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明細書 :固気反応によるGreigiteの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-056031 (P2016-056031A)
公開日 平成28年4月21日(2016.4.21)
発明の名称または考案の名称 固気反応によるGreigiteの製造方法
国際特許分類 C01G  49/12        (2006.01)
FI C01G 49/12
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2014-180962 (P2014-180962)
出願日 平成26年9月5日(2014.9.5)
発明者または考案者 【氏名】桑原 朋彦
【氏名】五十嵐 健輔
【氏名】山村 泰久
【氏名】安達 卓也
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100180862、【弁理士】、【氏名又は名称】花井 秀俊
審査請求 未請求
テーマコード 4G048
Fターム 4G048AA07
4G048AB01
4G048AC03
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
要約 【課題】Greigiteを安全且つ迅速に製造する手段を提供する。
【解決手段】本発明は、密閉された反応系で硫化水素と鉄原料とを固気反応させて、Greigiteを形成させるGreigite形成工程を含む、Greigiteの製造方法に関する。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
密閉された反応系で硫化水素と鉄原料とを固気反応させて、Greigiteを形成させるGreigite形成工程を含む、Greigiteの製造方法。
【請求項2】
前記鉄原料が、酸化鉄を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化鉄が、Hematite、アモルファスFeO(OH)、Goethite、Lepidocrocite及びMagnetiteからなる群より選択される1種以上の酸化鉄である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化鉄が、Hematite及びアモルファスFeO(OH)からなる群より選択される1種以上の酸化鉄である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
密閉された反応系で硫化物と酸とを反応させて、硫化水素を形成させる硫化水素形成工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記硫化物が、硫化ナトリウム及び硫化カリウムからなる群より選択される1種以上のアルカリ金属硫化物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸が、硫酸、塩酸、酢酸、ギ酸、硝酸及び臭化水素酸からなる群より選択される1種以上の酸である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸が、硫酸である、請求項7に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、固気反応によるGreigiteの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Greigiteは、グライガイト又はグレイジャイト(誤発音和名による通称)とも称される化合物である。Greigiteは、Fe(III)2Fe(II)S4の組成式で表される混合原子価硫化鉄であって、フェリ磁性を有する。Greigiteは、その結晶の1/4セル構造が(FeS2)2(Fe4S4)で表わされるように、その内部に生命にとって必須な[4Fe4S]クラスター様の構造を有する。このため、Greigiteは、地球生命の化学進化に深くかかわった鉱物の1つと認識されている(非特許文献1及び2)。[4Fe4S]クラスターは、電子伝達成分としてだけでなく、酵素の活性中心として(非特許文献3)、或いは翻訳制御因子(非特許文献4)、転写制御因子(非特許文献5)、又はラジカル利用タンパク質(非特許文献6及び7)の構成要素として、重要な機能を担っている。
【0003】
Greigiteは、フェリ磁性を有する。このため、Greigiteは、磁界変化を付与されることにより、発熱する。このような特性から、Greigiteは、がん患者に投与することでその体内のがん部分に送達し、磁界変化で誘導される熱によってがん細胞を死滅させる、ハイパーサーミア(温熱療法)の熱源として有望視されている(非特許文献8)。
【0004】
現在、鉄剤及び鉄サプリメントの有効成分として使用される鉄は可溶性である。このため、鉄剤及び鉄サプリメントを過剰に摂取すると、活性酸素を発生させる危険性が指摘されている。これに対し、Greigiteは、結晶構造を有することから難溶性であり、活性酸素を発生させ難い。また、Greigiteは、代替医療の1つであるアーユルヴェーダセラピーに用いられる、インド黒塩の構成成分としても知られており、薬効が期待される。
【0005】
Greigiteは、前記のような様々な用途に適用されることが期待されている。それ故、Greigiteの大量生産法が開発されれば、将来的に、医薬品、サプリメント又は食品の有効成分としてGreigiteが有用になる可能性がある。
【0006】
Greigiteの製造方法として、様々な化学的合成方法が知られている(非特許文献9~13)。例えば、非特許文献9は、二価の鉄塩と硫化水素とを100℃以下の溶液中で反応させる方法を記載する。非特許文献10は、二価の鉄塩とポリスルフィドとを100℃以下の溶液中で反応させる方法を記載する。非特許文献11は、高温真空装置を用いて、250℃以上の温度で鉄蒸気と硫化亜鉛とを反応させてGreigiteを合成する方法を記載する。
【0007】
Greigiteの製造方法として、生物学的合成方法も知られている。例えば、非特許文献14は、走磁性細菌による細胞内合成による方法を、非特許文献15は、硫酸還元菌による細胞外合成による方法を、それぞれ記載する。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Wachtershauser G (2006) From volcanic origins of chemoautotrophic life to Bacteria, Archaea and Eukarya. Phil Trans R Soc B 361:1787-1808
【非特許文献2】Russell MJ, Martin W (2004) The rocky roots of the acetyl-CoA pathway. Trends Biochem Sci 29:358-363
【非特許文献3】Lazazzera BA, Beinert H, Khoroshilova N, Kennedy MC, Kiley PJ (1996) DNA binding and dimerization of the Fe-S-containing FNR protein from Escherichia coli are regulated by oxygen. J Biol Chem 271:2762-2768
【非特許文献4】Rouault T, Haile D, Downey W, Philpott C, Tang C, Samaniego F, Chin J, Paul I, Orloff D, Harford J, Klausner R (1992) An iron-sulfur cluster plays a novel regulatory role in the iron-responsive element binding protein. Biometals 5:131-140
【非特許文献5】Spiro S, Guest JR (1990) FNR and its role in oxygen-regulated gene expression in Escherichia coli. FEMS Microbiol Lett 75:399-428
【非特許文献6】Staples CR, Ameyibor E, Fu W, Gardet-Salvi L, Stritt-Etter A-L, Schurmann P, Knaff DB, Johnson MK (1996) The function and properties of the iron-sulfur center in spinach ferredoxin:thioredoxin reductase: a new biological role for iron-sulfur clusters. Biochemistry 35:11425-11434
【非特許文献7】Kamat SS, Williams HJ, Dangott LJ, Chakrabarti M, Raushel FM (2013) The catalytic mechanism for aerobic formation of methane by bacteria. Nature 497:132-136
【非特許文献8】Chang Y-S, Savitha S, Sadhasivam S, Hsu C-K, Lin F-H (2011) Fabrication, characterization, and application of greigite nanoparticles for cancer hyperthermia. J Colloid Interface Sci 363:314-319
【非特許文献9】Berner R (1964) Iron sulfides formed from aqueous solution at low temperatures and atmospheric pressure. J Geol 72:293-306
【非特許文献10】Wada H (1977) The synthesis of greigite from a polysulfide solution at about 100 ℃. Bull Chem Soc Japan 50:2615-2617
【非特許文献11】Bauer E, Man KL, Pavlovska A, Locatelli A, Mentes TO, Nino MA, Altman MS (2014) Fe3S4 (greigite) formation by vapor-solid reaction. J Mater Chem A 2:1903-1913
【非特許文献12】Rickard D, Luther GW (2007) Chemistry of iron sulfides. Chem Rev 107:514-562
【非特許文献13】Hunger S, Benning L (2007) Greigite: a true intermediate on the polysulfide pathway to pyrite. Geochem Trans 8:1
【非特許文献14】Lefevre CT, Menguy N, Abreu F, Lins U, Posfai Mtl, Prozorov T, Pignol D, Frankel RB, Bazylinski DA (2011) A cultured greigite-producing magnetotactic bacterium in a novel group of sulfate-reducing bacteria. Science 334:1720-1723
【非特許文献15】Gramp JP, Bigham JM, Jones FS, Tuovinen OH (2010) Formation of Fe-sulfides in cultures of sulfate-reducing bacteria. J Hazard Mater 175:1062-1067
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術のGreigiteの製造方法には、いくつかの課題が存在した。例えば、非特許文献10~13に記載の方法では、通常、Greigiteを得るために、還元鉄(二価鉄)を使用することから、15時間~数日間の時間が必要となる。非特許文献9に記載の方法では、約15分間と比較的短時間でGreigiteが得られたが、当該方法では、毒性の高い硫化水素ガスが使用される。このため、非特許文献9に記載の方法では、安全管理を厳格に行う必要がある。
【0010】
ポリスルフィド又は硫化水素を硫黄原料として用いる従来技術のGreigiteの製造方法では、反応の進行に伴い、Mackinawite(マッキノーウィト、Fe(II)S)、Greigite、及びPyrite(パイライト、Fe(II)S2)が順次形成される(非特許文献12及び13)。前記反応において、Mackinawiteの全量がGreigiteに変換される前に、GreigiteがPyriteに変換される(非特許文献13)。このため、Mackinawiteを経由してGreigiteが形成される従来技術のGreigiteの製造方法では、Greigiteのみを得ることは困難である。また、得られたGreigiteを、Pyrite等を含む反応混合物から、効率的に精製及び単離する手段は知られていない。
【0011】
また、生物学的合成方法によるGreigiteの製造方法の場合、Greigite生成反応の反応速度は、使用される菌の生育速度に依存することから、2週間以上の長時間を要する(非特許文献14及び15)。
【0012】
前記課題に鑑み、本発明は、Greigiteを安全且つ迅速に製造する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、密閉された反応系で硫化水素と鉄原料とを固気反応させることにより、Greigiteを合成できることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 密閉された反応系で硫化水素と鉄原料とを固気反応させて、Greigiteを形成させるGreigite形成工程を含む、Greigiteの製造方法。
(2) 前記鉄原料が、酸化鉄を含有する、前記(1)に記載の方法。
(3) 前記酸化鉄が、Hematite、アモルファスFeO(OH)、Goethite、Lepidocrocite及びMagnetiteからなる群より選択される1種以上の酸化鉄である、前記(2)に記載の方法。
(4) 前記酸化鉄が、Hematite及びアモルファスFeO(OH)からなる群より選択される1種以上の酸化鉄である、前記(3)に記載の方法。
(5) 密閉された反応系で硫化物と酸とを反応させて、硫化水素を形成させる硫化水素形成工程をさらに含む、前記(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 前記硫化物が、硫化ナトリウム及び硫化カリウムからなる群より選択される1種以上のアルカリ金属硫化物である、前記(5)に記載の方法。
(7) 前記酸が、硫酸、塩酸、酢酸、ギ酸、硝酸及び臭化水素酸からなる群より選択される1種以上の酸である、前記(5)又は(6)に記載の方法。
(8) 前記酸が、硫酸である、前記(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、Greigiteを安全且つ迅速に製造する手段を提供することが可能となる。
【0016】
前記以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1における気相中の固気反応の概略を示す写真である。
【図2】図2は、本発明の方法によって製造されたGreigiteの誘導加熱試験の概略を示す写真である。
【図3】図3は、実施例1の生成物のX線回折(XRD)スペクトルを示す図である。(a):15分間反応後の生成物;(b):30分間反応後の生成物;(c):1時間反応後の生成物。図中、黒塗り四角(■)はHematiteに帰属されるピークを、黒塗り逆三角(▼)はGreigiteに帰属されるピークを、黒塗り丸(●)はPyriteに帰属されるピークを、それぞれ示す。
【図4】図4は、実施例2の生成物のX線回折(XRD)スペクトルを示す図である。図中、黒塗り四角(■)はHematiteに帰属されるピークを、黒塗り逆三角(▼)はGreigiteに帰属されるピークを、黒塗り丸(●)はPyriteに帰属されるピークを、それぞれ示す。
【図5】図5は、実施例3の生成物のX線回折(XRD)スペクトルを示す図である。図中、白抜き丸(○)はMackinawiteに帰属されるピークを、黒塗り逆三角(▼)はGreigiteに帰属されるピークを、それぞれ示す。
【図6】図6は、実施例4の生成物のX線回折(XRD)スペクトルを示す図である。図中、白抜き丸(○)はMackinawiteに帰属されるピークを、黒塗り逆三角(▼)はGreigiteに帰属されるピークを、黒塗り丸(●)はPyriteに帰属されるピークを、それぞれ示す。
【図7】図7は、比較例1の生成物のX線回折(XRD)スペクトルを示す図である。図中、白抜き丸(○)はMackinawiteに帰属されるピークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1:Greigite>
Greigiteは、Fe(III)2Fe(II)S4の組成式で表される混合原子価硫化鉄であって、フェリ磁性を有する。Greigiteの同定は、限定するものではないが、例えば、X線回折(XRD)を測定して、得られたXRDスペクトルデータを、Powder Diffraction File(商標)のような公知のデータベースと比較することにより、実施することができる。

【0019】
本発明の方法によって製造されるGreigiteは、医薬品、サプリメント又は食品の有効成分として使用できる可能性がある。本発明の方法によって製造されるGreigiteは、例えば、がん患者に投与することでその体内のがん部分に送達し、磁界変化で誘導される熱によってがん細胞を死滅させる、ハイパーサーミア(温熱療法)の熱源として使用できる可能性がある。本発明の方法によって製造されるGreigiteが温熱療法の熱源として使用し得ることは、例えば、以下の手順で誘導加熱試験を実施することにより、確認することができる。Greigiteの粉末を水に入れ、その周囲を包囲するように配置されたコイルに交流を通電する。これにより、コイルの周囲に磁界変化を形成し、該磁界変化によってGreigiteに渦電流を発生させる。発生した渦電流によってGreigiteの周囲の水の温度が上昇するので、この水の温度変化(温度上昇)を測定する。

【0020】
<2:Greigiteの製造方法>
本発明は、Greigiteの製造方法に関する。本発明の方法は、Greigite形成工程を含むことが必要である。以下、本発明の各工程について、詳細に説明する。

【0021】
[2-1:Greigite形成工程]
本工程は、密閉された反応系で硫黄原料と鉄原料とを固気反応させることが必要である。本明細書において、「固気反応(solid-gas反応)」は、固体と気体との間において進行する反応を意味する。本工程により、硫黄原料と鉄原料とを固気反応させて、Greigiteを形成させることができる。

【0022】
本工程において使用される硫黄原料は、硫化水素であることが必要である。硫化水素は、1気圧における沸点が-60.7℃であることから、常温及び常圧で気体である。それ故、硫化水素を用いることにより、以下において説明する鉄原料との間で固気反応を進行させることができる。これにより、Greigiteを迅速に形成させることができる。

【0023】
本工程において使用される硫化水素は、予め調製されたものを購入等して入手してもよく、以下において説明する硫化水素形成工程を実施することにより、都度調製してもよい。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。硫化水素は、硫化水素形成工程を実施することにより、都度調製することが好ましい。本実施形態の場合、硫化水素形成工程の後、該硫化水素形成工程と同一の密閉された反応系で本工程を実施することにより、硫化水素形成工程及び本工程を連続的に実施することが好ましい。これにより、毒性の高い硫化水素が反応系外に漏出することを実質的に回避して、より安全にGreigiteを形成させることができる。また、密閉された反応系に硫化水素が充満することにより、反応系の酸素と硫化水素とを反応させて、該反応系を完全嫌気条件にすることができる。

【0024】
本工程において使用される鉄原料は、通常は、固体形態である。鉄原料は、粉末形態であることが好ましく、実質的に均一な粉末形態であることがより好ましい。固体形態の鉄原料を用いることにより、硫化水素との間で固気反応を進行させることができる。これにより、Greigiteを迅速に形成させることができる。また、実質的に均一な粉末形態の鉄原料を用いることにより、Greigiteの純度を向上させることができる。

【0025】
本工程において使用される鉄原料は、予め調製されたものを購入等して入手してもよく、当該技術分野で公知の方法により、都度調製してもよい。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。例えば、粉末形態の鉄原料は、所望の鉄原料を調製した後、得られた生成物を乾燥及び粉砕することにより、調製することができる。前記調製において、鉄原料の生成物の乾燥は、該鉄原料が酸化鉄の場合、空気下で、該鉄原料が還元鉄の場合、完全嫌気条件下で、それぞれ実施することが好ましい。また、鉄原料の生成物の乾燥は、20℃以上、例えば、20~60℃、好ましくは30~50℃の範囲の温度で実施することが好ましい。

【0026】
本発明者らは、酸化鉄を含有する鉄原料を用いることにより、鉄原料からGreigiteの合成に必要となる酸化力が供給されて、Greigite生成反応が迅速に進行することを見いだした。本発明の方法が前記のような特性を有する理由は、以下のように説明することができる。なお、本発明は、以下の作用・原理に限定されるものではない。酸化鉄として、例えばHematite(ヘマタイト、α型酸化鉄(III)、α-Fe2O3)を使用する場合、下記反応式(I)で表される固気反応により、Hematiteが硫化水素により還元されて、アモルファスFeS(アモルファス硫化鉄)が形成される。形成されたアモルファスFeSは、下記反応式(II)で表される固気反応により、残存するHematite及び硫化水素とさらに反応して、Greigiteが形成される。反応式(I)及び(II)を併せて、Hematite及び硫化水素からGreigiteを形成させる全反応を、下記反応式(III)に示す。反応式(III)で表される反応は、例えば、本工程の反応中間体としてアモルファスFeSが生成すること、生成物に酸化数0の硫黄が存在しないこと、生成物に水素が存在すること等を確認することにより支持される。反応中間体中のアモルファスFeSの存在は、例えば、Fe(II)及びサルファイドの定量、並びにXRD測定により、また生成物中の酸化数0の硫黄の非存在は、例えば、XRDを測定することにより、確認することができる。水素の存在は、例えば、当該技術分野で通常使用される水素検出器等の検出手段により、確認することができる。
Fe2O3 + 3H2S → 2FeS + H2O + SO2 + 2H2 (I)
Fe2O3 + FeS + 3H2S → Fe3S4 + 3H2O (II)
3Fe2O3 + 9H2S → 2Fe3S4 + 7H2O + SO2 + 2H2 (III)

【0027】
前記鉄原料は、酸化鉄(三価鉄)又は還元鉄(二価鉄)を含有することが好ましく、酸化鉄を含有することがより好ましく、酸化鉄のみからなることがさらに好ましい。前記鉄原料が酸化鉄を含有する場合、該酸化鉄は、Hematite、アモルファスFeO(OH)(アモルファス酸化水酸化鉄(III))、Goethite(ゲータイト、α型酸化水酸化鉄(III)、α-FeO(OH),)、Lepidocrocite(レピドクロサイト、γ型酸化水酸化鉄(III)、γ-FeO(OH))及びMagnetite(マグネタイト、磁鉄鉱、Fe3O4)からなる群より選択される1種以上の酸化鉄であることが好ましく、Hematite及びアモルファスFeO(OH)からなる群より選択される1種以上の酸化鉄であることがより好ましい。Hematiteを含有する鉄原料を使用する場合、Mackinawiteを経由する従来技術のGreigiteの製造方法と比較して、Mackinawiteを実質的に形成することなく、迅速にGreigiteを得ることができる。なお、本工程において、Mackinawiteを実質的に形成していないことは、例えば、反応中間体又は生成物のXRDを測定することにより、確認することができる。前記鉄原料が還元鉄を含有する場合、該還元鉄は、アモルファスFeSであることが好ましい。前記鉄原料は、予め調製されたものを購入等して入手してもよく、当該技術分野で公知の方法により、自ら調製してもよい。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。酸化鉄を含有する鉄原料は、以下において説明する気相中及び液相中のいずれの固気反応の実施形態でも使用することができる。還元鉄を含有する鉄原料は、気相中の固気反応の実施形態で使用することができる。酸化鉄を含有する鉄原料を用いることにより、鉄原料からGreigiteの合成に必要となる酸化力を供給することができる。また、鉄原料は、酸素原子以外の陰イオンを実質的に含有しないことが好ましい。鉄原料が酸素原子以外の陰イオンを含有する場合、目的とするGreigiteが形成されない可能性がある。それ故、前記のような酸化鉄を鉄原料として用いることにより、鉄原料から酸化力を供給して、目的とするGreigiteを合成することができる。

【0028】
本工程において使用される硫化水素及び鉄原料の比は、硫黄と鉄とのモル比として、10:1~1:1の範囲であることが好ましく、5:1~1.5:1の範囲であることがより好ましく、3:1~1.5:1の範囲であることがさらに好ましい。前記比で硫化水素及び鉄原料を固気反応させることにより、Greigiteを得ることができる。

【0029】
本工程は、密閉された反応系で実施されることが必要である。本発明者らは、密閉された反応系で硫化水素と鉄原料とを固気反応させることにより、Greigiteが迅速に形成されることを見いだした。本工程において使用される硫化水素は、反応系の酸素と反応する。このため、密閉された反応系で本工程を実施する場合、本工程の開始時点で、反応系に酸素分子(O2)が存在していても、使用される硫化水素の量を適切に調整することにより、Greigiteの形成が確認される時点で、反応系に実質的に酸素分子が存在しない条件を達成することができる。本明細書において、反応系に実質的に酸素分子が存在しない条件を、「完全嫌気条件」と記載する場合がある。本工程において、反応系の気相は、例えば、窒素、ヘリウム又はアルゴンのような1種以上の不活性気体を主成分として含有することが望ましく、場合により、水素又は二酸化炭素のような1種以上の他の気体をさらなる成分として含有してもよい。この場合、前記不活性気体は、反応系の気相全体に対する該不活性気体の総和として50~100体積%、好ましくは60~100体積%、より好ましくは80~100体積%の濃度である。また、前記他の気体は、反応系の気相全体に対する該他の気体の総和として0~50体積%、好ましくは0~40体積%、より好ましくは0~20体積%の濃度である。本工程を密閉された反応系で実施することにより、密閉された反応系に充満した硫化水素が反応系中の酸素と反応して、該反応系を完全嫌気条件にすることができる。これにより、鉄原料の酸化力を反応の駆動力として、Greigiteを迅速に形成させることができる。

【0030】
本工程が、以下において説明する硫化水素形成工程の後、連続的に実施される場合、本工程は、硫化水素形成工程で使用される反応系と同一の密閉された反応系で連続的に実施することが好ましい。この場合、本工程において使用される鉄原料は、硫化水素形成工程において、該硫化水素形成工程で使用される密閉された反応系に予め投入されることが好ましい。これにより、密閉された反応系を開放することなく、硫化水素形成工程及びGreigite形成工程を連続的に実施することができる。本工程において使用される密閉された反応系としては、限定するものではないが、例えば、嫌気ワークステーション又はブチルゴム栓及びアルミシール等で密栓したセラム瓶を挙げることができる。前記密閉された反応系で本工程を実施することにより、密閉された反応系に充満した硫化水素が反応系の酸素と反応して、該反応系を完全嫌気条件にすることができる。これにより、完全嫌気条件下で固気反応を進行させることができる。また、毒性の高い硫化水素が反応系外に漏出することを実質的に回避して、安全にGreigiteを形成させることができる。

【0031】
本工程において、鉄原料は、そのままの状態で、硫化水素と接触させることにより固気反応させてもよく、液体媒体中に存在する状態で、硫化水素と接触させることにより固気反応させてもよい。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。本明細書において、前者の実施形態を、「気相中の固気反応」と、後者の実施形態を、「液相中の固気反応」と、それぞれ記載する場合がある。前記液体媒体としては、限定するものではないが、例えば、水を挙げることができる。前記液体媒体は、場合により、不活性塩類等の本工程の反応に関与しない1種以上の成分を含有していてもよい。気相中の固気反応の実施形態の場合、鉄原料がそのままの状態、すなわち、液体媒体中に存在しない状態であればよい。気相中の固気反応のある実施形態においては、場合により、反応系に液体媒体が存在していてもよい。例えば、本工程が、以下において説明する硫化水素形成工程の後、連続的に実施される場合、反応系に該硫化水素形成工程の反応媒体が存在する場合がある。このような場合であっても、鉄原料が、硫化水素形成工程の反応媒体と実質的に接触しない状態で反応系に存在する限り、気相中の固気反応の実施形態に包含される。前記実施形態の場合、例えば、硫化水素形成工程の反応媒体を有する容器とは別個の容器に入れる等の手段によって、鉄原料及び硫化水素形成工程の反応媒体を別々に反応系に投入することが好ましい。これにより、鉄原料を、硫化水素形成工程の反応媒体と実質的に接触させることなく、硫化水素と固気反応させることができる。液相中の固気反応の実施形態の場合、鉄原料は、液体媒体中に実質的に溶解していない状態で存在する。本発明において、「鉄原料が液体媒体中に実質的に溶解していない状態」は、使用される鉄原料の総質量に対して、例えば90~100質量%、好ましくは95~100質量%、より好ましくは98~100質量%の範囲の鉄原料が、液体媒体中に溶解せずに固体形態(例えば、液体媒体中に懸濁された状態)で存在することを意味する。また、液相中の固気反応の実施形態の場合、硫化水素は、液体媒体中において、気体である硫化水素(H2S)と硫化水素イオン(HS-)との平衡状態で存在する。このため、液相中の固気反応の実施形態の場合、液体媒体中に実質的に溶解していない鉄原料は、該液体媒体中に溶存する硫化水素と接触して、固気反応が進行する。例えば、本工程が、以下において説明する硫化水素形成工程の後、連続的に実施される場合、鉄原料を、反応系に存在する該硫化水素形成工程の反応媒体中に実質的に溶解していない状態で、予め反応系に投入することが好ましい。これにより、硫化水素形成工程の後、形成された硫化水素と液体媒体中に存在する鉄原料とを直ちに固気反応させることができる。本工程において使用される鉄原料が酸化鉄を含有する場合、本工程は、気相中及び液相中のいずれの固気反応の実施形態でもよい。本工程において使用される鉄原料が還元鉄を含有する場合、本工程は、気相中の固気反応の実施形態であることが好ましい。本工程は、気相中の固気反応の実施形態であることがより好ましい。このような実施形態で本工程を実施することにより、より迅速にGreigiteを得ることができる。

【0032】
本工程において、硫化水素と鉄原料とを固気反応させる条件は、使用される硫化水素及び鉄原料の種類及び/又は量等に基づき、当業者が適宜設定することができる。例えば、反応時間は、1分間以上であることが好ましく、1分間~72時間の範囲であることがより好ましく、1分間~24時間の範囲であることがさらに好ましく、1分間~5時間の範囲であることが特に好ましい。反応温度は、20℃以上であることが好ましく、20~150℃の範囲であることがより好ましく、40~130℃の範囲であることがさらに好ましく、50~90℃の範囲であることが特に好ましい。通常は、使用される硫化水素の濃度が高い、且つ/又は反応温度が高い程、反応時間を短縮することができる。例えば、反応温度が40~130℃の範囲の場合、反応時間は、1分間~72時間の範囲、好ましくは1分間~24時間の範囲、より好ましくは1分間~5時間の範囲である。反応温度が50~90℃の範囲の場合、反応時間は、1分間~24時間の範囲、好ましくは1分間~5時間の範囲である。本工程が液相中の固気反応の実施形態の場合、液体媒体のpHは、1.0~6.1の範囲であることが好ましく、3.0~6.0の範囲であることがより好ましく、5.4~5.9の範囲であることが特に好ましい。反応時間及び/又は反応温度を前記下限値以上とすることにより、Greigiteを短時間で形成させることができる。反応時間及び/又は反応温度を前記上限値以下とすることにより、Pyriteのような副生成物の形成を最小にして、Greigiteを得ることができる。pHを6未満とすることにより、硫化水素と硫化水素イオンとの平衡を硫化水素に傾けることができる(Snoeyink VL, Jenkins D. Water Chemistry. New York,: John Wiley & Sons, 1980)。これにより、鉄原料と硫化水素との固気反応の進行を促進させることができる。なお、本工程が、以下において説明する硫化水素形成工程の後、連続的に実施される場合、前記反応時間は、硫化水素形成工程の開始時点から本工程の終了時点までの全反応時間を意味する。

【0033】
[2-2:硫化水素形成工程]
本発明の方法は、場合により、密閉された反応系で硫化物と酸とを反応させて、硫化水素を形成させる硫化水素形成工程を含んでもよい。

【0034】
本工程において使用される密閉された反応系は、前記で説明したものと同一であることが好ましい。前記密閉された反応系を用いて本工程を実施することにより、毒性の高い硫化水素が反応系外に漏出することを実質的に回避しつつ、硫化水素を形成させることができる。これにより、より安全にGreigiteを形成させることができる。

【0035】
本工程において使用される密閉された反応系の気相を構成する成分は、硫化物と酸との反応を実質的に阻害しないものであれば特に限定されない。反応系の気相を構成する成分は、例えば、空気でよい。或いは、反応系の気相は、前記で説明したGreigite形成工程の反応系の気相と同様の成分を含有してもよい。前記成分を含有する密閉された反応系を用いて本工程を実施することにより、密閉された反応系に充満した硫化水素が反応系の酸素と反応して、該反応系を完全嫌気条件にすることができる。

【0036】
前記硫化物は、アルカリ金属硫化物であることが好ましく、硫化ナトリウム及び硫化カリウムからなる群より選択される1種以上のアルカリ金属硫化物であることがより好ましく、硫化ナトリウムであることがさらに好ましい。前記硫化物を用いて本工程を実施することにより、毒性の高い硫化水素が反応系外に漏出することを実質的に回避し、密閉された反応系で硫化水素を形成させることができる。これにより、より安全にGreigiteを形成させることができる。

【0037】
前記酸は、硫酸、塩酸、酢酸、ギ酸、硝酸及び臭化水素酸からなる群より選択される1種以上の酸であることが好ましく、硫酸であることがより好ましい。前記で説明したGreigite形成工程が気相中の実施形態の場合、前記酸のいずれを使用してもよい。前記で説明したGreigite形成工程が液相中の実施形態の場合、該液相にギ酸、硝酸又は臭化水素酸が存在すると、鉄原料との間で望ましくない副反応が進行する可能性がある。このため、Greigite形成工程が液相中の実施形態の場合、使用される酸は、硫酸、塩酸及び酢酸からなる群より選択される1種以上の酸であることが好ましい。前記酸を用いて本工程を実施することにより、毒性の高い硫化水素が反応系外に漏出することを実質的に回避し、密閉された反応系で硫化水素を形成させることができる。これにより、より安全にGreigiteを形成させることができる。

【0038】
本工程において、硫化物と酸とを液体媒体中で反応させることが好ましい。前記液体媒体は、水であることが好ましい。前記液体媒体は、場合により、不活性塩類等の本工程の反応に関与しない1種以上の成分を含有していてもよい。硫化物と酸とを含有する水溶液中で両物質を反応させる場合、本工程は、例えば、密閉された反応系で、硫化物及び酸のいずれか一方を含有する水溶液に、他方の物質又はその水溶液を加えることにより、実施することができる。密閉された反応系で、硫化物を含有する水溶液に、酸又はその水溶液を加えることにより、実施することが好ましい。前記の態様で本工程を実施することにより、硫化水素を安全に形成させることができる。

【0039】
本工程において、硫化物と酸とを反応させる条件は、使用される硫化物及び酸の種類及び/又は量等に基づき、当業者が適宜設定することができる。例えば、反応時間は、1分間以上であることが好ましく、1分間~72時間の範囲であることがより好ましく、1分間~24時間の範囲であることがさらに好ましく、1分間~5時間の範囲であることが特に好ましい。反応温度は、20℃以上であることが好ましく、20~150℃の範囲であることがより好ましく、40~130℃の範囲であることがさらに好ましく、50~90℃の範囲であることが特に好ましい。通常は、使用される硫化物及び酸の量が多い、且つ/又は反応温度が高い程、反応時間を短縮することができる。例えば、反応温度が40~130℃の範囲の場合、反応時間は、1分間~72時間の範囲、好ましくは1分間~24時間の範囲、より好ましくは1分間~5時間の範囲である。反応温度が50~90℃の範囲の場合、反応時間は、1分間~24時間の範囲、好ましくは1分間~5時間の範囲である。本工程が、硫化物と酸とを液体媒体中で反応させる実施形態の場合、液体媒体のpHは、1.0~6.1の範囲であることが好ましく、3.0~6.0の範囲であることがより好ましく、5.4~5.9の範囲であることが特に好ましい。反応温度を前記下限値以上とすることにより、硫化水素を短時間で形成させて、反応時間を短縮することができる。pHを6未満とすることにより、硫化水素と硫化水素イオンとの平衡を硫化水素に傾けることができる(Snoeyink VL, Jenkins D. Water Chemistry. New York,: John Wiley & Sons, 1980)。これにより、Greigite形成工程における反応に使用される硫化水素の量を増加させることができる。なお、Greigite形成工程が、本工程の後、連続的に実施される場合、前記反応時間は、本工程の開始時点からGreigite形成工程の終了時点までの全反応時間を意味する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
<I:鉄原料の調製>
Hematite(純度≧99.9%、粒径≦0.3 μm;高純度化学研究所、埼玉)は、40℃で乾燥後、反応に供した。アモルファスFeO(OH)は、文献(Lovley DR, Phillips EJP (1986) Organic matter mineralization with reduction of ferric iron in anaerobic sediments. Appl Environ Microbiol 51:683-689)に記載の方法で調製した後、蒸留水で6回洗浄し、室温で送風乾燥後、乳鉢ですりつぶした。アモルファスFeSは、文献(Brock TD, O'Dea K (1977) Amorphous ferrous sulfide as a reducing agent for culture of anaerobes. Appl Environ Microbiol 33:254-256)に記載の方法で調製した後、嫌気水(N2バブリングによって調製した)で6回洗浄し、嫌気ワークステーション内(気相、N2:H2:CO2 = 80:10:10)で送風乾燥後、乳鉢ですりつぶした。アモルファスFeO(OH)及びアモルファスFeSは、乾燥前には不均一性は認められなかったが、乾燥により固化が生じ、不均一性が視認された。
【実施例】
【0042】
<II:Greigiteの合成>
[II-1:実施例1:気相中の固気反応]
Hematiteを鉄原料として用いて、気相中の固気反応を実施した。嫌気ワークステーション内(気相、N2:H2:CO2 (80:10:10))において、68 ml容のセラム瓶に、1 mlの1 M 硫化ナトリウム(Na2S)水溶液(pH未調整)を入れた。前記セラム瓶に、0.63 mmolの鉄(Fe)を含むHematiteの乾燥粉末を入れた小試験管(外径 10 mm, 長さ50 mm)を入れた。前記セラム瓶を、ブチルゴム栓及びアルミシールで密封した後、気相をアルゴン(Ar)に置換した。次いで、注射器を用いて、0.6 mlの2 M硫酸を1 M 硫化ナトリウム水溶液に注入することにより、下記反応式(IV):
Na2S + H2SO4 → Na2SO4 + H2S (IV)
に基づき、セラム瓶内に硫化水素ガスを発生させた(図1)。セラム瓶を80℃で所定時間保温することにより、硫化水素ガスとHematiteの乾燥粉末とを反応させた。反応終了後、セラム瓶のブチルゴム栓を開け、pH試験紙を用いて、反応溶液のpHを測定したところ、pHは約5.6であった。比較のため、1 M硫化ナトリウム水溶液及び2 M硫酸を前記と同じ体積比で6倍量混合してpHメータでpHを測定したところ、pH 5.6であった。
【実施例】
【0043】
[II-2:実施例2:液相中の固気反応]
Hematiteを鉄原料として用いて、液相中の固気反応を実施した。実施例1において、Hematiteの乾燥粉末を1 M 硫化ナトリウム水溶液に直接懸濁して、液相中の固気反応条件に変更した他は、前記と同様の手順及び条件で、Greigiteを合成した。
【実施例】
【0044】
[II-3:実施例3:液相中の固気反応]
アモルファスFeO(OH)を鉄原料として用いて、液相中の固気反応を実施した。前記の通り、アモルファスFeO(OH)は、乾燥すると固化により不均一となった。このため、本反応においては、乾燥前の標品を用いた。実施例2において、HematiteをアモルファスFeO(OH)に変更した他は、前記と同様の手順及び条件で、Greigiteを合成した。
【実施例】
【0045】
[II-4:実施例4:還元鉄を鉄原料とする気相中の固気反応]
還元鉄(二価鉄)であるアモルファスFeSを鉄原料として用いて、気相中の固気反応を実施した。実施例1において、HematiteをアモルファスFeSの乾燥粉末に変更した他は、前記と同様の手順及び条件で、Greigiteを合成した。
【実施例】
【0046】
[II-5:実施例5:気相中の固気反応における反応時間及び反応温度の関係]
Hematite(和光純薬工業製)を鉄原料として用いて、気相中の固気反応を実施した。嫌気ワークステーション内(気相、N2)において、68 ml容のセラム瓶に、1 mlの1 M 硫化ナトリウム水溶液(pH未調整)を入れた。前記セラム瓶に、0.63 mmolの鉄を含むHematiteの乾燥粉末を入れた小試験管(外径 10 mm, 長さ50 mm)を入れた。前記セラム瓶を、ブチルゴム栓及びアルミシールで密封した後、気相をアルゴンに置換した。次いで、注射器を用いて、0.6 mlの2 M硫酸を1 M 硫化ナトリウム水溶液に滴下することにより、セラム瓶内に硫化水素ガスを発生させた。セラム瓶を、20、40、60、80又は130℃で、所定時間保温することにより、硫化水素ガスとHematiteの乾燥粉末とを反応させた。反応終了後、セラム瓶のブチルゴム栓を開け、pH試験紙を用いて、反応溶液のpHを測定したところ、pHは約5.6であった。比較のため、1 M硫化ナトリウム水溶液及び2 M硫酸を前記と同じ体積比で6倍量混合してpHメータでpHを測定したところ、pH 5.6であった。反応終了後、生成物に磁石を接近させて、生成物が磁石に引き寄せられるかを指標にGreigite形成を確認した。
【実施例】
【0047】
[II-6:比較例1:還元鉄を鉄原料とする液相中の固気反応]
還元鉄(二価鉄)であるアモルファスFeSを鉄原料として用いて、液相中の固気反応を実施した。前記の通り、アモルファスFeSは、乾燥すると固化により不均一となった。このため、本反応においては、乾燥前の標品を用いた。実施例2において、HematiteをアモルファスFeSに変更した他は、前記と同様の手順及び条件で反応を実施した。
【実施例】
【0048】
<III:Greigiteの特性>
[III-1:X線結晶構造解析]
実施例1~4及び比較例1の生成物の試料を、シリコン無反射ホルダー(SanyuShoko, 東京)に載せた。乾燥試料は、そのままの状態で、水分を含む試料は、空気を捕捉しないように真空グリース及びポリイミドフィルム(Nilaco、東京)で被覆した状態で、測定に用いた。粉末X線回折装置(Ultima IV;Rigaku、東京)を、加速電圧=40 kV、電流値=30 mAで作動させた。CuKα線を試料に照射し、2θ=15~60°の範囲で、0.02°ごとに、それぞれの角度で2秒間かけて回折線の強度を測定した。得られたXRDスペクトルを、Powder Diffraction File(商標)のデータベースと比較して、鉱物を同定した。
【実施例】
【0049】
[III-2:誘導加熱試験]
Greigite合成に使用した小試験管(0.63 mmolのGreigiteに相当する実施例1~3の生成物の試料を含む)に0.5 mlの水を入れた。前記小試験管を、該小試験管を包囲するように配置された専用コイルの中央部に設置した(図2)。誘導加熱装置(SPW900/56 (900 kHz, 5.6 kW電源);S A Japan Incorporated)を用いて、コイルに交流を通電することで磁界変化を形成させた。この磁界変化によって、試料に渦電流を発生させて、発熱させた。シース熱電対を用いて、発熱後の水温を測定した。各試料において、水温が46℃(がん治療のためのハイパーサーミアに使用される最高温度に相当する)に達するまでの時間を測定した。
【実施例】
【0050】
<IV:結果>
[IV-1:Greigiteの合成]
固体及び気体の間の反応(固気反応)の反応速度は、通常は、固体表面の気体分子の密度(濃度)によって決定される。しかしながら、純粋な硫化水素の標品の入手及び/又は使用が法令により制限されていることから、硫化水素ガスの定量は一般に困難である。このため、本実施例においては、生成した硫化水素の濃度を、使用した硫化ナトリウム及び硫酸の濃度及び体積に基づき算出した。
【実施例】
【0051】
実施例1においては、1 mlの1 M硫化ナトリウム水溶液及び0.6 mlの2 M 硫酸によって発生し得る量(1 mmol)の硫化水素を使用した。前記条件下で気相中の固気反応を15分間行った場合、未反応のHematiteに加えて、生成したGrigite及びPyriteが検出されたが、Mackinawiteは検出されなかった(図3(a))。反応時間を30分間又は1時間に延長した場合、Hematiteが消失して、Pyriteが増加したが、Mackinawiteは依然として検出されなかった(図3(b)及び(c))。この結果から、本発明の方法によるGreigite合成は、例えば非特許文献10に記載の二価鉄及びポリスルフィドからのGreigite合成と比較して、反応速度が約30倍速く、且つMackinawiteのような不要な中間体を経由することなく進行するという有利な特徴を有することが示された。実施例1に記載した以外の硫化水素の量の反応条件下においても、反応時間を変化させることにより、実施例1と同様にGreigiteが生成した。
【実施例】
【0052】
実施例2の場合、Hematiteを1 M硫化ナトリウム水溶液中に懸濁して、液相中で固気反応を実施した。30分間の反応時間の場合、鉄原料である未反応のHematiteが主成分であり、Greigiteの生成が僅かに確認されたものの、Pyriteは検出されなかった(図4)。気相中の固気反応における同一反応時間の結果(実施例1、図3(b))との比較から、液相中の固気反応は、気相中の固気反応に比べて反応が非常に遅いことが示された。この結果から、Greigite合成反応に関与するスルフィド分子種は、硫化水素であることが強く示唆された。液相中では、硫化水素は、気体である硫化水素と硫化水素イオンとの平衡状態で存在する。また、本実施例の反応溶液のpHであるpH 5.6付近では、硫化水素と硫化水素イオンとの平衡は、硫化水素に大きく傾いていることから、スルフィドは主に硫化水素として存在することが知られている(Snoeyink VL, Jenkins D. Water Chemistry. New York,: John Wiley & Sons, 1980)。このため、実施例2の液相中の固気反応においても、溶液中に溶存する硫化水素がHematiteと反応した結果、Greigiteが生成したと推測される。
【実施例】
【0053】
実施例3において、アモルファス酸化鉄は、1 M硫化ナトリウム水溶液中に懸濁した時点で黒色化した。この結果から、硫化鉄の形成が示唆された。その後、1 M硫化ナトリウム水溶液に硫酸を加え、1時間反応させた結果、主成分としてGreigiteが、副成分として若干量のMackinawiteが、それぞれ生成した(図5)。黒色化(硫化鉄形成が示唆される)及びMackinawiteの生成の結果から、還元鉄(二価鉄)を経由する公知のGreigite生成反応の進行が予想されるかも知れない。前記予想が正しい場合、アモルファスFeSを鉄原料として用いることにより、反応速度の向上が期待できる。しかしながら、実施例4において、アモルファスFeSを鉄原料として用いて気相中の固気反応を実施した場合、Greigiteが検出されるまでに144時間の反応時間を必要とした(図6)。また、Mackinawite及びPyriteも検出された。他方、比較例1において、アモルファスFeSを鉄原料として用いて、144時間に亘って液相中の固気反応を実施した場合、Mackinawiteのみが検出され、Greigiteは検出されなかった(図7)。実施例3及び4、並びに比較例1の結果から、本発明の方法によるGreigite合成は、還元鉄(二価鉄)を経由する公知のGreigite生成反応とは異なる反応経路で進行することが示唆された。このような考察は、還元鉄(二価鉄)を経由するGreigite生成反応の進行には酸化力が必要であるという知見と矛盾しない(非特許文献9)。例えば、実施例3の場合、アモルファスFeO(OH)の表面は、形成された硫化鉄で被覆されたものの、硫化鉄の被覆層の下層に残存するアモルファスFeO(OH)が、酸化力を供給したと推測される。以上の結果から、本発明の方法によるGreigite合成においては、鉄原料として、酸化力を有する酸化鉄を使用することが好ましいことが示唆された。
【実施例】
【0054】
実施例5において、硫化水素形成反応及びGreigite形成反応の反応温度及び反応時間と形成されたGreigiteの量との関係を表1に示す。表中、反応時間は、硫化水素形成反応の開始時点からGreigite形成反応の終了時点までの全反応時間を表す。「-」は、色は黒色であるが磁石に引き寄せられなかった生成物を、「+」は、上部のみが磁石に引き寄せられた生成物を、「++」は、全体が磁石に弱く引き寄せられた生成物を、「+++」は、全体が磁石に強く引き寄せられた生成物を、それぞれ表す。Greigiteは、フェリ磁性を有する化合物であることから、「-」は、Greigiteが形成されなかったことを、「+」は、Greigiteの形成が僅かに確認され始めたことを、「++」は、Greigiteの形成が確認されたことを、「+++」は、Greigiteの形成が明確に確認されたことを、それぞれ意味する。空欄は、対応する反応温度及び反応時間において実験を実施していないことを表す。
【表1】
JP2016056031A_000003t.gif
【実施例】
【0055】
表1に示すように、反応温度が20℃の範囲の場合、24時間でGreigiteの形成が僅かに確認され始め、64時間の反応時間経過後には、Greigiteの形成が明確に確認された。これに対し、反応温度を60℃に上昇させた場合、0.5時間の反応時間経過後には、すでにGreigiteの形成が確認され始め、2時間の反応時間経過後にはGreigiteの形成が明確に確認された。反応温度をさらに上昇させた場合、Greigiteが形成されるまでの反応時間がより短縮された。
【実施例】
【0056】
本実施例のGreigite合成において、Hematite及びアモルファス酸化鉄は、密閉された反応系で、鉄原料として使用されると同時に、合成に必要となる酸化力の供給物質としても使用された。Hematite/Fe(II)の標準酸化還元電位は、-0.287 mVである(Kappler A, Straub KL (2005) Geomicrobiological cycling of iron. Rev Mineral Geochem 59:85-108)。このように、Hematiteは、還元されにくいことから、硫化水素存在下であっても酸化力を保持し得たと推測される。
【実施例】
【0057】
還元鉄(二価鉄)を経由する公知のGreigite生成反応の環境は、嫌気的環境ではあったが、密閉環境ではなかった(非特許文献9)。このような反応条件下では、微量存在する酸素が、Greigite生成反応に関与し得る。例えば、非特許文献9に記載の反応では、密閉された容器中で反応が行われなかった。このため、二価鉄の硫化水素バブリング処理により、空気中の酸素から酸化力が供給されて、Greigiteが合成できたと推測される。しかしながら、このような反応条件では、常に一定の酸化力が供給されるわけではない。このため、Greigite生成法として特筆されていず、また操作には硫化水素の毒性による危険性が伴う。これに対し、実施例1~3及び5のGreigite合成は、酸化力を有する酸化鉄を鉄原料として用いて、密閉された反応系で実施された。このため、Greigiteを安全且つ迅速に製造できたと推測される。
【実施例】
【0058】
[IV-2:Greigiteによる誘導加熱]
実施例1で調製されたGreigite(反応時間:30分)及び実施例3で調製されたGreigite(反応時間:1時間)の粉末を、0.5 mlの水に懸濁して、誘導加熱試験を実施した。その結果、実施例1及び3のいずれの方法で調製されたGreigiteとも、1分以内に46℃にまで水温を上昇させた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6