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明細書 :植物細胞分裂抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-145218 (P2017-145218A)
公開日 平成29年8月24日(2017.8.24)
発明の名称または考案の名称 植物細胞分裂抑制剤
国際特許分類 A01N  43/08        (2006.01)
A01P  21/00        (2006.01)
FI A01N 43/08 B
A01P 21/00
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2016-028537 (P2016-028537)
出願日 平成28年2月18日(2016.2.18)
発明者または考案者 【氏名】植田 美那子
【氏名】南保 正和
【氏名】栗原 大輔
【氏名】桑田 啓子
【氏名】大川 妙子
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4H011
Fターム 4H011AB01
4H011AB03
4H011BB08
要約 【課題】植物細胞分裂抑制剤を提供すること。
【解決手段】フラン環を有するトリアリールメタン誘導体を含有する、植物細胞分裂抑制剤。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式(1):
【化1】
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[式中、Rはフリル基を示し;R及びRは同一又は異なってアルキル基を示し;m及びnは同一又は異なって0又は1~5の整数を示す。]
で表わされる化合物、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、植物細胞分裂抑制剤。
【請求項2】
アルキル基の炭素数が1~4である、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
m及びnが同一又は異なって0又は1である、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
m及びnの少なくとも一方が0である、請求項1~3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
双子葉植物細胞分裂抑制剤である、請求項1~4のいずれかに記載の剤。
【請求項6】
農園芸用製剤として用いられる、請求項1~5のいずれかに記載の剤。
【請求項7】
研究試薬として用いられる、請求項1~5のいずれかに記載の剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物細胞分裂抑制剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物細胞分裂の抑制手段は、農業に関する種々の目的、例えば収穫期後の育ち過ぎを避ける目的や、厳しい生育条件下において休眠を与える目的において、極めて重要な手段となり得る。また、そのような手段は、基礎研究において、例えば分裂イベントの時空間制御を解析する目的においても、重要である。しかしながら、既存の手段は、細胞に異常を引き起こしたり、分裂抑制を不可逆的に起こしたりしてしまうので、その利用が制限されている。例えば、オリザリン、プロピザミド、コルヒシン等の微小管阻害剤は、多様な植物種における細胞分裂を効果的に抑制するものの、S期のDNA合成を止めずにM期のDNA分離を妨げるため、倍数体細胞を生成してしまう(非特許文献1~5)。また、紫外線も植物細胞増殖を抑制するが、これはDNAを破壊してしまうので、抑制効果が不可逆的となる可能性がある(非特許文献6~7)。
【0003】
一方、動物細胞においては、抗がん剤として種々の細胞分裂抑制剤が開発されており、例えばトリアリールメタンの各種誘導体が細胞分裂を抑制することが報告されている(非特許文献8~9)。一例として、S-トリチル-L-システイン(STLC)は、キネシンEg5を標的としており、M期で細胞を停止させることが知られている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2015/064584号
【0005】

【非特許文献1】Akashi, T., Izumi, K., Nagano, E., Enomoto, M., Mizuno, K. and Shibaoka, H. (1988) Effects of Propyzamide on Tobacco Cell Microtubules In Vivo and In Vitro. Plant & cell physiology, 29, 1053-1062.
【非特許文献2】Liu, B., Joshi, H.C. and Palevitz, B.A. (1995) Experimental manipulation of gamma-tubulin distribution in Arabidopsis using anti-microtubule drugs. Cell motility and the cytoskeleton, 31, 113-129.
【非特許文献3】Eigsti, O.J. (1938) A Cytological Study of Colchicine Effects in the Induction of Polyploidy in Plants. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 24, 56-63.
【非特許文献4】Kermani, M.J., Sarasan, V., Roberts, A.V., Yokoya, K., Wentworth, J. and Sieber, V.K. (2003) Oryzalin-induced chromosome doubling in Rosa and its effect on plant morphology and pollen viability. TAG. Theoretical and applied genetics. Theoretische und angewandte Genetik, 107, 1195-1200.
【非特許文献5】Grandjean, O., Vernoux, T., Laufs, P., Belcram, K., Mizukami, Y. and Traas, J. (2004) In vivo analysis of cell division, cell growth, and differentiation at the shoot apical meristem in Arabidopsis. The Plant cell, 16, 74-87.
【非特許文献6】Tuteja, N., Singh, M.B., Misra, M.K., Bhalla, P.L. and Tuteja, R. (2001) Molecular mechanisms of DNA damage and repair: progress in plants. Critical reviews in biochemistry and molecular biology, 36, 337-397.
【非特許文献7】Sakamoto, T., Inui, Y.T., Uraguchi, S., Yoshizumi, T., Matsunaga, S., Mastui, M., Umeda, M., Fukui, K. and Fujiwara, T. (2011) Condensin II alleviates DNA damage and is essential for tolerance of boron overload stress in Arabidopsis. The Plant cell, 23, 3533-3546.
【非特許文献8】Al-Qawasmeh, R.A., Lee, Y., Cao, M.Y., Gu, X., Vassilakos, A., Wright, J.A. and Young, A. (2004) Triaryl methane derivatives as antiproliferative agents. Bioorganic & medicinal chemistry letters, 14, 347-350.
【非特許文献9】Palchaudhuri, R., Nesterenko, V. and Hergenrother, P.J. (2008) The complex role of the triphenylmethyl motif in anticancer compounds. Journal of the American Chemical Society, 130, 10274-10281.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、植物細胞分裂抑制剤を提供することを課題とする。また、植物細胞に対して副作用(細胞死、細胞構成及び細胞形状の変化等)を与えることなく、分裂抑制作用を発揮できる、植物細胞分裂抑制剤を提供することも課題とする。さらには、動物細胞分裂は抑制しない(すなわち動物に対して悪影響を与えるリスクが低い)植物細胞分裂抑制剤を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、本発明者等は、フラン環を有するトリアリールメタン誘導体が植物細胞分裂抑制作用を有することを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、完成されたものである。すなわち、本発明は以下の構成を包含する。
【0008】
項1. 一般式(1):
【0009】
【化1】
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【0010】
[式中、Rはフリル基を示し;R及びRは同一又は異なってアルキル基を示し;m及びnは同一又は異なって0又は1~5の整数を示す。]
で表わされる化合物、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、植物細胞分裂抑制剤。
【0011】
項2. アルキル基の炭素数が1~4である、項1に記載の剤。
【0012】
項3. m及びnが同一又は異なって0又は1である、項1又は2に記載の剤。
【0013】
項4. m及びnの少なくとも一方が0である、項1~3のいずれかに記載の剤。
【0014】
項5. 双子葉植物細胞分裂抑制剤である、項1~4のいずれかに記載の剤。
【0015】
項6. 農園芸用製剤として用いられる、項1~5のいずれかに記載の剤。
【0016】
項7. 研究試薬として用いられる、項1~5のいずれかに記載の剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、植物細胞分裂抑制剤を提供することができる。この植物細胞分裂抑制剤は、植物細胞に対する副作用(細胞死、細胞構成及び細胞形状の変化等)が低減されており、且つ動物に対して悪影響を与えるリスクも低いので、農業分野、研究分野等の広い分野において利用することができる。また、この植物細胞分裂抑制剤は、使用後、植物の生育環境から除去すれば、その分裂抑制作用を解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】化合物1存在下(「化合物1」)又は非存在下(「-」)で培養したシロイヌナズナ初期胚の、培養開始直後(「0 hr」)及び培養開始から26時間後(「26 hr」)の蛍光像の写真である(実施例2)。各写真中、緑色の領域(球状に染色されている領域)は、GFP融合型H2Bが存在する領域(すなわち核)を示し、赤紫色の領域(線状に染色されている領域)は、tdTomato融合型LTI6bが存在する領域(すなわち細胞膜)を示す。写真中のスケールバーは10μmを示す。
【図2】被検化合物存在下(オリザリン:「oryzalin」、化合物1:「化1」、比較化合物1:「比化1」、比較化合物2:「比化2」)又は非存在下(「-」)で培養したシロイヌナズナの、根の長さの変化を示すグラフである(実施例3)。縦軸は根の長さ(単位:mm)を示し、横軸は培養開始からの経過期間(単位:日)を示す。エラーバーは標準偏差(n≧19)を示す。
【図3】被検化合物存在下(オリザリン:「oryzalin」、化合物1:「化合物1」)又は非存在下(「-」)で培養したシロイヌナズナの、細胞壁染色像である(実施例3)。各写真中、白色の領域が細胞壁を示す。写真中のスケールバーは100μmを示す。
【図4】被検化合物存在下(オリザリン:「oryzalin」、化合物1:「化1」)又は非存在下(「-」)で2日間培養後、被検化合物を除去して更に3日間培養したシロイヌナズナの、根の長さの変化を示すグラフである(実施例4)。縦軸は根の長さ(単位:mm)を示し、横軸は被検化合物除去からの経過期間(単位:日)を示す。エラーバーは標準偏差(n≧19)を示す。
【図5】被検化合物存在下(オリザリン:「oryzalin」、化合物1:「化合物1」)又は非存在下(「-」)で培養したシロイヌナズナの、蛍光像の写真である(実施例5)。各写真中、緑色の細胞は、YFP融合型CYCB1が存在する領域(すなわちM期細胞)を示し、赤紫色の細胞は、RFP融合型CDT1aが存在する領域(すなわちS/G2期細胞)を示す。写真中のスケールバーは100μmを示す。
【図6】被検化合物存在下(STLC:「STLC」、化合物1:「化合物1」、比較化合物1:「比較化合物1」)で培養したHela細胞の細胞生存率を示すグラフである(実施例6)。縦軸は、コントロール培地を用いた場合の細胞生存率を100とした場合の、被検化合物含有培地を用いた場合の細胞生存率比を示し、横軸は被検化合物の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、一般式(1):

【0020】
【化2】
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【0021】
[式中、Rはフリル基を示し;R及びRは同一又は異なってアルキル基を示し;m及びnは同一又は異なって0又は1~5の整数を示す。]
で表わされる化合物、又はその溶媒和物を有効成分として含有する、植物細胞分裂抑制剤に関する。以下、これについて説明する。

【0022】
はフリル基を示す。フリル基としては、具体的には3-フリル基、2フリル基等が挙げられ、好ましくは3-フリル基が挙げられる。

【0023】
及びRは同一又は異なってアルキル基を示す。このアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、例えば炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4、より好ましくは炭素数1又は2、さらに好ましくは炭素数1のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、へキシル基等が挙げられる。

【0024】
及びRの位置は、特に限定されず、Rが結合している炭素原子に対してパラ位、メタ位、オルト位のいずれでもよいが、好ましくはパラ位である。

【0025】
m及びnは同一又は異なって0又は1~5の整数を示す。m及びnとしては、好ましくは0又は1~3の整数、より好ましくは0又は1~2の整数、さらに好ましくは0又は1が挙げられる。m及びnは、どちらか少なくとも一方が0であることが好ましい。

【0026】
一般式(1)で表わされる化合物には、各立体異性体、それらの混合物及びラセミ体も包含される。

【0027】
溶媒和物としては、一般式(1)で表される化合物又はその塩と、溶媒との溶媒和物である限り特に限定されない。溶媒としては、農学的に許容される溶媒が好ましく、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。

【0028】
一般式(1)で表わされる化合物は、公知の製造方法、例えば特許文献1、Chem. Commun., 2011, 47, 5289-5291等に記載の製造方法に従って又は準じて製造することができる。一例として、以下のスキームで合成することができる。

【0029】
【化3】
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【0030】
[式中、R、R、R、m、及びnは前記に同じである。]

【0031】
工程(I):メチルフェニルスルホンのアリール化
工程(I)では、化合物aと化合物bとを、パラジウム触媒及びホスフィン配位子の存在下で反応させる工程により、化合物cを合成する。

【0032】
工程(I)において、化合物bの使用量は、選択率及び収率の観点から、化合物a 1モルに対して、通常、0.2~3モルが好ましく、0.3~2.5モルがより好ましい。

【0033】
工程(I)で使用するパラジウム触媒としては、特に限定されるものではないが、選択率、収率及び安全性の観点から、例えば、酢酸パラジウム(Pd(OCOCH)、p-アリルパラジウム(II)クロリドダイマー、トリフロオロ酢酸パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)等が挙げられ、好ましくはp-アリルパラジウム(II)クロリドダイマーが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0034】
工程(I)において、パラジウム触媒の使用量は、選択率及び収率の観点から、化合物a 1モルに対して、通常、0.02~1モルが好ましく、0.03~0.25モルがより好ましい。

【0035】
工程(I)で使用するホスフィン配位子としては、特に限定されるものではないが、例えば、選択率、収率及び安全性の観点から、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(XPhos)、2-ジ-tert-ブチルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(t-Bu-XPhos)、(2-ビフェニル)ジ-tert-ブチルホスフィン(JohnPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2‘-(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル(DavePhos)、(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン(Cy-JohnPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)等が挙げられ、好ましくはXPhos、t-Bu-XPhos、SPhos等が挙げられ、より好ましくはXPhosが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0036】
工程(I)において、ホスフィン配位子の使用量は、選択率及び収率の観点から、前記パラジウム触媒1モルに対して、通常、0.2~3モルが好ましく、0.3~2.5モルがより好ましい。

【0037】
工程(I)では、塩基を使用することが好ましい。つまり、工程(I)は、塩基の存在下で行われることが好ましい。工程(I)で使用できる塩基としては、選択率、収率及び安全性の観点から、例えばリチウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド等が挙げられ、好ましくはリチウムtert-ブトキシドが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0038】
工程(I)において、塩基を使用する場合、塩基の使用量は、選択率及び収率の観点から、化合物a 1モルに対して、通常、0.5~4モルが好ましく、1~3モルがより好ましい。

【0039】
工程(I)は、通常、反応溶媒下で行われる。使用できる反応溶媒としては、選択率、収率及び安全性の観点から、例えば1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、トルエン、m-キシレン等が挙げられ、好ましくはシクロペンチルメチルエーテルが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0040】
これらの反応溶媒(有機溶媒)の使用量は、反応が進行すれば特に限定されるものではないが、通常、化合物aの濃度が0.1~5mol/L、好ましくは0.1~2mol/Lとなるように調整することが好ましい。

【0041】
工程(I)の反応温度は、使用する反応溶媒の沸点等によっても異なるが、通常100℃以上、特に100~300℃程度、さらに110~250℃程度の反応温度で実施することが好ましい。また、工程(I)は通常、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等)気流下で実施することが好ましい。また、反応は、常圧で実施してもよく、また、必要に応じて、減圧又は加圧条件下で実施することも可能であるが、常圧下で実施することが好ましい。反応時間は、特に制限はなく、反応が十分に進行する時間とすればよい。

【0042】
反応の進行は、クロマトグラフィーのような通常の方法で追跡することができる。反応終了後、溶媒を留去し、生成物はクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(FD-MS)分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。

【0043】
また、工程(I)で合成される化合物cは、精製処理を施さずに次の工程(工程(II))に用いてもよいが、必要に応じて、活性炭処理、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製方法により精製することも可能である。

【0044】
工程(II):アリールメチルフェニルスルホンのアリール化
工程(II)では、化合物cと化合物dとを、パラジウム触媒及びホスフィン配位子の存在下で反応させる工程により、化合物eを合成する。

【0045】
工程(II)において、化合物dの使用量は、選択率及び収率の観点から、化合物c 1モルに対して、通常、0.2~3モルが好ましく、1~2.5モルがより好ましい。

【0046】
工程(II)で使用するパラジウム触媒については、工程(I)と同様である。

【0047】
工程(II)において、パラジウム触媒の使用量は、選択率及び収率の観点から、化合物c 1モルに対して、通常、0.02~1モルが好ましく、0.03~0.25モルがより好ましい。

【0048】
工程(II)で使用するホスフィン配位子としては、特に限定されるものではないが、選択率、収率及び安全性の観点から、例えばトリ(tert-ブチル)ホスフィン、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン、ジ(tert-ブチル)メチルホスフィン、JohnPhos、Cy-JohnPhos等が挙げられ、好ましくはトリ(tert-ブチル)ホスフィン、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン、ジ(tert-ブチル)メチルホスフィン等が挙げられ、より好ましくはトリ(tert-ブチル)ホスフィン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0049】
工程(II)において、ホスフィン配位子の使用量は、選択率及び収率の観点から、前記パラジウム触媒1モルに対して、通常、0.2~3モルが好ましく、0.3~2.5モルがより好ましい。

【0050】
工程(II)では、塩基を使用することが好ましい。つまり、工程(II)は、塩基の存在下で行われることが好ましい。工程(II)で使用できる塩基としては、選択率、収率及び安全性の観点から、例えばカリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド等が挙げられ、好ましくはカリウムtert-ブトキシドが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0051】
工程(II)において、塩基を使用する場合、塩基の使用量は、選択率及び収率の観点から、化合物c 1モルに対して、通常、0.5~5モルが好ましく、1~4モルがより好ましい。

【0052】
工程(II)は、通常、反応溶媒下で行われる。使用できる反応溶媒としては、選択率、収率及び安全性の観点から、例えば1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、トルエン、m-キシレン等が挙げられ、好ましくは1,4-ジオキサンが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0053】
これらの反応溶媒(有機溶媒)の使用量は、反応が進行すれば特に限定されるものではないが、通常、化合物cの濃度が0.1~5mol/L、好ましくは0.1~2mol/Lとなるように調整することが好ましい。

【0054】
工程(II)の反応温度は、使用する反応溶媒の沸点等によっても異なるが、通常40℃以上、特に60~200℃程度、さらに65~180℃程度の反応温度で実施することが好ましい。また、工程(II)は通常、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等)気流下で実施することが好ましい。また、反応は、常圧で実施してもよく、また、必要に応じて、減圧又は加圧条件下で実施することも可能であるが、常圧下で実施することが好ましい。反応時間は、特に制限はなく、反応が十分に進行する時間とすればよい。

【0055】
反応の進行は、クロマトグラフィーのような通常の方法で追跡することができる。反応終了後、溶媒を留去し、生成物はクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(FD-MS)分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。

【0056】
また、工程(II)で合成される化合物eは、精製処理を施さずに次の工程(工程(III))に用いてもよいが、必要に応じて、活性炭処理、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製方法により精製することも可能である。

【0057】
工程(III):ジアリールメチルフェニルスルホンのフリル化
工程(III)では、化合物eと化合物fとを、パラジウム触媒及び含窒素複素環式カルベン配位子の存在下で反応させる工程により、目的化合物である化合物g(一般式(1)で表わされる化合物)を合成する。

【0058】
工程(III)において、化合物fの使用量は、選択率及び収率の観点から、化合物e 1モルに対して、通常、0.5~5モルが好ましく、1~4モルがより好ましい。

【0059】
工程(III)で使用するパラジウム触媒については、工程(I)と同様である。

【0060】
工程(III)で使用する含窒素複素環式カルベン配位子としては、特に制限されないが、選択率及び収率の観点から、例えば以下の式:

【0061】
【化4】
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【0062】
[式中、Ar及びArは、同一又は異なって、アリール基を示す。]
で表わされる化合物が挙げられる。Ar及びArで示されるアリール基としては、好ましくは2,6-ジイソプロピルフェニル基、メシチル基等が挙げられる。含窒素複素環式カルベン配位子は単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0063】
含窒素複素環式カルベン配位子は、ハロゲン原子(塩素原子等)、HCl、HF、HBr、HI、HBF等との塩である配位子前駆体として用いてもよい。また、PEPPSITM-IPr触媒(Sigma-Aldrich社、別名:[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリド)のような市販のPd-NHC錯体として用いてもよい。

【0064】
工程(III)において、含窒素複素環式カルベン配位子の使用量は、選択率及び収率の観点から、前記パラジウム触媒1モルに対して、通常、0.2~3モルが好ましく、0.3~2.5モルがより好ましい。

【0065】
工程(III)では、塩基を使用することが好ましい。つまり、工程(III)は、塩基の存在下で行われることが好ましい。工程(III)で使用できる塩基としては、選択率、収率及び安全性の観点から、例えば金属アルコキシド、リン酸アルカリ金属塩、アルカリ金属水酸化物等が挙げられ、好ましくはアルカリ金属水酸化物等が挙げられ、より好ましくは水酸化ナトリウムが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。

【0066】
工程(III)において、塩基を使用する場合、塩基の使用量は、選択率及び収率の観点から、化合物e 1モルに対して、通常、0.5~5モルが好ましく、1~4モルがより好ましい。

【0067】
工程(III)は、通常、反応溶媒下で行われる。使用できる反応溶媒としては、選択率、収率及び安全性の観点から、例えばジオキサン(1,4-ジオキサン)を含有する溶媒が挙げられ、好ましくはジオキサン(1,4-ジオキサン)が挙げられる。

【0068】
これらの反応溶媒(有機溶媒)の使用量は、反応が進行すれば特に限定されるものではないが、通常、化合物eの濃度が0.1~5mol/L、好ましくは1~2.5mol/Lとなるように調整することが好ましい。

【0069】
工程(III)の反応温度は、使用する反応溶媒の沸点等によっても異なるが、通常100℃以上、特に100~300℃程度、さらに110~250℃程度の反応温度で実施することが好ましい。また、工程(III)は通常、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等)気流下で実施することが好ましい。また、反応は、常圧で実施してもよく、また、必要に応じて、減圧又は加圧条件下で実施することも可能であるが、常圧下で実施することが好ましい。反応時間は、特に制限はなく、反応が十分に進行する時間とすればよい。

【0070】
反応の進行は、クロマトグラフィーのような通常の方法で追跡することができる。反応終了後、溶媒を留去し、生成物はクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(FD-MS)分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。

【0071】
また、工程(III)で合成される化合物gは、必要に応じて、活性炭処理、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製方法により精製することも可能である。

【0072】
以上のようにして得られる化合物gが、ベンジルオキシ基等の保護基を有する場合には、常法により脱保護した後、目的に応じて種々の置換基を導入することも可能である。

【0073】
一般式(1)で表される化合物は、植物細胞分裂抑制作用を有する。したがって、一般式(1)で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物を有効成分とすることにより、植物細胞分裂抑制(又は停止)剤、植物細胞増殖抑制(又は停止)剤、植物成長抑制(又は停止)剤等(以下、これらを総称して「本発明の剤」と示すこともある。)として利用することができる。なお、本発明の剤は、使用後、適切なタイミングで除去することにより、その作用(植物細胞分裂抑制作用)を解除することができるので、植物細胞分裂、植物細胞増殖、植物成長等を「一時的」に抑制又は停止させる目的に使用することができる。

【0074】
本発明の剤の使用分野は特に限定されず、例えば農園芸分野において農園芸用製剤として、基礎研究分野において研究試薬として用いることができる。農園芸用製剤として用いる場合、例えば収穫期が過ぎた後の育ち過ぎを避ける目的(すなわち植物過成長抑制剤として)や、干ばつ等の厳しい生育条件下においてエネルギー消費を節約させ、該条件下における枯死を抑制する目的に(すなわち植物枯死抑制剤として)用いることができる。

【0075】
本発明の剤の対象植物は、特に限定されず、例えば被子植物(双子葉植物等)、裸子植物、シダ植物等の植物等が挙げられるが、植物細胞分裂抑制作用をより効果的に発揮できるという観点から、好ましくは双子葉植物が挙げられる。対象植物の具体例としては、トマト、ピーマン、トウガラシ、ナス等のナス類、キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ等のウリ類、キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ等の菜類、セルリー、パセリー、レタス等の生菜・香辛菜類、ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類、ダイズ、ラッカセイ、インゲン、エンドウ、アズキ等の豆類、イチゴ等のその他果菜類、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類、サトイモ、キャッサバ、バレイショ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類、アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類、トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花卉類、ナタネ、ラッカセイ等の油料作物類、サトウキビ、テンサイ等の糖料作物類、ワタ等の繊維料作物類、クローバー等の飼料作物類、リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ等の落葉性果樹類、ウンシュウミカン、レモン、グレープフルーツといった柑橘類、サツキ、ツツジ、スギ等の木本類等が挙げられる。

【0076】
本発明の剤は、上記した有効成分のみからなるものでもよいが、上記した有効成分に加えて、後述の剤形、使用態様等に応じて種々の添加剤を含んでいてもよい。本発明の剤中の一般式(1)で表される化合物の含有割合は、後述の剤形、使用態様等に応じて適宜決定することができ、例えば1~500μM程度が例示される。

【0077】
本発明の剤の剤形は、特に限定されない。例えば、液剤、固形剤、粉剤、顆粒剤、粒剤、水和剤、フロアブル剤、乳剤、ペースト剤、分散剤等が挙げられる。

【0078】
添加剤は、特に限定されない。例えば、担体、界面活性剤、増粘剤、増量剤、結合剤、ビタミン類、酸化防止剤、pH調整剤、揮散抑制剤、色素等が挙げられる。

【0079】
本発明の剤を農園芸用製剤として用いる場合の施用態様は、農薬の使用態様として公知の態様(或いは将来開発される態様)である限り特に限定されない。例えば、散布、滴下、塗布、植物生育環境中(土壌中、水中、固形培地中、液体培地中等)への混合や溶解等が挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
合成例1
(3-フリル)ジフェニルメタン(化合物1)を合成した。
【実施例】
【0082】
【化5】
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【実施例】
【0083】
内容積10 mLの密閉可能なガラス容器内に、磁気撹拌子を収容し、減圧下、ヒートガンで乾燥させた。その後、室温に冷却し、アルゴンガスを満たした。次いで、前記ガラス容器に、5.5 mg(30μmol)のアリルパラジウム(II)クロリドダイマー、12.8 mg(30μmol)の1,3-ビス-(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリニウムクロリド(SIPr・HCl)、0.75 mLの脱水ジオキサン、及び0.9 mL(0.9 mmol)の1M水酸化ナトリウム水溶液をアルゴン気流下で加えて、室温で30分撹拌した。その後、92.4 mg(0.3mmol)の(ジフェニルメチル)フェニルスルホン、67.1 mg(0.6 mmol)の3-フリルボロン酸、及び0.75 mLの脱水ジオキサンをアルゴン気流下加えて、容器を密閉し、120度で12時間撹拌した。反応系を室温に冷却し反応液を、短パッドのシリカゲルで液過した。そして、沈澱物を酢酸エチルで洗浄し、溶液を減圧濃縮した。濃縮物を、PTLC(溶媒はヘキサン)で精製し、白色固体の目的物(化合物1)を得た(36.7mg、収率52%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ5.26 (s, 1H), 6.22 (s, 1H), 6.94 (s, 1H), 7.19-7.21 (m, 6H), 7.27-7.29 (m, 4H), 7.38 (s, 1H). 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ48.1, 111.4, 126.5, 128.3, 128.4, 128.7, 141.0, 143.1, 143.5. HRMS (DART) m/z calcd for C17H13O [M-H]+: 233.0966, found 233.0966。
【実施例】
【0084】
合成例2~5
(2-フリル)ジフェニルメタン(化合物2)、(3-フリル)(4-メチルフェニル)フェニルメタン(化合物3)、トリフェニルメタン(比較化合物1)、及びジフェニル(3-ヒドロキシフェニル)メタン(比較化合物2)を合成した。合成は、必要に応じて(ジフェニルメチル)フェニルスルホン及び/又は3-フリルボロン酸に代えて適当な材料化合物を用いる以外は、合成例1と同様に行った。なお、化合物2は、Chem. Commun., 2011, 47, 5289-5291に記載の方法に従って合成した。
【実施例】
【0085】
【化6】
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【実施例】
【0086】
<化合物2>公知化合物であるので(Chem. Commun., 2011, 47, 5289-5291)、NMRデータ等は省略。
【実施例】
【0087】
<化合物3>purification by PTLC (hexane). 54% isolated yield; white solid. 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 2.32 (s, 3H), 5.23 (s, 1H), 6.22 (d, J = 1.2 Hz, 1H), 6.94 (s, 1H), 7.09 (s, 4H), 7.18-7.22 (m, 3H), 7.28 (t, J = 6.9 Hz, 2H), 7.39 (t, J = 1.8 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 21.0, 47.7, 111.4, 128.3, 128.5, 128.6, 128.7, 129.1, 136.0, 140.5, 141.0, 143.1, 143.7. HRMS (DART) m/zcalcd for C18H17O [M+H]+:249.1279, found 249.1289。
【実施例】
【0088】
<比較化合物1>Purification by PTLC (hexane). 66.0 mg, 90% isolated yield; white solid. 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ5.54 (s, 1H), 7.11 (d, J = 7.8 Hz, 6H), 7.19 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 7.26 (t, J = 7.8 Hz, 6H). 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 56.8, 126.3, 128.3, 129.4, 143.9. HRMS (DART) m/z calcd for C19H15 [M-H]+: 243.1174, found243.1168。
【実施例】
【0089】
<比較化合物2>purification by PTLC (hexane:EtOAc = 10:1). 47% isolated yield; white solid. 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.66 (s, 1H), 5.50 (s, 1H), 6.55 (s, 1H), 6.67-6.71 (m, 2H), 7.11 (d, J = 7.6 Hz, 4H), 7.15-7.23 (m, 3H), 7.28 (t, J = 7.6 Hz, 4H). 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ56.6, 113.2, 116.4, 122.1, 126.4, 128.3, 129.4, 129.5, 143.6, 145.8, 155.4. HRMS (DART) m/zcalcd for C19H17O [M+H]+: 261.1279, found 261.1273。
【実施例】
【0090】
実施例1.植物細胞分裂抑制作用の評価1
BY-GT16細胞(タバコ培養細胞株)を用いて、被検化合物(化合物1~3、比較化合物1~2、クロトリマゾール(CLT)、及びS-トリチル-L-システイン(STLC))植物細胞分裂抑制作用を評価した。該細胞株は、蛍光タンパク質(GFP)が融合したα-チューブリンを恒常的に発現しているので、αチューブリンが細胞中心部に集積して紡錘糸を形成している細胞(すなわちM期細胞)を、細胞中心部の蛍光強度が高い細胞として確認することができる。M期細胞の割合は、細胞分裂頻度を表しているので、この割合の増減を評価することにより、被検化合物の植物細胞分裂抑制作用を評価した。
【実施例】
【0091】
具体的には次のとおりである。BY-GT16細胞を、被検化合物を100μMの濃度で含む培地、又は被検化合物を含まない培地(コントロール培地)と共に、96ウェルプレートに播種し、播種直後及び播種から2、4、6、及び8時間後の細胞の蛍光像を(8時間後には明視野像も)取得して、M期細胞の割合を測定した。被検化合物添加によりM期細胞の割合が減少していた場合、その被検化合物の植物細胞分裂抑制作用の評価を+とし、被検化合物添加によるM期細胞の割合の減少が認められなかった場合、その被検化合物の植物細胞分裂抑制作用の評価を-とした。なお、これらの評価に関わらず、被検化合物の添加により、細胞死(蛍光シグナルが消失しており茶色く縮んだ細胞、として確認できる)が起こっていた場合、その評価を--とした。結果を表1に示す。
【実施例】
【0092】
【表1】
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【実施例】
【0093】
表1より、化合物1~3は植物細胞分裂抑制作用を示すのに対して、比較化合物1は該作用を示さず、比較化合物2は細胞死を引き起こしてしまうことが示された。また、抗真菌薬であるCLTは植物細胞に対しては細胞死を引き起こしてしまい、動物細胞の抗がん剤であるSTLCは植物細胞に対しては分裂抑制作用を有しないことも明らかとなった。
【実施例】
【0094】
実施例2.植物細胞分裂抑制作用の評価2
蛍光タンパク質(GFP)が融合したH2B(核局在タンパク質)及び蛍光タンパク質(tdTomato)が融合したLTI6b(細胞膜局在タンパク質)を恒常的に発現するシロイヌナズナ(Developmental Cell. 2015 Jul 27;34(2):242-51.)の1細胞期の胚を、化合物1を100μMの濃度で含む培地、又は化合物1を含まない培地(コントロール培地)で培養し、培養開始直後及び培養開始から26時間後の細胞の蛍光像を取得した。結果を図1に示す。
【実施例】
【0095】
図1に示されるように、化合物1を添加していない場合(図1中「-」)は、26時間後に核の数が増えていた(すなわち細胞分裂が起こっていた)のに対して、化合物1を添加した場合(図1中「化合物1」)は、26時間後も核の数が増えていなかった(即ち、細胞分裂が全く起こっていなかった)。このことから、化合物1は胚発生の極めて初期段階でも分裂を抑制できることが示された。
【実施例】
【0096】
実施例3.植物細胞分裂抑制作用の評価3
発芽から5日経過後のシロイヌナズナを、被検化合物(化合物1、比較化合物1~2、オリザリン)を100μM(オリザリンのみ1μM)の濃度で含む培地、又は被検化合物を含まない培地(コントロール培地)中で、根の長さを測定しながら、5日間培養した。培養期間中の根の長さの変化を図2に示す。また、5日間培養後の根を10μg/mLのヨウ化プロピジウム溶液で処理することにより、細胞壁染色した。染色後の根の共焦点レーザー顕微鏡像を図3に示す。
【実施例】
【0097】
図2に示されるように、化合物1の添加により根の伸長が抑制された。このことから、化合物1により根の細胞分裂が抑制されたことが示された。また、図3に示されるように、化合物1の添加により、細胞構成や細胞形状に変化は見られなかった。一方、比較化合物2の添加によっても根の伸長が抑制されたが、上述の表1に示されるように比較化合物2は細胞死を引き起こしてしまうことから、これは細胞死に起因すると考えられる。また、オリザリンの添加によっても根の伸長が抑制されたが、図3に示されるように、オリザリンは根の細胞構成や細胞形状に著しい変化を引き起こした。以上より、化合物1は、植物細胞に対して副作用(細胞死、細胞構成及び細胞形状の変化等)を与えることなく、分裂抑制作用を発揮できることが示された。
【実施例】
【0098】
実施例4.植物細胞分裂抑制作用の解除
被検化合物を含む培地で培養しているものについて、培養開始から2日間経過後に、培地を被検化合物を含まない培地(コントロール培地)に置換する以外は、実施例3と同様に試験した。培養期間中の根の長さの変化を図4に示す。
【実施例】
【0099】
図4に示されるように、化合物1の添加により根の伸長が抑制されたが(図4中、Day -2、Day -1、Day 0)、化合物1を培地から除去すると根が再開した。このことから、化合物1は、植物細胞に対して、再度の分裂が不可能になるような副作用を与えないことが示唆された。
【実施例】
【0100】
実施例5.植物細胞分裂抑制作用の細胞周期非依存性
蛍光タンパク質(YFP)が融合したCYCB1がM期特異的に発現し、且つ蛍光タンパク質(RFP)が融合したCDT1aがS/G2期特異的に発現するシロイヌナズナ(Iwata et al., Plant Cell. 2011 Dec;23(12):4382-93.、Yin et al., Plant Journal. 2014 Nov;80(3):541-52.)を被検化合物(化合物1、オリザリン)を100μM(オリザリンのみ1μM)の濃度で含む培地、又は被検化合物を含まない培地(コントロール培地)中で培養し、培養開始から1日経過後の根の蛍光像を取得した。結果を図5に示す。
【実施例】
【0101】
図5に示されるように、化合物1で処理された根においては、化合物1非処理の根と同程度に、M期細胞とS/G2細胞が混在していた。このことから、化合物1は、細胞周期非依存的に分裂抑制作用を発揮することが示された。
【実施例】
【0102】
実施例6.動物細胞への影響
細胞周期マーカーFucci2を発現しているHela細胞株(Hela.S-Fucci2)を被検化合物(化合物1、比較化合物1、STLC)を各濃度(1μM、10μM、又は100μM)で含む培地、又は被検化合物を含まない培地(コントロール培地)に懸濁した。得られた懸濁液(8×103 cells/mL)を、96ウェルプレートの各ウェルに100μL播種し、3日間培養した。培養後、細胞生存率をMTSアッセイにより測定した。コントロール培地を用いた場合の細胞生存率を100として、被検化合物含有培地を用いた場合の細胞生存率比を算出した。結果として細胞生存率を図6に示す。
【実施例】
【0103】
抗がん作用を有するSTLCは細胞生存率を低下させる一方で、化合物1は細胞生存率への影響が無かった。このことから、化合物1は動物細胞に対しては悪影響を与えないことが示唆された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5