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明細書 :藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法、藻類の培養方法、および藻類用培地

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5747360号 (P5747360)
登録日 平成27年5月22日(2015.5.22)
発行日 平成27年7月15日(2015.7.15)
発明の名称または考案の名称 藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法、藻類の培養方法、および藻類用培地
国際特許分類 C12P   1/00        (2006.01)
C12N   1/12        (2006.01)
FI C12P 1/00 Z
C12N 1/12 A
C12N 1/12 B
請求項の数または発明の数 4
全頁数 16
出願番号 特願2014-143614 (P2014-143614)
出願日 平成26年7月11日(2014.7.11)
審査請求日 平成26年8月21日(2014.8.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】相田 卓
【氏名】スミス リチャード リー ジュニア
【氏名】田辺 雄彦
【氏名】鈴木 石根
【氏名】小出 昌弘
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100095359、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 篤
【識別番号】100143834、【弁理士】、【氏名又は名称】楠 修二
審査官 【審査官】北田 祐介
参考文献・文献 特開2011-229439(JP,A)
国際公開第2013/176261(WO,A1)
調査した分野 C12P 1/00
C12N 1/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
要約 【課題】藻類の脂質抽出残渣から栄養分を回収することができる藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法、ならびに、回収した栄養分を利用した藻類の培養方法、藻類用培地および藻類培養システムを提供する。
【解決手段】藻類から脂質を抽出した後の脂質抽出残渣に対して熱水処理を行い、その処理物から液体成分の一部または全部を回収する。回収された液体成分を使用して、藻類の培養を行う。熱水処理は、150℃乃至350℃で10分乃至90分間行うことが好ましい。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
オーランチオキトリウムから脂質を抽出した後の脂質抽出残渣に対して、180℃乃至230℃で10分乃至80分間の熱水処理を行い、その処理物から液体成分の一部または全部を回収することを特徴とする藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法。
【請求項2】
請求項1記載の藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた前記液体成分を使用して、藻類の培養を行うことを特徴とする藻類の培養方法。
【請求項3】
請求項1記載の藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた前記液体成分を使用して、オーランチオキトリウムを培養することを特徴とする藻類の培養方法。
【請求項4】
請求項1記載の藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた前記液体成分を含むことを特徴とする藻類用培地。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法、藻類の培養方法、および藻類用培地に関する。

【背景技術】
【0002】
近年、石油などの化石資源の枯渇への懸念から、化石資源に替わるものとして再生可能エネルギーの研究開発が盛んに行われている。その中でも、石油の起源の一つとされる微細藻類は、食糧と競合せず、バイオ燃料と成り得る多くの脂質を蓄えることから、石油資源の代替となる持続可能なバイオマス資源として期待されており、藻類に蓄えられた脂質を抽出するための方法が開発されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0003】
従来、バイオマスからタンパク質やアミノ酸などの栄養分を回収し、その栄養分を利用する方法として、例えば、脱脂米ぬかを含む溶液を100~220℃で5~30分熱水処理することにより、脱脂米ぬか中のタンパク質やアミノ酸を抽出し、それらを栄養源として酵母を培養する方法(例えば、非特許文献1参照)や、酵母細胞を100~250℃で5~30分熱水処理することにより、酵母細胞中のタンパク質やアミノ酸を抽出する方法(例えば、非特許文献2参照)、藻類(クロレラ)を300~350℃の熱水で処理することにより窒素源を抽出し、その窒素源をリサイクルする方法(例えば、非特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2010-246407号公報
【特許文献2】特開2013-70688号公報
【特許文献3】特開2014-510165号公報
【0005】

【非特許文献1】I. Sereewatthanawut, S. Prapintip, K. Watchiraruji, M. Goto, M. Sasaki, A. Shotipruk, “Extraction of protein and amino acids from deoiled rice bran by subcritical water hydrolysis”, Bioresource Technology, 2008, 99, p.555-561
【非特許文献2】W. Lamoolphak, M. Goto, M. Sasaki, M. Suphantharika, C. Muangnapoh, C. Prommuag, et al., “Hydrothermal decomposition of yeast cells for production of proteins and amino acids”, Journal of Hazardous Materials, 2006, B137 , p.1643-1648
【非特許文献3】P. Biller, A.B. Ross, S.C. Skill, A. Lea-Langton, B. Balasundaram, C. Hall, R. Riley, C.A. Llewellyn, “Nutrient recycling of aqueous phase for microalgae cultivation from the hydrothermal liquefaction process”, Algal Research, 2012, 1, p.70-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バイオマス資源の一つである微細藻類から脂質を抽出した後の残渣には、タンパク質やアミノ酸、リンなどの栄養分が含まれているが、これらの栄養分を回収し、回収した栄養分を利用する技術は、未だ開発されていない。
【0007】
例えば、非特許文献1に記載の方法は、栄養分を回収するバイオマスとして、米ぬかの脂質抽出残渣である脱脂米ぬかを使用しており、藻類の脂質抽出残渣を使用したものではない。また、非特許文献2および3に記載の方法は、栄養分を回収するバイオマスとして、脂質を抽出していない酵母や藻類を使用しており、藻類の脂質抽出残渣を使用したものではない。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、藻類の脂質抽出残渣から栄養分を回収することができる藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法、ならびに、回収した栄養分を利用した藻類の培養方法および藻類用培地を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0009】
微細藻類の培養には、糖などの炭素源、アミノ酸やタンパク質などの窒素源、およびリンなどの栄養源が必要であり、継続的な培養には、これらの安定的かつ多量の供給が重要となる。そこで、本発明者等は、脂質を抽出した後の藻類の残渣から栄養分を回収し、その栄養分を、藻類を培養するための栄養源としてリサイクルする循環型培養システムを検討している。本発明者等は、固体である藻類脂質抽出残渣を培養の栄養源として利用するためには、藻類脂質抽出残渣に含まれる栄養分を水に可溶化する必要があると考え、水は熱水条件下においてイオン積が増大するため、無触媒条件下で加水分解反応が可能となることに着目して、可溶化技術として熱水処理を採用することにより本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法は、オーランチオキトリウムから脂質を抽出した後の脂質抽出残渣に対して、180℃乃至230℃で10分乃至80分間の熱水処理を行い、その処理物から液体成分の一部または全部を回収することを特徴とする。

【0011】
本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法は、藻類脂質抽出残渣に対して熱水処理を行うことにより、藻類脂質抽出残渣に含まれるタンパク質やアミノ酸や窒素やリンなどの栄養分を、処理物の液体成分中に可溶化することができる。このため、この液体成分の一部または全部を回収することにより、それらの栄養分を利用することができる。得られた栄養分は、例えば藻類の培養の栄養源としてリサイクルすることができ、循環型の培養システムを構築することができる。なお、液体成分を回収するためには、例えば、ろ過などの固液分離手段を用いてもよい。この場合、処理物から固体成分と液体成分とを分離して、液体成分を回収することができる。
【0012】
本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法で、オーランチオキトリウムは、他の微細藻類と比較して増殖速度が速く、脂質生産性が高いため、特に脂質の抽出効率および栄養分の回収効率が高い。

【0013】
本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法は、特に藻類の培養に適した栄養分を、効率良く回収することができる。

【0014】
本発明に係る藻類の培養方法は、本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた前記液体成分を使用して、藻類の培養を行うことを特徴とする。
本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた液体成分中には、タンパク質やアミノ酸や窒素やリンなどの栄養分が含まれているため、本発明に係る藻類の培養方法により、その液体成分を使用して藻類を培養することができる。
【0015】
本発明に係る藻類の培養方法で、前記培養を行う藻類は、前記熱水処理を行った藻類と同属のものから成ることが好ましい。この場合、異なる属の藻類を培養するよりも、効率良く増殖させることができる。特に、本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により、オーランチオキトリウムの脂質抽出残渣を利用して得られた前記液体成分を使用して、オーランチオキトリウムを培養することが好ましい。
【0016】
本発明に係る藻類用培地は、本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた前記液体成分を含むことを特徴とする。
本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた液体成分中には、タンパク質やアミノ酸や窒素やリンなどの栄養分が含まれているため、その液体成分を含む本発明に係る藻類用培地は、藻類の培養に適している。
【0017】
本発明に関する藻類培養システムは、本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた前記液体成分を使用して、藻類を培養可能に設けられていることを特徴とする。
本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法により得られた液体成分中には、タンパク質やアミノ酸や窒素やリンなどの栄養分が含まれているため、本発明に関する藻類培養システムにより、その液体成分を使用して藻類を培養することができる。

【0018】
本発明に関する藻類培養システムは、藻類から脂質を抽出した後の脂質抽出残渣に対して熱水処理を行う熱水処理手段と、前記熱水処理手段の処理物から液体成分の一部または全部を回収する回収手段と、前記回収手段で得られた前記液体成分を使用して、藻類を培養可能に設けられた培養手段とを、有していてもよい。この場合、本発明に係る藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法および本発明に係る藻類の培養方法を実施することができる。培養手段により脂質を抽出する藻類を培養することにより、循環型の培養システムを構築することができる。

【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、藻類の脂質抽出残渣から栄養分を回収することができる藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法、ならびに、回収した栄養分を利用した藻類の培養方法および藻類用培地を提供することができる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法を示す説明図である。
【図2】図1に示す藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法による水可溶物収率の、熱水処理の反応温度および反応時間依存性を示すグラフである。
【図3】図1に示す藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法による水可溶物中のタンパク質収率(図中の実線)およびアミノ酸収率(図中の破線)の、(a)熱水処理の反応温度が150℃および175℃、(b)200℃、(c)250℃および350℃のときの、反応時間依存性を示すグラフである。
【図4】図1に示す藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法による水可溶物中の形態別窒素収率の、熱水処理の反応温度毎の反応時間依存性を示すグラフである。
【図5】図1に示す藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法による水可溶物中の全リン・リン酸収率の、熱水処理の反応温度毎の反応時間依存性を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の藻類の培養方法による、Aurantiochytrium SR21株の脂質抽出残渣を熱水処理して得られた水可溶物を含む培地(200_10培地、250_60培地)を用いて、Aurantiochytrium SR21株の培養を行ったときの、培養日数による濁度(OD660)の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の藻類の培養方法による、Aurantiochytrium SR21株の脂質抽出残渣を熱水処理して得られた水可溶物を含む培地(150_10培地、150_30培地、150_60培地、200_30培地、200_60培地)を用いて、Aurantiochytrium SR21株の培養を行ったときの、培養日数による濁度(OD660)の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態の藻類の培養方法による、Aurantiochytrium SR21株の脂質抽出残渣を熱水処理して得られた水可溶物を含む培地(200_120培地、250_10培地、250_30培地、250_60培地)を用いて、Aurantiochytrium SR21株の培養を行ったときの、培養日数による濁度(OD660)の変化を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態の藻類の培養方法による、Aurantiochytrium SR21株の脂質抽出残渣を熱水処理して得られた水可溶物を含む培地(200_10培地)を用いて、Aurantiochytrium sp.9w-5a株の培養を行ったときの、培養日数による濁度(OD660)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、藻類脂質抽出残渣の熱水処理実験および藻類の培養実験の実験結果に基づいて、本発明の実施の形態の藻類脂質抽出残渣の栄養分回収方法、藻類の培養方法および藻類用培地の構成、作用効果について説明する。


【0022】
[藻類脂質抽出残渣の熱水処理実験]
様々な反応温度および反応時間で藻類脂質抽出残渣の熱水処理を行い、反応温度および反応時間が、抽出される液体成分の収率や液体成分中の栄養分の収率に与える影響について検討を行った。藻類として、Aurantiochytrium SR21株を用い、このSR21株から有機溶媒を用いたFolch法により脂質を抽出して、実験に用いる藻類脂質抽出残渣を作製した。脂質抽出前のSR21株の元素組成を表1(a)に、脂質抽出後のSR21株の元素組成を表1(b)に、脂質抽出残渣の化学組成を表2に示す。なお、表2中のタンパク質組成は、表1(b)中の窒素の割合に、窒素タンパク質換算係数の4.78を乗ずることにより算出した。

【0023】
【表1】
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【0024】
【表2】
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【0025】
作製した脂質抽出残渣を用いて熱水処理を行った。図1に示すように、脂質抽出残渣試料0.3gと水2.7gとをSUS316製の回分式反応器(内容積6cm)1に仕込み、回分式反応器1の内部をArでパージした。反応温度に設定した流動砂浴(サンドバス)2に回分式反応器1を投入することで反応開始とし、所定の反応時間経過後、回分式反応器1を取り出して水浴で冷却することで反応を停止させた。実験では、反応温度を150℃、175℃、200℃、250℃、350℃の5通り、反応時間を10分、30分、60分、90分の4通りとした。

【0026】
熱水処理による反応後、図1に示すように、回分式反応器1の内容物を水で回収し、減圧ろ過することにより、液体成分の水可溶物(WS)3と水不溶物4とに分離した。さらに水不溶物4をアセトン洗浄・ろ過することにより、アセトン可溶物(オイル)5および熱水残渣6に分画した。水可溶物3の収率、水可溶物3中のタンパク質収率・アミノ酸収率、形態別窒素収率、全リン・リン酸収率をそれぞれ図2~図5に示す。アミノ酸はニンヒドリン法、タンパク質はLowry法にて窒素基準で評価し、全リンおよびリン酸はペルオキソ二硫酸カリウム分解法およびモリブデン青吸光光度法にてリン基準で評価している。なお、実験は各実験条件で3回ずつ行っており、その平均値を各実験条件での値としている。また、各収率は、以下の式で定義したものである。

【0027】
【数1】
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【0028】
図2に示すように、WSの収率は、200℃、30分で最大の約90%となった。WSの収率は、全ての反応時間において200℃で極大となり、さらに反応温度を増大させると減少した。また、WSの収率は、200℃以下の反応温度では、反応時間の増大にともない増加したが、250~350℃では、30分において極大を示し、さらに反応時間が増大すると減少した。これは、250~350℃では、WSからのガスやオイルの生成が進行するためと考えられる。

【0029】
図3に示すように、タンパク質収率は、200℃、30分で最大の約44%となった。タンパク質収率は、反応時間増大にともない、150~175℃では増加傾向を示し、200℃では30分で極大となり、250~350℃では減少した。これは,反応温度の増大により脂質抽出残渣からのタンパク質の可溶化が促進される一方で、200℃以上でタンパク質のアミノ酸への加水分解が促進されたためと考えられる。

【0030】
また、図3に示すように、アミノ酸収率は、250℃、90分で最大の約13%となった。アミノ酸収率は、反応時間増大にともない、150~250℃では増加し、350℃では減少した。これは、図3および図4の結果から、アミノ酸収率は、250℃までは、反応温度の増大によりタンパク質の加水分解によるアミノ酸生成が促進されるため増加し、350℃以上になると、反応時間の増大とともにアミノ酸のアンモニアなどへの分解が進行するため減少したものと考えられる。

【0031】
図5に示すように、全リンおよびリン酸収率は、250℃、10分で、それぞれ最大の約99%および約93%となった。150~200℃では、全リン収率は反応時間依存を示さなかったが、リン酸収率は反応時間増大にともない増加傾向を示した。250~350℃では、全リン収率およびリン酸収率は反応時間の増大とともに減少傾向を示した。これは、反応温度が250℃以上では、二次反応によりリン酸がオイルや熱水残渣となるためであると考えられる。

【0032】
[藻類の培養実験]
Aurantiochytrium SR21株の脂質抽出残渣を熱水処理して得られた液体成分の水可溶物(WS)を利用して、藻類の培養実験を行った。実験に使用する試料は、以下のようにして作製した。まず、試料1~10として、表2に示す脂質抽出残渣を用いた。この脂質抽出残渣試料3gと水97gとをSUS316製の回分式反応器(スウエージロック Co.製「316L-HDF4-150」、内容積150cm)に仕込み、図1に示す方法で熱水処理を行い、水可溶物(WS)を抽出した。培養実験には、熱水処理の反応温度が150℃、200℃、および250℃、反応時間が10分、30分、60分、および120分のWSを使用した。また、試料11および12として、上記の熱水処理実験で得られたWSのうち、熱水処理の反応温度200℃、反応時間10分、および反応温度250℃、反応時間60分のものを培養実験に用いた。使用したWSの熱水処理条件、ならびにリン酸態リン収率、窒素収率、リン酸態リン濃度および全窒素濃度を表3に示す。

【0033】
【表3】
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【0034】
実験に用いる培地を調製するために、GTY培地を用いた。GTY培地は、Aurantiochytrium の標準的な培養に用いられており、50%の(人工)海水、2%のグルコース、1%のトリプトン(プロテオースペプトン)および0.5%の酵母エキスを混合して調製されている。GTY培地では、これらの構成成分の内、トリプトンおよび酵母エキスが培地の窒素およびリン源となっている。実験には、GTY培地の中のトリプトンおよび酵母エキスの代替として、表3に示すWSを添加して調製した培地を用いた。なお、反応温度が150℃のWSは、熱水処理後の回収時からさらに2.3倍に希釈したものを、反応温度が200℃および250℃のWSは、熱水処理後の回収時からさらに3倍に希釈したものを調製に用いた。調製した各培地の構成成分および組成を、それぞれ表4および表5に示す。なお、試料1~10のWSを用いた培地については、表5中のアミノ態窒素濃度(Amino-N)の測定を行っていない。

【0035】
【表4】
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【0036】
【表5】
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【0037】
なお、表4および表5に示すように、比較のため、通常の組成通り調製したGTY培地(control)、および、全窒素濃度がWSを使用した各培地と同程度になるよう、トリプトンを加えず、所定量の酵母エキスのみを加えた培地(GTY2)を調製して、同様の実験を行った。

【0038】
各培地を用いてAurantiochytrium SR21株の培養を行った。培養するAurantiochytrium SR21株は、あらかじめGTY培地で3日間の前培養を行ったものを使用した。また、培養は、300μリットルの培養液を各培地に接種し、大型振とう培養機(タイテック社製「BR-180LF」)を用いて、103rpmで振とう培養を行った。培養時の温度は25℃である。実験では、培養開始から24時間毎に、660nmの波長の光を用いて、分光光度計(Eppendorf社製「BioSpectrometer」)にて濁度(OD660)を測定し、増殖性の評価を行った。なお、培養開始から48時間後、72時間後の培養液は5倍希釈、96時間後の培養液は10倍希釈して、測定を行った。実験結果を、図6~図8に示す。

【0039】
図6~図8に示すように、GTY培地と比べると増殖性は劣るものの、WSを用いたいずれの培地でも、Aurantiochytrium SR21株を培養できることが確認された。特に、熱水処理の反応温度が200℃、反応時間が10~60分のもの(200_10培地、200_30培地、200-60培地、200_10_2培地)の増殖性が高いことが確認された。最も増殖性が高い反応温度200℃、反応時間60分の培地(200-60培地)で、乾燥重量換算で、GTY培地の38%のバイオマスが得られた。図6に示すように、GTY培地とGTY2培地の増殖性がほぼ同じであることから、WSを用いた各培地は、リン酸が不足しているため(表5参照)、または、WS中に細胞の増殖を阻害する化合物が存在するために、GTY培地より増殖性が劣っているものと考えられる。

【0040】
なお、反応温度が150℃のもの(150_10培地、150_30培地、150-60培地)は、反応温度が200℃のもの(200_10培地、200_30培地、200-60培地、200_120培地、200_10_2培地)よりも全窒素濃度が低いため(表5参照)、培養時に窒素源が不足したものと考えられる。また、反応温度が250℃のもの(250_10培地、250_30培地、250-60培地、250_60_2培地)は、反応温度が200℃のもの(200_10培地、200_30培地、200-60培地、200_120培地、200_10_2培地)よりも全窒素濃度はやや高いため、窒素源の不足ではなく、WS中に細胞の増殖を阻害する化合物が比較的多く生成していたのではないかと考えられる。

【0041】
次に、熱水処理の反応温度が200℃、反応時間が10分の培地(200_10培地)を用いて、Aurantiochytrium sp.9w-5a株の培養を行い、その結果を図9に示す。実験方法および条件は、図6~図8のものと同様である。図9に示すように、GTY培地と比べると増殖性は劣るものの、Aurantiochytrium sp.9w-5a株を培養できることが確認された。また、同じ熱水処理条件の培地を用いてAurantiochytrium SR21株を培養した場合(図6中の「200_10_2」)と比べると増殖性は劣るものの、Aurantiochytrium sp.9w-5a株を培養できることが確認された。このことから、熱水処理を行ってWSを抽出した藻類と同属のものであれば、そのWSを利用して培養を行うことができるものと考えられる。
【符号の説明】
【0042】
1 回分式反応器
2 流動砂浴(サンドバス)
3 水可溶物(WS)
4 水不溶物
5 アセトン可溶物(オイル)
6 熱水残渣
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図1】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8