TOP > 国内特許検索 > 食肉の加熱処理状況の判定方法、食肉の加熱処理状況の判定装置及びプログラム > 明細書

明細書 :食肉の加熱処理状況の判定方法、食肉の加熱処理状況の判定装置及びプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-095230 (P2016-095230A)
公開日 平成28年5月26日(2016.5.26)
発明の名称または考案の名称 食肉の加熱処理状況の判定方法、食肉の加熱処理状況の判定装置及びプログラム
国際特許分類 G01N  21/65        (2006.01)
G01N  33/12        (2006.01)
G01N  21/359       (2014.01)
FI G01N 21/65
G01N 33/12
G01N 21/359
請求項の数または発明の数 17
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2014-231539 (P2014-231539)
出願日 平成26年11月14日(2014.11.14)
発明者または考案者 【氏名】竹山 春子
【氏名】細川 正人
【氏名】浜口 宏夫
【氏名】安藤 正浩
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100131381、【弁理士】、【氏名又は名称】黒田 雄一
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
2G059
Fターム 2G043AA01
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA05
2G043DA01
2G043EA03
2G043FA05
2G043HA04
2G043JA01
2G043KA01
2G043KA09
2G043LA01
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB11
2G059CC13
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE12
2G059GG01
2G059HH01
2G059KK01
要約 【課題】食肉試料の加熱処理状況を、SDS-PAGEのような従来方法より高効率高精度で判定する。
【解決手段】試料10を1分間加熱温度既知の食肉の参照用サンプルとして、発光/受光部110によりコヒーレント光を試料10に照射してラマン散乱光を含む散射光を受光し、データ採取部130がスペクトルのデータを採取して特定部150がアミド1バンドのピーク位置を特定する。特定部150は、タンパク質由来の指標ピークを持ち脂質由来の指標ピークの強度が基準以下のスペクトルのデータを1分間加熱温度に対応付けて参照テーブルとして保持部170に格納する。試料10を1分間加熱温度未知の食肉の被検サンプルとして、特定部150はデータ採取部130が採取した被検サンプルのスペクトルのデータからアミド1バンドのピーク位置を特定し、判定部180が保持部170に格納された参照テーブルを参照して対応する1分間加熱温度を判定する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
食肉の参照用サンプルを振動スペクトル分光分析法における分析対象として、前記参照用サンプルの加熱処理状況を変えながらスペクトルのデータを採取する第1のステップと、
前記採取されたスペクトルのデータから、前記加熱処理状況の個々の条件に対応して前記参照用サンプルに含まれるタンパク質由来のスペクトル軸における個々のピーク位置を特定する第2のステップと、
前記加熱処理状況の個々の条件に対応する前記個々のピーク位置をプロットすることによって得られた参照テーブルを保持する第3のステップと、
食肉の被検サンプルを対象として、前記振動スペクトル分光分析法を用いて前記被検サンプルに含まれるタンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定する第4のステップと、
前記参照テーブルを参照して、前記被検サンプルの特定されたピーク位置から前記被検サンプルの加熱処理状況を判定する第5のステップと
を含むことを特徴とする食肉の加熱処理状況の判定方法。
【請求項2】
前記振動スペクトル分光分析法を用いてスペクトルのデータを採取する第1のステップと前記タンパク質由来のピーク位置を特定する第2のステップの間に、前記採取されたスペクトルのデータのうちタンパク質由来の指標ピークの強度が第1の基準を下回り、又は脂質由来の指標ピークの強度が第2の基準を超えるデータを棄却するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の食肉の加熱処理状況の判定方法。
【請求項3】
前記振動スペクトル分光分析法は、ラマン分光分析法又は赤外吸収分光分析法のいずれか1であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の食肉の加熱処理状況の判定方法。
【請求項4】
前記タンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置は、ペプチド結合における分子の振動に起因するアミド1バンド、アミド2バンド又はアミド3バンドのいずれか1であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の食肉の加熱処理状況の判定方法。
【請求項5】
前記加熱処理状況は、加熱温度、加熱時間又はそれらの組み合わせによって表されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の食肉の加熱処理状況の判定方法。
【請求項6】
前記第1の基準は、前記振動スペクトル分光分析法における計測及び分析の条件を一定にして得られる前記タンパク質由来の指標ピークの強度の絶対値において定めたことを特徴とする請求項2に記載の食肉の加熱処理状況の判定方法。
【請求項7】
前記第2の基準は、前記脂質由来の指標ピーク及び前記タンパク質由来のピーク若しくは指標ピークの強度比において定め、又は前記振動スペクトル分光分析法における計測及び分析の条件を一定にして得られる前記脂質由来の指標ピークの強度の絶対値において定めたことを特徴とする請求項2に記載の食肉の加熱処理状況の判定方法。
【請求項8】
前記第1ないし第5のステップが実施された後において、さらに、
食肉の前記被検サンプルとは別異の追加サンプルを対象として、前記振動スペクトル分光分析法を用いて前記追加サンプルに含まれるタンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定し、
前記参照テーブルを参照して、前記追加サンプルの特定されたピーク位置から前記追加サンプルの加熱処理状況を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の食肉の加熱処理状況の判定方法。
【請求項9】
食肉のサンプルを振動スペクトル分光分析法における分析対象としてスペクトルのデータを採取することができるデータ採取部と、
前記データ採取部が採取したスペクトルのデータからタンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定することができる特定部と、
前記食肉の参照用サンプルの加熱処理状況が変化する条件下で、前記データ採取部が前記参照用サンプルからスペクトルのデータを採取すると共に前記特定部が前記加熱処理状況の個々の条件に対応して前記タンパク質由来のスペクトル軸における個々のピーク位置を特定した場合において、前記加熱処理状況の個々の条件に対応する前記個々のピーク位置をプロットすることによって得られる参照テーブルを保持することができる保持部と、
前記データ採取部が食肉の被検サンプルからスペクトルのデータを採取すると共に前記特定部が前記タンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定した場合において、前記参照テーブルを参照することにより前記被検サンプルのピーク位置から前記被検サンプルの加熱処理状況を判定することができる判定部を
備えたことを特徴とする食肉の加熱処理状況の判定装置。
【請求項10】
前記特定部はさらに、前記データ採取部が採取したスペクトルのデータのうちタンパク質由来の指標ピークの強度が第1の基準を下回り、又は脂質由来の指標ピークの強度が第2の基準を超えるデータを選別して棄却することができることを特徴とする請求項9に記載の食肉の加熱処理状況の判定装置。
【請求項11】
前記振動スペクトル分光分析法は、ラマン分光分析法又は赤外吸収分光分析法のいずれか1であることを特徴とする請求項9に記載の食肉の加熱処理状況の判定装置。
【請求項12】
前記タンパク質由来のスペクトル軸におけるピークは、ペプチド結合における分子の振動に起因するアミド1バンド、アミド2バンド又はアミド3バンドのいずれか1であることを特徴とする請求項9に記載の食肉の加熱処理状況の判定装置。
【請求項13】
前記加熱処理状況は、加熱温度、加熱時間又はそれらの組み合わせによって表されることを特徴とする請求項9に記載の食肉の加熱処理状況の判定装置。
【請求項14】
前記第1の基準は、前記振動スペクトル分光分析法における計測及び分析の条件を一定にして得られる前記タンパク質由来の指標ピークの強度の絶対値において定めたことを特徴とする請求項10に記載の食肉の加熱処理状況の判定装置。
【請求項15】
前記第2の基準は、前記脂質由来の指標ピーク及び前記タンパク質由来のピーク若しくは指標ピークの強度比において定め、又は前記振動スペクトル分光分析法における計測及び分析の条件を一定にして得られる前記脂質由来の指標ピークの強度の絶対値において定めたことを特徴とする請求項10に記載の食肉の加熱処理状況の判定装置。
【請求項16】
食肉の参照用サンプルを振動スペクトル分光分析法における分析対象として、前記参照用サンプルの加熱処理状況を変えながらスペクトルのデータを採取する第1の処理と、
前記採取されたスペクトルのデータから、前記加熱処理状況の個々の条件に対応して前記参照用サンプルに含まれるタンパク質由来のスペクトル軸における個々のピーク位置を特定する第2の処理と、
前記加熱処理状況の個々の条件に対応する前記個々のピーク位置をプロットすることによって得られた参照テーブルを保持する第3の処理と、
食肉の被検サンプルを対象として、前記振動スペクトル分光分析法を用いて前記被検サンプルに含まれるタンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定する第4の処理と、
前記参照テーブルを参照して、前記被検サンプルの特定されたピーク位置から前記被検サンプルの加熱処理状況を判定する第5の処理と
を、コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項17】
前記振動スペクトル分光分析法を用いてスペクトルのデータを採取する第1の処理と前記タンパク質由来のピーク位置を特定する第2の処理の間に、前記採取されたスペクトルのデータのうちタンパク質由来の指標ピークの強度が第1の基準を下回り、又は脂質由来の指標ピークの強度が第2の基準を超えるデータを棄却する処理をさらに前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項16に記載のプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉の加熱処理状況の判定方法、食肉の加熱処理状況の判定装置及びプログラムに関し、特に振動スペクトル分光分析法を用いて判定するものに関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の食料自給率はカロリーベースで4割程度であり、食料供給のかなりの部分を輸入に頼っている。食肉も、その例外ではない。鶏肉を例にとると、主な輸入先はブラジル、タイ、中国である。その中で、高病原性鳥インフルエンザ発症国として指定された中国産の鶏肉については、日本向けに輸出される家禽肉について、農林水産大臣が指定した施設において一定の加熱処理(中心温度を1分間以上にわたり摂氏70度以上に保つこと)がされたものに限り輸入が認められている。
【0003】
輸入に際しては、到着した貨物について、家畜防疫官が申請書類に基づき当該家禽の防疫上の安全性に係る現物検査を行う。さらに必要な場合には、微生物学的、理化学的等の精密検査が実施される。具体的には、まず目視により当該家禽について加熱処理状況を確認した後、目視判断が難しいものについてSDS-PAGE(硫酸ドデシルNa塩-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を用いてタンパク変性の度合いを確認する。しかし、SDS-PAGEは労力と時間を少なからず要するため、検査実施数に限度がある。したがって、より短時間で効率的に、しかも精度よく加熱処理状況を判定する方法が必要である。
【0004】
食肉に光を照射してその散乱や吸収のスペクトルを観測し、食肉の成分を分析する方法がいくつか知られている。例えば、赤外光を牛肉試料に照射して得られた反射光のスペクトルを分析し、3つの特定の波長における吸光度から試料中の脂肪含有量や鮮度を算出する方法が知られている(例えば特許文献1又は特許文献2参照。)。
【0005】
また、豚肉に近赤外光を照射して所定波長域におけるスペクトルを多変量解析し数学的に分析して、PSE肉と呼ばれる異常肉と正常肉とを判別する方法が知られている(例えば特許文献3参照。)。さらに、近赤外光を食肉試料に照射して生じた反射光及び散乱光を分光分析して、試料の脂肪酸含有量を算出する方法が知られている(例えば特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平9-119894号公報
【特許文献2】特開2003-121351号公報
【特許文献3】特開2002-328088号公報
【特許文献4】特開2009-115669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食肉の加熱処理状況は、加熱によって生じるタンパク質の変性を通して観測可能である。タンパク質を対象として例えばラマン分光分析法を用いると、ペプチド結合のC=O伸縮振動に由来するアミド1のラマン散乱光のピークが、1660cm-1付近の波数域にラマンバンドとして観測される。このアミド1のラマンバンドは、加熱等によってタンパク質が変性することで、ピーク位置がシフトすることが知られている。より広義には、分光分析法によって試料から得られたスペクトル中のタンパク質に由来するピーク位置のシフトを観測することにより、試料の加熱処理状況を判定することができる可能性がある。
【0008】
特許文献1ないし4に開示された従来の技術は、食肉試料における赤外又は近赤外光の吸収のスペクトルから食肉の脂質等の成分や鮮度を分析するものであるが、タンパク質の変性に反応するものではないので、加熱処理状況の判定に用いることはできない。本発明は、上述したようにタンパク質の変性に反応する振動スペクトル分光分析法を用いることにより、食肉試料の加熱処理状況をSDS-PAGEのような従来方法を用いるよりも効率的に、かつ、精度よく判定できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明に係る食肉の加熱処理状況の判定方法は、食肉の参照用サンプルを振動スペクトル分光分析法における分析対象として、前記参照用サンプルの加熱処理状況を変えながらスペクトルのデータを採取する第1のステップと、前記採取されたスペクトルのデータから、前記加熱処理状況の個々の条件に対応して前記参照用サンプルに含まれるタンパク質由来のスペクトル軸における個々のピーク位置を特定する第2のステップと、前記加熱処理状況の個々の条件に対応する前記個々のピーク位置をプロットすることによって得られた参照テーブルを保持する第3のステップと、食肉の被検サンプルを対象として、前記振動スペクトル分光分析法を用いて前記被検サンプルに含まれるタンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定する第4のステップと、前記参照テーブルを参照して、前記被検サンプルの特定されたピーク位置から前記被検サンプルの加熱処理状況を判定する第5のステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る食肉の加熱処理状況の判定装置は、食肉のサンプルを振動スペクトル分光分析法における分析対象としてスペクトルのデータを採取することができるデータ採取部と、前記データ採取部が採取したスペクトルのデータからタンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定することができる特定部と、前記食肉の参照用サンプルの加熱処理状況が変化する条件下で、前記データ採取部が前記参照用サンプルからスペクトルのデータを採取すると共に前記特定部が前記加熱処理状況の個々の条件に対応して前記タンパク質由来のスペクトル軸における個々のピーク位置を特定した場合において、前記加熱処理状況の個々の条件に対応する前記個々のピーク位置をプロットすることによって得られる参照テーブルを保持することができる保持部と、前記データ採取部が食肉の被検サンプルからスペクトルのデータを採取すると共に前記特定部が前記タンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定した場合において、前記参照テーブルを参照することにより前記被検サンプルのピーク位置から前記被検サンプルの加熱処理状況を判定することができる判定部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タンパク質の変性に反応する振動スペクトル分光分析法を用いることにより、試料の加熱処理状況をSDS-PAGEのような従来方法を用いるよりも効率的に、かつ、精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明の実施例に係る判定装置の構成を示す系統図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係る判定方法を説明するフローチャートである。
【図3】図3は鶏肉の産地と加熱温度の組み合わせに6通りの条件を設定して採取したスペクトルのデータを示す。
【図4】図4は参照テーブルを例示する図である。
【図5】図5は鶏肉の産地と加熱温度の組み合わせに図3と同じ条件を設定して脂質を含むサンプルから採取したスペクトルのデータを示す。
【図6】図6はタンパク質に由来する指標ピークが無視できるか又は脂質に由来する指標ピークが含まれるスペクトルのデータを用いて形成した参照テーブルを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明の実施例に係る判定装置100の構成を示す系統図である。図1の左側には、加熱処理状況を判定する対象である試料(例えば鶏肉)10を示している。判定装置100は、振動スペクトル分光分析法の一種であるラマン分光分析法を用いて、試料10の加熱処理状況を判定するものとする。

【0014】
判定装置100は、図1において破線で囲まれた構成を備える。それらの構成は、発光/受光部110と、データ採取部130と、特定部150と、保持部170と、判定部180と、制御監視部190である。なお、上記の各構成は、後述するようにハードウェア又はソフトウェアを含む多様な手段を用いて実現され得るものであって、必ずしも上記の各構成のとおりに明りょうに区画されたハードウェア又はソフトウェアのブロックが存在することを限定的に意味するものではない。

【0015】
発光/受光部110は、各種の商品化されたラマン分光分析装置の光学系に相当するように構成される(ここでは詳しい説明を省略する。)。発光/受光部110は、試料10に対して例えばレーザー光のようなコヒーレント光を照射することができ、試料10から散射されたラマン散乱光を受光することができる。

【0016】
データ採取部130は、発光/受光部110が受光したラマン散乱光を含む光のスペクトルを分析して、ラマンシフトを一方の軸(通常は横軸)及び光の強度を他方の軸(通常は縦軸)とする平面上にプロットする形でスペクトルのデータを採取することができる。ラマンシフトを表す軸は、光の波数、波長又は振動数を表す軸(スペクトル軸と呼ぶ。)の一形態である。

【0017】
特定部150は、データ採取部130が採取したスペクトルのデータから、タンパク質由来のスペクトル軸におけるピーク位置を特定することができる。タンパク質由来のスペクトル軸におけるラマン散乱光のピークは、例えば1660cm-1付近の波数域のアミド1バンド、1540cm-1付近の波数域のアミド2バンド、1240cm-1付近の波数域のアミド3バンドとして観測される。特定部150は、これらの波数域におけるスペクトルのピークに対応するラマンシフトの値(これは、試料10の加熱処理状況に対応するタンパク質の変性度合いにより、変化することが知られている。)を特定することができる。

【0018】
保持部170は、後述する判定部180が判定に当って参照する参照テーブルのデータを保持するものである。いま、試料10が鶏肉の参照用サンプルであって、その加熱処理状況(例えば加熱時間一定の条件下における加熱温度)を変える度に発光/受光部110から試料10を照射してラマン散乱光を受光し、特定部150が例えばアミド1バンドのピーク位置を特定するものとする。そうすると、加熱温度を一方の軸(例えば横軸)、アミド1バンドのピーク位置を他方の軸(例えば縦軸)とする参照テーブルを得ることができる。保持部170は、そのようにして得られた参照テーブルを保持することができる。

【0019】
判定部180は、上記の参照テーブルを参照して、試料10の加熱処理状況(例えば上記の加熱温度)を判定するものである。いま、試料10が鶏肉の被検サンプルであって、その加熱温度が未知であると仮定する。発光/受光部110から試料10を照射してラマン散乱光を受光し、特定部150が例えば上記の被検サンプルについてアミド1バンドのピーク位置を特定したものとする。そうすると判定部180は、保持部170が保持している参照テーブルにおいて、特定部150が特定したアミド1バンドのピーク位置に対応する加熱温度を求めることができる。

【0020】
制御監視部190は、判定装置100の上述した各構成の動作を指示し、またそれらの状態を監視するものである。上述した各構成のうち、発光/受光部110は判定装置100の構成に含まれないとしてもよく、その場合に制御監視部190は図示しない外部インターフェースを通して発光/受光部110の動作を制御し、またその状態を監視することができる。発光/受光部110は一体の光学系として構成されるものとしたが、発光部と受光部が分離して構成されるものとしてもよい。

【0021】
判定装置100の具体的な構成は特定の形態に限定されるものではない。それぞれの部分をハードウェア又はファームウェア主体に構成してもよく、ハードウェア又はファームウェアとソフトウェアを適宜組み合わせてもよく、本発明に係るプログラムを商品化された分光分析装置にインストールしたものであってもよい。

【0022】
図2ないし図6を参照して、本発明の実施例に係る食肉の加熱処理状況の判定方法(又は判定装置100の動作)を説明する。図2は、当該判定方法を説明するフローチャートである。判定の処理を開始すると(START)、制御監視部190はパラメータk(正の整数)に対して初期値として1を与える(ステップS201)。パラメータkの意味するところは、分析の対象とする食肉(例えば鶏肉とする。)に係る参照テーブルがk通りの1分間加熱温度にそれぞれ対応するアミド1バンドのピーク位置を示すということである。なお、制御監視部190はパラメータkの上限値をあらかじめ定めておく。

【0023】
ここでいう参照テーブルについて、図3及び図4を参照して説明する。図3は、鶏肉の産地と1分間加熱温度の組み合わせに6通りの条件を設定して、データ採取部110が採取したスペクトルのデータを示す。図中の横軸はラマンシフト(単位cm-1)を表し、縦軸は相対強度(任意単位)を表す。各データの縦軸の値には、図を見やすくするため適宜バイアスを与えてある。6通りの条件に対して共通に、1660cm-1付近でアミド1のピークが観測されることがわかる。このアミド1のピーク位置を、1分間加熱温度に対応して細かく観察することにより、次に示す図4を得る。

【0024】
図4は、参照テーブルを例示する図である。図4の横軸は加熱温度(摂氏)、縦軸はアミド1バンドのピーク位置(単位はcm-1)を表す。分析対象のサンプルは、中心部を上記の加熱温度に1分間保つことにより加熱されたとの前提である。図4は、未加熱及び1分間加熱温度摂氏40度から90度超の範囲において、全13通りの加熱温度にそれぞれ対応するアミド1バンドのピーク位置が図示の通りであることを示す。図中の各プロットは、丸が国産鶏肉、三角形がブラジル産鶏肉のデータをそれぞれ表す。なお、図4は産地の異なる鶏肉のサンプルから得た2通りの参照テーブルを重ねて表しているが、両者はおおむね一致していることから、いずれか一方又はそれらの平均を参照テーブルとして用いることができる。

【0025】
図2を参照する説明に戻って、ステップS201に続き、k番目の温度値で1分間加熱した参照用サンプルに対してコヒーレント光を照射したとき参照用サンプルから散射される光を発光/受光部110で受光する。データ採取部130は、受光したラマン散乱光を含む光のスペクトルを分析して、スペクトルのデータを採取する(ステップS203)。

【0026】
ここで、採取されたスペクトルのデータにおいてタンパク質に由来する指標ピークが無視できるか又は脂質に由来する指標ピークが含まれる場合の処理について、図5及び図6を併せ参照して説明する(指標ピークとは、スペクトルのデータの採否を判断する指標となるピークを意味し、本実施例ではタンパク質由来及び脂質由来の指標ピークをそれぞれ後述のように設定する。)。図5は、鶏肉の産地と1分間加熱温度の組み合わせに図3と同じ6通りの条件を設定して、脂質を含むサンプルからデータ採取部130が採取したスペクトルのデータを示す。図中の横軸、縦軸及び各データに与えたバイアスについても、図3と同様である。

【0027】
再び図3を参照すると、6通りの条件に対して共通に、1003cm-1付近でタンパク質に由来する指標ピークが観測されることがわかる。さらに、図5に示すように、6通りの条件に対して共通に、1740cm-1付近でエステル結合に由来する指標ピークが観測されることがわかる。一方、図6は、タンパク質に由来する指標ピークが無視できるか又は脂質に由来する指標ピークが含まれるスペクトルのデータを用いて形成した参照テーブルを例示する図である。図6の横軸、縦軸及びプロットの記号の区別は、図4と同じである。図6が示すように、タンパク質に由来する指標ピークが無視できるか又は脂質に由来する指標ピークが含まれるスペクトルのデータを用いて形成した参照テーブルを用いると産地による相違等が顕著に表れるため、1分間加熱温度に対応するアミド1バンドのピーク位置の判定における誤差が図4の参照テーブルを用いる場合に比べて大きいことがわかる。

【0028】
そこで図2を参照する説明に戻って、ステップS203に続き、採取された参照用サンプルのスペクトルにタンパク質に由来する指標ピークが含まれるか否かを特定部150が判断する(ステップS204)。特定部150は、例えば分光分析における計測及び分析の条件(例えばレーザー光の強度、サンプルに対する照射の位置関係等)を一定にした場合のフェニルアラニンに由来するピークを指標ピークとして、その強度の絶対値が所与の基準を下回るか否かに基づいてこの判断を行うことができる。

【0029】
タンパク質由来の指標ピークが無視できないと判断すれば(ステップS204の“NO”)、特定部150は、採取された参照用サンプルのスペクトルに脂質に由来する無視できない程度の指標ピークが含まれるか否かを判断する(ステップS205)。特定部150は、例えば図5に示したエステル結合に由来するピークを指標ピークとして、その強度のアミド1バンドにおけるピーク強度に対する比が所与の基準を超えるか否かに基づいてこの判断を行うことができる。このほか特定部150は、例えば分光分析における計測及び分析の条件(例えばレーザー光の強度、サンプルに対する照射の位置関係等)を一定にした場合のエステル結合に由来する指標ピーク強度の絶対値が、所与の基準を超えるか否かに基づいてこの判断を行うことができる。

【0030】
特定部150は、k番目の温度値で1分間加熱した参照用サンプルから採取されたスペクトルのデータにおいてタンパク質由来の指標ピークが無視でき(ステップS204の”YES”)、又は基準を超える強度を持つ脂質由来の指標ピークが含まれると判断すれば(ステップS205の”YES”)、当該データを棄却して(ステップS207)、計測の条件(例えばサンプルに対する光の照射部位)変更のうえで改めてステップS203を実行する。

【0031】
一方、特定部150は、k番目の温度値で1分間加熱した参照用サンプルから採取されたスペクトルのデータにおいてタンパク質由来の指標ピークが無視できず(ステップS204の”NO”)、かつ、基準を超える強度を持つ脂質由来の指標ピークが含まれないと判断すれば(ステップS205の”NO”)、そのデータにおけるアミド1のピーク位置を特定すると共にk番目の温度値に対応付けて保持部170に記録する(ステップS209)。

【0032】
次に制御監視部190は、パラメータkが予め定めた上限値に等しいかどうかを判断する(ステップS211)。もし等しくなければ、制御監視部190はkに1を加算して(ステップS213)、ステップS203に戻る。もし等しければ、ステップS215に進む。

【0033】
パラメータkが上限値に達したところで、図4に示した横軸の加熱温度の範囲で所定数の温度値に対応するアミド1バンドのピーク位置のデータが得られた。制御監視部190は、これを参照テーブルとして保持部170に格納する(ステップS215)。上述したようにタンパク質由来の指標ピークを無視できるか又は脂質由来の指標ピークを含むスペクトルのデータを棄却することにより、図4に示したように産地等による相違が相対的に小さく再現性のよい参照テーブルを得ることができる。

【0034】
なお、例えば参照用サンプルの成分の組成が均質であるような場合は、参照用サンプルのスペクトルにおいてタンパク質由来の指標ピークが無視できることはなく、かつ、脂質由来の指標ピークが問題となる程度には観測されないことも考えられる。そのような場合には、図2におけるステップS204、S205及びS207を省いてもよい。

【0035】
以上述べたように参照テーブルが保持部170に格納されたので、次に1分間加熱温度が未知である鶏肉の被検サンプルを分析の対象とする。被検サンプルに対してコヒーレント光を照射したとき参照用サンプルから散射される光を発光/受光部110で受光する。データ採取部130は、受光したラマン散乱光を含む光のスペクトルを分析して、被検サンプルのスペクトルのデータを採取する(ステップS217)。

【0036】
特定部150は、被検サンプルのスペクトルのデータにおけるアミド1のピーク位置を特定する。判定部180は、特定されたアミド1のピーク位置に基づき保持部170に格納された参照テーブルを参照して、対応する1分間加熱温度を判定する(ステップS219)。なお、ステップS217とS219の間にステップS204、S205及びS207と同様の処理ステップを設けて、被検サンプルのスペクトルのデータにおいてタンパク質由来の指標ピークが無視できたり基準を超える脂質由来の指標ピークが含まれたりする場合には、当該データを棄却するようにしてもよい。

【0037】
図4で表される参照テーブルを用いた場合には、被検サンプルのスペクトルのデータにおけるアミド1のピーク位置が1658cm-1であったとすれば、1分間加熱温度は摂氏60度をやや下回る程度と判定され、前述した我が国において輸入鶏肉に適用される基準値に照らせば不合格である。一方、当該ピーク位置が1661cm-1であったとすれば、1分間加熱温度は摂氏85度程度と判定され、上記の基準値に照らして合格とされる。参照テーブルのデータを保持部170に格納した後は、被検サンプルに光を照射して得られる散射光のスペクトルを分析するだけで、極めて迅速かつ簡便にこのような合否判定を行うことができる。

【0038】
本願発明者らの実施例では、国産(吉備高原どり、赤鶏さつま)及びブラジル産の鶏もも肉約30gをサンプルとして、その中心温度を計測しながら、摂氏40度ないし95度のそれぞれの温度で1分間湯煎により加熱した。加熱後、中心付近で肉片を切断し、ポータブルラマン分光計を用いて断面25点ずつのラマンスペクトルを測定した。使用したレーザー波長は785nm、出力は300mWを用いた。その後、上述したように、得られたスペクトルからタンパク質のフェニルアラニン由来のラマンバンド(1003cm-1)を指標にタンパク質を含まない点で測定したスペクトル及び脂質中のエステル結合由来のラマンバンド(1740cm-1)を指標に脂質を多く含む点で測定したスペクトルを除外し、残ったスペクトルについてアミド1のラマンバンド(1660cm-1)のピーク位置を算出した。その結果、全ての産地、品種において加熱温度上昇に伴い、アミド1のピーク位置が高波数側にシフトすることが示され、産地、品種間においてピーク位置に大きな違いがないことが明らかになった。

【0039】
以上に説明した本発明の実施例によれば、食肉の参照用サンプルから採取したスペクトルのデータに基づく参照テーブルのデータを保持することにより、食肉の被検サンプルの加熱処理状況を迅速かつ簡便に判定することができる。なお、本願発明の技術的範囲は、上記の実施例に限定されるものではない。サンプルは鶏肉に限らず、食肉全般に適用することができる。分光分析法はラマン分光分析法に限らず、タンパク質の変性度合いに反応する振動スペクトル分光分析法であれば適用することができる。

【0040】
さらに、加熱処理状況は1分間加熱温度に限らず、他の方法で規定した加熱温度、加熱温度一定の条件での加熱時間、又は加熱温度と加熱時間の組み合わせにより規定されるパラメータであってもよい。スペクトルの測定点数、照射光の波長、出力等は、計測の条件に応じて適宜選択してもよい。タンパク質由来のスペクトルの指標ピークは、フェニルアラニンに由来するもの以外であってもよい。脂質由来のスペクトルの指標ピークは、エステル結合に由来するもの以外であってもよい。ピーク位置を求めるタンパク質由来のピークは、アミド1バンドに限るものではない。
【符号の説明】
【0041】
10 試料
100 判定装置
110 発光/受光部
130 データ採取部
150 特定部
170 保持部
180 判定部
190 監視制御部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5