TOP > 国内特許検索 > 溶媒混合液を分離する方法及びそれに使用する金属有機構造体分離膜 > 明細書

明細書 :溶媒混合液を分離する方法及びそれに使用する金属有機構造体分離膜

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-202449 (P2017-202449A)
公開日 平成29年11月16日(2017.11.16)
発明の名称または考案の名称 溶媒混合液を分離する方法及びそれに使用する金属有機構造体分離膜
国際特許分類 B01D  71/06        (2006.01)
B01D  61/36        (2006.01)
C07C  31/08        (2006.01)
C07C  31/10        (2006.01)
C07C  29/76        (2006.01)
C07C  31/04        (2006.01)
C07C  49/08        (2006.01)
C07C  45/79        (2006.01)
C07C  15/08        (2006.01)
C07C   7/12        (2006.01)
FI B01D 71/06
B01D 61/36
C07C 31/08
C07C 31/10
C07C 29/76
C07C 31/04
C07C 49/08 J
C07C 45/79
C07C 15/08
C07C 7/12
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2016-095685 (P2016-095685)
出願日 平成28年5月11日(2016.5.11)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 第31回ゼオライト研究発表会予稿集(平成27年11月26日) 第31回ゼオライト研究発表会(平成27年11月26日~27日) 日本膜学会第38年会講演要旨集(平成28年4月18日) 日本膜学会第38年会(平成28年5月10日~11日)
発明者または考案者 【氏名】宮本 学
【氏名】近江 靖則
【氏名】上宮 成之
出願人 【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100147038、【弁理士】、【氏名又は名称】神谷 英昭
審査請求 未請求
テーマコード 4D006
4H006
Fターム 4D006GA25
4D006MA09
4D006MB04
4D006MC03
4D006MC05
4D006MC09X
4D006MC29
4D006MC49
4D006MC54
4D006MC57
4D006MC58
4D006NA41
4D006PA04
4D006PB14
4D006PB20
4D006PB32
4D006PB68
4D006PB70
4D006PC80
4H006AA02
4H006AD17
4H006AD19
4H006BD82
4H006FE11
要約 【課題】エタノールに限定することなく多様な有機溶媒に適用の可能性があり、新規な分離膜としての素材およびそれを用いた分離方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属有機構造体で形成された多孔性膜を用いて、溶媒混合液を分離する方法であって、特に前記金属有機構造体が、1種以上の金属元素を含む金属クラスターと、該金属クラスターを架橋し、1つ以上の芳香環を有する有機化合物が配位結合した構造体であることを特徴とする。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
金属有機構造体で形成された多孔性膜を用いて、溶媒混合液を分離する方法。
【請求項2】
前記金属有機構造体が、1種以上の金属元素を含む金属クラスターと、該金属クラスターを架橋し、1つ以上の芳香環を有する有機化合物が配位結合した構造体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属元素が、ジルコニウムであり、前記有機化合物がテレフタル酸である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒混合液が、水とエタノールの混合液である請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれかに記載の方法に使用する金属有機構造体の多孔性膜であって、前記金属有機構造体が、1種以上の金属元素を含む金属クラスターと、該金属クラスターを架橋し、1つ以上の芳香環を有する有機化合物が配位結合したことを特徴とする有機金属構造体。
【請求項6】
前記金属元素が、ジルコニウムであり、前記有機化合物がテレフタル酸である請求項5に記載の有機金属構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、混合液体の分離方法に関するものであり、特に発酵液などの低濃度エタノールを浸透気化法(パーベーパレーション法)によりエタノールの濃縮・分離に好適な方法およびそれに使用する分離膜に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
発酵によるアルコールの製造は古くから行われているが、いわゆる地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出量を低減し持続可能なバイオマス燃料の一つとして、近年再び注目されている。バイオマス燃料は燃焼により二酸化炭素が排出されるものの、この炭素は、バイオマスの成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来するので、化石燃料を燃焼させる場合とは異なり、全体としては二酸化炭素の増加に寄与しないと考えられるからである。
【0003】
アルコール発酵液は一般的には10~15%程度のアルコールを含む水溶液として得ることができる。この状態から直接アルコールを蒸溜等で分離することも可能ではあるが、大部分を占める水の加熱にエネルギーを浪費することになるので、ある程度の濃度になるまで前処理として膜分離法等により濃縮することが好ましい。
【0004】
このような膜分離技術の一例としてエタノール選択的疎水性浸透気化膜を利用するものがある。浸透気化法とは、混合液体の一成分と親和性の高い分離膜を境にして、一方側に該混合液体を置き、他方側を減圧して圧力差によって液を透過させ、低圧側で蒸発させることによって、混合液を分離する技術である。この分離法は通常の蒸溜法では分離できないような、例えば共沸混合液、沸点の近似した異性体同士の混合液などの分離に有効であると言われる。
【0005】
さて、エタノールの選択的な分離膜としては、シリコーン系ゴムから構成された0.1μ~2mmの厚さを有する膜を用いるもの(特許文献1)や、ポリジメチルシロキサンやシリコンゴムを用いること(非特許文献1)が公知である。また、透過性および分離能にすぐれた高分子膜素材として、トリメチルシリルプロピンと置換アセチレンモノマーとの共重合体(特許文献2)や、シロキサン鎖を含む共重合体に関するもの(特許文献3)などがある。これらの分離膜を用いた場合、発酵により得られたエタノールを20~30%程度までに濃縮可能であるが、いまだ十分な結果ということはできない状況である。
【0006】
そこで、粒子界面を有しない一体の膜状に結晶成長したシリカライト膜(シリカライトはゼオライトの一種で、シリカライトは構造のすべてがシリカで構成され、結晶中に約0.6nmの細孔をもち、高い疎水性を示す。水とアルコールの混合液中ではアルコールが選択的にシリカライトに吸着する。)を多孔質担体上に固定してなるアルコール選択透過性分離膜(特許文献4)や、シリカライト膜を使用する前に発酵液のpHを5以上中性までの範囲に調整して分離膜の性能劣化を防止する方法(特許文献5)、アルデヒドを含む粗エタノール水溶液をシリコン樹脂からなる疎水性高分子膜を用いて浸透気化膜分離する方法(特許文献6)も提案されている。
【0007】
これらの提案により、発酵により得られた低濃度エタノール溶液の濃縮に膜分離を使用することができるので、過剰な水を加熱することによるエネルギー消費を抑えることができるようになった。
【0008】
ところで、上記膜の素材は基本的にはシリコン系が採用されており、主としてエタノールを膜分離の対象として開発されたものである。従って、水以外との混合液や、他の有機溶媒の混合液からの分離膜としては、必ずしもそのままで転用できるとは限らないものである。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開昭57-136905号公報
【特許文献2】特開昭61-174905号公報
【特許文献3】特開昭61-242603号公報
【特許文献4】特開平6-99044号公報
【特許文献5】特開2005-238036号公報
【特許文献6】特開平10-147546号公報
【0010】

【非特許文献1】化学工学協会第16秋季大会 研究発表講演要旨集、p.540,1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、エタノールに限定することなく多様な有機溶媒にも適用の可能性があり、新規な分離膜の素材およびそれを用いた分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、金属有機構造体で形成された多孔性膜を用いて、溶媒混合液を分離する方法を提案する。金属有機構造体とは、1種以上の金属元素を含む金属クラスターと、該金属クラスターを架橋し、一つ以上の芳香環を有する有機化合物が配位結合した構造体であることを特徴としている。
【0013】
金属有機構造体はその合成が極めて容易な上に、金属と、有機配位子の組み合わせや合成条件によって細孔サイズ等の制御が可能であること、構造体の一部に置換基等を導入して新たな特性を付加するなど任意の構造体を設計することができるといった効果を有している。
【0014】
本発明においては前記金属元素としてジルコニウムと、前記有機化合物としてテレフタル酸を組み合わせた金属有機構造体が好ましい。従来公知の金属有機構造体の中には、水溶液に対して構造が破壊されるなど耐久性に課題のある膜があるが、前記組み合わせの膜は、水中・塩酸中でも構造が維持され、高い耐久性を有しているからである。
【0015】
また、膜分離の対象となる溶媒混合液としては、いわゆる発酵液である水とエタノールの混合液の他、水とメタノールや、水とアセトンの混合液などにも適用の可能性を有している。
【発明の効果】
【0016】
本発明の溶媒混合液を分離する方法は、金属有機構造体で形成された多孔性膜を用いて該膜との親和性・透過性の高い溶媒を主として通過させ分離することができる。金属有機構造体を用いることにより、簡易な合成方法、細孔径の制御や多様な構造設計が可能などの効果を有している。
【0017】
また、分離対象として発酵液(水とエタノールの混合液)だけでなく、揮発性有機化合物(VOC)を含む排水等からVOCを分離する場合など、対象となる溶媒混合液の適用拡大の可能性がある。
【0018】
さらに、本発明の方法で使用する金属有機構造体はこれまで公知である同種の構造体に比べて、構造安定性が優れていることにより、浸透気化法に用いることが可能な新規な膜素材の候補が提案できた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に使用する金属有機構造体の製造方法を示す図である。
【図2】図2は、ソルボサーマル合成に使用する装置の概要を示す図である。
【図3】図3は、金属有機構造体の電子顕微鏡写真を示し、(A)は酢酸を溶媒として添加し、(B)は酢酸を溶媒として添加していない。
【図4】図4は、水の有無、酢酸濃度の増減で金属有機構造体の結晶がどのように変化したかの一例を示す図である。
【図5】図5は、金属有機構造体の合成に関して、操作を繰り返した場合に膜の状態が変化する一例を示す図である。
【図6】図6は、金属有機構造体の結晶粉末に対して、各溶媒が単成分でどの程度の吸着量を示すのかを、圧力との関係で調べた図である。
【図7】図7は、金属有機構造体のエタノール吸着選択性について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係わる溶媒混合液を分離する方法は、従来から知られている浸透気化法を利用するものであって、該方法にはこれまで限られた条件下で用いられていたにすぎない金属有機構造体を使用することに特徴がある。

【0021】
金属有機構造体は、均一な細孔と非常に大きな比表面積を有する多孔質の構造体であり、炭化水素等を吸蔵するガス吸蔵材料や、二酸化炭素と炭化水素の混合ガスから二酸化炭素を選択的に吸着するガス分離材料として応用されている。

【0022】
このような金属有機構造体として、例えばMO(COクラスター(Mは金属カチオンでより具体的にはZn)を含有する2次構造単位と、置換されたフェニル基を有する2価のカルボン酸塩からなりかつ前記2次構造単位を結合する化合物とからなる網状構造の金属有機構造体が記載(米国公開US2005/0192175)されている。この構造体は孔径を調整して例えばガス吸蔵材料として利用しようとするものである。

【0023】
また、複数の金属クラスター(ZnOなど)とフェニル基を含む多座配位子とからなる金属有機構造体に、2.5~7.2重量%のアルカリドーパント(例えば、リチウム)を添加して、水素の吸蔵量を増加させる(米国公開US2009/0005243)という提案がある。

【0024】
これらの技術はいずれも浸透気化法に利用するものではない。本発明では、混合溶媒中のいずれかの成分を選択的に分離して濃縮する方法に関するもので、金属有機構造体を分離膜として利用し浸透気化法に適用するものである点で、前記文献とは使用目的・態様において全く異なる。

【0025】
金属有機構造体は、1種以上の金属元素を含む金属クラスターと、該金属クラスターを架橋する有機化合物が配位した構造体である。金属クラスターは、金属イオンの周囲に一般的には酸素原子(他に例えば、窒素、硫黄等でも良い)が配位したものであり、金属元素としては、Zr、Zn、Mn、Cu、Co、Fe、Alなどが挙げられる。この中でも後述するように安定性・耐久性の点で、Zr(ジルコニウム)が特に好ましい。

【0026】
また架橋機能を有する有機化合物は、一つ以上の芳香環を有するものであれば良く、例えば、テレフタル酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸等が挙げられるが、金属クラスターの架橋性能、扱いやすさや入手コストなどの点で、テレフタル酸が最も好ましい。

【0027】
金属有機構造体の製造方法としては、公知の技術を使用すればよく、基本的には、金属クラスターを構成する金属無機塩を溶媒中に溶解し、芳香環を有する有機化合物のアルカリ金属塩水溶液と混合する(合成溶液の調製)。得られた溶液を室温から数10℃の温度下で攪拌後、必要であれば膜の強度を向上させるための担体を溶液に浸漬して、100℃~150℃の温度で1時間~数日程度、好ましくは5時間~3日程度保持して反応させ膜を形成させる。以上の製造方法を具体的に示したものが、図1である。

【0028】
図1では上から順に前記の通り膜の合成溶液を調製する段階から始まり、次に攪拌装置等を使用して均一な溶液とする。合成溶液の調製段階では、金属無機塩や有機化合物を所定の配合比率で量り取り、適当な溶媒を加えて溶液とする。この際の溶媒としては、両者を溶解するものであれば良く、水、酢酸、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチレングリコールなどを単独または適当な配合比で使用する。本発明では使用する溶媒の種類、配合比率等を適宜変更するだけでも、細孔径や後の浸透気化法に使用する際の分離能を設計することができる。図1では攪拌温度や時間の記載もあるが、これは後述する本発明の実施の一例として記載したものであり、この条件に限定されるものではない。

【0029】
合成溶液調製の段階で、有機化合物は架橋構造形成に必須の添加成分であるが、合成溶媒として例えば、酢酸のようなモノカルボン酸を共存させると、有機化合物との競争的な反応が起きることが判っている。具体的な合成溶液の組成比(モル比)として、ZrCl:テレフタル酸:水:酢酸:DMF=1:1:1:500:1500の場合(A)と、同比が=1:1:1:0:1500の場合(B)では、図3に示すように、特定の結晶面の成長が抑制された。この図では、100面の結晶成長が抑制されていることがわかる。このような結晶構造の調整が溶媒の選択や、その添加量等によって制御できるので、溶媒混合液の分離処理に際して、特定の溶媒の選択性を向上させる可能性がある。

【0030】
前記図3の例においては、金属クラスターの架橋に寄与するテレフタル酸(ジカルボン酸)と、溶媒である酢酸(モノカルボン酸)とが配位の際に競争的に反応することが原因と考えられる。なお、参考までに合成溶液の組成比として、ZrCl:テレフタル酸:水:酢酸:DMF=1:1:x:y:1500とし、x(水)を0又は1、y(酢酸)を0,10,100,300,500,700,1000のように増やした場合の結晶構造について、図1に示す各工程を経て金属有機構造体の電子顕微鏡写真を撮影すると、図4に示すように、水の有無、酢酸濃度の増減で結晶構造に大きな違いが認められた。

【0031】
さて、図1には攪拌の次の工程として、「ソルボサーマル合成」が記載されている。ソルボサーマル合成とは、高温または高圧の溶媒(または超臨界流体)を用いて固体を合成する方法で、記載の120℃、24時間はあくまで例示である。この合成工程では、具体的には図2に示すような装置を使用すると良い。図2には、合成装置(1)の外観が示されている。反応容器(2)内には、金属有機構造体の膜を支持する円筒状のアルミナ支持体(3)が略垂直に立てられている。円筒状のアルミナ支持体の筒内には棒状の治具(4)が挿入され、支持体を立設し固定するための治具(5)が反応容器内壁に接するように設けられている。円筒状アルミナ支持体内に挿入された治具により、円筒内には合成溶液(6)が進入することなく、支持体の外側表面にのみ金属有機構造体の膜が形成されるようになっている。

【0032】
円筒状のアルミナ支持体を用いたのは、分離膜として使用する際に筒内または外側のいずれかに分離対象の溶媒混合液を満たすことで、溶媒混合液の充填していない方から浸透気化分離を容易に試験するためであり、他の形状の支持体を用いることも勿論可能である。例えば、平板状の支持体を用いて、溶媒混合液と回収側との間に隔壁を設けるようにして使用することも可能である。また、円筒内に治具(4)を挿入して、アルミナ支持体の筒内表面に金属有機構造体膜が形成されないようにすることで、支持体外側表面のみに膜を形成し、浸透気化法による分離の効率を向上するようにした。形成する膜の種類・厚み等によって、筒内表面にも膜が形成されるようにしても良い。

【0033】
さらに支持体として、前記アルミナの他に、ムライト、ジルコニア、チタニア、炭化珪素などのセラミックス焼結体や、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子樹脂などを使用した多孔質支持体を利用することもできる。

【0034】
反応容器内にアルミナ支持体を設置して合成溶液を充填したのち、高温下でのソルボサーマル合成のために密閉状態を保つように蓋(7)をして、合成装置(1)を加熱器内(図示せず)に静置する。加熱器内では、例えば120℃で24時間保持することにより、支持体表面を含めて金属有機構造体膜が形成される。次に支持体に固定されていない部分に形成された前記膜を溶媒(図1ではDMF)により洗浄する。これによって支持体表面に均一な厚みの膜が形成されやすくなる。

【0035】
形成された膜の厚みが充分であれば、洗浄後に乾燥工程(図1では100℃、12時間)に移行し、不十分或いは強度を向上させたい等の場合には、再度合成溶液に支持体を浸漬して膜を積層するようにして形成することができる。なお、この際に違う組成比の合成溶液を使用することもできる。これによって、厚み方向に異なる特性を有する分離膜を作成することもできるからである。

【0036】
図5には、合成溶液組成として(ZrCl:テレフタル酸:水:酢酸:DMF=1:1:1:500:1500)を用い、図1に示す膜の合成方法を3回繰り返した場合について、アルミナ支持体上に形成される金属有機構造体の電子顕微鏡写真を測定した結果が示されている。図5左端列の2つの写真は2回目と3回目の表面拡大図、中央列は上から1回目、2回目、3回目の各回の表面写真、右端列は上から1回目、2回目、3回目の各回の断面写真である。1回目、2回目まででは表面にアルミナが確認されているが、3回目には表面が全て金属有機構造体で覆われていることが判る。

【0037】
前記膜合成方法の操作はいずれも格別技術的に難しいという側面はなく、事業化に際して特殊な装置等を必要としない。従って、コストをかけなくても市販の装置等を利用して簡単に膜合成が可能なのである。こうして得られた金属有機構造体の膜を有するアルミナ支持体を利用して、溶媒混合液から所望の液体を分離・濃縮する方法に使用することができる。

【0038】
図6は、膜合成溶液の組成として(ZrCl:テレフタル酸:水:酢酸:DMF=1:1:1:500:750)を用い、前記製造方法により得られた金属有機構造体の結晶粉末を利用して、水、エタノール、アセトンの各溶媒が、どの程度の吸着を示すのかを、圧力との関係で調べたものである。試験時の温度は25℃で行った。

【0039】
図6によれば、混合していない単成分の蒸気吸着は、低圧力側でエタノールやアセトンが、水よりも大きな吸着量を示すことが判る。

【0040】
ZrCl:テレフタル酸:ギ酸:DMF=1:1:20:250の組成の溶液を用いて得られた結晶粉末を使用して、水、エタノール、水/エタノール=50/50の各溶媒について、吸着量を調べた結果を図7に示す。温度は25℃であり、白抜きの丸および四角が(水またはエタノールの)単成分、塗りつぶした丸および四角が2成分の混合溶液の場合を示している。図7から判るように、エタノールに対する選択性が高いことが示されている。

【0041】
本発明で分離の対象とする溶媒混合液は、主として発酵液(水とエタノール)であるが、これに限定されるものではない。水とメタノール、水とイソプロピルアルコール、水とアセトンなどにも利用でき、例えば、アセトンなどを選択的に除去することにより、揮発性有機化合物(VOC)を濃縮して大気汚染を防止することに利用できる。或いは、p-キシレンとm-キシレン等のように異性体の分離にも適用可能性を有している。

【0042】
以下では、二成分の溶媒混合液に対して本発明の分離方法を適用した結果について、より具体的に示す。

【0043】
(実施例1)
図1に示す製造方法に従って、金属有機構造体の膜を作成した。但し、合成溶液の組成比は(ZrCl:テレフタル酸:水:酢酸:DMF=1:1:1:500:1000)とし、DMF洗浄後、さらに2回のソルボサーマル合成を行った。攪拌時、合成時、乾燥時の条件(温度、時間)は図1に示す通りである。

【0044】
前記合成により得られた(アルミナ支持体上の)膜を使用して、エタノール/水、イソプロピルアルコール/水の各溶媒混合液を浸透気化法によって分離・濃縮を試みた。その結果を表1に示す。表中、「供給液濃度」、「透過液濃度」は重量%(全体100g当たりの、エタノールまたはイソプロピルアルコールの重量)、「透過量」は単位(面積・時間)当たりの透過量、分離係数は「透過液モル分率比」/「供給液モル分率比」を示す。

【0045】
【表1】
JP2017202449A_000003t.gif

【0046】
表1の結果より、本発明の方法によれば特にエタノールの低濃度において分離・濃縮の効率が高いことが判る。

【0047】
(実施例2)
実施例1と同様の合成方法により金属有機構造体の膜を合成した。但し、用いた合成溶液の組成比は(ZrCl:テレフタル酸:水:酢酸:DMF=1:1:1:500:750)とした。

【0048】
前記合成により得られた膜を使用して、実施例1と同様にして各種の溶媒混合液に浸透気化法を適用した。その結果を表2に示す。

【0049】
【表2】
JP2017202449A_000004t.gif

【0050】
表2の結果より、アセトンやメタノールなどの分離に利用すれば、揮発性有機化合物の除去にも適用できることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明したように、本発明の分離方法によれば、水と相溶性の高いエタノール等の有機溶媒を効率よく濃縮することができる。特に有機溶媒が低濃度で水と混合している場合に濃縮効果が良いので、例えば発酵液からエタノールを分離・濃縮する際に適用して、エネルギー消費を抑えたバイオ燃料の製造方法に新規な方法を提案できる。
【符号の説明】
【0052】
1 合成装置
2 反応容器
3 アルミナ支持体
4、5 治具
6 合成溶液
7 蓋
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6