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明細書 :塩味増強剤及び塩味増強方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4845067号 (P4845067)
公開番号 特開2011-072307 (P2011-072307A)
登録日 平成23年10月21日(2011.10.21)
発行日 平成23年12月28日(2011.12.28)
公開日 平成23年4月14日(2011.4.14)
発明の名称または考案の名称 塩味増強剤及び塩味増強方法
国際特許分類 A23L   1/221       (2006.01)
C12Q   1/527       (2006.01)
FI A23L 1/221 C
C12Q 1/527
請求項の数または発明の数 2
全頁数 11
出願番号 特願2010-193173 (P2010-193173)
出願日 平成22年8月31日(2010.8.31)
優先権出願番号 2009201316
優先日 平成21年9月1日(2009.9.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年10月28日(2010.10.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505195384
【氏名又は名称】国立大学法人奈良女子大学
発明者または考案者 【氏名】植野 洋志
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100101362、【弁理士】、【氏名又は名称】後藤 幸久
審査官 【審査官】渡邉 潤也
参考文献・文献 特開2002-165577(JP,A)
特開2006-347968(JP,A)
特開平07-289214(JP,A)
特開昭61-257155(JP,A)
特開2000-083654(JP,A)
特開2007-022917(JP,A)
特開2004-000180(JP,A)
化学と生物,2009 Jun,47(6),p.370-2
日本味と匂学会誌,2007,14(3),p.435-8
調査した分野 A23L 1/22-1/24
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ67の活性促進成分を有効成分として含有する塩味増強剤であって、クミン、パプリカ、バジル、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガから選択される1以上を水及び/又は親水性溶媒で抽出することにより得られる抽出物を含む塩味増強剤。
【請求項2】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ67の活性促進作用を指標とする塩味増強剤の選抜方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食物に添加することにより飲食物の塩味を増強して、結果として使用する塩化ナトリウムの添加量を低減することができる塩味増強剤、該塩味増強剤を含む飲食物、前記塩味増強剤を飲食物に添加する塩味増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ナトリウムは、体液の塩分濃度やpHを調整する働きや、他の栄養素の消化吸収を助ける働き、筋肉の伸縮と神経伝達を助ける働き等を有し、人間の生理機能を正常に働かせるために必要不可欠である。また、飲食物に塩味を付与して美味しく調味する目的、飲食物の保存性の向上や物性改善などを目的として広く一般に用いられている。しかし、その過剰摂取は高血圧、心臓疾患、腎臓疾患等の原因となることから、急激に高齢化が進む現代社会において、食塩の摂取量を低減する必要性が高まっている。塩化ナトリウムの摂取量は、健康な成人の場合、一日あたり、男性で10g未満、女性で8g未満が好ましく、高血圧患者の場合は7g以下、腎臓疾患の患者で5~8g以内に制限することが好ましいとされているが、先進国における塩化ナトリウム摂取量は当該基準量より多いのが現状である。そこで、塩分の摂取量を抑制しつつ、食事を美味しくするため、塩化ナトリウムの代替品や塩味増強剤の開発が強く望まれている。
【0003】
塩化ナトリウムの代替品により塩味を補充する方法としては、塩化カリウムや硫酸マグネシウムを用いる方法が知られている。しかし、何れも苦み又はエグ味などの素材由来の不快味があり、減塩と美味しさの両立ができていない点が問題である。さらに、塩化カリウムについては、カリウムの過剰摂取が高カリウム血症の原因となり、不整脈や心停止を引き起こす危険性が存在するという別の問題点も指摘されている。
【0004】
一方、塩味増強剤としては、アミノ酸、乳酸ナトリウム、トレハロース、γ-アミノ酪酸と有機酸又はその塩との組合せ、スピラントールとアリウム属植物抽出物との組合せ等が知られている(特許文献1、2、3、4、5)。しかしながら、効果が一定していない、苦みや酸味等の異味を呈する、入手や調製が容易ではない等の問題があり、産業上広く使用された例はない。
【0005】
これまで、産業上、汎用な塩味増強剤が開発されてこなかった根本的な原因は、塩味増強の分子レベルでの指標が見いだされていなかったことによる。従って、塩味増強の分子レベルでの指標を見いだし、より実用的且つ効果的な塩味増強剤の開発に応用することが強く望まれている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2002-345430号公報
【特許文献2】特開2008-54661号公報
【特許文献3】特開平10-66540号公報
【特許文献4】特許第4128892号公報
【特許文献5】特開2006-296357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、飲食物の風味を良好に維持しつつ、その塩味を効果的に増強させて、結果的に塩化ナトリウム添加量を削減することができる塩味増強剤、該塩味増強剤を含有する飲食物又は医療用食品、該塩味増強剤を用いた塩味増強方法の提供を課題とする。
また、上記塩味増強剤を、手間と時間がかかる官能試験に依らず明確な指標で容易且つ効率的に選抜する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、舌のIII型味蕾細胞に存在するグルタミン酸デカルボキシラーゼの活性が塩味と相関関係があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ67の活性促進成分を有効成分として含有する塩味増強剤であって、クミン、パプリカ、バジル、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガから選択される1以上を水及び/又は親水性溶媒で抽出することにより得られる抽出物を含む塩味増強剤であ
【0011】
さらにまた本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ67の活性促進作用を指標とする塩味増強剤の選抜方法である。
尚、本明細書には、上記発明の他に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ促進成分を有効成分として含有する塩味増強剤、植物又は微生物由来の抽出物を含む前記塩味増強剤、抽出物が、クミン、パプリカ、バジル、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガから選択される1以上を水及び/又は親水性溶媒で抽出することにより得られる抽出物である前記塩味増強剤、前記塩味増強剤を含有することを特徴とする飲食物、前記塩味増強剤を飲食物に添加することを特徴とする塩味増強方法、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の促進作用を指標とする塩味増強剤の選抜方法についても記載する。

【発明の効果】
【0012】
本発明に係る塩味増強剤によると、塩化ナトリウムを含有する飲食物に添加することで、塩味を増強させ、結果として使用する塩化ナトリウムを低減することができる。また、一般飲食物だけでなく、塩分の摂取量を制限する必要がある高血圧や腎臓病患者等の飲食物に添加することも可能であり、塩分の摂取量を削減しつつ、美味しい食事を摂ることができ生活の質(QOL)の向上に寄与することができる。
【0013】
また、本発明に係る塩味増強剤の選抜方法によれば、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を指標として、広く天然物、合成物の中から、新規な塩味増強剤を容易且つ迅速に選抜することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】塩味増強効果とグルタミン酸デカルボキシラーゼ活性への影響の相関性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る塩味増強剤は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ促進成分を有効成分として含有することを特徴とする。本発明において、グルタミン酸デカルボキシラーゼ促進作用とは、グルタミン酸デカルボキシラーゼの作用により生成するγ-アミノ酪酸の量(所定の反応時間あたり)を増加させる作用をいう。本発明におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ促進効果としては0%より大きければよく、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上である。

【0016】
高等生物において、グルタミン酸デカルボキシラーゼは、異なった遺伝子によってコードされる2つのアイソフォーム(グルタミン酸デカルボキシラーゼ65とグルタミン酸デカルボキシラーゼ67)が存在するが、本発明に係る塩味増強剤としては、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を促進するものであれば特に限定されることがなく、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65の活性を促進するものであってもグルタミン酸デカルボキシラーゼ67の活性を促進するものであっても、また、両方の活性を促進するものであってもよい。本発明においては、なかでも、味覚の信号伝達に関与するIII型味蕾細胞に発現するグルタミン酸デカルボキシラーゼ67の活性を促進するもの、又はグルタミン酸デカルボキシラーゼ65とグルタミン酸デカルボキシラーゼ67の両方の活性を促進するものが好ましい。

【0017】
本発明に係る塩味増強剤としては、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を促進するものであれば、天然物、合成物の何れであっても特に限定されるものではない。天然物としては、例えば植物、微生物、又は動物由来の抽出物を挙げることができる。なお、本発明において、塩味増強剤が天然物である場合、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の促進作用としては、乾燥重量1.0~4.0mgあたり、0%より大きければよく、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上であり、特に好ましくは、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の促進作用が、乾燥重量1.0mgあたり、0%より大きければよく、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上である。また、塩味増強剤が合成物の場合は、上記乾燥重量に代えて当該重量あたりとする。

【0018】
「植物」とは、食経験のある植物組織及び植物体の由来であることを指し、その可食部位は特に限定されるものではなく、葉、葉柄、茎、根、花、果実(果菜を含む)、種実、種子、豆類等のいずれであっても良い。その対象植物種としては、例えば、アサノミ、アサフェチダ、アジョワン、アニス、アンゼリカ、ウイキョウ、ウコン、オレガノ、オールスパイス、オレンジノピール、カショウ、カッシア、カモミール、カラシナ、カルダモン、カレーリーフ、カンゾウ、キャラウェー、クチナシ、クミン、クレソン、クローブ、ケシノミ、ケーパー、コショウ、ゴマ、コリアンダー、サッサフラス、サフラン、サボリー、サルビア、サンショウ、シソ、シナモン、ジュニパーベリー、ショウガ、スターアニス、スペアミント、セイヨウワサビ、セロリー、ソーレル、タイム、タマリンド、チャイブ、ディル、トウガラシ、ナツメグ、ニガヨモギ、ニジェラ、ニンジン、バジル、パセリ、ハッカ、バニラ、パプリカ、ヒソップ、フェネグリーク、ホースミント、ホースラディッシュ、マジョラム、ミョウガ、ラベンダー、リンデン、レモンバーム、ローズ、ローズマリー、ローレル、ワサビなどの香辛料原料となる植物;イタリアンパセリ、ジンジャー、タイム、ソレル、チコリ、スイスチャード、ナスタチウム、フェンネル、マジョラムなどのハーブ植物(但し、香辛料となる植物は除く);アシタバ、アセロラ、アロエ、アンズ、イチョウ、ウメ、クコ、ゲッケイジュ、コムギ、ザクロ、ダイオウ、ダイズ、ドクダミ、トチュウ、ハトムギ、ビワ、ベニバナ、ヨーロッパカンゾウ、ヨモギギクなどの薬用植物(但し、香辛料原料となる植物及びハーブ植物は除く);オレンジ、グレープフルーツ、ライム、レモン等の果実類、スプラウト(例えば、アルファルファ、カイワレ、ブロッコリースプラウト、クレススプラウト、マスタードスプラウトなど)、トマト、ニンジン、ダイコンなどの野菜類、トウモロコシ、イネ等の穀物類などの一般食に用いられる植物(但し、香辛料原料となる植物、ハーブ植物及び薬用植物は除く)等を挙げることができる。

【0019】
また「微生物」とは、食経験のある細菌類、菌類の由来であることを指し、該微生物の構成成分、該微生物の代謝産物を含む。その対象微生物、特に細菌類としては、例えば、バチルス属等の枯草菌、ラクトバチルス属等の乳酸菌、アセトバクター属等の酢酸菌などを挙げることができる。また、本発明の対象微生物、特に菌類としては、例えば、サッカロマイセス属等の酵母;クロレラ属、セネデスムス属、ミクロシスチス属、アンキストロデスムス属、ゴレンキニア属、セレナストルム属、プロトシフォン属、クロロコックム属、グラミドモナス属、ヘマトコッカス属、ユーグレナ属、ボトリオコッカス属、スピルリナ属、ナンノクロロプシス属、シネココッカス属等の藻類;ペニシリウム属、アスペルギルス属、トリコデルマ属菌等の糸状菌;椎茸、ヒラ茸、マイ茸、エノキ茸、シメジ茸、ヤマブシ茸、セイヨウショウロ(トリュフ)、マンネン茸、ブクリョウ、コフキサルノコシカケ、カワラ茸などの担子菌;アミガサ茸などの子嚢菌などを挙げることができる。

【0020】
動物由来の抽出物としては、食経験のある動物由来の抽出物であればよく、例えば、クリーム、チーズ、バター、ミルク、ヨーグルトなど乳系の抽出物等を挙げることができる。

【0021】
合成物としては、例えば、ラクトン類、テルペン系炭化水素等を挙げることができる。

【0022】
本発明に係る塩味増強剤としては、消費者の天然志向の高さから天然物であることが好ましく、なかでも植物又は微生物由来の抽出物を含有することが好ましい。また、入手が容易で、従来から食経験があり、広く使用されてきているため、安全、安心な汎用素材として産業上広く使用することができる点で、香辛料原料となる植物の抽出物を含有することが好ましく、特に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の促進作用が強い点で、バジル(Ocimum basilicum)、パプリカ(Capsicum annuum cv.)、クミン(Cuminum cyminum)、ケシノミ(Papaver somniferum)、パセリ(Petroselium crispum)、アニス(Pimpinella anisum)、メース(Myristiba fragrans)、ショウガ(Zingiber officinale)から選択される1以上の抽出物を含むこと好ましく、特に、クミン(Cuminum cyminum)抽出物を含むこと好ましい。

【0023】
上記の塩味増強剤は、あらゆる公知技術を用いて製造することができる。天然物の抽出物の製造方法としては、例えば、植物の場合、原料となる植物を乾燥し、粉砕した後、溶媒、好ましくは、水、親水性溶媒、又は水と親水性溶媒の混合液で抽出する方法などを挙げることができる。また、抽出は、バッチ式、複数バッチ式、連続式等のいずれで行ってもよい。使用する親水性溶媒は特に制限はなく、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の1価のアルコール;プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の親水性有機溶媒を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。水と親水性溶媒の混合液を用いる場合、混合比は、例えば、水/親水性溶媒(重量比)=1/99~99/1、好ましくは10/90~95/5、さらに好ましくは30/70~95/5程度である。本発明においては、なかでも、抽出溶媒として水、又は水と親水性溶媒の混合溶媒を使用することが安全性の観点から好ましい。

【0024】
また、天然物の抽出物の抽出温度としては、原料となる天然物の種類に応じて適宜調整することができ、例えば、0℃以上、好ましくは20℃以上である。なお、抽出温度の上限は200℃である。さらに、天然物の抽出物の抽出時間としては、抽出温度などにより適宜調整することができ、速やかに抽出してもよく、1分以上をかけて抽出してもよい。例えば、90~100℃の熱水で抽出する場合は、1分~10分程度、水抽出の場合は、8~14時間程度が好ましい。抽出時間が上記範囲を下回ると、抽出効率が低下する傾向がある。

【0025】
本発明に係る塩味増強剤は、塩味を必要とする飲食物等に添加することにより使用することができる。添加する飲食物等としては、例えば、一般食材や食品、及び飲料全般(例えば、塩、味噌、醤油、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、だしの素等の調味料、菓子類、加工食品、コンビニエンスストア等で販売される弁当、総菜などの調理済み食品);病院食、介護食等の医療用食材や食品;生活習慣病対策用食材や食品;高齢者用食材や食品等;経腸栄養剤、輸液製剤などの医薬品などを挙げることができる。その添加量は必要に応じて適宜調整することができる。

【0026】
本発明に係る塩味増強剤は、単独で使用してもよく、他の添加物と任意に組み合わせて使用してもよい。組み合わせることができる他の添加物としては、周知慣用の添加物を特に限定されることなく使用することができ、例えば、糖質、脂質、タンパク質、タンパク質分解物、アミノ酸、核酸、香辛料、香料、調味料、酵母エキス、着色料、酸化防止剤、乳化剤、増粘剤等を挙げることができる。

【0027】
本発明に係る塩味増強剤は、従来にない分子レベルの指標であるグルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の評価により、広く天然物、合成物の中から選抜することができる。すなわち、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を促進(0%より大きく、好ましくは、5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上促進)するものを選抜することで、容易且つ効率的に新規な塩味増強剤を選抜することが可能となる。

【0028】
具体的な選抜方法は、グルタミン酸デカルボキシラーゼを含有する酵素液に、天然物及び/又は合成物の中から選択した少なくとも一つを添加した場合と、添加しなかった場合とでグルタミン酸デカルボキシラーゼの作用により生成したγ-アミノ酪酸量(所定の反応時間あたり)を比較してグルタミン酸デカルボキシラーゼ活性に及ぼす影響を測定し、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を促進する作用を有するものを塩味増強剤として選抜する方法である。

【0029】
前記選抜方法によれば、コスト及び時間を要する官能試験によらず塩味増強作用を数値化して比較検討することが容易であり、優れた塩味増強剤を速やかに、且つ効率的、効果的に選抜することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
調製例1(グルタミン酸デカルボキシラーゼ粗酵素液の調製)
GST融合タンパク質発現用のベクター(pGEX 4T-2)にラット脳由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ67を組み込んだものを、大腸菌(Rosetta-gamiB(DE3)pLysS、Novagen社製)に形質転換して、LB培地(Luria-Bertani medium)に植菌し、200rpm、37℃で一晩培養した。その後、IPTG(Isopropyl-β-D-thio-galactopy ranocide)を加え(最終濃度:1mM)、16時間誘導を行った。
その後、集菌し、生理食塩水:菌が1:1となるように懸濁し、超音波で破砕し、遠心分離して上清を採取することにより、グルタミン酸デカルボキシラーゼを含む粗酵素液を得た。
【実施例】
【0032】
実施例1
乾燥させたクミンシード(ハウス食品(株)製)1gを粉砕し、水を10mL加え、4℃に保持した状態で一晩撹拌したものを遠心分離し、その上清を分取し、凍結乾燥することによりクミンシード抽出物を0.15g得た。得られたクミンシート抽出物を水2mLに溶解させ、クミンシート抽出液を得た。
【実施例】
【0033】
実施例2
乾燥させたクミンシードの代わりに、乾燥させたパプリカ実(ハウス食品(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして、パプリカ実抽出物0.11gを得た。得られたパプリカ実抽出物を水2mLに溶解させ、パプリカ実抽出液を得た。
【実施例】
【0034】
実施例3
乾燥させたクミンシードの代わりに、乾燥させたバジル葉(ハウス食品(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして、バジル葉抽出物0.13gを得た。得られたバジル葉抽出物を水2mLに溶解させ、バジル葉抽出液を得た。
【実施例】
【0035】
実施例4
乾燥させたクミンシードの変わりに、乾燥させたケシノミを使用した以外は実施例1と同様にしてケシノミ抽出液を得た。
【実施例】
【0036】
実施例5
乾燥させたクミンシードの変わりに、乾燥させたアニスを使用した以外は実施例1と同様にしてアニス抽出液を得た。
【実施例】
【0037】
実施例6
乾燥させたクミンシードの変わりに、乾燥させたパセリを使用した以外は実施例1と同様にしてパセリ抽出液を得た。
【実施例】
【0038】
実施例7
乾燥させたクミンシードの変わりに、乾燥させたメースを使用した以外は実施例1と同様にしてメース抽出液を得た。
【実施例】
【0039】
実施例8
乾燥させたクミンシードの変わりに、乾燥させたショウガを使用した以外は実施例1と同様にしてショウガ抽出液を得た。
【実施例】
【0040】
比較例1
乾燥させたクミンシードの代わりに、乾燥させたレモングラス葉(ハウス食品(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして、レモングラス葉抽出物0.16gを得た。得られたレモングラス葉抽出物を水2mLに溶解させ、レモングラス葉抽出液を得た。
【実施例】
【0041】
比較例2
乾燥させたクミンシードの代わりに、乾燥させたウーロン茶葉(ハウス食品(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして、ウーロン茶葉抽出物0.15gを得た。得られたウーロン茶葉抽出物を水2mLに溶解させ、ウーロン茶葉抽出液を得た。
【実施例】
【0042】
比較例3
乾燥させたクミンシードの代わりに、乾燥させたペパーミント(ハウス食品(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして、ペパーミント抽出液を得た。
【実施例】
【0043】
参考例
上記実施例1と同様にして、その他多くの天然物についても抽出液を得た。
【実施例】
【0044】
評価
実施例、比較例及び参考例で得られた抽出液について、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性に及ぼす影響を以下の方法で測定した。
500mMのHEPES緩衝液(pH7.0)100μLと、実施例又は比較例又は参考例で得られた抽出液50μL、基質である1MのL-グルタミン酸ナトリウム溶液5μL、補酵素である100mMのピリドキサール5’-リン酸溶液2μL、及び調製例1で得られたグルタミン酸デカルボキシラーゼ粗酵素液400μLを加えた後、イオン交換水で全量を1mLに調整した。その後、37℃で30分間反応させた後、60%過塩素酸溶液40μLを加えて反応を停止し、グルタミン酸デカルボキシラーゼの作用により生成したγ-アミノ酪酸量をHPLC法により測定した。
【実施例】
【0045】
また、実施例又は比較例又は参考例で得られた抽出液を添加しなかった以外は上記と同様にして生成したγ-アミノ酪酸量を測定し、比較することで抽出物のグルタミン酸デカルボキシラーゼ活性促進効果を下記式により求めた。
グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性促進効果(%)={(抽出液を添加した場合の反応後のγ-アミノ酪酸量)-(反応系中に元々含有するγ-アミノ酪酸量)}/{(抽出液を添加しなかった場合の反応後のγ-アミノ酪酸量)-(反応系中に元々含有するγ-アミノ酪酸量)}×100-100
【実施例】
【0046】
<HPLC条件>
HPLC測定はポストカラム誘導法により、O-フタル酸溶液をカラムからの溶出液と反応するようにし、O-フタル酸誘導体として検出した。
カラム:強陽イオン交換樹脂、商品名「Shodex CXpak」(昭和電工社製)
溶出液:0.2N-クエン酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)
流速:0.3ml/min
検出:330nm(励起波長)、465nm(測定波長)
【実施例】
【0047】
上記結果を下記表1にまとめて示す。なお、表中のGADはグルタミン酸デカルボキシラーゼを意味する。
【表1】
JP0004845067B2_000002t.gif
【実施例】
【0048】
また、実施例及び比較例で得られた抽出液の塩味増強作用について、習熟した16名のパネリストにより官能試験を行った。すなわち、実施例及び比較例で得られた抽出液約2mLを1~2秒間口に含んだ後(舌に転がす程度)、0.8%食塩水溶液を味わった際の塩味について、抽出物を口に含む前に味わった0.8%食塩水溶液との塩味の感じ方について「強まった」、「変わらない」、「弱まった」の何れに該当するかを判断し、塩味を「強まった」と感じたパネリストの割合から、「弱まった」と感じたパネリストの割合を引いた値を塩味増強効果(%)とした。
【実施例】
【0049】
上記の結果を下記表2にまとめて示す。なお、表中のGADはグルタミン酸デカルボキシラーゼを意味する。
【表2】
JP0004845067B2_000003t.gif
【実施例】
【0050】
また、実施例及び比較例の結果について、塩味増強効果(%)を縦軸に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性に及ぼす影響を横軸に取り、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性と塩味増強作用についての関連性を、図1に示す。
【実施例】
【0051】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を抑制するウーロン茶葉、レモングラス葉、ペパーミントの抽出物を口に含んだ後には、塩味が「弱まった」と感じる人の割合が「強まった」と感じる人の割合に勝ったのに対し、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を促進するクミンシード、パプリカ実、バジル葉、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガの抽出物を口に含んだ後では、塩味が「強まった」と感じる人の割合が「弱まった」と感じる人の割合に勝った。また、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性をより促進する作用を有するものは、より優れた塩味増強作用を有する傾向があることがわかった。すなわち、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性と塩味増強効果には相関関係があることが明らかとなった。
【実施例】
【0052】
以上の結果より、本発明者は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性促進成分を有効成分として含有する塩味増強剤を見出した。そして、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を促進するものを選抜することにより、コストと時間がかかる官能試験を実施せずとも容易に且つ効率的に優れた塩味増強剤を見出すことができることを見出した。
図面
【図1】
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