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明細書 :環境ストレス耐性を付与する遺伝子及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-103994 (P2016-103994A)
公開日 平成28年6月9日(2016.6.9)
発明の名称または考案の名称 環境ストレス耐性を付与する遺伝子及びその利用
国際特許分類 A01H   5/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI A01H 5/00 ZNAA
C12N 15/00 A
C12N 5/00 103
A01H 1/00 A
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 25
出願形態 OL
全頁数 36
出願番号 特願2015-142503 (P2015-142503)
出願日 平成27年7月16日(2015.7.16)
優先権出願番号 2014235085
優先日 平成26年11月19日(2014.11.19)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】武田 真
【氏名】服部 束穂
【氏名】黒谷 賢一
【氏名】市川 裕章
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】501167644
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業生物資源研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2B030
4B024
4B063
4B065
Fターム 2B030AA02
2B030AB03
2B030AD04
2B030AD05
2B030CA11
2B030CA14
2B030CB01
4B024AA05
4B024AA07
4B024CA01
4B024CA04
4B024CA09
4B024CA11
4B024CA20
4B024DA01
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA01
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ04
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX01
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AA89X
4B065AA89Y
4B065AB01
4B065AC01
4B065AC08
4B065BA01
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA53
要約 【課題】植物体に対してより実用的な環境ストレス耐性を付与可能な遺伝子及びその利用を提供する。
【解決手段】Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子サブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子サブグループとからなる遺伝子グループから選択される第2の遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子が増強されている植物体を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される第2の遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強されている植物体。
【請求項2】
環境ストレス耐性が増強された、請求項1に記載の植物体。
【請求項3】
塩ストレス耐性が増強された、請求項1又は2に記載の植物体。
【請求項4】
さらに、他の環境ストレス耐性が増強された、請求項3に記載の植物体。
【請求項5】
前記第1の遺伝子の発現が増強された、請求項1~4のいずれかに記載の植物体。
【請求項6】
前記第1の遺伝子は、少なくともOs12g0150200及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる群から選択される、請求項5に記載の植物体。
【請求項7】
前記第1の遺伝子は、以下の(a)~(f)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の植物体。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質
(d)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコートされるタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質
(f)配列番号1で表される塩基配列又は相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質
【請求項8】
前記第2の遺伝子の発現が増強されている、請求項1~7のいずれかに記載の植物体。
【請求項9】
少なくともOs04g0584800遺伝子の発現が増強されている、請求項8に記載の植物体。
【請求項10】
前記第2の遺伝子は、以下の(a)~(f)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の植物体。
(a)配列番号26で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号26で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質
(c)配列番号26で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質
(d)配列番号25で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコートされるタンパク質
(e)配列番号25で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質
(f)配列番号25で表される塩基配列又は相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質
【請求項11】
双子葉植物であることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の植物体。
【請求項12】
ダイズであることを特徴とする、請求項11に記載の植物体。
【請求項13】
単子葉植物であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の植物体。
【請求項14】
イネ科植物であることを特徴とする請求項13に記載の植物体。
【請求項15】
イネであることを特徴とする請求項14に記載の植物体。
【請求項16】
サトウキビであることを特徴とする請求項14に記載の植物体。
【請求項17】
トウモロコシであることを特徴とする、請求項14に記載の植物体。
【請求項18】
植物体に対して環境ストレス耐性を付与するための発現ベクターであって、
Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子を含む、ベクター。
【請求項19】
請求項18に記載の発現ベクターを含む、形質転換体。
【請求項20】
請求項18に記載の発現ベクターを含む、形質転換植物。
【請求項21】
Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子であって内在性又は外来性の遺伝子を増強する工程、
を備える、植物体への環境ストレス耐性の付与方法。
【請求項22】
Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子であって内在性又は外来性の遺伝子を増強する工程、
を備える、植物体の生産方法。
【請求項23】
Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を指標として交配による植物体を選抜する工程、
を備える、植物体の生産方法。
【請求項24】
作物の生産方法であって、
請求項1~17のいずれかに記載の植物体である作物を栽培する工程、を備える、方法。
【請求項25】
Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を指標として、1又は2以上の植物体をスクリーニングする工程と、
前記1種又は2種以上の遺伝子の発現レベルの高い前記植物体の耐塩性を評価する工程と、
を備える、植物体のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書は、環境ストレス耐性を付与可能な遺伝子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、その繁殖と生育とが保護管理され、作物として農業に利用されている。作物の収量や品質は、気候変動によって大きな影響を受ける。近年、気候の変動要因が地球規模で増大してきており、気候変動にかかわらず安定した食糧供給を確保することが求められている。
【0003】
気候変動に起因しうる各種のストレスとしては、例えば、高温、低温、乾燥、冠水、塩分等が挙げられる。
【0004】
こうしたストレスに耐性のある植物としては、例えば、耐塩性を発現させた形質転換植物体が開示されている(特許文献1)。また、乾燥ストレス耐性を発現させた形質転換植物体も開示されている(特許文献2)。
【0005】
一方、植物がなんらかのストレスを受けた際、誘導される植物ホルモンの一つとしてジャスモン酸がある。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2004-329210号公報
【特許文献2】特表2014-520527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
気候変動の予測はある程度可能であるものの完全に予想することは極めて困難である。また、実際の作物の栽培においては、複数の環境ストレスに同時に曝されることが多い。そうすると、作物は、一つのストレスのみならず複数のストレスに対する耐性を備えている必要がある。しかしながら、こうした複数のストレスに耐性を備える植物の作製は困難と考えられており、実現した例は極めて少ない。
【0008】
また、本発明者らによれば、従来の汎用されている実験室内レベルのストレス耐性の評価結果は、必ずしも実際のストレス耐性と相関しているわけではなかった。すなわち、実験室レベルの評価で肯定的評価が得られたとしても、さらに実用レベルの評価では逆の評価結果が得られることもあった。
【0009】
さらに、ジャスモン酸はストレス時に誘導されるものの、ジャスモン酸及びその共役体のストレス時における役割はよくわかっていない。
【0010】
本明細書は、植物体に対してより実用的な環境ストレス耐性を付与可能な遺伝子及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、イネ完全長cDNAの個別過剰発現(FOX)イネ系統を利用して、耐塩性等を示す複数のFOXイネ系統に導入されている複数の遺伝子を新たに同定した。さらに、本発明者らは、これらの耐塩性候補遺伝子に対するFOXイネ系統を用いた各種ストレス耐性試験の結果、より実用的なレベルでの塩ストレス耐性に寄与し、あるいは他の環境ストレスにも耐性を示しうる遺伝子を特定できた。本明細書は、こうした知見に基づき、以下の手段を提供する。
【0012】
(1)Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強された植物体。
(2)環境ストレス耐性が増強された、(1)記載の植物体。
(3)塩ストレス耐性が増強された、(1)又は(2)に記載の植物体。
(4)さらに、他の環境ストレス耐性が増強された、(3)に記載の植物体。
(5)前記第1の遺伝子の発現が増強された、(1)~(3)のいずれかに記載の植物体。
(6)前記第1の遺伝子は、少なくともOs12g0150200遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる群から選択される、(5)に記載の植物体。
(7)前記第1の遺伝子は、以下の(a)~(f)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の植物体。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質
(d)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコートされるタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質
(f)配列番号1で表される塩基配列又は相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質
(8)前記第2の遺伝子の発現が増強されている、(1)~(7)のいずれかに記載の植物体。
(9)少なくともOs04g0584800遺伝子の発現が増強されている、(8)に記載の植物体。
(10)前記第2の遺伝子は、以下の(a)~(f)のいずれかのタンパク質をコードする、(1)~(9)のいずれかに記載の植物体。
(a)配列番号26で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号26で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質
(c)配列番号26で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質
(d)配列番号25で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコートされるタンパク質
(e)配列番号25で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質
(f)配列番号25で表される塩基配列又は相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質
(11)双子葉植物であることを特徴とする、(1)~(10)のいずれかに記載の植物体。
(12)ダイズであることを特徴とする、(11)に記載の植物体。
(13)単子葉植物であることを特徴とする、(1)~(10)のいずれかに記載の植物体。
(14)イネ科植物であることを特徴とする、(13)に記載の植物体。
(15)イネであることを特徴とする、(14)に記載の植物体。
(16)サトウキビであることを特徴とする、(14)に記載の植物体。
(17)トウモロコシであることを特徴とする、(14)に記載の植物体。
(18)植物体に対して環境ストレス耐性を付与するための発現ベクターであって、
Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子を含む、ベクター。
(19)(18)に記載の発現ベクターを含む、形質転換体。
(20)(18)に記載の発現ベクターを含む、形質転換植物。
(21)Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子であって内在性又は外来性の遺伝子を増強する工程、
を備える、植物体への環境ストレス耐性の付与方法。
(22)Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子であって内在性又は外来性の遺伝子を増強する工程、
を備える、植物体の生産方法。
(23)Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子サブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子サブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を指標として交配による植物体を選抜する工程、
を備える、植物体の生産方法。
(24)作物の生産方法であって、
(1)~(17)のいずれかに記載の植物体である作物を栽培する工程、を備える、方法。
(25)Os12g0150200遺伝子、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子のサブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を指標として、1又は2以上の植物体をスクリーニングする工程と、
前記1種又は2種以上の遺伝子の発現レベルの高い前記植物体の耐塩性を評価する工程と、
を備える、植物体のスクリーニング方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】シロイヌナズナのCYP94C1(AT2g27690)とイネのホモログの分子系統樹(上)とアミノ酸配列アライメント(下)を示す図である。
【図1B】シロイヌナズナのCYP94C1(AT2g27690)とイネのホモログであるOs12g0150200のアミノ酸配列のアライメントを示す図である。
【図2A】種々のイネ完全長cDNA過剰発現(FOX)イネ系統の耐塩性評価結果を示す図である。
【図2B】野生型、CYP94C2b FOXイネ系統(系統名:FE047)、及び別途作出した3系統のCYP94C2b過剰発現イネ系統の耐塩性評価結果を示す図である。
【図2C】野生型及びCYP94C2b過剰発現系統イネ(FE047)の耐塩性評価結果(ダメージ度)を示す図である。
【図2D】野生型及びCYP94C2b過剰発現系統イネ(FE047)の耐塩性評価結果(生存率)を示す図である。
【図2E】野生型及びCYP94C2b過剰発現系統イネ(FE047)の耐塩性評価結果(稔実数)を示す図である。
【図2F】CYP94C2b過剰発現系統イネ(FE047)の耐塩性評価結果(外観)を示す図である。
【図3】傷処理後に誘導されるジャスモン酸、活性型ジャスモン酸及び不活性型ジャスモン酸の蓄積量の変化を示す図である。
【図4A】野生型及びFE047系統のジャスモン酸に対する応答(シュート長)を示す図である。
【図4B】野生型及びFE047系統のジャスモン酸に対する応答(根の伸長)を示す図である。
【図4C】野生型及びFE047系統のコロナチン(COR)に対する応答(シュート長))を示す図である。
【図4D】野生型及びFE047系統のコロナチン(COR)に対する応答(根の伸長)を示す図である。
【図4E】野生型及びFE047系統への傷処理後のJA応答性遺伝子(JAmyb)の発現量を示す図である。
【図4F】野生型及びFE047系統への傷処理後のJA応答性遺伝子(JAZ11)の発現量を示す図である。
【図5A】塩ストレスによって野生型及びFE047系統に誘導される葉の老化(セネッセンス、外観)の評価結果を示す図である。
【図5B】塩ストレスによって野生型及びFE047系統に誘導される葉の黄化(セネッセンス)の度合いを、葉の色(緑色:濃グレーで表示、黄緑色:グレー)、黄色~褐色:薄いグレー)で評価した結果を示す図である。
【図5C】塩ストレスによって野生型及びFE047系統に誘導される葉の黄化(セネッセンス、上:老化ストレスマーカー遺伝子(SGR遺伝子)、下:サイトカイニン応答性マーカー遺伝子(OsRR10遺伝子))の評価結果を示す図である。
【図6A】野生型、FE047系統(T2世代)及び別途作出したCYP94C2b過剰発現イネ系統におけるCYP94C2bの発現レベルと耐塩性の評価結果を示す図である。個体生存能(Viability)は+が生存、-が枯死を示す。
【図6B】野生型、FE047系統(T2)及び独立過剰発現系統におけるCYP94C2bの発現レベルと耐塩性の評価結果(発現レベルのランク付けと生存率との関係)を示す図である。
【図7】cDNAの過剰発現により高い耐塩性を付与するイネ遺伝子の同定結果を示す図である。
【図8A】Os12g0150200遺伝子とOs04g0584800遺伝子の過剰発現による耐塩性の付与を示す図である。
【図8B】Os12g0150200遺伝子とOs04g0584800遺伝子の過剰発現による高温ストレス耐性の付与を示す図である。
【図8C】Os04g0584800遺伝子の過剰発現による高浸透圧ストレス耐性およびイオンストレス耐性の付与を示す図である。
【図9】標準イネ品種(Nipponbare)及び耐塩性イネ品種(Heitai, Pokkali)についての耐塩性試験の結果(A:実験室内及びB:温室内)及びOs12g0150200遺伝子の発現量(C)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書の開示は、その発現を増強することで環境ストレス耐性を付与する遺伝子及びその利用に関する。本開示は、その発現を増強することで新たな塩ストレス耐性に寄与する遺伝子同定に成功したことに基づいている。

【0015】
本発明者らは、環境ストレス耐性の評価にあたり、その評価手法上の問題点に着目した。すなわち、並行的な2種類の評価手法に基づいて、実用レベルにおいてより高い確度で優れた環境ストレス耐性を付与できる遺伝子を探索した。その結果、意外にも、実験レベルで明確な耐性を示さないが、実用レベルでより高いあるいは多様性のある環境ストレス耐性を発揮する遺伝子を見出した。

【0016】
また、本開示において特定された遺伝子は、いずれも、2種以上の環境ストレスに対して耐性を発揮することができ、自然環境で発生し得る複合的な環境ストレスに対応しやすくなっていることも見出された。こうした遺伝子を用いれば、1種類の遺伝子の高発現により2種以上の環境ストレス耐性を付与できるので、複数のストレスに感受性の植物に、適切なストレス耐性遺伝子を選択して導入かつ過剰発現させることで、環境ストレス耐性に優れる植物体を創出することができる。

【0017】
また、本発明者らは、本開示において特定された遺伝子、例えば、Os12g0150200で特定される遺伝子が、既存の耐塩性イネ品種の非ストレス条件下においてもその発現レベルが増強されていることを確認した。すなわち、本発明者らが特定した遺伝子は、その発現の増強による植物体への悪影響を回避又は抑制して、耐塩性などの環境ストレス耐性に優れる植物体を創出できる。

【0018】
なお、本明細書において、遺伝子の発現が増強されているとは、遺伝子の発現量が増大しているほか、当該遺伝子がコードするタンパク質が増強されている(例えば、タンパク質量が増大又はそのタンパク質の活性が向上する)ことを含むことができる。したがって、外来性の遺伝子として特定遺伝子を導入して増強するほか、内在性の遺伝子のプロモーター等の発現調節領域を改変して当該発現調節遺伝子により当該内在性の遺伝子の発現を増強してもよい。

【0019】
以下、本明細書の開示に関し、環境ストレス耐性を付与する遺伝子、発現ベクター、植物体、植物体の生産方法、作物の生産方法等について順次説明する。

【0020】
(環境ストレス耐性を付与可能な遺伝子)
環境ストレス耐性を付与可能な遺伝子は、Os12g0150200で特定される遺伝子(本明細書において、単に、Os12g0150200遺伝子という。)、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、Os01g0858350遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子サブグループとOs04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子サブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子である。以下、第1の遺伝子サブグループ及び第2の遺伝子サブグループについて順次説明する。

【0021】
(第1の遺伝子サブグループ及び構成遺伝子(第1の遺伝子))
第1の遺伝子は、Os12g0150200遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、Os01g0858350遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子並びにこれらのいずれかの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第1の遺伝子サブグループから選択されうる。第1の遺伝子サブグループは、以下に説明するように、ジャスモン酸不活性化活性を有するタンパク質をコードしている。

【0022】
Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、Os12g0150200遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子の各遺伝子産物は、チトクロームP450酵素ファミリーであるCYP94ファミリーに属していると推定されている。より具体的には、図1の分子系統樹及びアライメントに示すように、Os01g0858350, Os05g0445100、Os11g0151400、Os12g0150200の各遺伝子は、AT2G27690によってコードされるタンパク質であるシロイヌナズナのCYP94C1タンパク質及びそのイネ(Oryza sativa)のホモログ(オルソログ)であると考えられる。また、Os01g0858350、Os05g0445100、Os11g0151400、Os12g0150200は、互いにホモログ(パラログ)であると考えられる。

【0023】
図1に示す分子系統樹及びアライメントは、Os01g0858350遺伝子、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、Os12g0150200遺伝子がコードするタンパク質およびシロイヌナズナのCYP94C1(AT2g27690)のアミノ酸配列比較をCLUSTALW(Multiple Sequence Alignment;http://www.genome.jp/tools/clustalw/)により行ったものである。

【0024】
また、AT3G48520がコードするタンパク質も、チトクロームP450酵素ファミリーであるCYP94ファミリーに属すと推定されている。

【0025】
シロイヌナズナのCYP94C1タンパク質は、活性型ジャスモン酸、すなわち、7-イソジャスモノイルイソロイシンの12位の炭素に水酸基を導入して、不活性型ジャスモン酸として得られた12-ヒドロキシ-7-イソジャスモノイルイソロイシンを酸化して12-カルボキシル-7-イソジャスモノイルイソロイシンに変換する活性(以下、ジャスモン酸不活性化活性ともいう。)を有していると考えられる(Heitz, T., Widemann, E., Lugan, R., Miesch, L., Ullmann, P., Desaubry, L. et al. (2012) , J. Biol. Chem. 287: 6296-6306、Kitaoka, N., Matsubara, T., Sato, M., Takahashi, K., Wakuta, S., Kawaide, H. et al. (2011), Plant Cell Physiol. 52: 1757-1765、Koo, A.J., Cooke, T.F. and Howe, G.A. (2011), Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 108: 9298-9303)。

【0026】
また、本発明者らは、Os12g0150200を増強した形質転換体において、傷処理によって誘導されたジャスモン酸及びその活性型が減少され、不活性型が増大することを確認している。さらに、図1に示すように、AT2G27690のアミノ酸配列とOs01g0858350, Os05g0445100、Os11g0151400、Os12g0150200の各アミノ酸配列とのアライメントによれば、シロイヌナズナのCYP94C1タンパク質における基質結合サイト(SRS)、ヘム結合領域、ERRトライアドサイト、酸素結合サイト、及び活性化サイトがいずれも保存されている。したがって、これらの遺伝子がコードするタンパク質もジャスモン酸不活性化活性を有しているといえる。

【0027】
また、シロイヌナズナのAT3G48520の産物も、ジャスモン酸不活性化活性を有していることが既に知られている。

【0028】
以上のことから、第1の遺伝子は、いずれも、活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質(酵素)をコードすると考えられる。

【0029】
なお、第1の遺伝子のうちのOs01g0858350遺伝子、 Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、Os12g0150200遺伝子の各コード領域の塩基配列は、AT2G27690遺伝子のコード領域の塩基配列に対して54%~58%の同一性を有している。また、第1の遺伝子のうちのOs01g0858350遺伝子, Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、Os12g0150200遺伝子の各コード領域の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列は、AT2G27690のコード領域の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列に対して53%~57%の同一性を有している。

【0030】
第1の遺伝子は、上記で特定された遺伝子と機能的に等価な遺伝子も包含する。かかる機能的に等価な遺伝子は、上記で特定された遺伝子のホモログ(パラログ、オルソログ)を含むほか、起源によらないで、ジャスモン酸不活性化活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を包含することができる。第1の遺伝子は、主として植物界に由来することが好ましい。ダイズなどのマメ科植物を包含する双子葉植物、イネ、トウモロコシ、サトウキビ等を含むイネ科植物を包含する単子葉植物に由来するものであってもよい。

【0031】
例えば、特定の遺伝子と機能的に等価な遺伝子としては、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のデータベースを用いて当該遺伝子の塩基配列又は当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をクエリ配列として検索を行いって、高い同一性を有する遺伝子につき、当該遺伝子と機能的に等価であるかどうか、例えば、本開示においては、当該遺伝子が活性型ジャスモン酸を不活性型ジャスモン酸に変換する活性を有するタンパク質(酵素)をコードしているか否かを評価することによって得ることができる。

【0032】
第1の遺伝子は、形質転換しようとする植物体に応じて適宜選択される。例えば、ダイズにおけるOs12g0150200遺伝子と機能的に等価な遺伝子としては、cytochrome P450 94A1-like [Glycine max]をコードする遺伝子(アクセッション番号、塩基配列:XM_006592251.1(配列番号13)、アミノ酸配列: XP_006592314.1(配列番号14))、cytochrome P450 94A2-like [Glycine max]をコードする遺伝子(アクセッション番号、塩基配列:XM_003538086.2(配列番号15)、アミノ酸配列:XP_003538134.1(配列番号16))及びcytochrome P450 94A1-like [Glycine max]をコードする遺伝子(アクセッション番号、塩基配列:XM_006577004.1(配列番号17)、アミノ酸配列:XP_006577067.1(配列番号18))等が挙げられる。上記3つ遺伝子は、それぞれOs12g0150200遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列との同一性及びAT2G27690遺伝子によってコードされるタンパク質であるシロイヌナズナのCYP94C1タンパク質のアミノ酸配列との同一性が、それぞれ、56.8%/63.4%、57.8%/59.9%、53.8%/57.8%であった。

【0033】
また、例えば、トウモロコシにおいてOs12g0150200遺伝子と機能的に等価な遺伝子としては、機能未知のタンパク質をコードする遺伝子(アクセッション番号、塩基配列:BT086294.1(配列番号19)、アミノ酸配列: ACR36647.1(配列番号20))、cytochrome P450 CYP94C20をコードする遺伝子(アクセッション番号、塩基配列:EU956091.1(配列番号21)、アミノ酸配列:ACG28209.1(配列番号22))及びcytochrome P450 CYP94D27をコードする遺伝子(アクセッション番号、塩基配列:EU975752.1(配列番号23)、アミノ酸配列:ACG47870.1(配列番号24))等が挙げられる。上記3つ遺伝子は、Os12g0150200遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列との同一性及びAT2G27690によってコードされるタンパク質であるシロイヌナズナのCYP94C1タンパク質のアミノ酸配列との同一性が、それぞれ、81.2%/53.9%、82.1%/54.3%、43.8%/42.6%であった。

【0034】
第1の遺伝子は、上記のようなジャスモン酸不活性化活性を有するタンパク質をコードする限り、天然から調製されたものでも人工的に調製されたものでもよい。したがって、上記した各種遺伝子ほか、当該遺伝子に人工的に変異を導入したものであってもよい。また、遺伝子としては、ゲノムDNAのほか、cDNA等であってもよい。

【0035】
第1の遺伝子は、各遺伝子のコード領域及び/又は当該コード領域によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質によっても特定されうる。第1の遺伝子によってコードされるタンパク質は、こうした遺伝子及びタンパク質に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。第1の遺伝子によってコードされるタンパク質は、主として植物界に由来することが好ましい。双子葉植物、単子葉植物に由来するものであってもよいし、特に、イネ科植物やに由来するものであってもよい。こうした遺伝子及びタンパク質に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。以下、第1の遺伝子がコードするタンパク質(以下、第1のタンパク質ともいう。)について説明する。

【0036】
第1のタンパク質の一態様として、Os12g0150200遺伝子がコードする配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。また、本タンパク質の他の態様は、ジャスモン酸不活性化活性を有する限りにおいて、配列番号2のほか、Os12g0150200遺伝子のコード領域の塩基配列である配列番号1、2等の公知の配列情報と一定の関係を有するタンパク質であってもよい。

【0037】
第1のタンパク質の他の一態様としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を有し、ジャスモン酸不活性化活性を有するタンパク質が挙げられる。

【0038】
配列番号2で表されるアミノ酸配列(Os12g0150200)は、図1Bに示すような2箇所の基質認識部位(SRS1(21アミノ酸)及びSRS4(20アミノ酸))を有している。

【0039】
ジャスモン酸不活性化活性は、活性型ジャスモン酸を基質として、不活性型ジャスモン酸を生成する反応の触媒活性を検出することで得ることができる。なお、ジャスモン酸不活性化活性を有しているとは、当該活性を有している限りのその程度は問うものではない。

【0040】
配列番号2で表されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換、付加及び挿入のうちいずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、1個以上20個以下であり、より好ましくは1個以上10個以下程度である。より好ましくは、1個以上5個以下である。さらに好ましくは1個以上4個以下、より一層好ましくは1個以上3個以下である。

【0041】
アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる。(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。

【0042】
なお、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対する変異は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、基質識別部位以外において存在することが好ましい。換言すれば、変異体であっても、2つの基質識別部位においては、AT2G27690と高い同一性を有していることが好ましい。すなわち、図1Bにおける各基質認識部位においてアミノ酸配列の同一性は80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、一層好ましくは95%以上である。また、各基質認識部位においてOs12g0150200及びAT2G27690との間において、同一アミノ酸残基で示されるアミノ酸配列部分(SRS1について17アミノ酸、SRS4について18アミノ酸)については、1~4個以下が保存的置換によるアミノ酸であることが好ましく、より好ましくは1~2個以下が保存的置換によるアミノ酸であることが好ましく、さらに好ましくは全て同一である。

【0043】
第1のタンパク質の他の一態様としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつジャスモン酸不活性化活性を有するタンパク質が挙げられる。同一性は好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上であり、一層好ましくは、90%以上であり、より一層好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。

【0044】
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術分野で"同一性"とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアライメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアライメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアライメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアライメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。

【0045】
なお、配列番号2で表されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と上記のように一定の関連性のあるアミノ酸配列をコードする塩基配列は、遺伝暗号の縮重に従い、タンパク質のアミノ酸配列を変えることなく所定のアミノ酸配列をコードする塩基配列の少なくとも1つの塩基を他の種類の塩基に置換することができる。従って、本遺伝子は、遺伝暗号の縮重に基づく置換によって変換された塩基配列をコードする遺伝子も包含する。

【0046】
第1のタンパク質は、また、配列番号1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質でもある。さらに他の一態様として、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、ジャスモン酸不活性化活性を有するタンパク質が挙げられる。

【0047】
なお、ストリンジェントな条件とは、たとえば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち配列番号1で表わされる塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、一層好ましくは85%以上、より一層好ましくは90%以上、さらに好ましく95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15~750mM、好ましくは50~750mM、より好ましくは300~750mM、温度が25~70℃、好ましくは50~70℃、より好ましくは55~65℃、ホルムアミド濃度が0~50%、好ましくは20~50%、より好ましくは35~45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15~600mM、好ましくは50~600mM、より好ましくは300~600mM、温度が50~70℃、好ましくは55~70℃、より好ましくは60~65℃である。

【0048】
さらに具体的なストリンジェントな条件とは、例えば、45℃、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーション、その後の50~65℃、0.2~1×SSC、0.1%SDSでの洗浄が挙げられ、或いはそのような条件として、65~70℃、1×SSCでのハイブリダイゼーション、その後の65~70℃、0.3×SSCでの洗浄を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。

【0049】
なお、以上のことから、さらなる他の一態様として、配列番号1で表される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より一層好ましくは90%以上、さらに好ましく95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドによってコードされ、ジャスモン酸不活性化活性を有するタンパク質が挙げられる。

【0050】
さらに、他の第1の遺伝子、すなわち、Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、Os01g0858350遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子等についても、Os12g0150200について説明したのと同様の形態の第1のタンパク質の各種態様が適用され、それにより、第1の遺伝子のさらなる態様が特定される。Os05g0445100遺伝子、Os11g0151400遺伝子、Os01g0858350遺伝子、AT3G48520遺伝子及びAT2G27690遺伝子の各遺伝子のコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号3及び4、配列番号5及び6,配列番号7及び8、配列番号9及び10並びに配列番号11及び12で表される。

【0051】
上記各種態様の第1のタンパク質をコードする第1の遺伝子は、例えば、配列番号1等の配列に基づいて設計したプライマーを用いて、イネ科植物等から抽出したDNA、各種cDNAライブラリ又はゲノムDNAライブラリ等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリ等由来の核酸を鋳型とし、本遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは本遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。

【0052】
また、上記各種態様の第1のタンパク質をコードする第1の遺伝子は、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸の配列をコードするDNA(たとえば、配列番号1で表される塩基配列からなる)を、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K (TAKARA Bio社製)やMutant-G (TAKARA Bio社製))などを用いて、あるいは、TAKARA Bio社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。

【0053】
そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、例えば、配列番号1又は2等の公知配列に基づいて、各種態様の第1のタンパク質をコードする第1の遺伝子を取得することができる。

【0054】
(第2の遺伝子サブグループ及び構成遺伝子(第2の遺伝子))
第2の遺伝子は、Os04g0584800遺伝子及びこの遺伝子と機能的に等価な遺伝子からなる第2の遺伝子サブグループから選択されうる。Os04g0584800遺伝子がコードするタンパク質の機能は不明であるが、N末端側にRAS/GTP結合ドメインを有しC末端側にAdaptin結合ドメイン(配列番号27)を備えるタンパク質である。Os04g0584800遺伝子と機能的に等価な遺伝子は、N末端側にRAS/GTP結合ドメインを有し、C末端側にAdaptin結合ドメインを備えるタンパク質であって、Os04g0584800遺伝子のアミノ酸配列と一定以上の同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。

【0055】
なお、上記したホモログほか、人工的に変異を導入したものであってもよい。なお、遺伝子としては、ゲノムDNAのほか、cDNA等であってもよい。

【0056】
Os04g0584800遺伝子と機能的に等価な遺伝子とは、当該遺伝子の発現を増強したときに、植物体の塩ストレスに対する耐性を増強することができる遺伝子である。換言すれば、当該遺伝子の発現を増強したとき、植物体の塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である。

【0057】
Os04g0584800遺伝子と機能的に等価な遺伝子としては、例えば、シロイヌナズナAT5G65960遺伝子、ヨーロッパブドウのLOC100266179遺伝子、ポプラの1種であるコットンウッドのPOPTR_0002s17770g遺伝子、ダイズのLOC100813911 [Glycine max]遺伝子が挙げられる。さらに、オオムギのpredicted protein [Hordeum vulgare subsp. vulgare] 遺伝子をコードする遺伝子が挙げられる。

【0058】
第2の遺伝子であるオオムギpredicted proteinをコードする遺伝子のコード領域の塩基配列は、Os04g0584800のコード領域の塩基配列に対して83%の同一性を有している。単子葉植物にはこのように高い同一性をもつ塩基配列があるが、それ以外の植物種の遺伝子は、Os04g0584800のコード領域の塩基配列に対して57-64%の同一性を示す。また、これらの遺伝子が含むコード領域の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列は、Os04g0584800のコード領域の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列に対して48%~77%の同一性を有している。

【0059】
第2の遺伝子は、第1の遺伝子と同様、各遺伝子のコード領域及び/又は当該コード領域によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質によって特定されうる。第2の遺伝子は、植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性を有するタンパク質をコードする限り、天然から調製されたものでも人工的に調製されたものでもよい。

【0060】
第2の遺伝子としては、Os04g0584800の遺伝子のコード領域の塩基配列及びコートされるタンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号25(NM_001060207)及び配列番号26(NP_001053672)で表される。同様に、シロイヌナズナのAT5G65960はそれぞれ配列番号28、29(NM_125993、NP_569023)、ヨーロッパブドウのLOC100266179は、それぞれ配列番号30、31(XP_002276437、XM_002276401)、ポプラの1種であるコットンウッドの POPTR_0002s17770gはそれぞれ配列番号32、33(XP_002302663、XM_002302627)、オオムギのpredicted protein [Hordeum vulgare subsp. vulgare]をコードする遺伝子は、それぞれ配列番号34、35(BAJ96675、AK365472)で表され、ダイズのLOC100813911 [Glycine max]は、それぞれ配列番号36,37(XP_003534231、XM_003534183)で表される。

【0061】
第2の遺伝子は、第1の遺伝子において説明した各種態様を、第2の遺伝子がコードするタンパク質に応じて採ることができる。

【0062】
なお、本明細書における「植物体において増強されたとき、塩ストレスに対する耐性を増強する活性」とは、例えば、実施例に開示されるように野生型植物に対して第2の遺伝子を増強したときにおいて、少なくとも塩ストレスに対する耐性が野生型植物よりも増強する活性をいう。ここで野生型植物は、典型的には、O. sativaの日本晴とすることができる。第2の遺伝子は、アグロバクテリウム経由で植物に導入して発現を増強することができる。第1及び第2の遺伝子の発現を制御するプロモーターは、恒常的なプロモーターを用いることが好ましい。なお、第1の遺伝子については、必要に応じて発現レベルが適切に調節されることが好ましい。さらに、塩ストレスに対する耐性は、典型的には、実用レベルでの評価として実施例に開示される評価手法を用いて評価することができる。

【0063】
例えば、Os12g0150200遺伝子など第1の遺伝子については、その植物体の野生型(例えば、イネなら日本晴が相当する。)における発現量の5倍以上150倍以下の発現レベルとすることができる。かかる発現レベルは10倍以上であってもよいし、20倍以上であってもよいし、30倍以上であってもよい。また、かかる発現レベルは、100倍以下であってもよいし、80倍以下であってもよいし、70倍以下であってもよいし、60倍以下であってもよいし、50倍以下であってもよい。発現レベルは、公知の手法、例えば、第1の遺伝子の発現産物であるmRNA量等で評価することができる。

【0064】
また、第2の遺伝子によってコードされるタンパク質は、第1の遺伝子と同様、主として植物界に由来することが好ましい。双子葉植物、単子葉植物に由来するものであってもよいし、特に、イネ科植物やに由来するものであってもよい。こうした遺伝子及びタンパク質に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。

【0065】
植物体に環境ストレス耐性を付与又は増強するには、これら第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を用いればよい。第1の遺伝子のみであってもよいし、第2の遺伝子のみであってもよい。第1の遺伝子は1又は2以上用いることができるし、第2の遺伝子も1又は2以上用いることができる。

【0066】
第1の遺伝子は、塩ストレスに対する良好な耐性を付与することができる(以下、ストレス耐性の良否は日本型イネであるO. sativaの日本晴の野生型を対照として説明している。)。特に、第1の遺伝子は、塩ストレスに対する高い耐性を付与することができる。したがって、高度な塩ストレスが予測される植物体には、第1の遺伝子を適用することが好ましい。さらに、第1の遺伝子は、高温ストレスに対する良好な耐性を付与することができる。したがって、第1の遺伝子は、塩ストレスと高温ストレスとの双方のストレスが予測される環境下にある植物体に適用することが好ましい。

【0067】
一方、第2の遺伝子は、塩ストレスに対する良好な耐性を付与することができる。また、さらに、第2の遺伝子は、イオンストレスに対する良好な耐性も付与することができる。したがって、第2の遺伝子は、塩ストレスとイオンストレスとが予測される植物体に適用することが好ましい。さらにまた、第2の遺伝子は、高温ストレス及び/又は高浸透圧ストレスに対しても良好な耐性を付与することができる。したがって、第2の遺伝子は、塩ストレス及び/又はイオンストレスのほか、高温ストレス及び/又は高浸透圧ストレスが予測される環境下の植物体に適用することが好ましい。

【0068】
なお、本明細書において、塩ストレスは、国際イネ研究所(IRRI)の耐塩性試験と同様の塩水ストレス耐性試験(閉鎖系温室)で評価される塩ストレスをいう。すなわち、Characterizing the Saltol Quantitative Trait Locus for Salinity Tolerance in Rice. Rice 3: 148-160の記載に基づいて、以下の水耕栽培試験を行い、評価される塩ストレスをいう。発芽した幼植物体を網付きフロートに浮かべて3日間純水で育てた後、さらにYoshida培地で水耕栽培する。水耕培地の電気伝導度(EC) は最初の3日間は6 dS m-1 に調整し、その後はNaCl を溶解させることで12 dS m-1に合わせる。この際、培地のECおよびpHは2~3日ごとに水やNaOHを添加することで調整する。2 週間後、塩ストレスによって引き起こされた徴候をThomson ら(Rice 3: 148-160)の評価スコアを用いて評価する。

【0069】
なお、本明細書において、高浸透圧ストレスは、純水で3日間、Yoshida培地で15日間水耕栽培した植物体を、26%ポリエチレングリコール(PEG4000)を含んだ培地に7日間及びPEG4000を含まない培地に4日間おいた場合の生存率(同条件下での野生型の生存率と対比してもよい。)で評価することができる。

【0070】
本明細書において、高温ストレスは、純水で3日間、さらにYoshida培地で17日間、28℃で水耕栽培した植物体を、42℃に7日間、28℃に戻して7日間おいた場合の生存率(同条件下での野生型の生存率と対比してもよい。)で評価することができる。

【0071】
本明細書において、イオンストレスは、MurashigeとSkoog(MS)培地にて7日間生育させた植物体の地上部4 cm長を切り出し、40 mM LiClを含むMS培地に移植し、2週間生育させたときの生存率(同条件下での野生型の生存率と対比してもよい。)で評価することができる。

【0072】
第1の遺伝子及び第2の遺伝子は、植物体においてその発現を増強することで、いずれも、塩ストレスに耐性を付与できるほか、さらなる環境ストレスに耐性を付与することができる。

【0073】
(発現ベクター)
本明細書の開示の発現ベクターは、植物細胞内で第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の発現させるための発現ベクターとすることができる。本開示のベクターは、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を備えることができる。本ベクターは、宿主細胞(植物細胞)内の染色体上の内在性の本遺伝子の有無に関わらず、本遺伝子を外来性DNAとして導入して、結果として、本遺伝子の発現を増強することを意図することができる。なお、本ベクターが、相同組換え等により、植物細胞内の染色体上の内在性の本遺伝子の発現を増強するように意図されることを排除するものではない。

【0074】
植物細胞としては特に制限はなく、例えば、シロイヌナズナ、ダイズ、イネ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの細胞が挙げられるが、好ましくは、単子葉植物であり、さらに好ましくはイネ科植物である。イネ科植物としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ソルガム、サトウキビ等が挙げられる。また、植物細胞には、懸濁培養細胞等の培養細胞の他、プロトプラスト、カルスも含まれる。また、植物細胞には、苗条原基、多芽体、毛状根などのほか、葉の切片等の植物体中の細胞も含まれる。

【0075】
本ベクターが、植物細胞に、外来性DNAとして本遺伝子を導入し発現させることを意図するとき、植物細胞で転写可能なプロモーターと当該プロモーターの制御下に作動可能に連結された本遺伝子とを備えることができる。さらに、ポリA付加シグナルを含むターミネーターを含めることもできる。こうしたプロモーターとしては、例えば、本遺伝子を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターが挙げられる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35S RNAのプロモーター(Odell et al. 1985 Nature 313:810)、イネのアクチン1遺伝子のプロモーター(Zhang et al.1991 Plant Cell 3:1155)、トウモロコシのポリユビキチン1遺伝子のプロモーター(Cornejo et al. 1993 Plant Mol. Biol. 23:567)などが挙げられる。また、本遺伝子を誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られている遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al. 1996 Plant Mol. Biol. 30: 387)やタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al. 1990 Plant Cell 2:95)、イネの「lip19」遺伝子のプロモーター(Aguan et al. 1993 Mol. Gen. Genet. 240:1)、イネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al. 1994 Planta 193:57)、シロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター(Mundy et al. 1990 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1406)、パセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert et al. 1989 EMBO J. 8:651)、トウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al. 1987 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:6624)などが挙げられる。

【0076】
本ベクターは、また、第1のタンパク質及び/又は第2のタンパク質を組換えタンパク質として、大腸菌、酵母、動植物細胞、昆虫細胞等の細胞の宿主細胞に生産させることを意図するものであってもよい。この場合には、本ベクターは、適当な宿主細胞で作動可能なプロモーターの制御下に本遺伝子を備えることができる。

【0077】
本ベクターは、当業者であれば、例えば、当業者に公知の各種プラスミドなど商業的に入手可能な材料を利用して構築することができる。例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)などのほか、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本遺伝子を発現させるベクターを用いて構築することができる。

【0078】
本明細書の開示によれば、こうした発現ベクターが導入された植物細胞等の宿主細胞も提供される。また、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を有効成分とする、植物体の環境ストレス耐性を改善する薬剤も提供されうる。本薬剤においては、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子として本ベクターを有効成分として含んでいてもよい。

【0079】
(植物体)
本明細書に開示される植物体は、形質転換植物体ほか交配や突然変異による植物体が包含される。本明細書に開示される植物体は、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の発現が増強されている。形質転換植物体において、増強される第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子は、植物体の形態によっても異なるが、植物体に内在する遺伝子であってもよいし、外来性の遺伝子であってもよい。これらの双方であってもよい。

【0080】
また、遺伝子の発現が増強されている、とは、遺伝子の発現量(遺伝子の一次転写産物の量ほか、遺伝子がコードするタンパク質の生産量)が形質転換前よりも増大しているか、あるいは当該タンパク質の活性が形質転換前よりも増大していることを意味している。遺伝子の発現の増強の結果、遺伝子の発現量が増大するとともに本タンパク質の活性自体が増大していてもよい。、なお、これらの遺伝子の発現量は、公知の方法、すなわち、これら遺伝子の転写産物又は翻訳産物の量を指標として評価することができる。

【0081】
(形質転換植物体)
本明細書に開示される形質転換植物体は、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の発現が増強されている。形質転換植物体において、増強される第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子は、植物体に内在する遺伝子であってもよいし、外来性の遺伝子であってもよい。これらの双方であってもよい。

【0082】
また、形質転換植物体において遺伝子の発現が増強されている態様は、特に限定されない。例えば、植物細胞で作動可能なプロモーターと当該プロモーターによって作動可能に結合された本遺伝子とが、外来性DNAとして、植物細胞の染色体又は染色体外に保持される態様が挙げられる。プロモーターに連結される遺伝子は、植物細胞に内在性のものであっても外来のものであってもよい。なお、内在性の本遺伝子のプロモーターの活性を向上させるために、染色体上のそのプロモーター領域の全体又はその一部を置換等する態様、内在性遺伝子とともにプロモーター領域を置換する態様も挙げられる。

【0083】
形質転換植物体は、典型的には、植物細胞に遺伝子を導入し発現させることを意図する本明細書に開示のベクターが導入された植物細胞を含んでいる。

【0084】
本形質転換植物体は、本明細書の開示のベクターを導入して形質転換した植物細胞から植物体を再生させることにより得ることができる。

【0085】
植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。例えば、ポリエチレングリコールによるプロトプラストへ遺伝子導入(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants (Potrykus, I. and Spangenberg, G. Eds.) pp66-74)、電気パルスによるプロトプラストへ遺伝子導入(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100: 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入(Christou et al. (1991) Bio/Technology, 9: 957-962)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282; Toki et al. (2006) Plant J. 47: 969-976)等の各種方法が挙げられる。また、植物形質転換細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100: 1503-1507参照)。例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1985))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603 (1990))が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor. Appl. Genet. 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe(Planta 99:12 (1971))の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Rep. 12:7-11 (1992))の方法が挙げられる。

【0086】
形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100: 1503-1507参照)。例えば、イネの形質転換植物体を作出する手法は、ポリエチレングリコール(PEG)によりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta, S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants (Potrykus, I. and Spangenberg, G. Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100: 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282; Toki et al. (2006) Plant J. 47: 969-976)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。

【0087】
ゲノム上に本遺伝子が組み込まれた形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本明細書の開示には、既に説明した(1)本遺伝子が導入された植物細胞、(2)該細胞を含む植物体のほか、(3)該植物体の子孫およびクローン、並びに(4)該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。

【0088】
なお、形質転換にあたっては用いる第1の遺伝子及び第の2の遺伝子は、種々の由来とすることができ、形質転換対象植物体と同種の植物体に由来することを限定するものではく、分類を超えた適用も可能である。しかしながら、対象植物体が単子葉植物の場合には、単子葉植物由来の遺伝子が好ましく、より好ましくは同科、同種由来の遺伝子である。また、双子葉植物の場合にも同様である。

【0089】
(交配や突然変異による植物体)
本明細書に開示される植物体の他の形態は、交配や突然変異による植物体である。交配による植物体は、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を、これら遺伝子の本来的な染色体上の遺伝子座又は当該遺伝子座に相当する位置に保持しうる。ここで遺伝子の本来的な染色体上の遺伝子座とは、植物体が本遺伝子又はそのホモログを本来的に有する場合において、その遺伝子が座乗する染色体上の遺伝子座である。また、本来的な染色体上の遺伝子座に相当する位置とは、遺伝子座に完全に一致はしないが、当該遺伝子の前後の塩基配列から、遺伝子座の近傍に、第2のDNAの本遺伝子の発現増大活性を妨げることなく位置されている場合が該当する。こうした植物体は、予め、内在性の本遺伝子を染色体上に備える植物体であることが好ましい。

【0090】
概して、交配や突然変異によって、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の発現が増強された植物体は、交配や突然変異などの育種プロセスにおいて、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子における、突然変異による多型等の変異や、コード領域や制御領域のエピジェネティックな変異(メチル化を含む)等により取得することができる。又は、そうした親植物(本明細書に開示された形質転換体であってもよい。)を用いることで得ることができる。

【0091】
第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の発現が増強された植物体は、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の発現レベルを指標として通常の育種プロセスからスクリーニングし、さらに環境ストレス耐性を評価することで取得できる。育種プロセスにおいて、植物体が、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を備えているかどうかは、これらを含むDNA領域に対するPCRを行って増幅産物の有無や、その長さ等を検出することにより確認することができる。また、こうしたDNA領域が、その遺伝子座に存在するかどうかは、公知の塩基配列決定法により確認できる。

【0092】
例えば、交配によれば、例えば、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の発現が増強されている親植物体と他の植物体との受精時の相同組換えにより、遺伝子の本来的な染色体上の位置又は当該位置に相当する位置に、これら遺伝子を保持するF1世代を得ることができる。F2世代や、戻し交配等を利用することにより、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子のアリル(対立遺伝子)に関しホモ体を得ることができる。なお、植物体は、第1及び/又は第2の遺伝子に関し、本DNA領域を含むアリルに関しヘテロであってもよいが、ホモであることが好ましい。

【0093】
本明細書に開示の第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を適用する植物体、換言すると環境ストレス耐性を向上させる植物としては、特に限定されない。すなわち、上記遺伝子を発現を増強させることによって、あらゆる植物体について環境ストレス耐性向上効果を期待することができる。対象となる植物としては、例えば、双子葉植物、単子葉植物、例えばアブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科等に属する植物(下記参照)が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。

【0094】
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa、Brassica napus、Brassica campestris)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、チンゲンサイ、パクチョイ(Brassica rapa var. chinensis)、カブ(Brassica rapa var. rapa)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、ミズナ(Brassica rapa var. lancinifolia)、コマツナ(Brassica rapa var. peruviridis)、ダイコン(Raphanus sativus)、ワサビ(Wasabia japonica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solaneum tuberosum)、トマト(Solanum lycopersicum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ペチュニア(Petunia hybrida)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum sativum)、ソラマメ(Vicia faba)、フジ(Wisteria floribunda)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. japonicus)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、アズキ(Vigna angularis)、アカシア(Acacia)など。
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、ヒマワリ(Helianthus annuus)など。
ヤシ科:アブラヤシ(Elaeis guineensis、Elaeis oleifera)、ココヤシ(Cocos nucifera)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、ロウヤシ(Copernicia)など。
ウルシ科:ハゼノキ(Rhus succedanea)、カシューナットノキ(Anacardium occidentale)、ウルシ(Toxicodendron vernicifluum)、マンゴー(Mangifera indica)、ピスタチオ(Pistacia vera)など。
ウリ科:カボチャ(Cucurbita maxima、Cucurbita moschata、Cucurbita pepo)、キュウリ(Cucumis sativus)、カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)、ヒョウタン(Lagenaria siceraria var. gourda)など。
バラ科:アーモンド(Amygdalus communis)、バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus pumila var. domestica)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
ヤナギ科:ポプラ(Populus trichocarpa、Populus nigra、Populus tremula)など。
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、タケ(Phyllostachys)、サトウキビ(Saccharum officinarum)、ネピアグラス(Pennisetum purpureum)、エリアンサス(Erianthus ravennae)、ミスキャンタス(ススキ)(Miscanthus virgatum)、ソルガム(Sorghum)スイッチグラス(Panicum)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)、ユリ(Lilium)など。

【0095】
なかでも、イネ科、マメ科などの食用作物を対象とすることが好ましい。こうした食用作物が気候変動の影響を受けずに安定して栽培、収穫できることによって、安定した食糧供給が可能となる。また、サトウキビやトウモロコシ、ナタネ、ヒマワリ等のバイオ燃料の原料となりうるエネルギー作物を対象とすることも好ましい。エネルギー作物の環境ストレス耐性を向上させることによって、当該エネルギー作物の栽培範囲や栽培条件を大幅に拡張することができる。すなわち、野生型では栽培が不可能であった土地や環境要因下(例えば平均気温や、土壌に含まれる塩濃度等)においても、エネルギー作物を栽培することが可能となり、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオメタノール、バイオDME、バイオGTL(BTL)及びバイオブタノール等のバイオ燃料の低コスト化を実現できるからである。

【0096】
以上説明したように、本明細書に開示される植物体は、人工的な遺伝子改変の他、従来の交配による育種によっても取得できる。本明細書に開示される植物体は、1又は2以上の環境ストレス耐性が向上し、より実用的なレベルで環境ストレスに耐性を備えたものとなっている。

【0097】
(植物体への環境ストレス耐性の付与方法及び植物体の生産方法)
本明細書に開示される植物体への環境ストレス耐性の付与方法及び環境ストレス耐性が付与された植物体の生産方法は、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子であって内在性又は外来の遺伝子を増強する工程を備えることができる。この増強工程は、既述のように、対象植物体に対する形質転換及び/又は交配や突然変異などの育種プロセスを組み合わせること実施できる。特に、交配による植物体の生産にあたっては、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の発現を指標として交配による植物体を選抜する工程を備えることが好ましい。各種の評価によるストレスに対する耐性のほか、これら遺伝子の発現状況を指標とすることで効率的な育種及び生産が可能となる。

【0098】
(作物の生産方法)
本明細書に開示される作物の生産方法は、本明細書に開示される植物体である作物を栽培する工程を備えることができる。本生産方法によれば、塩ストレスほか、各種の環境ストレスが発生しうる環境下でも、食用作物やエネルギー作物など各種の有用作物を、気候変動による悪影響を回避又は抑制して安定して栽培し収穫することができる。

【0099】
本生産方法における栽培工程は、作物の種類に応じて当業者であれば適宜条件等を選択して実施することができる。

【0100】
(植物体のスクリーニング方法)
本明細書に開示される植物体のスクリーニング方法は、第1の遺伝子のサブグループと第2の遺伝子のサブグループとからなる遺伝子グループから選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を指標として、1又は2以上の植物体をスクリーニングする工程と、前記1種又は2種以上の遺伝子の発現レベルの高い前記植物体の耐塩性を評価する工程と、を備えることができる。このスクリーニング方法によれば、Os12g0150200遺伝子など本明細書に開示される遺伝子を指標とすることで、耐塩性に優れる可能性のある植物体を簡易に一次スクリーニングすることができる。さらに、可能性ある植物体について、耐塩性を評価することで、耐塩性に優れる植物体を得ることができる。特に、Os12g0150200遺伝子を含む上記遺伝子は、高塩(NaClについて)条件下などのストレス条件でない条件(すなわち、非ストレス条件)においても、高発現する傾向があり、非ストレス条件下でも、容易に可能性ある植物体をスクリーニングできる。

【0101】
スクリーニング工程は、Os12g0150200遺伝子などの上記遺伝子の発現を指標としてその発現レベルが、例えば、その植物体において一般的な品種、典型的には、その植物体の通常用いられる野生型、典型的な栽培品種のほかモデル植物体等と比較して高い発現レベルの植物体を選択する。スクリーニングする条件は、概して耐塩性評価に用いる高塩条件であってもよいし、塩濃度について通常の条件であってもよい。Os12g0150200遺伝子を含む上記遺伝子は、上述のように、塩ストレス条件でなくても高発現する傾向があるため、非塩ストレス条件でスクリーニングを行うこともできる。

【0102】
スクリーニングに供する植物体は、特に限定しないが、スクリーニング効率を考慮すると、幼植物体又はその一部とすることができる。例えば、幼植物体の葉等などの一部が挙げられる。

【0103】
また、Os12g0150200遺伝子を含む上記遺伝子の発現を指標としてスクリーニングするにはこれらの遺伝子の発現産物であるmRNA量やタンパク質量を指標とすることができる。これらを評価する方法は、当業者において周知である。なお、遺伝子の発現量の評価にあたっては、上記したように、スクリーニング対象とする植物体において典型的な野生型、品種や改変しようとする品種の遺伝子の発現量をコントロールとすることができる。例えば、植物体がイネであるときには、日本晴を用いることができる。また、例えば、日本晴をコントロールとした場合には、当該コントロールに対して数倍から100倍程度、好ましくは10倍以上100倍以下程度の発現レベルを有する植物体を選択することができる。また、例えば、10倍以上80倍以下程度の発現レベルを有する植物体を選択することもできる。さらに、例えば、発現レベルの下限は、10倍以上でもよく、20倍以上でもよく、30倍以上でもよい。また、発現レベルの上限は、70倍以下でもよく、60倍以下でもよく、さらに50倍以下であってもよい。

【0104】
Os12g0150200遺伝子の発現レベルが高い植物体については、さらに、塩ストレス条件下での耐塩性の評価をすることができる。耐塩性の評価をさらに行うことで、確実に耐塩性に優れる植物体をスクリーニングできる。耐塩性の評価については、後述する実施例において開示するような公知の耐塩性評価手法を目的等に応じて適宜選択して用いることができる。

【0105】
このようにしてスクリーニングできる耐塩性に優れる植物体は、それ自体、有用である。すなわち、当該植物体におけるOs12g0150200遺伝子などの上記遺伝子のコード領域及びコード領域の上流側及び/又は下流側の発現調節に関与する領域において、Os12g0150200遺伝子などの上記遺伝子の発現を増強させるような変異やその他の修飾を備える場合がある。こうした染色体上の変異等などOs12g0150200遺伝子などの上記遺伝子の発現レベルの増強に寄与する要因を特定することで、耐塩性等に優れる植物体の創出に有用である。すなわち、これらの要因を含むDNA領域を、他の品種や植物体において耐塩性向上のために用いることができる。こうしたDNA領域の他の植物体や品種への適用には、交配や形質転換など公知の植物育種方法を用いることができる。

【0106】
以上説明したように、本明細書に開示される第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子は、植物体に対して実用的な環境ストレス耐性を付与することができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0108】
農業生物資源研究所より配布されたイネ完全長cDNA過剰発現(FOX)イネ系統 (Nakamura et al. 2007; Hakata et al. 2010; Tsuchida-Mayama et al. 2010)を利用し、耐塩性系統の選抜を行った。野生型イネ(品種:日本晴;Oryza sativa cv. Nipponbare)及び選抜されたFOXイネ系統の種子のもみ殻を取り除き、表面殺菌したのち、高さ13 cmのマヨネーズ瓶内に調製した MurashigeとSkoog (MS) 基本固形培地 [1% sucrose、0.25% gellan gum、0.05% MES-KOH (pH 5.8) を含む]に置床し、無菌的に発芽、生育させた。幼苗は25℃、明所14時間(白色光4000 lux) -暗所10時間の条件で育成した。一週間齢の幼苗の地上部基部(4 cm 長)を無菌的に切り出して新しいMS 基本固形培地に移植し、培地と等量の600 mM NaCl水溶液(最終濃度300 mM)を無菌的に添加した。この塩ストレス条件下で 5週間生育させた後、植物体を水道水に浸して1週間の馴化処理を行い、生存率を調べた。各過剰発現系統の生存率を図2Aに示す。Nipponbare: 野生型(日本晴)である。
【実施例1】
【0109】
図2Aに示すように、多数のFOXイネ系統から2種の系統が良好なスコアを呈した。これらの2系統中に導入された遺伝子Os12g0150200及びOs04g0584800がコードする完全長cDNAは、文献(Nakamura et al. 2007; Hakata et al. 2010; Tsuchida-Mayama et al. 2010)の方法により同定された。
【実施例1】
【0110】
耐塩性を示したFOXイネ系統に導入された完全長cDNA(Os12g0150200がコードする完全長cDNA:accession number AK064287)を表1に示したプライマーを用いてPCR法にて増幅し、pENTR/D-TOPO vector (Invitrogen社)にサブクローニングしたのち、バイナリーベクターpSMAHdN637L-GateAのイネ・アクチンプロモーター下流に挿入した。得られたコンストラクトを用い、アグロバクテリウムを介したイネ(日本晴)の形質転換を行い、新たなOs12g0150200 cDNA過剰発現系統(BBC105系統群)を得た。
【実施例1】
【0111】
野生型、Os12g0150200 cDNA過剰発現系統(FE047系統及びBBC105系統群)の後代種子を用いて、上述と同様の耐塩性試験を行った。塩ストレス条件下で5週間生育した後、植物体を水道水に浸して1週間の馴化処理を行い、生存率を調べた。野生型、FE047、BBC105_2, BBC105_6, BBC105_9を供試して得られた結果を図2Bに示す。なお、供試個体数(n)はWT及びFE047が10、BBC105_2が4、BBC105_6及びBBC105_9が5である。
【実施例1】
【0112】
図2Bに示すように、Os12g0150200 cDNA過剰発現系統FE047、BBC105_2、BBC105_6及びBBC105_9は、いずれも野生型に対して高い生存率を呈した。
【実施例1】
【0113】
次に、野生型イネとFE047系統を閉鎖系温室にて塩処理下で栽培し、両者の耐塩性を比較した。
【実施例1】
【0114】
耐塩性試験及び耐塩性評価はThomsonら(2010)の方法に基本的に従った。ベンレートで処理したもみ殻つきのイネ種子を湿ったろ紙上に置いて、暗所で2日間、30°Cでインキュベートして発芽させた。幼苗を温室内のフロート上に移し、脱イオン水にて3日間生育させた。その後、フロートあたり240 本の幼苗を10 リットルのYoshida 培地にて生育させた。水耕液の電気伝導度(Electrical conductivity: EC)は、最初の3日間は 6 dSm-1とし、その後、塩化ナトリウムを加えることで12 dSm-1とした。 EC と pH は、2~3日ごとに水および NaOHを加えることで調整した。 2 週間後、塩ストレスによって引き起こされたダメージをThomsonら (2010) によるsalinity evaluation score によって評価した。得られたスコアを図2Cに示す。なお、ボックスプロットは interquartile range (IQR)を示す。1.5 × IQR の範囲に入らない値をOutliers として、first quartileおよびthird quartileの外側に示す。Whiskers は最小値から最大値の範囲を示す。中央値(Median values)を太い横棒で示す。n = 38 (WT)、n = 20 (FE047)。
【実施例1】
【0115】
図2Cに示すように、選択したFE047系統では、塩処理によるダメージが野生型に比較して抑制されていた。
【実施例1】
【0116】
さらに野生型イネとFE047系統を塩害土壌にて育成し、耐塩性の比較を行った。4週間齢の植物体を、10 リットルの土を入れた直径23cm のWagner pot に移植し栽培した。移植苗数はポットあたり最大8個体までとした。ポットをタンクにならべて水で満たして、植物体を2週間生育させた後、水を 100 mM NaCl もしくは 150 mM NaCl に置換した。EC と pH は2~3 日ごとに水とNaOHをそれぞれ加えることで調整した。100 mM NaClおよび150 mM NaClを含む塩害土壌実験でのイネの生存率を図2Dに、個体あたりの稔実数を図2Eに示す。 n = 17 (WT)、n =4 (FE047, 100 mM)、n =3 (FE047, 150 mM). 150 mM NaClを加えて40日後の野生型イネおよびFE047系統の植物体の写真を図2Fに示す。
【実施例1】
【0117】
図2D~2Fに示すように、FE047系統は野生型に比較して良好な生存率、稔実性、そして旺盛な生育を示した。以上のことから、Os12g0150200 cDNA過剰発現系統は、塩ストレスに対する極めて実用的な耐性を有していることがわかった。
【実施例2】
【0118】
本実施例では、野生型およびFE047系統への傷処理後のジャスモン酸(JA)、活性型ジャスモン酸(JA-Ile)及び不活性型ジャスモン酸(12OH-JA-Ile)の蓄積誘導を評価した。
【実施例2】
【0119】
イネ幼苗の第3葉葉身の半分を切り取り、直ちに液体窒素にて凍結した。第3葉葉身の残り半分をピンセットで20回挟み込むことで傷処理を施した後、幼苗全体を湿潤チャンバー内にて室温でインキュベートし、傷処理葉を回収して液体窒素で凍結した。Mini-BeadBeater-8 (BioSpec社)を用い、ステンレスビーズを入れた微量遠心管中で凍結葉組織を破砕した。組織からのJAおよびその誘導体の99.5% エタノールによる抽出は4°C、暗所で一晩行った。残渣を室温、5分間の遠心分離(20,000×g)によって取り除き、上清のエタノール溶液を4℃で保存した。
測定前にエタノール溶液を窒素ガスを用いて乾燥させたのち、試料を水に溶かした。室温、20分間の遠心分離(15,000×g)によってさらに残渣を取り除き、上清画分をUPLC/TOFMSによる測定に用いた。傷処理前および傷処理後の葉組織の生体重量あたりのJA、JA-Ile及び12OH-JA-Ileの量(平均値 ± 標準偏差値;n ≧ 6)を図3に示す。なお、図中、野生型およびFE047系統との間で有意な差のみられたものをAsterisks にて示す (**p-value < 0.01; *p-value < 0.05, Student's t-test)。
【実施例2】
【0120】
図3に示すように、野生型では、傷処理によってJA及びその活性型が時間経過とともに増大し、不活性型もゆっくりと増大した。これに対して、FE047系統では、当初はJA及びその活性型が増大するものの、その後低下した。また、これらの低下に伴い、不活性型が増大していく傾向が見られた。
【実施例2】
【0121】
以上のことから、Os12g0150200がコードするタンパク質は、JAを活性型から不活性型に変換する活性を有すると考えられた。
【実施例3】
【0122】
本実施例では、野生型及びFE047系統のJA及びコロナチン(COR)に対する応答を評価した。なお、CORは、活性型ジャスモン酸と同様、COI1受容体に結合することによりJA応答を活性化することが知られている。
【実施例3】
【0123】
野生型およびFE047系統の種子のもみ殻を取り除き、表面殺菌したのち、高さ13 cmのマヨネーズ瓶内に調製した種々の濃度のJAもしくはCORを含むMS基本固形培地に播種し、無菌的に生育させた。JA存在下で生育させた3日齢の幼苗のシュート長を図4Aに、COR存在下で生育させた3日齢の幼苗のシュート長を図4Cに示す。また、JA存在下での播種後2日から3日目までの根の伸長を図4Bに、COR存在下での播種後3日から4日目までの根の伸長を図4Dに示す。それぞれについて平均値 ± 標準偏差値(n > 4)を示す。野生型及びFE047系統との間で有意な差のみられたものをAsterisks にて示す(**p-value < 0.01; *p-value < 0.05, Student's t-test)。
【実施例3】
【0124】
図4A及び図4Bに示すように、FE047系統は、JA存在下では、野生型よりもシュート長や根の伸長の抑制程度が小さく、JA応答が弱まったことが観察された。これに対して、図4C及び図4Dに示すように、COR存在下では、野生型とFE047系統のシュート長及び根の伸長程度に相違は検出されなかった。
【実施例3】
【0125】
また、野生型およびFE047系統の傷害に対する応答を、傷誘導性発現を示すJAmybおよびJAZ11を遺伝子マーカーとして調べた。7日齢の幼苗の葉をピンセットで20回はさみこんで機械的な傷処理を施し、湿潤チャンバーにて16時間インキュベートしたのち、葉組織を液体窒素で凍結し、-80°Cで保存した。全 RNA の抽出及び精製をRNeasy Plant Mini kit (Qiagen社)を用いて行った。QuantiTect Rev Transcription kit (Qiagen社)を用いてRNAからの逆転写を行い、得られた一本鎖cDNAをPrimeStar HS DNA polymerase (Takara Bio社) 及びGeneAmp PCR System 9700 (Applied Biosystems社) を用いたPCRもしくは、 Power SYBR Green PCR Master Mix (Applied Biosystems社)及び Mx3000P (Agilent社)を用いた リアルタイム PCR にて増幅させた。用いたプライマーを以下の表に示す。JAmyb mRNAおよびJAZ11 mRNAの発現レベルをUBC mRNAの発現レベルによってノーマライズし、傷処理葉での発現レベルを未処理葉のレベルに対する相対値とした。結果を、図4Eおよび図4Fに示す。なお、平均値 ± 標準偏差値 (n = 5)で示した。また、統計学的な有意差検定はTukey-Kramer testによるmultiple comparisons により行った。 図中のa-cはグループ間の有意差を示す(p-value < 0.01)。
【実施例3】
【0126】
【表1】
JP2016103994A_000002t.gif
【実施例3】
【0127】
図4E及び図4Fに示すように、傷処理によりJA応答性遺伝子であるJAmyb及びJAZ11の発現は野生型で共に増大したが、FE047系統では、共に強く抑制されていた。
【実施例3】
【0128】
以上のことから、Os12g0150200がコードするタンパク質は、JAに応答して活性型JAを不活性型に変換するが、コロナチンを不活性化しないことがわかった。以上の結果及び図1に示すOs12g0150200がコードするタンパク質のアミノ酸配列に基づく分子系統樹及びアライメントから、Os12g0150200は、活性型ジャスモン酸を不活性型に変換する活性を有するタンパク質をコードしていると考えられた。
【実施例4】
【0129】
本実施例では、野生型およびFE047系統の塩ストレス環境下での葉の黄化を評価した。
【実施例4】
【0130】
イネ種子のもみ殻を取り除き、表面殺菌したのち、高さ13cmのマヨネーズ瓶内に調製した300 mM NaCl を含むMS基本固形培地に播種し、33日間生育させた植物体を図5Aに示す。なお、左5個体が野生型であり、右5個体が FE047系統である。Barは 2 cmである。
【実施例4】
【0131】
また、同様の実験を275 mM NaCl を含むMS基本固形培地を用いて行った。それぞれの塩濃度を用いた場合の葉の黄化の度合いを、葉色の割合で示した。黄または茶色の葉の割合(yellow box), 黄緑色の葉の割合(light green box)および緑色の葉の割合(dark green box)を図5Bに示す。なお、平均値 ± 標準偏差値(n = 10)とした。
【実施例4】
【0132】
同様に250 mM NaCl を含むMS基本固形培地を用いて野生型およびFE047系統を33日間育成し、黄化葉(第1葉から第3葉の混合)と若い葉(第4葉と第5葉)における老化マーカー遺伝子STAYGREEN(SGR)の発現を調べた。qRT-PCR 法によりSGRの発現レベルを調べ、これをUBCの発現レベルによりノーマライズし、野生型の第4葉での発現レベルに対する相対値で表示した。なお、SGR遺伝子は、葉緑素を分解する律速酵素をコードする。発現解析は、実施例3と同様に行った。
【実施例4】
【0133】
また、サイトカイニン応答性のマーカー遺伝子であるOsRR10の発現パターンも同様にして表示した。サイトカイニンは葉の老化を抑制するホルモンである。
【実施例4】
【0134】
SGRマーカーについての結果を図5C(上)に示し、OsRR10マーカーについての結果を図5C(下)に示す。なお、平均値 ± 標準偏差値で表している。また、葉は、古いものより順にナンバリングした。
【実施例4】
【0135】
図5A及び図5Bに示すように、FE047系統では、塩ストレス下で黄色の葉が野生型よりも少なく、成長の抑制も少なかった。また、図5Cに示すように、FE047系統では、野生型に比べて老化マーカーの発現が大きく抑制されている一方、葉の老化の抑制の指標となるサイトカイニン応答性マーカーの活性化は認められなかった。
【実施例4】
【0136】
以上のことから、FE047系統では、サイトカイニンの働きを活性化することで黄化を抑制しているのではないことがわかった。
【実施例5】
【0137】
本実施例では、野生型、FE047系統(T2世代)、及び実施例1で作製した独立なOs12g0150200(CYP94C2b) cDNA過剰発現系統(BBC105系統群; T1)を用いて、CYP94C2b発現レベルと耐塩性レベルとを評価した。
【実施例5】
【0138】
塩ストレスを与えない条件で栽培した7日齢の幼苗の葉よりRNAを抽出し、CYP94C2bの発現レベルを表1に示すプライマーを用いてqRT-PCR により定量した。CYP94C2b発現レベルを25S rRNAの発現レベルによってノーマライズし、5個体の野生型の平均値に対する相対値で表したものを図6Aに示す。供試した植物における導入遺伝子(trangene; Os12g0150200)の有無、及び実施例1と同様の塩ストレス存在下での個体生存率をグラフの下に「+/-」で示す。導入遺伝子の有無については、表1にしめすプライマー(genotyping用)を用い、ゲノムDNAを鋳型としたPCRにより調べた。n.d.は未検出であることを示す。
【実施例5】
【0139】
さらにCYP94C2b発現レベルを指標に、図6Aの全35個体のイネのランク分けを行った。発現レベルを5つの区分に分けたときの、各ランク(7個体ごと)の塩ストレス存在下での生存率を図6Bに示す。ランク1~7は最も低い発現レベルを示す個体で、野生型(5個体)及び導入遺伝子を持たない個体(2個体)が含まれていた。逆にランク29~35の個体は最も高い発現レベルを示しており、野生型の約150 倍もしくはそれ以上の高い発現を示した。
【実施例5】
【0140】
以上の結果から、CYP94C2bの発現レベルが野生型よりも高いことが、塩ストレスなどに対する環境ストレス耐性を高めるが、その増強程度は、野生型の150倍を超えない程度であることが望ましいことがわかった。好ましくは、野生型の10倍以上150倍以下であり、より好ましくは同10倍以上100倍以下である。
【実施例6】
【0141】
選抜された耐塩性系統の導入遺伝子Os12g0150200及びOs04g0584800のcDNAを過剰発現ベクターに挿入後、日本晴に導入して実施例1に準じて形質転換系統を新たに作出し、次代種子を用いて耐塩性試験を行った。各遺伝子につき独立した4系統のそれぞれ5個体を試験に供した。
【実施例6】
【0142】
野生型(日本晴)及び形質転換イネの種子を表面殺菌したのち、高さ13 cmのマヨネーズ瓶内に調製したMS基本固形培地[1% sucrose、0.25% gellan gum、0.05% MES-KOH (pH 5.8) を含む]に置床し、無菌的に発芽、生育させた。幼苗は25°C、明所14時間(白色光4000 lux)、暗所10時間の条件下で育成した。一週間齢の幼苗の地上部基部(4 cm 長)を切り出し、新しいMS 基本固形培地に移植し、さらに培地と等量の600 mM NaCl水溶液(最終濃度300 mM)を無菌的に添加した。この塩ストレス条件下で 5週間生育させた時点の生存率を評価した。その後、植物体を水道水に浸して1週間馴化処理を行い、さらに生存率を評価した。結果を図7に示す。なお、塩ストレス時の生存率を灰色のバーで示し、その後の非塩ストレス時の生存率を黒いバーで示す。
【実施例6】
【0143】
図7に示すように、Os12g0150200導入系統は全ての系統で塩ストレス耐性を確認でき、Os04g0584800導入系統でも塩ストレス耐性を示すものが認められた。
【実施例7】
【0144】
本実施例では、実施例1で作製したOs12g0150200過剰発現系統(FE047)とOs04g0584800過剰発現系統(CU099)について、他の条件下での環境ストレス耐性を評価した。
【実施例7】
【0145】
(1)塩ストレス耐性試験(閉鎖系温室)
国際イネ研究所(IRRI)の耐塩性試験と同様の水耕栽培試験を行った(Thomsonら、2010)。発芽処理後、3日目及び6日目に段階的にNaClを投与し、その後の植物体のダメージをスコアリングした。なお、閉鎖系温室の耐塩性試験では、日本晴および耐塩性系統の一つである九大旭3号を比較対照とし、文献記載の評価スコアを用いて評価した。さらに、各過剰発現系統の塩ストレス耐性度を(日本晴の評価スコア-各過剰発現系統の評価スコア)/(日本晴の評価スコア-九大旭3号の評価スコア)の式により算出した。すなわち、日本晴の耐性度を「0」、九大旭3号の耐性度を「1」としたときの相対値で示した。その結果を図8Aに示す。なお、これらのグラフにおいて、プロットは繰返し試験により得られた値を示し、ボックスは中央値を示す(図8B及び図8Cについても同様)。
【実施例7】
【0146】
図8Aに示すように、Os12g0150200過剰発現系統は、閉鎖系温室の耐塩性試験においても高い塩ストレス耐性度を示し、Os04g0584800過剰発現系統も、Os12g0150200過剰発現系統よりは低いものの優れた塩ストレス耐性度を示した。
【実施例7】
【0147】
(2)高温ストレス耐性試験
イネ種子を超純水で3日間、さらにYoshida培地で17日間、共に28°Cで水耕栽培した。得られた植物体を42°Cに7日間、28°Cに戻して7日間栽培し、生存率を野生型と比較した。各遺伝子の過剰発現による高温ストレス付与耐性度を、各過剰発現系統の生存率より野生型(日本晴)の生存率(0.44~0.75)を差引いた値で表示した。結果を図8Bに示す。
【実施例7】
【0148】
図8Bに示すように、Os12g0150200過剰発現系統及びOs04g0584800過剰発現系統は、いずれも野生型よりも優れた高温ストレス耐性を有していることがわかった。
【実施例7】
【0149】
(3)高浸透圧ストレス耐性試験
Os04g0584800過剰発現系統(CU099)および野生型のイネ種子を超純水で3日間、さらにYoshida培地で15日間水耕栽培した。得られた植物体を、26%ポリエチレングリコール(PEG: 平均分子量4,000)を含んだ培地に7日間、さらにPEGを含まない培地で4日間栽培し、生存率を比較した。Os04g0584800遺伝子の過剰発現による高浸透圧ストレス耐性付与度を、Os04g0584800過剰発現系統(CU099)の生存率より野生型(日本晴)の生存率(0.21~0.69)を差引いた値で表示した。結果を図8Cに示す。
【実施例7】
【0150】
(4)イオンストレス耐性試験
Os04g0584800過剰発現系統(CU099)および野生型のイネの滅菌種子をMS培地に播種して7日間生育させた。得られた植物体の地上部(4 cm)を切り出し、40 mM LiClを含むMS培地に移植し、2週間生育して、生存率を比較した。Os04g0584800遺伝子の過剰発現によるイオンストレス耐性付与度を、Os04g0584800過剰発現系統(CU099)の生存率より野生型(日本晴)の生存率(いずれも0)を差引いた値で表示した。結果を図8Cに併せて示す。
【実施例7】
【0151】
図8Cに示すように、Os04g0584800過剰発現系統(CU099)は、高浸透圧ストレス及びイオンストレスに対して,優れた耐性を有していることがわかった。
【実施例7】
【0152】
以上のことから、Os12g0150200過剰発現系統は、優れた塩ストレス耐性と高温ストレス耐性とを有しており、塩ストレスを含む複数のストレスに優れた耐性を有していることがわかった。また、塩ストレス及び高温ストレスとは、屋外環境下においてしばしば同時に植物体に求められるストレス耐性でもある。したがって、Os12g0150200遺伝子又は当該遺伝子に等価な遺伝子の発現増強は、植物体に対して極めて実用的なストレス耐性を付与することができる。
【実施例7】
【0153】
また、Os04g0584800遺伝子は、塩ストレスのほか、高温ストレス、さらには、高浸透圧ストレス及びイオンストレスに対しても耐性を示すことができることがわかった。したがって、Os04g0584800遺伝子及び当該遺伝子と等価な遺伝子の発現増強は、植物体に対して極めて実用的なストレス耐性を付与することができる。
【実施例8】
【0154】
本実施例では、標準イネ品種(Nipponbare)および耐塩性イネ品種(Heitai, Pokkali)について実施例1に準じて耐塩性試験(実験室内、温室内)を行うとともに、これらの幼苗の葉組織におけるOs12g0150200 (Cyp94C2b)の遺伝子の発現レベルを評価した。
【実施例8】
【0155】
すなわち、耐塩性試験(実験室内)については、各品種のイネの一週間齢の幼苗の地上部基部をMS基本固形培地に移植後、培地と等量の600 mM NaCl水溶液(最終濃度300 mM)を添加し、5週間生育させた後、植物体を水道水に浸して1週間の馴化処理を行ったときの生存率を評価した。結果を図9のAに示す。なお、供試個体数(n)は、 Nipponbareが10、Heitaiが10、 Pokkaliが10であった。
【実施例8】
【0156】
また、耐塩性試験(温室内)については、各品種のイネの20個体についてThomsonら(2010)によるsalinity evaluation scoreにより評価した後、各々の中央値を用いて相対値を算出し、グラフに示した。結果を図9のBに示す。相対値算出には、比較基準として試験に供した品種(NipponbareおよびShinriki 7)の評価値の中央値および以下の式を用いた。
相対値 = (Nipponbare の中央値- 試料の中央値)/(Nipponbare の中央値- Shinriki 7 の中央値)
【実施例8】
【0157】
さらに、各品種のイネの1週間齢の幼苗の葉組織(非ストレス条件下)を液体窒素で凍結し、—80℃で保存したものにつき、全RNAの抽出および精製をRNeasy Plant Mini Kit (Qiagen社)を用いて行った後、QuantiTect Rev Transcription Kit (Qiagen社)を用いてRNAからの逆転写を行った。得られた1本鎖cDNAをSsoAdvanced Universal SYBR Green Supermix(BIO-RAD社)を用いたリアルタイム PCRにて増幅させた。用いたプライマーは表1に示す。Cyp94C2b mRNAの発現レベルを25S ribosomal RNAの発現レベルによってノーマライズし、 Nipponbareでの発現レベルに対する相対値で示した。結果を図9のCに示す。なおグラフは、平均値±標準偏差(n = 3)で示した。
【実施例8】
【0158】
図9のA及びBに示すように、既存の耐塩性イネ品種であるHeitaiおよびPokkaliは、実験室内および温室内の、2つの条件での耐塩性試験において、いずれもNipponbareに対して高い生存率を呈した。また、図9のCに示すように、HeitaiおよびPokkalを非ストレス条件下で生育した植物体の葉におけるOs12g0150200(CYP94C2b)遺伝子の発現レベルが、標準品種(日本晴; Nipponbare)に比較して高いことを確認できた。HeitaiではNipponbareの発現レベルの5倍から80倍、 Pokkaliでは10倍から45倍に相当した。一方、図6Aに示したように、耐塩性が向上したOs12g0150200 (Cyp94C2b) 遺伝子過剰発現体では、野生型(Nipponbare)に比べて、CYP94C2bの発現レベルが約5倍から150倍に達していた。
【実施例8】
【0159】
以上のことから、既存の耐塩性品種であるHeitaiやPokkaliの高い耐塩性に、CYP94C2bの高発現が寄与し得ることがわかった。また、既存の耐塩性イネ品種でCYP94C2bの高い発現が認められたことは、CYP94C2bの発現増強による耐塩性の改善が実現可能なものであることを強く支持している。例えば、CYP94C2b遺伝子の発現の高い品種をスクリーニングし、そのコード領域、さらには発現調節領域を含む遺伝子を栽培品種に導入することで耐塩性を向上させることも可能であると考えられる。
【実施例8】
【0160】
本明細書中においては、さらに、以下の論文を参照する。本明細書においてすでに参照した文献のほかこれらの文献は、参照により本明細書においてその全体が組み込まれるものとする。
【実施例8】
【0161】
(1)Nakamura, H., Hakata, M., Amano, K., Miyao, A., Toki, N., Kajikawa, M. et al. (2007) A genome-wide gain-of function analysis of rice genes using the FOX-hunting system. Plant Mol. Biol. 65: 357-371.
(2)Hakata, M., Nakamura, H., Iida-Okada, K., Miyao, A., Kajikawa, M., Imai-Toki, N. et al. (2010) Production and characterization of a large population of cDNA-overexpressing transgenic rice plants using Gateway-based full-length cDNA expression libraries. Breed. Sci. 60: 575-585.
(3)Tsuchida-Mayama, T., Nakamura, H., Hakata, M. and Ichikawa, H. (2010) Rice transgenic resources with gain-of-function phenotypes. Breeding Sci. 60: 493-501.
(4)Thomson, M.J., de Ocampo, M., Egdane, J., Rahman M.A., Sajise, A.G., Adorada, D.L. et al. (2010) Characterizing the Saltol Quantitative Trait Locus for Salinity Tolerance in Rice. Rice 3: 148-160.
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2A】
2
【図2B】
3
【図2C】
4
【図2D】
5
【図2E】
6
【図2F】
7
【図3】
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【図4A】
9
【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5A】
15
【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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