TOP > 国内特許検索 > 酵母のスクリーニング方法およびそのためのプログラムならびに装置 > 明細書

明細書 :酵母のスクリーニング方法およびそのためのプログラムならびに装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-036324 (P2016-036324A)
公開日 平成28年3月22日(2016.3.22)
発明の名称または考案の名称 酵母のスクリーニング方法およびそのためのプログラムならびに装置
国際特許分類 C12Q   1/04        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
FI C12Q 1/04
C12M 1/34 B
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2014-163826 (P2014-163826)
出願日 平成26年8月11日(2014.8.11)
発明者または考案者 【氏名】北垣 浩志
出願人 【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099508、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 久
【識別番号】100093285、【弁理士】、【氏名又は名称】久保山 隆
【識別番号】100182567、【弁理士】、【氏名又は名称】遠坂 啓太
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B063
Fターム 4B029AA07
4B029AA27
4B029BB07
4B029FA02
4B029FA15
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QQ61
4B063QR69
4B063QR76
4B063QS12
4B063QS28
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX04
要約 【課題】
客観的で信頼性が高く、短時間で評価でき、その適性や改善方針も見出すことができるような酵母のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】
新規酵母のスクリーニング方法であって、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで新規代謝物データを得る新規代謝物データ測定工程と、複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる、複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式に、前記新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定工程とを有することを特徴とする新規酵母のスクリーニング方法。
【選択図】 図2
特許請求の範囲 【請求項1】
新規酵母のスクリーニング方法であって、
スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで新規代謝物データを得る新規代謝物データ測定工程と、
複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる、複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式に、前記新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定工程とを有することを特徴とする新規酵母のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記多変量解析式が、代謝物基礎データに、前記新規代謝物データ測定工程により得られた新規代謝物データを加えて多変量解析することで得られた多変量解析式である請求項1記載の新規酵母のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記代謝物基礎データの取得に用いられる前記複数種の酵母が、ビール酵母およびワイン酵母、清酒酵母、パン酵母、焼酎酵母、泡盛酵母からなる群から選択される少なくとも3種以上の酵母である請求項1または2記載の新規酵母のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記新規酵母位置特定工程により取得された多次元座標における位置から新規酵母の性質を判別する判別工程を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の新規酵母のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記代謝物総体分析が、酵母培養により酵母が生成した低分子成分を疎水化して行うガスクロマトグラフィであり、前記新規代謝物データおよび前記代謝物基礎データが前記ガスクロマトグラフィにより得られるピーク群である請求項1~4のいずれか1項に記載の新規酵母のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記多変量解析が、表現型の教師データを用いない多変量解析である請求項1~5のいずれか1項に記載の新規酵母のスクリーニング方法。
【請求項7】
複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された多変量解析式に、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定手段としてコンピュータを機能させるための新規酵母のスクリーニングを行うためのプログラム。
【請求項8】
代謝物測定手段により得られた新規代謝物データを、前記代謝物基礎データに加えて多変量解析することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求めるための前記多変量解析式を作成する多変量解析式作成手段としてさらに前記コンピュータを機能させるための請求項7記載の新規酵母のスクリーニングを行うためのプログラム。
【請求項9】
請求項7または8に記載のスクリーニングを行うためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項10】
複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された多変量解析式に、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定手段とを含む新規酵母のスクリーニング装置。
【請求項11】
スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで新規代謝物データを得るための新規代謝物データ測定手段を含む請求項10記載の新規酵母のスクリーニング装置。
【請求項12】
前記新規酵母位置特定手段により求められた位置を表示する表示手段とを含む請求項10または11記載の新規酵母のスクリーニング装置。
【請求項13】
さらに、多変量解析式を作成するための多変量解析式作成手段とを含む請求項10~12のいずれか1項に記載の新規酵母のスクリーニング装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は酵母のスクリーニング方法およびそのためのプログラムならびに装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酵母は、日本酒やビール、ワイン、焼酎等の酒を製造する際のアルコール発酵や、パン酵母等のように、食品の発酵に用いられる重要な微生物である。この酵母は、その種や株を変えると得られる酒の味も変わるため、製造しようとする食品にあう良い風味を呈する発酵を行う酵母を見出すことは非常に重要である。
【0003】
酒類用の良い風味を呈する発酵を行う酵母を選抜する方法として、酵母を分離培養したのち、その酵母を用いた仕込みを行い発酵させることで得られる発酵物の香味を官能評価する方法が行われている。この方法は、官能評価を行うことから評価基準が不明確な場合があり、実質的に選抜者の官能に頼り選抜基準が偏りやすい方法のため似たタイプの酵母が選抜されやすく、酵母選抜方法として安定性や多様性に欠ける問題がある。
【0004】
従来とは異なる酵母の選別方法として、非特許文献1には、遺伝子解析を利用した技術が開示されている。これは、清酒酵母の遺伝子の発現を解析することで、香気生成能・発酵能に関与する遺伝子群を特定することを目的とするもので、遺伝子発現の状況から、細胞質分裂や、代謝不良による発酵能を評価するものである。しかしながら、遺伝子の解析により清酒のスクリーニングを行っても、いわゆる酒類等の酵母による発酵後の味には様々な成分が関与していることが考えられるため、この方法は最終的な味に対応する選別を行うことは難しい方法である。
【0005】
また、清酒のメタボリックプロファイリングより味覚の優れた清酒の特徴的な代謝産物を同定した技術として、非特許文献2が開示されている。この技術は、清酒に含まれる多数の有機酸等や、清酒の製造工程でのそれらの変異等を分析し、味覚に優れた清酒と、そうではない清酒との違いを解析したものである。しかしながら、指標となる有機酸を特定することを目的としており、かつ、清酒中の成分としての分析を主としている。さらに、あくまで清酒内での評価を目的としていることから、清酒に適していない(ネガティブな)酵母を選別・篩分けする指標を提供するものであった。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】増渕隆等、「清酒酵母の遺伝子機能解析による新規酵母選別法の開発」、群馬県立産業技術センター研究報告(2012)、pp.20-24
【非特許文献2】大橋正隆等、「香り及び味覚の優れた清酒をつくる酵母のスクリーニング法の開発」、奈良県技術資料、平成25年度 No.39(研究報告) pp.20-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の酵母を分離培養して仕込み、その発酵物を官能試験する方法で選抜することは、前述したように、安定性や多様性に欠ける問題点がある。さらには、発酵能がやや劣る等の理由で官能試験に付される前に排除されたり、その発酵条件で発酵したときに官能試験としての風味が悪い等の理由で醸造用酵母に適さないと判断されたり、官能試験時の判断者の表層意識により排除される可能性があり、時間もかかるものであった。すなわち、発酵能を改善することで優良な酵母となるものや、発酵方法をわずかに変えることで風味が改善する優良な酵母を排除する可能性が高いものであった。
【0008】
また、特定の種類の遺伝子発現から実際の多くの酒類に対する適性を判断するまでの知見を得ることは煩雑であり、十分に利用できるものではない。さらに、特定の酒類の清酒に限定してその清酒内でその製造工程における位置づけや最終的な清酒としての代謝産物等を分析しても、その酵母の実際の機能を把握することはできない。また、メタボリックプロファイリングを利用した多くの研究では、味との関連性を見出すために、代謝物の同定に注力してしまいやすく総合的な解析を提案するものがなかった。このような従来から行われたり、提案されてきた技術の問題点を解決し、客観的で信頼性が高く、短時間で評価でき、その適性や改善方針も見出すことができるような酵母の選抜方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明は、新規酵母のスクリーニング方法であって、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで新規代謝物データを得る新規代謝物データ測定工程と、複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる、複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式に、前記新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定工程とを有することを特徴とする新規酵母のスクリーニング方法に関するものである。このようなスクリーニング方法とすることで、客観的で信頼性が高く、短時間で評価でき、その適性や改善方針も見出すことができる酵母の選抜ができる。
【0011】
本発明は、新規酵母のスクリーニング方法に関するものである。ここで新規酵母とは、その発酵・醸造特性が未知の酵母の総称である。具体的には、その発酵・醸造特性を明らかにする対象となる酵母を指す。例えば、変異遺伝子を持つ変異株や、新たに自然界から単離された株、従来用途が限定されていたようないわゆる蔵つき酵母等があげられる。本発明は、これらの新規酵母から、新規な醸造特性を有するものや、公知のものの代替酵母を選抜するスクリーニングを行う方法を提供するものである。
【0012】
本発明は、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで新規代謝物データを得る新規代謝物データ測定工程を有する。ここで、代謝物総体分析とは、その酵母が代謝過程により生産する多くの物質を総合的に分析するものである。また、その代謝物総体分析(メタボロミクス)により得られる値を、代謝物データとして利用する。なお、本発明においては、新規酵母と、後述する複数の酵母との代謝物総体分析を行い、それぞれの分析結果を新規代謝物データ、代謝物基礎データと呼ぶが、これらは共通する分析方法により得られるデータであり、これらのデータを併せて単に代謝物データとよぶ。代謝物総体分析を行うにあたっては、酵母を培養した培養液を分析することで、その培養液に含まれる代謝物(メタボローム)を分析することが好ましい。具体的な代謝物としては、乳酸および酢酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、各種アミン酸等の有機酸や、酢酸エチルおよび酢酸イソブチル、酪酸エチル等のエステル類、プロパノール、イソブタノール類等が挙げられる。これらの分析には、ガスクロマトグラフィや、液体クロマトグラフィ、キャピラリー電気泳動、NIR、NMR等を用いることができ、これらにより得られるデータを代謝物データとして使用することができる。なお、これらの分析にあたっては、一般的にMS(質量分析器)を組み合わせて用いられている。また、代謝物データは、同一酵母間でも多少のバラつきが生じることがあるため、3~5回程度測定するなど測定回数を増やすことが好ましい。
【0013】
この前記代謝物総体分析は、酵母培養により酵母が生成した低分子成分を疎水化して行うガスクロマトグラフィであり、前記新規代謝物データおよび前記代謝物基礎データが前記ガスクロマトグラフィにより得られるピーク群であることが好ましい。酵母による発酵・醸造により得られる代謝物は、前述したような多くの有機物を含むが、これらの多くは、低分子成分である。また、これらの低分子成分は味に大きな影響を与えることが多い。ガスクロマトグラフィによる分析精度を向上させるために、これらを疎水化してガスクロマトグラフィにより分析することが好ましい。ガスクロマトグラフィにより分析する利点としては、多数のピークを簡易な手法で取得できることがあげられる。ここで、本発明において、代謝物データを取得するにあたっては、それぞれの代謝物の同定を行う必要性は低く、多変量解析するために有効なデータ群をそのまま利用してよい。具体的には、ガスクロマトグラフィを行い、ノイズを排除した新規代謝物データと代謝物基礎データとを有効に対比可能なデータを、ガスクロマトグラフィにより得られるデータ群として利用する。このガスクロマトグラフィは、本発明の代謝物データとして利用するデータを短時間で取得することができ、作業と測定結果が安定しやすく、得られるデータを取り扱いやすい点から適している。なお、代謝物総体分析を行い、代謝物データとして使用する値は、新規代謝物データと、代謝物基礎データとを対比可能で、多変量解析式を作成するために有効な値を抽出して採用すればよい。より具体的には、各種クロマトグラフィ等においては、移送相由来のピークや培地成分由来のピークのような、ノイズであることが明らかなピークが現れる場合があるが、このようなノイズは排除して用いてよい。また、適宜、標準物質を加えて標準化したり、総面積に基づく標準化を行ってもよい。
【0014】
本発明は、複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる、複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式に、前記新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定工程を有する。この工程により、新規酵母の位置づけを複数種の酵母との位置から把握することができるため、その新規酵母に期待される味等を予測することができる。例えば、従来の酵母等と全く異なる位置にある酵母の場合、新規な味を奏する可能性が高いと考えることができ、従来の酵母と近い場合は近い風味を奏することが期待され、いくつかの酵母の中間に位置する場合はその中間的風味を奏する可能性が高いと把握することができる。
【0015】
本発明では、複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる、複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式を利用する。ここで、複数種の酵母とは、性質が異なる複数種の酵母を用いる。より具体的には、前記代謝物基礎データの取得に用いられる前記複数種の酵母が、ビール酵母およびワイン酵母、清酒酵母、パン酵母、焼酎酵母、泡盛酵母からなる群から選択される少なくとも3種以上の酵母であることが好ましい。より好ましくは、5種以上の酵母であることが好ましい。これらの酵母はそれぞれが異なる代謝特性を有し、それらの代謝特性により得られる食品も異なる風味を奏することから使い分けられているものである。
【0016】
次に、この複数種の酵母の代謝物総体分析とは、前述した新規酵母の代謝物総体分析と同様の方法で行われるものである。すなわち、新規酵母の新規代謝物データをガスクロマトグラフィにより取得する場合、複数種の酵母の代謝物基礎データもガスクロマトグラフィにより取得する。ここで、複数種の酵母の代謝物総体分析結果から取得される代謝物データを、代謝物基礎データと呼ぶ。この代謝物基礎データを用いて多変量解析することで多変量解析式を作成する。
【0017】
多変量解析とは、互いに関係のある多変量(他種類の特性値)のデータが持つ特徴を要約し、かつ、目的に応じて総合するための手法の総称である。代表的な多変量解析として、(1)予測式(関係式)の発見や量の推定などに用いる重回帰分析や正準相関分析、(2)標本の分類や質の推定などに用いるクラスター分析や判別分析、(3)多変量の統合整理(減らす)、変量の分類、および代表変量の発見などに用いる主成分分析や因子分析などがあげられる。本発明においては、これらの方法のいずれを採用するかは、適宜選択することができる。酵母の特徴として、その酵母を用いて醸造醗酵される食品の風味等を数値化しにくい場合、酵母の特徴についてその表現型の教師データ(目的変数)を設定する必要が無い多変量解析手法を採用することができる。
【0018】
本発明において多変量解析式を作成するにあたっては、前記多変量解析式が、代謝物基礎データに、前記新規代謝物データ測定工程により得られた新規代謝物データを加えて多変量解析することで得られた多変量解析式であることが好ましい。前述したように、代謝物基礎データを用いて多変量解析することで作成される多変量解析式に、新規代謝物データを加えて分析することで、代謝物基礎データには反映されにくい、新規代謝物データ特有の代謝物の値を含む分析を行うことができることから、新規酵母の分離精度が向上する。このように、目的変数を用いず、新規酵母の分離が行いやすいといった観点から、本発明の前記多変量解析は、主成分分析であることが好ましい。なお、同一サンプルにおいても、測定結果に基づくバラつきを低減するために測定回数を増やして行うことが好ましいといった観点から、この場合、同一サンプルが同一の群として集合する範囲で目的変数を設定する多変量解析を採用することもできる。
【0019】
本発明は、このようにして作成された多変量解析式を用いて、新規酵母と複数種の酵母の多次元座標における位置を求めることができる。この新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置から、その新規酵母の有用性等を予測することができる。
【0020】
本発明においては、さらに、前記新規酵母位置特定工程により取得された多次元座標における位置から新規酵母の性質を判別する判別工程を有することが好ましい。具体的には、新規酵母位置特定工程により特定された新規酵母の位置を、他の複数種の酵母の位置と比較し、それらとの距離等から新規酵母に期待される特性等を判別するものである。この工程は、例えば、その新規酵母が、既存のどの酵母に近いか、またはどの酵母とどの酵母の間に位置するか、どの程度離れているか等の指標を数値や、特性上の分類として表すための工程である。
【0021】
本発明は、前述したスクリーニング方法を実行するためのプログラムおよびその装置としても達成することができる。
すなわち、複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された多変量解析式に、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定手段としてコンピュータを機能させるための新規酵母のスクリーニングを行うためのプログラムとすることができる。このようなプログラムとすれば、スクリーニング分析の対象となる新規酵母の培養液等から得られる代謝物総体分析結果(新規代謝物データ)に基づき、その新規酵母の位置を求めることができる。
【0022】
このプログラムは、さらに、前記代謝物測定手段により得られた新規代謝物データを、前記代謝物基礎データに加えて多変量解析することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求めるための前記多変量解析式を作成する多変量解析式作成手段としてさらに前記コンピュータを機能させるためのプログラムとすることができる。この多変量解析式作成ステップを有するプログラムは、新規代謝物データを反映させたものとして、多変量解析を行うため、より分類精度を向上させることができる。また、本発明は、これらのスクリーニングを行うためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体とすることができる。
【0023】
本発明を装置として達成すると、本発明は、複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された多変量解析式に、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定手段とを含む新規酵母のスクリーニング装置とすることができる。この装置は、予め記憶部に記憶された代謝物基礎データと多変量解析式とを使用して、新規酵母の位置を求めることができる。
【0024】
この新規代謝物データを得るための新規代謝物データ測定手段は、新規代謝物データ測定工程を行うものである。また、新規酵母位置特定工程を行うために、そのための代謝物基礎データ等を記憶する記憶手段と、新規酵母位置特定手段とを有する。また、この新規酵母位置特定手段により求められた位置をモニター等の表示部に表示することができる。
【0025】
この装置は、さらに、多変量解析式を作成するための多変量解析式作成手段とを有することが好ましく、この手段を有することで、新規代謝物データを反映させたものとして、多変量解析を行うため、より分類精度を向上させることができる。
【0026】
この装置は、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで新規代謝物データを得るための新規代謝物データ測定手段を含むことで、代謝物総体分析からその結果を、記憶部等に保存された式等を用いて特定を行う新規酵母位置特定手段に入力し、その位置を特定するスクリーニング装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、客観的で信頼性が高く、短時間で評価でき、その適性や改善方針も見出すことができる酵母の選抜が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のスクリーニング方法を行うことができるスクリーニング装置の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明のスクリーニング方法により新規酵母位置が表された結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。

【0030】
図1に本発明のスクリーニング方法を達成する装置の一例を示す。

【0031】
図1のスクリーニング装置10は、新規酵母培養液1Aに関する代謝物データを取得するための新規代謝物データ測定手段1と、新規代謝物データを入力する入力手段101と、基礎代謝物データ等を記憶した記憶手段20と、入力された新規代謝物データを記憶手段に保管されたデータ等により処理する新規酵母位置特定手段3と、新規酵母位置特定手段3により特定した位置を表示するための表示手段5を基本構成として有する新規酵母のスクリーニング装置10である。さらに、この図1においてはこの基本構成に加えて、新規代謝物データを用いた多変量解析を行うための多変量解析式作成手段6と、新規酵母の位置について判別する判別手段4も有した態様として示す。

【0032】
この新規代謝物データ測定手段1は、スクリーニング対象となる新規酵母(その培養液1A)の代謝物総体分析を行い新規代謝物データを得ることで、新規代謝物データ測定工程を行うことができる。また、この記憶手段20は、複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データと、前記代謝物基礎データを多変量解析することで得られる、複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式とを記憶する。また、この新規酵母位置特定手段3は、前記新規代謝物データを、前記記憶手段20に記憶された多変量解析式に適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める。この記憶手段20に記憶されたデータを利用する、新規酵母位置特定手段3により、新規酵母地位特定工程を行うことができる。これにより、新規酵母の位置が特定され、その位置は、前記新規酵母位置特定手段により求められた位置を表示する表示手段5により表示される。この表示手段5は、新規酵母位置特定手段3により特定された位置の情報を、表示制御手段501を介して表示部502に表示するものである。ここで、図1のスクリーニング装置について、複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた代謝物基礎データを多変量解析することで得られる複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式を記憶する記憶手段20と、前記記憶手段20に記憶された多変量解析式に、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで得られた新規代謝物データを適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を求める新規酵母位置特定手段3としてコンピュータを機能させるための新規酵母のスクリーニングを行うためのプログラムとしても達成することができる。また、このプログラムは、判別手段4や、多変量解析式作成手段6としてコンピュータを機能させるものとすることができる。

【0033】
この図1に示す装置を用いて、新規酵母のスクリーニング方法を行うことができる。まず、スクリーニング対象となる新規酵母の代謝物総体分析を行うことで新規代謝物データを得る新規代謝物データ測定工程として、スクリーニング対象となる新規酵母の培養液である新規酵母培養液1Aを調製する。この新規酵母培養液を、ガスクロマトグラフィ等の新規代謝物データ測定手段1により代謝物総体分析を行うことで、新規代謝物データを得ることができる。
次に、新規代謝物データを得る工程とは別に、新規酵母位置特定工程を行うために、前述の新規代謝物データ測定手段1を用いて、従来公知の複数種の酵母の代謝物総体分析を行うことで、代謝物基礎データを得る。この代謝物基礎データは、新規代謝物データとは別に予め取得し記憶しておくことができ、例えば、記憶手段20に保存しておくことができる。また、この代謝物基礎データを多変量解析し、複数種の酵母の多次元座標における位置を求める為の多変量解析式を作成しておき、これも記憶手段20に保存しておいてもよい。なお、この多変量解析式は、代謝物基礎データに新規酵母代謝物データを加えたデータから作成しても良く、例えば、多変量解析式作成手段6を設けて、新規代謝物データの取得に併せて多変量解析式を作成してもよい。
そして、記憶手段20に予め保存しておいたあるいは多変量解析式作成手段6により作成した、複数種の酵母の多次元座標における位置を求めるための多変量解析式に、前記新規代謝物データを入力手段1を介して適用することで新規酵母と複数種の酵母との多次元座標における位置を新規酵母位置特定手段3により求めることができる。この位置は、表示部502等に表示され、その位置から、新規酵母のスクリーニングを行うことができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
[酵母]
[従来公知の酵母]
・K7:清酒酵母協会7号を使用した。
・sake1:清酒酵母“RIB1001”協会6号を使用した。
・sake2: 清酒酵母“RIB1008”協会10号を使用した。
・sake3:清酒酵母“RIB1006”協会9号を使用した。
・awamori:泡盛酵母“101”を使用した。
・Beer1:ビール酵母“RIB2010”を使用した。
・Beer2:ビール酵母“Weihenstephan 34/70”を使用した。
・wine1:ワイン酵母“RIB1035”を使用した。
・wine2:ワイン酵母“RIB1039”(Wine yeast UCD522)を使用した。
・wine3:自家培養のワイン酵母を使用した。
・pan:パン酵母として市販されている、日清フーズ(株)製「スーパーカメリアドライイースト」を使用した。
・shochu1:焼酎酵母“S-2”を使用した。
・shochu2:自家培養の焼酎酵母を使用した。
・shochu3:自家培養のshochu2とは異なる焼酎酵母を使用した。
・BY4743:実験室酵母“BY4743”を使用した。
【実施例】
【0036】
[変異株等の新規酵母]
・TCR7:協会7号からαトランスシアノ桂皮酸耐性酵母を分離して酵母を使用した。この酵母は低ピルビン酸生産性である。
・TCR13-30:前記TCR7を胞子形成させ一倍体を分離して得られる酵母を使用した。
・TCR13-42:前記TCR7を胞子形成させ一倍体を分離して得られる酵母を使用した。
・TCR13-48:前記TCR7を胞子形成させ一倍体を分離して得られる酵母を使用した。
なお、TCR13-30、TCR13-42、TCR13-48はいずれも、TCR7由来だがそれぞれ異なる株として分離されたもので、それぞれの特性が未知の酵母である。
【実施例】
【0037】
[代謝物総体分析]
代謝物総体分析には、酵母の培養液をガスクロマトグラフィで分析したときに得られるピークを基に、代表的なピーク位置に対応するデータをデータ群として使用した。
【実施例】
【0038】
[酵母の培養と沈殿物取得]
(前培養) 試験管中のCSM(Complete. Supplement Mixture)培地10mLに、各酵母を植菌し、30℃で一晩培養した。この前培養後、OD(濁度)を測定し、培養状態を確認する指標とした。
(本培養) 前記前培養後の培養液を、酵母の菌数が0.1×107cells/mLとなるように静置培養する。
(集菌) サンプル中の細胞数が、2.0×108cellsとなるように、試験管で培養した培養液を、遠心分離用コニカルチューブに移送した。移送後、遠心分離器で遠心(遠心条件:3分間、-9℃、2400×g)して、酵母を沈殿させ、その上清を除去した。沈殿させた酵母を、4℃の超純水で再懸濁し、マイクロチューブに移す。この沈殿酵母を再懸濁したものを、遠心分離器で遠心(遠心条件:3分間、-9℃、16000×g)し、上清を取り除き沈殿物だけの状態にする。この後、凍結乾燥機で沈殿物を凍結乾燥する。
【実施例】
【0039】
[ガスクロマトグラフィ試験用液の調製]
代謝物総体分析を行うに当たり、酵母培養により酵母が生成した低分子成分に、誘導体化剤を反応させることで疎水化するために、以下の代謝物質の抽出、誘導体化を行った。
(代謝物質の抽出)
メタノール/蒸留水/クロロホルム(2.5:1:1)の混合溶液1000μLを、前述の集菌工程で凍結乾燥した酵母に加えてボルテックスする。内部標準であるRibitol水溶液(0.2mg/mL)を60μL加えて混合して、ボルテックス後に1500rpm、37℃、30minの条件下で振湯する。(MULTI-THERM HEAT-SHAKE)。遠心分離機(16000×g、4℃、3min)にかけ、上清900μlを1.5mLマイクロチューブに移す。400μLの蒸留水を上清と混合し、遠心分離(16000×g、4℃、3min)した後、1.5mLマイクロチューブに上清800μLを回収する。メタノールを飛ばすため回収したマイクロチューブに穴を開けたキャップで蓋を閉め、遠心濃縮器で約2時間、50度で濃縮する。この後、-80℃で凍結したあと凍結乾燥する。
(誘導体化)
乾燥後の抽出物に100μl、Methoxyamine hydrochloride(20mg/mL,ピリジン)を加えて再溶解させ、振湯機でインキュベート(1500rpm、30℃、90min)した。N-Methyl-N-trimethylsilyl-trifluoroacetamideを50μL加えて、30分、37℃の条件下で再度インキュベート(1500rpm、30℃、90min)した。
【実施例】
【0040】
[ガスクロマトグラフィ試験]
[分析装置]
島津製作所社製高性能汎用ガスクロマトグラフ“GC-2014”
[分析条件]
分析時の各種設定は以下の通りである。
Add 1ul、Colmmn CP-sil8CB (30m, 0.25mmID, 0.25um)、Column temp 80deg、Equilibrium 3min、FID 320deg、Time 23.5min、Time program 80deg 2min rate 15deg/min up to 320deg hold 27min、Split ratio 10
気化室 230℃、圧力 85.3 kPa、全流量 12.8ml/min、線速度 24.4cm/sec、カラム流量 0.89 ml/min、Purge流量3.0ml/min
【実施例】
【0041】
[新規代謝物データ]
前述の新規酵母に分類した酵母を新規酵母として、これらの代謝物データを新規代謝物データとして使用した。なお、前述したガスクロマトグラフィにより得られる分析結果において、保持時間6~18分のピークに対応する他の代謝物データと対比可能なデータ群(データ数36)を使用した。なお、同一酵母について3~5回データを取得した。
【実施例】
【0042】
[代謝物基礎データ]
前述の従来公知の酵母に分類した酵母を、本発明の「複数の酵母」として、これらの代謝物データを代謝物基礎データとして使用した。なお、前述したガスクロマトグラフィにより得られる分析結果において、保持時間6~18分のピークに対応する他の代謝物データと対比可能なデータ群(データ数36)を取得し、多変量解析時に必要な酵母のデータを適宜抽出して用いた。なお、同一酵母について3~5回データを取得した。
【実施例】
【0043】
[多変量解析]
多変量解析方法として、エクセルのアドインソフト「Multibase」を用いて主成分分析をおこなった。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
代謝物基礎データ群として、K7、sake1、sake2、sake3、awamori、Beer1、Beer2、wine1、wine2、wine3、pan、shochu1、shochu2、shochu3、BY4743の酵母に関する代謝物データを使用した。また、新規酵母として、TCR7、TCR13-30、TCR13-42、TCR13-48株の新規代謝物データを使用した。これらの代謝物基礎データと、新規代謝物データを併せて主成分分析による分析を行った。
前述の主成分分析により作成された多変量解析式により、主成分分析の主成分1(PC1)と、主成分2(PC2)を用いて、各酵母の位置を2次元座標に表示した結果を図2に示す。図2において横軸が主成分1であり、縦軸が主成分2である。なお、図2においては、代謝物基礎データ群の酵母の位置は集中しているため、その位置の表示は一部省略する。
【実施例】
【0045】
(結果)
図2に示す実施例1の結果を確認すると、新規酵TCR7は、協会酵母7号(K7)と近い値をとった。TCR7は、協会酵母7号から分離された株であり、その醸造特性は協会酵母7号から大きく変化していない可能性が示唆された。なお、この実施例1では、代謝物基礎データ群として、泡盛酵母(awamori)や焼酎酵母(shochu)等も加えて主成分分析を行ったため、各酵母が十分に分散された位置づけになり、実験室酵母であるBY4743が明らかに他の酵母と異なる位置にあるように、酵母の違いを分類しやすいものとなっていることを確認できる。
さらに、新規酵母であるTCR13—30がかなり外れた値をとった。このことからこのTCR13—30は他の醸造酵母と醸造特性が異なるのではないかと考えられる。またその他TCR13—36やTCR13—42などの一倍体TCRも少し外れた値をとったことから、従来の酵母とは異なる特性が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば代謝特性が未知の酵母について、その期待される特性を効率よく把握することができるため、変異株や、用途が確立されていない酵母の選抜を客観的な指標で効率よく行うことができ産業上有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 新規代謝物データ取得手段
1A 新規酵母培養液
10 スクリーニング装置
101 入力手段
20 記憶手段
3 新規酵母位置特定手段
4 判別手段
6 多変量解析式作成手段
5 表示手段
501 表示制御手段
502 表示部
図面
【図1】
0
【図2】
1