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明細書 :移動訓練支援装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-073630 (P2016-073630A)
公開日 平成28年5月12日(2016.5.12)
発明の名称または考案の名称 移動訓練支援装置
国際特許分類 A61H   1/02        (2006.01)
FI A61H 1/02 R
請求項の数または発明の数 20
出願形態 OL
全頁数 31
出願番号 特願2015-197255 (P2015-197255)
出願日 平成27年10月3日(2015.10.3)
優先権出願番号 2014205286
優先日 平成26年10月3日(2014.10.3)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】三枝 亮
【氏名】重松 圭祐
【氏名】寺嶋 一彦
出願人 【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
審査請求 未請求
テーマコード 4C046
Fターム 4C046AA24
4C046AA29
4C046AA45
4C046BB07
4C046CC01
4C046DD02
4C046DD33
4C046EE03
4C046EE14
4C046EE16
4C046EE23
4C046EE24
4C046EE32
4C046EE33
4C046EE34
4C046FF03
4C046FF23
4C046FF33
要約 【課題】 歩行等の訓練者の状態を検出するとともに、歩行等訓練者に対して映像による視覚的な歩行姿勢を誘導することにより、効果的な歩行訓練を実現させる移動訓練支援装置を提供する。
【解決手段】 歩行等の訓練を行う利用者の姿勢を検知する検知手段(135、402)と、検知手段により検知された利用者の姿勢に関する情報に基づき、利用者の目標とする歩行姿勢または走行姿勢に誘導するための必要な情報を生成する処理手段(133、403)と、処理手段により出力される情報を利用者に対して視覚的に提示する映像提示手段(136、424)とを備える。これらを駆動手段(134、423)をもつ走行体100に備える態様と、歩行訓練用の施設内に固定的に設置する態様がある。
【選択図】 図2
特許請求の範囲 【請求項1】
歩行または走行の訓練を行う訓練者の全身の深度画像を任意の取得位置から取得する深度画像取得手段と、
前記深度画像に基づいて前記訓練者の複数の身体部位における前記取得位置からの距離を算出して該身体部位の三次元位置を取得する三次元位置取得手段と、
前記身体部位の三次元位置の変化に基づいて前記訓練者の運動学的な全身運動を計測するとともに、該計測結果に基づいて、前記訓練者の歩行または走行を誘導するために必要な身体部位の誘導位置を計算する処理手段と、
前記処理手段により計算された前記身体部位の誘導位置を視覚的に提供する映像提示手段とを備える
ことを特徴とする移動訓練支援装置。
【請求項2】
さらに、前記訓練者の身体部位に装着される加速度センサを備え、前記処理手段は、前記加速度センサの情報に基づいて、前記訓練者の身体部位における該訓練者の運動学的な全身運動を計測するとともに、前記三次元位置とともに前記身体部位の誘導位置を計算するものである請求項1に記載の移動訓練支援装置。
【請求項3】
さらに、前記訓練者の身体部位に装着される角速度センサおよび地磁気センサを備え、前記処理手段は、前記加速度センサの情報に加えて前記角速度センサおよび前記地磁気センサの情報に基づいて、前記訓練者の全身的移動量、前記身体部部位の移動距離および歩幅を算出するものである請求項1または2に記載の移動訓練支援装置。
【請求項4】
前記深度画像取得手段、前記三次元位置取得手段、前記処理手段および前記映像提示手段は、自走可能な走行体に搭載されるものであり、
前記走行体は、さらに、駆動輪によって構成される駆動部と、この駆動部の駆動状態を制御する制御手段と、周辺環境を検知する検知手段とを備え、前記制御手段は、前記検知手段によって検知される前記訓練者との距離情報に基づき、該訓練者との適宜間隔が維持されるように駆動部を制御するものである請求項1ないし3のいずれかに記載の移動訓練支援装置。
【請求項5】
前記映像提示手段は、自走可能な走行体に搭載されるものであり、前記深度画像取得手段、前記三次元位置取得手段および前記処理手段は、前記走行体とは独立して訓練施設内に固定的に設置されるものであり、
前記走行体は、さらに、駆動輪によって構成される駆動部と、この駆動部の駆動状態を制御する制御手段と、周辺環境を検知する検知手段と、該走行体に搭載される各手段における情報を処理するための第2の処理手段と、前記処理手段と前記第2の処理手段との間で各種の情報を送受信するための伝送手段とを備え、前記制御手段は、前記検知手段によって検知される前記訓練者との距離情報に基づき、適宜間隔が維持されるように駆動部を制御するものであり、前記処理手段は、前記第2の処理手段の情報および前記訓練者の身体部位に装着された各種センサの情報を処理するものである請求項2または3に記載の移動訓練支援装置。
【請求項6】
前記走行体は、環境地図情報を格納する記憶手段を備え、前記制御手段は、前記環境地図情報に基づいて、前記訓練者を先導しつつ追従走行するように駆動部を制御するものであり、前記処理手段は、前記訓練者の前記環境地図情報中の位置を計算するものであり、前記映像提示手段は、前記計算結果を映像として提示するものである請求項4または5に記載の移動訓練支援装置。
【請求項7】
前記処理手段によって計算される環境地図情報中の前記訓練者の位置は、該訓練者の特定部位の個別の位置情報の集合体であり、前記特定部位の個別の位置情報は、環境地図情報と、該環境地図情報中の移動体の位置情報と、該移動体から該特定部位までの相対的な位置関係とに基づいて算出されるものである請求項6に記載の移動訓練支援装置。
【請求項8】
前記移動体の記憶手段は、前記訓練者を誘導する経路を記憶するものであり、該誘導経路は、人為的に作成された計画経路情報、または、前記走行体を予め移動させた経路を前記環境地図情報中の位置情報に基づいて前記処理手段によって作成された経路情報である請求項6または7に記載の移動訓練支援装置。
【請求項9】
前記深度画像取得手段は、さらに、前記訓練者が使用する歩行支持器具の深度画像を取得するものであり、前記三次元位置取得手段は、前記歩行支持器具の三次元位置を取得するものであり、前記処理手段は、前記三次元位置の変化に基づいて前記歩行支持器具に対する特徴点について距離情報を算出するものであり、前記映像提示手段は、前記身体部位の誘導位置とともに前記歩行支持器具を移動させるべき誘導位置を視覚的に提示するものである請求項1ないし8のいずれかに記載の移動訓練支援装置。
【請求項10】
前記深度画像取得手段は、さらに、訓練指導者の全身の深度画像を取得するものであり、前記三次元位置取得手段は、前記訓練指導者の複数の身体部位における取得位置からの距離を算出して該身体部位の三次元位置を取得するものである請求項1ないし9に記載の移動訓練支援装置。
【請求項11】
さらに、前記身体部位の三次元位置に基づき、前記訓練者の足運動および/または身体バランスを評価する評価手段を備える請求項10に記載の移動訓練支援装置。
【請求項12】
前記処理手段は、前記訓練指導者における前記三次元位置を教師データとして前記訓練者の歩行または走行を誘導するために必要な身体部位の誘導位置を計算するものである請求項1ないし11のいずれかに記載の移動訓練支援装置。
【請求項13】
前記処理手段によって計算される誘導位置は、前記訓練者の歩行時または走行時における理想的な身体部位の移動状態と、該訓練者の現実の歩行時または走行時における身体部位の移動状態との中間的な位置であり、理想的な身体部位の移動と現実の身体部位の移動との相違の程度に応じて1または複数の誘導位置が計算されるものである請求項12に記載の移動訓練支援装置。
【請求項14】
前記映像提示手段は、前記誘導位置とともに、または該誘導位置とは別に、前記訓練者の現実の歩行時または走行時における身体部位の移動状態を映像として提示するものである請求項13に記載の移動訓練支援装置。
【請求項15】
さらに、前記訓練者に対し聴覚的な刺激を提示する音響提示手段を備えており、前記処理手段は、前記訓練者に対する誘導位置を提供する時間的タイミングに応じて提示すべき音響情報を作成するものであり、前記音響提示手段は、前記訓練者によって選択される音声または音響を前記映像提示手段による映像提示に代えて、または映像提示とともに提示するものである請求項1ないし14のいずれかに記載の移動訓練支援装置。
【請求項16】
さらに、前記訓練者の足に装着される加速度センサを備え、前記処理手段は、前記加速度センサの情報に基づいて、前記訓練者の足が着地したと判断されたとき、前記音響提示手段に対して作動させる信号を出力するものであり、該音響提示手段の作動により訓練者が着地状態であることを認識させるものである請求項15に記載の移動訓練支援装置。
【請求項17】
さらに、前記訓練者の身体の一部に装着されて触力覚的に刺激を与える刺激提示手段を備え、前記処理手段は、前記加速度センサによる足の状態から着地を確認したとき、前記刺激提示手段を作動させる信号を出力するものである請求項16に記載の移動訓練支援装置。
【請求項18】
前記刺激提示手段は、前記訓練者の複数の身体部位に装着されて振動による触力覚刺激を提示するものであり、前記処理手段は、前記訓練者の身体部位のうち誘導させるべき前記身体部位を振動により触力覚刺激を提示するように作動させるための信号を出力するものである請求項17に記載の移動訓練支援装置。
【請求項19】
さらに、前記訓練者の歩行または走行の状態を撮影するための光学カメラを備え、前記映像提示手段は、前記誘導位置に代えて、または該誘導位置とともに、該光学カメラで撮影された静止画または動画を提示するものである請求項1ないし18のいずれかに記載の移動訓練支援装置。
【請求項20】
前記光学カメラは、前記訓練者の顔面を撮影するものであり、前記処理手段は、前記訓練者の顔面における筋肉の変化を測定するとともに、該筋肉の変化から予め分類された変化情報と比較して、訓練の継続、中止、促進または抑制を決定するものであり、前記映像提示手段は、前記決定の内容を視覚的に変換された映像を提示するものである請求項19に記載の移動訓練支援装置。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者の目標とする歩行姿勢または走行姿勢に誘導するための必要な情報を生成する処理手段を有し、それにより出力される情報を、利用者に対して映像、音響、刺激として提示する手段を備える移動訓練支援装置に関する。
【0002】
さらに本発明は、訓練対象者と独立した走行体と、この走行体に搭載され、訓練対象者の運動認知を強化し、歩行運動を効率的に誘導するための計測、評価、提示、誘導、再現手段を備える移動訓練支援装置に関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、歩行面となる環状ベルトの負荷トルクと歩行速度を通常歩行状態において計測し、それらを基準として環状ベルトの回転速度及び負荷トルクを変化させて、訓練者の身体状態に応じた歩行訓練及び転倒防止訓練を行う歩行訓練装置が示されている。
【0004】
特許文献2には、歩行パターン生成部において、歩行パターンデータ記憶部に予め記憶されている基本的な歩行パターンの任意の時点での訓練者の関節角度と訓練者の下肢長とを基に訓練者の下肢の位置を計算し、訓練者の下肢の位置に応じて力センサにより計測された力センサデータを変更し、訓練者の下肢の位置と変更された力センサデータとを基に、訓練者の下肢に装着された下肢駆動部への指令値を決定し、コントローラにおいて、指令値に応じて下肢駆動部を駆動することにより、立位歩行時の床反力を計測して、訓練者の歩行の位相に応じた関節の協調動作により歩行を訓練する歩行訓練装置が示されている。
【0005】
特許文献3には、患者を支持する支持機能や患者の足位置の表示機能などを有する歩行訓練支援装置において、パーキンソン症候群患者歩行訓練時の介助者の動きを再現して歩行支援機を走行させ、患者に応じた一定速度で歩行支援機を走行させること、患者の次の一歩の目標位置に光を照射又は歩行リズムをとる音を発生する装置又は患者の目前に一定時間間隔で画像を表示する表示装置を有すること、患者の足位置を撮影して目標の足位置と共に患者の目前に表示する撮影足位置表示装置を有すること、および、患者の足の水平位置を検出して検出された足位置を目標の足位置と共に患者の目前に表示する検出足位置表示装置を有することなどが示されている。
【0006】
特許文献4には、訓練者の歩行距離に応じてこの訓練者に音又は光による案内を与える報知手段を有し、励ましの音声やかけ声によって、訓練者にやる気を起こさせるとともに、順次発生する音をリズミカルなものとして、訓練者の気分を爽快にし、訓練者が訓練に飽きてしまうのを防止できるようにした歩行訓練装置が示されている。
【0007】
特許文献5には、訓練者が歩行可能な無限軌道ベルトを備えた複数の歩行面と、これらの歩行面を駆動する駆動手段と、訓練者の歩行の機能または生体情報を測定する測定手段、訓練の条件を設定するために前記歩行訓練機の動作条件を設定可能な設定手段、前記測定手段の情報を演算する情報処理手段、前記測定手段により測定された情報と前記設定されたこの歩行訓練機の前記動作条件と前記情報処理手段により演算した情報とを関連付けて表示する表示手段とを備え、訓練の成果を高めることができる歩行訓練装置が示されている。
【0008】
特許文献6には、歩行訓練機を歩行する訓練者の歩行画像を取り込む画像取り込み装置と、この画像取り込み装置の画像を演算処理する画像演算装置と、この画像演算装置の演算結果を表示する表示装置と、演算結果を記憶する記憶装置とを備え、画像演算装置が取り込んだ画像から、各足の床面接触位置及び床面接触位置の各足毎の経時変化を演算し、表示装置に床面接触位置の各足毎の経時変化を表示することにより、訓練状況を定量的に把握し、過去のデータとの比較により、訓練データを診断装置に応用することができる足跡分析装置を有する歩行訓練装置が示されている。
【0009】
特許文献7には、上記特許文献6と同様の足跡分析装置において、画像演算装置が、取り込んだ画像の変化する動画像、及び/又は変化しない静止画像から、各足の床面接触位置と床面に接触しない位置とを演算し、表示装置が、各足の床面接触位置、及び/又は床面に接触しない位置を表示することが示されている。
【0010】
特許文献8には、歩行者の体を支えることにより、歩行を補助する歩行器において、歩行者の手から加えられる荷重を測定する手荷重測定装置と、歩行者の足に装着して各足にかかる体重を測定する足荷重測定装置と、歩行者の足の挙動を測定する足挙動測定装置とを設け、歩行の現状を認識するとともに、足腰の回復度を確認しながら歩行訓練を行うことが示されている。
【0011】
特許文献9には、ベルト型の疑似歩行路を有する歩行訓練装置において、擬似歩行路上を歩行訓練する利用者の実際の歩幅である実歩幅を導出する実歩幅導出手段と、利用者が歩行訓練を行う上での歩幅の推奨値としての目標歩幅を導出する目標歩幅導出手段と、導出された実歩幅および目標歩幅を利用者に対照する歩幅対照手段とを備え、歩行訓練における歩行能力の評価を行うことが示されている。
【0012】
特許文献10には、歩行時の支えとなる移動式の杖として機能する自走式台車において、訓練指導者と一体化し、映像投影を用いて足運びを指示して歩行を誘導する歩行支援装置が示されている。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特開2008-036054
【特許文献2】特開2005-211086
【特許文献3】特開2003-164544
【特許文献4】特開2003-024469
【特許文献5】特開2002-345994
【特許文献6】特開2002-345785
【特許文献7】特開2002-345784
【特許文献8】特開2001-276155
【特許文献9】特開2001-238982
【特許文献10】特開2011-229838
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来技術で提案されている歩行訓練支援装置においては、特許文献1、4、5、6、7、9などのような平行棒やベルト駆動装置などを用いる設置型の歩行訓練機は、設備が大型化し、設置条件に制約が多い。
【0015】
また、特許文献2、3、8に示すような個別に訓練者を支持する歩行支持機を用いるものは、通常の屋内外の、訓練者以外の者が通行する一般的な歩行環境での歩行訓練の技術支援(歩行通路の形状、安全確保、ドアの開閉や通路上の設置物の回避など)が、十分に実現されていない。また、歩行支持機型の歩行訓練機では、歩行訓練者に対する音や光の信号による情報伝達機器や訓練者の歩行状態の計測などのセンサの設置位置などに制約が多くなり、機能的に制限されることが多くなるという欠点があった。また、訓練者ごとに支持器具が必要となるため、複数人で歩行訓練を一緒に行うことも困難である。
【0016】
さらに、特許文献3、特許文献4、特許文献5~7で提案されている歩行訓練支援装置では、訓練者に次の一歩の目標位置を光で示したり、励ましの音声やリズム音などを聞かせて訓練への興味を起こさせたり、歩行訓練者の個別情報や実測状況から訓練効果がわかるような表示により訓練効果を高めるようにしたものが示されているが、歩行環境での歩行中における訓練者自身の運動認知を強化したり、心理的に運動意欲を高めることにより、訓練効果を高める機構が十分に検討されているとは言えない。
【0017】
具体的には、モニタにより映像を提示する歩行訓練装置では、歩行環境での訓練者の過去・現在の歩行の軌跡や足の動きや未来の踏み出し位置を歩行面に実寸で提示することは困難である。また、イアホンやスピーカにより音響を提示する歩行訓練装置では、歩行環境で足の着地タイミングや歩行ペースを提示することは可能であるが、歩行環境の認識機構がない装置は、歩行環境に適した旋回停止のタイミング指示や障害物の存在を警告することは困難である。
【0018】
いずれにしても、従来技術の歩行訓練プログラムは、実際の訓練者の歩行状態への適応能力が乏しいため、訓練者本人の動きに動的に対応した運動認知により運動意欲を高める効果が薄い。
【0019】
特許文献3の従来技術では特にパーキンソン病患者への歩行訓練も提案されている。パーキンソン病の疾患では、すくみ足現象、歩行開始困難、前方突進現象などが出現する。これに対応して、記憶された動きを再現して歩行指示器を走行させたり、光照射と音発生により歩行を指示したり、足位置と足裏圧力を計測して表示する機構が提案されている。しかしながら、ここに開示された足位置計測装置では、訓練効果を高めるために、足の感覚器に対する着地の認知を強化することは考慮されていない。また運動認識が足に限られているため、全身の歩行姿勢やバランスや、ドアの開閉や物体の把持などの上肢運動との協調に対して、運動認知の支援や指示を行うことについても考慮されていない。
【0020】
特許文献10で提案されている歩行支援装置では、移動式の杖として訓練指導者と一体化し、映像投影を用いて足運びを指示して歩行を誘導する。当該の技術では、訓練対象者と装置の一体性により平行棒などの他の支持器具との併用が難しく、行動制御が訓練対象者に従属的となるため、訓練対象者から離れた3次元的な全身運動計測や、歩行環境を利用した広領域な運動状態の提示及び指示が困難である。
【0021】
これらをまとめると従来技術には、以下のような問題がある。(1)任意の歩行経路への誘導やその経路の安全確保といったことが考慮されていない(2)歩行環境に適した旋回停止のタイミング提示や障害物の警告が困難である、(3)訓練者の歩行への適応能力が乏しいため、訓練者の移動の意図に基づく歩行訓練や現状の歩行形態を無理なく改善していくことが困難である、(4)訓練者の状況に対応した訓練者自身の運動認知が困難である、(5)運動認識が足に限られているため、全身の歩行姿勢やバランス、上肢運動との協調の運動認知の支援や指示が困難である、(6)歩行訓練器とその他の支持器具とを併用することが考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するために、本発明は次のように構成される。請求項1の発明は、歩行または走行の訓練を行う訓練者の全身の深度画像を任意の取得位置から取得する深度画像取得手段と、
前記深度画像に基づいて前記訓練者の複数の身体部位における前記取得位置からの距離を算出して該身体部位の三次元位置を取得する三次元位置取得手段と、前記身体部位の三次元位置の変化に基づいて前記訓練者の運動学的な全身運動を計測するとともに、該計測結果に基づいて、前記訓練者の歩行または走行を誘導するために必要な身体部位の誘導位置を計算する処理手段と、 前記処理手段により計算された前記身体部位の誘導位置を視覚的に提供する映像提示手段とを備えることを特徴とする。
【0023】
また、請求項2の発明は、請求項1の移動訓練支援装置において、前記訓練者の身体部位に装着される加速度センサを備え、前記処理手段は、前記加速度センサの情報に基づいて、前記訓練者の身体部位における該訓練者の運動学的な全身運動を計測するとともに、前記三次元位置とともに前記身体部位の誘導位置を計算するものであることを特徴とする。
【0024】
また、請求項3の発明は、請求項1ないし2の移動訓練支援装置において、前記訓練者の身体部位に装着される角速度センサおよび地磁気センサを備え、前記処理手段は、前記加速度センサの情報に加えて前記角速度センサおよび前記地磁気センサの情報に基づいて、前記訓練者の全身的移動量、前記身体部部位の移動距離および歩幅を算出することを特徴とする。
【0025】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の移動訓練支援装置において、前記深度画像取得手段、前記三次元位置取得手段、前記処理手段および前記映像提示手段は、自走可能な走行体に搭載されるものであり、前記走行体は、さらに、駆動輪によって構成される駆動部と、この駆動部の駆動状態を制御する制御手段と、施設内の廊下や屋外の歩行者用通路における障害物情報など、周辺環境をレーザセンサで検知する検知手段とを備え、前記制御手段は、前記検知手段によって検知される前記訓練者との距離情報に基づき、該訓練者との適宜間隔が維持されるように駆動部を制御するものであることを特徴とする。
【0026】
また、請求項5の発明は、請求項2または3に記載の移動訓練支援装置において、前記映像提示手段は、自走可能な走行体に搭載されるものであり、前記深度画像取得手段、前記三次元位置取得手段および前記処理手段は、前記走行体とは独立して訓練施設内に固定的に設置されるものであり、前記走行体は、さらに、駆動輪によって構成される駆動部と、この駆動部の駆動状態を制御する制御手段と、周辺環境を検知する検知手段と、該走行体に搭載される各手段における情報を処理するための第2の処理手段と、前記処理手段と前記第2の処理手段との間で各種の情報を送受信するための伝送手段とを備え、前記制御手段は、前記検知手段によって検知される前記訓練者との距離情報に基づき、適宜間隔が維持されるように駆動部を制御するものであり、前記処理手段は、前記第2の処理手段の情報および前記訓練者の身体部位に装着された各種センサの情報を処理するものであることを特徴とする。
【0027】
また、請求項6の発明は、請求項4または5に記載の移動訓練支援装置において、前記走行体は、環境地図情報を格納する記憶手段を備え、前記制御手段は、前記環境地図情報に基づいて、前記訓練者を先導しつつ追従走行するように駆動部を制御するものであり、前記処理手段は、前記訓練者の前記環境地図情報中の位置を計算するものであり、前記映像提示手段は、前記計算結果を映像として提示するものであることを特徴とする。
【0028】
また、請求項7の発明は、請求項6に記載の移動訓練支援装置において、前記処理手段によって計算される環境地図情報中の前記訓練者の位置は、該訓練者の特定部位の個別の位置情報の集合体であり、前記特定部位の個別の位置情報は、環境地図情報と、該環境地図情報中の移動体の位置情報と、該移動体から該特定部位までの相対的な位置関係とに基づいて算出されるものであることを特徴とする。
【0029】
また、請求項8の発明は、請求項6または7に記載の移動訓練支援装置において、前記移動体の記憶手段は、前記訓練者を誘導する経路を記憶するものであり、該誘導経路は、人為的に作成された計画経路情報、または、前記走行体を予め移動させた経路を前記環境地図情報中の位置情報に基づいて前記処理手段によって作成された経路情報であることを特徴とする。
【0030】
また、請求項9の発明は、請求項1ないし8のいずれかに記載の移動訓練支援装置において、前記深度画像取得手段は、さらに、前記訓練者が使用する歩行支持器具の深度画像を取得するものであり、前記三次元位置取得手段は、前記歩行支持器具の三次元位置を取得するものであり、前記処理手段は、前記三次元位置の変化に基づいて前記歩行支持器具に対する特徴点について距離情報を算出するものであり、前記映像提示手段は、前記身体部位の誘導位置とともに前記歩行支持器具を移動させるべき誘導位置を視覚的に提示するものであることを特徴とする。
【0031】
また、請求項10の発明は、請求項1ないし9に記載の移動訓練支援装置において、前記深度画像取得手段は、さらに、訓練指導者の全身の深度画像を赤外線深度センサにより取得するものであり、前記三次元位置取得手段は、前記訓練指導者の複数の身体部位における取得位置からの距離を算出して該身体部位の三次元位置を取得するものであることを特徴とする。
【0032】
また、請求項11の発明は、請求項10に記載の移動訓練支援装置において、さらに、前記身体部位の三次元位置に基づき、前記訓練者の足運動および/または身体バランスを評価する評価手段を備えることを特徴とする。
【0033】
また、請求項12の発明は、請求項1ないし11のいずれかに記載の移動訓練支援装置において、前記処理手段は、前記訓練指導者における前記三次元位置を教師データとして前記訓練者の歩行または走行を誘導するために必要な身体部位の誘導位置を計算するものであることを特徴とする。
【0034】
また、請求項13の発明は、請求項12に記載の移動訓練支援装置において、前記処理手段によって計算される誘導位置は、前記訓練者の歩行時または走行時における理想的な身体部位の移動状態と、該訓練者の現実の歩行時または走行時における身体部位の移動状態との中間的な位置であり、理想的な身体部位の移動と現実の身体部位の移動との相違の程度に応じて1または複数の誘導位置が計算されるものであることを特徴とする。
【0035】
また、請求項14の発明は、請求項13に記載の移動訓練支援装置において、前記映像提示手段は、前記誘導位置とともに、または該誘導位置とは別に、前記訓練者の現実の歩行時または走行時における身体部位の移動状態を映像として提示するものであることを特徴とする。
【0036】
また、請求項15の発明は、請求項1ないし14のいずれかに記載の移動訓練支援装置において、さらに、前記訓練者に対し聴覚的な刺激を提示する音響提示手段を備えており、前記処理手段は、前記訓練者に対する誘導位置を提供する時間的タイミングに応じて提示すべき音響情報を作成するものであり、前記音響提示手段は、前記訓練者によって選択される音声または音響を前記映像提示手段による映像提示に代えて、または映像提示とともに提示するものであることを特徴とする。
【0037】
また、請求項16の発明は、請求項15に記載の移動訓練支援装置において、さらに、前記訓練者の足に装着される加速度センサを備え、前記処理手段は、前記加速度センサの情報に基づいて、前記訓練者の足が着地したと判断されたとき、前記音響提示手段に対して作動させる信号を出力するものであり、該音響提示手段の作動により訓練者が着地状態であることを認識させるものであることを特徴とする。
【0038】
また、請求項17の発明は、請求項16に記載の移動訓練支援装置において、さらに、前記訓練者の身体の一部に装着されて触力覚的に刺激を与える刺激提示手段を備え、前記処理手段は、前記加速度センサによる足の状態から着地を確認したとき、前記刺激提示手段を作動させる信号を出力するものであることを特徴とする。
【0039】
また、請求項18の発明は、請求項17に記載の移動訓練支援装置において、前記刺激提示手段は、前記訓練者の複数の身体部位に装着されて振動による触力覚刺激を提示するものであり、前記処理手段は、前記訓練者の身体部位のうち誘導させるべき前記身体部位を振動により触力覚刺激を提示するように作動させるための信号を出力するものであることを特徴とする。
【0040】
また、請求項19の発明は、請求項1ないし18のいずれかに記載の移動訓練支援装置において、さらに、前記訓練者の歩行または走行の状態を撮影するための光学カメラを備え、前記映像提示手段は、前記誘導位置に代えて、または該誘導位置とともに、該光学カメラで撮影された静止画または動画を提示するものであることを特徴とする。
【0041】
また、請求項20の発明は、請求項19に記載の移動訓練支援装置において、前記光学カメラは、前記訓練者の顔面を撮影するものであり、前記処理手段は、前記訓練者の顔面における筋肉の変化を測定するとともに、該筋肉の変化から予め分類された変化情報と比較して、訓練の継続、中止、促進または抑制を決定するものであり、前記映像提示手段は、前記決定の内容を視覚的に変換された映像を提示するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
本発明により次のような効果が得られる。(1)訓練者が歩行可能な任意の場所で歩行訓練(以下で述べる歩行訓練は走行訓練を含む)を支援できる。(2)自走可能な走行体に歩行訓練に必要な機材を搭載することで、訓練者への物理的な負荷が軽減される。(3)訓練者と独立して歩行経路を誘導することで、歩行経路の安全性を確保したり、訓練に適した歩行環境の選択が可能となる。(5)歩行環境の認識に基づく歩行訓練者への信号提示により、歩行環境に適した旋回停止のタイミング提示や障害物の警告ができる、(6)歩行訓練者の歩行への適応機能により、訓練者の移動の意図に基づく歩行訓練や現状の歩行形態を逐次的に改善していく訓練方法が実施できる、(7)訓練者の状況に応じた刺激により、訓練者の感覚器に対する直接的な運動認知を強化できる、(8)全身運動を認識することにより、全身の歩行姿勢やバランス、歩行と上肢運動の協調について、運動認知の支援や指示ができる。(9)自走可能な走行体が訓練者と独立して機能することで、訓練者が使用する装具や杖・支持器などの歩行支援器具に関わらず、歩行訓練を行うことができる。(10)訓練指導者と歩行訓練者の歩行状態をともに認識することで、訓練指導者の訓練意図に基づく歩行姿勢の誘導と訓練意図に対応した歩行訓練者の運動評価ができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の移動訓練支援装置(走行体の形態を取る場合)である。
【図2】本発明の使用状態である。
【図3】本発明の電装部構成である。
【図4】本発明の処理の流れである。
【図5】本発明の深度画像による移動状態の検知である。
【図6】本発明の移動環境の状態認識と経路計画である。
【図7】本発明の刺激提示の状況である。
【図8】本発明の映像音響効果である。
【図9】本発明の加速度計測による移動状態検知の実験例である。
【図10】拡張鏡像療法の実現手順である。
【図11】拡張的な計測手段のイメージである。
【図12】実施形態における歩行の3次元計測である。
【図13】拡張的な評価手段のイメージである。
【図14】拡張的な提示手段のイメージである。
【図15】拡張的な誘導手段のイメージ、及び、実施形態において学習された環境地図、教示経路、再現経路である。
【図16】拡張的な再現手段のイメージ、及び、実施形態において壁面や床面に提示された拡張身体像である。
【図17】再現時における歩行状態の評価量の提示である。
【図18】実施形態における走行体の空間的な配置である。
【図19】誘導時における映像パターンの提示である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に説明する本発明に係る移動訓練支援装置の実施の形態としては、訓練者(104)や訓練指導者(105)と独立して自律移動しながら、訓練者(104)の歩行や走行などの移動動作の訓練を支援する装置を備える走行体(以下では走行体(100)と呼ぶ)を用いるものと、同等の訓練支援機能を備える環境(以下では環境システム(300)と呼ぶ)において移動訓練を行うものを提示し、さらに、訓練者(104)または訓練指導者(105)または移動支持器具(106)などに装着して走行体や環境システムの運動計測機能や刺激提示機能を拡張する装置(以下では装着ユニット(200)と呼ぶ)を提示する。

【0045】
以下では、これらの発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。なお、図示された装置の構造や形状は一例であって、本発明は図示されたものには限定されない。

【0046】
図1は本発明の1実施形態である走行体(100)の概略を示す図である。走行体(100)は、図1の符号で示される部品を搭載した自律移動可能なロボットとして実現される。すなわち、二つの駆動輪(125,126)と一つの従動輪(127)を備えて走行可能としており、駆動輪(125,126)を前輪として、前進および後進が可能となっている。この駆動輪(125,126)は操舵可能であり、駆動輪(125,126)を操舵することにより方向を自在に変化させることも可能である。この走行体(100)の本体部には、前方側に赤外線センサ(111)、光学カメラ(112)、レーザセンサ(113)、二つのマイクロフォン(115,116)、姿勢センサ(118)、プロジェクタ(121)およびスピーカ(122)が選択的に搭載されるものである。また、本体部の後方側には、後方用のレーザセンサ(114)が選択的に搭載され、本体部を水平方向に全周するように接触センサ(117)も選択的に搭載されるものである。前記プロジェクタ(121)から照射される映像は、床面等に投影されて投影面101が形成されるものである。

【0047】
また、図2(a)は走行体(100)を使用した場合の移動訓練の状態を示し、図2(b)は環境システム(300)を使用した場合の移動訓練の状態を示している。これらの移動訓練には、訓練者(104)に装着ユニット(200)が装着された状態を例示している。走行体(100)は、図2(a)に示されるように人や環境を認識し、歩行の状態や指示内容を映像および音響により動的に提示しながら、訓練者に先行して移動することで、移動経路の安全性を確保しつつ訓練者の歩行を適切に誘導する能力を備える。図2(b)に示されるように環境システム(300)は、移動体(100)と同等の機能を歩行者の訓練環境に埋め込んだセンサや通信ネットワークを用いて実現する形態である。移動体(100)と環境システム(300)は併用して使用することや、二者のうち一方を単独で使用することも可能である。

【0048】
図3は本発明の移動訓練支援装置(302)の電装部の構成を表す。走行体(100)は、人や環境の状態を検知する検知部(検知手段)(135)を有し、赤外線センサ(111)、光学カメラ(112)、レーザセンサ(113,114)、左右マイクロフォン(115,116)、接触センサ(117)、姿勢センサ(118)などが含まれる。走行体(100)は、図1のように、駆動指令を生成する制御部(制御手段)(134)と、関節リンク機構を備える左右の前輪用モータユニット(123,124)、駆動輪(125、126)、受動輪(127)からなる駆動部(駆動装置)(133)を備える。走行体(100)は、さらに、図3のように映像音響効果を生成する提示部(音響、映像提示手段)(136)として、プロジェクタ(121)、スピーカ(122)を備える。また、走行体(100)は、人や環境の状態認識や行動計画を統合する計算部(処理手段)(133)、走行体(100)の内部や外部に情報を伝送する通信部(132)(通信ネットワーク、無線機を含む)を備える。さらに走行体(100)は、これら電装部に電力を供給する電源部(131)を有し、外部電交流源用の直流変換器、内部直流電源を備える。

【0049】
装着ユニット(200)は、訓練者や訓練指導者や歩行支持器具の運動を計測する運動計測部(201)を有し、加速度センサ、角速度センサ、地磁気センサを備える。装着ユニット(200)は、訓練者や訓練指導者に刺激を提示する刺激提示部(202)を有し、振動モータ、電気刺激器を備える。

【0050】
外部計算装置(301)は、必要に応じて設けられるものであって、移動訓練の環境あるいは遠隔地(介護・訓練施設の制御室など)に設置された計算部(133)、外部計算装置に電力を供給する電源部(131)、外部計算装置の内部や外部に情報を伝送する通信部(132)を有する。

【0051】
前記の走行体の構成部品は、走行体の形態に限らず、移動訓練の環境内に敷設することも可能である。環境システム(300)は、走行体(100)と外部計算装置(301)を環境に敷設したシステムであり、環境システム(300)と装着ユニット(200)を合わせたものが、本発明の移動訓練支援装置(302)である。

【0052】
走行体(100)の本体部には人や環境を計測するための検知部(135)が設けられている。検知部は、赤外線センサ(111)、光学カメラ(112)、前後レーザセンサ(113,114)、接触センサ(117)、姿勢センサ(118)、左右マイクロフォン(115、116)を備える。赤外線センサ(111)は訓練者や訓練指導者などの人の全身運動などを計測する。光学カメラ(112)は訓練者などの人や歩行環境などの画像を計測する。レーザセンサ(113,114)は、訓練者や訓練指導者などの人の脚部や歩行経路上の障害物などを含む歩行環境の空間構造を計測する。接触センサ(117)は障害物や人などとの接触を計測する。姿勢センサ(118)は、走行体や内部の関節リンクの末端などの姿勢を計測する。マイクロフォン(115,116)は、訓練者や訓練指導者の音声による指示内容や環境音を聴取する。

【0053】
走行体(100)には駆動機構が設けられており、左右の駆動輪(125,126)の回転動作を制御するための左右モータユニット(123,124)を備える。モータユニット(123,124)は、モータの回転量を計測するためのエンコーダとモータの駆動を制御するモータドライバを備える。制御部(134)はモータドライバに駆動指令を伝送し、モータドライバはモータユニットの駆動を制御する。モータユニットで計測されたモータの回転量は、モータドライバを介して制御部へ伝送される。走行体(100)の本体部には、動力が伝達される駆動輪(125、126)と本体を支持し受動的に回転する受動輪(127)を備え、検知部の赤外線センサ(111)と光学カメラ(112)、提示部のプロジェクタ(121)には姿勢を動的に変更するための関節リンク機構を備える。関節リンク機構の姿勢は、前記の駆動輪(125.126)と同様にモータユニット(123,124)により制御される。

【0054】
走行体(100)には電源装置(電源部)(131)が設けられており、電源切替器、交流直流変換器、充電池を備える。走行体(100)には、走行体(100)に搭載された充電池からの給電と、電源ケーブルと直流交流変換器を介した外部電源(図示せず)からの給電が可能であり、これらは電源切替器による切り替えが可能である。充電池にはリチウムポリマー充電池などの小型の直流電源を用いる。

【0055】
走行体(100)と外部計算装置(301)には計算装置(計算部:処理手段)(133)を備える。走行体(100)の計算機能は、軽量化のために車載用のボードPCあるいは小型マイコンなどの小型装置により実現される。走行体(100)の計算装置(133)は、低次の情報処理(センサやモータの入出力データ処理など)や高次の情報処理(歩行状態、環境状態、器具状態の認識、歩行経路の計画、映像音響効果の生成など)を行う。前記の高次の情報処理は、走行体(100)に搭載された計算装置(133)で行う代わりに、通信装置(通信部)(132)とワークを介してデータを外部へ転送することで、外部計算装置(301)で行うこともできる。

【0056】
走行体(100)の計算処理は、機能単位ごとに独立したプロセスが相互に通信することによりモジュール化されている。これらの計算処理のプロセスは、走行体(100)のみならず後記の装着ユニット(200)や外部計算装置(301)で実行して相互に連動させることで、走行体単体で実現される移動訓練支援の計算能力を拡張することができる。

【0057】
図4は、本実施形態を作動させるための各フローを示すものであり、図4(a)のフローチャート(401)は、走行体(100)または環境システム(300)全体の処理の流れを示し、(b)は計測対象者(訓練者等)の検知のためのフローチャート(410)を示し、(c)は、走行体(100)の利用形態を三種類に分類したときのフローチャート(420,421,422)を示し、(d)は、制御部(制御手段)による駆動車輪(125,126)および関節リンク機構を駆動させる際のフローチャート(423)ならびに映像音響パターンを表示する際のフローチャート(424)を示す。そこで、これらのフローチャートを参照しつつ各構成を詳述する。

【0058】
図4(a)に示されているように、走行体(100)または環境システム(300)は、走行訓練の環境における移動経路を訓練者または訓練指導者が教示する動作モードと、訓練者の歩行状態や環境の現状に基づいて教示された移動経路を再計画しながら訓練者を誘導する動作モードを有し、動作開始時に使用者(訓練者または訓練指導者)によって選択的に設定される。なお、以下の説明においては、走行体(100)の機能を中心に説明することとする。

【0059】
訓練者または訓練指導者は、走行体(100)に移動訓練の教示あるいは誘導を選択し、走行体(100)を機能させる。教示、誘導のいずれの動作モードにおいても、走行体(100)は人や環境や器具や走行体内部の状態を各種センサにより検知する(402)。走行体(100)は、検知結果に基づいて人や環境や器具の状態認識(訓練者や訓練指導者の走行状態の認識、走行環境の状態の認識、走行支持器具の状態の認識など)や、走行体の行動計画(移動経路計画や関節リンクの姿勢変更計画)などの計算処理(処理手段)を行う(403)。走行体は、これらの認識や計画にもとづいて、行動指令(移動制御、関節リンクの姿勢制御)などの駆動制御を実施(404)(制御手段の実行)し、訓練者や訓練指導者への映像音響パターンの生成や映像音響パターンの提示を行う(405)(提示手段の実行)。走行体は、動作の終了が選択されるまでこれらの一連の処理を繰り返し行う。

【0060】
前記の全体処理(401)は、走行体(100)を用いる場合のみならず、これらの要素が埋め込まれた形態の環境システム(300)(図2(b))でも同様に実施される。ただしその場合は、走行体自体の移動計画や駆動指令の実行については省かれる。

【0061】
訓練者や訓練指導者(以下、計測対象者と呼ぶ)の移動状態は、前記の検知部(人計測部、環境計測部、画像計測部、音響計測部、接触・姿勢計測部を含む)により計測される。移動状態の検知では、移動状態を表す特徴量として、計測対象者の移動速度、脚部の着地の時間間隔、一歩あたりの移動距離(歩幅)が検知される。図4(b)に示す手順(410)は移動状態の検知の流れを表す。

【0062】
計測対象者の移動状態の検知は、赤外線センサ(111)の深度画像計測を用いる方法の処理手順(411)と、装着ユニットの加速度計測を用いる方法の処理手順(412)があり、移動支持器具(106)を用いる場合は、器具の移動状態を検知し深度画像を補正する方法の処理手順(413)を用いる。

【0063】
移動状態の検知は、深度画像を用いる方法の処理手順(411)と加速度計測を用いる方法の処理手順(412)のいずれの方法でも、計測対象者の身体部位(主に胴体部)の3次元位置や速度振幅の計測(S-11,21)と移動速度を算出し(S-12.22)、着地の検知を行って(S-13-23)着地の時間間隔を計測する(S-14.24)。着地の時間間隔は、着地時刻と前回の着地時刻の時間間隔とする。なお、移動開始時(一歩目)や一定時間以上停止していた場合は、前回の着地時刻を直前の動き始めの時刻として、着地の時間間隔を計算する。着地の時間間隔に移動した距離(移動量)を算出し(S-15,25)、それを歩幅とする。最後に歩幅を累積して移動開始時からの移動距離を算出する(S-16,26)。

【0064】
深度画像計測による方法の処理手順(411)は、計測対象者に装置ユニット(200)を装着する必要がないことが長所であり、計測対象者の運動が赤外線センサ(111)の視野内に限られる点が短所である。一方、加速度計測による方法(412)では、計測対象者の移動が数十メートルの装着ユニット(200)の伝送領域内において自由である点が長所であり、計測対象者に装着ユニット(200)を装着することが必要である点が短所である。また、これらの方法は併用することも可能である。例えば、手順(412)の方法で着地の検知を行い、その間の移動量を手順(411)の方法の位置情報から計測することもできる。

【0065】
深度画像計測を用いる方法の処理手順(411)では、計測された深度画像から訓練者の身体部位の位置を検出する。図5は深度画像上の計測対象者の状況を表す。既存の赤外線センサ(Microsoft社製Kinect(商標)やASUS社製Xtion PRO LIVE(商標)など)を利用することで、深度画像から身体部位(例えば、頭、首、肩x2、肘x2、手x2、胴、腰、腿x2、膝x2、足x2)の3次元位置を取得できる。これらの3次元位置は走行体(100)の運動などによる赤外線センサ(111)の位置変化や姿勢変化の影響を補正することで、移動環境に対する絶対座標系(例えば歩行環境のある位置を原点とし、鉛直方向に1軸、床面上に2軸の直行軸を有する座標系)で表すことができる。訓練者の基準点は、深度画像より抽出された胴部の位置とする。胴部の水平面内の移動ベクトルをr、速度ベクトルをvとすると、vは、数1により推定される。

【0066】
【数1】
JP2016073630A_000003t.gif

ただし、tは現在時刻、δtは適当な短時間間隔である。図4(b)の処理手順(410)の着地の検知は、片足の3次元位置の鉛直成分が現在時刻tを中心とする前後の適当な長さの時間間隔において極小値をとるときの時刻tとする。鉛直成分xの計測ノイズはローパスフィルタなどのノイズ処理により軽減される。検出された前回の着地時刻tpと今回の着地の時刻tの時間間隔tc-tpが着地の時間間隔であり、その間の移動距離δrは、数2により推定され、これを歩幅と定義する。

【0067】
【数2】
JP2016073630A_000004t.gif
訓練者の移動状態は、赤外線センサ(111)と光学カメラ(112)の情報を統合することで、より詳細に計測することができる。光学カメラ(112)の光学画像と赤外線センサ(111)の深度画像は、計測領域の位置合わせを事前に行うことで統合され、深度画像と光学画像はそれぞれ領域抽出とテクスチャ抽出に用いられる。図5の領域(505)は深度画像で対象者に適合した骨格モデルの特徴点に基づいて決定された領域であり、この領域(505)に対応する局所画像を光学画像から抽出することで、顔、手、足などの身体領域の静止画や動画を取得できる。訓練者が移動支持器を用いる場合は、後記の器具状態認識によって移動支持器具(106)の画像を抽出でき、移動支持器具(106)の領域が補正された深度画像をここでの移動状態の検知手順(411)に用いることで、移動支持器具(106)の影響なしに人の抽出を行うことができる。

【0068】
ここで得られる全身の運動学的な状態や映像による外観は、歩行訓練時の訓練者への運動認知や運動指示に活用できる。歩行時の全身の姿勢や歩行と上肢運動との協調などの運動力学的な解析に役立つ。取得された表情に対しては、表情認識を行うことで歩行訓練時の心理状態を推定できる。歩行状態の認識は複数人であってもよく、後記にあるように訓練者と理学療法士などの訓練指導者の両者の歩行状態を認識することもできる。

【0069】
図4(b)に示されている加速度計測を用いる方法の手順(412)では、装着ユニット(200)で計測される加速度から計測対象者の身体部位の位置を検出する。装着ユニット(200)は、加速度センサにより身体部位の運動を計測し、通信装置を介してデータを走行体(100)または外部計算装置(301)に転送する。計測対象者の運動計測は前記の走行体に搭載された赤外線センサ(111)や光学カメラ(112)などによっても行えるが、これらの視覚センサでは床への着地を直接的に検知することは難しい。一方で、装着ユニット(200)を計測対象者に装着した場合は、着地により発生する衝撃を検知することで、着地を直接的に検知できる。加速度センサは着地に限らず、物理的な接触による腕や移動支持器具(106)などへの衝撃を検出することもできる。

【0070】
装着ユニット(200)には、加速度センサに加えて角速度センサと地磁気センサを備えることで、加速度センサの姿勢に依存せずに装着部位の加速度を計測できる。この加速度の計測値に基づいて、手順(412)における計測対象者の移動量、歩幅、移動距離を計算できる。

【0071】
まず、加速度センサで計測された加速度値からセンサを装着している身体部位の加速度を計測する。前記と同様に計測対象の基準位置を計測対象者の胴部とし、装着ユニット(200)を胴部に装着する。装着ユニット(200)の加速度センサの計測値は、加速度センサに固有な座標系の値であるため、加速度センサ、角速度センサ、地磁気センサを複合して姿勢を推定してこれを用いることで、移動環境に対する座標系での計測値への補正を行う。姿勢の推定には、これらのセンサ計測値に対してカルマンフィルタを用いる。以上より、移動環境に対する座標系での重力加速度を除いた加速度aを取得する。次に、速度推定を行う。速度と距離は加速度aに積分を繰り返すことで得られるが誤差を含んだ値となるため、速度の変動の大きさが進行方向の速度の大きさと相関することを利用して誤差を低減する。速度振幅v'(i=1,2,3の表記により、水平面内の移動進行方向、水平面内の移動進行方向に垂直な方向、鉛直方向の速度成分を表す)は、数3で計算される。

【0072】
【数3】
JP2016073630A_000005t.gif
ここでa(i=0,1,2)はv(i=0,1,2)に対応する加速度ベクトルを表す。vは加速度の短時間平均を表す。δTは、短時間平均を行う時間間隔を表す。

【0073】
これまでに速度振幅の移動進行方向の成分から移動速度を推定する方法(以下、従来法という)が提案されているが、本発明において移動の全方向の成分(移動進行方向、水平面内の移動進行方向に垂直な方向、鉛直方向)の各成分についても速度振幅と進行方向速度の相関関係があることに着目し、本発明ではこれらの3つの成分を持つv'を用いて移動速度の推定を行う。移動速度の推定値vは、数4により得られる。

【0074】
【数4】
JP2016073630A_000006t.gif
ただし、fはパラメータ集合Wを持つ非線形関数または線形関数とする。非線形関数は、高次多項式や多層パーセプトロンなどにより実装できる。事前に採取した入出力データを満たすようにWを最適化することで関数fは得られる。時刻0から時刻tの間の移動距離δr(t)は、数5により得られる。

【0075】
【数5】
JP2016073630A_000007t.gif
ただし、v'は移動進行方向のvとする。前記の姿勢補正された加速度aの時間変化に対してピーク値をもつ時刻を着地時刻として、前記の移動状態認識の計算により着地の時間間隔を計算し、その時間間隔に対して上記のδrの積分を行うことで歩幅を得る。さらに、数6に従って訓練開始時からの歩幅を加算していくことで、移動訓練中の移動距離rを得る。

【0076】
【数6】
JP2016073630A_000008t.gif
ただし、δriはti-1からtiまでの移動距離(歩幅)を表し、t0は移動開始時刻、tNは移動終了時刻、Nは移動開始から移動終了までの歩数とする。

【0077】
本発明の走行体(100),環境システム(300)は、訓練者が使用する移動支持器具(106)と物理的に独立して機能するため、訓練者は移動訓練に適した既存の移動支持器具(106)を本発明と併用することができる。移動支持器具(106)には、脚部に直接装着する装具、杖型の移動支持器具、掴まり立ち用の移動支持器具など、様々な移動支持器具の使用が想定でき、訓練の経過に応じて使用する移動支持器を変更することも可能である。走行体(100)や環境システム(300)は、訓練者の移動状態と合わせて移動支持器具(106)の運動状態を認識することで、移動支持器具(106)の操作を含めた移動状態の認識や運動指示ができる。つまり、移動支持器具(106)を足の一部あるいは第3の足と見なした移動訓練の支援が可能となる。

【0078】
移動支持器具(106)は様々な形状や機能をもつものが存在するため、使用する移動支持器具(106)の形状や挙動を学習して認識する機構が必要である。移動支持器具(106)の検知は、前記の装着ユニット(200)に搭載された加速度センサを用いる方法と、光学カメラ(112)の光学画像と赤外線センサ(111)を用いる方法で計測が可能である。装着ユニット(200)を用いる方法では、移動支持器具(106)に装着ユニット(200)を装着することで、手順(412)により、移動支持器具(106)の加速度や速度を直接的に取得できる。

【0079】
光学カメラ(112)と赤外線センサ(111)を用いる方法では、移動支持器具の領域を特定し、追跡を行いながら器具の運動状態を検知する。検知の流れを、図4(b)の手順(413)に示す。前述の手順(411)の深度画像の計測による検知手段では、移動支持器具(106)の存在の影響により、計測対象者の身体部位の抽出が失敗する場合がある。これは、身体部位の抽出に用いられる人の骨格モデルが移動支持器具(106)などの道具の使用を想定していないために発生する。

【0080】
この問題を解決するために、光学画像を用いる方法の手順(413)において、深度画像から移動支持器具(106)の領域を無限遠として補正し、補正後の深度画像を前記の深度画像を用いる方法の手順(411)の計測対象者の状態の検知に用いる。

【0081】
光学画像と深度画像を用いる方法の手順(413)では、移動支持器具の領域を移動訓練の開始時に特定し、移動訓練中はその領域を追跡することで検出を行う。まず、移動訓練の開始時に移動支持器具(106)を提示して、赤外線センサ(111)と光学カメラ(112)で撮影する。次いで、移動支持器具(106)に添付した光学マーカ(特定色のラベル)(504)を光学画像上での色識別により検出する(S-31)。なお、光学マーカ(特定色のラベル)(504)は、事前に移動支持器具(106)に添付しておく。次いで、深度画像上で相対的に近距離な領域を、移動支持器具(106)の領域と見なし(S-32)、深度画像上の移動支持器具(106)の領域と光学マーカの位置関係から、光学マーカの位置を特徴点とする移動支持器具(106)の骨格モデルを作成する(S-33)。移動訓練中は、まず、光学画像上で光学マーカを抽出し、それらを特徴点として深度画像上で骨格モデルを当てはめることで、移動支持器具(106)の領域を照合し(S-34)、照合された特徴点を追跡する(S-35)。追跡中の移動支持器具(106)の特徴点の3次元位置、速度、加速度を運動状態を算出し、移動支持器具(106)の運動状態と見なす。ただし、3次元位置は移動環境に対する絶対座標系に変換した値とする。最後に、深度画像上の移動支持器具(106)の領域の深度を無限遠として補正する(S-36)。なお、移動訓練中は、骨格モデルの生成までのステップ(S‐31~S‐33)は省かれるものとする。

【0082】
走行体(100)または環境システム(300)は、前記の検知手段の手順(402)により、訓練者(104)、訓練指導者(105)、移動支持器具(106)の移動状態を検知した後に、移動環境の認識と移動の計画の処理手順(403)を実行する。図6は移動環境の状態認識と経路計画を表す。走行体(100)は、自律的に移動しながら移動環境の地図を自動で作成し、自己(走行体)の位置と姿勢を同定する。レーザセンサ(113,114)は現在位置を基点とする移動環境の水平面内の深度データを計測する。本発明に用いるレーザセンサには、既存のレーザセンサ(北陽社製URG(商標))などを用いることができる。計測された局所的な深度データから移動環境の地図生成と自己位置・姿勢同定を同時に行うことができる。地図生成と自己位置姿勢の同時推定には、既存の手段(ROS-gmapping(wiki.ros.org)など)を用いる。

【0083】
走行体(100)は、教示あるいは誘導のいずれの動作モードであるかを前提にして、状況の認識と行動計画を適宜実行する。移動経路の教示と誘導は、図4(a)の手順(401)に示されるように、走行体の開始時に人が選択する。

【0084】
図4(c)の手順(420)は、パワーアシスト操作による教示時の認識・計画を表す。パワーアシスト操作(420)では、訓練指導者(105)が走行体(100)に与えた負荷力を力センサで計測し、力の並進成分と回転成分を教示意図として、走行体(100)を駆動させるための移動目標位置を算出する。

【0085】
図4(c)の手順(421)は、追従操作による教示時の認識・計画を表す。追従操作(421)では、訓練指導者の位置を計測して、訓練指導者(105)の予測移動位置を教示意図として、走行体(100)を駆動させるための移動目標位置を算出する。訓練指導者(105)の予測移動位置は、水平面内の移動速度ベクトルを計測し、短時間経過後の移動位置を移動目標位置とする。予測移動位置は、前記の赤外線センサ(111)とレーザセンサ(113、114)で計測される。追従操作の手順(421)では、前記の検知手段により取得される計測対象者の3次元位置の変化をもとに、走行体を追跡させるための行動計画を行う。レーザセンサ(113、114)による計測対象者の追跡は、近距離領域で抽出された円弧形状の物体(追跡対象者の足に相当する)を追跡対象として認識させ、追跡対象者の水平面内の速度ベクトルの延長線上に移動目標位置を設定することで実現される。

【0086】
図4(c)の手順(422)は、訓練者(104)の誘導時の認識・計画を表す。訓練者(104)の誘導時には、前記の手順(421)の赤外線センサ(111)を用いた方法で訓練者(104)と走行体(100)の間合いを認識し、移動目標位置を設定する。連続的に移動し過ぎると、後記の映像音響パターンの提示に影響がでるため、訓練者(104)が必要以上に近づいたら、移動経路を進み、そうでない場合は、その場に待機する。

【0087】
図6の符号(600)は移動経路の教示時の状況と誘導時の移動経路の再計画を説明するための経路平面を表す。図6の符号(601)は移動経路の教示時の状況を説明するための経路平面を表す。移動経路の教示時は、訓練指導者(105)による前述のパワーアシスト操作(420)や、先導による追従操作(421)によって行う。走行体(100)は、移動と同時に移動環境の地図を作成する。移動経路の教示は、訓練指導者(105)が移動を実演して教示する他に、走行体が生成した地図上に訓練指導者(105)が経由点(613)を与えて、走行体のシステムに経由点を結ぶような移動経路を生成しても構わない。その場合は、まず、走行体(100)が事前に移動環境を自律的に探索して地図を生成する必要がある。あるいは、走行体(100)のシステムが地図上に経由点(613)生成して、移動経路を構築しても構わない。

【0088】
図6の符号(602)は移動経路の誘導を説明するための経路平面を表す。移動訓練時は、事前に計画した移動経路に基づいて移動経路を動的に再計画して、訓練者を誘導する。一般に、移動経路の教示時と実行時の環境は異なる可能性があり、移動経路の状況に応じた動的な調整が必要である。例えば、移動経路上に人(612)や物などの障害物(615)などが入り込む場合や、訓練者(104)の意思により移動経路を変更したり、移動訓練を中止したい場合がありえる。計画された移動経路上に障害物(615)を検出した場合は、障害物(615)を回避しつつ、事前に計画した移動経路に復旧するよう動的に経路を変更しながら誘導を実行する。訓練者(104)を含む障害物への衝突を接触センサが検出した場合は、一旦後退して障害物を回避するか、または停止して訓練者(104)や訓練指導者(105)の指示を待機する。

【0089】
これまでの移動訓練では、運動中に運動状態の認知を強化したり、状況に応じて動的に運動の指示を行うことが困難であったが、本発明では、走行体(100)や環境システム(300)が訓練者(104)の移動状態を認識して、映像音響の信号や身体部位への刺激により訓練者(104)の運動情報を帰還することで、訓練者(104)の運動認知が強化され運動計画も明確になる。また、訓練者(104)の運動状態とともに訓練指導者(105)の運動状態や訓練者(104)が使用する移動支持器具(106)の運動状態も認識することで、より効果的な運動情報の提示ができる。運動情報の提示には、映像、音響、振動、電気などの刺激を用いる。

【0090】
図7に本発明の刺激提示を示す。視覚刺激(701、702)や聴覚刺激(703、704)は、平衡感覚、筋紡錘の運動感覚、足裏皮膚の触覚などより得られる体性感覚を補う。視覚刺激(701、702)や聴覚刺激(703、704)は、走行体(100)や環境システム(300)が訓練者(104)に接触せずに提示できる。また、装着ユニット(200)を用いることで、訓練者(104)の身体部位(例えば足首や手首などに)に直接的な振動や電気などの触力覚刺激(705、706)を与えることができる。

【0091】
前記の訓練者(104)、訓練指導者(105)、移動支持器具(106)の移動状態の検知手段より、訓練者(104)が足を踏み出すことで次の踏み出し位置を表す映像パターン(701)や着地のタイミングを表す音響パターン(703)を提示できる。また、訓練指導者(105)が足を踏み出すことで、同様の映像パターンと音響パターンを提示することもできる。従って、本発明は、訓練者本人の自主的な訓練とともに訓練指導者の運動教示にも利用できる。さらに、移動支持器具についても、移動目標位置を表す映像パターン(702)や器具の着地のタイミングを表す音響パターン(704)を提示することで、移動支持器具(106)の操作を含めた運動の認知や運動の指示が行える。

【0092】
装着ユニット(200)を装着する場所は、訓練者(104)の症状、リハビリが必要な身体部位、訓練方針などを考慮して決定される。例えば、胴、左右の手首、足首や使用する移動支持器具などに取り付ける。刺激指令は走行体(100)または外部計算装置(301)で管理し、これらの装置から装着ユニット(200)に刺激指令が伝送され、装着ユニット(200)が実行する形態を取ることで、装着ユニット(200)の計算処理を軽減することができる。

【0093】
装着ユニット(200)に備えられた刺激提示部(202)は、足の振り上げ前や着地時にモータを振動させることで、身体の特定部位に直接的な触力覚刺激(705,706)を与えることができる。また、刺激の提示には、振動による触力覚刺激の他に、電気刺激などを用いても構わない。いずれにせよ、これらの刺激を用いることで、訓練者(104)本人の着地の認知を高め、訓練効果を高めることができる。装着ユニット(200)による刺激提示は、訓練指導者(105)の足に装着ユニット(200)を装着することで、訓練指導者(105)が実演する運動状態に基づいても実行できる。それにより、訓練者(104)は着地のタイミングや運動が指示されている身体部位の場所(例えば、これから踏み出す方の足)を直感的に知覚することができる。

【0094】
走行体(100)または環境システム(300)は、訓練者(104)に視覚刺激と音響刺激を与えながら、移動訓練を行う。提示される映像パターンは、前記の符号(701)や符号(702)で示す形状などに限られず、任意の映像パターンを投影できる。図8は移動訓練を行う上で有用な映像音響効果を表す。足の踏み出し位置を示す映像パターン(701)の形状は任意であり、単純な足型のパターンや訓練者(104)の足の光学画像であっても良い。訓練者(104)の足の外観は、訓練時に着用しているスリッパ、靴、靴下などの影響により日々異なると考えられるが、訓練開始時に走行体の光学カメラ(112)で撮影した訓練者(104)の足画像を用いることで、足の踏み出しの想像が容易となり、移動訓練の臨場感も高まる。足型の映像パターン(701)は、図8のように数歩分を同時に提示しても、踏み出し毎に一歩ずつ提示しても構わない。これらの足型の映像パターンとともに、歩幅の目安となる基準線(807)を提示できる。同様に、前記の移動状態の検知手段によって検知された歩幅、歩速、歩行距離を表す映像パターン(804)や、前記の移動環境の認識・計画の処理手段によって生成された環境地図と移動経路(805)、遠隔地にいる訓練指導者の映像音声情報や訓練者自身の運動状態の映像を表示するコミュニケーション画面(802)なども提示できる。環境地図(805)に開始位置、現在位置、目的位置などの情報を加えたり、将来の移動経路の方向(803)を提示できる。これにより、訓練者(104)にとって移動訓練が明確となり、周囲にいる人(612)に対しても、走行体(100)や訓練者(104)の将来の移動を把握にも役立つため、移動訓練の安全性が高まる。

【0095】
歩行訓練において自己の歩行リズムを正しく認知することは、歩行リズムに回復する上で重要である。特に着地のタイミングの認知は歩行において重要であり、聴覚刺激で移動時や移動後の歩行リズムを提示することは、移動訓練において効果が高い。左右の足の着地に対して異なる音高や音色の音響パターンを用いることで、左右の足の着地の認知を独立して強化させることもできる。また、メトロノームのようなペース音を生成することで、標準的な歩行周期を提示することもできる。また、音響刺激は着地のタイミングを提示する音響パターン(703)に限らず、訓練者(104)や訓練指導者(105)に対して、訓練パラメータの設定、訓練の開始、訓練の継続、訓練の終了などを知らせるための音響パターンや音声ガイドにも利用できる。前記の映像パターンの投影と連動させて、遠隔地にいる人と会話しながら訓練を行うこともできる。

【0096】
このような移動しながらの映像音響パターンの提示は、歩行訓練に達成感ややりがいを与え、歩行訓練の意欲の向上させることにも効果的である。また、訓練者が歩きたい場所へ歩行訓練を誘導する機能は、従来型の設備内で行う歩行訓練支援装置では実現できなかった機能であり、目的地に行くことや好みの場所を周回するなどの行為を通して、歩行訓練の楽しみや歩行訓練を継続する上での意欲を向上させる。

【0097】
次に、走行体を用いて機能を拡張させた歩行訓練支援装置に係る実施形態(歩行訓練支援に関する拡張機能)について説明する。

【0098】
前掲の特許文献に開示されるように、これまでの歩行訓練支援装置では、歩行評価において全身運動の考慮が十分でなく、訓練対象者の現状の歩行状態と目標の歩行状態を連続的に結びつけた歩行誘導や、歩行環境を活用した歩行状態の効果的な提示が実現されていない。

【0099】
本実施形態の走行体を用いた歩行訓練支援に関する拡張機能は、訓練対象者と独立した走行体を用いて訓練対象者の運動認知を強化し、歩行運動を効率的に誘導するための拡張的な計測、評価、提示、誘導、再現手段を有し、前項の問題を解決するものである。運動認知とは、訓練対象者自身が運動の状態を認知することであり、運動の状態は、身体の3次元における姿勢全般(後述の傾きや各部位の動き)に及ぶものである。

【0100】
この点について、例えば、前掲の特許文献10(特開2011-229838「自立式の走行支援装置」)では、移動式の杖として訓練指導者と一体化し、映像投影を用いて足運びを指示して歩行を誘導する。当該の技術では、訓練対象者と装置の一体性により平行棒などの他の支持器具との併用が難しく、行動制御が訓練対象者に従属的となるため、訓練対象者から離れた3次元的な全身運動計測や、歩行環境を利用した広領域な運動状態の提示及び指示が難しかった。

【0101】
本実施形態では、歩行運動の3次元的な計測と再構成に基づく訓練方式を実現する。本実施形態は、訓練対象者と独立した走行体を自律制御して、自由空間における訓練対象者の3次元的な身体運動情報を各種センサで計測して統合し、訓練対象者や訓練指導者が直感的に理解しやすい身体像の運動として再構築する。歩行時やその前後において、訓練意図に応じて身体像の運動を調整して訓練対象者に提示することで、訓練対象者の歩行を誘導したり、歩行の運動認知を強化する。

【0102】
当該の3次元的な計測と再構成に基づく訓練方式の実現により、自由空間での歩行時の全身運動評価が可能になり、訓練対象者と走行体が独立していることで、訓練対象者は症状に対して最も望ましい支持器具を使用できる。また、走行体が訓練対象者より先行して歩行環境を走行するため、歩行床面の安全性を事前に確認でき、周囲にいる人物がいる状況でも歩行する空間を前もって確保できる。さらに、先行する走行体の存在感や身体性は、走行体が訓練対象者に映像、音響、振動を用いて提示する物理的な歩行目標とともに、訓練対象者の心理的な歩行目標となり、訓練に一緒に付き添う存在として訓練対象者に訓練への動機を与えることにも寄与する。

【0103】
本実施形態で実現される歩行訓練方式を、拡張鏡像療法(Augmented Mirror Therapy: AMT)と表記する。拡張鏡像療法では、人間の全身運動を3次元的に計測して歩行環境と空間的に対応づけて記録し(拡張的な計測手段と表記する)、計測した運動を評価し訓練意図に基づいた調整を施して再構成し(拡張的な評価手段と表記する、また、再構成された身体運動情報を拡張身体像と表記する)、拡張身体像を人間が直感的に認知できる形に提示するための計算処理を行い(拡張的な提示手段と表記する)、歩行訓練時に拡張身体像を提示して歩行を誘導したり(拡張的な誘導手段と表記する)、歩行訓練後に拡張身体像を提示して訓練対象者の現状や理想の歩行運動の理解を促す(拡張的な再現手段と表記する)ことで、運動機能を回復させる訓練方式である。なお、前述の拡張身体像には、身体の空間的な特徴に加えてその運動情報も含まれる。これらの各手段は、走行体に搭載される処理手段によって処理されるものであるが、その処理の一部が当該走行体とは独立して固定された処理手段で処理させてもよい。異なる処理手段によって処理する場合には、両者間を伝送手段によって送受信させるように構成されることとなる。

【0104】
また、本実施形態は、走行体の形態により自由空間で訓練対象者に伴って回復訓練を支援できるため、訓練対象者が空間を移動する歩行運動に対して最も高い効果が期待されるが、走行体を静止させて当該の機能を使用することで、空間的な移動のない、または移動量の小さい運動、例えば、手先動作などの上肢運動に対する機能回復訓練にも適用できる。

【0105】
拡張鏡像療法の実現手順を図10に示す。当該の歩行訓練方式を実現する装置は、機能を実行するモードとして、「設定モード」、「誘導モード」、「再現モード」を有する。「設定モード」では、装置使用上の各設定値の入力や閲覧、歩行経路の教示や地図生成などを行う。設定値とは、例えば、走行体の基準位置の設定のための値である場合のほか、移動距離または移動速度等の基本的な数値などがある。「誘導モード」では、誘導時の走行体と訓練対象者との位置関係、例えば、前方誘導や側方誘導などの誘導方法を選択し、歩行と環境を計測しながら歩行状態を評価し、歩行目標等を指示(提示)しつつ運動認知を強化しながら訓練を誘導する。「再現モード」では、拡張身体像の再現方法、例えば、床面上の再現や壁面上の再現などを選択し、誘導時に記録した現状の歩行動作や訓練目標の歩行動作を再現して、訓練対象者の理解を高める。

【0106】
拡張的な計測手段のイメージを図11に示す。走行体は、本図に示されるように訓練対象者とともに自由空間を移動しながら、歩行時の全身運動を3次元計測する。歩行の3次元計測は、環境の座標系で表現された走行体の位置姿勢計測と、走行体の座標系で表現された訓練対象者の全身運動計測を統合することで実現される。これにより訓練対象者の歩行運動を歩行環境に対応づけて記録できる。

【0107】
本実施形態における歩行の3次元計測の結果を図12に示す。走行体の位置姿勢計測は、走行体に搭載されたレーザセンサと公知の処理手段(Simultaneous Localization and Mapping: SLAM)により実現される。SLAMによって、環境地図を作成すると同時に走行体の位置と姿勢を推定することができる。

【0108】
本発明の実施形態における走行体の空間的な配置を図18に示す。走行体は円柱形状を成しており、本図は側面と上面から走行体を俯瞰した配置を表す。本図において、点Oは走行体の基準位置、点Aはプロジェクタの光源位置、点Gはレーザセンサの測定位置、線分ADはプロジェクタの光軸上の線分、線分DBは画像空間の縦軸に対応し、(XR,ZR)平面はレーザセンサの計測平面とする。環境の座標系における行体の基準位置を(xR,yR,zR)とすると、レーザセンサより角度θ、距離rの点の(XR,ZR)平面への垂線の足(すなわち床面上の点)の座標(x,y,z)は、数7で表される。

【0109】
【数7】
JP2016073630A_000009t.gif
以上より、走行体がレーザセンサで計測した位置より床面に下ろした垂線の足の位置は、環境の座標系で表現される。

【0110】
訓練対象者の全身運動計測は、走行体に搭載された各種センサと対象者に装着したセンサを用いて実現される。膝下の足位置は、主にレーザセンサで計測される。膝上の全身運動は、主に赤外線センサで計測される。足の着地検知や前述のセンサで計測しづらい身体部位の局所的な運動は、主に訓練対象者に装着した加速度センサや角速度センサなどで計測される。全身運動の外観は、主に光学カメラで計測する。各種センサより得られる計測情報には重複する部分があるが、各センサがそれぞれ最も高い精度で計測できる部位や種類の情報を抽出して統合する。

【0111】
前項の足位置の計測では、足の形状特徴を利用することで検出精度を高めることができる。足の水平面内における断面を楕円と仮定し、レーザ計測の隠れを考慮した楕円弧のパターンを抽出することで足を検出できる。また、映像パターンを利用して訓練対象者の立ち位置を指示し、その近傍からパターンを抽出すると検知が容易となる。さらに、一度検出したパターンに対してその移動を予測しながら追跡することで、訓練対象者が移動しても継続して足位置を検出できる。

【0112】
前述の走行体の位置姿勢計測を訓練対象者の全身運動計測と統合することで、訓練対象者の全身運動を環境の座標系で記述される3次元的な身体像が成す運動としてモデル化することができる。なお、生成された環境地図や光学カメラの撮影情報より得られる歩行対象者の周囲の状況、例えば、歩行床面の状況や周囲の人物及び障害物の有無なども、歩行の全身運動や歩行経路と合わせて記録する。これにより、誘導時の対人コミュニケーションの有無や、誘導経路から離脱した原因など、歩行環境が及ぼす歩行状態への影響なども評価できる。

【0113】
拡張的な評価手段のイメージを図13に示す。走行体は、全身の各部位の位置情報と質量分布情報を用いて、誘導時の重心位置や身体の傾斜を評価する。例えば、全身の前傾や骨盤の後傾などの身体バランスは、足運動の計測のみでは推定困難な評価量であるが、本実施形態では足運動の計測から得られる歩幅、歩隔、歩速、歩数、つま先角度、歩行フェーズ、歩行時間、歩行距離などを、前述の全身運動と対応づけることで、より高度な歩行評価が可能となる。例えば、歩行時のつま先の可動角度は転倒リスクと相関があることが知られており、特に、踏み出し時のつま先の可動角度より歩行の危険度を評価できる。また、全身運動計測を一般の歩行評価、例えば、Timed up and go test (Podsiadlo & Richardson 1991)などと組み合わせることで、歩行評価の質を高められる。

【0114】
拡張的な提示手段のイメージを図14に示す。走行体は、前述の拡張身体像や歩行状態の評価量を、映像、音響、振動による刺激として訓練対象者に提示する。走行体には、プロジェクタ等の投影手段が搭載されており、壁面や床面など訓練対象者が認識できる位置に映像を提示させることができる。そこで、例えば、床面に投影する場合には次のように処理される。走行体がレーザセンサで計測した位置より床面に下ろした垂線の足の座標(x,y,z)に対応するプロジェクタの画像空間の座標系(ξ,η)は、数8で表される。

【0115】
【数8】
JP2016073630A_000010t.gif
ただし、事前に画像空間の点が投影された場所に棒を立てて、(ξ,η,d)=(0,0,d'')、(ξ,η,d)=(0,n',d')となるd''、n'、d'を計測したものとする。これより、走行体は、プロジェクタの投影が及ぶ範囲で、レーザセンサで計測した任意の位置の真下に映像パターンを表示できる。

【0116】
歩行を誘導する際に走行体が訓練対象者に提示する情報について説明する。映像では、左右の足の踏み出しの目標位置を提示する。映像パターンの提示位置は、前述の実空間と画像空間の対応づけにより調整される。また、映像パターンの色、大きさ、形状は、訓練対象者の歩行状態や立脚位置に対応して調整される。例えば、図19に示されるように、評価された重心位置が次の足と支持器具の目標位置が成す多角形の内部に入ると、次の足と支持器具の目標位置が表示されたり、配色で強調されるように設定しても良い。また、壁面に映像を提示する場合は、訓練対象者の歩行姿勢を投影させても良い。現在の歩行目標音響では、着地の目標タイミングを提示する。音響パターンは、右足、左足、杖などの各部位に対応した異なる音高や音色を用いることで、各部位の目標タイミングを区別して提示できる。振動では、走行体が検知した訓練対象者の着地タイミングを提示する。着地の検知タイミングをフィードバックすることにより、訓練対象者の着地の認知が強化され、目標タイミングと実際の着地を同期させることが容易になる。

【0117】
例えば、前述の提示手段を用いて、次に示される歩行の練習が可能である。
A 着地場所を合わせる練習
1 着地の目標位置を映像パターンで教示する。
2 着地位置と着地タイミングを検出して、次の目標位置を提示する。
3 着地位置と目標位置が一致するように練習する。
4 練習後に走行体を移動させて目標位置と検出位置を再現し観察する。
5 着地の目標位置の間隔などを調整して練習を繰り返す。
B 着地リズムを合わせる練習
1 着地の目標タイミングを音響パターンで教示する。
2 着地タイミングを検知して、振動刺激を与える。
3 音響と振動のタイミングが一致するように練習する。
4 練習後に音響と振動を再現して刺激を感覚する。
5 着地の目標タイミングの間隔などを調整して練習を繰り返す。

【0118】
拡張的な誘導手段のイメージ、及び、実施形態において学習された環境地図、教示経路、再現経路を図15に示す。歩行経路は、設定モード時に訓練管理者が走行体をパワーアシストで移動させることで教示する。なお、走行体が訓練管理者を追従する形で歩行経路を教示しても良い。走行体は、前述のSLAMにより地図を生成しながら移動し、それと同時に推定された自己位置の成す軌跡を歩行経路として記録する。これにより歩行経路は、環境を基準とする座標系で表現され、環境地図と対応づけられる。誘導モード時や再現モード時は、訓練対象者と距離を保ちながら教示された歩行経路上を移動して、訓練対象者を誘導する。誘導時の足の目標位置や目標の歩行速度は、訓練管理者の判断に基づいて調整するか、現在の計測情報に基づいて、移動体に自動調整させる。なお、誘導手段は、走行体が先導することにより、訓練対象者に対して大まかな目標位置を提供するとともに、走行体の通過経路が安全であることを提供することができる。また、誘導すべき情報として、提示手段によって映像その他の覚知情報が提供される場合には、理想的な行動姿勢となるべき状態への誘導のほかに、現実の行動姿勢との相違を複数の段階に分割し、歩行訓練者の訓練習熟度に応じて、適宜段階に誘導するものとしてもよい。

【0119】
拡張的な再現手段のイメージ、及び、実施形態において壁面や床面に提示された拡張身体像を図16に示す。走行体は、訓練対象者の歩行運動を拡張身体像として空間的及び時間的に再構成して提示する。走行体の移動は、拡張身体像を実空間で3次元的に再現するように制御される。走行体は、移動しながら実空間や訓練対象者の身体に拡張身体像のもつ位置や運動の情報を提示することで、訓練対象者に現状や理想の歩行状態の理解を促す。

【0120】
拡張的な再現手段によって、訓練対象者は静止した状態で客観的な視点から歩行状態、例えば歩行姿勢などを観察できるため、現状の歩行状態の理解が高まる。また、拡張身体像を生成するパラメータを調整することで、現状の運動状態と理想の運動状態の中間にある運動状態を再現することもできる。例えば、現状の歩幅や歩速などを段階的大きくして歩行運動を再現することで、現状の運動状態から訓練目標に到達するまでの過程をイメージすることができる。

【0121】
拡張的な再現手段によって歩行状態の評価量を提示するイメージを図17に示す。例えば、誘導時の着地位置、重心位置、身体の傾斜などの評価量を実空間を移動しながら床面上に提示することができる。これらの偏りを観察することで、例えば、片麻痺の症状に対する歩行の非対称性なども評価できる。また、訓練対象者が装着する加速度センサや角速度センサの計測値を音響に変換して提示することで、足の振りや手の振りなどの身体部位の運動を直感的に示すことができる。
【実施例】
【0122】
前記実施形態では、加速度センサによる移動の全方向(移動進行方向、水平面内の移動進行方向に垂直な方向、鉛直方向)の各成分について、速度振幅と進行方向速度の相関関係について説明した。そこで、これらの相関関係に基づいて、歩行時の歩幅の検知を実験した。実験は、訓練者を見立てた一般人の足首(両足首)加速度センサを設置し、当該加速度センサから計測される移動進行方向(X)、水平面内の移動進行方向に垂直な方向(Y)、鉛直方向(Z)の全方向について加速度成分を解析し、歩幅を検知することとした。その結果を図9に示す。
【実施例】
【0123】
図9(a)は、加速度の時系列データと着地の検知を表すグラフである。グラフ上部の連続する線は加速度の大きさの絶対値を表し、グラフ下部の点は、着地が検出された時刻を表す。両方のグラフとも横軸は時間(秒)を表す。グラフ上部の縦軸は加速度の大きさ(m/s2)を表す。
【実施例】
【0124】
図9(b)は、速度振幅と移動速度の相関を表すグラフである。横軸はX,Y,Z各座標成分の速度振幅(m/s)、縦軸は移動速度(短時間平均移動速度)(m/s)を表す。グラフ内の各直線は、各成分でのデータ点の分布を近似する回帰直線である。図9(b)より、速度振幅のX,Y,Z方向の3つの成分が移動速度に相関することが分かる。
【実施例】
【0125】
図9(c)は、歩幅に関する従来法との比較を表す。実験の条件は、被験者が歩行した際の歩数番号を横軸にとり、とその歩幅(m)を縦軸として示す。例えば、図9(c)の歩行番号4の値は、歩行中の第4歩目の歩幅を意味する。系列1の折れ線は精度1mm以下の光学計測手法(Vicon(商標))を用いて測定した歩幅であり、本実験ではこれを真値と見なす。系列2は従来法の結果、系列3は本発明の検知手段の結果をそれぞれ示すグラフである。図9(c)より本発明の検知手段の結果が従来法より真値に近く、本発明の検知手段の有効性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明では、訓練者の移動状態、移動環境、移動に使用する移動支持器具の状態を認識して、移動を誘導する移動訓練支援装置を実現した。本発明は、走行体と装着ユニットを介して訓練指導者の運動指示が訓練者に伝達され、運動認知を繰り返し強化するため、訓練者は自己の運動を理解しながら能動的に移動訓練を行うことができる。本発明は、既存の移動支持器具と併用して使用することができるため、様々な症状をもつ利用者を想定でき、本装置の事業化や製品化は有望である。当該の移動訓練の支援の他にも、認知症患者の歩行の付き添いや、移動に限らない全身運動の認知支援にも応用可能である。さらに本発明は、移動式の映像音響認識生成装置としてアミューズメントゲームへの応用や、生産現場における組立作業の訓練などへの転用も見込まれるため、産業上の利用可能性は高いと考えられる。
【符号の説明】
【0127】
100 走行体(本体)
101 投影面
102 視野領域
103 投影領域
104 訓練者
105 訓練指導者
106 移動支持器具
111 赤外線センサ
112 光学カメラ
113 レーザセンサ (前方)
114 レーザセンサ (後方)
115 マイクロフォン(右)
116 マイクロフォン(左)
117 接触センサ
118 姿勢センサ
121 プロジェクタ
122 スピーカ
123 モータユニット (右前輪用)
124 モータユニット(左前輪用)
125 駆動輪 (左前輪)
126 駆動輪 (右前輪)
127 受動輪 (後輪)
131 電源部
132 通信部
133 計算部(処理手段)
134 制御部(制御手段)
135 検知部(検知手段)
136 提示部(提示手段)
200 装着ユニット
201 運動計測部(加速度・角速度・地磁気センサ)
202 刺激提示部(振動モータ・電気刺激器)
300 環境システム
301 外部計算装置
302 移動訓練支援装置
401 全体の処理
402 状態の検知(検知手段)
403 状態認識と行動計画(処理手段)
404 駆動制御(制御手段)
405 映像音響提示(提示手段)
410 検知手段の詳細
411 深度画像計測に基づく移動状態の検知
412 加速度計測に基づく移動状態の検知
413 移動支持器具の移動状態の検知と深度画像補正
420 パワーアシスト操作での教示時の認識・計画
421 訓練者の追従での教示時の認識・計画
422 訓練者の誘導時の認識・計画
423 駆動制御の詳細
424 映像音響提示の詳細
501 深度画像
502 骨格モデル
503 骨格モデルの特徴点
504 光学マーカ
505 抽出領域
600 移動経路の教示と誘導
601 移動経路の教示
602 移動経路の誘導
611 壁面
612 周辺の人物
613 経由点
614 教示経路
615 障害物
616 実行経路
701 足の移動目標位置を表す映像パターン
702 器具の移動目標位置を表す映像パターン
703 足の着地タイミングを表す音響パターン
704 器具の着地タイミングを表す音響パターン
705 足の着地タイミングを表す刺激パターン
706 器具の着地タイミングを表す刺激パターン
801 映像投影領域
802 コミュニケーション画面
803 移動方向を表す映像パターン
804 移動状態を表す映像パターン
805 動環境の地図
806 訓練者の現在の足位置
807 移動目標の基準線

図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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