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明細書 :抗酸化力の評価方法と抗酸化力評価装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-042057 (P2016-042057A)
公開日 平成28年3月31日(2016.3.31)
発明の名称または考案の名称 抗酸化力の評価方法と抗酸化力評価装置
国際特許分類 G01N  27/416       (2006.01)
G01N  27/48        (2006.01)
FI G01N 27/46 386Z
G01N 27/48 Z
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2014-166006 (P2014-166006)
出願日 平成26年8月18日(2014.8.18)
発明者または考案者 【氏名】上田 忠治
【氏名】田中 由季乃
【氏名】奥村 卓史
【氏名】赤瀬 早紀
【氏名】島村 智子
【氏名】受田 浩之
出願人 【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100075409、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久一
【識別番号】100129757、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久彦
【識別番号】100115082、【弁理士】、【氏名又は名称】菅河 忠志
【識別番号】100125243、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 浩彰
審査請求 未請求
要約 【課題】安価で簡便に実施可能であり、被検物質が着色していても正確な測定が可能な抗酸化力の評価方法と、当該方法を実施することができる抗酸化力評価装置を提供する。
【解決手段】被検物質の抗酸化力の評価方法は、液体中、ポリオキソメタレート錯体の存在下、平衡電位を測定する工程;上記液体中、上記被検物質とポリオキソメタレート錯体とを接触させた後に平衡電位を測定する工程;上記被検物質の存在下および非存在下における平衡電位の変化を算出し、当該変化の大きさにより上記被検物質の抗酸化力を評価する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
被検物質の抗酸化力を評価するための方法であって、
液体中、ポリオキソメタレート錯体の存在下、平衡電位を測定する工程;
上記液体中、上記被検物質とポリオキソメタレート錯体とを接触させた後に平衡電位を測定する工程;
上記被検物質の存在下および非存在下における平衡電位の変化を算出し、当該変化の大きさにより上記被検物質の抗酸化力を評価する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記液体として、25v/v%以上、95v/v%以下のC1-4アルコール水溶液を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ポリオキソメタレート錯体として、[PMo12403-、[PVW11405-および[SV210404-から選択される1以上を用いる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記ポリオキソメタレート錯体として電極上に固定化されたポリオキソメタレート錯体を用いる請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
反応容器と、
上記反応用器内に存在するポリオキソメタレート錯体溶液と、
上記ポリオキソメタレート錯体溶液にその全部または一部が浸漬されている作用電極および参照電極と、
上記作用電極および上記参照電極に結合された電位差計またはポテンショスタットを有することを特徴とする抗酸化力評価装置。
【請求項6】
上記ポリオキソメタレート錯体溶液の溶媒が25v/v%以上、95v/v%以下のC1-4アルコール水溶液である請求項5に記載の抗酸化力評価装置。
【請求項7】
作用電極および参照電極と、
上記作用電極上に固定化されたポリオキソメタレート錯体と、
上記作用電極および上記参照電極に結合された電位差計またはポテンショスタットを有することを特徴とする抗酸化力評価装置。
【請求項8】
さらに、上記電位差計に結合された対電極を有する請求項5~7のいずれかに記載の抗酸化力評価装置。
【請求項9】
上記ポリオキソメタレート錯体が[PMo12403-、[PVW11405-および[SV210404-から選択される1以上である請求項5~8のいずれかに記載の抗酸化力評価装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で簡便に実施可能であり、また、被検物質が着色していても正確な測定が可能な抗酸化力の評価方法と、当該方法を実施することができる抗酸化力評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化、運動不足、ストレスなど、生活習慣に起因する生活習慣病が問題となってきている。生活習慣病としては、糖尿病、高脂血症、がん、高血圧症、動脈硬化症などが代表例として挙げられる。
【0003】
生活習慣病には、活性酸素が大きく関わっているといわれている。即ち、活性酸素はその強い酸化力により体内に侵入した細菌やウィルスなどから生体を保護する役割を有するが、過剰な活性酸素は生体膜などをも酸化してしまい、生活習慣病を引き起こす。過剰な活性酸素は生活習慣病のみならず、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの脳神経系疾患や老化などにも関与していると考えられている。よって、体内には活性酸素を分解する抗酸化酵素や抗酸化物質も存在し、活性酸素と抗酸化物質などとのバランスにより生体が維持されている。しかし、上述した生活習慣の乱れによりかかるバランスが乱れて活性酸素が過剰になると、生活習慣病などの発症につながる。
【0004】
そこで、抗酸化物質を多く含む食品が活性酸素を低減して生活習慣病などを抑制するものとして注目されており、食品の抗酸化力を測定するための標準的な方法が各国で定められている。最も多く用いられている抗酸化力の測定方法としては、ORAC法とDPPH法がある。
【0005】
ORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)法は、蛍光物質であるフルオレセインを蛍光プローブとして使用し、一定のペルオキシラジカルの存在下、分解されるフルオレセインの蛍光強度の減少を経時的に測定し、その変化を指標として抗酸化力を測定する方法である。この反応系に抗酸化物質が存在すると、活性酸素が分解されてフルオレセインの蛍光強度の減少速度が遅くなる。かかる減少速度の遅延度合いを、被検物質と標準抗酸化物質であるトロロックス(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸)との間で比較して、被検物質の抗酸化力を評価する。ORAC法は、活性酸素として生体内で発生するペルオキシラジカルを用いることから生体関連性が高いといわれている。
【0006】
DPPH法では、反応性が高く不安定なラジカルではなく、安定な有機ラジカルであるDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazil)を用い、DPPHと抗酸化物質とを一定時間反応させた後、DPPH自身の極大吸収光の波長に近い520nmの吸光度を測定し、標準抗酸化物質であるトロロックスを用いた場合の吸光度に対する相対値を算出する。
【0007】
その他の抗酸化力測定方法も開発されている。例えば特許文献1には、被検物質を含む液体に活性酸素種と発光試薬を添加し、電極を使って電気化学発光させ、発光強度を測定して被検物質の活性酸素消去能を評価する方法が開示されている。当該方法において発光試薬としてルミノールを用いた場合には、ルミノールが電極表面で酸化されてアザセミキノンとなり、同じく電極表面で活性酸素種が酸化されて生じる活性酸素と反応して3-アミノフタレイトジアニオンが生成し、同時に光子が放出されて発光が起きるとされている。この際、被検物質に抗酸化物質が含まれていると発光強度が低減されるので、発光強度により被検物質の抗酸化力を評価することができる。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2007-279008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、抗酸化力の測定方法としては標準的な方法も定められている。しかし最も一般的なORAC法とDPPH法は、そのための装置が販売されているほど被検物質の前処理が煩雑である。また、蛍光強度を測定するための蛍光強度計と吸光度を測定するための吸光光度計は、共に非常に高価である。一般的に、蛍光強度計は約1000万円以上する。吸光光度計はそれほどではないが、それでも約50万円以上はする。
【0010】
特許文献1に記載の方法は、ORAC法やDPPH法とは異なり、被検物質の煩雑な前処理は必要ないようである。しかし、吸光度を測定する場合には、被検物質が着色していると正の誤差が生じ、抗酸化力を正確に評価できないという問題がある。
【0011】
そこで本発明は、安価で簡便に実施可能であり、また、被検物質が着色していても正確な測定が可能な抗酸化力の評価方法と、当該方法を実施することができる抗酸化力評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、還元され易い一方で安定なポリオキソメタレート錯体を用い、被検物質の存在下および非存在下における平衡電位の差を測定すれば、比較的高価な装置としては安価な電位差計またはポテンショスタットが必要であるのみであり、また、吸光度を測定するものではないので被検物質の着色が測定結果に影響しないことから、非常に簡便で且つ正確に抗酸化力を評価できることを見出して、本発明を完成した。
【0013】
以下、本発明を示す。
【0014】
[1] 被検物質の抗酸化力を評価するための方法であって、
液体中、ポリオキソメタレート錯体の存在下、平衡電位を測定する工程;
上記液体中、上記被検物質とポリオキソメタレート錯体とを接触させた後に平衡電位を測定する工程;
上記被検物質の存在下および非存在下における平衡電位の変化を算出し、当該変化の大きさにより上記被検物質の抗酸化力を評価する工程を含むことを特徴とする方法。
【0015】
[2] 上記液体として、25v/v%以上、95v/v%以下のC1-4アルコール水溶液を用いる上記[1]に記載の方法。かかるアルコール水溶液は、ポリオキソメタレート錯体溶液の溶媒として適するものであり、また、一般的な抗酸化性物質に対して適度な溶解性を示し、さらに、かかる液体を用いて得られた結果は、生体内における抗酸化性物質の挙動による結果と大きくは乖離しないと考えられる。
【0016】
[3] 上記ポリオキソメタレート錯体として、[PMo12403-、[PVW11405-および[SV210404-から選択される1以上を用いる上記[1]または[2]に記載の方法。これらポリオキソメタレート錯体を用いれば、被検物質に含まれる抗酸化性物質の抗酸化力をより高感度で測定できる。
【0017】
[4] 上記ポリオキソメタレート錯体として電極上に固定化されたポリオキソメタレート錯体を用いる上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。かかる態様によれば、被検物質の抗酸化力をより簡便に評価することが可能である。
【0018】
[5] 反応容器と、
上記反応用器内に存在するポリオキソメタレート錯体溶液と、
上記ポリオキソメタレート錯体溶液にその全部または一部が浸漬されている作用電極および参照電極と、
上記作用電極および上記参照電極に結合された電位差計またはポテンショスタットを有することを特徴とする抗酸化力評価装置。
【0019】
[6] 上記ポリオキソメタレート錯体溶液の溶媒が25v/v%以上、95v/v%以下のC1-4アルコール水溶液である上記[5]に記載の抗酸化力評価装置。かかるアルコール水溶液は、ポリオキソメタレート錯体溶液の溶媒として適するものであり、また、一般的な抗酸化性物質に対して適度な溶解性を示し、さらに、かかる液体を用いて得られた結果は、生体内における抗酸化性物質の挙動による結果と大きくは乖離しないと考えられる。
【0020】
[7] 作用電極および参照電極と、
上記作用電極上に固定化されたポリオキソメタレート錯体と、
上記作用電極および上記参照電極に結合された電位差計またはポテンショスタットを有することを特徴とする抗酸化力評価装置。
【0021】
[8] さらに、上記電位差計に結合された対電極を有する上記[5]~[7]のいずれかに記載の抗酸化力評価装置。作用電極と参照電極に加えて対電極も用いれば、より正確な測定が可能になる。
【0022】
[9] 上記ポリオキソメタレート錯体が[PMo12403-、[PVW11405-および[SV210404-から選択される1以上である上記[5]~[8]のいずれかに記載の抗酸化力評価装置。これらポリオキソメタレート錯体を用いれば、被検物質に含まれる抗酸化性物質の抗酸化力をより高感度で測定できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、従来の抗酸化力評価方法であるORAC法やDPPH法で必要であった蛍光強度計や吸光光度計といった高価な光強度計は必要でなく、機器としては安価な電位差計またはポテンショスタットが必要であるのみである。また、吸光度を測定するものではなく測定するのは電位差であるので、被検物質が着色していても正確で簡便な測定が可能である。よって本発明は、従来の標準的な抗酸化力評価方法としても採用されているORAC法やDPPH法などに取って代わり得るものとして、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、ポリオキソメタレート錯体溶液にアスコルビン酸を添加する前後の対流ボルタモグラムである。図1中、点線はアスコルビン酸の添加前、実線は添加後の対流ボルタモグラムを示す。
【図2】図2は、本発明に係る抗酸化力評価装置の一態様を示す模式図である。図中、「1」は反応容器を示し、「2」はポリオキソメタレート錯体溶液を示し、「3」は作用電極を示し、「4」は参照電極を示し、「5」は対電極を示し、反応容器の内部は、反応用器内のポリオキソメタレート錯体溶液の温度を一定に維持できるよう熱媒が流通できるようになっている。
【図3】図3は、ポリオキソメタレート錯体が表面に固定化された作用電極の模式図である。
【図4】図4は、ポリオキソメタレート錯体が表面に固定化された作用電極を含む本発明に係る抗酸化力評価装置を用いてエラグ酸溶液の平衡電位を測定した場合の平衡電位の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、まず、本発明に係る被検物質の抗酸化力の評価方法につき、工程毎に説明する。

【0026】
1. 初期平衡電位の測定工程
本発明方法では、まず、液体中、ポリオキソメタレート錯体の存在下で且つ被検物質の非存在下で、平衡電位を測定する。本発明において「平衡電位」とは、作用電極における電極反応が平衡状態にあり、電極間に電流が流れない状態における作用電極-参照電極間の電位差をいうものとする。

【0027】
なお、本工程は必ずしも独立して行う必要はない。例えばポリオキソメタレート錯体が固定化された作用電極を用いる場合には、被検物質を含む液体中に電極を浸漬した瞬間、即ち、ポリオキソメタレート錯体と被検物質とを接触させてからの経過時間がゼロにおける平衡電位を測定してもよい。

【0028】
本発明で反応系を構成する液体は、ポリオキソメタレート錯体を溶解することができ且つ被検物質、特に抗酸化物質をある程度溶解できるものであれば特に制限されない。

【0029】
ポリオキソメタレート錯体は水溶性を示し、また、抗酸化物質が作用すべき生体内環境における溶媒は当然に水である。一方、抗酸化物質としては水溶性のものも多いが、脂溶性が比較的高いものもある。よって、上記液体としては、水、または、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒が好ましい。

【0030】
本発明で用い得る水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのC1-4アルコール系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチエルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメシルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒などを挙げることができる。これらの中ではC1-4アルコール系溶媒が好ましく、特にエタノールが好ましい。

【0031】
水と水混和性有機溶媒との混合溶媒における水混和性有機溶媒の割合は、使用するポリオキソメタレート錯体や被検物質の溶解性などを考慮して予備実験などにより決定すればよいが、例えば、10v/v%以上が好ましく、20v/v%以上がより好ましく、25v/v%以上がさらに好ましく、30v/v%以上または40v/v%以上が特に好ましく、また、98v/v%以下または95v/v%以下が好ましく、80v/v%以下がより好ましく、75v/v%以下がさらに好ましく、70v/v%以下または60v/v%以下が特に好ましい。

【0032】
上記液体は、ポリオキソメタレート錯体の安定化の観点から酸性とすることが好ましい。具体的には、例えば、pHを1以上、3以下程度、プロトン濃度を0.05M以上、0.5M以下程度に調整することが好ましい。なお、ポリオキソメタレート錯体溶液を用いる場合には酸性を比較的強く調整し、ポリオキソメタレート錯体を電極に固定化する場合には酸性を比較的弱く調整することが好ましい。

【0033】
ポリオキソメタレート錯体は4~7族の金属原子などに酸素原子が4~6配位して、ヘテロ原子と共にMO4四面体、MO5正方錘、MO6六面体またはMO5三方両錘からなる基本単位から構成されるものであり、ケギン型、ドーソン型、リンドクビスト型、アンダーソン型などの構造が知られている。例えばケギン型のポリオキソメタレート錯体は式[XM1240n-、ドーソン型は式[X21862n-、リンドクビスト型は式[M619n-、アンダーソン型は式[XM624n-(XはSi,P,Sなどのヘテロ原子を示し、MはMo,V,W,Ti,Al,Nbなどの金属原子を示す)で表される。これらの中では、[PMo12403-、[PVMo11405-、[PVW11405-、[SV210404-、[SVMo11403-、[SV2Mo10404-、[SVW11403-などのケギン型のポリオキソメタレート錯体、および[S2216626-、[S2VW17625-などのドーソン型のポリオキソメタレート錯体が好ましく、ケギン型のポリオキソメタレート錯体がより好ましい。さらに、初期平衡電位と還元された場合の最低平衡電位との差が大きく感度が高いことから、[PMo12403-、[PVW11405-および[SV210404-から選択される1以上が好ましい。なお、ポリオキソメタレート錯体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。

【0034】
ポリオキソメタレート錯体の中心元素は、複数の酸素原子が結合しているため最高酸化数まで酸化された状態にある場合が多いので、ポリオキソメタレート錯体は還元され易い。その一方で、ポリオキソメタレート錯体の安定性は高い。よって、ポリオキソメタレート錯体は抗酸化物質の抗酸化力に応じて還元され、その還元波が負の方向にシフトし、その平衡電位は減少する。本発明では、かかる平衡電位の減少値を測定し、その値の大きさにより被検物質の抗酸化力を評価する。本工程では、この減少値の基準として、まず、被検物質の非存在下で平衡電位を測定する。

【0035】
ポリオキソメタレート錯体は、後述する本発明装置の二つの態様のとおり、上記液体に溶解している場合と、作用電極上に固定化されている場合とがある。溶解している場合、溶液におけるポリオキソメタレート錯体の濃度は、平衡電位が適切に測定できる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、ポリオキソメタレート錯体に含まれる金属元素の合計モル数で1mM以上、50mM以下程度にすることができる。

【0036】
ポリオキソメタレート錯体の存在下で且つ被検物質の非存在下における平衡電位は、常法により容易に測定することができる。例えば、電位差計に連結された作用電極と参照電極の全部または一部を上記液体に浸漬し、電位差計またはポテンショスタットで平衡電位を測定すればよい。

【0037】
電位差計とは、ポテンショメーターともいい、未知電圧と既知電圧を比較し、零位法によって未知電圧を求める測定器である。ポテンショスタットよりも構造が比較的単純であり、対電極が無い場合であっても作用電極と参照電極との電位差を測定可能である。

【0038】
ポテンショスタットとは、作用電極の電位を参照電極に対して一定にする装置であり、作用電極と対極間の電流を正確に測り、参照電極には電流を流さないようにする仕組みになっている。より正確な測定が目的である場合にはポテンショスタットを用い、対電極も使用することが好ましい。

【0039】
特に制限されるものではないが、例えば、作用電極としてはグラッシーカーボン電極を用いることができ、参照電極としては銀線または表面が塩化銀で修飾された銀線(Ag/AgCl電極)を用いることができ、対電極としては白金線を用いることができる。

【0040】
平衡電位は、測定温度によっても変化し得るため、恒温槽などを使って測定系の温度を一定にしつつ測定することが好ましい。

【0041】
なお、当然ではあるが、平衡電位はポリオキソメタレート錯体や液体の種類などに応じて変化するため、2以上の被検物質の抗酸化力を比較するような場合には、ポリオキソメタレート錯体の種類など、被検物質以外の条件を全て同一にする。

【0042】
2. 最低平衡電位の測定工程
次に、上記液体中、被検物質とポリオキソメタレート錯体とを接触させた後に平衡電位を測定する。

【0043】
被検物質は特に制限されず、その抗酸化力を評価すべきものであれば固体であっても液体であっても構わず、上記液体に完全に溶解できず一部不溶物が残ってもよい。但し、溶液状態の方がより正確な測定が可能であるので、固体の場合には粒子をできるだけ溶解できるように微細化することが好ましい。なお、2以上の被検物質の抗酸化力を比較する場合には、上記液体などに対する被検物質の量を一定にし、また、上述したように液体の種類などの条件も同一にする。

【0044】
被検物質とポリオキソメタレート錯体とを接触させるには、ポリオキソメタレート錯体の溶液またはポリオキソメタレート錯体が表面に固定化された作用電極が浸漬された上記液体に、被検物質を添加すればよい。

【0045】
被検物質とポリオキソメタレート錯体とを接触させた場合、被検物質中に抗酸化物質が含まれているとポリオキソメタレート錯体が還元され、平衡電位が減少する。本工程では、好ましくは平衡電位がそれ以上変化しないといえるまで、即ち平衡電位曲線の傾きが0になるまで継続的に測定し、最も低い平衡電位を求める。なお、本発明者らによる実験的知見によれば、ポリオキソメタレート錯体の種類と抗酸化物質の組み合わせによっては、いったん減少した平衡電位が上昇に転ずる場合がある。このような現象はV(V)を含むポリオキソメタレート錯体に特有のものであり、V(V)が関与した反応であると考えられるが、この場合であっても平衡電位が変化しなくなるまで測定を行い、その中での最低平衡電位を求める。

【0046】
平衡電位が一定になるまでの時間は測定条件などにもよるが、例えば、5分間以上、5時間以下程度にすることができる。

【0047】
3. 評価工程
次に、上記工程1において被検物質の非存在下で得られた初期平衡電位と、上記工程2において被検物質の存在下で得られた最低平衡電位の変化を算出する。理論的には、被検物質が抗酸化力を有さない場合では初期平衡電位と最低平衡電位は等しくなり、その差はゼロとなる。一方、被検物質が抗酸化力を示す場合には、その抗酸化力によりポリオキソメタレート錯体が還元されて平衡電位は低くなるので、平衡電位の変化は(初期平衡電位値)-(最低平衡電位値)の式で算出することができる。

【0048】
上記の(初期平衡電位値)-(最低平衡電位値)の値は、被検物質の抗酸化力が強いほど大きくなる。よって、複数の被検物質の抗酸化力を比較する場合には、上記のとおり同一の条件で初期平衡電位と最低平衡電位を測定し、その差の大きさを比較すればよい。

【0049】
上記の抗酸化力評価方法を実施することができる本発明に係る抗酸化力評価装置としては、ポリオキソメタレート錯体が上記液体に溶解しているものと、作用電極上に固定化されているものとがある。以下、それぞれの態様につき説明する。

【0050】
ポリオキソメタレート錯体が上記液体に溶解している抗酸化力評価装置は、反応容器と、当該反応用器内に存在するポリオキソメタレート錯体溶液と、当該ポリオキソメタレート錯体溶液にその全部または一部が浸漬されている作用電極および参照電極と、当該作用電極および上記参照電極に結合された電位差計またはポテンショスタットを有する。

【0051】
反応容器は、上記液体を保持できるものであればよく、上部解放構造のものでも、密閉構造のものでもよい。密閉構造である場合には、上部の全部または一部が上記液体などの注入や排出のために開閉可能であるか、上記液体などの注入口と排出口を有するものであることが好ましい。また、反応容器は、少なくとも作用電極と参照電極を保持できる構造を有することが好ましい。例えば、反応容器の上部に作用電極と参照電極を差し込むための穴を開けてもよい。

【0052】
ポリオキソメタレート錯体溶液の量は、被検物質を添加するに十分であり、且つ、少なくとも作用電極と参照電極の一部が浸漬される量とする。ポリオキソメタレート錯体や当該溶液の溶媒である上記液体などは、上記で説明したとおりである。

【0053】
また、作用電極、参照電極、電位差計およびポテンショスタットも、上記で説明したとおりである。

【0054】
平衡電位の値は、測定温度にも影響を受ける。よって、図2に示すように、ポリオキソメタレート錯体溶液が恒温になるよう反応容器の周囲に熱媒の流通路を設け、測定時に所望の温度の熱媒が流通するようにすることが好ましい。

【0055】
ポリオキソメタレート錯体が作用電極上に固定化されている抗酸化力評価装置は、作用電極および参照電極と、上記作用電極上に固定化されたポリオキソメタレート錯体と、上記作用電極および上記参照電極に結合された電位差計またはポテンショスタットを有する。

【0056】
当該装置は、特にポリオキソメタレート錯体が作用電極の表面に固定化されていることを特徴とする。ポリオキソメタレート錯体の固定化方法は、定法を用いればよい。例えば、ポリオキソメタレート錯体の塩を酸性溶液に溶解し、さらに固定化剤を溶解した上で作用電極と参照電極を浸漬し、電極間に電圧を印加することにより、図3に示すように、ポリオキソメタレート錯体を固定化剤と共に固定化することができる。

【0057】
固定化剤としては、例えば、ピロール、アニリン、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を用いることができる。これらは上記反応で重合して、それぞれポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)となり、ポリオキソメタレート錯体と共に作用電極に付着する。上記酸性溶液の溶媒は、かかる固定化剤とポリオキソメタレート錯体に適度な溶解性を示すものを用いる。例えば、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒であって、水混和性有機溶媒の濃度が70v/v%以上、98v/v%以下程度のものを挙げることができる。また、上記溶媒を酸性にするための酸としては、例えば、過塩素酸、塩酸、硫酸などの無機酸を挙げることができ、かかる酸を例えば0.01M以上、0.5M以下程度添加する。当該溶液におけるポリオキソメタレート錯体や固定化剤の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、それぞれ0.05mM以上、2mM以下程度、0.5mM以上、20mM以下程度とすることができる。また、印加電圧は、0.5V以上、5.0V以下程度とすることができる。反応時間はポリオキソメタレート錯体が十分に固定化されるまでとすればよいが、例えば、30秒間以上、10分間以下程度とすることができる。

【0058】
本発明に係る抗酸化力評価装置には、さらに、電位差計に対電極を結合することが好ましい。対電極を用いることにより、電位の安定性は増す。但し、装置をより簡略化したい場合には、対電極は用いなくてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0060】
実施例1
(1) ポリオキソメタレート溶液の調製
表1に示す50v/v%または70v/v%のエタノールまたはメタノール-水混合溶媒に、各元素または各化合物の濃度が表1のとおりになるように、Na2MoO4・2H2O、Na2WO4・2H2O、NaHPO4・2H2O、HCl、H2SO4を選択して溶解することにより、ポリオキソメタレート溶液を調製した。
【実施例】
【0061】
【表1】
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【実施例】
【0062】
(2) 対流ボルタモグラム測定
回転電極装置(BAS社製「RRDE-3」)と、回転リングディスク電極としてBAS社製のグラッシーカーボン電極を用い、50v/v%エタノール水溶液を用いて調製した[PMo12403-の溶液(a)10mLに10mMのアスコルビン酸を添加する前後の対流ボルタモグラムを測定した。結果を図1に示す。図1中、点線はアスコルビン酸の添加前、実線は添加後の対流ボルタモグラムを示す。
【実施例】
【0063】
図1の点線はアスコルビン酸を添加する前のボルタモグラムであり、単なるMo(VI)からMo(V)への電気的還元を表す。この場合における電流値0μAのときの電位、即ち平衡電位は約400mVであった。それに対して、実線で示されているアスコルビン酸を添加した後のボルタモグラムでは、平衡電位が約250mVとなり、抗酸化物質であるアスコルビン酸の添加により約150mVシフトした。かかる平衡電位の減少値(ΔE)を、ポテンショスタット(北斗電工社製「HA-501」)で測定した。
【実施例】
【0064】
(3) サイクリックボルタンメトリー測定
ボルタンメトリーアナライザ(BAS社製「CV-50W」または「ALS-600C」)を用い、作用電極(WE)としてBAS社製のグラッシーカーボン電極、対電極(CE)として白金線、参照電極(RE)として銀/塩化銀電極、掃引速度を100mV/secで固定化して上記(1)で調製した各溶液のサイクリックボルタンメトリー測定を行った。
【実施例】
【0065】
得られたサイクリックボルタモグラムでは、還元波と酸化波が対となった複数個のピークが特有の電位で観測された。これらピークは、錯体中の骨格金属の価数(例えば、Mo(VI)とMo(V))に基づくものであり、電気化学的に酸化還元活性であるポリオキソメタレート錯体では骨格を形成している金属は2つの価数をとるので、上記溶液ではポリオキソメタレート錯体が形成された上で溶解していることを示している。
【実施例】
【0066】
得られたサイクリックボルタモグラムより、第一酸化波と第一還元波のピーク電位(EpaとEpc(mV))と、これらの電位から求めた中点電位(Emid=(Epa+Epc)/2)を表2に示す。
【実施例】
【0067】
【表2】
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【実施例】
【0068】
ポリオキソメタレート錯体(a)~(d)と(e)および(f)との中点電位Emidを比較すると、(e)および(f)の方が100~170mV程度、正に増加していることが分かる。このことから、(e)および(f)のポリオキソメタレート錯体が、還元に対して感度がより高いことが期待される。
【実施例】
【0069】
実施例2: 既存法との相関性の検討
(1) 本発明に係るポリオキソメタレート錯体溶液による測定
図2に模式的に示す装置を用い、25℃の恒温槽中、上記実施例1(1)で調製したポリオキソメタレート錯体溶液(a)~(h)の初期平衡電位をポテンショスタットで測定した。次いで、当該溶液に代表的な抗酸化物質を添加し、同じくポテンショスタットで平衡電位の減少を測定した。測定は3回行い、平衡電位の減少値(ΔE)を式:ΔE=(初期平衡電位)-(最低平衡電位)から算出し、その平均値から抗酸化能を評価した。ΔE(V)値が大きいほど、抗酸化力が強いことを示す。なお、同じ抗酸化物質を用いた予備実験において、長くても4時間後には電位の変化は穏やかなものとなったことから、測定は4時間にわたって行った。また、ポリオキソメタレート錯体溶液(h)([SV210404-)においてα-トコフェロールを0.50mM加えたところ、溶液が黄橙色から無色に変化し、0.50mMと1.0mMの場合で測定値に差が認められなかった。調べたところイソポリタングステン酸が形成されていたので、SV210が分解されたと考えられた。さらに、0.10mMの抗酸化物質濃度であれば、平衡電位の減少は緩やかであった。そこで、抗酸化物質の添加濃度は0.10mMとした。測定結果を表3に示す。
【実施例】
【0070】
【表3】
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【実施例】
【0071】
上記結果のとおり、同じ抗酸化物質で同じポリオキソメタレート錯体を用いた場合であっても、溶媒によりΔE(mV)値は異なっていた。その理由としては、各抗酸化物質はそれぞれ固有のlogP値を示し、様々な親油性を有するものであり、溶媒の極性に応じて抗酸化力も変化することが考えられる。しかし、アスコルビン酸が最も強い抗酸化力を示し、α-トコフェロールが続き、エラグ酸やトランスフェルラ酸の抗酸化力は弱いといった傾向は見て取れる。また、本法を溶液状態にある抗酸化物質の抗酸化力評価に用いる場合には、ポリオキソメタレート錯体や溶媒を統一すればよい。
【実施例】
【0072】
(2) ORAC法との比較
上記抗酸化物質の抗酸化力を既存法であるORAC法で測定した。得られたORAC値と上記(1)に示す本発明によるΔE(V)値とをプロットし、直線関係の相関係数(|r|)を求めた。結果を表4に示す。
【実施例】
【0073】
【表4】
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【実施例】
【0074】
米国などで標準的な抗酸化力測定方法として公的に採用されているORAC法との比較において、フェルラ酸は[PMo12403-と[PVW11405-で、アスコルビン酸は全てのポリオキソメタレート錯体で、直線関係で考慮することができなかった。しかしその他の実験例では、上記表4に示す結果のとおり、1に近い正の相関係数が認められた。なお、既存の抗酸化力評価法同士の相関では、|r|=0.349でも重要な相関がみられたとの結論に至っている(Guohua Gaoら,Prior.Clinical Chemistry,44:6,pp.1309-1315(1998))。かかる結論に比して、本発明ではさらに1に近い相関係数が得られていることから、本発明による測定結果と既存方法による結果との相関性は非常に高いといえる。特に、50v/v%エタノール中における[PMo12403-、[PVW11405-および[SV210404-の結果の相関性は極めて高く、これらポリオキソメタレート錯体は抗酸化力測定において非常に有用であることが証明された。
【実施例】
【0075】
実施例3: サンプルの抗酸化力の測定
上記実施例2で既存方法との高い相関性が認められた[PMo12403-、[PVW11405-および[SV210404-の50v/v%エタノール溶液を使い、市販の赤ワイン、濃カテキン緑茶、普通の緑茶、グレープフルーツジュースおよび純米酒の抗酸化力を測定した。具体的には、上記ポリオキソメタレート錯体の50v/v%エタノール溶液10mLに各サンプルを0.10mL添加し、平衡電位の減少を測定した。結果を表5に示す。
【実施例】
【0076】
【表5】
JP2016042057A_000006t.gif
【実施例】
【0077】
測定に使用したサンプルでは、濃カテキン緑茶の抗酸化力が最も強く、純米酒の抗酸化力が最も弱かった。この結果は、使用した3種のポリオキソメタレート錯体で共通するものであった。
【実施例】
【0078】
また、純米酒以外のサンプルはいずれも着色しており、グレープフルーツジュースは懸濁状態にあるが、いずれも問題なく測定することができ、サンプルの前処理も不必要であった。この点は、従来のORAC法やDPPH法の欠点を克服しているといえる。
【実施例】
【0079】
実施例4: ポリオキソメタレート錯体の固定化
上記の実験ではポリオキソメタレート錯体の溶液を用いたのに対して、ポリオキソメタレート錯体を電極に固定化して実験を行った。
【実施例】
【0080】
具体的には、0.1M HClO4+NaClO4を含む80v/v%アセトニトリル水溶液に、(n-Bu4N)3[PMo1240]を0.5mMの濃度で加え、さらにピロールを5mM加えた。当該溶液にグラッシーカーボン電極とAg/AgCl電極を浸け、溶液を攪拌しながら+1.0Vの電圧を1分間かけ、グラッシーカーボン電極表面上にポリピロールを電気的に生成させ且つ[PMo12403-を静電的に結合させることにより、ポリオキソメタレート錯体固定化電極(以下、「POM固定化電極」と略記する)を作製した。当該POM固定化電極を用い、0.1M硫酸を含む水中および95v/v%エタノール水溶液中でサイクリックボルタンメトリー測定を行ったところ、上記実施例1(3)と同様に還元波と酸化波が対となった複数個のピークが特有の電位で観測されたことから、[PMo12403-の固定化を確認することができた。
【実施例】
【0081】
0.1M硫酸を含む95v/v%エタノール水溶液に抗酸化性物質であるエラグ酸を0.10mMの濃度で添加し、上記POM固定化電極を用いて平衡電位を測定した。測定は3回行った。結果を図4に示す。図4の結果のとおり、抗酸化性物質であるエラグ酸の溶液中における初期平衡電位(経過時間:0)と30分後の最低平衡電位との差はほぼ一定であり、かかる差を抗酸化力の指標として用い得ることが明らかとなった。
【実施例】
【0082】
また、他の抗酸化物質でも同様に測定を行い、平衡電位の平均減少値(V)を求めた。結果を表6に示す。
【実施例】
【0083】
【表6】
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図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3