TOP > 国内特許検索 > 金属表面の処理方法並びに当該方法により処理された銀被着銅及び複合金属体 > 明細書

明細書 :金属表面の処理方法並びに当該方法により処理された銀被着銅及び複合金属体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-098398 (P2016-098398A)
公開日 平成28年5月30日(2016.5.30)
発明の名称または考案の名称 金属表面の処理方法並びに当該方法により処理された銀被着銅及び複合金属体
国際特許分類 B22F   1/02        (2006.01)
B22F   1/00        (2006.01)
B22F   9/30        (2006.01)
H01B   5/00        (2006.01)
H01B   1/22        (2006.01)
H01B   1/00        (2006.01)
H01B   5/14        (2006.01)
FI B22F 1/02 A
B22F 1/00 L
B22F 1/02 B
B22F 1/00 K
B22F 9/30 Z
H01B 5/00 C
H01B 1/22 A
H01B 1/00 C
H01B 1/00 E
H01B 5/14 Z
H01B 5/00 E
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 30
出願番号 特願2014-235893 (P2014-235893)
出願日 平成26年11月20日(2014.11.20)
発明者または考案者 【氏名】栗原 正人
【氏名】宇留間 慶麗
出願人 【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001508、【氏名又は名称】特許業務法人 津国
【識別番号】100078662、【弁理士】、【氏名又は名称】津国 肇
【識別番号】100116528、【弁理士】、【氏名又は名称】三宅 俊男
【識別番号】100146031、【弁理士】、【氏名又は名称】柴田 明夫
審査請求 未請求
テーマコード 4K017
4K018
5G301
5G307
Fターム 4K017AA04
4K017AA08
4K017BA02
4K017BA05
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017EK05
4K018BA01
4K018BA02
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC22
4K018BC29
4K018BD04
4K018KA33
5G301DA03
5G301DA06
5G301DD01
5G301DD10
5G301DE01
5G307AA02
5G307GA06
要約 【課題】金属銅又はその合金の表面に金属銀を介在させて表面処理して複合化することにより、金属銅(合金)間の融着による接合を比較的低温で生じさせるための金属の表面処理方法を提供する。
【解決手段】加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物とアルキルアミンとのアミン錯体を、アルキルアミンの存在下に金属銅又は銅合金を含む金属表面で加熱して、当該金属表面に銀を析出させる。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物とアルキルアミンを含むアミン錯体を、アルキルアミンの存在下に金属銅表面で加熱して、当該金属銅表面に銀を析出させることを特徴とする金属表面の処理方法。
【請求項2】
前記アミン錯体が、銀原子に対して酸素原子と窒素原子の両方が配位している錯化合物であることを特徴とする請求項1記載の金属表面の処理方法。
【請求項3】
前記銀化合物がシュウ酸銀及び/又は酢酸銀を主成分とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属表面の処理方法。
【請求項4】
金属銅の少なくとも一部表面で、加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物とアルキルアミンを含むアミン錯体をアルキルアミンの存在下に加熱して、前記金属銅表面の少なくとも一部に金属銀を析出させてなることを特徴とする銀被着銅。
【請求項5】
前記金属銅表面に析出した金属銀の少なくとも一部がアルキルアミンにより被覆されていることを特徴とする請求項4に記載の銀被着銅。
【請求項6】
前記金属銅が、微粒子状であることを特徴とする請求項4又は5に記載の銀被着銅。
【請求項7】
前記微粒子状の金属銅の平均粒子径が50nm~10μmであることを特徴とする請求項6に記載の銀被着銅。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の銀被着銅を、分散媒に分散させたことを特徴とする分散体。
【請求項9】
更にアルキルアミン被覆を有する銀微粒子を含むことを特徴とする請求項8に記載の分散体。
【請求項10】
金属銅の含量に対する銀の重量比が1/2以下であることを特徴とする請求項8又は9に記載の分散体。
【請求項11】
金属銅を分散相として、該分散相が銀によって結合された構造を有する複合金属体であって、3.0×10-3Ω・cm以下の体積抵抗率を示すことを特徴とする複合金属体。
【請求項12】
前記金属銅は、少なくてもその表面の一部が銀によって被覆されていることを特徴とする請求項11に記載の複合金属体。
【請求項13】
金属銅の含量に対する銀の重量比が1/2以下であることを特徴とする請求項11又は12に記載の複合金属体。
【請求項14】
請求項11~13のいずれかに記載の複合金属体を有することを特徴とするデバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、銅などの金属基体の少なくとも一部表面で、加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物とアルキルアミンとのアミン錯体をアルキルアミンの存在下に加熱して、前記金属表面に銀を析出させる金属表面の処理方法、並びに当該方法により処理された銀被着銅、さらにこれを焼結して得られる複合金属体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅は、電気伝導性が良く比較的安価であることから、従来から配線材料として最も一般的に使用される素材である。また、近年では、金属銅が有する高い耐エレクトロマイグレーション性を活かして、LSIの内部配線にも使用されている。一方、金属銅同士の接合は一般に困難であり、従来より、半田付け等の蝋付けに代表される異種金属を介した接合が行われてきた。更に、接合される金属銅表面における酸化物の生成の防止等により接合を容易にするため、予め銅表面に接合に適した異種金属を複合化する技術が広く知られている。例えば、特許文献1には、銅表面に貴金属によるメッキを施すことで、その後の拡散接合を容易に行う技術が開示されている。
一方、近年、金属微粒子を含む導電性インクやペーストを、電子デバイスを簡単な印刷・塗布工程で作製する次世代のプロセス技術であるプリンテッドエレクトロニクス(PE)における配線材料として使用することが注目されている。特に、PEにおいては、電子デバイスが搭載された基板にフレキシビリティを付与する目的で、その基板として各種の樹脂を使用することが望まれている。これらの要望を実現するためには、配線材料である金属微粒子を含む導電性インクやペーストについても、比較的安価な樹脂の耐熱温度である120℃程度以下で容易に焼結して、良好な導電性を示すことが求められている。
【0003】
上記要求を満たす配線材料に使用する金属微粒子として、これまでは特に金属銀微粒子が注目されてきた。金属銀は、高い電気伝導率や耐酸化安定性を有することに加え、微粒子にすることで比較的低い温度で焼結して金属銀被膜を生成可能であること等が知られており、PEにおける配線材料として最も実用化に近い材料と考えられている。
銀微粒子はさまざまな方法で製造することが可能であるが、製造された銀微粒子の凝集防止や溶媒への分散性向上等の特性付加の点から、銀微粒子の製造と同時に粒子表面に各種の保護膜を生成させた被覆銀微粒子として製造する方法が一般的である。そのような被覆銀微粒子の製造方法としては、銀を含む化合物(銀化合物)と保護被膜となる有機分子等が共存する環境において、還元剤を用いて銀化合物を還元して銀原子を生成させ、この銀原子の凝集により銀微粒子が生成すると同時に、当該銀微粒子の表面に共存する有機分子等により保護被膜を生成させる方法が一般的である。例えば、特許文献2には、硝酸銀とアミンの錯体を還元剤であるアスコルビン酸等に滴下して硝酸銀を還元して被覆銀微粒子を製造する技術が記載されている。また、特許文献3には、硝酸銀等の銀塩を有機保護剤および還元補助剤の共存下で加熱して還元することで有機保護剤が被着した銀微粒子を製造する技術が記載されている。
上記、従来の銀微粒子の製造方法によれば、銀微粒子を構成する銀原子を生成するために銀化合物と還元剤間の酸化還元反応が必須であるが、銀化合物と還元剤の両成分を均一に混合することは必ずしも容易でなく、系内において濃度の部分的な揺らぎを生じることが避けられない。このために、従来の銀微粒子の製造方法においては系内において均一な酸化還元反応を生じることが困難であり、この結果、生成する銀微粒子の粒径等にばらつきが生じることが避けられない問題を有していた。
【0004】
このような問題を生じることなく、被覆銀微粒子を効率的に製造する方法として、本発明者らは、アルキルアミンをシュウ酸銀等の銀化合物に被着させて錯化合物を形成させた後、生成した錯化合物を加熱して熱分解することで、被覆銀微粒子を得る技術(以下「アミン錯体熱分解法」、又は場合により「アミン錯体分解法」ともいう)の開発を行っている(例えば、特許文献4~7参照)。アミン錯体熱分解法によれば、銀微粒子を生成する際の反応として、一成分であるアミン錯体が複数成分に熱分解する反応を利用するため、複数成分間で生じる還元反応と比較して濃度等の揺らぎによる不均一が生じ難く、均一な特性を持つ銀微粒子を得られやすく、また、一般に有機溶媒等を必要とせず、無溶媒でも銀微粒子を得ることができる。更に、アルキルアミンとの錯化合物を形成することにより銀化合物が化学的に不安定になり、本来の熱分解の温度よりも低い温度で熱分解を生じる結果、典型的には100℃程度、又はそれ以下の比較的温和な条件で銀微粒子を生成可能になり、特に容易に低温焼結を生じる被覆銀微粒子の製造に適している。
【0005】
他方、金属銀は金属銅に比べて素材の価格が高く、且つ、耐エレクトロマイグレーションの点で金属銅に劣るため、次世代のプリンテッドエレクトロニクスにおける配線材料として銅微粒子を用いることが広く検討されており、各種の銅微粒子の製造方法が提案されている。しかしながら、微粒子とした場合でも、金属銅の焼結温度(融着温度)は金属銀に比べて高くなることから、依然として樹脂基板上での配線形成が可能な程度の焼結性を持つ銅微粒子は見出されていない。また、銅微粒子においては、その比表面積の増大により製造や使用の工程における酸化が大きな問題となり、一般に不活性ガス雰囲気での製造や、還元雰囲気や光照射といった特殊な焼結環境が必要となるなど、銀微粒子と比べてむしろ高コストとなる問題を有している。
【0006】
上記銅微粒子における問題を解決する手段として、特許文献1等に記載されるような比較的マクロな接合の場合と同様に、銅の表面に銀等の貴金属を複合化した微粒子の使用が検討されている。特許文献8には、アミン錯体熱分解法で製造した銀微粒子をコアとして、その表面にアルキルアミン中で生成させた銅原子によりシェルを形成してなる複合微粒子(銀コア銀銅合金シェルナノ微粒子)が記載されている。当該複合微粒子については、還元雰囲気で80℃程度の低温で焼結して導電性を示すことが記載されると共に、当該複合微粒子のシェル部は、平衡状態では存在しない銀銅合金相を含むと共に、主に銅のみからなる部分においても、その格子定数が銀相の格子定数と同様であるなど、準平衡な銅を含む相から構成されることが記載されている。また、当該複合微粒子は、大気中で120℃程度まで加熱した場合にも、実質的に酸化を生じないことが確認されており、銀との複合化により銅の耐酸化性を向上する可能性を示すものである。
また、特許文献9には、銅をコアとして、その周囲に貴金属のアルカノエート(特に、脂肪酸銀)で薄膜層を形成した金属ナノ粒子が記載され、銅のコアを銀の薄膜層でコートした金属ナノ粒子においては、銀薄膜層の存在により131℃まで銅コアの酸化が防止されたことが記載されているが、その焼結性に関しては評価がされていない。
【0007】
特許文献10には、第1金属前駆体と有機溶媒とを含む溶液を加熱することにより、第1金属前駆体を還元させ、第1金属前駆体に由来する第1金属成分から構成される第1金属コアを生成させる工程と、第1金属コアを含む溶液に第2金属前駆体を加え、この溶液を加熱することにより、第2金属前駆体を還元させ、第2金属前駆体に由来する第2金属成分から構成される第2金属シェルを第1金属コアの周囲に生成させる工程とを有する金属ナノ粒子の製造方法が記載され、具体的には銀のコアを銅のシェルで覆った微粒子を製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開平6-262375号公報
【特許文献2】特開2009-144197号公報
【特許文献3】特開2007-39718号公報
【特許文献4】特開2010-265543号公報
【特許文献5】特開2012-162767号公報
【特許文献6】特開2014-31542号公報
【特許文献7】特開2014-40630号公報
【特許文献8】特開2011-68936号公報
【特許文献9】特開2007-224420号公報
【特許文献10】特開2008-248298号公報
【0009】

【非特許文献1】Yamamoto M. et al., Langmuir, 2006, Vol.22, pp.8581-8586
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、配線用等の材料として金属銀に比べて素材の価格が低く、耐エレクトロマイグレーションに優れた金属銅を用いることについて広く需要が存在する一方で、金属銅間の融着性が低いために、低温で金属銅を容易に融着させる技術は明らかにされていない。特にフレキシブル基板の耐熱温度範囲において焼結可能な銅を含む微粒子、及びその製造方法などは未だに明らかにされていない。また、銀微粒子を混合することで銅微粒子を焼結する技術や、各種の方法で銅の表面に銀を析出させる等の表面処理を行って銅に銀を複合化した微粒子についても、必ずしも良好な焼結性を示すに至っていない。
そこで、本発明は、特に金属銀が有する低温融着性(焼結性)を利用し、金属銅及びその合金の表面に金属銀を介在させて表面処理して複合化することにより、金属銅(合金)間の融着による接合を比較的低温で生じさせる金属銅の表面処理方法を提供することを課題とする。また、特に銅を含む微粒子の表面を処理することにより、印刷法による金属配線の形成に適した銅(合金)微粒子とするための表面処理方法を提供することを課題とする。更に、金属銅(合金)を上記方法により処理して得られる銅銀複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物とアルキルアミンとを混合して生成させた錯化合物であるアミン錯体を、アルキルアミンの存在下に、金属銅を含む金属表面で加熱して金属銀を析出させることにより、前記金属表面に効率よく銀被覆を形成し、一定の環境耐酸化能を付与可能であること、また当該方法により形成した銀被覆の低温融着を介して金属表面を接合できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の第一の視点における金属表面の処理方法は、加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物とアルキルアミンとのアミン錯体を、アルキルアミンの存在下に金属銅又は銅合金を含む金属表面で加熱して、当該金属表面に銀を析出させることを特徴とする。本発明の異なる視点では上記表面処理方法により得られるアルキルアミンで被覆された銀被着銅を提供するものであって、この銀被着銅は、金属銅又は銅合金の少なくとも一部表面で、加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物とアルキルアミンとのアミン錯体をアルキルアミンの存在下に加熱して、前記銅表面に金属銀を析出させてなることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明の他の視点では、上記銀被着銅を焼結して得られる複合金属体が提供され、この複合金属体は、銀のマトリクス中に、銅の分散相を含み、3.0×10-3Ω・cm以下の体積抵抗率を示すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属表面の処理方法によれば、複雑な設備や不活性ガス雰囲気のような特殊の条件を必要とせず、基体表面の一部あるいは全面に効率よく金属銀を被着させることができる。基体として金属銅を用いた場合には、金属銅の表面に銀の原子層が準安定状態で析出するため、処理された銅表面を低温で融着により接合することができる。例えば、銅板等の表面に本発明に係る処理方法により銀の原子層を被着させることで、当該表面同士の融着性を向上することが可能である。特に、銅微粉末に対して本発明に係る処理方法により銀の原子層を被着させることにより、相互に融着し易く、低温で焼結して配線等を形成可能な銅微粉末とすることが可能となる。また、本発明により表面処理を行って得られる銀被着銅微粉末を分散媒に分散させることで、印刷法により配線等を形成するためのインクやペースト等の分散体等を得ることが可能であり、更に銀被着銅微粉末を相互に融着することで良好な導電性を有する複合金属体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で表面処理を行った銅板表面の走査電子顕微鏡像である。
【図2】実施例1、比較例1で表面処理を行った銅板同士を融着させたものの写真である。
【図3(a)】実施例2で合成した銅微粒子の走査電子顕微鏡像である。
【図3(b)】実施例2で合成した銅微粒子の顕微鏡写真から得た粒径分布ヒストグラムである。
【図4】実施例2で合成した銅微粒子の粉末X線回折パターンである。
【図5(a)】実施例2で合成した銅微粒子の不活性雰囲気での熱重量分析結果である。
【図5(b)】実施例2で合成した銅微粒子の大気圧下での熱重量分析結果である。
【図6】実施例2、実施例4及び比較例2で表面処理を行って得られた金属微粒子の粉末X線回折パターンである。
【図7(a)】実施例2で表面処理を行って得られた金属微粒子の走査電子顕微鏡像である。
【図7(b)】実施例3で表面処理を行って得られた金属微粒子の走査電子顕微鏡像である。
【図7(c)】実施例4で表面処理を行って得られた金属微粒子の走査電子顕微鏡像である。
【図8】実施例2で表面処理を行って得られた金属微粒子の走査透過電子顕微鏡像と元素分析マッピングである。
【図9】比較例2で表面処理を行って得られた金属微粒子の走査電子顕微鏡像である。
【図10】実施例2、実施例4及び比較例2で表面処理された金属微粒子の焼成膜のX線回折パターンである。
【図11】実施例2、実施例3及び比較例2で表面処理された金属微粒子の焼成膜の紫外可視拡散反射スペクトルである。
【図12(a)】実施例2で表面処理された金属微粒子の焼成膜表面の走査電子顕微鏡像である。
【図12(b)】実施例4で表面処理された金属微粒子の焼成膜表面の走査電子顕微鏡像である。
【図12(c)】比較例2で表面処理された金属微粒子の焼成膜表面の走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る金属銅の表面に対して金属銀の介在を伴う表面処理を行う表面処理方法、並びに当該方法を用いて得られる金属銅の表面に金属銀が被着した銀被着銅について説明する。また、特に金属銀を被着させた銅微粉末と、当該銅微粉末を分散媒に分散させた分散体、及び当該銅微粉末を接合してなる複合金属体について説明する。なお、本発明に係る方法で処理される金属銅は、不可避の不純物のみを含む純銅であってもよく、また、銅を主成分として適宜の合金元素を含有する銅合金であってもよい。以下、本明細書において「金属銅」、又は単に「銅」と記載するものは、純銅の他に銅を主成分とする銅合金を含むものとする。

【0017】
金属銅間の融着性を向上するための金属銅の表面処理のうち、特に金属銀が介在する表面処理方法について本発明者が種々検討を行ったところ、意外にも、これまでに本発明者らが銀微粒子の製造のために開発してきたアミン錯体熱分解法において生成した銀原子を金属銅の表面に被着させる処理を行うことにより、処理後の表面間の融着が低温でも容易に生じることを見出して、本発明に至ったものである。また、特に銅微粒子に対してアミン錯体熱分解法により銀を被着させることにより、室温付近でも微粒子間の融着による接合が生じて良導体を形成可能であることが見出された。アミン錯体熱分解法により生成した銀原子が金属銅の表面に被着することにより、当該表面間の融着が低温でも容易に生じるようになる理由は明らかではないが、本発明の実施例で示された金属銅の融着性は、通常の金属銀や従来知られた方法により銅表面に設けられた銀被覆と比較しても顕著であり、本発明に係る方法により析出した金属銀は下地の金属銅と良好な金属結合を形成し、且つ析出した金属銀の被覆層が活性な状態にあるためと推察される。

【0018】
特許文献4~7に記載されるアミン錯体熱分解法においては、銀原子の供給源となる銀化合物と、種々のアルキルアミンとの錯化合物を予め生成させることを特徴とする。当該錯化合物においてはアルキルアミンに含まれるアミノ基が銀化合物に含まれる銀原子に配位結合をしているものと考えられ、これによって銀化合物の構造が不安定になり、本来の分解温度よりも低い温度で銀化合物の分解を生じることが明らかになっている。そして、その錯化合物(以下、「アミン錯体」と称する場合がある。)を加熱することで、比較的低温で銀化合物を分解させて、アルキルアミンが被着した状態の銀原子が生成されるために、生成した銀原子が有するポテンシャルが低く、また被着したアルキルアミンによって運動性が制限されるものと考えられている。この結果として、アミン錯体熱分解法を用いた銀微粒子の製造においては、実質的に反応媒である有機溶媒などが存在せずに銀原子の密度が非常に高い条件においても製造される銀微粒子が粗大化せず、微細で均一な粒径分布が得られるものと考えられている(特許文献4~7)。

【0019】
本発明に係る検討においては、金属銅の表面が系内に存在する状態で銀化合物とアルキルアミンの錯化合物を熱分解させた際には、金属銅の表面に銀が優先的に析出して銀の原子層からなる被覆を形成することが明らかになった。格子定数の違い等により金属銅と金属銀は平衡状態では合金相を生成せず親和性が低く、例えば以下の比較例3にも示すように、銅微粒子に対して特許文献4~7に記載の方法で製造した焼結の極めて高い被覆銀微粒子を混合して焼成を行った場合でも得られる焼結体の導電性が低いなど、金属銅と金属銀を良好に接合することが困難であることが一般に知られている。それにも関わらず、本発明によって金属銅の表面に銀の原子層からなる被覆が生成し、また当該銀の被覆を有することで金属銅が高い融着性を示す機構は、アミン錯体熱分解法において生成した銀原子の状態に関係するものと推察される。つまり、一般に知られるような銀を含む化合物を還元剤による駆動力により還元することで銀原子を生成させる場合と比較して、アミン錯体熱分解法において生成した銀原子の化学的ポテンシャルが低いことが予想され、このために核生成等を伴う安定相の形成が困難になる結果、銅の表面に銀の原子層が準安定的に結合して析出したものと考えられる。そして、この銀の原子層が銅の表面との良好な結合を維持しつつバインダーとして機能することで、処理された表面間の融着による接合が低温でも容易に生じるものと考えられる。また、銀の析出と同時に、析出した銀の表面にアルキルアミンの被覆が生成し、銀イオンなどの不純物を表面に含まないため、析出した銀の表面が清浄に維持されることも低温での融着に寄与するものと考えられる。一方、非特許文献1に記載された長鎖脂肪酸イオンで保護された銀微粒子に製法においては、長鎖脂肪酸イオンが銀の電荷補償をするため、銀微粒子表面には銀イオンが不純物として含有すると考えられる。このため、比較例2に示すように、そのような方法により金属銅の表面処理を行った場合には、銀イオンが不純物として作用し、銅の表面へ析出した銀原子層が、必ずしも金属銅との間に良好な結合を形成しないものと推測される。

【0020】
本発明に係る処理方法により処理される金属銅の形態に特に制限はなく、融着性を付与しようとする金属銅の表面にアミン錯体熱分解法により生成した銀原子により銀の原子層を被着させることにより高い融着性を付与することができる。例えば、銅板等の表面に本発明に係る処理方法により銀の原子層を被着させることで、当該表面同士の融着による接合性を向上することが可能である。特に、銅微粒子に対して本発明に係る処理方法により銀の原子層を被着させることにより、相互に融着し易く、低温で焼結して配線等を形成可能な銅微粉末とすることが可能となる。
以下、本発明の実施の形態などについて具体的に説明する。

【0021】
(表面処理される基体)
本発明に係る表面処理により処理される基体について、以下において不可避の不純物のみを含む純銅や、銅を主成分として適宜の合金元素を含有する銅合金を含む金属銅を基体とする場合について詳しく説明するが、本発明に係る表面処理により処理される基体はこれに限定されず、アミン錯体熱分解法により生成した銀原子が被着して原子層を形成する材質であれば、本発明に係る表面処理により処理を行うことができる。つまり、例えば、鉄、鉄鋼、ステンレス鋼、ニッケル基合金、銅、アルミニウム及びそれらの合金や、導電性を有しないセラミックス等の無機化合物や樹脂の表面に対しても本発明を適用することが可能である。

【0022】
本発明に係る表面処理により処理される金属銅の形態や大きさは特に限定されず、板状、箔状、線状(ワイヤー)、粉末状等の適宜の形態のものを一般に用いられる脱脂工程や、酸洗浄、アルカリ洗浄等、適宜の前処理を行うことで清浄化して使用することができる。また、本発明に係る表面処理により銀の原子層が被着する表面については、酸化層等が存在せずに金属相が露出していることが望ましいが、金属銅の表面に生成した酸化銅は本発明に係る表面処理において使用するアルキルアミン浴に溶解して除去されるため、処理を行う金属銅の表面に酸化銅が存在しても本発明に係る表面処理を行うことができる。但し、アルキルアミン浴の清浄性を維持するためには、処理の開始以前に表面の酸化銅が除去されることが望ましいことは言うまでもない。
また、配線形成等に用いる目的で銅微粉末に対して本発明に係る表面処理を行う場合には、銅ペースト等の形態で使用した際に好ましい特性を有するための各種属性を予め具備した銅微粉末を用いることが好ましい。そのような銅微粉末の例として、特開2005-314755号公報に開示された、湿式還元法を用いて製造された銅微粉末や、特開2005-222737号公報に開示された、水アトマイズ法により得られた銅微粉末等が挙げられる。

【0023】
一方、本発明の1つの好ましい実施形態においては、本発明に係る表面処理を行う銅微粉末として、アルキルアミン浴中で銅を含む化合物を還元することにより作製された銅微粉末を用いることが挙げられる。これらの銅微粉末においては、予め銅微粉末の表面が保護被膜としてのアルキルアミンで被覆されているため、本発明に係る表面処理を行うアルキルアミン浴に分散しやすく良好に使用することができる。また、特に特開2012-072418及び特開2014-148732号公報等に記載されている方法で製造された銅微粉末においては、実質的に反応系内の酸素ポテンシャルが無視できる(除酸素された)状態で製造され、且つアルキルアミンにより良好に被覆されているために、微粉末の表面に実質的に酸化層が存在しないことから、配線形成等に用いる目的で本発明に係る表面処理を行うことにより、更に良好な焼結性を付与することが可能である。更に、上記公報に記載の銅微粉末においては、銅微粉末内に固溶して存在する酸素原子の密度も低いと推察されることから、以下に説明するように、本発明に係る表面処理を行った後の銅微粉末を焼結する際の酸化層の生成に対する耐性が高いと考えられる点からも好ましく使用することができる。
上記公報に記載の銅微粒子の製造においては、銅とその他の原子(又は、原子群)が結合して構成される含銅化合物を銅原子の供給源としてアルキルアミンにより被覆された銅微粒子を製造する。使用される含銅化合物としては、後述する還元性化合物との間で錯体等の複合化合物を生成可能な化合物であれば銅微粒子の金属源として使用することができる。

【0024】
このような含銅化合物としては、例えば、シュウ酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、イソ酪酸銅、吉草酸銅、イソ吉草酸銅、ピバリン酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、マレイン酸銅、安息香酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅、硝酸銅、亜硝酸銅、亜硫酸銅、硫酸銅、リン酸銅のような銅の有機酸塩や無機酸塩等が例示される他、アセチルアセトンが配位結合したアセチルアセトナト銅に代表される錯化合物が例示される。

【0025】
上記銅微粒子の製造方法においては、まず上記含銅化合物に対して、還元作用を有する還元性化合物を混合して、金属化合物と還元性化合物との複合化合物を生成させる。このような複合化合物においては、還元性化合物が含銅化合物中の銅イオンに対する電子のドナーとなり銅イオンの還元を生じ易いため、使用した含銅化合物と比較して自発的な熱分解による銅原子の遊離を生じ易い。このため、このような複合化合物を銅原子の供給のための直接の原料とすることで、反応に関与する物質の供給に律速されることがなく、温度や圧力などの条件の設定により複合化合物の自発的な分解反応を生じさせることで銅原子が供給され、銅微粒子を製造することが可能となる。

【0026】
この際に使用される還元性化合物としては、アミノ基を有するものが好ましい。アミノ基を有する還元剤は含銅化合物中の銅原子等に対して配位結合を形成し易く、含銅化合物の構造を維持した状態で容易に含銅化合物との複合化合物を生成すると共に、銅の還元反応を生じるためである。このような還元性化合物としては、反応媒とするアルキルアミンの蒸発や分解を生じない温度範囲において、自発的な分解反応により銅原子の還元・遊離を生じる複合化合物を形成するものであれば特に限定されないが、典型的には、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる化合物を特に好ましく挙げられる。これらの化合物は、骨格を成す窒素原子が配位結合により含銅化合物中の銅原子に結合して複合化合物を生成する。また、一般にアルキルアミンと比較して還元力が強いため、生成した複合化合物が比較的穏和な条件で自発的な分解を生じて銅原子を還元・遊離して、アルキルアミンで被覆された銅微粒子を生成することができる。

【0027】
ここで、ヒドラジンの誘導体とは、ヒドラジンに含まれる水素の1~3個を所定のアルキル基等で置換したものをいう。また、ヒドロキシルアミンの誘導体とは、ヒドロキシルアミンに含まれる水素の1個を所定のアルキル基等で置換したものをいう。ヒドラジン、ヒドロキシルアミンの使用に代えてその誘導体を適宜選択して使用することで、含銅化合物との反応性を調整することが可能であり、使用する含銅化合物に応じて適切な条件で自発分解を生じる複合化合物を生成することができる。特にヒドラジンと混合した際に複合化合物を生じることなく還元反応を生じやすい含銅化合物を用いる際には、適宜選択されるヒドラジン誘導体を使用して複合化合物の生成を促進することが有効である。

【0028】
次に、上記で生成した複合化合物を、十分な量のアルキルアミンの存在下で加熱して複合化合物の自発的分解反応により銅原子が生成して凝集することで、使用したアルキルアミンからなる保護膜で被覆された銅微粒子を得ることができる。

【0029】
上記で説明したとおり、本発明に係る表面処理を行うことにより、金属銅の表面に形成される銀の原子層が融着(焼結)の際のバインダーとして機能し、金属銅の表面同士を融着させる際と比較して融着温度を著しく低下することが可能であり、金属銅の酸化防止の点からも有用である。また、銀の原子層が金属銅への酸素の侵入を抑制するために、特に本発明に係る表面処理を行った銅微粒子においては焼結雰囲気からの酸素による酸化耐性を向上することができる。このような酸化耐性に関する相乗効果により、特に本発明は焼結の際の酸化が問題となる銅微粒子において特に有効である。
つまり、本発明に係る表面処理を行う銅微粒子の粒子径は特に限定されないが、特に平均粒子径が50nm以下の微細な銅微粒子を用いた場合にも焼結の際に還元雰囲気は特に必要とされず、不活性ガス雰囲気等の非酸化雰囲気下において酸化相の生成を抑制して良好な伝導体を形成することができる。また、平均粒子径が50nm以上、更に100nm以上の銅微粒子を使用すると、本発明に係る表面処理を行うことで大気雰囲気下での焼結を行った場合でも実質的に酸化相が生成する以前に焼結を完了して、良好な導電体を得ることが可能である。酸化が問題となる金属銅の微粒子を大気雰囲気下で容易に焼結できる理由は、上記のような本発明による焼結温度の低下、銅微粒子への酸素の侵入の抑制効果に加えて、銅微粒子の粒径が大きくなるに従って銅微粒子の比表面積が低下し、単位体積当たりの酸素の侵入量が低減できるためと考えられる。一方、微細印刷配線を形成する観点からは、その用途に応じて銅微粒子の平均粒子径を10μm以下、好ましくは1000nm以下、更に好ましくは500nm以下、更になお好ましくは300nm以下とすることが望ましい。

【0030】
(表面処理において銀原子を供給するためのアミン錯体)
本発明に係る表面処理方法は、銀を含む化合物とアルキルアミンからなる所定のアミン錯体を加熱して熱分解させる際に金属銅を介在させることで、その表面にアミン錯体の分解によって生成する銀原子を被着させて銀の原子層を形成させることを特徴とする。本発明において使用する当該アミン錯体としては、例えば、特許文献4~7において銀微粒子を生成するために使用されるアミン錯体が使用される。

【0031】
アミン錯体の分解によって銀原子を生成し供給する方法は、銀を含む化合物とアルキルアミンが錯化合物を生成することで、銀を含む化合物の構造が不安定になって熱分解温度が一般に低下することを利用するものである。つまり、アミン錯体を経由することで、通常の湿式還元反応で必須とされる還元剤を使用することなく比較的低温で銀を含む化合物を熱分解して銀原子を生成するために、反応の系内で組成の揺らぎに起因する反応の不均一を生じにくく、比較的ポテンシャルが低い銀原子を供給することが可能となる。また、錯化合物を形成したアルキルアミンは、銀を含む化合物が熱分解した後にも銀原子に被着しているものと考えられ、銀原子の運動性を抑制すると共に、銀原子が凝集した際の表面保護被膜を形成するために、銀原子が粗大に凝集することを防止する機能を果たすと考えられる。

【0032】
(アミン錯体に用いられる銀化合物)
アミン錯体を形成して銀原子を生成するために使用される銀の化合物としては、各種のアルキルアミンとの間で錯体を形成可能であり、加熱により容易に分解して原子状の銀を生成する銀化合物が好ましく使用される。このような銀化合物として、典型的には、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸などのカルボン酸と銀原子が化合したカルボン酸銀の他、塩化銀、硝酸銀、炭酸銀等が挙げられ、その一種、又は二種以上を混合して使用することができる。また、銀化合物としては、熱分解後に反応系内に不純物として残留する成分を生じないものが特に好ましい。例えば、長鎖・中鎖のアルキル基を有するカルボン酸である脂肪酸を用いた場合には、熱分解によって生じるアルキル鎖を含む化合物が保護被膜に取り込まれることで、保護被膜の脱離性が低下する傾向が見られる。この観点からは、熱分解後の反応系内に実質的に副生成物が残留しないシュウ酸銀が好ましく用いられる。シュウ酸銀は、銀含量が高く、また通常は200℃程度の低温で分解しやすく、また分解の際にシュウ酸イオンが二酸化炭素として除去され金属銀が得られるため、不純物が残留しにくい点で有利である。本発明の方法に用いられるシュウ酸銀は、例えば、市販のシュウ酸銀を用いることができる。また、シュウ酸銀のシュウ酸イオンを、20モル%以下の炭酸イオン、硝酸イオン、酸化物イオンの1種以上で置換した銀化合物を使用してもよい。特に、シュウ酸イオンの20モル%以下が炭酸イオンで置換されたシュウ酸銀は熱安定性が高まるが、置換量が20モル%を超えると、これを用いて生成した錯化合物が熱分解しにくくなる場合がある。その他、必要に応じて2種以上の銀化合物を混合して使用することも可能である。

【0033】
(アミン錯体に用いられるアルキルアミン)
本発明においてはアルキルアミンとして、アルキル基の一部にアミノ基が結合したアルキルモノアミン、アルキルジアミン等が望ましく使用される。本明細書において、アルキルアミンとは、アルキル基に対して一つのアミノ基が結合したアルキルモノアミン、及び、アルキル基に対して二つのアミノ基が結合したアルキルジアミンを含むものとする。また、両者を区別する場合には、それぞれアルキルモノアミン、アルキルジアミンと記載する。
本発明においては、アルキルアミンとして主にアルキルモノアミンを使用するが、表面処理の目的等に応じて、適宜アルキルジアミンを混合して使用することができる。

【0034】
本発明に使用しうるアルキルアミンは、銀原子の表面に対してアミノ基を介した配位結合を形成可能とするために、アミン部分に含まれるアミノ基が、一級アミノ基であるアルキルアミンRNH又は二級アミノ基であるアルキルアミンRNHであることが好ましい。本明細書において、上記R、R及びRは、互いに独立して炭化水素基を示すが、これらの炭化水素基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子又は珪素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。一級又は二級のアミノ基を含むことにより、アミノ基中の窒素原子が有する非共有電子対により金属原子に配位結合を生じることで、アミン部分と金属化合物の錯化合物が形成可能であり、これにより銀原子の表面に対してアルキルアミンの被膜を形成することができる。

【0035】
上記のように、本発明においてアルキルアミンは銀を含む化合物の熱分解を容易にすると共に、熱分解によって生成する銀の原子層や銀微粒子の表面保護被膜として機能するものである。このため、銀を含む化合物の熱分解の際に反応系内に安定して存在すると共に、保護被膜として生成した銀の原子層に被着した際に望ましい特性を示すアルキルアミンを適宜選択して使用することが望ましい。アルキルアミン等においては、一般にアルキル基の分子量が大きくなり長鎖になるに従い蒸気圧が低下して沸点が上昇する傾向が見られる。一方、アルキル基の分子量が小さく短鎖であるものは蒸気圧が高いとともに、極性が強くなる傾向が見られる。また、一分子内に二つのアミノ基を有するアルキルジアミンでは、一分子内に一つのアミノ基を有するアルキルモノアミンより極性が強くなる傾向が見られる。本発明によれば、これら任意のアルキルアミンを使用することができるが、そのアルキル基に含まれる炭素数が2~5のものを短鎖、炭素数が6~12のものを中鎖、炭素数が13以上のものを長鎖と定義し、それらの特徴について以下に説明する。

【0036】
長鎖・中鎖のアルキルモノアミンは一般に蒸気圧が低く蒸発を生じ難いと共に、有機溶媒と親和性が高いために、これらのアルキルモノアミンや、これらを含有成分とするアミン混合物を使用することで、表面処理によって生成する銀の原子層の表面に所定の割合で長鎖・中鎖のアルキルモノアミンが含まれた被膜が生成することとなり、保存性が向上すると共に、無極性の有機溶媒中への分散性を向上することができる。この点で、例えば、本発明により表面処理された銅微粉末を適宜の有機溶媒に分散させてインク等として使用する場合には、使用するアルキルアミンに長鎖・中鎖のアルキルモノアミンが含まれることが望ましい。

【0037】
このような長鎖・中鎖のアルキルモノアミンとしては、例えば、ジプロピルアミン(107℃)、ジブチルアミン(159℃)、ヘキシルアミン(131℃)、シクロヘキシルアミン(134℃)、ヘプチルアミン(155℃)、3-ブトキシプロピルアミン(170℃)、オクチルアミン(176℃)、ノニルアミン(201℃)、デシルアミン(217℃)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(217℃)、ドデシルアミン(248℃)、ヘキサデシルアミン(330℃)、オレイルアミン(349℃)、オクタデシルアミン(232℃(32mmHgで))等のアルキルモノアミンは入手が容易な点で実用的であるが、これに限定されることはなく、炭素数が6以上の他の長鎖・中鎖のアルキルモノアミンについても、適宜、目的に応じて使用することができる。

【0038】
一方、一般に、アルキルモノアミンのアルキル鎖が長くなるに従い、銀化合物との間での錯化合物を形成する傾向の低下が見られ、一般に長鎖・中鎖のアルキルモノアミンを単に銀化合物と混合することによっては錯化合物の生成が困難となる。

【0039】
これに対し、アルキルジアミンや炭素数が5以下の短鎖のアルキルモノアミンを用いた場合には、銀化合物との間での錯化合物を比較的容易に形成することが可能である。このため、アミン錯体の分解により銀原子を生成する場合に、アルキルアミンとしてこのようなアルキルジアミンや炭素数が5以下の短鎖のアルキルモノアミンを用いることも有効である。一方、特に炭素数が5以下の短鎖のアルキルモノアミンは高い蒸気圧を有するため、アミン錯体を加熱して銀化合物を分解させる際の蒸発が問題となる。また、アルキルジアミンを多く使用した際には、銀の表面に生成する保護皮膜が焼結時などに脱離しにくくなる傾向が見られる。これは、アルキルジアミンが二つのアミノ基を含むことに起因して、保護被膜の構造が複雑になるためと推察される。
以上のような各種のアルキルアミンの特性を考慮して、銀原子の生成時の安定性と良好な保護皮膜の形成が期待される長鎖・中鎖のアルキルモノアミンを主成分として、アルキルジアミンや炭素数が5以下の短鎖のアルキルモノアミンを主に錯化合物の生成のための補助助剤として所定の割合で混合して用いることにより、両者の長所を生かすことが可能となる。つまり、両者を適宜の割合で混合したアルキルアミンを含む混合物を用いることで、銀化合物との錯化合物を良好に形成し、且つ、良好な表面処理が可能になると共に、表面処理後の金属銅に望ましい融着性を付与することが可能となる。

【0040】
上記の短鎖のアルキルモノアミンとしては、アミルアミン(沸点104℃)、2-エトキシエチルアミン(105℃)、4-メトキシブチルアミン、ジイソプロピルアミン(84℃)、ブチルアミン(78℃)、ジエチルアミン(55℃)、プロピルアミン(48℃)、イソプロピルアミン(34℃)、エチルアミン(17℃)、ジメチルアミン(7℃)等が工業的に入手可能であり、望ましく使用される。

【0041】
アルキルジアミンとしては、前記錯化合物の熱分解温度を考慮すれば100℃以上の沸点であること、また、表面処理後の金属銅の低温での融着性や焼結性を考慮すれば、250℃以下の沸点であることが考慮される。例えば、エチレンジアミン(118℃)、N,N-ジメチルエチレンジアミン(105℃)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(119℃)、N,N-ジエチルエチレンジアミン(146℃)、N,N’-ジエチルエチレンジアミン(153℃)、1,3-プロパンジアミン(140℃)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(153℃)、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン(136℃)、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン(145℃)、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(171℃)、1,4-ジアミノブタン(159℃)、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン(193℃)、1,6-ジアミノヘキサン(204℃)、N,N’-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン(228℃)、1,7-ジアミノヘプタン(224℃)、1,8-ジアミノオクタン(225℃)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0042】
(その他の錯化合物の生成補助剤)
上記のように、一般に銀化合物との錯化合物に長鎖・中鎖のアルキルモノアミンを含むことにより、銀化合物の良好な熱分解を生じることが可能となると共に、これにより生成する銀の原子層表面に良好な保護皮膜を形成することが可能である。その一方で、長鎖・中鎖のアルキルモノアミンのみによっては銀化合物との錯化合物が生成し難いため、上記のように錯化合物の生成補助剤としてアルキルジアミンや炭素数が5以下の短鎖のアルキルモノアミンを用いることが有効である。このような錯化合物の生成補助剤に加えて、銀化合物とアルキルアミンの錯化合物を生成する際に、一定程度以上の極性を示すアルコール化合物、及び/又は分子内に炭素原子とヘテロ原子との多重結合や、ヘテロ原子同士の多重結合を含む化合物を介在させることにより、銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の生成を円滑に行うことが明らかにされている。このような添加成分の示す具体的な作用は必ずしも明らかではないが、固体状態の銀化合物においては当該銀化合物である銀を含む分子やイオン等が結晶等を形成して凝集し、特に長鎖・中鎖のアルキルアミン等による銀原子への配位が良好に進まないのに対して、当該化合物がアルキルアミンと混合されて存在する場合には、アルキルアミン等による銀化合物への配位結合が進展し効率的に錯化合物が生成すると考えられる。このような効果は、当該化合物が銀化合物の結晶等を効率的に解砕し、アルキルアミン等が銀化合物に接触する頻度が高まるためと考えられる。また、このような効果を更に高めるために、当該添加成分からなる化合物は、アルキルアミンとの相溶性に優れた溶媒であることが好ましい。

【0043】
上記一定程度以上の極性を示すアルコール化合物としては、典型的には水に対する溶解度を示すアルコール化合物であって、1個のOH基を有する直鎖のアルキルアルコールとして、炭素数1のメタノールから、炭素数8のオクタノールが挙げられる。一方、炭素数が9以上になると水に対して実質的に溶解せず、このようなアルコール化合物を錯化合物の形成の際に介在させても、錯化合物の形成促進作用が観察されない。また、アルキルアルコールの他に、フェノールや、分子内にエーテル結合を有する適宜の炭化水素の水素原子をOH基で置換したもの等を用いることができる。

【0044】
アルコール化合物においては、一分子内に含まれるOH基の数が増加するに伴って強い極性が発現し、本発明においても2個のOH基を含むグリコール類や、3個のOH基を含むグリセリン、4個のOH基を含むペンタエリトリトール等が好ましく使用される。
このようなアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、ピナコール、プロピレングリコール、メントール、カテコール、ヒドロキノン、サリチルアルコール、ペンタエリトリトール、スクロース、グルコース、キシリトール、メトキシエタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ペンタエリトリトール等、及び、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコールを含むポリエチレングリコール類が挙げられる。

【0045】
錯化合物を生成する際のアルコール化合物の使用量は、錯化合物の生成の際に用いるアルキルアミンに対して5モル%~500モル%程度とすることが好ましい。アルコール化合物の使用量がアルキルアミンに対してモル比で5モル%以下になると、錯化合物の生成促進作用が十分でなくなる傾向が見られる。一方、アルコール化合物の使用量がアルキルアミンに対してモル比で500モル%以上になると、アルキルアミンの活性が低下して錯化合物の生成が阻害される傾向が見られる。

【0046】
特に、アルコール化合物の使用量をアルキルアミンに対して10モル%~300モル%程度とすることで、錯化合物の生成が良好に促進されると共に、良好な錯化合物を生成することが可能となる。また、この範囲の割合においてアルコール化合物の割合が増加すると、一般に錯化合物の生成時間が短縮すると共に、錯化合物に含まれるアルコール化合物の割合が増加するために、錯化合物の熱分解により生じる被覆銀微粒子の粒径が拡大すると共に、生じた被覆銀微粒子の極性溶媒への分散性を向上することができる。一方、アルコール化合物の割合を減少させることで、錯化合物や被覆銀微粒子の被覆に含まれるアルコール化合物が減少し、微細で緻密な被覆を有する被覆銀微粒子が得られる傾向が見られる。

【0047】
最も典型的には、アルコール化合物の量をアルキルアミンに対して25モル%~100モル%程度とすることが好ましいが、具体的に使用するアルコール化合物の種類や使用割合は、製造する被覆銀微粒子に求められる特性等に応じて、適宜調整がされることが好ましい。
また、銀化合物とアルキルアミンとの錯化合物の生成を促進させる補助剤として、アルコール化合物の他に分子内に炭素原子とヘテロ原子との多重結合や、ヘテロ原子同士の多重結合を含む化合物がある。このような化合物においては、多重結合をなすヘテロ原子に属する結合に係る電子の分布が多重結合により偏った状態となり、当該ヘテロ原子が持つ非共有電子対が露出する傾向にあるため、当該非共有電子対が関係する反応についての活性が向上する傾向にあることが知られている。上記所定の多重結合を有する化合物を銀化合物とアルキルアミンの錯化合物を生成する際に介在させることで、当該錯化合物の生成が促進される具体的理由は明らかでないが、当該化合物が上記のように活性な非共有電子対を有するヘテロ原子を含むことが、錯化合物の生成が促進されることに関係するものと推察される。

【0048】
当該目的のために使用される化合物としては、より具体的には、炭素と酸素の二重結合を含むカルボニル化合物やイソシアナート化合物、炭素と窒素の多重結合を含むオキシム化合物、シッフ塩基化合物やニトリル化合物、酸素と窒素の多重結合を含むニトロ化合物やニトロソ化合物、及び、窒素原子同士の多重結合を含むアゾ化合物、ジアゾ化合物、アジ化物等が例示される。また、ヘテロ原子としての硫黄、リン等が関係する多重結合を含む化合物によっても銀化合物とアルキルアミンの錯化合物を促進することができる。但し、例えば導電性の配線を形成するために使用される銀微粒子の製造においては、当該硫黄原子やリン原子が残留して悪影響を生じる傾向が見られるため、製造される銀微粒子の用途等に応じて使用が検討されることが望ましい。

【0049】
また、当該目的のために使用される化合物について、当該化合物に含まれる炭素の数や、化合物内の各官能基に含まれる炭素の数が大きくなるに従い、錯化合物の生成を促進する作用が低下する傾向が観察される。炭素数が錯化合物の生成を促進する作用に与える影響は化合物の基本構造により変化するが、例えば、含まれる多重結合が一つの化合物においては、概ね化合物に含まれる炭素数が14を超える場合に錯化合物の生成促進効果が低下する傾向が見られる。一方、化合物に含まれる炭素数が7以下である場合には、一般に顕著な錯化合物の生成促進効果が観察される。

【0050】
本発明で銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の生成の際に介在させて用いられる化合物としてのカルボニル化合物の一例として、ケトン類化合物を挙げることができ、その非限定的な例として、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、2-ブタノン、3-ペンタノン、4-ヘプタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン(メシチルオキシド)、4-メチル-2-ペンタノン、ジアセチル、ピナコリン、2,4-ジメチルペンタノン、2,6-ジメチルー3-ヘプタノン、イソアミルメチルケトン、3-メチル-2-ブタノン、5-メチル-—ヘプタノン、4-メチル-2-ペンタノン、エチニルイソプロピルケトン、2-オクタノン、等の脂肪族ケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-シクロヘキセノン、イソホロン、ジシクロヘキシルケトン、等の脂環式ケトン、並びにアセトフェノン、ベンゾフェノン、4-フェニル-2-ブタノン、イソブチロフェノン、ベンザルアセトン、プロピオフェノン等の芳香族ケトンが挙げられる。

【0051】
さらに、ケトン類化合物としては、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、アセチル琥珀酸ジメチル、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、アセト酢酸、ピルビン酸メチル、ピルビン酸、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、アセトアセトアニリド、N-アセトアセチルモルホリン等の酸素原子を含むケト酸化合物を挙げることができる。
また、本発明で錯化合物の生成の際に用いられるカルボニル化合物の一例として、カルボニル炭素に一つの水素原子が結合したアルデヒド類化合物を挙げることができ、その非限定的な例として、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-ペンチルアルデヒド、2-メチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-メチルペンタナール、n-ヘプチルアルデヒド、2-ヘキセナール、n-オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、アニスアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、クロトンアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ブチルアルデヒド、ピルビンアルデヒド、テレフタルアルデヒド、トルアルデヒド、エチニルフェニルケトン、フルフラール又はこれらの任意の2種以上の混合物などが挙げられるが、特に好ましいアルデヒド類化合物は、炭素原子数が3~14の脂肪族又は芳香族アルデヒドであり、さらに好ましくは、炭素原子数が3~7の脂肪族アルデヒドである。

【0052】
その他、エステル類化合物、アミド類化合物、カルボン酸アミド類化合物、イソシアネート化合物(R-N=C=O)、オキシム化合物は(>C=N-OH)、ニトリル化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物及びアジ化物等も挙げることができる。これらの具体的な態様は、特開2014-31542号公報又は特開2014-40630号公報に記載されており、参照により本願明細書に組み込まれるものとする。

【0053】
上記説明したようなアルコール化合物や所定の多重結合を含む化合物は、使用するアルキルアミンの種類や、製造される銅銀複合体に期待される特性等に応じて適宜選択して用いることができる。また、複数種の化合物を組み合わせて用いることができ、錯体生成の反応時間のみならず、アルキルアミンの種類とともに銀の収率や表面処理された金属銅に期待される特性を考慮した組み合わせを行うことも可能である。
特に、錯化合物の生成を補助する化合物は、生成する錯化合物や、それを熱分解することで生成する銀の原子層の被覆部分にも含まれため、本発明において各種の化合物を適宜に選択して用いることにより、表面処理がされる金属銅に対して各種の機能を付加することも可能である。このため、短鎖のアルキルアミンやアルキルジアミンが存在する場合においても、錯化合物の生成補助と共に、表面処理がされる金属銅に所定の特徴を付与する手段として当該化合物を介在させることができる。

【0054】
(アミン錯体の生成工程)
アミン錯体の生成は、一般的には粉状の銀化合物に対して所定量のアルキルアミンを混合することで行う。この際に、上記説明したアミン錯体の生成を補助する所定の化合物や少量の水をアミン錯体の生成補助剤として介在させることにより、アミン錯体の生成を促進させることが有効である。アミン錯体の生成補助剤を反応系に介在させる手法としては、予め調製したアルキルアミンとアミン錯体の生成補助剤の混合物に銀化合物を加えてもよく、また、主にアミン錯体の生成補助剤を銀化合物と混合して銀化合物を解砕等した後にアルキルアミンを加えてアミン錯体とするなど、適宜の手法を用いることができる。

【0055】
アミン錯体の生成過程は、例えば、銀化合物の結晶等が解砕すると共に、生成する錯化合物が一般にその構成成分に応じた色を呈することを利用して、反応による混合物の色の変化の終了を適宜の分光法等により検出することにより、アミン錯体の生成反応の終点を検知することができる。また、以下の実施例で主に使用するシュウ酸銀が形成する錯化合物は一般に無色(白色)であるが、この場合でも混合液の粘性が変化するなどの形態変化に基づいて錯化合物の生成状態を検知することができる。

【0056】
本発明においては、アミン錯体の熱分解の加熱を行う前に、必ずしもアミン錯体の生成が完了する必要はなく、アミン錯体の生成過程においても適宜加熱を行うことで、アミン錯体の生成を促進することができる。アミン錯体の生成は、銀化合物の分解反応の発生やアルキルアミンやアミン錯体の生成補助剤の蒸発を抑制可能な温度範囲で行うことが好ましい。典型的には、室温付近での撹拌により錯化合物の生成が可能であるが、錯化合物の生成促進の点で、銀化合物の分解反応の発生等を生じない範囲で加熱することも可能である。また、銀化合物に対するアミンの配位反応は発熱を伴うため、銀化合物の分解反応等を抑制するために必要に応じて室温以下に冷却して撹拌を行うことも好ましい。

【0057】
銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の生成において、使用するアルキルアミンの総量は銀化合物に含まれる銀原子の化学量論量(等モル)以上とすることが望ましい。アルキルアミンの総量が銀原子との化学量論量以下の量であると、錯化合物とならない銀化合物が生じるため、その後の銀微粒子の生成の際にその肥大化が生じたり、熱分解せずに残留する銀化合物が発生するために好ましくない。典型的には、錯化合物の生成の際に銀原子の2倍モル量以上のアルキルアミンを混合することで、均一な粒径の銀微粒子を安定して得ることができる。また、銀化合物と錯化合物を形成しない過剰分のアルキルアミンは反応系に残留するため、次工程で金属銅の表面処理を行う際の反応媒としてそのまま使用することも可能である。また、生成した錯化合物を過剰分のアルキルアミンと分離して、別の溶媒を反応媒として加えて金属銅の表面処理を行うことも可能である。

【0058】
1つの実施形態において、銀化合物としてカルボン酸銀、例えばシュウ酸銀や酢酸銀を用いる場合は、カルボン酸に由来する酸素原子と、アルキルアミンに由来する窒素原子の両方が銀原子に配位結合した銀錯体を形成することができ、本発明に用いる錯化合物として好ましい。銀原子に配位する酸素原子数と窒素原子数の割合は特に限定されないが、銀原子に対して酸素原子数と窒素原子数が2:1の割合で配位している銀錯体が特に好ましい。

【0059】
使用する錯化合物により、銀原子を生成する反応は相違するが、例えば、銀化合物としてシュウ酸銀を使用した場合には、アルキルアミン中で加熱することで、100℃程度あるいはそれ以下の低温においても炭酸ガスを発生しながら銀原子が生成する。これは、錯化合物の熱分解により原子状の銀が生成すると共に、シュウ酸イオンが炭酸ガスに変化する反応が進展するためである。当該錯化合物の熱分解においては、発生する炭酸ガスにより反応雰囲気が不活性に維持されるため、大気中で錯化合物の熱分解を行って金属銅の表面処理を行う場合においても金属銅の酸化が効果的に抑制され、安定した金属銅の表面処理が可能である。

【0060】
(アミン錯体の加熱分解による銀原子の生成と、金属銅表面への析出工程)
上記により生成した銀化合物とアミン混合物との錯化合物を加熱して、錯化合物に含まれる銀化合物を分解することで銀原子を遊離させ、これらがアルキルアミンの存在下で金属銅の表面と接触することで金属銅の表面に銀の被膜が形成される。金属銅と金属銀の二元系状態図は典型的な共晶型であり、特に200℃以下においてはいずれの相においても他方が固溶する固溶域が存在しないことが知られている。また、本発明の比較例3として示すように、アミン錯体分解法により製造した銀微粒子と銅微粒子とを混合して焼結した場合にも、相互の融着を生じ難く、良好な導電体とならない等からも、固相状態での銅-銀間の親和性が低いことが推察される。それにも関わらず、本発明により金属銅の表面に銀の被膜が密着して生成する機構は明らかでないが、アミン錯体の加熱分解により生成する銀原子においては、そのポテンシャルが金属銀の核生成には必ずしも十分でなく、反応系内に存在する金属銅の表面に準安定な状態で銀原子が析出する状態変化が競合して生じている等の機構が考えられる。これに対して、上記のように銀微粒子と銅微粒子とを混合して焼結した場合には、親和性の低い銅-銀間での原子の移動を生じ難く、融着を生じにくいものと考えられる。
また、本発明で使用するアミン錯体熱分解法による銀原子の生成過程においては、予め生成した単一成分(錯化合物)の熱分解反応により原子状銀が供給されるため、還元剤を用いた複数成分間の化学反応による場合に比べて、各成分の濃度の揺らぎ等に起因した反応のムラを生じ難く、被覆される金属表面に均一な銀の被膜を形成しうるものと推察される。このため、アミン錯体分解法による本発明の方法は、特に反応に関与する複数の成分を均一に混合することが困難な大規模な工業的生産過程においても有利であると考えられる。

【0061】
アルキルアミンが配位結合することで錯化合物化された銀化合物を、適切な条件下で加熱分解等して原子状の銀を遊離した場合には、当該遊離した原子状銀に対してアルキルアミン分子がアミノ基を介した配位結合を維持するものと推察される。このため、遊離した原子状銀が相互に凝集して凝集体を作る際に、凝集体の周囲にはアミノ基の配位結合により固定されたアルキル鎖が高密度で存在して被膜を形成することで、生成する銀原子が所定の厚さや大きさ以上に成長することが抑制される結果、例えば、銅微粒子の表面で銀のアミン錯体を加熱分解した場合は、銅微粒子をコアとして、その表面に銀のシェルが形成され、さらにその表面がアルキルアミンで被覆された微粒子が生成する。

【0062】
アミン錯体熱分解法により生成した銀原子を金属銅表面に析出させる工程は、上述のように生成したアミン錯体を、アルキルアミンを含む反応媒中で加熱して行うことが望ましい。つまり、銀化合物に対して過剰のアルキルアミンやアルコール化合物等のアミン錯体の生成補助剤を混合しアミン錯体を形成させた後、残留するアルキルアミン等を反応媒として、表面処理を行う金属銅を投入してそのまま加熱しても良く、必要に応じて適宜のアルキルアミン等を更に混合して反応媒とすることも可能である。また、生成したアミン錯体を含む混合物から遠心分離等の方法でアミン錯体を分離した後、適宜のアルキルアミン等を含む反応媒、及び表面処理を行う金属銅と再混合した状態で加熱することで、アミン錯体を形成するアルキルアミン等の一部を他のアルキルアミンに置換して金属銅の表面処理を行うことも可能である。また、表面処理を行う金属銅がアミン錯体を形成する各成分との間で意図しない反応を生じない場合には、アミン錯体を形成するための反応系に金属銅を投入しておき、アミン錯体を形成した後にそのまま加熱して表面処理を行うことも可能である。

【0063】
アミン錯体を熱分解して原子状の銀を遊離させる際の温度は、使用するアミン錯体の種類により変化するが、一般に当該原子状銀の遊離が開始する温度の直上の温度域で行うことが好ましい。一方、過度の加熱を行った場合には、銀に対するアルキルアミンの配位結合が外れ易くなるために、金属銅表面への銀の析出行程が不安定となり、粗大粒子等が生成しやすくなる点で好ましくない。また、反応媒を成すアルキルアミン等の蒸発が活発になる点からもアミン錯体から原子状銀を遊離させる際の温度は、原子状銀の遊離が生じる範囲内でなるべく低温であることが好ましい。具体的には、70~150℃の温度範囲、更に典型的には80~120℃の温度範囲に加熱することで、アミン錯体に含まれる銀化合物を分解させることが好ましい。

【0064】
本発明においては、銀化合物としてカルボン酸銀が好ましく使用され、特にシュウ酸銀・酢酸銀が好ましく用いられる。シュウ酸銀は、通常は200℃程度で分解を生じて、シュウ酸イオンが二酸化炭素として除去されて金属銀が残留する。一方、本発明に係る方法によりアミン錯体とすることによりシュウ酸銀の部分の熱分解温度が低下し、100℃程度の温度において熱分解を生じて金属銀を遊離可能とすることができる。この温度は、上記と同様に、シュウ酸イオンの熱分解を生じる範囲で低い温度に設定されることが望ましいが、温度の上昇と共に熱分解の速度が向上するため、金属銅の表面に良好な銀の被膜が得られる範囲で適宜加熱温度を上昇させることができる。
また、本発明においてアミン錯体の熱分解により表面処理を行う際には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分を介在させることも可能である。例えば、銀化合物の分解により生じる副生成物と反応して表面処理に影響を与えない物質に変換するための還元性物質や吸着性の物質等を反応系に含むことも有効である。

【0065】
(分散媒)
本発明に係る方法で表面処理された金属銅は、表面処理により最表面に形成されるアルキルアミンを含む保護被膜が脱離しない条件で保存することが望ましい。特に、銅微粒子の表面処理を行った場合には、その使用される用途に応じて、主に使用するアルキルアミンの選択により、例えば、アルコールやエステル溶剤等の極性溶媒や、オクタン等の非極性溶剤、又はそれらの混合溶剤等の適宜の有機溶媒に高濃度で分散させた分散液として使用することが可能である。また、ペースト状の組成物とすることが可能である。本発明に係る方法で表面処理がされた銅微粒子を分散液やペーストとすることで、特に低温で配線を形成するための材料として好ましく使用することができる。
本発明に係る方法で表面処理がされた銅微粒子を分散させて分散液とする場合に使用する有機溶媒は、銅微粒子の保護膜に含まれるアルキルアミン等の脱離を生じさせ難くいものが好ましく用いられる。

【0066】
(銀被着銅)
本発明の方法により表面処理された銀被着銅の一例を図1に示す。図1は、市販の銅板の表面に本発明に係る方法で銀を被着させたものであり、金属銀で被覆された銅板表面に主に数10nm程度の粒径の銀微粒子が付着した表面を有することが示される。このような状態の金属銅の表面同士を大気雰囲気下で密着させることにより、図2に示すように、室温においても金属銅の表面が融着して接合することが可能である。
また、図7は、実施例2(2.1)等で製造したアルキルアミン被覆銅微粒子に本発明に係る方法で銀を被着させたものであり、表面が金属銀で被覆された銅微粒子と微細な銀微粒子の混合物が得られることが示される。このような銀被着銅微粒子は、コアとなる銅微粒子の粒子径をその使用目的等に応じて選択することによって銀被着銅微粒子としての粒径を選択可能である。銀被着銅微粒子の粒径は、典型的には約50nm~10μm程度、好ましくは約100nm~1μmであり、さらに好ましくはおおよそ100nm~500nm程度の範囲で調節することが可能である。その粒子表面には、銀の生成量に応じて数nm~数10nm程度の厚さで銀の原子層が設けられると共に、100nm以下の粒子径の銀微粒子が混在して存在することで、相互の融着によって緻密な焼結組織を有する銅-銀複合体を得ることができる。また、これらの粒子表面が厚さ数nm程度のアルキルアミンを含む保護膜で覆われることで、図7に示すように、それぞれの銀被着銅微粒子が独立して安定に存在することができる。

【0067】
(銀被着銅の融着処理)
本発明により表面処理を行った金属銅表面間の融着による接合は、処理後の表面に形成されるアルキルアミンを含む保護膜を除去等することで、金属銀同士を直接に接触させることにより行うことができる。例えば、表面処理を行った銅板を融着させる際には、表面処理を行った面同士を押圧することで、表面に付着したアルキルアミン分子等が排除されて金属銀間の接触を生じ、大気雰囲気下でも室温程度の温度で融着を生じさせることができる。また、予め融着させる表面に付着したアルキルアミン分子等を適宜の溶媒で洗浄して除去することで金属銀間の接触を促進させることも好ましい。表面処理を行った銅微粒子等の場合には、適宜の溶媒に分散させた銅微粒子を塗布した後に、溶媒を蒸発除去することで融着(焼結)を開始させることができる。また、適宜の加熱を行うことで、溶媒やアルキルアミン分子等の蒸発を促進すると共に銀原子の相互拡散が促進され、融着の程度を高めることができる。銀被着銅微粒子における銅と銀の存在比率は、金属銅の表面の少なくても一部が金属銀で被覆されている限り特に限定されないが、特に銀被着銅微粒子を焼結させて得られる銅-銀複合体における銀の割合を低下させる観点からは、金属銅に対する金属銀の重量比で1/2以下であればよく、好ましくは1/5以下、さらに好ましくは1/10程度とすることができる。金属銀の割合をこの程度まで低下させることによって、製造コストの低減に寄与すると共に、特に銀被着銅微粒子を焼結させて得られる銅-銀複合体を配線材料として使用する際の耐エレクトロマイグレーション性を向上することができる。

【0068】
本発明に係る表面処理方法は、特に導電性の確保を期待して接合される金属銅の表面に好ましく適用される。例えば、本発明に係る表面処理方法で表面処理された銅板を圧着素子等に使用することで、従来よりも低い接続抵抗とすることができる。また、従来のロウ付け(半田付け)に代えて、本発明により表面処理された銅板を使用することができる。また、ワイヤーボンディングに使用するコンタクトパッドとワイヤーの表面に本発明による表面処理を適用することもできる。特に、本発明により表面処理された銅微粒子は、その特性や用途に応じて適宜の態様にして使用される。例えば、銀被着銅微粒子をインクジェット等により所定形状に塗布して、低温焼結により銅銀複合体皮膜とする場合には、所望の有機溶剤で反応媒としたアミンを置換することで、銀被着銅微粒子を有機溶剤中に分散させたインク状の分散体(分散液)とすることにより、銀被着銅微粒子の被覆が除去されにくい状態で保存・使用することが望ましい。また、銀被着銅微粒子を適宜のテルピン油等の分散媒と混合して分散させ、ペーストとして用いることも可能である。また、比較的長鎖のアルキルアミンを主成分とする皮膜を設けた銀被着銅微粒子の場合には、反応媒としたアミンを除去した粉末状物として銀被着銅微粒子を保存可能である。

【0069】
(焼結により形成された複合金属体)
本発明により表面処理された銀被着銅微粒子を使用することで、特に雰囲気を調整することなく、大気中、室温においても金属銅を主成分として十分な導電性を有する複合金属体を得ることができる。本発明により表面処理された銀被着銅微粒子を融着(焼結)させて得られる複合金属体においては、銅微粒子が分散相となり、銅微粒子同士が表面の金属銀をバインダーとして融着し、又は、銅微粒子が銀微粒子を介して融着することで銀のマトリクス中に銅の分散相を含む構造を有することで、極めて良好な導電性が得ることができる。特に、銀の配合割合を高めると共に、融着の際の温度を高めることにより複合金属体の密度を高めることが可能であり、高い導電性が得ることができる。本発明に係る複合金属体は、本発明により製造される銀被着銅微粒子を含むインクやペーストを各種の基板に所望の形態で塗布し、銀被着銅微粒子間の融着により接合させることで、各種の電子デバイス等を構成する配線として好適に使用される。

【0070】
本発明に係る複合金属体を得る際の融着(焼成)は、その目的に応じて決定される許容温度の範囲内で、なるべく高い温度で行うことが良好な導電性と処理時間の短縮の点で好ましい。融着温度の上限は特に限定がないが、特に大気中での処理では140℃以上の温度域において銅の酸化が顕著になるため、140℃以下での処理を行うことが好ましい。一方、特に耐熱性の低い樹脂基板表面での融着を行う場合には、120℃以下での処理が好ましく、特に100℃以下での処理が好ましい。また、以下の実施例で示すように、本発明に係る複合金属体は、室温においても融着を生じて良好な導電性を示すことが可能である。
本発明に係る銀被着銅微粒子を融着して複合金属体を得る際の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気下での処理が可能であるが、特に配線素材としての複合金属体の信頼性を向上する観点からは、不活性ガス雰囲気や還元ガス雰囲気で融着を行うことも好ましい。また、融着を促進する観点からは、特に水蒸気を多く含む雰囲気での融着処理が好ましい。
本発明に係る複合金属体においては、使用する銀被着銅微粒子において銅微粒子表面が金属銀で被覆されている範囲内において、銅に対する銀の割合を低くすることがコストや耐エレクトロマイグレーションの観点から望ましい。使用する銅微粒子の粒子径によっても変化するが、例えば、銅微粒子の表面処理をして銀被着銅微粒子とする際の金属銅に対する金属銀の重量比を1/2程度とすれば、銅微粒子が十分な量の銀で被覆されると共に微細な銀微粒子が生成するために、特に高い融着性を得ることができる。また、金属銅に対する金属銀の重量比を1/5程度以下、さらに好ましくは1/10程度としても、良好な導電性を有する複合金属体を得ることができる。

【0071】
本発明に係る複合金属体の導電率は、その用途等に応じて決定されるが、典型的には3.0×10-3Ω・cm以下の体積抵抗率の複合金属体を容易に得ることができる。また、室温付近での融着処理によっても、金属銀の含有量に応じて、1.0×10-3Ω・cm~1.0×10-4Ω・cm程度以下の体積抵抗率の複合金属体を得ることができる。更に、100℃程度での融着処理を行うことで、2.0×10-5Ω・cm程度以下の体積抵抗率の複合金属体を得ることができる。

【0072】
一方、比較例2として記載した長鎖脂肪酸銀を用いて表面処理を行った銅微粒子を焼結させた図12(c)においては、銅の表面上に銀微粒子が残存していることが観察された。これは、表面処理後の銅と銀の界面での結合形成が不十分であるために銀がバインダーとして機能せず、また、保護分子となっている脂肪酸イオンの除去が困難であるために金属粒子の融着が進行せず、焼結後の複合金属体の電気伝導性が向上しなかったものと考えられる。
【実施例】
【0073】
[実施例1]銅板表面に対する表面処理
以下に示す方法で、銅板に対して本発明に係る表面処理方法で表面処理を行い、処理後の銅板の融着性を評価した。
(1.1)アミン錯体の調製
i)アルキルアミン-シュウ酸銀錯化合物
銀原子を供給するための銀化合物としてシュウ酸銀を使用し、アミン錯体を調製した。シュウ酸銀は、硝酸銀(関東化学株式会社、一級)とシュウ酸・二水和物(関東化学、特級)を混合して合成して使用した。特許文献4に従って、n-ヘキシルアミン(東京化成株式会社、特級)3.0g(30mmol)、n-ドデシルアミン(関東化学、特級)0.25g(1.3mmol)、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン(東京化成株式会社、特級)0.75g(7.3mmol)を混合した溶液に、シュウ酸銀0.50g(1.6mmol)を加えて室温で撹拌することで、過剰量のアルキルアミン中にアルキルアミン-シュウ酸銀錯化合物を生成させた。
【実施例】
【0074】
ii)アルキルアミン-酢酸銀錯化合物
シュウ酸銀0.50g(1.6mmol)に代えて酢酸銀(和光純薬、一級)0.55g(3.3mmol)を用いた以外は、上記と同様の方法で過剰量のアルキルアミン中にアルキルアミン-酢酸銀錯化合物を生成させた。なお、シュウ酸銀は一分子当たり2個の銀原子を含むのに対して、酢酸銀は一分子当たり1個の銀原子を含むため、使用した酢酸銀に含まれる銀原子の量は上記のシュウ酸銀と同一である。
【実施例】
【0075】
(1.2)銅板の表面処理
上記で生成させたアルキルアミンとアミン錯体の各混合物に、脱脂洗浄を行った厚さ0.3mmの銅板(HIKARI、HC0316)1.0g(金属銅として15.9mmol)を8片に分けてそれぞれ投入し、80℃で加熱攪拌した。加熱により二酸化炭素の発生を伴う錯化合物の分解を生じた。2時間の加熱攪拌後、表面処理された銅板を取り出し、アセトン、トルエンで洗浄した。
また、比較のため、アミン錯体を使用せずに銀微粒子を合成する公知の方法(非特許文献1)を応用し、当該方法で銀微粒子を合成する際に銅板を介在させて、銅板の表面処理を行った(比較例1)。当該文献には、脂肪酸銀であるミリスチン酸銀(C1327COOAg)を、還元剤であるトリエチルアミン中で加熱して還元・分解することで、ミリスチン酸イオンにより銀微粒子の表面が保護されたミリスチン酸保護銀微粒子の製造方法が記載されている。比較例1においては、トリエチルアミン(東京化成、特級)7.26g(71.7mmol)とミリスチン酸銀1.19g(3.55mmol)を加えた混合物に、上記と同様に脱脂洗浄を行った厚さ0.3mmの銅板1.0gを8片に分けて投入し、90℃で加熱攪拌した。3時間の加熱攪拌後、銅板を取り出し、アセトン、トルエンで洗浄した。
【実施例】
【0076】
図1(a)~(c)には、上記で表面処理を行った各銅板の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、(日本電子株式会社、JFM-7600F))像を示す。シュウ酸銀を含むアミン錯体を用いて表面処理した銅板の表面(図1(a))には、金属銀の被覆が形成されると共に、数10nm程度の銀微粒子が全面に付着している様子が観察された。また、酢酸酸銀を含むアミン錯体を用いて表面処理した銅板の表面(図1(b))においても、金属銀の被覆が形成されると共に、やや粗大な銀微粒子が全面に付着している様子が観察された。また、脂肪酸銀の還元分解により表面処理した銅板の表面(図1(c))においても、微細な銀微粒子が均一に析出していることが観察された。以上のように、アミン錯体の熱分解を生じる反応系内や、脂肪酸銀の還元反応の系内に銅板を置くことにより、金属銅の表面に金属銀を析出させることができた。
【実施例】
【0077】
(1.3)表面処理を行った銅板の融着試験
上記で表面処理を行った銅板同士の融着性を調べるため、上記で表面処理を行った銅板同士を大気中、室温下で圧着する試験を行った。圧着は、上記で表面処理を行った銅板を重ね、大気下、室温、荷重2kN(約200kgf/cm)で10秒間プレスして行った(島津、ハンドプレスSSP10A)。
図2(a)~(c)には、上記の条件で圧着した各銅板の写真を示す。シュウ酸銀又は酢酸銀を含むアミン錯体を用いて表面処理を行った銅板はプレスにより接合可能であることが分かった(図2(a),(b))。一方、脂肪酸の還元分解により表面処理を行った銅板は、上記条件のプレスによって、加圧された部分の変色が生じるのみで、接合を生じさせることはできなかった(図2(c))。また、参考のために、表面処理を行っていない銅板同士や、表面処理を行っていない銅板間に、特許文献4に従って生成した融着性の高い銀微粒子を介在させてプレスした場合にも銅板間に接合は生じなかった。
【実施例】
【0078】
以上のことから、本発明に係る表面処理方法により、金属銅の表面に銀を析出させて予め銅-銀微粒子間に界面接合を形成させることで、その金属銅表面の銀被覆や銀微粒子をバインダーとして容易に金属銅同士を接合可能であることが示された。本発明に係る表面処理方法により処理された金属銅が容易に融着して接合を生じる機構は、表面処理により析出した金属銀と金属銅の間に実質的な接合が存在すること、及び、析出した金属銀が活性であることを示すものである。金属銅と金属銀の間では濡れ性が低いにも関わらず、特に表面処理により析出した金属銀と金属銅の間に実質的な接合を生じる機構は、アミン錯体の熱分解で生じた銀原子のポテンシャルが低いために必ずしも銀の核発生等が容易でなく、準安定な状態で銅表面に結合して析出を生じるためと推察される。
【実施例】
【0079】
[実施例2]
以下に示す方法で、アルキルアミン被覆を有する銅微粒子に対して本発明に係る表面処理方法で表面処理を行い、処理後の銅微粒子について評価した。
(2.1)アルキルアミン被覆を有する銅微粒子の合成
以下、特開2012-072418号公報に記載の方法で、アルキルアミン被覆を有する銅微粒子を合成した。3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(東京化成、特級)10g(53mmol)、2-ヒドラジノエタノール(東京化成、特級)3.0g(39mmol)及び、シュウ酸銅・0.5水和物(硫酸銅・五水和物(関東化学、特級)とシュウ酸・二水和物(関東化学、特級)から合成したもの)3.00g(18.7mmol)を混合し0℃で数分間攪拌すると、白色から淡い黄色の粘性混合物へと変化し、シュウ酸銅と2-ヒドラジノエタノール等からなる錯化合物を生成した。次に、170℃に加熱して2時間攪拌することで、3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンの存在下で錯化合物が分解して銅原子が生成・凝集し、アルキルアミン被覆を有する銅微粒子を含む赤色の懸濁液へと変化した。この反応混合物にアセトン(和光純薬工業株式会社、特級)5mL)を加え、遠心分離(4000rpm、1分間)により得られた沈殿物を分離し、もう一度、アセトン5mLを加え、沈殿物を攪拌し、遠心分離によりアルキルアミン被覆を有する銅微粒子を得た(1.10g)。特開2012-072418に記載の通り、上記方法で合成されるアルキルアミン被覆を有する銅微粒子は、実質的に酸化相を含まず、比較的高い相互融着性(焼結性)を有するものである。
【実施例】
【0080】
(2.2)アルキルアミン被覆を有する銅微粒子の解析
図3(a)に、(2.1)で得られた銅微粒子をカーボン製水平試料載台に付着させて観察したFE-SEM像を示した。図3(b)に示した粒子径分布から、銅微粒子の平均粒子径は224±112nmであり、平滑な結晶面に囲まれた結晶性の銅微粒子が生成したことが示された。図4には、(2.1)で得られた銅微粒子の粉末X線回折パターン(株式会社リガク、SmartLab)を示す。観測されたシグナルは全て金属銅に由来するものであり、酸化銅の成分は検出されなかった。
【実施例】
【0081】
(2.3)アルキルアミン被覆を有する銅微粒子の熱重量分析
図5(a)には、(2.1)で得られた銅微粒子について不活性雰囲気での熱重量分析(TA instruments、SDT Q600、200mL/分のヘリウム気流中、昇温速度10℃/分)を行った結果を示す。保護分子の脱離に由来する0.5重量%の重量減少が観測された。当該重量減少は、銅微粒子の被覆を形成しているアルキルアミンの脱離に伴うものである。得られたアルキルアミン被覆を有する銅微粒子における銅含有量は99.5重量%であり、原料として使用したシュウ酸銅を基準とした銅微粒子の収率は90.7%である。
図5(b)には、(2.1)で得られた銅微粒子について大気下での熱重量分析(島津、TGA-50、40mL/分の合成空気気流中、140℃で1時間保持した後、10℃/分で昇温)を行った結果を示す。合成空気中で、140℃で1時間保持してもなお、銅の酸化(酸化銅の生成)に由来する重量増加は0.5%以下であり、(2.1)で得られた銅微粒子は140℃以下においては、所定の酸化耐性を示す。一方で、(2.1)で得られた銅微粒子は、140℃以上では、空気酸化による重量増加が顕著になる。
【実施例】
【0082】
(2.4)銅微粒子の表面処理
(2.1)で合成したアルキルアミン被覆を有する銅微粒子1.10g(銅として17.2mmol)に対して、(1.1)と同様の条件で生成させたアルキルアミン-シュウ酸銀錯化合物と過剰量のアルキルアミンの混合物を加え、80℃で2時間加熱攪拌して当該錯化合物を分解させることで赤茶色懸濁液を得た。これにアセトン5mLを加え、遠心分離により得られた沈殿物を分離し、更にヘキサン(関東化学、特級)5mLを加え、沈殿物を攪拌し、遠心分離することにより1.40g(シュウ酸銀に対しての銀の収率(銀基準収率)は約82%)の沈殿物を分離した。
分離した沈殿物について、不活性雰囲気で熱重量-質量分析(TG-MS:TA instruments、SDT Q600から発生した気体を日本電子JMS-Q1050GCで質量分析)を行った結果、1.1重量%の重量減少が観測され、この重量減少に対応してアルキルアミン分子(ヘキシルアミンやN,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン)が検出されたことから、得られた沈殿物はアルキルアミンの被覆を有する金属微粒子であることが確認された。
【実施例】
【0083】
(2.5)表面処理を行った銅微粒子の評価
図6には、(2.4)で表面処理を行って得られた金属微粒子の粉末X線パターンを、他の結果と併せて示した。(2.4)で得られた金属微粒子には、金属銅相と金属銀相の両方が含まれているがこと分かった。また、図7(a)には、(2.4)で得られた金属微粒子のFE-SEM像を示した。(2.4)で得られた金属微粒子中にはサブミクロン程度の粒径を有する粒子と、数10nm程度の粒径を有する粒子が混在して存在することが示された。また、サブミクロン程度の粒子においては、平坦な結晶面上に微細な凹凸が均一に生じていることが分かった。図8には、(2.4)で得られた金属微粒子をトルエンに分散させて電子顕微鏡用カーボン支持膜(イーエムジャパン、モリブデン200メッシュ)に塗布し、これを走査透過電子顕微鏡像(日本電子、JEM2100F)で観察した像を示した。エネルギー分散型蛍光X線測定分析(EDS)による元素マッピングから、サブミクロン程度の粒子のコアの部分には銅が、その周囲には銀が分布していることが分かった。これらの結果より、(2.4)で得られた金属微粒子に含まれるサブミクロン程度の粒子は、表面処理に供した銅微粒子の表面に銀が析出したものと考えられた。つまり、図7(a)で示したサブミクロン粒子の平坦な結晶面上で生じた微細で均一な凹凸は、銅結晶表面に析出した銀原子によるものであり、金属銅の表面で銅-銀微粒子の界面接合が形成されていることを示している。また、数10nm程度の粒子は表面処理中に独立して生じた銀微粒子である。
【実施例】
【0084】
[実施例3]
以下に示す方法で、アルキルアミン被覆を有する銅微粒子に対して本発明に係る表面処理方法で表面処理を行い、処理後の銅微粒子を評価した。
(3.1)アルキルアミンと酢酸銀からなる錯化合物の生成
(1.1)と同様の条件で、アルキルアミン-酢酸銀錯化合物と過剰量のアルキルアミンの混合物を生成させた。なお、シュウ酸銀は一分子当たり2個の銀原子を含むのに対して、酢酸銀は一分子当たり1個の銀原子を含むため、本実施例で使用した酢酸銀に含まれる銀原子の量は実施例2と同一である。
【実施例】
【0085】
(3.2)銅微粒子の表面処理
(2.1)で合成したアルキルアミン被覆を有する銅微粒子1.10g(銅として17.2mmol)に対して、(3.1)で生成させた錯化合物と過剰量のアルキルアミンの混合物を加えて、80℃で2時間加熱攪拌して錯化合物を分解させることで赤茶色懸濁液を得た。これにアセトン5mLを加え、遠心分離により得られた沈殿物を分離し、更にヘキサン5mLを加え、沈殿物を攪拌し、遠心分離することにより1.38g(銀基準の収率は約41%)の沈殿物を分離した。
【実施例】
【0086】
(3.3)表面処理を行った銅微粒子の評価
図7(b)に、(3.2)で得られた沈殿物のFE-SEM像を示した。表面処理に使用する錯化合物に含まれる銀化合物として酢酸銀を用いた場合にも、シュウ酸銀の場合と同様に、銅微粒子の表面に銀が析出すると共に、単独で生じた銀微粒子が観察された。
【実施例】
【0087】
[実施例4]
以下に示す方法で、アトマイズ法により作製されたフレーク状銅微粒子に対して本発明に係る表面処理方法で表面処理を行い、処理後の銅微粒子を評価した。
(4.1)銅アトマイズ微粒子の表面処理
市販のアトマイズ法により作製されたフレーク状銅微粒子1.10g(銅として17.2mmol)に対して、(1.1)と同様の条件で生成させたアルキルアミン-シュウ酸銀錯化合物と過剰量のアルキルアミンの混合物を加えて、80℃で2時間加熱攪拌して錯化合物を分解させることで赤茶色懸濁液を得た。これにアセトン5mLを加え、遠心分離により得られた沈殿物を分離し、更にヘキサン5mLを加え、沈殿物を攪拌し、遠心分離することにより1.25g(銀基準の収率は約76%)の沈殿物を分離した。分離した沈殿物を不活性雰囲気で熱重量分析をした結果、分離した沈殿物について、不活性雰囲気で熱重量-質量分析(TG-MS)を行った結果、1.6重量%の重量減少が観測され、この重量減少に対応してアルキルアミン分子(ヘキシルアミンやN,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン)が検出されたことから、得られた沈殿物はアルキルアミンの被覆を有する金属微粒子である。
【実施例】
【0088】
(4.2)表面処理を行った銅アトマイズ微粒子の評価
図6には、本実施例で表面処理を行って得られた沈殿物の粉末X線回折結果を他の実施例等と比較して示した。本実施例で表面処理を行って得られた沈殿物には、金属銅相と金属銀相の両方が含まれているがこと分かった。図7(c)に、(4.1)で得られた沈殿物のFE-SEM像を示した。表面処理により直径10μm程度の銅アトマイズ微粒子の表面に銀が析出している様子が観察された。また、実施例2(2.4)(図7(a))や実施例3(3.2)(図7(b))と比較して、独立して生じた銀微粒子の数が少ないことが分かった。フレーク状であるために比表面積の大きな銅アトマイズ微粒子の表面処理においては、アルキルアミン-シュウ酸銀錯化合物の熱分解で生じる銀原子が、より優先して金属銅の表面に析出するものと推察される。
【実施例】
【0089】
[比較例2]
本発明に係る表面処理方法についての比較例として、アルキルアミンと銀化合物の錯化合物を使用しない以下の方法で銅微粒子の表面処理を行った。
(5.1)脂肪酸銀の分解による銅微粒子の表面処理
本比較例2においては、(1.2)における脂肪酸銀の還元分解による銅板の表面処理と同様の方法により、銅微粒子の表面処理を行った。
具体的には、(2.1)で合成したアルキルアミン被覆を有する銅微粒子1.10g(銅として17.2mmol)に対して、トリエチルアミン(東京化成、特級)7.26g(71.7mmol)とミリスチン酸銀1.19g(3.55mmol)を加えた混合物を、90℃で3時間加熱攪拌することで黒色の懸濁液を得た。これにアセトン5mLを加え、遠心分離により得られた沈殿物を分離し、もう一度アセトン5mLを加え、沈殿物を攪拌し、遠心分離により1.49gの沈殿物を分離した。分離した沈殿物について、不活性雰囲気で熱重量-質量分析(TG-MS)を行った結果、2.3重量%の重量減少が観測され、この重量減少に対応してミリスチン酸が検出されたことから、得られた沈殿物はミリスチン酸の被覆を有する金属微粒子である。
【実施例】
【0090】
(5.2)脂肪酸銀を用いた表面処理を行った銅微粒子の評価
図6には、本比較例で表面処理を行って得られた沈殿物の粉末X線回折結果を他の実施例と比較して示した。本比較例によっても金属銅相と金属銀相の両方が含まれているがこと分かった。図9に、(5.1)で得られた沈殿物のFE-SEM像を示した。表面処理により銅微粒子の表面に数nm~数10nmの銀微粒子が析出すると共に、その周囲にも銀微粒子が析出して銅微粒子間が充填される様子が観察された。
【実施例】
【0091】
[実施例5]表面処理を行った銅微粒子の焼結性の評価
以下に示す方法で、実施例2,4及び比較例2で表面処理を行った銅微粒子の焼結性を評価した。
(6.1)表面処理された銅微粒子の分散・懸濁液の調製と焼成処理
実施例2,4及び比較例2で得られた沈殿物に対して、沈殿物が50重量%となるようにそれぞれトルエン(関東化学、特級)を加えて沈殿物が分散・懸濁したペーストを調製した。また、比較例3として、(2.1)で合成したままで表面処理を行っていなアルキルアミン被覆を有する銅微粒子1.10g(銅として17.2mmol)と、特許文献4(実施例10)に記載の方法で合成したアルキルアミン被覆を有する銀微粒子0.35g(銀として2.99mmol)とを混合してトルエン1.40mLに分散・懸濁させてペーストを調製した。使用したアルキルアミン被覆を有する銀微粒子は、100℃、60分の焼成で10μΩ・cm程度以下の低い抵抗値を示し、高い相互融着性を有することが確認されているものである。次に調製した各ペーストをスライドガラス(松浪硝子工業株式会社、S1127)の片面にバーコーターを用いて塗布し、トルエンが揮発するまで放置することで塗布膜を得た。塗布膜を設けたスライドガラスをYamatoDK240S送風恒温器(YamatoDK240S)により、大気下で100℃、30~120分間の焼成処理を行った。
【実施例】
【0092】
(6.2)焼成膜の評価(X線回折)
図10に、実施例2、4、及び、比較例2で表面処理された銅微粒子を焼成して得られた膜のX線回折パターンを示した。いずれの回折パターンも、金属銅と金属銀の存在を示すと共に、大気下での焼成にも関わらず酸化銅等に起因する回折パターンは観察されなかった。一般に、金属銅は容易に酸化されて酸化銅を生じることから、実施例2、4及び比較例2で表面処理を行うことにより表面に銀を析出させた銅微粒子においては、当該銀の被膜により酸化の進行が抑制されていると考えられる。また、実施例2、4の金属銀のシグナルは、比較例2に比べてシャープであり、実施例2,4では銀微粒子の焼結による結晶成長が比較例2に比べて顕著であることが分かる。
【実施例】
【0093】
(6.3)焼成膜の評価(蛍光X線分析)
表1に、実施例2(2.4)、4(4.1)、及び、比較例2(5.1)で表面処理された銅微粒子を焼成して得られた膜、及び、比較例3で作製したペーストを焼成した膜について、デスクトップ波長分散型蛍光X線装置(リガク Primini)により求めた銀と銅の組成比(重量比)を表1に示した。
【実施例】
【0094】
【表1】
JP2016098398A_000002t.gif
【実施例】
【0095】
(7.4)焼成膜の評価(電気抵抗値測定)
表2に、実施例2(2.4)、4(4.1)、及び、比較例2(5.1)で表面処理された銅微粒子、及び比較例3に係るペーストについて、焼成の前後での電気抵抗を示した。面抵抗値は四探針法(共和理研K-705RS)により測定した。また、体積抵抗値は触針段差計(ブルカー、DektakXT)で測定した膜厚を面抵抗値に乗じて換算した。なお、表2中において、「塗布膜」はペーストを塗布後にトルエンを揮発させた状態、「焼成膜」はそれぞれの条件(加熱温度、加熱時間)で焼成処理を行った膜について測定を行った結果である。
【実施例】
【0096】
【表2】
JP2016098398A_000003t.gif
【実施例】
【0097】
表2に示す通り、実施例2(2.4)、及び、実施例4(4.1)で表面処理された銅微粒子は、比較例2(5.1)や比較例3のそれに比べて極めて良好な導電性を示した。このことは、実施例2,4で表面処理された銅微粒子が相互に融着して電気的にも接合を生じていることを示す。一方、比較例2,3においては各粒子間の接合が十分でなく、主に銀微粒子間の接合や、単なる銅微粒子間の接触などによって導電パスが形成されているものと推察される。
【実施例】
【0098】
(7.5)焼成膜の評価(焼成膜の観察1、紫外可視拡散反射スペクトル)
各ペーストの焼成膜の体積抵抗率に違いを生じる理由を明らかにするため、焼成膜の表面状態を紫外可視拡散反射スペクトル(島津 UV-3600)で調べた(図11)。シュウ酸銀を含む錯化合物を用いて表面処理をした実施例2(2.4)、及び、酢酸銀を含む錯化合物を用いて表面処理をした実施例3(3.2)の銅微粒子を焼成した焼成膜に対して、脂肪酸銀の還元による表面処理をした比較例2の焼成膜では、実施例2、3には見られない500nmより長波長側の特徴的な光吸収帯が観測され、目視でも青色を呈していた。この500nmより長波長側の光吸収帯は未焼結状態の銀ナノ微粒子粉の表面プラズモンによる吸収と類似している。このことは、比較例2(5.1)で表面処理された銅微粒子においては、100℃、120分の加熱後にも、図9のFE-SEM像で示した銅微粒子表面を覆っている銀微粒子の融着が殆ど起こっていないこと示している。
【実施例】
【0099】
(7.6)焼成膜の評価(焼成膜の観察2、FE-SEM像)
図12に、実施例2(2.4)(図12(a))、実施例4(4.1)(図12(b))、及び、比較例2(5.1)(図12(c))で表面処理された銅微粒子の焼成膜のFE-SEM像を示した。実施例2、及び実施例4では、焼成前(図7(a)、(c))に比べて、明らかに銅微粒子表面への銀微粒子の融着が進むと共に、銀微粒子同士の融着を生じており、銀で被覆された銅微粒子同士が融着した銀微粒子によって接合されている様子が観察された。一方で、比較例2(図12(c))では、その焼成前(図9)と比較すると、銀微粒子が独立した形状を維持すると共に、金属銅の結晶表面と思われる平坦な面が露出する様子が観察され、銅微粒子と銀微粒子の融着や銀微粒子同士の融着が顕著には起こっていない様子が観察された。
以上、紫外可視拡散反射スペクトルやFE-SEM像の結果から、比較例2で表面処理された銅微粒子では、銅微粒子の表面に銀微粒子が被着しているものの、必ずしも銀による安定した被覆は生じておらず、その融着性が本発明の実施例に比べて劣っていることが分かる。比較例2では、銅微粒子の表面処理を行う際の銀原子の生成機構が異なると共に、生成する銀微粒子の表面に脂肪酸イオンが付着している。このような違いによって、表面処理時の銅-銀の接合界面の形成や、焼成時の銅-銀微粒子や銀微粒子間の界面接合が妨げられる結果、銅微粒子間の融着による接合を生じ難いものと推測される。
【実施例】
【0100】
(比較例3について)
比較例3は、実施例2で銅微粒子の表面処理を行う代わりに、金属銅を介在させない以外は同様の条件で生成させた銀微粒子を混合して焼成を行ったものである。それにも関わらず、実施例2と比較して焼成後の体積抵抗率が大きい理由は、実施例2での表面処理の際に銅微粒子表面に生じる銀被膜の有無によるものと考えられる。つまり、本発明に係る表面処理方法により、金属銅の結晶表面にアミン錯体の分解により銀の原子層を析出させることで、金属銅の表面に銅-銀の界面接合が良好に形成され、当該銀の原子層をバインダーとして金属銅の融着が促進されるものと考えられる。
【実施例】
【0101】
[実施例6]
(耐環境試験)
実施例2(2.4)で表面処理して得られた銅微粒子の塗布膜を、大気下、100℃で焼成して得た焼成膜(実施例5(6.1))について、耐環境試験を行った。具体的には、温度85℃・相対湿度85%に設定した環境試験機(エスペック、LHL-113)内に焼成膜を置いた。少なくとも2週間、その焼成膜を温度85℃・相対湿度85%に曝した場合においては、体積低効率の顕著な増大は観測されず、銅粒子の耐酸化性が保持されることが分かった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3(a)】
2
【図3(b)】
3
【図4】
4
【図5(a)】
5
【図5(b)】
6
【図6】
7
【図7(a)】
8
【図7(b)】
9
【図7(c)】
10
【図8】
11
【図9】
12
【図10】
13
【図11】
14
【図12(a)】
15
【図12(b)】
16
【図12(c)】
17