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明細書 :愛着障害治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-120650 (P2015-120650A)
公開日 平成27年7月2日(2015.7.2)
発明の名称または考案の名称 愛着障害治療剤
国際特許分類 A61K  38/11        (2006.01)
A61P  25/14        (2006.01)
A61K   9/08        (2006.01)
A61K   9/12        (2006.01)
FI A61K 37/34
A61P 25/14
A61K 9/08
A61K 9/12
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2013-264454 (P2013-264454)
出願日 平成25年12月20日(2013.12.20)
発明者または考案者 【氏名】友田 明美
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100122688、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 健二
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
【識別番号】100137729、【弁理士】、【氏名又は名称】赤井 厚子
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C084
Fターム 4C076AA12
4C076AA24
4C076BB11
4C076BB25
4C076CC01
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DB28
4C084MA13
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZC54
要約 【課題】本発明は、愛着障害に適用できる、長期投与をしても安全で、服用が簡便な治療剤を提供する。
【解決手段】オキシトシンを有効成分として含有する愛着障害治療剤。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
オキシトシンを有効成分として含有する愛着障害治療剤。
【請求項2】
局所投与用製剤である請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
局所投与用製剤が注射剤又は点鼻剤である請求項2に記載の治療剤。
【請求項4】
オキシトシンの成人(60kg)に対する1日投与量が、4単位~40単位、また小児に対する1日投与量が、4単位~24単位である請求項1~3のいずれか1項に記載の治療剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は愛着障害の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
児童虐待・ネグレクトによって高頻度に発症する愛着障害(Reactive Attachment Disorder: DSM-IV-TR 313.89)は、他の重篤な精神疾患へ推移することがよく知られている。すなわち情動機構が完成する生後5歳程度までに虐待を受けた場合、76%が愛着障害を発症し、多動性行動障害、解離性障害、大うつ病性障害、境界性人格障害等に推移する(非特許文献1)。また、被虐待者の67%が虐待者になるという虐待の世代間連鎖も生じる。しかし愛着障害の神経、分子基盤は明らかにされておらず、診断、治療、予防法が確立されていない。これまでの愛着障害に対する薬物療法では抗うつ薬や抗精神病薬が使用されているが、一定した効果が見られなかった。
【0003】
一方、下垂体後葉ホルモンであるオキシトシンには、末梢組織で乳汁分泌、子宮収縮させるだけでなく、中枢神経系に対しては社会行動を調整する作用(他者への愛情や親近感)があるといわれている。授乳中の母親が乳児に対して信頼性を獲得する作用が一例である。健常成人に対して、オキシトシン点鼻薬投与により、信頼性の上昇(非特許文献2)、mind-reading課題成績の上昇(非特許文献3)、親の子に対する愛着反応への効果(非特許文献4)などが報告されている。
【0004】
先行研究では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)治療に認知行動療法は有効であると示されているが、効果のない患者も少なくない。そこにオキシトシン投与を加えると効果の表れる患者がいることが報告されている(非特許文献5)。オキシトシンが扁桃体の活動を減少させ恐怖反応を抑えるとともに、報酬系の調整をするという二重のメカニズムによる治療効果がもたらされると言われている。
一方、自閉症や境界性人格障害患者にオキシトシン点鼻薬を投与し、社会性に関する臨床症状が改善した報告はあるが(非特許文献6~8)、愛着障害患者にオキシトシンを投与し改善したという報告はない。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】van der Kolk,et al., Disorders of extreme stress: The empirical foundation of a complex adaptation to trauma. J Trauma Stress, Oct 18(5):389-399, 2005
【非特許文献2】Baumgartner et al. Oxytocin shapes the neural circuitry of trust and trust adaptation in humans. Neuron, May 22; 58(4): 639-650, 2008
【非特許文献3】Modahl et al., Plasma oxytocin levels in autistic children. Biological Psychiatry; 43: 270-277, 1998
【非特許文献4】Wittfoth-Schardt et al., Oxytocin modulates neural reactivity to children's faces as a function of social salience. Neuropsychopharmacology Jul; 37(8): 1799-1807, 2012
【非特許文献5】Olff et al., A psychobiological rationale for oxytocin in the treatment of posttraumatic stress disorder. CNS Spectr, Aug; 15(8): 522-530, 2010
【非特許文献6】Kosaka et al., Long-term oxytocin administration improves social behaviors in a girl with autistic disorder. BMC Psychiatry, 12:110, 2012
【非特許文献7】Tachibana, et al., Long-term administration of intranasal oxytocin is a safe and promising therapy for early adolescent boys with autism spectrum disorders. J Child Adolesc Psychopharmacol, 23(2): 123-127, 2013
【非特許文献8】Bertsch et al., Oxytocin and reduction of social threat hypersensitivity in women with borderline personality disorder. Am J Psychiatry, Aug 28, 1-9, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、愛着障害の治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、オキシトシンを注射剤や鼻局所剤等の形態で局所投与により、愛着障害の症状が緩和または改善することを見出し、更なる研究の結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の[1]~[4]に関する。
[1]オキシトシンを有効成分として含有する愛着障害治療剤。
[2]局所投与用製剤である[1]に記載の治療剤。
[3]局所投与用製剤が注射剤又は点鼻剤である[2]に記載の治療剤。
[4]オキシトシンの成人に対する1日投与量が4単位~40単位、小児に対する1日投与量が4単位~24単位である[1]~[3]のいずれか1項に記載の治療剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の愛着障害治療剤は、例えば点鼻薬等の局所投与剤として手軽に投与でき、子供に対しても安全性に優れ長期投与が可能である。
本発明によれば、従来の認知行動療法やトラウマ曝露療法で効果がみられなかった患者、特に言語化するのが困難な低年齢の子供の愛着障害を治療できる。
本発明によれば、対人関係(社会的関係パターン)の改善、過度の警戒、適切に選択的な愛着を示す能力の欠如、拡散した愛着、無分別な社交性などを特徴とする情緒障害の改善など、愛着障害を早期に改善し、多動性行動障害、解離性障害、大うつ病性障害、境界性人格障害等などの重篤な精神疾患に推移するのを抑制または遅らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、オキシトシンの点鼻方法を示す。
【図2】図2は、オキシトシン投与前後のうつ尺度(SDS)の推移を示す。
【図3】図3は、オキシトシン投与前後の不注意/多動衝動性尺度の推移を示す。
【図4】図4は、オキシトシン投与前後の子供の強さと困難さの尺度の推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、オキシトシンを有効成分として含有する愛着障害治療剤に関する(以下本発明の治療剤と略することもある)。

【0012】
本発明において、「愛着障害」とは、反応性愛着障害を意味し、5歳以前に形成された養育者との異常な関係が原因となり、通常形成される母子間の愛着形成が構築されない症状を呈する。
異常な関係とは、身体的虐待(殴る、蹴るなどの暴力)、性的虐待、精神的虐待(言葉の暴力、両親間のDV(Domestic Violence)目撃など)、ネグレクト(子供遺棄、栄養不良、極端な不潔、育児怠慢)等が挙げられる。
反応性愛着障害は、抑制型と脱抑制型に分類され、その主な症状としては、衝動や怒りのコントロールの障害をきたし、多動性行動障害の症状等が挙げられるが、具体的には以下の症状が挙げられる;
(1)抑制型;他者に対して無関心、用心深い、集中力が低い、人の眼を見ない、人を信頼しない
(2)脱抑制型;多動、ハイテンションになる、人見知りがない、平気で悪口を言う、友達とのトラブルが多い。
これらの症状は一般的な例であり、両方の症状が見られることや、一部の症状しか認めないこともある。
なお現在「精神障害の診断と統計の手引き5」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM-5)の分類では、上記抑制型及び脱抑制型は、反応性アタッチメント障害(Reactive Attachment Disorder(RAD))及び脱抑制型対人交流障害(Disinhibited Social Engagement Disorder(DSED))に分類されているが、本願における愛着障害とは、両者を含む概念である。

【0013】
本発明の治療剤は、「愛着障害」の中でも、対人関係(社会的関係パターン)の障害や過度の警戒、適切に選択的な愛着を示す能力の欠如、拡散した愛着、無分別な社交性などを特徴とする情緒障害の症状に好ましく適用される。

【0014】
本発明で用いるオキシトシンは、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から分泌されるホルモンであり、9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである。
オキシトシンは、蛋白質加水分解法、化学合成法、酵素法又は発酵法など、いずれの製造方法で製造されたものでもよいし、市販品を用いることもできる。
また本発明におけるオキシトシンは、オキシトシン受容体アゴニスト等のオキシトシンと同じ作用を有するものであってもよい。

【0015】
本発明の治療剤において、性別、年齢、体重、その症状によって適宜調整が必要であるが、成人(60kg)1日あたりの投与量は、点鼻剤の場合には、通常は4単位~40単位の範囲であり、好ましくは8単位~40単位、より好ましくは16単位~40単位、特に好ましくは24単位~40単位である。
また小児の場合には、性別、年齢、体重、その症状によって適宜調整が必要であるが点鼻剤の場合には、1日あたりの投与量は、通常は4単位~40単位の範囲であり、好ましくは4単位~24単位、より好ましくは8単位~24単位、特に好ましくは16単位~24単位である。

【0016】
本発明の治療剤において、上記1日あたりの量を一度にもしくは数回に分けて投与することができる。通常は、1日1回ないし数回、好ましくは1回または2回、より好ましくは朝と夕方の2回投与する。また投与期間は特に限定されず、長期投与が可能であるが、通常は14日間~1年間、好ましくは4週間~6ヶ月間である。

【0017】
本発明の治療剤において、オキシトシンの配合量は、点鼻剤の場合には、治療剤全体対して、通常40~100単位/ml、好ましくは40単位/mlである。

【0018】
本発明の治療剤は、経口製剤または非経口製剤のいずれであってもよいが、オキシトシンが経口投与では消化管で直ちに分解されるので、非経口製剤が好ましく、局所投与用製剤がより好ましい。

【0019】
具体的には、静脈内、筋肉内、腹腔内、経鼻、口腔内、眼内、耳内、舌下もしくは皮下投与用製剤、または、例えば、エアゾールもしくは空気懸濁微粉末の形態で、気道を介する投与用製剤が挙げられる。あるいは、経皮パッチ剤または坐剤の形態であってもよい。中でも、注射剤、点鼻剤等が好ましく、侵襲性が比較的少ない点鼻剤がより好ましい。

【0020】
注射剤としては、例えば、皮下、静脈内または筋肉内投与用注射剤として使用する場合には、適切な分散剤または浸潤剤および懸濁化剤を使用し、公知の方法に従って調製する。

【0021】
点鼻剤としては、鼻腔又は鼻粘膜に投与する点鼻液剤又は粉末点鼻剤があり、必要に応じてスプレーポンプなどの適切な噴霧用の器具を用いて、噴霧吸入する。
点鼻液剤は、通常有効成分をそのまま又は溶剤もしくはその他の適切な添加剤を加え溶解又は懸濁し、公知の方法によって調製する。例えば、オキシトシンを、常法により水または温水中、必要に応じて油性基剤中に、溶解・懸濁させた後、pHや浸透圧などを適宜調整して液剤を製し、さらに必要に応じて無菌ろ過を行い、点鼻用容器に充填して製造することができる。必要に応じて可溶化剤、等張化剤、pH調節剤、分散剤又は安定化剤、生理食塩水などを加えてもよい。
点鼻粉末剤は、通常有効成分を適度に微細な粒子とし、必要ならば適切な生理食塩水などの添加剤と混和し、均質にして調製する。
本発明の点鼻剤の製造方法は、特に制限されるものではなく公知の方法によって製造することができる。例えば、上記各成分を、常法により水または温水中、必要に応じて油性基剤中に、溶解・懸濁させた後、pHや浸透圧などを適宜調整して液剤を製し、さらに必要に応じて無菌ろ過を行い、点鼻用容器に充填して製造することができる。

【0022】
あるいは本発明の治療剤を皮膚外用剤とする場合には、オキシトシンを種々の基剤に分散させて常法により製剤化すればよく、かかる基剤としては、ワセリン、流動パラフィン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシルなどの高級脂肪酸エステル、スクワラン、ラノリン、セタノールなどの高級アルコール、シリコーン油、動植物油脂などの油脂性基剤、エタノールなどの低級アルコール類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類、α-モノグリセリルエーテル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、デキストリン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸金属塩、硫酸マグネシウムなどの乳化又は乳化安定剤、芳香剤、防腐剤、色素、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防御剤、創傷治癒剤、抗炎症剤、保湿剤などの各種薬効剤、水などが挙げられる。

【0023】
本発明の治療剤には、その他の有効成分を添加してもよい。例えば、局所麻酔剤、消炎剤、収斂剤、抗ヒスタミン剤、ビタミン類、アミノ酸類、殺菌剤、充血除去剤等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適且組み合わせて用いることができる。

【0024】
本発明の治療剤は、従来の認知行動療法やトラウマ曝露療法で効果がみられなかった患者、特に言語化するのが困難な低年齢の子供の愛着障害に適用することができる。

【0025】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
以下に、オキシトシンの愛着障害に対する効果を調べた試験例を示す。
【実施例】
【0027】
(対象患者)
養育歴(虐待・ネグレクトの有無)および臨床症状評価の方法により反応性愛着障害と診断された3名の患者において評価を行った。
症例1;15歳 男児
症例2;14歳 男児
症例3;12歳 女児
【実施例】
【0028】
(投与方法)
オキシトシン点鼻は、オキシトシン(Syntocinon(登録商標)、Novartis)を朝と夕方に1回ずつ1日24単位(1回12単位)を4週間、図1に示すように経鼻投与した(1鼻をかむ 2容器を振る 3予備噴霧を行う 4鼻腔に噴霧 5上を向いて薬が流出するのを防ぐ 6容器を清潔な紙等で拭く)。
【実施例】
【0029】
下記基準を治療前後に調べ、症状の改善度を評価した。
(抑うつ尺度;SDS(Self-rating Depression Scale))
20項目の質問から構成され、いずれも4段階評価(いつも、しばしば、ときどき、めったにない)を行う。
自己評価式抑うつ性尺度を用い、対象患者本人の抑うつ状態を評価する方法に従い、評価した。
結果を図2に示す。オキシトシン投与により抑うつ度のスコアが低下し、症状改善を認めた。
図中Case1~3は、症例1~3の患者の結果を示し、治療前後のスコアを示す(以下同様)。
【実施例】
【0030】
(不注意/多動衝動性尺度)
他者評定による ADHD Rating Scale-IV日本語版(以下ADHD-RS;市川・田中,2008)(不注意に関する行動9項目、多動/衝動性に関する行動9項目の18項目から構成され、児童の様子に関する各項目を「0:ない,もしくはほとんどない」から「3:非常にしばしばある」の4件法で評価し、不注意項目の合計(不注意得点)、多動/衝動性項目の合計(多動/衝動性得点) を算出して評価する方法に従い、評価した。
結果を図3に示す。オキシトシン投与により不注意/多動衝動性のスコアが低下し、症状改善を認めた。
【実施例】
【0031】
(子供の強さと困難さの尺度)
子どもの精神症状と問題行動に関して、幼児期~青年期まで共通した項目内容で多側面の行動上の問題(多動と注意の問題、行為の問題、情緒の問題、友人関係の問題、向社会的行動傾向)を簡便に測定することができる精神的健康に関する尺度を評価する行動スクリーニング質問紙である Strength and Difficulties Questionnaire(SDQ)日本語版の方法に従い、評価した。
結果を図4に示す。オキシトシン投与により子供の強さと困難さのスコアが低下し、症状改善を認めた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3