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明細書 :超音波信号処理システム、超音波信号処理方法及び超音波信号解析プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3660999号 (P3660999)
公開番号 特開2005-055250 (P2005-055250A)
登録日 平成17年4月1日(2005.4.1)
発行日 平成17年6月15日(2005.6.15)
公開日 平成17年3月3日(2005.3.3)
発明の名称または考案の名称 超音波信号処理システム、超音波信号処理方法及び超音波信号解析プログラム
国際特許分類 G01N 29/22      
FI G01N 29/22 501
請求項の数または発明の数 12
全頁数 14
出願番号 特願2003-285028 (P2003-285028)
出願日 平成15年8月1日(2003.8.1)
審査請求日 平成15年8月1日(2003.8.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】田中 正吾
【氏名】松原 篤
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
【識別番号】100108855、【弁理士】、【氏名又は名称】蔵田 昌俊
【識別番号】100075672、【弁理士】、【氏名又は名称】峰 隆司
【識別番号】100109830、【弁理士】、【氏名又は名称】福原 淑弘
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
審査官 【審査官】神谷 直慈
参考文献・文献 特開2001-337077(JP,A)
特開2001-083126(JP,A)
調査した分野 G01N 29/00-29/28
特許請求の範囲 【請求項1】
検査対象の所定領域に対して超音波を照射し当該検査対象からの反射波を受波する超音波センサによって得られる反射信号を処理する信号処理システムであって、前記反射信号から、時変バイアスに関する低周波信号を除去するフィルタ手段と、前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に基づいて、前記検査対象内の情報を表示する表示手段と、を具備することを特徴とする超音波信号処理システム。
【請求項2】
前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に含まれる多重反射波に基づいて、前記所定領域内に存在するクラック、空洞その他の異常箇所の位置を推定する推定手段をさらに具備し、
前記表示手段は、前記検査対象内の情報として、前記異常箇所の位置情報を表示すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波信号処理システム。
【請求項3】
前記フィルタ手段は、
前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して順方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第1の信号を取得する順方向フィルタ手段と、
前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して逆方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第2の信号を取得する逆方向フィルタ手段と、
前記第1の信号と前記第2の信号とを加算して平均化する加算手段と、
を具備することを特徴とする請求項1又は2記載の超音波信号処理システム。
【請求項4】
前記フィルタ手段は、バタワース型バンドパスフィルタ又はチェビシェフ型バンドパスフィルタであることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の超音波信号処理システム。
【請求項5】
検査対象の所定領域に対して超音波を照射し当該検査対象からの反射波を受波する超音波センサによって得られる反射信号を処理するための方法であって、前記反射信号から、時変バイアスに関する低周波信号を除去するステップと、前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に基づいて、前記検査対象内の情報を表示するステップと、
を具備することを特徴とする超音波信号処理方法。
【請求項6】
前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に含まれる多重反射波に基づいて、前記所定領域内に存在するクラック、空洞その他の異常箇所の位置を推定するステップをさらに具備し、
前記表示するステップにおいては、前記検査対象内の情報として、前記異常箇所の位置情報を表示すること、
を特徴とする請求項5記載の超音波信号処理方法。
【請求項7】
前記時変バイアスに関する信号を除去するステップは、
前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して順方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第1の信号を取得するステップと、
前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して逆方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第2の信号を取得するステップと、
前記第1の信号と前記第2の信号とを加算して平均化するステップと、
を具備することを特徴とする請求項5又は6記載の超音波信号処理システム。
【請求項8】
前記時変バイアスに関する信号を除去するステップでは、バタワース型バンドパスフィルタ又はチェビシェフ型バンドパスフィルタを使用することを特徴とする請求項5乃至7のうちいずれか一項記載の超音波信号処理方法。
【請求項9】
コンピュータに、検査対象の所定領域に対して超音波を照射し当該検査対象からの反射波を受波する超音波センサによって得られる反射信号を解析させるためのプログラムであって、前記反射信号から、時変バイアスに関する低周波信号を除去するフィルタ機能と、 前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に基づいて、前記検査対象内の情報を表示する表示機能と、を実現させるための超音波信号解析プログラム。
【請求項10】
前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に含まれる多重反射波に基づいて、前記所定領域内に存在するクラック、空洞その他の異常箇所の位置を推定する推定機能をコンピュータにさらに実現させ、
前記表示機能により、前記検査対象内の情報として、前記異常箇所の位置情報が表示されること、
を特徴とする請求項9記載の超音波信号解析プログラム。
【請求項11】
前記フィルタ機能は、
前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して順方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第1の信号を取得する順方向フィルタ機能と、
前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して逆方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第2の信号を取得する逆方向フィルタ機能と、
前記第1の信号と前記第2の信号とを加算して平均化する加算機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする請求項9又は10記載の超音波信号解析プログラム。
【請求項12】
前記時変バイアスに関する信号を除去する機能は、バタワース型バンドパスフィルタ又はチェビシェフ型バンドパスフィルタにより実現されることを特徴とする請求項9乃至11のうちいずれか一項記載の超音波信号解析プログラム。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を使用した非破壊検査において使用される超音波信号処理システム、超音波信号処理方法及び超音波信号解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、金属等からなる構造物において発生するクラック、空洞、その他の異常箇所は、壁面の崩壊事故等の原因となる場合がある。この様な事故を未然に防止するため、事前の検査において構造物内のクラック等を早期に発見し、修理する必要がある。しかしながら、これら構造物内部の異常箇所は肉眼で見ることができず、その発見は容易ではない。
【0003】
この様な構造物内部の異常を診断する代表的な手法として、超音波センサを使用した超音波検査がある。これは、検査対象に対して超音波パルスを照射し、その反射波(受信信号)の波形によって対象物内部のクラック、空洞、金属疲労等の存在、位置等を調査するものである。これらの異常が適切な深さにある場合は、検査者は、対象物からの生の受信信号波形(すなわち、積極的な信号処理が実行されていないそのままの受信波形)を目視し、異常波形を発見することで、クラックその他の異常の存在を把握することができる。これにより、対象物内に存在する異常を、非破壊かつ迅速に調査することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、超音波センサによる超音波入射時において、当該センサ特有の低周波数の時変バイアスや特に異常箇所が浅い場合の当該異常箇所からの多重反射波等のため、コンクリート内部のクラックや空洞からの反射波がかき消される場合がある。係る場合には、対象物内の異常の存在を正確に把握することはできず、非破壊検査を高信頼度、高精度で実現することはできない。

【特許文献1】特開2001-201487号。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、超音波による非破壊検査を常に高信頼度、高精度で実現することができる超音波信号処理システム及び超音波信号処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0007】
本発明の第1の視点は、検査対象の所定領域に対して超音波を照射し当該検査対象からの反射波を受波する超音波センサによって得られる反射信号を処理する信号処理システムであって、前記反射信号から、時変バイアスに関する低周波信号を除去するフィルタ手段と、前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に基づいて、前記検査対象内の情報を表示する表示手段と、を具備することを特徴とする超音波信号処理システムである。
【0008】
本発明の第2の視点は、第1の視点に係るシステムであって、前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に含まれる多重反射波に基づいて、前記所定領域内に存在するクラック、空洞その他の異常箇所の位置を推定する推定手段をさらに具備し、前記表示手段は、前記検査対象内の情報として、前記異常箇所の位置情報を表示すること、を特徴とするものである。
【0009】
本発明の第3の視点は、第1又は第2の視点に係るシステムであって、前記フィルタ手段は、前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して順方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第1の信号を取得する順方向フィルタ手段と、前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して逆方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第2の信号を取得する逆方向フィルタ手段と、前記第1の信号と前記第2の信号とを加算して平均化する加算手段と、を具備することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の第4の視点は、第1乃至第3の視点のうち何れかに係るシステムであって、前記フィルタ手段は、バタワース型バンドパスフィルタ又はチェビシェフ型バンドパスフィルタであることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第5の視点は、検査対象の所定領域に対して超音波を照射し当該検査対象からの反射波を受波する超音波センサによって得られる反射信号を処理するための方法であって、前記反射信号から、時変バイアスに関する低周波信号を除去するステップと、前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に基づいて、前記検査対象内の情報を表示するステップと、を具備することを特徴とする超音波信号処理方法である。
【0012】
本発明の第6の視点は、第5の視点に係る方法であって、前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に含まれる多重反射波に基づいて、前記所定領域内に存在するクラック、空洞その他の異常箇所の位置を推定するステップをさらに具備し、前記表示するステップにおいては、前記検査対象内の情報として、前記異常箇所の位置情報を表示すること、を特徴とするものである。
【0013】
本発明の第7の視点は、第5又は第6の視点に係る方法であって、前記時変バイアスに関する信号を除去するステップは、前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して順方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第1の信号を取得するステップと、前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して逆方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第2の信号を取得するステップと、前記第1の信号と前記第2の信号とを加算して平均化するステップと、を具備することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第8の視点は、第5乃至第7の視点のうち何れかに係る方法であって、前記時変バイアスに関する信号を除去するステップでは、バタワース型バンドパスフィルタ又はチェビシェフ型バンドパスフィルタを使用することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第9の視点は、コンピュータに、検査対象の所定領域に対して超音波を照射し当該検査対象からの反射波を受波する超音波センサによって得られる反射信号を解析させるためのプログラムであって、前記反射信号から、時変バイアスに関する低周波信号を除去するフィルタ機能と、前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に基づいて、前記検査対象内の情報を表示する表示機能と、を実現させるための超音波信号解析プログラムである。
【0016】
本発明の第10の視点は、第9の視点に係るプログラムであって、前記時変バイアスに関する信号が除去された前記反射信号に含まれる多重反射波に基づいて、前記所定領域内に存在するクラック、空洞その他の異常箇所の位置を推定する推定機能をコンピュータにさらに実現させ、前記表示機能により、前記検査対象内の情報として、前記異常箇所の位置情報が表示されること、を特徴とするものである。
【0017】
本発明の第11の視点は、第9又は第10の視点に係るプログラムであって、前記フィルタ機能は、前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して順方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第1の信号を取得する順方向フィルタ機能と、前記超音波プローブが受波した反射波に基づく前記反射信号を時間に対して逆方向にフィルタリングすることで、前記時変バイアスに関する信号が除去された第2の信号を取得する逆方向フィルタ機能と、前記第1の信号と前記第2の信号とを加算して平均化する加算機能と、をコンピュータに実現させることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第12の視点は、第9乃至第11の視点のうち何れかに係るプログラムであって、前記時変バイアスに関する信号を除去する機能は、バタワース型バンドパスフィルタ又はチェビシェフ型バンドパスフィルタにより実現されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
以上本発明によれば、超音波による非破壊検査を常に高信頼度、高精度で実現することができる超音波信号処理システム及び超音波信号処理方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の第1乃至第3の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0021】
第1の実施形態に係る超音波信号処理システムは、センサが超音波を受信する際に発生し、時間的に変化する低周波数ノイズである時変バイアスを、前処理段階で取り除くことにより、高信頼度、高精度の超音波非破壊検査を実現するものである。この時変バイアスは、超音波センサの個々の特性、システムの設定環境(例えば、検査対象と超音波プローブ11との接触状況等)に依存する。これを積極的に取り除くことにより、従来に比してより効果的な検査が可能となる。
【0022】
また、この様に時変バイアスを除去可能な本超音波信号処理システムは、第2又は第3の実施形態で述べるように、他の信号処理方式、例えば後述する多重反射波モデル方式と組み合わせることにより、従来に比してさらに顕著な効果を実現することができる。
【0023】
なお、以下説明を具体的にするため、検査対象はコンクリート構造物であるとし、異常箇所はコンクリート内部のクラックであるとするが、言うまでもなく、本システムの適用対象は、コンクリートに限定されない。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る超音波信号処理システム10の外観図を示した図である。まず、本超音波信号処理システム10の概略を、図1を参照しながら説明する。本超音波信号処理システム10は、超音波プローブ11、超音波センサ本体12、電子計算機20を具備している。なお、超音波センサは、超音波プローブ11と超音波センサ本体12とによって構成されている。
【0025】
超音波プローブ11は、検査対象に当接して使用され、超音波を照射し当該検査対象からの反射波(エコー信号)を受信するためのものである。超音波プローブ11は、駆動信号に基づき超音波を発生し、検査対象からの反射波を電気信号に変換する圧電振動子、当該圧電振動子に設けられる整合層、当該圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有している。当該超音波プローブ11から検査対象に超音波が送波されると、送信超音波は検査対象内の音響インピーダンスの境界において反射され、このときの反射波が超音波プローブ11に受波され、エコー信号として後段の装置に送り出される。
【0026】
超音波センサ本体12は、超音波プローブ11を駆動するための駆動信号を発生し、超音波プローブ11によって受波された反射波に基づくエコー信号を増幅する。
【0027】
電子計算機20は、本超音波信号処理システム10の統括的な制御を行う。また、電子計算機20は、超音波センサ本体12によって増幅されたエコー信号に後述する所定の信号処理を施し、当該エコー信号を表示部に例えば波形として表示する。検査者は、当該波形を観察することで、ある場合には検査対象内に異常が存在するか否かを判定することができる。
【0028】
図2は、本超音波信号処理システム10の機能ブロック図を示している。図2に示すように、本超音波信号処理システム10は、超音波プローブ11、送信部13、受信部14、制御部17、信号処理部19、表示部21、記憶部23、入力ユニット25を具備している。なお、本実施形態においては、送信部13、受信部14については超音波センサ本体12に、制御部17、信号処理部19、表示部21、記憶部23、入力ユニット25については電子計算機20に設けられているものとする。
【0029】
受信部14は、超音波プローブ11からのエコー信号を増幅し、信号処理部19に出力する。
【0030】
制御部17は、システム全体の制御中枢として、本超音波信号処理システム10を静的又は動的に制御する。
【0031】
信号処理部19は、ノイズ成分等を除去するためのフィルタ処理、所定の圧縮処理等を実行する。特に、信号処理部19が有する時変バイアス除去フィルタ190においては、次の様なノイズ成分除去処理が実行される。
【0032】
すなわち、時変バイアス除去フィルタ190は、受信部14から受け取ったエコー信号から、時変バイアス成分を除去するフィルタリングを行う。この時変バイアス除去フィルタ190の構成は、時変バイアス成分を除去するものであれば、どの様なフィルタであってもかまわない。好ましい例として、通常時変バイアス成分が低周波成分であることから、バタワースフィルタ、チェビシェフフィルタ、ハイパスフィルタ等を採用することができる。
【0033】
なお、記述の如く、時変バイアス成分の周波数帯域は、超音波センサの個々の特性、超音波センサの設定環境に依存する。従って、時変バイアス除去フィルタ190の通過帯域は、超音波センサ毎に、さらに好ましくは設定完了後実験開始前に、時変バイアス成分の周波数帯域を測定することによって個別に設定される。
【0034】
表示部21は、信号処理されたエコー信号に基づいて、例えばエコー信号の波形や断層像、異常箇所の位置情報等の検査対象内部に関する情報を表示する。
【0035】
記憶部23は、超音波検査によって得られる各段階でのエコー信号を、必要に応じて記憶する。なお、本超音波システム10による超音波非破壊検査は、リアルタイムでの波形表示を想定しているが、過去に収集されたエコー信号を記憶部23に記憶し、これを利用して事後的に行う構成であってもよい。
【0036】
入力ユニット25は、システム10の本体に接続され、オペレータからの各種指示・命令・情報を装置本体にとりこむための入力装置(マウスやトラックボール、モード切替スイッチ、キーボード等)が設けられる。
【0037】
次に、本超音波信号処理システム10の動作について、図1及び図2を参照しながら説明する。まず、入力ユニット25から適当な入力が入力されると、これに応じたデータ列が送信部13に送信される。送信部13では、このデータ列に基づいて駆動信号(駆動電圧パルス)を発生し、これを所定のタイミングにて超音波プローブ11の各振動素子に印加する。超音波プローブ11からは、印加された駆動信号に基づく超音波が検査対象に対して照射される。
【0038】
照射された超音波は、検査対象内の音響インピーダンスの境界において反射され、反射波として超音波プローブ11に受信される。超音波プローブ11は、この反射波に基づくエコー信号を発生し、当該エコー信号を受信部14に送り出す。
【0039】
受信部14においては、エコー信号が増幅される。増幅されたエコー信号は、信号処理部19に送り出される。
【0040】
信号処理部19では、時変バイアス除去フィルタ190により、エコー信号から時変バイアス成分が除去される。時変バイアス成分が除去されたエコー信号は、表示部21に送り出され、例えば波形として表示される(図4、図6参照)。
【0041】
次に、本超音波信号処理システム10によって収集された信号と、従来のシステムによって収集された信号とを比較し、その差異について検討する。
【0042】
図3は、中心周波数が220kHzである超音波プローブを用いて、従来の超音波信号処理システムにより、コンクリート表面から深さ250mmのクラックから収集された受信信号波形を示した図である。同図に示すように、時変バイアス除去を行っていない受信信号波形(生の受信信号波形)には、負の低周波数の時変バイアス成分が含まれている。従って、この受信信号波形を観察しても、クラックからの反射波が明確でなく、その判断が困難であることがわかる。
【0043】
図4は、中心周波数が220kHzである超音波プローブ11を用いて、本超音波信号処理システム10により、コンクリート表面から深さ250mmのクラックから収集された受信信号波形を示した図である。なお、時変バイアス除去フィルタ190として、カットオフ周波数がそれぞれ40kHz、100kHzの4次のバタワースバンドパスフィルタを用いている。図3に示した受信信号波形と比較すると、時変バイアス成分が除去されている。そのため、クラックからの反射波形(紡錘型振動波形)が従来よりも明確に出現しており、強調されている。従って、当該波形の観察により、その存在を容易に把握することができる。
【0044】
上記図3、図4の実験結果は、クラックがコンクリート表面から比較的深い位置にある場合の例である。次に、クラックがコンクリート表面から比較的浅い位置にある場合について検討する。
【0045】
一般に、クラックがコンクリート表面から比較的浅い位置にある場合には、コンクリート表面とクラックとの間で多重反射が発生する。この多重反射による反射波(多重反射波)は、観察対象である第1反射波(クラックにおいて1回だけ反射された波)と重畳してしまい、その存在を確認することは困難である。
【0046】
しかしながら、本超音波信号処理システム10によれば、フィルタによって時変バイアスを除去できるため、深い位置の検査に限らず、比較的浅い位置の検査においても、従来に比して顕著な効果を得ることができる。以下、その内容を具体的に説明する。
【0047】
図5は、中心周波数が220kHzである超音波プローブを用いて、従来の超音波信号処理システムにより、コンクリート表面から深さ42mmのクラックから収集された受信信号波形を示した図である。同図に示す例では、クラックからの第1、第2、第3、第4反射波等がコンクリート表面からの反射波と重なるだけでなく、これらが互いに重なっており、かつ受信信号の前半部分がセンサの飽和特性のため、頭打ちとなっている。更に、これらに時変バイアスが加わっている。そのため、標準的な反射波の形状が見えないことに加え、重なり合った反射波の部分が最初の大きな表面波部分に隠されていることによる計測不能等が発生しやすい。従って、図5の様な従来の受信信号波形を目視するだけでは、正確な異常診断は不可能である。
【0048】
図6は、中心周波数が220kHzである超音波プローブ11を用いて、本超音波信号処理システム10により、コンクリート表面から深さ42mmのクラックから収集された受信信号波形を示した図である。なお、時変バイアス除去フィルタ190は、図4の場合と同様の仕様である。図5に示した受信信号波形と比較すると、時変バイアス成分が除去されているため、幾つかの紡錘振動波形、つまり幾つかの多重反射波が重なった形態にて受信信号波形を収集することができる。従って、比較的浅い位置においても、クラック等からの幾つかの多重反射波の重なりとして受信信号を把握することができ、これにより高精度の検査を実現することができる。なお、この効果は、第2の実施形態で述べるように、本方式と多重反射波モデル方式とを組み合わせると、より一層顕著である。
【0049】
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0050】
本超音波信号処理システムによれば、検査対象物から収集されたエコー信号から時変バイアスを、前処理段階で取り除くことができる。これにより、受信信号波形において、クラックからの反射波形を明確に抽出することができ、高信頼度、高精度の超音波非破壊検査を実現することができる。
【0051】
また、本超音波信号処理システムが実現する前処理は、所定のシステムを既存の設備に実装することにより、簡単かつ低価格で実現することができる。さらに、信号の前処理に関わるものであるから、他の信号処理方式とも組み合わせることが可能であり(例えば後述する実施形態参照)、高い実用性・拡張性を実現することができる。近年、コンクリート構造物の劣化が大きく叫ばれており、21世紀はメンテナンスの時代と言われている。この様な状況において、本超音波信号処理システムの果たす産業的・社会的価値は非常に大きい。
【0052】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る超音波信号処理システム10は、第1の実施形態に係るシステム10と、他の信号処理方式とを組み合わせたものである。他の信号処理方式として、ここでは例えば本発明者によって開発されている多重反射波モデル方式を採用する。
【0053】
(多重反射波モデル方式)
この検査方式は、エコー信号に含まれる多重反射波を利用して、コンクリート表面からクラックまでの距離を求めるものである。すなわち、受信した多重反射波の実波形と予測波形との最適パターンマッチングを実現するクラックまでの一往復伝播時間を計算機により求め、このときの往復伝播時間により、コンクリート表面からクラックまでの距離(深度)を求める。
【0054】
ここで、多重反射波とは、コンクリート表面とクラックとの間で発生する反射波を意味する。予測波形の作成は、予め求めた基本となる反射波(基本反射波形という)を一定時間ずつシフトしたものを、適当な重みを乗じて加えることにより求める。第1の実施形態で提案したフィルタを用いれば、受信信号から時変バイアスを除去できるため、この基本反射波形も正確に抽出することができ、この多重反射波モデル方式を効果的に使用するためにも、ここで提案しているフィルタは価値がある。なお、本検査方式については、例えば、文献“田中正吾、山口美由貴、在間秀樹、青柳史郎:信号伝播モデルを用いた超音波センサによるコンクリート構造物の非破壊検査,非破壊検査、Vol.49,No.7,444/452(2000)”、又は文献“田中正吾:多重反射波及び定在波モデルに基づく超音波サンサによるコンクリート構造物の非破壊検査,計測自動制御学会論文集、Vol.37,No.6,484/492(2001)”において、さらに詳しい記載がある。
【0055】
図7は、本実施形態に係る超音波信号処理システム10の機能ブロック図を示している。図2と異なる点は、信号処理部19が多重反射波検査部191をさらに有すること、及び記憶部23内に予め用意された多重反射波作成に用いられる基本反射波の波形情報がさらに格納されていることである。なお、この波形情報は、プローブ毎に予め実験等を行うことにより求められる。
【0056】
多重反射波検査部191は、増幅後のエコー信号に含まれる多重反射波と計算機により作成された予測波形との最適パターンマッチングを実現するクラックまでの一往復伝播時間を求める。また、多重反射波検査部191は、求めた往復伝播時間より深度を計算し、この深度を当該検査対象内のクラックの位置と判定し、表示部21に送り出す。このクラックの位置(深度)は、検査対象内の情報として表示部21に表示される。
【0057】
本超音波信号処理システム10では、検査対象物から収集されたエコー信号から時変バイアスを、前処理段階で取り除くことに加えて、得られた受信信号に多重反射波モデル方式を適用することにより、クラックの存在を高信頼度・高精度に認識し、その位置を推定している。この様に、時変バイアス除去を、他の信号処理方式と併用することで、目視等の人為的作業に頼ることなく、解析診断プログラムにより第1、第2、第3、第4反射波を明確かつ客観的に識別することができ、高精度な異常診断を実現することができる。発明者らの実験によれば、例えば、中心周波数が220kHzである超音波プローブ11を用いて、本超音波信号処理システム10により、コンクリート表面から深さ42mmのクラックの位置を、コンクリート表面から45mmとして高い精度にて診断することができた。
【0058】
(第3の実施形態)
一般に、超音波プローブからの受信信号波形をバンドパスフィルタに通すと、フィルタ特性のため、時間の遅れが発生する。そのため、クラックや空洞からの反射波は、本来よりも若干遅れた時刻にフィルタ出力に現れることになり、異常箇所の位置決定に際し誤差を生じさせる原因となる。
【0059】
第3の実施形態に係る超音波信号処理システム10は、このフィルタ処理に基づく信号の遅れを解消する機能を有するものであり、第1及び第2の何れの実施形態に係るシステムにも適用可能なものである。図8は、本実施形態に係る超音波信号処理システム10の信号処理部19の構成を示した図である。同図に示すように、本超音波信号処理システム10の信号処理部19は、順方向時変バイアス除去フィルタ190a、逆方向時変バイアス除去フィルタ190b、加算器190cを有している。
【0060】
順方向時変バイアス除去フィルタ190aは、受信部14からの生の受信信号波形データを、時間に対して順方向にフィルタリングし、時変バイアスを取り除く。
【0061】
逆方向時変バイアス除去フィルタ190bは、受信部14からの生の受信信号波形データを、時間に対して逆方向にフィルタリングし、時変バイアスを取り除く。
【0062】
加算器190cは、順方向時変バイアス除去フィルタ190aからの出力波形(順方向の出力波形)と、逆方向時変バイアス除去フィルタ190bからの出力波形(順方向の出力波形)とを足し合わせて平均化し、当該平均化した信号を後段の装置に出力する。
【0063】
この様な構成によれば、受信信号波形データを時間的に(時間の順方向に)フィルタに通して得られる出力波形と、逆時間に(時間の逆方向に)フィルタに通して得られる出力波形とを足し合わせ平均した波形を活用し、上記時間の遅れを解消させることができる。さらに、第2の実施形態で述べた多重反射波モデル方式を併用すると、より顕著な効果を得ることができる。
【0064】
この様に、本超音波信号処理システムによれば、順方向の出力波形と逆方向の出力波形との平均波形と多重反射波モデル方式とを併用することで、従来に比してクラック等の位置計測を高精度で実現することができる。
【0065】
以上、各実施形態に従って、本発明の実現手段を説明した。本実施形態で説明した各手法は、当該手法を実現する機能を有する装置のほか、当該手法をコンピュータに実行させるプログラムによって、パーソナルコンピュータやワークステーション等によっても実現することができる。この場合、コンピュータに当該方法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピーディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することができる。
【0066】
また、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその趣旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上本発明によれば、超音波による非破壊検査を常に高信頼度、高精度で実現することができる超音波信号処理システム及び超音波信号処理方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る超音波信号処理システム10の外観図を示した図である。
【図2】図2は、第1の実施形態に係る超音波信号処理システム10の機能ブロック図を示している。
【図3】図3は、従来の超音波信号処理システムによって収集された受信信号波形の一例を示した図である。
【図4】図4は、本超音波信号処理システム10によって収集された受信信号波形の一例を示した図である。
【図5】図5は、従来の超音波信号処理システムによって収集された受信信号波形の他の例を示した図である。
【図6】図6は、本超音波信号処理システムによって収集された受信信号波形の他の例を示した図である。
【図7】図7は、第2の実施形態に係る超音波信号処理システム10の機能ブロック図を示している。
【図8】図8は、第3の実施形態に係る超音波信号処理システムの信号処理部の構成を示した図である。
【符号の説明】
【0069】
10…超音波信号処理システム
11…超音波プローブ
13…送信部
14…受信部
17…制御部
19…信号処理部
21…表示部
23…記憶部
25…入力ユニット
190…時変バイアス除去フィルタ
191…多重反射波検査部
191a…順方向時変バイアス除去フィルタ
190b…逆方向時変バイアス除去フィルタ
190c…加算器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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