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明細書 :磁歪膜、磁歪素子、トルクセンサ、力センサ、圧力センサおよびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第4707771号 (P4707771)
登録日 平成23年3月25日(2011.3.25)
発行日 平成23年6月22日(2011.6.22)
発明の名称または考案の名称 磁歪膜、磁歪素子、トルクセンサ、力センサ、圧力センサおよびその製造方法
国際特許分類 H01L  41/20        (2006.01)
H01L  41/06        (2006.01)
H01L  41/08        (2006.01)
H01L  41/22        (2006.01)
G01L   1/12        (2006.01)
G01L   3/10        (2006.01)
C23C   4/06        (2006.01)
C23C   4/12        (2006.01)
C23C   4/18        (2006.01)
H01F  10/13        (2006.01)
FI H01L 41/20
H01L 41/06
H01L 41/08 Z
H01L 41/22 Z
G01L 1/12
G01L 3/10 301B
C23C 4/06
C23C 4/12
C23C 4/18
H01F 10/13
請求項の数または発明の数 11
全頁数 18
出願番号 特願2010-537063 (P2010-537063)
出願日 平成22年7月30日(2010.7.30)
国際出願番号 PCT/JP2010/062928
優先権出願番号 2009180848
優先日 平成21年8月3日(2009.8.3)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年12月3日(2010.12.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】本江 克次
【氏名】中島 浩二
【氏名】石川 智仁
【氏名】杉山 雅治
【氏名】五十嵐 貴教
【氏名】脇若 弘之
【氏名】牧野 彰宏
【氏名】井上 明久
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100092901、【弁理士】、【氏名又は名称】岩橋 祐司
審査官 【審査官】河合 俊英
参考文献・文献 特開2006-46987(JP,A)
特開2000-117399(JP,A)
特表2005-524776(JP,A)
調査した分野 H01L 41/20
C23C 4/06
C23C 4/12
C23C 4/18
G01L 1/12
G01L 3/10
H01F 10/13
H01L 41/06
H01L 41/08
H01L 41/22
要約 ゼロ磁界付近で優れた磁歪特性を発揮できる磁歪膜およびその製造方法を提供する。磁歪膜は、被検体上に溶射形成され、ガラス遷移温度より低く且つ、キュリー点温度以上で熱処理されていることを特徴とした金属ガラスの膜で構成され、-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲のうちの少なくとも一部の範囲内で、磁界と磁歪とが直線特性を示す。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
被検体上に溶射形成され、ガラス遷移温度より低く且つ、キュリー点温度以上で熱処理されていることを特徴とした金属ガラスの膜で構成され、
-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲のうちの少なくとも一部の範囲内で、磁界と磁歪との直線特性を示すことを特徴とする磁歪膜。
【請求項2】
請求項1の磁歪膜において、前記金属ガラスがFeを主成分としてFe含有量が30~80原子%であることを特徴とする磁歪膜。
【請求項3】
請求項2記載の磁歪膜において、前記金属ガラスがFe・Si・B・M、又はFe・Si・B・P・C・M(M=Cr、Nb、Ta、W、Ni、Co、Hf、Mo、又はM=無し)であることを特徴とする磁歪膜。
【請求項4】
請求項3記載の磁歪膜において、前記金属ガラスはFe76Si5.79.53.8であることを特徴とする磁歪膜。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の磁歪膜において、前記金属ガラスの膜は、高速フレーム溶射法、またはプラズマ溶射法で形成されることを特徴とする磁歪膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の磁歪膜において、前記金属ガラスの膜の厚さは50μm以上であることを特徴とする磁歪膜。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の磁歪膜を有して構成され、機械的エネルギーと磁気的エネルギーとを変換することを特徴とする磁歪素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の磁歪膜または磁歪素子を用いたトルクセンサ。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の磁歪膜または磁歪素子を用いた力センサ。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の磁歪膜または磁歪素子を用いた圧力センサ。
【請求項11】
-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲のうちの少なくとも一部の範囲内で、磁界と磁歪との直線特性を示す磁歪膜の製造方法であって、
被検体上に金属ガラスの膜を溶射形成し、
前記溶射形成は、高速フレーム溶射法またはプラズマ溶射法を用いて、
溶射形成の後、ガラス遷移温度より低く且つ、キュリー点温度以上で熱処理することを特徴とする磁歪膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は金属ガラスを用いた磁性材料、特にゼロ磁界付近で優れた磁歪特性を発揮する磁性膜、磁歪素子、トルクセンサ、力センサ、圧力センサおよびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁歪材料は、トルクセンサなどとして利用され、例えば電動アシスト自転車の伝達軸におけるトルク検出などに利用されている。トルクセンサは、通常、薄膜状の磁歪材料をトルク伝達軸の表面に接着することにより構成される。トルクセンサは、回転トルクによる伝達軸の変形を、その変形によって歪む磁歪材料における透磁率の変化によって検出し、トルクの大きさ、方向を測定する。磁歪材料自身の透磁率の変化は、磁歪材料に対して非接触で配置されるソレノイドコイルのインダクタンスの変化によって検出されるようになっている。
【0003】
磁歪材料として、アモルファス合金を利用した研究が知られている(特許文献1参照)。この磁歪材料は、単ロール液体急冷法によるアモルファス構造を有し、さらに熱処理によって析出した微結晶を有している。結晶構造の磁気異方性に比べて磁気的に等方性となるアモルファス構造の性質を利用したものである。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平7-118786号公報
【特許文献2】特許第3946226号
【特許文献3】特開平5-149804号公報
【特許文献4】特開2001-41833号公報
【特許文献5】特開平10-176966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のように液体急冷法による磁歪材料の形成では、大がかりな設備を要するため製造コストの面での課題が生じる。さらに、形成されるアモルファス合金は薄帯状となるため、トルクが作用する被検体の表面に貼り付けなければならず、被検体からの剥離などの心配もある。
また、磁歪特性については、50~100kA/mの磁界領域において磁歪効果が得られるものの、50kA/m以下の磁界領域では良好な磁歪特性が得られていなかった(文献1の図1、2参照)。
発明者らは、ゼロ磁界付近で良好な磁歪特性を示す磁歪膜や磁歪素子について調査したところ、印加磁界が15kA/m以下の領域で良好な応答性を示すものは見つからなかった。そこで発明者らは、長年研究を積み重ねてきた溶射形成による金属ガラスの知見(特許文献2参照)に基づき、-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲であっても良好な磁歪特性を示す磁歪膜や磁歪素子の開発に努めてきた。
【0006】
本発明は、前記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、ゼロ磁界付近で優れた磁歪特性を発揮できる磁歪膜、磁歪素子、および、これらを用いた力センサ、トルクセンサ、圧力センサ、ならびにこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために発明者らが鋭意検討を行った結果、金属ガラスを過冷却液体状態で被検体に積層させる溶射法を用いることによって、ゼロ磁界付近で良好な磁歪特性を示す磁歪膜が強固に形成され得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる磁性膜は、被検体上に溶射形成され、ガラス遷移温度より低く且つ、キュリー点温度以上で熱処理されていることを特徴とした金属ガラスの膜で構成され、-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲のうちの少なくとも一部の範囲内で、磁界と磁歪との直線特性を示すことを特徴とする。
また、前記金属ガラスがFeを主成分としてFe含有量が30~80原子%であることが好ましい。
さらに、前記金属ガラスがFe・Si・B・M、又はFe・Si・B・P・C・M(M=Cr、Nb、Ta、W、Ni、Co、Hf、Mo、又はM=無し)であることが好ましい。
また、前記金属ガラスはFe76Si5.79.53.8であることが好ましい。
前記金属ガラスの膜は、高速フレーム溶射法、またはプラズマ溶射法で形成されていることが好ましい。また、前記金属ガラスの膜の厚さは50μm以上であることが好ましい。
【0008】
本発明にかかる磁性素子は、前記磁歪膜を有して構成され、機械的エネルギーと磁気的エネルギーとを相互に変換することを特徴とする。
本発明にかかるトルクセンサ、力センサおよび圧力センサは、前記磁歪膜または磁歪素子を用いたことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる磁性膜の製造方法は、-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲のうちの少なくとも一部の範囲内で、磁界と磁歪との直線特性を示す磁歪膜の製造方法であって、被検体上に金属ガラスの膜を溶射形成し、前記溶射形成は、高速フレーム溶射法またはプラズマ溶射法を用いて、溶射形成の後、ガラス遷移温度より低く且つ、キュリー点温度以上で熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
磁歪膜および磁歪素子に磁界を印加した際、印加磁界の増減に対する磁歪量の変化曲線の中で磁界の強さの変化と磁歪量の変化の関係が一次関数(直線、リニア)である部分の特性を、ここでは、磁歪膜および磁歪素子の直線特性と呼ぶ。二つの変数の間に直線特性がある場合の方が、両者が多次元関数の関係にある場合より、センサとして利用しやすいことは公知である。
本発明の磁歪膜および磁歪素子によれば、磁界をゼロから印加した際、-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲であっても良好な直線特性を示すことができる。つまり、磁界印加の際、直線特性の領域に達するまでの磁界-磁歪曲線の立ち上がりが早く、従来よりも微小な磁界であっても良好な磁歪特性を示すことができる。
このように、本発明の磁歪膜および磁歪素子は、微小な磁界(±15kA/mの範囲)に対して良好な直線特性を示すので、力センサやトルクセンサなどに利用する際、特許文献3に示すような磁歪素子に初期歪みを付与するといった使用条件が不要となる。
ここで、力センサやトルクセンサおよび圧力センサでは、磁歪膜および磁歪素子の逆磁歪効果を利用する。本発明の磁歪膜および磁歪素子は、直線特性の領域に達するまでの立ち上がりが早く、例えば図1の曲線1のように、微小な磁界H1以上の領域で直線特性を示す。従って、逆磁歪効果については、外力による磁歪が略ε1以上であれば直線特性が得られることを十分に期待でき、曲線2に示すような従来の磁性材料を用いたセンサよりも微小な磁歪を検知することができる。
【0011】
また、本発明では、被検体に磁性膜を溶射形成した後、さらに熱処理を実施することにより、残留応力を除去し、溶射形成によって生じる磁歪膜自体の僅かな歪みを除去する。そのために、温度条件を、金属ガラスのガラス遷移温度より低く、且つ、キュリー点温度以上としている。
本発明と対比される従来の溶射形成された磁性膜としては、例えば特許文献4、5のように、金属ガラス以外の磁性体金属粒子を溶射したものが挙げられる。特許文献4、5の磁性体は、Ni-Fe合金を主成分としたもので、パーマロイと呼ばれる。Ni-Fe合金の粒子を用いた溶射形成では、被膜の密着強度や緻密性を少しでも良くするために、少なくとも溶射粒子を溶融した状態にして被膜を形成している。そのため、溶射被膜には、酸化物被膜が多く含まれ、被膜中の酸素含有量が高くならざるを得なかった。しかし、磁性膜にとって酸化物被膜の存在はその直線特性を阻害する要因となってしまう。そのため、特許文献4、5の磁性膜に対しては、磁性膜を溶射形成した後、酸化物の還元のため還元性雰囲気中で950~1100℃程度の温度で熱処理が行われている。このような熱処理は非常にコストが高くなり、熱処理管理も困難であると説明されている。
本発明の磁性膜は、金属ガラスを過冷却液体状態にして溶射形成されたものである。このため、過冷却液体状態にある金属ガラスが基材表面に衝突すると、その粘性の低さから瞬時に薄く潰れて基材表面に広がり、厚みが非常に薄い良好なスプラットを形成する。そして、スプラットの堆積構造体が、過冷却液体状態のまま冷却されてアモルファス相の緻密でピンホールのない溶射被膜を形成する。
従って、本発明では金属ガラスを溶融させないで溶射被膜を形成するため、酸化物が被膜中に含まれにくくなり、特許文献4、5の磁性膜と比べて被膜中の酸素含有量が少なく、酸化物を還元するための高度な熱処理を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる磁歪膜の磁歪特性を説明するための図である。
【図2】実施例にかかる磁歪特性の測定方法を示すブロック図である。
【図3】磁歪特性の測定に用いた励磁コイルを示す写真である。
【図4】FeSiBPC(組成I)の磁歪特性を示す図である。
【図5】FeSiBNb(組成II)の磁歪特性を示す図である。
【図6】異なる膜厚(100、200、300μm)の組成Iからなる試料の磁歪特性を示す図である。
【図7】図6においてFeSiBPCCr(組成III)の場合の磁歪特性を示す図である。
【図8】熱処理温度200℃で異なる熱処理時間(1h、12h)の組成Iからなる試料の磁歪特性を示す図である。
【図9】組成Iの試料14の磁歪特性を示す図である。
【図10】トルク評価に用いた磁歪式トルクセンサ(MTS)と溶射シャフトの位置関係図を示す図である。
【図11】トルク評価用測定ブロック図である。
【図12】印加捻れトルクに対する電圧出力の結果(一例)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
被検体
本発明で用いる被検体は、駆動力の伝達軸といった伝達部材などを構成する。特に、外力が作用して生じる応力やトルクなどを直接検出することが求められている被検体を扱う。このような被検体を基材として、基材表面に金属ガラスの溶射被膜を形成する。基材の材質は特に制限されるものではないが、例えば、銅、アルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄、ニッケル、モリブデン、ならびにこれら金属の少なくとも一種を主成分とする合金から選択される金属材料が好適に用いられる。基材には、金属ガラス溶射被膜の接合性を高めるために、ブラスト処理など公知の方法による基材表面の粗面化処理を施してもよい。

【0014】
金属ガラス
金属ガラスは、加熱すると結晶化前に明瞭なガラス遷移と広い過冷却液体領域を示すことが一つの大きな特徴である。ガラス遷移温度(Tg(K))と結晶化開始温度(Tx(K))との間の温度領域△Tx=Tx-Tgで示される過冷却液体温度領域では、粘性流動状態(過冷却液体状態)となって変形抵抗が著しく減少する。従って、金属ガラスは、過冷却液体状態での成膜性に優れる。本発明では、過冷却液体温度領域△Tx=Tx-Tgが30K以上である金属ガラスが好適に使用される。

【0015】
金属ガラスは、複数の元素から構成されるものであるが、本発明にかかる金属ガラスの組成としては特に制限されず、目的とする機能に応じて公知のものを適宜選択して用いればよい。例えば、主成分として少なくともFe、Co、Niのいずれかひとつの原子を30~80原子%の範囲で含有するものが挙げられる。

【0016】
結晶構造では、一つの結晶内でスピンを磁気容易軸に向けようとする結晶磁気異方性エネルギーを有するが、金属ガラスは非晶質(アモルファス)状態であるため、磁気異方性エネルギーが減少し、小さな磁場でも磁化し易くなり、大きな磁歪が得られ、優れた軟磁性を示すという特徴がある。また、非晶質状態であるため、磁壁ピンニングの原因となる結晶粒界、ボイド(格子欠陥による空孔)、析出などがほとんどないことも、優れた軟磁性を示す要因と考えられる。
また、本発明のように金属ガラスを磁性材料として用いる場合、常温で強磁性を示す物質を多く含むガラス金属が好適である。常温で強磁性を示す物質としては鉄、コバルト、ニッケル、ガドリニウム等が挙げられる。このうち、金属ガラスの形成が容易であること、原料入手の容易性を考慮すると、その主成分として少なくともFe、Co、Niのいずれかひとつの原子を含有することが好適である。特に金属ガラスの成分元素として、Feを多く含有することで強磁性材料の基本的特性である飽和磁化(Js)は飛躍的に向上する。金属ガラス中のFe含有量としては、30~80原子%が好適である。Feが30原子%より少ない場合では磁気特性が十分に得られず、また、80原子%より多い場合では金属ガラスの形成は困難である。

【0017】
金属ガラスを磁性部材として用いる場合、Fe・Si・B系、Fe・P・C系、またはFe・Si・P系といったFe基の金属ガラスが好ましい。Fe元素の磁気異方性は他の元素に比べて大きいため、Fe元素を多く含有する金属ガラスは、大きな磁歪量を生じる。さらに、形成時に外部磁界を印加すれば容易に磁気異方性を誘導することもできる。
Fe・Si・B系の金属ガラスには、ガラス形成能を高める元素としてPが含まれることが好適であり、また、ガラス形成能を補助的に高める元素としてCが含まれることが好ましい。従って、Fe基の金属ガラスの好ましい組成としては、例えば、Fe・Si・B・MまたはFe・Si・B・P・C・M(M=Cr、Nb、Ta、W、Ni、Co、Hf、MoまたはM=無し)が挙げられる。好ましい組成成分を下記式で示す。
Fe100-a-b(Si
式中、20≦a≦70、0≦b≦10とする。また、0.04≦k≦0.7、0.15≦l≦1.05、0≦m≦0.53及び0≦n≦0.35である。例えばSi含有量(原子%)は、k×aの値となる。
特に、Fe76Si5.79.53.8の組成が好適に用いられる。

【0018】
本発明の磁歪膜は、磁歪特性に優れた金属ガラスの溶射被膜によって構成される。特に、歪みを生じさせる機械的エネルギーと、透磁率の変化に起因する磁気的エネルギーとを効率よく変換する機能を備えた素子を、本発明では磁歪素子と呼ぶ。
磁歪膜および磁歪素子をセンサとして利用する際に求められる特性として、磁気機械結合係数Kが大きいことと、誘導磁気異方性が容易に形成できることなどが挙げられる。磁気機械結合係数Kが大きければ、印加磁界に対する磁歪量の度合が大きくなり、センサ感度が向上する。誘導磁気異方性が容易に形成できるとは、所望の方向に磁化容易軸を容易に揃えることができることを示し、磁化容易軸が揃えば小さな磁場でも大きな磁歪が生じるようになる。誘導磁気異方性については、第1の遷移金属であるFe元素に、Cr、Nb、Ta、W、Ni、Co、Hf、Moなどの第2の遷移金属を添加することで磁気異方性を誘導し易くなる。また、第2の遷移金属は、磁歪を増加させる効果と、磁気機械結合係数Kを向上させる効果を有し、センサとしての性能を高めることができる。
磁歪膜および磁歪素子自体の弾性率については、小さい方がよい。ヤング率などの弾性率が低ければ、素子自体が変形した際に素子内部に生じる残留応力も小さくなる。よって、回転軸などの被検体のねじり変形に対する磁歪素子の変形による追従性もよくなる。

【0019】
溶射方法
溶射方法としては、例えば、大気圧プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射、フレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF、HVAF)、アーク溶射、コールドスプレーなどがあり、特に制限されるものではない。好適な溶射方法の一つとして金属ガラス粒子を用いた高速フレーム溶射が挙げられ、高品位の溶射被膜を得ることができる。また、金属ガラス粒子を高速フレーム溶射と同等あるいはそれ以上の溶射粒子速度を付与可能な溶射法も好適に用いられる。例えば、大気プラズマ溶射装置により、高速フレーム溶射と同等の速度・温度域で溶射できる。本発明にかかる溶射粒子速度としては、300m/s以上が好適である。

【0020】
標準的なプラズマ溶射は、粒子速度が150~300m/s、フレーム温度は10,000~15,000Kの範囲であり、プラズマジェット(フレーム)は熱源から40mm程度の距離でも約5,000Kである。フレーム溶射は、粒子速度が100~200m/s、フレーム温度は2,300~2,900Kの範囲である。アーク溶射の粒子速度も、180~220m/sであり、フレーム溶射と同等である。コールドスプレーは573~773K程度に加熱したガスで粒子を加速し、粒子を500m/s以上の速度で衝突させる。
一方、高速フレーム溶射(HVOF、HVAF)は、フレーム温度はフレーム溶射と同等であり、粒子速度は300m/s以上で、標準的なプラズマ溶射の2倍以上にもできる。
このため、一般的な溶射材料金属を溶射した場合の気孔率は、フレーム溶射で12%程度、アーク溶射で8%程度、プラズマ溶射で7%程度であるのに対し、高速フレーム溶射では4%程度となる。高速フレーム溶射装置、または、高速フレーム溶射と同等の速度・温度域で溶射可能な大気プラズマ装置やコールドスプレー装置を用いれば、気孔率を下げることができ、密着性に優れ容易に?がない溶射膜が得られる。

【0021】
溶射材料に与える熱量は、金属ガラス粉体の少なくとも一部が過冷却液体状態となる最低限の熱量であればよい。通常の溶射材料の場合に比して消費熱量が少なくできる。また、粒子速度に関しては、気孔率が高くなってしまう粒子速度300m/s以下の溶射方法では、溶射被膜を緻密にするために溶射距離を短くする必要があり、基材が溶射フレーム熱源の影響を受け易い。そのため、溶射距離を十分とることができて気孔率が低い高速フレーム溶射法、あるいは高速フレーム溶射法と同等以上の粒子速度を与える溶射法が好適である。

【0022】
金属ガラス粒子の形状は特に限定されるものではなく、板状、チップ状、粒状、粉体状などが挙げられるが、好ましくは原料供給装置から溶射ガンへの送給が容易な形状であり、高速な溶射フレームから均一に熱量を与えられる粒状あるいは粉体状である。金属ガラス粒子の調製方法としては、アトマイズ法、ケミカルアロイング法、メカニカルアロイング法などがあるが、生産性と球状化を考慮すればアトマイズ法によって調製されたものが特に好ましい。

【0023】
金属ガラス粒子の粒子径は、1~80μm、好ましくは5~60μmである。粒子径が大きすぎると、溶射被膜中に気孔が多くなったり、連続気孔を生じることがある。粒子径が小さすぎると溶射のバレル内に溶融粒子が付着しやすくなったり、所望の膜厚とするのに溶射回数が増えるなど生産性が低下する。また、バレル内に付着凝固した粒子がバレルから剥がれて溶射されると、溶射被膜の均一性が低下する。

【0024】
金属ガラス溶射被膜の厚みは目的に応じて適宜設定できるが、溶射被膜の緻密性、密着性、加工性などの点から、被覆しようとする基材表面上に通常20μm以上、典型的には50μm以上、さらには100μm以上形成することが好適である。上限は特に制限されないが、厚くなりすぎると経済性や軽量性が低下するので、700μm以下、さらには500μm以下とすることが好ましい。被膜の磁歪特性を利用する目的であれば、500μmもあれば十分である。
溶射被膜は、様々な形状の基材上に形成することができ、また、マスキング等によりパターン化して形成することもできる。

【0025】
金属ガラス膜にセンサとして高機能性を発揮させるために、溶射被膜層が結晶相をできるだけ含まず、緻密性や均一性が高いことが好ましい。また、金属ガラス溶射被膜層に結晶相が含まれると、結晶磁気異方性エネルギーが蓄えられて、軟磁性の特性が低下してしまう。

【0026】
均一な金属ガラスのアモルファス固体相からなり、気孔がほとんどなくピンホールのない溶射被膜を形成するために、アモルファス相の金属ガラス粒子を溶射原料とし、金属ガラス粒子を溶融させず、その少なくとも一部を過冷却液体状態で溶射することが好適である。

【0027】
過冷却液体状態では、金属ガラスは粘性流動を示し、粘性が低い。このため、過冷却液体状態にある金属ガラスが基材表面に衝突すると、瞬時に薄く潰れて基材表面に広がり、厚みが非常に薄い良好なスプラットを形成することができる。そして、このようなスプラットの堆積により、緻密でピンホールのない溶射被膜を形成することができる。
また、スプラットは過冷却液体状態のまま冷却されるので、結晶相を生成せず、アモルファス相のみが得られる。

【0028】
また、一般に溶射では溶射材料を溶融状態で基材表面に衝突させるため、大気中での溶射の場合、溶射材料の酸化物が被膜中に含まれてしまい、被膜の特性に悪影響を及ぼすが、過冷却液体状態で衝突させれば、大気中で溶射したとしても酸化の影響がほとんどない。
従って、アモルファス相の金属ガラス粒子を溶射し、金属ガラス溶射粒子が過冷却液体状態で基材表面において凝固及び積層して溶射被膜を形成すれば、均一な金属ガラスのアモルファス固体相からなり、気孔がほとんどなくピンホールのない溶射被膜を得るのに有利である。

【0029】
また、一般的な溶射材料である結晶質合金では、溶融体から固体へ冷却された場合に、数%の凝固収縮を生じる。
これに対して、金属ガラスが溶融体から固体へ冷却された場合、まず過冷却液体状態となるので結晶化による凝固収縮することなく、その体積は過冷却液体領域の熱膨張係数に従って連続的且つ僅かに収縮する。そして、金属ガラスが溶融することなく融点未満の過冷却液体状態から冷却された場合には、溶融体から冷却された場合に比べてさらに収縮量が少なくなる。
よって、金属ガラスを溶融させずに過冷却液体状態で溶射すれば、基材と溶射被膜との接合面に発生する残留応力が非常に小さくなるので、基材の変形や破壊、さらには溶射被膜の剥離の抑制に効果的であり、特に、薄い基材において有効である。

【0030】
このような方法により、基材表面に非常に緻密で且つアモルファス相の金属ガラス溶射被膜層を形成することができる。例えば、気孔率が2%以下でピンホールもない金属ガラス溶射被膜層を得ることができる。気孔率については、金属ガラス層の任意の断面を画像解析し、気孔の最大面積率を気孔率として採用することができる。また、ピンホールがないことも金属ガラス層の任意の断面を画像解析することにより確認することができる。なおこのような方法は、特開2006-214000号公報に記載されている。

【0031】
歪み除去のための熱処理
過冷却液体状態からの冷却によって生じる残留応力は、僅かであっても磁歪膜自体の歪みを生じさせる。この歪みは逆磁歪効果を誘導し、応力誘起異方性により磁気異方性エネルギーが大きくなってしまい、小さい磁界に対して大きな磁歪が得られなくなることがある。この残留応力を低減させれば、磁歪をより一層大きくすることができる。そこで、本発明では、金属ガラスを基材表面に溶射して被膜を形成した後、熱処理を行うことにより、磁歪膜自体の歪みを除去する。
熱処理温度は、溶射被膜層が過冷却液体状態にならない温度に設定する。すなわち、ガラス遷移温度(Tg)より低い温度で且つ、キュリー点以上の温度(Tc)として、溶射被膜層をアモルファス固体状態で熱処理することにより、効率的に残留応力による歪みが除去され、磁界を印加しない状態での磁歪膜の歪みをゼロに近づけることができる。一方、熱処理温度がキュリー点温度より低い温度で処理する場合は、時間を長くすることで同じ様な残留応力の歪み除去効果があるが、工業上、効率的ではない。なお、熱処理時間は、加熱対象の大きさ・形状によって適宜設定するが、ガラス遷移温度未満、且つキュリー点温度以上で処理する方が歪み除去を短時間に処理できる。
一方、熱処理温度がガラス遷移温度を超え、結晶化温度未満で熱処理する場合、溶射被膜が一部結晶化を生じ、軟磁気特性を発現できないことがある。

【0032】
熱処理の方法としては、本発明の目的を達成し得る方法であれば特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、磁歪膜を含む基材全体を熱処理する方法、磁歪膜との接合付近を部分的に熱処理する方法などが挙げられる。簡便な方法の一つとしては、加熱炉に基材ごと入れて熱処理するバッチ方式が挙げられる。また、加熱は通常大気中で行えばよいが、酸化の影響が懸念される場合には不活性ガス中で行ってもよい。

【0033】
本実施形態の磁歪膜および磁歪素子によれば、従来の液体急冷法のような大がかりな設備を要さず、製造コストを低減することができる。また、溶射形成されるため、特許文献3のように被検体の表面に接着材などで磁歪膜を貼り付ける必要がなく、密着性に優れ、被検体からの剥離などの心配もない。さらに、ゼロ磁界付近での磁界領域における磁歪特性が改善される。
また、これらの磁歪膜または磁歪素子を利用すれば、検出感度に優れた力センサやトルクセンサ、圧力センサを提供できる。
本発明の磁歪膜および磁歪素子は、逆磁歪効果を利用する力センサ、トルクセンサ、圧力センサとして適用できるが、印加磁界による歪みを利用する磁歪アクチュエータなどにも適用できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の試験例において、成膜条件などが異なる溶射被膜を製造し、その磁歪特性を測定し、評価した。
【実施例】
【0035】
製造条件
数ある金属ガラスの組成の中から、3種類の組成(FeSiBPC、FeSiBNb、FeSiBPCCr)を選択した。以降、Fe76Si5.79.53.8を組成I、Fe72Si9.614.4Nbを組成II、Fe71Si5.79.53.8Crを組成IIIとする。
組成I、組成II、組成IIIの金属ガラスの溶射用粉末は、以下の方法で製造した。
原料は、Fe:電解鉄、Si:シリコンスクラップ(6N)、B:高炭素フェロボロン、ボロンクリスタル、P:フェロ燐(20%P)、C:活性炭、Cr:クロムカーバイト、金属クロム、Nb:金属ニオブを使用した。母合金は、上記原料を組成比率に混ぜ合わせて、高周波溶解炉(アルミナルツボ、10-1Pa台に真空引き、Ar置換)にて溶解し、銅鋳型にて冷却して得た。粉末化はガスアトマイズ法にて行い、得られた粉末を超音波振動篩で分級して25~53μmの粉末を得た。
試料は、基材(開進工業(株)製SUS631・3/4H、SUS316)と、基材上に積層した金属ガラス溶射膜とから構成した。基材の形状は、3mm×25mm、厚さ0.3mmの矩形薄板状である。
基材への溶射条件は、プラズマ溶射装置:Sulzer Metco社製TriplexPro-200、電流:450A、電力:57kW、使用プラズマガス:Ar,He、溶射距離:100mm、溶射ガン移動速度:600mm/secであった。
上記基材上に金属ガラス溶射膜を形成し、溶射膜厚の異なる3種類(100、200、300μm)の試料を準備した。また、溶射後の試料を所定温度で所定時間熱処理した。組成I~IIIのキュリー点温度Tc、ガラス遷移温度Tg、結晶化開始温度Txを表1に示す。試料(1~20)の組成、溶射膜厚、基材および熱処理条件を表2に示す。
【実施例】
【0036】
【表1】
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【実施例】
【0037】
【表2】
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【実施例】
【0038】
測定方法
励磁コイルによる磁界印加時の磁歪量を測定した。
図2は測定方法を示すブロック図である。図2に記載の通り、発振器、パワーアンプは(株)エヌエフ回路設計ブロック製を、レーザードップラー振動計、デジタル変位変換器、FFTアナライザは(株)小野測器製の各品番を使用した。
コイルには、発振器により1Hzのsin波が供給される。試料に印加される磁界は、コイル電流Iとコイルの仕様から式(1)、式(2)により算出できる。コイル内の磁界Hは、次式で示される。
【実施例】
【0039】
【数1】
JP0004707771B1_000004t.gif
また、コイル中心(Z=0)の磁界Hは、次式で示される。
【実施例】
【0040】
【数2】
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ここに、H :発生磁界 [A/m]
N :コイル巻数 [回]
I :電流 [A]
:内半径 [m]
:外半径 [m]
l :コイル高さ [m]
z :コイル中心からの距離 [m]
表3に測定条件を示す。
【実施例】
【0041】
【表3】
JP0004707771B1_000006t.gif
【実施例】
【0042】
試料の長尺方向を略垂直に立てて固定し、表3に示す多層巻の励磁コイルによって、試料に最大40kA/m若しくは、80kA/mの磁界を印加した。図3は、実際に配置したコイルを示す写真である。試料の形状が反っていたため、同図のようにコイルを傾けて、試料がコイルの中心軸に沿うように配置した。
図2のブロック図のように、印加磁界Hによって変位する試料上端部、すなわち薄膜の磁歪量をレーザードップラー振動計およびデジタル変位変換器によって測定した。レーザードップラー振動計は試料への照射面を考慮して斜めに設置した。
FFTアナライザにコイル電流Iの検出値と、デジタル変位変換器からの変化量ΔXとを入力し、磁界-磁歪量(変化量)カーブを作成した。
【実施例】
【0043】
測定結果
各試料の測定条件と最大磁歪量との関係を表4に示す。試料1~12は、最大磁界(H)40kA/mでの測定結果であり、試料13~20は、Hが80kA/mでの測定結果である。
【表4】
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【実施例】
【0044】
以下、個々の試料における磁歪特性を図4から図9に示す。
組成Iの特性
図4は、試料1~7の磁歪特性である。図中、縦軸の変化量とは、本発明の磁歪量に相当する。試料2は、組成Iを用いた試料1~7の中で最も良好な特性を示した。つまり磁界と磁歪量(変化量)とが直線関係(直線特性)を示す範囲が磁界ゼロ付近まで生じており、直線特性領域が±15kA/mの磁界範囲内にある。さらに、直線特性領域での歪み量が最も大きい。
本実施例では、熱処理温度がガラス遷移温度(Tg=484℃)未満でキュリー点(410℃)以上である試料2~5に於いて、磁界ゼロ付近での直線性が良好で、歪み量が大きい。本実施例に該当しないガラス遷移温度以上で熱処理した試料1(530℃)では、±15kA/m内で、印加磁界と変化量とが直線関係になく、変化量がゼロに近い。また、本実施例に該当しないキュリー点温度未満で熱処理した試料6(390℃)、試料7(熱処理なし)では、磁界ゼロ付近でブロードなピークを示し、歪み量も小さい。
【実施例】
【0045】
組成IIの特性
図5は、試料8~12の磁歪特性である。本実施例のガラス遷移温度未満でキュリー点温度以上で熱処理した試料8~10に於いて、磁界と磁歪量との直線特性を示す範囲が磁界ゼロ付近まで生じており、直線特性領域が±15kA/mの磁界範囲内にある。また、本実施例に該当しないキュリー点温度未満で熱処理した試料11(300℃)、12(熱処理なし)では、磁界ゼロ付近でブロードなピークを示し、歪み量も小さい。
組成のみが異なり、他の測定条件が同じである試料同士を比較すると、いずれの測定条件のおいても組成Iの方が組成IIよりも、直線特性領域における磁歪量が大きいことが分かった。
【実施例】
【0046】
膜厚の違い
膜厚の異なる3種類の試料13~15(組成I)、試料16~18(組成III)の特性を図6、図7に示す。組成I、IIIのいずれにおいても、直線特性領域における磁歪量は、100μm、300μm、200μmの厚さの順に大きくなり、厚さ200μmの試料が最もよい磁歪特性を示した。
【実施例】
【0047】
熱処理時間の違い
キュリー点以上でガラス遷移温度未満の熱処理温度にすることで、溶射被膜層がアモルファス固体状態で熱処理されることになり、効率的に残留応力による歪みが除去され、磁界を印加しない状態での磁歪膜の歪みをゼロに近づけることができる。一方、熱処理温度がキュリー点温度より低い温度で処理する場合は、時間を長くすることで同じ様な残留応力の歪み除去効果があるが、工業上、効率的ではない。
熱処理時間の異なるだけの2種類の試料19,20(組成I)の特性を図8に示す。熱処理温度がキュリー点温度より低い200℃であっても、熱処理時間を12hと長くすることによって、熱処理時間1hのものよりも磁歪量が大きくなることが判る。しかし、熱処理温度が異なるのみの試料13と比較すると、キュリー点以上でガラス遷移温度未満の熱処理温度の方が短い時間で効率的に残留応力による歪みを除去できることが判る。
再現性
組成Iの試料14(溶射膜厚200μm、熱処理条件450℃x1h)として作成した3枚の試料の磁歪特性を図9に示す。-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲内では変化量はほぼ重なっており、ばらつきは小さいことが判る。
【実施例】
【0048】
組成、膜厚、熱処理条件の違いが磁歪特性に与える影響について以下の(1)~(3)のことが言える。
(1)キュリー点以上ガラス遷移温度未満で熱処理したいずれの試料においても、-15kA/m以上、+15kA/m以下の磁界範囲内の少なくとも一部範囲にて、磁界と磁歪とがリニアな関係(直線特性)を示す。つまり、磁界印加の際、直線特性の領域に達するまでの磁界-磁歪曲線の立ち上がりが早く、従来よりも微小な磁界であっても良好な磁歪特性を示すことができる。ガラス遷移温度を超える温度で熱処理した試料は、線形性を示さないことがある。キュリー点よりも低い温度で熱処理した試料は、長時間熱処理しない限り、低磁界での特性が悪化している。つまり、磁界ゼロ付近でブロードなピークを示し、変化量が小さくなってしまう。
(2)同形状の試料を3枚用意して、同じ測定条件で磁歪量を測定したところ、磁歪特性のばらつきは小さかった。
(3)膜厚条件(100μm、200μm、300μm)と磁歪量との関係については、膜厚200μmでの磁歪量が一番大きかった。
【実施例】
【0049】
前述の実施例では、矩形薄板状の基材に溶射形成した磁歪膜の磁歪特性を評価したが、シャフトの表面に本発明の磁歪膜を溶射形成し、励振コイルおよび検出コイルを配置することによって、シャフトに印加されるトルクを検出する磁歪式トルクセンサを構成し、そのセンサ感度を評価したものを以下に説明する。
図10(A)は、外周面に磁歪膜が溶射形成されたシャフト(材質:SUS631)を示す斜視図である。磁歪膜は、組成Iを膜厚200μmになるように溶射形成したものである。尚、本溶射シャフトは、溶射施工後、真空炉中で450℃・1時間の熱処理をおこなったものである。図10(B)は、磁歪膜を囲むように配置された励振コイルと検出コイルを示す斜視図である。シャフトの一端は固定され、他端に正負の両方向のトルクが印加されるようになっている。トルク印加部に対して時計回り方向に掛けるトルクを正方向、反時計方向に掛けるトルクを負方向と定めた。
励振コイルはリングコアの内周面に形成されている。このリングコアにシャフトを貫通させることにより、励振コイルが磁歪膜の外周に配置される。励振コイルに正弦波状の電圧を印加すると、シャフトがコアの役目となって磁界が発生する。この発生磁界を環状コアの内部に配置された4つの検出コイルA~Dで検知する。シャフトにトルクが印加されると、磁歪膜が歪んで磁束が変化するため、検出される磁界の大きさが変化する。従って、検出コイルで磁界の大きさの変化を検知することによって、トルクの大きさが測定できる。
【実施例】
【0050】
図11に上記の磁歪式トルクセンサの測定ブロック図を示す。発振器からの正弦波を増幅器を介して励振コイルに入力し、励振コイルに磁界を発生させる。この励振磁界の値はFFTアナライザのA-channelにて確認した。そして、シャフトにトルクを印加した際の磁束の変化を検出コイルにて読み取った。検出コイルからの信号は位相検波装置に入力される。位相検波装置は、発振器からの正弦波を参照信号として、検出コイルからの信号を同期検波する。このようにして検出コイルからの信号を位相検波器に通すことで参照信号と同位相の信号を直流として取り出し、マルチメータで測定した。この測定値をトルクセンサの出力電圧として評価した。同時に、入出力電圧間の位相差をFFTアナライザのB-channelを用いて測定した。
【実施例】
【0051】
図12に磁歪式トルクセンサを用いて、トルク評価した一例を示す。印加したトルクに対し、電圧出力値が比例関係にあることを確認した。特に、30N・m以下の低レベルのトルクに対して比例特性を示すこと、および、3.0~3.5mV/10N・mという非常に高いセンサ感度が得られることが判った。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図11】
9
【図12】
10
【図3】
11