嚢の形状からそれぞれの軌跡カーブを近似し、前記近似した水晶体の前嚢の軌跡カーブと水晶体の後嚢の軌跡カーブの交点を赤道部位置として求める、
ことを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定システム。
【請求項7】
請求項6において、
前記水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求める手段は、
前記水晶体の前嚢及び後嚢の形状に沿う複数点を特定し、前記特定される複数点を満たす前記前嚢及び後嚢の形状に対応する多項式をそれぞれ生成する手段と、
前記生成された多項式の交点を前記水晶体の最大径部である赤道部位置と判定する手段を、
有することを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定システム。
【請求項8】
請求項6において、
前記水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求める手段は、
前記近似した水晶体の前嚢の軌跡カーブと水晶体の後嚢の軌跡カーブの交点を赤道部位置として求める際に、前記水晶体の前嚢の軌跡カーブと前記水晶体の後嚢の軌跡カーブとして、前記水晶体の前嚢と後嚢のそれぞれの形状に沿う円弧として表す、
ことを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定システム。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項において、
さらに、前記水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求める手段は、前記求められた赤道部位置と、前記水晶体の前嚢位置及び後嚢位置から、次式により眼内レンズ位置を推定する、
眼内レンズ位置=0.89+0.30×前嚢位置+0.25×後嚢位置+0.29×赤道部位置、
ただし、前記前嚢位置は、角膜の中心を通る眼軸長上において、角膜前面から術前の水晶体前嚢までの距離であり、前記後嚢位置は角膜前面から術前の水晶体後嚢までの距離である、
ことを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定システム。
【請求項10】
術後の眼内レンズの度数を決定するシステムであって、
患者眼の前眼断層画像を生成する断層撮像装置と、
前記断層撮像装置により生成される患者眼の前眼断層画像を表示するディスプレイ装置と、
前記ディスプレイ装置に表示される患者眼の前眼断層画像上で、水晶体の前嚢及び後嚢の形状からそれぞれの軌跡カーブを近似し、前記近似される前嚢及び後嚢の軌跡カーブの延長上の交点として、指示入力可能な入力手段を有し、
前記入力手段により入力される前記前嚢及び後嚢の軌跡カーブの延長上の交点を赤道部位置と推定する判定手段と、
前記判定された赤道部位置と、前記前嚢位置及び後嚢位置から、挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離を推定する手段と、
前記推定された挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離に対応して眼内レンズの度数を決定する手段とを、
有することを特徴とする挿入される眼内レンズの度数決定システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉断層撮像装置により生成される前眼断層画像を用いて、挿入される眼内レンズの度数を決定する方法、及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障は、水晶体内のたんぱくの変性に伴い混濁した状態となり、視力が低下する、目がかすむ等の原因となる。この白内障に対しては白内障手術が行われ、そのほぼ全ての場合において、混濁した水晶体を摘出し、それに代わり人工の眼内レンズを挿入することが行われる。
【0003】
白内障手術においては、水晶体の袋(以下水晶体嚢)の前面(前嚢)に直径5~6mmの丸い穴をあけ、内部の混濁のみを超音波を発する器械で乳化・吸引する。すなわち水晶体嚢はほぼ維持され、混濁の乳化・吸引が終わったのちには、空になった嚢の中に人工の眼内レンズを挿入する。
【0004】
眼内レンズは種類によってデザインが決まっており、架橋アクリルポリマー、シリコン等で形成されたレンズの役目をする光学部と、光学部が中央にくるように調整するPVDF(ポリフッ化ビニリデン)等を用いた支持部からなる。
【0005】
その手術に際しては、いずれの度数の眼内レンズを挿入したら術後の屈折がいくつになるかを、手術対象眼の角膜屈折力や眼軸長などにより予測し、挿入する眼内レンズを決定する。
【0006】
この予測のために、術後に眼内レンズが固定される位置を予測することが大きな比率を占める。眼内レンズの固定位置が解れば、通過媒質の屈折率や通過距離、角膜屈折力など他のパラメータから眼内レンズの結ぶ焦点の位置が算出できるからである。実際非特許文献2の執筆者であるSverker Norrbyは、術後屈折値の誤差の原因の35%が術後眼内レンズ位置予測に基づくものであると述べている。
【0007】
従来の予測方法では、例えば、特許文献1に示されるように、眼内レンズ固定位置を角膜屈折力や眼軸長のみから予測していた。しかし、十分な予測精度は得られず、結果として予想した術後屈折値と実際の術後屈折値が合わないことは臨床として多く経験する。実際の患者で考えてみると、正視を得られると予測した眼内レンズを挿入したとしても、術後の屈折値が遠視側や近視側にずれてしまった場合は、十分な裸眼視力が得られず、満足を得ることにつながらないことになる。
【0008】
この様に、術後屈折誤差の低減においては、眼内レンズ固定位置を精度よく求められるかが重要である。これまで様々な術後屈折予測方式が提案され、使用されている。
【0009】
2010年に実施した日本白内障屈折手術学会会員アンケートによるとアンケート回答者の3%がSRK-I、27%がSRK-II、61%がSRK/T、9%がその他の方式を使用しているとのことであった。
【0010】
上記で61%が使用しているSRK/T方式(非特許文献1参照)では角膜曲率半径、眼軸長、レンズのA定数を基に眼内レンズの位置を推測している。
【0011】
図1は、SRK/T方式を説明するため、眼内レンズの挿入位置を模式的に表した図である。
【0012】
眼軸長L1≦24.2の場合にはLC=L1として、L1>24.2の場合には眼軸長L1を2次式で補正して、補正眼軸長LCを得る。その後、角膜曲率半径rから求められる角膜屈折力K(=337.5/角膜曲率半径r)を合わせて角膜径wを次式(1)により算出する。
【0013】
w=-5.41+0.58412×LC+0.098×K (1)
その後角膜ドームの高さHを、次式(2)に示すように三平方の定理で求める。
【0014】
【数2】
JP0005875090B2_000002t.gif
それに眼内レンズの種類による固有値A定数から求められる定数(オフセットOfst:計算上の虹彩面から眼内レンズ(IOL)中心(主点)までの距離)を足したものが、次式(3)に示すように眼内レンズの位置C1となる。
【0015】
C1(=術後の予測前房深度)=H+Ofst (3)
しかし、この方式には、様々な問題が生じる。たとえば眼軸長L1が長くなると上記角膜ドームの高さを表す式(2)におけるr2が、(w/2)2より小さくなり平方根の中身が負になってしまい正しい計算ができないことがたびたびある。また実際のオフセットOfstは眼内レンズのみで規定される定数ではない。
【先行技術文献】
【0016】

【特許文献1】特許第3779998号公報
【特許文献2】特表2012-504010号公報
【0017】

【非特許文献1】Development of the SRK/T intraocular lens implant power calculation formula:John A.Retzlaff,Donald R.Sanders,Manus C.Kraff,J cataract refract surg.1990
【非特許文献2】Sources of error in intraocular lens power calculation.J Cataract Refract Surg.2008:Sverker Norrby
【非特許文献3】Full-range imaging of eye accommodation by high-speed long-depth range optical frequency domain imaging:Hiroyuki Furukawa,Hideaki Hiro-Oka,Nobuyuki Satoh,Reiko Yoshimura,Donghak Choi,Motoi Nakanishi,Akihiko Igarashi,Hitoshi Ishikawa,Kohji Ohbayashi,and Kimiya Shimizu,1 December 2010/Vol.1,No.5/BIOMEDICAL OPTICS EXPRESS 1491
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、上記に鑑みて、本願発明の目的は、精度よく挿入される眼内レンズの度数を決定する方法、及びシステムを提供することにある。
【0019】
これにより、術後の屈折値の誤差を軽減することが可能であり、予測した眼内レンズ位置に基づき挿入すべき眼内レンズの度数を決定することを可能とする。
【0020】
ここで、本願発明の出願人は先に新しい光干渉断層撮像装置を提案している(非特許文献3)。かかる本願発明の出願人により先に提案された光干渉断層撮像装置は、現在市販されている他の製品とは異なり、水晶体の後面まで撮像できるものである。これは、水晶体の形状を正確に知ることができることを意味する。
【0021】
すなわち、対象者の水晶体嚢の形状が正確にわかれば、その中で眼内レンズの支持部がどのように固定され、光学部がどの位置に収まるかがより正確に予測でき、これにより術後の屈折誤差の低減が図られ、患者の期待に沿った術後屈折値を提供できる。
【0022】
したがって、本発明の目的は、より具体的には、かかる本願発明の出願人により先に提案された断層撮像装置により得られる水晶体の形状画像に基づいて、精度良く挿入される眼内レンズの度数を決定する方法、及びシステムを提供することにある。これにより術後屈折値誤差を低減し、最適な眼内レンズ度数を決定することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記本発明の目的を達成する断層撮像装置により生成される前眼断層画像を用いて挿入される眼内レンズ位置の度数を決定する方法は、コンピュータにより、前記断層撮像装置により生成される患者眼の前眼断層画像により得られる水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求めるステップと、前記求められた赤道部位置と、前記水晶体の前嚢位置及び後嚢位置から、挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離を推定するステップと、前記推定された挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離に対応して眼内レンズの度数を決定するステップを、有することを特徴とする。
【0024】
上記本発明の方法における一態様として、前記前眼断層画像から得られる水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を求めるステップは、前記水晶体の前嚢及び後嚢の形状からそれぞれの軌跡カーブを近似するステップと、前記近似した水晶体の前嚢の軌跡カーブと水晶体の後嚢の軌跡カーブの交点を赤道部位置として求めるステップを有することを特徴とする。
【0025】
さらに、上記本発明の方法における一態様として、前記近似した水晶体の前嚢の軌跡カーブと水晶体の後嚢の軌跡カーブの交点を赤道部位置として求めるステップは、前記水晶体の前嚢及び後嚢の形状に沿う複数点を特定し、前記特定される複数点を満たす前記前嚢及び後嚢の形状に対応する多項式をそれぞれ生成するステップと、前記生成された多項式の交点を前記水晶体の最大径部である赤道部位置と判定するステップを、有することを特徴とする。
【0026】
また、上記本発明の方法における一態様として、前記近似した水晶体の前嚢の軌跡カーブと水晶体の後嚢の軌跡カーブの交点を赤道部位置として求めるステップは、前記水晶体の前嚢の軌跡カーブと前記水晶体の後嚢の軌跡カーブとして、前記水晶体の前嚢と後嚢のそれぞれの形状に沿う円弧として表すステップを有することを特徴とする。
【0027】
さらにまた、上記本発明の方法における一態様として、前記求められた赤道部位置から、次式により眼内レンズ位置を推定する。
【0028】
眼内レンズ位置=0.89+0.30×前嚢位置+0.25×後嚢位置+0.29×赤道部位置、ただし、前記前嚢位置は、角膜前面から術前の水晶体前嚢までの距離であり、前記後嚢位置は角膜前面から術前の水晶体後嚢までの距離であることを特徴とする。
【0029】
さらに、上記本発明の目的を達成する別の方法は、コンピュータにより、前記断層撮像装置により生成される患者眼の前眼断層画像をディスプレイ装置に表示させるステップと、前記ディスプレイ装置に表示される患者眼の前眼断層画像上で、前嚢及び後嚢の軌跡カーブの延長上の交点として、入力手段により指示入力される位置を赤道部位置と推定するステップと、前記推定された赤道部位置と、前記前嚢位置及び後嚢位置から、挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離を推定するステップと、前記推定された挿入される眼内レンズの角膜前面からの距離に対応して眼内レンズの度数を決定するステップを有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】SRK/T方式を説明する眼内レンズの挿入位置を模式的に表した図である。
【図2】白内障手術により、混濁した水晶体の代わりに、水晶体嚢に埋め込まれる眼内レンズ(以下、IOLという)の一構成を説明する図である。
【図3】本発明の術後の眼内レンズ位置を推定するシステムの構成例ブロック図である。
【図4】術後の眼内レンズ位置を推定するシステムにより実行される白内障術後屈折誤差の低減方法の手順を示すフロー図である。
【図5】光干渉断層撮像装置(Optical Coherence Tomography、以下OCTという)で取得された患者眼の断層画像を例示する図である。
【図6】水晶体前嚢及び水晶体後嚢の形状を軌跡カーブとして近似して求めた状態を示す模式図である。
【図7】水晶体前嚢の軌跡カーブと水晶体後嚢の軌跡カーブを延長して交点を求めるための第1の方法の詳細処理フローである。
【図8】図7において求めた2次関係式を更に説明する図である。
【図9】水晶体前嚢の軌跡カーブと水晶体後嚢の軌跡カーブを延長した交点を求めるための第2の方法の詳細処理フローである。
【図10】前記第2の方法を模式的に示す図である。
【図11】手術前の断層画像(図5参照)に、手術後の断層画像を重ねて表示した画像である。
【図12】複数の患者について、角膜表面(A)、水晶体前嚢(B)、水晶体後嚢(E)、赤道部(F)、及びIOL中央(G)の位置関係のデータをプロットしたグラフ図である。
【図13】SRK/T方式と本願発明とを比較した屈折誤差の確率分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に図面に従い本発明の実施例について説明する。

【0032】
図2は、白内障手術により、混濁した水晶体の代わりに、水晶体嚢に埋め込まれるIOLの一構成を説明する図である。そして、図2(A)は、水晶体嚢に埋め込まれたIOLの断面から見た模式図である。図2(B)は、IOLの平面図と側面図である。

【0033】
IOLは、径12.0mm程度を有する光学部20と、両側に伸びた支持部21A、21Bを有して構成される。

【0034】
図2(A)において、かかるIOLは、水晶体嚢2の角膜3側、即ち前嚢部に開けられた孔2Aから、可撓性の材料であるので折り曲げられた状態で水晶体嚢2内に挿入される。水晶体嚢2内でIOLは、元の状態に伸張し、支持部21A、21Bが水晶体嚢2内で突っ張り固定される。IOLの支持部21A、21Bと光学部20は一定の角度α(図2(B)参照)を成すため、支持部21A、21Bの位置がわかれば光学部20の位置も推定できる。

【0035】
そして、支持部21A、21Bの先端は、水晶体嚢2の最大経位置に接触し、IOLを水晶体嚢内に位置決めされると想定できる。水晶体嚢2の赤道径は約9.0mm(参考文献:眼科学 丸尾敏夫ら 2002 文光堂)なのに対し、IOLは径12.0mm程度で製作されているため、水晶体嚢2の最大径に支持部21A、21Bが位置するのは自然だからである。

【0036】
さらに水晶体嚢2はチン小帯4という組織で毛様体という外部組織に固定されており、この固定方法は術前・術後で変化はない。従って水晶体嚢2の最大径をとる部位(赤道部)も術前・術後で大きな変化はないものと推測される。

【0037】
したがって、本発明では、手術前の水晶体前嚢と後嚢のそれぞれの形状に基づいて、水晶体の最大径とする部位(赤道部)の位置を推測する。そして、IOLの支持部21A、21Bは水晶体嚢2が最大径をとる部位(赤道部)に収まると考えると、IOLのデザインに基づき光学部20の位置も推測できるという考えに基づいている。

【0038】
さらに、かかる推測される水晶体嚢2におけるIOL位置を基に術後の屈折値(レンズ度数)を算出できる。

【0039】
この様に、本発明は、手術前に撮像した前眼部光干渉断層画像により術後の眼内レンズ位置を予測する。したがって、それを基に、術後の屈折値(レンズ度数)を正確に決定することができる。

【0040】
図3は、本発明の光干渉断層撮像装置により生成される前眼断層画像を用いて、術後の眼内レンズ位置を推定する方法を実現する、システムの構成例ブロック図である。

【0041】
本発明に従う術後の眼内レンズ位置を推定するシステムは、被検者の対象眼30の前眼断層画像を生成するOCT31と眼内レンズ度数算出装置32により構成される。

【0042】
OCT31は、先に説明したように本願出願人により非特許文献3により提案されている技術を用いた光干渉断層撮像装置が好ましい。すなわち、水晶体の形態を把握できる、特に前嚢及び後嚢の形状を把握できる断層画像が得られることが重要である。

【0043】
かかるOCT31により得られた対象眼30の断層画像データは、眼内レンズ度数算出装置32に導かれる。

【0044】
眼内レンズ度数算出装置32は、基本的構成として、パーソナルコンピュータにより実現できる。メモリ322に格納されたプログラムをCPU321により実行することにより本発明に従う術後の眼内レンズ位置を推定し、これに基づき挿入される眼内レンズの度数を決定する方法が実現される。

【0045】
OCT31により得られた対象眼30の断層画像データが、眼内レンズ度数算出装置32のビデオキャプチャー装置320を通して、メモリ322に保存される。同時に断層画像が、ディスプレイ323に表示される。

【0046】
眼内レンズ度数算出装置32は、更に出力装置としてプリンタ324、キーボード、マウス等が入力装置325としてインタフェースを通して接続される。

【0047】
上記図3の構成において、一態様としてOCT31を使用する例を示したが、水晶体の前嚢及び後嚢の断層が撮像できれば、これに限定されない。たとえば、シャシンプルーフカメラも使用することができる。

【0048】
図4は、かかる術後の眼内レンズ位置を推定するシステムにおいてCPU321による制御により実行される手順を示すフロー図である。

【0049】
処理がスタートすると、OCT31で患者眼の断層画像を取得する。(ステップS1)。かかるOCT31で取得された患者眼の断層画像の例を図5に示す。

【0050】
図5において、角膜6、水晶体5、水晶体5を包む水晶体嚢の角膜側の水晶体前嚢51と、反対側の水晶体後嚢52が示されている。

【0051】
図4に戻り、かかる患者眼の断層画像から水晶体5の形態を解析し、水晶体の最大径部を求める。具体的には、水晶体前嚢51の形状を求め(ステップS2)、更に同様に水晶体後嚢52の形状を求める(ステップS3)。

【0052】
図6は、水晶体前嚢51の形状を軌跡カーブ51Aとして求め、水晶体後嚢52の形状を軌跡カーブ52Aとして近似して求めた状態を示す模式図である。図6は、角膜6の形状の軌跡カーブ6Aも示している。

【0053】
図6において、水晶体前嚢51の軌跡カーブ51Aと水晶体後嚢52の軌跡カーブ52Aの左右領域(○を付した部分)は、図5に示すように虹彩(図2A参照)が遮光するため判別できないが、この領域に、水晶体嚢の最大径位置(赤道部)50がある。そして、この赤道部50に眼内レンズ(IOL)の支持部21A、21Bが位置づけられると推定される。

【0054】
さらに、本発明において、かかる赤道部50が、水晶体前嚢51の軌跡カーブ51Aと水晶体後嚢52の軌跡カーブ52Aを延長した交点にあると想定して、左右の赤道部50の位置を求める(図4、ステップS4)。

【0055】
図7は、かかる水晶体前嚢51の軌跡カーブ51Aと水晶体後嚢52の軌跡カーブ52Aを延長して交点を求める(ステップS4)ための第1の方法の詳細処理フローである。

【0056】
すなわち、水晶体前嚢の軌跡カーブ51A上に複数点を設定し、この複数点条件を満たす軌跡を多項式、例えば2次関係式Iで近似する(ステップS401)。さらに、水晶体後嚢の軌跡カーブ52Aも同様に複数点を設定し、この複数点条件を満たす軌跡を多項式、例えば2次関係式IIで近似する(ステップS402)。ついで、これら、2つの2次関係式I、IIから、これらが等しくなる軌跡上の交点(X、Y)を求めることにより、赤道点50が求められる(ステップS403)。

【0057】
図8は、図7において求めた2次関係式を更に説明する図である。すなわち、水晶体前嚢51の軌跡カーブ51Aと水晶体後嚢52の軌跡カーブ52Aのそれぞれにおいて、軌跡カーブ上に、例えば7つの点を特定して、これら7つの点を満たす2次式を求めることができる。

【0058】
図8に示す例では、水晶体前嚢51の軌跡カーブ51Aを表す2次関係式Iは、
y=0.0005x-0.7009x+591.73 であり、
水晶体後嚢52の軌跡カーブ52Aを表す2次関係式IIは、
y=-0.0014x+1.6768x+338 である。

【0059】
これら2つの関係式が等しくなる(X、Y)点を求めれば、図6に示すように赤道点50が求められる。

【0060】
なお、図8では、更に角膜6(図5)の外側軌跡と内側軌跡を近似した2次関係式(III)、(IV)も示している。

【0061】
次に、図9は、上記水晶体前嚢51の軌跡カーブ51Aと水晶体後嚢52の軌跡カーブ52Aを延長した交点を求める(ステップS4)ための第2の方法の詳細処理フローである。

【0062】
すなわち、水晶体前嚢の軌跡カーブ51Aに近似する第1の円弧(1)を求める(ステップS411)。さらに、水晶体後嚢の軌跡カーブ52Aに近似する第2の円弧(2)を求める(ステップS412)。そして、これら二つの円弧(1)、(2)交叉する点が、赤道部50となる(ステップ413)。

【0063】
図10は、かかる第2の方法を模式的に示す図である。近似された二つの円弧(1)、(2)の交点として、赤道部50が示されている。この様にして水晶体嚢の最大径位置(50)が特定される。

【0064】
ここで、上記実施例では、水晶体前嚢51の軌跡カーブ51Aと水晶体後嚢52の軌跡カーブ52Aを多項式として例えば2次式近似、あるいは円弧近似することを説明したが、本発明は、かかる近似方法に限定されるものではない。その他の曲線近似、例えば、楕円、懸垂線、3次曲線等、2次以上の多項式、曲線近似、更に三角関数、指数関数、対数関数で近似してもよい。

【0065】
図4に戻り、上記の様にして赤道部50が特定されると(ステップS4)、IOLの支持部21A、21Bの水晶体嚢内における固定位置が推測される。すなわち、推定された赤道部位置50にIOLの支持部21A、21Bが接触して、IOLは位置決めされると推定される。

【0066】
したがって、眼軸長L1と赤道部50の位置からIOLの焦点距離が求められる(ステップS5)。すなわち、眼軸長L1から、赤道部50の座標位置を減算することにより、IOLの焦点距離が導かれる。

【0067】
したがって、求められたIOLの焦点距離からIOLの度数を決定することができる。(ステップS6)。

【0068】
上記のように、本発明により、水晶体の形状から赤道部50の位置が推定され、従ってIOLの位置が決まり,これに基づいて使用するIOLの最適な度数を決定することができる。

【0069】
さらに、赤道部50の位置を求める際に、上記第1の方法、第2の方法では、前嚢、後嚢の軌跡カーブに対応する多項式、あるいは、円弧の交点をコンピュータによって計算により求めることを示した。しかし、OCT31により撮像される水晶体嚢の断層画像をディスプレイ323に表示し、オペレータによる判断で、前嚢、後嚢の軌跡カーブの延長線における交点を想定する。そして、その想定する交点を入力手段としてタッチパネルあるいは、マウスによるカーソル移動によりディスプレイ323上で赤道部50の位置を入力指定することも可能である。

【0070】
図11は、手術前の断層画像(図5参照)に、手術後の断層画像を重ねて表示した画像である。手術後の断層画像には、挿入した眼内レンズ(IOL)が写っている。この図に、角膜表面(A)、水晶体前嚢(B)、IOL前面(C)、IOL後面(D)及び、水晶体後嚢(E)の位置を記入している。

【0071】
複数の患者について、この位置関係のデータをプロットしたグラフを図12に示す。図12において、横軸が、患者サンプルであり、縦軸が角膜表面(A)からの距離を示している。すなわち、角膜表面(A)位置を0.00として、屈折率で補正後の上記水晶体前嚢(B)、水晶体後嚢(E)、及びIOL前面(C)とIOL後面(D)の中央値(G)の位置を示している。さらに、本発明方法により推定された赤道部の位置(F)を、プロットしている。

【0072】
なお、図12において、赤道部(F)の位置とIOL中心(G)の位置の区別を明確にするために、IOL中心(G)のプロットされた位置を示す各点を線で結んで示している。

【0073】
この図12の関係から、赤道部(F)の位置が、IOL中央値(G)より略一定の距離で全て前側(前嚢側)にあることが理解できる。したがって、この統計グラフから本発明により、赤道部を推定してほぼ正確にレンズ位置を特定することが可能であることが理解できる。

【0074】
さらに、ほぼ60%の割合で使用されているこれまでのSRK/T方式と比較した屈折誤差の確率分布を図13に示す。図13において、確率分布は正規分布とみなせ、0.5Dより大きい誤差を有する確率は、従来のSRK/T方式で決められるIOL位置に基づく場合は、33.9%であるのに対し、本発明の方法で求められる赤道部の位置から決められたIOL度数による屈折誤差は、19.4%である。さらに、1Dより大きい誤差を有する確率は、従来のSRK/T方式に基づく場合は、5.59%であるのに対し、本発明の方法に基づく場合は、0.94%である。

【0075】
かかる点からも、本発明方法を適用する場合は、より正確に使用すべきIOL位置を推定することが可能であることが理解できる。

【0076】
さらに、本発明者は、本発明の効果をSRK/Tの骨格を使用して評価した。すなわち、複数の患者から求められた手術前の水晶体前嚢の位置と、手術前の水晶体後嚢の位置と、更に前記方法により求めた赤道部位置をパラメータとして、術後の予測前房深度C1(図1参照)を計算する次の予測式を生成した。なお、この予測式は、症例や眼内レンズの種類によって異なってくる。
C1(mm)=0.89+0.30×前嚢位置+0.25×後嚢位置+0.29×赤道部位置
ただし,前嚢位置,及び後嚢位置は,角膜の中心を通る眼軸長上と交叉する前嚢,後嚢の位置である。

【0077】
そして、前記複数の患者とは異なる複数の患者に対して、この予測式を当てはめて、術後の屈折誤差を評価した。この様に自己回帰を禁じた状況下でも前記の新しい予測式により誤差分散は、有意に小さいものであった。

【0078】
上記したように、本発明は、光干渉を用いるOCTによる断層画像により得られる水晶体の形態から水晶体の最大径部である赤道部位置を推定し、これに基づき、術後のIOLの位置を予測することができる。これに基づき、正確なIOLの屈折値を求めることが可能である。これにより白内障患者の術後の満足度をより高めることができる。

【0079】
ここで、上記説明において、眼内レンズの挿入を専ら白内障の場合について説明したが、本発明の適用はこれに限られず、緑内障の治療等において眼内レンズを挿入する場合にあっても適用が可能である。
【符号の説明】
【0080】
2 水晶体嚢
3 角膜
4 ちん小帯
20 眼内レンズ(IOL)の光学部
21A(21B) 眼内レンズ(IOL)の支持部
30 患者眼
31 光干渉断層撮像装置(OCT)
32 眼内レンズ度数算出装置
5 水晶体
6 角膜
6A 角膜の軌跡カーブ
50 赤道部
51 水晶体前嚢
51A 水晶体前嚢の軌跡カーブ
52 水晶体後嚢
52A 水晶体後嚢の軌跡カーブ
図面
【図4】
0
【図7】
1
【図9】
2
【図12】
3
【図13】
4
【図1】
5
【図2】
6
【図3】
7
【図5】
8
【図6】
9
【図8】
10
【図10】
11
【図11】
12