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明細書 :機能性膜及びその成膜装置、成膜方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5458277号 (P5458277)
登録日 平成26年1月24日(2014.1.24)
発行日 平成26年4月2日(2014.4.2)
発明の名称または考案の名称 機能性膜及びその成膜装置、成膜方法
国際特許分類 C23C  14/12        (2006.01)
C23C  14/48        (2006.01)
G02B   1/11        (2006.01)
FI C23C 14/12
C23C 14/48 D
G02B 1/10 A
請求項の数または発明の数 8
全頁数 19
出願番号 特願2012-214009 (P2012-214009)
出願日 平成24年9月27日(2012.9.27)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 発行者:一般社団法人 繊維学会 刊行物名:平成24年度繊維学会年次大会予稿集、67巻1号 2012年6月6日発行
審査請求日 平成25年2月19日(2013.2.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】500487837
【氏名又は名称】ミクロ技研株式会社
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
発明者または考案者 【氏名】臼井 博明
【氏名】泉田 和夫
【氏名】松田 剛
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100099324、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 正剛
審査官 【審査官】植前 充司
参考文献・文献 特開平01-282175(JP,A)
特開平08-092731(JP,A)
特開平04-048068(JP,A)
特開平03-024262(JP,A)
特開昭61-208038(JP,A)
特開2006-001014(JP,A)
特開2010-224315(JP,A)
泉田和夫、松田剛、田中邦明、臼井博明,イオンアシスト蒸着によるフッ素薄膜の密着性改善,信学技報,社団法人電子情報通信学会,2011年 6月23日,Vol.111,pp.41-46
松田剛、泉田和夫、田中邦明、臼井博明,イオンアシスト蒸着によるフッ素系高分子薄膜の作製,信学技報,社団法人電子情報通信学会,2010年10月15日,Vol.110,pp.5-10
調査した分野 C23C 14/12
C23C 14/48
G02B 1/11
要約 【課題】優れた反射防止効果と基材に対する高い密着性とを備えた機能性膜を提供する。
【解決手段】真空排気された真空容器10内で基板Wの被処理面に向けフッ素系モノマーを供給して当該被処理面に蒸着させるときに、蒸着の開始から終了までの間、イオン照射手段15で発生させたイオンを当該被処理面に向けて照射して当該基板W及び成膜中の膜面に化学的活性点を形成させてフッ素系モノマーの重合を促進させ、且つ、当該被処理面を改質するとともに、イオンを発生させるために印加される電圧を逐次変化させて、膜の屈折率が基板W側から膜表面に向けて連続的に変化する遷移層となるように成膜する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
基材の被処理面を成膜するための成膜装置であって、
真空排気が可能な容器と、
前記容器内に配置された基材の被処理面に向けフッ素系モノマーを供給して当該被処理面に蒸着させるための蒸着手段と、
発生させたイオンを前記基材の被処理面に向けて照射するための照射手段と、
前記イオンを発生させるため前記照射手段に印加される電圧を逐次変化させるための制御手段と、を備え、
前記照射手段は、真空排気された前記容器内で行われる前記被処理面への蒸着の開始から終了までの間、当該被処理面に向けてイオンを照射して当該基材及び成膜中の膜面に化学的活性点を形成させて前記フッ素系モノマーの重合を促進させるとともに、当該被処理面を改質して成膜するように構成されており
前記制御手段は、前記被処理面に蒸着された膜の屈折率が前記基材側から当該膜表面に向けて高屈折率から低屈折率へと連続的に変化する遷移層として成膜されるように、前記照射手段に印加される電圧を所定の値から0[V]までの間で一定の割合で減少させることを特徴とする、
成膜装置。
【請求項2】
前記真空容器内で前記基材を保持するための保持手段をさらに備え、
前記保持手段は、前記基材の被処理面への蒸着の開始から終了までの間、保持した当該基材を所定の温度に保つための温調機構に接続されている、
請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記フッ素系モノマーの供給を停止した後、前記照射手段によるイオン照射を所定の時間継続させ、蒸着された膜の表面を前記イオンの照射により生じるスパッタリング効果により平坦化させるように構成されている、
請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記基材の被処理面に向けて照射されるイオンの照射角度、又は、当該イオンの照射開始位置からイオンが到着する当該基材表面までの距離の少なくとも一方を変化させることができるように構成されている、
請求項1、2又は3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基材の被処理面への成膜を連続して行うために、当該基材を移送するための移送手段をさらに備える、
請求項1乃至いずれかの項記載の成膜装置。
【請求項6】
前記フッ素系モノマーが、パーフルオロアルキルアクリレート類である、
請求項1乃至いずれかの項記載の成膜装置。
【請求項7】
基材の被処理面を成膜する方法であって、
処理対象である前記基材を真空排気された容器内に配置した後、この基材の被処理面に向けフッ素系モノマーを供給して当該被処理面に蒸着させるときに、当該蒸着の開始から終了までの間、発生させたイオンを当該被処理面に向けて照射して当該基材及び成膜中の膜面に化学的活性点を形成させて前記フッ素系モノマーの重合を促進させ、且つ、当該被処理面を改質して成膜するとともに前記被処理面に蒸着された膜の屈折率が前記基材側から当該膜表面に向けて高屈折率から低屈折率へと連続的に変化する遷移層として成膜されるように、当該イオンを発生させるために印加される電圧を所定の値から0[V]までの間で一定の割合で減少させることを特徴とする、
成膜方法。
【請求項8】
基材の被処理面に成膜され、反射防止機能を備えた機能性膜であって、
真空排気された容器内で前記基材の被処理面に向けフッ素系モノマーを供給して当該基材表面に蒸着させるときに、当該蒸着の開始から終了までの間、発生させたイオンを当該被処理面に向けて照射して当該基材及び成膜中の膜面に化学的活性点を形成させて前記フッ素系モノマーの重合を促進させ、且つ、当該被処理面を改質するとともに、イオンを発生させるために印加される電圧を所定の値から0[V]までの間で一定の割合で減少させて、膜の屈折率が前記基材側から当該膜表面に向けて高屈折率から低屈折率へと連続的に変化する遷移層となるように成膜されたことを特徴とする、
機能性膜。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン照射を併用したフッ素系モノマー材料の蒸着重合による反射防止機能を高めた機能性膜の成膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光学系基材の多くには、基材表面での反射により透過光が損失してしまうことを防止するために、反射防止膜が基材表面に形成されている。この反射防止膜として、例えば無機誘電体材料から成る多層膜や、フッ素系材料から成る低屈折率高分子膜などが知られている。低屈折率高分子膜は、単層のものであってもある程度の反射防止効果は得られる。また、フッ素系高分子は表面エネルギーが低いため、防汚性に優れた特徴がある。
【0003】
しかし、フッ素系材料は難溶性であることから、基材表面にコーティングすることが困難である。また、表面エネルギーが低いため、基材表面に対する密着性が悪い等の問題がある。例えば、粉体焼結法によりフッ素コーティングを施す方法では、平坦性を高く維持しながら、例えば厚さ1ミクロン以下の均質な膜を得ることが困難である。さらに、基材それ自体も耐熱性が高く、変形しにくいものが必要となり、密着性を上げるためには表面のサンドブラスト処理などが必要となる。
【0004】
例えば、特開2006-1014号公報では、含フッ素有機物質を蒸着法により、非フッ素含有物質をイオンビームスパッタ法により、同時に基材表面に堆積させる工程を備えることにより上記問題点を解消しようとする含フッ素薄膜を有する基材の製造方法が開示されている。
【0005】
フッ素系高分子膜を蒸着法で形成するためには、フッ素系モノマー材料を蒸着し、ラジカル重合を開始させる必要がある。特開2010-224315号公報では、電子線あるいは紫外線をフッ素系モノマーに照射して重合開始点を形成し、空気側から光学部品の基材側に向けて屈折率が変化した傾斜膜を形成するフッ素系高分子膜の単層膜コーティング方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2006-1014号公報
【特許文献2】特開2010-224315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された製造方法では、蒸着法とイオンビームスパッタ法を併用しているため、成膜プロセスが煩雑化し、製造装置自体も大型化・複雑化するという問題がある。また、スパッタ法を併用するために、純粋なフッ素系高分子薄膜を形成することはできず、フッ素系高分子が本来持つ性質を活用することができない問題がある。
【0008】
特許文献2に開示された単層膜コーティング方法では、高分子形成は促進されるが化学結合は膜内部でしか生じないために、当該膜と基材表面との間の密着性に問題が残る。
【0009】
本発明は、優れた反射防止効果、低表面エネルギー性、及び基材に対する高い密着性とを備えた機能性膜及び、その成膜装置、成膜方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述したような課題に対して鋭意検討し、基材表面の成膜の際、当該基材表面にイオンを照射することに着目した。その結果、成膜分子を活性化して重合が促進されるとともに、基材表面の汚染物質が除去され、さらに当該基材表面へのラジカル形成によって基材表面をも活性化することができることを見出した。
また、電子線並びに紫外線の照射では、分子を電子的にしか励起させることができないのに対し、イオン照射であれば原子核同士の衝突を引き起こし、電子励起と同時に個体表面の分子の結合を切断し、活性種を作ることができることを見出した。さらに、成膜過程においては、イオン照射のために印加される電圧(以下、イオン加速電圧という場合もある)を変えることで、膜の物性を任意に制御することができることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて達成されたものである。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、機能性膜及びその成膜装置、成膜方法を提供する。
本発明の成膜装置は、基材の被処理面を成膜するための成膜装置であって、真空排気が可能な容器と、前記容器内に配置された基材の被処理面に向けフッ素系モノマーを供給して当該被処理面に蒸着させるための蒸着手段と、発生させたイオンを前記基材の被処理面に向けて照射するための照射手段と、前記イオンを発生させるため前記照射手段に印加される電圧を逐次変化させるための制御手段と、を備える。前記照射手段は、真空排気された前記容器内で行われる前記被処理面への蒸着の開始から終了までの間、当該被処理面に向けてイオンを照射して当該基材及び成膜中の膜面に化学的活性点を形成させて前記フッ素系モノマーの重合を促進させるとともに、当該被処理面を改質して成膜するように構成されている。また、前記制御手段は、前記被処理面に蒸着された膜の屈折率が前記基材側から当該膜表面に向けて高屈折率から低屈折率へと連続的に変化する遷移層として成膜されるように、前記照射手段に印加される電圧を所定の値から0[V]までの間で一定の割合で減少させることを特徴とする。
この機能性膜の成膜装置によれば、成膜の際のイオン照射により基材表面の汚染や不純物が除去され表面改質が施されるととともに、基材及び成膜中の膜面に高分子重合反応の開始点となる化学的活性点が形成され、基材表面との密着性が高い高分子膜を成膜することができる。

【0012】
ある実施の態様では、前記真空容器内で前記基材を保持するための保持手段をさらに備え、前記保持手段は前記基材の被処理面への蒸着の開始から終了までの間、保持した当該基材を所定の温度に保つための温調機構に接続されている。
これにより、高分子膜の成膜に適した基材表面の温度管理を容易に行うことができる。
【0013】
この成膜装置では、前記制御手段により、前記被処理面に蒸着された膜の屈折率が前記基材側から当該膜表面に向けて高屈折率から低屈折率へと連続的に変化する遷移層として成膜されるように、前記照射手段に印加される電圧を所定の値から0[V]までの間で一定の割合で減少させるように構成されている。
これにより、イオンを発生させるために印加される電圧を所定の値から0[V]までの間で一定の割合で減少させて、基材側から膜表面に向けて屈折率が高屈折率から低屈折率へと連続的に変化する傾斜機能を備えた高分子膜を成膜することができる。また、基材側から膜表面に向けて材料の表面エネルギーが連続的に変化する傾斜機能を備えた高分子薄膜を製膜することができ、基材への密着性と膜表面の防汚性を共に満たすことができる。

【0014】
他の実施の態様では、前記制御手段は、前記フッ素系モノマーの供給を停止した後、前記照射手段によるイオン照射を所定の時間継続させ、蒸着された膜の表面を前記イオンの照射により生じるスパッタリング効果により平坦化させるように構成されている。
これにより、イオン照射により生じるスパッタリング効果を利用して、膜表面の平坦化を図ることができる。
【0015】
ある実施の態様では、前記制御手段は、前記基材の被処理面に向けて照射されるイオンの照射角度、又は、当該イオンの照射開始位置からイオンが到着する当該基材表面までの距離の少なくとも一方を変化させることができるように構成されている。
これにより、処理対象である基板サイズの変化や、成膜条件の異なる基板にも柔軟に対応することができる。
【0016】
他の実施の態様では、前記基材の被処理面への成膜を連続して行うために、当該基材を移送するための移送手段をさらに備える。
また、ある実施の態様では、前記フッ素系モノマーが、パーフルオロアルキルアクリレート類である。
【0017】
本発明の成膜方法は、基材の被処理面を成膜する方法であって、処理対象である前記基材を真空排気された容器内に配置した後、この基材の被処理面に向けフッ素系モノマーを供給して当該被処理面に蒸着させるときに、当該蒸着の開始から終了までの間、発生させたイオンを当該被処理面に向けて照射して当該基材及び成膜中の膜面に化学的活性点を形成させて前記フッ素系モノマーの重合を促進させ、且つ、当該被処理面を改質して成膜するとともに前記被処理面に蒸着された膜の屈折率が前記基材側から当該膜表面に向けて高屈折率から低屈折率へと連続的に変化する遷移層として成膜されるように、当該イオンを発生させるために印加される電圧を所定の値から0[V]までの間で一定の割合で減少させることを特徴とする成膜方法である。

【0018】
本発明の機能性膜は、基材の被処理面に成膜され、反射防止機能を備えた機能性膜であって、真空排気された容器内で前記基材の被処理面に向けフッ素系モノマーを供給して当該基材表面に蒸着させるときに、当該蒸着の開始から終了までの間、発生させたイオンを当該被処理面に向けて照射して当該基材及び成膜中の膜面に化学的活性点を形成させて前記フッ素系モノマーの重合を促進させ、且つ、当該被処理面を改質するとともに、イオンを発生させるために印加される電圧を所定の値から0[V]までの間で一定の割合で減少させて、膜の屈折率が前記基材側から当該膜表面に向けて高屈折率から低屈折率へと連続的に変化する遷移層となるように成膜されたことを特徴とする。また、膜と基材の界面の表面エネルギーを高く、膜表面の表面エネルギーを低くすることにより、基材との高い密着性と、膜表面の防汚性を同時に満たすように製膜されたことを特徴とする。

【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた反射防止効果や基材に対する高い密着性及び膜表面の防汚性を備えた機能性膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態例の成膜装置の概略縦断面図。
【図2】成膜装置において実行される処理方法の全体手順説明図。
【図3】フッ素系高分子膜を成膜するための成膜条件の一例を表した図。
【図4】(a)は、フッ素系モノマーの蒸着重合を検証した際の観測結果であり、(A)、(B)、(C)はそれぞれ蒸着材料のフッ素モノマー、イオン照射を行って作製した膜、及びイオン照射を行わずに作製した膜の赤外吸収スペクトル。(b)は、イオン照射によってフッ素モノマーが重合し、フッ素系高分子膜へと変化する様子の構造式。3<n<20であり、n=6の材料をRf-6と称する。
【図5】(a)、(b)、(c)はそれぞれの成膜条件の基、膜との界面の密着強度を検証した剥離実験結果の顕微鏡像。
【図6】(a)は、反射防止特性を検証した際の実験の様子を模式的に示した図。(b)は、その実験結果を示したグラフ。AZOは透明導電膜。
【図7】イオン加速電圧と膜表面エネルギーとの関係を示すグラフ(a)、イオン加速電圧と膜厚との関係を示すグラフ(b)。
【図8】成膜条件別の膜内の屈折率を求めるための紫外可視分光光度計での観測結果(a)、傾斜機能を備えたフッ素系高分子膜を模式的に示した図(b)。
【図9】(a)、(b)はそれぞれの成膜条件の基、イオン照射のスパッタリング効果による膜の平坦化の検証結果を示す顕微鏡像。
【図10】第2実施形態例の成膜装置の概略縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の成膜装置は、半導体ウエハやガラス基板、PET基板のような基材を処理対象とし、この基板の一方の表面を被処理面(成膜面)としてフッ素系モノマーの重合体膜を成膜する。以下、この成膜装置の実施形態例と検証例とを通じて、本発明の構成及びそれによる効果をより詳しく説明する。

【0022】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して、本発明にかかる機能性膜の成膜装置の第1実施形態例を説明する。
図1は、この成膜装置1の周辺部材の構成例を示す概略縦断面図である。成膜装置1は、真空容器10、蒸発源12、イオン照射部15及び制御部20を主として備える。
真空容器10は、上底部が蓋された縦置き円筒状のもので、図示しない排気手段と接続されており、基板Wを成膜する際に所定の圧力(例えば1×10^-5[Torr])まで排気される。真空容器10内部の上方には、処理対象の基板Wを水平に保持するための基板ホルダ11が配備される。図1に示すように、基板Wは被処理面が下向きになるように基板ホルダ11に固定される。この基板ホルダ11は、図示しない温調機構と接続されており、基板Wの温度管理、例えば基板Wの被処理面温度を-10[℃]まで冷却し、この温度を保つことができる。成膜の際に基板Wを冷却することで蒸着重合を促進させる他、温度上昇による基板Wの劣化を防止する。
基板Wは図示しない搬送手段により真空容器10内部に搬入され又は、搬出される。

【0023】
蒸発源12は、フッ素系モノマー、例えば2-パーフルオロヘキシルエチルアクリレート(以下、Rf-6いう場合もある)を蒸発させる蒸発手段として機能する。
蒸発源12は、フッ素系モノマーが充填された図示しない試料管と、この試料管を加熱して、フッ素系モノマーを蒸発させるための図示しない加熱ヒータとを含んで構成されている。また、蒸発源12は、フッ素系モノマーの供給開始又は停止を切り替えるためのバルブ13を備えた導入管14が接続されている。この導入管14は、フッ素系モノマーを真空容器10内へ導き、所定方向に放出向するためのものである。これにより、被処理面に向けてフッ素系モノマーが供給される。
なお、バルブ13は手動式・電気式などいずれであっても良いが、例えば電磁弁制御とすることもできる。また、導入管14自体も図示しない加熱ヒータにより加熱することで、蒸発源12で加熱されたフッ素系モノマーの凝縮を防ぐように構成することもできる。

【0024】
イオン照射部15は、プラズマ発生装置(例えば、ECR装置:エレクトロンサイクロトロン共鳴型プラズマ発生装置)により発生したプラズマから、イオン引出電極によりイオンを加速するための電圧(以下、イオン加速電圧という場合もある。)を印加してイオンを引き出しながら射出する。このようにして、イオン照射部15はイオン照射手段として機能する。
本実施形態例では、アノード電流を例えば15[mA]とし、希ガス(例えばAr:アルゴン)のプラズマから帯電したイオン(Ar+)を引出し、所定の加速電圧(例えば300[V])を印加してイオンを加速させてから、基板Wの被処理面に向けて照射する。

【0025】
また、イオン照射部15は、図示しない位置決め機構に支持されており、イオンを照射する角度や照射開始位置から基板Wの被処理面までの距離などを変えることができる。これにより、成膜に適した任意の照射角度や距離が設定できる。

【0026】
制御部20は、基板Wの搬入又は搬出制御、基板ホルダ11の基板Wの保持開始又は保持解除の制御、真空容器10の排気開始又は停止、並びに、単位時間当たりの排気量制御、温調機構、並びに、位置決め機構、加熱ヒータの制御、バルブ13の解放又は閉鎖制御、イオン照射の開始又は停止、並びに、イオン加速電圧の制御等を主として行う。この制御部20による制御手順については、後述する。

【0027】
制御部20により各構成機器が制御されることにより、フッ素系モノマーが基板Wの被処理面に向けて放出されて蒸着が開始されるとともに、当該被処理面に向けてイオン照射が行われる。その結果、基板Wの被処理面にフッ素系高分子膜Mが成膜される。

【0028】
<成膜のための制御手順>
次に、成膜装置1による処理手順について説明する。ここでは、基板W側から膜表面に向けて屈折率が連続して遷移する傾斜機能を備えるように成膜する場合の例を示す。図2は、このように成膜する場合の制御部20による主要な制御手順の説明図である。

【0029】
制御部20は、成膜装置1のオペレータによる開始指示の入力受付を契機に制御を開始する。堆積させる膜の厚み(例えば100[nm])の入力を含む所定の初期処理後、基板搬送手段により基板Wを真空容器10内へ搬入させて(ステップS100)、基板ホルダ11に基板Wを保持させる(ステップS101)。
制御部20は、保持された基板Wの冷却、並びに、導入管14を加熱するために温調機構にそれぞれの指示を出し、基板Wの冷却、並びに、導入管14の加熱を開始する(ステップS102)。

【0030】
制御部20は、基板Wの表面温度が-10[℃]になったことを図示しない温度センサによって検知した場合(ステップS103:Yes)、並びに、導入管14の表面温度が90[℃]になったことを図示しない温度センサによって検知した場合(ステップS104:Yes)、それぞれの温度を維持するように温調機構に指示を出す。

【0031】
また、制御部20は、排気手段に指示を出し、真空容器10の排気を開始させる(ステップS105)。真空容器10内の圧力が1×10^-5[Torr]になったことを図示しない圧力センサによって検知した場合(ステップS106:Yes)、排気を継続させながら、真空容器10内部へアルゴンガスの導入開始を指示する(ステップS107)。

【0032】
制御部20は、温調機構に指示を出し、蒸発源12の試料管の加熱を開始させる(ステップS108)。真空容器10内の圧力が5×10^-5[Torr]になったことを図示しない圧力センサにより検知し、且つ、試料管の温度が90[℃]になったことを図示しない温度センサで検知した場合(ステップS109:Yes)、バルブ13の解放の指示を出すとともに、イオン照射部15に指示を出し、300[V]のイオン加速電圧でイオン照射を開始させる(ステップS110)。これにより、基板Wの被処理面の成膜が開始される。

【0033】
また、制御部20は、予め設定された、経過時間と堆積した膜厚との関係を示すテーブルを参照して成膜にかかる時間(成膜時間)を算出する。この算出結果に基づき、成膜開始から終了までの間、成膜開始時点のイオン加速電圧(300[V])から成膜終了時点の加速電圧が0[V]となるように、イオン照射部15にイオン加速電圧を一定割合で減少していくように指示を出す(ステップS111)。これにより、所定の傾斜機能を備えた機能性膜を成膜することができる。

【0034】
制御部20は、バルブ13の解放からの経過時間を図示しないタイマで計測し、既に算出された成膜時間が経過したこと確認した場合(ステップS112)、バルブ13の閉鎖の指示を出す(ステップS113)。そして、イオン照射の停止を含む所定の後処理後、図示しない基板搬送手段により基板Wを搬出させる。これにより、基板Wの処理を完了させる。

【0035】
なお、バルブ13の閉鎖の指示を出した後、所定時間(例えば5分)イオン照射のみを継続させることもできる。これにより、イオン照射のスパッタリング効果によって、膜表面の平坦化を図ることができる。

【0036】
また、イオン加速電圧を、例えば成膜開始から終了までの間100[V]一定となるよう制御することで、所望の物性(例えば一定の屈折率)を備えた膜を成膜することができる。

【0037】
<検証例>
次に、成膜装置1による成膜結果に対して、従来の成膜結果との比較を含む種々の観点から検証を行った結果について詳細に説明する。
本検証例では、25[mm]×20[mm]サイズのガラス基板に成膜を行った。また、本検証例における成膜条件として規定した、ガラス基板、フッ素系モノマーを放出する導入管14、イオン照射部15の具体的な位置関係について図3を参照しながら説明する。図3に示すように、真空容器10内部の各構成の位置関係は、まず、導入管14の放出口をガラス基板の被処理面の中心から75[mm]離れた位置に設置し、且つ、水平方向に対する仰角が58.5[°]となるように設定した。次に、イオン照射部15は、被処理面の中心を軸に導入管14と水平方向で対向させて、ガラス基板の被処理面の中心から75[mm]離れた位置に設置し、且つ、水平方向に対する仰角が58.5[°]となるように設定した。
このように各構成の配置を規定して成膜した場合、25[mm]×20[mm]サイズのガラス基板においては、各構成の配置を変えること無くほぼ均一に成膜することができた。すなわち、特許文献1に開示された発明のように成膜プロセスを煩雑化させることなく、成膜することができることが検証された。

【0038】
なお、他の条件は、成膜の際のガラス基の表面温度を-10[℃]、真空容器10内の圧力は5×10^-5[Torr]とし、フッ素系モノマーはRf-6を使用、イオン加速電圧は100[V]、照射するイオンはアルゴンイオン(Ar+)である。

【0039】
<フッ素系モノマーの蒸着重合について>
図4(a)は、成膜の際にイオン照射を行った場合と、イオン照射を行わなかった場合それぞれに対し、赤外分光法による赤外吸収スペクトルの観測を行い、フッ素系モノマーそれ自体の観測結果を含めて、それぞれを比較できるように示したグラフである。赤外吸収スペクトルは、対象とする物質がどのような構造であるかを知ることができるため、特に有機化合物の構造決定に用いられる良く知られた方法である。図4(a)のグラフは、縦軸を吸光度(相対値)とし、横軸を波数[cm^-1]としている。

【0040】
検証例で規定した成膜条件(以下、単に成膜条件という場合もある)の中で、イオン照射のみを除外して成膜を試みた。その結果、図4(a)のグラフ(C)に示すように、フッ素系モノマー(グラフ上では(A)モノマーと標記、以下同じ)や、イオン照射を行って成膜した場合(B)と比較すると、C-F伸縮振動のピークが観測されなかったことから、フッ素系高分子膜は成膜されていないことがわかった。
また、図4(a)のグラフから、フッ素系モノマー(C)と、イオン照射を行って成膜した場合(B)それぞれの観測結果を比較すると、イオン照射を行った場合では、C=C伸縮振動、C-H面外変革振動においてビニル基特有のピークが消失していることが見て取れる。つまり、成膜の際にイオン照射を行うことで、ガラス基板に供給されたフッ素モノマーが重合して蒸着し、フッ素系高分子膜が成膜されることが、この検証により確認された。成膜の際にイオン照射を行うことで、フッ素モノマーが重合してフッ素系高分子膜となる様子を構造式で示したものが図4(b)である。

【0041】
<界面の密着強度について>
ガラス基板と膜との物理的な密着強度(界面の密着強度)について検証した結果を説明する。密着性の検証は、広く利用されている水中(フッ素系洗浄剤入り)超音波照射による剥離実験で行った。図5(a)、(b)は、上記した成膜条件で成膜したフッ素系高分子膜(イオン加速電圧は100[V]に固定)と、従来から広く用いられているスピンコート法で成膜したスピンコート膜(テフロンAF(登録商標)1600:三井・デュポンフロロケミカル株式会社製を使用)の剥離実験の結果である。
スピンコート膜の剥離実験結果の顕微鏡像が図5(a)中の撮像30であり、フッ素系高分子膜の剥離実験結果の顕微鏡像が撮像31である。図5(a)に示す顕微鏡像それぞれを比較すると、スピンコート膜に比べて、上記した成膜条件で成膜したフッ素系高分子膜の方が、界面の密着強度が高いことが見て取れる。つまり、界面の密着強度が高いという機能を備えたフッ素系高分子膜(機能性膜)の成膜が確認できた。

【0042】
また、成膜開始から終了までの時間は同一にして、イオン加速電圧を成膜開始から終始まで一定にして成膜したものと、イオン加速電圧を連続的に変化させて成膜したものそれぞれに対して剥離実験を行った。イオン加速電圧を100[V]一定で成膜したものの剥離実験結果の顕微鏡像が図5(b)中の撮像32である。また、成膜開始から終了までの間、イオン加速電圧を300[V]から0[V]まで一定の割合で減少させて成膜したものの剥離実験結果の顕微鏡像が同33である。
図5(b)に示す顕微鏡像それぞれを比較すると、イオン加速電圧が一定の場合に比べて、イオン加速電圧を300[V]から0[V]まで減少させて成膜したものの方が、界面の密着強度が高いことが見て取れる。

【0043】
さらに、上記した成膜条件の中でガラス基板に替えてPET基板にフッ素系高分子膜(イオン加速電圧は100[V]に固定)を成膜したものに対して剥離実験を行った。PET基板の剥離実験結果の顕微鏡像が図5(c)中の撮像34であり、ガラス基板の剥離実験結果の顕微鏡像が同35である。図5(c)に示す顕微鏡像それぞれを比較すると、ガラス基板への成膜に比べて、PET基板への成膜の方が、界面の密着強度が高いことが見て取れる。これにより、PET基板に対してもフッ素系高分子膜の成膜が可能であることと、ガラス基板よりもさらに密着強度が高まることが確認できた。

【0044】
<反射防止効果について>
ガラスや結晶材、プラスティックなどではその表面で入射光に対して数%程度の反射光が生じる。例えば、有機ELパネルや太陽電池パネルなどは、この表面反射を軽減し、透過率を増加させることなどを目的に、反射防止効果(光封じ込め効果)をもつ膜(反射防止膜)が成膜される。
そこで、ガラス基板に透明導電膜(例えば、ZnOにAlを添加して形成されたAZO透明導電膜)を形成したものと、これにフッ素系高分子膜を成膜したものそれぞれについて、反射防止効果の差異を検証するために実験を行った。
図6(a)は、ガラス基板に透明導電膜を形成し、さらにフッ素系高分子膜を成膜したものの縦断面模式図である。具体的には、下地膜(SiO_2コーティング:50nm)を介して透明導電膜(AZO:800nm)が形成されたガラス基板に、フッ素系高分子膜(図中Rf-6蒸着膜と標記)を100[nm]成膜している。この実験では、フッ素系高分子膜の表面に光(可視光)を当て、その反射光の観測を行った。

【0045】
図6(b)に示すグラフは、フッ素系高分子膜の有無による反射率の違いを、紫外可視分光光度計で観測した結果である。図6(b)のグラフでは、縦軸は反射率[%]とし、横軸を波長[nm]としている。
図6(b)のグラフから明らかなように、フッ素系高分子膜が無いものと比べて、フッ素系高分子膜が有るものは、波長全般において反射率が低くことが見て取れる。ガラス基板に比べてフッ素系高分子膜の屈折率は相対的に低く、これを成膜した効果として反射率の低下している。例えば、500[nm]波長前後では反射率が大凡4%程度低減されている。つまり、反射防止効果という機能を備えたフッ素系高分子膜(機能性膜)の成膜が確認できた。

【0046】
<撥水・撥油性及び膜厚について>
フッ素系高分子膜の特徴の一つに、撥水・撥油性能に優れている点がある。その効果とイオン照射部15に印加する電圧との関係を特定するために、イオン加速電圧を変えて成膜したそれぞれの、膜表面の表面エネルギーを計測して検証を行った。さらに、イオン加速電圧の変化に対する単位時間当たりの堆積膜厚についても検証を行った。
上記した成膜条件において、イオン加速電圧を変え、イオン照射エネルギーを50[eV]から1000[eV]範囲内の特定の値で成膜したものの表面エネルギーを計測して近似値をグラフで示したものが図7(a)である。図7(a)のグラフは、縦軸を表面エネルギー[Surface energy:mJ/m^2]とし、横軸をイオン加速電圧[V]としている。図7(a)のグラフに示す計測結果から明らかなように、イオン加速電圧の増加に伴い、フッ素系高分子膜の表面エネルギーも増加していることが見て取れる。表面エネルギーが増加するとともに、撥水・撥油性は低下するため、イオン加速電圧の増加に伴い、当該膜の撥水・撥油性は低下することが確認できた。

【0047】
また、上記した成膜条件において、イオン加速電圧を変えて成膜し、それぞれの単位時間当たりの堆積膜厚を計測して近似値をグラフで示したものが図7(b)である。図7(b)のグラフは、縦軸を膜厚[nm]とし、横軸をイオン加速電圧[V]としている。
図7(b)のグラフに示す計測結果から明らかなように、イオン加速電圧の増加に伴い、単位時間当たりに堆積される膜厚も増加していることが見て取れる。イオン加速電圧が増加することで、フッ素系モノマーの重合反応も促進されることが確認できた。

【0048】
これらの検証結果から、例えばイオンの加速電圧を100[V]にして成膜すれば、フッ素系モノマーの重合反応を十分に促進するとともに、撥水・撥油性を備えたフッ素系高分子膜(機能性膜)を成膜することができることが確認された。
なお、無機素材から成る基板(例えばガラス基板)では特に、膜の表面エネルギーが低い場合には平坦な膜ができにくいことが知られている。そこで、成膜開始時には高いイオン加速電圧でイオンを照射し、成膜終了時には低いイオン加速電圧となるように制御して、膜表面の平坦化を図ることもできる。

【0049】
<傾斜機能について>
これまでの検証結果から、イオン加速電圧を変えることで、膜の表面エネルギーが制御できたり、界面の密着強度が制御できたり、反射防止効果の向上を図ったりすることができることが確認できた。ここでさらに、イオン加速電圧を変えることで、フッ素系高分子膜の屈折率への影響について検証を行った。
図8(a)に示すグラフは、成膜していないガラス基板(図中:ガラス基板)と、成膜開始から終了までの間、イオン加速電圧を100[V]一定にしてフッ素系高分子膜を100[nm]成膜したもの(図中:イオン加速電圧100V)、同様にイオン加速電圧を300[V]一定にしてフッ素系高分子膜を100[nm]成膜したもの(図中:イオン加速電圧300V)、また、成膜開始から終了までの間、イオン加速電圧を300[V]から0[V]まで一定の割合で減少させてフッ素系高分子膜を100[nm]成膜したもの(図中:傾斜機能膜)の反射率を、それぞれ紫外可視分光光度計で観測した結果である。図8(a)のグラフは、縦軸は反射率[%]とし、横軸を波長[nm]としている。

【0050】
図8(a)のグラフに示す計測結果から明らかなように、成膜していないガラス基板そのものは4%を超える反射率であり、これに比べて少なくともフッ素系高分子膜が成膜されていれば反射率は低下し、反射防止効果が高まることが見て取れる。また、イオン加速電圧が一定のものそれぞれを比較すると、イオン加速電圧が高い方が、低い方と比べて反射防止効果が若干低下することが見て取れる。さらに、イオン加速電圧を一定の割合で減少させて成膜したものは、イオン加速電圧一定のものと比べてさらに高い反射防止効果を示していることが見て取れる。

【0051】
これらの観測結果に基づき、フレネルの式を用いて屈折率を算出した。
イオン加速電圧100[V]で成膜したものの屈折率の算出結果は1.386、同様に300[V]で成膜したものの屈折率の算出結果は1.395であった。さらに、イオン加速電圧を0[V]で成膜したものを紫外可視分光光度計で観測し、フレネルの式を用いて屈折率を算出した結果は1.368であった。また、成膜していないガラス基板の屈折率の算出結果は1.524であった。
この様に、イオン加速電圧の変に応じて、任意の屈折率をもつフッ素系高分子膜(機能性膜)を成膜することができることが確認できた。つまり、イオン加速電圧を制御することにより、より効率良く光を封じ込めるため、ガラス基板側から膜表面に向けて高屈折率から低屈折率へと屈折率が連続して遷移する傾斜機能を備えたフッ素系高分子膜を成膜することができることが確認できた。

【0052】
成膜開始時点の加速電圧(300[V])を一定割合で減少させ、成膜終了時点の加速電圧が0[V]となるように制御して成膜された傾斜機能を備るフッ素系高分子膜を模式的に示したものが図8(b)である。図8(b)に示すフッ素系高分子膜では、ガラス基板と膜との界面では高い密着性が確保され(イオン加速電圧300[V]で成膜)、当該膜内は界面から膜表面に向かって高屈折率から低屈折率へと遷移する傾斜機能を備え、当該膜の表面では優れた撥水・撥油効果(イオン加速電圧0[V]で成膜)を備える。

【0053】
<膜の平坦性について>
イオン照射のスパッタリング効果による膜表面の平坦化について、追加的にイオン照射を行ったものと、そうでないものとを比較して検証を行った。成膜においてフッ素系モノマーの供給停止と同時に、イオン照射の停止を行ったものの膜表面の顕微鏡像が図9(a)中の撮像36であり、部分的にさらに拡大したものが撮像37である。また、フッ素系モノマーの供給停止後、さらにイオン照射のみ5分間継続したものの膜表面の顕微鏡像が図9(b)中の撮像38であり、部分的にさらに拡大したものが撮像39である。
図9(a)、(b)それぞれに示す撮像を比較すると、撮像36、37には多く見受けられる島状構造が、撮像38、39では潰れているのが見て取れる。この様に、蒸着終了後に追加的にイオン照射を行うことで、膜表面の平坦性の改善を図ることができる。

【0054】
以上の各検証結果から、成膜の際にイオン照射を行うことにより、無溶媒にてフッ素系高分子膜を成膜でき、また、イオン加速電圧を変えることで界面の密着性の向上、膜の表面エネルギーの低減による撥水性の向上、膜の平坦性の向上、優れた反射防止効果などを備えたフッ素系高分子膜を成膜することができることが確認できた。さらに、成膜開始から終了までの間、イオン加速電圧を一定の割合で減少させて成膜することにより、傾斜機能を備えたフッ素系高分子膜を成膜することができることが確認できた。
なお、上記した中のある機能に着目したフッ素系高分子膜の成膜はもとより、これらの機能全てを備えたフッ素系高分子膜を成膜することもできる。

【0055】
このように、本実施形態例の成膜装置1は、真空容器10内で基板ホルダ11に保持された基板Wの被処理面に向けてフッ素系モノマーを供給して蒸着させるとともに、当該被処理面に向けてイオン照射部15よりイオン照射を行うよう構成されている。これにより、基板Wの被処理面の汚染や不純物が除去され表面改質が施されるとともに、当該基板W及び成膜中の膜面に高分子重合反応の開始点となる化学的活性点を形成し、フッ素系モノマーの重合を促進することで界面での密着性の高いフッ素系高分子膜を成膜することができる。また、基板ホルダ11に接続された温調機構の働きにより、基板Wの温度を成膜に適した温度とすることが容易になる。

【0056】
また、制御部20がイオン加速電圧を制御し、イオンの照射エネルギー又は照射量を変化させることにより、フッ素系高分子膜が傾斜機能、すなわち界面から膜表面に向かって高屈折率から低屈折率へと遷移する遷移層となるように成膜することができる。

【0057】
また、フッ素系モノマーの供給停止後、さらに制御部20がイオン照射部15を制御してイオン照射を所定時間継続させることにより、イオン照射で生じるスパッタリング効果を利用してフッ素系高分子膜の表面を平坦化することができる。

【0058】
また、制御部20が位置決め機構を制御することで、基板Wのサイズ(厚みや直径、形状など)が変わった場合であっても柔軟に成膜条件を変更することが可能となり、段取り換えにかかる時間を低減することができる。

【0059】
[第2実施形態]
次に、フィルム状の基材表面に成膜する、いわゆるロール・ツー・ロールと呼ばれる方式に適用した場合の実施形態例を説明する。
図10は、第2実施形態の成膜装置の構成例を示す略縦断面図であり、主として特徴的な部分を掲示してある。第1実施形態例の成膜装置1との主たる違いは、処理対象がフィルム状基材(例えばPET基材)であり、その一方の表面を被処理面(成膜面)とする点、フッ素系モノマーの加熱方法などである。以下、これら相違点を中心に詳細に説明をする。

【0060】
第2実施形態に係る成膜装置2は、図示しない排気手段に接続された真空容器40と、この真空容器40内部に配置され、成膜前のフィルム状基材Fが巻かれているロール41と、成膜後のフィルム状基材Fを巻き取るためのロール42、成膜の際のフィルム状基材Fを保持するドラム43、フィルム状基材Fのテンション(引っ張り)を一定に保つためのガイドロール44、供給されたモノマーを加熱するための加熱ヒータ45、そのフッ素系モノマーを供給するためのモノマー供給管46、イオンを照射するための照射管47を主として備えている。制御部50は、これら構成それぞれの動作を統括的に制御する。

【0061】
ドラム43は、図示しない温調機構に接続されており、成膜の際のフィルム状基材Fの温度管理、例えば制御部50の指示によりフィルム状基材Fの被処理面を-10[℃]まで冷却する。
ロール41、42、ドラム43は図示しないモータに接続されている。制御部50がモータに指示を出すことで、フィルム状基材Fの搬送の開始又は停止、搬送速度が制御される。この搬送速度は、予め設定されているフッ素系高分子膜の成膜に適した条件を満たす速度である。

【0062】
加熱ヒータ45は、制御部50からの指示を受けて、供給されたフッ素系モノマーを所定の温度(例えば90℃)に達するまで加熱し、当該モノマーを蒸発させる。これにより、被処理面に向けてフッ素系モノマーが供給される。

【0063】
制御部50により各構成機器が制御されることにより、ドラム43に保持されたフィルム状基材Fの被処理面に蒸発したフッ素系モノマーが到着して蒸着が開始されるとともに、当該被処理面に向けてイオン照射が行われる。その結果、フィルム状基材Fの被処理面にフッ素系高分子膜が成膜される。

【0064】
このように成膜装置2は、フィルム状の基材であってもその表面に効率良くフッ素系高分子膜を成膜することができる。

【0065】
[変形例]
第1実施形態の成膜装置1及び第2実施形態の成膜装置2において、予め被処理面に微細パターン(例えば、微細な凸凹の繰返しパターン)を形成し、この被処理面にフッ素系高分子膜を成膜する構成を採用しても良い。これにより、反射防止機能を備えるとともに、微細パターンにより汚染されにくい、耐候性にも優れた機能性膜を成膜することができる。また、微細パターンが形成された板状の基材やフィルム状の基材の他、円筒形状の基材の外周面を被処理面として成膜することもできる。

【0066】
なお、これらの実施形態例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲が、これら実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0067】
1、2・・・成膜層位置、10、40・・・真空容器、11・・・基板ホルダ、12・・・蒸発源、13・・・バルブ、14・・・導入管、15・・・イオン照射部、20、50・・・制御部、41、42・・・ロール、43・・・ドラム、44・・・ガイドロール、45・・・加熱ヒータ、46・・・モノマー供給管、47・・・照射管。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図10】
6
【図5】
7
【図6】
8
【図9】
9