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明細書 :細胞組織凍結用のナノファイバー基材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-198604 (P2015-198604A)
公開日 平成27年11月12日(2015.11.12)
発明の名称または考案の名称 細胞組織凍結用のナノファイバー基材
国際特許分類 C12N   5/07        (2010.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI C12N 5/00 202Z
C12N 5/00 202A
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2014-079207 (P2014-079207)
出願日 平成26年4月8日(2014.4.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼平成25年12月16日 第二回 日本バイオマテリアル学会北陸若手研究発表会 講演要旨集、W02にて発表 ▲2▼平成25年12月16日 第二回 日本バイオマテリアル学会北陸若手研究発表会において文書(スライド)をもって発表
発明者または考案者 【氏名】藤田 聡
【氏名】松村 和明
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100122688、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 健二
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065BD09
4B065BD12
4B065BD21
4B065BD33
4B065BD36
4B065BD40
4B065CA44
4B065CA46
要約 【課題】広範な種類の細胞に対して、接着状態を維持したまま細胞を凍結し、融解することを可能とするスキャフォールド、および凍結、融解の方法等を提供すること。
【解決手段】ガラス転移点が10℃未満であるエラストマー材料から作られたナノファイバーを含む、細胞の凍結保存に用いるためのスキャフォールド、それを用いて細胞を凍結保存する方法、凍結された細胞を含む構築物、および該構築物から細胞を融解する方法等。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ガラス転移点が10℃未満であるエラストマー材料から作られたナノファイバーを含む、細胞の凍結保存に用いるためのスキャフォールド。
【請求項2】
該エラストマー材料が、シリコーン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、およびそれらの誘導体、ならびにそれらの共重合体からなる群から選択されるものである、請求項1に記載のスキャフォールド。
【請求項3】
以下の工程を含む、細胞を凍結保存する方法。
(a)請求項1または2に記載のスキャフォールドに細胞を播種する工程、
(b)培地中で該細胞を培養し、該スキャフォールドおよびそれに接着した該細胞を含む細胞構築物を形成する工程、
(c)前記のガラス転移点よりも高い融点を持つ凍結媒体中で該細胞構築物を凍結する工程、および、
(d)該凍結された細胞構築物を所望の期間保存する工程。
【請求項4】
該凍結がガラス化凍結法により行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該凍結媒体が、カルボキシル化ポリ-L-リジンを含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
該細胞が、ES細胞、iPS細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、筋細胞、骨細胞、脂肪細胞、神経細胞、上皮細胞、およびそれらの幹細胞または前駆細胞、ならびにそれらから分化誘導される細胞からなる群から選択されるものである、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか1項に記載の方法を用いて得られる凍結保存された細胞構築物。
【請求項8】
請求項7に記載の凍結保存された細胞構築物を、該凍結された細胞が融解するのに十分な期間、0~40℃の融解媒体中に浸漬する工程を含む、凍結保存された細胞を融解する方法。
【請求項9】
該融解媒体が、0.2~2Mのスクロースを含む溶液である、請求項8に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の凍結および融解に用いられるスキャフォールド、それを用いて細胞を凍結保存する方法、凍結された細胞を含む構築物、および該構築物から細胞を融解する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養細胞を凍結する方法としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)を凍害保護剤とした緩慢凍結法が知られている。これは細胞分散液中に10%程度のDMSOを添加し、1℃/分程度の速度で約-80℃まで徐冷する方法である。他の手法としては、DMSO、アセトアミド、プロピレンの混合溶液を凍害保護剤とし、液体窒素中で凍結するガラス化法がある。細胞分散液ではなく、付着細胞を凍結する方法としては、コラーゲンシート上またはビトリゲル中に培養した細胞を緩慢凍結する方法が知られている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2007-306856号公報
【特許文献2】特表2012-517823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
培養細胞の凍結では、通常、細胞を剥離させて回収し、分散させる必要があるので、接着状態を維持したまま細胞を凍結するのは困難である。そのため、融解後に培養を再開し、実際に使用できる状態まで増幅するためには1~2週間かかる。コラーゲンシート上に細胞を凍結する方法は知られているが、コラーゲン接着性の細胞にしか適用できず、また3次元組織ごと凍結することはなお困難である。
【0005】
当該技術分野における上述の現状に対し、本発明は、広範な種類の細胞に対して、接着状態を維持したまま細胞を凍結し、融解することを可能とするスキャフォールドを提供すること等を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討したところ、凍結時に用いられる媒体の融点以下のガラス転移点を持つエラストマー材料から作られたナノファイバーを含むスキャフォールドを用いれば、該スキャフォールドに広範な種類の細胞を接着させ、そして接着状態を維持したまま細胞を凍結および融解できることを見出した。エラストマー材料のガラス転移点を該媒体の融点以下とすることで、媒体が凍結する瞬間まで足場材料が伸縮性を保ち、細胞に対する物理的ストレス(即ち、凍結する瞬間に細胞が収縮して細胞がナノファイバー基材から離れる)を防ぐことができる。ナノファイバーを用いることで、例えばフィルムと比較して伸縮性に富むため、凍結時に個々の細胞が接着している足場材料が変形しやすく、細胞接着を維持できる(剥離しにくい)。また、ファイバー状にすることで、細胞の伸展を維持し、生体に近い環境を保持して細胞の機能も維持できる。
本発明者らは更に、該スキャフォールドを用いた細胞の凍結のために特にガラス化凍結法を用いることで、細胞周辺の浸透圧の差をなくし、細胞の生存率を高めることができることも見出した。従来用いられてきたガラス化凍結法用の溶媒は一般に毒性が高いので、本発明者らが開発した凍害保護剤であるカルボキシル化ポリ-L-リジンを用いることで毒性を低減することができる。
以上の知見に基づき本発明者らは更に研究を行い、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は即ち、以下の通りである。
[1]ガラス転移点が10℃未満であるエラストマー材料から作られたナノファイバーを含む、細胞の凍結保存に用いるためのスキャフォールド。
[2]該エラストマー材料が、シリコーン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、およびそれらの誘導体、ならびにそれらの共重合体からなる群から選択されるものである、上記[1]に記載のスキャフォールド。
[3]以下の工程を含む、細胞を凍結保存する方法。
(a)上記[1]または[2]に記載のスキャフォールドに細胞を播種する工程、
(b)培地中で該細胞を培養し、該スキャフォールドおよびそれに接着した該細胞を含む細胞構築物を形成する工程、
(c)前記のガラス転移点よりも高い融点を持つ凍結媒体中で該細胞構築物を凍結する工程、および、
(d)該凍結された細胞構築物を所望の期間保存する工程。
[4]該凍結がガラス化凍結法により行われる、上記[3]に記載の方法。
[5]該凍結媒体が、カルボキシル化ポリ-L-リジンを含む、上記[3]または[4]に記載の方法。
[6]該細胞が、ES細胞、iPS細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、筋細胞、骨細胞、脂肪細胞、神経細胞、上皮細胞、およびそれらの幹細胞または前駆細胞、ならびにそれらから分化誘導される細胞からなる群から選択されるものである、上記[3]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]上記[3]~[6]のいずれかに記載の方法を用いて得られる凍結保存された細胞構築物。
[8]上記[7]に記載の凍結保存された細胞構築物を、該凍結された細胞が融解するのに十分な期間、0~40℃の融解媒体中に浸漬する工程を含む、凍結保存された細胞を融解する方法。
[9]該融解媒体が、0.2~2Mのスクロースを含む溶液である、上記[8]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスキャフォールドを用いれば、該スキャフォールドに広範な種類の細胞を接着させ、そして接着状態を維持したまま細胞を凍結および融解できる。本発明のスキャフォールドに細胞を伸長させた状態で接着すれば、その状態のまま細胞を凍結および融解できる。更に、該スキャフォールドを厚みのある構造体として構成すれば、高密度の細胞での凍結が可能となる。これにより、細胞融解から実際に使用できるまでのタイムラグを低減し、融解後即日に細胞を利用することも可能になる。本発明により、厚みのある組織も凍結できるので、例えば体外で組織状構造体を培養して作製し、これを凍結しておき、用時に融解してすぐに使うというように、再生医療での利用が可能となる。
本発明による細胞の凍結のために特にガラス化凍結法を用いれば、凍害保護剤が組織内部まで浸透せず、組織の内側と外側との間に浸透圧が生じること、組織が均一に冷却していかず、熱膨張により組織がひび割れを起こすこと、解凍時に再凍結により氷晶が形成されることといった問題を解消し、それにより凍結、解凍に伴う細胞機能の低下や生存率の低下を抑制することができる。
凍害保護剤として特にカルボキシル化ポリ-L-リジンを用いれば、種々の細胞に対して、より効率的かつ安全な凍結保存が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】15%PUで作製したナノファイバーを含むスキャフォールドについての、細胞生存アッセイにおける染色像を示す。
【図2】12.5%PUで作製したナノファイバーを含むスキャフォールドについての、細胞生存アッセイにおける染色像を示す。
【図3】20%PSで作製したナノファイバーを含むスキャフォールドについての、細胞生存アッセイにおける染色像を示す。
【図4】30%PSで作製したナノファイバーを含むスキャフォールドについての、細胞生存アッセイにおける染色像を示す。
【図5】PUフィルム、PSフィルムでの細胞生存アッセイの結果を示す図である。
【図6】15%PUフィルムについての、細胞生存アッセイにおける染色像を示す。
【図7】凍結-融解後の細胞の分化挙動アッセイの結果を示す図である。
【図8】ファイバーの凍結-融解後の細胞の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。

【0011】
(スキャフォールド)
本発明は、細胞の凍結保存に用いることができるスキャフォールド(以下、本発明のスキャフォールドともいう。)を提供する。本発明のスキャフォールドは、細胞の培養用培地の融点よりも低いガラス転移点を有するエラストマー材料から作られたナノファイバーを含むことを特徴とする。

【0012】
本明細書において「スキャフォールド」とは、細胞を付着もしくは保持させその生育を可能とする、細胞や組織の足場となる材料のことをいう。スキャフォールドを用いて培養することにより、細胞同士の接触が増加し、細胞間相互作用を高めることができる。スキャフォールドを用いることにより、細胞は立体的な3次元構造で、つまりin vivoの組織環境に近い条件で培養され得る。

【0013】
本明細書において「ナノファイバー」とは、径または表面構造がナノメートルスケールの大きさを有している繊維であり、平均径1nm~5μm、アスペクト比が100以上の繊維をいう。本発明に用いるナノファイバーの平均直径は、用途等に応じ適宜選択することが可能であり、例えば平均径100nm~1000nmの繊維などが挙げられる。

【0014】
ナノファイバーの素材であるエラストマー材料は、用いる細胞の培養用培地の融点よりも低いガラス転移点を有する限り、特に限定されない。該エラストマー材料のガラス転移点は、通常10℃未満、好ましくは0℃未満、-10℃未満、-20℃未満または-30℃未満であり、その下限は限定されないが、例えば-150℃である。また、該エラストマーの引張破断点伸びとしては、通常100%以上、好ましくは300%以上である。

【0015】
具体的なエラストマー材料としては、例えば、シリコーン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、およびそれらの誘導体、ならびにそれらの共重合体が挙げられる。好ましい材料としては、ポリウレタン、ポリカプロラクトン、およびそれらの共重合体である。これらナノファイバーの材料は、それぞれ単独で用いても、適宜混合して用いてもよい。また、例えば、スキャフォールドおよび細胞を含む3次元組織を再生医療のために用いることが企図される場合、該材料は生体適合性のものであることが好ましい。

【0016】
ナノファイバーは、上記のエラストマー材料を用いて自体公知の方法により製造することができる。該方法としては、エレクトロスピニング法、セルフアッセンブリー法、フェイズ・セパレーション法等が挙げられる。好ましくは、本発明においてナノファイバーはエレクトロスピニング法により作製される。

【0017】
エレクトロスピニング法とは、各種生体高分子やポリマーなどの溶液に高電圧を印加し、繊維を作製する方法である(米国特許第1,975,504号、高橋卓己ら,工業材料,51,34,2003年)。エレクトロスピニング法は、ナノレベルの繊維径の紡糸が可能であり、均一な径の繊維が形成されやすい特徴を有する。また、作製方法が簡便であること、材料の選択肢が多いこと、装置や材料のコストが低いことから、本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーの作製に適している。

【0018】
該ナノファイバーの製造は、例えば以下の通りに行うことができる。
ナノファイバーの材料をシリンジなどに充填した後、注射針などのキャピラリーに電圧(例えば、10~30kV)が印加される。その後、ナノファイバーの材料は、シリンジポンプなどを用いてシリンジから一定の速度で射出され、電圧によりナノオーダーの繊維が作製される。
射出された繊維を円筒(回転ドラム、巻き取り機など)を用いて巻き取ることにより、ナノファイバーシートが作製される。また、射出された繊維の巻き取り回転数を変化させることにより、ナノファイバーの繊維密度を変化させることができる。それにより、各細胞種により異なる最適繊維密度に対応可能である。

【0019】
本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーは、様々な細胞有用物質により表面修飾されていてもよい。ここで、表面修飾とは、基質であるナノファイバー表面上の細胞有用物質を物理的もしくは化学的に付着結合させることをいう。細胞有用物質とは、細胞・組織の本発明のスキャフォールドへの親和性向上に有用な物質、細胞機能の向上に有用な物質、細胞の分化に有用な物質、細胞への遺伝子導入に有用な物質などであり、例えば、プロネクチンF、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス、コラーゲン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-リジンなどの細胞接着因子、リン酸カルシウム、リン石灰などの生体内分子、ペプチド、タンパク質などの生体分子、細胞膜上に発現しているタンパク質や糖脂質などに対する抗体、生理活性物質などが挙げられる。これらの細胞有用物質を表面修飾することにより、本発明のスキャフォールドの細胞接着率を操作することが可能となる。

【0020】
本発明のスキャフォールドは、上述のように作製されたナノファイバーを適宜加工することで得ることができる。

【0021】
ナノファイバーの配向性は特に限定されないが、融解後の細胞を一方向に配向させることで、細胞外マトリックス産生などの細胞機能を高めることができたり、生体組織に似た幾何構造を有することから融解後すぐに移植組織として利用したりすることが可能になると考えられるため、異なるナノファイバーが概して均一な方向に配向していることが好ましい。

【0022】
本発明のスキャフォールドの形状としては、特に限定されないが、例えば、シート状、ブロック状、円筒状などが挙げられる。

【0023】
本発明のスキャフォールドの大きさは、その上で細胞が培養可能な大きさであれば特に制限されず、その形状により異なるが、例えば、形状がシート状である場合、0.01cm~100cm、好ましくは0.25cm~100cm、より好ましくは0.25cm~10cmである。厚みは1nm~10cmであり、好ましくは1mm~1cm、より好ましくは1mm~0.5cmである。

【0024】
本発明のスキャフォールド中のナノファイバーの密度は、対象とする細胞等に応じて様々であるが、例えば0.1~2.0mg/cm、好ましくは0.2~1.0mg/cmである。

【0025】
本発明のスキャフォールドは、滅菌されていてもよい。また、滅菌した状態で細菌遮断性包材に封入するなどにより、無菌状態を保持した形態をとることもできる。なお、滅菌法はオートクレーブ、乾熱滅菌、エタノール滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、二酸化塩素ガス滅菌、放射線(γ線)滅菌、高周波滅菌、紫外線滅菌を用いるのが好ましい。例えば、スキャフォールドを細菌遮断性包材に封入するなどにより、無菌状態を保持し得る形態とした後、オートクレーブなどの滅菌処理を施すことにより、本発明のスキャフォールドを流通に供することができる。

【0026】
上述のように、本発明のスキャフォールドは、細胞接着率を操作することが可能である。なお、「細胞接着率を操作」とは、細胞と本発明のスキャフォールドの接着性を向上または低下させることである。例えば、本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーの、表面の疎水性を下げる(親水性を上げる)または表面を細胞接着因子で修飾すると、スキャフォールドは細胞接着性が高くなる。また、表面の親水性を非常に上げる(疎水性を非常に下げる)あるいは表面の親水性を非常に下げる(疎水性を非常に上げる)と、スキャフォールドは細胞接着性が低くなる。本発明のスキャフォールドは培養する細胞種に合わせた細胞接着率の操作が可能なので、多種多様な細胞の培養に適応可能である。例えば、in vivoの組織環境に配向性の必要な細胞(例えば、骨芽細胞、線維芽細胞など)を培養する場合は、細胞接着性の高いスキャフォールドが適しており、また、in vivoの組織環境に自身同士の細胞間相互作用が必要な細胞(例えば、肝細胞など)を培養する場合は、細胞接着性の低いスキャフォールドが適している。

【0027】
(細胞の凍結保存方法)
本発明はまた、本発明のスキャフォールドを用いることを含む、細胞の凍結保存方法(以下、本発明の凍結保存方法)を提供する。本発明の凍結保存方法は、以下の工程:(a)本発明のスキャフォールドに細胞を播種する工程、(b)培地中で該細胞を培養し、該スキャフォールドおよびそれに接着した該細胞を含む細胞構築物を形成する工程、(c)本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーの素材であるエラストマー材料のガラス転移点よりも高い融点を持つ凍結媒体中で該細胞構築物を凍結する工程、および、(d)該凍結された細胞構築物を所望の期間保存する工程を含む。

【0028】
上記の工程(a)では、凍結保存が企図される細胞が本発明のスキャフォールド中のナノファイバー上またはナノファイバー空隙間に播種される。

【0029】
該細胞は、付着性細胞である限り、その種類は特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシなど)、鳥類(ニワトリ、ダチョウなど)、両生類(カエルなど)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカなど)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエなど)などの非脊椎動物、植物、酵母などの微生物などの細胞が挙げられる。より好ましくは、本発明で対象とされる細胞は、動物もしくは植物細胞、さらに好ましくは哺乳動物細胞である。

【0030】
より具体的には、該細胞としては、例えば、ES細胞、iPS細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、筋細胞、骨細胞、脂肪細胞、神経細胞、上皮細胞、およびそれらの幹細胞または前駆細胞、ならびにそれらから分化誘導される細胞が挙げられる。本発明のスキャフォールドに細胞を播種して培養することで、3次元組織様の構築物を作製することができるので、該細胞としては、再生医療において用いるための構築物の形成に繋がる細胞種、例えば、間葉系幹細胞や骨芽細胞、筋芽細胞などが好ましいものとして挙げられる。

【0031】
細胞の播種は、例えば、本発明のスキャフォールドがシート状である場合、該スキャフォールドを設置した培養器内に培養液を添加し、さらに細胞を該培養器内に添加することにより行われ得る。

【0032】
播種される細胞の密度は、細胞の種類などにより異なるが、例えば約1×10細胞/ml~約1×10細胞/ml、より好ましくは約1×10細胞/ml~約1×10細胞/mlである。

【0033】
培養に用いられる培養器は、特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、デッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用デッシュ、マルチデッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルなどが挙げられる。

【0034】
培養に用いられる培養培地の基礎培地は、例えば、DMEM、EMEM、RPMI-1640、α-MEM、F-12、F-10、M-199、HAM、ERDF、L-15、ウイリアムズEなどの自体公知の基礎培地を挙げることができる。また、上記基礎培地の混合培地を用いてもよい。

【0035】
培養培地には、血清、増殖因子、添加物などが含まれ得る。血清、増殖因子、添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれてよい。得られる構築物を再生医療において用いることが企図される場合、無血清培地中での培養が好ましい。

【0036】
培養条件は、培養する細胞種により異なり、通常当分野で実施される条件で実施することができる。特に限定されないが、例えば、哺乳類の細胞は5%CO雰囲気下37℃で1日間以上培養される。

【0037】
培養される細胞の密度は、細胞の種類などにより異なるが、例えば約1×103細胞/cm~約1×10細胞/cmである。本発明のスキャフォールドは、ナノファイバーを含むため、その表面積は従来品に比べ飛躍的に増大している。従って、本発明の培養方法では、極めて高密度な(例えば、約1×10cells/cm)細胞の培養が可能となる。

【0038】
本発明によれば、細胞はin vivoの組織環境に近い条件で培養され得るため、生体内の細胞が有する機能を生体外で維持することが可能である。また、本発明によれば、生体内の組織が有する機能を維持した組織構築物を形成することが可能である。

【0039】
以上のようにして、本発明のスキャフォールド中のナノファイバー上またはナノファイバー空隙間に細胞が接着してなる構築物が形成される。細胞は当該位置において伸展していてもよい。本発明によれば、接着、伸展した細胞を、3次元的な組織を構築させたまま凍結、融解することが可能である。

【0040】
上記の工程(c)では、このようにして形成された構築物が凍結される。凍結の手順は特に限定されず、自体公知の技術に従って行うことができる。
凍結の温度および時間等の条件は、通常の細胞懸濁液を凍結する際と同様のものを用いることができる。凍結は緩慢凍結法であっても、ガラス化凍結法(急速凍結法)であってもよいが、凍結時や解凍時に細胞内外で形成された氷晶による細胞の損傷を低減し、細胞の生存率を高めるために、ガラス化凍結法を用いることが好ましい。また、凍結は通常0℃以下、好ましくは-40℃以下、より好ましくは-80℃以下、更に好ましくは-150℃以下、特に好ましくは液体窒素下またはそれよりも低い温度で行われる。

【0041】
ガラス化凍結法は、水を結晶化させずにガラス状態で固化、凍結する方法である。そのためには、凍結媒体中の溶質(凍害保護剤)の濃度を高めることと、冷却速度を大きくすることが重要である。溶質の濃度が高いほど水の分子運動が制限されてガラス化しやすくなるが、一方で浸透圧が高くなり、細胞への毒性も高くなる。また、凍結時よりもむしろ溶解時に再結晶化が起こることにより細胞に物理的ダメージを与え得る。凍結および融解時の細胞への毒性を低減するために種々の凍害保護剤が知られており、例えば、カルボキシル化-ポリ-L-リジン(COOH-PLL)(K. Matsumura, Biomaterials, 30; 4842-4849, 2009)、ジメチルスルホキシド(DMSO;10%)、2,3-ブタンジオール(BD;32%)、1,2-プロパンジオール(PD;45%)、1,2-エタンジオール(ED;45%)、VS55(Y. C. Song, et al., Nature Biotechnology, 18; 296-299, 2000)、VS70(T. M. Farooque, et al., Bioprocessing (Williamsbg Va)., 8; 29-36, 2009)、VS442(H. Yin, et al., Cryobiology, 59; 180-187, 2009)、KYO-1(C. A. Agudelo, et al., Biomaterials, 29; 1167-1176, 2008)等が挙げられる。中でも、他のものと比べて、広範な細胞種に対して効率的かつ安全な凍結保存を可能にするという点から、COOH-PLLが好ましい。なお、COOH-PLLは以下の構造式:

【0042】
【化1】
JP2015198604A_000002t.gif

【0043】
(式中、Rは水素または

【0044】
【化2】
JP2015198604A_000003t.gif

【0045】
であり、
nは重合度を表す。)を有し、ポリリジンのアミノ基の少なくとも一部、好ましくは50%~76%が上記のカルボキシル基に変換されている化合物である。ここで、重合度nは通常10~50の整数である。

【0046】
凍結媒体は、通常細胞懸濁液を凍結する際に使用する培養液と同様のものを使用することができ、例えば、細胞を培養する際に使用する培養液に対して所定の割合で凍害保護剤を添加したものなどを挙げることができる。例えば、凍結媒体は、通常1~50%、好ましくは5~15%のCOOH-PLLを含んでよく、それ以外に1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオールなどを含み得る。一つの実施形態では、凍結媒体は、DMSOを含まない。

【0047】
ガラス化凍結法は、Matsumura K, Cryobiology, 63; 76-83, 2011等の文献の教示に従って実施することができる。ガラス化凍結(急速凍結)では、通常30℃/分以上の速度で、より通常には50℃/分以上の速度で凍結される。凍結は、好ましくは100℃/分以上、より好ましくは500℃/分以上であることが有利である。ここで、凍結速度は、初速および終速については考慮しないことが好ましい。あるいは、この凍結速度は、平均速度であり得る。あるいは、通常の培養温度(例えば、37℃)から、目的とする凍結保存温度(例えば、-196℃)までに要する時間が例えば、通常5分以内、より好ましくは3分以内、更に好ましくは1分以内、最も好ましくは15秒以内であることもまた、急速凍結保存の定義内に入る。

【0048】
上記のようにして得られた凍結構築物を、それを使用する直前まで保存することができる。保存は、例えば、-150℃以下に保たれた液体窒素タンク中の液相中または気相中に凍結構築物を保管することで行うことができる。

【0049】
(細胞構築物)
本発明はまた、本発明の凍結保存方法により得られる凍結保存された細胞構築物(以下、本発明の凍結構築物ともいう。)を提供する。本発明の凍結構築物は、例えば後述の融解方法を用いて用時に融解して使用することができる。

【0050】
(融解方法)
本発明は更に、本発明の凍結構築物を融解する方法(以下、本発明の融解方法ともいう。)を提供する。本発明の融解方法は、本発明の凍結構築物を、該構築物中の細胞が融解するのに十分な期間、0~40℃、好ましくは36~38℃の融解媒体中に浸漬する工程を含む。浸漬期間は、融解媒体の温度や細胞の種類等に応じて異なるが、例えば30秒~10分間である。融解は、凍結に用いた媒体を融解媒体に置換することにより行うことができる。融解媒体としては、例えば、高濃度(例:0.2~2M)のスクロースを含有するFBSフリー媒体を使用できる。最終的な通常の培養液まで、段階的に媒体を置換することが好ましい。例えば、融解媒体1:1Mのスクロースを含有するFBSフリー媒体、および融解媒体2:0.5Mのスクロースを含有するFBSフリー媒体からなる2段階の融解媒体を用い得る。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
1.スキャフォールドの作製
20%または30%ポリスチレン(PS、Mw350,000、Sigma-Aldrich)、12.5%または15%ポリウレタン(PU、Mw146,000、Elastollan(登録商標)1180A10)からエレクトロスピニングによりナノファイバーを作製した。エレクトロスピニングのパラメータとしては以下の通りである。
PS:30kV、1mL/h、1500rpm
PU:30kV、0.6mL/h、900rpm
【実施例】
【0053】
2.3次元組織様構造物の作製
上記のように作製されたスキャフォールドに2×10細胞/cmの密度でマウス筋芽細胞(C2C12)を播種した。細胞を37℃、5%CO、湿度>80%の条件下で3日間培養することにより、該細胞がスキャフォールドに接着、伸展した3次元組織様構造物を作製した。
【実施例】
【0054】
3.凍結および融解
上記のように作製された3次元組織様構造物を異なる凍結媒体を用いてガラス化凍結法により凍結した。凍結は、先ず構造物を液体窒素蒸気に暴露した後、それを液体窒素中に直接浸漬して完全に凍結することにより行った。液体窒素中に浸漬しての凍結は、5分かけて-140℃まで冷却した後、10分かけて-196℃まで冷却した。用いた凍結媒体は以下の通りである(PLL:カルボキシル化-ポリ-L-リジン)。
・10%DMSOおよび10%血清を含む溶液
・0% PLL、6.5%エチレングリコール、0.5Mスクロースを含む溶液
・5% PLL、6.5%エチレングリコール、0.5Mスクロースを含む溶液
・10% PLL、6.5%エチレングリコール、0.5Mスクロースを含む溶液
その後、細胞を融解した。融解溶液は、凍結された構造物を、融解溶液1:1Mスクロースを含むPBS,37℃に浸漬した後、融解溶液2:0.5Mスクロースを含むPBS,37℃に置換して浸漬することで行った。
【実施例】
【0055】
4.融解後の細胞の生存および分化のアッセイ
細胞の生存を、Calcein AM(CAM)およびヨウ化プロピジウム(PI)染色により調べた。
15%PUで作製したナノファイバーを含むスキャフォールドでの染色像を図1に、12.5%PUで作製したナノファイバーを含むスキャフォールドでの染色像を図2に示す。PUナノファイバーとPLLとの組み合わせで、凍結-融解後、非常に高い細胞生存率が維持されていた。同様に、20%PSで作製したナノファイバーを含むスキャフォールドでの染色像を図3に、30%PSで作製したナノファイバーを含むスキャフォールドでの染色像を図4に示す。PSナノファイバーとPLLとの組み合わせで、凍結-融解後、ある程度高い生存率が維持されていたが、PUナノファイバーの場合と比べて死細胞も多かった。
【実施例】
【0056】
ポリウレタン(PU)フィルム、ポリスチレン(PS)フィルムも作製して、同様の実験を行った(図5、6)。その結果、PUフィルムとPLLの組み合わせで、凍結-融解後、ある程度高い生存率が維持されていた。PSフィルムの場合、ほとんど効果がなかった。
【実施例】
【0057】
更に、凍結-融解後の細胞の分化挙動を低血清培地による分化誘導により調べた。凍結融解後の細胞を低血清培地で分化誘導を3日間かけ、その後の増殖数を評価した。分化誘導後の細胞は、増殖挙動が低下することが知られている。結果を図7に示すとおり、凍結融解後に分化誘導を施した細胞は、凍結融解をおこなわずに分化誘導を施した細胞と同程度の増殖性を示し、分化が促進されていることが示された。
【実施例】
【0058】
図8は、凍結-融解後の細胞の形状を示す。図8に示されるように、ポリウレタン、ポリカプロラクトンの各ファイバー上で培養した細胞については、PLL存在下で凍結融解しても細胞は伸展・接着したままで、生存していた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7