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明細書 :自閉症スペクトラム障害モデル動物ならびにその作製方法および用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-027792 (P2016-027792A)
公開日 平成28年2月25日(2016.2.25)
発明の名称または考案の名称 自閉症スペクトラム障害モデル動物ならびにその作製方法および用途
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/027
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2014-221301 (P2014-221301)
出願日 平成26年10月30日(2014.10.30)
優先権出願番号 2014142334
優先日 平成26年7月10日(2014.7.10)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】栃谷 史郎
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
Fターム 2G045AA25
要約 【課題】経済性、簡便性および再現性に優れた新たな自閉症モデル動物の作製方法、それにより作製される自閉症モデル動物、ならびに該動物を用いた自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患の治療または予防に有効な物質をスクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】胎児期にGABA受容体標的薬(亢進薬または阻害薬)に曝露することを含む自閉症モデル動物の作製方法、該方法により作製される自閉症モデル動物、および該動物を用いたスクリーニング方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
非ヒト哺乳動物を用いる自閉症スペクトラム障害モデル動物の作製方法であって、
(a)妊娠した非ヒト哺乳動物を提供する工程、
(b)該動物の胎児の神経発生期に、GABA受容体の亢進薬または阻害薬を該動物に投与する工程、および、
(c)出産させる工程
を含み、出産された新生仔が自閉症スペクトラム障害モデル動物となる、前記方法。
【請求項2】
前記胎児の神経発生期が、胎児の神経発生初期である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(d)前記新生仔を一定期間哺乳させた後、離乳させる工程
を更に含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(b)において、GABA受容体の阻害薬が投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害薬がピクロトキシンまたはペンチレンテトラゾールである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記亢進薬がバルビツール酸系の薬剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記非ヒト哺乳動物がマウスまたはラットである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法により得られる、自閉症スペクトラム障害モデル非ヒト哺乳動物。
【請求項9】
以下の工程:
(i)請求項8に記載の自閉症スペクトラム障害モデル非ヒト哺乳動物を提供する工程、(ii)該動物に被検物質を投与する工程、
(iii)該動物において自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患を調べる工程、および、
(iv)被験物質を適用しなかった場合と比較して、神経発達障害または精神疾患が改善されたときに、該被験物質を自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質の候補として選択する工程
を含む、自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症スペクトラム障害モデル非ヒト哺乳動物、その作製方法、およびそれを用いた自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の自閉症モデル動物およびその作製方法としては、ヒストンデアセチレース阻害剤であるバルプロ酸を妊娠マウスに投与する方法や2本鎖RNA、リポ多糖または白血病阻止因子(LIF)の投与により妊娠マウスの免疫を不活化する方法(特許文献1)などの薬剤投与モデル、ヒト染色体15q11-q13相同部位の染色体重複モデルマウス(特許文献2)、CD38ノックアウトマウス(特許文献3)などの遺伝的改変マウス、ならびに、コバルト線をマウスの脳に移植する方法(特許文献4)などが知られている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2004-180655号公報
【特許文献2】特開2007-166966号公報
【特許文献3】国際公開WO2008/059991号パンフレット
【特許文献4】特表2013-531994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の薬剤投与によるモデルマウスの作製方法では自閉症様の行動を示すマウス仔が安定的に得られない等の問題があり、また遺伝的改変マウスによる自閉症モデルは本来遺伝因子および環境因子の複合的な要因からなるはずの自閉症の一部のサブポピュレーションのモデルとしてしか成立しないこと、入手が難しいこと等の問題がある。そのため、既存の自閉症モデル動物を補完するモデル動物やその作製方法が求められている。
【0005】
本発明は、当該技術分野における上述の問題点に鑑み為されたものであり、経済性、簡便性および再現性に優れた新たな自閉症スペクトラム障害モデル動物の作製方法、それにより作製される自閉症スペクトラム障害モデル動物、ならびに該動物を用いた自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討を行った。その過程で本発明者は、特にGABA受容体に着目し、胎児期に該受容体の標的薬に曝露したマウスの行動実験を行った。その結果、GABA受容体標的薬曝露マウスは自閉症様の行動を呈すること、そして特にGABA受容体の阻害薬に曝露されたマウスは自閉症様の行動を呈することを見出した。本発明者は上記の知見に基づき更に検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は即ち以下を提供する。
[1]非ヒト哺乳動物を用いる自閉症スペクトラム障害モデル動物の作製方法であって、
(a)妊娠した非ヒト哺乳動物を提供する工程、
(b)該動物の胎児の神経発生期に、GABA受容体の亢進薬または阻害薬を該動物に投与する工程、および、
(c)出産させる工程
を含み、出産された新生仔が自閉症スペクトラム障害モデル動物となる、前記方法。
[2]前記胎児の神経発生期が、胎児の神経発生初期である、上記[1]に記載の方法。
[3](d)前記新生仔を一定期間哺乳させた後、離乳させる工程を更に含む、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記工程(b)において、GABA受容体の阻害薬が投与される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記阻害薬がピクロトキシンまたはペンチレンテトラゾールである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記亢進薬がバルビツール酸系の薬剤である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[7]前記非ヒト哺乳動物がマウスまたはラットである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法により得られる、自閉症スペクトラム障害モデル非ヒト哺乳動物。
[9]以下の工程:
(i)上記[8]に記載の自閉症スペクトラム障害モデル非ヒト哺乳動物を提供する工程、
(ii)該動物に被検物質を投与する工程、
(iii)該動物において自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患を調べる工程、および、
(iv)被験物質を適用しなかった場合と比較して、神経発達障害または精神疾患が改善されたときに、該被験物質を自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質の候補として選択する工程
を含む、自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、経済性、簡便性および再現性に優れた新たな自閉症スペクトラム障害モデル動物の作製方法、それにより作製される自閉症スペクトラム障害モデル動物、ならびに該動物を用いた自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質のスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いた24-hour home cage activity testにおける、各群に含まれるマウスの平均移動距離を1時間毎に示すグラフである。
【図2】図1に示す移動距離を明期および暗期のそれぞれについて総計することにより得られる総移動距離を示すグラフである。
【図3】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いたOpen field testにおける、各群のマウスの2時間の自発運動の回数(上図)、30分毎の自発運動の回数(下図)を示すグラフである。
【図4】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いたOpen field testにおいて、各群のマウスがオープンフィールド内の特定の領域に滞在した時間を示すグラフである。オープンフィールドの各領域を右上に示す。示されたA、B、Cの領域はいずれも正方形で、それぞれ一辺が7.8cm, 24.6cm, 48.0cmである。左上図は、各群のマウスが2時間のうち領域AまたはBで過ごした時間の平均を示し、左下図は、各群のマウスが領域Aで過ごした時間を示す。
【図5】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いたOpen field testにおける、各群のマウスについて2時間の後ろ脚立ちの回数(上図)、30分毎の後ろ脚立ちの回数(下図)を示すグラフである。
【図6】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いた3室社会的相互作用試験(3-chambered social interaction test)における、Familiar 1st のセッション(5分間)のControl群のマウスの軌跡を示す図である。図で示されたエリアの右奥隅に位置するケージに動きの制限された、被験マウスが試験開始までに出会ったことのないメスマウス(stranger female)が存在する。
【図7】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いた3室社会的相互作用試験(3-chambered social interaction test)におけるFamiliar 1st のセッション(5分間)のPhenobarbital群のマウスの軌跡を示す図である。図で示されたエリアの右奥隅に位置するケージに動きの制限された、被験マウスが試験開始までに出会ったことのないメスマウス(stranger female)が存在する。
【図8】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いた3室社会的相互作用試験(3-chambered social interaction test)におけるFamiliar 1st のセッション(5分間)のPentobarbital群のマウスの軌跡を示す図である。図で示されたエリアの右奥隅に位置するケージに動きの制限された、被験マウスが試験開始までに出会ったことのないメスマウス(stranger female)が存在する。
【図9】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いた3室社会的相互作用試験(3-chambered social interaction test)における、Familiar 1st のセッション(5分間)のPTX群のマウスの軌跡を示す図である。図で示されたエリアの右奥隅に位置するケージに動きの制限された、被験マウスが試験開始までに出会ったことのないメスマウス(stranger female)が存在する。
【図10】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いた3室社会的相互作用試験(3-chambered social interaction test)における、Familiar 1st のセッション(5分間)のPTZ群のマウスの軌跡を示す図である。図で示されたエリアの右奥隅に位置するケージに動きの制限された、被験マウスが試験開始までに出会ったことのないメスマウス(stranger female)が存在する。
【図11】生理食塩水(Control)、フェノバルビタール(Phenobarbital)、ペントバルビタール(Pentobarbital)、ピクロトキシン(PTX)またはペンチレンテトラゾール(PTZ)投与により作製した試験動物群を用いた3室社会的相互作用試験(3-chambered social interaction test)における、各群のマウスが各期間においてケージエリア(メスマウスの入るケージ周囲)で過ごした時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(定義)
本明細書において、「自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder)」は、(1)対人的コミュニケーションの障害、(2)対人相互作用の障害、および(3)行動、興味、活動の限定された反復的で常同的な様式を特徴とする広汎性発達障害の連続体を意味する。自閉症スペクトラム障害には、(いわゆる従来型)自閉性障害、アスペルガー症候群、レット症候群、小児崩壊性障害、および特定不能の広汎性発達障害が含まれるが、これらに限定されない。自閉症スペクトラム障害は、米国精神医学会から発行されたDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-V)に従って診断されるものであり得るが、それに限定されない。
また、本明細書において、「自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患」は、上記の「自閉症スペクトラム障害」と同義に用いられる。

【0011】
本明細書において、「自閉症スペクトラム障害モデル動物」は、ヒトの自閉症スペクトラム障害の病態を表すことができる実験動物を意味する。

【0012】
本明細書において、「非ヒト哺乳動物」は、ヒト以外の哺乳動物であれば特に制限はなく、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サルなどが挙げられる。なかでも自閉症スペクトラム障害モデル動物作製の面から個体発生および生物サイクルが比較的短く、繁殖が容易な齧歯動物が好ましく、とりわけマウス(例えば、純系としてC57BL/6系統、BALB/c系統、DBA2系統など、交雑系としてB6C3F1系統、BDF1系統、B6D2F1系統、ICR系統など)およびラット(例えば、Wistar、SDなど)が好ましい。また、ヒトにより近いという点でサル(例えば、オランウータン科、テナガザル科、オナガザル科、マーモセット科またはオマキザル科などのサル)も好ましい。

【0013】
本明細書において、「妊娠」は、子宮内または外への受精卵の着床を意味する。

【0014】
本明細書において、「妊娠期間」は、交尾後または受精卵の着床から、出産するまでの期間、あるいは体内に受精卵またはそれが発育した胎児を包容している期間を意味する。

【0015】
本明細書において、「母親」は、妊娠させる非ヒト哺乳動物または妊娠した非ヒト哺乳動物を意味し、「父親」は、母親の妊娠に必要な精子を提供する非ヒト哺乳動物を意味する。

【0016】
本明細書において、「胎児」は、母胎内で生育中の幼体を意味する。

【0017】
本明細書において、「新生仔」は、母親から生まれて間もない、通常は離乳前の仔を意味し、母胎内の胎児と区別される。

【0018】
本明細書において、「神経発生期」は、胎児において神経幹細胞や前駆細胞から神経細胞やグリア細胞が分化し、脳神経系が発生する時期を意味する。神経発生期は、1つの神経前駆細胞から主として2つの神経前駆細胞が誕生し、神経前駆細胞自身の数が増大する神経発生初期、1つの神経前駆細胞から主として1つの神経前駆細胞と1つの神経細胞が誕生し、大脳新皮質の急激な拡張と層構造の形成が始まる神経発生中期、および1つの神経前駆細胞から主として2つの神経細胞が誕生し、神経前駆細胞が減少していき、大脳新皮質が神経細胞で満たされる神経発生後期に分けられる。「神経発生期」はまた、より広義には、胎児において、神経細胞への分化は起こらないが神経幹細胞(より正確にはより根源的な神経上皮細胞)が分裂する時期を含んでもよい。

【0019】
本明細書において、「出産」は、流産や死産なく仔が出生することを意味する。

【0020】
(自閉症スペクトラム障害モデル動物の作製方法)
本発明の自閉症スペクトラム障害モデル動物の作製方法(以下、本発明の作製方法ともいう。)は、(a)妊娠した非ヒト哺乳動物を提供する工程、(b)該動物の胎児の神経発生期に、GABA受容体の亢進薬または阻害薬を該動物に投与する工程、および、(c)出産させる工程を含み、出産された新生仔が自閉症スペクトラム障害モデル動物となる。本発明の作製方法は、好ましくは、(d)前記新生仔を一定期間哺乳させた後、離乳させる工程を更に含む。
以下、各工程について説明する。

【0021】
(a)妊娠した非ヒト哺乳動物を提供する工程
妊娠した非ヒト哺乳動物を提供する工程は、父親と母親とを交尾させる工程を含むことができる。あるいは、既に妊娠した非ヒト哺乳動物を購入してもよい。

【0022】
父親と母親とを交尾させる工程は、当業者に公知の方法を用いて行うことができる。父親と母親とを長期間同居させて交尾させてもよいし、初めに父親と母親とを別々の檻で飼育した後、繁殖期に一緒の檻で飼育してもよい。同居は、例えば、父親1匹に対して母親1匹または複数匹とすることができる。交尾年齢は非ヒト哺乳動物の種類や雌雄に応じて異なるが、当業者であればその年齢を容易に認識できる。また、非ヒト哺乳動物の飼育は当業者に公知の方法に従って行うことができる。

【0023】
例えばマウスの場合、繁殖適期は、雄で50~90日齢程度、雌で40~80日齢程度であるが、繁殖はこの時期以外でも可能である。発情徴候がみられる雌を繁殖適期の雄のケージに入れるか、または雄1匹に雌2~6匹を一緒に飼育して交尾させることができる。交配は、近交系、クローズドコロニー、交雑系のいずれであってもよいが、好ましくは近交系である。

【0024】
妊娠判定は、対象とする哺乳動物種に応じて当業者に公知の方法を用いて行うことができる。例えば、マウスまたはラットの場合、交尾した雌は高確率で妊娠するので、膣栓を確認した日を妊娠0日(E0)とすることができる。他の哺乳動物種についても用いることができる妊娠判定の方法としては、体重の増大の観測、子宮の増大の観測(触診、エコー像の観察などによる)などが挙げられる。妊娠した雌を個別分娩ケージに収容して飼育することが好ましい。

【0025】
(b)該動物の胎児の神経発生期に、GABA受容体の亢進薬または阻害薬を該動物に投与する工程
胎児の神経発生期は、通常非ヒト哺乳動物の種類により、おおよそ決まっていることが知られている。例えば、マウス大脳皮質の神経発生はE10~E17頃まで(より広義にはE9~E17頃まで)、ラット大脳皮質の神経発生はE12~E19頃まで(より広義にはE10~E19頃まで)であることが知られている。それ以外の非ヒト哺乳動物についても、当業者であれば、その時期を容易に認識することができるであろう。該標的薬の投与は、自閉症スペクトラム障害モデル動物を作製できる限り、神経発生期中のいずれの時期に行われてもよい。より高い再現性でのモデル動物の作製を可能とし、かつ標的薬によるより強い影響を与え得る点で、投与は胎児の神経発生初期において行われることが好ましい。神経発生初期についても、非ヒト哺乳動物の種類に応じてその時期はおおよそ決まっていることが知られている。例えば、好ましい投与の時期は、マウスではE10からE12、E13、E14またはE15までとすることができ、ラットではE12からE14、E15、E16またはE17とすることができる。

【0026】
本発明の作製方法において標的として用いられるGABA受容体は、リガンド依存性イオンチャンネルである。そのリガンドは、主要な中枢神経系の抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)である。ほとんどのGABA受容体は5量体で構成され、構成サブユニットはα、β、γ、δ、ε、π、σに分類され少なくとも16種類が存在する。例えば、マウスおよびラットでは、α1-α6、β1-β3、γ1-γ3、δ、ε、π、σサブユニットの16種類が知られる。GABA受容体は少なくともαサブユニットおよびβサブユニットの両方を含み、最も典型的には、2つのαサブユニット、2つのβサブユニットおよび1つのγサブユニットからなる5量体(αβγ)であるが、本発明の作製方法で標的とされるGABA受容体はこれらに限定されない。

【0027】
GABA受容体の亢進薬または阻害薬は数多く知られており、本工程においてはそれらの既知の薬剤のいずれかを該動物に投与することができる。具体的には、GABA受容体の亢進薬としては、GABA、ガボキサドール、イボテン酸、ムッシモール、プロガビド、ピペリジン-4-スルホン酸などのアゴニスト;フェノバルビタール、チオペンタール、ペントバルビタール、アモバルビタール、バルビツール酸、ベンゾジアゼピン、カリソプロドール、チエノジアゼピン、エタノール、エトミデート、グルテチミド、カバラクトン、メプロバメート、メタカロン、ニューロアクティブステロイド、ナイアシン/ナイアシナミド、非ベンゾジアゼピン、プロポフォール、スチリペントール、テアニン、バレレン酸、ランタンなどのポジティブアロステリック調節因子などが挙げられるが、これらに限定されない。一方、GABA受容体の阻害薬としては、ビククリン、ガバジンなどのアンタゴニスト;フルマゼニル、Ro15-4513、サルマゼニル、亜鉛などのネガティブアロステリック調節因子;シクトキシン、エナントトキシン、ペンチレンテトラゾール、ピクロトキシン、ツジョン、リンデンなどの非競合的チャネルブロッカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の作製方法においては、より好ましくはGABA受容体の阻害薬が用いられる。これらの標的薬のうち、妊娠動物の血流を通じて胎児に十分な影響を与えることができるという点から、胎盤をよく通過するものが好ましい。そのような薬剤としては、亢進薬ではバルビツール酸系(フェノバルビタール、ペントバルビタールなど)など、阻害薬ではピクロトキシン、ペンチレンテトラゾールなどが挙げられる。自閉症行動によく類似した行動を呈するモデル動物を取得するために好ましい薬剤として、ピクロトキシンを用いることができる。

【0028】
GABA受容体標的薬の投与は、当業者に一般に知られている方法を用いて行うことができる。例えば、経口的もしくは非経口的(例:静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、皮内、気道内など)な投与を用いることができ、好ましくは腹腔投与である。標的薬を生理的食塩水などに溶解させて投与することができる。あるいは、胎児(特に胎児の脳室)に直接投与してもよく、そのような直接投与も、本発明の作製方法における母親動物へのGABA受容体標的薬の投与に包含される。

【0029】
GABA受容体標的薬の投与量は、化合物の種類、動物種、体重、投与形態などによって異なるが、例えば0.01~500mg/kg体重/日の範囲から適宜選択することができ、当該量を1日1回ないし数回(例:2回、3回、4回など)に分けて投与することができる。投与は、例えば、胎児の神経発生期、特には神経発生初期を通じて連日または隔日とすることができる。

【0030】
(c)出産させる工程
出産させる工程は、各種の哺乳動物について一般に用いられている方法に従って行うことができる。出産は自然分娩(即ち、経膣分娩)または帝王切開であってよい。妊娠期間はマウスであれば18~20日、ラットであれば21~24日であり、通常1~2時間以内に出産を終了する。

【0031】
任意に、(d)前記新生仔を一定期間哺乳させた後、離乳する工程
自然分娩した新生仔にはそのまま母親により哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(通常に交配・分娩した雌非ヒト哺乳動物)に哺乳させることができる。また、特に出産後数日は母親を静かな環境におくことが好ましい。出産後、離乳まで哺乳を継続する。離乳の時期は、例えばマウスまたはラットの場合、通常3~4週齢程度である。離乳後は、雌雄を分けて飼育することが好ましい。

【0032】
以上に従って得られた新生仔または仔は、上述したような自閉症スペクトラム障害の特徴を呈し得る。該動物は、(1)他者とのコミュニケーションの障害、(2)他者との相互作用の障害、および(3)行動、興味、活動の限定された反復的で常同的な様式のうちの好ましくは少なくとも1つ(例えば、上記の(1)、(2)または(3))、より好ましくは少なくとも2つ(例えば、上記の(1)と(2)、(1)と(3)、または(2)と(3))、更に好ましくは全ての特徴を呈する。また、該動物の行動には自閉症スペクトラム障害の主徴ではないが自閉症スペクトラム障害に伴うことが多いとされる不安傾向、多動傾向、睡眠障害(概日リズム障害)の少なくとも1つ、2つまたは全てが観察されてもよいし、これらの特徴は観察されなくてもよい。該動物は、知的障害を有してもよいし、有しなくてもよい。

【0033】
(スクリーニング方法)
本発明はまた、本発明の作製方法に従って得られる自閉症スペクトラム障害モデル動物を用いた、該障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質のスクリーニング方法(以下、本発明のスクリーニング方法ともいう。)を提供する。

【0034】
本発明のスクリーニング方法は、以下の工程:(i)本発明の作製方法により得られる自閉症スペクトラム障害モデル非ヒト哺乳動物を提供する工程、(ii)該動物に被検物質を投与する工程、(iii)該動物において自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患を調べる工程、および、(iv)被験物質を適用しなかった場合と比較して、神経発達障害または精神疾患が改善されたときに、該被験物質を自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質の候補として選択する工程を含む。

【0035】
当該モデル動物は、例えば、生後約1ヶ月、約2ヶ月、約3ヶ月、約6ヶ月、約1歳、約2歳、約5歳、約10歳またはそれ以上の年齢であり得る。マウスまたはラットの場合、生後約1ヶ月の動物を当該スクリーニング方法のために好ましく用いることができる。当該モデル動物は、本発明のスクリーニング方法に使用されるまで、当業者に公知の方法に従って飼育することができる。

【0036】
工程(ii)において、当該モデル動物に対して被検物質が投与される。被検物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質、DNAライブラリーなどの他に、例えば哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられる。被検物質の投与方法は特に制限されない。例えば、被検物質を固形、半固形、液状、エアロゾル等の形態で経口的もしくは非経口的(例:静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、皮下、皮内、気道内など)に投与することができる。被検物質の投与量は、化合物の種類、動物種、体重、投与形態などによって異なり、例えば、0.01~1000mg/kg/日の範囲から適宜選択することができ、当該量を1日1回ないし数回に分けて投与することができる。投与期間も特に制限されないが、例えば1~14日間連日もしくは2~4日おきに投与することができる。

【0037】
工程(iii)において、被検物質を投与された該動物において自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患が調べられる。神経発達障害または精神疾患の評価法としては、対象とする動物種や薬物スクリーニングの目的とする症状に応じて、行動薬理学の分野で慣用の任意の行動試験などを用いることができる。具体的には、例えば、社会的相互作用の質的欠如を示すための試験として3チャンバー社会的相互作用試験、コミュニケーションの異常を調べるための試験として超音波啼鳴反応試験、常同性を調べるためのモリス水迷路などを用いた逆転学習試験、同じく常同性を調べるためのT迷路を用いた逆転学習試験、また常同性を調べるためのオープンフィールド試験等における後ろ脚立ち行動や毛繕いの定量化などが挙げられる(例えば、Silverman et al., (2010) Nat. Rev. Neurosci., 11, 490-502; Moy et al., (2007) Behav. Brain Res., 176, 4-20を参照。)。また自閉症スペクトラム障害の主徴ではないが自閉症スペクトラム障害に伴うことが多いとされる不安傾向、多動傾向などを調べるための試験としてはオープンフィールド試験が、また同じく自閉症スペクトラム障害に伴うことが多いとされる睡眠障害(概日リズム障害)などを調べるための試験としては24時間ホームケージ活動性試験が挙げられる。

【0038】
工程(iv)において、工程(iii)で調べた神経発達障害または精神疾患の程度を、被検物質を適用しなかった動物の場合と比較する。比較は、好ましくは有意差の有無に基づいて行われる。その結果、被検物質を適用しなかった場合に比べて、神経発達障害または精神疾患が改善されたときに、該被検物質を自閉症スペクトラム障害に関連する神経発達障害または精神疾患に対して治療または予防効果を有する物質の候補として選択する。
【実施例】
【0039】
以下に実施例等を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等により限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
実施例1:GABA受容体標的薬曝露マウスの作製
妊娠10~12日目のC57BL/6系統のマウスに生理食塩水(対照)、フェノバルビタール(80mg/kg;GABA受容体亢進薬)、ペントバルビタール(50mg/kg;GABA受容体亢進薬)、ピクロトキシン(PTX;2.5mg/kg;GABA受容体阻害薬)またはペンチレンテトラゾール(PTZ;30mg/kg;GABA受容体阻害薬)を1日2回6時間間隔を空け、腹腔投与した。これらの母親マウスを出産させ、生まれたマウス仔を同じ母親に養育させた後、生後23日目に離乳した。離乳後のマウスを生後29~35日目に以下の行動実験に用いた。各群について被験マウスの4週齢時の体重の平均は約15g~約18gであり、各群間で大きな差異はなかった。
【実施例】
【0041】
試験例1:24時間ホームケージ活動性試験(24-hour home cage activity test)
被験マウスを9:30にホームケージに入れ、10:00から翌日の11:00まで25時間行動を記録した。11:00~翌日11:00までの24時間の行動を解析した(対照:5匹の母親からの20個体;フェノバルビタール:7匹の母親からの20個体;ペントバルビタール:5匹の母親からの21個体;PTX:5匹の母親からの23個体;PTZ:6匹の母親からの18個体)。
各群のマウスの1時間毎の移動距離、明期暗期の総移動距離を、それぞれ図1、2に示す。ペントバルビタールまたはPTZ投与群について明期の低活動が観察された。ペントバルビタール、PTXまたはPTZ投与群について暗期の低活動が観察された。また、フェノバルビタール投与群について、結果は明期の低活動の可能性を示している。
【実施例】
【0042】
試験例2:オープンフィールド試験(Open field test)
被験マウスについて15:30~17:30の2時間の新奇環境における行動解析を行った(対照:5匹の母親からの20個体;フェノバルビタール:7匹の母親からの20個体;ペントバルビタール:5匹の母親からの22個体;PTX:5匹の母親からの23個体;PTZ:6匹の母親からの18個体)。
各群のマウスの2時間の自発運動の回数(上図)、30分毎の自発運動の回数(下図)を図3に示す。PTX投与群では新奇環境における行動が多いことが観察された。フェノバルビタール投与群も新奇環境における行動が多い可能性が観察された。
また、図4に、該図に示すフィールド内の各エリアでの滞在時間の解析結果を示す。左上図はA+Bにおける滞在時間を示し、左下図はAにおける滞在時間を示す。いずれの亢進薬または阻害薬投与群についてもフィールド中心部に滞在する時間が短く、不安傾向が強いことが観察された。
更に、2時間の後ろ脚立ちの回数(上図)、30分毎の後ろ脚立ちの回数(下図)を図5に示す。PTX投与群は常同行動(後ろ脚立ち)が多いことが観察された。
【実施例】
【0043】
試験例3:3室社会的相互作用試験(3-chambered social interaction test)
最後に、3-chambered social interaction testを行った。この試験では、空間の一方の隅に雌を入れ、そこに雄のマウスを放ち、他者への反応を観察した。最初は雌を入れずに行動を観察し、次いで雌を入れ5分観察、その後また5分観察を3回繰り返し、最後に別の雌を入れて行動を観察した。各セッションは次のように表現する。
Empty(5分)→Stranger(5分)→Familiar 1st(5分)→Familiar 2nd(5分)→Familiar 3rd(5分)→2nd stranger(5分)
stranger femaleとしては被験マウスと同じ誕生日もしくは1日早く生まれたものを使用し、生後33から35日目において9時~16時の間に行った(対照:5匹の母親からの20個体;フェノバルビタール:7匹の母親からの20個体;ペントバルビタール:5匹の母親からの22個体;PTX:5匹の母親からの20個体;PTZ:6匹の母親からの18個体)。
Familiar 1st のセッション(5分間)の各群のマウスの行動の軌跡を図6~10に示す。また、各群のマウスが各期間においてケージエリアで過ごした時間を図11に示す。いずれの群についても雌を入れて最初のセッションでは同じ程度の時間雌のそばで過ごしていたが、次のセッションでは、対照群はすぐ雌のそばに行き、そのまま長時間滞在したのに対し、亢進薬または阻害薬投与群ではいずれも雌への関心が薄く、雌のそばでの滞在時間が対照群に比べて有意に短くなることが分かった。また、セッションを繰り返すと対照群であっても雌に対する関心が低くなるが、別の雌を入れると雌のそばにいる時間が再び長くなるのに対し、亢進薬または阻害薬投与群では別の雌を入れても、雌のそばにいる時間について対照群ほどの顕著な増加は認められなかった。
【実施例】
【0044】
結果
以上の試験から、GABA受容体標的薬曝露マウスについて以下の結果が得られた。GABA受容体亢進薬妊娠期曝露マウス、阻害薬曝露マウスに共通して社会的行動異常や不安傾向が観察された。特にピクロトキシン妊娠期曝露マウスはこれらに加え、常同性や多動傾向など自閉症により類似した行動を示した。
【実施例】
【0045】
【表1】
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【実施例】
【0046】
本出願は日本で出願された特願2014-142334(出願日:2014年7月10日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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