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明細書 :炭化水素系基質の水酸化のための材料及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-071589 (P2017-071589A)
公開日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 炭化水素系基質の水酸化のための材料及びその利用
国際特許分類 C07C 233/47        (2006.01)
C12P   7/02        (2006.01)
C12P   7/06        (2006.01)
C12Q   1/26        (2006.01)
C12N   9/02        (2006.01)
FI C07C 233/47 CSP
C12P 7/02 ZNA
C12P 7/06
C12Q 1/26
C12N 9/02
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2015-201431 (P2015-201431)
出願日 平成27年10月9日(2015.10.9)
発明者または考案者 【氏名】荘司 長三
【氏名】渡辺 芳人
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B050
4B063
4B064
4H006
Fターム 4B050CC03
4B050DD02
4B050FF01
4B050FF11E
4B050HH01
4B050KK03
4B050KK12
4B050LL05
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ80
4B063QQ95
4B063QR02
4B063QR41
4B063QX10
4B064AC02
4B064AC03
4B064AC05
4B064AC17
4B064CA21
4B064CB12
4B064CC30
4B064CD04
4B064DA16
4B064DA20
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB40
4H006AB84
4H006BS10
4H006BV22
要約 【課題】炭化水素系基質の水酸化のための材料としてより実用的なデコイ分子の提供。
【解決手段】シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するための式(1)で表されるデコイ分子を、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、フッ素化されていないアルキル鎖である第2の部位と、前記末端構造と前記アルキル鎖とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、を備えるデコイ分子。
JP2017071589A_000009t.gif
(Aは第1の部位;Bは第2の部位;RはH、アルキル基、チオアルキル基、アルキケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基又はアラルキル基;nは1以上の整数;好ましくは前記Rはロイシン、メチオニン、フェニルアラニン又はトリプトファン)
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子であって、
前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、
フッ素化されていないアルキル鎖である第2の部位と、
前記末端構造と前記アルキル鎖とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、
を備える、デコイ分子。
【請求項2】
前記第1の部位は、水素原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基及びカルボキシル誘導体基からなる群から選択される、請求項1に記載のデコイ分子。
【請求項3】
前記デコイ分子は、以下の式(1)で表される、請求項1又は2に記載のデコイ分子。
【化5】
JP2017071589A_000008t.gif
(上記式(1)中、Aは、第1の部位を表し、Bは第2の部位を表し、Rは、水素原子、アルキル基、チオアルキル基、アルキケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基及びアラルキル基から選択される1又は2以上の基を含む有機官能基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記Rは、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸の側鎖を表す、請求項3に記載のデコイ分子。
【請求項5】
前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼは、以下の(a)及び(b)のシトクロムP450モノオキシゲナーゼから選択される1種又は2種以上である、請求項1~4のいずれかに記載のデコイ分子。
(a)シトクロムP450BM3のアミノ酸配列と40%以上の同一性を有するシトクロムP450モノオキシゲナーゼ
(b)シトクロムP450camのアミノ酸配列と40%以上の同一性を有するシトクロムP450モノオキシゲナーゼ
【請求項6】
前記不活性化炭化水素は、シクロヘキサン、ブタン、プロパン及びベンゼンからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1~5のいずれかに記載のデコイ分子。
【請求項7】
炭化水素系基質の水酸化方法であって、
請求項1~6のいずれかに記載のデコイ分子、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及び炭化水素系基質の存在下で、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼにより前記炭化水素系基質を水酸化する工程、
を備える、方法。
【請求項8】
炭化水素系基質の水酸化物の生産方法であって、
請求項1~6のいずれかに記載のデコイ分子、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及び炭化水素系基質の存在下で、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼにより前記炭化水素系基質を水酸化する工程、
を備える、方法。
【請求項9】
シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素を水酸化するためのデコイ分子のスクリーニング方法であって、
シトクロムP450モノオキシゲナーゼ、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、フッ素化されていないアルキル鎖である第2の部位と、前記第1の部位と前記第2の部位とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、を備える、1又は2以上のデコイ分子候補及び炭化水素系基質の存在下で、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼを前記炭化水素系基質に作用させる工程、
を備え、
前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼによる前記炭化水素系基質の水酸化を評価する、スクリーニング方法。
【請求項10】
変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子であって、
前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、
少なくとも一部がフッ素化されたアルキル鎖である第2の部位と、
前記末端構造と前記アルキル鎖とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、
を備える、デコイ分子。
【請求項11】
炭化水素系基質の水酸化物の生産方法であって、
請求項10に記載のデコイ分子、変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及び炭化水素系基質の存在下で、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼにより前記炭化水素系基質を水酸化する工程、
を備える、方法。
【請求項12】
前記炭化水素系基質は、メタン又はエタンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子のスクリーニング方法であって、
変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼ、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、少なくとも一部がフッ素化されたアルキル鎖である第2の部位と、前記第1の部位と前記第2の部位とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、を備える、1又は2以上のデコイ分子候補、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及び炭化水素系基質の存在下で、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼを前記炭化水素系基質に作用させる工程、
を備え、
前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼによる前記炭化水素系基質の水酸化を評価する、スクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書は、炭化水素系基質を水酸化するための材料及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌由来の酵素であるシトクロムP450は、真核生物由来のシトクロムP450に比べて高い触媒活性を持つことが知られている。細菌由来のシトクロムP450として、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のシトクロムP450camや、バチルス属菌細菌の一種であるBacillus megaterium由来のシトクロムP450BM3等の、シトクロムP450モノオキシゲナーゼが知られている。
【0003】
これらの細菌由来のシトクロムP450は、脂肪酸等の基質を水酸化する高い触媒活性を備えている。また、水に対する親和性が比較的高いため、取得及び取扱が容易である。
こうした理由から、シトクロムP450モノオキシゲナーゼは、バイオ触媒として適していると考えられる。
【0004】
こうした野生型のシトクロムは、工業的に有用な炭化水素系基質を水酸化するのにあたっては必ずしも触媒活性が高いわけでない。このため、種々の変異型シトクロムP450が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0005】
一方、本発明者らは、高い触媒活性を呈しない炭化水素に対してシトクロムP450を誤作動させるように擬似基質(ダミー分子又はデコイ分子)を取り込ませることで、水酸化反応を高効率で触媒することを既に報告している(特許文献4)。デコイ分子は、シトクロムP450モノオキシゲナーゼの結合部位に結合可能な末端構造と、アルキル鎖、とを備えており、アルキル鎖に含まれる少なくとも1つの分子がフッ素で置換されていることを特徴としている。
【0006】
ここで、アルキル鎖の水素分子をフッ素で置換したものをデコイ分子として用いるのは、フッ素原子半径が水素に近いため、基質の水素をフッ素で置換したフッ素化物が本来の基質に類似すると同時に、シトクロムP450はC-H結合を水酸化できないため、それ自身は基質とならないからである。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特表2000-508163号公報
【特許文献2】特表2003-517815号公報
【特許文献3】特表2003-521889号公報
【特許文献4】特開2012-24009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが提案したデコイ分子は、フッ素を含有するため、製造コストが高いほか、その難分解性、環境残留性及び生体蓄積性等といった問題が生じうる。
【0009】
しかし、本発明者らが、フッ素化していない脂肪酸をデコイ分子として利用すると、炭化水素系基質を水酸化することはできなかった。
【0010】
また、変異型のシトクロムP450モノオキシゲナーゼは、活性部位等が改変されているため、野生型シトクロムP450モノオキシゲナーゼに適用されるデコイ分子を適用して機能することは当業者でも予測できなかった。
【0011】
そこで、本明細書は、炭化水素系基質の水酸化のための材料としてより実用的なデコイ分子及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、まず、フッ素を含まなくてもデコイ分子として機能させることを鋭意検討した。その結果、デコイ分子中のアルキル鎖のフッ素化を一切しなくても、シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造と、非フッ素化アルキル鎖とを、ペプチド結合を含むリンカーを介して備えることで、デコイ分子として用いて、炭化水素系基質基質を水酸化できるという知見を得た。
【0013】
また、本発明者らは、変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼに対して、フッ素アルキル鎖をペプチドリンカーを介して備えるデコイ分子が、デコイ分子として機能するという知見も得た。
【0014】
本明細書は、こうした知見に基づき以下の手段を提供する。
【0015】
(1)シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子であって、
前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、
フッ素化されていないアルキル鎖である第2の部位と、
前記末端構造と前記アルキル鎖とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、
を備える、デコイ分子。
(2)前記第1の部位は、水素原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基及びカルボキシル誘導体基からなる群から選択される、(1)に記載のデコイ分子。
(3)前記デコイ分子は、以下の式(1)で表される、(1)又は(2)に記載のデコイ分子。
【化1】
JP2017071589A_000002t.gif
(上記式(1)中、Aは、第1の部位を表し、Bは第2の部位を表し、Rは、水素原子、アルキル基、チオアルキル基、アルキケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基及びアラルキル基から選択される1又は2以上の基を含む有機官能基を表し、nは1以上の整数を表す。)
(4)前記Rは、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸の側鎖を表す、(3)に記載のデコイ分子。
(5)前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼは、以下の(a)及び(b)のシトクロムP450モノオキシゲナーゼから選択される1種又は2種以上である、(1)~(4)のいずれかに記載のデコイ分子。
(a)シトクロムP450BM3のアミノ酸配列と40%以上の同一性を有するシトクロムP450モノオキシゲナーゼ
(b)シトクロムP450camのアミノ酸配列と40%以上の同一性を有するシトクロムP450モノオキシゲナーゼ
(6)前記不活性化炭化水素は、シクロヘキサン、ブタン、プロパン及びベンゼンからなる群から選択される1種又は2種以上である、(1)~(5)のいずれかに記載のデコイ分子。
(7)炭化水素系基質の水酸化方法であって、
(1)~(6)のいずれかに記載のデコイ分子、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及び炭化水素系基質の存在下で、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼにより前記炭化水素系基質を水酸化する工程、
を備える、方法。
(8)炭化水素系基質の水酸化物の生産方法であって、
(1)~(6)のいずれかに記載のデコイ分子、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及び炭化水素系基質の存在下で、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼにより前記炭化水素系基質を水酸化する工程、
を備える、方法。
(9)シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素を水酸化するためのデコイ分子のスクリーニング方法であって、
シトクロムP450モノオキシゲナーゼ、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、フッ素化されていないアルキル鎖である第2の部位と、前記第1の部位と前記第2の部位とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、を備える、1又は2以上のデコイ分子候補及び炭化水素系基質の存在下で、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼを前記炭化水素系基質に作用させる工程、
を備え、
前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼによる前記炭化水素系基質の水酸化を評価する、スクリーニング方法。
【0016】
(10)変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子であって、
前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、
少なくとも一部がフッ素化されたアルキル鎖である第2の部位と、
前記末端構造と前記アルキル鎖とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、
を備える、デコイ分子。
(11)炭化水素系基質の水酸化物の生産方法であって、
(10)に記載のデコイ分子、変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及び炭化水素系基質の存在下で、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼにより前記炭化水素系基質を水酸化する工程、
を備える、方法。
(12)前記炭化水素系基質は、メタン又はエタンである、(11)に記載の方法。
(13)変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子のスクリーニング方法であって、
変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼ、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、少なくとも一部がフッ素化されたアルキル鎖である第2の部位と、前記第1の部位と前記第2の部位とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、を備える、1又は2以上のデコイ分子候補、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及び炭化水素系基質の存在下で、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼを前記炭化水素系基質に作用させる工程、
を備え、
前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼによる前記炭化水素系基質の水酸化を評価する、スクリーニング方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書は、シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子及びその利用に関する。

【0018】
シトクロムP450モノオキシゲナーゼ(以下、単に、P450という。)の活性中心には、基質が結合する結合部位が存在する。基質が結合部位に結合すると、活性中心に存在する水分子が活性中心から押し出される。以下、この状態を活性化スイッチが入る、と呼ぶ。活性中心は、その後、電子や酸素分子等の作用を受けた後に、基質の水酸化を触媒する。したがって、活性化スイッチが入らないと、P450の触媒反応は開始しないと考えられている。なお、野生型のP450の基質としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸が知られている。これらの基質は、概して、結合部位に結合する末端構造と、アルキル鎖とを持つ。

【0019】
(第1の態様のデコイ分子)
本明細書に開示するデコイ分子は、P450の結合部位に結合可能な第1の部位(末端構造)と、アルキル鎖である第2の部位とを備える。さらに、これらを連結するペプチド結合を含むリンカーを有している。デコイ分子は、第1の部位と第2の部位とを備えるために、P450とを共存させると、ダミー分子が基質のかわりにP450の結合部位に結合し、活性化スイッチが入ると考えられる。

【0020】
このデコイ分子においては、第1の部位と第2の部位とが、リンカーによって連結されている。推論であって本明細書の開示を拘束するものではないが、こうしたデコイ分子は、活性中心に到達しやすく、水分子を速やかに活性中心から排除すると考えられる。また、こうしたリンカーを備えることで、フッ素化されていなくても、デコイ分子の水酸化を抑制又は回避して、炭化水素系基質基質を水酸化できる。

【0021】
本来、炭化水素系基質に対する野生型P450の触媒活性は非常に低い。しかし、デコイ分子が活性化スイッチを入れることで、炭化水素系基質に対する野生型P450の触媒活性が向上する。したがって、野生型のP450を用いて炭化水素系基質を水酸化できる。

【0022】
以上説明したように、本明細書に開示されるデコイ分子を用いることで、フッ素の使用を排除して、炭化水素系基質を野生型のP450によって水酸化できる。よって、本明細書に開示されるデコイ分子を用いることで、炭化水素系基質を工業的に水酸化して有用な水酸化物を取得できる。

【0023】
(第2の態様のデコイ分子)
本明細書に開示される他のデコイ分子は、変異型P450で炭化水素系基質を水酸化するために好適なデコイ分子である。このデコイ分子によれば、変異型P450に対してもデコイ分子として良好に機能させることができる。このため、このデコイ分子を用いることで、変異型P450の機能をさらに増強させることができる。

【0024】
本明細書の開示を拘束するものではないが、このデコイ分子は、ペプチドリンカーを介して末端構造とフッ素化されたアルキル鎖とを備えることで、変異型P450であってもその基質結合部位及び活性中心と良好に相互作用でき、その結果、変異型P450による触媒能を一層高めることができると考えられる。

【0025】
以上説明したように、本明細書に開示される第2の態様のデコイ分子は、変異型P450に好適に適用可能であって、その触媒能を一層増強して有用な水酸化物を取得することができる。

【0026】
なお、本明細書において、炭化水素系基質としては、芳香族化合物、アルカン、アルケン、シクロアルカン、シクロアルケン等を包含することができる。芳香族化合物としては、一置換されてもよいし多置換されていてもよい。置換基としては、炭素数1~4のアルキル、炭素数2~4のアルケニル、水酸基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルキル置換基又はアルケニル置換基は、ケト基又はアルデヒド基を有していてもよい。芳香族化合物、単核であってもよい多核であってもよい。好ましくは単核又は2核である。また、芳香族化合物は、2以上の核が縮合していてもよいし、非芳香族環と縮合していてもよい。こうした芳香族化合物としては、単核又は二核の芳香族化合物が挙げられ、より具体的には、置換されていてもよいベンゼン、ナフタレン、インデン等が挙げられる。

【0027】
アルカンとしては、例えば、炭素数1~15程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルカンが挙げられる。例えば、メタン、エタン、n-プロパン、n-ブタン、n-ペンタン、んーヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン及びn-ドデカン等並びにこれらの2以上の分岐を有する分岐鎖体が挙げられる。

【0028】
アルケンとしては、上記したアルカンにおいて1又は2以上の不飽和結合を備えるものが挙げられる。例えば、1不飽和を備えるアルケンが挙げられる。

【0029】
シクロアルカン及びシクロアルケンとしては、置換されていてもよい、炭素数4~8個の炭素原子からなるシクロアルカン及びシクロアルケンが挙げられる。例えば、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘプタン、シクロヘプテン等が挙げられる。シクロアルカン及びシクロアルケンは、1又は2以上の置換基を有していてもよく、例えば、1~5個以下の置換基を有していてもよい。置換基としては、既述の置換を適用できる。シクロアルカン及びシクロアルケンとしては、無置換又は1~3個程度の置換基を備えるシクロヘキサン、シクロヘキセン等が挙げられる。

【0030】
本明細書において、炭化水素系基質の水酸化とは、炭化水素系基質のC-H結合を酸化反応により酸化し結果として炭素原子に水酸基を導入することを意味している。

【0031】
以下、本明細書に開示される各種の実施形態を詳細に説明する。

【0032】
(第1の態様のデコイ分子)
本明細書に開示される第1の態様のデコイ分子(以下、第1のデコイ分子という。)は、P450で炭化水素系基質の炭素原子に水酸基を導入することができる。

【0033】
(P450:シトクロムP450モノオキシゲナーゼ)
P450としては、公知のシトクロムP450モノオキシゲナーゼを包含できる。P450としては、細菌由来のP450を好ましく用いることができ、なかでも、緑膿菌由来のP450やバチルス属由来のP450を用いることができる。こうしたP450としては、例えば、シトクロムP450BM3(CYP102A1)、シトクロムP450cam(カンファー5-モノオキシゲナーゼ、CYP101)が挙げられる。

【0034】
P450は、アミノ酸配列が既知のP450とアミノ酸配列の同一性が40%以上のP450を用いることもできる。例えば、シトクロムP450BM3のアミノ酸配列と40%以上の同一性を持つP450(シトクロムP450BM3のファミリー酵素)や、シトクロムP450BM3のアミノ酸配列と55%以上の同一性を持つP450(シトクロムP450BM3のサブファミリー(CYP102A等)の酵素)を好ましく用いることができる。或いは、シトクロムP450camのアミノ酸配列と40%以上の同一性を持つP450(シトクロムP450camのファミリー酵素)や、シトクロムP450camのアミノ酸配列と55%以上の同一性を持つP450(シトクロムP450camのサブファミリー酵素)を好ましく用いることができる。なお、シトクロムP450BM3のファミリー酵素またはサブファミリー酵素は脂肪酸を水酸化可能であるのが好ましく、シトクロムP450camのファミリー酵素またはサブファミリー酵素はカンファー(C1016O)を水酸化可能であるのが好ましい。

【0035】
こうしたシトクロムP450BM3のアミノ酸配列は、例えばJ.Biol.chem.264(19),10987-10998(1989)や、NCBIのベータベース(National Center for Biotechnology Information http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/P14779.2)に開示されている。また、シトクロムP450camのアミノ酸もまた、NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/YP_714029)に開示されている。

【0036】
P450は、野生型のほか変異型であってもよい。変異型としては、例えば、細菌由来のP450の変異型を好ましく用いることができる。例えば、シトクロムP450BM3やシトクロムP450camの変異型を用いることができる。これらの変異型の詳細及び取得方法については、例えば、既述の特許文献1~3のほか、C. J. C. Whitehouse, S. G. Bell, L. L. Wong, Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 1218-1260(以上、シトクロムP450BM3の変異型全般)、F. Xu, S. G. Bell, J. Lednik, A. Insley, Z. H. Rao, L. L. Wong, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 4029-4032、H. Joo, Z. L. Lin, F. H. Arnold, Nature 1999, 399, 670-673(以上、シトクロムP450camの変異型)等に開示されている。

【0037】
第1のデコイ分子については、野生型のP450を用いることが好ましい場合がある。

【0038】
(デコイ分子の構成)
第1のデコイ分子は、前記シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、フッ素化されていないアルキル鎖である第2の部位と、前記末端構造と前記アルキル鎖とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、を備えることができる。

【0039】
(第1の部位:P450の基質結合部位に結合可能な末端構造)
第1の部位は、用いるP450の基質結合部位に結合可能な末端構造である。より具体的には、P450の基質結合部位の開口部に結合可能な末端構造である。一般に、P450の基質結合部位は分子表面からヘム分子まで到達し、主として疎水性アミノ酸残基により構成されるトンネル状となっている。そして、例えば、シトクロムP450BM-3等の基質結合部位が開口する分子表面のアルギニン残基とチロシン残基のプラス帯電アミノ酸配列残基と基質との水素結合が酸化反応に必須であると考えられている。

【0040】
第1の部位は、こうした基質結合部位の開口部と相互作用可能に水素結合を形成可能な構造を有していることが好ましい。第1の部位は、例えば、水素原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基及びカルボキシル誘導体基からなる群から選択される1又は2以上の原子又は基を備えることができる。カルボキシル誘導体基としては、例えば、炭素数1~4程度のアルキルエステル、アミド及び無水物が挙げられる。また、カルボキシル誘導体基としては、カルボキシル基に1又は2以上アミノ酸を導入したアミノアシル基が挙げられる。これらの原子及び基は、1又は2以上を組み合わせてもよい。第1の部位としては、少なくとも、カルボキシル基を含んでいることが好ましい。

【0041】
(第2の部位:フッ素化されてないアルキル鎖)
第2の部位におけるアルキル鎖の鎖長は特に限定されないで、必要に応じて、例えば、用いるP450や水酸化対象である炭化水素系基質に応じて適宜設定することも可能である。また、アルキル鎖は、直鎖状であってもよいし分岐鎖状であってもよい。分岐鎖状とする場合、分岐鎖は、炭素数1~4程度のアルキル基とすることができる。アルキル鎖の形態も、用いるP450や水酸化の対象となる炭化水素系基質等に応じて適宜設定することも可能である。アルキル鎖は、環状であってもよく、環状部を備えていてもよい。

【0042】
典型的には、アルキル鎖の炭素数は5個以上とすることが好ましく、6個以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは7個以上であり、なお好ましくは8個以上であり、さらにまた好ましくは9個以上であり、また好ましくは10個以上である。また、アルキル鎖の炭素数は、好ましくは15個以下であり、より好ましくは14個以下であり、さらに好ましくは13個以下であり、なお好ましくは12個以下である。また、アルキル鎖は、好ましくは直鎖状である。

【0043】
(リンカー)
第1のデコイ分子は、第1の部位と第2の部位との間にこれらを連結するペプチド結合を含むリンカーを備えることができる。このようなリンカーを備えることで、理論的には必ずしも明らかではないが、フッ素化されていないアルキル鎖を備えるデコイ分子であっても機能させることができるようになっている。

【0044】
リンカーは、ペプチド結合を備えていればよく、さらに、例えば、第1の部位との間に、1又は数個以下(好ましくは1個又は2個)のアルキレン基を備えていてもよい。アルキレン鎖は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。このようなリンカーを備える第1のデコイ分子としては、例えば、以下の式(1)で表される。リンカーは、式(1)における[]で表される単位である。

【0045】
【化2】
JP2017071589A_000003t.gif

【0046】
上記式(1)において、Aは第1の部位を表し、Bは第2の部位を表し、Rは、水素原子、アルキル基、チオアルキル基、アルキケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基及びアラルキル基から選択される1又は2以上の基を含む有機官能基を表し、nは1以上の整数を表すことができる。

【0047】
式(1)におけるRのアルキル基、チオアルキル基におけるアルキルには、既述のアルカンの定義を適用することができる。また、チオアルキル基は、アルキル基中の1又は2程度の炭素原子を硫黄原子で置換した形態を有することができる。

【0048】
Rにおけるアルケニル基におけるアルケニルには、既述のアルケンの定義を適用することができる。また、シクロアルキル基及びシクロアルケニル基におけるシクロアルキル及びシクロアルケニルには、既述のシクロアルカン及びシクロアルケンの定義を適用できる。

【0049】
アリール基におけるアリールについては、既述の芳香族の定義を適用することができる。また、アラルキル基には、アルキル基の定義とアリール基の定義を適用することができる。

【0050】
Rは、好ましくは、アミノ酸の側鎖である。アミノ酸は、L体であってもD体であってもよいが、L体を好ましく用いることができる。アミノ酸としては、タンパク質の主体となる20種類の天然アミノ酸のほか、各種の天然及び非天然のアミノ酸を用いることができる。

【0051】
Rは、より好ましくは、疎水性側鎖を有するアミノ酸残基の当該側鎖である。こうしたアミノ酸残基としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリンが挙げられる。疎水性の観点からは、より好ましくは、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン及びトリプトファンが挙げられる。さらに、好ましくは、メチオニン、フェニルアラニン及びトリプトファンが挙げられる。

【0052】
式(1)におけるnは、特に限定しないが、数個以下であることが好ましく、例えば、1個又は2個である。

【0053】
式(1)で表される第1のデコイ分子は、例えば、第2の部位のアルキル鎖を備えるカルボン酸に対して、アミノ酸を1つ導入することによって製造することができる。こうして得られる「N-アシルアミノ酸」のカルボキシル基(第1の部位)が、式(1)のAに対応し、アシル基のアルキル基(第2の部位)が、同Bに対応し、アミノ酸の側鎖が、同Rに対応する。さらに、アルキルカルボン酸に2つ以上のアミノ酸を導入することもできる。

【0054】
この反応は、例えば、アミノ酸のカルボキシル基をエステル化するなどして保護した後、カルボン酸とアミノ酸のカルボキシル保護体とを縮合し、その後、脱保護することにより、式(1)で表される「N-アシルアミノ酸」を取得できる。以下に、典型的なスキームとして、アミノ酸のメチルエステルを介したN-アシルアミノ酸の合成スキームを例示する。

【0055】
【化3】
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【0056】
(アミノ酸のメチルエステル化)
例えば、50 mLナスフラスコにアミノ酸(19 mmol)を入れてメタノール(19 mL)に溶かし、-20°Cに冷却し、この溶液に塩化チオニル(20 mmol, 1.45mL)をゆっくりと滴下し、0°Cで1時間撹拌した後、室温で16時間撹拌する。反応液を減圧留去し、得られた白色固体をジエチルエーテルで洗浄し、減圧下で乾燥させる。

【0057】
(カルボン酸とアミノ酸の縮合反応)
その後、50 mL二口フラスコに、例えば、アミノ酸のメチルエステルとしてL-フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩(4 mmol, 863 mg)、ノナン酸(4 mmol, 643 mg)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt・H2O)(5 mmol, 676 mg)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC-HCl)(5 mmol, 978 mg)を加えて、アルゴン下でジメチルホルムアミド(5 mL)を加えて溶解させる。つづいて、N,N'-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(10 mmol, 1.29 g)を加え、室温で6時間撹拌し、その後、反応溶液と同体積のイオン交換水を加え、酢酸エチルで3回抽出を行う。抽出した有機相を合わせ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムを加えて30分間乾燥し、ろ過後、溶媒をエバポレーターにより留去する。酢酸エチル:ヘキサン=3:7を展開溶媒として用いて、シリカゲルカラムで精製した。対応するフラクションを集めて溶媒を留去し、真空乾燥して固体を得る。

【0058】
(メチルエステルの脱保護)
合成したN-アシルアミノ酸メチルエステルに1.0 M LiOH/THF = 4:1溶液を加え、室温で24時間撹拌する。氷浴上で2M HClを加えpHを1にして、Et2Oで3回抽出を行い、硫酸マグネシウムを加えて30分間乾燥し、ろ過後、溶媒をエバポレーターにより留去する。得られた固体を少量の酢酸エチルに溶かし、70°Cの水浴上で固体が析出する寸前までヘキサンを加えた後、室温で放置し再結晶化を行った。析出した固体を吸引ろ過し、真空乾燥して固体を得る。

【0059】
また、「N-アシルアミノ酸」においては、第1の部位はカルボン酸となるが、アルキルカルボン酸と縮合するアミノ酸に替えて非天然アミノ酸を用いることにより、第1の部位をカルボン酸以外の官能基とすることができる。例えば、アルキルエステルやアミドなどのカルボキシ基誘導体とするには、アミノ酸のカルボキシル基を保護基のメチルエステル基に変えて、エタノールや対応するアルコールによるエステル化したものを、アルキルカルボン酸と縮合することにより得ることができる。また、例えば、第1の部位をアミド基とするには、メチルアミンやエチルアミンなどをアミノ酸のカルボキシルと縮合させた上で、アルキルカルボン酸と縮合することにより得ることができる。さらに、例えば、第1の部位をアルデヒド基とするには、アミノ酸のカルボキシル基を還元してアルデヒド基とした後にアセタール保護し、アルキルカルボン酸との縮合反応の後に、酸で脱保護することにより得ることができる。

【0060】
式(1)におけるRは、アミノ酸の側鎖を利用してさらに種々の形態に改変することが可能である。

【0061】
以上のとおり、第1のデコイ分子は、第1の部位と、第2の部位と、これらを連結するリンカーを備えている。リンカーは、第1のデコイ分子の第1の部位とP450の基質結合部位又はその開口部との相互作用を向上させているものと考えられる。

【0062】
第1のデコイ分子は、P450によって炭化水素系基質に水酸基が導入されることにより、炭化水素系基質の親水性が向上して速やかに疎水性の基質結合部位から排出される。このため、1つのみのあるいは特定の炭素原子への水酸基導入が生じやすくなる傾向がある。このため、第1のデコイ分子は、こうした水酸化に好ましく用いうる。

【0063】
また、第1のデコイ分子は、カップリング効率(%)、すなわち、生成したアルコールなどの水酸化量(モル数)に対する消費したNADPHのモル数の割合(%)が高くなる傾向があり(例えば、後述する第2のデコイ分子等よりも)、副反応が少なく、酵素の寿命を延長させることができる。

【0064】
(炭化水素系基質の水酸化方法及び炭化水素系基質の水酸化物の生産方法)
本明細書に開示されるこれらの方法は、第1のデコイ分子、P450及び炭化水素系基質の存在下で、P450により前記基質を水酸化する工程を備えることができる。これらの方法によれば、より実用的に、フッ素による種々の不都合を回避して各種の基質を水酸化し、水酸化物を得ることができる。

【0065】
第1のデコイ分子、炭化水素系基質、及びP450については、既に記載した各種態様を適用できる。炭化水素系基質の水酸化にあたっては、当業者は、公知のP450から適切なP450を選択し、第1のデコイ分子を設計し取得し、水酸化反応を実施することができる。

【0066】
本方法においては、P450の酵素活性を持続させる等の目的でNADPH(NADP)、酸素分子等を適宜存在させた状態で行うことが好ましい。また、炭化水素系基質の状態(気体、ガス等)において、基質の供給形態等を適宜変更することができる。

【0067】
本方法は、バッチ式でおこなっても良いし、連続的におこなっても良い。P450は、公知の固定化手段を用いて固定化して用いてもよいし、その他、酵素を用いた工業的方法に適用される公知の手法を適宜適用することができる。

【0068】
これらの方法は、炭化水素系基質を限定するものではないが、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン等の水酸化に好適に用いることができる。

【0069】
(P450で炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子のスクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、P450、前記P450の基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、フッ素化されていないアルキル鎖である第2の部位と、前記第1の部位と前記第2の部位とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、を備える、1又は2以上のデコイ分子候補及び炭化水素系基質の存在下で、前記P450を前記炭化水素系基質に作用させる工程、を備えることができる。本スクリーニング方法によれば、デコイ分子候補によるP450の炭化水素系基質の水酸化を評価することができ、所望の炭化水素系基質を水酸化するためデコイ分子をスクリーニングすることができる。なお、本スクリーニング方法において、P450についても1又は2以上の候補を組み合わせることで、好適なP450をスクリーニングできる。

【0070】
本スクリーニング方法においては、既述の水酸化方法と同様にして上記作用工程を実施することができる。

【0071】
本スクリーニング方法においては、第1のデコイ分子における、アルキル鎖長、アルキル鎖の形態、第2の部位の種類、リンカーの形態を適宜組み合わせた第1のデコイ分子候補を準備することができる。また、既述のように、P450についても種々の公知のP450候補を準備することができる。第1のデコイ分子を用いる場合には、P450は野生型を用いることが好ましい場合がある。

【0072】
(第2態様のデコイ分子)
本明細書に開示される第2の態様のデコイ分子(以下、第2のデコイ分子という。)は、変異型P450を用いて炭化水素系基質の炭素原子に水酸基を導入することができる。

【0073】
第2のデコイ分子は、変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼの基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位を備えるとともに、既述の第1のデコイ分子においてアルキル鎖である第2の部位の少なくとも一部がフッ素化されている点において相違する以外は、同様の構成を採ることができる。

【0074】
こうした第2のデコイ分子が、変異型P450に対して好適に機能しうるため、第2のデコイ分子によって変異型P450による触媒活性を改変したり増強することが可能となる。

【0075】
第2のデコイ分子における第1の部位は、変異型P450の基質結合部位、より詳しくはその開口部近傍に結合可能な末端構造である。変異型P450の当該部位は、野生型P450と基本的に同等であるので、実質的には、第2のデコイ分子の第1の部位は、第1のデコイ分子と同一であってもよい。

【0076】
第2のデコイ分子における第2の部位は、炭素原子に結合する少なくとも一部の水素原子がフッ素原子で置換されてフッ素化されていればよい。すべての水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。好ましくは、少なくともアルキル鎖の末端から数えて1~3番目の炭素原子に結合される水素原子がフッ素で置換されている。また、好ましくは、少なくとも、アルキル鎖の末端から数えて1~7番目の炭素原子に結合される水素原子がフッ素で置換されている。

【0077】
第2のデコイ分子は、変異型P450に対して用いることが好ましい。ここで変異型P450は既に述べた各種のP450の変異型が挙げられる。例えば、P450BM-3のA328Fの変異型が挙げられる。A328F変異型は、A. Seifert, S. Vomund, K. Grohmann, S. Kriening, V. B. Urlacher, S. Laschat and J. Pleiss, ChemBioChem, 2009, 10, 853-861、A. Rentmeister, T. R. Brown, C. D. Snow, M. N. Carbone and F. H. Arnold, ChemCatChem, 2011, 3, 1065-1071、E. Weber, A. Seifert, M. Antonovici, C. Geinitz, J. Pleiss and V. B. Urlacher, Chem. Commun., 2011, 47, 944-946等に記載されている。また、P450BM-3のA328Fと同様に好ましい変異型P450としては、P450BM-3A264V、同A264I、同A82W、同A328V、同A328Iが挙げられる。A264V/A328F、A264V/A328V、A264V/A328Iなどの二重変異体も挙げられる。これらは、活性中心のヘム近傍に配置されている。

【0078】
第2のデコイ分子は、変異型P450に対しても適用できるため、従来野生型では困難であった炭化水素系基質を、効率的に水酸化できるようになる。例えば、メタン、エタン、プロパンなどの炭素数1~3程度のアルカンに好適に適用することができる。より好ましくは、メタン及びエタンである。第2のデコイ分子を変異型P450BM3等に適用してメタン及びエタン、なかでもメタンを酵素的に酸素を用いて酸化できることは有意義である。従前、メタンについては、P450を含むヘム鉄を活性中心とする酵素で酸化して水酸基を導入したことは報告されていない。

【0079】
そのほか、第2のデコイ分子については、第2の部位の少なくとも一部がフッ素化されている以外の態様については、第1のデコイ分子の各種態様をそのまま適用できる。

【0080】
(炭化水素系基質の水酸化方法及び炭化水素系基質の水酸化物の生産方法)
本明細書に開示されるこれらの方法は、第2のデコイ分子を用いるほか、変異型P450を用いる以外は、第1のデコイ分子についての水酸化方法及び水酸化物の生産方法を適用することができる。

【0081】
(変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼで炭化水素系基質を水酸化するためのデコイ分子のスクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼ、前記変異型P450の基質結合部位に結合可能な末端構造である第1の部位と、少なくとも一部がフッ素化されたアルキル鎖である第2の部位と、前記第1の部位と前記第2の部位とを連結する、ペプチド結合を含むリンカーと、を備える、1又は2以上の第2のデコイ分子候補及び炭化水素系基質の存在下で、前記変異型シトクロムP450モノオキシゲナーゼを前記炭化水素系基質に作用させる工程を備えることができる。本スクリーニング方法によれば、第2のデコイ分子候補による変異型P450の炭化水素系基質の水酸化を評価することができ、所望の炭化水素系基質を水酸化するための第2のデコイ分子をスクリーニングすることができる。なお、本スクリーニング方法において、変異型P450についても1又は2以上の候補を組み合わせることで、好適な変異型P450をスクリーニングできる。

【0082】
本スクリーニング方法においては、既述の水酸化方法と同様にして上記作用工程を実施することができる。

【0083】
本スクリーニング方法においては、第1のデコイ分子におけるのと同様に、アルキル鎖長、アルキル鎖の形態、第2の部位の種類、リンカーの形態を適宜組み合わせた第1のデコイ分子候補を準備することができる。また、既述のように、変異型P450についても種々の公知のP450候補を準備することができる。

【0084】
(デコイ分子を含む水酸化のためのキット及びデコイ分子組成物)
本明細書は、さらに、既に説明した第1の態様のデコイ分子及び/又は第2の態様のデコイ分子を備える、水酸化のためのキットを提供することができる。こうしたキットは、第1の態様及び第2の態様の各態様のデコイ分子につき、1又は構造の異なる2以上のデコイ分子を備えることもできる。さらに、こうしたキットは、1又は2以上のP450及び変異型P450を含むこともできる。

【0085】
デコイ分子は、単独の試薬として提供されてもよいが、予め、適用するP450及び/又は変異型P450とを組み合わせた組成物として提供されてもよい。組成物として提供されることで、水酸化反応を簡易に行えるようになる。
【実施例】
【0086】
以下、本明細書の開示について具体例を挙げて説明するが、本明細書の開示は以下の実施例に拘束されるものではない。
【実施例1】
【0087】
(P450の発現精製)
大腸菌BL21(DE3)株に、シトクロムP450BM3(CYP102A1)全長をコードするDNA(アミノ酸配列、配列番号1)(C. J. C. Whitehouse, S. G. Bell, L. L. Wong, Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 1218-1260.のFig.2に開示されるCYP102Aサブファミリーのアライメント結果におけるA1である。)をコードするDNAを挿入したpUCベクターを組み込んで、P450BM3遺伝子を発現させた。産生したP450BM3を大腸菌から抽出、精製するため、大腸菌を超音波で破砕し、破砕液を遠心分離して上清を回収し、この上清を陰イオン交換カラム(DE-52)に一旦結合させ、0~250mM KClの濃度勾配を用いて溶出し、P450BM3を示す茶色のピーク画分を回収した。
【実施例1】
【0088】
溶出したピーク画分の精製度をSDS-PAGEで確認し、精製度が高い画分を混合し、分画分子量(MWCO)が30,000の限外濾過キットで濃縮した後、緩衝液A(20mM Tris-HCl(pH7.4))で希釈してKCl濃度を5mM 以下にして脱塩した。続いて、陰イオン交換カラム(DEAE650S)を用いてKClを0~1000mMの範囲で濃度勾配をかけてBM3を溶出させ、同様に精製を行った。最後に、ゲル濾過カラム(Sephacryl S-300HR)に緩衝液B(20mM Tris-HCl(pH7.4)、100mM KCl)を流してP450BM3を溶出させ、得られた茶色のピーク画分を回収し、これを野生型のP450BM3試料として、以下の反応に用いた。
【実施例2】
【0089】
(ベンゼンの水酸化反応1)
本実施例では、C9アルキルカルボン酸(ノナン酸)を各種アミノ酸で修飾したN-アシルアミノ酸を合成し、これらのN-アシルアミノ酸をデコイ分子として用いて野生型P450BM3に添加することで、野生型P450BM3にベンゼンの水酸化活性を付与できることを確認した。以下、濃度は全て終濃度で示す。
【実施例2】
【0090】
ノナン酸を、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)及びトリプトファン(Trp)を修飾して、各種のN-アシルアミノ酸を合成した。ノナン酸へのアミノ酸の導入については、既に説明したとおり、アミノ酸をメチルエステル化後、ノナン酸と縮合し、その後、脱保護することにより、各種のN-アシルアミノ酸を得た。スキームを以下に示す。なお、アミノ酸1当量に対して、以下に示す割合で各種試薬を用いた。
【実施例2】
【0091】
【化4】
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【実施例2】
【0092】
高純度酸素ガスを吹き込み飽和させた緩衝液Bで反応溶液の全体積の90%以上を満たし、500nM 野生型P450BM3、10mMベンゼン、100μMの各N-アシルアミノ酸を加え、最後に5mM NADPHを添加し反応を開始した。なお、N-アシルアミノ酸を溶解するのにDMSO溶液を用いる必要があるため、結果として、反応液は0.5v/v%のDMSOを含有していた。
【実施例2】
【0093】
反応は、密閉したバイアルで行い、25℃以下で反応液を撹拌しながら進行させた。10分間の反応後、1M塩酸0.15mL を加えて反応を停止し、10分間撹拌した。反応液を1M水酸化ナトリウム水溶液0.15mLで中和し、アセトニトリル1.3mLを加えた後、フィルター濾過をしてHPLCで分析した。HPLCは島津社製のLC-10ADVPを用い、カラムはGL Sciences社製の逆相カラムInertsil ODS-3(内径4.6 mm、カラム長250mm、粒子径5μm)を用いた。溶離液には緩衝液B/アセトニトリル=1:1を用いて、流速0.5 mL/minで35分間測定を行った。
【実施例2】
【0094】
なお、N-ノナノイルアミノ酸に替えてノナン酸を用いる以外は同様の操作を行い、比較例とした。また、N-アシルアミノ酸を添加せず、代わりに0.5v/v%のDMSOのみを添加した系として同様の操作を行った。
【実施例2】
【0095】
各反応液のHPLCのクロマトグラム上には、比較例及び対照例には見られない新しいピークが観察された。新ピークの保持時間は、フェノールの保持時間と一致することを確認できたため、本反応液には、反応生成物としてフェノールが生成していることがわかった。各反応液におけるフェノール量及びNADPHの消費量も測定した。表1に、添加したN-ノナノイルアミノ酸に対する1分間あたりのフェノールの生成量、NADPHの消費量おNADPHの消費量のうちフェノールの生成に利用された割合(カップリング率)を示す。
【実施例2】
【0096】
【表1】
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【実施例2】
【0097】
表1に示すように、ノナン酸を、グリシン、アラニン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン及びトリプトファンという疎水性側鎖を有するアミノ酸で修飾して得たデコイ分子は、いずれも、ベンゼンをフェノールに酸化できることがわかった。これに対して、アミノ酸で修飾していない単なるノナン酸(比較例)及び対照例では、全くフェノールは生成していなかった。
【実施例2】
【0098】
また、N-アシルアミノ酸のアミノ酸部位を変えることでフェノ—ル水酸化活性とNADPHの消費量が変化することがわかった。ベンゼンの水酸化反応では、炭素数9のアルキル鎖を持つノナン酸をアミノ酸で修飾したデコイ分子を用いた場合、フェニルアラニンで修飾したC9-Pheが最も高い酸化活性を示した。
【実施例3】
【0099】
(ベンゼンの水酸化反応2)
本実施例では、N-アシルアミノ酸のアルキル鎖の鎖長とベンゼンの酸化活性とについて評価した。本実施例では、実施例2に準じて、オクタン酸、(C8)、ノナン酸(C9)、デカン酸(C10)及びウンデカン酸(C11)にフェニルアラニンで修飾して各種N-アシルフェニルアラニンを合成した。これらの各種デコイ分子につき、実施例2と同様にしてベンゼンの水酸化反応を実施した。結果を表2に示す。
【実施例3】
【0100】
【表2】
JP2017071589A_000007t.gif
【実施例3】
【0101】
表2に示すように、アミノ酸の種類によってフェノ—ル水酸化活性とNADPHの消費量が変化した。ベンゼンの水酸化反応では、フェニルアラニンを修飾したN-アシルフェニルアラニンの中で、炭素数10のアルキル鎖を持つN-デカノイルフェニルアラニン(C10-Phe)を加えた際に最も高い酸化活性を示した。さらに、フェニルアラニンに替えてロイシンで修飾したN-アシルロイシンの中でも、炭素数10のアルキル鎖を持つN-デカノイルロイシン(C10-Leu)を加えた際に最も高い酸化活性を示した。
【実施例3】
【0102】
なお、シトクロムP450BM3(CYP102A5)(C. J. C. Whitehouse, S. G. Bell, L. L. Wong, Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 1218-1260.のFig.2に開示されるCYP102Aサブファミリーのアライメント結果におけるA5である。)をコードするDNAについても実施例1と同様にして操作して、A5野生型のP450BM3を取得し、N-デカノイルロイシン(C10-Leu)を用いて上記と同様にしてベンゼンの酸化活性を評価したところ、A1野生型と同様、フェノールへの酸化を確認できた。
【実施例4】
【0103】
(プロパンの水酸化反応)
本実施例では、ノナン酸をロイシンで修飾したN-ノナノイルロイシン(C9-Leu)が野生型P450BM3に対してプロパンの水酸化活性を有するどうかを評価した。
【実施例4】
【0104】
高純度プロパンガスと高純度酸素ガスの混合ガスを緩衝液Bに吹き込み飽和させて、混合ガス飽和緩衝液Bを得た。この混合ガス飽和緩衝液Bで反応溶液の全体積の90%以上を満たし、500nM P450BM3、100μM N-ノナノイルロイシンを加え、最後に5mM NADPHを添加し反応を開始した。
【実施例4】
【0105】
反応は、密閉したバイアルで行い、バイアルをプロパンガスと酸素ガスの混合ガスで満たしたバルーンと接続し、バルーンの加圧下で反応液を撹拌しながら進行させた。10分間の反応後、生成したアルコールを検出、定量するため、アルコールを亜硝酸エステルに誘導体化した。亜硝酸エステルへの誘導体化は、文献Nguyen et al., Anal. Sci. 2001, 17, 639-643及びPeters et al., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 13442-13450にならって、反応試料1mlに対して、0.20gの亜硝酸ナトリウムを加え、1.0mLのヘキサンを加えた後、氷上で20%硫酸を150μl滴下し、15分間反応させて行った。誘導体化後、ヘキサン相を回収し、これを純水で洗浄した。洗浄後のヘキサン相をガスクロマトグラフィーで分析した。ガスクロマトグラフは島津社製のFID検出器を有するGC-2014を用い、カラムはRestek社製のRtx-1カラム(内径0.53mm、膜厚3μm、カラム長60m)を用いた。分離の条件は、試料注入口温度を250℃とし、カラムオーブンの温度プログラムは50 ℃で5分維持し、その後6分かけて200℃まで昇温し、そのまま3分間維持するよう設定した。検出器は250 ℃に設定した。対照はN-ノナノイルロイシンを添加せず、代わりに0.5v/v%のDMSOのみを添加した系とし、全て同じ手順で行った。
【実施例4】
【0106】
本反応で得られた試料をガスクロマトクラフィーで調べると、対照には見られない新しいピークがひとつだけ得られた。プロパンの酸化反応では1-プロパノールもしくは2-プロパノールが生成する可能性がある。そこで、2-プロパノールを直接打ち込み、その保持時間を決定すると、ちょうど反応生成物と重なる位置に検出された。これより、反応生成物が2-プロパノールであることがわかった。また、亜硝酸エステルに誘導体化したプロパノールが、本条件下では誘導体の不安定性のため亜硝酸エステルとして検出することはできず、分解してプロパノールそのものとして検出されることが明らかになった。
【実施例4】
【0107】
内部標準に1mM 3-ペンタノールを用いて2-プロパノールの定量を行ったところ、上記条件により、220μMを超える2-プロパノールが生じており、そのカップリングレート(%)は44%であった。
【実施例5】
【0108】
(メタンの水酸化反応)
本実施例では、デカン酸をフェニルアラニンで修飾したN-デカノイルフェニルアラニン(C10-Phe)が、P450BM3の変異体であるP450BM3 A328F変異体に対してメタンの水酸化活性を有するどうかを評価した。なお、P450BM3 A328Fは、既述のP450BM3のアミノ酸配列に対してQuikChange Site-Directed Mutagenesis kit (Stratagene, La Jolla, CA)を用いることにより、A328Fの点置換変異を導入して作製した。
【実施例5】
【0109】
高純度13Cメタンガスと高純度酸素ガスの混合ガスを緩衝液Bに吹き込み飽和させた、混合ガス飽和緩衝液(20mM Tris-HCl(pH 7.4)、100mM KCl)で反応溶液の全体積の90%以上を満たし、2μM P450BM3 A328F変異体、100μM N-デカノイルフェニルアラニン、カタラーゼ5×107 unit、SOD(スーパーオキシドディスミューターゼ)2×103 unitを加え、最後に5 mM NADPHを添加し反応を開始した。カタラーゼ及びSODは、P450の失活を抑制するために添加した。なお、N-デカノイルフェニルアラニンを溶解するのにDMSO溶液を用いたため、反応液は0.5v/v%のDMSOを含有していた。
【実施例5】
【0110】
反応は、密閉したバイアルで行い、10分間の反応後、GC-MSで分析した。
【実施例5】
【0111】
本反応で得られた試料をGC-MSで調べると、13Cメタノールに由来するピークが得られた。内部標準の100μM tert-ブチルアルコールを用いて13Cメタノールの定量を行ったところ、上記条件で10分間反応させると、6.8μMの13Cメタノールが生じており、10分間で3.4回転の触媒回転数を示した。
【実施例5】
【0112】
また、上記のN-デカノイルフェニルアラニンに替えてN-パーフルオロノナノイルトリプトファン(フッ素置換したデコイ分子)とする以外は、上記と同様にしてメタンの水酸化反応を行ったところ、メタノールが生成し、その触媒回転数は20回であった。
【実施例5】
【0113】
なお、同様にして、P450BM-3A 264V、同264I、同A82W、同A328V、同A328I、A264V/A328F、A264V/A328Vな、A264V/A328Iなどの二重変異体についても、メタンの酸化を確認したところ、メタノールの生成を確認できた。
【実施例5】
【0114】
なお、P450BM3 A328F変異体に替えてその野生型を使う以外は、上記と同様にしてN-デカノイルフェニルアラニン及びN-パーフルオロノナノイルトリプトファンをデコイ分子として用いてメタンの水酸化反応を実施しても、全くメタノールを生じないことを確認した。
【実施例5】
【0115】
以上のことから、アルキルカルボン酸にアミノ酸を導入して得たデコイ分子は、野生型及び変異型のいずれのP450にも適用可能であることがわかった。また、フッ素原子を水素原子に替えて備えるフルオロカルボン酸にアミノ酸を導入して得たデコイ分子は、変異型P450に対してより高い水酸化活性の増強活性を有していることがわかった。すなわち、フルオロカルボン酸にアミノ酸を導入して得たフルオロN-アシルアミノ酸は、変異型P450に対してより適合性が高いことがわかった。また、こうしたデコイ分子により、酵素的にメタンをメタノールに変換できることがわかった。
【実施例6】
【0116】
(エタンの水酸化反応)
本実施例では、デカン酸をフェニルアラニンで修飾したN-デカノイルフェニルアラニン(C10-Phe)が、P450BM3の変異体であるP450BM3 A328F変異体に対してメタンの水酸化活性を有するどうかを評価した。
【実施例6】
【0117】
高純度13Cエタンガスと高純度酸素ガスの混合ガスを緩衝液Bに吹き込み飽和させた、混合ガス飽和緩衝液(20 mM Tris-HCl(pH 7.4)、100 mM KCl)を用いる以外は、実施例5と同様にして水酸化反応を行い、10分間の反応後、GC-MSで分析した。その結果、エタノールが生成していることがわかった。