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明細書 :Stx1毒性阻害4価ペプチドおよびこれを含む疾患治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5897178号 (P5897178)
公開番号 特開2015-143246 (P2015-143246A)
登録日 平成28年3月11日(2016.3.11)
発行日 平成28年3月30日(2016.3.30)
公開日 平成27年8月6日(2015.8.6)
発明の名称または考案の名称 Stx1毒性阻害4価ペプチドおよびこれを含む疾患治療薬
国際特許分類 C07K   7/02        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  31/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P   1/00        (2006.01)
C07K   7/06        (2006.01)
C40B  40/10        (2006.01)
FI C07K 7/02 ZNA
A61K 37/02
A61P 31/00
A61P 43/00 111
A61P 1/00
C07K 7/06
C40B 40/10
請求項の数または発明の数 3
全頁数 20
出願番号 特願2015-055399 (P2015-055399)
分割の表示 特願2010-019731 (P2010-019731)の分割、【原出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
出願日 平成27年3月18日(2015.3.18)
審査請求日 平成27年3月19日(2015.3.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】西川 喜代孝
【氏名】高橋 美帆
【氏名】加藤 美帆子
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】吉門 沙央里
参考文献・文献 国際公開第2006/001452(WO,A1)
特開2011-158341(JP,A)
特開2011-079808(JP,A)
調査した分野 C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
Stx1の細胞毒性を阻害するペプチドであって、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の末端に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号6~16のペプチドのうちのいずれか1種が、直接またはスペーサーを介して結合していることを特徴とするStx1毒性阻害4価ペプチド。
【請求項2】
Stx1に起因する疾患の治療薬であって、請求項1のStx1毒性阻害4価ペプチドを含有することを特徴とする治療薬。
【請求項3】
Stx1に起因する疾患が、腸管出血性大腸菌感染症または赤痢であることを特徴とする請求項2の治療薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Stx1毒性阻害4価ペプチドおよびこれを含む疾患治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
Shiga toxin (Stx)は、腸管出血性大腸菌が産生する主要な病原因子であり、消化管障害のみならず、その後の一連の微小血管障害である重症合併症〔たとえば、溶血性尿毒症症候群(HUS)〕などを引き起こすことが知られている。
【0003】
そして、この出願の発明者は、これまでに、Stx1およびStx2のBサブユニットとグロボ3糖の結合にはクラスター効果が存在するとの知見から、多価型ペプチドライブラリーを利用したスクリーニング方法を確立している(特許文献1)。
【0004】
ここで、「クラスター効果」とは、ある機能分子とそのリガンドとの相互作用において、1対1の場合に比べて多価対多価の相互作用によって、著しくその結合親和性が亢進する現象をいう。特許文献1では、ペプチドライブラリーを多価にすることによって、Stx2のBサブユニットとの間にクラスター効果を発揮させ、Stx2との高結合親和性を有するStx2阻害ペプチドを特定している。
【0005】
しかしながら、特許文献1のスクリーニング方法では、例えば、野生型STXと、このミュータントに対してランダム多価ライブラリーを接触させて、各々のpositionで得られたアミノ酸について、どのアミノ酸がどの程度の強さで選択されるかを示す数値化された結果を得ている。
【0006】
このため、標的タンパク質の種類、あるいは、標的部位によっては、各々のpositionで選択されるアミノ酸の選択性が低い場合がある。また、標的部位に荷電アミノ酸がない、あるいは少ない場合には、Met、Val、IIe、Phe、Trpなどの疎水的アミノ酸が選択されやすいため、各positionの選択性に影響を与える。このため、結果として選択された結合モチーフが、必ずしも十分な結合性を有していない場合があった。
【0007】
また、特許文献1のスクリーニング方法は、各positionのアミノ酸の選択性に基づいて結合モチーフを決定しているため、選択性の強いアミノ酸を組合せた結合モチーフが、結果として必ずしも十分な結合性を有していない場合があった。
【0008】
このように、この出願の発明者は、特許文献1のスクリーニング方法では、結合モチーフの同定に一定の成果が得られるもの、確実に結合性の高い結合モチーフを抽出することが難しいという点において、改善すべき課題があるとの認識に至った。また、例えば、選択性の判断が難しいpositionにおいて、特定のアミノ酸を組み込んで結合性を評価することは、コストの面から現実的ではなかった。
【0009】
また、特許文献1のスクリーニング方法は、一度に得られる結合モチーフの数が数個に限られており、スクリーニングの効率性においても改善すべき点があると考えられた。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】WO2006/001542公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、従来のスクリーニング方法に加え、クラスター効果を有する標的タンパク質に結合するペプチドを、より厳密かつ効率的に特定することができるスクリーニング方法を提供することを課題としている。また、このスクリーニング方法によって得られたStx1毒性阻害4価ペプチド、および、このペプチドを含む治療薬を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のStx1毒性阻害4価ペプチドは、Stx1の細胞毒性を阻害するペプチドであって、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の末端に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号6~16のペプチドのうちのいずれか1種が、直接またはスペーサーを介して結合していることを特徴としている。
【0013】
本発明の治療薬は、Stx1に起因する疾患の治療薬であって、前記Stx1毒性阻害4価ペプチドを含有することを特徴としている。
【0014】
本発明の治療薬は、Stx1に起因する疾患が、腸管出血性大腸菌感染症または赤痢であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のStx1毒性阻害4価ペプチドによれば、Stx1の細胞毒性を効果的に阻害することができる。また、本発明の治療薬によれば、Stx1に起因する疾患を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】2価、4価ペプチドをセルロースシート上にスポット合成する様子を例示した概略図である。
【図2】Stx1 B-subunit(1BH)を標的タンパク質とした場合の、シート上ペプチドの集積密度を最適化する方法を例示した概略図である。
【図3】シート上ペプチドの集積密度毎の1BH結合性を示した図である。
【図4】Stx1 B-subunit(1BH)を標的タンパク質とした場合の、シート上ペプチドのスペーサー長を最適化する方法を例示した概略図である。
【図5】シート上ペプチドのスペーサー長毎の1BH結合性を示した図である。
【図6】1BHに対するシート上ペプチドとして最適な集積密度、スペーサー長を示した図である。
【図7】先願(WO2006/001542公報)の手順に従い、ランダム多価ペプチドライブラリー法を用いてStx1のサイト2を標的とした結合モチーフの同定した結果を示す図である。
【図8】Xaa-Xaa-Xaa-Arg-Arg-Arg-Arg(配列番号3)のペプチドシート合成を例示した図である。
【図9】選択した64種のアミノ酸列を示す図である。
【図10】代表例2例の、ペプチドの1BH、G62Aそれぞれに対する結合活性の濃度依存性を示す図である。選出方法に従い、11種のペプチドを候補とした。
【図11】11種のペプチド候補を具体的に示した図である。
【図12】11種の4価ペプチド化合物について、ベロ細胞に対するStx1の細胞障害活性に対する阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のペプチドのスクリーニング方法は、クラスター効果を有する標的タンパク質との結合性を有するペプチドのスクリーニング方法である。

【0018】
クラスター効果を有する標的タンパク質としては、例えば、STX1、STX2、STX1、STX2のバリアント(STX1C、STX2c,2e,2d,2f)、コレラ菌が産生するコレラ毒素、毒素原生大腸菌が産生する易熱性エンテロトキシン、インフルエンザウイルスの侵入に関わるHAタンパク質、HIVの侵入に関わるgp120、がん細胞の転移に関わる各種セレクチン、糖尿病に関係するアディポネクチンなどが挙げられる。

【0019】
そして、本発明のペプチドのスクリーニング方法は、以下のステップ:
(A)ランダム多価ライブラリー法を用いて、1以上のアミノ酸非特定部位が存在する標的タンパク質結合モチーフを決定するステップ;
(B)シート上のアミノ基から、直接またはスペーサーを介して、2価ペプチドの合成核構造または4価ペプチドの合成核構造を形成し、このペプチド合成核構造から、標的タンパク質結合モチーフのアミノ酸配列からなる2価または4価ペプチドを伸長させて、ペプチド毎にアミノ酸非特定部位のアミノ酸(Cysを除く)が異なる多価ペプチドライブラリーを作成するステップ;
(C)多価ペプチドライブラリーの各々の2価ペプチドまたは4価ペプチドに標的タンパク質をブロットするステップ;
(D)標的タンパク質が結合したペプチドが、目的ペプチドであると決定するステップ;
を含む。

【0020】
以下、前記の各ステップについて説明する。

【0021】
ステップ(A)では、まず、この出願の発明者によって確立された「ランダム多価ライブラリー法」によって、標的タンパク質結合モチーフの絞り込みを行う。

【0022】
詳細はWO2006/00152公報に開示しているが、概略としては、標的タンパク質結合の受容体結合サイトの情報に基づいて、前記受容体結合サイトが機能的に欠損したミュータントを作製し、ペプチドライブラリー法によって、標的タンパク質に結合するペプチドモチーフとミュータントに結合するペプチドモチーフとの対比によるアミノ選択比に基づく結合サイト特異性ペプチドモチーフの特定を含んでいる。

【0023】
ペプチドライブラリーは、クラスター効果を発揮させるためにライブラリー自体が多価である多価ライブラリーである。多価ライブラリーの構造は、その設計や合成の容易性、クラスター効果のための分子サイズの観点から、リジン(Lys)を複数個、例えば、2~5個結合したものを用いることができる。

【0024】
具体的には、リジンが3個結合した分子核構造を有する多価ライブラリーとして、以下のものが例示される。

【0025】
【化1】
JP0005897178B2_000002t.gif

【0026】
この多価ライブラリーでは、リジンの分子核構造に、スペーサー分子を介して、ペプチドモチーフ(XXXX部)を結合させている。ここで、スペーサー分子として、AHA(amino-hexanoic acid)を採用しているが、これに限定されることはなく、標的タンパク質に応じて、スペーサー長を設計することができる。また、末端のMA(Met-Ala)は、アミノ酸シークエンスを行う際のシークエンスチェックのために、スクリーニング時に導入することができる。AHA-の前のA(Ala)も同様の理由による。

【0027】
そして、前記多価ライブラリーにおいては、XXXX部には、Cysを除く19種のアミノ酸をランダムに構成することができる。XXXX部の長さは、標的タンパク質に応じて適宜決定される。例えば、STX1、2毒性阻害作用ペプチドを特定する場合には、分子サイズに関する知見から、7個のアミノ酸を想定することができる。

【0028】
そして、例えば、ビーズにつけた標的タンパク質およびこのミュータントの各々を調整し、カラムにつめてaffinityカラムを作製する。そこに、前記多価ライブラリーを加えて十分に結合させる。その後、PBS等で十分に洗浄し、結合しなかったライブラリーを洗い流す。最後にカラムに止まっている前記多価ライブラリーを30%酢酸等で溶出する。回収された画分をdryupし、アミノ酸配列解析を行う。その結果、XXXX部(degenerate position)について、どのアミノ酸がどの程度の強さで選択されてくるか、数値化された結果が得られる。

【0029】
すなわち、標的タンパク質を用いたときのdegenerate positionの各アミノ酸の値を、ミュータントを用いたとき対応するdegenerate positionのアミノ酸の値で割り、その結果、そのアミノ酸が標的タンパク質では、ミュータントに比べて何倍選択されるようになったかが数値化された結果を得ることができる。このとき、例えば、19種のアミノ酸の値をすべてたすと19になるように標準化することができる。この場合、各アミノ酸の間で、選択性に差がないと値は1となる。

【0030】
このようにして得られた結果から、各positionにおいて選択比の高いアミノ酸を特定することができる。

【0031】
ただ、本発明においては、上記の通りのアミノ酸の選択性等の問題から、例えば、比較的選択性の低い(例えば、選択性1.2以下など)positionは、アミノ酸非特定部位として具体的なアミノ酸は特定しない。すなわち、本発明のステップ(A)においては、このようにして1以上のアミノ酸非特定部位が存在する標的タンパク質結合モチーフを決定する。

【0032】
次に、本発明のステップ(B)では、シート上のアミノ基から、直接またはスペーサーを介して、Lysからなる2価ペプチドの合成核構造または4価ペプチドの合成核構造をスポット合成する。

【0033】
シートは特に限定されないが、例えば、セルロースシート、樹脂等を例示することができる。そして、シート上のアミノ基は、公知の方法で付加することができる。また、例えば、セルロースシートに遊離アミノ基が付加された市販品を使用することもできる。

【0034】
ペプチドの合成に関して、縮合や保護基の除去は、従来公知の方法に従って行うことができる。具体的には、例えば、Fmocペプチド合成法などを採用することができ、市販のペプチド合成器によって行うこともできる。

【0035】
さらに詳しくは、保護アミノ酸の縮合においては、蛋白質合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができる。保護アミノ酸の縮合は、例えば活性化試薬およびラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt,HOOBt)とともに保護アミノ酸を添加するか、あらかじめ保護アミノ酸を対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとして活性化した後に添加することによって行うことができる。

【0036】
保護アミノ酸の活性化や縮合に用いられる溶媒は、蛋白質縮合反応に使用しうることが知られている溶媒から適宜選択される。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの酸アミド類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;トリフルオロエタノールなどのアルコール類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ピリジンなどのアミン類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;あるいはこれらの適宜の混合物などを用いることができる。

【0037】
反応温度は、蛋白質縮合反応に使用されることが知られている範囲から適宜選択され、通常約-20℃~50℃の範囲から適宜選択される。

【0038】
また、原料アミノ酸のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、t-ペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4-メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl-Z、Br-Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2-ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが挙げられる。

【0039】
原料アミノ酸のカルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2-アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4-ニトロベンジルエステル、4-メトキシベンジルエステル、4-クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、t-ブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。

【0040】
スペーサーは、具体的に限定されないが、例えば、Ahx(amino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH])を採用することができる。このとき、標的タンパク質に応じて、最適なスペーサー長を設計することができる。

【0041】
そして、例えば図1に例示するように、シート上のアミノ基から、2価ペプチドの合成核構造または4価ペプチドの合成核構造を形成する。具体的には、例えば、Fmoc-Lys、Fmoc-Hisを使用して2価、4価の合成核構造を形成することができる。他のアミノ酸との相互作用等を考慮すると、Fmoc-Lysが好ましい。また、4価の合成核構造を形成する場合、Fmoc-Lysを2回連続してペプチド合成することが考慮される。合成核構造は、2価または4価ペプチドを伸長させることができる構造であればよく、具体的に限定されない。

【0042】
このように、シート上のアミノ基から、直接またはスペーサーを介して、2価ペプチドの合成核構造または4価ペプチドの合成核構造が形成されているものをスクリーニング用のキットとすることができる。

【0043】
このペプチド合成核構造から、標的タンパク質結合モチーフのアミノ酸配列からなる2価または4価ペプチドを伸長させて、シート上のペプチド毎にアミノ酸非特定部位のアミノ酸(Cysを除く)が異なる多価ペプチドライブラリーを作成する。

【0044】
すなわち、前記ステップ(A)で絞り込んだアミノ酸非特定部位を有する結合モチーフをペプチド合成核構造から伸長させるが、このとき、アミノ酸非特定部位をCysを除く19種のアミノ酸で網羅的に置換したペプチドを合成することで配列既知の多価ライブラリーを作成することができる。

【0045】
具体的には、アミノ酸非特定部位が、3つ存在する場合には、19×19×19=6859種のペプチドをスポット合成することができる。このとき、アミノ酸非特定部位の予測や、シートの種類、数やペプチド合成器の性能に基づいて、ペプチドの種類(スポットの数)を制限することもできる。

【0046】
なお、シート上のアミノ基から伸長するペプチドの集積密度も標的タンパク質に応じて、適宜設計することができる。

【0047】
次に、本発明のステップ(C)として、多価ペプチドライブラリーの各々の2価ペプチドまたは4価ペプチドに標的タンパク質をブロットする。そして、本発明のステップ(D)として、標的タンパク質が結合したペプチドが、目的ペプチドであると決定する。

【0048】
ステップ(B)で作製した多価ペプチドライブラリーは、シート上の各々のペプチドが2価または4価であるため、標識標的タンパク質をブロットすることで、標的タンパク質との間にクラスター効果を生じさせることができる。このため、ペプチドと標的タンパク質との間の高結合を確保することができる。そして、標的タンパク質の標識は、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、蛍光標識する場合の蛍光物質としては、フルオレセイン、テトラメチルローダミンなどを例示することができる。

【0049】
結合しなかった標的タンパク質を洗い流すために適宜シートの洗浄等を行い、公知の各種分析方法によって、標的タンパク質とシート上のペプチドの結合性を評価することができる。例えば、標的タンパク質を蛍光標識し、その感光強度を定量的に評価することができる。

【0050】
本発明のスクリーニング方法では、シート上に配列既知の2価、4価ペプチドがスポット合成されているため、標的タンパク質との高結合性が確認されたスポットを抽出すれば、ステップ(A)で設定したアミノ酸非特定部位のアミノ酸の候補を確実かつ容易に特定することができる。

【0051】
また、例えば、標的タンパク質における特定の結合サイトに特異的に結合するモチーフを特定するためには、別途、前記結合サイトが機能的に欠損したミュータントを作製し、このミュータントを多価ペプチドライブラリーの各々のペプチドにブロットして、前記標的タンパク質(野生型)の結合性評価の結果と比較することができる。

【0052】
このように、本発明のスクリーニング方法では、従来のランダム多価ライブラリー法に加え、前記の各ステップを経ることで、クラスター効果を有する標的タンパク質に結合するペプチドを、より厳密かつ効率的に特定することができる。このため、クラスター効果を有することが知られているSTX1またはSTX2、STX1c、STX2c、 STX2e、STX2d、STX2f、コレラ毒素、易熱性エンテロトキシン、HAタンパク質、gp120、セレクチン、アディポネクチンなどと特異的に結合するペプチドをスクリーニングすることができ、これらのペプチドの作用を確認することで、前記標的タンパク質に起因する疾患など、例えば、腸管出血性大腸菌感染症、赤痢、コレラ、毒素原生大腸菌感染症、インフルエンザ、HIV、がん細胞の転移、糖尿病の治療、予防薬とすることができる。本発明のスクリーニング方法は、例えば、このような創薬スクリーニングとして極めて有用である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<1>多価型ペプチドライブラリーのシート合成技術の確立
(1)2価ペプチドの合成
特許文献1の多価型ランダムペプチドライブラリーの欠点を改善するため、図1の概要図に示すように、配列既知の2価、4価ペプチドをセルロースシート上にスポット合成することを検討した。図1の合成核構造は、Fmocが除去されたリジンを示している。
【実施例】
【0054】
スポット合成には、intavis AG社のスポットペプチドシンセサイザーを使用した。この機器は、セルロースシート上に一度に384種のペプチドをスポット合成することが可能である。
【実施例】
【0055】
ここでは、シート上で2価ペプチドを合成する。このために、シート上のアミノ基から伸長するペプチドに、[化2]のFmoc Lysを導入して分岐点を設け、分岐点からのアミノ酸合成が2価となるように設計した。
【実施例】
【0056】
【化2】
JP0005897178B2_000003t.gif
【実施例】
【0057】
(2)ペプチド集積密度の最適化
Stx1 B-subunit(1BH)を標的タンパク質とした場合の、シート上ペプチドの集積密度を最適化するため、3種の密度で2価ペプチドを合成した。これは、ペプチド合成を2価で行った場合の立体障害の影響を評価するためである。このとき、標的タンパク質の結合モチーフとして、配列番号1:Met-Met-Ala-Arg-Arg-Arg-Arg(MMARRRR)を採用した。 まず、図2に示すように、第1番目のアミノ酸合成時にFmoc-βAlaとBoc-βAlaを各比率(100%、30%、10%)で使用する。Fmocだけを除去するために、ピペリジン処理をすることとし、Boc-βAlaが入るとその後のアミノ酸の伸長が起こらないようにした。このため、使用するBoc-βAlaの比率が増加するに従って伸長されてくるアミノ酸密度が減少することになる。
【実施例】
【0058】
合成された各密度の2価ペプチドをSTX1B-subunit(1BH)でブロットし、最適密度を検討した。ここでは、Fuji-filmのBAS-2500を使用し、イメージングプレートに感光させて解析した。100% Fmoc-βAla使用の条件(最も密度が高くなる合成条件)で、最も1BHの結合が高いことが示された(図3)。このことは、結合効率をあげるために100% Fmoc-βAlaで2価のペプチドを伸長した場合でも、立体障害とはならないことを示している。
(3)スペーサー長の最適化
シート上に合成されるペプチドのシートからの距離(自由度)を最適化するため、3種のスペーサー長を持つ2価ペプチドを合成した。図4に示すようにβAlaと分岐点となるLys(Fmoc)との間に存在するスペーサーとしてのAhx(amino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH])の数を1、2、3で合成し、1BHでブロットした際の結合の強さを比較した。
【実施例】
【0059】
その結果、スペーサー(Ahx)が1個の条件で、最も1BHの結合が高いことが示された(図5)。
(4)前記(2)(3)の結果を踏まえて、シート上の2価ペプチドは、図6に示すように、密度100%とし、スペーサー(Ahx)の数は1個とした。
【実施例】
【0060】
<2>ランダム多価ペプチドライブラリー法を用いたSTX1のサイト2特異的結合モチーフの同定
先願(WO2006/001542公報)の手順に従い、ランダム多価ペプチドライブラリー法を用いてSTX1のサイト2を標的とした結合モチーフの同定を行った。スクリーニングには、多価ペプチドライブラリーとして、以下の化学式、
【実施例】
【0061】
【化3】
JP0005897178B2_000004t.gif
【実施例】
【0062】
からなる4価ペプチドを使用した。
【実施例】
【0063】
このとき、サイト2変異体としてG62Aをサブトラクションに使用した。G62Aは、Stx1 B-subunitの62番目のGlyをAlaに置換した変異体である。このアミノ酸はサイト2を構成する重要な位置に存在しているアミノ酸であり、この変異導入によって受容体(Gb3)との結合活性、標的細胞への結合、毒性、いずれも大きく低下する。また、サイト2は他のサイトに比べて構造が平坦であり、かつ、サイト2を構成する前記62番目のGlyの周辺には静電的、あるいは疎水的な相互作用を達成するに十分なアミノ酸を持たないことも見出されている。
【実施例】
【0064】
そして、この変異によって受容体であるGb3結合能は顕減するが、この変異はわずかに-Hが-CH3に変化するにすぎない。すなわち、野生型と変異体の違いがわずかであるため、アミノ酸の選択性に違いが出にくいことが考えられ、スクリーニングによる結合モチーフの取得は難しいと予想されたが、最終的にサイト2特異性を発揮するモチーフとして、図7に示すように、KRRRRRR(Lys-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg:配列番号2)の1種類のモチーフを同定することができた。
【実施例】
【0065】
得られた結合モチーフを、上記[化3]の4箇所のXXXX部にそれぞれ組み入れ、4価のペプチド性化合物(以下、KRR-tetと記す)を合成した。
【実施例】
【0066】
ELISA法を用いた検討から、KRR-tetはG62Aに比べ野生型1BHに対し約2倍の結合活性を示すこと、すなわち、Stx1のサイト2に対する結合特異性を示すことが明らかとなった。
【実施例】
【0067】
なお、KRR-tetのベロ細胞に対する毒性を検討したところ、本ペプチドは塩基性が非常に強いために細胞に対して強い毒性を示すことが明らかとなった。このためKRR-tetの阻害薬としての利用は難しいと判断した。
【実施例】
【0068】
<3>2価ペプチドライブラリーのシート合成技術を用いたSTX1のサイト2特異的結合阻害薬の同定
上記<2>のスクリーニング結果から、STX1のサイト2に結合するためには、図7に示すように、position 4-7にArg(R)が選択されてくるという点に着目した。
【実施例】
【0069】
そこで、Xaa-Xaa-Xaa-Arg-Arg-Arg-Arg(配列番号3)を標的タンパク質結合モチーフとして、<1>で確立した、2価ペプチドライブラリーのシート合成技術の適用を試みた。Xaaは、アミノ酸非特定部位を示している。
【実施例】
【0070】
具体的には、Xaa-Xaa-Ala-Arg-Arg-Arg-Arg(配列番号4)において、2つのXaaを各々、Cys 以外の19種のアミノ酸うちのいずれかとした361(19×19)種の2価ペプチド、および、Ala-Ala-Xaa-Arg-Arg-Arg-Arg(配列番号5)において、XaaをCys 以外の19種のアミノ酸うちのいずれかとした19種の2価ペプチドを、<1>で検討した単一シート上の2価ペプチドの合成核構造から伸長させ、ペプチド毎にアミノ酸非特定部位のアミノ酸(Cysを除く)が異なるペプチド(380種)をスポット合成することで、配列既知の多価ペプチドライブラリーを作成した。
【実施例】
【0071】
ここで、Alaは、荷電をもたず、大きな疎水性もなく、ボリュームも小さいこと、また、他のほとんどのアミノ酸(Glyを除く)はAlaの構造をその中にもっていること、を考慮している。なお、多価ペプチドライブラリーは、上記<1>で決定した最適条件(スペーサー長、最適密度)に従っている。
【実施例】
【0072】
図8に、これらのシートを標識1BH、G62Aでブロットした結果を示す。標識1BH、G62Aは、放射標識NaIと1BH 、G62Aを、酸化剤としてIODO-Gen(ピアス社)をコートしたガラスチューブ上でインキュベーションし、未反応体をゲル濾過で除去して調整した。
【実施例】
【0073】
そして、各スポットの濃さを定量し、感光度を数値化し、1BHとG62Aでの放射活性の差を補正した。1BHでブロットしたシートと、G62Aでブロットしたシートにおける対応スポットについて、その比、1BH/G62Aの値を算出した。1BH/G62Aの値が大きければ、1BHサイト2に対する特異性が高いと判断することができる。
【実施例】
【0074】
1BHで強くブロットされること、かつ1BH/G62の比が高いこと、の2点を指標に、最終的に64種のペプチドモチーフを抽出した。図8では、代表的なスポット8種を示している。
【実施例】
【0075】
さらに、図9に、抽出した64種のアミノ酸配列情報を示す。そして、これら64種について、改めて2価ペプチドとしてのシート合成を行い、濃度の異なった標識1BH、G62Aでブロット後、同様の解析を行い、各ペプチドの1BH、G62Aそれぞれに対する結合活性の濃度依存性を検討した。
【実施例】
【0076】
代表例を2例、図10に示す。その結果、1BHと濃度依存的に強く結合する結合モチーフ、1BH/G62の比が高い結合モチーフを選出基準とし、改めてペプチド11種を同定した。同定された結合モチーフを配列番号6~16として図11に示す。
【実施例】
【0077】
さらに、これらの結合モチーフを、上記[化3]の4箇所のXXXX部にそれぞれ組み
入れ、4価のペプチド化合物11種を、最終的なSTX1サイト2特異的阻害薬候補として合成した。
【実施例】
【0078】
合成した11種の4価ペプチド化合物について、ベロ細胞に対するSTX1の細胞障害活性の阻害効果を検討した。
【実施例】
【0079】
結果を図12に示す。なかでも、IIA-RRRR(配列番号7)、 KGA-RRRR(配列番号8)、KMA-RRRR(配列番号9)、FRA-RRRR(配列番号11)、 PQA-RRRR(配列番号12)、 YTA-RRRR(配列番号13)モチーフを4価で有する化合物は、非常に強い毒性阻害活性を有することが明らかとなった。
【実施例】
【0080】
なお、本発明者が別途同定したMMA-RRRR(配列番号1)モチーフ、AAA-RRRR(Ala-Ala-Ala Arg-Arg-Arg-Arg)(配列番号17)モチーフを有する化合物(MMA-tet、AAA-tet)も比較のために提示している。AAA-tetは、はじめの3個のアミノ酸が全てAlaであることから、今回のシート合成スクリーニングで同定された化合物の基本となる化合物として同時に検討に含めている。今回同定した11種のうち、半数以上がAAA-tetよりも優れた活性を示すことが明らかとなった。
【実施例】
【0081】
上記のとおり、先願(WO2006/001542公報)のランダム多価ライブラリー法では、KRRRRRR(配列番号2)を同定することができたが、例えば、1BHと濃度依存的に強く結合する上記11種の結合モチーフは抽出できていない。すなわち、先願(WO2006/001542公報)の方法では、例えば、アミノ酸の選択比が低いもの(例えば、選択比が1.2以下のアミノ酸)については選択性の判断が難しく、場合によっては抽出から漏れることがあるが、本発明では、上記<2>の多価ペプチドライブラリーを利用することで、このような抽出漏れをカバーすることができる。したがって、クラスター効果を有する標的タンパク質に結合するペプチドを、より厳密かつ効率的に特定することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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