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明細書 :光学活性アミノニトリル化合物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-001981 (P2017-001981A)
公開日 平成29年1月5日(2017.1.5)
発明の名称または考案の名称 光学活性アミノニトリル化合物の製造方法
国際特許分類 C07C 253/00        (2006.01)
C07C 253/34        (2006.01)
C07C 255/42        (2006.01)
C07B  53/00        (2006.01)
C07C 227/26        (2006.01)
C07C 227/32        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07C 253/00
C07C 253/34
C07C 255/42
C07B 53/00 A
C07C 227/26
C07C 227/32
C07B 53/00 G
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2015-116332 (P2015-116332)
出願日 平成27年6月9日(2015.6.9)
発明者または考案者 【氏名】川▲崎▼ 常臣
【氏名】徳永 雄次
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100104318、【弁理士】、【氏名又は名称】深井 敏和
【識別番号】100182796、【弁理士】、【氏名又は名称】津島 洋介
【識別番号】100181308、【弁理士】、【氏名又は名称】早稲田 茂之
審査請求 未請求
テーマコード 4H006
4H039
Fターム 4H006AA02
4H006AC46
4H006AC52
4H006AC54
4H006AC81
4H006AC83
4H006AD15
4H006BA51
4H006BA69
4H006BB14
4H006BB17
4H006BD70
4H006BE06
4H006BE60
4H006BJ50
4H006BS10
4H006BU38
4H006QN00
4H039CA65
4H039CA70
4H039CA71
4H039CE20
4H039CL25
要約 【課題】光学活性アミノ酸等を製造するのに好適な光学活性アミノニトリル化合物の製造方法を提供を提供する
【解決手段】ベンズヒドリルアミン等の第1級アミン化合物、パラトルアルデヒド等のアルデヒド化合物およびシアン化水素またはその塩を塩基(DBU等)の存在下に溶媒中で反応させて、鏡像体過剰率が絶対配置におけるS体およびR体のいずれか一方に偏ったアミノニトリル化合物を析出させる。得られた光学活性アミノニトリル化合物を加水分解すると光学活性なアミノ酸が得られる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
第1級アミン化合物、アルデヒド化合物およびシアン化水素またはその塩を塩基存在下に溶媒中で反応させて、鏡像体過剰率が絶対配置におけるS体およびR体のいずれか一方に偏ったアミノニトリル化合物を析出させることを特徴とする、光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
【請求項2】
下記一般式(1)で表される第1級アミン化合物、下記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物およびシアン化水素またはその塩を塩基存在下に反応させる請求項1に記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
【化6】
JP2017001981A_000011t.gif

(式中、R1およびR2は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。但し、但し、R1、R2およびR3のうち少なくとも2つは同一官能基である。)
【化7】
JP2017001981A_000012t.gif

(式中、R4は、水素原子またはアルキル基を示す。nは1~3の整数である。)
【請求項3】
第1級アミン化合物がベンズヒドリルアミンであり、アルデヒド化合物がパラトルアルデヒドである請求項1または2に記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
【請求項4】
塩基が、ジアザビシクロウンデセンである請求項1~3のいずれかに記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
【請求項5】
アミノニトリル化合物を析出させた後、このアミノニトリル化合物を含む懸濁液を撹拌・粉砕処理する請求項1~4のいずれかに記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
【請求項6】
シアン化水素またはその塩および塩基を加え、さらにアミノニトリル化合物のラセミ混合物を飽和させた溶液に、S体およびR体のいずれか一方のアミノニトリル化合物の結晶を懸濁させ、撹拌・粉砕処理することを特徴とする、光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法によって得られた光学活性アミノニトリル化合物を加水分解して、光学活性なアミノ酸を得ることを特徴とする、光学活性アミノ酸の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アミノ酸の前駆体であり、自発的なキラル結晶化により得られる光学活性アミノニトリル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性アミノニトリル化合物は、加水分解によって容易に対応する光学活性アミノ酸へと変換可能であるため、アミノ酸製造の前駆体として重要な化合物である。アミノ酸は、医農薬をはじめとし、食品分野や化成品原料としても広く利用されている。グリシンを除くほとんどのアミノ酸は、L型およびD型のエナンチオマーが存在する。生体は主にL型アミノ酸を利用しており、そのためL型およびD型の一方のエナンチオマーを選択的に得る不斉合成法は、極めて重要な技術である。現在までのところ、L型アミノ酸を得る方法として発酵法が広く用いられているが、同方法では原理的にD型アミノ酸を得るのは容易ではない。化学合成によって得られるL型およびD型アミノ酸の等量混合物からエナンチオマーを分離する方法が研究されている。また、不斉触媒を利用したエナンチオ選択的なL型およびD型アミノ酸合成法が研究されている。しかし、この方法では、不斉源として光学活性化合物を必要とし、不斉源の価格や反応終了後の生成物との分離操作などの面から、低いコストでL型またはD型のアミノ酸を選択的に効率よく得ることは困難である。
【0003】
一方、特許文献1には、エナンチオマー混合物から一方のエナンチオマーを簡易に効率よく分離できる光学分割法が記載されている。この光学分割法は、自然に優先晶出可能なキラリティーを有するアスパラギンなどの化合物(A)と、分割対象化合物(B)のエナンチオマー混合物とを含む溶液を晶析操作に付し、前記化合物(A)の晶出に随伴して、分割対象化合物(B)の一方のエナンチオマーを優先的に晶出させるものである。
【0004】
しかし、この光学分割法は、分割対象化合物(B)を晶析させるために、自然に優先晶出可能なキラリティーを有する化合物(A)を必要とし、さらに分割対象化合物(B)の一方のエナンチオマーを優先晶出させた後は化合物(A)から目的化合物を分離する操作を必要とするため、工業的な生産には不利である。また、L型とD型との間に相互変換(異性化)の機構が存在しないことから原理的に50%の収率を超えない。
【0005】
非特許文献1には、ラセミ体のアミノ酸(o‐ヒドロキシフェニルグリシン)の溶液から高光学純度の種結晶を用いて光学純度の高いアミノ酸を得る光学分割法が記載されている。この光学分割法は、あらかじめ光学純度の高い種結晶を必要とし、さらに自然分晶を誘導するo-トルエンスルホン酸を化学量論量必要とするため、コストの面から工業的な生産には不利である。
【0006】
非特許文献2には、鏡像体過剰率に偏りを持ったアミノ酸(アスパラギン酸)の結晶を用いて光学純度の高いアミノ酸を得る光学分割法が記載されている。この光学分割法は、最初から鏡像体過剰率に偏りを持ったアミノ酸を必要とし、また光学純度が上昇するのに長時間(10日~20日)を要するため、コストや時間の面から工業的な生産には不利である。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第4067319号公報
【0008】

【非特許文献1】Bull. Chem. Soc. Jpn. 1985, 58, 433
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 15274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、光学活性アミノ酸等を製造するのに好適な光学活性アミノニトリル化合物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アキラルな反応基質でのストレッカー合成によって生成するα-アミノニトリル化合物が、塩基を含む過飽和溶液から自発的に鏡像体過剰率に偏り(最高96%ee)を持って析出することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)第1級アミン化合物、アルデヒド化合物およびシアン化水素またはその塩を塩基存在下に溶媒中で反応させて、鏡像体過剰率が絶対配置におけるS体およびR体のいずれか一方に偏ったアミノニトリル化合物を析出させることを特徴とする、光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
(2)下記一般式(1)で表される第1級アミン化合物、下記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物およびシアン化水素またはその塩を塩基存在下に反応させる(1)に記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
【化1】
JP2017001981A_000003t.gif

(式中、R1,R2およびR3は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。但し、R1、R2およびR3のうち少なくとも2つは同一官能基である。)
【化2】
JP2017001981A_000004t.gif

(式中、R4は、水素原子またはアルキル基を示す。nは1~3の整数である。)
(3)第1級アミン化合物がベンズヒドリルアミンであり、アルデヒド化合物がパラトルアルデヒドである(1)または(2)に記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
(4)塩基が、ジアザビシクロウンデセンである(1)~(3)のいずれかに記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
(5)アミノニトリル化合物を析出させた後、当該アミノニトリル化合物を含む懸濁液を撹拌・粉砕処理する(1)~(4)のいずれかに記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
(6)シアン化水素またはその塩および塩基を加え、さらにアミノニトリル化合物のラセミ混合物を飽和させた溶液に、S体およびR体のいずれか一方のアミノニトリル化合物の結晶を懸濁させ、撹拌・粉砕処理することを特徴とする、光学活性アミノニトリル化合物の製造方法。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の光学活性アミノニトリル化合物の製造方法によって得られた光学活性アミノニトリル化合物を加水分解して、光学活性なアミノ酸を得ることを特徴とする、光学活性アミノ酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、アルデヒドとアミンとシアン化水素またはその塩を溶媒中に溶解し、塩基存在下で撹拌ないしは放置することにより自発的に光学活性アミノニトリル化合物が統計的確率に従って析出させることができ、得られたアミノニトリル化合物を加水分解することにより光学活性アミノ酸を製造することができる。かかる本発明の方法は、アミノニトリル化合物のキラル結晶化(コングロメレート形成)を基本原理とするものであり、発酵法や不斉触媒を利用した方法を適用する必要がなく、反応終了後の精製が極めて簡便である。特に、不斉触媒を利用しないため生成物に有害な金属等が混入する可能性が低いため、高純度の生成物を容易に製造することができる。
また、本発明において、自然分晶により生成した光学活性アミノニトリル化合物の結晶は、反応中にその光学純度(鏡像体過剰率、ee)を著しく向上させることが可能なため(最高96%ee)、光学的にも高純度のアミノニトリル化合物を製造することができ、従って、加水分解によって高純度の光学活性アミノ酸が製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る全反応行程の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の実施例におけるアミノニトリル化合物の光学純度(横軸)と発生頻度(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例において、R体もしくはS体のアミノニトリル化合物を用いて不斉増幅を行った場合の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の光学活性アミノ酸の製造方法を詳細に説明する。本実施形態では、前駆体としての光学活性アミノニトリル化合物を経て光学活性アミノ酸を製造する。反応行程の一例を図1に示す。

【0014】
<アミノニトリル化合物の生成>
本発明の光学活性アミノ酸の製造方法は、第1級アミン化合物、アルデヒド化合物およびシアン化水素またはその塩(以下、単にシアン化水素ということがある)を塩基存在下に溶媒中で反応させて、特定のキラリティーを有するα-アミノニトリル化合物を固体状態の生成物として得る工程と、得られたα-アミノニトリル化合物を加水分解して、光学活性なアミノ酸を得る工程とを含む。シアン化水素の塩としては、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩が挙げられる。
特定のキラリティーを有するアミノニトリル化合物を生成する反応は、ストレッカー合成を利用しており、生成するα-アミノニトリル化合物は、塩基を含む過飽和溶液から自発的に鏡像体過剰率に偏りを持って析出する。

【0015】
使用する第1級アミン化合物とアルデヒド化合物の種類やそれらの組み合わせは、シアン化水素が付加して生成するアミノニトリル化合物がコングロメレートを形成する限り、特に制限されない。
第1級アミン化合物の例としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
JP2017001981A_000005t.gif

(式中、R1,R2およびR3は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。但し、R1、R2およびR3のうち少なくとも2つは同一官能基である。)
アルキル基としては、炭素数1~6の低級アルキル基が例示される。アリール基としては、例えばフェニル基、トルイル基、ナフチル基などが例示される。置換基としては、例えば低級アルキル基、低級アルコキシ基、フェニル基などが例示される。
第1級アミン化合物(1)の具体例としては、ベンズヒドリルアミン、トリフェニルメチルアミン、2,2′‐ジメチルベンズヒドリルアミン、3,3′‐ジメチルベンズヒドリルアミン、4,4′‐ジメチルベンズヒドリルアミンなどが挙げられる。

【0016】
アルデヒド化合物の例としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
JP2017001981A_000006t.gif

(式中、R4は水素原子またはアルキル基を示す。nは1~3の整数である。)
アルキル基としては、上記と同様な基が例示される。アルデヒド化合物(2)の具体例としては、ベンズアルデヒド、パラトルアルデヒド、m-トルアルデヒド、p-エチルベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、ナフトアルデヒドなどが挙げられる。
使用する第1級アミン化合物およびアルデヒド化合物は、いずれもアキラルな化合物である。

【0017】
塩基としては、例えばジアザビシクロウンデセン(DBU)などのアミジン誘導体やテトラメチルグアニジンなどのグアニジン誘導体などが挙げられる。塩基はアミノニトリル化合物のS体とR体との間(またはL体とD体との間)で異性化触媒として機能する。

【0018】
溶媒としては、使用する第1級アミン化合物、アルデヒド化合物等の種類等に応じて適宜選択でき、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、N-メチルピロリドンなどのラクタム類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのイオウ原子含有化合物;炭化水素類;およびこれらの混合溶媒などが挙げられる。

【0019】
前記したように、特定のキラリティーを有するアミノニトリル化合物を生成する反応は、ストレッカー合成を利用している。反応にあたっては、溶媒中で、第1級アミン化合物、アルデヒド化合物、シアン化水素、および塩基(DBU等)を混合し、結晶が析出するまで撹拌する。
このとき、第1級アミン化合物とアルデヒド化合物は、約等モル量で添加するのがよい。シアン化水素の添加量は、第1級アミン化合物またはアルデヒド化合物の添加量に対して少なくとも1倍モル量、好ましくは3~6倍モル量であるのがよい。その理由は、塩基存在下では、生成したアミノニトリル化合物からシアン化水素が脱離してイミンを生成する副反応も起こり、この副反応は平衡反応であるため、シアン化水素の添加量が上記範囲よりも低い場合、アミノニトリル化合物が低濃度で平衡に達してしまい、アミノニトリル化合物の自発的結晶化が誘起されるのに十分な濃度まで到達しないおそれがあるためである。

【0020】
塩基の添加量は、溶液中でアミノニトリル化合物のS体おR体への異性化が速やかに起きるのに十分な量であり、第1級アミン化合物やアルデヒド化合物の添加量よりも過剰量であってもよい。

【0021】
反応温度は特に制限されず、0℃~50℃の範囲内であればよく、室温下で反応を行わせてもよい。反応時間は、結晶の析出時間と結晶成長の時間の合計である。通常、析出時間は、溶媒量に対して投入したアルデヒド化合物、アミン化合物およびシアン化水素の濃度に依存し、濃度が高いほど析出時間は短くなり(例えば1,2時間以内)、薄い濃度では自発的な析出に3日程度を要する場合がある。また、結晶成長のための時間は6~12時間程度である。

【0022】
本発明では、溶媒中に上記の各成分を加えて、α-アミノニトリル化合物の過飽和溶液とすることにより、α-アミノニトリル化合物が、自発的に鏡像体過剰率に偏り(最高96%ee)を持って析出しやすくなる。なお、過飽和溶液とは、飽和溶液より高濃度のアミノニトリルを含み、結晶が自発的に析出可能な溶液をいう。

【0023】
上記反応によって生成するα-アミノニトリル化合物は、コングロメレート結晶(S体のみ、またはR体のみからなる結晶)として得られる。結晶生成段階において溶液中でのラセミ化と組み合わされることにより光学活性アミノニトリル化合物が固体として沈殿し、さらにその光学純度が向上する。例えば、ラセミ体溶液から自発的に析出した初期の結晶核がS体から構成されていた場合、その後の結晶成長によってS体結晶が増加するが、溶液中はR体過剰となってしまい、いずれR体の結晶が析出し、最終的にはほぼ等しい量のS体およびR体の結晶が析出し、低い光学純度(ラセミ体)の固体が得られてしまう。一方、本発明では、溶液中で塩基によりラセミ化(異性化)が促進されるので、前記したように、最初に生じたS体結晶の増加に伴って溶液中のS体の量が減り、R体の割合が増加しても、そのR体はS体に異性化され、いわばR体を原料として、連続的にS体が液相から固相へと供給されることとなり、結果的に最初のS体の過剰を維持ないしは増幅して、光学純度の高いS体アミノニトリルの固体が得られる。
上記反応によって生成するα-アミノニトリル化合物がコングロメレート結晶を形成していることは、単結晶X線構造解析により確認することができる。また、生成するα-アミノニトリル化合物は、DBU等の塩基によって速やかにラセミ化する。すなわち、S体結晶の成長にあわせて、溶液中でR体を原料としたS体の供給が行われる。

【0024】
<不斉増幅>
上記ストレッカー合成によって生成したα-アミノニトリル化合物は、自発的に鏡像体過剰率に偏りを持って析出する。析出後の懸濁液の液相には、α-アミノニトリル化合物が析出物よりも低い鏡像体過剰率で、ラセミ体に近い状態で含有されている。
本発明では、このような懸濁液に、ガラスビーズ、金属粒等を投入し、撹拌・粉砕することにより、自発的に生成した結晶の析出鏡像体過剰率を大きく増大させることができ、光学純度が増幅する。撹拌手段および粉砕手段は特に限定されるものではなく、例えばミキサー、シェーカー、ホモジナイザー、超音波反応装置、スターラー等も用いることができる。

【0025】
撹拌・粉砕に要する時間は、目的とする結晶の析出鏡像体過剰率に応じて適宜決定できるが、通常、撹拌・粉砕時間が長くなるほど、結晶の析出鏡像体過剰率は大きくなる傾向がある。
なお、懸濁液から結晶を濾別した溶液に対して新たにアルデヒド、アミン、シアン化水素を投入し、撹拌・粉砕処理を行ってもよい。

【0026】
また、このような不斉増幅法を利用して、α-アミノニトリル化合物の光学純度を高めることができる。すなわち、溶媒にシアン化水素またはその塩、および塩基を、ストレッカー合成時とほぼ同量加え、ラセミ体のα-アミノニトリル化合物を加えて飽和させる。得られた飽和溶液に、光学純度の低いα-アミノニトリル化合物のR体またはS体の結晶を加えて懸濁させ、この状態で上記と同様にして撹拌・粉砕処理を行うと光学純度の高いα-アミノニトリル化合物の固体を得ることができる。

【0027】
これにより、鏡像体過剰率が増幅した結晶を析出させることができる。鏡像体過剰率の増幅は経時的に増大する傾向にある。
低光学純度のアミノニトリル結晶の添加量は、ラセミ体の含有量に対して等倍~4倍モル量、好ましくは2~3倍モル量であるのがよい。

【0028】
<光学活性アミノ酸の生成>
上記で得られた特定のキラリティーを有するアミノニトリル化合物は、酸により加水分解されて、その光学純度(鏡像体過剰率:ee)を低下させることなくアミノ酸へと誘導することができる。
酸としては、塩酸、硫酸などの無機酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸が例示される。

【0029】
加水分解反応は、例えばアミノニトリル化合物の結晶を塩酸‐トリフルオロ酢酸(V/V=1/1)の混合溶媒に加え、約20~80℃で10~20時間撹拌することによって行う。その後、溶媒を揮発し、イオン交換樹脂によって精製することによって、アミノニトリル化合物と対応するキラリティーを有する光学活性アミノ酸が容易に得られる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の製造方法を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1(自発的結晶化)
室温下、メタノール(2.0mL)、p-トルアルデヒド(80μL, 0.68mmol)、ベンズヒドリルアミン (118μL, 0.68mmol)、シアン化水素 (130μL, 3.3mmol)、DBU (396μL, 2.65 mmol)を混合し、撹拌した。その結果、下記式で示されるα-アミノニトリル化合物(以下、アミノニトリル1という)の結晶が、混合後、12.5時間で析出した。その6時間後にこの結晶を濾取し、溶媒に溶かしてHPLCにより鏡像体過剰率を確認した。
【化5】
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固相と液相を分離すると固相の収率は34%で73mgのS体のアミノニトリル1が90%eeで得られた。液相では収率43%で92mgのR体のアミノニトリル1を1.4%eeで得た。計算上、全体の鏡像体過剰率はS体の41%eeであることがわかった。結果を表1に示す。
得られた固相のアミノニトリル1結晶を濃塩酸ートリフルオロ酢酸(1:1、v/v)に溶解させ、加水分解し、光学活性アミノ酸(S体)を得た。なお、アミノニトリルの濃度が0.5 mol/Lとなるように混合溶媒である濃塩酸‐トリフルオロ酢酸(1:1、v/v)に溶解し、加水分解反応を行った。
【実施例】
【0032】
実施例2(自発的結晶化)
実施例1と同じ操作を繰り返した。すなわち、室温下、メタノール(2.0mL)、p-トルアルデヒド(80μL, 0.68mmol)、ベンズヒドリルアミン (118μL, 0.68mmol)、シアン化水素 (130μL, 3.3mmol)、DBU (396μL, 2.65mmol)を混合し、撹拌して析出したアミノニトリル1の結晶を濾取し、その結晶を溶媒に溶かしHPLCにより鏡像体過剰率を確認した。
その結果、88%eeのR体のアミノニトリル1の結晶を52.1mg得ることができた。全体の鏡像体過剰率はR体の32%eeと算出された。結果を表1に示す。
【表1】
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得られたアミノニトリル1の結晶を、実施例1と同様にして加水分解し、光学活性アミノ酸(R体)を得た。
上記実施例1、2と同じの操作を繰り返し実施し、得られたアミノニトリル1の光学純度(横軸)と発生頻度(縦軸)のヒストグラムを、図2に示す。
【実施例】
【0033】
実施例3(自発的結晶化と不斉増幅の組み合わせ)
室温下、メタノール(2.0 mL)、p-トルアルデヒド(0.9 μmol)、ベンズヒドリルアミン (0.9 mmol)、シアン化水素 (130μL, 3.3mmol)、DBU (396μL, 2.65mmol)を混合し、撹拌してアミノニトリル1の結晶の自発的析出を確認した後、その懸濁液に硝子ビーズ(2g)を入れて撹拌・粉砕を46時間行った。その結果、当初自発的に生成した結晶の鏡像体過剰率が2%ee(R体)であったものが、不斉増幅して最終的に96%ee(R体)の結晶が37%の収率で得られた。結果を表2に示す。得られたアミノニトリル1の結晶を、実施例1と同様にして加水分解し、光学活性アミノ酸(R体)を得た。
【実施例】
【0034】
実施例4(自発的結晶化と不斉増幅の組み合わせ)
室温下、メタノール(10 mL)、p-トルアルデヒド(8 mmol)、ベンズヒドリルアミン (8 mmol)、シアン化水素 (650μL)、DBU (4 mL)を混合し、撹拌してアミノニトリル1の結晶の自発的析出を確認した後、その懸濁液に硝子ビーズ(10g)を入れて撹拌・粉砕を5.5時間行った。その結果、当初自発的に生成した結晶の鏡像体過剰率が4.2%ee (S体)であったものが不斉増幅して最終的に92%ee(S体)の結晶が36%の収率で得られた。結果を表2に示す。得られたアミノニトリル1の結晶を、実施例1と同様にして加水分解し、光学活性アミノ酸(S体)を得た。
【表2】
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【実施例】
【0035】
実施例5(不斉増幅の組み合わせ)
室温下、バイアル(1.5×4.0 cm)に硝子ビーズ(直径2.5~3.5mm)(2.0g)、スターラー・バー(10×4mm)を加え、そこにメタノール (2.0mL)、DBU (380μL, 2.5mmol)、HCN (100μL, 2.5mmol)、ラセミ体1 (80mg,0.256mmol)を加え飽和させたのちに、15%ee の(R)‐アミノニトリル1 (140mg,0.449mmol)を加え、溶液を懸濁させ、約1000rpmの撹拌速度で撹拌・粉砕を行い、所定時間ごとに懸濁液の一部を取り、濾取して得られた粉末をジエチルエーテルに溶解させ、キラルHPLCにて固相の鏡像体過剰率の経時変化を観察した。
使用したラセミ体1は、メタノール中でパラトルアルデヒド、ベンズヒドリルアミン、シアン化水素を混合することにより得られたアミノニトリル化合物である。また、15%ee の(R)‐アミノニトリル1は、自発的結晶化によって得られたものである。
キラルHPLCにて鏡像体過剰率の経時変化を観察した結果、反応時間が15時間では16%ee (R)、21時間では19%ee(R)、39時間では25%ee(R)、67時間では50%ee(R)、84時間では80%ee(R)、99時間で反応を終了し、固相を濾取し、シリカゲルクロマトグラフィーに付しジエチルエーテル溶出部より(R)-アミノニトリル1 (107mg,0.34 mmol,93%ee) を得た。これは初めに懸濁させた15%ee(R)の結晶の量をほとんど減じることなく93%ee(R) まで不斉が増幅したとことを示している。また、反応終了後、固相を濾別した液相をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し(ヘキサン : ジエチルエーテル = 3:1[v/v])、 (R)-アミノニトリル1 (91 mg,0.29mmol, 17%ee) を得た。結果を表3に示す。
【表3】
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表3から、(R)-アミノニトリル1の鏡像体過剰率eeは経時的に増幅していることがわかる。一方、実際7~23%eeのR体もしくはS体のアミノニトリル1を用いて、上記と同様に粉砕・撹拌による不斉増幅を行った。その結果を図3に示す。図3に示すように、7%eeのR体のアミノニトリル粉末を用いた場合(No.3)、4日ほどで93%eeまで増幅し、15%eeのR体を用いた場合(No.2)、これも約4日で93%eeまで増幅し、23%eeのR体を用いた場合(No.1)、約3日で93%eeまで増幅した。また、9%eeのS体のアミノニトリル粉末を用いた場合(No.6)、約5日で93%eeまで増幅し、16%eeのS体を用いた場合(No.5)、約3日で94%eeまで増幅し、26%eeのS体を用いた場合(No.4)、約4日で93%eeまで増幅した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2