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明細書 :オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5010784号 (P5010784)
公開番号 特開2003-018942 (P2003-018942A)
登録日 平成24年6月8日(2012.6.8)
発行日 平成24年8月29日(2012.8.29)
公開日 平成15年1月21日(2003.1.21)
発明の名称または考案の名称 オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01K 67/027
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2001-146338 (P2001-146338)
出願日 平成13年5月16日(2001.5.16)
審判番号 不服 2008-030894(P2008-030894/J1)
審査請求日 平成15年2月10日(2003.2.10)
審判請求日 平成20年12月5日(2008.12.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】高井 俊行
【氏名】阿相 皓晃
【氏名】藤原 道弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
参考文献・文献 Immunity,2000,Vol.13,p.345-353
Nature Genetics,2000,Vol.25,p.357-361
金沢大学十全医学会雑誌,1993,第102巻第3号,p.429-449
調査した分野 IPC A01K 67/00 - 67/027, C12Q 1/00 - 1/02, A61P 25/00 - 25/36
DB JSTPlus(JDream2), JMEDPlus(JDream2), BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN), PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
DAP12(DNAX activation protein 12)遺伝子機能をプロモーター領域及びDAP12遺伝子のエクソン1~3を不活性化することにより染色体上で欠損させたホモ接合体非ヒト動物を、オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物として使用する方法。
【請求項2】
非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
DAP12(DNAX activation protein 12)遺伝子機能をプロモーター領域及びDAP12遺伝子のエクソン1~3を不活性化することにより染色体上で欠損させたホモ接合体非ヒト動物由来の細胞を被検物質と接触させ、該細胞におけるミエリン塩基性タンパク質の発現を測定・評価することを特徴とするオリゴデンドロサイトの発達促進物質のスクリーニング方法。
【請求項4】
非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項3記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、DAP12(DNAX activation protein 12)遺伝子機能が染色体上で欠損したオリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物、及び該オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物を用いた、オリゴデンドロサイトの発達促進若しくは発達抑制物質、又はミエリン形成促進若しくは抑制物質などのスクリーニング方法や、精神神経障害治療薬のスクリーニング方法や、精神神経障害の診断方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
DAP12(DNAX activation protein 12)は活性化モチーフITAMを有する膜貫通タンパク質であり、リン酸化によりZAP-70やSykと結合することが示唆されており、ヒトにおいて19q13.1に位置する1コピー遺伝子にコードされ、マウスにおいても存在することが知られている。かかるDAP12のmRNAは単球、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞などに多く発現され、DAP12は単にKAR群の活性化シグナリングに関与するだけではなく、ヒトsignal regulatory protein(SIRP)beta1、ヒトやマウスのmyeloid DAP12-associating lectin(MDL)-1、triggering receptor expressed on myeloid cells(TREM)と会合することも知られている。また、DAP12がCD94/NKG2Cなど、Cタイプレクチンファミリーに属するKAR分子とも会合し、機能していることが報告されている(Immunity 8, 693-701, 1998、J. Immunol. 161, 7-10, 1998、J. Immunol. 160, 4148-52, 1998)。
【0003】
硬化性白質脳症を伴う多発嚢胞性脂肪膜性骨異形成症、又は那須-ハコラ病(Suppl. 232, 1-173, 1972、Acta Pathol. Jpn. 23, 539-558, 1973、J. Med. Genet. 34, 753-757, 1997)は、日本とフィンランドにおいて発見された稀な中枢神経系疾患である。那須-ハコラ病患者は、骨嚢胞組織の形成に加えて、性格変化などの精神異常の症状を経て初老期痴呆を必発する。フィンランドの患者では、5.3kbのDAP12[KARAP(Killer activating receptor associated protein)/TYROBP(protein tyrosine kinase binding protein)]遺伝子座が欠損する変異が見られた。別の欠陥をもつ日本の患者は、遺伝子の第3エクソンで単一のヌクレオチドが欠損しており、両患者とも、主に免疫組織にみられる細胞膜アダプター蛋白質(membrane adaptor protein;J. Immunol. 158, 5083-5086, 1997、Nature 391, 703-707, 1998)であるDAP12の機能が失われることによるものであることが知られている(Nature Genet. 25, 357-361, 2000)。しかしながら、精神異常の症状がDAP12の欠損によるものかどうかは知られていなかった。
【0004】
他方、痴呆症モデル動物としては、従来、脳虚血を誘導するかアミロイドタンパクを蓄積させるなどの誘導方法しか開発されておらず、かかるモデル動物では痴呆に至るメカニズムを解析し、痴呆進行を予防するベースとしては利用価値が十分ではなかった。近年、DAP12欠損により那須-ハコラ病(Nasu-Hakola)病という若年性痴呆に至る精神神経症状が発症することは知られている(Nature Genet. 25, 357-361, 2000)が、根元的原因は未だ明らかになっておらず、また、DAP12欠損マウスにおいて、前頭葉および視床特異的にミエリン低形成が起こることや、精神分裂病の兆候を示すことは知られていなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記のように那須-ハコラ病は日本とフィンランドにおいて発見された稀な劣性遺伝病であるが、骨嚢胞形成と精神神経異常の症状を経て初老期痴呆を必発する致死的な疾患である。本発明の課題は、那須-ハコラ病、痴呆、精神分裂病、精神分裂病人格障害、強迫症状群、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群等の精神神経障害に至るメカニズムを解析し、精神神経障害の進行の予防方法や精神神経障害の治療方法を開発することができる、DAP12(DNAX activation protein 12)遺伝子機能が染色体上で欠損したオリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物、及び該オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物を用いた、オリゴデンドロサイトの発達促進若しくは発達抑制物質、又はミエリン形成促進若しくは抑制物質などのスクリーニング方法や、精神神経障害治療薬のスクリーニング方法や、精神神経障害の診断方法等を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、DAP12の生理的機能の解明について鋭意研究を進め、DAP12遺伝子機能が染色体上で欠損したマウス、すなわちDAP12ノックアウトマウスを作製して脳所見を検討したところ、特に前頭及び視床において、脱髄、すなわちミエリン形成不全症(hypomyelinosis)を含む髄鞘形成傷害を示すことを見い出し、また、かかる障害がミエリンを形成する役割を担うオリゴデンドロサイトのDAP12が欠損したためにこの細胞の分化・発達・脳内移動が阻害されることに起因することを見い出した。さらに上記DAP12ノックアウトマウスの行動学的解析から、筋力などは正常であるにもかかわらず反射能に障害がみられることを見い出し、加齢に伴い精神分裂病に似た精神異常症状を示すことを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、DAP12(DNAX activation protein 12)遺伝子機能をプロモーター領域及びDAP12遺伝子のエクソン1~3を不活性化することにより染色体上で欠損させたホモ接合体非ヒト動物を、オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物として使用する方法(請求項1)や、非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項1記載の方法(請求項2)に関する。
【0008】
また本発明は、DAP12(DNAX activation protein 12)遺伝子機能をプロモーター領域及びDAP12遺伝子のエクソン1~3を不活性化することにより染色体上で欠損させたホモ接合体非ヒト動物由来の細胞を被検物質と接触させ、該細胞におけるミエリン塩基性タンパク質の発現を測定・評価することを特徴とするオリゴデンドロサイトの発達促進物質のスクリーニング方法(請求項3)や、非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項3記載のスクリーニング方法(請求項4)に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のオリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物とは、DAP12(DNAX activation protein 12)遺伝子機能が染色体上で欠損することにより、オリゴデンドロサイトの発達を障害する非ヒト動物をいう。かかる非ヒト動物は加齢に伴い、ミエリン塩基性タンパク質の発現を減少させ、中枢神経系のミエリン形成に発達障害を惹起させたり、那須-ハコラ病、痴呆、精神分裂病、精神分裂病人格障害、強迫症状群、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群等の精神神経障害をきたしたりする。また、上記DAP12遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物とは、DAP12をコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、DAP12を発現する機能を失なった非ヒト動物をいう。また本発明における非ヒト動物としては、マウス、ラット等の齧歯目動物を具体的に挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0010】
本発明における野生型の非ヒト動物とは、上記DAP12遺伝子機能が欠損した非ヒト動物と同種の動物を意味し、中でも同腹の動物を好適に例示することができる。メンデルの法則に従い出生してくる、これらのホモ接合体非ヒト動物におけるDAP12欠損型とその同腹の野生型は個体レベルで正確な比較実験を行うことができる点で同時に用いることが好ましい。そして本発明のオリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物の好適例としては、DAP12ノックアウトマウスを、野生型非ヒト動物としては該ノックアウトマウスと同腹の野生型マウスを、それぞれ具体的に挙げることができる。以下、非ヒト動物がマウスの場合を例にとって説明する。
【0011】
DAP12遺伝子機能が染色体上で欠損したマウス、すなわちDAP12ノックアウトマウス(DAP12-/-)を作製する。DAP12ノックアウトマウスは、文献(Cell 76, 519-529, 1994)に記載する方法等によって作製することができる。具体的には、マウス遺伝子ライブラリーからPCR等の方法により得られた遺伝子断片を用いて、DAP12遺伝子をスクリーニングし、スクリーニングされたDAP12遺伝子を組換えDNA技術により、DAP12遺伝子の全部又は一部を、例えばネオマイシン耐性遺伝子等のマーカー遺伝子で置換し、5′末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子等の遺伝子を導入してターゲティングベクターを作製し、この作製されたターゲッティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によってES細胞に導入し、相同的組換えを行い、その相同的組換え体の中から、G418やガンシクロビア(GANC)等の抗生物質に抵抗性を示すES細胞を選択する。この選択されたES細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。
【0012】
上記組換えES細胞をマウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、かかる胚盤胞を仮親のマウスに戻し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型のマウスと交配させると、ヘテロ接合体マウスを得ることができ、また、このヘテロ接合体マウスを交配させることによって、DAP12ノックアウトマウスを得ることができる。そして、かかるDAP12ノックアウトマウスにおけるDAP12遺伝子が染色体上で欠損していることを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウスの尾からDNAを単離してサザンブロット法等により調べる方法や、このマウスの骨髄マスト細胞等から抽出したタンパク質をイムノブロット分析等により調べる方法等を挙げることができる。
【0013】
本発明のオリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物は、オリゴデンドロサイトの発達障害をきたすモデルや、中枢神経系のミエリン形成に発達障害をきたすモデルや、ミエリン形成過程を研究するモデルや、オリゴデンドロサイト発達障害に起因する病気の発症過程、ミエリン形成異常により生ずる痴呆症等の精神神経障害の発症過程などを研究するモデル等に有用であり、かかるミエリン形成発達障害モデル非ヒト動物を用いると、オリゴデンドロサイト発達障害に起因する病気、例えば、那須-ハコラ病、痴呆、精神分裂病、精神分裂病人格障害、強迫症状群、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群等の精神神経障害に対する治療に有用な薬剤、すなわちオリゴデンドロサイトの発達促進又は発達抑制物質、ミエリン形成促進又は抑制物質などをスクリーニングすることができる。
【0014】
本発明における、オリゴデンドロサイトの発達促進又は発達抑制物質、ミエリン形成促進又は抑制物質などのスクリーニング方法としては、本発明のオリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物に被検物質を投与する方法や、オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させる方法を挙げることができる。オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させる方法としては、オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物、例えば、前記DAP12ノックアウトマウス由来の組織、器官、又は細胞を被検物質と接触させ、該細胞におけるミエリン塩基性タンパク質の発現を測定・評価する方法を具体的に例示することができ、また、オリゴデンドロサイト発達障害モデル非ヒト動物に被検物質を投与する方法としては、例えば、前記DAP12ノックアウトマウスに被検物質を投与し、該非ヒト動物由来の組織、器官、又は細胞におけるミエリン塩基性タンパク質の発現を測定・評価する方法や、前記DAP12ノックアウトマウスに被検物質を投与し、該非ヒト動物におけるミエリン形成の発達又は脱髄の程度を測定・評価する方法や、前記DAP12ノックアウトマウスに被検物質を投与し、該非ヒト動物の聴覚性刺激及び/又は聴覚性プレパルス抑制を測定・評価する方法などを具体的に挙げることができるが、これらに制限されるものではない。なお、上記スクリーニングに際して、DAP12ノックアウトマウスと同腹の野生型マウスと比較評価することが好ましい。
【0015】
本発明のオリゴデンドロサイトの発達促進又は発達抑制物質、ミエリン形成促進又は抑制物質などのスクリーニング方法により得られる、オリゴデンドロサイトの発達促進又は発達抑制物質の候補物質としては、チロシン脱リン酸化酵素阻害物質、チロシンリン酸化酵素活性化物質などの各種低分子化合物等を挙げることができる。また、本発明の那須-ハコラ病、痴呆、精神分裂病、精神分裂病人格障害、強迫症状群、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群等の精神神経障害に対する治療薬としては、上記のオリゴデンドロサイトの発達促進又は発達抑制物質、ミエリン形成促進又は抑制物質などのスクリーニング方法により得ることができる、オリゴデンドロサイト発達促進物質若しくはミエリン形成促進物質、又はミエリン形成促進若しくは抑制物質などを有効成分とする治療薬であれば特に制限されるものではなく、かかる治療薬を哺乳動物等に適宜量及び方法で投与することにより、上記精神神経障害を治療することができる。
【0016】
【実施例】
以下に、実施例を揚げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
参考例(DAP12ノックアウト-/-マウスの作製)
DAP12ノックアウトマウスは、文献(Cell 76, 519-529, 1994)記載の方法により、129/SvJ(H-2b)とC57BL/6(B6、H-2b)とのハイブリッドにより作製した。129/SvJマウス遺伝子ライブラリー(ストラタジーン社製)からDAP12ゲノムDNAを単離し、プロモーター領域及びDAP12遺伝子のエクソン1~3を含む5.1kbのBam HI断片を、neorカセット(ストラタジーン社製)に置換し、負の選択マーカーとして単純ヘルペスウィルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)を挿入することにより構築した(図1a)。なお、neorカセットは、5.1及び1.2kbの相同配列をフランキング配列として有していた。このベクターを線状化し、エレクトロポレーションすることによってES細胞(RW4)に導入し相同的組換えを行った結果、7.1%の頻度でES細胞の相同組換え体を得ることができた。
【0017】
上記の相同的組換え体からESクローンを単離し、G418及びGANC(ガンシクロビア)に対してネオマイシン耐性ESクローンをスクリーニングし、サザンブロット法によって相同的組換え体を確認した。かかる相同的組換え体からゲノムDNAを単離して、Kpn I でダイジェストし、neorカセットを含むターゲッティングアレルを含んでいることを確認した。かかる確認されたESクローンを胚盤胞中にマイクロインジェクションし、キメラマウスを作製し、作製されたマウスを野生型のC57BL/6マウス(Charles River社製)とインタークロスさせ、コントロールされた環境下で特異的病原体を遮断した施設において飼育することによってヘテロ接合体マウスを得た。また、ホモ接合体マウスを得るために、このヘテロ接合体マウスをインタークロスさせて、DAP12遺伝子が染色体上で欠損した欠損マウス及びその野生型マウスを作製した。このようにして作製された本発明のDAP12ノックアウトマウスは少なくとも10ヶ月齢までは、文献(Immunity 13, 345-353, 2000、Immunity 13, 355-364, 2000)記載のように特段の異常を示すことなく、健康に成長した。この得られたDAP12ノックアウトマウスにおいてDAP12発現能が欠失しているかどうかの確認は、DAP12+/+、DAP12+/-、DAP12-/-等のマウスの尾から得たゲノムDNAをKpn Iで消化し、図1aに示されている領域のプローブを用いたサザンブロット法により調べた(図1b)。
【0018】
また、文献(Cell 76, 519-529, 1994)記載の方法によりDAP12+/+及びDAP12-/-マウスから骨髄マスト細胞(BMMC)を調製し、かかるマスト細胞(各レーン2.5×105細胞相当)から抽出したタンパク質と、文献(Cell 70, 351, 1992)記載の方法により調製した抗ウサギDAP12抗血清(1:500で希釈)とを用いたイムノブロット分析においても調べてみた(図1c)。その結果、DAP12-/-マウス由来の細胞においてDAP12タンパク質が検出されなかった。
【0019】
上記DAP12と同種の細胞表面適応蛋白質(adaptor protein)であるDAP10の遺伝子が、たった0.1kb離れたDAP12遺伝子に対して逆転写方向に同様の染色体DNA鎖に位置しているのが報告されている(J. Immunol. 163, 4651-4654, 1999、Science 285, 730-732, 1999)。そこで、上記DAP12ノックアウトマウスがDAP10遺伝子に影響を与えていないかどうかを調べるためにRT-PCR法を行った。上記DAP12+/+又はDAP12-/-マウス由来の骨髄マスト細胞(BMMC)から抽出した全RNA3μgと、逆転写酵素ReverTra Ace(TOYOBO社製)を用いて各cDNAを合成し、以下のプライマーを用いてPCR法により増幅させ、DAP10のシグナルを確認した。その結果、DAP12-/-マウスにおいてはDAP10の発現は正常だったが、DAP12mRNAの発現はみられなかった。上記DAP12に特異的なプライマーとしては、5'-atgggggctctggagccct-3'(配列番号1;P1)及び5'-tcatctgtaatattgcctct-3'(配列番号2;P2)を、DAP10に特異的なプライマーとしては、5'-atggaccccccaggcta-3'(配列番号3;P3)及び5'-tcagcctctgccaggca-3'(配列番号4;P4)を用いた。
【0020】
実施例1(DAP12ノックアウトマウスにおける神経細胞、ニューロフィラメント及びアストロサイトの状態)
生後3ヶ月齢のDAP12ノックアウトマウス(-/-)又は野生型マウス(+/+)を麻酔した後、酸-アルコール溶液(95%エタノール/酢酸5%;vol%)で潅流し、かかるマウスから脳を単離した後、酸-アルコール溶液で1晩固定し、固定した脳を標準プロトコルによりパラフィン処理(100%エタノール、メチルベンゾアート、キシレン、キシレンパラフィン、又はパラフィン溶液で各1~2時間ずつ処理する操作)を施しパラフィン包埋した。包埋した脳をミクロトームで10μmの厚さにスライスし、標準プロトコルによりデパラフィン処理(キシレン、100%エタノール、90%エタノール、70%エタノール、PBS)を施した。細胞内ペルオキシダーゼ活性を3%のH22で10分間抑制した後、再度PBSですすぎ、切片を0.5%のスキムミルク(DIFCO社製)を含む、1次抗体を含んだPBS中で37℃にて1時間処理した。その後、PBSで37℃にて3分間,3回振盪して洗い、100倍希釈のHRP標識抗ウサギIgG抗体(MBL社製)を含んだ0.5%のスキムミルク含有PBS中で37℃にて50分間2次抗体を作用させた。
【0021】
上記2次抗体により処理した切片をPBS中で37℃にて3分間,3回振盪して洗った後、文献(Neurosci. Res. 37, 21-31, 2000)記載の方法と同様にDAB(ディアミノベンチジン;和光純薬工業社製)を用いて免疫染色を行い視覚化した。また、1次抗体の変わりにメチルグリーンを用いて、上記脳切片をニッスル染色し対比した(図2a;Nissl)。それらの結果を図2(参考写真1参照)に示す。なお、図中のスケールバーは250μmを意味する。これらの結果から、DAP12ノックアウトマウス(-/-)と野生型マウス(+/+)における神経細胞(図2a;Nissl)、ニューロフィラメント(図2b;NF)及びアストロサイト(図2c;GFAP)では明らかな変化がみられなかった。
【0022】
実施例2(ミエリン塩基性タンパク質の減少及びDAP12-/-マウスにおけるCNSミエリン形成不全)
1次抗体としてウサギ抗マウスMBP抗体(ニチレイ社製)を用いて、実施例1と同様の方法により、図3b上部記載の脳の概略側面図における破線a(図3a)又は実線部分の冠状脳切片(図3b下図)を染色し視覚化した。その結果を図3a及びbに示す(参考写真2参照)。なお、図3a中のccは脳梁を、ecは外包を、icは内包を、fimはフィンブリアを、thlmは視床をそれぞれ意味し、スケールバーは250μmを意味する。また、図3bの上部図はマウスの概略側面図を示し、影部分は大脳を意味する。図3b中のcpは尾状核を、スケールバーは250μmを意味する。これらの結果から、3ヶ月齢のDAP12ノックアウトマウスにおいて、ミエリンの主要かつ特異的な構成要素であるミエリン塩基性タンパク(MBP)の染色が脳の一部で減少していること、特に視床において特異的な減少が強調されていた(図中の大きな矢頭)。
【0023】
上記視床においてみられたMBP染色の減少は、3ヶ月齢及び1.5ヶ月齢のDAP12ノックアウトマウスの後部領域よりも、尾状核を含む大脳前頭葉の方がより顕著であった。イムノブロット分析により、7ヶ月齢のDAP12ノックアウトマウス6匹の脳全体から調製したミエリン画片におけるMBPシグナルの平均強度は、野生型マウスの強度の74%であることがわかった。この結果から、中枢神経系(CNS)のミエリンにおけるMBP量が、成育した野生型マウスよりDAP12ノックアウトマウスの方が減少していること、特に神経細胞、ニューロフィラメント及びアストロサイトの欠損は伴わずに、大脳前頭葉及び視床において減少していることを強く示唆していた。ミエリンは軸索を取囲む多重層のラメラ膜構造であり、神経インパルスの伝達速度を増し、軸索にとって重要な絶縁体として機能することが良く知られている(Science 280, 1610-1613, 1998)。CNSではミエリンはオリゴデンドロサイトにより合成され、生まれてすぐミエリン鞘形成が起こる。また、ヒトNHD患者における多くの剖検では前頭で強調されるミエリンの欠損及び視床の衰退が示されている(Acta Psychiatr. Scand. Suppl. 232, 1-173, 1972、Neuropathol. Appl. Neurobiol. 26, 98-101, 2000)。
【0024】
MBP欠損マウス(shivererとして知られる)は、CNS軸索において、全身の震えとともにてんかん発作を伴う深刻なミエリン形成不全をもたらし、3ヶ月以内という早い時期に死亡に至ることが知られている(Neurosci. Lett. 12, 113-118, 1979)。成育したDAP12ノックアウトマウス(-/-)でみられたMBPの減少(図3a、b)は、かかる動物において、不完全なミエリン形成によるミエリン形成不全、又は通常の代謝回転機構や炎症などの他の理由による脱髄が原因だと考えられる。そこで次に3ヶ月齢のDAP12ノックアウト(-/-)マウスから大脳前頭葉の尾状核を採取し、1%のOs4を含む0.1Mのカコジル酸ナトリウム中で処理した後、エポン812で包埋し、極薄(85nm)の大脳切片をHitachiH-7100システムで分析してみた。その結果、ミエリン形成不全が明らかに生じていることが確認できた(図3c;参考写真2参照)。また、各ミエリン鞘の周期線(major dense line)を数えると、-/-マウスの多重層ミエリンラメラにおいて周期線が非常に減少していることがわかった(-/-マウス及び+/+マウスにおける平均±s.d.はそれぞれ6.98±3.16、8.64±3.31であった。n=128、「**」はP=0.0001を意味する)。一方、周期線に特にゆるみなど見られないことから(図3b上部記載の脳の概略側面図における破線b部分の冠状脳切片)、ラメラ構造はぎっしり詰まった層を形成しているのが確認でき(図3dの矢頭;参考写真2参照)、ランビエ絞輪周囲領域では-/-マウスにおける脱髄の徴候はみられなかった(図3eの矢頭;参考写真2参照)。なお、図3eは40,000倍で観測したものであり、図3d及びe中のスケールバーは250nmを意味する。
【0025】
実施例3(インビトロ及びインビボにおけるオリゴデンドロサイトでのDAP12タンパク質の発現)
脱髄とDAP12欠損との関係について、Palonevaらはノーザンブロット及びRT-PCR分析により、マウス由来のミクログリア細胞、アストロサイト及び神経細胞の初期培養におけるDAP12のmRNAの発現を明らかにしている(Nature Genet. 25, 357-361, 2000)。しかし、DAP12タンパク質が実際に上記細胞、及びCNSにおけるマクログリア細胞として分類されるオリゴデンドロサイトで発現するかどうかは明らかにされていない。そこで野生型マウス及びDAP12ノックアウトマウス由来の、初期培養によるオリゴデンドロサイトをイムノブロット法で分析した。なお、上記オリゴデンドロサイトの培養は以下に記載の方法で行った。
【0026】
マウス由来のオリゴデンドログリアの培養は文献(Cell 76, 519-529, 1994)記載の方法により行った。生まれたばかりの野生型マウス(+/+)とDAP12欠損マウス(-/-)の脳を細断し、分離培養法(J. Cell Biol. 85, 890-902, 1980)によりオリゴデンドログリアを調製した。一つの脳に対して、10%のウシ胎児血清(FBS)を含む約10mlのダルベッコ改変培地(DMEM)に細胞を播き、文献(Dev. Biol. 83, 311-327, 1981)記載の方法と同様にアストログリア単層に付着したオリゴデンドロサイトをorbital shakingにより分離し精製した。精製した細胞のうち95%以上の細胞がオリゴデンドロサイト特異的マーカーであるO4に対して陽性を示した。また、残りのアストロサイト細胞層をトリプシン/EDTAを用いて分離・精製した。このアストロサイト画分は、フローサイトメトリーにより、約20%がO4+オリゴデンドロサイトを含むことが確認できた。
【0027】
上記精製された野生型又はDAP12欠損マウスからオリゴデンドロサイト(Oligo)及びアストロサイト(Astro)をそれぞれ調製し、かかる細胞(1レーンあたり1×105細胞)から抽出したタンパク質を用いて実施例1と同様の方法によりイムノブロット分析を行った。なお、ポジティブコントロールとして参考例1で調製した骨髄マスト細胞(BMMC;5×105細胞)を用いた。その結果を図4aに示す(参考写真3参照)。図中の矢印はDAP12の位置を示す。このことから、野生型マウス由来のオリゴデンドロサイトにおけるDAP12のシグナル強度は、濃度計測によって同数のマスト細胞にほぼ匹敵しているのが確認でき、また、参考例記載の方法と同様にRT-PCR分析を行ったところ、オリゴデンドロサイト細胞のmRNAからDAP12のシグナルが検出された。
【0028】
前記精製した野生型マウス由来のオリゴデンドロサイトをマグネティックセルソーター(Miltenyi社製)及び抗O4モノクローナル抗体を用いてさらに精製し、得られたO4+細胞の細胞膜に小さな穴をあけ、その後精製したウサギ抗DAP12 IgG抗体(抗DAP12抗体)又はコントロールとしてのウサギIgG(コントロール)と、FITC標識抗ウサギIgG抗体とを用いて染色し、フローサイトメトリーにより分析した結果、O4抗原に陽性を示すオリゴデンドロサイトでDAP12が発現しているのが確認できた(図4b;参考写真3参照)。
【0029】
また、3ヶ月齢の野生型マウス(+/+)、10日齢(乳児期)の野生型マウス(+/+)、又は10日齢(乳児期)のDAP12ノックアウトマウス(-/-)由来の大脳におけるDAP12及びMBPに対する二重染色プロファイルを調べてみた。上記各マウスから実施例1と同様の方法により、脳切片(図3b上部記載の脳の概略側面図における破線a部分の冠状脳切片)を作製し、1次抗体として抗DAP12抗体を用いて4℃で1晩反応させ、2次抗体としてHRP標識抗ウサギIgG抗体を作用させた後DABで免疫染色した。染色後、脳切片をPBSで洗浄し、0.1Mのグリシン-HCl緩衝液(pH2.2)中で1時間攪拌することにより抗体を取り除き、続いて、1次抗体としてウサギ抗マウスMBP抗体を用い37℃で1時間反応させ、2次抗体としてHRP標識抗ウサギIgG抗体を作用させた後4-クロロ-1-ナフトール(和光純薬工業社製)で青色に染色した。その結果を図4c~eに示す(参考写真3参照)。なお、図4c中の矢頭はDAP12及びMBPで二重染色された細胞を示し、図4c~e中の各スケールバーは25μmを意味する。
【0030】
上記のことから、成育した3ヶ月齢の野生型マウスでは、脳梁(図4c)、フィンブリア、外包及び内包、視床(図5c及び参考写真4参照)等において、DAP12とMBPとの両方のタンパク質に対し強く陽性を示すことから、これらタンパク質が共発現していることがわかる。かかる領域においてMBP及びDAP12を発現する細胞を同定し(図4c)、成育したマウスのCNSにおけるオリゴデンドロサイトのDAP12発現がほとんどのMBP発現を伴うことがわかった。これに対して、10日齢のDAP12ノックアウトマウス由来の脳梁ではMBP染色における減少(図2d)も、10日齢の野生型マウスのCNSにおけるDAP12の共発現(図2e)も検出することができなかった。これらのことから、DAP12欠損状態では、発育中の脳における早期のミエリン鞘形成は正常であり、DAP12発現は発育段階に応じて制御を受けていることが示唆され、DAP12ノックアウトマウスではミエリン低形成は発育後期の、遅くとも1.5ヶ月までに起こると考えられる。
【0031】
実施例4(DAP12発現とミエリン形成とのカップリング)
3ヶ月齢のDAP12ノックアウトマウス(-/-)(図5a;参考写真4参照)又は野生型マウス(+/+)(図5b及びc;参考写真4参照)から内包(ic)及び視床(thlm)領域を含む脳切片を作製し(図3b上部記載の脳の概略側面図における破線a部分の冠状脳切片)、MBPの発現(図5a及びb)、又はMBP及びDAP12の発現(図5c)を調べてみた。なお、MBPの発現は実施例2と同様の方法で、MBP及びDAP12の発現は実施例3と同様の方法により調べた。その結果を図5に示す(参考写真4参照)。なお、図中の矢頭は大脳の内包を、*印はDAP12陽性領域をそれぞれ示し、スケールバーはそれぞれ100μmを意味する。これらの結果から、3ヶ月齢(図5a)及び1.5ヶ月齢のDAP12ノックアウトマウス(-/-)において、多くのMBP陽性オリゴデンドロサイトが大脳の内包(図5a中の矢印)、フィンブリア及び視床などの幾つかの領域で確認できた。一方、成育した野生型マウス(+/+)の脳におけるオリゴデンドロサイト細胞は、非常に多くのMBP陽性樹状突起が発達しているため、低倍率ではMBP染色により同定することがほとんどできなかった(図5b)。しかし、野生型マウスにおけるDAP12の染色強度は内包領域において最も顕著であった(図5c中の矢頭)。かかる領域は、DAP12ノックアウトマウスではオリゴデンドロサイト細胞群が位置していた(図5a)。これに対して、野生型マウス(図5c中の*印)においてDAP12が強く発現する領域は、DAP12ノックアウトマウス(図5a*印)ではMBPの発現が弱いことが確認できた。これらのことは、オリゴデンドロサイトによるミエリン鞘形成がDAP12の発現と密接に関係しているということを強く示唆している。DAP12ノックアウトマウスでは、野生型マウスにおいてミエリン鞘形成を進行させるオリゴデンドロサイトが、活性化されていなかった。以上のことから、CNSにおけるDAP12は、後発育期段階及び維持期段階におけるミエリン鞘形成の活性化において重要な役割を果たしていると考えられる。
【0032】
実施例5(DAP12ノックアウトマウスにおける感覚運動のゲーティングの欠損)
視床は脳の中で最も重要な領域の1つで、全ての感覚器官からの刺激を取り込み、神経伝達の調節により次の反応を決定している。それゆえ、DAP12ノックアウトマウスの視床における特異的なミエリン形成不全は、行動上の欠陥を引き起こすが、本実験で用いたDAP12ノックアウトマウスの行動は正常であった。興味深いことに、以前の文献(Rinsho Shinkeigaku 32, 444-446, 1992)で、NHD患者のMRIにより、視床及び被殻において信号の強度が減少することが報告されている。そこで、5ヶ月齢のDAP12ノックアウトマウスにおける聴覚性驚愕反応及びプレパルス抑制を調べてみた。なお、聴覚性驚愕反応(左図)及びプレパルス抑制(右図)の概略図を図6aに示す。マウスの聴覚性驚愕反応はSR-LABシステム(San Diego Instruments社製)によって測定し、チャンバー内のバックグランドのノイズレベルは65dBで行った。最初の反射刺激を与える10分前に野生型マウス(+/+)又はDAP12ノックアウトマウス(+/+)をシリンダーに入れ、バックグラウンドのノイズで順応させた。驚愕反応の振幅を驚愕刺激開始から100msec間だけ記録し、驚愕反応の最大振幅を計測した。聴覚性驚愕反応の測定における実験では、8種類の異なる驚愕刺激(70、75、80、85、90、100、110、又は120dB;20msec間の刺激)を与え、同じ順序で各刺激を5回繰り返した。なお、実験は平均40秒の間隔をおいて行なった。その結果を図6bに示す。なお、図6b中の測定値は平均±s.e.m.(n=10、「*」はP<0.05を意味する)で表した。図6bに示すように、DAP12ノックアウトマウスは野生型マウスに比べ、全体的に有意に低レベルの驚愕反応を示した[F(1、18)=5.790、P<0.05]。また、この差は主として100及び110dBにおける驚愕反応の低下によりもたらされることが分かった。このことから、5ヶ月齢のDAP12ノックアウトマウスが聴覚性刺激に対して異常な反応を示すことがわかった。
【0033】
聴覚性プレパルス抑制の測定における実験では、各セッションは7種類の異なった刺激から構成されており、無刺激、驚愕刺激のトライアルのみ、又はプレパルスを驚愕刺激に先行させたが、どの刺激においてもマウスの反応はみられなかった。2種類の驚愕としては、100又は120dBで20msec間驚愕刺激した。なお、驚愕刺激の開始前に、4種類の異なる聴覚性プレパルスと聴覚性驚愕刺激との組み合わせを100msecで行った。各20msecのプレパルス刺激(70又は80dB)は、両方の聴覚性驚愕刺激の前に与えた。7種類の異なる刺激は9回ランダムに与え、トライアルは平均40秒の間隔をおいて行なった。驚愕反応のプレパルス抑制の割合を下の式で求めた。この結果を図6cに示す。なお、結果はTwo-way ANOVAを用いて繰り返し測定してデータを分析し、Two-way ANOVAの繰り返し測定で決定させ、グループ間の違いをStudent's t-testにより求め、平均±s.e.m.(n=10、「*」はP<0.05を意味する)で表した。その結果、DAP12ノックアウトマウスは有意に低い抑制レベルの聴覚性プレパルス抑制を示しており[F(1、18)=5.061、P<0.05]、この効果は100dBの驚愕刺激において特に観察された。
【0034】
【数1】
JP0005010784B2_000002t.gif【0035】
聴覚性驚愕反射作用は単純な神経回路として知られており、視床からのインプットを受け取り、広い範囲の皮質、中脳、又は後脳の中枢から発生するものである。弱いプレパルスによって驚愕反応を修飾させた驚愕反応のプレパルス抑制は感覚運動ゲーティングの評価系であり、この評価は、生物が視床を経た情報の流れを選別し、その後の行動の閾値を決めているCNSでの中枢抑制過程の理論上の回路(J. Neurosci. 12, 4501-4509, 1992、Brain Res. 499, 7-17, 1989、Brain Res. Bull. 43, 219-228, 1997)と一致している(図4d)。感覚運動ゲーティングの欠陥は、痴呆、精神分裂病、精神分裂病人格障害、強迫症状群、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群等のヒト神経精神病障害の数例でみられる感覚過敏、認知分断及び注意欠陥を引き起こす。従って、DAP12ノックアウトマウスは、視床に特異的なミエリン形成不全によって、驚愕反応の低下及び感覚運動ゲーティング障害を引き起こすと考えられる。また、DAP12ノックアウトマウスが、年老いたとき、その行動や学習能力がより深刻な異常に発展するという可能性も考えられるが、5ヶ月齢でヒトの精神分裂病に似た精神異常症状を示すことが明らかとなった。
【0036】
【発明の効果】
本発明のミエリン形成発達障害モデル非ヒト動物は、中枢神経系のミエリン形成に発達障害をきたすモデルや、ミエリン形成過程を研究するモデルや、ミエリン形成異常により生ずる痴呆症等の精神神経障害の発症過程を研究するモデル等に有用であり、またかかる実験モデル動物を用いると、那須-ハコラ病、痴呆、精神分裂病、精神分裂病人格障害、強迫症状群、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群等の精神神経障害に至るメカニズムを解析し、精神神経障害の進行の予防方法や精神神経障害の治療方法を開発することができる。
【0037】
【配列表】
JP0005010784B2_000003t.gifJP0005010784B2_000004t.gifJP0005010784B2_000005t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のDAP12ノックアウトマウスと野生型マウスの遺伝子地図と、各マウスにおけるPCR法及びサザンブロット法の結果を示す図である。
【図2】本発明のDAP12ノックアウトマウスと野生型マウスにおける神経細胞、ニューロフィラメント及びアストロサイトの状態を示す図である。
【図3】本発明のDAP12ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるミエリン塩基性タンパク質の減少及びCNSミエリン形成不全についての結果を示す図である。
【図4】本発明のDAP12ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるインビトロ及びインビボにおけるオリゴデンドロサイトでのDAP12タンパク質の発現についての結果を示す図である。
【図5】本発明のDAP12ノックアウトマウス及び野生型マウスにおけるDAP12発現とミエリン形成についての結果を示す図である。
【図6】本発明のDAP12ノックアウトマウス及び野生型マウスにおける感覚運動のゲーティングについての結果を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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