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明細書 :有機物センシング用発光材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-065113 (P2016-065113A)
公開日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発明の名称または考案の名称 有機物センシング用発光材料
国際特許分類 C09K  11/06        (2006.01)
C08K   3/34        (2006.01)
C08L  33/02        (2006.01)
C09K  11/00        (2006.01)
FI C09K 11/06
C08K 3/34
C08L 33/02
C09K 11/00 Z
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2014-192990 (P2014-192990)
出願日 平成26年9月22日(2014.9.22)
発明者または考案者 【氏名】川俣 純
【氏名】鈴木 康孝
【氏名】富永 亮
【氏名】持田 修平
【氏名】笠谷 和男
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100093687、【弁理士】、【氏名又は名称】富崎 元成
【識別番号】100106770、【弁理士】、【氏名又は名称】円城寺 貞夫
【識別番号】100139789、【弁理士】、【氏名又は名称】町田 光信
審査請求 未請求
テーマコード 4H001
4J002
Fターム 4H001CA01
4H001CA02
4J002BG011
4J002DJ006
4J002DJ056
4J002EU047
4J002FA016
4J002FB086
4J002FD207
4J002GT00
要約 【課題】目視によりはっきりと蛍光色の変化を確認することができる有機物センシング用発光材料の提供。
【解決手段】有機物センシング用発光材料は粘土化合物の微粒子の層間に有機化合物の蛍光化合物を取り入れるものであり、有機溶媒の添加により外部刺激に応答して、蛍光化合物はエキシマーを形成し励起複合体とし、蛍光色を変化させ、よって、蛍光波長が数十ナノメートル以上にシフトし、目視によりはっきりと蛍光色の変化を確認することができる有機物センシング用発光材料。これを、撮影手段を用いて、撮影し判別することができるようになった。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
有機物をセンシングするための材料である有機物センシング用発光材料において、
スメクタイト系粘土鉱物に由来する化合物の微粒子の層からなる層状化合物と、
複数の前記層の間に挟まれたもので、カチオン数が一つ又は二つの1種類以上の有機化合物からなる棒状の蛍光化合物とからなり、
有機溶媒の添加による外部刺激に応答して、前記蛍光化合物はエキシマーを形成し励起複合体とし、前記蛍光化合物の蛍光色を変化させる
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
【請求項2】
請求項1において、
前記有機溶媒を除去して前記外部刺激を取り除くことで、前記蛍光化合物はモノマー由来の蛍光を発する
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記スメクタイト系粘土鉱物は、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティーブンサイト、モンモリロナイト及びバイデライトの群から選択される1以上の鉱物である
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記有機溶媒は、DMSO,DMF,アセトン、及び、アセトニトリルからなる群から選択される1以上の有機化合物を含有する溶媒である
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記蛍光化合物の粒子の大きさは、前記粘土鉱物の粒子の大きさより小さい
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
【請求項6】
請求項5において、
前記蛍光化合物の粒子の大きさは、0.5nm以上である
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
【請求項7】
請求項5において、
前記粘土化合物の粒子の大きさは、長軸方向で20nm以上100nm以下である
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
【請求項8】
請求項1又は2において、
前記有機物センシング用発光材料は、前記有機化合物を分散させた高分子バインダーを更に有し、前記高分子バインダーは前記複数の前記層の間に挟まれたものである
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
【請求項9】
請求項8において、
前記ポリマーバインダは、ポリアクリル酸ナトリウムが含まれた系である
ことを特徴とする有機物センシング用発光材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒をセンシングするためのセンシング用発光材料に関する。詳しくは、有機物を含有する溶媒をセンシングした蛍光色の変化を目視できるセンシング用発光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
溶剤の内、水に溶けない物質を溶かす性質を持つ有機化合物は有機溶媒(又は有機溶剤)と呼ばれる。例えば、有機溶媒として、エタノール、ベンゼン、アセトン、ヘキサン等の有機物を例示することができる。有機溶媒は、環境に悪影響を与える物質として知られている。しかし、化学工業において、有機溶媒は切っても切れない存在である。従って、化学工業、特に製造業、その廃棄物処理において、有機溶媒を適切に処理し、環境への影響を低減させることが重要である。
【0003】
有機溶媒の分子をセンシングする材料は、非常にたくさんの種類があるが、その中でも、粘土鉱物と有機分子からなるハイブリッドセンシング材料は、地球上にありふれた物質から構築できることから、地球環境に優しい材料の一つであると考えられる。例えば、粘土化合物と有機物からなるハイブリッド材料は、圧力等のセンシングに利用されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
特許文献1は、粘土鉱物の微粒子の層の間に、蛍光化合物とバインダーを充填した圧力感知材料の発明である。この圧力感知材料は、圧力センシング時に、非常に大きな蛍光色の変化が生じるため、より容易にセンシングが可能である。また、これまでの粘土化合物と有機物からなるハイブリッドセンシング材料は、既存のレーザー色素と粘土鉱物を組み合わせたものに限られており、色調の変化に乏しいものがほとんどである(例えば、非特許文献1)。
【0005】
また、色調の変化が大きいセンシング材料は、中に含まれる化合物に結合の解離が伴うプロセスで分子自身の形が変化するものであった。そのため、これまでの色調の変化が大きなセンシング材料は、耐久性に問題があった(例えば、非特許文献2~4)。このようなハイブリッド材料の中の有機化合物は、溶液の中に存在するより、高密度な状態をとることができる。そのため、粘土化合物の層間に取り込まれた有機化合物はエキシマーを形成することも知られている(例えば、非特許文献5を参照。)。
【0006】
エキシマーは、励起分子と基底分子の作る分子化合物(励起錯体とも言う。)である。励起状態の分子は、蛍光を放ってそれぞれの基底分子を再生する。又は、励起状態の分子は化学反応により基底状態になる。エキシマーが発光する波長帯域は、モノマーが発光する波長帯域よりも長波長側に観測され、エキシマーとモノマーとで蛍光極大波長(蛍光ピーク波長)が100nm以上シフトすることもある。この現象をセンシングに利用することが知られている。
【0007】
例えば,キヌレン酸は、溶液中では通常モノマーとしての発光を示すが、カドミウムイオンが存在するとカドミウムイオンの周りに集積しエキシマー発光を生じ、カドミウムイオンをセンシングすることができる(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特願2013-185648
【0009】

【非特許文献1】R.Sasai, N.Iyi, H.Kusumoto, Bull. Chem. Soc. Jpn. 84 (2011) 562.
【非特許文献2】D.A.Davis, A.Hamilton, J.Yang, L.D.Cremar, D.V.Gough, S.L.Potisek, M.T.Ong, P.V.Braun, T.J.Martinez, S.R.White, J.S.Moore, N.R.Scottos, Nature, 459 (2009) 68.
【非特許文献3】T.Suzuki, J.Nishida, T.Tsuji, Angew. Chcem. Int. Ed., 36 (1997) 1329.
【非特許文献4】F.Iwahori, S.Hatano, J.Abe, J.Phys. Org.Chem., 20 (2007) 857.
【非特許文献5】A.P.P.Cione, J.C.Scaiano, M.G.Neumann, F.Gessner, J.Photochem. Photobiol. A, 1998, 118, 205-209.
【非特許文献6】A.Samanta, N.Guchhait, S.C.Bhattacharya, Chem. Phys. Lett., 612 (2014) 251.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の非特許文献1に記載のハイブリッドセンシング材料は、無機ナノシートと蛍光色素とアルキルアンモニウムの三つの成分を組み合わせた化合物で、蛍光の強弱により湿度をセンシング可能であるが、蛍光強度の変化を用いて湿度をセンシングしているため、カメラ等を用いる間接的な観察方法では、湿度の変化を判別することが難しいことが予測される。
【0011】
また、有機溶媒は、一般的に、常温常圧で透明な液体状態であるため、その存在を目視で評価することが困難である。そこで、有機溶媒を目視でセンシングできる技術が求められている。更に、特許文献1に記載の粘土-ポリマー-有機色素の三元系からなる圧力検知材料では、センシングには分子変形の違いによる蛍光色の変化をセンシングに利用しており、蛍光スペクトルの形が少し変化する程度であり、大きな蛍光色の変化が見られないという欠点がある。
【0012】
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記の目的を達成する。
本発明の目的は、有機溶媒をセンシングする有機物センシング用発光材料を提供する。
本発明の他の目的は、蛍光色が大きく変化する有機物センシング用発光材料を提供する。
本発明の更に他の目的は、目視によりはっきりと蛍光色の変化を確認することができる有機物センシング用発光材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明の発明1の有機物センシング用発光材料は、有機物をセンシングするための材料である有機物センシング用発光材料において、スメクタイト系粘土鉱物に由来する化合物の微粒子の層からなる層状化合物と、複数の前記層の間に挟まれたもので、カチオン数が一つ又は二つの1種類以上の有機化合物からなる棒状の蛍光化合物とからなり、有機溶媒の添加による外部刺激に応答して、前記蛍光化合物はエキシマーを形成し励起複合体とし、前記蛍光化合物の蛍光色を変化させることを特徴とする。
【0014】
本発明の発明2の有機物センシング用発光材料は、発明1において、前記有機溶媒を除去して前記外部刺激を取り除くことで、前記蛍光化合物はモノマー由来の蛍光を発することを特徴とする。
本発明の発明3の有機物センシング用発光材料は、発明1又は2において、前記スメクタイト系粘土鉱物は、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティーブンサイト、モンモリロナイト及びバイデライトの群から選択される1以上の鉱物であることを特徴とする。
【0015】
本発明の発明4の有機物センシング用発光材料は、発明1又は2において、前記有機溶媒は、DMSO(Dimethylsulfoxide),DMF(Dimethylformamide),アセトン、及び、アセトニトリルからなる群から選択される1以上の有機化合物を含有する溶媒であることを特徴とする。
本発明の発明5の有機物センシング用発光材料は、発明1又は2において、前記蛍光化合物の粒子の大きさは、前記粘土鉱物の粒子の大きさより小さいことを特徴とする。
【0016】
本発明の発明6の有機物センシング用発光材料は、発明5において、前記蛍光化合物の粒子の大きさは、0.5nm以上であることを特徴とする。
本発明の発明7の有機物センシング用発光材料は、発明5において、前記粘土化合物の粒子の大きさは、長軸方向で20nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明の発明8の有機物センシング用発光材料は、発明1又は2において、前記有機物センシング用発光材料は、前記有機化合物を分散させた高分子バインダーを更に有し、前記高分子バインダーは前記複数の前記層の間に挟まれたものであることを特徴とする。
本発明の発明9の有機物センシング用発光材料は、発明8において、前記ポリマーバインダは、ポリアクリル酸ナトリウムが含まれた系であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、次の効果が奏される。
本発明の有機物センシング用発光材料によると、有機溶媒によって刺激を与えると、数十ナノメートル以上に蛍光波長がシフトし、目視によりはっきりと蛍光色の変化を確認することができるようになった。
また、本発明の有機物センシング用発光材料によると、蛍光色の変化で有機物をセンシングすることができるため、カメラ等の撮影手段を用いたセンシングも容易に行うことが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施例のSSA-mono-Bzのハイブリッド膜の測定結果を示す図で、図1(a)は、SSA-mono-Bzのハイブリッド膜が発する蛍光スペクトルと、ハイブリッド膜にDMSOを塗布した後の蛍光スペクトルを示すグラフであり、図1(b)は、ハイブリッド膜にDMSOの塗布する前後の発光様子を示す画像である。
【図2】図2は、本発明の実施例のSSA-DiBzのハイブリッド膜の測定結果を示す図で、図2(a)は、SSA-DiBzのハイブリッド膜が発する蛍光スペクトルと、ハイブリッド膜にDMSOを塗布した後の蛍光スペクトルを示すグラフであり、図2(b)は、ハイブリッド膜にDMSOの塗布する前後の発光様子を示す画像である。
【図3】図3は、本発明の実施例のSSA-NPのハイブリッド膜の測定結果を示す図で、図3(a)は、NPのハイブリッド膜が発する蛍光スペクトルと、ハイブリッド膜にDMSOを塗布した後の蛍光スペクトルを示すグラフであり、図3(b)は、ハイブリッド膜にDMSOの塗布する前後の発光様子を示す画像である。
【図4】図4は、本発明の実施例のSSA-ACのハイブリッド膜の測定結果を示す図で、図4(a)は、NPのハイブリッド膜が発する蛍光スペクトルと、ハイブリッド膜にDMSOを塗布した後の蛍光スペクトルを示すグラフであり、図4(b)は、ハイブリッド膜にDMSOの塗布する前後の発光様子を示す画像である。
【図5】図5は、ハイブリッド膜に複数の種類の有機溶媒を外部刺激として利用し、蛍光色の変化確認した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の有機物センシング用発光材料は、粘土化合物と有機化合物からなるハイブリッド材料であり、エキシマーの有無を利用して発光色が変化するものである。この有機化合物は蛍光化合物と言うこともできる。本発明の有機物センシング用発光材料は、有機溶媒等の外部からの刺激によって、その蛍光色を変化させる。従って、本発明の有機物センシング用発光材料は、有機物、有機溶媒等をセンシングすることができる。本発明の有機物センシング用発光材料は、粘土鉱物の粘土層間で有機化合物を備える。この有機化合物は、細長いπ-電子系をもつ有機化合物であり、エキシマーを形成する。

【0021】
本発明の有機物センシング用発光材料は、有機溶媒の添加、その除去に伴ってエキシマーを形成する。粘土層間に取り込まれた有機化合物がおかれた環境は、有機溶媒の添加および除去、そしてそれにともなう粘土の膨潤と乾燥という外部刺激により、可逆的に変化させられる。有機溶媒による粘土の膨潤と乾燥という外部刺激により、エキシマーの形成とその基底状態生成を繰り返す。このようにエキシマー形成の有無を制御するとエキシマーの蛍光色が変化する。言い換えると、有機溶媒の有無等の外部刺激により、エキシマーの蛍光色が大きく変化する。

【0022】
粘土鉱物は、一般的に、ケイ素とアルミニウムの酸化物からなる無機層状化合物の一種であり、以下、粘土化合物という。粘土化合物は、その表面に負電荷を帯びており、その負電荷を補償するために、粘土鉱物の層と層の間にナトリウムやカルシウム等の金属カチオン(金属陽イオン)を有する。このカチオンは、他のカチオン性の分子と容易に交換できる。言い換えると、粘土化合物はカチオン性分子を、層間の表面に吸着することができる。

【0023】
カチオン性有機物が、粘土鉱物の層間へと取り込まれる場合、元々層間に存在する金属陽イオンが有機分子のカチオンと入れ替わる。そのため、粘土層間に入れることができるカチオン性有機化合物の量は、粘土にどれだけ陽イオンが含まれるかで決まる。すなわち、粘土鉱物の負電荷の量によって、取り込まれる有機物の上限が決まっている。粘土が有する交換できる陽イオンの数は、陽イオン交換容量(CEC)と呼ばれる。以下、このCECに対して有機物のカチオンを交換した量をCEC比という。

【0024】
有機カチオンが層間に取り込まれる上限はCEC比が100%、すなわち全ての交換性陽イオンが有機カチオンで置き換わった状態である。しかし、この100%の状態では、溶媒の添加をする前にエキシマーからの発光が見られる。また、非常に低いCEC比、例えばCEC比が0.1%程度では、分子はモノマーの発光を示すが、溶媒を添加してもエキシマー発光はみられない。溶媒の添加によってエキシマーを生じる条件は、有機物を粘土鉱物に導入しすぎず、薄すぎずの状態ができるCEC比が1~20%の範囲であることが本発明の発明者等の実験でわかった。無論、層間に導入する有機分子の種類によってCEC比が1~20%の範囲で最適化する。

【0025】
また、本発明の有機物センシング用発光材料は、カチオン性分子の有機化合物を、粘土化合物の層間に取り入れている。粘土鉱物の表面の負電荷は、非常に高い密度で存在しているため、取り込まれたカチオンの単位体積辺りの分子数は、ハイブリッドの作製条件によっては1mol/Lにも及ぶ。そのため、分子の周りの小さな環境の変化により容易に分子間相互作用が変化する。この分子間の相互作用は、発光している蛍光色を変化させる性質を持つ。

【0026】
通常、粘土化合物の表面とその層間に取り込まれた有機分子の間には、強い静電的引力相互作用が働いているため、外場からの刺激が全く無い状態では、両方はエキシマーを形成せず、粘土化合物と有機化合物の分子が孤立して存在する。この様な状態では、本発明の有機物センシング用発光材料は分子のモノマー由来の蛍光を発する。本発明では、そのような特殊な場を利用し、有機溶媒の加除、あるいは、バインダーとして添加されたポリマーのコンフォメーションの変化で、粘土化合物の層間に取り込まれた有機物を励起複合体とすることで、エキシマー形成し、蛍光色を変化させている。

【0027】
本発明のセンシング材料は、溶媒等の外部からの刺激に応答して、有機会合物の分子が励起複合体を生成することで、蛍光色を変化させる。このように、本発明の材料は、従来技術のように分子の結合の解離ではなく、分子の集合状態の変化に伴って色調の変化が生じるため、従来技術よりも高い耐久性がある。以下の実施例でも示されるように、有機溶媒の添加とその除去を10回以上(最大、100回以上実験で確認済。)繰り返しても、蛍光色の変化がはっきりと目視できる程度であり、その高い耐久性が実証された。

【0028】
〔粘土化合物と有機化合物の複合体の作製方法〕
ここで、本発明において、粘土化合物と有機化合物の複合体の作製方法の例を示す。まず、カチオン性の有機物の溶液と粘土水分散液を用意する。有機物の溶液は、水に混和する溶媒に有機化合物を分散させたものである。粘土水分散液は、水に粘土鉱物を分散させた溶液である。そして、有機物の溶液と粘土水分散液を混合し十分に撹拌し混合液を得る。または、混合液は、粘土水分散液に有機化合物を加えて撹拌して得ても良い。

【0029】
粘土水分散液に有機化合物の水溶液を混合するとき、粘土の陽イオン交換容量(CEC)の1~20%が有機分子のカチオンで置き換わる条件となる比率で混合し、混合液を得る。撹拌はマグネチックスターラー、スターラーマグネット、超音波撹拌等の公知の任意の撹拌手段を利用する。この混合液は、濾過手段で濾過し、残った残渣が粘土化合物と有機化合物の複合体になる。例えば、メンブランフィルターで混合液をろ過し、このメンブランフィルターに残った残渣を剥離して、これにより粘土化合物と有機化合物の複合体が作製される。

【0030】
メンブランフィルターは、例えば、孔径50~200nmのものが利用できる。混合液を撹拌すると、粘土に有機化合物が所定量吸着される。このような粘土を、濾過するとメンブラン上に初定厚さの複合体が堆積され、これを剥離し、基板上に移す。無論、粘土化合物の有機化合物の複合体の作製方法は、上述の製膜方法に限定されるものではなく、本発明の有機物センシング用発光材料と同じ効果があれば公知の任意の作製方法を用いることができる。

【0031】
本発明の材料に利用する有機化合物は、細長い棒状の蛍光化合物を利用する。この蛍光化合物のサイズは、粘土鉱物の粒子のサイズより短い方が望ましい。例えば、粘土鉱物の粒子のサイズが40nm程度の場合、蛍光化合物のサイズは、10nm以下であるものが好ましい。蛍光化合物のサイズは、あまり小さすぎても可視光で蛍光を生じなくなるので、長軸方向で0.5nm以上であるものが好ましい。

【0032】
蛍光化合物は、サイズが大きすぎると捩れ等によって機械的な損傷を受けやすくなる。機械的な損傷を受けた蛍光化合物は、蛍光を発生しなくなったりすることがある。よって、蛍光化合物のサイズは、長軸方向で0.5nm以上であることが好ましい。粘土化合物の粒子は、微小な板状ものであり、そのサイズが長軸方向で20~100nmであり、厚さは0.5~1nmである。

【0033】
層状の粘土化合物は、粘土化合物の粒子を多数積層したものであり、その断面積は、蛍光化合物の粒子よりずっと大きく、例えば、蛍光化合物の500~5000個である。本発明に利用する粘土鉱物は、層状珪酸塩鉱物であることが好ましく、特に、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ヘクトライト、モンモリロナイト、スティーブンサイト等が好ましい。本発明に用いる有機化合物は、カチオン数が一つまたは二つの棒状の化合物であることが好ましい。

【0034】
本発明の有機物センシング用発光材料は、耐久性に優れる。そのため、従来のセンシング材料より厳しい環境で用いることができるようになり、より過酷な環境下で有機溶媒のセンシングが可能になる。本発明の有機物センシング用発光材料は、蛍光色の変化が数十nm~100nm以上に変化しており、蛍光波長の波長のシフト量が大きくて20nm前後である従来のソルバトクロミズムより非常に大きい。本発明の有機物センシング用発光材料は、有機溶媒の種類に依存的な蛍光色の変化が生じている。

【0035】
そのため、特定の有機溶媒のみをセンシングすることが可能である。例えば、以下の実施例に示すように、DMSO、DMF、アセトン、アセトニトリル等の特定種類の有機溶媒のセンシングができる。本発明の有機物センシング用発光材料は、粘土化合物としてモンモリロナイト、スティーブンサイトを利用して同様の現象が生じる事が本発明の発明者等によって確認されている。本発明の有機物センシング用発光材料は、その製造方法が溶液を混合し濾過するという単純な方法であり、生産し易いという利点がある。

【0036】
また、本発明の有機物センシング用発光材料は、バインダーを有し、粘土と有機化合物からなるハイブリッド膜の機械的な耐久性を向上させることができる。このようなバインダーとして利用するポリマーは、ポリアクリル酸ナトリウムが含まれた系、ポリアクリル酸ナトリウム等が好ましい。このようなポリマーは、有機物の溶液又は粘土水分散液又はそれらの混合液に添加する。
【実施例】
【0037】
ここで、本発明の実施例を示す。本実施例では、粘土化合物として、合成サポナイト(以下、SSAと言う。)を用いた。この合成サポナイトは、CECが0.997meq/g(=99.7 cmol(+)・kg-1)であった。有機化合物としては、1-methyl-4-[(1E)-2-phenylethenyl]pyridinium iodide (以下、略してmono-Bzと言う。)と、4,4’-[4,1-phenylenedi-(1E)-2,1-ethenediyl]bis[1-methylpyridinium] diiodide (以下、DiBzと言う。)、1,1.-dimethyl-4,4.-(2,6-anthrylenedi-2,1-ethenediyl)dipyridinium diiodide(以下、NPと言う。)、1,1.-dimethyl-4,4.-(2,6-anthrylenedi-2,1-ethenediyl)dipyridinium diiodide
(以下、ACと言う。)を用いた。SSAは化学式1の組成式で、mono-Bzは化学式2の分子式で、DiBzは化学式3の分子式で、NPは化学式4の分子式で、ACは化学式5の分子式で、それぞれ表される。
【化1】
JP2016065113A_000003t.gif
【実施例】
【0038】
【化2】
JP2016065113A_000004t.gif
【化3】
JP2016065113A_000005t.gif
【実施例】
【0039】
【化4】
JP2016065113A_000006t.gif
【化5】
JP2016065113A_000007t.gif
【実施例】
【0040】
mono-Bzは、細長いπ-電子系をもつ有機化合物で、分子の片側の末端にカチオン性部位をもつ1価のカチオンである。DiBzは、同じく、細長いπ-電子系をもつ有機化合物で、分子の両末端にカチオン性部位をもつ2価のカチオンである。NP,ACも、同じく、細長いπ-電子系をもつ有機化合物で、分子の両末端にカチオン性部位をもつ2価のカチオンである。まず、粘土化合物を水に分散させた粘土水分散液を用意した。言い換えると、SSAを水に分散させ、濃度0.01 g dm-3のSSA水分散液を用意した。
【実施例】
【0041】
SSAの平均粒子径は50nmであった。上記の有機物を水に分散させた有機化合物の水溶液をそれぞれ用意した。この有機化合物の水溶液は、濃度1×10-4 mol dm-3の有機化合物の水溶液であった。粘土水分散液に有機化合物の水溶液を、粘土の陽イオン交換容量(CEC: Cation Exchange Capacity)の1%が有機分子のカチオンで置き換わる条件(以下、1%CECと言う。)となる比率で混合し、ハイブリッド水分散液を得た。このハイブリッド水分散液を、孔径100nmのメンブランフィルターでろ過することにより、SSA-mono-Bz、SSA-DiBz、SSA-NP、SSA-ACのハイブリッド膜を作製した。
【実施例】
【0042】
また、ハイブリッド膜にセンシング用に添加する有機溶媒として、ジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide、以下、略称してDMSOと言う。)を用いた。DMSOは、分子式が(CH32SOで、塗布に際しては、不揮発性の溶媒である。DMSOは、ピペットでハイブリッド膜の表面にたらすことで添加した。また、蒸気に曝す際には揮発性の高いアセトンを用いた。アセトンは、ビーカーに封入し、アセトンの蒸気が満たされたビーカーにハイブリッド膜を入れることで添加した。
【実施例】
【0043】
また、ハイブリッド膜を乾燥させる際はハイブリッド膜の表面をエタノールですすぐことでDMSOをハイブリッド膜から除去した。DMSOは、和光純薬工業株式会社(所在地:日本国大阪市中央区)製で、精製せずに用いた。アセトンは和光純薬工業株式会社製で、精製せずに用いた。ハイブリッド膜の蛍光特性は、浜松ホトニクス株式会社(本社所在地:日本国静岡県浜松市)製の絶対PL量子収率測定装置C9920-03Gにより評価した。
【実施例】
【0044】
〔結果と考察〕
図1(a)は、SSA-mono-Bzのハイブリッド膜が発する蛍光スペクトルを示しているグラフである。このグラフの横軸は波長を示す、縦軸はハイブリッド膜の蛍光強度と吸収強度をそれぞれ規格化して示している。ハイブリッド膜は、図1に実線のグラフで示すように、波長が430nmに極大をもつモノマーに帰属できる蛍光を発光することを示した。図1(a)のグラフは、ハイブリッド膜にDMSOを塗布した後の蛍光スペクトルも点線で示した。DMSOを塗布すると、ハイブリッド膜が発光する極大波長は478nmになった。
【実施例】
【0045】
これは、エキシマーが形成されていることを示す。DMSOを塗布することで、極大波長のスペクトルシフトにより、蛍光色は青色から水色へと変化した。図1(b)は、ハイブリッド膜にDMSOの塗布する前後の発光様子を示す画像であり、青色から水色へと変化することを目視することができる。また、DMSOの塗布により吸収スペクトルは、図1(a)に示すように、短波長側に20nmシフトした。DMSOを除去すると蛍光色はもとの青色へと戻った(図1(b)を参照。)。DMSOの塗布と除去を繰り返すと、蛍光色の可逆的な変化は、少なくとも10回以上観察された。
【実施例】
【0046】
図2(a)は、SSA-DiBzのハイブリッド膜が発する蛍光スペクトルを示しているグラフである。このグラフの横軸は波長を示す、縦軸はハイブリッド膜の蛍光強度と吸収強度をそれぞれ規格化して示している。また、図2(a)には、ハイブリッド膜にDMSOを塗布した後の蛍光スペクトルも点線で示した。DMSOを塗布すると、ハイブリッド膜が発光する極大波長は488nmから574nmになり、エキシマーが形成されていることを示した。
【実施例】
【0047】
また、図2(b)示すハイブリッド膜の発光様子を示す画像から分かるように、DMSOを塗布することで、極大波長のスペクトルシフトにより、蛍光色は水色から黄色へと変化した。また、DMSOの塗布により吸収スペクトルは、図2(a)に示すように、短波長側にシフトした。DMSOを除去すると蛍光色はもとの水色へと戻った。DMSOの塗布と除去を繰り返すと、蛍光色の可逆的な変化は、少なくとも10回以上観察された。このように繰り返すことで、蛍光色の劣化が目視で確認していない。
【実施例】
【0048】
同様に、図3(a)、図4(a)のグラフは、NP,ACを用いたハイブリッド膜の蛍光をそれぞれ示している。図3(b)、図4(b)の写真は、NP,ACを用いたハイブリッド膜にDMSOを塗布する前後の発光様子を示している。図3(a)、図4(a)のグラフの横軸は波長を示し、縦軸はハイブリッド膜の蛍光強度をそれぞれ規格化して示している。DMSOを塗布すると、ハイブリッド膜が発光する極大波長は、図3(a)のグラフでは長波長側へ約100nm、図3(b)のグラフでは約40nmシフトした。
【実施例】
【0049】
また、図3(b)に示すように、DMSOを塗布することで、蛍光色は緑色から黄色へと変化した。図4(b)の場合は、DMSOを塗布することで、蛍光色はオレンジ色から赤色へと変化した。以上のように、細長いπ-電子系をもつ有機化合物、mono-Bz、DiBz等は、DMSOの塗布/除去によりエキシマー形成の有無が制御でき、蛍光色を大きく変化させることができた。SSA-mono-Bz、及びSSA-bis-Bzハイブリッド膜は、DMSOの添加のみならず、アセトンの蒸気に曝すことでもエキシマー形成の有無を可逆的に変化させることができた。
【実施例】
【0050】
図5には、複数の種類の有機溶媒を外部刺激として利用し、蛍光色の変化確認した写真である。図5の最初の写真は、SSA-DiBzのハイブリッド膜の写真であり、有機溶媒による外部刺激がない状態の蛍光を撮影した写真である。図5の2番目以後の写真は、SSA-DiBzのハイブリッド膜を、有機溶媒等による外部刺激したときの発光状態を撮影した写真である。図5の各写真はその下に刺激した溶媒の名前を記述し、各写真の上に色を記述している。
【実施例】
【0051】
この図からわかるように、ジメチルホルムアミド、アセトン、アセニトリルの有機溶媒の場合、エキシマー形成ができ、蛍光色を大きく変化させることができた。図5のその他の有機溶媒の場合は、目視で確認できる程度の差異が認められなかった。以上のように、有機溶媒という外部刺激により蛍光色を大きく変化させるセンシング材料を創出することができた。

【0052】
ここで、実施例を示す。本実施例では、有機化合物としては、met-Bzを用いた。met-Bzは、2価のカチオンである。met-Bzは、会合体の形成を阻害すると期待される置換基が分子骨格の中心に導入された分子である。ハイブリッド膜の作製は上記の実施例とまったく同じある。粘土化合物として、合成サポナイト(SSA)を用いた。met-Bzは化学式6の分子式でそれぞれ表される。
【化6】
JP2016065113A_000008t.gif

【0053】
SSAを水に分散させ、濃度0.01g dm-3のSSA水分散液を用意した。有機化合物の水溶液として、濃度1×10-4mol dm-3のmet-Bzの水溶液を用意した。粘土水分散液に有機化合物の水溶液を、1%CECとなる比率で混合し、ハイブリッド水分散液を得た。このハイブリッド水分散液を、孔径100nmのメンブランフィルターでろ過することにより、SSA-met-Bzのハイブリッド膜を作製した。

【0054】
ハイブリッド膜にDMSOは、ピペットを用いてハイブリッド膜の表面にたらすことで添加した。蒸気に曝す際には揮発性の高いアセトンを用いた。作製したハイブリッド膜の蛍光特性は、上述の絶対PL量子収率測定装置C9920-03Gにより評価した。側方に大きな置換基を導入したmet-Bzでは、DMSOを塗布しても、蛍光色の変化が目視できるほど観測されなかった。この比較例の結果からは、分子同士の接近を妨げるバルキーな置換基の導入は、エキシマーの形成を阻害することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、有機溶媒をセンシングする分野に利用するとよい。特に、化学工場のパイプなどの液漏れの検査や、排水のモニタリング等の分野で利用すると良い。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
4