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明細書 :FePt系合金における強磁性-常磁性相変化を利用した磁気記録媒体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成28年2月4日(2016.2.4)
発明の名称または考案の名称 FePt系合金における強磁性-常磁性相変化を利用した磁気記録媒体
国際特許分類 G11B   5/65        (2006.01)
G11B   5/84        (2006.01)
G11B   5/851       (2006.01)
H01F  10/14        (2006.01)
FI G11B 5/65
G11B 5/84 Z
G11B 5/851
H01F 10/14
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 19
出願番号 特願2014-521245 (P2014-521245)
国際出願番号 PCT/JP2013/064634
国際公開番号 WO2013/187217
国際出願日 平成25年5月27日(2013.5.27)
国際公開日 平成25年12月19日(2013.12.19)
優先権出願番号 2012135220
優先日 平成24年6月14日(2012.6.14)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】長谷川 崇
【氏名】石尾 俊二
出願人 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100129838、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 典輝
審査請求 未請求
テーマコード 5D006
5D112
5E049
Fターム 5D006BB05
5D006BB07
5D006DA03
5D006EA03
5D006FA09
5D112AA05
5D112AA19
5D112AA24
5D112BB02
5D112BB06
5D112GA23
5E049AA01
5E049BA06
5E049GC04
5E049JC01
要約 所定の規則に従って配列された強磁性部及び常磁性部を備えた磁気記録層を備えており、強磁性部は飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下の強磁性を有する合金を含み、常磁性部は飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下の常磁性を有する合金を含み、強磁性部に含まれる合金および常磁性部に含まれる合金は組成が略同一であり、且つ当該組成は下記(1)式又は(2)式で表わされ、強磁性部に含まれる合金はL1規則構造を有し、常磁性部に含まれる合金はA1不規則構造を有する、磁気記録媒体とすることにより、容易に製造でき、且つ記録密度を高めることができる磁気記録媒体を提供する。
(Fe1-x)Pt (1)
(MはMn又はNbである。)
Fe(Pt1-y) (2)
(MはRu、Rh、Os、又はIrのいずれかである。)
特許請求の範囲 【請求項1】
基材層、及び該基材層上に形成された磁気記録層を有し、
前記磁気記録層は所定の規則に従って配列された強磁性部及び常磁性部を備えており、
前記強磁性部は、飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下の強磁性を有する合金を含んでおり、
前記常磁性部は、飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下の常磁性を有する合金を含んでおり、
前記強磁性部に含まれる前記合金の飽和磁化と、前記常磁性部に含まれる前記合金の飽和磁化との差が0.10[Wb/m]以上であり、
前記強磁性部に含まれる前記合金、及び前記常磁性部に含まれる前記合金は、組成が略同一であり、且つ当該組成は下記(1)式又は(2)式で表わされ、
前記強磁性部に含まれる前記合金はL1規則構造を有し、前記常磁性部に含まれる前記合金はA1不規則構造を有する、磁気記録媒体。
(Fe1-x)Pt (1)
(ただし、上記(1)式において、MはMn又はNbであり、xは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
Fe(Pt1-y) (2)
(ただし、上記(2)式において、MはRu、Rh、Os、又はIrのいずれかであり、yは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
【請求項2】
前記強磁性部に含まれる前記合金、及び前記常磁性部に含まれる前記合金の組成が(Fe1-xMn)Ptであり、0.3<x<0.54である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録層が金属酸化物を含む、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記強磁性部に含まれる前記合金を構成する結晶の(001)面が、前記磁気記録層の表面に対して平行であり、[001]方向が、前記磁気記録層の表面に対して垂直方向に向いている、請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
基材層、及び該基材層上に形成された磁気記録層を有し、該磁気記録層が、所定の規則に従って配列された強磁性部及び常磁性部を備えた磁気記録媒体の製造方法であって、
前記基材層上に、L1規則構造を有するとともに組成が下記(1)式又は(2)式で表わされ、且つ飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下の強磁性を有する合金を含む薄膜を形成する、薄膜形成工程と、
前記薄膜の一部に任意のイオンを照射することによって、前記L1規則構造をA1不規則構造へと変態させるとともに飽和磁化を0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下にするイオン照射工程と、を有し、
前記薄膜形成工程で形成された薄膜のうち、前記イオン照射工程でイオンを照射された部分が前記常磁性部となり、前記イオンを照射されない部分が前記強磁性部となる、磁気記録媒体の製造方法。
(Fe1-x)Pt (1)
(ただし、上記(1)式において、MはMn又はNbであり、xは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
Fe(Pt1-y) (2)
(ただし、上記(2)式において、MはRu、Rh、Os、又はIrのいずれかであり、yは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
【請求項6】
前記薄膜形成工程で形成する薄膜に含まれる前記合金の組成が(Fe1-xMn)Ptであり、0.3<x<0.54である、請求項5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記イオン照射工程において用いる前記イオンがMnイオンであり、該Mnイオンの照射量が前記常磁性部となる部分の0.10at%以上2.0at%以下である、請求項6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記薄膜形成工程が、前記(1)式又は(2)式で表わされる組成の合金と、金属酸化物と、を含む薄膜を形成した後、該薄膜を加熱する工程を含む、請求項5乃至7のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれかに記載された磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を回転させる回転軸及びモーターと、前記磁気記録層に対して情報を記録する、及び/又は前記磁気記録層から情報を読み出す、磁気ヘッドと、を備える、磁気記録装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性体と非磁性体とが所定の規則によって配列された磁気記録層を有する磁気記録媒体、該磁気記録媒体の製造方法、及び該磁気記録媒体を備えた磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録装置であるハードディスクドライブは、データを記録可能な磁気記録媒体として円盤状のハードディスクを備えている。また、ハードディスクドライブはハードディスクを高速回転させる回転軸やモーターなどの駆動装置も備えている。この駆動装置によってハードディスクを高速回転させ、そのハードディスク上で磁気ヘッドを移動させることにより、ハードディスクに備えられた磁気記録層に情報を記録したり、磁気記録層から情報を読み出したりすることができる。
【0003】
上記のような磁気記録媒体の記憶容量を増大させるには、磁気記録層の面記録密度を高くすることが考えられる。また、磁気記録層の面記録密度を向上させるには、磁気記録層に備えられた記録ビットを微細化することが考えられる。しかしながら、記録ビットの微細化を進めると、熱エネルギーにより記録ビットを構成する強磁性体の磁化方向が変化し、記録ビットに記録されていた情報が失われてしまう、いわゆる「熱揺らぎ」が問題となる。このような熱揺らぎの影響を抑えるには、熱揺らぎに強い特性を有する材料、すなわち垂直磁気異方性が高い強磁性体材料で記録ビットを構成することが考えられる。
【0004】
面記録密度が数テラビット/平方インチの超高密度磁気記録媒体を実現可能な材料としては、L1規則構造を有するFePt合金が期待されている。L1規則構造を有するFePt合金は熱揺らぎに強い特性を有することから、これを用いて記録ビットを構成した超高密度磁気記録媒体の実現が期待されている。なお、「L1規則構造」とは、fct構造で二種の原子が交互に積層し、且つ該二種の原子の組成比が1:1である構造である。
【0005】
L1規則構造を有するFePt合金による薄膜の作製方法としては、例えば、下記非特許文献1に記載されたものがある。非特許文献1に記載された技術によれば、FePt合金の薄膜にSiOを所定量添加して急速加熱することにより、高[001]配向性と高L1規則度とを有するFePt合金薄膜を得られる。
【0006】
また、FePt合金のFe又はPtの一部を他の元素に置換したFePt系合金(FePt合金、及び、FePt合金のFe又はPtの一部を他の元素に置換した合金を「FePt系合金」という。以下同じ。)についての研究も進められている。下記非特許文献2、3には、FePt合金のFe原子サイトをMnで置換したFeMnPt合金のバルクに関する技術が記載されており、下記非特許文献4にはFeMnPt合金の多結晶薄膜に関する技術が記載されている。
【0007】
一方、超高密度磁気記録媒体を実現するための記録方式としては、ビットパターンドメディア(以下、「BPM」と略記する場合がある。)が注目されている。BPMとは、ナノスケールの強磁性体(ドット)が非磁性体中に所定の規則に従って2次元的に配置された構造を有する磁気記録媒体である。
【0008】
このようなBPMの作製方法としては、いわゆるトップダウン方式が一般的である。すなわち、まず基板上に強磁性体の薄膜を形成し、該薄膜上にマスクを配置して非磁性体を配置させる予定の部分のみ該薄膜をミリングし、マスクを除去してからミリングした箇所に非磁性体を成膜して埋め戻し、その後表面を研磨する方法である。この方法では、ミリングや表面研磨によって強磁性体が受けたダメージを回復する必要があるため、最終的に熱処理を行う必要がある。
【0009】
また、BPMの他の作製方法としては、下記特許文献1に記載されているように、強磁性体又は反強磁性体のいずれか一方によって基板上に薄膜を形成した後、イオン打ち込みや添加元素の拡散によって組成調整することにより、形成された薄膜の所定の領域を強磁性体又は反強磁性体の他方に改質する方法も考えられる。なお、磁性体を改質させる方法としては、下記非特許文献5、6に記載されているように、イオンを照射することによって結晶構造を変化させる方法もある。イオン照射によるBPM作製の試みについては下記非特許文献7~10に記載されている(非特許文献7はCo/Pd多層膜、非特許文献8はCrPt規則合金薄膜、非特許文献9はMnBiCu薄膜、非特許文献10はMnAl薄膜について記載されている。)。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2009-151899号公報
【0011】

【非特許文献1】石尾 俊二、長谷川 崇、外9名、「Journal of Magnetism and Magnetic Materials」、第324巻、第3号、2012年2月、p.295-302
【非特許文献2】A.Z.Menshikov, V.P.Antropov, G.P.Gasnikova, Yu.A.Dorofeyev, V.A.Kazantsev、「Journal of Magnetism and Magnetic Materials」、第65巻、第1号、1987年2月、p.159-166
【非特許文献3】G.P.Gasnikova、A.Z.Menshikov、「The Physics of Metals and Metallography」、第69巻、1990年、p.69
【非特許文献4】長谷川 崇、平成20年度博士学位論文(秋田大学)
【非特許文献5】長谷川 崇、石尾 俊二、外9名、「Journal of Applied Physics」、(米国)、第99巻、第5号、2006年3月、p.053505-1~053505-6
【非特許文献6】長谷川 崇、石尾 俊二、外5名、「Acta Materialia」、第56巻、第7号、2008年1月、p.1564-1569
【非特許文献7】B.D.Terris、外6名、「Journal of Applied Physics」、(米国)、第87巻、第9号、2000年、p.7004
【非特許文献8】T.Kato、外6名、「Journal of Applied Physics」、(米国)、第105巻、第7号、2009年、p.07C117
【非特許文献9】神原、外、「第35回日本磁気学会学術講演会概要集」、2011年、p.330
【非特許文献10】大島、外、「第35回日本磁気学会学術講演会概要集」、2011年、p.329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、BPMのような強磁性体と非磁性体とが所定の規則によって2次元的に配列された磁気記録媒体を作製するには、トップダウン方式が一般的であった。トップダウン方式は、図5に示したようにS21~S27の工程を有する。図5はトップダウン方式による磁気記録媒体の製造方法S20を説明するフロー図である。図6は製造方法S20を説明する断面図である。
【0013】
成膜工程S21は、図6(A)に示したように基板21上に強磁性体の薄膜22’を形成する工程である。成膜工程S21は、例えばL1規則構造を有するFePt合金の薄膜22’を形成する工程である。マスク配置工程S22は、図6(B)に示したように、成膜工程S21で形成した薄膜22’のうち、非強磁性体を配置する予定の箇所のみミリングできるように該薄膜22’上にマスク25を配置する工程である。ミリング工程S23は、図6(C)に示したように、成膜工程S21で形成した薄膜22’のうち、非強磁性体を配置する予定箇所26のみミリングする工程である。ミリング工程S23は、例えばイオンミリング(イオン照射量100at%)により薄膜22’をビットパターン状に微細加工する工程である。マスク除去工程S24は、図6(D)に示したように、マスク配置工程S22で配置したマスク25を除去する工程である。埋め戻し成膜工程S25は、図6(E)に示したように、非強磁性体27を成膜して、ミリング工程S23でミリングした箇所26を非強磁性体27で埋め戻す工程である。表面研磨工程S26は、図6(F)に示したように、工程S21~S25を経て得られた、強磁性体及び非強磁性体を有する薄膜の表面を研磨し、該薄膜の表面を平坦化する工程である。熱処理工程S27は、工程S21~S26を経て得られた薄膜に熱処理を施す工程である。L1規則構造はイオンミリングや表面研磨処理に対して弱いため、熱処理を施してL1規則構造が受けたダメージを回復する必要がある。
【0014】
上記のようにトップダウン方式では熱処理工程S27を行う必要がある。しかしながら、熱処理は必ず原子相互拡散を伴うため、埋め戻し成膜工程S25において成膜された非強磁性体27と薄膜22’を構成するFePt合金とが混合し、最終的には強磁性部の磁気特性を劣化させる虞があった。
また、上記のようなトップダウン方式では、工程数が多くなるため磁気記録媒体の製造コストが高くなりやすく、表面を研磨する工程を含むため製品品質や歩留まりが低下しやすかった。
【0015】
一方、上述したようにトップダウン方式によらずにイオンを照射する等してBPMを作製する方法も考えられてはいたが、このような方法に従来適用されていた磁性材料は、超高密度磁気記録媒体に適用するには磁気異方性が不十分であった。すなわち、トップダウン方式によらない従来のBPMの作製方法では、磁気記録媒体の記録密度を十分に高めることが困難であった。
【0016】
そこで本発明は、容易に製造でき、且つ記録密度を高めることができる磁気記録媒体、該磁気記録媒体の製造方法、及び該磁気記録媒体を備えた磁気記録装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、FePt合金のFe又はPtの一部を所定の元素に所定量置換した合金が、これまでに知られていなかった磁気相変化をすることを知見した。すなわち、FePt合金のFe又はPtの一部を所定の元素に所定量置換した合金は、L1規則構造を有したハード強磁性材料とすることが可能であるとともに、任意のイオンを照射することによってA1不規則構造を有した常磁性材料とすることが可能であることを知見した。本発明は当該知見に基づいてなされたものである。
【0018】
本発明の第1の態様は、基材層、及び該基材層上に形成された磁気記録層を有し、磁気記録層は所定の規則に従って配列された強磁性部及び常磁性部を備えており、強磁性部は、飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下の強磁性を有する合金を含んでおり、常磁性部は、飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下の常磁性を有する合金を含んでおり、強磁性部に含まれる合金の飽和磁化と、常磁性部に含まれる合金の飽和磁化との差が0.10[Wb/m]以上であり、強磁性部に含まれる合金、及び常磁性部に含まれる合金は、組成が略同一であり、且つ当該組成は下記(1)式又は(2)式で表わされ、強磁性部に含まれる合金はL1規則構造を有し、常磁性部に含まれる合金はA1不規則構造を有する、磁気記録媒体である。
(Fe1-x)Pt (1)
(ただし、上記(1)式において、MはMn又はNbであり、xは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
Fe(Pt1-y) (2)
(ただし、上記(2)式において、MはRu、Rh、Os、又はIrのいずれかであり、yは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
【0019】
本発明において「基材層上に形成された磁気記録層を有し」とは、基材層上に直接磁気記録層が積層されている形態に限定されず、他の層を介して基材層および磁気記録層が積層されている形態も含む概念である。また、「所定の規則に従って配列された強磁性部及び常磁性部」の「所定の規則」とは、従来のBPMやディスクリートトラックメディア(以下、「DTM」ということがある。)における強磁性体及び非磁性体の配列規則と同様の規則を意味する。さらに、「強磁性部に含まれる合金、及び常磁性部に含まれる合金は、組成が略同一」とは、強磁性部に含まれる合金の組成と常磁性部に含まれる合金の組成とが厳密に同一であることに限定されず、磁気記録層の作製過程において後述するようにしてイオンを照射した際に、該イオンが残留して強磁性部に含まれる合金の組成と常磁性部に含まれる合金の組成とが僅かに異なる形態も含む概念であり、具体的には97at%以上同一であることを意味する。
【0020】
上記本発明の第1の態様に係る磁気記録媒体は、強磁性部に含まれる合金、及び常磁性部に含まれる合金の組成が(Fe1-xMn)Ptである場合、0.3<x<0.54となる。
【0021】
また、上記本発明の第1の態様に係る磁気記録媒体は、磁気記録層が金属酸化物を含むことが好ましい。
【0022】
また、上記本発明の第1の態様に係る磁気記録媒体は、磁気記録層に含まれる合金を構成する結晶の(001)面が、磁気記録層の表面に対して平行であり、[001]方向が、磁気記録層の表面に対して垂直方向に向いていることが好ましい。
【0023】
本発明の第2の態様は、基材層、及び該基材層上に形成された磁気記録層を有し、該磁気記録層が、所定の規則に従って配列された強磁性部及び常磁性部を備えた磁気記録媒体の製造方法であって、基材層上に、L1規則構造を有するとともに組成が下記(1)式又は(2)式で表わされ、且つ飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下の強磁性を有する合金を含む薄膜を形成する、薄膜形成工程と、該薄膜の一部に任意のイオンを照射することによって、L1規則構造をA1不規則構造へと変態させるとともに飽和磁化を0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下にするイオン照射工程と、を有し、薄膜形成工程で形成された薄膜のうち、イオン照射工程でイオンを照射された部分が常磁性部となり、イオンを照射されない部分が強磁性部となる、磁気記録媒体の製造方法である。
(Fe1-x)Pt (1)
(ただし、上記(1)式において、MはMn又はNbであり、xは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
Fe(Pt1-y) (2)
(ただし、上記(2)式において、MはRu、Rh、Os、又はIrのいずれかであり、yは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
【0024】
上記本発明の第2の態様に係る磁気記録媒体の製造方法は、薄膜形成工程で形成する薄膜に含まれる合金の組成が(Fe1-xMn)Ptである場合、0.3<x<0.54となる。
【0025】
また、上記本発明の第2の態様に係る磁気記録媒体の製造方法は、イオン照射工程において用いるイオンがMnイオンであり、該Mnイオンの照射量が常磁性部となる部分の0.10at%以上2.0at%以下であることが好ましい。
【0026】
また、上記本発明の第2の態様に係る磁気記録媒体の製造方法において、薄膜形成工程は、上記(1)式又は(2)式で表わされる組成の合金と、金属酸化物と、を含む薄膜を形成した後、該薄膜を加熱する工程を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の第3の態様は、上記本発明の第1の態様に係る磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を回転させる回転軸及びモーターと、磁気記録層に対して情報を記録する、及び/又は磁気記録層から情報を読み出す、磁気ヘッドと、を備える、磁気記録装置である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、容易に製造でき、且つ記録密度を高めることができる磁気記録媒体、該磁気記録媒体の製造方法、及び該磁気記録媒体を備えた磁気記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】磁気記録媒体10の一部を概略的に示した斜視図である。
【図2】図1に示したII-IIに沿った断面を概略的に示した図である。
【図3】磁気記録媒体10の製造方法S10を説明するフロー図である。
【図4】磁気記録媒体10の製造方法S10を説明する断面図である。
【図5】トップダウン方式による磁気記録媒体の製造方法S20を説明するフロー図である。
【図6】トップダウン方式による磁気記録媒体の製造方法S20を説明する断面図である。
【図7】FeMnPt合金の組成と飽和磁化との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述したように、本発明者らは、FePt合金のFe又はPtの一部を所定の元素に所定量置換した合金が、これまでに知られていない磁気相変化をすることを知見した。より具体的には、以下の通りである。これまでに、FePt系合金の磁気相変化について様々な研究がなされていた。例えば、(Fe1-xMn)Pt合金のバルクは、室温において、L1規則構造ではx=0.25付近で強磁性相から反強磁性相へと変化することが上記非特許文献2で報告されており、A1不規則構造ではx=0.48付近で強磁性相から常磁性相へと変化することが上記非特許文献3で報告されている。また、(Fe1-xMn)Pt合金の膜厚100nm程度の多結晶薄膜の場合には、L1規則構造ではx>0.60で強磁性相から反強磁性相へと変化し、A1不規則構造ではx>0.60で強磁性相から常磁性相へと変化することが上記非特許文献4で報告されている。ここで、FePt系合金におけるL1規則構造⇔A1不規則構造の結晶変態を考えると、L1強磁性相(L1規則構造の強磁性相。以下、同じ。)とA1常磁性相(A1不規則構造の常磁性相。以下、同じ。)が同一の組成で形成されることは、従来技術であるバルクおよび薄膜のどちらの形態であっても不可能であったことがわかる。

【0031】
本発明者らは、FePt合金のFe又はPtの一部を所定の元素に所定量置換した合金を用いてL1規則度と[001]結晶配向性の良好な薄膜を作製することに成功し、さらに従来の報告とは異なる磁気相図を得た。具体的には、L1規則構造⇔A1不規則構造の結晶変態を考えた場合に、置換する元素の種類及び量を適切に制御し、任意のイオンを照射することによって、同一組成においてL1強磁性相からA1常磁性相へと変態可能であることを知見した。

【0032】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではない。

【0033】
図1は、磁気記録媒体10の一部を概略的に示した斜視図である。また、図2は、図1に示したII-IIに沿った断面を概略的に示した図である。なお、図1及び図2では、見易さのため、同様の構成の部分については一部符号を省略している(以下の他の図についても同じ。)。

【0034】
図1及び図2に示したように、磁気記録媒体10は、ビットパターンドメディア型の磁気記録媒体である。すなわち、磁気記録媒体10は基材層1と該基材層1上に形成された磁気記録層2を備えており、該磁気記録層2には強磁性体で構成された強磁性部3と常磁性体で構成された常磁性部4とが所定の規則によって層面方向に配列されている。

【0035】
基材層1には、公知の磁気記録媒体に使用可能な基板を特に限定することなく用いることができる。基材層1は、例えば、結晶質ガラス基板、表面酸化膜(例えばシリコン酸化膜)を有するシリコン基板、SiC基板、カーボン基板、セラミック基板などで構成することができる。また、基材層1の厚さは特に限定されず、公知の磁気記録媒体と同様とすることができる。基材層1の厚さは、例えば、0.635mm以上1.27mm以下とすることができる。

【0036】
磁気記録層2は、所定の規則に従って配列された強磁性部3及び常磁性部4を備えている。ここで「所定の規則」とは、公知のBPMと同様とすることができる。例えば、平面視(層面の法線方向から見ること。以下、同じ。)において、強磁性部3を四角形として、その一辺を4nm以上15nm以下とすることが好ましい。また、平面視において隣り合う強磁性部3同士の間隔(常磁性部4幅)は、1nm以上10nm以下とすることが好ましい。本発明によれば、後述するように微細なビットパターンを正確に作製することが容易である。ビットパターンを微細にすることによって、磁気記録媒体10の記録密度を高めやすくなる。また、磁気記録層2の厚さは特に限定されず、公知のBPMと同様とすることができる。磁気記録層2の厚さは、4nm以上10nm以下であることが好ましい。

【0037】
強磁性部3は、飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下の強磁性を有する合金を含んで構成されており、常磁性部4は、飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下の常磁性を有する合金を含んで構成されている。また、強磁性部3に含まれる強磁性を有する合金の飽和磁化と常磁性部4に含まれる常磁性を有する合金の飽和磁化との差は、0.10[Wb/m]以上である。なお、強磁性部3に含まれる合金の飽和磁化は0.75[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下であることが好ましく、常磁性部4に含まれる合金の飽和磁化は0[Wb/m]以上0.38[Wb/m]以下であることが好ましく、両者の飽和磁化の差は0.37[Wb/m]以上であることが好ましい。

【0038】
後述するように、磁気記録層2を作製する際、同一組成の薄膜を形成した後、該薄膜の一部において合金の組成は変化させずに結晶構造を変化させることによって、強磁性部3と常磁性部4とに分けられる。すなわち、強磁性部3に含まれる合金、及び常磁性部4に含まれる合金は、組成が略同一である。ここで「組成が略同一」とは、全く同一の組成である場合に限定されず、後述するようにしてイオンを照射して常磁性部4を形成する際等に、強磁性部3を構成する合金の組成と常磁性部4を構成する合金の組成とが僅かに異なる場合も含む概念であり、具体的には97at%以上同一であることを意味する。強磁性部3に含まれる合金、及び常磁性部4に含まれる合金の組成は下記(1)式又は(2)式で表わされる。
(Fe1-x)Pt (1)
(ただし、上記(1)式において、MはMn又はNbであり、xは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)
Fe(Pt1-y) (2)
(ただし、上記(2)式において、MはRu、Rh、Os、又はIrのいずれかであり、yは、L1規則構造での飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下となり、A1不規則構造での飽和磁化が0[Wb/m]以上0.88[Wb/m]以下となり、両者の飽和磁化の差が0.10[Wb/m]以上となる値である。)

【0039】
上記(1)式を満たす合金として、例えばMがMnである場合、xは、0.3<x<0.54であり、好ましくは0.5<x<0.54であり、最も好ましくはxが約0.52である。

【0040】
磁気記録層2を作製する際、同一組成の薄膜を形成した後、該薄膜の一部において合金の組成は変化させずに結晶構造を変化させることによって、強磁性部3と常磁性部4とに分けられる。このとき、具体的には、L1規則構造を有するFePt系合金の薄膜を形成した後、該薄膜の一部においてL1規則構造をA1不規則構造へと変化させ、結晶構造を変化させない部分が強磁性部3となり、A1不規則構造へと変化させた部分が常磁性部4となる。磁気記録媒体10を記録密度が高い磁気記録媒体とする観点からは、強磁性部3に含まれる合金の磁気異方性を高めることが好ましい。そのためには上記L1規則構造を有するFePt系合金の薄膜に高[001]配向性と高L1規則度とを備えさせることが好ましい。すなわち、強磁性部3に含まれるFePt系合金を構成する結晶の(001)面が、磁気記録層2の表面に対して平行であり、[001]方向が、磁気記録層2の表面に対して垂直方向に向いていることが好ましい。上記のように高[001]配向性と高L1規則度とを実現するためには、特定の金属酸化物を所定量添加することが好ましい。当該酸化物の種類や添加量については、磁気記録媒体10の製造方法を説明する際に説明する。

【0041】
これまでに説明したように、強磁性部3は高い磁気異方性を有する合金で構成される。したがって、磁気記録層2の記録密度を高めやすい。また、磁気記録層2は、組成が同一の薄膜を形成した後に該薄膜の一部にイオンを照射して結晶構造を変化させることによって作製できる。よって、微細なビットパターンの形成が容易であり、磁気記録層2の記録密度を高めやすい。また、磁気記録層2を作製する際には最終的に表面を研磨したり加熱したりする必要がない。したがって、上述した従来のトップダウン方式で製造される磁気記録媒体に比べて磁気記録媒体10は容易に製造可能であり、製品品質および歩留まりを向上させやすくなるので、製造コストを下げることも容易である。

【0042】
なお、図1及び図2には、基材層1及び磁気記録層2のみ示してその他の層を省略しているが、磁気記録媒体10には通常の磁気記録媒体に備えられる他の層が備えられていてもよい。当該他の層としては、例えば、基材層1と磁気記録層2と間に備えられる下地層や、磁気記録層2上に形成される保護層や、磁気記録媒体10の最表面に形成される潤滑剤層等が挙げられる。下地層は、例えば軟磁性を示すNiFeの薄膜によって構成することができる。保護層は、例えばDLC(ダイヤモンドライクカーボン)や水素化カーボン等の薄膜によって構成することができる。潤滑剤層は、例えばフルオロカーボン樹脂等の薄膜によって構成することができる。

【0043】
これまでに説明した磁気記録媒体10は、以下に説明するようにして製造することができる。図3は磁気記録媒体10の製造方法S10を説明するフロー図である。また、図4は磁気記録媒体10の製造方法を説明する断面図である。

【0044】
図3に示したように、製造方法S10は成膜工程S1、マスク配置工程S2、イオン照射工程S3、及びマスク除去工程S4を有している。以下、これらの工程について説明する。

【0045】
成膜工程S1は、図4(A)に示したように、基材層1に用いる基板を用意し、該基板上に磁気記録層2の前駆体となる前駆体層2’を成膜する工程である。前駆体層2’は、L1規則構造を有するとともに組成が上記(1)式又は(2)式で表わされ、且つ飽和磁化が0.37[Wb/m]以上1.38[Wb/m]以下の強磁性を有する合金を含む薄膜である。後のイオン照射工程S3において、前駆体層2’のうちイオンが照射された部分は常磁性部4となり、イオンが照射されなかった部分は強磁性部3となる。よって、前駆体層2’は、強磁性部3に適した材料で構成される。例えば、前駆体層2’は、高[001]配向性と高L1規則度とを備えた合金を含むことが好ましい。すなわち、前駆体層2’に含まれる合金を構成する結晶の(001)面が、前駆体層2’の表面に対して平行であり、[001]方向が、前駆体層2’の表面に対して垂直方向に向いていることが好ましい。FePt系合金の薄膜において高[001]配向性と高L1規則度とを備えさせるためには、FePt系合金に特定の金属酸化物を所定量添加して成膜した後、加熱処理を施すことが好ましい。すなわち、成膜工程S1は、基材層1上にFePt系合金と、後に説明する金属酸化物とを含有した薄膜を成膜した後、該薄膜を加熱する工程とすることが好ましい。

【0046】
FePt系合金と金属酸化物とを含有した前駆体層2’を基材層1上に形成する方法は特に限定されない。例えば、FePt系合金を構成する金属及び金属酸化物をそれぞれターゲットとして同時スパッタリング成膜する方法が考えられる。FePt系合金を構成する金属にかえてFePt系合金をターゲットとしてスパッタリング成膜することもできる。あらかじめFePt系合金に金属酸化物を混合した材料をターゲットとしてスパッタリング成膜してもよい。なお、FePt系合金をターゲットとしてスパッタリング成膜する場合は、FePt系合金の組成比を固定することが容易である。

【0047】
成膜工程S1で得られる前駆体層2’中の(Fe1-x)とPtとの含有比率、又は、Feと(Pt1-y)との含有比率は、40~60:60~40程度であることが好ましい。当該含有比率を上記範囲とすることによって、FePt系合金のL1規則度を高めやすくなる。

【0048】
本発明者らは、FePt系合金に特定の金属酸化物を添加するとともに急速加熱することによって、高[001]配向性と高L1規則度とを有する薄膜が得られることを見出している。室温でスパッタ成膜したFePt系合金の膜は、fcc微細結晶の集合体である。このFePt系合金膜を数百℃に加熱すると、該膜が再結晶化し、粒成長を起こす。fcc相は準安定相であり、L1相は熱平衡相であるため、原子拡散が十分に起これば、この再結晶化過程において、fcc相からL1相に変態する。さらに再結晶化過程において、微結晶粒子間に膜面内方向に引っ張り応力が作用すると、歪みを緩和するために、L1相は膜面垂直方向に[001]配向する。この引っ張り応力は時間の経過とともに次第に緩和されるが、急速加熱熱処理によって引っ張り応力が緩和しない間に再結晶化プロセスを進行させれば、高[001]配向性と高L1規則度とを有するFePt系合金薄膜を形成できる。

【0049】
ところで、金属酸化物をスパッタ成膜すると、スパッタによって乖離した金属原子、酸素原子、酸化物分子が基板上に飛来する。このとき、基板を室温として金属酸化物とFePt系合金とを同時にスパッタで成膜すれば、形成された薄膜は金属原子、酸素原子、金属酸化物分子、及びFePt系合金の混合物になる。この薄膜を加熱すると、金属原子は母相のFePt系合金中を移動し、酸素原子と再結合して酸化物を形成する。もしもスパッタ時に添加された金属原子の拡散係数が低温で十分大きければ、低温でも該金属原子はFePt系合金中を移動しやすくなるため、低温で再結晶化過程が誘起される。また、再結合した酸化物は、上述したように、加熱時の薄膜の結晶成長過程を制御することによって高[001]配向性を有する膜の形成を促進する。しかしながら、添加する金属原子の酸化物生成自由エネルギーがFeの酸化物生成自由エネルギーよりも高ければ、Fe酸化物が形成され、添加した金属原子がFePt系合金中に固溶もしくは粒界析出する。そのため、L1構造を有するFePt系合金の特性が劣化する。一方、酸化物生成自由エネルギーが低く、酸化物の安定性が高すぎると、スパッタ時の金属原子の乖離が十分に起こらず、拡散を促進することができない。このような観点から、添加する金属酸化物を構成する金属は、室温での酸化物生成自由エネルギーΔG°が-850kJ/mol以上、-500kJ/mol以下であることが好ましい。

【0050】
上記酸化物生成自由エネルギーの範囲を満足する金属酸化物としては、SiO、ZnO、NaO等を挙げられる。なお、これらの酸化物の中で使いやすさや安全性の観点からは、SiO、ZnOが好ましい。

【0051】
また、本発明に用いることができる所定の金属酸化物を構成する金属は、100℃以上500℃以下の融点を持つ金属であることが好ましい。磁気記録媒体としての実用化を考慮すれば、100℃以上500℃以下程度の低温度でL1規則化を進行させるとともに、高[001]配向性を達成することが望ましいからである。合金の拡散係数は、該合金を構成する元素の拡散係数の和によって与えられるが、最も大きな拡散係数を持つ元素が拡散過程を支配する。金属元素の拡散係数は、概ね融点で概算することができる。Fe、Ptの融点は1500℃以上であり、室温近傍での拡散係数は低い。したがって、100℃以上500℃以下程度の温度で拡散を起こすためには、100℃以上500℃以下の融点を持つ物質を添加することが必要である。

【0052】
SiO、ZnO及びNaOのうち、上記融点の範囲を満足する金属酸化物としては、ZnOが挙げられる。

【0053】
金属酸化物の添加量は、FePt系合金と添加する金属酸化物の合計量に対して、2.5体積%以上12.5体積%以下であることが好ましい。金属酸化物の添加量が少なすぎても多すぎても、加熱処理した後に得られるFePt系合金の[001]配向性が低く、磁気異方性が劣る傾向にある。

【0054】
上記のようにして成膜した後、加熱処理を行う。加熱処理を行うことによって、前駆体層2’に高[001]配向性、および高L1規則度を備えさせることができる。当該加熱処理における昇温速度は30℃/秒以上であることが好ましく、100℃/秒以上であることがより好ましい。昇温速度を速くすると、FePt系合金が高[001]配向性、および高L1規則度を有するようになり、磁気異方性が向上する。また、加熱温度は、400℃以上500℃以下であることが好ましい。この温度が低すぎればFePt系合金の[001]配向性が低下する傾向にあり、高すぎれば生産性の観点から好ましくない。

【0055】
次にマスク配置工程S2について説明する。マスク配置工程S2は、図4(B)に示したように、後のイオン照射工程S3において、イオンが照射される部分、すなわち常磁性部4とされる部分以外にイオンが照射されないように、マスク5を配置する工程である。マスク5を構成する材料は、イオン照射工程S3において照射するイオンを透過させず、且つイオン照射工程S3の環境に耐えうるものであれば特に限定されない。マスク5を構成する材料の具体例としては、ZEP520A(日本ゼオン株式会社製、電子ビーム用レジスト)やナノインプリント用の樹脂等の有機物が挙げられる。

【0056】
次にイオン照射工程S3について説明する。イオン照射工程S3は、成膜工程S1で形成した前駆体層2’に任意のイオンを照射する工程である。本発明者らは、これまでの研究によって数keVに加速された任意のイオンを、L1規則構造を有する薄膜に対して0.10~1.0at%程度照射することで、A1不規則構造へと変態させることが可能であることを知見した(非特許文献5、6参照。)。また、本発明者らは、上述したように、所定のFePt系合金では結晶構造を変化させることによって飽和磁化が大幅に変化することを知見した。イオン照射工程S3において前駆体層2’の一部にイオンを照射することによって、イオンが照射された部分はL1規則構造からA1不規則構造となり、常磁性部4となる。一方、前駆体層2’のうちイオンが照射されなかったマスク5の下部はL1規則構造を維持して強磁性を維持し、強磁性部3となる。

【0057】
イオン照射工程S3で用いるイオンは前駆体層2’を構成する合金の結晶構造をL1規則構造からA1不規則構造へと変態させることができる一定以上のエネルギーを有していれば良く、イオン種は特に限定されない。イオンの照射量は、前駆体層2’のうちイオンが照射される部分、すなわち常磁性部4となる部分の0.10at%以上2.0at%以下であることが好ましい。0.10at%以上とすることによって、L1規則構造をA1不規則構造へと変態させやすくなり、2.0at%以下とすることによって、膜表面に大きな凹凸が形成されることを抑制できる。また、照射するイオン種の具体例としては、Mn、B、Cr、Ga、Nb、Fe、Pt等のイオンが挙げられる。ただし、前駆体層2’を構成する合金の組成が(Fe1-xMn)Ptの場合、照射するイオン種としてはMnイオンを用いることが好ましい。Mnイオンを用いることによって、常磁性部4のMnイオンの濃度を上昇させて飽和磁化を減少させやすくなる。

【0058】
イオン照射工程S3で照射するイオンの量は少量であるため、イオン照射工程S3でのイオン照射によって磁気記録層2の表面に凹凸ができたとしても、その大きさは磁気記録媒体として用いる際に無視できる程度のものである。

【0059】
次にマスク除去工程S4について説明する。マスク除去工程S4は、マスク配置工程S2で配置したマスク5を除去する工程である。マスク5を除去する方法は、マスク5を構成する材料等に応じて適宜選択可能である。例えば、90℃以上に保持した有機物(ジメチルスルホキシド)中で超音波洗浄を行う方法などがある。マスク除去工程S4においてマスク5を除去することによって、図4(D)に示したように、磁気記録媒体10を得ることができる。

【0060】
なお、上述したように磁気記録媒体10は従来の磁気記録媒体と同様に基材層1及び磁気記録層2以外にさらに他の層を備えていてもよい。磁気記録媒体10がこのような他の層を有する場合は、製造方法S10がこれらの他の層を形成する工程をさらに有することは言うまでもない。これらの他の層を形成する方法は特に限定されず、従来の磁気記録媒体の製造方法と同様に行うことができ、例えばプラズマ気相成長法等で成膜することができる。

【0061】
これまでの説明では、本発明がBPMに適用される形態を例示して説明したが、本発明は所定の規則に従って配列された強磁性部及び常磁性部を備えた磁気記録層を有する磁気記録媒体、およびその製造方法に適用可能である。すなわち、本発明はDTMにも適用可能である。

【0062】
上述した本発明の磁気記録媒体は、該磁気記録媒体を回転させる回転軸及びモーターや磁気記録層に対して情報を記録する、及び/又は磁気記録層から情報を読み出す、磁気ヘッド等、公知の磁気記録装置に備えられる部品と組み合わせて磁気記録装置とすることができる。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、ここで用いる「%」は、特に断らない限り、磁気記録層(薄膜)全体に対する体積%を意味する。
【実施例】
【0064】
合金膜作製用マグネトロンスパッタ装置(SPM-406)を用い、Fe、Pt、Mn及びSiOをそれぞれターゲットとして、熱酸化Si基板(Si基板の表面がSiOの酸化膜で覆われている基板)上に、(Fe1-xMn)Pt合金にSiOが10vol%添加された、A1不規則構造を有する(Fe1-xMn)Pt合金の薄膜を成膜した。成膜条件は、0.5PaのArガス下、且つ室温であった。
【実施例】
【0065】
次に、上記と同様にしてA1不規則構造を有する(Fe1-xMn)Pt合金の薄膜を用意し、高速真空熱処理装置(RTA)を用いて、真空中で上記薄膜に熱処理を施した。熱処理条件は、昇温速度が100℃/秒、到達温度が700℃、到達温度での保持時間が10分間であった。その後、真空中で自然冷却することによって、L1規則構造を有する(Fe1-xMn)Pt合金の薄膜を得た。当該薄膜の膜厚は6.12nmであった。
【実施例】
【0066】
上記のようにして作製したA1不規則構造を有する(Fe1-xMn)Pt合金の薄膜、及び、L1規則構造を有する(Fe1-xMn)Pt合金の薄膜について、xの値と飽和磁化との関係を図7に示した。図7に示したように、x=0.52の場合において、飽和磁化が結晶構造に依存して大きく異なっていることがわかる。この特性を利用し、BPMを製造した。詳しくは以下の通りである。
【実施例】
【0067】
上述したようにして(Fe0.48Mn0.52)Pt合金薄膜を作製し、該薄膜上に微細加工マスクを配置して、30keVに加速されたGaイオンを上記薄膜に0.1at%照射してビットパターンを転写した。このとき、マスクで覆われた領域はL1強磁性相を保持し、マスクで覆われていない領域はイオンが照射されてA1常磁性相へと変態した。その後、マスクを除去して、BPMを完成させた。
【実施例】
【0068】
このように本発明によれば、記録密度を高めることが容易な磁気記録媒体を容易に製造することができた。
【符号の説明】
【0069】
1 基材層
2 磁気記録層
2’ 前駆体層
3 強磁性部
4 常磁性部
5 マスク
10 磁気記録媒体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6