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明細書 :熱収縮低減化ポリビニルアルコール系繊維

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-133112 (P2017-133112A)
公開日 平成29年8月3日(2017.8.3)
発明の名称または考案の名称 熱収縮低減化ポリビニルアルコール系繊維
国際特許分類 D06M  11/20        (2006.01)
D06M  11/77        (2006.01)
FI D06M 11/20
D06M 11/77
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2016-011291 (P2016-011291)
出願日 平成28年1月25日(2016.1.25)
発明者または考案者 【氏名】中根 幸治
【氏名】山口 新司
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 4L031
Fターム 4L031AA16
4L031AB01
4L031AB32
4L031BA07
4L031BA19
要約 【課題】高温時熱収縮が低減化されたポリビニルアルコール(PVA)系繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】PVA系繊維に遷移金属化合物を含む溶液で処理することで、PVA系繊維に緻密な構造を有するスキン層が形成され、熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができる。遷移金属化合物を含む溶液で処理した後、さらにケイ素を含む溶液で処理することで、より効果的に熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができる。本発明の方法によれば、ハロゲンビニルポリマーを使用することなく、安価で環境にやさしい方法で熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ポリビニルアルコール系繊維を、遷移金属化合物を含む溶液で処理し、当該繊維に遷移金属化合物を浸漬する工程を含むことを特徴とする、170℃での高温時熱収縮低減化ポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系繊維を、遷移金属化合物を含む溶液で処理した後、ケイ素を含む溶液で処理し、当該繊維にケイ素を浸漬する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
遷移金属化合物が、ジルコニウム、マンガン、銅、ニッケル、コバルト、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、金、銀、白金から選択されるいずれかである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系繊維に遷移金属化合物が浸漬されていることを特徴とする、熱収縮低減化ポリビニルアルコール系繊維。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系繊維に遷移金属化合物が浸漬され、さらにケイ素が浸漬されていることを特徴とする、熱収縮低減化ポリビニルアルコール系繊維。
【請求項6】
遷移金属化合物が、ジルコニウム、マンガン、銅、ニッケル、コバルト、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、金、銀、白金から選択されるいずれかである、請求項4又は5に記載の熱収縮低減化ポリビニルアルコール系繊維。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の製造方法により製造された熱収縮低減化ポリビニルアルコール系繊維。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高温時熱収縮が低減化されたポリビニルアルコール系繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の消火活動は建物の周囲から放水するという方法から、財産や人命の救助、延焼防止のために建物内進入など、人が火源に極限まで接近するという方法に変遷している。このような状況下において、炎や高温から安全に身を守る目的があると同時に、迅速に行動するため、消防隊員は消防作業服や救助服を着用している。これらの素材は薄くて軽いものが求められており、今日では、ケブラーやザイロンなどのアラミド繊維やPBO繊維などが採用されている。アラミド繊維には自身が難燃性という特長があるが、これには染色性や耐候性が劣る、風合いが悪い、コストがかかる等の欠点がある。これらの欠点について改良が必要である。特にポリエチレンテレフタレート繊維やレーヨン繊維など様々な繊維に難燃性を付与することが望まれている。
【0003】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と記載する場合がある。)系繊維は力学特性に優れる、燃えにくい、コストが低い、アラミド繊維より染色しやすいといった特長があることから、難燃性繊維として注目されている。この特長を活かして、現在では陸上自衛隊の迷彩服や消防作業服、化学工場の作業服などに用いられている。例えば陸上自衛隊の迷彩服には、難燃ビニロンと綿が7:3の割合で配合されており、600℃の熱に晒されても約12秒間着用者を保護できるほどの難燃性が付与されている。しかし、PVA系繊維は高温時に熱寸法安定性が低くなり、炎や放射熱に短時間晒されると熱収縮を起こすといった問題点もある。熱収縮率が大きいと燃焼した際に衣服の脱衣が困難となり、熱傷を受ける危険性が高くなる。例えば消火活動中に消防作業服が熱収縮を起こすと、上着とズボンや防災服と他の装備との間に隙間ができ、そこから炎や放射熱が隊員を直撃することになり、命を左右する原因にもなる。
【0004】
PVA系繊維の難燃化のためには、リン酸系難燃剤、層状ケイ酸塩を添加する方法(特許文献1、2)、PVAにポリ塩化ビニルを加えて難燃化する方法(特許文献3)、PVA系繊維ではないが、チタン(Ti)やジルコニウム(Zr)の錯体を含んだ強酸性浴でウールを処理して難燃化する方法も開示されている(特許文献4)。しかしながら、熱収縮についてはいずれも述べられていない。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開2006-087983号公報
【特許文献2】特開2008-38268号公報
【特許文献3】特開平5-78909号公報
【特許文献4】特開平3-82876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温時熱収縮が低減化されたPVA系繊維及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PVA系繊維を遷移金属化合物を含む溶液で処理すると、PVA系繊維に緻密な構造を有するスキン層が形成され、高温時熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができることを見出し、本発明を完成した。遷移金属化合物を含む溶液で処理した後、さらにケイ素を含む溶液で処理することで、より効果的に高温時熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができる。
【0008】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.PVA系繊維を、遷移金属化合物を含む溶液で処理し、当該繊維に遷移金属化合物を浸漬する工程を含むことを特徴とする、170℃での高温時熱収縮低減化PVA系繊維の製造方法。
2.PVA系繊維を、遷移金属化合物を含む溶液で処理した後、ケイ素を含む溶液で処理し、当該繊維にケイ素を浸漬する工程を含むことを特徴とする、前項1に記載の製造方法。
3.遷移金属化合物が、ジルコニウム、マンガン、銅、ニッケル、コバルト、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、金、銀、白金から選択されるいずれかである、前項1又は2に記載の製造方法。
4.PVA系繊維に遷移金属化合物が浸漬されていることを特徴とする、熱収縮低減化PVA系繊維。
5.PVA系繊維に遷移金属化合物が浸漬され、さらにケイ素が浸漬されていることを特徴とする、熱収縮低減化PVA系繊維。
6.遷移金属化合物が、ジルコニウム、マンガン、銅、ニッケル、コバルト、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、金、銀、白金から選択されるいずれかである、前項4又は5に記載の熱収縮低減化PVA系繊維。
7.前項1~3のいずれかに記載の製造方法により製造された熱収縮低減化PVA系繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明の、PVA系繊維を遷移金属化合物を含む溶液で処理する方法によれば、高温時熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができ、さらにケイ素を含む溶液で処理することで、より効果的に熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができる。
【0010】
本発明の方法によれば、ハロゲンビニルポリマー等を使用することなく、安価で環境にやさしい方法で高温時熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができる。PVA系繊維の高温時熱収縮を低減できることにより、力学特性に優れる、燃えにくい、コストが低い、アラミド繊維より染色しやすいといった特長を有する優れた繊維を得ることができる。また、得られた繊維はハロゲンビニルポリマーを使用していないので、環境に優しい繊維ということができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のPVA系繊維の処理方法を示す概念図である。(実施例)
【図2】本発明の処理方法で処理されたPVA系繊維の耐熱収縮性を確認した結果を示す図である。(実験例3)
【図3】本発明の処理方法で処理されたPVA系繊維の耐熱収縮性を確認した結果を示す写真図である。(実験例6)
【図4】本発明の処理方法で処理されたPVA系繊維の耐熱収縮性を確認した結果を示す写真図である。(実験例9)
【図5】本発明の処理方法で処理されたPVA系繊維の耐熱収縮性を確認した結果を示す写真図である。(実験例9)
【図6】本発明の処理方法で処理されたPVA系繊維のSEM観察結果を示す写真図である。(実験例10)
【図7】本発明の処理方法で処理されたPVA系繊維のSEM観察結果を示す写真図である。(実験例10)
【図8】本発明の処理方法で処理されたPVA系繊維のSEM観察結果を示す写真図である。(実験例10)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、PVA系繊維に遷移金属化合物が浸漬されていることを特徴とする、高温時熱収縮が低減化されたPVA系繊維に関する。さらにはPVA系繊維に遷移金属化合物及びケイ素が浸漬されていることを特徴とする、熱収縮が低減化されたPVA系繊維に関する。また、当該熱収縮が低減化されたPVA系繊維の製造方法に関する。

【0013】
PVA系繊維を始め、高分子が熱による収縮を起こす理由として、エントロピー増大の原理が挙げられる。熱力学的に、温度が上昇すると、熱運動は状態数が増加する向きに変化する。気体の場合、エントロピー増大の作用は原子や分子が広がる方向に進む。原子や分子が一線に繋がった高分子鎖では、エントロピーが最も大きくかつ熱運動がさかんに起こる状態は、長い後部示差の両端が合致した状態であるため、丸まり、縮む方向に進む。このような理由から、高分子鎖は熱を加えると収縮を起こす。本明細書でいう「高温時」とは、初期消火・救助活動に重要な170℃~300℃近辺までの実用上重要な温度領域のことをいう。防護服では260℃近辺の熱収縮が重視されている環境温度域を指す。また、「熱収縮」は、ISO 17493の基準に従って判断することができる。ISO 17493の基準によれば、熱収縮率が、180℃、5分で5%以下、あるいは、260℃、5分で10%以下の場合に耐熱性があると判断される。本明細書において、「高温時熱収縮低減化」は、170℃、5分で熱収縮率が5%以下の場合に達成されたものと判断することができる。また、繊維の収縮度は、目視からも判断することができる。

【0014】
本明細書において、PVA系繊維を構成するPVA系ポリマーについて説明する。本発明に用いるPVA系ポリマーの重合度は特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が1200以上であることが必要である。高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から平均重合度が1500~5000のものが好適である。

【0015】
また本発明のPVA系繊維を構成するPVA系ポリマーは、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、他の構成単位を有していてもよい。このような構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類、アクリル酸及びその塩とアクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸及びその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、マレイン酸及びその塩又はその無水物やそのエステル等の不飽和ジカルボン酸等がある。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。本発明の効果を損なわない程度であれば、目的に応じて、分散剤、安定剤、pH調整剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。

【0016】
繊維製品を難燃化する方法には、二種類挙げられる。まず、繊維素材そのものに難燃性能をもたせる方法と、繊維製品にしてから難燃剤で難燃処理加工をする方法が挙げられる。繊維素材そのものに難燃性能をもたせる方法は、主としてアクリル系、難燃アクリル、難燃ポリエステル等の化学繊維を製造する場合に用いられる。原料である高分子そのものを合成反応の段階から難燃化し、その後紡糸する。高分子の中へ難燃剤を分散させ、練り込み紡糸する場合もある。一方、繊維素材から紡糸により繊維を作製後、難燃剤で難燃処理加工をする方法がある。係る方法は綿やレーヨン等に用いられる。難燃剤を水溶液の形で繊維に浸漬付着させ、付着させるときに繊維と難燃剤を化学的に反応させ、難燃剤を分散させた合成樹脂を繊維表面にコーティングするといった方法である。PVA系繊維は、従来は繊維素材に難燃剤を混合した後に紡糸する方法が主であった。しかしながら、混合される難燃剤は有機ハロゲン系が多く、コストの負荷、燃焼時の有害ハロゲン含有ガスの発生などの環境への影響が問題視されていた。

【0017】
本発明の「熱収縮が低減化されたPVA系繊維」は、紡糸による繊維作製後に遷移金属化合物を含む溶液で処理する工程を経て製造される。本発明の遷移金属化合物で処理する前のPVA系繊維は、自体公知の方法、あるいは今後開発されるあらゆる方法で作製することができる。例えば、PVA系ポリマーを含む紡糸原液を乾式紡糸、乾湿式紡糸或いは湿式紡糸を行うことにより作製することができる。例えば乾式紡糸方法は、高濃度PVA紡糸原液を熱風中に押し出し、紡糸ノズルから空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、固化浴を経由せずに乾燥・延伸する紡糸法である。紡糸原液でのPVA分子鎖の絡み合いが多く屈曲疲労に優れ、主にフィラメントで使用される。また、太繊度繊維を得やすく、ショートカットしてセメント補強用にも用いられている。

【0018】
本明細書における「遷移金属化合物」として、ジルコニウム(Zr)、マンガン、銅、ニッケル、コバルト、クロム、バナジウム、チタン(Ti)、モリブデン、金、銀、白金が挙げられ、特に好適にはジルコニウムが挙げられる。使用可能なジルコニウムは特に限定されないが、例えば有機ジルコニウム化合物が挙げられ、具体的には塩化ジルコニル化合物、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート、オクチル酸ジルコニウム化合物、ステアリン酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム化合物などが挙げられる。遷移金属の含有量は、金属換算で乾熱延伸糸に対して、0.1~15wt%の範囲が好ましい。0.1wt%未満では含有量のコントロールが難しく、また耐湿熱性の向上が期待出来ない。15wt%を越えると逆に工程性の悪化をまねいたり、繊維の分解あるいは風合いの悪化を促進して好ましくない。

【0019】
本明細書における「遷移金属化合物を含む溶液」の遷移金属化合物濃度は特に限定されず、工業的に使用可能な濃度であればよい。例えば、1~80wt%、好ましくは3~20wt%、特に好ましくは約5wt%付近である。また、遷移金属化合物の溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノールで代表されるエタノール類が挙げられる。本明細書において、「遷移金属化合物を含む溶液」による処理温度や処理時間は適宜選択することができる。例えば、処理温度は70~100℃とすることができ、処理時間は1~72時間、好ましくは20~72時間とすることができる。好適な処理温度や時間は、当業者により適宜検討することができる。

【0020】
本明細書における「熱収縮が低減化されたPVA系繊維」は、遷移金属化合物を含む溶液で処理する工程を経たのち、さらにケイ素を含む溶液で処理する工程を経て製造されるのが好適である。使用可能なケイ素としては、ケイ素のアルコキシド(例えば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラプロピル)、あるいはシランカップリング剤が挙げられ、特に好適にはTEOSが挙げられる。ケイ素の含有量は、乾熱延伸糸に対して、1~20wt%の範囲が好ましい。1wt%未満では含有量のコントロールが難しく、また耐湿熱性の向上が期待出来ない。20wt%を越えると逆に工程性の悪化をまねいたり、繊維の風合いの悪化を促進して好ましくない。

【0021】
本明細書における「ケイ素を含む溶液」のケイ素濃度は特に限定されず、工業的に使用可能な濃度であればよい。例えば、1~80wt%、好ましくは3~20wt%、特に好ましくは約5wt%付近である。また、ケイ素の溶媒としては、例えばメタノール、エタノールで代表されるエタノール類が挙げられる。本明細書において、「ケイ素を含む溶液」による処理温度や処理時間は適宜選択することができる。例えば、処理温度は10 ~70℃とすることができ、処理時間は1~72時間、好ましくは20~72時間とすることができる。好適な処理温度や時間は、当業者により適宜検討することができる。

【0022】
本明細書において、「遷移金属化合物を含む溶液」で処理する工程をステップ1、「ケイ素を含む溶液」で処理する工程をステップ2ということとする。ステップ1においてもPVA系繊維に緻密な構造からなるスキン層が形成され、これにより熱収縮が低減化されたPVA系繊維を得ることができるが、より効果的に熱収縮を低減化するためには、さらにステップ2の工程を組合わせるのが好適である。ステップ1の工程によりスキン層が形成され、ステップ2の工程で、より緻密なスキン層が形成されると考えられる。

【0023】
本発明の方法により作製された「熱収縮が低減化されたPVA系繊維」は、適宜熱機械分析(TMA:ThermoMechanical Analysis)、熱重量分析(TG:Thermogravimetric Analysis)、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、耐熱収縮性測定等によりその性能を確認することができるが、出願時においてスキン層の厚み等により当該PVA系繊維の構造を特定することは不可能である。

【0024】
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて熱処理前後の繊維表面観察を行なうことができる。SEMは電子顕微鏡の一種であり、電子線を照射することで放出される二次電子・反射電子・X線などを検出することで、試料の表面を観察することができる。SEMは細く直線的な電子線の軸を少しずつずらしながら照射することで試料の表面を網羅的に走査(スキャン)し、表面全体の詳細な情報を得ることができる。
【実施例】
【0025】
本発明の理解を深めるために、本発明の内容を実施例及び実験例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されるものではないことは明らかである。
【実施例】
【0026】
(実施例)熱収縮が低減化された繊維の作製
本実施例では、ポリビニルアルコール(PVA)の繊維織物について各処理を施し、熱収縮が低減化された繊維を作製した。本実施例では、繊維材料としてPVA繊維織物(FO繊維、乾式紡糸、株式会社クラレ)を用いた。
【実施例】
【0027】
(1)塩化ジルコニウム化合物のアミノカルボン酸水溶液(ZC-126)による処理
塩化ジルコニウム化合物のアミノカルボン酸水溶液は、オルガチックスZC-126(マツモトファインケミカル株式会社)を使用した。ZC-126を2.5gに対して蒸留水7.5gの割合で混合し、5wt%の溶液(A)を作製した。作製した溶液(A)30gを容量50mLの容器に加え、3cm×3cm又は2cm×4.5cmのPVA繊維織物(0.12~0.15g)を溶液(A)に浸し、100℃のオーブンで24時間浸漬した。得られた繊維織物を蒸留水で10分間撹拌洗浄し、80℃のオーブンで1時間乾燥させたものを試料とし、デシケーターで保存した。
【実施例】
【0028】
(2)ジルコニウムラクテートアンモニウム塩(ZC-300)による処理
ジルコニウムラクテートアンモニウム塩は、オルガチックスZC-300(マツモトファインケミカル株式会社)を使用した。ZC-300を2gに対して蒸留水3gの割合で混合し、5wt%の溶液(B)を作製した。作製した溶液(B)30gを容量50mLの容器に加え、3cm×3cm又は2cm×4.5cmのPVA繊維織物(0.12~0.15g)を溶液(B)に浸し、100℃のオーブンで24又は72時間浸漬した。得られた繊維織物を蒸留水で10分間撹拌洗浄し、80℃のオーブンで1時間乾燥させたものを試料とし、デシケーターで保存した。
【実施例】
【0029】
(3)ジルコニウムテトラアセチルアセトナート(ZC-150)による処理
ジルコニウムテトラアセチルアセトナートは、オルガチックスZC-150(Zr(C5H7O2)4)(マツモトファインケミカル株式会社)を使用した。ZC-150を蒸留水又はメタノールと混合し、5~20wt%の溶液(C)を作製した。例えば、10wt%溶液の場合はZC-150を1gに対して蒸留水又はメタノールを9gの割合で混合し、作製した。作製した各濃度の溶液(C)各々30gを容量50mLの容器に加え、3cm×3cm又は2cm×4.5cmのPVA繊維織物を各々入れ、100℃で24時間又は72時間浸漬した。得られた繊維織物を各溶媒(蒸留水又はメタノール)で10分間撹拌洗浄し、80℃のオーブンで1時間乾燥させ、デシケーターで保存した。また、72時間浸漬したものは80℃のオーブンで1時間乾燥させた後、50℃のオーブンで1週間静置させたものを試料とし、デシケーターで保存した。
【実施例】
【0030】
(4)ジルコニウムブトキシドによる処理
ジルコニウムブトキシド(Zrブトキシド)は、85%ジルコニウム(4)ブトキシド1-ブタノール(Zr(C4H9O)4)(和光純薬工業株式会社製)を用いた。85%ジルコニウム(4)ブトキシド1-ブタノール(4g):エタノール(脱水物 16g)=20:80に調製し、20wt%のジルコニウムブトキシド溶液(D)を作製した。作製した溶液(D)30gを容量50mLの容器に加え、上記(1)で処理したPVA繊維織物を入れ、40℃のオーブンで24時間浸漬した。得られた繊維織物をエタノール(脱水)で10分間撹拌洗浄し、80℃のオーブンで1時間乾燥させたものを試料とし、デシケーターで保存した。
【実施例】
【0031】
(5)オルトケイ酸テトラエチルによる処理
オルトケイ酸テトラエチルは、オルトケイ酸テトラエチル((C2H5O)4Si:TEOS)(和光純薬工業株式会社製)を用いた。TEOSを4gに対してメタノール16gの割合で混合し、20wt%のTEOS溶液(E)を作製した。TEOS溶液(E)30gを容量50mLの容器に上記(1)~(3)で処理したPVA繊維織物を入れ、40℃のオーブンで24時間浸漬した。得られた繊維織物をメタノールで10分間撹拌洗浄し、80℃のオーブンで1時間乾燥させ、デシケーターで保存した。
(1)~(3)のいずれかの処理方法をステップ1とし、(4)又は(5)の処理方法をステップ2とし、図1に示した。また、上記各処理法を実施例1~13とし、表1にまとめた。
【実施例】
【0032】
【表1】
JP2017133112A_000003t.gif
【実施例】
【0033】
(実験例1)熱機械分析(TMA)
本実験例では実施例1、2及び比較例1に示す方法で処理した各試料について、熱収縮開始温度を調べた。熱収縮開始温度は、ブルカーAXS 熱分析システム(TAPS3000S、Bruker AXS)を用いて、室温から175℃まで昇温後、20℃から250℃まで昇温し(全て10℃/min)、物質の変形を温度又は時間の関数として測定し、確認した。175℃まで一度昇温する理由は、各方法で処理した際に収縮したPVA繊維を元の長さに戻し、各試料の初期条件を一定にするためである。このとき、試料の長さは20mm、幅は2mmとし(フィラメント200本)、-5gの荷重をかけて引張モードで測定した。上記結果より得られた各試料の熱収縮開始温度を表2に示した。未処理(対照)では145℃から熱収縮が始まるが、実施例1及び実施例2の方法で処理することで熱収縮開始温度を高温側にシフトすることができた。
【実施例】
【0034】
【表2】
JP2017133112A_000004t.gif
【実施例】
【0035】
(実験例2)熱重量分析(TG)
本実験例では実施例1、2及び比較例1に示す方法で処理した各試料について、600℃での各試料における無機化合物の残存率を調べた。各試料について、室温から600℃まで10℃/minで昇温した時の無機化合物の残存率を熱重量分析装置(SHIMADZU,DTG-60)を用いて測定した。その結果を表3に示した。その結果、実施例2のステップ2まで処理した試料の残存率が実施例1の試料と比べて高いことが確認された。これは、ステップ1でジルコニウム化合物がPVAの非晶の分子鎖間に入り込んだことで、ステップ2でTEOSが繊維表面上で拡散しやすくなったことが考えられる。
【実施例】
【0036】
【表3】
JP2017133112A_000005t.gif
【実施例】
【0037】
(実験例3)耐熱収縮性測定
本実験例では実施例1~3及び比較例1に示す方法で処理した各試料について、耐熱収縮性を調べた。耐熱収縮性は、各試料について卓上小型電気炉(NITTO KAGAKU CO.,LTD.,)を用いて250℃~300℃でそれぞれ5分間熱処理を行い、確認した。図2に各試料の耐熱収縮性を確認した結果を示した。対照(未処理)のPVA繊維織物(3cm×3cm)は250℃で黄変し、260℃で収縮した。ステップ1及びZrブトキシドでステップ2まで処理した試料(実施例3)も未処理と同様の結果となった。一方、TEOSでステップ2まで処理した試料は260℃まで収縮を起こさなかった。さらに260℃以上の場合でもある程度の繊維形状を保っていた。これは、ステップ2でTEOSを加えたことで、繊維のスキン層がより緻密になり、耐熱性が向上したためと考えられる。
【実施例】
【0038】
(実験例4)熱機械分析(TMA)
本実験例では実施例4~7に示す方法で処理した各試料について、実験例1と同手法により熱収縮開始温度を測定した。表4に各試料の熱収縮開始温度を示した。実施例4及び6の方法で処理した試料は、TMA値が一定となった後一旦伸びてから収縮したため、熱収縮開始温度を決定することができなかった。ステップ1でTMA値が一定となった後伸びた理由としては、ZC-300とPVAとの相互作用が弱いため上手く橋かけできなかったことが考えられた。しかしながら、実施例5及び7のように、ZC-300及びTEOSで表面処理を行うことで、対象と比べて熱収縮開始温度を高温側にシフトすることができたと考えられた。
【実施例】
【0039】
【表4】
JP2017133112A_000006t.gif
【実施例】
【0040】
(実験例5)熱重量分析(TG)
本実験例では実施例4~7に示す方法で処理した各試料について、実験例2と同手法により各試料中の無機化合物含有率を測定した。600℃での各試料における無機化合物の残存率を表5に示した。実施例4と6、実施例5と7の比較から、ZC-300に浸漬する時間が長いほど残存率の増加が認められた。これは、ZC-300がZC-126に比べてPVAとの反応性が低いためと考えられた。また、TEOSでステップ2まで処理することで残存率はさらに増加した。これはステップ1でジルコニウム化合物がPVAの非晶の分子鎖間に入り込んだことで分子鎖間が広がり、ステップ2で繊維表面上にTEOSが拡散しやすくなったことが考えられる。
【実施例】
【0041】
【表5】
JP2017133112A_000007t.gif
【実施例】
【0042】
(実験例6)耐熱収縮性測定
本実験例では実施例4~7に示す方法で処理した各試料について、実験例3と同手法によりPVA繊維織物の耐熱収縮性を調べた。図3に各試料の耐熱収縮性測定結果を示した。実施例4及び6の方法で作製した試料は、各々250℃で少し黄変し、260℃で収縮した。一方、実施例7のステップ1で72時間浸漬した後、TEOSで処理した試料は、260℃では大きな収縮は見られなかった。これは、ステップ1でZC-300に浸漬する時間を長くしたことでPVAとの反応が進み、ステップ2でTEOSを加えることでスキン層がより緻密になったためと考えられる。以上よりステップ1で5wt%のZC-300溶液に72時間浸漬し、ステップ2でTEOSを処理した試料(実施例7)が最も耐熱性が高いといえる。
【実施例】
【0043】
(実験例7)熱機械分析(TMA)
本実験例では実施例8、9に示す方法で処理した各試料について、実験例1と同手法により熱収縮開始温度を測定した。表6に各試料の熱収縮開始温度を示した。
【実施例】
【0044】
【表6】
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【実施例】
【0045】
(実験例8)熱重量分析(TG)
本実験例では実施例8、9に示す方法で処理した各試料について、実験例2と同手法により無機化合物含有率を測定した。600℃での各試料における無機化合物の残存率を表7に示した。また、ステップ1、2の比較から、ステップ2まで処理することで残存率が増加したことがわかる。これは、ステップ1でジルコニウム化合物がPVAの非晶の分子鎖間に入り込んだことで分子鎖間が広がり、ステップ2で繊維表面上にTEOSが拡散しやすくなったことが考えられる。
【実施例】
【0046】
【表7】
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【実施例】
【0047】
(実験例9)耐熱収縮性測定
本実験例では実施例8~13に示す方法で処理した各試料について、実験例3と同手法により耐熱収縮性を調べた。図4及び5に各試料の耐熱収縮性測定結果を示した。5wt%のZC-150溶液に24時間浸漬した試料(実施例10)は250℃で少し黄変し、260℃で収縮した。また、上記の試料をTEOSで処理した試料(実施例11)とステップ1で72時間浸漬した試料(実施例8)も同様の結果となった。一方、ステップ1で72時間浸漬した後、TEOSで処理した試料(実施例13)は、260℃では大きな収縮は見られなかった。これは、ステップ1でZC-150に浸漬する時間を長くしたことでPVAとの反応が進み、ステップ2でTEOSを加えることでスキン層がより緻密になったためと考えられる。以上よりステップ1で5wt%のZC-150溶液に72時間浸漬し、ステップ2でTEOSを処理した試料(実施例13)が最も耐熱性が高いといえる。
【実施例】
【0048】
(実験例10)走査型電子顕微鏡(SEM)による観察
実施例において各処理を行った試料について、走査型電子顕微鏡(KEYENCE,VE-9800)を用いて、熱処理前後の繊維表面観察を行った。なお、熱処理は5℃/minで室温から300℃まで昇温させ1時間温度を保持した後、さらに3℃/minで500℃まで昇温させて3時間おいた。実施例1~13の各観察結果を、図6~8に示した。
【実施例】
【0049】
上記の結果、各実施例の方法で作製された試料において繊維表面の形状は対照と変化が認められないことが確認された。一方、各試料を500℃で3時間処理した後もある程度の繊維の形状が保たれていた。これにより、ステップ1及びステップ2の処理により、繊維に緻密なスキン層が形成され、耐熱性が向上したものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明のPVA系繊維を遷移金属化合物を含む溶液で処理する方法によれば、熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができ、さらにケイ素を含む溶液で処理することで、より効果的に熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができる。
【0051】
本発明の方法によれば、ハロゲンビニルポリマーを使用することなく、安価で環境にやさしい方法で熱収縮が低減化されたPVA系繊維を製造することができる。PVA系繊維の熱収縮を低減化できたことにより、力学特性に優れる、燃えにくい、コストが低い、アラミド繊維より染色しやすいといった特長を有する優れた繊維を提供することができる。また、得られた繊維はハロゲンビニルポリマーを使用していないので、環境に優しい繊維ということができる。これにより、消防作業服、化学工場の作業服などに効果的に使用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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