TOP > 国内特許検索 > 細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法 > 明細書

明細書 :細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-051138 (P2017-051138A)
公開日 平成29年3月16日(2017.3.16)
発明の名称または考案の名称 細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法
国際特許分類 C12M   1/42        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
C12N   1/00        (2006.01)
FI C12M 1/42
C12M 1/00 A
C12N 5/071
C12N 1/00 B
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2015-178107 (P2015-178107)
出願日 平成27年9月10日(2015.9.10)
発明者または考案者 【氏名】秋山 佳丈
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B065
Fターム 4B029AA02
4B029AA08
4B029CC02
4B029DG10
4B029GB10
4B065BD22
4B065BD40
4B065CA60
要約 【課題】 3次元的なパターニングを含め、様々な形態に細胞をパターニングすることができる細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るスフェロイド作製装置は、磁性化合物を添加した培養液20と細胞22とを収容する容器10と、容器10に収容された細胞22を含む培養液20に磁力を作用させる磁場印加手段12とを備え、前記磁場印加手段12は、磁力を発生する手段と、該磁力を発生する手段により前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる位置を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
磁性化合物を添加した培養液と細胞とを収容する容器と、
該容器に収容された前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる磁場印加手段とを備え、
前記磁場印加手段は、磁力を発生する手段と、
該磁力を発生する手段により前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる位置を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする細胞パターニング装置。
【請求項2】
前記磁力を発生する手段が、単一または複数組からなる永久磁石または電磁石であり、
前記制御手段が、前記永久磁石または電磁石の位置を前記容器に対し相対的に移動させる移動手段であることを特徴とする請求項1記載の細胞パターニング装置。
【請求項3】
前記磁力を発生する手段が、複数個の電磁石を整列して配置して構成され、
前記制御手段が、整列して配置された電磁石のうちの単数または複数の電磁石を選択的に通電する操作を制御して、前記電磁石が配置された領域内における磁力の発生位置を制御するものであることを特徴とする請求項1記載の細胞パターニング装置。
【請求項4】
磁性化合物を添加した培養液と細胞とを収容する容器と、該容器に収容された前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる磁場印加手段とを備え、前記磁場印加手段は、磁力を発生する手段と、該磁力を発生する手段により前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる位置を制御する制御手段とを備える細胞パターニング装置を用いる細胞をパターニング方法であって、
前記容器に細胞を播種する工程と、前記磁場印加手段により前記容器中で細胞をパターニングする工程と、パターニング後の細胞を培養する工程とを、細胞をパターニングする単位工程とし、
この単位工程を繰り返して細胞の三次元組織を形成することを特徴とする細胞パターニング方法。





発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法に関し、より詳細には細胞を任意の組織形態に形成する細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療,創薬スクリーニングやガンなどの病理研究においては、細胞を培養する技術はきわめて重要な基礎技術である。従来の細胞培養は、単純に培養容器の底面で平面的に行われてきたが、それらの細胞は、生体内の細胞と比べ機能発現が低く、振る舞いも異なることが分かってきている。そこで,細胞機能が高めるため、ゲル内での3次元培養や異種細胞との共培養などより生体内に近い状態で培養する技術が必要となる。
スフェロイドは細胞が多数個凝集して塊状となった細胞の凝集体であり、細胞のスフェロイド培養は,従来の平面での培養に比べ、細胞の機能発現を促進することが知られており、,新しい細胞培養方法のスタンダードとして注目されている。
本発明者は、培養液中において細胞を特定のパターンのスフェロイドの形態として作製する方法として、磁性化合物を添加した培養液に細胞を加え、培養液と細胞とを収容した容器に外部から磁場を作用させることにより特定のパターンのスフェロイドを作製する方法を提案した(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に示したスフェロイド作製方法は、磁性化合物を添加した培養液に細胞を加えることにより、細胞が磁性的に反磁性体として作用すること(磁気アルキメデス効果)を利用してパターンニングする方法である。溶媒中の粒子が受ける磁力は、溶媒と粒子との磁化率の差によって決定される。培養液に磁性化合物を添加したことにより、培養液中で細胞が反磁性体として作用する理由は、細胞の磁化率が溶媒の磁化率よりも小さくなり、外部磁界に対して細胞は相対的に反磁性体として作用する。
【0004】
特許文献1においては、培養液と細胞とを収容した容器を、平面形状が矩形で厚さ方向に着磁された永久磁石をN-S面が交互となるように格子状に配列した上に配置することにより、各々の永久磁石の頂点部分に細胞が凝集させ、スフェロイドを格子点配列とするスフェロイドの作製方法が示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2012-65555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁界を利用して細胞を非接触でハンドリングする従来方法は、細胞を磁性粒子により標識する方法である。磁性化合物を添加した培養液を使用し細胞を反磁性体として作用させてスフェロイドをパターニングする方法は、細胞から磁性粒子を取り除くといった必要がなく、完全にラベルフリーであり、非接触で大量の細胞を扱うことができるという利点がある。
【0007】
しかしながら、細胞培養技術をより広範囲に適用できるようにするには、従来のような静的なパターニングではなく、様々な組織形態に対応して細胞をパターニングすることができる、いわば動的なパターニングを可能にする必要がある。
本発明は、3次元的なパターニングを含めた様々な形態に細胞をパターニングすることを可能にする細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る細胞パターニング装置は、磁性化合物を添加した培養液と細胞とを収容する容器と、該容器に収容された前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる磁場印加手段とを備え、前記磁場印加手段は、磁力を発生する手段と、該磁力を発生する手段により前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる位置を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
容器に収容されている細胞を含む培養液に対して磁力を作用させる位置を制御する制御手段とは、容器と磁力を発生する手段との間の相対的な位置を制御する手段であって、容器を固定した状態で永久磁石や電磁石といった磁力を発生する手段を移動させてもよいし、磁力を発生する手段を固定した状態として、容器を移動させてもよい。また、原理的には容器と磁力を発生する手段の双方を移動させることにより、細胞に作用する磁力の作用位置を移動させる(変化させる)ことも含む。
【0010】
前記磁場印加手段としては、前記磁力を発生する手段を、単一または複数組からなる永久磁石または電磁石とし、前記制御手段を、前記永久磁石または電磁石を前記容器に対し相対的に移動させる移動手段とすることもでき、前記磁力を発生する手段を、複数個の電磁石を整列して配置して構成し、前記制御手段を、整列して配置した電磁石のうちの単数または複数の電磁石を選択的に通電する操作を制御することにより、電磁石が配置された領域内における磁力の発生位置を制御する構成とすることもできる。
【0011】
なお、細胞を含む培養液に磁力を作用させる磁力の発生手段を配置する位置は、培養液を収容する容器の外部と内部のいずれであってもよい。
容器の外側に磁力の発生手段を配置する場合には、容器の下方(底面側)や容器の側方、上方に配置して培養液に磁力を作用させる位置を制御することができる。
また、容器内に磁力の発生手段を配置する場合には、磁石の外面を保護するといった保護手段を設けて培養液や細胞に磁力以外の影響が及ばないようにし、磁力の発生手段を移動させる際に、培養液の流れによって細胞のパターニングが阻害されないように、十分に遅い速度で磁力の発生手段を移動させて細胞をパターニングする。
【0012】
本発明に係る細胞パターニング方法は、磁性化合物を添加した培養液と細胞とを収容する容器と、該容器に収容された前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる磁場印加手段とを備え、前記磁場印加手段は、磁力を発生する手段と、該磁力を発生する手段により前記細胞を含む培養液に磁力を作用させる位置を制御する制御手段とを備える細胞パターニング装置を用いて細胞をパターニングする方法であって、前記容器に細胞を播種する工程と、前記磁場印加手段により前記容器中で細胞をパターニングする工程と、パターニング後の細胞を培養する工程とを、細胞をパターニングする単位工程とし、この単位工程を繰り返して細胞の三次元組織を形成することを特徴とする。
この細胞パターニング方法によれば、単位工程をさまざまに組み合わせることにより、種々の3次元形態の細胞組織を作製することができる。
【0013】
本発明に係る細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法においては、細胞を培養する培養液に磁性化合物を添加し、この磁性化合物を添加した培養液に細胞を播種することにより、磁場を印加した環境下において細胞が反磁性体として作用すること(磁気アルキメデス効果)を利用している。
磁気アルキメデス効果は次式の溶媒中の粒子に作用する磁力F(ベクトル)によって説明される。
【数1】
JP2017051138A_000003t.gif
ただし、χpは細胞の磁化率、χmは培養液の磁化率、Vは細胞の体積、μ0は真空の透磁率、Bは磁束密度(ベクトル)である。
【0014】
上式で、通常の培養液中に細胞が存在する場合を考えると、細胞と培養液はともに磁化率はゼロに近く(χp≒0、χm≒0)細胞に作用する磁力は無視することができる。しかし、培養液に磁性化合物を添加してχm>0となるように設定すると、細胞の磁化率χpはほぼ0であるから、χp-χm<0となり、係数がマイナスとなって、細胞は反磁性体として振る舞うことになる。
磁性化合物を添加した培養液に播種した細胞に磁力を作用させると、細胞は磁力の作用によって反発され、磁力が弱い領域に集まるようになる。すなわち、磁力の作用を利用して細胞を特定の領域に集めたり、特定のパターンに配置する(パターニング)することが可能となる。
【0015】
培養液に添加する磁性化合物は、使用上の安全性(細胞に対する毒性等)を考慮して選択する。培養液に添加する磁性化合物としては、例えばガドリニウム化合物を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る細胞パターニング装置及び細胞パターニング方法によれば、さまざまな形態に細胞をパターニングすることができ、細胞を培養する種々の用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】細胞パターニング方法の第1の実施の形態の構成を示す説明図である。
【図2】細胞パターニング方法の第2の実施の形態の構成を示す説明図である。
【図3】容器内において、第1層目と第2層目の細胞を配列した状態を正面方向から見た説明図である。
【図4】蛍光ポリスチレン微粒子を分散させた培養液を収容した容器を磁石アレイの上に配置した状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る細胞パターニング方法の第1の実施の形態の構成例を示す。図1に示す細胞パターニング装置は、磁性化合物を含む培養液と細胞とを収容する容器10と、容器10の底部の下方に配置される磁場印加手段とを備える。磁場印加手段は永久磁石のような磁力を発生するための手段と、容器10の底部の全面にわたって磁場を印加する位置を制御する制御手段を備える。

【0019】
細胞パターニング装置の磁場印加手段としては、たとえば磁力を発生する手段として永久磁石を使用し、永久磁石をX-Yステージ等の移動手段に支持することにより、容器の下方で磁場を印加する位置を任意に制御することができる。
図1(b)は、磁場印加手段として棒状の永久磁石12を使用し、移動手段により容器10の底部の下方で永久磁石12を移動させることにより磁場を印加する位置を変える例を示す。図1(b)では、永久磁石12の容器10の底面に対向する磁極をN極としているが、永久磁石12のS極を容器10の底面に対向させる配置としてもよい。

【0020】
磁場印加手段は永久磁石のような磁力を発生する手段と、磁場を印加する位置を制御する制御手段とを備える。
磁力を発生する手段としては永久磁石のように固定した磁力を備えるものの他に、電磁石等の磁力の強さが可変となる磁力の発生手段を利用して、作用する磁力の強さを制御することもできる。
磁場を印加する位置を制御する制御手段としては、単一の永久磁石等の磁力を発生する手段そのものを移動させる方法を利用するものの他に、複数個の永久磁石をN、S極を交互配置した組み合わせた形態のものを移動させる方法も可能である。
また、容器10の下方に多数個の小さな電磁石をマトリックス状に整列して配置し、通電する電磁石を選択することにより、磁場を印加する位置を選択するといった方法を利用することもできる。

【0021】
磁場を印加する位置を制御する制御手段としては、容器の下方の平面内における位置を制御する他に、容器と磁力を発生する手段との離間距離(Z方向距離)を制御する手段を備えることも可能である。容器と磁力を発生する手段との離間距離を制御することにより、容器(培養液、細胞)に作用する磁力の強さを制御することができる。

【0022】
図1(a)、(b)、(c)は、磁場印加手段である永久磁石12を用いて培養液中の細胞をパターニングする方法を示す。
図1(a)は、容器10に磁性化合物を含む培養液20を収容し、容器10の開口側である容器10の上方から細胞22を播種している状態である。容器10の開口部から磁性化合物を含む培養液20に播種された細胞22は、培養液20の表面側から徐々に容器10の底面に向けて沈降する。細胞22の沈降は重力の作用による。

【0023】
磁性化合物を含む培養液20に播種された細胞22は外部から作用する磁場に対しては反磁性体として作用する(磁気アルキメデス効果)。図1(b)は、容器10の底部に磁場印加手段として永久磁石12を近づけることにより、永久磁石12の磁力によって細胞22を反発させ、永久磁石12から遠ざけるようにしている状態を示す。
容器10の上方から培養液20中を沈降した細胞22は、永久磁石12の磁力によって反発され、容器10の底側から上向きに押し除けられる(弾き飛ばされる)。

【0024】
図1(b)は、容器10の下方で永久磁石12を左右に動かすことで、容器10の左側の壁面側に沈降してきた細胞22を永久磁石12の磁力で弾き飛ばし、底に沈降させないようにしながら、右側へ向けて細胞22を徐々に押しやるようにする操作を行っている状態である。
このように、容器10の下方で永久磁石12を操作することにより、培養液20に播種した細胞22を徐々に容器10の右側に集めることができる。
図1(c)は、培養液20に播種した細胞22を、永久磁石12の磁力を利用して、最終的に、容器20の右側の壁面の近くに集めた(パターニングした)状態を示す。

【0025】
図1(a)、(b)、(c)は、永久磁石12の磁力により、培養液20中で反磁性体として作用する細胞22が反発される作用を利用して、容器10の一方側に細胞22を凝集させた例である。
このように、培養液20中で細胞22が反磁性体として作用し、磁力で反発される作用を利用して細胞をパターニングする操作は、培養液20中で、磁力が強い領域から磁力が弱い領域に細胞22が移動するという作用による。したがって、容器10の平面内において磁力の強さが強弱となるように設定することで、磁力がより弱い領域に細胞22を誘導して細胞22を集める位置を設定することができる。言い換えれば、容器10の平面領域内で磁力の強さの勾配を設け、磁力の勾配を動的に操作することにより、細胞22を所望の配置に移動させ所定配置に細胞をパターニングすることができる。

【0026】
細胞22を含む培養液20に対して磁力を印加する位置を自在に選択して制御することができる磁場印加手段を利用すれば、図1に示すように、単に容器10の一方側に細胞22を凝集させる例に限らず、培養液中における細胞の位置を自由にコントロールすることができる。言い換えれば、磁場印加手段を利用することで、細胞の配置を自在にコントロールして、スフェロイドを自在にパターニングすることが可能となる。
培養液中の細胞を磁気的に反発させてパターニングする方法におけるパターニングの精度は磁力を発生する手段(磁石)のサイズに依存すると考えられる。したがって、細胞を高精度に(精細)にパターニングできるようにするには、磁力を発生する手段を出来るだけ微小サイズとする必要がある。しかし、重力により細胞にかかる沈降力は1pN弱であり、細胞を操作しパターニングするためには、それを越える磁力を与える必要があることから、少なくとも磁石は500μm程度のサイズとする必要がある。また、磁力を作用させる位置を位置制御する制御手段のコントロール方法についても高精度に設定する必要がある。

【0027】
(第2の実施の形態)
磁性化合物を添加した培養液と細胞とを容器に収容し、磁場印加手段により細胞を含む培養液に対して磁力を作用させることにより細胞の凝集位置を制御する方法を利用すれば、容器内で種々の形態に細胞をパターニングすることができる。

【0028】
図2は、第1層目として、容器10の底面の全面に細胞を均一に配置されるように形成し(図2(a))、第2層目については、細胞を並列した列状に配置し(図2(b))、第3層目については、列方向と第2層目とは90度変えた向きに配置する操作を行った例(図2(c))を示す。

【0029】
容器10の底面に均一に細胞22を配置する第1層目を形成するには、容器10に磁性化合物を添加した培養液を収容し、容器10の上部の開口面から細胞22を播種すればよい。培養液に播種された細胞22は重力の作用によって容器10の底面に向けて沈降し、容器10の底面に均一に配列される。図2(a)は、容器10の底面に均一に細胞22aが配列された状態を示す。

【0030】
容器10の底面に細胞22aが均一に配置された状態で一定時間、細胞22aを培養すると、細胞22aは容器10の底面に接着する。細胞22aが容器10の底面に接着した後、第2層目の細胞をパターニングする操作を行う。
細胞を並列した列状(帯状)に配置する方法としては、図2(b)に示すように、容器10の底面の下方に、長手方向の長さが容器10の底面を横切る長さとした板状の永久磁石を、厚さ方向に着磁し、異極の面を対向させる配置(吸着し合う配置)として永久磁石を連結する配置とし、この状態で容器10の開口面から細胞22を播種すればよい。
容器10に作用させる磁力の発生手段を板状の永久磁石をN極とS極が交互に配置した構成としたことにより、N極とS極の磁極端面の長手方向に沿って細胞22bが配列される。

【0031】
図3に、第1層目と第2層目の細胞を配列した状態を正面方向から見た状態を示す。
図3(a)は、容器10の底面に細胞22aが均一に配列されて培養された状態を示す。
図3(b)は、容器10の底面に細胞22aを均一に配列した状態で培養した後、第2層目の細胞22bを配列した状態を示す。容器10の下方に、厚さ方向に着磁した(隣り合った永久磁石の対向面が磁極となる)永久磁石が並列に配置されている。

【0032】
図3(b)に示すように、永久磁石を並列に配置すると、隣り合った永久磁石の境界面付近の磁力が強くなり、各々の永久磁石の中央部付近の磁力が相対的に弱くなって、培養液20に播種した細胞は、各々の永久磁石の中央部に集まり、永久磁石の中央部で長手方向に沿って細胞22bがパターニングされる。すなわち、図2(b)に示すように、永久磁石の長手方向に沿って第2層目の細胞22bが配列される。細胞22bは、各々の永久磁石のN極とS極の中間位置付近で凝集する。

【0033】
図2(c)は、第3層目の細胞をパターニングする状態を示す。第3層目の細胞のパターニングは、図2(b)での永久磁石の配置方向を平面内で90度回転することで行っている。図2(b)における永久磁石の向きを90度変換して培養液20に細胞を播種することにより、第3層目では、第2層目での細胞22bが配列される方向とは90度、配列方向が異なる配置で細胞22cがパターニングされる。すなわち、第2の層目の細胞22bと第3層目の細胞22cとで、平面方向からみて格子状に細胞22bと細胞22cがパターニングされる。

【0034】
第3層目の細胞22cを配列する場合も、第2層目の細胞22bをパターニングした後、一定時間、細胞22bを培養することにより細胞22bを相互に接着させた後、パターニングする。
細胞を培養することによって得られる細胞間の接着力は数μNである。これに対して、本発明における磁場印加手段によって細胞を操作するときに細胞に作用する磁力は1nN以下であり、細胞の接着力に対して磁力による操作力ははるかに小さい。したがって、既に接着している細胞を剥離させるといった影響を及ぼすことなく細胞をパターニングすることができる。

【0035】
図2、3に示す細胞のパターニング方法は、細胞を形成した面上に、細胞をパターニングする操作を繰り返すことにより、細胞を3次元的にパターニングする例を示す。
この例のように、容器に細胞を播種する工程と、磁場印加手段により容器中で細胞をパターニングする工程と、パターニング後の細胞を培養する工程とを、細胞をパターニングするための単位工程とし、この単位工程を繰り返すことにより、細胞の三次元組織を形成することができる。
磁場印加手段を利用して細胞をパターニングする方法によれば、磁力の発生手段や、磁力の発生手段を制御する制御手段を用途に応じて適宜設計することにより、さまざまな形態の細胞の三次元組織(スフェロイド)を作製することができる。

【0036】
細胞の培養に用いられる培養液には、一般に動物細胞の培養に用いられる培地、たとえば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Mem-α、RPMI1640等を使用することができる。培養液には、細胞の増殖を促進するための血清を添加するか、あるいは血清に代替するものとして、例えばFGF、EGF、PDGF等の細胞増殖因子やトランスフェリン等の既知の血清成分を添加してもよい。なお、血清を添加する場合の濃度は、そのときの培養状態によって適宜変更することができるが、通常10v/v%とすることができる。細胞の培養には、通常の培養条件、例えば37℃の温度で5% CO2濃度のインキュベーター内での培養が適用される。

【0037】
培養液に添加する磁性化合物としては、塩化第一鉄、塩化マンガン、ガドリニウム錯体、テルビウム錯体などを挙げることができる。この他に、培養液に溶解しないが分散状態となっている磁性ナノ粒子のコロイド溶液等を用いることも可能である。これらのうち、細胞毒性等の観点からガドリニウム化合物を用いることが好ましく、ガドリニウムとキレート化合物との錯体、例えば、DTPAでキレート化された3価ガドリニウム(Gd(III))(Gd-DTPA)またはDOTAでキレート化された3価ガドリニウム(Gd(III))(Gd-DOTA)、HP-DO3Aでキレート化された3価ガドリニウム(Gd(III))Gd-HP-DO3Aが好適に用いられる。これらの磁性化合物の使用濃度は、使用する磁性化合物によって異なるが、Gd-DTPAを用いる場合は、10mM以上とすることが好ましく、細胞毒性の観点から1mM~40mMとするのがよい。

【0038】
本発明に係る細胞パターニング方法が適用可能な細胞としては、特に制限はなく、肝臓、膵臓、腎臓、神経、皮膚、血管,脂肪等から採取される初代細胞や、各種の因子を導入して得られた初期化したiPS細胞(induced pluripotent stem cells、人工多能性幹細胞)、未分化な幹細胞、胚由来のES細胞(Embryonic Stem Cell)、樹立されている株化細胞、またはこれらに遺伝子操作等を施した細胞等である。

【0039】
(実験例)
板状の磁石を並列に配置した磁力の発生手段(磁石アレイ)を用いて細胞をパターニングする例として、下記の実験を行った。
40mMのGd-DOTAを含むD-PBS(Dulbecco's Phosphate-Buffered Saline)に、密度および磁化率が細胞に近い蛍光ポリスチレン微粒子を分散した液を、内寸10×10×10mmのガラス容器(底面の厚みは、0.2mm程度)に注入した。
この液を注入したガラス容器を、磁石アレイ上に設置して蛍光ポリスチレン微粒子のパターニングを行った。
磁石アレイには,ネオジム磁石(30mm×5mm、厚さ1mm、厚さ方向に磁化)15枚を、図3と同様にNS極が向かい合うように並べたものを用いた。
図4は、磁石アレイの上にガラス容器を置いて1時間経過した後の状態である。蛍光ポリスチレン微粒子がライン状に配列している。図4で明るいライン状に見える部分が蛍光ポリスチレン微粒子が配列されている部位である。
この実験結果は、磁力の発生手段を用いて培養液中で細胞をパターニングすることができることを示している。

【0040】
前述した第1の実施形態、第2の実施形態においては、培養液を収容した容器の下方に永久磁石を配置して細胞をパターニングしたが、磁力の発生手段は必ずしも容器の外側に配置しなければならないものではなく、容器内に磁力の発生手段を配置して細胞をパターニングすることも可能である。
ただし、容器内に磁力の発生手段を配置する場合は、永久磁石に錆が生じないように防錆処理を施した磁石を使用したり、永久磁石の移動によって生じる培養液の流れにより細胞をパターニングする操作が影響を受けないように、十分に遅い速度で永久磁石を移動させるといった必要がある。
磁力の発生手段を利用して細胞をパターニングする方法では、磁力が作用する範囲が数mm程度に限定されるから、高さ方向に10mmを超えるような細胞のアセンブリが困難である。このような大きな細胞の凝集体を作製する場合や、高さのある構造体として細胞をパターニングする場合には、細胞に近接した位置で磁力を作用させることが可能な、容器内において、磁力の発生手段の移動を制御しもしくは細胞に作用させる磁力を制御することが有効である。
【符号の説明】
【0041】
10 容器
12 永久磁石
20 培養液
22、22a、22b、22c 細胞


図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3