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明細書 :ファジィ推論を用いた嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-034325 (P2016-034325A)
公開日 平成28年3月17日(2016.3.17)
発明の名称または考案の名称 ファジィ推論を用いた嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法
国際特許分類 A61B   5/11        (2006.01)
FI A61B 5/10 310K
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2014-157803 (P2014-157803)
出願日 平成26年8月1日(2014.8.1)
発明者または考案者 【氏名】八木 直美
【氏名】越久 仁敬
【氏名】上野 博司
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
【識別番号】501146513
【氏名又は名称】株式会社ジェイ クラフト
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
要約 【課題】従来の誤嚥や嚥下障害を検出・検査する方法では、設定したある値を満たさなかった場合には、誤嚥や嚥下障害であると判定していた。患者特有の事情を反映した嚥下の検出方法を提供する。
【解決手段】ファジィ推論を用いた、患者特有の事情を反映した嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法である。
【選択図】図5
特許請求の範囲 【請求項1】
前件部が測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の嚥下可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、嚥下と非嚥下とを区別するファジィ規則を設定する工程と、
測定対象者からの入力変数に関するデータ、該入力変数、該入力変数メンバーシップ関数、該出力変数、及び該出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程と、
該出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程と、及び
該非ファジィ化出力値を基にして嚥下であるか非嚥下であるかを判定する工程を含む、
嚥下の検出方法。

【請求項2】
前件部が特定期間の測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の誤嚥可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、正常嚥下と誤嚥とを区別するファジィ規則を設定する工程と、
測定対象者からの入力変数に関するデータ、該入力変数、該入力変数メンバーシップ関数、該出力変数、及び該出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程と、
該出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程と、及び
該非ファジィ化出力値を基にして正常嚥下であるか誤嚥であるかを判定する工程を含む、
嚥下活動モニタリングシステム。

【請求項3】
前件部が特定期間の測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の嚥下障害可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、嚥下障害であるか非嚥下障害であるかを区別するファジィ規則を設定する工程と、
測定対象者からの入力変数に関するデータ、該入力変数、該入力変数メンバーシップ関数、該出力変数、及び該出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程と、
該出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程と、及び
該非ファジィ化出力値を基にして嚥下障害であるか非嚥下障害であるかを判定する工程を含む、
嚥下機能評価方法。

【請求項4】
前記出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程は、以下(1)~(3)のいずれか1以上を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。
(1)前記ファジィ規則が1つの場合は、前記出力集合の重心を特定して前記非ファジィ化出力値を得る工程
(2)前記ファジィ規則が複数の場合は、複数の前記ファジィ規則のそれぞれから得られた前記出力集合を集計して出力和集合を得て、該出力和集合の重心を特定して前記非ファジィ化出力値を得る工程
(3)前記ファジィ規則が複数の場合は、複数の前記ファジィ規則のそれぞれから得られた前記出力集合に重みを付加して、重みを付加した出力集合を集計して出力和集合を得て、該出力和集合の重心を特定して前記非ファジィ化出力値を得る工程

【請求項5】
前記入力変数は、呼吸情報、音声情報、舌骨情報を含む群から選択される少なくとも1つを含む、
請求項1~4のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。

【請求項6】
前記入力変数は、呼吸停止情報値及び音強度値である請求項1~5のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。

【請求項7】
前記ファジィ規則は、以下のいずれか1以上を含む請求項1~6のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。
(1)Xbreath(呼吸停止情報値)と Yswallow(嚥下確定値)が相関している
(2)Xsound(音強度値)とYswallow(嚥下確定値)が相関している

【請求項8】
前記ファジィ規則は、以下のいずれか1以上を含む請求項1~7のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。
規則1:Xbreath(呼吸停止情報値)が低度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は低度である
規則2:Xbreath(呼吸停止情報値)が中程度の場合には Yswallow(嚥下確定値)は中程度である
規則3:Xbreath(呼吸停止情報値)が高度の場合には Yswallow(嚥下確定値)は高度である
規則4:Xsound(音強度値)が低度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は低度である
規則5:Xsound(音強度値)が中程度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は中程度である
規則6:Xsound(音強度値)が高度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は高度である
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ファジィ推論を用いた嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(誤嚥)
誤嚥は、嚥下時の気道保護機能の低下に伴って起こる。誤嚥の原因は、中枢神経系の疾患、例えば脳卒中、脳性麻痺、難治性の神経疾患、口腔、咽頭、喉頭の疾患等である。老化だけでも消化や嚥下機能の低下により誤嚥リスクが高まるので、誤嚥は高齢化社会での深刻な健康課題となっている。
【0003】
(嚥下障害)
嚥下障害は、栄養不良、脱水症、肺炎等のリスクとなるので、患者の罹患率や死亡率の増加、生活の質(QOL)の低下、医療費の顕著な増加等を招く。有効な予防や治療の早期介入を行わなければ、嚥下障害は重篤な病的状態に進展する。したがって、嚥下障害の迅速な診断は急務である。更に、誤嚥の危険がある嚥下障害患者を早期に同定し、各々の嚥下障害の病態と重症度を明確にしなければならない。嚥下障害の病態および重症度によって、口腔ケア、食形態の工夫、嚥下リハビリテーション、胃瘻(PEG)造設などが必要となるからである。
嚥下障害は、嚥下ビデオ造影検査(VF)、嚥下内視鏡検査(VE)、反復唾液嚥下テスト、水飲みテスト、及びフードテストによって評価される。VFとVEの長所は咽頭残留や誤嚥といった嚥下障害を正確に評価できることであるが、短所はVFの場合はX線照射により被検者のみならず検者も被曝すること、VEの場合は医師・歯科医師が施行する必要があることなどである。
【0004】
(先行技術)
上記誤嚥や嚥下障害を検出・検査する方法として、以下の方法が報告されている。
【0005】
特許文献1では、「嚥下障害等の症状の診断において嚥下音を採取する嚥下音採取装置であって、該装置は、患者の嚥下時の嚥下音を採取するマイク部を含む、患者の嚥下時の情報を採取する生体情報入力部と、前記生体情報入力部が接続され、前記生体情報入力部により採取された情報を電気信号又は数値情報に変換する制御回路部と、前記制御回路部に接続され、前記制御回路部により変換された電気信号又は数値情報を視覚的及び/又は聴覚的に出力する出力部と、からなることを特徴とする嚥下音採取装置」を開示している。
しかし、特許文献1は、ファジィ推論を用いることはいっさい開示していない。
【0006】
特許文献2では、「被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を取得する第1の情報取得部と、被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を取得する第2の情報取得部と、前記第2の生体情報に基づいて被検者の呼吸活動の停止状態を検知し、検知された呼吸活動の停止状態の期間における前記第1の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動検知部と、を有する嚥下活動モニタリング装置」を開示している。
しかし、特許文献2は、ファジィ推論を用いることはいっさい開示していない。
【0007】
特許文献3では、「測定対象者の首に装着される装着用フレームと、該装着用フレームの内側に設けられ、前記測定対象者の嚥下動作に伴う喉頭動作音を測定する音測定部と、前記音測定部により測定された前記喉頭動作音に基づく測定結果を提示する提示部と、該音測定部により測定された前記喉頭動作音の測定データから喉頭蓋閉音、食塊通過音、喉頭蓋開音の各音データを解析する音データ解析手段と、該音データ解析手段により解析された前記喉頭蓋閉音、前記食塊通過音、前記喉頭蓋開音により食塊が食道を通過したか否かを判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果を前記提示部に提示させる制御手段と、を備えたことを特徴とする嚥下機能データ測定装置」を開示している。
しかし、特許文献3は、ファジィ推論を用いることはいっさい開示していない。
【0008】
特許文献4では、「嚥下活動を検出するための方法であって:嚥下活動を表す電子信号を受信するステップ;前記信号から少なくとも2つの特徴を抽出するステップ;前記特徴に基づき嚥下活動の型として前記信号を分類するステップ;および、前記分類を表す出力を生成するステップ;を包含する方法」を開示している。
しかし、特許文献4は、「ファジィ・ロジック」について言及しているが、具体的なファジィ規則をいっさい開示していない。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2003-111748号公報
【特許文献2】特開2011-4968号公報
【特許文献3】特開2013-17694号公報
【特許文献4】特表2008-502386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の誤嚥や嚥下障害を検出・検査する方法では、設定したある値を満たさなかった場合には、誤嚥や嚥下障害であると判定していた。これらの方法では、患者特有の事情を反映していなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ファジィ推論を用いれば、患者特有の事情を反映した嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法を提供することができることを確認して、本発明を完成した。
【0012】
本発明は以下の通りである。
「1.前件部が測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の嚥下可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、嚥下と非嚥下とを区別するファジィ規則を設定する工程と、
測定対象者からの入力変数に関するデータ、該入力変数、該入力変数メンバーシップ関数、該出力変数、及び該出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程と、
該出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程と、及び
該非ファジィ化出力値を基にして嚥下であるか非嚥下であるかを判定する工程を含む、
嚥下の検出方法。
2.前件部が特定期間の測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の誤嚥可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、正常嚥下と誤嚥とを区別するファジィ規則を設定する工程と、
測定対象者からの入力変数に関するデータ、該入力変数、該入力変数メンバーシップ関数、該出力変数、及び該出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程と、
該出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程と、及び
該非ファジィ化出力値を基にして正常嚥下であるか誤嚥であるかを判定する工程を含む、
嚥下活動モニタリングシステム。
3.前件部が特定期間の測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の嚥下障害可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、嚥下障害であるか非嚥下障害であるかを区別するファジィ規則を設定する工程と、
測定対象者からの入力変数に関するデータ、該入力変数、該入力変数メンバーシップ関数、該出力変数、及び該出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程と、
該出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程と、及び
該非ファジィ化出力値を基にして嚥下障害であるか非嚥下障害であるかを判定する工程を含む、
嚥下機能評価方法。
4.前記出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程は、以下(1)~(3)のいずれか1以上を含むことを特徴とする前項1~3のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。
(1)前記ファジィ規則が1つの場合は、前記出力集合の重心を特定して前記非ファジィ化出力値を得る工程
(2)前記ファジィ規則が複数の場合は、複数の前記ファジィ規則のそれぞれから得られた前記出力集合を集計して出力和集合を得て、該出力和集合の重心を特定して前記非ファジィ化出力値を得る工程
(3)前記ファジィ規則が複数の場合は、複数の前記ファジィ規則のそれぞれから得られた前記出力集合に重みを付加して、重みを付加した出力集合を集計して出力和集合を得て、該出力和集合の重心を特定して前記非ファジィ化出力値を得る工程
5.前記入力変数は、呼吸情報、音声情報、舌骨情報を含む群から選択される少なくとも1つを含む、
前項1~4のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。
6.前記入力変数は、呼吸停止情報値及び音強度値である前項1~5のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。
7.前記ファジィ規則は、以下のいずれか1以上を含む前項1~6のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。
Xbreath(呼吸停止情報値)と Yswallow(嚥下確定値)が相関している
Xsound(音強度値)とYswallow(嚥下確定値)が相関している
8.前記ファジィ規則は、以下のいずれか1以上を含む前項1~7のいずれか1に記載の嚥下の検出、嚥下活動モニタリングシステム又は嚥下機能評価方法。
規則1:Xbreath(呼吸停止情報値)が低度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は低度である
規則2:Xbreath(呼吸停止情報値)が中程度の場合には Yswallow(嚥下確定値)は中程度である
規則3:Xbreath(呼吸停止情報値)が高度の場合には Yswallow(嚥下確定値)は高度である
規則4:Xsound(音強度値)が低度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は低度である
規則5:Xsound(音強度値)が中程度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は中程度である
規則6:Xsound(音強度値)が高度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は高度である」
【発明の効果】
【0013】
本発明で生成したファジィ規則を用いれば、84.75%という精度の高い嚥下検出が行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】呼吸情報のメンバーシップ関数を示す。
【図2】音声情報のメンバーシップ関数を示す。
【図3】後件部のメンバーシップ関数を示す。
【図4】MIN-MAX重心法で得られた重心(出力集合)を示す。
【図5】実験装置装着部位を示す。
【図6-1】個体1の呼吸情報と生体音情報の測定値グラフ1である。
【図6-2】個体1の呼吸情報と生体音情報の測定値グラフ2である。
【図6-3】個体1の呼吸情報と生体音情報の測定値グラフ3である。
【図7】個体1の非ファジィ化出力値を示す。
【図8】後件部のチューニングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明のファジィ推論を用いた嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法を詳細に説明する。

【0016】
(ファジィ推論を用いた嚥下検出方法)
本発明のファジィ推論を用いた嚥下検出方法は、以下の工程を含む。
(1)前件部が測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の嚥下可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、嚥下と非嚥下とを区別するファジィ規則を設定する工程。
(2)測定対象者からの入力変数に関するデータ、入力変数、入力変数メンバーシップ関数、出力変数、及び出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程。
(3)出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程。
(4)非ファジィ化出力値を基にして嚥下であるか非嚥下であるかを決定する工程。
本発明の嚥下検出方法により、測定対象者が嚥下を行っているかどうかを検出することができる。

【0017】
(ファジィ推論を用いた嚥下活動モニタリングシステム)
本発明のファジィ推論を用いた嚥下活動モニタリングシステムは、以下の工程を含む。
(1)前件部が特定期間の測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の誤嚥可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、正常嚥下と誤嚥とを区別するファジィ規則を設定する工程。
(2)測定対象者からの入力変数に関するデータ、入力変数、入力変数メンバーシップ関数、出力変数、及び出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程。
(3)出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程。
(4)非ファジィ化出力値を基にして正常嚥下であるか誤嚥であるかを決定する工程。
本発明の嚥下活動モニタリングシステムにより、測定対象者が正常嚥下であるか誤嚥であるかを決定することができ、さらに、継続的にモニタリングすることにより、嚥下機能が向上、回復、低下しているかを判定することができる。

【0018】
(ファジィ推論を用いた嚥下機能評価方法)
本発明のファジィ推論を用いた嚥下機能評価方法は、以下の工程を含む。
(1)前件部が特定期間の測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を含み、後件部が測定対象者の嚥下障害可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数を含む、嚥下障害であるか非嚥下障害であるかを区別するファジィ規則を設定する工程。
(2)測定対象者からの入力変数に関するデータ、入力変数、入力変数メンバーシップ関数、出力変数、及び出力変数メンバーシップ関数をファジィ化処理して、出力集合を得る工程。
(3)出力集合を非ファジィ化して非ファジィ化出力値を得る工程。
(4)非ファジィ化出力値を基にして嚥下障害であるか非嚥下障害であるかを決定する工程。
本発明の嚥下機能評価方法により、測定対象者が嚥下障害であるかどうかを決定することができ、さらに、継続的にモニタリングすることにより、嚥下障害が完治、改善、悪化、停滞しているかを判定することができる。

【0019】
(ファジィ推論)
本発明で使用するファジィ推論とは、1965年にUCバークレーのZadeh教授によって報告された論文(L. A. Zadeh, "Fuzzy Sets," Information and Control, vol. 8, Issue. 3, pp. 338-353, 1965)で記載された内容を基にして、メンバーシップ関数を用いた情報処理を意味する。
ファジィ理論は、人間の知恵をコンピュータで利用するための道具であり、多くの制御問題に利用されている。ファジィ制御は、「もし~~のときには~~のように制御する」の形式の曖昧性を含む言語ルール(IF-Thenルール)を用いて制御問題に対応できる。
そして、ファジィ推論は、曖昧さを表現できる唯一の理論であることから、明確に定義、数式化できないこと、最適解がないシステムの作成、曖昧でつかみどころのない領域で正確さを追求するようなシステムの評価系として利用されている。

【0020】
(前件部)
本発明の「前件部」は、測定対象者の特性を示す入力変数及び入力変数メンバーシップ関数を少なくとも含む。

【0021】
(後件部)
本発明の「後件部」は、以下のいずれか1以上の組合せを少なくとも含む。
(1)測定対象者の嚥下可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数
(2)測定対象者の誤嚥可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数
(3)測定対象者の嚥下障害可能性を示す出力変数及び出力変数メンバーシップ関数

【0022】
(測定対象者の特性を示す入力変数)
本発明の「測定対象者の特性を示す入力変数」は、測定対象者の嚥下検出、誤嚥、嚥下障害等を示す特性であれば特に限定されないが、例えば以下を例示することができる。
(1)呼吸情報(呼吸停止情報値)
(2)音声情報(音強度値、舌骨前方移動開始から食塊の咽頭への送り込み(squeezing)に伴う嚥下音、喉頭の隆起部の音)
(3)舌骨情報(舌骨の急速挙上開始から前方移動終了までの時間、舌骨の急速挙上開始から安静位にもどるまでの時間)

【0023】
(メンバーシップ関数)
本発明の「メンバーシップ関数」は、上記入力変数及び出力変数をファジィ化する関数であり、数式は特に限定されないが、呼吸情報及び音声情報は、下記の実施例1の数式(参照:図4)を好適に利用することができる。

【0024】
(ファジィ化処理)
本発明の「ファジィ化処理」は、下記で示すファジィ規則を基にして、測定対象者からの入力変数に関するデータ、入力変数、入力変数メンバーシップ関数、出力変数、及び出力変数メンバーシップ関数により、出力集合(参照:下記式12)を得ることである。

【0025】
(ファジィ規則)
本発明の「ファジィ規則」は、下記の実施例1で例示することができるが、特に限定されない。さらに、ファジィ規則は、以下の知識を基にして、設定することができる。
知識1:嚥下事象が現れるのは呼吸情報に呼吸を維持するための時間(無呼吸状態)が存する時である。
知識2:嚥下事象が現れるのは音声情報が高い強度を有する時である。
知識3: 嚥下障害の程度は物性が規定された検査食嚥下時の舌骨情報(舌骨の急速挙上開始から前方移動終了までの時間、舌骨の急速挙上開始から安静位にもどるまでの時間)が、検査食毎に定められる値より大きい時である。

【0026】
Xbreath(呼吸停止情報値)とYswallow(嚥下確定値)が相関しているので、以下のように規則を設定できる。
規則1:Xbreath(呼吸停止情報値)が低度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は低度である。
規則2:Xbreath(呼吸停止情報値)が中程度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は中程度である。
規則3:Xbreath(呼吸停止情報値)が高度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は高度である。
なお、下記実施例1では、上記のように、3段階(程度、中程度、高度)で設定したが、特に限定されずに、2段階、4~100段階等まで設定することができる。

【0027】
Xsound(音強度値)とYswallow(嚥下確定値)が相関しているので、以下のように規則を設定できる。
規則4:Xsound(音強度値)が低度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は低度である。
規則5:Xsound(音強度値)が中程度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は中程度である。
規則6:Xsound(音強度値)が高度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は高度である。
なお、下記実施例1では、上記のように、3段階(程度、中程度、高度)で設定したが、特に限定されずに、2段階、4~100段階等まで設定することができる。

【0028】
(非ファジィ化処理)
本発明の「非ファジィ化処理」は、特に限定されないが、以下のいずかれ1の方法を利用することができる。
(1)ファジィ規則が1つの場合は、出力集合の重心を特定して非ファジィ化出力値を得る。
(2)ファジィ規則が複数の場合は、複数のファジィ規則のそれぞれから得られた出力集合を集計して出力和集合を得て、該出力和集合の重心を特定して前非ファジィ化出力値を得る。すなわち、MIN-MAX重心法を利用することができる。
(3)ファジィ規則が複数の場合は、複数のファジィ規則のそれぞれから得られた出力集合に重みを付加して、重みを付加した出力集合を集計して出力和集合を得て、該出力和集合の重心を特定して非ファジィ化出力値を得る。

【0029】
(判定する工程)
本発明の測定対象者が嚥下をしているかどうか、正常な嚥下であるか誤嚥であるか、及び/又は嚥下障害あるかどうかの判定工程は、非ファジィ化出力値を基にして判断する。より詳しくは、以下を例示することができるが特に限定されない。
(1)嚥下であるかどうかは、非ファジィ化出力値が特定の閾値(カットオフ値)を超えた場合には、嚥下である(嚥下の可能性が高い)と判定する。
(2)正常な嚥下であるか誤嚥であるかは、特定期間の非ファジィ化出力値が、特定の閾値を指定した回数を超えた場合には、誤嚥である(誤嚥の可能性が高い)と判定する。
(3)嚥下障害であるかどうかは、特定期間の非ファジィ化出力値が、特定の閾値を指定した回数を超えなかった場合には、嚥下障害である(嚥下障害の可能性が高い)と判定する。

【0030】
(学習機能)
本発明のファジィ推論を用いた嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法では、好ましくは、学習機能を有する。
学習機能は、例えば、非ファジィ化出力値が、教師データ(過去のデータも含む)と比較して、指定した閾値に近づくような(又は、超える)ファジィ規則には、重みを増大させて、又は、指定した閾値に遠のくようなファジィ規則には、重みを減少させて、非ファジィ化出力値を最適な方向に自動調整することができる。
例えば、現在のファジィ規則では、過去のある時点の嚥下を検出できなかった場合には、教師データ(過去のデータ)を基にして、嚥下を検出できるように各入力変数の追加・変更・削減、入力変数メンバーシップ関数の修正、及び出力変数メンバーシップ関数の修正等を行うことができる。

【0031】
学習機能例は、以下を例示するが特に限定されない。
(1)各入力変数に重みをつける。
例:μbreath_Low×α + μsound_Low× (1-α)= μLow
(2)前件部の入力変数メンバーシップ関数のパラメータは教師データを基にして修正する。
例:実施例1の呼吸情報のTh(0.5)を変更して、未検出の嚥下が検出できるようにする。
例:実施例1の音声情報の「0.35×SD」の0.35を変更して、未検出の嚥下が検出できるようにする。
(3)後件部のチューニングを行う(参照:図8)。
例:実施例1の後件部を、図8のようにチューニングを行うことにより、未検出の嚥下が検出できるようにする。詳しくは、図8に記載のように、嚥下情報出力(出力値)が、目標値に近くなるように、特徴量を抽出して、さらにパラメータを調整する。次に、嚥下情報出力(出力値)が、目標値に近くなった場合には、調整したパラメータ値を後件部の出力変数メンバーシップ関数として採用する。
(4)複数の前記ファジィ規則のそれぞれから得られた出力集合に重みを付加する。

【0032】
(教師データ)
本発明の教師データは、以下を例示することができるが特には限定できない。
(1)測定対象者の過去のデータ(なんらかの事情により測定がうまくいかなかったデータを除いた過去のデータでも良い)
(2)ある期間に誤嚥をしたことが特定されているデータ
誤嚥をしたことが特定されている教師データは、測定者が誤嚥したかどうかを判別することができるファジィ規則の生成に有用である。
(3)体重別、性別、年齢別、疾患別のデータ
嚥下障害を有する測定対象者のデータである教師データは、測定者が嚥下障害であるかどうかを判別することができるファジィ規則の生成に有用である。

【0033】
(オーダーメード嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法)
本発明の嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法では、特定の測定対象者の過去のデータ(嚥下機能が正常であった又は異常であった時のデータ)及び/又は該測定対象者とプロフィールが適合する教師データ(例、同じ年齢層、同じ体重層、同じ疾患経験)を基にして、該測定対象者に最適なオーダーメード嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法を提供することできる。
これらの方法なら、特定の測定対象が、嚥下であるかどうか、誤嚥であるかどうか、嚥下障害であるかどうかを判定するだけでなく、嚥下機能が向上、回復、低下しているかを判定でき、さらには、嚥下障害が完治、改善、悪化、停滞しているかを判定することができる。

【0034】
以下、本発明を実施例で説明するが、これは本発明に典型例を例示するものであって、その内容を限定解釈するものではない。
【実施例1】
【0035】
(ファジィ規則の生成)
本実施例では、嚥下を検出することができるファジィ規則を生成した。詳細は、以下の通りである。
【実施例1】
【0036】
本実施例では、嚥下を検出するにあたり、無呼吸状態(呼吸情報)と音声情報(音声信号)という二つの特性を有するファジィ規則を検討した。これらの特性には嚥下事象との間に高い相関係数がある。したがって、本ファジィ規則は、以下の知識1及び2を基にしている。
【実施例1】
【0037】
知識1:嚥下事象が現れるのは呼吸情報に呼吸を維持するための時間(無呼吸状態)が存する時である。
知識2:嚥下事象が現れるのは音声情報(音声信号)が高い強度を有する時である。
次に、知識1と知識2を以下の「…の場合には…である」というファジィ規則に転換した。なお、XbreathとXsoundの標記は、事象Xでの、各々「呼吸」と「音声」を表わす。Yswallowの標記は嚥下の確率を表わす。
【実施例1】
【0038】
規則1:Xbreath(呼吸停止情報値)が低度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は低度である。
規則2:Xbreath(呼吸停止情報値)が中程度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は中程度である。
規則3:Xbreath(呼吸停止情報値)が高度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は高度である。
規則4:Xsound(音強度値)が低度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は低度である。
規則5:Xsound(音強度値)が中程度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は中程度である。
規則6:Xsound(音強度値)が高度の場合にはYswallow(嚥下確定値)は高度である。
【実施例1】
【0039】
図1に示すように、入力した呼吸情報のファジィメンバーシップ関数は通常の呼吸維持時間によって定義した。嚥下時の一時的無呼吸状態の継続時間は、一般に約0.5~0.7秒である。したがって、その閾値Thは単純に0.5に定めた。縦軸は、呼吸停止情報値、横軸は嚥下確定値を意味する。
図2に示すように、入力した音声情報のファジィメンバーシップ関数は音の強度の平均値とその標準偏差(SD)によって定義した。縦軸は、音強度値、横軸は嚥下確定値を意味する。
Meanの標記は音の強度の平均値を表わす。「低度」及び「高度」のメンバーシップ関数はデータセットの標準偏差と平均値を横一列に並べた台形状の関数であり、その斜線の幅は0.35×SDであり、斜線の中点は平均値となる。
「中程度」のメンバーシップ関数は三角形状の関数であり、二等辺三角形の底辺の長さがSDであり、この底辺の中央点は平均値となる。
ファジィシングルトン関数Si(X)は、次の式(1)のように定義した。
【実施例1】
【0040】
【数1】
JP2016034325A_000003t.gif
【実施例1】
【0041】
ファジィ所属度 μ(breath,sound)_(Low,Middle,High)は、以下の式(2)~(7)によって計算される。
【実施例1】
【0042】
【数2】
JP2016034325A_000004t.gif
【実施例1】
【0043】
∧及び∨の標記はそれぞれファジィの最小値及び最大値を求める演算を表わす。後件部のファジィメンバーシップ関数は図3のように定義される。
ファジィ推論をMIN-MAX重心法で行い、さらに、本ファジィ規則の生成の流れを図4に示した。
さらに、下記式(8)~(10)によって、度数wLow、wMiddle及びwHighを計算した。
【実施例1】
【0044】
【数3】
JP2016034325A_000005t.gif
【実施例1】
【0045】
ファジィ推論の結果は、個々の規則をファジィにセットした集合体 M(Xswallow) として下記式(11)により与えられ、重心は、下記式(12)により計算した。
【実施例1】
【0046】
【数4】
JP2016034325A_000006t.gif
【実施例2】
【0047】
(本実施例のファジィ規則の検出感度の確認)
本実施例では、実施例1で生成したファジィ規則が、嚥下を高感度で検出できるかどうかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【実施例2】
【0048】
(実験条件)
経鼻カニューレに装着した圧力差センサーを使用して呼気と吸気に伴う呼吸流に関する呼吸情報を得た(参照:図5)。また、喉頭の隆起部に装着したセンサーにより音声情報を得た(参照:図5)。なお、経鼻カニューレは細いプラスチック製のチューブであり、二つの小さな突出部を介して鼻に直接に酸素を送達するチューブに類似している。
5mlの水と三種類の食物を使用して予備テストを行った。食物の物理的性状、例えば粘度、凝集度、接着度を精密にコントロールした。
【実施例2】
【0049】
(実験結果)
本実験では、下記表1に示すように4人の健常な男性と1人の健常な女性(検体5)を検体とした。実験の一回の流れでは三つのテスト食物(L0、L2、L3)と5mlの水とによる4種の嚥下事象を行った。一人の検体はこの一回の実験テストの流れを3回試み、総計12の嚥下事象を行った。
本実施例1で生成したファジィ論理を使用して、非ファジィ化出力値が0.775(閾値)を超えた場合は嚥下であると判定した。
参考例として、検体1(Subject 1)での嚥下検出結果及び非ファジィ化出力値を、それぞれ、図6及び図7に示した。
下記表1の結果から明らかなように、本実施例1で生成したファジィ論理を使用した場合には、84.75%という精度の高い嚥下検出率を得ることができた。
なお、22.03%という過剰抽出(偽陽性)率には、唾液の嚥下が多少含まれるので、真の過剰抽出率はさらに低値となる。
【実施例2】
【0050】
【表1】
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【実施例2】
【0051】
(総論)
本発明では、コンパクトで運搬容易な装置(システム)を用いて嚥下事象を高感度に判定することに成功した。さらに、本発明のファジィ規則は、所望の結果を産出可能であることを示すことができた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明では、新規なファジィ推論を用いた嚥下検出方法、嚥下活動モニタリングシステム及び嚥下機能評価方法を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6-1】
5
【図6-2】
6
【図6-3】
7
【図7】
8
【図8】
9