TOP > 国内特許検索 > 細胞培養用支持体と、それを用いた細胞培養方法 > 明細書

明細書 :細胞培養用支持体と、それを用いた細胞培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-063801 (P2016-063801A)
公開日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発明の名称または考案の名称 細胞培養用支持体と、それを用いた細胞培養方法
国際特許分類 C12N   5/07        (2010.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI C12N 5/00 202Z
C12N 5/00 202A
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 33
出願番号 特願2014-214456 (P2014-214456)
出願日 平成26年10月21日(2014.10.21)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 平成26年7月22日 公益社団法人高分子学会発行の「第43回医用高分子シンポジウム講演要旨集」に発表 〔刊行物等〕 平成26年7月28日 産業技術総合研究所 臨海副都心センターにおける「第43回医用高分子シンポジウム」にて「ポスター」に発表 〔刊行物等〕 平成26年9月20日 公益社団法人日本化学会東北支部発行の「平成26年度化学系学協会東北大会講演予稿集」に発表 〔刊行物等〕 平成26年9月21日 国立大学法人山形大学米沢キャンパスにおける「平成26年度化学系学協会東北大会」にて「ポスター」に発表 〔刊行物等〕 平成26年9月3日 公益社団法人高分子学会発行の「第63回高分子討論会予稿集」に発表 〔刊行物等〕 平成26年9月24日 国立大学法人長崎大学文教キャンパスにおける「第63回高分子討論会」にて「ポスター」に発表
優先権出願番号 2014192008
優先日 平成26年9月19日(2014.9.19)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】田中 賢
【氏名】干場 隆志
【氏名】大瀧 貴之
【氏名】大類 寿彦
【氏名】佐藤 一博
【氏名】根本 絵梨
【氏名】丸山 寛花
出願人 【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001508、【氏名又は名称】特許業務法人 津国
【識別番号】100078662、【弁理士】、【氏名又は名称】津国 肇
【識別番号】100116528、【弁理士】、【氏名又は名称】三宅 俊男
【識別番号】100146031、【弁理士】、【氏名又は名称】柴田 明夫
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065BC41
4B065BD39
4B065BD40
4B065CA44
4B065CA46
要約 【課題】細胞が機能を発揮するのに適しており、特に細胞培養が良好に進展する表面特性
を有する基質となる細胞培養用支持体、及び、該支持体上において細胞を培養する方法を
提供すること。
【解決手段】少なくとも表面の一部が3wt%以上、30wt%以下の中間水を含有可能
な水和性組成物からなることを特徴とする細胞培養用支持体。
【選択図】図4a
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも表面の一部が3wt%以上、30wt%以下の中間水を含有可能な水和性組成物からなることを特徴とする細胞培養用支持体。
【請求項2】
前記水和性組成物が合成高分子を含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞培養用支持体。
【請求項3】
前記水和性組成物が(メタ)アクリル骨格を有する合成高分子を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞培養用支持体。
【請求項4】
前記細胞培養用支持体は基材部分を有し、当該基材部分の表面の少なくても一部が前記水和性組成物で覆われていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の細胞培養用支持体。
【請求項5】
細胞培養用支持体の表面に細胞培養に使用する培地を設ける行程と、細胞培養用支持体の表面に培養される細胞の播種を行う行程と、を有する細胞の培養方法であって、
前記細胞培養用支持体として、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の細胞培養用支持体を用いることを特徴とする細胞の培養方法。
【請求項6】
予め細胞培養用支持体の表面の少なくても一部に水又は水溶液を接触させる行程を含むことを特徴とする請求項5に記載の細胞の培養方法。
【請求項7】
前記細胞培養に使用する培地には血液細胞の懸濁液を含むことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の細胞の培養方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用支持体に関する。具体的には本発明は、所定の水和性組成物を表面に含む細胞培養用支持体に関する。また本発明は、本発明の細胞培養用支持体を使用した細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の物質が生体を構成する細胞やタンパク質などに対して異物反応を生じさせない性質は生体適合性と呼ばれている。生体適合性を有する物質として、そもそも生体中に存在する物質が多く挙げられるが、それらは所定の形態で水和を生じることが明らかになってきている。また、近年は人工的に合成された高分子においても、所定の水和構造を有することで生体適合性を示すことが可能であることが明らかになってきている。これまでにも生体適合性を有する高分子(ポリマー)として、多様な構造のものが知られており、生体を構成する物質と全く異なる構造であっても高い生体適合性を示す。最近の研究により、これらのポリマーが含水して水和することにより、生体物質において観察される「中間水」と呼ばれる状態の水分子が含有可能であることが明らかにされている(例えば、非特許文献1を参照されたい)。つまり、上記文献にも記載されるように、生体由来物質であるか人工的な合成物であるかによらず、生体適合性を示す物質は「中間水」を含有可能であり、この中間水と呼ばれる状態の水分子が物質の表面に存在することにより生体組織中のタンパク質の非特異吸着などが防止され、その結果として生体適合性を発現することが実験的に明らかにされてきている。
【0003】
生体適合性物質に含有される中間水は、典型的には、過冷却後の昇温過程で見られる特異な潜熱の放出や吸収によって特徴付けられる。つまり、中間水を含有する物質においては、-100℃程度に急冷した後に室温付近まで徐々に加熱する過程で、-40℃付近において潜熱の放出が観察されたり、-10℃以上の氷点下において潜熱の吸収が観察される等、特異的な潜熱の放出や吸収が観察される。様々な検証により、これらの潜熱の放出・吸収は物質に含まれる水分子の一定割合が規則化・不規則化を生じることに起因することが明らかになっており、このような挙動を示す水分子が中間水と定義されている。中間水は、物質を構成する分子からの特定の影響により弱く拘束された水分子であると推察されるが、リン脂質等の生体物質にも含まれることが明らかになっており、生体組織中のタンパク質の非特異吸着等の防止と関連するものと考えられている。
【0004】
これまでに、多数のポリマーが生体適合性を示すことが知られている。MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー、PEG(ポリエチレングリコール)、PMEA(ポリ(2-メトキシエチルアクリレート))、ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、PTHFA(ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート)等が知られており、各種の用途で実用化がなされている(特許文献1-3)。
【0005】
特許文献2には、中間水の量が10wt%以下のポリマーでコーティングされた基質は、ヒト繊維肉腫細胞(HT-1080)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)及びヒト歯根膜由来細胞(PDL)を吸着する一方で、血小板については中間水の量が1wt%ないし10wt%のポリマーでコーティングされた基質においてもほとんど吸着しないことが開示される。このように、人工的に合成されたポリマーであっても、中間水を有することによりタンパク質や細胞、生体組織などの各種生体物質との親和性を発揮することが明らかにされつつあるが、同時に生体物質の種類や処理の目的によって適切な中間水量が変化することも明らかになってきている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第4718766号公報
【特許文献2】特開2012-105579号公報
【特許文献3】特開2014-105221号公報
【0007】

【非特許文献1】Tanaka, M. et al., J. Biomat. Sci. Polym. Ed., 2010, 21, 1849-1863
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、これまでの研究から人工的に合成されたポリマー等であっても、当該ポリマーが中間水を含有可能なものであれば生体を構成する各種の組織や細胞、タンパク質等の各種生体物質との間で異物反応を抑制できることが知られている。また、特許文献2にも記載されるとおり、各種生体物質の種類に応じて、ポリマー等に対する吸着や異物反応を生じる中間水の量のしきい値に違いのあることが明らかになってきている。本発明が課題とする細胞培養においては、細胞分裂を生じるためには細胞が何らかの基質に接着する等をしていることが前提となることが知られており、その際に使用する基質の材質が細胞培養に影響すると考えられる。つまり、基質上で細胞の培養を行う際においても、その細胞が基質に対して異物反応を生じずに活性を維持可能な点で、細胞の接触する面が中間水を含有する生体適合性物質によって構成させることが望ましいと推測される。しかしながら、どの程度の中間水を含有する物質が細胞培養に適しているかなど、その具体的な構成は従来明らかにされていない。
【0009】
そこで本発明は、細胞が機能を発揮するのに適しており、特に細胞培養が良好に進展する表面特性を有する基質となる細胞培養用の支持体を提供することを課題とする。また、該支持体上において細胞を培養する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、少なくとも表面の一部が3wt%以上、30wt%以下の中間水を含有可能な水和性組成物からなる細胞培養用支持体を提供する。特に、上記の水和性組成物が合成高分子を含む水和性組成物である細胞培養用支持体を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記の細胞培養用支持体上に、細胞培養に使用する培地と培養される細胞を配置して細胞培養を行う細胞培養方法を提供する。また、特に細胞を配置する以前に上記水和性組成物に水又は水溶液を接触させる行程を含む細胞培養方法を提供する。
【0012】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】各種基質における初期接着細胞数を示す棒グラフ。
【図2】各種基質に接着して1日培養後のHepG2細胞の投影面積を示す棒グラフ。
【図3】各種基質上でのHepG2細胞に対するインテグリン依存性接着の阻害処理の影響を示す棒グラフ。
【図4a】各種基質上に播種後1日培養されたHepG2細胞のDAPI染色による蛍光顕微鏡写真。
【図4b】各種基質上に播種後1日培養されたHepG2細胞のAlexa Fluor(登録商標)488で蛍光標識されたファロイジン染色による蛍光顕微鏡写真。
【図4c】各種基質上に播種後1日培養されたHepG2細胞のマウス抗ビンキュリン抗体とAlexa Fluor(登録商標)546で蛍光標識されたヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体との染色による蛍光顕微鏡写真。
【図5a】各種基質上に播種後1日培養されたHepG2細胞のDAPI染色による蛍光顕微鏡写真。
【図5b】各種基質上に播種後1日培養されたHepG2細胞のAlexa Fluor(登録商標)488で蛍光標識されたファロイジン染色による蛍光顕微鏡写真。
【図5c】各種基質上に播種後1日培養されたHepG2細胞のマウス抗ビンキュリン抗体とAlexa Fluor(登録商標)546で蛍光標識されたヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体との染色による蛍光顕微鏡写真。
【図6a】各種基質上で培養されたHepG2細胞での肝特異的に発現する遺伝子産物アルブミンの発現量を表した棒グラフ。
【図6b】各種基質上で培養されたHepG2細胞での肝特異的に発現する遺伝子産物HNF4αの発現量を表した棒グラフ。
【図7】プレコンディショニングを行った種基質の表面への血小板数の吸着性を表す棒グラフ。
【図8】各種基質上での3T3-L1細胞に対するインテグリン依存性接着の阻害処理の影響を示す棒グラフ。
【図9a】各種基質上に播種後1時間培養された3T3-L1細胞のDAPI染色による蛍光顕微鏡写真。
【図9b】各種基質上に播種後1時間培養された3T3-L1細胞のAlexa Fluor(登録商標)488で蛍光標識されたファロイジン染色による蛍光顕微鏡写真。
【図9c】各種基質上に播種後1時間培養された3T3-L1細胞のマウス抗ビンキュリン抗体とAlexa Fluor(登録商標)546で蛍光標識されたヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体との染色による蛍光顕微鏡写真。
【図10a】各種基質上に播種後1日培養された3T3-L1細胞のDAPI染色による蛍光顕微鏡写真。
【図10b】各種基質上に播種後1日培養された3T3-L1細胞のAlexa Fluor(登録商標)488で蛍光標識されたファロイジン染色による蛍光顕微鏡写真。
【図10c】各種基質上に播種後1日培養された3T3-L1細胞のマウス抗ビンキュリン抗体とAlexa Fluor(登録商標)546で蛍光標識されたヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体との染色による蛍光顕微鏡写真。
【図11a】各種基質上で培養された3T3-L1細胞での脂肪分化マーカー遺伝子(Fasn)の発現量を表した棒グラフ。
【図11b】各種基質上で培養された3T3-L1細胞での脂肪分化マーカー遺伝子(Fabp4)の発現量を表した棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
細胞培養に適した基質に関して種々の検討を行ったところ、以下の実施例において示されるとおり、所定の範囲の割合で中間水を含有する水和性組成物を基質とすることで細胞培養を良好に行えることが明らかになった。つまり、中間水の含有量が少ない水和性組成物や、中間水を含有できない非水和性組成物を基質に用いた場合には、高い頻度で細胞が接着等を生じ、細胞と固体支持体の間に多数の接着斑が形成され、接着した細胞が扁平になることが観察された。これに対して、一定以上の中間水を含有する水和性組成物を細胞培養の基質とした場合、基質に対する接着斑の形成が抑制されて細胞が球状に接着すると共に、培養された細胞が高い機能を発現することが示された。また、更に高い割合で中間水を含有する水和性組成物を細胞培養の基質とした場合には、基質に対して細胞接着等を生じる頻度が低下する傾向が示された。

【0015】
このように、細胞培養の際に用いる基質に含まれる中間水の割合に応じて細胞培養の進展に違いを生じる理由は必ずしも明らかでないが、基質に含まれる中間水の割合に応じて基質に接着する細胞の接着頻度や接着形態が変化することが観察されていることから、基質への細胞接着に関与する各種タンパク質の基質への吸着等が中間水の割合によって変化し、その結果として細胞培養の進展に差を生じるものと推察される。

【0016】
所定の基質上で細胞を培養する際には、その前提として細胞が基質に接着を生じることが必要とされることが一般に知られている。そして、その際に細胞が球状の形態を保った状態で接着することで一般に培養が良好に進展することが知られている。これに対して、細胞が基質に対して複数の接着斑を生じて、細胞の形態が扁平になってしまう場合には、細胞の活性が低下して培養の進展が困難になることが知られている(R Singhvi et al., Science, 264, pp696-698, 1994)。

【0017】
本発明においては、中間水の含有量の異なる種々の水和性組成物を基質として用いた際に、基質上に播種した細胞の基質への接着形態が変化し、所定の範囲の割合で中間水を含有する基質においては細胞が球状の形態を保った状態で接着することを見出した。また、そのような基質上で培養した細胞においては、高い細胞活性を有することを見出した。一方、中間水の含有割合が一定以下の基質では、細胞が複数の接着斑を生じて扁平になり、細胞活性も低下することが観察された。

【0018】
また、細胞を球状の形態を保った状態で接着する基質においては、細胞が接着等に使用するインテグリンに依存した接着を阻害した場合でも接着の程度が完全には低下しない一方で、細胞が接着して扁平になる基質においては、インテグリン接着の阻害により細胞の接着の程度が、細胞が接着しない基質と同程度まで低下することが観察された。このような結果から、中間水の含有割合に応じて、インテグリンを介した細胞接着とインテグリンが介在しない細胞接着とがそれぞれ発現すると考えられる。そして、このような現象を生じる理由として、タンパク質の吸着量が中間水の存在により抑制された結果、培養中に基質表面が露出し、直接的に基質に細胞が相互作用できるようになったことが推察された。

【0019】
表1には、以下の実施例で使用した各種の水和性組成物が含有可能な中間水の割合を示す。なお、各中間水の値は、以下に説明する測定方法で求めたものである。

【0020】
【表1】
JP2016063801A_000003t.gif

【0021】
実施例の結果から明らかなように、一定以上の割合で中間水を含むPMEA(ポリ(2-メトキシエチルアクリレート))、PMe3A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシエチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))、PMe2A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))等をそれぞれ基質として、血清培地中で細胞を播種し洗浄した場合には、接着した細胞が球状を維持することが明らかとなった。また、細胞の播種に先だってインテグリン接着を阻害する処理を行った場合、以下で説明するように、中間水を含有しない基質上では細胞接着の程度が、細胞が接着しない基質と同程度まで低下するのに対して、一定以上の割合で中間水を含む基質上では細胞接着の程度は低下するが完全に低下することはなく、また細胞の形態に変化は観察されなかった。このように、一定以上の割合で中間水を含む基質上では、タンパク質の吸着が抑制され、その結果、基質表面が露出し、インテグリンを介在しない細胞接着の機構が発現したと理解することができる。

【0022】
一方、実施例から明らかなように、非常に大きな割合で中間水を含有可能なリン脂質系高分子(T. Hatakeyama, M. Tanaka, H.Hatakeyama,Acta Biomaterialia, 6, 2077-2082, 2010.)であるPMPC(ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン))を含むポリマーを基質に用いた場合には、細胞を播種し洗浄した後に接着を生じる程度が低いことが示された。なお、以下の実施例においてはMPC(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)及びBMA(ブチルアクリレート)を仕込み比30:70mol%で共重合させたコポリマーをPMPCとして使用した。これに対し、特許文献2に記載のPMPC(MPCのみからなるポリマー。本願明細書では上記コポリマーと区別するために、「MPCのみのポリマー」という。)の表面においては、接着性が特に高いと考えられるがん細胞であっても接着の程度が低いことが明らかになっており、上記PMPCコポリマーにおいても同様の理由でPMEA等と比較して細胞接着の程度が低下したものと考えられる。細胞培養においては、基質上に細胞接着を生じることが必要であることから、細胞培養の効率の点からは過剰な中間水の含有は必ずしも望ましくないと考えられた。

【0023】
これに対して、更に含有する中間水が少ないPTHFA((ポリ(テトラヒドロフルフリルアクリレート))や、中間水を含有しないPET(ポリエチレンテレフタラート)やPBA(ポリ(ブチルアクリレート))では、細胞接着の程度が高い一方で、接着した細胞が扁平になって複数の接着斑を生じることが観察された。また、播種の際にインテグリン接着を阻害する処理を行うことで、細胞接着の程度が有意に低下することが示された。このような中間水が少ない基質や、中間水を含有できない基質上で生じる現象は、タンパク質がよく吸着して基質表面が露出しないために、インテグリンが介在した接着機構が発現して、主にインテグリンによる接着を生じ、また、吸着するインテグリンのリガンド量も増えるためと理解することができる。

【0024】
以上のように、細胞培養の際の基質として適切な量の中間水を含有する水和性組成物を使用することによって、高い細胞接着の程度を維持すると共に、接着した細胞を球状に維持することが可能となり、良好な細胞培養を行うことが可能となる。本発明においては、水中で十分に含水した際の中間水の量が3wt%以上となる水和性組成物を用いることで、インテグリンを介した細胞接着を回避して、細胞を球状に維持したままで細胞接着を生じさせることができる。一方、比較的大きな細胞に対しては、中間水の量が水和性組成物の30wt%以下となる水和性組成物を用いることで接着した細胞が由来する臓器の機能等を発現でき、特に中間水の量が25wt%以下の水和性組成物を用いることで細胞接着の程度を高めることが可能である。また、実施例に示すように、中間水の量が21wt%以下の水和性組成物を用いることで、細胞接着の程度が飽和して効率的に細胞培養を行うことができる。

【0025】
なお、上記中間水の量は、以下で説明する測定方法で飽和含水させた各水和性組成物を測定して得られる含有中間水の重量を、当該水和性組成物の乾燥重量で除した値を意味する。

【0026】
また、基質に用いる水和性組成物としては、上記の割合で中間水量を有していると共に、接着した細胞に悪影響を及ぼさないものであれば使用できるが、特に中間水量の安定性等の点から合成ポリマーを含むもの、特に、合成高分子のみからなるものが好ましく使用される。また、水和性組成物に含まれる高分子を相互に架橋させることで固定化などが容易に行える点でも、水和性組成物として合成ポリマーを使用することが好ましい。中間水を含有可能な合成ポリマーとして、従来からポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルメチルエーテル(PVME)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)等の多数の物質が知られている。本発明においては、所定の割合で中間水を含有可能であることを条件として、各種の単一種の構成単位からなる合成ポリマーや、各高分子の構成単位(モノマー)間の共重合体としての合成ポリマーを用いることが可能である。

【0027】
また、中間水を含有可能な合成高分子については、その主鎖の部分として、典型的にはアクリル骨格、メタクリル骨格、ポリカーボネート骨格、アルキレン骨格等を有するものが知られており、主にその主鎖に対して設けられる側鎖部分の構造により、含有できる中間水の量が定まることが知られている。本発明においては、合成高分子の骨格部分の構造によらず使用することが可能であるが、特にアクリル骨格やメタクリル骨格(以下、合わせて(メタ)アクリル骨格とも記載する。)を有する合成高分子はそのモノマーの合成が容易であって、種々の特性を有する合成高分子を合成可能な点で好ましく使用することができる。また、アクリル骨格やメタクリル骨格は生分解などの生体雰囲気での分解を生じにくく、細胞培養中の溶出成分が少ない点でも細胞培養に好ましく使用される。

【0028】
更に、好ましいポリマーの例として、(メタ)アクリル骨格を有するもののうちで、下記の式(1)で表されるものが挙げられる。式(1)で表されるポリマーにおいては、(メタ)アクリル骨格の主鎖に対してPEGを構成する単位がエステル結合により付加されていて、多くの構造において中間水が含有可能であることが知られている。式(1)で表されるポリマーとしては、例えば、ポリ(2-エトキシエチルアクリレート)、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリ[2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート]、ポリ[2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート]、ポリ[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルメタクリレート]、ポリ[2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルアクリレート]、ポリ[2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート]、PMe2A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))、PMe3A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシエチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))、ポリ(2-(2エトキシエトキシエチル)アクリレート)、ポリ(2-エトキシエチルビニルエーテル)、ポリ(テトラヒドロフラン-3-イルメチルアクリレート)、ポリ[2-(メトキシエトキシ)エチルメタクリレート]、メトキシエチル(メタ) アクリルアミド、メトキシエチルビニルエーテル等が含まれる。

【0029】
【化1】
JP2016063801A_000004t.gif

[式中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、メチル基又はエチル基であり、mは1から3であり、nは繰り返し単位である]

【0030】
上記式(1)で表される高分子は、単一の構造のモノマーのみを重合させてポリマーとして用いてもよく、また、複数の単位構造を含む共重合体として使用してもよい。

【0031】
上記式(1)で表される高分子の中でも、特に、下記の式(2)で表されるポリ(2-メトキシエチル・アクリレート(PMEA))等が、生体適合性に優れており、既に複数の生体関連用途に用いられている点で特に好ましく用いることができる。また、PMEAの側鎖に含まれるエチレングリコールの繰り返し数(式(1)におけるm)を、m=2とした上記PMe2Aや、m=3とした上記PMe3Aも大きな割合で中間水を含有できる点で好ましく用いられる。

【0032】
【化2】
JP2016063801A_000005t.gif

【0033】
その他、本発明の細胞培養用支持体に使用される合成高分子としては、主に製造や保存性の面から、ガラス転移点が低いことによって基材へのコーティングが容易である高分子や、特に殺菌工程における熱や放射線、電磁波などに対する化学的安定性が高い高分子が好ましく用いられる。また、多種類の細胞に適用できるように糖鎖やペプチドなど細胞に特異的な細胞接着リガンドとなりにくいものや、増殖因子など生理活性物質の原因とならない高分子が好ましく用いられる。これらの点からは、ポリ{3-[2-{2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ}エトキシ]-1-シクオロオクテン}、ポリ(2-(2エトキシエトキシエチル)アクリレート)、ポリ(2-エトキシエチルビニルエーテル)、ポリ(テトラヒドロフラン-3-イルメチルアクリレート)、ポリ(2-エトキシエチルアクリレート)、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリ[2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート]、ポリ[2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート]、ポリ[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルメタクリレート]、ポリ[2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルアクリレート]、ポリ[2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート]、PMe3A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシエチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))、PMe2A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))が挙げられるが、これらに限定されない。

【0034】
上記説明したように、本発明に係る所定の範囲の割合で中間水を含有する基質においては、細胞が球状の形態を保った状態で接着を生じ、その接着の程度はインテグリンを介した接着を阻害した場合でも大きな変化を生じないことが示された。一方、当該範囲よりも中間水含有量が少ない基質においてはインテグリンを介した細胞接着が生じて、接着した細胞が扁平になることが観察された。中間水含有量が少ない基質において観察される上記現象は、血液成分を含む培地中で基質表面にインテグリンをレセプターとした細胞接着を生じるタンパク質等の吸着が生じることで、一般的な細胞接着の機構であるインテグリンを介した細胞接着を生じていることを示すものと考えられる。一方、中間水の含有量が3wt%以上である基質においては、中間水がバリアとなってフィブロネクチンやビトロネクチン等のインテグリンリガンドの吸着が抑制されて基質表面がそのまま露出する傾向にあるために、インテグリンを介した細胞接着の程度が低くなると考えられる。そして、この露出した基質表面においては、疎水性相互作用や、ファンデルワールス力、静電的相互作用等の非特異的な相互作用による細胞接着を生じるために、上記と比較して接着した細胞の形態に変化を生じるものと推察される。また、30wt%以上の大きな割合で中間水を含有する基質表面においては、当該中間水のバリアが強固になって基質と細胞との相互作用による接着が生じ難くなり、細胞接着の程度が低下するものと推察される。

【0035】
上記のとおり、本発明に係る中間水の含有量が3wt%以上の基質においては、インテグリンを介した接着のような細胞が本来的に有する接着機構に依存しない細胞接着を利用することで良好な細胞培養が進展するため、細胞の種類によらず細胞培養に基質への接着が必要とされる付着細胞の培養に広く使用することができる。つまり、本発明に係る細胞培養用支持体及び細胞の培養方法は、基質に接着して生きる細胞であれば特に限定されず、表皮細胞や、血管内皮細胞、口腔内皮細胞、食道上皮細胞、胃上皮細胞、腸管上皮細胞等の消化管上皮細胞、鼻腔粘膜上皮細胞、気管上皮細胞、肺胞上皮細胞等の呼吸器上皮細胞、汗腺細胞、皮脂腺細胞、アポクリン腺細胞、乳腺細胞等の外分泌腺細胞、唾液腺上皮細胞、涙腺細胞、膵臓ランゲルハンス島細胞、副腎髄質細胞、副腎皮質細胞、松果体細胞、脳下垂体細胞、甲状腺細胞等の内分泌腺細胞、肝細胞、腎上皮細胞、膵臓細胞、副腎細胞等の内臓実質細胞、味蕾細胞、嗅上皮細胞、有毛細胞等の感覚器細胞、神経細胞と、星状膠細胞、シュワン細胞等のグリア細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞等の筋細胞、線維芽細胞、間質細胞、結合織細胞、軟骨細胞、骨芽細胞等の間葉細胞、胸腺上皮細胞、子宮上皮細胞、卵巣ろ胞細胞、輸卵管上皮細胞、精細管上皮細胞、ライディッヒ細胞等の細胞培養に適用することができる。
また、本発明に係る細胞培養用支持体は胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、核移植ES細胞、体細胞由来ES細胞等の分化多能性を有する幹細胞、造血幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、その他間質由来幹細胞、Muse細胞、神経幹細胞等の組織幹細胞、多分化能を有する幹細胞、肝臓、膵臓、脂肪組織、骨組織、軟骨組織等の各種組織における前駆細胞等の各種の幹細胞の培養に使用することが可能である。上記幹細胞に関しては、外来遺伝子が導入され、あるいは、染色体上の遺伝子編集処理が施される処理が施されても構わないし、ウイルス感染による培養下での増殖促進処理(トランスフォーメーション等)が施されてもかまわない。また、本発明に係る細胞培養用支持体を用いた幹細胞の培養においては、従来の基質との比較において細胞の接着機構の違い等に起因して、培養される幹細胞の特性に応じて分化の促進や抑制等が生じるため、培養の目的に則した細胞培養が可能である。

【0036】
また、本発明において、臓器実質細胞とは、肝臓、腎臓、膵臓、副腎等の内臓と、汗腺、皮脂腺、アポクリン腺、乳腺等の外分泌腺と、松果体、脳下垂体、甲状腺等の内分泌腺とを含むがこれらに限定されない臓器の特徴的な機能(血液中の老廃物、アルコールその他の薬物の代謝、分解又は異化、消化液等の外分泌、血液循環へのインシュリン、アドレナリン等のホルモン内分泌)を発揮する細胞を指す。本発明において、臓器実質細胞は、それぞれの臓器の特徴的な機能を発揮することを条件として、被検者から摘出又は回収された体細胞(初代細胞)の他、培養下で有限又は無限の増殖が可能な培養細胞(株細胞)でもかまわない。被検者の安全性が確保されることを条件として、本発明の臓器実質細胞は、腫瘍由来の細胞であってもかまわないし、外来遺伝子が導入され、あるいは、染色体上の遺伝子編集処理が施される処理が施されても構わないし、ウイルス感染による培養下での増殖促進処理(トランスフォーメーション等)が施されてもかまわない。

【0037】
本発明において、細胞培養の基質として使用する細胞培養用支持体は、培養する細胞と接触する表面の少なくとも一部が3~30wt%の中間水を含有しうる水和性組成物からなるものであれば良く、当該水和性組成物のみから構成されるものの他、他の基材からなる培養皿の表面の少なくても一部にコーティングなどの手段により当該水和性組成物を設けたものであってもよい。上記中間水を含有可能な水和性組成物で、支持体の基材の所定の表面部分をコーティング等して用いる場合、当該基材の材質に特に制限はなく、剛体でも、弾性体でも、ゲル等を用いてもよく、その材質としてはガラス等の他、木錦、麻等の天然高分子、PET、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体等の合成高分子あるいはこれらの混合物が挙げられる。また、金属、セラミクス及びそれらの複合材料等が例示でき、複数の材質より構成されていてもかまわない。前記細胞培養用支持体の形状は、ディッシュ状(皿状)である他、フラスコ、培養用スライド、マルチウェルプレート、多孔質体、繊維、不織布、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸及び粉末からなる群から選択される少なくとも1種類の形状の場合がある。また、前記細胞培養用支持体がフィルム、シート、チューブ、中空糸等の形状の場合に、細胞に接する表面の少なくとも一部にコーティングなどの手段により当該水和性組成物を設けることを条件として、半透性を示す場合がある。その場合、分画分子量は、3,500以下、6,000-8,000又は12,000-14,000の場合がある。あるいは、細胞に接する表面と該表面を裏打ちする表面との間を0.22μm又は0.45μmの径の微小細孔が連絡する場合がある。

【0038】
本発明に係る細胞培養の基質として使用する支持体は通常知られる方法で製造することができ、目的とする細胞を培養可能な形状であって、細胞と接触する表面の少なくても一部が所定の中間水を含有可能な水和性組成物とされていればよく、細胞と接触する表面の全面が当該水和性組成物とされていることが望ましい。特に、上述の水和性組成物を別の材質の基材表面に保持させる方法としては、適宜の溶媒に溶解させた上記水和性組成物を塗布等した後に溶媒を蒸発させるコーティング法の他、放射線、電子線および紫外線によるグラフト重合により上記水和性組成物である重合物を基材表面に付加する方法、基材の官能基との化学反応を利用して上記水和性組成物を基材表面に導入する方法等、適宜の方法を用いることができる。この中でも特にコーティング法は製造操作が容易であるため、実用上好ましい。さらにコーティング方法についても、塗布法、スプレー法、ディップ法等があるが、特に制限なくいずれも適用できる。また、コーティングされた水和性組成物に対して放射線、電子線および紫外線等を照射することで、架橋等を生じさせても良い。また、適宜の基材の上に上記水和性組成物を滴下、塗布等した状態であって、必ずしも基材と上記水和性組成物が密着して一体化していない状態で使用される細胞培養用支持体であっても本発明に係る細胞培養用支持体に含まれる。

【0039】
例えば、該水和性組成物の塗布法等によるコーティング処理は、適当な溶媒に該水和性組成物を溶解したコーティング溶液に、コーティングされる基材を浸漬した後、余分な溶液を除き、ついで風乾させるなどの簡単な操作で実施できる。また、コーティングされる基材に該水和性組成物をより強固に固定化させるために、コーティング後のコーティングされる基材に熱を加え、基材と該水和性組成物との接着性を更に高めることもできる。また、表面を架橋することで固定化しても良い。架橋する方法として、コモノマー成分として架橋性モノマーを導入しても良い。また、電子線、γ線、光照射によって架橋しても良い。

【0040】
本発明で使用する水和性組成物に含有される中間水量の測定方法は、非特許文献1(Ta
naka, M. et al., J. Biomat. Sci. Polym. Ed., 2010, 21, 1849-1863)、特許文献2(特開2012-105579号公報)及び特許文献3(特開2014-105221号公報)に詳しく説明される。本願明細書に記載の発明においてはDSC装置(エスアイアイ・ナノテクノロジーズ株式会社、EXSTAR X-DSC7000)を用い、窒素流量50mL/分、2.5℃/分間の条件で各種の割合で含水させたポリマーにおける潜熱の移動について測定を行った。温度プログラムは、(i)室温から-100℃まで冷却、(ii)-100℃で10分間保持、(iii)-100℃から50℃まで加熱を行った。上記(iii)において、水の低温結晶化に起因する発熱ピーク及び水の低温融解に起因する吸熱ピークの有無によって中間水の有無が確認される。つまり、DSCチャートにおいて、-40℃付近における潜熱の放出や、-10℃以上の氷点下における潜熱の吸収は、水和性組成物中に含有される中間水の規則化と再不規則化に起因するものと考えられている。

【0041】
中間水量の測定を行う水和性組成物試料の調製は、測定を行う水和性組成物を含湿雰囲気へ暴露したり、最高で7日間の水中へ浸漬する等の手段により、各種の割合で水を含水させる。含水後の各試料の所定量を取り、あらかじめ重量を測定した酸化アルミパンの底に薄く広げ、その状態で重量を測定した。酸化アルミパンを示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジーズ株式会社、EXSTAR X-DSC7000)を用いて、酸化アルミパンを室温から-100℃まで冷却し、ついで10分間ホールドした後、昇温速度2.5℃/分で-100℃から50℃まで加熱を行う過程での吸発熱量の測定を行った。

【0042】
各試料について、DSC測定後にアルミパンにピンホールをあけて真空乾燥後、その重量を測定し、重量減少分を含水量とした。含水率(WC)は、酸化アルミパンの質量を除外した上で、以下の式(I)で求める。
含水率(WC) = (W1-W0) / W0 (I)
(W0:試料の乾燥重量(g)、W1:試料の含水重量(g))

【0043】
また、各サンプル毎に、0℃付近の吸熱量から水和性組成物に拘束されていない自由水の量を求め、-40℃付近における発熱量と-10℃以上の氷点下における吸熱量から中間水の量を求め、上記で求めた各サンプルの含水量(W1-W0)から自由水と中間水の量を差し引いた量を不凍水の量として求めた。更に、求められた各水の量を試料の乾燥重量(W0)で除することにより各水の含水率(%)を求めた。なお、本明細書においては、便宜的に各サンプルにおける中間水の含水率を単に中間水量と記載する場合がある。

【0044】
本発明の細胞培養の細胞培養用支持体は、細胞培養に使用するに先立って通常行われる減菌処理等の前処理を行うことが好ましい。減菌処理は、簡便には紫外線照射などに行うことができる。その他、放射線照射処理等による殺菌も可能であるが、表面に設けられた水和性組成物が過剰に変性等をしない条件を採用することが好ましい。あるいは、本発明の細胞培養用支持体は、無菌状態で製造され、使用まで、無菌状態で密封保存される場合がある。

【0045】
減菌処理等を行った細胞培養用支持体は、細胞培養の基質とするために、適宜の水溶液中等に所定時間の保持をすることで水和性組成物に含水させることが好ましい。中間水を含有することで生体親和性を発揮する水和性組成物においては、含水によって生じる中間水が生体物質との間で何らかの緩衝作用を奏することで生体親和性が発揮されるものと考えられている。このため、本発明においても培養する細胞と接触させる以前に十分含水させることで、予め生体親和性を発揮させることが好ましい。本発明に係る細胞培養方法 においては、上記のような水和性組成物への含水と培地しての調製を兼ねて、細胞培養の培地中に所定時間の浸漬を行うことによって含水させることも可能である。

【0046】
本発明の細胞培養用支持体を用いた細胞培養においては、好ましくは上記含水行程を行った後、細胞培養に用いる培地を設ける行程と、培養する細胞を播種する行程とを含む。培地を設ける行程と播種の行程は、細胞培養に支障の無い範囲で公知の細胞培養の方法と同様に行うことが可能であり、予め基質上に設けた培地中に細胞を播種しても良く、基質表面に細胞を播種してから培地を注いでもよい。また、細胞を含む培地を基質としての細胞培養用支持体上に注ぐことも可能である。

【0047】
本発明に係る細胞培養方法では、培養する細胞の種類などに応じて、公知の細胞培地を用いて細胞培養を行うことができる。例えば、イーグル培地、ダルベッコ変法イーグル培地(低グルコース又は高グルコース)、イーグルMEM培地、αMEM培地、IMDM培地、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI1640培地と、これらのブレンド培地、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(高グルコース)及びハムF12培地の1:1混合培地をはじめ、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社から入手可能なSTEMLINE(商標)ブランドの培地、ロンザジャパン株式会社から入手可能なBioWhittaker(商標)ブランドの培地、岩井化学薬品株式会社から入手可能なCellGro(商標)ブランドの培地等の専用培地を含むがこれらに限定されない。また、特に幹細胞の培養を行う場合には、その分化を促進、抑制するような公知の細胞培地を用いて細胞培養を行うことで、その培養目的に応じた培養を行うことが可能である。また、これらの培地に、ウシ胎仔血清、ウマ血清、ヒト血清を5~10%添加して使用することもできる。また、細胞タイプによっては、ビタミン(ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD等)、補酵素(葉酸等)、必須アミノ酸(グルタミン等)、炭素源としての糖又は有機酸(乳酸等)、成長因子(EGF、FGF、PFGF、TGF-β等)、インターロイキン(IL-1,IL-6等)、サイトカイン(TNF-α、TNF-β、レプチン等)、金属トランスポーター(トランスフェリン)、金属イオン(鉄イオン、セレンイオン、亜鉛イオン等)、SH試薬(β-メルカプトエタノール、グルタチオン等)の添加が望ましい場合がある。また、ポリビニルピロリドンや血清アルブミンが用いられる場合もある。さらに、動物又はヒト由来の病原体の混入を回避するために、組換えタンパク質の成長因子、インターロイキン、サイトカイン等や、血清アルブミンを使用する場合がある。これらの培地は、例えば、0.22μm径又は0.45μm径のメンブレンフィルターで濾過滅菌される場合がある。

【0048】
本明細書において本発明の細胞培養用支持体に接着した細胞の形状に関して、「丸い」、「球状」又は「盛り上がった」形状とは、一般的に細胞の基質面から最も盛り上がった部分の高さが、「扁平」又は「伸展」した形状の細胞の高さよりも、当該細胞培養用支持体に播種されたものと同じ細胞の単離細胞又は分裂中の細胞の高さに近いことを指す。あるいは、「丸い」、「球状」又は「盛り上がった」形状とは、本願実施例3に説明される細胞形態評価方法で計測される細胞1個あたりの投影面積が、「扁平」又は「伸展」した形状の細胞の投影面積よりも、当該細胞培養用支持体に播種されたものと同じ細胞の単離細胞の投影面積により近いことを指す。

【0049】
特に、生体内と類似の環境下で培養を行う場合には、血液細胞の懸濁液を培地とした培養を行うことが望ましい。

【0050】
本発明において、血液細胞の懸濁液とは、血液の細胞性成分のうち、赤血球、白血球、リンパ球、好中球、好酸球、好塩基球、単球、マクロファージ、血小板を含むが、これらに限定されない血液細胞が生理活動を保持した状態で分散された液体を指す。血液細胞が分散される液体は、生理食塩水、培養液、人工血液を含むがこれらに限定されない人工の液体の場合もあれば、人間その他の被検者から採取された血液の場合もある。血液が採取された被検者は、細胞の由来と同じ場合もあれば、異なる場合もある。前記血液細胞の懸濁液が血液の場合には、採取後保存された血液(例えば、輸血用血液)でも、新鮮な血液でもかまわない。前記血液の懸濁液は、本発明の培養用支持体上において前記細胞に曝露された後、血液が採取されたのと同じ被検者又は別の被検者の体内に戻されることで、生体内の臓器が担う機能の一部を補助・代替する人工臓器として使用することもできる。本発明の細胞培養用支持体を人工臓器として使用する場合は、細胞培養用支持体を被験者の体内又は体外のいずれに設置してもよい。本発明の培養用支持体を含む人工臓器は、被検者の血液循環系に連結されてもかまわないし、被検者の血液循環系には直接連結されないで、本発明の培養用支持体で処理された血液をいったん容器に蓄積した後で、被検者の血液循環系に輸血される形態で使用してもかまわない。

【0051】
以上説明したように、本発明に係る細胞培養方法によれば、細胞培養を良好に進展させることができる。特に、本発明に係る細胞培養方法により幹細胞を培養した際には、基質に含有される中間水量に応じて幹細胞から各種の細胞への分化の程度が変化することから、各種幹細胞の培養の目的に応じた基質を選択することで、所定の分化を促進し、又は抑制しながら幹細胞の培養を行うことができる。本発明に係る細胞培養方法は、培養の対象となる細胞の維持や増殖の他、培養中の細胞によりアルブミンや血液凝固因子等の有用タンパク質を生産させる産生バイオリアクターの一部としてや、生体内の臓器が担う機能の一部を補助・代替する人工臓器の一部等として使用することができる。また、本発明に係る細胞培養方法により培養された細胞は、細胞に対する各種薬品の影響を調査する対象や、細胞自体の検証のために用いることができる。また、本発明に係る細胞培養方法により所定の細胞を培養して組織化し、人体における臓器が担う少なくとも一種の機能を発現する人工臓器として使用することもできる。

【0052】
本発明に係る細胞培養方法を用いて臓器疾患の患者の臓器の機能を補助する方法は、臓器疾患か、ある臓器以外の疾患のために該臓器の機能が低下する病状かを有する患者の臓器の機能を補助するために実施される

【0053】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例1】
【0054】
ポリマー基板の作成
(1.1)基板
本発明に係る細胞培養用支持体として、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(三菱樹脂株式会社、ダイアホイル カタログ番号T100E125)を基材として、各種の割合で中間水を含有可能な複数種のポリマーをそれぞれコーティングしたものを用いた。PETフィルムは、ハンドプレス(株式会社福井機工商会、CAN SYSTEM HANDPRESS FK-HP200)を用いて直径14 mmの円形に打ち抜いた。このPET基板をメタノール(関東化学株式会社)に浸漬し、洗浄を行ったものを使用した。
【実施例1】
【0055】
(1.2)ポリマーの合成
PBA(ポリ(n-ブチルアクリレート))及びPTHFA(ポリ(テトラヒドロフルフリルアクリレート))はScientific Polymer Products, Inc.(米国、ニューヨーク州、Ontario、それぞれカタログ番号234及び886)から購入した。MPC(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)及びBMA(ブチルメタクリレート)を仕込み比30:70mol%で共重合させたコポリマーPMPC(ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン-コ-ブチルメタクリレート))は日油株式会社から寄贈された。PTHFAは、良溶媒THF(テトラヒドロフラン)及び貧溶媒ヘキサンへの沈殿操作を3回繰り返して精製した。PBAは、良溶媒THF及び貧溶媒メタノールへの沈殿操作を3回繰り返して精製した。
【実施例1】
【0056】
PMEA(ポリ(2-メトキシエチルアクリレート))は、M. Tanaka及びA. Mochizuki(J Biomed Mater Res, 68A, pp684-695, 2004)に開示される方法で研究室内で合成した。PMe2A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))及びPMe3A(ポリ(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシエチルアクリレート-コ-ブチルアクリレート))は、それぞれ、Me2A(2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート)又はMe3A(2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレート)とを仕込み比30:70mol%でブチルアクリレートと1,4-ジオキサン中で70℃、6時間反応させる、フリーラジカル重合法によって合成された。ポリマーは、良溶媒THF及び貧溶媒メタノールを用いて沈殿精製され、60℃、18時間減圧乾燥された。モノマーのMe2Aは共栄社化学株式会社から寄贈された。Me3AはMonomer-Polymer & Dajac Labs(米国、ペンシルバニア州、Trevose)から購入した。PMEA、PMPC、PMe2A及びPMe3Aはメタノールに0.2 wt%となるように溶解し、PBAはTHFに0.2 wt%となるように溶解し、PTHFAはメタノール/クロロホルム(5:1)混合溶媒に0.2 wt%となるように溶解して、以下の実験に使用された。
【実施例1】
【0057】
(1.3)ポリマーの数平均分子量([Mn]、単位:g/mol)測定
ピーク分子量が既知の標準ポリスチレンを用い、該標準ポリスチレンで校正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製「HLC-8220」、カラム構成:Tosoh TSK-gels super AW5000、super AW4000、super AW3000)を使用して、重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。(溶媒:THF、温度:40℃、流量:1.0mL/分)。
【実施例1】
【0058】
(1.4)ポリマーの分子量分布([Mw/Mn])測定
前記(1.3)節のとおり求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の値を用いその比(Mw/Mn)として求めた。
【実施例1】
【0059】
(1.5)ポリマーの構造解析
ポリマーの構造解析については、NMR測定装置(日本電子株式会社製、JEOL 500MHz JNM-ECX)を用い、1H-NMR測定を行った。なお、ケミカルシフトはCDCl3(1H:7.26ppm)を基準とした。
【実施例1】
【0060】
(1.6)ポリマーのコーティング
PET基材上への各ポリマーのコーティングは次のようにして行った。スピンコーター(ミカサ株式会社、カタログ番号MS-A100)内に洗浄したPET基板を置き、調製した各ポリマー溶液を40μL滴下後、T. Hoshibaら(Advanced Healthcare Material, 3, 775, 2014)に記載のコーティング条件でスピンコーティングを行った。簡潔には、500rpmで5秒間、1,500rpmで10秒間、1,500-4,000rpmの回転速度スロープアップを5秒間、4,000rmで10秒間、4,000-0rpmの回転速度スロープダウンを5秒間のスピンコーティング条件であった。1回コーティングされた基板を静置、乾燥させ、同様の手順で2回目のコーティングを行った。2回のコーティング後、基板を一晩乾燥させた。ポリマー基板を24穴の細胞培養プレート(旭硝子株式会社、IWAKI、カタログ番号3820-024)へ移し、クリーンベンチ(三洋電機株式会社、カタログ番号MCV-B131F)内で殺菌ランプ(東芝ライテック株式会社、カタログ番号GL15)による紫外光照射を2時間行うことにより滅菌処理を行った。その後実験に使用するまで4℃で保存した。
【実施例1】
【0061】
(1.7)フィブロネクチンのコーティング
本発明における細胞接着の機構を検証するために、PET基板上にフィブロネクチン(fibronectin、FN)をコーティングした試料を以下の方法で作成した。FNは細胞接着に用いられるタンパク質であり、細胞のインテグリンをレセプターとして細胞接着を生じることが知られている。
【実施例1】
【0062】
FNのPET基板へのコーティングは以下のとおり行った。PET基板を上記の紫外光照射により滅菌処理後、恒温槽(東京理化器械株式会社、EYELA、カタログ番号NTT-2200)
で37℃に温めたCa2+及びMg2+不含リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-)、タカラバイオ株式会社、カタログ番号T900、以下同じ。)500μLを加えて洗浄を行った。洗浄後、PET基板をPBS(-)で10μg/mLの各濃度に調製したフィブロネクチン(ウシ血清フィブロネクチン、メルク株式会社、Calbiochem、カタログ番号341631)溶液に浸漬して37℃、4時間静置し、フィブロネクチンのコーティングを行った。コーティング後、純水(25℃での比抵抗18MΩcm以上、オートクレーブで滅菌処理後使用、以下同じ。)500μLで洗浄を行い、余剰フィブロネクチンを取り除き、前記クリーンベンチ内で約1時間乾燥した。作製した基板はすべて実験に使用するまで4℃で保存した。
【実施例1】
【0063】
(1.8)PET基板の各種ポリマーによるコーティング状態の確認
接触角測定装置(ヱルマ販売株式会社、ERMA、カタログ番号G-1-1000)を使用して、(1.3)節で各種ポリマーをコーティングしたPET基板の接触角として、純水2μLを滴下して30秒後の接触角をθ/2法で測定し、各ポリマーがコーティングされていることを確認した。
【実施例1】
【0064】
(1.9)結果
各ポリマーの重量平均分子量(Mw(g/mol)及び分子量分布(Mw/Mn)は以下の表に示すとおりであった。
【実施例1】
【0065】
【表2】
JP2016063801A_000006t.gif

*:Scientific Polymer Products, Inc.社から入手時のデータシートに記載なし。
【実施例1】
【0066】
本実施例で合成されたポリマーの1H-NMRデータはそれぞれ以下のとおりであった。
PMe3A
1H NMR (500 MHz, CDCl3, ppm):・0.94 (t, 3H, -CH2-CH3 of PBA), 1.36 (m, -CH2-CH3of PBA), 1.61 (m, 2H, -O-CH2-CH2- of PBA), 1.8-2.3 (br, polymer backbone of PBA and PMe3A), 3.38 (s, 3H, -O-CH3 of PMe3A), 3.53 (m, 2H, -CH2-CH2-O-CH3 of PMe3A), 3.6-3.7 (m, 8H, -CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH3 of PMe3A), 4.0 (br, 2H, -COOCH2- of PBA), 4.2 (br, 2H, -COOCH2- of PMe3A)
PMe2A
1H NMR (500 MHz, CDCl3, ppm):・0.94 (t, 3H, -CH2-CH3 of PBA), 1.36 (m, -CH2-CH3of PBA), 1.61 (m, 2H, -O-CH2-CH2- of PBA), 1.8-2.3 (br, polymer backbone of PBA and PMe2A), 3.38 (s, 3H, -O-CH3 of PMe2A), 3.53 (m, 2H, -CH2-CH2-O-CH3 of PMe2A), 3.6-3.7 (m, 4H, -CH2-O-CH2-CH2-O-CH3 of PMe2A), 4.0 (br, 2H, -COOCH2- of PBA), 4.2 (br, 2H, -COOCH2- of PMe2A)
これらのデータから、本実施例で合成されたポリマーの構造が確認された。
【実施例1】
【0067】
本実施例で用意され、以下の実施例に用いられる基質及びコーティングされたポリマーの水との接触角及び標準偏差は以下の表に示すとおりであった。
【実施例1】
【0068】
【表3】
JP2016063801A_000007t.gif
【実施例1】
【0069】
ポリマーがコーティングされた基板の複数の場所での接触角を測定した結果、同じポリマーでコーティングされた基板の接触角の標準偏差は平均値の6%以内であったので、これらの基板には均一にポリマーがコーティングされていることが確かめられた。
【実施例2】
【0070】
実施例1において各ポリマーをコーティングしたPET基板を細胞培養用支持体とし、HepG2細胞を播種した際の初期接着細胞数の評価を行った。
【実施例2】
【0071】
(2.1)HepG2細胞の継代培養
以下の各評価においては、以下の方法で継代培養したHepG2細胞の単離細胞を使用した。HepG2細胞はヒューマンサイエンス振興財団 ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入したものを使用した。HepG2細胞の培養には、DMEM/F12(ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、GIBCO、カタログ番号11320-032)に、10%のウシ胎仔血清(FBS、株式会社医学生物学研究所、Equitech-Bio、ロット番号SFBM30-2215)と、1%のペニシリン・ストレプトマイシン濃縮液(ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、GIBCO、カタログ番号15140-122)とを添加した血清培地(以下、「DMEM/F12血清培地」という。)を用いた。直径10cmの付着性細胞用表面処理済ポリスチレンディッシュ(旭硝子株式会社、IWAKI、カタログ番号3020-100)に1.0×10個/cmの密度で細胞を播種し、COインキュベーター(三洋株式会社、カタログ番号MCO-19AIC(UV))内で37℃、5% CO、湿度95%以上の条件下で培養を行った。培地交換は2日毎に行った。ディッシュ上の細胞の密度が約70%になると、トリプシン-EDTA液(2.5g/Lのトリプシン及び0.38g/LのEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)・4Naを添加したCa2+及びMg2+不含ハンクス平衡塩溶液、ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、GIBCO、カタログ番号25200-072)を37℃、4分間処理して細胞を単離し、得られた単離細胞を新しいディッシュへ1.0×10個/cmの密度で播種し、継代培養を行った。
【実施例2】
【0072】
(2.2)細胞培養用支持体のプレコンディショニング(含水行程)
基板のプレコンディショニングのために、実施例1において各ポリマーをコーティングしたPET基板を500μLのPBS(-)を用いて洗浄したのち、前記DMEM/F12血清培地に浸漬してCOインキュベーター中で1時間静置した。この浸漬処理によってPET基板にコーティングされた各ポリマーが含水して、各ポリマーに固有の割合で中間水を含有すると共に、各ポリマー毎に血清培地中に存在する各種タンパク質等を中間水量に応じて吸着して細胞接着性を発現させることができる。
【実施例2】
【0073】
(2.3)播種した細胞の初期接着性の評価用サンプルの調製
PMEA、PTHFA及びPMPCをコーティングしたPET基板と、FNをコーティングしたPET基板と、ポリマー等をコーティングしないPET基板とについて、初期接着性を評価するサンプルを調製した。各基板を、(2.2)節に記載のプレコンディショニングを行った後、24穴の細胞培養プレートのウェルに設置し、(2.1)節に記載の方法で継代培養したHepG2細胞の単離細胞を5.0×10個/cmの密度で播種し、継代培養と同様の条件下で3時間の培養を行った。培養後、1mLのPBS(-)で2回洗浄することによって接着していない細胞を除いた。PBS(-)で0.1%に希釈したグルタールアルデヒド(和光純薬工業株式会社)溶液500μLを加え、室温で終夜静置することによって接着している細胞を固定した。固定後、PBS(-)で洗浄し、PBS(-)で0.2%に希釈したクリスタルバイオレット(和光純薬工業株式会社)溶液を加えて37℃のインキュベーター内に15分静置することによって細胞質の染色を行った。染色後、純水で2回洗浄し、その後乾燥させることにより初期接着細胞数の評価用サンプルを得た。
【実施例2】
【0074】
(2.4)初期接着性の評価
播種した細胞の初期接着性は、播種した細胞の内で各サンプルの表面に接着した細胞数により評価した。具体的には、光学顕微鏡を用いて、上記で作製した初期接着性評価用サンプル基板1枚当たり、100倍の写真を3視野ランダムに選び撮影した。撮影した写真内の接着細胞数を数え、サンプル全体における接着細胞数に換算することで各基板おける初期接着細胞数とした。
【実施例2】
【0075】
(2.5)データの統計処理
以下の全ての実施例の実験において、データの値は平均値±標準偏差で示した。2種類のサンプル間の有意差検定にはMicrosoft Excel 2007のstudent’s t testを用いた。3種類のサンプル間の比較の際には、R: a language and environment for statistical computingを用いて一元配置分散解析(Analysis of Varience: ANOVA)を行った後、多重比較検定としてTukeyの方法を用いて比較を行った。P値が0.05未満を有意な差とみなして評価を行った。
【実施例2】
【0076】
(2.6)結果
図1に各ポリマーでコーティングされたPET基板における初期接着細胞数を示す棒グラフを示す。横軸は各基板にコーティングされたポリマーを表し、縦軸は各基板と初期接着をしたHepG2細胞の数(単位は、10個/cm)を表す。図1に示されるとおり、HepG2細胞の単離細胞は5.0×10個/cmの密度で播種されたが、未処理のPET基板では播種後HepG2細胞のほぼ50%が接着した。また、PMEA及びPTHFAでコーティングされたPET基板には、播種したHepG2細胞のそれぞれ約65%及び60%が接着し、未処理のPET基板と有意の差は見られなかった。一方、PMPCでコーティングされたPET基板には、播種したHepG2細胞の約2%が接着した。また、FNでコーティングされたPET基板には、播種したHepG2細胞の約10%が接着した。
【実施例2】
【0077】
表1に示すとおり、評価を行ったPMEA(3.8wt%)、PTHFA(1.3wt%)及びPMPC(29wt%)はいずれも中間水を含水可能なポリマーであるのに対して、PETは中間水を含水しないポリマーである。一方、初期接着細胞数の点からは、PMEAやPTHFAによるコーティングによっては未処理のPET基板と比較して変化が明らかにならなかった。なお、FN(フィブロネクチン)は細胞接着に一般に用いられるタンパク質であるが、本評価で使用したHepG2細胞はフィブロネクチンに対するレセプターが少ないために、初期接着細胞数が低くなったものと考えられる。
【実施例3】
【0078】
実施例1において各ポリマーをコーティングしたPET基板を細胞培養用支持体とし、支持体に接着したHepG2細胞の細胞形態の評価を行った。上記で説明したとおり、細胞が扁平な形態で基質上に接着した場合と比較して、一般に基質上に接着した細胞が球状を維持する場合に細胞培養が良好に進展し、細胞活性も維持されることが知られている。以下では、接着細胞の形態を評価するために、基質に対する接着細胞の投影面積を測定した。投影面積が小さい場合には細胞が球状であり、投影面積が拡大するほど細胞が扁平になっていることを示す。
【実施例3】
【0079】
(3.1)HepG2細胞の細胞形態評価用サンプルの調製
PMEA、PTHFA及びPHEMAをコーティングしたPET基板、及びFNをコーティングしたPET基板、ポリマー等をコーティングしないPET基板について、接着細胞の形態を評価するサンプルを調製した。各基板を、(2.2)節に記載のプレコンディショニングを行った後、24穴の細胞培養プレートのウェルに設置し、上記HepG2細胞を1.0×10個/cmの密度で播種し、継代培養と同様の条件で1日培養を行った。培養後、(2.3)節と同様の手順で細胞を固定、染色し、細胞形態評価用サンプルを作製した。
【実施例3】
【0080】
(3.2)細胞の接着形態の評価
調製した細胞形態評価用サンプル基板1枚当たり200倍の写真から3視野をランダムに選び撮影した。撮影した写真の細胞の形態を画像処理ソフトGIMP(GNU Image Manipulation Program、Spencer Kimball、Peter Mattis and The GIMP Development Team)を用いてサンプル基板1種類につき60個の細胞形態をペンタブレット(株式会社ワコム、Bamboo Pen)を用いてトレースを行った。トレースされた細胞の投影面積を画像解析ソフトimageJ(National Institutes of Health、USA)を用いて評価した。
【実施例3】
【0081】
(3.3)結果
図2に上記で評価した各サンプルにおける接着細胞の投影面積を示す棒グラフを示す。横軸は各基板にコーティングされたポリマーを、縦軸は各基板と初期接着をした細胞の投影面積(60個の細胞を計測して得られた細胞1個当たりの投影面積の平均値、単位は、10μm)をそれぞれ表す。誤差棒は細胞の投影面積の標準偏差を表す。図2に示されるとおり、PMEA上に接着した細胞においては、中間水を含有するポリマーをコーティングしていないPET基板やFNをコーティングした基板と比較して、接着面の投影面積が有意に小さくなり、球状を維持して接着していることが推察された。また、微量の中間水を含有するPTHFAは、細胞接着頻度の点ではPMEAと同様の傾向を示したが、接着面の投影面積の点ではPET基板等よりも大きくなる傾向が見られ、接着した細胞が扁平化していることが推察された。上記の結果は、中間水を含有する基質においても、中間水の含有量に応じて細胞の接着形態が変化することを示すものである。
【実施例4】
【0082】
基質の違いによる細胞接着性や接着面の投影面積に相違を生じる機構を確認するため、各基質上においてインテグリン依存性接着の阻害処理の有無による、細胞接着性の変化を評価した。
【実施例4】
【0083】
(4.1)インテグリン依存性接着の阻害による細胞接着性の変化の評価
検討を行う支持体として、PBA、PTHFA、PMEA、PMe3A、PMe2A及びPMPCをそれぞれコーティングしたPET基板、及びFNをコーティングしたPET基板について、(2.2)節に記載の方法でプレコンディショニングを行ったものを使用した。
【実施例4】
【0084】
インテグリン依存性接着の阻害処理を行った群として、(2.1)節に記載の方法で継代培養したHepG2細胞の単離細胞について、インテグリン依存性接着を阻害するために、5mMのEDTAを添加したPBS(-)に懸濁し、37℃、10分間静置し、その後、5mMのEDTAを添加したDMEM/F12血清培地に懸濁した単離細胞を用いた。インテグリン依存性接着の阻害処理を行わない群として、(2.1)節に記載の方法で継代培養したHepG2細胞の単離細胞をDMEM/F12血清培地に懸濁した単離細胞を用いた。
【実施例4】
【0085】
上記プレコンディショニングを行った各基板を24穴の細胞培養プレートの各ウェルに設置し、上記により調製した2種の培地に懸濁した細胞をそれぞれ5.0×10個/cmの密度で播種した。1時間の培養を行った後、実施例2と同様の方法により播種した細胞の初期接着性の評価用サンプルを調製し、細胞接着性の評価を行った。
【実施例4】
【0086】
(4.2)結果
図3に各ポリマーでコーティングされたPET基板における初期接着細胞数を示す棒グラフを示す。横軸は、各基板にコーティングされたポリマー等の種類と、EDTAを添加したDMEM/F12血清培地(+)か、EDTAを添加しない通常のDMEM/F12血清培地(-)かの培養条件を表し、縦軸は各基板と初期接着をしたHepG2細胞の数(単位は、10個/cm)を表す。
【実施例4】
【0087】
図3に示されるとおり、中間水を含有するPMEA、PMe3A及びPMe2Aがコーティングされた基板では大きな割合で細胞が初期接着をすると共に、EDTAの添加の有無による初期接着細胞数に有意の変化を生じないことが示された。また、大きな割合で中間水を含有するPMPCがコーティングされた基板では、PMEA等と比較して初期接着細胞数が少ない一方で、EDTAの添加の有無による初期接着細胞数の有意の変化を生じないことが示された。これに対して、中間水を含有しないPBAや中間水の含有量が少ないPTHFAがコーティングされた基板ではEDTAの添加により初期接着細胞数が低下し、インテグリンによる細胞接着を生じると考えられるFNと同様の傾向が見られた。
【実施例4】
【0088】
FNをコーティングした基板での結果から明らかなように、インテグリンを介する細胞と基質との接着機構はEDTAにより阻害される。つまり、含有される中間水の量が比較的大きいPMEA、PMe3A、PMe2A及びPMPCをコーティングした基板においては、細胞の初期接着にはインテグリンを介する接着機構はあまり関与しないが、含有される中間水の量が比較的小さいPBA、PTHFAをコーティングした基板でインテグリンを介する接着機構が大きく関与することがわかった。
【実施例5】
【0089】
各種ポリマー等をコーティングしたPET基板を細胞培養用支持体として培養した際に、各種ポリマー等へのHepG2細胞の接着形態を観察するため、各種の蛍光抗体染色法を用いて細胞の接着形態を観察した。
【実施例5】
【0090】
(5.1)各種基質上へのHepG2細胞の固定
PMEA、PMe2A、PMe3A、PTHFA、PBAをコーティングしたPET基板、及びFNをコーティングしたPET基板、ポリマー等をコーティングしないPET基板について、接着細胞の形態を評価するサンプルを調製した。各基板を、(2.2)節に記載のプレコンディショニングを行った後、24穴の細胞培養プレートの各ウェルに設置し、(2.1)節に記載の方法で継代培養したHepG2細胞の単離細胞を1.0×10個/cmの密度で播種し、継代培養と同様の条件で培養を行った。培養時間は、1日とし、培養後に前記ウェルをPBS(-)1mLで2回洗浄して接着していない細胞を除いた。次に、あらかじめ恒温槽で37℃に加温した4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(和光純薬工業株式会社、カタログ番号163-20145)を前記ウェルに加えて、37℃で10分間静置して各基板上の細胞を固定した。
【実施例5】
【0091】
(5.2)細胞の1次抗体染色
上記で細胞が固定された前記細胞形態観察用サンプルに、PBS(-)で1.0%に希釈したTRITON(登録商標)X-100(株式会社エムピーバイオジャパン、MP Biomedicals、カタログ番号02194854)1mLを加え、10分間処理する操作を3回行うことにより、各基板に固定された細胞の膜透過性の亢進処理を行った。その後、PBS(-)で0.02%に希釈したTween(登録商標)20(株式会社エムピーバイオジャパン、MP Biomedicals、カタログ番号103168)1mLを用いて10分間の洗浄を3回行った後、パラフィルムを敷いた6穴細胞培養プレート(旭硝子株式会社、IWAKI、カタログ番号3810-006)に各基板を移し、免疫染色反応促進試薬(Can Get Signal(登録商標)immunostain Solution B、東洋紡績株式会社、カタログ番号NKB-601)を用いて500倍に希釈したマウス抗ビンキュリンモノクローナル抗体(クローン7F9、Merck MILLIPORE、カタログ番号MAB3574)からなる1次抗体溶液50μLを滴下して各基板上の細胞と反応させた。
【実施例5】
【0092】
1次抗体溶液を滴下した各基板を、飽和水蒸気雰囲気中で37℃、90分間インキュベーターの中で静置し、その後、1次抗体溶液を捨て、PBS(-)で0.02%に希釈したTween(登録商標)20からなる洗浄液100μLによる10分間の洗浄を3回行って、1次抗体染色を行った。
【実施例5】
【0093】
(5.3)細胞の2次抗体染色及び鏡検観察
以降の操作は蛍光試薬の退色を防ぐために遮光して行った。2次抗体染色に使用する混合蛍光試薬溶液として、Alexa Fluor(登録商標)546で蛍光標識されたヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体(ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、Molecular Probes、カタログ番号A-11004)と、Alexa Fluor(登録商標)488で蛍光標識されたファロイジン(ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、Molecular Probes、カタログ番号A12379)とを混合し、更に前記免疫染色反応促進試薬で1,000倍に希釈したものを使用した。(5.2)で1次抗体染色された細胞が固定された各基板に、前記混合蛍光試薬溶液をそれぞれ50μLずつ滴下し、飽和水蒸気雰囲気中で37℃、60分間インキュベーターの中で静置して反応させた後、混合蛍光試薬溶液を除き、Tween(登録商標)20洗浄液100μLによる10分間の洗浄を3回行った。洗浄後、さらにPBS(-)100μLによる10分間の洗浄を3回行い、細胞形態観察用サンプルとした。
【実施例5】
【0094】
2次抗体染色に使用したファロイジンは細胞に含まれるアクチン繊維を染色し、ヤギ抗マウスIgG2次抗体は1次抗体として使用した抗原ビンキュリンを染色するものである。
【実施例5】
【0095】
各細胞形態観察用サンプルを顕微鏡用ガラス製スライドに戴置し、カバーガラスに蛍光退色防止剤(ProLong(登録商標) Gold antifade reagent with DAPIライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、Molecular Probes、カタログ番号P-36931)を封入剤として1滴滴下して、前記ガラス製スライド上の基板を挟むように封入した。また封入剤に含有されるDAPI(4′,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩)により細胞中の核を染色した。封入後、カバーガラスの四隅をマニキュアで固定し、遮光下で終夜乾燥させ、共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社、カタログ番号FV1000)を用いて観察した。
【実施例5】
【0096】
(5.4)結果
図4a、図4b及び図4cは、それぞれ、各基質上に播種後1日培養して接着した細胞に対して上記で1次抗体染色し、更にDAPI染色と、Alexa Fluor(登録商標)488で蛍光標識されたファロイジン染色と、マウス抗ビンキュリン抗体及びAlexa Fluor(登録商標)546で蛍光標識されたヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体染色した細胞の蛍光顕微鏡写真である。図4a~cは、蛍光標識ファロイジン、DAPI等で染色した細胞では各染色物質によって発光波長が異なることを利用して、蛍光顕微鏡の光路にそれぞれの発光波長のみを透過するスペクトル特性のフィルターを順次挿入して各蛍光試薬に特異的な蛍光像を撮影したものである。また、各写真中の白抜き矢印は接着斑の位置を示す。
【実施例5】
【0097】
図4a、図4b及び図4cに示すとおり、実施例3でHepG2細胞が伸展して扁平な形態で接着した未処理のPET基板、FNをコーティングした基板及びPTHFAをコーティングした基板では、HepG2細胞にアクチン繊維やビンキュリンが大量に分布し、多数の接着斑で基質と接着することが示された。これに対し、中間水を有するPMEAをコーティングした基板に接着しているHepG2細胞には接着斑は認められなかった。
【実施例5】
【0098】
図5a、図5b及び図5cは、それぞれ、各基質上に播種後1日して接着した細胞に対して上記で1次抗体染色し、更にDAPI染色、Alexa Fluor(登録商標)488で蛍光標識されたファロイジン染色及びAlexa Fluor(登録商標)546で蛍光標識されたヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体染色によりそれぞれ2次抗体染色した細胞の蛍光顕微鏡写真である。図4a、図4b及び図4cと同様に、中間水量の少ないPBAやPTHFAでコーティングした基板、及び細胞接着性のタンパク質であるFNでコーティングした基板上に接着した細胞ではアクチン繊維及びビンキュリンが発達しているのに対し、十分な中間水量を有するPMEA、PMe3A及びPMe2Aでコーティングされた基板上では、アクチン繊維及びビンキュリンはあまり発達していなかった。
【実施例6】
【0099】
中間水を含有するポリマー等、各種の培養基質を用いて細胞培養をした際に、培養された細胞が示す機能の程度を評価するため、リアルタイムPCR法を用いて上記で継代培養されたHepG2細胞の単離細胞が示す肝機能の評価を行った。リアルタイムPCR法とは、PCRの増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法であり、電気泳動が不要で迅速性と定量性に優れている。段階希釈した既知量のDNAをスタンダードとしてPCRを行う。これをもとに、増幅が指数関数的に起こる領域で一定の増幅産物量になるサイクル数(threshold cycle;Ct値)を横軸に、初発のDNA量を縦軸にプロットし、検量線を作成する。未知濃度のサンプルについても、同じ条件下で反応を行い、Ct値を求める。この値と検量線から、サンプル中の目的のDNA量を測定する。ここで、測定対象の遺伝子と対照実験の遺伝子との発現量の相対値が必要な場合には、検量線を作成せずに、Ct値の差(ΔCt)を算出し、測定対象の遺伝子と対照実験の遺伝子とにおけるΔCtの差(ΔΔCt)から遺伝子発現の量比を計算する。対照実験の遺伝子としては、多くの組織や細胞中に共通して一定量発現する遺伝子である、細胞の維持,増殖に不可欠な遺伝子が用いられる。本実施例ではGAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ)が対照実験の遺伝子として用いられる。通常、リアルタイムPCRのモニターは蛍光試薬を用いて行う。本実施例で用いるTaqManプローブ法では、5′末端を蛍光物質で、3′末端をクエンチャー物質で修飾したオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)をPCR反応系に加える。TaqManプローブは、アニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。伸長反応ステップのときに、Taq DNA ポリメラーゼのもつ5′→3′エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型にハイブリダイズしたTaqMan(登録商標)プローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる抑制が解除されて蛍光が発せられる。
【実施例6】
【0100】
(6.1)各種基質上で培養されたHepG2細胞からのRNA抽出
PMEA及びPTHFAをキャストコーティングした直径6cmの付着性細胞用表面処理済ポリスチレンディッシュ(TCPS)(IWAKI、3010-060)と、比較のためにコーティングしない付着性細胞用表面処理済ポリスチレンディッシュとを用いた。キャストコーティングは、0.2wt/v%の各ポリマー溶液を34.9μL/cmとなるよう滴下し、室温で1週間静置する条件で行った。各基質を(2.2)節に記載のプレコンディショニングを行った後、(2.1)節に記載の方法で継代培養したHepG2細胞の単離細胞を1.0×10個/cmの密度で播種し、1、2又は4日間、それぞれ培養した。その後、培地を捨て、PBS(-)で洗浄したのちSepasol(登録商標)RNA I Super(ナカライテスク株式会社)を1 mL滴下することで培養細胞を回収した。回収した細胞溶液にクロロホルム200μLを加え、12、000×g、15分の条件で遠心分離を行い、RNAの含まれる水相とフェノール相とに分離した。分離した溶液から水相のみを取り出し、イソプロパノール(和光純薬工業株式会社、カタログ番号325-00045)を500μL加えた後に12000×gで10分間遠心分離することでRNAを沈殿させた。上清を捨て、残ったRNAに75v/v%のエタノール(和光純薬工業株式会社、カタログ番号057-00456)を1 mL滴下することで洗浄した。12000×gで5分間遠心分離したのち、エタノールを捨て、10μLのDEPC処理水(ナカライテスク株式会社、カタログ番号36415-41)にRNAを溶解させることで、細胞からRNAを抽出した。
【実施例6】
【0101】
(6.2)cDNA合成
DEPC処理水99μLに抽出したRNA溶液1μLを加えて100倍希釈サンプルを調製した。その溶液の紫外可視分光光度計(日本分光株式会社、カタログ番号V-630BIO)を用いて、260、280及び320nmの波長の吸光度を測定し、260nmの波長の吸光度をもとにRNAの濃度を計算した。RNAの濃度から、次に行う逆転写反応に必要なRNA量を計算し、テンプレートとなるRNAを1μg用いて、ランダムヘキサマーをプライマーとした逆転写キット(ReverTra Ace-α-(登録商標)、東洋紡株式会社、カタログ番号FSK-101)と混合した。RNAと前記逆転写キットとの混合溶液をサーマルサイクラー(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社、T100(商標)、カタログ番号186-1096J1)にセットし、逆転写反応を行うことによって、サンプルのcDNAを合成した。
【実施例6】
【0102】
(6.3)各種基質上で培養されたHepG2細胞における肝機能マーカー遺伝子の発現量の測定
サンプルのcDNA1μLに滅菌した純水19μLを加えて、サンプルを20倍に希釈して20倍サンプルとした。肝機能評価のために、肝機能マーカーであるアルブミン及びHNF4αのリアルタイムPCR用プライマー(TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays、ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、カタログ番号4331182)を使用した。
【実施例6】
【0103】
リアルタイムPCR用96穴プレート(96 well Hi-Plate for Real Time、タカラバイオ株式会社、カタログ番号NJ400)において、それぞれウェル当たり、20倍サンプルを1μL、滅菌純水を10.25μL、Premix Ex Taq(商標)を12.5μL、プライマーを1.25μLとなるように加えてサンプル溶液を調製した。
調製されたサンプル溶液をSealing Film for Real Time(タカラバイオ株式会社、カタログ番号NJ500)を用いて封止し、遠心分離によってスピンダウンした。スピンダウンされた各サンプル溶液について、Thermal Cycler Dice(登録商標)Real Time System II(タカラバイオ株式会社、カタログ番号TP900)を用いてリアルタイムPCRを行い、細胞培養に使用した各基質間での肝機能マーカーの発現量をΔCt法により評価した。上記プライマーはAlb(アルブミン):Hs00910225_m1、HNF4α:Hs00230853_m1、GAPDH:Hs02758991(すべてライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、Applied Biosystems)を用いた。アルブミン又はHNF4αの発現量は、それぞれの肝機能マーカーの発現量の測定値をハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現量の測定値で除算した相対値で表された。
【実施例6】
【0104】
(6.4)結果
図6は、それぞれ、付着性細胞用表面処理済ポリスチレンディッシュ(TCPS)、PMEAをコーティングした基板、及びPTHFAをコーティングした基板上でそれぞれ1、2又は4日間培養されたHepG2細胞において、上記方法で求められた遺伝子アルブミン(図6a)及びHNF4A(図6b)の発現量をハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現量との相対値で表した棒グラフである。図6a及び図6bからわかるとおり、アルブミン発現量、HNF4A発現量のいずれについても、十分な中間水を含有するPMEAをコーティングした基板上において、中間水の含有量が一定以下である他の基板上におけるよりも発現量が高かった。
【実施例6】
【0105】
実施例3~5において示されるように、十分な中間水を含有するPMEA等をコーティングした基板においては球状の形態を維持したままで細胞接着を生じることから、良好に細胞培養が進展することが推測されるが、本実施例の結果はその推測を裏付けるものである。つまり、中間水の含有量が十分でなく、細胞が複数の接着斑を生じて扁平な形態での接着を生じるPTHFAにおいては培養された細胞が発現する機能がPMEA等に対して有意に低いことから、十分な量の中間水を含有するポリマー等を使用することで、細胞の接着形態の変化等を介して良好な細胞培養が可能になると考えられる。
【実施例7】
【0106】
上記で評価を行った各基質における血小板の吸着性の評価を行った。
【実施例7】
【0107】
(7.1)評価方法
PBA、PTHFA、PMEA、PMe3A、PMe2A及びPMPCをそれぞれコーティングしたPET基板と、ポリマー等をコーティングしないPET基板とをサンプルとして、(2.2)節のとおりにプレコンディショニングを行った後、クエン酸ナトリウムで抗凝固したヒト新鮮多血小板血漿をサンプル表面に37℃、60分間接触させた後、リン酸緩衝溶液でリンスし、グルタールアルデヒドで固定した。その後、サンプル表面の1×10μmの範囲に吸着した血小板数を電子顕微鏡で観察した。
【実施例7】
【0108】
(7.2)結果
各サンプル表面に吸着した血小板数を、ポリマー等をコーティングしないPET基板に吸着した血小板数を1とする相対値で表した結果を図7に示す。なお、図7においては、横軸上の左から中間水の量が少ない順に、最も中間水の量が多いPMPCが右端となるように評価を行ったサンプルの結果を並べた。
【実施例7】
【0109】
従来から知られるとおり、PTHFAを含めて実質的に中間水を含有可能な水和性組成物においては、血小板の吸着の程度が低いことが図7からも明らかである。
したがって、本願に係る培養用支持体は、細胞が接着してその臓器特異的機能を良好に発現すると共に、血小板はわずかしか吸着しないという特徴を有することにより患者等の血液に直接曝露される状態でも血小板の吸着を抑制して良好な細胞培養を行うことが可能である。
【実施例8】
【0110】
評価対象として3T3-L1細胞を使用して、各基質上においてインテグリン依存性接着の阻害処理の有無による、細胞接着性の変化を評価した。3T3-L1細胞はマウス胎仔由来の3T3線維芽細胞株より分離されたもので、特定の条件下で培養することにより脂肪細胞に分化し、細胞内に油滴を蓄積するといった特徴から、間葉系幹細胞である脂肪前駆細胞のモデルとして脂肪細胞分化の研究に汎用されている細胞である。
【実施例8】
【0111】
(8.1)3T3-L1細胞の継代培養
以下の各評価においては、以下の方法で継代培養した3T3-L1細胞の単離細胞を使用した。3T3-L1細胞はヒューマンサイエンス振興財団 ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入したものを使用した。
3T3-L1細胞の培養には、(2.1)に記載したDMEM/F12血清培地を用いて、直径10cmの付着性細胞用表面処理済ポリスチレンディッシュに1.0×10個/cmの密度で細胞を播種し、COインキュベーター内で37℃、5% CO、湿度95%以上の条件下で培養を行った。培地交換は3日毎に行った。播種してから約5日後にディッシュ上の細胞の密度が約70%になると、0.25%のトリプシン-EDTA液を用いて細胞をポリスチレンディッシュから剥離し、その後、新たな細胞培養用ポリスチレンディッシュに播種密度1.0×10個/cmとなるようDMEM/F12血清培地を用いて細胞を播種し、再びインキュベーター内に戻し、継代培養を行った。
【実施例8】
【0112】
(8.2)インテグリン依存性接着の阻害による細胞接着性の変化の評価
検討を行う支持体として、PTHFA、PMEA、PMe2A及びPMe3AをコーティングしたPET基板と、ポリマー等をコーティングしない付着性細胞用表面処理済ポリスチレンディッシュ(TCPS)を使用して、インテグリン依存性接着の阻害による細胞接着性の変化を評価した。
インテグリン依存性接着の阻害処理を行った3T3-L1細胞の群として、(8.1)節に記載の方法で継代培養した3T3-L1細胞の単離細胞を、インテグリン依存性接着を阻害するために5mMのEDTAを添加したDMEM/F12血清培地に懸濁して37℃、10分間静置したものを使用した。一方、インテグリン依存性接着の阻害処理を行わない3T3-L1細胞の群として、(8.1)節に記載の方法で継代培養した3T3-L1細胞の単離細胞を、EDTAを添加しないDMEM/F12血清培地に懸濁し、同様に37℃、10分間静置したものを使用した。
(2.2)節に記載の方法でプレコンディショニングを行った各支持体を24穴の細胞培養プレートの各ウェルに設置し、上記により調製した2種の培地に懸濁した3T3-L1細胞をそれぞれ1.0×10個/cmの密度で播種した。継代培養と同様の条件下で1時間の培養を行った後、PBSで2回洗浄することによって接着していない細胞を除いた。その後、PBSで0.1%に希釈したグルタールアルデヒド溶液500μLを加え、室温で終夜静置することによって接着している細胞を固定した。固定後に、PBSで1回洗浄し、0.2%クリスタルバイオレット溶液500μLを加え、37℃、10分間静置して細胞を染色し、その後にmilli Q水で2回洗浄して余分なクリスタルバイオレット溶液を除去して室温下で乾燥させ、細胞の初期接着性の評価用サンプルを調製した。
初期接着性の評価は、倍率100倍の写真を上記で作製したサンプル基板1枚当たり3視野ずつランダムに選び撮影した。撮影した写真内の接着細胞数を数え、サンプル全体における接着細胞数に換算することで各基板おける初期接着細胞数とした。
【実施例8】
【0113】
(8.3)結果
図8に各ポリマーでコーティングされたPET基板、及びTCPSにおける初期接着細胞数を示す棒グラフを示す。横軸は、各基板にコーティングされたポリマー等の種類と、EDTAを添加したDMEM/F12血清培地(+)か、EDTAを添加しない通常のDMEM/F12血清培地(-)かの培養条件を表し、縦軸は各基板と初期接着をした3T3-L1細胞の数(単位は、10個/cm)を表す。
図8に示されるとおり、中間水を含有しないTCPSや、少量の中間水を含有するPTHFAがコーティングされた基板においては、インテグリン依存性接着の阻害処理を行った場合に3T3-L1細胞の初期接着数が大きく低下するのに対して、所定以上の割合で中間水を含有するPMEA、PMe3A、PMe2A及びPMPCがコーティングされた基板では、インテグリン依存性接着の阻害処理によっては3T3-L1細胞の初期接着数に有意な変化を生じないことが示された。
この結果は、HepG2細胞に対してインテグリン依存性接着の阻害処理を行った際の傾向(図3)とも一致し、含有される中間水の量が比較的大きいPMEA、PMe3A、PMe2A及びPMPCをコーティングした基板においては、細胞の初期接着にはインテグリンを介する接着機構はあまり関与しないが、含有される中間水の量が所定以下である基質ではインテグリンを介する接着機構が大きく関与することを示すものである。
【実施例9】
【0114】
各種ポリマー等をコーティングしたPET基板を細胞培養用支持体として培養した際に、各種ポリマー等への3T3-L1細胞の接着形態を観察するため、各種の蛍光染色法、蛍光抗体染色法を用いて細胞の接着形態を観察した。
【実施例9】
【0115】
(9.1)各種基質上への3T3-L1細胞の固定、及び鏡検観察
PTHFA、PMEA、PMe2A及びPMe3AをコーティングしたPET基板と、ポリマー等をコーティングしないTCPSとについて、接着細胞の形態を評価するサンプルを調製した。各基板を、(2.2)節に記載のプレコンディショニングを行った後、24穴の細胞培養プレートのウェルに設置し、(8.1)節で継代培養した3T3-L1細胞を1.0×10個/cmの密度で播種し、継代培養と同様の条件で1時間及び1日間培養を行った。培養後、1mLのPBSで2回洗浄することによって接着していない細胞を除いた。次に、あらかじめ恒温槽で37℃に加温した4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を前記ウェルに加えて、37℃で10分間静置して各基板上の細胞を固定した。
上記により各基板上に固定した3T3-L1細胞を、(5.2)~(5.3)節に記載の方法で1次抗体染色、2次抗体染色を行って共焦点レーザー顕微鏡により観察した。
【実施例9】
【0116】
(9.2)結果
図9a、図9b及び図9cは各基質上に播種後1時間培養して接着した細胞に対し、また図10a、図10b及び図10cは各基質上に播種後1日培養して接着した細胞に対して、上記で1次抗体染色し、更にDAPI染色と、Alexa Fluor(登録商標)488で蛍光標識されたファロイジン染色と、マウス抗ビンキュリン抗体及びAlexa Fluor(登録商標)546で蛍光標識されたヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体染色した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図9a~cに示されるとおり、1時間の培養後においても、中間水を含有しないTCPSや、少量の中間水を含有するPTHFAがコーティングされた基板においては、既に細胞の扁平化を生じると共に明確な接着斑が観察される一方で、所定以上の割合で中間水を含有するPMEA、PMe3A及びPMe2Aがコーティングされた基板においてはいずれも球状の形態が維持されることが観察された。また、図10a~cに示されるとおり、1日の培養を行った後においては、TCPSや、PTHFAがコーティングされた基板では、細胞が多数の接着斑を生じると共に接着面積が大きく拡張するのに対して、PMEA等がコーティングされた基板においては接着面積の拡張ほとんど観察されず、明確な接着斑の生成も観察されなかった。
図9,10に示される結果は、HepG2細胞(図4,5)の細胞接着の様子と同様の傾向であり、所定以上の割合で中間水を含有する基質上に接着した3T3-L1細胞においても、球状の形態が維持されることが示された。
【実施例10】
【0117】
3T3-L1細胞は、特定の条件下で培養することにより脂肪細胞に分化する脂肪前駆細胞である。血清培地中での細胞培養においては、一般に血清に含有されるフィブロネクチンが基質上に付着し、このフィブロネクチンに対して培養される細胞のインテグリンがレセプターとなることで細胞接着を生じることが知られている(F Grinnell et al., J Biol Chem, 257, pp4888-4893, 1982)。3T3-L1細胞においては、このようなフィブロネクチンとインテグリンとの相互作用を生じた場合に脂肪細胞への分化が抑制されることが知られている(BM Spiegelman et al., Cell, 35, pp657-666, 1983)。このため、本発明に係る細胞培養用支持体上で、インテグリンに依存せずに基質に接着することにより、脂肪分化が促進されることが期待される。
本実施例では、PTHFA、PMEA、PMe3A、PMe2AをコーティングしたPET基板、及び、処理を行わない付着性細胞用表面処理済ポリスチレンディッシュ(TCPS)(IWAKI、3010-060)の各種基質上で培養した3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化の程度について評価を行った。
【実施例10】
【0118】
(10.1)各種支持体の作成
PTHFA、PMEA、PMe3A、PMe2Aを基質とする支持体は、上記PETフィルムから直径5cmの円形に切り取り、メタノール(関東化学株式会社)に浸漬して洗浄を行ったものを基材として、以下の方法で(1.2)節に記載した各種のポリマーをコーティングして用いた。
PMEA、PMe2A及びPMe3Aはメタノールを溶媒とし、PTHFAはメタノール/クロロホルム(5:1)混合溶媒を溶媒として、それぞれ1.0wt%となるように溶解してポリマー溶液とした。ポリマーのコーティングは、スピンコーターに上記円形のPETフィルムを乗せ、作製したポリマー溶液を244 μl滴下し、200 rpm (10 s)→500 rpm (7 s)→1000 rpm (7 s)→2000 rpm (5 s)→2000 rpmから4000 rpmの5秒間の回転スロープ→4000 rpm (10 s)→4000 rpmから0 rpmの4秒間の回転スロープの条件にてスピンコーティングを行った。1回コーティングされた基板を静置、乾燥させ、同様の手順で2回目のコーティングを行ったものを支持体として、以下の評価で使用した。
【実施例10】
【0119】
(10.2)3T3-L1細胞の培養
(2.2)節に記載の方法でプレコンディショニングを行った上記の各支持体に、(8.1)節に記載の方法で継代培養した3T3-L1細胞をそれぞれ1.0×10個/cmの密度で播種し、DMEM/F12血清培地にDexamethasone :100 μM (SIGMA ALDRICH, St Louis,D4902)、3-isobutyl 1-methylxanthine:2.5 mM (SIGMA ALDRICH, I5879)、ウシ膵臓由来のインスリン溶液:10 μg/ml (SIGMA ALDRICH, I0516)をそれぞれ混合したものを脂肪細胞分化誘導培地として加えて4日間培養した。培地交換は培養2日目に行い、培地の半量を新たな脂肪細胞分化誘導培地に交換した。
【実施例10】
【0120】
(10.3)各種基質上で培養された3T3-L1細胞における脂肪分化マーカー遺伝子の発現量の測定
各基質上において上記の条件下で培養された3T3-L1細胞の単離細胞が示す脂肪分化マーカー遺伝子の発現量の評価を行った。上記で4日間培養した後、培地を捨て、(6.1)節に記載の方法で細胞からRNAを抽出した。抽出したRNA溶液についてNanoDrop 2000c(Thermo Scientific社)を用いて、260、280nmの波長の吸光度を測定し、260nmの波長の吸光度をもとにRNAの濃度を計算した。当該RNAの濃度に基づいて、(6.2)節に記載の方法でサンプルのcDNAを合成した。
サンプルのcDNA1μLに滅菌した純水19μLを加えて、サンプルを20倍に希釈して20倍サンプルとした。脂肪分化マーカーの発現量評価のために、脂肪分化マーカーであるFatty acid synthase及びFatty acid binding protein 4のリアルタイムPCR用プライマー(TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays、ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、カタログ番号4331182)を使用した。
リアルタイムPCR用96穴プレート(タカラバイオ株式会社、カタログ番号NJ400)において、それぞれウェル当たり、それぞれ20倍サンプルを1μL、滅菌純水を10.25μL、Premix Ex Taq(商標)を12.5μL、上記プライマーを1.25μLとなるように加えてサンプル溶液を調製した。調製されたサンプル溶液をSealing Film for Real Time(タカラバイオ株式会社、カタログ番号NJ500)を用いて封止し、遠心分離によってスピンダウンした。スピンダウンされた各サンプル溶液について、Thermal Cycler Dice(登録商標)Real Time System II(タカラバイオ株式会社、カタログ番号TP900)を用いてリアルタイムPCRを行い、細胞培養に使用した各基質間での脂肪分化マーカーの発現量をΔCt法により評価した。プライマーはFasn(Fatty acid synthase):Mm00662319_m1、Fabp4 (Fatty acid binding protein 4):Mm00662319_m1、Gapdh:Mm99999915_g1(すべてライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社、Applied Biosystems)を用いた。Fasn又はFabp4の発現量は、それぞれの脂肪分化マーカーの発現量の測定値をハウスキーピング遺伝子であるGapdhの発現量の測定値で除算した相対値で表された。
【実施例10】
【0121】
(10.4)結果
図11a,bに、上記で測定された各培養基質において培養した3T3-L1細胞におけるFasn、Fabp4の発現量を、TCPS上での発現量を基準として示す。なお、図11においては、中間水を含有しないTCPSを左端として、中間水の含有量の順で各ポリマーを配置した。
図11に示されるとおり、基質に含有される中間水量が増加するに伴って、3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化が促進されることが示された。このような結果は、基質における中間水の含有量の増加に伴ってインテグリンを介した細胞接着の程度が低下するなどにより、基質が培養される細胞に与える刺激が変化することに起因するものであると推察され、本発明に係る細胞培養用の支持体は、その目的に応じて幹細胞の分化を促進・抑制等の目的で使用することが可能であることを示すものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4a】
3
【図4b】
4
【図4c】
5
【図5a】
6
【図5b】
7
【図5c】
8
【図6a】
9
【図6b】
10
【図7】
11
【図8】
12
【図9a】
13
【図9b】
14
【図9c】
15
【図10a】
16
【図10b】
17
【図10c】
18
【図11a】
19
【図11b】
20